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盛岡地方裁判所 昭和25年(行)56号 判決

原告 本宮鉄五郎

被告 岩手県知事

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和二十五年四月一日附岩手よ第一八三二号買収令書をもつて岩手県二戸郡荒沢村大字荒屋字新町六十一番宅地九十二坪につきなした買収処分はこれを取り消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、原告がその所有の請求趣旨記載の宅地九十二坪を訴外五日市定身に賃貸していたところ、右訴外人の附帯買収の申請に基き昭和二十四年九月十四日荒沢村農地委員会が右宅地につき自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第十五条第一項第二号に該当するものとして買収計画を樹立し、同日これを公告し十日間書類を縦覧に供したに対し、原告は同年九月二十八日異議を申し立てたところ同年十月十四日附で却下されたので更に同年十月二十一日県農地委員会に対し訴願したが、これまた同年十二月二十三日附で棄却され、次いで被告知事は県農地委員会の所定の承認手続を経て昭和二十五年四月一日附買収令書を発行し、右令書は同年五月八日原告に交付された。

しかしながら前記訴外人は自創法による農地の解放を受けた自作農ではあるが、前記宅地は同人にとり必ずしもその売渡を受けた農地の利用上必要不可欠ではないから附帯してこれを買収すべきではない。すなわち、同人は前記買収計画樹立当時前記六十一番宅地及び同人所有の六十二番宅地に跨つて建てられている同人所有の住家のうち右六十一番宅地上に建在する表側道路に面する間口奥行各一間半の土間の部分及び六十二番宅地上の表南端の八畳一室を訴外上沖某に、また右六十二番宅地上の表入口南隣の板の間八畳一室を訴外花坂権四郎にそれぞれ賃貸しており、このように他人に間貸をする程居住家屋に余裕があり、且つ六十一番の宅地上に建在する部分の一部を他人に使用せしめているのであつて、五日市定身自身右宅地を全面的に営農上使用しているのではないから、隣接の自己所有の六十二番宅地をもつて同人の居住及び営農上事足りるのであつて、その上更に六十一番宅地を必要としないのである。然るに村農地委員会は右宅地を右五日市定身の営農上必要であるとしてこれにつき買収計画を樹立したのは違法であり、従つてこれに基いて被告知事のなした前記買収処分は違法であつて取消を免れない。よつてこれが取消を求めるため本訴請求に及ぶと述べ、被告の主張に対し訴外五日市定身が今次農地改革により被告主張の第四、第十四、第十五期の買収によりその主張の農地合計八反四畝十五歩の売渡を受けたこと、右売渡を受けた各農地がいずれも前記六十一番宅地から四百ないし千米の距離にあることは認めるが、同訴外人がこれ以外に被告主張の田畑を耕作していることは不知と答えた(立証省略)。

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告主張事実中、原告がその主張の宅地を訴外五日市定身に賃貸していること、右訴外人の附帯買収の申請に基き原告主張日時荒沢村農地委員会が右宅地につき自創法第十五条第一項第二号に該当するものとして買収計画を樹立したに対し、原告がその主張日時異議次いで訴願したがそれぞれ却下棄却され、被告知事が県農地委員会の所定の承認手続を経て原告主張日附の買収令書を発行し、右令書は原告主張日時原告に交付されたこと、前記五日市定身がその所有家屋のうち原告主張部分を訴外上沖連次郎及び花坂権四郎に使用せしめたことはいずれもこれを認めるが、本件六十一番の宅地が前記五日市定身の売渡を受けた農地の利用上必要がないとの点は否認する。同訴外人は第四期売渡(売渡の時期昭和二十二年十二月二日)により荒沢村大字荒屋字叺田百二十六番田六畝十歩を、第十四期売渡(売渡の時期昭和二十四年十二月二日)により同字百三十八番の一田三畝十二歩、同百七番田一反七畝二十八歩、字新町百三十六番の一田二十七歩、字清水百十五番田一反二畝十八歩を、第十五期売渡(売渡の時期昭和二十五年三月二日)により字新町八番畑一反歩、字寺志田百十番畑一反五畝歩、同九十九番田一反八畝歩この合計八反四畝十五歩の売渡を受け、なお昭和二十七年三月十一日字小柳田二百七十八番の五未墾地七反歩につき増反入植の許可を受けて自作農となつたものであり、その他右売渡を受けた農地以外に田一反五畝歩を自作し畑九反五畝歩を小作する専業農家であるところ、本件宅地は右売渡を受けた各農地と四百米ないし千米の近距離にあり、その位置及び現在の使用状況等に照らしこれ等の農地の利用上必要欠くことのできない土地である。もつとも同訴外人が前記住家のうち原告主張の各部分を昭和十四年から昭和二十四年九月まで前記上沖連次郎に月四円の賃料で貸したことはあるが、同人が昭和初年から借り受けて蹄鉄業を営んでいた店を復員後借りることができなくなつたので、他に適当な開業場所が見つかるまでとの約で同人の懇望によりやむなく右部分を賃貸したのである。また昭和二十二年六月から昭和二十六年四月まで前記建物のうち原告主張部分に前記花坂権四郎を居住せしめたことはあるが、同人は前記五日市定身の実弟で北京からの引揚者であり、当面の住居に窮していたので他に移転先が見つかるまでとの約で一時住まわせていたもので賃貸したのではない。このように右五日市定身がその居住家屋の一部に他人を住まわせ又は賃貸したとしても、本件宅地を同人の農業経営上に利用している限り、右宅地の買収を妨げるものではない。よつて原告の本訴請求は失当として棄却されるべきであると述べた(立証省略)。

