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盛岡地方裁判所 昭和25年(行)40号 判決

原告 千葉一雄

被告 岩手県知事

一、主  文

被告が別紙目録記載の土地について昭和二十五年三月五日附岩手わ西第九七号買収令書をもつてなした買収処分はこれを取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として訴外岩手県農地委員会は原告所有にかかる別紙目録記載の山林外九筆の山林について昭和二十四年八月二十三日それらが自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第三十条第一項第一号のいわゆる未墾地に該当するものとして買収計画をたて、同年九月十日公告し、同日から二十日間書類を縦覧に供したので、これに対し同年九月二十八日原告が右県農地委員会に異議の申立をしたところ、同委員会は同年十一月三十日右買収すべき山林の一部を右買収計画より除外したが、別紙目録記載の山林外四筆の山林については右異議を却下したので更に原告において昭和二十五年一月十日被告に訴願したが、これまた同年三月二十五日棄却された。しかして一方被告は別紙目録記載の山林外前記四筆の山林についての右買収計画を承認のうえ買収時期を昭和二十四年十月二日とする同年三月五日附買収令書を発行し、該令書は同月三十一日原告に交付された。しかしながら右買収処分には少くとも別紙目録記載の山林について次のような違法がある。

一、右買収にかかる別紙目録記載の各山林はそれぞれ一筆の土地のうちの一部であるが右買収処分はその買収すべき土地の範囲を特定しておらない。右買収令書にも単に右各山林のうち買収すべき部分の面積を表示しているだけでなんらその範囲を特定すべき基準を示しておらないのである。

二、右各山林はいずれも全く開墾に適せず、自創法第三十条第一項第一号に該当するものではない。

すなわち

(一)  別紙目録記載字沼田二百五番の一の山林はそのうち平坦な部分約五反歩には樹令約五十五、六年の松が林をなして生立しており、同所は字沼田部落の水源地であるから、右松林を伐採してこれを開墾することは治山治水上許し難いし、その余の部分は二十二度以上の急傾斜地で一部には日当りのよくない個所もあり農地に適しない土地である。

(二)  同二百二番の山林は全体が西に面した緩傾斜地ではあるが全山が樹令約五十余年の松の森林地帯をなしており、右松は樹令からいつて伐採期に達しておらず、今これを伐採しては経済上著しい損失を来たすのみならず、無理に伐採して見てもその伐根のため開墾は至難であるから結局開墾に適しない土地である。

(三)  同二百一番の山林は中央において南北に走る峯のため東西二面に分たれた傾斜地であつて、そのうち東面の部分は杉の造林地帯であり、西面の部分は二十二、三度以上の急傾斜地の雑木林でいずれも開墾不適地である。強いて比較的平坦な部分を求めれば僅かに馬の背状をなす南北六十間に亘る細長い峯の部分面積にして二反歩であるが、これとてもその東側にある前記杉の造林の蔭となり日当りがよくないし、また幅一間の作業場を設けるものとすれば残るべき平坦地は殆んどなくなつてしもうから開墾不適地である。

(四)  更に以上の各山林はいずれも附近農家より遠隔の地にあり且つ急坂を登つて交通しなければならないから、肥料の運搬その他において極めて不便であり、従つて前記の諸事情を無視し、押してこれを開墾しても結局なんら地元農民に益するところはないのであるから、この点においても右山林は開墾不適地である。

よつて被告のなした前記買収処分は以上の諸点において違法であり、取り消されるべきものであるから、その取消を求めるため本訴に及ぶと陳述した。(立証省略)

