盛岡地方裁判所 昭和48年(ワ)318号 判決 1977年2月10日
原告
小野寺勇治
原告兼右法定代理人
親権者父
小野寺力
原告兼右法定代理人
親権者母
小野寺茂代
右三名訴訟代理人
菅原一郎
外三名
被告
国
右代表者法務大臣
福田一
右指定代理人
宮北登
外五名
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一、原告ら
被告は、原告小野寺勇治に対し、金六、一九一万二、六三六円およびうち金五、七九一万二、六五六円に対する昭和四八年五月二三日から、うち金四〇〇万円に対する昭和四八年一二月二日から右各支払ずみまで年五分の割合による金員を、同小野寺力並びに同小野寺茂代に対し、各金一六〇万円およびうち各金一五〇万円に対する昭和四八年五月二三日から、うち各金一〇万円に対する昭和四八年一二月二日から右各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言を求める。
二、被告
(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決を求める。
(二) 仮りに原告らの請求が認容される場合、担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求める。
第二 請求原因
一、事故発生の経緯等
1 原告小野寺勇治(以下、原告勇治という。)は、昭和四八年四月一一日国立一関工業高等専門学校(以下、一関高専という。)に入学し、直ちに同高専が課外教育活動の一環として行つていた体育部柔道班(以下、柔道班という。)の活動に参加した。
2(一) 原告勇治は、同年五月二二日午後四時五〇分ごろから、いつものように一関高専武道館における柔道班の柔道練習(以下、本件練習という。)に加わつたのであるが、右練習の関始から本件事故発生の直前に至るまでの経過は次のとおりである。
(1) 同日午後四時五〇分ごろから同五時〇五分ごろまでの間、準備運動として柔軟体操及び受身技が行なわれた。
(2) 同五時〇五分ごろから同五時二〇分ごろまでの間、掛り練習(打込練習)の行なわれ、原告勇治は練習相手に対し、主に背負投をかけた。
(3) 同五時二〇分ごろから同五時三〇分ごろまでの間、出足払返及小外刈返の練習が行なわれた。
(4) 同五時三〇分ごろから同五時三八分ごろまでの間、小内外返の練習が行なわれ、原告勇治は班員の機械工学科三年柔道初段の訴外小野寺東(以下、訴外小野寺という。)と組んで練習した。
(二) 右(1)ないし(4)の練習において、原告勇治の挙動に異常な点は全く認められなかつた。
3 同五時五八分ごろから、内股大内刈に行く連絡変化技の練習が開始され、原告勇治は引き続き訴外小野寺と組んで右練習を始めたところ、コーチとして本件練習を指導していた一関高専助教授柔道四段の訴外及川了(以下、訴外及川という。)が、右両名に手本を示すべく、原告勇治を相手に右連絡変化技をかけてみせた。
4 やがて立ち上がつた原告勇治は、再び訴外小野寺と組み合うべく同人の左襟をつかんだところ、「あつ、頭がボケツとする。」と言って同人にすがりつき、そのまま崩れるように後ずさりし、練習場外に崩れ込んだ。そしてけいれん硬直を起こし、間もなくいびきをかいて意識不明となつた。<以下、事実欄省略>
理由
第一争いのない事実
請求原因第一項の1ないし4の各事実並びに訴外及川が内股で原告勇治を一回投げ、次いで大内刈をかけたこと、原告勇治が橋静脈の破綻により急性硬膜下血腫の傷受を受け、現在いわゆる「植物人間」の状態にあること、訴外及川が被告の公務員で一関高専校長より柔道班コーチの委嘱を受け、班員に対する柔道の指導に従事していたことは当事者間に争いがない。
第二原告勇治の受傷原因について。
そこで先ず、原告ら主張のように、原告勇治の本件受傷の原因が果して訴外及川の内股あるいは大内刈に因るものであるか否かについて判断する。
