盛岡地方裁判所遠野支部 昭和52年(ワ)40号 判決 1978年1月25日
原告
木村豪
被告
黒沢昌子
主文
一 被告は原告に対し金二一万六、七八五円および内金一九万六、七八五円に対する昭和五二年三月六日から、内金二万円に対する本裁判言渡の日の翌日から各完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告その余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は八分し、その七を原告の、その余を被告の負担とする。
四 この判決は仮に執行することができる。
事実
第一 原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金一七九万六、四五〇円および内金一六三万六、四五〇円に対する昭和五二年三月六日から、内金一六万円に対する本判決言渡の翌日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行宣言を求め、請求原因として次のとおり述べ、抗弁事実を否認した。
一 事故の発生
昭和五二年三月六日午前一一時三〇分ころ釜石市上中島町二丁目七番三六号先道路上において被告運転の普通乗用自動車(岩五五は九〇八八号)が横断歩道を歩行中の原告(三歳)と接触し、よつて原告は左脛骨々折の傷害を受けた。
二 責任
事故当時被告は加害車両を保有し自己のため通行の用に供していた。よつて自賠法三条により損害賠償義務がある。
三 損害
1 治療費 六、三七〇円
県立釜石病院関係
2 附添料 六三、〇〇〇円
附添人母仔次子、附添期間五二、三、七―三、三一(日曜祭日を除く)一日三、〇〇〇円として二一日間の合計六三、〇〇〇円、なお同人は釜石市内の興和電設の事務員をしていたが治療のため休業し、その間の補償(給料相当額)である。
3 交通費 五、五〇〇円
ガソリン代(自家用車)四、一五〇円、駐車料六回一、三五〇円
4 通院中の諸雑費 四八、五八〇円
下着、衣類等の合計
5 手伝人に対する謝礼 八、〇〇〇円
通院時の手伝人、渡辺五、〇〇〇円、会社関係三〇〇〇円
6 医師看護婦に対する謝礼 五、〇〇〇円
7 慰藉料 一、五〇〇、〇〇〇円
原告は事故当日の昭和五二年三月六日から同年四月四日まで通院加療したが、左脛骨々折の傷害により現在も若干歩行困難の状態にある。原告は昭和四九年三月九日生れの満三歳の幼児であることを考えれば右受傷部分が完治したと言つても将来に対する生活上の不安が残存している。したがつて右精神的苦痛に対する慰藉の額として一五〇万円が相当である。
8 弁護士費用 一六〇、〇〇〇円
着手金、成功報酬の合計(一〇%)、支払日、本判決言渡の日
以上合計 一、七九六、四五〇円
よつて本訴に及ぶ。
第二 被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁ならびに抗弁として次のとおり述べた。
請求原因一、二は認める。同三のうち(1)は認めるが、その余は不知。原告は三歳の幼児であるところ、被告運転の車両の前に突然飛び出したものであり、また被告の両親も現場に居ながら原告を放置していたことから、原告側にも過失があるから過失相殺されるべきである。また、被告は原告に対し既に治療費二万二、七九〇円を支払つている。
第三 〔証拠関係略〕
理由
請求原因一、二の事実、同三の(1)の治療費については当事者間に争いがない。
そこで、その余の損害について検討する。2の附添料については、原告法定代理人ら各本人尋問の結果、およびこれによつて真正に成立したものと認められる甲第六号証、成立に争いのない甲第七号証によれば、原告は本件事故により昭和五二年三月六日から、同年四月四日まで実日数六日間通院し、さらに四月一六日治療はしなかつたが心配があつたので病院に赴いたこと、その間附添を要し、母仔次子が附添をしたこと、そのため仔次子は当時勤務していた会社(興和電設)を休んだため、その給料三月分が二万五、二五〇円、四月分が二万六、五〇〇円、賞与が一万五〇〇円それぞれ差引かれ、その差引額合計が六万二、二五〇円になることが認められる。一般に通院附添料は一回一、五〇〇円程度で計算されるのが普通であるが、しかし、本件の場合、仔次子の右減収額は実質的には原告の附添料に相当するものというべきであるから、これを結局本件事故による原告の損害とみて差支えないものといえる。従つて、原告主張の附添料のうち六万二、二五〇円に限りこれを認容する。