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盛岡地方裁判所 昭和43年(ワ)392号 判決 1974年6月06日

原告

国鉄動力車労働組合

右代表者

富田一朗

原告

新井山良吉

三上秀光

右原告ら訴訟代理人

斉藤忠昭

山中邦紀

被告

日本国有鉄道

右代表者総裁

藤井松太郎

右訴訟代理人

森本寛美

外七名

主文

1  原告国鉄動力車労働組合の訴えを却下する。

2  原告新井山良吉、同三上秀光と被告との間にそれぞれ期間の定めのない雇傭関係の存在することを確認する。

3  被告は原告三上秀光に対し八、五二七、七九八円とこれに対する昭和四九年三月八日から完済まで年五分の割合による金員並びに同月以降毎月二三日限り一一五、四〇〇円を支払え。

4  訴訟費用は、原告国鉄動力車労働組合と被告との間においては、被告に生じた費用の三分の一を原告国鉄動力車労働組合の負担とし、その余は各自の負担とし、原告新井山良吉、同三上秀光と被告との間においては全部被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告ら

1  主文第2、3項と同旨

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

1  本案前の申立て

(一) 主文第1項と同旨

(二) 却下された部分の訴訟費用は原告国鉄動力車労働組合の負担とする。

2  本案の申立て

(一) 原告らの請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求の原因

1  被告は、日本国有鉄道法(以下国鉄法という)に基づいて設立された鉄道事業などを営む公共企業体であり、原告国鉄動力車労働組合(以下原告組合という)は被告の職員をもつて組織する労働組合であり、原告新井山良吉(以下原告新井山という)、同三上秀光(以下原告三上という)はいずれも被告に雇傭された職員であつて、昭和四三年五月当時、原告新井山は原告組合盛岡地方本部(以下盛岡地本という)書記長、同三上は同地本尻内支部執行委員長の地位にあつた。

2  被告は原告新井山、同三上について、既に解雇したと称して、同原告らと被告との間の雇傭関係の存在を争つている。

3  原告三上は、本件解雇処分当時、動力車乗務員として、これに適用される給与表の八職群五〇号俸(月給基本給六四、〇〇〇円)と扶養手当一、六〇〇円をあわせ、月額六五、六〇〇円の支給を受けていた。

その後右職群号俸に該当するものについては、別表基準内賃金支給額試算表記載のとおり給与の改訂があり、原告三上が本件解雇処分を受けなかつたとしたら、同表記載のとおりの諸手当も受けていた筈であり、昭和四三年六月分から昭和四九年二月分までのその合計は、六、〇七六、一六〇円となる。

また、右期間中の期末手当等の総額は別紙期末手当等支給算定表記載のとおり二、四五一、六三八円であり、従つて原告三上の期限の到来した未払賃金総額は、八、五二七、七九八円である。

なお、原告三上は、昭和四九年三月現在別紙基準内賃金支給額試算表の四八年度欄記載のとおり基本給一一二、四〇〇円、扶養手当三、〇〇〇円計一一五、四〇〇円を毎月支給されるべきものである。

なお、原告三上に支給されるべき給与、手当等の合計は同人の定期昇給分等を含めると昭和四三年六月から昭和四八年一二月までの合計額として少くとも八、九四二、〇五八円を下らず、また昭和四九年一月の本来の給与は少くとも一二八、七〇〇円であるから同原告はさしあたり右金額の一部請求として別表記載の金員の支払を求めるものである。

4  よつて、原告らは被告に対し、原告新井山、同三上と被告との間の雇傭関係の存在の確認および原告三上に対し八、五二七、七九八円とこれに対する準備書面陳述の翌日である昭和四九年三月八日から完済に至るまで年五分の割合による金員並びに同月以降毎月二三日限り一一五、四〇〇円の支払を求める。

二、請求の原因に対する認否

請求の原因1ないし3の事実は認める。

三、抗弁

1  本案前

本件訴えは、原告新井山、同三上と被告との間にそれぞれ雇傭に基づく法律関係のなお存続することの確認を求めるものであるから、この法律関係について何ら管理処分権を有しない原告組合は、右訴えを追行する適格を有しない。

原告組合規約一二条に、組合は組合員と被告との間の訴訟について組合員の利益擁護のため組合の名において被告に対しその組合員の権利を行使することができる旨の規定があるが、組合員の解雇というようなことは組合員全体に均等に起こる問題ではなく、組合員の利益擁護といつても具体的事案によつてその内容は異なるもので、このような将来予測のできないような権利又は法律上の利益についてあらかじめこれを管理することができるという組合規約は、組合員に対する偶然的なしかも不平等な拘束を認めるという約款で無効であるから、この規定のあることをもつて原告組合が本件訴訟を追行できるとはいえない。

2  本案について

被告は、原告新井山、同三上に対し、昭和四三年五月二〇日付で、原告組合が同年三月一日から二日にわたつて尻内管理所、青森機関区及び青森運転所で実施した闘争(以下本件闘争という)により、多数の列車が遅延するなど国鉄業務の正常な運営を阻害する事態が発生し、旅客公衆に多大の迷惑を及ぼし、原告新井山は盛岡地本書記長として、同三上は同地本尻内支部執行委員長としていずれもこの闘争の計画に参画し実施させ、もつて本事態を発生させた責任者であり、その行為は公共企業体等労働関係調整法(以下公労法という)一七条一項に違反するので、同法一八条に基づいて解雇する旨の発令(以下本件解雇という)をした。

原告新井山らの公労法一七条一項違反行為の詳細は次のとおりである。

(一) 原告新井山について

(1) 原告新井山の地位

原告新井山は、昭和四二年一〇月の盛岡地本第一七回定期大会において同地本書記長に就任し、さらに翌一一月の第四九回同地本委員会において同地本闘争委員会の設置と同時にその闘争副委員長に就任した。

なお、同地本執行委員長には訴外大山善雄が、同副委員長には同小原一雄がそれぞれ就任し、さらに同地本闘争委員会闘争委員長には右大山が、同副委員長には右小原がそれぞれ就任したが、右大山は同三八年一二月、同小原は同四一年八月にいずれも解雇されているので、被告の職員としては、原告新井山が、同地本における最高の地位にあり、本件闘争においても同様同地本における最高の地位にあつた。

(2) 原告組合の三・二スト計画の経緯の概略

原告組合は、昭和四二年一一月八日から一〇日にかけて第五三回中央委員会を開催し、五万人合理化粉砕のためストライキを実施することを決定して中央闘争委員会を設置し、同月一三日の第二回中央闘争委員会、翌一二月九日の全国代表者会議において右闘争の組織化行動実施の決定及び闘争拠点(盛岡ほか三地本)の決定等を行い、下部組織に対してその準備を指令した。

さらに同月二三日の第七回中央闘争委員会、翌四三年一月二六日の第五回臨時中央委員会において、本件闘争の実施につき、①五万人要員合理化粉砕のため、同年二月一日から三月上旬にかけて強力な順法闘争、半日反復スト等を配置して闘い抜くため、各地本は二月五日までに支部代表者会議等を開催して闘争体制の点検を行なうこと、②第四次統一行動のなかで半日第二波ストライキ及び第三波ストライキを配置すること、③第二波の指定地区は前記闘争拠点(盛岡地本=青森機関区、同運転所、野辺地機関支区、尻内管理所)とすることなどを決定した。

また昭和四三年二月一六日の中央闘争委員会において、第四次統一行動(二月二七日から三月二日まで)のなかで第二波半日ストライキの実施について大要つぎのとおり決定し、その旨を指令第二三号として発出した。

① 二月二七日午前〇時から三月二日一二時まで連続して全乗務員の安全運転、全組合員の安全作業、諸法規違反摘発、事務切捨などを実施する。

② 三・二ストの拠点地本を除く各地本は、二月二七日以降三月二日までは連続して職場集会及び現場長交渉を実施する。

また、別に指定する地区で、三月一日から二日にかけ全組合員のろう城集会、現場長交渉を実施し、スト拠点地区の助勤、代員の拒否体制を確立する。

③ 盛岡地本は青森、野辺地、尻内の各地区で三月二日ストライキを実施する。

(3) 原告新井山の三・二スト計画関係

(イ) 原告新井山は、同三上らとともに昭和四二年一一月一七日、一八日の両日の第四九回盛岡地本委員会において、機関助士廃止、検修新体制事務の集中化、業務の部外委託等五万人要員合理化と対決し、年末から春闘に向けて全組織を結集して反復ストライキをもつて闘うことを決定した(つまり原告新井山は原告組合の決定内容に基づき、その具体的戦術を独自に決定したものである)。

(ロ) さらに原告新井山は、同三上らとともに昭和四三年二月三日の盛岡地本代表者会議において、前記第五四回臨時中央委員会、第四九回盛岡地本委員会及び同年一月三日の盛岡地本代表者会議における各決定内容に基づき、つぎのとおり決定した。

① 中心的課題は五万人要員合理化粉砕であり、広範な大衆行動を含むねばり強い闘いとストライキを結合させ徹底的に闘い、六八年春闘勝利の準備体制を確立していくこと。

② 第二次全国統一行動の闘いの拠点は、青森、同運転所、野辺地、尻内地区であるから前記一二月九日全国代表者会議で指定を受けた支部は、積極的な闘いの体制をつくること。

③ 二月七日から九日まで拠点指定支部及び隣接支部は積極的に職場集会を開き、組合員の意思結集を行なうこと。

④ 同期間中地本さん下の各支部組合員は超過勤務をしない、区間定時運転を守り絶対に遅延回復は行なわないなどの順法闘争を実施し合理化反対闘争を闘い抜くこと。

(ハ) 右闘争の計画を察知した被告の盛岡鉄道管理局長は、同年二月一九日盛岡地本に対し、闘争計画を直ちに中止すること、万一違法な事態が発生した場合は厳重な処分を行う旨の警告を発した。

(ニ) しかるに、原告新井山は同地本役員とともに、同月二一日の盛岡地本戦術会議において、三・二ストの拠点として青森、野辺地、尻内地区を確認し、三・二ストの具体的戦術決定を行ない、同月二六日ころ、原告新井山ら闘争委員会の委員はつぎの指令第一九号を同地本さん下の各支部に対して発出した。(指令第一九号)

① つぎのとおり各支部は、組合員を動員すること

a 青森支部へ、盛岡支部から四〇名、一戸支部から一〇名

b 青森運転所へ、盛岡支部から一〇名

c 尻内支部へ、花輪支部から三名、北上支部から五名、釜石支部から七名、宮古支部から一一名、一関支部から二〇名

d 野辺地支部へ、大湊支部から五名

② 動員者は、三月一日午後五時以降に拠点支部に到着すること

③ 拠点支部に所属する乗務員のうち、スト前日及び当日乗務する者は、全員ストに参加すること

④ 拠点以外の支部所属の乗務員のうち、三月一日午後四時以降に拠点地区に乗り入れする者は、組合の管理下に入ること

⑤ 三月二日午前〇時以降同日正午まで拠点地区から発車する列車の他区乗務員は、組合の管理下に入ること

⑥ 代替乗務の阻止、助勤拒否について全力をあげること

⑦ 乗務予定者を組合側で管理するため、宿舎に収容すること

(ホ) しかして、後記のとおり盛岡地本さん下の尻内支部、青森支部並びに野辺地支部をしてそれぞれ右闘争を実施させた。

(4) 原告新井山の三・二ストにおける行動及びさん下組合員らをして実施させた行動はつぎのとおりである。

(イ) 青森機関区関係

① 原告新井山は、昭和四三年二月二〇日正午ころ、検査掛詰所において、職場集会を開催し、約二〇名の組合員に対し約二五分間にわたり、三・二ストに参加するよう説得した。

② 原告新井山は盛岡地本青森支部役員らとともに、同月二二日午前八時五四分ころから同九時二〇分ころまで、助役加藤茂夫らの再三の制止もきかず、構内の事務室、当直室、詰所等の建物外壁に「首切りと安全無視の五万人合理化粉砕」等と記載した三一六枚に及ぶビラを貼りつけた。

③ 同月二九日夜半から、盛岡地本さん下の組合員が、三月一日から翌二日にかけて乗務すべき機関士、機関助士の乗務員を青森市旭町の旅館「福井」「羽衣」「喜代乃」に収容し、これらの乗務員を組合の管理下においた。

④ 原告新井山らは、同年三月一日午前一時五分ころ、区長室において、同区長に対し、当局はハイヤーを待機させ、乗務員を確保しようとしているというが我々を挑発するのか、当局がその気なら組合も直ちに実力を行使する旨を強硬に申入れた。

⑤ 同月二日午前〇時二五分ころ、到着点呼を終了した機関士中堤靖二、機関助士小笠原祐吉を約五〇名の組合員が取囲んで連れ去り、そのため右両名は同日第一三〇旅客列車に乗務すべき業務を欠務した。

⑥ 同日午前二時二分到着点呼を終了した機関士葛西文造、機関助士米倉武道を約五〇名の組合員が取囲んで連れ去り、そのため右両名は同日第六二二旅客列車に乗務すべき業務を欠務した。

⑦ 同日午前五時二〇分ころから同区事務室前に約四〇名の組合員が集合し、スクラムを組んで労働歌を合唱し、その後その数が逐次増加し、同三五分ころ約一〇〇名に達した。

そこで同時刻ころ区長がマイクにより右ピケ隊組合員の退去を要求したが退去しないので、さらに同四〇分ころ同区長が再度マイクで退去要求を通告したところ、右ピケ隊組合員は構内をデモ行進して気勢をあげながら、午前六時八分ころ引きあぎた。

⑧ 同日午前一一時四五分ころ闘争終了とともに、同地本青森支部執行委員長らは、青森機関区所属機関士斎藤武智夫以下一三〇名を引率し、区長に引渡した。

(ロ) 青森運転所関係

① 原告新井山は、昭和四三年二月二七日正午ころから同四五分ころまで、気動車掛詰所において、職場集会を開催し、気動車掛約四〇名を集結させてストライキ参加を慫慂した。

② 原告新井山は、乗務員室において、同月二八日午後一時四五分ころ機関士兼気動車運転士小杉盛衛に対し、翌二九日午後一時五〇分ころ同加藤清に対し、翌三月一日午前一一時五〇分ころ同川村福蔵に対し、それぞれ三・二闘争に参加し組合が確保している旅館に入るように説得した。

③ 原告新井山らは、同年二月二九日午前一一時五分ころ、所長室において、所長に対し、三月二日闘争を行う旨申入れたが、同所長はストは違法であるから中止されたい旨警告した。

(ハ) 青森機関区野辺地支区関係

① 前記(3)、(ニ)の決定に基づき派遣された盛岡地本役員近江二郎らは、昭和四三年二月二九日午後九時ころ乗務員室に、「三月二日〇時より一二時までストライキを行なう。この時間に該当する乗務員は自区及び乗入区(尻内、青森)において組合役員の指示に従うこと。闘争態勢は万全であり仲間を裏切ることのないよう当日の勤務以外の組合員は、三月一日勤務終了時点より全員動員となる。出勤前後には必ず組合役員から闘争に関するオルグをうけること。業務命令や保護願い等の文書を受取つたり署名したりなどは絶対行なわないこと。万一これらの動きがあつた場合は速やかに組合役員に知らせること。」と掲示を出し、さらに収容宿舎乗務員収容予定数等を掲出した

