大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

盛岡家庭裁判所 昭和39年(家)114号 審判 1965年6月05日

申立人 佐藤二郎(仮名)

相手方 木原三郎(仮名) 外七名

主文

一、本籍、○○郡○○村大字○○○二四地割四二番地、亡佐藤忠吉の遺産を次のとおり分割する。

(1)  別紙第一目録記載の不動産および預金債権は、相手方佐藤五郎の所有とする。

(2)  別紙第二目録記載の不動産は、相手方佐藤タミの所有とする。

(3)  別紙第三目録記載(イ)の不動産および同目録記載(ロ)の小作権は、相手方佐藤幸子、同佐藤良子、同佐藤弘安の共有(持分は各1/3)とする。

(4)  相手方佐藤五郎は、相手方佐藤タミに対し、金二九万一、〇二七円を支払え。

(5)  相手方佐藤五郎は、相手方佐藤幸子、同佐藤良子、佐藤弘安に対し、各金二、五三七円を支払え。

(6)  相手方佐藤五郎は、申立人佐藤二郎、相手方木原三郎、佐藤四郎、同島田和子に対し、各金一九万一、五〇九円を支払え。

二、本件手続費用中、鑑定費用五、四〇〇円については、相手方佐藤タミが一、八〇〇円、相手方佐藤幸子、佐藤良子、同佐藤弘安が各二〇〇円、その他の申立人および相手方らは各六〇〇円の負担とし、その余の費用は、申立人および相手方らの各自負担とする。

理由

第一、申立の要旨および経過

申立人は被相続人佐藤忠吉の遺産を法律上適正に分割することを求め、申立の事情として、被相続人は、昭和三六年八月六日死亡し相続が開始しその相続人は申立人と相手方である。

申立人は被相続人の相系卑属の年長者として、被相続人の生存中の病気の治療に要した債務の支払いに充てるため、相続財産の一部を早急に処分する必要が生じ、相手方と遺産分割の協議を再三行つたが協議が調わないので調停を求めるというのである。

ところで右調停事件は、当庁昭和三七年家(イ)第一七七号事件として係属し、二四回に亘り調停を行つたが、相手方佐藤弘安の親権者母佐藤サダが、その子供らの相続分や分割方法について異論をとなえ、あるいは未成年者佐藤弘安が成年に達するまで遺産全部の分割に反対する態度をとつたため調停が成立せず、本件審判事件に移行した。

第二、相続人およびその法定相続分

本件記録中の関係戸籍謄本および申立人ならびに相手方らの各審問の結果によると、

被相続人佐藤忠吉は、昭和三六年八月六日○○郡○○村大字○○○二四地割四二番地で死亡し、その相続人は、

妻  佐藤タミ

二男 佐藤二郎

三男 木原三郎

四男 佐藤四郎

五男 佐藤五郎

二女 島田和子

長男 佐藤一郎(昭和三一年四月六日死亡)の長女佐藤幸子、二女佐藤良子、長男佐藤弘安

であり、その法定相続分は、

佐藤タミは配偶者として1/3であり、佐藤二郎、木原三郎、佐藤四郎、佐藤五郎、島田和子は直系卑属として各2/3×1/6 = 1/9であり、また佐藤幸子、佐藤良子、佐藤弘安は直系卑属佐藤一郎の代襲相続人として各2/3×1/6×1/3 = 1/27である。

第三、相続財産の範囲およびその価格

本件記録中の申立人ならびに相手方らの各審問ならびに当庁調査官調査の結果、および鑑定人柳渡慶一郎の鑑定によると、相続開始時の相続財産の範囲およびその価格は、別紙相続財産目録の各該当欄記載のとおりであつて、この点については申立人および相手方ら全員において、意見が一致している。(鑑定人柳渡慶一郎の鑑定書によると、○○郡○○村大字○○○二八地割一六五番の一字○○○○田五畝歩については鑑定命令がないため、その価格が記載されていないが、全相続人は右田を金一〇万五、〇〇〇円と算定することについて異論がない。)なお、