一<証拠>によると、原告勇治の頭部を手術した際、橋静脈の付近に、非常に小さいものではあるが、脳挫傷の存在したことが認められ、一方、<証拠>に前記争いのない事実を総合すれば、次の事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠は存在しない。
1 原告勇治は、昭和四八年四月一一日、一関高専に入学し、以来同高専が課外教育活動の一環として行つていた柔道班の活動に参加していたものであるが、同年五月二二日午後四時五〇分ごろから、他の班員一〇名とともに、本件練習に加わるべく同高専武道館に集合した。その際、原告勇治は、最後から三番目に来て柔道着に着替えた後、武道館玄関側の壁に膝をかかえたまま寄りかかり、訴外及川らの話に耳をかたむけていたが、特に変つた様子は見られなかつた。
2 同四時五〇分ごろから同五時〇五分ごろまでの間、準備運動として先ず柔軟体操が行なわれ、次いで武道館を受身で二回往復したが、原告勇治の様子に異常は認められなかつた。
3 同五時〇五分ごろから同五時二〇分ごろまでの間、掛り練習(打込練習)が行なわれ、一〇回ずつ交互に各自の得意技をかけあつた。原告勇治は順次五名の班員と組み、それぞれの相手に対して主に背負投をかけ、一方相手方は、原告勇治に対し、大外刈、払い腰、体落等の技をかけた。その際、原告勇治は訴外金野順一から払い腰で一回投げられたが、右掛り練習中同原告に特に変つた様子は認められなかつた。
4 同五時二〇分ごろから同五時三〇分ごろまでの間、出足払返及び小外刈返の練習が行なわれ、原告勇治は前記訴外金野と組み、右両技を交互にかけあつた。引き続いて同五時三八分ごろまでの間、小内刈返の練習が行なわれ、原告勇治は班員の機械工学科三年柔道初段の訴外小野寺と組んで交互に一〇本ずつかけあつたが、小内刈返は原告勇治において十分マスターできていなかつたため、訴外小野寺の指導による一方的な練習であつた。なお、この練習では投げるところまで行つたが、その間原告勇治の様子に異常は認められなかつた。
5 同五時五八分ごろより、内股から大内刈に行く連絡変化技の練習が開始され、班員同士の練習に先立ち、訴外及川が主将の訴外小松を相手に手本を示したが、この連絡変化技の要点は、先ず片足を相手の股間に入れて内股の体勢に入り、相手の体を持ちあげると、相手は持ち上げられるのを防禦すべく腰を低く落して重心を低くするため、後隅が一番の弱点となり、そこをすかさず大内刈で倒すということにあつた。
そこで、原告勇治は訴外小野寺と組み、原告勇治が受手となつて右連絡変化技の練習に入り、やがて訴外小野寺東から内股で一回投げられたが、その直後原告勇治において身体の異常を訴えるということもなく、両者の練習は続けられた。
6 訴外及川は右両名の練習を見ていたが、訴外小野寺が内股の体勢に入つても、原告勇治の方は腰高に立つたままの状態でいるために、訴外小野寺の大内刈がうまくかからないことに気付き、右両名に「どうした。」と尋ねたところ、訴外小野寺が「うまくいかない。」と答えたため、訴外及川は右小野寺と交替し、原告勇治を相手に直接、右連絡変化技の指導を行うことにした。
そこで訴外及川は、同五時四〇分ごろ、右手で原告勇治の奥襟をつかんで右自然体に組み、「あのように立つていると、大内刈がくる前に内股で投げられてしまうぞ。いいか、」と言つて、腰高に立つた状態のままの原告勇治を右内股で投げ道場畳に横転させた。
次いで、訴外及川は立ち上がつた原告勇治と再び右自然体に組み、「内股に入つた時に腰をおろさないと、そのまま今のように投げられてしまう。内股が入つた時は腰をおろしなさい。」と言つて内股に入つたところ、原告勇治が言われたとおり腰をおろしたので、「この時、右足で刈るんだぞ」と言つて、大内刈で原告勇治を崩してみせたところ、原告勇治は尻もちをつく様な格好で崩れた。