② 同年三月一日午後七時四五分ころ、到着点呼を終了した運転士田沢章一を前記近江ら組合員四、五名が取囲み、組合指定旅館に収容した

③ 同日午後一一時一六分到着点呼を終了した機関士金田和夫、機関助士小笠原惇吉を前記近江ら組合員約一〇名が取囲み、前記旅館に収容した

④ 同日午後一一時二〇分到着点呼を終了した機関士石井政弘、機関助士坪谷久義を前記近江ら組合員約一〇名が取囲み、前記旅館に収容した

⑤ 同日午後一一時五〇分ころ到着点呼を終了した機関士西川勝、機関助士石井輝盛を前記近江ら組合員約一〇名が取囲み、前記旅館に収容した

⑥ 同月二日午前一時一五分ころ到着点呼を終了した機関士生江伸吾、機関助士吉田淳を前記近江ら組合員七、八名が取囲み、前記旅館等に収容した

⑦ 同日午前二時到着点呼を終了した機関士三浦重雄、機関助士藤原亀雄を前記近江ら組合員約一〇名が取囲み、前記旅館に収容した

⑧ 同日午前七時五六分気動車運転士佐藤数夫を前記近江ら一四、五名の組合員が取囲み、前記旅館に収容した。

(ニ) 尻内管理所関係

原告三上の解雇理由の項記載のとおりである。

(二) 原告三上について

原告三上は、盛岡地本尻内支部の昭和四二年度執行委員長に就任し、同支部が実施したいわゆる合理化反対、三・二ストの全般にわたつて最高責任者として違法なストライキの具体的な実行方法を計画し、所属組合員をしてこれを実施させ、また自らも違法な行為をしたものであるが、その行動を挙示するとつぎのとおりである。

(1) 原告三上の三・二スト計画関係

(イ) 原告三上は同新井山らとともに、前記新井山の解雇理由の項(3)、(イ)及び(ロ)記載の第四九回盛岡地本委員会、盛岡地本代表者会議において右同記載の内容の闘争の決定をした。

(ロ) 右闘争の企図を察知した被告の尻内管理所長は、同年二月五日原告三上を含む運転科職員に対し、違法な事態が発生した場合は厳重に処分する旨掲示して、三・二ストに参加しないよう警告した。

(ハ) 右警告にもかかわらず原告三上は、つぎの趣旨の掲示をし、同支部組合員に対し闘争参加を指示した。

① 昭和四三年二月六日の掲示内容

反合第二波スト体制確立のため、二月八日正午より集会を開催するので全員出席されたい。

② 同月一八日の掲示内容

反合順法闘争実施、拠点行動として二か所を指定し、入出区及び速度規制並びに点検闘争を行なう、スト体制確立のためオルグ配置

③ 同日の各執行委員あての掲示内容

同月二二日午後四時三〇分より反合第二波ストの具体的準備のため執行委員会開催

④ 同月二〇日の掲示内容

地本指令により反合第二次順法行動として、同月二一日正午から午後八時まで尻内支部を拠点として完全運転・安全作業・法規協約厳守・点検摘発の順法闘争実施

(ニ) しかして原告三上は、同月二二日午後四時三〇分ころ同支部事務所に同支部役員約一〇名を集合させ、執行委員会を開催これを主宰し、合理化反対第二波ストの具体的準備をした。

(ホ) そこで前記尻内管理所長は同月二四日、かさねて原告三上を含む運転科の職員に対し違法な闘争に絶対参加しないよう掲示し、警告した。

(ヘ) しかるに原告三上は、つぎの趣旨の掲示をし、同支部組合員に対して闘争参加を指示した。

① 同月二七日の掲示内容(闘争委員長名)

同日以降昼夜を通じて組合役員が張りついており、勤務その他不当な行為があつた時は直ちに連絡すること

② 同日の支部委員、分科会役員、青年部役員あての掲示内容

同日午後五時より第六回拡大委員会開催、三・二反合半日ストの具体的準備や戦術について指令するので全員出席すること

③ 同日の掲示内容(支部委員長名)

同月二九日午後五時から半日スト体制確立総決起大会開催、全組合員勤務外の者は全員参加のこと

(ト) しかして原告三上は同月二七日午後五時ころ、尻内駅前旅館に同支部役員ら約二〇名を集合させ、拡大委員会を開催これを主宰し、三・二合理化反対半日ストの具体的戦術を決定した。

(2) 原告三上の三・二ストにおける行動関係

(イ) 原告三上は、昭和四三年二月八月正午ころ、尻内管理所の機関車掛詰所において、合理化反対スト体制確立のため盛岡地本尻内支部組合員約五〇名を集合させ職場集会を開催し、組合員に対し、スト参加の意思統一と昂揚を計つた。

(ロ) 原告三上は、同月二〇日午前一一時四〇分ころから正午まで、同管理所運転科助役の再三の制止もきかず、前記運転科構内等に、「運転保安無視、五万人要員合理化を粉砕しよう」などと記載したビラを貼り、さらに同月二五日午後四時三〇分ころ、同支部組合員三名を指揮し、右運転科構内の同科事務室等の建物外壁に前記同様のビラを貼らせた。

(ハ) 原告三上は、機関車乗務員として、同月二九日午後〇時二〇分から翌三月一日午前一時までの三一仕業、同三月二日午前四時三二分から同日午後二時五三分までの四三仕業に就労すべき業務命令をうけたにもかかわらず、これを拒否して就労しないのみならず、後記(ニ)ないし(リ)に記載の如く、同支部における最高責任者たる執行委員長として多数の組合員を指揮指導し、あるいは鼓舞激励し、また、自ら違法行為を行うなどして三・二ストを実施させた。

(ニ) 原告三上は、同年二月二七日同支部事務所に闘争本部を設置し、同月二九日午前一時ころ右事務所にこれを表示するあんどん、赤旗が掲出された。

(ホ) 原告三上は、同月二九日午後四時五〇分ころ前記運転科事務室前広場に、尻内支部及び他支部から動員されてきた組合員ら約七〇名を集結させ、半日スト体制確立総決起大会を開催し、同組合員らに対し「五万人合理化を断固粉砕しよう。組合員全員がストに参加し、今次闘争をもりあげ成功させよう」などと演説して組合員を鼓舞激励し、さらに、その後参集した組合員らを合流させ、約一四〇名に達した右組合員らを三列縦隊に並ばせ、これらの先頭に立ち、掛声をかけ、手笛を鳴らすなどしてこれを指揮し、デモ行進をしたりシュプレヒコールをくり返したりして気勢をあげ、同六時二〇分ころまで右状態を継続した。

(ヘ) 原告三上は、同年三月一日午前七時五〇分ころから同支部役員、同組合員らをして帰着点呼を終了した乗務員らに対して三・二ストに参加するよう説得させ、さらに同日及び翌二日に乗務すべき機関士、機関助士の乗務員を組合指定宿舎に収容させるなどして、これらの乗務員一〇〇名を組合の管理下においた。

(ト) 原告三上は、同月一日午後一一時五五分ころ前記運転科科長室において、科長に対し〇時からストに突入する旨通告し、これに対し同科長は、ストを中止するよう警告した。

(チ) 原告三上は、同月二日午前五時一〇分ころ尻内駅八戸二番ホームにおいて、第六二五D旅客列車の乗務員木村多吉に対して「組合を裏切るのか」「お前だけよい子になるのか」などと大声で叫んで乗務を放棄するよう暴言を吐き、さらに同列車の運転室後部に他の組合員らと立入り、所長がこれを制止し退去を求めたにもかかわらず、これに応ぜず、そのため右列車の発車を六分遅らせるにいたつた。

(リ) 原告三上は、同日午前一〇時ころ同駅四番ホームにおいて、同駅に到着した第五三五旅客列車の運転室に乗り込み、機関士八重樫吉男、同機関助士北田繁夫らに対し闘争参加の説得を行ない、いまだ乗継ぎ作業が完了しない右両名を下車させ、同支部組合員をして同支部闘争本部に連行させ、さらに機関士小川滝雄、同機関助士村田智待らに対しても執拗に闘争参加の説得を行ない、右列車を遅延させた。

(ヌ) 原告三上は、同日午前一一時一六分ころ前記運転科長室に赴き、科長に対し闘争を中止する旨通告し、ついて組合が管理していた乗務員を当局に引渡した。

(三) 三・二ストによる列車の運行に対する影響

(1) 前記のとおり三・二ストを強行した結果、昭和四三年三月一日から同二日にかけて乗務すべき乗務員一七六名が不参、同一一三名が二九分ないし一一時間四五分それぞれ欠務し、同月二日の第六二一D列車外二九本の旅客列車、第五五〇列車外三四本の貨物列車、合計六五本の列車が運転を休止し、第六二五D列車外一〇本の旅客列車が六分ないし二時間五一分、第五六〇列車外一本の貨物列車が一時間三一分ないし一時間五四分それぞれ遅延するに至り、被告の業務の正常な運営が著しく阻害され、旅客公衆に多大の迷惑を及ぼした。

(2) なお、尻内地区においては、同月一日から翌二日にかけて乗務すべき乗務員七一名が不参、三〇名が二九分ないし八時間それぞれ欠務し、三月二日の第六二一D列車外二二本の旅客列車、第七三列車外一八本の貨物列車合計四二本の列車が運転を休止し、第六二五D列車外六本の旅客列車が六分ないし二時間五一分それぞれ遅延した。

列車の運転休止、遅延状況の詳細は次のとおりである。

Ⅰ 尻内地区

(運転休止した列車とその運休区間)

① 第七三貨物列車(尻内・青森)②第一五六貨物列車(尻内・大宮操車場)③第九〇八〇貨物列車(尻内・長町)④第六七一貨物列車(尻内・鮫)⑤第一六二四旅客列車(鮫・三戸)⑥第六二一D旅客列車(尻内・鮫)⑦第一六二二D旅客列車(鮫・三戸)⑧第一六二五D旅客列車(三戸・尻内)⑨第六二七D旅客列車(尻内・久慈)⑩第六三四D旅客列車(久慈・尻内)⑪第一九四貨物列車(尻内・盛岡)⑫第六二四D旅客列車(陸中八木・尻内)⑬第六三一D旅客列車(尻内・久慈)⑭第六四〇D旅客列車(久慈・尻内)⑮第六二三旅客列車(尻内・鮫)⑯第一四六旅客列車(鮫・尻内)⑰第六九一貨物列車(尻内・湊)⑱第六九二貨物列車(湊・尻内)⑲第六六六一貨物列車(尻内・三沢)⑳第五三一旅客列車(尻内・青森)第六六一貨物列車(尻内・久慈)第六六二貨物列車(久慈・尻内)第一五三一D旅客列車(尻内・上北)第一五三二D旅客列車(上北・尻内)第六二九D旅客列車(尻内・陸中八木)第六三〇D旅客列車(陸中八木・尻内)第一六二五D旅客列車(尻内・久慈)第六三二D旅客列車(久慈・尻内)第六七三貨物列車(尻内・鮫)第六七二貨物列車(鮫・尻内)第六九三貨物列車(尻内・湊)第五三三旅客列車(尻内・野辺地)第一三〇旅客列車(尻内・盛岡)第六六三貨物列車(尻内・久慈)第六七四貨物列車(鮫・尻内)第三六九一貨物列車(尻内・湊)第三六九二貨物列車(湊・尻内)第六三三D旅客列車(尻内・鮫)第六三五D旅客列車(尻内・久慈)第六二四D旅客列車(久慈・尻内)第二一九二貨物列車(尻内・盛岡)第六七五貨物列車(尻内・鮫)

(遅延した列車とその遅延時分)

①第六二五D旅客列車(六分)②第一四六旅客列車(一二分)③第二〇二急行旅客列車(五六分)④第二〇五急行旅客列車(二三分)⑤第二〇七急行旅客列車(一時間二九分)⑥第五三五旅客列車(四一分)⑦第五三九旅客列車(二時間五一分)

Ⅱ 青森地区

(運転休止した列車とその運休区間)

①第五五〇貨物列車(青森操車場・大館)②第四九〇貨物列車(青森操車場・秋田)③第三一九〇貨物列車(青森操車場・盛岡)④第一〇九〇貨物列車(青森操車場・長町)⑤第三一六〇貨物列車(青森操車場・長町)⑥第三八七八貨物列車(青森操車場・秋田操車場)⑦第四九二貨物列車(青森操車場・弘前)⑧第一九八貨物列車(青森操車場・尻内)⑨第七二三旅客列車(青森・蟄田)⑩第七二六旅客列車(蟄田・青森)⑪第三六〇貨物列車(青森操車場・盛岡)⑫第四四荷物列車(青森・好摩)⑬第四九四貨物列車(青森操車場・弘前)⑭第二一九四貨物列車(青森操車場・長町)⑮第五三六旅客列車(青森・尻内)⑯第四四二旅客列車(青森・秋田)⑰第五二貨物列車(青森操車場・小名木川)⑱第四六荷物列車(青森・沼宮内)⑲第三一六六貨物列車(青操森車場・尻内)⑳第二〇九六貨物列車(青森操車場・大館)第五〇貨物列車(青森・盛岡)

(遅延した列車とその遅延時分)

①第五六〇貨物列車(一時間五四分)②第二二八旅客列車(三九分)③第五四〇旅客列車(三八分)④第一六六貨物列車(一時間三一分)⑤第五四二旅客列車(四五分)

Ⅲ 野辺地地区

(運転休止した列車とその運休区間)

第三九三貨物列車(野辺地・大湊)(遅延した列車とその遅延時分)

第三二三D旅客列車(一時間三八分)

四、抗弁に対する認否

1  本案前について

(一) 原告組合規約一二条には、被告主張の規定があり、この規定によつて原告組合は、組合員である原告新井山及び同三上の訴訟追行に関する権限を有する。

このようないわゆる任意的訴訟信託は、組合員の地位の向上を図ることを目的とし、且つ、そのために組合員に統制権を行使する労働組合の本質に照し正当な必要に基づくものであり、労働組合が三百代言的機能を果すことは事実上ありえないうえ、市民間の非集団的財産的紛争を主たる対象として組立てられた現行民事訴訟制度の中において、階級的に対立する集団的紛争を対象とする労働事件を審理するについては、むしろ望ましいところである。

なお、解雇は、抽象的には組合員全体に起り得るのであり、かつ近来国鉄当局が原告組合の行なう正当な組合活動に対し日常的に行なう大量処分からみても、実際上の可能性も相当大である。規約の性質上ことが将来に属する表現になつているのは当然であり、また将来生じ得る問題の具体的内容が相異なることは当然である。

(二) 加えて原告新井山、同三上は原告組合とともに出訴しており、現実の具体的な本件事案において訴訟追行の権限を与えている。

(三) 原告組合は自己自身のために本件訴訟に関し独自の当事者適格を有する。

すなわち、本件は原告組合の決定、指令に基づいて行動したその余の原告らを公労法一七、一八条により解雇したものであるが、その根拠法条は原告らの争議権を保障した憲法二八条違反の違憲無効な規定であり、しかも本件におけるその適用は、原告組合の弱体化を目的として盛岡地本の組合幹部を順次解雇した不当労働行為であり、かつ解雇処分の理由が極めて抽象的で漠然としており、原告組合と被告間の労使関係を規律する信義誠実の原則に違反し、これらの点からすれば原告組合独自の立場からも訴の利益を有するもので、原告組合の当事者適格に欠けるところはない。

2  本案の抗弁に対して

(一) 本案の抗弁冒頭部分につき、被告主張の理由で解雇の意思表示がなされたことは認める。

(二) 同(一)の原告新井山の項につき

(1) (1)について、原告新井山が本件闘争において最高の地位にあつたとの点を争う。大山、小原は現在裁判所で解雇が無効であり、職員の地位にあるとして争つている。

(2) (3)、(イ)について、否認する。仮に出席したとしても、地本委員会には被告主張の如き事項を決定する権限はなく、地本役員は地本委員会で決議権を有しない。

(3) (3)、(ロ)について、否認する。被告主張の盛岡地本代表者会議を開催したことはない。

(4) (3)、(ハ)について、認める。

(5) (3)、(ニ)について、否認する。盛岡地本戦術会議なるものは存しない。但し盛岡地本闘争委員長が被告主張の指令一九号を発出したことは認める。その内容の①、②は本部指令の実行であり、その③ないし⑦は本部指令そのままの伝達である。

(6) (4)、(イ)、①について、否認する。但しその頃同機関区、機関車掛詰所で昼食の休憩時間中に短時間地本としての一般情勢報告や当面の職場交渉経過を中心に報告を行なつたことはあるが、三・二ストに関する行動は全く行なつていない。