(イ)  ○○郡○○村大字○○○二八地割七四番の一字○○○○

一、田 三畝二五歩

(ロ)  同郡同村大字○○○二八地割七四番の二字○○○○

一、田 一畝歩

の二筆は、相続開始当時登記簿上被相続人佐藤忠吉の所有名義となつているが、これらはいずれも忠吉の生存中同人が、○○○土地改良区の施行した堤防築堤の提供地として提供し、その補償金の交付を受けて、所有権は、(イ)の土地については件外大石栄作に、また(ロ)の土地については件外山中茂平に移転していたが、手続上の都合で登記手続未了になつていることが認められ、これが相続人全員に異論がない。また相続開始当時被相続人佐藤忠吉が耕作していた件外佐藤新一の所有地

(イ)  ○○郡○○村大字○○○一七地割八二番字○○

一、畑 二反七畝九歩の内七畝九歩

(ロ)  同郡同村大字○○○一七地割一五二番の内一一号字○○

一、山林(現況果樹園)五反九畝二七歩の内二畝歩

(ハ)  同郡同村大字○○○二八地割二八番の二字○○○○

一、原野(現況畑) 七畝八歩の内三畝歩

の耕作権は相続開始後、相続人佐藤五郎、同佐藤弘安の母佐藤サダが所有者から返還の請求を受けたので他の相続人と相談の上返還しており、遺産の範囲としないことについては相続人全員で同意をしている。

次ぎに、被相続人佐藤忠吉の所有していた動産中には一部滅失したものがあり、現存している動産は各相続人において適宜配分し、使用している状況にあるので、相続人全員が現在の占有使用に応じて、その所有権を認めることに意見が一致して動産は相続財産より除外することを希望しているので、これを含めないものとする。

さらに、被相続人佐藤忠吉には、○○村役場に対する公租公課や○○○農業協同組合に対する債務等合計金二九万三、六四八円の金銭債務を負担していて、相続人らはこれを積極財産より控除して遺産分割することを希望しているが本件の如き可分な相続債務は相続開始と同時に当然各相続人に相続分に応じて分割承継されるべきもので、遺産分割は、相続財産中の積極財産のみを対象とすべきで、積極財産より消極財産を控除した残余財産について行われるべきものではないと解するを相当とする。

第四、特別受益

本件記録によると、相続人らにおいて被相続人から遺贈を受け、または婚姻、養子縁組のため、もしくは生計の資本として贈与を受けた者がいないことが認められ、申立人および相手方全員においてこの点についての意見は一致している。

第五、相続分の算定

相続開始当時における相続財産の価額の総計は、別紙相続財産目録記載のとおり不動産価額合計1,654,000円および小作権価額18,000円と、預金債権合計51,586円の総計額で1,723,586円である。

これを各相続人の相続分に対応させて計算すると、

妻タミの相続分は1,723,586円×1/3 = 574,527円  直系卑属佐藤二郎、同木原三郎、同佐藤四郎、同佐藤五郎、同島田和子の相続分は各1,723,586円×2/3×1/6 = 191,509円

代襲相続人佐藤幸子、同佐藤良子、同佐藤弘安の相続分は各1,723,586×2/3×1/6×1/3 = 63,836円

と、それぞれ算定される。

第六、各相続人の生活状態および分割についての希望

佐藤タミ(明治三八年一一月二八日生)は、昭和二九年一〇月一日忠吉に後妻として嫁し、忠吉死亡後はサダやその子供達と本件家屋に居住し、忠吉の遺産である田畑を耕作して生活しているが、同女には忠吉との間に子供がないし、○○郡○○村に実兄がいるだけで○○村附近に親族はいない。タミは、遺産のうち建物については、他の相続人との間の折合いがかならずしも良くないので、現住居で生活する気はないが、農地について現物分割を希望し、自ら耕作して収入をあげ、これで生活する必要から田二反歩位を希み処分することは考えていない。