なお、訴外及川より右連絡変化技の指導を受けている最中に、原告勇治が身体の異常を訴えるということはなかつた。
7 訴外及川は、立ち上がつた原告勇治と訴外小野寺に対し「今のようにしてやるんだぞ。」と言つて、両名に対し、再び組んで練習に入るよう指示した。そこで、原告勇治は訴外小野寺のところへ歩み寄り、右手で同訴外人の襟を、同訴外人は左手で勇治の袖をつかんだところ、突然原告勇治が「あーあ、頭がボケツとする。」「フラフラする。」と言いながら、訴外小野寺の襟をにぎつてすがりつくや、逆に後ずさりするように後に崩れて行つた。原告勇治の様子に気づいた訴外及川が、直ちに練習を中止させたところ、原告勇治は、訴外小野寺の襟をにぎつたまま道場の板の間と畳の間に崩れ込んだので、班員全員で原告勇治を畳の上に寝かせた。訴外及川は、訴外小野寺の柔道着を握つたままの原告勇治の指を一本ずつはずして自己の手を握らせ「小野寺」と呼んだところ、原告勇治は「はい」と答えたのみで間もなくいびきをかきはじめ、そのまま意識不明に陥いるとともにやがて体全体に硬直をきたし、呼吸もとだえがちになるようになつた。
二ところで、訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挾まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものと解すべきである(昭和五〇年一〇月二四日最高裁判所第二小法廷判決民集二九巻九号一四一七頁以下参照)。
これを本件についてみるに、前記認定のとおり、(a)原告勇治の受けた傷害は、橋静脈破綻による外傷性急性硬膜下血腫で、しかも極めて小さいものではあるが橋静脈付近に脳挫傷を伴うものであること、(b)本件練習の開始直前において、原告勇治の様子に特段変つた点は認められなかつたこと、(c)本件練習開始後原告勇治が訴外及川と組み内股から大内刈に行く連絡変化技の指導を受ける直前に至るまで、訴外小野寺外一名の班員から、内股、小内刈返、払い腰で投げられたことはあつたが、その間一貫して原告勇治の挙動に異常な点は認められなかつたばかりでなく、原告勇治において身体の異常を訴えることもなかつたこと、(d)原告勇治は、訴外及川に右連絡変化技の指導を受けた際、同訴外人より先ず内股で投げられ、次いで太内刈で崩されたが、組み合つている間に身体の異常を訴えることはなかつたものの、訴外及川との右練習を終えた直後急に頭部の異常を訴え、そのまま意識不明となり、やがて身体の硬直と呼吸困難をきたしたこと、他方、<証拠>を総合すると、急性硬膜下血腫は、(α)特発性(病的)のものではなく純外傷性でひどい外傷による重篤な限局性脳挫傷を伴い(ここで「外傷」というのは、外見上傷のあるなしにかかわらず、多少とも頭部に打撃(impact)が加わることをいうのは勿論のことである。)、そのため外力作用部位(coup)だけでなく、反衝部位(contre-coup)にも発現し、(β)その態様は高度の脳挫傷、これに伴う脳表面の動静脈損傷、脳内血腫を伴うものと橋静脈又は脳表面の血管の破綻によるもので、脳挫傷の程度及びその役割の比較的軽少なものとに大別され、とりわけ橋静脈破綻の場合は、特に急激な経過をたどるいわゆる超急性硬膜下血腫になるともいわれ、(γ)症状としては、意識清明期(lucid interval)を欠く場合が多く、たとえある場合でも、急激に頭蓋内圧亢進症状をきたし、そのため受傷直後からかなり強い意識障害が続き、それに伴つて呼吸器障害、圧迫脈などのある程度の所見がそなわつている例が多いとされており、以上の諸点はほぼ脳外科医学の定説と考えられること、以上の事実関係を因果関係に関する前記二の冒頭に説示した見地にたつて総合検討すると、他に特段の事情が認められないかぎり、経験則上原告勇治の本件受傷は訴外及川から内股で投げられた際、頭部に何らかの衝激(impact)を受けたことに因つて発生したものというべく、結局、原告勇治の本件受傷と訴外及川の内股による投げとの間に因果関係を肯定するのが相当である。
