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盛岡地方裁判所 昭和24年(行)84号・昭24年(行)21号 判決

原告 川崎千代治 外一名

被告 岩手県知事

一、主  文

原告等の各請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は、被告知事が昭和二十三年八月一日附岩手第八五八二号買収令書をもつて別紙目録記載(1)(2)(3)(4)の各土地につきなした買収処分及び昭和二十四年一月一日附岩手り第一一八号買収令書をもつて同目録記載(5)(6)の各土地につきなした買収処分はいずれもこれを取り消す、訴訟費用は被告の負担とするとの趣旨の判決を求め、その請求の原因として、別紙目録記載(1)(2)(5)の各土地は原告千代治、同(3)(4)(6)の各土地は原告重次郎の各所有であるところ、昭和二十三年六月十九日栗橋村農地委員会が昭和二十年十一月二十三日基準時現在の事実に基き、前記(1)(2)(3)(4)の各土地外一筆の畑地につき自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第三条第一項第三号に該当するものとして原告千代治を所有者として第七期買収計画を樹立し、昭和二十三年六月二十日その旨公告し書類を縦覧に供したので、同月二十九日原告等はそれぞれその所有土地につき村農地委員会に対し異議を申し立てたが却下されたので更に同年七月二十八日県農地委員会に対し訴願したところ棄却となり、次いで被告知事が県農地委員会の所定の承認手続を経て同年七月二日を買収の時期とする同年八月一日附原告千代治宛の買収令書を発行し、右令書は昭和二十四年七月十六日原告千代治に交付された。

また昭和二十三年九月二十五日前同村農地委員会が同じく基準時現在の事実に基き別紙目録記載(5)(6)の各土地につき前同法条に該当するものとして前同様原告千代治を所有者として第九期買収計画を樹立してその旨公告し書類を縦覧に供したので、原告等はそれぞれその所有土地につき異議を申し立てたが却下されたので更に同月三十日訴願したところ棄却となり、次いで被告知事が所定の承認手続を経て同年十二月二日を買収の時期とする昭和二十四年一月一日附原告千代治宛の買収令書を発行し、右令書は同年二月三日原告千代治に交付された。

しかしながら前記各買収処分は左の理由により違法である。

(一)  別紙目録記載(3)(4)(6)の各土地は、昭和十五年十月六日原告重次郎が分家届をするに当り、兄原告千代治から分家財産として贈与を受けたものであり、基準時現在原告重次郎の所有であり且つ原告重次郎は、前記分家届と同時に原告千代治方の二階を借りて移り住み、爾来右千代治とは世帯を異にし独立の生計を営み来つたもので基準時現在原告等は同一世帯ではなかつたのにかかわらず、これを原告千代治の所有であるとして同人を所有者としてなした前記各土地に対する買収処分は違法である。

(二)  原告千代治はその所有農地を直接自ら耕作することなく、原告重次郎を雇傭しこれに相当賃金を支払つて後記自作地を耕作させ、残余の農地は他に小作せしめて来た地主兼自作農であり、従つて自創法第三条第一項第三号所定の岩手県における法定保有面積三町四反の範囲内で保有を認めらるべきであり、また原告重次郎は基準時当時その所有農地を全部他に小作せしめていたが、同法第三条第一項第二号所定の法定小作地保有面積一町一反の範囲内で保有を認めらるべきであるところ、前記各買収計画樹立当時原告等の各所有農地は後記のとおりいずれも右保有を認められた面積の範囲内であつたのであるから固より買収せらるべき限りではない。すなわち、基準時現在における原告千代治の所有農地は、自作地二町九反七畝小作地四町三反六畝二十二歩、合計七町三反三畝二十二歩であつたところ、昭和二十二年七月二日を買収の時期とする第二期買収により右小作地のうち二町一反八畝四歩を、次いで同年十二月二日を買収の時期とする第四期買収により更に右小作地のうち一町四反五畝二歩をそれぞれ買収されたので、原告千代治所有の残小作地は七反三畝十六歩となり、自小作地合計三町七反十六歩となつたところ、当時右自作地のうち字大子他第十六地割五十三番の一畑一反四畝二十二歩は、その一部を栗林小学校々舎敷地とすることに決定せられ、他の部分は栗林郵便局敷地となすべく既に土地の使用目的変更につき岩手県知事に許可申請の手続をしていたもので、早晩宅地に変更せらるべき土地であつたのであり、従つて農地として前記保有面積超過の有無の算定の基礎に加えるべきではないから、右畑一反四畝二十二歩を除外すれば、前記第七期買収計画樹立当時における原告千代治の残所有農地にして前記計算の基礎となるべき分は自作地二町八反二畝八歩、小作地七反三畝十六歩合計三町五反五畝二十四歩であり、自創法第三条第一項第三号所定の前記法定保有面積三町四反を超過すること僅かに一反五畝二十四歩にすぎなかつたのである。