3の交通費であるが、成立に争いのない甲第四、五号証法定代理人仔次子尋問結果によつて真正に成立したものと認められる甲第八号証、法定代理人良雄尋問結果によれば、通院時の駐車場代として一、三五〇円を要したことが認められるが、ガソリン代については自宅から病院まで約二キロメートルとして往復七回で二八キロメートルで、ガソリンの単価は一リツトル一一五円で一〇キロメートル走行可能であることは公知の事実であることから、結局ガソリン代は三二二円と認めるのが相当ということになる。従つて交通費合計は一、六七二円となる。4の通院諸雑費については、甲第八号証、法定代理人仔次子尋問結果によれば、甲第八号証記載の各項目のうち(2)身のまわり雑費のうちズボン三本七、五〇〇円、タイツ三本一、三五〇円、靴(ブーツ)一、六〇〇円、ほうたい二本三八〇円に限り通院についての必需品として本件事故と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。従つてその合計は一万八三〇円となる。5の手伝人に対する謝礼、6の医師、看護婦に対する謝礼は、本件全証拠によつても特別の事情があると認められないことから、本件損害とはみなされない。7の慰藉料については、本件事故により原告が精神的苦痛を蒙つたことは明らかであり、また現在治癒したとはいえ将来若干の不安を抱いていることも無理もないということが認められるので、それらの精神的損害を金銭にみつもれば二〇万円をもつて相当とする。そうすると右損害額合計は争いのない(1)の治療費も含めて二八万一、一二二円となる。
次に、過失相殺についてであるが、成立に争いのない乙第二ないし五号証、右法定代理人ら尋問結果によると、当日原告はその姉と共に両親に連れられて父親の運転する自動車でスーパーに行つたが、父親がスーパーの駐車場に止めた車内に残り、原告とその姉は母親に連れられて右駐車場の道路の向い側にあるボウリング場に行つてボウリングを見ていたところ、一〇分ぐらいしてそれまで原告の手を握つていた母親がいつのまにかその手を離していたため、三歳の幼児である原告は母親の知らない間にその手を離れ、駐車場内の車内で待つている父親のところに向うべく、ボウリング場を出て道路の向い側にある駐車場めがけて横断歩道上を走つて渡ろうとしたところ、たまたま走行中の被告運転の車両に衝突されたものであつて、当時同所は日曜日のスーパーの売り出しでかなり混雑していたことから被告も時速五ないし六キロメートルの速度で徐行しながら右横断歩道にさしかかつたところ、急に左側から飛びだして来た原告と衝突したものであることが認められる。交通事故における過失相殺につき被害者の責任能力ないしは事理弁識能力を要するか否かで見解の対立があるが、当裁判所としては、責任能力までは要しないが、事理弁識能力は要するという立場に立つものである。このように解することが激増する今日の交通事故に対し運転手の責任を強化することになつて、より適当であると考えるものである。そして事理弁識能力のない者の過失は、その者の保護監督義務者の過失を考えるにあたつて間接的にしんしやくされるにすぎないと解するのが相当である。そうすれば本件の場合、母親と姉とでボウリング場内でボウリングを見ていた原告が、わずか一〇分ぐらいでひとりでボウリング場を出て道路を横断して父親のところに行くということは、母親としても容易には考えられなかつたものというべきであつて、母親がボウリング場内で原告の手を離していたことをもつて、それほど大きな過失ということはできず、また原告に飛び出し行為があつたとしても横断歩道上でのことであり、原告が三歳の幼児であることなどを総合的に考慮すれば、被害者側三〇パーセント被告七〇パーセントとみるのが相当である。以上のことから右損害額二八万一、〇五二円からその三割を控除すれば一九万六、七八五円となる。なお被告主張の弁済の点は成立に争いのない乙第六号証によれば、たしかに被告が治療費としてその主張どおりの支払いを病院に対してなしたことが認められるが、原告法定代理人ら尋問結果によつて、右は本件請求には含まれていないことが認められるので、右弁済の主張は結局理由がないことに帰する。
そこで、弁護士費用としては認容額の約一割をもつて相当とすべきであるから二万円として右金額に加算すると二一万六、七八五円となり、これが本件事故による損害額となる。
以上のとおりであるから、原告の本件請求は、二一万六、七八五円に限り理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、遅延損害金については、右のうち弁護士費用二万円を除くその余については本件事故の日から、弁護士費用については本件判決言渡の日の翌日からそれぞれ年五分の割合による金員につき認容し、訴訟費用については民訴法八九条、九二条本文を、仮執行宣言については同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 穴澤成已)