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盛岡地方裁判所一関支部 昭和38年(た)1号 決定 1964年1月20日

主文

本件再審の請求を棄却する。

理由

(請求理由の要旨)

請求人は、昭和三四年一二月二八日盛岡地方裁判所一関支部において、常習累犯窃盗の罪により懲役三年の判決を受け、これに対する控訴事件については控訴棄却、上告事件については、上告棄却の各判決を受け、昭和三五年一〇月六日この事件は確定したが、右原判決(右第一審判決を指す、以下同じ)の認定事実によれば、「被告人(請求人)は、常習として昭和三四年一一月二四日午後八時三〇分頃から午後一〇時三〇分頃までの間に、一関市山目三神病院自転車置場において、橋本信一管理にかかる中古自転車一台を窃取した」というにある。しかし、

一、右事実の認定は原判決の証拠となつた菅原毅(請求人は菅原剛と記載するも本件確定記録によるとき菅原毅の誤記と認める)作成の偽造調書と証人高橋長松の偽証によるものであつて、前者は刑事訴訟法(以下単に法という)第四三五条第一号第四三七条の、亦後者は同法第四三五条第二号第四三七条のそれぞれの再審事由に当る。

二、又佐藤岩男、菅原ミヤ(請求人は菅原ヤミと記載するも本件確定記録によるとき菅原ミヤの誤記と認める)岩井弘子の各供述を得るときは、本件の真相が明らかになるので、右各証人の存在は同法第四三五条第六号の再審事由に当る。

三、しかも、小岩麗子(旧姓菅原)吉田キヨ、青山繁の各供述を得るときは、請求人は本件当時、胆沢郡前沢町所在のバー「ホームラン」で飲酒していたもので本件には何等関係がなく無罪であることが明らかとなるので、右各証人の存在も亦同条第六号の再審事由に当る。

(請求理由に対する判断)

当裁判所は、本件確定記録及び受命裁判官が行つた事実調査の結果を検討したうえ、次のとおり判断する。

一、再審理由の第一、第二の点について、

まず本件再審請求が手続上適法であるか否かについてみるに、刑事訴訟規則(以下単に規則という)第二八三条は、証拠書類及び証拠物を再審請求趣意書に添付して管轄裁判所に提出すべきことを命じている。しかし本条が、証拠の添付を要求しているのは、その事実証明として申出る証拠が証拠書類又は証拠物である場合であつて且、その証拠がその性質並びに客観的事情からみて再審請求趣意書に添付が可能である場合に限るものと解するを相当とする。したがつて、これらの証拠に代る資料の添付は勿論のこと証人を証拠として申出ることも許されるもの解すべきである(最高裁刑事判例集第八巻第一一号一八五七頁参照)。しかしながら本条は再審の濫請求を防止するために設けられた規定であることに鑑み、証人を証拠として申出る場合には、更にその趣意書にその申出る証人によつて証明すべき事実を明記し、且客観的事情からみて可能な限りその事実を疎明することができる資料の添付を命じているものと解するを相当とする。

しかるに本件請求人は、前記理由中第一の事由に関しては単に原判決の証拠となつた証拠書類或いは証人の証言が、偽造或いは偽証されたものであると主張するのみであつて確定判決に代わる再審理由の証明として、右偽造或いは偽証の事実を証明すべき証拠をその趣意書に添付しないことは勿論のこと、これに代る証拠をも添付していない。同じく第二の事由に関しても、その申出る証人佐藤岩夫、同菅原ミヤ、同岩井弘子について、単に本件の真相を明らかにするべく、と記載するのみであつて、これらの証人によつて証明すべき事実を再審請求趣意書に明記していない。

従つて、本件再審請求理由中第一及び第二の点については以上のとおり規則第二八三条に違背することが明白であるから、その請求理由の内容に立入つて判断するまでもなく棄却を免れない。

二、再審理由第三点について、

まず請求人の申出る青山繁、吉田キヨにつき本件確定記録を精査してみる。証人青山繁の証人尋問調書によれば、同証人は、当時バーホームランのバーテンをしていたが、昭和三四年一一月二五日午後三時三〇分頃前沢町白鳥地内の道路を自動車を運転して行く途中、同所で自転車に乗車して前沢町方面に行く請求人に出合つたものであり、請求人が右バーに来たのは二、三回位で、最初は同年一〇月頃、その次は、それから二週間位後で日時は記憶していず、そして最後に来たのは同年一一月二五日(本件犯行の日の翌日である)の午後六時頃であつた旨明確に供述しているのであるから、同証人によつて請求人の主張するアリバイが証明できるとは到底考えられない。証人吉田キヨの証人尋問調書によれば、同証人は、当時バーホームランの女給をしていたが、請求人がこの店に最後に来たのは昭和三四年一一月二四、五日頃の午後六時頃で、この日以前では右日時の前前日午後六時三〇分項から七時頃迄の間に来たと記憶している旨供述しているので、その供述趣旨からみるとき同証人は請求人が右バーに立寄つたのが本件犯行の日かあるいはその翌日かを明確に記憶していないことが明らかである。してみると再び同人等を調査しても、新たに請求人のアリバイを証明するに足る事実が証明されるとは認められない。従つて、当裁判所は、同人等をあらためて調査する必要を認めない。

つぎに、請求人の申出る小岩麗子について事実調査するに同人は請求人の主張する日時にバーホームランにいたかどうかその記憶が判然とせず、又「本件犯行当時請求人が前記バーホームランにいた」旨の記載ある再審請求趣意書に添付の同人作成の申上書も、請求人の命ずるがままに作成したものであつて、同人自身の記憶に基いて作成したものでない旨供述している。

してみると再審請求理由第三の点に関し、右小岩麗子の供述をもつてしても請求人の無罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとする法第四三五条第六号の再審事由に該当するとは到底認めることはできない。

よつて、以上の理由から、請求人本人の本件再審請求理由のうち、第一及び第二の点については、その請求が法令上の方式に違反するので法第四四六条前段に従い、第三の点については、その理由がないので法第四四七条第一項に従い、いずれもこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 西山光盛 裁判官 金沢英一 藤枝忠了)

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