大判例

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盛岡地方裁判所 昭和26年(行)21号 判決

原告 関口清作

被告 大野村選挙管理委員長

一、主  文

大野村選挙管理委員会が昭和二十六年七月十日原告の異議申立について為した決定はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨の判決を求め、その請求の原因として原告は大野村農業委員会(以下単に委員会と略称する。)の委員選挙につき選挙権を有するものであるが、訴外猪川三夫、及び猪川ミエは委員会が昭和二十六年六月一日現在により資格調査の上調整した大野村農業委員会選挙人名簿に登載されているので、原告は縦覧期間内である同年七月六日委員会に対し同人名簿に右訴外人等が誤載されている旨異議の申立をしたところ、同委員会は同月十日右訴外人等は熱田浩及び下川原初太郎より一反四畝十八歩の農地を賃借し耕作しているという理由で異議を却下する旨の決定を為し、該決定書は同月十一日原告に送達された。然しながら訴外猪川三夫及び同猪川ミエは委員会の云うように熱田浩及び下川原初太郎より農地を賃借して居らず単に九戸郡大野村大字大野第八地割四十八番の八の農地二畝十四歩を耕作しているに過ぎず、一反歩以上の農地の耕作者でない。仮に同訴外人等が熱田浩及び下川原初太郎より農地を賃借しているとしても右は何れも昭和二十五年以後になつて賃借したものであるから農地調整法第四条の規定に依り県知事の許可又は村農業委員会の承認を受けなければならないのに拘らず、これが許可又は承認を受けていないから該賃貸借契約は効力が生じないものと謂うべく、又仮に右訴外人等が熱田浩及び下川原初太郎より、その農地を被告の主張する時より賃借したとしても、熱田浩が同訴外人等に賃貸してある農地は何れも右熱田浩が自作農創設特別措置法に基いて売渡を受けた農地であるから売渡を受けた後右猪川三夫、同ミエとの賃貸借について知事の許可を受くべく、許可を受けていない該賃貸借契約はその効力を生じないものであつて、結局同訴外人等は正当な権限に基き該農地について耕作の業務を営むものと謂うことは出来ない。委員会が右の農地の面積をも加算して同訴外人等は一反歩以上の農地について耕作の業務を営むものとし、原告の異議申立を却下したのは違法であるから前記却下決定の取消を求めるため本訴請求に及んだ次第であると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は「原告の請求はこれを棄却する」との判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因事実中、原告が大野村農業委員会の委員選挙につき選挙権を有すること、訴外猪川三夫及び同猪川ミエが原告主張の大野村農業委員会選挙人名簿に登載されていること、原告がその主張の日委員会に対し異議の申立したが同委員会が原告主張の理由で右異議の申立を却下する旨の決定をしたことは何れもこれを認めるが、その余の事実は全部否認する。

訴外猪川三夫及び同猪川ミエは原告の主張する大野村大字大野第八地割四十八番の八農地二畝十四歩を自作する外に訴外熱田浩から同村同大字第四地割七十九の三二耕地五畝九歩、同地割七十九の三三耕地五畝九歩を何れも昭和二十三年春頃より同村同大字第八地割十六番耕地一反歩を昭和二十年春頃より、又訴外下川原初太郎から同村同大字第八地割十六番の一耕地三畝歩を昭和二十年春頃より、何れも賃借して耕作して居り右の耕地の面積を合算すれば、二反六畝余となるから、訴外猪川三夫及び同猪川ミエは大野村農業委員会の委員の選挙権及び被選挙権を有し、選挙人名簿に登録したことは決して誤載ではない。次に原告の仮定抗弁に対し、右訴外人等が、熱田浩から賃借している耕地は右浩が自作農創設特別措置法により売渡を受けた土地であるかどうかは知らないと述べた。(立証省略)

三、理  由

原告が大野村農業委員会の委員選挙につき選挙権を有するものであること、訴外猪川三夫及同ミエは右委員会が昭和二十六年六月一日現在により資格調査の上調整した大野村農業委員会選挙人名簿に登載されていること、原告がその縦覧期間内である同年七月六日右委員会に対し同人名簿に右訴外人等が誤載されている旨異議の申立をしたところ、同委員会は同月十日右申立を却下する決定を為したことは当事者間に争いないところである。