(7) (4)、(イ)、②について、認める。但し同区助役らが制止した事実はない。正当な組合活動を慣行に従い節度をもつて行なつたもので、当局側も何等規制をしなかつた。

(8) (4)、(イ)、③ないし⑧について、否認する。

(9) (4)、(ロ)、①について、否認する。職場集会は支部が開催したものではなく、同支部への派遣日高中央闘争委員(以下派遣中闘という)が主催して開催したものである。

(10) (4)、(ロ)、②について、否認する。但し闘争指令の伝達を行なつたことはある。

(11) (4)、(ロ)、③について、否認する。同支部責任者日高派遣中闘が申入れをなしたもので、原告新井山はこれに同席したものである。

(12) (4)、(ハ)および(ニ)について、全部否認する。

(三) 同(二)の原告三上の項につき

(1) 冒頭部分について、原告三上が支部執行委員長であつたことは認めるが、その余の事実は否認する。同支部の本件闘争最高責任者は渡辺派遣中闘であつた。

(2) (1)、(イ)について、否認する。原告新井山の部分で述べたとおりである。

(3) (1)、(ロ)について、認める。

(4) (1)、(ハ)について、①ないし④の掲示をしたことは認める。しかしこれをもつて闘争参加の指示というのは当らない。いずれも原告組合の指示によりなした掲示である。

(5) (1)、(ニ)について、被告主張の執行委員会は、派遣地本役員から本部指令の伝達をうけ、その指令の消化について意見の交換を行なつたものである。

(6) (1)、(ホ)について、認める。

(7) (1)、(ヘ)について、闘争参加を指示したことは否認する。

①は渡辺派遣中闘がなした掲示であり、②、③は掲示したことは認めるが、これも右渡辺の指示によるものである。なお掲示文言中の指令は本部指令である。

(8) (1)、(ト)について、拡大委員会が開催されたことは認めるが、その席上では渡辺派遣中闘より指令指示の伝達がなされたものである。

(9) (2)、(イ)について、否認する。本部役員渥美玉二が主催して昼食休憩時に報告が行なわれたが、対象である検修関係者は当初からスト参加を予定していなかつた。

(10) (2)、(ロ)について、認める。内容形状方法からいつて正当な組合活動であり、従来の労使慣行上問題のないところである。

(11) (2)、(ハ)につき、否認する。原告三上が業務命令をうけたことはない。

(12) (2)、(ニ)について、否認する。闘争本部を設置したのは、渡辺派遣中闘である。あんどん、赤旗の掲出は認める。

(13) (2)、(ホ)について、否認する。被告主張の集会は渡辺派遣中闘主催のもので、原告三上は、支部委員長として集会参加者を代表して挨拶を行なつた。因みに右集会は非番者、勤務終了者により行なわれたもので、国鉄業務には何らの支障がなく又構内デモも本部及び盛岡地本の役員の下で整然と行なわれたものである。

(14) (2)、(ヘ)について、否認する。原告組合は自主参加方式の戦術で闘争を行なつているのであり、原告三上は支部委員長として個々の組合員に指令を伝達したことはあるが、自ら収容したり他組合員をして収容せしめたりしたことはない。

(15) (2)、(ト)について、否認する。渡辺派遣中闘が行なつたものである。

(16) (2)、(チ)について、否認する。原告三上は、木村多吉が妹の夫の急死のため当日忌引であつたにもかかわらず、当局側に無理に就労させられたものと考え不審をいだき、支部委員長として訳をきこうとして声をかけたことはあるが、暴言をはいたことはない。その際、備付のダイヤ札が全く別個の列車のものであることがわかり、管理所長に注意し、これを取換えるため遅発したのである。

(17) (2)、(リ)について、否認する。

(18) (2)、(ヌ)について、否認する。被告主張の通告は渡辺派遣中闘が行なつたものである。

(四) 同(三)の三・二ストによる列車の運行に対する影響の項につき列車の運休ないし遅延の責任がすべて原告組合にあることは争い、その余の事実は認める。

五、原告らの反論

1  原告新井山、同三上の処分理由に対する反論

被告は原告新井山について盛岡地本における被告の職員として最高の地位にあつたこと、原告三上について同地本尻内支部執行委員長であつたことを強調している。

ところで、原告組合は、動力車に関係ある職務に従事する被告の職員で組織する全国的な単一組織であり、中央本部、地方本部、支部、地方評議会、職種別分科会、青年部をもち、決議機関として大会(最高決議機関)と中央委員会(大会に次ぐ決議機関)、執行機関として中央執行委員会(組合員に直接指令する)があり、大会または中央委員会の決議により闘争期間中中央執行委員会の闘争に関する権限を委譲される中央闘争委員会が設置される。

従つて組合活動の方針は、大会および中央委員会で定められ、地方本部、支部等はその伝達、徹底、細目実施を行なうもので、大会、中央委員会の決定の範囲内でのみ行動し、これを超えて独自の決定を行ない指令を発することはない。地本支部役員も下部執行機関として同範囲内での執行に従事し、独自の権限を行使したり、本部の指令なくしてストを計画実行したりすることはなく、また本部のスト命令に対してこれを拒否する自由をもたない。闘争指令は、中央闘争委員会の決定に基づき、中央闘争委員長が直接組合員にする。

三・二ストは、原告組合の組織をあげて闘つている全国的な合理化反対闘争の一環として組まれたもので、盛岡地本尻内支部においても、すべて中央指令にもとづいて整然となされたものである。盛岡地本における三・二ストは大会、中央委員会で決定されたものであるが、更に実施に当つては、盛岡地本関係の最高責任者として渥美玉二中央闘争委員が任命され、その傘下の青森運転所支部に日高家行中央闘争委員、尻内管理所支部に渡辺儀治中央闘争委員、野辺地支部に上野孝中央闘争委員、青森支部に右渥美がそれぞれ最高責任者とされ、昭和四三年二月二七日ころから現地で実際に指揮をとり、被告の各対応機関にその旨通告され、スト通告、スト中及びスト後の労使間の問題解決に責任者として当局と交渉している。

盛岡地本では本部からのスト指令により盛岡地本闘争委員会を設置したことはあるが、これは闘争時における地本執行部の名称変えとでもいうべきもので、地本委員長、副委員長、書記長がそれぞれその責に当つており、前述のとおりその行動は本部の指揮統制下にあり、ことに前述四三年二月二七日以降は前記各中央闘争委員の直接の指揮下にあつた。

原告新井山は三・二ストに際しては地本書記長として青森運転所支部にあり、日高中闘の下で連絡伝達の衝にあたり、原告三上は尻内支部委員長として渡辺派遣中闘及び地本副委員長小原一雄の下で連絡伝達の衝にあたつたもので、いずれも各支部の本件闘争における最高責任者という地位にあつたものではない。

2  本件解雇は左記の理由により無効である。

(一) (処分の違憲性)

(1) 公労法一七条一項は、憲法二八条に違反する。

公労法一七条一項は、公企体等の職員の争議行為を無差別全面的に禁止し、同法一八条で違反者を解雇すると定めている。ところで憲法二八条は、勤労者の団体行動をする権利を保障すると定め、判例・学説は、国鉄など公企体等の労働者もここにいう勤労者であるとする。

憲法上の権利の保障と、その全面的剥奪とは本来相容れないものである以上、その権利の「剥奪」には、極めて緊急かつ重大な必要性が存すると共に、権利の「制限」では防止することのできぬ害悪が明白に存することが絶対的要件である。また権利を制限する必要がある場合にも、権利制限の必要性は必ず、その必要性の程度に比例した制限方法を予定するのであり、その比例の程度を超えれば、その超えた部分は憲法の保障規定に違反する。

(イ) 合憲説の不合理性

従来、公労法一七条を合憲とする説は、次の三つの点をあげる。

第一、被告等の公共企業体は、全国的な経営規模をもち、その業務が国民生活に重大な影響をもつ企業であり、争議行為によつて正常な運営を阻害された場合には、国民生活に与える障害が大きいから、争議権は制限されねばならない。(大衆迷惑論)

第二、公共企業体は全額国家資本によつてまかなわれ、予算は特別会計として国家の承認を要するから労使の自主的決定に委しえず、その限りで争議権は制限される(国営企業論)。

第三、公労法は争議権剥奪の代償として公企体等労働委員会によるあつせん調停、仲裁をもうけているから違憲ではない(代償論)。

以下にこの三つの説が正当であるかどうかを検討する。

①  大衆迷惑論に対して

被告が全線にわたつて長期にストを続けると、国民生活に重大な支障を与えるが、このような極端な場合のみを想定して、それを防止するために被告の凡ゆる職種に対して凡ゆる規模の争議を全面的に禁止するのは不合理である。

被告の乗客輸送は、私鉄を含む全国のそれの約五〇%といわれ、特に東京、大阪を中心とする都市においては、被告よりも私鉄の方が直接に附近公衆の生活に影響を及ぼすことも多い。被告だけが絶対的な公共性をもつているかのようにいうのは、独断である。

被告の業務は国民生活に密接な関係をもつているが、憲法上の保障の例外を認めるのは、単なる利益や便宜では足らず高度の公共の福祉たることを要する。殊に争議権は他の基本権と異なり、本来的に多かれ少なかれ他人の迷惑となることを前提としている。それにもかかわらず、争議行為を権利として認めることは、より高い社会の発展のため、他の人々に一定の限度の迷惑を受忍する義務を認めることなのである。

憲法は、過去のわが国の労働運動が抑圧せられ、争議も行えなかつた結果、低賃金等労働条件が悪く、そのことがわが国の国際的信用をおとし、かつ軍国主義化する一つの原因となつた歴史的事実に鑑み、争議権が労働者の社会的経済的地位の維持向上に不可欠であり、またそのことは広く日本国民全体の福祉に合致するとして、明文をもつて保障し、わが国憲法秩序の下において侵すことのできない永久の権利として保障したのである。従つて、先にのべたような最悪のストライキのみを予想して、憲法上の保障を無差別、全面的に剥奪するのは、被告の公共性、独占性をいかに考慮するとしても、制限のもつ最少限度性をこえているといわざるをえない。

②  国営企業論に対して

公共企業体は、全額国家資本であり、政府の特別な監督に服し、この意味で、私企業ないし株式会社とは同一ではありえない。しかし、その業務の実態は、私企業と何ら区別はない。

最高裁大法廷昭四一・一一・三〇判決(刑集二〇巻九号一〇七六頁)もいうように被告の業務は、私経済的なものであつて権力作用ではなく、被告と職員の労働関係は、私法上の労働契約関係であり、その特色は従属労働である。

国営企業であることは、国家と企業との関係を特徴づけるものではあるが、その労働関係を基本的に変更するものではない。

③  代償論に対して

公労法一七条が争議行為を全面的に禁止した代償といわれるのが、強制仲裁制度である。

しかし、現実において労働条件は労使の力のバランスによつて決定されるのが実情であり、公労委の裁定や判断は、まさにこの労使の力のバランスの有権的判定であり、基礎になる労使対等の原則が失なわれていれば、それなりの判断しか期待できない。しかも公労法の強制仲裁制度は、仲裁としてはいわば尻抜けであつて甚だしく不完全であり(同法三五条但書)、極めて多くの裁定は、額面通り履行されず、或いは実施時期を遅らされてきた。このことは、仲裁裁定の拘束力が政府に及ばないという制度と相俟つて、仲裁裁定が、制度上も、現状の上からも、争議権剥奪の代償となつていないことを示している。

しかも、仲裁裁定を行なう公労委の公益委員の任命方法(公労法二〇条)は、労働組合法における労働委員会の公益委員の選任方法(同法一九条七項)と著しく異つて居り、その制度の根幹をなす中立性が担保されておらず、仲裁制度によつて労働者の争議権をカバーすることは不可能である。

以上のように強制仲裁制度をもつて、争議権剥奪の充分な代償ということは、制度の上からも実情からも到底できないのである。基本権制限の最少必要限度性と、制限に見合う代償措置の必要という基本理論に立つ限りは、公労法一七条一項は、憲法二八条に違反するものといわざるをえない。

(ロ) 世界の労働法制と鉄道労働者の争議権

鉄道企業の公的性格ないし鉄道業務の公共性が争議行為の禁止に結びつくものではないことは、世界における鉄道労働関係の実情をみても明らかである。すなわち、わが国と基本的に社会制度を同じくする他の代表的な資本主義=民主主義国家においては、鉄道企業の形体は、国有、私有、国=私合併等様々であるが、何れの形体においても、その争議行為が禁止されている国はない。

鉄道労働者の争議行為に対して大衆迷惑論とか国営企業論とかを展開してこれを禁止するのが一般的に正当であると主張する説は、その理論内容の誤りもさることながら、そのような理論は世界の現状にも反し、かつ何処の国においても、学説的にも立法的にも是認されていないのであつて、特殊にわが国においてのみ唱えられているにすぎないのである。

それは後述の如く、公労法が当時のわが国の特殊異常な状態の下に制定されたものであることを看過し、これを普遍的な原理であるかのように錯覚しているからに他ならない。

労働権を保障した世界における唯一のわが国憲法秩序の下で、逆に世界に類をみない争議権剥奪条項が存置されていることは、まことに、法の支配の基本的原理に反するものであり、わが国憲法秩序の下において許容すべからざるものであるといわざるをえない。

(2) 公労法一七条は、憲法三一条に違反する。

(イ)  憲法三一条の意義と立法事実考察の必要

憲法三一条は、単に形式的な手続の保障にとどまらず、実質的に不合理な理由によつて基本的人権を制限してはならない旨の保障規定であると解されている。

およそ今日のわが国の社会の下において、労働者が解雇されるということは、直ちにその生活維持の根源を断ち切られることであつて、刑罰に優るとも劣らぬ効果を生ずる。

前項にのべたように、鉄道労働者の争議権を剥奪する制度を設けたのは、わが国の特殊な事情に基くものであり、その特殊事情とは何か、それは果して、今日なお合理的と認められ、かつ基本的人権を制限づけるに足るものであるかが考察さるべきである。

(ロ)  公労法制定の経過―その「立法事実」

終戦後、国家総動員法、治安警察法等の廃止に伴い、禁圧されていた労働者の争議権は全面的に回復した。鉄道労働者は当時公務員であつたが、同じく争議権について何の制約もなかつた。のみならず、昭和二二年五月三日施行された日本国憲法は、争議権を明文をもつて保障するに至つた。

食糧の窮乏と悪性インフレによる賃金の著しい低下もあつて、昭和二一年頃からストライキは続発した。ところが、占領政策の変化に伴い、占領軍司令部は、争議を禁圧する方針をとつた。昭和二二年一月三一日のマッカーサー最高司令官による二・一スト中止指令によれば「その都市は荒廃に委され、その産業は殆んど停頓し、国民の大部分は飢餓線上をほうこうしている。ゼネストは輸送及び通信を崩壊せしめるもので、国民の必要とする食糧の輸送をはじめ、緊急必要品を確保するための石炭の移動をはばみ、今日なお依然として操業を続けている産業活動をも停止せしめるものである。」とのことであつた。しかしその後も、鉄道、通信はもとより、公務員による争議行為は頻発した。かくして、翌年七月二二日マッカーサー占領軍最高司令官は、芦田首相に書簡を発し、公務員の争議行為の全面的禁止と公共企業体の設立が命ぜられた。わが国政府は、この書簡に応じて、同月三一日政令二〇一号「七月二二日付連合軍最高司令官の書簡に基く臨時措置に関する政令」を公布施行し、ここに国家、地方公務員の全部から争議権を剥奪し、その違反に対し解雇並びに刑罰(一年以下の懲役又は五千円以下の罰金)を科することとし、団体交渉権を奪い、更には現に有効に存続中の労働協約の効力さえ失効せしめた。

そして同年一一月一一日改正国家公務員法と共に公労法が第三臨時国会に提出され、前者のみ成立し、後者は、第四国会に再提出され、同年一一月一二日無修正で成立し、同月二〇日公布され、翌年六月一日施行されたのである。

