盛岡家庭裁判所 昭和48年(家イ)207号 審判 1974年1月10日
申立人 土屋俊守(仮名)
相手方 安藤美代子(仮名) 外一名
主文
一 申立人と相手方安藤美代子間の香川県高松市長に昭和四〇年六月一五日届出た婚姻および昭和四七年三月三〇日届出た協議離婚はいずれも無効であることを確認する。
二 申立人と相手方安藤勝間に親子関係が存在しないことを確認する。
理由
一 申立人は、主文同旨の調停を求め、その実情として次のとおり述べた。
(1) 申立人は、昭和四八年三月上旬海外渡航手続の必要から戸籍謄本の下付を受け、これを閲覧したところ、昭和四〇年六月一五日相手方安藤美代子との間に婚姻届がなされているうえ、昭和四〇年六月三日長男として相手方安藤勝が出生した旨の届出および昭和四七年三月三〇日相手方安藤美代子と相手方安藤勝の親権者を相手方安藤美代子と定めて協議離婚した旨の届出がなされていることを発見した。
(2) しかし、申立人は相手方安藤美代子とは一面識もなく、もちろん婚姻、協議離婚、長男出生の事実もない。
(3) よつて、申立人は本調停申立におよんだが、最近健康を害したばかりか、繁忙で長期間の旅行は不可能な状況であるので、当裁判所で処理してほしい。
二 そこで、当裁判所は申立人の事前調査を当裁判所調査官に命じるとともに、相手方安藤美代子についての調査を高松家庭裁判所に嘱託して、同相手方の意見を調査したところ、同相手方は、申立人と一面識もなく、婚姻・同棲、協議離婚、長男出生の事実もないこと、これら申立人の戸籍上の操作は申立外松宮一夫(申立人の従兄弟にあたる)との間にできた婚姻外の子相手方勝(昭和四〇年六月三日生)を婚姻内の子と仮装するために行なつたものであること、したがつて、申立どおりの審判を受けることに異存はないが、遠隔地であることと健康上の理由でとうてい当裁判所の調停ならびに審判に出頭できないので、委任状を作成するから適当な代理人を選任して処理してほしい旨述べたことが認められる。
そして、昭和四八年一二月一八日午後一時当裁判所において調停委員会を開き、申立人は、前記申立の趣旨および実情のとおり陳述したが、相手方は、病気療養中であるうえ遠隔地でもあり、幼い子供を一人にして出頭できかねるので、よろしくお願いするとの手紙をよこしたまま出頭しなかつたため、家事審判法二三条所定の調停は成立せず、形式上同条所定の合意は得られなかつた。
三 ところで、本件の原則的管轄裁判所は相手方らの住所地である高松家庭裁判所であるが、本件を処理するために特に必要があるものと認めてこれを当裁判所で処理することにする。
また、本件は家事審判法二三条に該当する事件であるが、このように事実関係について全く当事者間に争いがなく、実質的には合意が成立しているものとみられる場合には、これを訴訟手続に移行させることは無駄でさえあり、事実の調査など慎重な手続を履践したうえ同法二四条によつて処理することができると解するのが相当である。
本件記録中の関係戸籍謄本、当裁判所調査官および高松家庭裁判所調査官の各事件調査報告書、申立人本人審問の結果を総合すれば、申立人が事件の実情として述べていることはこれをすべて肯認することができるので、当事者の利益を衡平に考慮し、かつ調停委員の意見を聴いたうえ、家事審判法二四条一項により、主文のとおり審判する次第である。
(家事審判官 北沢貞男)