また原告重次郎の基準時現在における所有農地は原告千代治から贈与を受けた前記(3)(4)(6)等合計一町二反一畝二十五歩でいずれも小作地であるがそのうち字大子他第十六地割三十九番の四畑一反歩は当時現況山林であり、また同地割四十番の一畑三反九歩は前記第七期買収計画樹立当時既に栗林中学校敷地とすることに決定していたので、右二筆の土地合計四反九歩は保有面積超過の有無の算定の基礎に加えるべきではないからこれを除外すれば、原告重次郎の所有農地にして前記計算の基礎となるべき分は八反一畝十六歩にすぎなく、自創法第三条第一項第二号所定の法定の保有小作地面積一町一反に満たないのである。

しかるに村農地委員会は前記(3)(4)(6)の各土地の所有者の認定を誤まり原告千代治の所有農地としたのみならず、既に前記第二、四期各買収により三町六反三畝六歩を買収しながらなお保有超過であるとなし、原告千代治所有の別紙目録記載(1)(2)外一筆合計二反五畝十五歩及び原告重次郎所有の右(3)(4)の各土地合計五反五畝十五歩合計八反一畝につき第七期買収計画を樹立し、次いで被告知事がこれに基き第七期買収処分をなしたのである。その結果原告千代治は九畝二十一歩、原告重次郎は五反五畝十五歩だけそれぞれ保有限度を侵されたのであり、このような買収処分の違法であることはいうまでもない。

(三)  しかのみならず、村農地委員会は、右第九期買収においても原告等がなお保有超過の農地を所有するものとして、原告千代治所有の別紙目録記載(5)及び原告重次郎所有の前記(6)の各土地につき第九期買収計画を樹立し、これに基き被告知事が第九期買収処分をなしたのであるが、既に前記第七期買収により原告等はいずれも保有限度を侵されていたのであるから右第九期買収の違法であることは勿論である。

(四)  なお自創法による買収は自作農の創設を目的としてこれをなすべきであるにかかわらず、前記(6)の土地についてなされた第九期買収計画は必ずしも自作農の創設を目的として樹立せられたのではない。原告等は予ねて栗橋村当局から右(6)の土地を栗林中学校々舎建設敷地として、譲渡方を求められていたがこれに応じなかつたので村当局は村農地委員会と相謀り自創法による農地買収に名を藉りてこれを取得し右学校敷地に充てようと企て、右土地につき前記第九期買収計画を樹立したのであり、その後被告知事による買収次いで小作人への売渡がなされるのを待つて、村当局は土地収用法に基き右売渡を受けた小作人から右土地を収用して所期の目的を遂げようとしているのであつて、これは明らかに自作農の創設を建前とする自創法の目的を逸脱した職権濫用の措置であり、従つてこのような不法の動機に基いて樹立された買収計画を踏襲してなした被告知事の前記買収処分は違法である。

以上いずれの点よりするも前記各買収処分は違法であり、且つ右の違法は取り消し得べき瑕疵に該当するから原告等はそれぞれその所有土地につき右買収処分の取消を求めるため本訴請求に及ぶと述べた(立証省略)。