ところで、このようにして提案され可決された公労法の国会における審議状況をみると、提案理由として最も強調されたのは、この法案がマッカーサー書簡によるものであることであつた。

すなわち、公労法の制定は、わが国民の代表による自主的な立法ではなく、まさに占領下にある日本の義務として占領軍司令官の命令の履行として立法されたものなのである。

次に、政府が公労法において、争議権を剥奪の理由として説明しているのは、従来、無用に争議行為が発生し、行き過ぎがあつたこと、しかも、わが国の経済は混乱し、国家再建の途上にある状態にあつては、それに支障を与えるような業務の運営の停廃が寸時といえども許されないことであつた。

そして、公労法に対する各党の賛成理由を要約すると、①それがマッカーサーの指示によるものであること、②わが国の荒廃した社会経済を一刻も早く復興することが急務であること、③過去三年極左労働運動が過激な争議を行つてこの復興を阻害したことの三点につきる。

このような社会的事実に対応するものとして、公労法は国会において可決せられたのである。

(ハ)  立法事実の変化

しかし、公労法制定の最大の立法事実となつたマッカーサー書簡は、わが国の独立とともに効力を失ない、またわが国の経済復興は、まさに奇跡的であり、今日わが国は高度に発達した工業国家として、その年間工業生産高は、米ソについで世界第三位といわれる。そして、当時の過激な労働運動の原因となつた経済的、社会的混乱も終息し、昭和二二年、二三年頃の飢餓に頻した社会の下での労働運動と、今日の高度成長経済の下における労働運動を同一に論ずることはできない。

このように、公労法一七条が「立法事実」としたところのものは、今日大きく変化し、争議権を剥奪する実質的合理的理由はもはや存在しなくなり、少なくとも今日の社会においては、憲法三一条に違反する無効のものであ。

(3) 仮に公労法一七条が違憲でないとしても、原告新井山、同三上の本件各所為は、左記の如き事情に照らすと正当な争議行為であり、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらす筋合のものでなかつたことが明らかであるから、本件争議行為はいまだ公労法一七条一項の禁止する争議に該当せず、かりに該当するとしても、その違法性は極めて微弱である。仮に、右各所為が同条項に触れるとしても、右各所為は目的において極めて正当であり、手段の点でも事の経過ないし状況に照らせば十分首肯しうる相当なものであつて、しかもそれがもたらした国民生活への障害は重大どころか、すこぶる軽微な程度にとどまつたのであるから、かような争議行為を計画、指導し、あるいは自ら実施にあたつたことを理由に公労法一八条を適用して解雇処分を行つたことは、全逓中郵判決の説示する必要最少限度を遙かにこえる制裁を課したもので、憲法二八条に違反し無効である。

被告はかねてより国鉄近代化の名のもとに合理化政策を強行し、そのため被告職員の労働条件は極度に悪化し労働密度の強化による心身の疲労は深刻となつた。日本国有鉄道諮問委員会はかつて国鉄の近代化、合理化は労働組合との協議によることが必要であるとする意見を出し、昭和三六年「事前協議協定」が原告組合と被告との間に締結され、この協定を基礎に各地方本部対鉄道管理局ごとに協定が締結されたが、被告はこの協定を誠実に順守せず、各地に紛争が相ついで起つた。このような情況の中で被告は、検査修繕部門の合理化、各種業務の部外委託、国鉄要員の五万人の実質的な削減、機関助士廃止等を強行し、または強行せんとした。これらの施策は、運転保安に重大なかかわりを持つており、単に国鉄部内の問題であるだけでなく、国民としても無視することができない問題をはらんでいる。そればかりではなく、右のような政策の強行は被告職員の勤務条件に重大な影響を及ぼしており、この政策の実施自体が労働条件の変更、強化をもたらしているのであつて、これらの事項が団体交渉の対象たるべきことは明白である。被告は、前記事前協議協定を無視したばかりか、当該事項は「管理運営事項」に属するとして交渉を拒否し、一方的に押しつけてきた。

このような情況のなかで、原告組合は、被告に対し事前協議協定を誠実に守らせ、また労働条件の一方的変更を思い止まらせるためには、団体活動を背景として、被告に反省を求め、交渉し、協定を締結する以外に解決の方法はないという結論に到達し、被告主張の日時頃に闘争指令を発し、地本または支部を拠点とする闘争を背景として団体交渉を行ない、それぞれの懸案事項について、一定の前進をみるに至つた。

(4) 公労法一八条は、立法事実において合理性を欠き、争議行為の団体性からみて個人責任を問う不当な規定であり、憲法二八条に違反する。

(二) (信義則違反)

被告は、本件解雇処分の理由として、前記被告の抗弁2冒頭記載の理由をあげているが、その内容はきわめて、抽象的、漠然としたものであり、具体性を欠いている。かかる不明確な理由によつて、なされた本件処分は、本件処分を受けた原告らと被告間の雇傭契約を規律する信義・誠実の原則に違反し無効である。

(三) (事実の不存在―解雇権の濫用)

原告組合を除くその余の原告らには、被告が解雇理由として指摘する事実は存在せず、本件解雇は、解雇権の濫用で、無効である。

(四) (不当労働行為)

本件解雇は、被告の解雇理由自体から明らかに、被解雇者である原告らの組合活動を理由としたもので、就中、前記請求の原因1記載の如き地位にある原告らの平素からの活発な組合活動を嫌忌してなされたものであつて、、不利益取扱であり、原告ら枢要な組合の地位にある者を解雇することによつて、原告組合を弱体化させんとするもので、労働組合法七条一号、三号に該当する不当労働行為として無効である。

3 なお、本件解雇は、次に述べる理由により、行政処分ではない。

(一) 被告の法的性格

国鉄法一、二条により被告が公共的な目的をもつた公法人であることは明らかであるが、公共的性格をもつことから直ちに被告を行政機関とみることは、明文上の根拠がない限りできない(参照大阪地判昭和二五年五月一一日、労民集一巻七号一四一頁、大阪高判同年八月一二日、労民集一巻五号九三二頁)。

そして、国家行政組織法三条、国鉄法三六条の規定などからすれば、本質上行政機関といえないし、国鉄法一四条(監査委員会の指導統制)一九条(総裁の任命)三九条(予算の国会審議)五〇条(会計検査院による会計検査)五二条(運輸大臣の監督)なども、公益性確保の方法としての後見的監督の必要上おかれた規定であつて、ここから行政機関たる性格を有するものとすることはできない。

右規定以外にも、公共性維持の見地から、被告は、道路運送法、電気事業法、土地収用法等の適用については国の行政機関と「みなさ」れ(同法六三条)、また補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律についての読替規定(同法五〇条の二)をおいている。これらの規定の反面解釈として、被告が行政機関でないといえる。

(二) 被告と職員の法的関係

国鉄法に特別な規定がある場合、いわゆる公法上の管理関係とみられることがあるが、被告が政府から指揮監督をうけることと職員との法律関係とには理論上の必然的な関連性がなく、右のことから直ちに被告と職員との法律関係に公法関係的性格があるということはできない。

国鉄法、公労法の職員に関する規定には、職員の任免の基準、給与、分限、懲戒、職務専念義務などについて国家公務員に関するものと類似の規定(国鉄法二七条ないし三二条)が存在する。

しかし、公労法八条には、被告の一般職員が、賃金その他の労働条件について、被告との団体交渉によりその内容を自由に協定しうる地位が保護されており、また被告と職員との間に発生した紛争を解決するために、調停、仲裁の制度がある(同法二七ないし三五条)。

同時に私企業の就業規則にも、国鉄法にある職員の身分、服務等に関する規定と性質上同一のものを見出すことができる。

従つて、被告と職員の法律関係は上下服従の関係ではなく、当事者対等、私的自治の私法によつて規律されるものというべきである。

六、被告の再反論

1 本件解雇は、公法上の処分であるから、当然無効となるものではない。

(一) 被告の法的性格

被告は国鉄法一条に規定するように、従前純然たる国家行政機関によつて運営されてきた国有鉄道事業を国から引き継ぎ、これを最も能率的に運営発展せしめ、もつて公共の福祉の増進に寄与するという国家目的を与えられ、国家の意思に基づいて特に法律により設立された公法上の法人である。

本来国家行政機関は権力をもつて国民を統治することがその機能の中核であつて事業の運営はその本来の使命ではない。このため国家行政機関とその職員を規制する法体系と慣行はすべてかかる権力的機能遂行に適するように構成されていて事業の運営ということには適していない。

しかし、国営事業も企業である以上事業の公共性を確保するとともに、その運営の高能率化を計り財政的独立を達成する必要があり、これがため運営方針、予算、会計、人事等の面において一般行政機関とは異なる企業性と自主性を確保するという必要性に基づいて被告が設立されるにいたつたのである。

そして被告の資本はその全額が政府出資によるものであるが、このことは資本の国有すなわち資本は国民に属することを意味し、国民はその資産と運営を被告に信託し、被告は受託者として受益者である国民のため国民に代つてこれを運営管理するもので、その企業の経済的所有は株式会社の如く私人に帰属するものではなく国民に帰属するものである。このことは公共企業体の公共の所有の理念と一般にいわれ、またこの理念から公共企業体は公共の支配の下におかれているといわれる。この公共の支配のあらわれとして、被告は国民の直接代表である国会の或いは政府の支配監督の下に置かれているのである。

前述のように、国家意思に基づき国家目的を達成するために設立された被告の法的性格は、行政法上のいわゆる公共団体(公法人)たる性格を有するものであることは明らかである。また、このことは国鉄法の各本条に規定された被告の実体を検討すればいつそう明らかとなる。例えば被告はその資本を政府の全額出資にまつこと(五条)、その総裁は内閣が任命すること(一九条)、予算については国会の審議を必要とすること(三九条の二以下)、会計は会計検査院が検査すること(五〇条)、運輸大臣の監督に服すること(五二条)等すべて公共団体たる実体の具現であると考えられるが、なおこれに加えるに国鉄法二条は右のような実体を実定法上宣明し、解釈上の疑義を避ける目的から被告を公法上の法人とする旨を明定している。従つて被告の法的性格が公共団体であることは形式上も実質上も疑問の余地がない。

(二) 被告と職員の法的関係

憲法一五条にいう公務員について考察してみるに、同条の公務員とは国または公共団体の職務を担当する者をいい、すべて公務員は国民の信託に基づき、その職務を行なうものであるから、全体の奉仕者として国民の利益と幸福のために、国民に労務を提供する義務を負うのが公務員の特質で、この公務員の性格はそれが単純な労務を提供する者であるか否か(国家公務員法二条参照)、その労務を提供する関係が国であるか公共団体であるかによつて変りなく、等しく憲法一五条にいうところの公務員である。従つて公共団体たる被告の職員が憲法一五条二項にいうところの全体の奉仕者たる公務員としての法的性格を有することは明らかである。

そして、国鉄法中職員に関する規定を通覧すると、職員の任免(二七条)、懲戒(三一条)、職務専念義務(三二条)等に関して国家公務員法とほぼ同様の規定がある。ただ国鉄法に職員が全体の奉仕者として勤務すべき旨の規定の存しないのは、前述のように被告が国民の財産の受託者として受益者である国民のために代つてこれを管理運営するものであるから、被告の職務を担任する職員は全体の奉仕者として国民に属する財産を管理運営する地位にあることは敢えて明文を必要とする理由がないからである。このことは国家公務員が政府の下において、国民の信託により国民全体の奉仕者として国政ないし国の企業を遂行する地位にあるのと同じである。そして被告の職員も国家公務員も両者はともにその雇用される事実によつて与えられた公共の信託に対し無条件に忠誠の義務を負い、国民はその利益と福祉のため国家の行政または国の経営する企業あるいは被告の業務が秩序と継続性とをもつて運営されることを要求する権利を有する。国家公務員や被告職員は国民全体に奉仕する義務を負わされているが、これは最高の義務であつて、その関係は対等の立場に立つ単なる私法上の債権、債務の関係でなく信託、奉仕の関係である。ただ一般の国家公務員と、被告職員やその他の公共企業体職員なり昭和二七年労働法の改正によつて公労法の適用をうけることとなつた国の経営するいゆる五現業に従事する国家公務員との異なる点は、前者の担任する職務が国民の主権を行使するのであるのに対し、後者のそれは国民の財産の管理運営をなすにある点だけである。この故に国は国家公務員に対しその優位な地位を確保するために、国家公務員の勤務、身分関係を法律をもつて規定したと同様に、被告とその職員との関係を規律するために特に法律をもつて規定し、被告総裁に職員より優位な地位を与え、その間の秩序維持を計り、被告が国より与えられた目的を達成しようとした。このことは、昭和二七年公布になつた公務員等の懲戒免除等に関する法律(同年法律一一七号)二条や日本国との平和条約の効力発生に伴なう国家公務員等の懲戒免除等に関する政令(同年政令一三〇号)一条において、被告の職員の懲戒の免除は国家がこれをなす旨を規定し、被告の職員の身分関係が国家公務員や、その他弁護士、公証人等が国と特別権力関係に服するのと同様の性格を有する旨を規定したことによつても明らかである。

ところで被告職員はその労働条件について団体交渉権を有し、その紛争解決のために調停、仲裁の制度があるが、国家公務員や公共企業体職員が、国ないし公共企業体に対し公法上の特別権力関係に服するからといつて、その勤務条件ないし労働条件について改善を求め政府ないし公共企業体と交渉することができないという法理はなく、(これは近代民主主義社会における公務員の権利というべきである)、被告が職員の団体と交渉し、協定ないし労働協約を結ぶことを規定したからといつて、このことはなんら職員の身分関係が公法上のものであるということと相容れないものではない。

国鉄法二七条ないし三二条の身分服務に関する規定は、前述のような被告とその職員の法的性格に鑑みその規定の表現形式等よりみてこれらの規定は公共団体たる被告の組織に関する規定であつて公共関係たる性質を有するものと解すべきである。仮にこれらの規定に類似するものが一般私企業における就業規則、従業員規則中にしばしば見られるとしても、それは法律的には私企業内部の秩序維持のため制定された就業規則であつて、使用者はその作成に当つては必ず労働組合または労働者を代表する者の意見を聴かなければならないし(労働基準法九〇条)、またこの規則は、法令または労働協約に反することはできない(同法九二条)。したがつて右の如き私企業における就業規則は、労使双方の合意によるところの労働協約によつて自由に変更改廃のできる性格のものである。ところが国鉄法の前記各条の規定は労働協約をもつて変更できないものであるばかりでなく、日本国有鉄道総裁といえどもこれが変更改廃のできないものであることは勿論で、一般私企業における就業規則、従業員規則と異なる性格のものであることは明らかである。国鉄法の前記各条を国家が法律をもつて特に規定したゆえんは、被告総裁に職員より優位な地位を与えその間の秩序維持を計り、被告の国家より与えられた目的を達成せしめようとしたものである。

国鉄法三一条によると、被告職員に対して懲戒の権限を有するのは、被告総裁である(もしも職員の地位が私法的なものであるとすれば、法律上懲戒をなす権能を有する主体は、法人たる被告そのものであつて総裁はその代表者としてこれを執行するに止まるべきものである。)この場合の総裁は行政庁としての資格を有しその懲戒権の行使は行政行為と観念せらるべきである。もしもこれを私法上の処分となると解するならば国家がいわゆる五現業国家公務員を公労法一八条によつて免職処分にした場合(何人もこれを公法上の処分であると解しないものはないであろう)と、被告総裁がその職員を同条によつて免職処分にした場合とで、同一法条に根拠をおく免職処分でありながら、前者は公法上の処分となり、後者は私法上の処分となるという不合理な結果を招来する。

以上の次第で、本件解雇は公法上の処分であるといわなければならない。

そして、特定の公法上の処分が権限ある行政庁、または裁判所による取消をまつまでもなく当然無効とせられるには、処分に内在するかしが外観上明白で、かつ、重大な場合であることを要すると解すべきである。

