盛岡家庭裁判所 昭和53年(少ハ)2号 決定 1978年7月19日
少年 Z・H(昭三五・一・四生)
主文
少年を中等少年院に戻して収容する。
理由
(1) 東北地方更生保護委員会は少年を少年院に戻して収容すべき旨申請するところ、その申請の理由はつぎのとおりである。
少年は、昭和五三年三月一七日置賜学院(中等少年院)を仮退院し、盛岡市○○××番地の××の父Z・Zのもとに帰住し、盛岡保護観察所の保護観察に付されていたものであるが、
1 昭和五三年四月一〇日から五月二八日まで盛岡市所在○○ホテルに雑役として勤務したが、その間一五日間程欠勤し、五月二九日から配置換になつた○○サービスエリヤも三日間稼働してやめ、六月一九日就職したレストラン「○○」も三日間稼働してやめたが、仮退院当初から勤労意欲乏しく、無為徒食しては不良の友人と夜遊びや飲酒遊興にふけり、
2 六月三日、飲酒のうえ無資格で父の原動機付自転車を運転して、ガードレールに衝突し、右足擦過傷の交通事故を惹起し、
3 六月四日、自宅や外出して飲酒したうえ深夜帰宅し、父と口論し、大声で怒鳴つたり、戸、障子を投げつけたりし、
4 六月一三日、盛岡保護観察所において呼出、指導を受け、帰宅後、自宅で中学二年生Aとボンドを吸引し、家人が注意したところ、危害を加える態度を示したため、家人が警察に連絡し、警察官の補導を受けたが、同月一八日にも、ボンドを吸引し、同様の経緯で警察官の補導を受けたが、その都度家人に対し警察官に連絡したことを非難し、怒鳴り散らしては乱暴したが、その後も連日のようにボンドを吸引し、
5 仮退院後の一般行状は、仮退院後まもなく採用決定になつた食堂「○○」も雇主から調髪を指示されたことを理由に断わり、○○ホテルにはタクシーで通勤するなどして浪費したほか、母を強要して得た合計三〇万円位をボンド購入や飲酒遊興などに費消し、その間両親の指導には全く従わず、連日飲酒したり、ボンドを吸引したりしては家人を威嚇したり、乱暴したりし、保護観察担当者の再三の指導にも従わなかつた
ものであり、以上の事実は、犯罪者予防更生法三四条二項所定の一般遵守事項一号、二号、三号ならびに同法三一条三項の規定による特別遵守事項三号(ボンド等は絶対に吸引しないこと)、四号(早く仕事に就いて辛抱強く働くこと)五号(悪友の誘惑に負けないように注意すること)、六号(担当保護司の指導助言に従うこと)に違背するものであり、少年は保護観察によつては改善更生をはかることは極めて困難であり、少年院に戻して、その矯正教育に委ねるのが相当と認められるので、本申請に及ぶ。
(2) 本件関係記録、本件申請についての家庭裁判所調査官の調査報告書および審判廷における少年の陳述によると、少年は、昭和五二年一〇月六日、当裁判所において、ボンドを吸引したことや、別件による保護観察中、定職に就き真面目に働くこと、シンナー、ボンドを吸引しないことの特別遵守事項に違反し、自己の徳性を害する行為をくりかえしたことにより中等少年院(短期)に送致する決定を受け、置賜学院に入院し、同五三年三月一七日仮退院して、父のもとに帰住し、盛岡保護観察所の保護観察に付されたが、その後の少年の行状は本件申請の理由挙示のとおりであることが認められ、上記1の事実は犯罪者予防更生法三四条二項所定の一般遵守事項一、二、三各号、仮退院に際し定められた前示特別遵守事項四、五、六各号に、上記2および3の事実は一般遵守事項二号、特別遵守事項六号に、上記4の事実は一般遵守事項二号、特別遵守事項三、六各号に、上記5の事実は一般遵守事項一、二各号、特別遵守事項四、六各号に、それぞれ違背することが認められる。
ところで、少年が前示のような行状に及んでいるのは、少年が家庭裁判所調査官に対しあるいは当審判廷において、仮退院後働くつもりはあつたが、小さいころから母に金をねだると直ぐくれたのが習慣になつていて、母に言えばくれると思つていたので働く意欲をなくした、友人に誘われると、その日くらい休んでもよいと思つてしまつたり、断わり憎くなつて休んでしまう、ボンドは吸わなければいられないということはないが、暇があるので吸つてしまう、と供述しているように、自分の生活態度に対する反省が十分でなく、従前からの怠惰な生活習慣が抜けきらず、一方、少年自身述べているように、仮退院後稼働意欲が兆しはじめている面が窺われるのであり、長年培われた遊興志向性の赴くところによつたものとはいえるが、その性向と内心の自覚されない自己改善意欲との相剋による情緒不安定にも一因があるといえる。
なお、少年は、少年院の処遇が自分にプラスになつたかマイナスになつたか感ずることはない。少年院に行けと言われれば行くが、行つても特に変ることはないと思う、少年院でやれることは社会内でもやれる旨述べ、父母も、少年院に行つても更生することはないと思うので、収容には反対である旨の意向を示している。ただ、一方で、少年は、少年院に入つたことにより自分を見つめることはあつた旨述べている。
以上によると、少年は、自覚しているかどうかは別として、自分を客観的に見るようになつたといえるが、怠惰な生活習慣が固定化しているため、改善意欲が現実になるにいたつていないといえるのである。そして、家庭に少年に改善意欲を起こさせる役割を期待できず、他に適当な社会資源も見出せず、保護観察による処遇もその限界を越えているといえる。してみると、少年の健全な育成のためには、この際、規律ある集団的生活の場において、自己認識の確立と社会的生活規範の体得をはかり、それを通じて、自覚的に自己改善意欲を喚起させることが必要であると思料される。ただ、それには一応短期処遇で足りると思われる。
よつて、本件申請は理由があるから、少年を中等少年院に戻して収容することとし、なお短期処遇を行うことを勧告し、犯罪者予防更生法四三条一項、少年審判規則五五条、三七条一項、少年法二四条一項三号を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 濱野邦)