被告訴訟代理人は原告等の各請求を棄却する、訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求め、答弁として原告等の主張事実中村農地委員会が原告等主張の各日時その主張の別紙目録記載の各土地につき、いずれも基準時現在の事実に基き、自創法第三条第一項第三号に該当するものとして各買収計画を樹立してその旨公告し書類を縦覧に供したに対し、原告等がその主張の各日時異議次いで訴願したがそれぞれ却下、棄却され、被告知事が所定の承認手続を経て原告等主張日附の原告千代治宛各買収令書を発行し、右各令書が原告等主張の各日時原告千代治に交付されたこと、原告等主張の第二、四期各買収により原告千代治所有の農地のうち合計三町六反三畝六歩が買収されたこと、原告等主張の字大子他第十六地割三十九番の四畑一反歩が基準時当時から現況山林であることはいずれもこれを認めるが、原告等主張の同地割五十三番の一畑一反四畝二十二歩の一部が栗林小学校敷地にすることに決定せられ、他の部分を栗林郵便局敷地となすべく岩手県知事に対し土地の使用目的変更についての許可を申請中であつたこと、及び同地割四十番の一畑三反九歩が栗林中学校敷地に決定していたとの点はいずれも不知、その余の原告等主張事実はこれを争う基準時現在原告重次郎は農地を所有しなかつたのであり、原告等主張の前記各土地はいずれも原告千代治の所有であつたのであるから、別紙目録記載(3)(4)(6)の各土地につき同原告を買収の相手方として買収したのは固より当然である。

しかして基準時現在における原告千代治の所有農地は、自小作地合計八町四反二畝十四歩であり、そのうち前記第二、四期各買収により合計三町六反三畝六歩を買収されたのであるから、なお四町七反九畝八歩が残存し、自創法第三条第一項第三号所定の保有面積三町四反を超過するので本件第七期買収により八反一畝を買収し、なお三町九反八畝八歩が残つていたので更に第九期買収により四反八畝八歩を買収したのである。しかもなお残所有農地は三町五反で法定所有面積を超過するから、右第七、九期各買収は保有限度を侵していないこと明らかであり、何等原告等主張の違法はない。

仮りに原告重次郎が原告等主張日時原告千代治からその主張の土地を贈与せられ、基準時現在これが所有者であつたとしても、同日現在原告等は同一世帯に属していたのであるから、法定の保有面積超過の有無の算定に当り、原告等の各所有農地を合算し得べきであり、結局右計算関係においては、原告千代治が一人で前記各土地を全部所有していた場合と同一であるから、いずれにしても前記各買収処分は保有限度を侵した違法はないと述べた(立証省略)。

三、理  由

昭和二十三年六月十九日栗橋村農地委員会が昭和二十年十一月二十三日基準時現在の事実に基き、原告等主張の別紙目録記載(1)(2)(3)(4)の各土地につき自創法第三条第一項第三号に該当するものとして第七期買収計画を樹立し、昭和二十三年六月二十日その旨公告し書類を縦覧に供したに対し、原告等が異議次いで訴願したがそれぞれ却下、棄却され、被告知事が県農地委員会の所定の承認手続を経て同年七月二日を買収の時期とする同年八月一日附原告千代治宛買収令書を発行し、右令書が昭和二十四年七月十六日同原告に交付されたこと、昭和二十三年九月二十五日村農地委員会が前同様基準時現在の事実に基き、原告等主張の別紙目録記載(5)(6)の各土地につき前同法条に該当するものとして第九期買収計画を樹立して、その旨公告し書類を縦覧に供したに対し原告等が異議次いで訴願したがそれぞれ却下、棄却され、被告知事が所定の承認手続を経て同年十二月二日を買収の時期とする昭和二十四年一月一日附原告千代治宛買収令書を発行し、右令書が同年二月三日同原告に交付されたこと、原告千代治の所有農地中、第二期買収(買収の時期昭和二十二年七月二日)及び第四期買収(買収の時期同年十二月二日)により合計三町六反三畝六歩が買収されたこと、字大子他第十六地割三十九番の四畑一反歩が基準時当時から現況山林であることはいずれも当事者間に争がない。

