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盛岡地方裁判所 昭和58年(わ)22号 判決 1983年6月30日

裁判所書記官

村上俊

本店の所在地

岩手県盛岡市夕顔瀬町二二番二九号

法人の名称

株式会社秋田商事

代表者の住居

同県盛岡市南青山町六番二八号

代表者の氏名

古屋次雄

本籍

秋田県湯沢市表町四丁目四六四番地

住居

岩手県盛岡市南青山町六番二八号

会社役員

古屋次雄

昭和一一年一二月五日生

主文

被告人株式会社秋田商事を罰金三、〇〇〇万円に、被告人古屋次雄を懲役一年六月に各処する。

但し、被告人古屋次雄につきこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社秋田商事は、岩手県盛岡市夕顔瀬町二二番二九号に本店を置き金融業を営むもの、被告人古屋次雄は、同会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人古屋は、同会社の右業務に関し、法人税を免れようと企て、収入の一部を除外し、簿外預金にするなどの不正手段によって所得を秘匿した上

第一  昭和五四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額は六、一二四万九、六四七円でこれに対する法人税額は二、三六五万九、六〇〇円であるにかかわらず、同五五年二月二七日、同市本町通三丁目八番三七号盛岡税務署において、同税務署長に対し、欠損金額が四七八万八、二一三円で納付すべき法人税額はない旨虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により法人税二、三六五万九、六〇〇円を免れ

第二  同五五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額は七、四七九万二、八一〇円でこれに対する法人税額は二、九二一万六、八〇〇円であるにかかわらず、同五六年二月二八日、同税務署において、同税務署長に対し、所得金額は一、二五八万七四九円であって、これに対する法人税額は四一九万二、〇〇〇円である旨虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により法人税二、五〇二万四、八〇〇円を免れ

第三  同五六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額は一億三四四万三、一〇八円でこれに対する法人税額は四、二四八万六、〇〇〇円であるにかかわらず、同五七年三月一日、同税務署において、同税務署長に対し、所得金額は五四〇万三、〇九三円であって、これに対する法人税額は一六二万九〇〇円である旨虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により法人税四、〇八六万五、一〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  古屋シゲ子、阿部昭二の検察官ならびに大蔵事務官に対する各供述調書

一  花松行雄、田中純悦、後藤敬治、藤原宗夫の大蔵事務官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の貸付調査書、未収利息調査書、雑収入調査書、銀行調査書、預金及び借入金調査書、経費調査書、土地譲渡等調査書、減価償却資産等調査書、公租公課調査書、貸倒損失調査書、各未納事業税額計算書、損益計算書及貸借対照表調査書、各脱税額計算書

一  国税査察官作成の調査報告書

一  被告人古屋ほか一名作成の上申書

一  佐々木昭司、佐々木虎松、辻良蔵各作成の各所得税の修正申告書(謄本)

一  被告人会社作成の各修正申告書(謄本)

一  押収してある各法人税確定申告書三綴(昭和五八年押第一六号の1、2、3)

一  被告人の大蔵事務官ならびに検察官に対する各供述調書、及び当公判廷における供述

(法令の適用)

一  被告人会社の所為

法人税法一五九条一項二項、一六四条一項(但し第一、二の所為につき昭和五六年法律第五四号の改正前の法人税法一五九条一項)

一  被告人古屋の所為

同法一五九条一項(担し右同)(懲役刑選択)

一  併合罪加重

被告人古屋につき、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条、最も重い第三の罪の刑に法定の加重、被告人会社につき同法四五条前段、四八条二項

一  被告人古屋につき執行猶予

刑法二五条一項一号

(量刑の事情)

本件は、被告人古屋が自己の経営する前記会社の所得税に関し、三年間にわたって前記のような不正手段により合計八、九五四万九、五〇〇円の脱税をしたもので、その逋脱率は九三・九パーセントの高きにのぼる脱税事犯である。いうまでもなくこの種脱税事犯は、国家の課税権を侵害するのみならず、一般庶民感覚からしても、誠実に納税をしている納税者特に唯一の生計手段である給料から源泉徴収されている勤労者(いわゆるサラリーマン)と対比すれば、本件の逋脱率が九三・九パーセントであるということは、サラリーマンが一〇〇パーセント納税するのに対し、わずか六・一パーセントしか納税していないということを意味し、まさに、サラリーマンなど誠実な納税者の税負担の犠牲において莫大な利益をあげたことに等しく税負担の不公平が叫ばれている昨今の政治社会状勢の中にあって、この種脱税事犯は、きわめて反社会的、反道義的な悪質な犯罪であるといわなければならない。とかく、脱税事犯は、商売をしていれば多かれ少なかれ他にも脱税をしている者がいるとか、或は世の中にはもっと高額の脱税をしている者がいるのだからこの程度ならまだましだとかいう安易な考え方に支えられ、行為者に余り罪の意識がないことがうかがわれるが、しかし、前記のようにこの種犯罪が他の数多くの誠実な納税者に対して被害を及ぼしているということを忘れてはならない。脱税犯の被害者はまさに国民大衆である。他の窃盗罪や傷害罪のように単なる一人や二人に対する被害とは違うのである。他にも脱税している者がいるなどという安易な意識は、今後徹底的に払拭されなければならず、そのためには脱税事犯に対して厳罰をもって臨むとともに、税務当局における脱税事犯の取締の強化が要求されなければならない。しかし、何といっても肝心なのは、刑罰や取締の強化を待つまでもなく、前記のように国民一人ひとりが、脱税事犯が国民大衆を被害者とする反社会性、反道義性の強い犯罪であるという意識すなわち納税倫理を確立することである。

このような脱税事犯に対する社会的な厳しい評価により、最近脱税事犯に対し裁判所としても懲役の実刑をもって臨む例が多く見られるようになって来ているわけであって、これを本件について見ても、岩手県という地域性を考えれば、前記の脱税額は多額の方であるといわなければならず被告人古屋には懲役の実刑をもって臨むべきことも充分考えられるわけである。しかし、同被告人には、本件の発覚後、自己の罪に対する反省悔悟の情が著しく、これまで前科前歴もなく自動車運転についても二〇年間無事故無違反の表彰を受け、また身寄りのない少女を引き取って養育するなどの善行もあり、本件の一事を除けば、善良な社会人として今日まで過ごして来たということや、今後税理士の助力により脱税をしないことは勿論二重帳簿等不明朗な会計処理をしないという努力も見られることなど、同被告人の有利な情状をも勘案すれば、同被告人に懲役刑を科すべきは当然としても、今回にかぎり四年間その執行を猶予することとする。なお、被告人会社に対する罰金については、求刑をいささかも減額する理由は見い出せず、結局求刑どおり罰金三、〇〇〇万円をもって相当と判断した。

(検察官 水上盛市、 弁護人 安達孝一 出席)

(裁判官 穴澤成己)

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