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告主張事実のうち、原告所有にかかる別紙目録記載の山林外九筆の山林について原告主張の日その主張のように訴外岩手県農地委員会が未墾地買収計画をたて、公告及び書類縦覧の手続をなし、原告の異議の申立に対しその一部を容れたが原告主張の山林についてはこれを却下し、次いで被告が訴願を棄却し、右買収計画を承認のうえ原告主張の買収令書を発行し、原告に交付したことは認めるが、その余は争う。すなわち原告主張一の事実について、該事実を否認する。原告主張の買収山林については買収計画書に図面を添附しその各買収すべき範囲を表示特定している。同二の事実について、原告主張の山林のうちには開墾不適地の部分があることは認めるが、同(一)の事実に対し、字沼田二百五番の一山林のうち買収区域には樹令五、六十年の松及び雑木が生立しているが、立木は概ね伐採期に達しているし、水源林として必要な区域は買収計画から除外したのであるから、右山林は水源滋養上必ずしも必要な場所ではない。又傾斜も五度ないし十五度程度であり、その他諸種の情況から見て開墾適地である。同(二)の事実に対し、字沼田二百二番の山林に生立する立木の模様は右二百五番の一の山林の場合とほゞ同一である。右二百二番の山林は全般的に緩傾斜地であり、開拓地として自然的条件が極めて良好であるから大局的に見て開墾するのが適当である。同(三)の事実に対し、字沼田二百一番の山林には全般的に二、三年生の雑木が生立し、一部には原告主張のような杉立木が存立しているけれども、右山林は一般的に傾斜度は強くても開拓適地選定基準に該当しない部分及び林をなす造林地帯は買収計画から除外し、造林地の上方に位置し、傾斜十五度以下の開拓地として自然的条件を具備している区域一町歩を買収したものである。同(四)の事実に対し、右各山林は入植の場合は勿論のこと、増反の場合でも附近農家の耕地面積が零細で悲惨な生活を続けているのであるから、右山林までの距離は多少遠いが地元農民も真に開墾を希望しておるし、またこれらの農民を完全な自作農とするため耕地を拡張する必要があるから、右は農地の開発に供されるべき土地である。以上の諸点よりして原告の本訴は失当であると陳述した。(立証省略)

三、理  由

原告所有にかかる別紙目録記載の山林外九筆の山林について原告主張の日その主張のように訴外岩手県農地委員会が未墾地買収計画をたて、公告及び書類縦覧の手続をなし、原告の異議の申立に対しその一部を容れたが本件山林外四筆の山林についてはこれを却下し、次いで被告が訴願を棄却し、右買収計画を承認のうえ原告主張の買収令書を発行し、これを原告に交付したことは当事者間に争がない。

原告は本件買収処分はその買収すべき土地の範囲を特定していない点において違法であると主張し被告はこれを争うので先ずこの点を考察する。

自創法第三十条の規定による未墾地買収は同法第三十四条が準用する同法第九条による買収令書の交付によつて効力を生じ、該令書に定める買収の時期にその所有権が政府に帰属するのであるから、その買収の目的たる土地を特定しなければならないわけである。

そこで本件についてこれを観ると、成立に争のない甲第一号証の一、二の本件買収令書とその添附目録には買収すべき土地として別紙目録記載字沼田二百五番の一の山林については公簿上二町二反五畝十歩の一筆の土地のうち一町歩が、同二百二番の山林については同じく七町二反七畝二十三歩の一筆の土地のうち二町歩が、同二百一番の山林については同じく四町七反九畝五歩の一筆の土地のうち一町歩が定められているのみでそれらが右各一筆のうちのいずれの部分に当るかを特定すべきなんらの基準をも示しておらない。

この点について被告は本件買収手続において図面を作成しその買収すべき範囲を特定していると主張し、証人三上正孝の証言によると本件買収計画に対する原告の前記異議の申立により買収すべき土地の一部を右計画から除外する際同証人が本件買収土地の現地に赴いて地元役場備え附けの図面と対照しつつ乙第一号証と同様の本件買収土地の見取図を作成し、この図面に赤い点線をもつて大体の買収地域を表示し、これをもつて一応の買収区分の目安としたことは認められるが、右地域とても測量その他正確な基準によつて割り出したものではなく、ただこの辺一町歩または二町歩というようにおおよその目測によつたものであることも右証言で明らかなところであるし、また右乙号証の見取図自体もこの事実を裏書する如く間尺の表示もない極めて不正確なものであるから以上をもつて本件買収土地の範囲特定の証明資料とすることは到底できない。他は右特定を肯認させるような資料はなにもない。

それなら本件買収山林は買収令書においては勿論のこと、その他の方法によつても客観的に特定されていなかつたことが明らかとなつたから、爾余の判断をまたず本件買収処分はこの点において違法なものとして取り消しを免れない。

よつて原告の請求を正当として認容し訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 村上武 上野正秋 佐藤幸太郎)

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