しかるに、被告の総裁が原告新井山、同三上を免職処分したのは公労法一七条により被告職員はいつさいの争議行為が禁止されているにもかかわらず、被告の再三にわたる業務命令を無視し、あえて争議行為を行ない、もしくは行なわしめた原告新井山、同三上の行為は明らかに同条に違反するものであり、同法一八条により免職処分をしたものであつて重大にして、かつ、明白なるかしがないから当然無効であるとはいい得ない。

2 公労法一七条一項、同一八条が憲法に違反するものでないことは、すでに最高裁判所大法廷の判例(昭和二六年(あ)第一六八八号、同三〇年六月二二日刑集九巻八号一一八九頁、昭和三九年(あ)第二九六号、同四一年一〇月二六日刑集二〇巻八号九〇一頁、昭和三六年(あ)第八二三号同四一年一一月三〇日刑集二〇巻九号一〇七六頁)の存するところであつて、原告らの右主張はなんら理由がない。

理由

第一本案前の抗弁について

原告組合の本件訴えは、原告組合の組合員である原告新井山及び同三上と被告との間に雇傭に基づく法律関係の存在することの確認を求めるものであるが、その法律関係について何らの管理・処分権を有しない原告組合は、特段の事由のない限り、右訴えを追行する権能を有しないものと解すべきところ(最高裁判所昭和二六年(ク)第一一四号同二七年四月二日大法廷決定、同裁判所昭和三四年(オ)第二九五号同三五年一〇月二一日第二小法廷判決)、本件において、これを認めるべき特段の事由は存しない。

その理由は次のとおりである。

(1)  原告組合規約一二条

原告組合規約一二条に、原告組合が組合員と被告との間の訴訟について組合員の利益擁護のため組合の名において被告に対しその組合員の権利を行使することができる旨の規定があることは、当事者間に争いがない。

右規定は、原告組合に対する組合員の包括的一般的な任意的訴訟信託を定めたものである。

ところで、労働組合は、労働者の待遇に関する基準に関する限り、これを労働協約として締結することにより、その規範的効力から、組合員の意思に反しても、これを強行しうるが、組合が組合員に対して有する統制権は、これを限度とするのであつて、組合員の雇傭関係の存否といつた事項については、法律上当然には及ばず、かかる事項について組合が使用者と協定する場合は、当該組合員からの特別の授権ないし追認を必要とし、これを得ない協定は、組合員に対し効力を及ぼし得ない。

そして、訴訟管理権が組合に認められると、組合の訴訟追行の効果は最終的に組合員に帰属するものであるから、右の論理は訴訟についても妥当し、原告組合規約一二条は右のような制約を受けたものであつて、組合が組合員の雇傭関係の存否について訴訟を追行するためには、右規約が存するのみでは足らず、さらに個別的具体的な訴訟追行権の授権を必要とするものと解すべきである。

(2)  訴訟追行権の授権

原告組合は、原告新井山及び同三上が原告組合とともに出訴しているとの事実をもつて、原告組合の本件訴えについて訴訟追行権の授権がなされたものとみるべきであると主張するが、原告新井山及び同三上は自己の立場でそれぞれ独自に訴訟追行をしており、これをさらに別訴で原告組合に追行させることは、法律上認められない二重訴訟を授権することを意味し、かかる意思解釈は到底とり得ない。

(3)  原告組合独自の当事者適格

第三者間の法律関係の存否についても、確認の利益を有する限り、確認の訴を提起することができるのであるが、その確認の利益は、第三者間の法律関係の存否の確認が提訴者の権利義務ないし法律上の地位に影響を及ぼす場合でなければならない。

そして、原告組合の主張する、①原告新井山らを解雇した根拠法条が原告らの争議権を保障した憲法二八条に違反する無効な規定であること、②その適用が原告組合の弱体化を目的とした不当労働行為であること、③解雇の方法が原告組合と被告との間の労使関係を規律する信義則に違反すること等は、いずれも本件訴えを提起する利益としては、事実上のものにすぎない。

以上の次第で、原告組合は、本件訴を提起するについて原告新井山及び同三上から適法な訴訟追行権の授権を得ておらず、また原告新井山及び同三上の被告との雇傭関係の存在確認を求める法律上の利益がないのであるから、本件訴えの適正なる当事者適格を欠き、その訴えは、不適法として却下さるべきである。

第二本案について

一請求の原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二そこで、被告の抗弁について判断する。

1被告が原告新井山及び同三上に対し、昭和四三年五月二〇日付で、同年三月一日から二日にかけて実施された三・二ストについて、原告新井山が盛岡地本書記長として、同三上が同地本尻内支部執行委員長としてそれぞれ右闘争の計画に参画し実施させ、業務の正常な運営を阻害したとして、公労法一七条一項、一八条により解雇をしたことは当事者間に争いがない。

2以下、本件解雇の効力について検討する。

(一) 本件争議行為に至る経緯等

(1) 原告組合の組織

証人目黒今朝次郎の証言、成立に争いのない甲第三号証によれば、次の事実が認められる。

原告組合は、被告の職員中動力車に関係のある職務に従事する者で組織され、本部以下、地方本部(各鉄道管理局及びこれに準ずる範囲ごとに設置)、支部(機関区、電車区、気動車区その他動力車に関係ある業務機関ごとに設置)、地方評議会(支社相当地域に設置するもので、各地方本部間の統制及び連絡調整を行なう協議機関)等の組織をもつて成り、中央機関として、大会(組合の最高議決機関で、代議員、本部役員で構成)、中央委員会(大会に次ぐ議決機関)、中央執行委員会(大会と中央委員会の決議を執行し、緊急事項を処理する)があり、地方本部の機関として地方本部大会、地方本部委員会(いずれも大会及び中央委員会の決定を再確認し、地方本部特有の問題について議決するが、後者の決議の執行については中央執行委員会の承認を必要とする)、地方本部執行委員会がある(支部の組織もほぼ同様)。そして労働紛争が生じて不測の事態が予測されるときは、大会または中央委員会の決議により、中央闘争委員会が設けられ、闘争期間中、中央執行委員会の闘争に関する権限が委譲され、中央闘争委員会は大会または中央委員会の決議の範囲内で闘争手段を決定し、中央闘争委員長がこれを直接組合員に対し指令し、組合員はこれに従う義務を負う。右闘争指令は、各地方本部、支部を経由してその所属組合員に伝達されるが、各地方本部、支部はその闘争指令に変更を加えたり、これを返上したりすることはできない。なお、本部の運営上戦術委員会が設けられ、そこで中央闘争委員の現地派遣(派遣中闘)の詳細等が決められ、中央闘争委員会の決議を経て、中央闘争委員が現地に派遣される。派遣中闘には、中央闘争委員会で決定した範囲内の権限が付与され、現地における闘争遂行上の最高責任者となり、地方本部または支部はその指揮下に入るので、地方本部あるいは支部の役員は、派遣中闘の指令に服し、これを変更したり、あるいは独自に指令を発する権限を有しなくなる。

(2) 本件三・二ストに至るまでの経過

<証拠>を総合すると次の事実が認めることができる。

Ⅰ 被告の近代化計画の概要

被告は、昭和三二年度から老朽化諸設備の改善、輸送力の増強及び輸送の近代化を主要目標として国鉄近代化第一次五か年計画を実施し、これを昭和三六年度から複線無煙化鉄道への脱皮と東海道新幹線の建設等を目的とする第二次五か年計画に切替え実施し、さらに昭和四〇年度から、国家的交通施策の一環として第三次長期計画を実施したが、これは同年度を初年度とし七か年に二兆九、七二〇億円(その後三兆二、〇〇〇億円に修正)の資金を投入し、幹線の輸送力の増強、通勤対策、安全対策を重点として国鉄の体質改善を企図するものであつた。

Ⅱ 事前協議制の確立

原告組合は被告に対し、職員の生活基盤に重大な影響のある五か年計画を一方的に押付けるのは不当であるとして、近代化計画について事前に説明し協議をすることを求め、原告組合と被告との間で、昭和三二年一二月九日「国鉄近代化計画実施に関する基本了解事項」が、昭和三四年九月二〇日「国鉄近代化計画実施に関する基本了解事項の実施に関する覚書」がそれぞれ締結され、その都度これが約束されたが、十分守られることがなくそのため昭和三六年三月一五日両者間で「国鉄近代化等に伴う事前協議に関する協定」が締結され、被告が近代化等を行う場合には可及的速かに計画中のものも含めてその内容を提示し、原告組合と事前に協議し、その協議は相互の了解を図ることを目的とするとの、事前協議制が確立された。

Ⅲ 第三次長期計画における原告組合と被告との交渉経過

被告は、昭和四二年三月三一日、第一ないし第三次にわたる近代化計画の相乗効果を求めること、昭和四三年一〇月の大幅なダイヤ改正及び昭和四一年一二月公共企業体等労働委員会から提示のあつた労働時間の短縮に関する調停案の受諾に伴う要員確保の必要があること等から、「当面の近代化、合理化について」と題して、いわゆる五万人合理化案を明らかにした。

五万人合理化案の内容は、①動力方式及び設備の近代化を推進し、これに即応して労働集約的な作業方式の近代化をはかる、②輸送方式の改善及び営業体制の近代化に対応するよう作業方式・業務運営方式を刷新改善する、③車両諸設備の近代化及び新技術の導入に対応して、保守業務のあり方を抜本的に刷新する、④労働市場の変化を考慮して、直営作業能力の高度化を推進する、⑤近代化・合理化の労働節約的効果を活用して、四三年度の輸送改善を中心とする業務量増に対処する等として、投資による動力、設備及び技術の近代化(電化、ディーゼル化、線路関係設備の改良等)、作業方式、業務運営方式の近代化・合理化(輸送方式近代化・検修体制の近代化等)を掲げ、本社・本部交渉事項として①列車乗務員の乗組基準の適正化、②EL・DLの乗組基準の適正化(電気機関車、ディーゼル機関車の動力車乗務員数を原則として機関士一名とする)、③検修作業体制の近代化(技術管理を強化して、保守作業を改善すること等)、④軌道保守作業の外注化、⑤建築保守業務の外注化、⑥材修場の合理化、⑥電気保守の近代化(検査業務の能率化等)を提示している。

これに対して、原告組合から、運転保安に重大な関係のある業務について右のような合理化をすることは、運転保安を軽んずるものであり、労働条件の維持・改善について基本的な論議をしたい旨申し出、その後原告組合は解明要求を繰り返し、被告は五万人合理化案の詳細について説明を続けた。

Ⅲ 原告組合のスト体制の確立

原告組合は、昭和四二年八月末、第一九回臨時全国大会を開催し、被告が五万人合理化案実施の態度を変えないため反復ストライキで対決する基本方針を決定し、同年一一月八日から第五三回中央委員会を開催して、五万人合理化案紛砕の具体的目標を①助士廃止反対②検修新体制撤回③事務機械化・集中化反対④業務の部外委託反対の四点に絞り、反復半日ストライキについて一票投票を実施すること、全国代表者会議を招集して点検と今後の闘いを協議し、なお検修新体制を一方的に強行する動きがある場合は、全国代表者会議で協議し必要により年末に時限ストを設定してこれを撤回させることを決定して中央闘争委員会を設置した。

同年一二月六日、第四回中央闘争委員会を開催し協議した結果、被告の五万人合理化案特に検修新体制・助士廃止の強行実施の姿勢が極めて強く右中央委員会決定の年末段階におけるストライキの配置は必然の情勢となつたとして、中央闘争委員長は、同月一三日から一五日まで順法闘争、同月一五日第一次全国統一ストの各準備体制の確立を指令した。

同月九日、全国代表者会議を開催し、右の順法闘争(第一次統一行動)及び第一次全国統一ストの実施、同月二一日から二六日まで反合理化第二次統一行動(含第二次全国統一スト)、同月二八日以降第三次統一行動の設定等を確認し、これに基づき中央闘争委員長は、第一次、第二次各統一行動(含ストライキ)実施の準備体制の確立を指令し、特に盛岡地本(青森地区、野辺地地区、尻内地区)ほか三地方本部に対して、同月二一日以降四時間のストライキ実施の準備体制の確立を指令した。

同月一四日被告から検修新体制・助士廃止問題について引続き協議するとの回答があつたことから、中央闘争委員長は、第二次統一行動(含第二次全国統一スト)の実施の延期を指令した。

昭和四三年一月二六日、第五四回臨時中央委員会を開催し(盛岡地本から大山善雄執行委員長、小原一雄執行副委員長、天内正光執行委員各出席)、五万人合理化案紛砕のため同年二月一〇日前後に第二次統一行動、同月二〇日前後に第三次統一行動、同月末から三月上旬にかけて第四次統一行動をそれぞれ設定し、第三次及び第四次統一行動の中で半日の反合理化第二波及び第三波ストライキを配置すること、第二波ストライキの指定地区は前記一二月九日の全国代表者会議で確認した盛岡地本等四地方本部とすること等を決定し、中央闘争委員長は、これに伴う具体的な行動を各地方本部に指令した。

同年二月一六日、第一四回中央闘争委員会を開催し、情勢に基本的変化がなく闘争を所定通り実施することを確認し、中央闘争委員長は、同月二七日から翌三月二日で順法闘争を行うこと及び盛岡地本ほか三地方本部はそれぞれ指定地区(盛岡地本は青森、野辺地、尻内の三地区)で三月二日にストライキを実施することなどを指令した。

二月二六日、中央闘争委員会を開催し、三・二ストの実施について、三月二日午前四時前後を基準として完全に四時間列車を止めること及び当局側にストライキを妨害する行動があつた場合には同日〇時以降抗議ストライキを実施し、同日以前でも指名ストライキで対決すること及び中央闘争委員の現地派遣などが決定され、派遣中闘には戦術の詳細を記載した文書が交付された。

Ⅳ 盛岡地本におけるスト体制の確立

昭和四二年度地方本部役員には、第一七回地方定期大会で、大山善雄が執行委員長に(同人は昭和三八年一二月に解雇され、訴訟でこれを争つている)、小原一雄が執行副委員長に(同人は昭和四一年八月に解雇され、訴訟でこれを争つている)、原告新井山が書記長にそれぞれ選任され就任した。

また、昭和四二年一一月一七日、一八日両日開催された第四九回地本定期委員会において、第五三回中央委員会の決定方針が伝達され、これを確認し、地本闘争委員会を設置し、闘争委員長に右大山が、闘争副委員長に右小原及び原告新井山がそれぞれ選任され就任した。

盛岡地本では、昭和四二年九月、被告から、青森電化に伴う一戸・野辺地両基地の廃止、盛岡・青森間の特急・急行のロングランの提案を受け、本部の特認による助勤拒否・転換養成拒否行動をもつてこれに反対してきたが、同年一二月二九日、被告から、一戸・野辺地両基地の残置等について引続き協議し、転換養成については組合主張にそつた措置をとるなどの回答が得られたため、地本闘争委員会で諸行動の中止を決定した。

昭和四三年二月三日、第五四回臨時中央委員会の決定を受けて、地本代表者会議を開催(原告新井山、同三上各出席)し、交渉担当の原告新井山から青森電化に伴う諸問題についての当局との交渉経過が説明され、その後本部情勢及び本部指令の伝達、確認がなされた。

同月二六日、盛岡地本闘争委員長名で、抗弁2(一)、(3)、(二)記載の指令第一九号を発出した(当事者間に争いがない)。

Ⅴ 渥美派遣中闘による盛岡地本三・二ストの指揮

前記二月二六日の中央闘争委員会の決定により、東北ブロックには、渥美玉二を最高指揮官として、日高、渡辺、柏木、上野、杉山の各中央闘争委員が派遣された。

同月二七日、青森市内の千刈旅館において、東北・北海道を担当する後藤中央闘争委員会副委員長及び渥美派遣中闘は、加藤東北地方評議会議長、斉藤秋田地本委員長、大山盛岡地本委員長、福田仙台地本委員長を集めて東北ブロック会議を開催し、組織の強化、情勢の把握、意思の統一を図つた。