原告等は、別紙目録記載(3)(4)(6)の各土地は原告重次郎の所有であるにかかわらず、これを原告千代治の所有であるとして同原告を買収の相手方としてなしたのは違法である旨主張するのでまずこの点につき按ずるに、成立に争のない甲第二ないし第六号証、原告本人川崎千代治尋問の結果及び甲第三号証により真正に成立したものと認められる甲第七号証、証人栗沢助右衛門の証言、原告本人川崎千代治、同川崎重次郎尋問の各結果を綜合すれば、昭和十五年十月六日原告重次郎がその兄原告千代治方から分家するに当り、同原告から別紙目録記載(3)(4)(6)の各土地を含めて農地合計一町二反一畝二十五歩外山林四筆の贈与を受け、これが所有権を取得したのであつたが、都合により所有権移転登記を延引し、昭和二十四年四月二十二日に至りこれを経由したことを認めるに充分である。右認定に反する証人富岡福治の証言は前記各証拠に照らしにわかに措信し難い。その他被告提出援用にかかる全立証をもつてしても右認定を左右するに足りない。

果して然らば、前示(3)(4)(6)の各土地の基準時現在における所有者は原告重次郎であつたのであり、従つてこれが買収に当つては同原告を買収の相手方となすべきであつたにかかわらず、前示第七、九期の買収計画の樹立から買収令書の交付に至る買収手続の全課程を通じて、当時の公簿上の所有名義人であつた原告千代治を買収の名宛人としてこれをなしたのであるから、右各買収処分は前示各土地の真実の所有者でない者を相手方としてなしたという意味においては違法であることは疑のないところである。しかしながら右の違法は果して本件各買収処分を取り消さなければならないとする程度の瑕疵に該当するか否かについて考えて見るのに、自創法による買収手続において真実の所有者を買収の相手方となすべきであると解すべき所以のものは、自創法に定める買収要件具備の有無は、買収の対象とされている当該農地とこれが所有権の主体との関連において、決定されるのであつて、そのためには農地の点において現況主義に基き客観的実情につき決すべきのみならず、主体の点においても農地の現実の所有者の個々の実情につき決すべきことは当然の要請であるといわなければならないからであるのみならず若しそれ単に登記簿その他公簿上の所有名義に則り買収手続を遂行し得ることとすれば、公簿上所有名義を有しない真実の所有者は、所有権自体を喪失することはないとしても、自己に対する買収手続が進行していることを覚知することを得ないため、自創法上与えられている異議、訴願又は行政訴訟上の救済手続を不当に奪われる結果を来すことがあり得るからである。しかして真実の所有者を買収の相手方となすべきであるとする実質的理由にして以上の点にありとすれば、具体的場合において、買収の相手方を誤まつたとしても、法定の買収要件の成否に影響なく、且つまた異議又は訴願等行政救済上の権利を現実に行使し、若しくは行使し得る客観的状態にあつた場合は、自創法の買収の相手方を真実の所有者と一致せしむべしとの要請に反するという形式的違法は依然残るとしても、実質的には所有者の権利を害しその救済手段を奪うようなことともならず、結局違法はないものといわなければならないのであるから、この程度の形式的違法はそのような手続による買収処分を取り消さなければならないとする程の瑕疵に該当するものとはなし難いものといわなければならない。

本件についてこれを観るに、基準時現在において原告等が同一世帯に属していたものであることは後段認定のとおりであり、また村農地委員会が原告千代治を相手方として前示第七、九期買収計画を樹立したに対し、原告重次郎は原告千代治と共に異議を申し立て訴願を提起したことは当事者間に争がないところであり且つ現に本訴を提起しているのである。ところで、本件のように法定の保有面積の超過を買収の要件とする自創法第三条第一項第二、三号に基く買収において、右算定の基礎たる面積は、同法第四条により世帯単位で計算すべきこととされている結果、各世帯員の所有農地の合計面積が保有超過を要件とする買収の客体となるわけであり、各世帯員の所有農地の合計面積が保有面積を超過する場合は、その超過限度において買収し得べくしかもいずれの世帯員のいずれの農地を買収するかは買収機関の自由裁量に属するところであり、各世帯員中のいずれかの所有農地のみを買収しなければならないとの制約を受けるわけではないのである。されば本件において原告重次郎の所有農地を原告千代治のそれとして買収したとしても、超過買収要件の成否に関する限り何等の影響がないのであり、且つまた原告重次郎は自創法上与えられている行政救済上の諸権利を現実に行使し得たのであるから、権利擁護の機会を不当に奪われた結果とはならず、実質的には何等不利益を被らなかつたのであり、結局、本件第七、九期各買収処分中、別紙目録記載(3)(4)(6)の各土地につき原告千代治名義でなしたのは、真実の所有者でない者を買収の相手方となしたという点においては違法であることを免れないけれども、そのような違法は前段説明の趣旨において、右各買収処分を取り消さなければならないとする程の瑕疵に該当するものではない。

