盛岡地方裁判所水沢支部 事件番号不詳 決定
主文
本件上訴権回復の請求を却下する。
理由
被告人の本件請求の要旨は次のとおりである。
一、被告人は昭和三九年二月二七日盛岡地方裁判所水沢支部において判決の言渡をうけた翌々日同月二九日原審弁護人弁護士〓原孝に対し原審裁判に対して不服であるから控訴を提起する旨依頼し同弁護士に弁護人選任届書及び控訴状に署名捺印してその手続を依頼し、同弁護士は控訴期間内に控訴状を原裁判所に提出すべき旨を引受けてその準備をなした。
なお被告人は念のため控訴期間内である同年三月一一日同弁護士事務所に対し、電話をもつて控訴状提出のことについて連絡して遺漏なきを期した。それゆえ被告人については上訴権を失うべき責はない。
二、被告人の代人弁護士〓原孝は昭和三九年二月二九日被告人の依頼と同日被告人本人並に弁護人連署による控訴状を作成準備し書留速達郵便で郵送の準備をしておいた。
水沢市表小路所在盛岡地方裁判所水沢支部に対する郵便物は書留速達便をもつてすれば盛岡郵便局に当日午前一一時までに郵託すれば当日中に配達されることとなつているので代人弁護士〓原孝は、常にこの種の郵便物は本局に提出する例に依つて当然本局に提出することとして昭和三九年三月一二日午前一〇時三〇分頃前記控訴状をその妻〓原千稲に提出せしめた。
ところが右千稲は、盛岡市内支局においても同様取扱によるものと信じて同日午前一〇時三五分頃これを盛岡郵便局本町支局に郵託した。
三、通常一般人の常識によれば特別扱である書留郵便物が汽車時間にして僅々一時間半足らずの位置にある盛岡市と水沢市の間において午前中に盛岡市本町郵便局に提出される限り同日中に配達されると信ずるについては当然のことであつて特にその責に帰すべきものとは言われない。
四、右郵便物は翌一三日午前一〇時三分に原裁判所に送達されたとのことであるが、右は被告本人は元よりその代人の責に帰すべきものとは言われないものであるから、被告人は刑事訴訟法第三六二条によつて控訴権の回復を求め本請求に及ぶ次第である。
よつて審案するに、疏明書類中の証明書並びに書留郵便物受領証によれば、被告人及び弁護人〓原孝連署の本件控訴申立書は、同弁護人の代人である妻千稲において、昭和三九年三月一二日午前八時から同一二時までの間に盛岡市本町所在盛岡郵便局本町局に書留速達をもつて差出したことと、並びに同疏明書類中の盛岡郵便局長の弁護士斎藤茂に対する回答書によれば、右同日現在において、盛岡郵便局窓口に対し午前一一時以前に差出された書留速達郵便物は、特別の事情のない限り、同局発午後一二時三〇分で差立られることが認められるが、前記本町局は支局であり、かつ集配局でないことが推認されるので、本町局に差出された前記控訴申立書は同日午前一一時までに盛岡郵便局に到着しなかつたことが推認され、従つて当裁判所に翌一三日午前一〇時三分に到達、(これは当裁判所の受付印で明らかである)したものと認められる。
しかしながら刑事訴訟法第三六二条の、自己又は代人の責に帰することができない事由とは、上訴不能の事由が上訴権者又はその代人の故意又は過失に基づかないことをいうのであつて、年末等郵便集配事務が遅滞する顕著な事実があるとき、これに注意せず上訴申立書を郵送し、これが延着して上訴期間を経過した場合等においても右事由に該当しないと解されているのであり、被告人において既に同年二月二九日〓原孝弁護士に本件控訴の手続を依頼したとしても、右弁護人〓原孝(代人妻千稲)において前記のとおり、控訴申立期間の最終日である同年三月一二日、支局である本町局に控訴申立書を差出した結果、翌一三日当裁判所に到達したことは、同弁護人の不注意によるものと認められ、前記自己又は代人の責に帰することができない事由に該当しないものというべきである。よつて本件申立を却下することとし、主文のとおり決定する。
(昭和三九年三月二六日 盛岡地方裁判所水沢支部)