渥美派遣中闘は、同日同所において、秋田地本に派遣された杉山派遣中闘、斉藤秋田地本委員長、大山盛岡地本委員長、加藤東北地評議長を集めて、総合戦術会議を開催し、作戦指導の便宜から、盛岡・秋田各地本の中枢機能を一つにするため、自己と大山盛岡地本委員長を青森に、杉山派遣中闘を弘前に、斉藤秋田地本委員長を秋田にそれぞれ配置することを指示し、さらに盛岡地本及び秋田地本にそれぞれ拠点戦術会議(渥美派遣中闘から戦術の全般について仔細に指示するためのもの)を、各闘争拠点には戦術指導委員会(地本から動員された専従者またはこれに代る責任者から、戦術会議からの戦術指導を伝達徹底させるためのもの)をそれぞれ設置し、さらに緊急事態に即応するためものものとして最高戦術会議(渥美派遣中闘、加藤東北地評議長、ほか各地本委員長で構成)を設け、即日同所で、日高、上野、渡辺各派遣中闘並びに大山ほか盛岡地本闘争委員を集めて、盛岡拠点戦術会議を開催し、青森運転所に日高派遣中闘を、野辺地支区に上野派遣中闘を、尻内管理所に渡辺派遣中闘をそれぞれ配置することを指示した。

また、大山盛岡地本委員長の案に従つて、渥美派遣中闘は、盛岡地本役員の現地派遣について、青森機関区に大山善雄、橋本四郎、渡辺義長、青森運転所に原告新井山、及川広之、尻内管理所に小原一雄、泉山忠徳、白崎栄治、野辺地支区に近江二郎(兼務)をそれぞれ配置した。

そして渥美派遣中闘は、同月二八日、加藤東北地評議長及び大山盛岡地本委員長を同行して、三浦盛岡鉄道管理局総務部長に対し、同日渡辺派遣中闘を同行して尻内管理所長に対し、同月二九日日高派遣中闘、大山盛岡地本委員長、原告新井山を同行して青森運転所長に対し、それぞれ三・二ストに関して申入れを行なつた。

渥美派遣中闘は、同月三月一日、青森機関区及び同運転所において、当局側が組合側との了解を無視して一方的に乗務員の説得及び収容管理をしているとして、これを本部に連絡し、本部から指名スト、順法闘争を行なうことの特認を得て、前記最高戦術会議を招集し、当局側の乗務員の一方的確保、組合側の説得活動の妨害等の事実を確認し、同日夕刻からの順法闘争、二〇時出勤の入替乗務員からの指名スト、翌二日午前〇時からのストライキを行うべくその準備体制を指示し、三月一日午後一一時、本部からの指令により、ストライキ突入を指示したが、翌二日午前一〇時三〇分ころ本部からストライキ解除の指令を受け、これを各拠点に連絡した。

(二) 盛岡地本における三・二ストの準備及び実施

(1) 青森機関区関係

Ⅰ 原告新井山は、大山盛岡地本委員長の指示に従い、昭和四三年二月二〇日午後〇時ころ、検査掛詰所において、組合員二〇ないし二五名に対し、一般情勢報告を行つて休憩時間を利用したオルグ活動をした。

なお、同時刻、機関車詰所において右大山が、整備掛詰所において渡辺義長盛岡地本委員がそれぞれ同様に職場集会を開催していた。

Ⅱ 原告新井山が、同月二二日午前八時四五分ころから同九時二〇分ころまで、盛岡地本青森支部役員らとともに、事務室、当直室、詰所等の建物外壁等に「首切りと安全無視の五万人合理化紛砕」等と記載したビラ三一六枚を貼付してビラ貼り活動を行つた(当事者間に争いがない)。

その際、原告新井山は、労務担当助役加藤茂夫からあまり頑張るなと注意を受けた。

Ⅲ 原告組合は、同月二九日夜半から、三・二ストに参加する機関士・機関助士の乗務員を青森市内の旅館「福井」「羽衣」、「喜代乃」に収容した。

Ⅳ 渥美派遣中闘は、同年三月一日午前一時すぎころ、区長室に赴き、当局が一方的に乗務員を収容管理していると抗議を申し入れたが、その際原告新井山は、加藤東北地評議長、大山盛岡地本委員長、阿保青森支部委員とともにこれに立会つた。

Ⅴ 同月二日午前〇時二〇分ころ、第四五列車の補機(補助機関車)として到着した機関士中堤靖二、機関助士小笠原祐吉が機関車を納める際、ピケ隊約五〇名は同機付近に集まり、右乗務員を見守りながら運転当直室前まで移動し、同二八分点呼終了後当局側対策員が右乗務員を休養室まで護衛しようとしたところ、組合幹部が呼びかけ、そのため右乗務員は、これに応じて組合事務所の方へ行き、組合側で準備したハイヤーに乗込んで構内から立去り、同日の第一三〇旅客列車に乗務すべき業務を欠務した。

Ⅵ 同日午前二時一五分ころ、第四九九列車で列着した機関士葛西文造、機関助士米倉武道が、機関車を納める際、ピケ隊約五〇名が同機付近に集まり、右乗務員を見守りながら運転当直室前まで移動し、同二〇分点呼終了直後当局側の説得を聞かずに取囲み、右乗務員は、組合幹部の案内でハイヤーに乗車して構内から立去り、同日の第六二二旅客列車に乗務すべき業務を欠務した。

Ⅶ 同日午前五時二〇分ころ、事務室前において、ピケ隊約四〇名がスクラムを組んで労働歌を合唱し始め、その後その数が逐次増加し約一〇〇名となつた。

区長は、右事務室内にいる第一三〇列車の乗務員の乗務の妨害を避けるため、同三五分マイクを通じてピケ隊に対し退去を要求し、同四〇分当局側対策員約三〇名を事務室前に集め、公安員を事務室脇に待機させ、同四五分再度マイクでピケ隊の退去要求を通告して、右乗務員を当局側対策員で護衛しながら機関車に乗車させた。

ピケ隊は、これに続いて機関車付近まで移動し、機関車を点検する乗務員にいやがらせをしていたが、同六時六分機関車が出区したので、構内をデモ行進をしながら引上げた。

Ⅷ 同日午前一一時四五分、渥美派遣中闘は、加藤東北地評議長を伴つて区長室に赴き、本部からスト中止指令が入つたので、集約したい旨申入れ、その後阿保青森支部委員長引率のもとに組合宿舎にいた乗務員一三二名を当局に引渡した。

(2) 青森運転所関係

Ⅰ 日高派遣中闘は、同年二月二七日午後〇時ころ、気動車掛詰所において、職場集会を開催し、中央情勢の説明と本部指令の伝達を行つたが、その際、原告新井山は、盛岡地本における電化の問題を中心に報告し、最後にお互に頑張ろうと呼びかけた。

Ⅱ 原告新井山は、乗務員室において、日高派遣中闘とともに、同月二八日午後一時四五分ころ機関士兼気動車運転士小杉盛衛に対し、翌二九日午後一時五〇分ころ同加藤清に対し、翌三月一日午前一一時五〇分ころ同川村福蔵に対し、こもごも三・二ストに参加するよう説得した。

Ⅲ 日高派遣中闘は、同年二月二九日午前一一時五分ころ、所長に対し、本部指令により同運転所が闘争拠点となり自己がその最高責任者であるので、問題が生じた場合には申入れてもらいたい旨通告したが、その際原告新井山は、これに立会つた。

(3) 青森機関区野辺地支区関係

Ⅰ 近江二郎盛岡地本執行委員らは、同年二月二九日午後九時ころ、乗務員室に抗弁2、(一)、(4)、(ハ)、①記載の記載を掲示をした。

Ⅱ 同年三月一日午後七時三〇分第三三二D旅客列車に乗務して到着し点呼を終了した気動車運転士田沢章一は、同四五分ころ、前記近江ら組合員約四、五名に取囲まれて構内から立去つた。

Ⅲ 同日午後一一時一六分第七一貨物列車に乗務して到着し点呼を終了した機関士金田和夫、機関助士小笠原惇吉は、上野派遣中闘及び近江の指揮するピケ隊約一七名に取囲まれ、当局側の説得にかかわらず、組合で指定した野辺地駅前の駒井旅館へ立去つた。

Ⅳ 同日午後一一時二〇分第五四八列車に乗務して到着し点呼を終了した機関士石井政弘、機関助士坪谷久義は、前記上野・近江のピケ隊約一三名に取囲まれ、当局側の阻止・説得にかかわらず、前記駒井旅館へ立去つた。

Ⅴ 同日午後一一時五〇分ころ第一九五列車に乗務して到着し点呼を終了した機関士西川勝、機関助士石井輝盛は、前記近江らピケ隊約一〇名に取囲まれ、休養室と反対方向へ立去つた。

Ⅵ 同月二日午前一時一〇分ころ第三一九一列車に乗務して到着し点呼を終了した機関士生江伸吾、機関助士吉田淳は、前記近江らピケ隊約七、八名に取囲まれ、当局側の阻止・説得にかかわらず、前記駒井旅館へ立去つた。

Ⅶ 同日午前二時ころ第二一九七列車に乗務して到着し点呼を終了した機関士三浦重雄、機関助士藤原亀雄は、前記上野・近江らのピケ隊約一〇名に取囲まれ、当局側の阻止・説得にかかわらず、前記駒井旅館へ立去つた。

Ⅷ 同日午前六時五六分ころ第三二二D列車に便乗して到着した気動車運転士佐藤数夫は、前記上野・近江らのピケ隊約一四、五名に取囲まれ、当局側の阻止・説得にかかわらず、前記駒井旅館へ立去つた。

(4) 尻内管理所関係

Ⅰ 原告三上は、地本からの指示連絡に基づいて、同年二月六日から同月二〇日にかけて、抗弁2、(二)、(1)、(ハ)記載の掲示をした(当事者間に争いがない)。

Ⅱ 渥美派遣中闘は、同月八日午後〇時ころ、検修掛詰所において、組合員約四、五名を集めて職場集会を開催し、泉山盛岡地本委員とともに、反合理化闘争の必要性等について説明したが、その際原告三上はこれを受けて頑張ろうと決意表明をした。

Ⅲ 原告三上は、同月二〇日及び同月二五日の二度にわたり抗弁2、(二)、(2)、(ロ)記載のビラ貼り活動をした(当事者間に争いがない)。

Ⅳ 原告三上は、同月二二日午後四時三〇分ころ、支部事務所において、支部役員約一〇名を集めて執行委員会を開催しこれを主宰し、泉山盛岡地本委員から闘争が避けられない情勢にあり、組合員からスト参加確認署名を集め、組合員の意思統一を図つて闘争準備体制をとるよう指示され、その署名集めの方法等について検討した。

Ⅴ 渡辺派遣中闘は、同月二七日、支部事務所に闘争本部を設置し、同月二九日午後一時ころ、右事務所にこれを表示するあんどん及び赤旗が掲出された(当事者間に争いがない)。

Ⅵ 渡辺派遣中闘は、同月二七日、抗弁2、(二)、(1)、(ヘ)、①記載の掲示をし、原告三上は、右渡辺の指示に従つて同②③記載の掲示をした(当事者間に争いがない)。

Ⅶ 原告三上は、同日午後五時ころ、渡辺派遣中闘の指令に従い、尻内駅前の吉田屋旅館に支部役員ら約二〇名を集めて拡大委員会を開催しこれを主宰し(当事者間に争いがない)、右渡辺から参加者に対し三・二ストの目的と具体的な戦術内容(旅館の設営、乗務員の収容対象、収容方法等)の指示がなされた。

Ⅷ 渡辺派遣中闘は、同月二九日午後四時五〇分ころ、運転科事務室前において、組合員約七、八〇名を集合させて、半日スト体制確立総決起大会を開催し、闘争の目的及び指令の伝達を行い、小原盛岡地本副委員長が、地本情勢の報告及び決意表明をしたが、原告三上は、最後に支部を代表して、五万人合理化粉砕のため全員がストに参加し闘争を盛上げて成功させようと決意表明をして組合員を鼓舞激励し、その後渡辺派遣中闘の指示により、組合員約一四〇名が白崎盛岡地本委員の指揮の下にデモをしたが、その際原告三上は最前列に立つてデモに加わつた。

Ⅸ 所長は原告三上に対し、同年三月一日、同日送達された内容証明郵便をもつて、翌二日の第四三ダイヤ(始業時刻四時三二分、終業時刻一四時五三分、尻内・一戸間貨第一〇九〇列車前部補機、一戸・沼宮内間の貨第三一九〇列車後部補機、沼宮内・尻内間貨第三一九三列車後部補機の運転乗務)に乗務すべきことを命じたが、原告三上は右業務を欠務した。

Ⅹ 原告三上は、渡辺派遣中闘の指示により、他の支部役員らとともに、同月一日から組合員に対し三・二ストに参加するよう説得活動を行い、同日及び翌二日に乗務すべき機関上・機関士一〇〇名を組合で準備した宿合に収容した。

渡辺派遣中闘は、同月一日午後一一時五五分、瀬川盛岡鉄道管理局施設部長に対しストに入る旨通告したが、その際原告三上は、泉山盛岡地本委員とともにこれに立会つた。

原告三上は、同月二日午前五時九分ころ、第六二五D旅客列車が発車するとの連絡を受けて、尻内駅八戸二番ホームに赴き、同列車の乗務員を確かめ、その際ダイヤ札が正規のものでないことを発見してこれを当局側職員に抗議し、これを取替えさせるなどしたため、同列車は六分三〇秒遅発した。

原告三上は、同日午前九時三〇分ころ同駅四番ホームに到着した第五三五列車の乗務員室に近寄り、塔乗員に対し乗継ぎ乗務員が来るまで待つよう指示し、当局側で乗務員の手配がつかず、前頭機関車を切離し入区させることとしたため、正規の入換通告書を発行するよう求めて当局側職員と折衝し、そのため同列車を遅発させた。

渡辺派遣中闘は、同日午前一一時一六分ころ、運転科長室において、武田盛岡鉄道管理局人事課長に対し、ストを中止する旨通告したが、その際原告三上は、これに立会い、同日午後〇時三〇分、前記収容にかかる組合員を当局に引渡した。

(5) 三・二ストの列車の運行に対する影響が抗弁2、(三)記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

(三) 公労法一七条一項は憲法に違反するか。

(1) 憲法二八条の意義

憲法二八条は、いわゆる労働基本権すなわち団結権、団体交渉権その他の団体行動をする権利を基本的人権の一つとして明確に保障している。そして右の労働基本権は、最高裁判所昭和三九年(あ)第二九六号同四一年一〇月二六日大法廷判決(以下中郵判決という)の指摘するように、勤労者の生存を実質的に確保し、勤労者に真に「人たる値する生活」を保障する目的で、憲法二五条に定めるいわゆる生存権の保障を基本理念とし、一方で憲法二七条によつて勤労の権利及び勤労の条伴を保障するとともに、他方で憲法二八条によつて経済的弱者である勤労者に実質的な自由と平等とを確保するための手段としてその団結権、団体交渉権、争議権を保障しようとする憲法上の基本的人権である。この労働基本権は、勤労者の経済的地位の向上のための手段として認められるものであつても、勤労者の生存権に直結し、それを保障するための重要な手段といわなければならない。そしてこの労基働本権は、単に私企業の労働者だけについて保障されるのではなく、公共企業体等の職員はもとよりのこと、国家公務員や地方公務員も、憲法二八条にいう勤労者として、原則的には、その保障を受けるべきものと解される。

(2) 労働基本権の制約

しかしながら、憲法が保障する労働基本権といえども、もとより絶対的無制約なものではあり得ず、そこには、労働基本権を保障する前記憲法の趣旨に照らし、合理的な制約があるものと解すべきである。