三、理  由

原告がその主張の岩手県二戸郡荒沢村大字荒屋字新町六十一番宅地九十二坪を訴外五日市定身に賃貸していたところ、右訴外人の附帯買収の申請に基き昭和二十四年九月十四日荒沢村農地委員会が右宅地につき自創法第十五条第一項第二号に該当するものとして買収計画を樹立してこれを公告し書類を縦覧に供したに対し原告が異議次いで訴願したがそれぞれ却下、棄却され、被告知事が県農地委員会の所定の承認手続を経て昭和二十五年四月一日附買収令書を発行し、右令書が同年五月八日原告に交付されたこと、五日市定身が自創法に基き被告主張の第四、第十四、第十五期の売渡によりその主張のように荒沢村大字荒屋字叺田百二十六番田六畝十歩外七筆の農地の売渡を受け、なお小柳田二百七十八番の五未墾地七反歩につき増反入植を許可された自作農であること、右売渡にかかる農地がいずれも本件宅地と四百米ないし千米の距離に位置していること、右訴外人はその所有の現住家屋中表入口北側の道路に面した土間及び表入口南側左端の八畳一室に訴外上沖連次郎を表入口南隣の八畳板の間一室に訴外花坂権四郎を嘗てそれぞれ居住せしめていたことはいずれも当事者間に争がない。

よつてまず五日市定身が本件宅地につき適法に附帯買収の申請をなしたものであるか否かにつき按ずるに、成立に争のない乙第一、二、三号証及び証人五日市定身(第一、二回)の証言に前示当事者間に争のない事実を綜合すれば、前示訴外人は、前示昭和二十二年十二月二日を売渡の時期とする第四期売渡の昭和二十三年七月一日附発行の売渡通知書により前示叺田百二十六番田六畝十歩の売渡を受けたので、昭和二十四年七月十七日村農地委員会に対し本件宅地の附帯買収を申請したこと、右訴外人には既に売渡を受けたのは叺田百二十六番田一筆のみであつたが当時他にも売渡を受け得らるべき農地を耕作しており、その手続中であり、且つその売渡を受け得らるべき状況にあり、その後現に前示第十四、第十五期売渡により合計七反七畝二十五歩の売渡を受けたこと及び右売渡を受けた後更めて本件宅地につき附帯買収の申請をなさなかつたことをそれぞれ認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