もつとも、被告は訴外及川が原告勇治を内股で投げた際、原告勇治において受身を取り、頭部を打つたことはありえない旨主張し、これに副う<証拠>も存在するが、原告勇治が訴外及川より内股で投げられ道場畳に横転した瞬間の状況については、右証拠からは必ずしも明確とはいえないうえ、受身を取つたとしても瞬間的に頭部を打つ可能性も一概には否定できない以上、被告の右主張は理由がないものというべく、その他本件全立証によるも、原告勇治の本件受傷と訴外及川の内股との間の因果関係を否定するに足る特段の事情も認め難い。
第三訴外及川の安全配慮義務違反ないし過失について。
そこで原告勇治の本件受傷が訴外及川の安全配慮義務違反ないし過失に基くものであるかどうかについて判断する。
一ところで、原告らが主位的に主張するところの、国が国立学校の学生に対して就学契約上の安全配慮義務を負うとの見解は、いわゆる「安全配慮義務」「安全保証義務」なる観念が元来、私法上の雇傭契約において、使用者が被用者に対して負うものとして認められてきたものであり、一方、昭和五〇年二月二五日最高裁判所第三小法廷判決(民集二九巻二号一四三頁以下参照)も、右法理が国と国家公務員との関係においても適用されるべきことを説いたにすぎないことと併せ考えると、本件につき直ちに右見解を採用することは多分に疑問なしとしない。しかしながら、この問題は一応さておき、先ず訴外及川が原告勇治を投げた本件内股に、原告ら主張のような非難すべき点が認められるか否かについて検討を加えることにする。
二原告らの主張によれば、原告勇治は受身の習得が全く不十分であつたうえ、受身の際にすがりついたり、しがみついたりするという中学時代からの癖も未だ矯正されておらず、しかも身長も訴外及川よりも三センチメートル程高かつたのであり、一方、訴外及川の内股は、いわゆる講道館柔道とは異り、相手の奥襟を極端に深くつかみ、バネを欠いた状態で相手を巻込みあるいは押しつぶすようにして倒す独特の技であるから、第一に、内股といつた高度な技をかければ、原告勇治はこれに十分対応できず、受身を取れない恐れがあるのに、原告勇治の受身の熟達度あるいは身長差を何ら願慮することなく内股で投げ、第二に、訴外及川独特の内股をかければ、相手方は受身を取る余裕を与えられず、頭部を強打する恐れが十分考えられるのに、原告勇治に対し、漫然と同訴外人独特のギリギリと巻き込むような内股をかけ、そのため原告勇治に本件傷害を与えたというので、この点につき順次判断する。
1 原告勇治の受身の熟達度を無視して内股をかけた点について。
<証拠>を総合すれば、原告勇治は有段者ではないが、中学時代の三年間柔道部に所属し、郡大会や県大会に選手として出場した経験もあるうえ、昭和四八年秋ごろまでには初段を取れる程度の実力があつたこと、中学時代の同僚の見るところでは、原告勇治の受身に少しく特徴があつたと言うものの、前方回転受身の時に足をのばす傾向が見られたというにすぎないこと、一関高専柔道班の昭和四八年度新入班員に対する指導方針として、中学時代の柔道経験の有無を問わず、四月及び五月中は受身の練習に重点を置いており、特に、四月中は新入班員に自由練習を行なわせず、五月に入り、訴外及川が一人一人投げて受身の習得具合を確かめた上で、受身が確実に身についた者に限つて自由練習を行なわせていたこと、本件事故当時原告勇治は自由練習をしてよい段階にあり、また、受身の際にしがみついたり、すがりつくといつた癖も特段認められなかつたこと、一方、文部省発行の高等学校学習指導要領解説保健体育編によると、内股は高等学校の体育で指導すべき基礎的な技とされており、全国高等学校柔道優勝大会におけるきまり技として最もよく用いられているものであることが認められる。そうだとすると、かかる情況下において、原告勇治に内股をかけたからといつて、何ら指導上の安全配慮義務に違反しあるいは過失があるということはできない。