よつて右訴外人等が大野村大字大野第八地割四十番の八農地二畝十四歩を自作している外他に小作地を借受け耕作しているかどうかを按ずるに、証人下川原初太郎及び猪川三夫の各証言によると下川原初太郎はその所有に係る大野村大字大野第八地割十六番の一畑一反四畝九歩の内三畝歩を猪川三夫に対し昭和二十年春から貸付け、かつその旨大野村農地委員会に届出を為し、猪川三夫は妻ミエと共に爾来引続き今日迄右畑を耕作していること、又証人熱田ツヤ及び右猪川三夫の各証言によると、猪川三夫及び同ミエは熱田静所有に係る大野村大字大野第八地割五番畑五反四畝一歩の内一反歩を昭和二十年頃から借受け引続き耕作していること、及び晴山吉三郎所有に係る大野村大字大野第四地割七十九番の三二、同三三の原野各五畝九歩を昭和二十二年頃から開拓して耕地とし引続き耕作していることを各認めることが出来る。この点に関する証人長根宇之松の証言は前掲各証拠に照して容易に措信し難く他に右認定を覆すに足る証拠はない。

よつて進んで猪川三夫及び同ミエが耕作している小作地の内右下川原初太郎より賃借している以外の土地は自作農創設特別措置法によつて熱田浩が売渡を受けたものであるかどうかを按ずるに、成立に争いない甲第四号証乃至第七号証と証人猪川三夫の証言を綜合すると、前記大野村大字大野第八地割五番畑五反四畝一歩は四筆即ち同地割五番畑五畝十二歩、同地割六番畑六畝十八歩、同地割七番畑一反八畝十歩、同地割七番の一畑二反三畝二十一歩に分筆され、その何れもが自作農創設特別措置法第三条の規定に依り買収となり、昭和二十三年十二月二日同法第十六条の規定に依り熱田浩に売渡になり、又大野村大字大野第四地割七十九番の三二、三三の各土地も同様に前法条に依り何れも昭和二十三年二月二日買収になり、同日同第十六条の規定に依り熱田浩に売渡になつたことが認められる。果して然らば前段認定したように猪川三夫及び同ミエが右分筆になつた土地の内の一反歩を昭和二十年頃から借受け、右七十九番の三二、三三の各土地を昭和二十二年頃から開拓して耕地とし、何れも引続き耕作していても右売渡処分によつて当然に従来の猪川三夫及び同ミエの耕作権は消滅することは自作農創設特別措置法第二十二条第一項の規定によつて明かである。尤も証人熱田ツヤ及び猪川三夫の各証言によると、熱田浩は右売渡になつた土地を其の後も引続き猪川三夫及び同ミエが耕作することを許容し、猪川三夫等はこれを耕作していることが推認されるので、これを以て新たに該土地につき賃貸借契約が成立したと見ることも出来るのであるが、然しながら農地調整法第四条によれば農地の賃借権を設定するには知事の許可を受くべく、これなくしてはその効力を生じないものであるところ、猪川三夫及び同ミエの右土地に対する賃借権の設定について右許可を受けたことの立証のない本件に於ては猪川三夫等の賃借権は何等法律上効力のないものであつて、結局権限なくして該土地を耕作しているものと謂わなければならない。而して農業委員会法第八条第一項第一号において一反歩以上の農地につき耕作の業務を営む者とは適法な権限に基いてこれを為している者を意味し、法律上の権限なくしてただ現実に耕作の業務を営んでいるだけでは足りないものと解するのを相当とする。乙第一号証によれば岩手県選挙管理委員会委員長等は現実に耕作の業務を営んでいるだけで足ると解しているが、前記農業委員会法の法規は一定面積の耕作権を前提として選挙権被選挙権を賦与しているのであり、右法規が法令の許容しないものを前提としているものと解することができないから右委員長等の解釈は失当である。猪川三夫等の現実に耕作している右農地の面積は加算されるべきではない。右農地の面積を除き前認定した其の他の農地の面積を合計すると五畝十四歩に過ぎないのであるから、猪川三夫及び同ミエは昭和二十六年六月一日現在において大野村農業委員会委員の選挙資格を有しないもので何れも本件選挙人名簿に登載せらるることを得ないものというべきであり、従つて委員会がこれを登載したのは誤載であるから、この点に関する原告の異議を却下したのは違法であつて取消を免れない。よつて原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 村上武 杉本正雄 山下顕次)

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