この点に関し、最高裁は、前掲中郵判決で次のように述べるとともに、四条件を示した。

「憲法自体が労働基本権を保障している趣旨にそくして考えれば、実定法規によつて労働基本権の制限を定めている場合にも、労働基本権保障の根本精神にそくしてその制限の意味を考察すべきであり、ことに生存権の保障を基本理念とし、財産権の保障と並んで勤労者の労働権・団結権・団体交渉権・争議権の保障をしている法体制のもとでは、これら両者の間の調和と均衡が保たれるように、実定法規の適切妥当な法解釈をしなければならない。」

① 労働基本権の制限は、労働基本権を尊重確保する必要と国民生活全体の利益を維持増進する必要とを比較衡量して、両者が適正な均衡を保つことを目途として決定すべきであるが、労働基本権が勤労者の生存権に直結し、それを保障するための重要な手段である点を考慮すれば、その制限は、合理性の認められる必要最少限のものにとどめなければならない。

② 労働基本権の制限は、勤労者の提供する職務または業務の性質が公共性の強いものであり、したがつて、その職務または業務の停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについて、これを避けるために必要やむを得ない場合について考慮されるべきである。

③ 労働基本権の制限違反に伴う法律効果、すなわち、違反者に対して課せられる不利益については、必要な限度をこえないように、十分な配慮がなされなければならない。

④ 職務または業務の性質上からして、労働基本権を制限することがやむを得ない場合には、これに見合う代償措置が講ぜられなければならない。

公共企業体等の職員の争議行為を禁止する旨規定した公労法一七条一項が合憲か違憲かを判断するにも、右に示した基準に基づいてなされなければならない。

すなわち、本件における原告組合の争議行為は、右基準に照らした場合、前記内在的制約からみていかなる評価を受けるかを次に検討する。

(3) 四条件適合性の判断

Ⅰ 原告組合の争議行為は、それが何らの制限なく、一般的争議行為として行われるとすれば、原告組合員の職務、その規模の全国的広汎さと共に私鉄その他交通機関と比較した被告の独占的性格等からみて、前記四条件中の第二条件前段(国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるもの)に該当するものといわなければならない。

Ⅱ しかしながら、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについて、何らかの制約を加えなければならない場合でも、直ちに争議行為を禁止することが許されるものではなく、それを避けるためより制限的でない制約を課することによつて、右国民生活に及ぼす障害を回避することができるとすれば、それをしないで直ちに禁止に結びつけることは、前記四条件中の第一条件後段(その制限は合理性の認められる必要最少限度のものにどめなければならない)に適合しないことになる。

Ⅲ 従つて、右にいうより制限的でない制約の有無、方法につき考えてみるに、被告職員につき争議行為の全面一律禁止のなかつた時代の旧労働関係調整法及びそれから発展した労働関係調整法(以下労調法という)にいう安全保持、予告期間、緊急調整等が争議行為を抑制するものとして考えられるところ、同じく公共性を有する輪送にたずさわる労働者の争議行為について、右制度が導入されていることを重視せざるを得ないので、以下これらについて検討してみる。

イ 予告制度

この主旨は、公益事実において争議行為が発生した場合、これにより一般国民が不測の損害や、迷惑をうけないようにするための措置である。これによれば、突然、国民に不利益がふりかかることはなく、国民は争議期間中被告を回避し、また他の交通機関を利用する措置をとるなどして、相当程度国民生活全体に対する重大な障害を回避することができ、その不利益は解消するかあるいは軽減される。

ロ 緊急調整制度

これは、争議行為が公益事業等に関して行われ、業務の停止が国民経済の運行を著しく阻害し、又は国民の日常生活を著しく危くするおそれが認められる場合にそのおそれが現実に存するときに限り、内閣総理大臣が決定して、その公表の日から五〇日闘争議行為が禁止され、これに違反する団体等に罰金が課せられ、その間に斡旋、調停、仲裁等による争議解決の手段をとるものであり、これによつても国民の受ける不利益を相当程度除くことができる。

ハ 安全保持

これは、工場、事業場における安全保持の施設の正常の維持又は運行を停廃する争議行為を禁止するものであり、これが国鉄の争議行為にあたりどのように機能するか疑問なしとはいえないが、より制限的でない制約の一制度といいうることは否定できない。

Ⅳ 従つて、より制限的でない制約方法として、右のような制度が考えられる以上、右のような制限を課された争議行為を許容することと、争議行為を禁止してしまうこととは、その間に本質的な差異があり、公労法一七条が前者による規制方法を考慮することなく、原告組合員の争議行為を全面一律に禁止するのは前記基準第一条件後段にいう「制限は合理性の認められる必要最少限度のものにとどめなければならない」との基準に適合しないものといわなければならない。

Ⅴ さらに代償措置の存否について考える。

代償措置の有無は、前記第一、第二条件を前提として考え、争議行為の禁止が必要やむを得ない最少限の措置であることが是認されてはじめて検討されるべきもので、これがあれば、一律全面的禁止が直ちに肯定されるとする考え方には疑問があり、既に右前提条件につき疑問を投じたことは前記のとおりであるが、仮に代償措置がるから一律全面的禁止が可能であると考えても、次のような疑問が残る。すなわち、公労法は、国家機関としての公労委が当事者の紛争解決に対する援助の種類として、斡旋、調停及び仲裁の三つの調整方法について規定しているが、このうちの強制仲裁制度が、公共企業体等の職員及び労働組合の争議権が禁止されていることの代償としての性格をもつものといわれる。

そして、裁定委員会の裁定に対しては、当事者は、双方とも最終的決定としてこれに服従しなければならず、また政府は、当該裁定が実施されるように、できる限り努力しなければならない、とされるが公労委の仲裁裁定といつても、国会の刑算審議権の圏外に立つことはできず、公共企業体等の予算上又は資金上不可能な資金の支出を内容とする裁定については、政府を拘束するものではなく、政府は、事由を付してこれを国会に付議し、その承認を求めなければならない(三五条、一六条)と規定する。

公労委の発足以前の仲裁委員会の裁定は、しばしば完全には実施されなかつた事例があつたが、昭和三一年公労委の発足以降は、多数の仲裁裁定がすべて完全に実施されている。従つて、公労委の仲裁裁定が、公共企業体等の職員の争議行為の制限に対する代償措置としての機能を果しているといえる。

ところで、最高裁判所昭和四三年(あ)第二七八〇号同四八年四月二五日大法廷判決(以下全農林警職法判決という)の追加補足意見には「代償措置こそは、争議行為を禁止されている公務員の利益を国家的に補償しようとする現実的な制度であり、公務員の争議行為の禁止が違法とされないための強力な支柱なのであるから、それが十分にその補償機能を発揮しうるものでなければならず、また、そのような運用がはかられなければならないのである。したがつて、当局側においては、この制度が存在するからといつて、安易に公務員の争議行為の禁止という制約に安住すべきでないことは、いうまでもなく、もし、仮りにその代償措置が迅速公平にその本来の機能をはたさず実際上画餅にひとしいとみられる事態が生じた場合には、公務員がこの制度の正常な運営を要求して相当と認められる範囲を逸脱しない手段態様で争議行為にでたとしても、それは、憲法上保障された争議行為であるというべきである」との指摘がなされている。

そして、公労法上の右代償措置を争議行為制限の代償措置としてみた場合、その機能は相当程度首肯し得るものであつても、これが争議行為禁止の代償措置として機能し得る制度か疑問なしとしない。

すなわち、公労委による仲裁裁定が最もよく機能するのは、労働条件の一つである労働者の賃金増額に関する場合であろうことは是認し得るところであるが、その他の労働条件(本件争議行為はまさにこの場合であるが)についての当事者間の紛争を仲裁する機能に関しては多大の疑問を容れる余地があるといわねばならず、このような部面における紛争は労使間の高度に専門的知識を基礎にして交渉がもたれなければならず、互に譲歩の余地がない程交渉が行詰つた場合に労働者が争議権を行使し得ないとすれば、かかる場面における労働者の無力は明らかであろう。

Ⅵ 要約

こうしてみてくると、公労法一七条一項は「職員及び組合は、公共企業体等に対して同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。又職員並びに組合の組合員及び役員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし、若しくはあおつてはならない。」と規定し、この規定を法文にそくして解釈する限り、公共企業体等の職員の職務の公共性の強弱及び争議行為の種類、態様のいかんを問わず、またその職務の停廃が国民生活に及ぼす障害の程度を論じないで、すべての公共企業体等の職員について一切の争議行為を一律全面的に禁止した趣旨のものと解さざるを得ないので、右条項は、前記の労働基本権制限の基準として掲げた条件、すなわち、労働基本権の制限は国民生活全体の利益と比較衡量し、必要やむを得ない場合に、かつ、合理性の認められる必要最少限度にとどめられるべきで、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについて、これを避けるために必要やむを得ない場合に考慮されるべきであるとの要請にもとり、労働基本権を保障した憲法二八条の趣旨に反するものといわなければならない。

(4) いわゆる合憲的限定解釈について

最高裁判所昭和四一年(あ)第四〇一号同四四年四月二日大法廷判決は、他方公務員の争議行為を禁止する旨規定した地方公務員法三三七条一項について、これを法文にそくして解釈する限り違憲の疑いを免れないとしながら、法律の規定は可能なかぎり憲法の精神にそくし、これと調和し得るように合理的に解釈されるべきであり、この見地からすれば、右規定の表現にかかわらず、禁止されるべき争議行為の種類や態様には合理的な限界が存することが承認されるはずであるとし、地方公務員の具体的な行為が禁止の対象たる争議行為に該当するかどうかは、争議行為を禁止することによつて保護しようとする法益と労働基本権を尊重し保障することによつて実現しようとする法益と比較衡量により、両者の要請を適切に調整する見地から判断する必要がある旨判示した。これによれば、公共企業体等の職務の公共性に鑑みるとき、前記のようにより制限的でない制約の枠をはめても、なおかつその職員の争議行為は、公共性の強い公共企業体等の業務の停廃をもたらし、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をきたす場合のあることが考えられないではないので、このような争議行為を禁止することは是認されることになり、公労法一七条一項がその趣旨の規定であると解することにより、合憲性を肯定できることになる。

しかし、これに対しては批判があり、前記全農林警職法判決は、国家公務員法一一〇条一項一七号の刑事制裁に関してではあるが、不明確な限定解釈は、犯罪構成要件の保障的機能を失わせるとし、補足意見の中で、争議行為が正当であるか否かは、違法性の有無に関する問題であり、違法性が強いか弱いかは、違法性のあること、すなわち正当性のないことを前提としたもので、ここにいう正当性の有無は、単に「刑法の次元」における判断ではなく、まさに憲法二八条の保障を受けるかどうかの憲法次元の問題であるとし、中郵判決の示す基準がそれ自体客観性を欠き、これを補捉するに極めて困難であり、右基準が曖昧で判断者の主観がはいりこむおそれがあると批判し、次いで追加補足意見の中でも「憲法判断にさいして用いられる、いわゆる限定解釈は、憲法上の権利に対する法の規制が広汎にすぎて違憲の疑いがある場合に、もし、それが立法目的に反することなくして可能ならば、法の規定に限定を加えて解釈することによつて、当該法規の合憲性を認めるための手段として用いられるものである。そして、その解釈により法文の一部に変更が加えられることになつても、法の合理的解釈の範囲にとどまる限りは許されるのであるが、法文をすつかり書き改めてしまうような結果となることは、立法権を侵害するものであつて許さるべきではない」、更には、「国民生活に重大な障害の有無というような行為の態様の基準の明確な確立は、むしろ、判例の集積による方法にはなじまない」との見解が示された。

当裁判所も結局合憲的限定解釈をとらず、右の見解を是とするものであるが、この点を次に検討する。

まず公労法一七条一項が合憲的限定解釈を容れる余地があるか或はこれに親しまないものであるかを考える前提として、公労法の沿革を概観してみるに、成立に争いのない甲第三六号証、証人中山和久の証言に裁判所に顕著な事実を総合すると、次の事実が認められる。

Ⅰ 昭和二〇年、日本国政府がポツダム宣言を受諾することにより、わが国は連合国総司令部の管理下におかれたが、当時の占領政策は労働団体等の民主主義的団体の発達と奨励を含む、政治・経済・社会上の諸制度における民主主義的傾向および過程の強化、自由主義的政治傾向の奨励と支持がその基礎をなしていた。

Ⅱ このような社会・経済・政治情勢下において、昭昭二〇年一〇月二七日、内閣は労務法制審議会を設置し、労働組合法案は同審議会で実質的には作成され、同法は国家公務員、地方公務員にも適用される建前であり、ただ警察、消防職員及び監獄勤務者についてのみ労働組合の結成・加入を禁止した(旧労働組合法四条)が原告組合の争議権は団結権・団体交渉権とともに法的に保障されていた。

Ⅲ 次いで労働関係調整法(昭和二一年九月二七日公布、同年一〇月一三日施行、以下旧労調法という)が制定された。これは公益事業における争議行為については三〇日前の予告制度を採用し(三七条)、その違反については「違反行為についての責任ある使用者若しくはその団体、労働者の団体又はその他の者若しくはその団体」につき一万円以下の罰金に処せられる(三九条)ことになつていたが、それも労働委員会の請求を待つてこれを論ずると規定され(四二条)ていた。従つて、原告組合員らの争議権については公益事業としての前記争議制限を受けることにはなつたが、争議行為そのものの禁止はなく、右旧労調法当時は争議権が認められていた。

続いて憲法が昭和二一年一一月三日に公布、翌二二年五月三日施行され、その二八条において労働三権を基本的人権として保障した。

Ⅳ その後インフレーションの進行等に伴い、労働者の争議権行使が活発になり、昭和二二年二月一日のいわゆる二・一ゼネストに突入する寸前の同年一月三一日連合国最高司令官マツカーサー元帥のゼネスト禁止の声明、三月二九日GHQ経済科学局長マーカツト少将のいわゆるマーカツト覚書等によつてストライキの禁止が占領軍から命ぜられ、翌二三年七月二二日マツカーサー元帥から当時の芦田内閣総理大臣宛のいわゆるマツカーサー書簡が発せられ、芦田内閣はこの書簡に基づき政令第二〇一号「昭和二三年七月二二日付内閣総理大臣宛連合国最高司令官の書簡に伴う臨時措置に関する政令」を発した。

そして、国家公務員法(昭和二二年一〇月二一日公布、翌二三年七月一日施行)を昭和二三年一二月三日改正(同日公布、即日施行)し、続いて、公共企業体労働関係法が(以下旧公労法という)同年一二月二〇日公布され、翌二四年六月一日から施行されるに至つた。

Ⅴ 右の旧公労法は、日本国有鉄道と日本専売公社との職員につき争議行為の禁止を規定するものであり、昭和二三年一一月一一日政府案として国会審議にかけられ、同月一五日の議了を政府が要請するという緊急性が示されながら、結局これは崩れ、一二月二〇日公布の運びとなつたが国会審議の途中しばしば速記が中止され、一二月一二日民主自由党、民主党、国民協同党の賛成をもつて両院を通過するに際し、民主党は「労働者諸君が将来再び争議権を獲得される状態に立つ日のあることを確信する」旨を、国民協同党は「かかる過渡的、一時的な国辱的法案の撤廃されんことを切望する」旨を、それぞれ賛成討論のなかで明らかにした。

Ⅵ 昭和二七年のサンフランシスコ条約締結後も右旧公労法における争議行為禁止の規定およびこれの違反に対する制裁規定は変ることなく、その他若干の法整備をし、公共企業体等の中に電信電話公社といわゆる五現業を加えて今日の法文に至つている。

右公労法制定の沿革に徴するとき、被告職員の争議行為は、政令二〇一号の争議行為禁止の趣旨を受けて、旧労調法による制限(全面一律禁止ではなかつた)をこえて、全面一律的にこれを禁止することになつたものである。ところで、公労法は労働者の団結権、団体交渉権は認めているものであり、労働基本権のうち争議権のみが禁止されている。そこで労働三権のうちの一つを禁止し、他は認めているのであるから、これが合理的制度に当るとする議論がなされない訳ではないが、労働基本権は三権がてい立してはじめて有機的に機能するものであり、特に争議権は他の二権の担保としての役割を有するもので、これを欠く労働基本権は、手足を奪われた身体にも比すべきものといわなければならず、この考え方はとり得ない。