次に、原告等の、別紙目録記載(6)の土地に対する本件第九期買収処分は、自創法による買収に名を藉り、その実は栗林中学校校舎敷地用地の獲得を真の目的として樹立された買収計画に基いてなされたものであるから違法である旨の主張につき按ずるに、成立に争のない甲第八、九、十号証によれば、本件第九期買収計画の樹立された昭和二十三年九月二十五日以前の昭和二十二年十月十五日栗橋村村長藤原善右衛門が栗橋村農地委員会に対し、字大子他第十六地割四十番畑四反七畝五歩(別紙目録記載(6)の土地はその一部)外二筆につき、栗林小中学校校舎敷地用地として位置場所の関係から最適地であるから原告千代治から買収の上栗橋村に売り渡されたき旨要望したに対し、同委員会が昭和二十五年十一月二十八日及び昭和二十六年一月四日の二回に亘り右学校敷地として適地である旨回答したことを認めることができるけれども右事実のみによつては、村農地委員会が第九期買収計画樹立当時村当局の前示意向に従い自創法による買収に名を藉り実は学校敷地に充てることを目的として前示買収計画を樹立したものであるとはにわかに推察し難く、その他原告等提出援用にかかる全立証をもつてするも、村農地委員会が原告等主張のような動機に基いて前示買収計画を樹立したものであることは認められない。

次に原告等は、本件各買収処分は原告等が各自自創法により保有を認められている法定の保有限度を侵した違法の買収である旨主張するので、その判断の前提として、まず基準時現在における原告等の世帯関係について按ずるに、成立に争のない乙第三号証の二、第四号証、証人富岡福治、同菊池熊太郎の各証言、原告本人川崎千代治、同川崎重次郎の各尋問の結果(但し右各供述中後記措信しない部分を除く)を綜合すれば、昭和十五年十月六日原告重次郎が兄原告千代治方から分家した当初は、家屋を新築しこれに移り住む予定であつたが、その後原告千代治自身の病気等のため建築に着手しないでいるうち今次戦争となり、次第に建築資材の入手が困難となつたので事実上家屋の建築を見合わせ、重次郎一家は引き続き原告千代治方の二階に居住して現在に至つたこと、原告千代治は身体虚弱で農耕に堪えないところから自らは居村郵便局長をしており、その所有農地の耕作については、原告重次郎が家屋を新築してこれに移り住むまでは原告千代治方に同居し、同人から食事等の支給を受け、その代り原告千代治の農地を同原告のために耕作すること、右労働力の提供に対しては原告千代治から年々相応の報酬を与えることの約束で後記自作地を耕作させ、その余の土地は他に小作させ、なお右労働力の提供に対しては昭和十六年から昭和十九年までは年に千円づつを与え、その後物価の昂騰に伴いこれを一万円に増額して現在に至つていること、県民税、村民税その他の公租公課については昭和二十二年度までは原告千代治が世帯主として賦課を受け、原告重次郎は右課税の対象とされなかつたこと、その後昭和二十三年七月十八日原告重次郎が自ら村役場に赴き、同日より原告千代治と世帯を別異にすることとなつたから税金及び配給の関係は今後独立世帯としての扱を受けるよう取図らわれたき旨申し出たので、同年度からは独立世帯として公租公課の賦課を受け、また生産主要食糧の保有関係では昭和二十三年度までは世帯主原告千代治の世帯員として取り扱われていたが、翌二十四年度からは生産者でない独立世帯として主要食糧その他の配給を受け現在に至つていることをそれぞれ認めることができる。右認定に反する証人栗沢助右衛門の証言及び原告本人川崎千代治、同川崎重次郎の各供述部分は前記各証拠に照らしにわかに措信し難い。その他原告等提出援用にかかる全立証をもつてするも右認定を覆し、基準時現在において原告等が独立世帯を営んでいたことを認めることはできない。