他に原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。
2 身長差を無視して内股をかけた点について。
自己よりも背の高い者に内股をかけると、相手方において受身を取るのが困難となり、頭部を打つ恐れがあるとの経験則は存在せず、身体差があるからといつて、それが技をかける際の危険度に何ら影響を及ぼすものではない。因に、<証拠>によれば、内股は身体の小さい者が大きい者を投げる技としても有効であるとし、その要締を説いているのである。従つて原告らの右主張は、原告勇治の身長を論ずるまでもなく、明らかに失当であり理由がない。
3 訴外及川独特の、相手の奥襟を極端に深くつかみバネを欠いたまま巻きつけるような内股をかけた点について先ず原告らは訴外及川の内股がいわゆる講道館柔道を逸脱したものであるとして縷縷主張し、証人石森正一は「訴外及川の内股は、相手の奥襟を深くにぎりすぎ、自分の方に引きつけ過ぎているため回転のきかない巻込むような、押し倒すような形となり、相手が受身の取りにくい技である」旨原告らの主張に添う供述をしているのである。
しかしながら、石森証人の右供述は、本件検証調書添付の写真を判断資料として供述したものであるところ、「奥襟を深くにぎりすぎる」との指摘については、<証拠>の図解、写真に徴しても特に深くにぎりすぎるとも思われず、他方、本件検証の結果によれば、訴外及川がモデルを右内股で投げると、双方共一連の動作はスムーズで自然な動きで技が決まりスピード感もあつたことが認められるのであるから、石森証人の右指摘は極めて疑問と言わざるをえない。また、証人及川自身、「自分の内股が乙第三号証(三船久蔵十段著「柔道の真髄」)とはいくらか違う。内股で相手を落とす場合、乙第三号証では『真後に落とす』とあるが、自分のは左前隅に払う。」「内股の場合、肩から背の方に向けて先に落ちるのが技の決まり方であるとは思わない。」「自分の投げ方は払うものであり、足を軸として回転させる方ではない。」旨供述するところであるが、<証拠>によると、内股自体相手の身体の大小、相手の体勢に対応して様々のバリエーシヨンの存在することが認められるうえ、格闘技である以上、各人によつて技のかけ方に差異があるのも蓋し当然と言うべく、柔道解説書の説明と異ることをもつて基本を逸脱した変則技と見なすのは相当でない。結局、訴外及川の内股が原告ら主張のような独特な技であるとの事実を認めるに足る証拠はない。
さらに、訴外及川が原告勇治に内股を実際にかけた時の状況については、<証拠>を総合すると、訴外及川は、通常の状態で原告勇治を投げ、技はすんなりときれいに決つたことが窺われ、しかも前記認定のとおり、訴外及川の内股が何ら独特の変則技とは認められない以上、原告ら主張のように、バネを欠いたまま相手をギリギリ巻き込むようなあるいは押し倒すような危険な内股をかけたとの事実は到底認め難く、他に右主張を認めるに足る証拠も存在しない。
4 結論
右認定したところによれば、原告らが訴外及川の本件内股による投げについて指導上の安全配慮義務違反あるいは過失と主張する点はいずれもこれを認めることができない。
第四以上第二、第三において認定したような、訴外及川につき、原告らの主張する安全配慮義務違反ないし過失は、その直接的原因と考えられる内股による投げの面では勿論、それ以前の本件柔道練習における監督の面でもこれを認めることができないから、原告らのその余の主張については判断するまでもなく、原告らの本訴請求はいずれも理由がないことになる。
よつて原告らの被告に対する本件請求はいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。
(根本久 須藤浩克 三浦潤)
別紙<省略>