そうしてみると、合憲的限定解釈には次のような難点が指摘できる。

① 公労法一七条一項は、その文理上、すべての公共企業体等の職員の一切の争議行為を禁止するという規定の仕方をしているので、これを前記のように限定的に解釈することは、余りにも文理と離れ過ぎる。

文理と離れた解釈が許容される程度は、立法目的、沿革等に鑑み法意を探究する程度に止るべきで、右のように文理と離れ過ぎる解釈は、法文解釈の限界を逸脱して、立法作用と同一の機能を営むことになり、司法権の及ぶところではないといわざるを得ない。

② 更には、右限定解釈基準となる前記四条件の諸点も必ずしも客観的に明白なものとはいえないのであつて、争議権と対比される国民生活の重大な障害の内容を生存権に比すべき利益(国民の健康、安全、生存に必要な基本的財産権)といつてみても、或は明白にして現実の危険という基準を用いてみても、この点には変りはなく、右基準を具体的かつ客観的に確立することは、公共企業体等の職務の広汎さ、その争議により国民生活へ及ぼす影響の多種多様さに伴い不可能に近く、判例の集積に待つ以外ないとすれば、法的安定性にもとることは避けられず、結局判例の集積には親しまないものといわなければならない。

また右のことは、憲法の保障する基本的人権の制限については、事柄の重大性から明確な法文によることを必要とするとの要請にも反することになる。

④ さらには、現在のように、法文上争議権行使の禁止が明文化されていて、その禁止が憲法上正当化される(言葉を替えて言えば争議権行使が許される)範囲を解釈によつて限定し、確定して行くとすれば、原則的には法律の禁止する争議行為である以上、形式的には全て一応違法行為と評価されることになり、勤労者は裁判によつて結局は正当な行為として救済されるにしても、争議権行使にあたつては、適法性の判断は常に勤労者の危険負担においてこれをなさねばならず、法に忠実であろうとする勤労者は、忠実であろうとすればするほど争議権の行使が困難となり、憲法が保障する基本的人権としての争議権の形骸化をもたらすことになる。

⑤ 更に、形式上違法と評価されるものを適法ならしめるには、結局裁判の手続によらねばならず、長期かつ多大の労力と費用を要する訴訟活動を要求され、この危険負担も勤労者が負わねばならないとすれば、労働基本権が経済的弱者である勤労者に与えられたものであるといつても、画餅に等しいとのそしりを免れない。

右諸点から、合憲的限定解釈の方法を公労法一七条一項について採用することは、当裁判所のとらないところである。

(5) 結局、公労法一七条一項の規定は、その文面からは争議行為を一律全面的に禁止する規定であると一義的に解釈するほかなく、しかも憲法上許される必要最少限度を超えた規制がなされていると判断せざる得なないのであるから、右規定は憲法二八条に違反するといわざるを得ない。

(四) 当裁判所は、既に前記のように公労法一七条一項が違憲であると判断するものであるが、仮に合憲(限定的合憲解釈を含め、本件争議が公労法の禁止する争議行為に該当するもの)と解されるとしても、原告新井山、同三上の解雇については次のように考える。

(1) 公労法一七条一項後段の意義

公労法一七条一項後段の「共謀」とは、複数の者が同項前段で規定する争議行為を行うため、共同意思のもとに一体となつて、互に他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をすることをいい、「そそのかし」とは、同項前段に規定する争議行為を実行させる目的をもつて、他人に対し、その行為を実行する決意を新たに生じさせるに足りる慫慂行為をすることをいい、「あおり」とは、右の目的をもつて、その行為を実行する決意を生じさせるような、又は既に生じている決意を助長させるような勢いのある刺激を与えることを意味するものと解すべきである。

(2) 原告新井山の行為と公労法一七条一項後段

原告新井山本人尋問の結果によると、原告新井山は、昭和三二年七月盛岡地本書記長に選任され、以来、途中二年間を除いて、本件解雇時までその地位にあり、三・二スト当時同地本書記長として多年の経験を有し、組合員に対する大きな指導力・影響力をもつていたことが認められる。

ところで、前記認定事実によれば、原告新井山は、①昭和四二年一一月第四九回地本委員会に出席し、第五三回中央委員会決定(五万人合理化案粉粋のため、反復半日ストライキをもつて闘う)を確認し、②昭和四三年二月三日地本代表者会議に出席し、第五四回臨時中央委員会決定(盛岡地本において同月末から翌三月上旬までの間に反合理化半日ストライキを行う)を確認し、③同月二七日盛岡拠点戦術会議に出席し、地本闘争委員の拠点配置方法等について、派遣中闘・地本闘争委員相互の間で意思統一を図つたものであつて、右の各行為はいずれも前記法条の「共謀」行為に該当する。

また原告新井山は、前記認定の事実によれば、①同月二七日午後〇時ころ青森運転所構内の気動車掛詰所において開催された職場集会において、組合員に対し、本件闘争への参加協力を要請し、②同月二八日午後一時四五分ころ、翌二九日午後一時五〇分ころ、翌三月一日午前一一時ころの三度にわたり、組合員に対して個別面接して三・二スト参加への要請をしたものであるが、前記認定の原告新井山の地位及び影響力に鑑みると、右の各行為はいずれも前記法条の「そそのかし」若しくは「あおり」行為に該当する。

(3) 原告三上の行為と公労法一七条一項後段

<証拠>によると、原告三上は、昭和三一年尻内分会委員長、昭和三二年盛岡地本執行委員長、昭和三五年青森県労働組合会議副議長、三八地方労働組合会議議長、昭和三七年尻内支部執行委員長にそれぞれ選任され就任し、三・二スト当時支部執行委員長として多年の経験を有し、組合員の信望も厚く、優れた企画力と組合員に対する大きな指導力・影響力をもつていたことが認められる。

ところで、前記認定事実によれば、原告三上は、①昭和四三年二月三日地本代表者会議に出席し、第五四回臨時中央委員会決定(前出)を確認し、②同月二日午後四時三〇分ころ支部執行委員会を開催しこれを主宰し、地本委員の指示の下に、闘争準備体制の確立について検討し、③同月二七日午後五時ころ支部拡大委員会を開催しこれを主宰し、派遣中闘から本件闘争の具体的戦術内容について指示を受けこれを確認したものであつて、右の各行為はいずれも前記法条の「共謀」行為に該当する。

また原告三上は、前記認定事実によれば、同月八日午後〇時ころ開催された職場集会及び、同月二九日午後四時五〇分ころ開催された半日スト体制確立総決起大会において、組合員に対し本件闘争参加への決意を表明し、協力を要請したものであつて、前記認定の原告三上の地位及び影響力に鑑みると、右の各行為はいずれも前記法条の「そそのかし」若しくは「あおり」行為に該当する。

なお、前記認定事実によれば、原告三上がなした掲示は、その内容からすると本件闘争参加への呼びかけを記載したものであり、これを掲出したことは右の「そそのかし」若しくは「あおり」行為に該当しない。

(4) 従つて、原告新井山及び同三上は公労法一七条一項後段に該当する行為をなしたものである。

(5) 原告らは、公労法一八条は憲法二八条に違反する旨主張するが、公労法一八条は同法一七条一項と相俟つてその意義を有するものであるところ、同法一七条一項は、公共企業体等における争議行為を禁止するにあたり、争議行為により現実に公共企業体等の業務の正常な運営を阻害するのは、第一線の組合員であるが、これを企画・指導するのは組合幹部であり、第一線の組合員はその指令に従つて行動するにすぎず、違法な争議行為の発生を抑止するためには、第一線の組合員の実行行為を禁止するばかりでなく、組合幹部の企画・指導をも禁止する必要があり、そのため自ら違法な争議行為を実行したのと同一の評価をなし得る組合幹部の違法争議行為の共謀、そそのかし及びあおり行為をとりあげて、これを禁止したものであつて、単に違法な争議行為についての幹部責任を問うたものではなく、行為責任を追及したものと解され、また同法一八条は、右の行為を解雇事由と定めているが、これは同法一七条に違反する行為をしたものは、当然その地位を失うとか、一律に必ず解雇さるべきである旨を規定したものではなく、解雇するかどうかは、違反行為の程度・態様に応じ、合理的な裁量に委ねたものと解され、このような制約を内在するものとして、公労法一八条は憲法二八条に違反しないものと解する。なお、争議行為禁止違反に対して課される不利益は、必要な限度を超えないよう十分な配慮がなされなければならない(前掲中郵判決及び昭和四三年一二月二四日判決)。

(6) 前記認定事実によれば、本件闘争は、原告組合のいわゆる五万人合理化案反対闘争の一環として企画されたストライキであつて、その実施の日時、拠点、戦術等の大綱は原告組合の本部で決定し、地方及び支部は本部からの指令によりその闘争態勢に組込まれ、闘争の実施及び具体的戦術内容の決定等は派遣中闘が、戦術会議を通じてこれを決定していたものであり、原告新井山及び同三上は、闘争拠点の指定を受けた地本の書記長並びに支部の執行委員長として、その立場から地本ないし支部段階における本部決定の確認・徹底とその意思統一を図つたものであり、その態様も原告組合の組織面からの制約もあつて、前記認定の程度にすぎず、被告主張の如くには本件闘争においてその主要な決定等に参面しておらず、同原告らのそそのかし・あおり行為及び原告三上の同盟罷業の実行も、本件闘争において同原告らのおかれた地位からすれば、通常の行為形態をとつたもので、特に意図的に激越な行動に走つたものとは認められない。

盛岡地本において、多数の組合員が本件闘争に参加したことは、原告三上及び同新井山の前記の如き指導統率力によることも否定し得ないではないが(これは右両原告の日常の組合活動の影響力に基づくものと考えられ、団結権、団体交渉権は正当に認められ、労組法の適用もうける原告組合内部において右の範囲内で活動していた両原告に対し、この面から違法性の評価を加えることになると、結局日常の労働運動まで含めて違法性の評価を加える危険性がある)、本件闘争当時の被告と原告組合の交渉議題であつた助士廃止・検修新体制にについて組合員がその生活にかかわる問題として重大な関心をいだきこれに反対していたことにもよるものであつて(前掲葛西、中堤の各証言)、本件闘争実施について、原告新井山及び同三上の果した役割は、前記認定事実によれば、さほど重要な意味を有したとはいえない。

ところで、<証拠>によると、本件闘争に対し被告がなした処分は、盛岡地本における本件闘争実施指導の最高指揮者である渥美派遣中闘及び尻内支部における本件闘争実施指導の指導者である渡辺派遣中闘に対し、いずれもいわゆる三・二三ストの実施指導責任をも処分理由に加えて、各停職一二月、日高青森運転所派遣中闘及び上野辺地支区派遣中闘についていずれも不処分、泉山尻内支部派遣盛岡地本闘争委員及び杉浦尻内支部副委員長に対して各停職六月の処分をなし、なお渡辺派遣中闘に対する本件闘争についての処分理由は原告三上のそれと全く同一であることが認められる。

以上のような原告新井山及び同三上の本件闘争において果した役割、同原告らの公労法一七条違反行為の態様、被処分者間の処分の均衡等からすると、本件解雇は、妥当性・合理性を欠き、被告に認めれた合理的な裁量権の範囲を著しく逸脱したものといわざるを得ず、本件解雇は公労法一八条の適用を誤つた無効な処分といわざるを得ず、原告新井山、同三上と被告の間にはなお雇用関係が存続するものである。

(7) 本件解雇処分の性質

なお被告は、本件解雇が公法上の処分であり、処分に内在する瑕疵が外観上明白且つ重大な場合でなければ、当然無効とならず、本件解雇にはかかる瑕疵がないと主張する。

そこで本件解雇処分の性質について検討する。

国鉄法一、二条によると、被告が従前国家行政機関によつて運営されてきた鉄道事業を、能率的な運営により発展させ、もつて公共の福祉を増進させる目的で、引継ぎ設立された公法人であることは明らかであるが、その事業ないし業務の実態は一般私企業のそれと何ら異なるところはないのであつて、国鉄法には、ほかにも監査委員会の指導統制(一四条)、内閣による総裁の任命(一九条)、予算の国会審議(三九条)、会計検査院による会計検査(五〇条)、運輸大臣の監督(五二条)の規定が存し、被告の公法人としての性格を示しているが、これらの規定はすべて、被告の資本を政府が全額出資することとしている(同法五条)ため、被告の経営について後見的監督をする必要から設けられたものにすぎず、被告が右のような公法人であることをもつて直ちに、被告とその職員との雇傭関係が公法上のそれであつて、本件解雇が行政処分であるとはなし得ない。

また国鉄法は、被告の職員は法令により公務に従事するものとみなす(三四条一項)と定め、その任免、給与、分限、懲戒等について国家公務員の場合と同様の規定(二七ないし三二条)を設け、公労法一七条で争議行為を禁止しているが、右国鉄法の諸規定は、公法上の特別権力関係に由来する国家公務員に特有の規定ではなく、同一内容のものが一般私企業の就業規則等にも存在するのであり、また公労法の右規定も、被告の業務が公共性が強く、国民生活に密接に関連するが故に設けられたものにすぎない。他方国鉄法三四条二項、三五条は、被告の役員及び職員に対して国家公務員法を適用せず、職員の労働関係については、公労法の定めによるとし、公労法は、被告職員の労働関係について同法の定めのないものについては労働組合法の定めるところにより(三条)給与、労働時間、昇職、降職、免職、懲戒その他労働条件に関する事項について、広汎な団体交渉権を認め、被告と対等な立場で労働協約を締結することができ(八条)、被告と職員間の紛争について、公共企業体等労働委員会による斡旋、調停、仲裁の制度があり、(二六ないし三五条)、さらに不当労働行為については同委員会による救済(三条、二五条の五)が認められており、このような国鉄法、公労法の諸規定に照らすと、被告とその職員の雇傭関係は、公法関係の性質を有するものではなく、基本的には対等当事者相互の法律関係として、私法関係の性質を有するものといわなければならない。

なお、憲法一五条にいう公務員に公共企業体等の職員が該当するとしても、同条は国民主権主義の下での公務員の基本的立場を宣言したにすぎない。公務員等の懲戒免除等に関する法律(昭和二七年法律第一一七号)二条及び日本国との平和条約の効力発生に伴う国家公務員等の懲戒免除等に関する政令(同年政令第一三〇号)一条は政府による被告職員の懲戒免除を定めているが、これは、平和条約の発効に伴い国家公務員の懲戒を免除することとなつたが、その際被告職員の大部分が国鉄法施行前国家公務員であつたことから、法律が特に右の事項に限り被告の職員を国家公務員と同一に取扱おうとしたものと解され、国鉄法三一条が被告職員の懲戒処分の主体を被告の総裁としたのは、懲戒処分の性質に鑑みて、法律が特に被告の代表者である総裁にその決定権を与えたものであつて、懲戒処分の主体は被告であることに変りがないと解されるから、これらの規定があることによつても、被告とその職員との雇傭関係が前記性質を有することの妨げとなるものでない。

従つて、本件解雇は行政処分でないと解すべきであるから、被告の右主張は採用できない。

三請求の原因3の事実は当事者間に争いがない。

右によれば、被告は原告三上に対し未払給与合計八、五二七、七九八円とこれを請求する旨記載した準備書面陳述の日であることが記録上明らかな昭和四九年三月七日の翌日である同月八日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金と同月一日以降毎月二三日限り一一五、四〇〇円の給与を支払うべき義務がある。

四よつて、原告組合の訴えは不適法であるから却下し、原告新井山及び同三上の請求は正当であるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(片岡正彦 井上芳郎 奥林潔)

(別紙)基準内賃金支給額試算表<省略>

期末手当支給算定法<略>

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