佐藤幸子(昭和二三年一一月一一日生)佐藤良子(昭和二六年三月三〇日生)佐藤弘安(昭和二九年一月二二日生)は、いずれも親権者母佐藤サダの親権に服し監護養育されて本件家屋に居住している。幸子は昭和三九年四月中学校を卒業して○○市内の洋服店に洋裁見習いとして通勤し、月六、〇〇〇円の給料のうち一、〇〇〇円を貯金し残りは交通費や交際費に使用している。良子は現在中学三年生、弘安は小学校六年生である。サダは、昭和二三年三月三〇日忠吉の長男一郎と婚姻し爾来忠吉やその子らと同居して来たが、被相続人死亡後はタミ、五郎と一諸に遺産の農地を耕作する傍ら日雇等で生活を維持して昭和三九年八月頃から○○市内の洗濯屋に月八、〇〇〇円の給料で店員として働いていて、○○村附近に農業を営んでいる兄弟がある。

サダの遺産の分割についての意見は、数回にわたり変更しこれが本遺産分割の協議または調停の調わなかつた理由であるが、同女は現時点において遺産を分割することには反対で、息子の弘安が成年に達するまで遺産分割を延期し、弘安が成年になつた時同人の意見に基づいて分割することを希望する。現在どうしても分割するのであれば、三人の子供が成長するまでの生活の必要上、最良の田二筆を希望し、この子供達の相続分を超える場合には、超過分を金銭で支払いたいが現金がないので子供達が成長した時に同人らの協力を得て支払いたいのでそれまで猶予して分割支払の方法を希む、宅地建物は希望しない。サダ以外の特別代理人は独自の意見を持たず、全てサダの意見に同調している。

佐藤二郎(大正一三年一一月二〇日生)は現在警察官として○○市に居住し○○警察署に勤務して将来も農業を営む意思はない。法定相続分に応じて分割し、一旦自分が相続した上、相手方佐藤五郎に譲渡する意思である。

木原三郎(大正一五年一一月一五日生)昭和二四年七月二九日件外木原富造、ミヤの婿養子となり、同家の人達と同居していたが、昭和四〇年頃、田五歩と畑一反歩の贈与を受けて分家し、農業の傍ら雑貨商を営み生活は安定して、遺産の農地で農業をする意思はなく、遺産の配分を受けて一応相続した上佐藤五郎に贈与する考えである。

佐藤四郎(昭和四年一月二日生)現在競輪選手をして約六万〇、〇〇〇の月収があり、生活は安定し農業を営む意思はない。遺産については分割によつて取得するものは一旦相続して佐藤五郎に贈与する意向である。

佐藤五郎(昭和一〇年三月二五日生)被相続人佐藤忠吉生在中からその妻タミおよび嫂サダと農地を耕作していたが、忠吉死亡後妻帯し、現在はタミやサダと折合わず遺産の建物を出て附近の消防団屯所の一家に居住している。農業経営を希望し、忠吉死亡後も農地を他の相続人と耕作する傍ら、昭和三八年一一月頃から○○市内の醤油店に月一万〇、〇〇〇円の給料で通勤稼働していて将来も本件の農地で農業に従事する意思がある。

島田和子(昭和一四年一二月三〇日生)昭和三五年八月一〇日件外島田昌男と婚姻し、夫は○○市内の○○工業所に勤務し、婚家先は田一町歩と畑三反歩を保有して生活は安定している。遺産のうち取得分は佐藤五郎に贈与する予定である。

第七、分割についての当裁判所の判断

被相続人佐藤忠吉の遺産のうち、主要なものでかつ、遺産分割の対象となるのは、田六反四畝一二歩と畑五畝歩(小作地)山林一反一畝三歩に居宅とその敷地であるが、その耕作面積はこの附近における専業農家の耕作保有面積に比して、狭小ということができ、所謂小農に位置するものと思われ、分割前の状態においても専業としての農業経営が可能であるとは考えられない。ましてこれを各相続人の希望に副い、全員に現物で分割することとするならば細分化されて各相続人には極めて僅少の農地を取得することになり専業農家としてはもとより兼業農家としても成りたたないものと認められる。

次ぎに相続人の中には前記のとおり現在の職業、環境、生活状態より観て、農業経営が困難ないしは希望しない相続人がおるが、これらの者に農地を分割取得されることは特段の事由がある場合は格別この事由のない本件においては妥当でなく取得分に対応する金銭の支払をもつてこれに代えるのが相当であると考える。そうすると、相続人中農地を取得する適格者は、佐藤タミ、佐藤一郎の代襲相続人である幸子、良子、弘安と佐藤五郎の三名となるがこれらの事由を基本として各人について検討する。

