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盛岡家庭裁判所 昭和42年(少)400号 決定 1967年5月17日

少年 N・K(昭二二・五・二七生)

主文

少年を盛岡保護観察所の保護観察に付する。

理由

(非行事実)

少年は、N・R(当時四五年)の長男であるが、幼児の頃から父が勤労の意欲なく毎日の如く飲酒の上家族に乱暴狼藉しかつ近隣に迷惑をかけていることを見聞して成育し、このような父に対し嫌悪とあきらめの情を抱いていたところ、昭和四二年二月○○日午後一一時五〇分頃釜石市○○町○○地割○○○の○の自宅六畳間において父N・Rが母U・D子と些細なことから夫婦喧嘩し「お前達はこの家から出て行け、出て行かなかつたら石油を撤いて火をつけ皆殺しにしてやる」と玄関にあつた灯油入り一八リットル缶を同所に持ち込み灯油を撤く勢いを示したので同人を玄関に押し出そうとしたところ、自ら頭上より全身に灯油を浴び更に屋内に撒き点火する勢を示す父に対し、同人をこらしめるため火をつけることを決意し、自宅玄関先空地において、玄関棚から持ち出したマッチで同人の頭髪および着衣に点火し、よつて全身に及ぶ火傷を負わせ、同月△△日午後一〇時二五分同市○町○丁目○番○号○○市民病院において死亡するに至らしめたものである。

(法令の適用)

尊属傷害致死 刑法第二〇五条第二項

(処遇)

少年の家庭環境、生活史、学業・職業関係、性格、行動傾向、近隣交友関係、心身の状況および少年の保護・矯正のために利用できる社会的資源等は、当裁判所調査官川熊芳男が本件について作成した少年調査票記載のとおりであるから、その記載を引用する。

少年を主文掲記の処分に付する理由は次のとおりである。

一、本件非行は罪質とその結果は極めて重大であるが、被害者である父の突然の異常行動に興奮し、突差にしかも夢中で行われたものであり、何ら意図的計画的な行動ではなく、発作的、防衛的、反射的行動として行われたものである。

二、父はアルコール中毒、精神病質で多くの前科もあり、未だ四五歳でありながらまじめに稼働せず、生活扶助と少年の働らきにたより、酒をのんでは本件時におけるような異常な暴行を家族に対してくり返し、その人格は崩壊していたと認められ、本件は背景的遠因としては、多年にわたるそのような父の異常行動に対する少年の不満の蓄積があつたと考えられる。

三、少年はまじめで仕事に熱意があり、平生は思慮深く自制心も強く、職場でも信頼され、家庭でも長男としての自覚から父母を助け、弟妹の面倒もよくみていたので近隣の評判も、誰一人少年を悪くいうものはなかつた。

四、本件非行は結果的には重大な結果をもたらし、父権の強い朝鮮人同胞に特に強い衝撃を与え、少年の従来の職にとどまることは殆んど不可能と考えられ、今後の職業の問題と家族の生活の不安が残されている。

五、このため、本件の結果の重大性とそれに対する少年の社会的責任の自覚の喚起、少年の今後の職場社会への適応、家庭生活に対する専門的継続的指導助言が必要と認められる。

よつて、少年法第二四条第一項第一号、少年審判規則第八七条第一項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 白石悦穂)

参考一 少年調査票<省略>

参考二 鑑別結果通知書<省略>

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