盛岡家庭裁判所 昭和56年(少)835号 決定 1982年4月30日
少年 H・K子(昭四三・三・四生)
主文
少年に対し強制措置をとることは、これを許可しない。
少年を盛岡保護観察所の保護観察に付する。
理由
(非行事実)
少年は、中学三年生であるが、昭和五五年八月二九日から同年九月三日まで、通学中の学校を欠席し、自宅から現金を持ち出して家出し、盛岡市内を徘徊、不良交遊等したことから、保護者が岩手県中央児童相談所に相談し、同年一〇月二日より観察判定のため一時保護の入所措置をとられたところ、同所から在所中のA子と共に同月一六日から二五日までと、一一月一日から三日までの二回にわたり逃走したものの、児童及び保護者の施設収容に対する同意が得られなかつたことにより同月四日右措置が解除され在宅補導とされた。
ところが、その後も怠学、家出、不良交遊等が改まらず、昭和五六年二月八日から一一日まで、五月二五日から二八日までとそれぞれ怠学のうえ、無断外泊、盛岡市内の歓楽街を徘徊し、この間同年二月一一日午後〇時三五分ころ同市○○通×丁目××番×号株式会社○○店売場において、A子と共謀のうえ、トレーナ二着外一点(時価合計六、八七〇円相当)を、同年六月三日午後四時ころ少年B子と共謀のうえ同店売場においてバツク一個(時価一、九〇〇円相当)をそれぞれ、盗む等、保護者及び学校教師の正当な監護に服さず、自己又は他人の特性を害する行為を行なつていたものであつて、このまま放置すれば、少年の性格、環境、行状等に照らし、性に関する非行並びに生活に窮するの余り窃盗等の犯罪を犯すおそれがあるものである。
(適用法令)
少年法三条一項三号イ及びニ
(主文のとおり決定した理由)
一 本件送致事由の要旨は、上記非行事実のとおりであつて、強制措置をとりうる教護院国立きぬ川学院へ収容するのが相当であるというものである。
そこで本件記録、少年調査票、及び審判の結果によれば、上記の非行事実を認めることができ、右事実からすれば、強制措置をともなつた教護院へ収容することも、あながち不必要、不当な措置であるとは思われない。
二 ところで、本件送致は、岩手県中央児童相談所が本少年につき児童福祉法二七条の二、少年法六条三項により強制措置の許可を求めている(本件送致書)が、予備的に児童福祉法二七条一項四号、少年法三条による審判をも求めていると解される(昭和五六年七月三日付電話聴取から認められる。)ので、当分の間、少年の行状、傾向等を観察すべく、同月七日当裁判所調査官の試験観察に付する旨の決定をなした。
その結果は、同調査官の試験観察報告書によれば試験観察は、昭和五七年四月三〇日まで続けられたが、月一回の調査官面接には、必ず出頭したものの、夏休み中、両親の叱責を契機に少年の姉H・N子及び少年が在籍する中学校の三年生女子少年二名(いずれも、当裁判所に係属歴あり。)と家出、市内徘徊を数回し、家にいる時も、理由なく学校を欠席、早退する等、行状の著しい改善は認められず、保護者らもなすすべがない状況にあつた。以上のような経緯からすれば、いきおい、少年を強制措置をともなう教護院収容の処置が適切なものであると考えざるを得ない。
しかしながら、少年に対する前掲の資料に鑑別結果通知書も併せ総合すると、次の事実が認められる。
1 少年は、観光バスの運転手である父のもとで兄姉と三人兄弟の末子として盛岡市で生れ、職業柄父は不在が多く、多干渉、過保護な母の手で育てられたため、欲求不満耐性が培かわれず、協調性を欠く我ままな性格であつたが明るい性格の子供として成長してきた。その後、小学校三年生の時、家族が比較的田舎である現住所地への転居に伴い転校したが、都会的服装等の雰囲気で通したため、少年はもとより家族も近隣と融和できず、少年は学校において、疎外ないし苛められるといつた事情から、しだいに登校拒否的素地が生じたものと考えられる。しかし、小学校の間は、とりたてて問題視するような行状は認められなかつた。
ところが、中学に入り、一年生の二学期から家出、不良交遊等の問題行動を起こすようになつた。その主たる要因は、少年の幼児的甘えと怠惰な性格に、学力不足も加わつて、夏期休暇中の宿題を怠つたため、登校しづらい気持にあつたところ、たまたま母の注意に藉口して無断外出、外泊した際、盛岡市内での不良仲間との交遊体験に強く魅せられたことから、再三家出して不良交遊、市内徘徊することとなつたのであつて、少年には不良交遊はあるものの、性交渉はなく、特定の男子との交際もなく、家庭を嫌つている訳でもないことから、市内を徘徊したいための家出、怠学であつて、根の浅い一過的問題行動と窺われないわけではないこと。
2 一時保護中の児童相談所からの逃走二回は、いずれも在所中のA子と、自宅ないし学校からの家出は、一学年上級の姉および前記の女子少年二名と共になしたものが殆んどであつて、少年はこれらの者に追従したものと認められ、これらの者がいなければ、単独で家出を実行でき難い傾向にあると窺われるところ、これらの者は、現在、学校を卒業し各方面に向つており、少年との関係が断絶ないし疎遠となつていること。
3 少年には、非行事実に掲げた盗み以外、これまで全く窃盗、シンナー等の犯罪はなく過しており、右の盗み行為も、共犯少年に誘発され、追従したものであつて好奇心ないし共犯少年に同一化するための虚勢行動と認められ、少年の反社会性はさほど強くないこと。
4 少年の家庭は、示範性に欠けるものの、少年が家出した時には、全員が協力して各方面を捜し回り、少年と交遊した者に対しては、厳しく交際を絶つよう交渉する等、なみなみならぬ努力と熱意を払つていることから、少年を盲愛している嫌いはあるが、少年の監護に異常な熱意を示していることが窺われかつ本件の審判においても、施設収容には強く難色を示していること等から、少年と家族の愛情の結び付きが非常に強いと認められること。
5 少年は、現在中学三年生になり、担任教師も変り、前述のとおり交友関係も変つたうえ、兄嫁が同居することとなり、周囲の環境も変化したことに加え、本件につき、鑑別所入所、試験観察、審判等の種々の措置ないし働きかけにより、わずかながらも自己の立場とその影響を理解しつつあると窺われること。
以上の事実に、少年がこれまでに教護院等に収容されたことがないこと、収容保護の実を挙げるためには、保護者の理解と協力が必要なところ、前述のとおり保護者は収容に対し、一貫して反対の態度を示しているうえ、国立きぬ川学院が遠隔地にあつて面会等の交渉にも困難が予想されること等諸般の事情を考慮すると、この段階で保護者と隔絶して強制措置をともなつた教護院に収容するよりは、今一度、少年を監護の意欲が十分認められる保護者に委ね、愛情による行動の改善を図らせることが相当であると認め、少年に対する強制措置を許可しないこととする。
三 しかし、保護者の監護能力には、前述のとおり、いささか不安があるうえ、これまでに、保護機関の指導援助を拒否し、家族のみで指導しようとした経緯があつたこと、学校と保護者の意思疎通が十分でなかつたこと等の事情に鑑みれば、第三者の適切な指導援助が必要と認められるので、相当期間保護観察に付するを相当と認め、少年法二四条一項一号、少年審則規則三七条一項により、主文のとおり決定する。
(裁判官 堀満美)