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盛岡地方裁判所 昭和40年(む)168号 判決 1965年8月02日

申立人 月山明海こと成載門

決  定

(申立人氏名略)

右の者に対する詐欺未遂、偽証教唆被告事件についての刑の執行に関し右申立人から異議の申立があつたので、つぎのとおり決定する。

主文

本件異議の申立を棄却する。

理由

本件異議申立の要旨は、検察官の刑務所長に対する執行指揮の中、上告判決言渡の日から判決確定の日までの未決勾留の日数二三日を刑に算入しなかつた算定処分は誤りであるから、訂正を求める。仮にしからずとしても、上告判決言渡の日から判決訂正申立の日までの未決勾留日数を刑に算入しなかつた算定処分は誤りであるから訂正を求める、というにある。

よつて記録を検討するに、申立人(被告人)が、昭和三九年三月二七日、詐欺未遂、偽証教唆被告事件について最高裁判所に上告の申立をなし、昭和四〇年六月四日上告棄却の判決言渡があつたところ、同月一二日被告人(申立人)から判決訂正の申立をなし、同月二六日右申立を取下げたことにより、同日右判決が確定したこと、検察官が右判決確定により、同年七月二日宮城刑務所長に対し、被告人に対する懲役三年の刑の執行を指揮するに際し、第一審判決言渡の日から控訴申立の日の前日までの一一日間及び控訴審判決言渡の日から上告申立の日の前日までの一四日間、合計二五日間の未決勾留の日数を法定通算して執行指揮をしたが、上告棄却の判決言渡の日から確定の日までの二三日間の未決勾留の日数を算入しなかつたことは、いずれも記録上明らかである。

そこで、上告棄却の判決言渡の日から確定の日までの未決勾留の日数を法定通算しなかつた検察官の本件執行指揮に誤りがあつたか否かを検討する。

判決訂正の申立についての裁判は、原判決をした裁判所を構成した裁判官全員で構成される裁判所がこれを行うのを原則とする(刑事訴訟規則第二七〇条)ことからも明らかなように、同一の裁判所による再度の考案の種類に属するものであつて、上訴の種類に属するものではない。従つて上告申立後、上告判決確定までの期間は、この間に判決訂正申立期間(訂正申立のあつた場合は、その申立後も含め)が介在したとしても、その全部が上告審と同一審級に属するものであつて、刑事訴訟法第四九五条にいわゆる「上訴申立後の未決勾留の日数」に該当すると解すべきであるから、訂正申立期間を検察官上告の場合及び右以外の者が上告を申立て、原判決が破棄されたとき以外は、法定通算すべきでないと解すべきである。

しかしながら、このことは、被告人上告し、訂正申立なくして上告棄却に確定する場合、被告人において、右訂正申立期間の徒過するのを甘受して待たなければならないことを意味するものではなく、訂正申立権を放棄し、速やかに刑に服する道は開かれているのである。

次に、被告人の上告申立により、上告棄却の判決があり、訂正の申立があつた場合には、訂正の裁判を含めて考慮して、結局破棄判決に帰するのであれば、同条第二項第二号に該当する事由が存することとなり、上告申立後判決確定までの未決勾留の日数全部が法定通算されることとなる。この場合、上告棄却の判決言渡の日から訂正申立の日の前日まで及び訂正申立後確定までの期間の未決勾留の日数は、右法定通算の結果として算入されるにすぎないのである。

これを要するに、訂正申立期間および訂正申立後の未決勾留の日数を上告申立後確定までの期間から切り離し、独立に取り上げて考慮する必要は少しもない。

本件においては、控訴棄却の判決に対し、被告人が上告の申立をなし、結局上告棄却の判決確定に帰したのであるから、上告申立後の未決勾留の日数全部が法定通算の対象とならないことは前述のとおりであるから、その結果として、その一部にすぎない上告判決言渡後の未決勾留の日数全部も又法定通算の対象とならないことになる。

検察官が、本件執行指揮に際して、上告棄却の判決言渡の日以後確定までの未決勾留の日数二三日を法定通算しなかつた算定処分には何ら誤りがなく、ましてや、その一部にすぎない上告棄却の判決言渡の日から判決訂正申立の日の前日までの未決勾留の日数を算入しなかつたことには、何らの誤りもなかつたと言うべきである。

よつて、本件異議申立は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 田口祐三)

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