佐藤タミは、現在六〇歳の高齢で現在および将来にわたつて農業を営む能力は少なく、また子供もおらず附近に同人を援助扶養してくれる親族も見当らないのであるから、現在地に居住すべき要素は少ないし、また同人にとつては今後生活すべき場所とそれに必要な備品を調達することが先決であり、また将来の生活に備えて現金を持つていることは不可欠のことと考えられる。しかしタミは農地を処分する考えはなく、また将来の生活のためにも田は必要であるという。

なるほど、タミが現在地に生活の本拠を置き遺産の田を耕作して、自己の飯米を確保しつつ、日雇または他の農家の手伝い等によつて得る収入で今後の生活を維持していくことも考えられ、さらに他の相続人にはタミの相続分全部を現金に代えて支払う能力をもつ者もいないので、遺産のうち、別紙第二目録記載の田二筆をタミの所有とし、残余を金銭にて取得させるのが相当であると認める。そうすると、同女の相続分は574,527円であるから田二筆の価格283,500円を控除した291,027円を他の相続人より支払を受けさせることとする。

佐藤幸子、良子、弘安はいずれも母佐藤サダの親権に服して一家族として生活しているが、幸子は既に学校を卒業し○○市内に勤務しており、良子も来年四月には中学校を卒えて○○市内で職に就くことも充分予測することができ、又サダも○○市内で店員として働いている。さらに、各人の相続分は1/27で三名合計しても1/9に過ぎず、これを遺産の現物で取得させることにすると僅か一反歩以下の田一筆が対象となるのでこの細分化された農地を基礎として、将来農業を営むことはこれらの相続人が本遺産以外独自に農地を所有していない現段階ではあまりあり得ないこと、従つて弘安も将来この地で農業を経営するより他地で就職する可能性が強いと思われる。そうすると本遺産の分割に当つてはこれら相続人の将来における就職先が重要な要素となるが、差し当つて、弘安は未だ小学校六年生で就職まで相当の期間があること、およびサダには附近に援助を求められる親戚(農家)があつてそこに身を寄せて子供の成長を待つことが充分考えられるので、その間における生活を維持する必要上農地を取得させることは必ずしも無意味なこととは考えられない。そうすると各相続人の相続分は63,836円でこれを三名合計すると191,509円となるので別紙第三目録記載(イ)の田の所有権および(ロ)の小作地を取得させてこれを三名の各1/3の持分を有する共有地とし、残余は金銭にて取得させるのが相当であると認める。そうすると、三名の合計相続分は191,509円であるからこれより現物の取得価格183,900円を控除した7,609円を現金で支払を受けることになるがこれは金銭なので各相続人に分割し各2,537円を取得することになる。

佐藤二郎、木原三郎、佐藤四郎、島田和子は、それぞれ農業を経営する意思がなく相続分を相続の上佐藤五郎に贈与する意向であるから現物に代え金銭の支払を受けさせることとするのが相当とするところ、各人の相続分は191,509円であるからこれを他の相続人より取得させることとする。

佐藤五郎はこれまで農耕に従事し、将来も農業を営む意思があり、また佐藤二郎らの兄弟が取得分を五郎に贈与する意向であることを考慮して、佐藤タミおよび佐藤幸子、佐藤良子、佐藤弘安に取得させた以外の田全部を同人の所有とすることにし、また宅地建物、山林道路および預金債権は右農業経営に必要な附属施設または物件として、これに附帯取得させることとする。そうすると同人の相続分は191,509円であるが、これら諸物件の価格の総計は1,256,186円となるので、相続分を控除した残額1,064,677円は、超過分として他の相続人に支払わなければならないので、このうち、

佐藤タミには291,027円を、

佐藤幸子、佐藤良子、佐藤弘安にはそれぞれ2,537円を、

佐藤二郎、木原三郎、佐藤四郎および島田和子に対しては、それぞれ191,509円を

支払わせることにし、円未満の端数計算上生じた三円は佐藤五郎に取得させることとする。

よつて申立費用について、非訟事件手続法第二七条を適用し主文のとおり審判する。

(家事審判官 岡田潤)

目録 省略

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例