農地買収に附帯して、宅地、建物、農業用施設その他の権利を買収するには、その前提要件として、買収農地の売渡を受けて自作農となるべき者が売渡を受けた日から一年以内に市町村農地委員会に対し附帯買収の申請をなすことを要することは自創法第十五条の規定自体により明らかである。従つていわゆる附帯買収によつて買収される対象物件は、通常売渡を受けた農地との関係において、これに附随して主としてその利用に供されている等客観的な利用上の牽連関係ないし従属関係にあることを要するものと解され、附帯買収の申請も、通常右申請に先行して現に売渡を受けた農地との関係において当該附帯買収の要件具備の有無を決すべきものとされているのである。しかして本件において五日市定身のなした前示買収申請当時同人が売渡を受けていたものは前示第四期売渡により取得した叺田百二十六番田六畝十歩一筆のみであつて、右農地のみとの前示牽連関係ないし従属関係を問題にする限り、右訴外人が主観的に本件宅地が右農地の利用上如何に必要であると考え、また客観的にも現に利用されているとしても右農地の面積がその当時の同訴外人の全耕作面積に比し比較的少部分であること及び本件宅地の面積等に照らし簡単に附帯買収の要件を充たすものとはなし難いものがあるようであるが、五日市定身は前示認定のとおり第四期売渡により前示叺田百二十六番田六畝十歩の売渡を受けていた外、当時第十四、第十五期売渡により売渡を受けた前示各農地の売渡を受ける手続中であり且つその売渡を受け得らるべき状況にあつたのであり、このような場合においては右第四期売渡により現に売渡を受けた農地との関係のみでなく、これに右第十四、第十五期売渡により売渡を受くべき前示各農地との関係をも考量の上、附帯買収要件具備の有無を決するのが自作農創設の精神に適い、自創法の規定する附帯買収の趣旨に合致するものと解する。

よつて次に本件宅地が前示第四、第十四、第十五期売渡により売渡を受け若しくは受くべき各農地とその利用上客観的な牽連関係ないし従属関係にあるか否かについて考察するに、検証の結果及び証人五日市定身(第一、二回)の証言によれば、五日市定身は当時前示売渡を受けた分を含め田畑合計一町七反六畝余を耕作する外牛三頭、豚、山羊、鶏を所有する専業農家であり、その家族十二人のうち稼動人員は八人であること、本件宅地は元これに隣接する六十二番宅地百二坪と共に訴外大森某の所有であつたのを、右五日市定身の先々代頃から数十年に亘りこれを借り受け、右両地番に跨つて木造二階建建坪四十五坪二階坪四坪五合の住家と廐の接続した建物を建築し現にこれに居住していること、大正年間原告が右大森から本件宅地を買受けたので右五日市定身は原告から引き続きこれを借り受け、前示六十二番宅地は右訴外人自身昭和二十二、三年頃右大森から買い受けたこと、前示建物のうち本件宅地に建在する部分は、間口三間半、奥行六間の土間で、これを廐、飼料作場及び釜場その他の炊事用具の置場として使用しており、本件宅地のうち右建物の敷地を除いた残部約四十七坪には間口三間、奥行二間半の作業小屋、便所(一坪半)、豚小屋(一坪)、風呂場(一坪)、山羊小屋(一坪)鶏小屋(四坪)及び肥溜等を設けている外、その余の空地には野菜等を栽培し収穫後は同所で脱穀をしたり、脱穀後は穀殼等を積載し或は堆肥を作る等農業経営に関連して使用されていることをそれぞれ認めることができる。証人五日市栄松の証言及び原告本人尋問の結果は前記各証拠に照らしにわかに措信し難く、その他右認定を覆すに足る証拠はない。

果して然らば、本件宅地は五日市定身の売渡を受けた前示各農地と比較的近距離にあることは当事者間に争のないところであり、且つ現に同訴外人は、右宅地を同人の居住家屋の敷地部分をも含めて全面的に農業経営のために利用していること前示認定のとおりであるから、本件宅地は前示売渡を受け若しくは受くべき農地と利用上の客観的牽連関係ないし従属関係にあるものといわなければならない。もつとも同訴外人が嘗て前示居住家屋の一部を原告主張のように他人に使用せしめたことは当事者間に争がなく、また前記検証の結果によれば、本件宅地に隣接する同訴外人所有の六十二番宅地百二坪のうち、前示建物敷地を除いた部分は空地となつており、主として野菜等の栽培に使用しているに過ぎず、その面積からいつても本件宅地上に存する前示諸施設をこれに移築する余裕があり且つ右移築が必ずしも不可能ではないことが認められるけれども、このことは本件宅地の同訴外人にとつての営農上の必要性を否定するものではない。結局五日市定身の前示附帯買収の申請は適法といわなければならない。

よつて村農地委員会が五日市定身の適法になした前示買収申請に基き、本件宅地が同訴外人の農地の利用上必要ありとして自創法第十五条第一項第二号に則り樹立した買収計画は適法であり、従つてこれに基いてなした被告知事の本件買収処分は適法であつて何等原告主張のような違法はないから原告の本訴請求は失当としてこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村上武 上野正秋 佐藤幸太郎)

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