果してそうだとすれば、昭和二十年十一月二十三日基準時現在原告等は同一世帯に属していたものといわなければならない。しかして法定の保有面積を超過することを要件とする買収処分において、その算定の基礎としての所有農地の面積は世帯単位でこれを計算すべきものとされているところ、栗橋村農地委員会が自創法第三条第一項第三号所定の岩手県における法定保有面積三町四反の超過の有無の算定に当り、基準時現在原告等が同一世帯に属するものと認定し、右両名の各所有農地を合算の上前示各買収計画を樹立したのは固より当然である。

そこで次に本件第七、九期各買収処分が前示保有限度を侵した違法があるか否かにつき按ずるに、成立に争のない乙第五号証に本件口頭弁論の全趣旨を綜合すれば、基準時現在における原告等所有の現況農地の合計は、現況山林であることにつき当事者間に争のない前記三十九番の四畑一反歩を控除すれば、自作地二町九反三畝二十七歩、小作地五町四反八畝十七歩合計八町四反二畝十四歩であつたこと、そのうち前示第二、四期各買収により合計三町六反三畝六歩が買収されたので、昭和二十三年六月十九日本件第七期買収計画を樹立する当時は、残小作地一町八反五畝十一歩で前示自作地との合計四町七反九畝八歩であつたことをそれぞれ認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。

原告は字大子他第十六地割五十三番の一畑一反四畝二十二歩は栗林小学校及び栗林郵便局の各敷地となすべく、当時既に土地の使用目的変更につき所定の手続を執つていて近々宅地に変更せらるべき土地であり、また同地割四十番の一畑三反九歩(分筆前の同地割四十番畑四反七畝五歩の一部)は栗林中学校敷地とすることに決定していたからこれ等農地の面積合計四反五畝一歩は前記計算の基礎から除外さるべき旨主張するけれども、前記甲第八、九、十号証及び証人菊池熊太郎の証言によれば、前示第七期買収計画樹立当時栗橋村々長が、原告等主張の前記二筆の畑外一筆を栗林小、中学校各敷地として適地であると考え、村農地委員会に対し買収の上村に売渡方を要望したに対し、村農地委員会もまた右各土地が学校敷地として適当であるとの意見を抱きその旨同村長に回答したことは認められるけれども、本件第七、九期各買収計画樹立当時原告等が岩手県知事に対し、右各土地を潰廃しこれを宅地に地目変更するについて所定の手続を執つた事実を認めるに足る何等の証拠がない。

果してそうだとすれば、村農地委員会が原告等主張の右二筆の土地を前示計算の基礎に加えたのは固より当然であり、第七期買収計画樹立当時右計算の基礎となるべき原告等所有農地の合計は四町七反九畝八歩であつたのであるから法定の保有面積を超過すること一町四反九畝八歩であり、従つて本件第七期買収においてそのうち八反一畝歩を買収したのは何等違法ではない。

次に前示第九期買収計画を樹立した昭和二十三年九月二十五日当時原告等の所有農地にして前示計算の基礎となるべきものは、前示自作地二町九反三畝二十七歩の外前示第七期買収により買収された小作地の残一町四畝十一歩の合計三町九反八畝八歩であつてなお保有限度を五反八畝八歩超過していたのであるから、本件第九期買収においてそのうち四反八畝八歩を買収したのはこれまた何等違法ではない。

よつて原告等の本訴各請求は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村上武 上野正秋 佐藤幸太郎)

(目録省略)

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