大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

知財高等裁判所 平成17年(行ケ)10343号 判決 2005年7月19日

原告

サントリー株式会社

訴訟代理人弁護士

青柳昤子

被告

特許庁長官 小川洋

指定代理人

粟津憲一

溝渕良一

岡田孝博

井出英一郎

主文

特許庁が異議2003-72281号事件について平成16年9月7日にした決定のうち,請求項1,6ないし8,10に係る特許を取り消した部分を取り消す。

訴訟費用は各自の負担とする。

事実及び理由

第1原告の求めた裁判

主文第1項と同旨の判決。

第2事案の概要

本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,特許異議の申立てを受けた特許庁により本件特許のうち請求項1,2,6ないし8,10に係る特許を取り消す旨の決定がされたため,同決定の取消しを求めた事案である。

1  前提となる事実等

(1)  特許庁における手続の経緯

(1-1) 本件特許

特許権者:サントリー株式会社(原告)

発明の名称:「飲料水のディスペンサ」

特許出願日:平成4年7月24日(特願平4-197924号)

設定登録日:平成15年1月10日

特許番号:第3387526号

(1-2) 本件手続

特許異議事件番号:異議2003-72281号(請求項1,2,6ないし8,10に係る特許についての特許異議の申立て)

訂正請求日:平成16年6月8日(本件訂正請求)

異議の決定日:平成16年9月7日

決定の結論:「訂正を認める。特許第3387526号の請求項1,2,6ないし8,10に係る特許を取り消す。」

決定謄本送達日:平成16年9月29日(原告に対し)

(2)  決定の理由の要旨は,請求項1及び2に係る各発明は,刊行物1(実願昭63-90527号(実開平2-15500号公報)のマイクロフィルム)に記載された発明と同一であるから,それら発明に対する特許は,特許法29条1項3号の規定に違反してなされたものであり,また,請求項6ないし8及び10に係る各発明は,刊行物1及び2(実願昭59-135685号(実開昭61-50596号公報)のマイクロフィルム)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,それら発明に対する特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものである,というものである。

(3)  決定が対象とした発明の要旨は,別紙「① 決定が対象とした発明の要旨」(本件訂正請求後のもの。甲3,4)のとおりである。

(4)  原告は,本訴係属中の平成17年1月24日,本件特許につき,特許請求の範囲の減縮等を目的として,訂正審判の請求をしたところ(訂正2005-39013号。「本件訂正審判」,甲13,14),同年6月2日,当該訂正を認める旨の審決があり(甲15),その謄本は同年6月14日に原告に送達され,訂正審決は確定した。

(5)  上記訂正審決による訂正後の発明の要旨は,別紙「② 本件訂正審判後の発明の要旨」のとおりである。

2  原告主張の決定取消事由

決定は,請求項1,2,6ないし8,10にかかる発明の要旨を,別紙「① 決定が対象とした発明の要旨」のとおりに認定し,これに基づき,前記のような理由により,これらの発明に係る特許を取り消すべきものと認定判断した。

しかしながら,上記請求項1,6ないし8,10について,特許請求の範囲の減縮等を目的として,別紙「② 本件訂正審判後の発明の要旨」のとおりに訂正を認めるとする本件訂正審決が確定したことにより,決定は,結果として,判断の対象となるべき発明の要旨の認定を誤ったことになる(なお,訂正前の請求項2は削除され,訂正前の請求項3ないし10は,それぞれ請求項番号が1項ずつ繰り上げられて請求項2ないし9となった。)。この誤りが,決定の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

第3当裁判所の判断

本件証拠及び弁論の全趣旨によれば,第2の1に記載の事実関係を認めることができ,決定の取消しを求める本訴の係属中に,当該特許権について特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正を認める審決が確定したものといえる。そして,被告の主張は,原告主張の事由により決定を取り消すことを争う趣旨ではない(本訴において,訂正を認める審決の確定後においても本件特許が特許の要件を欠くなどという主張をするものではない。)。

当裁判所は,本件事案にかんがみ,決定を取り消すのが相当であると判断し,原告の請求が理由があるものとしてこれを認容し,訴訟費用の負担につき行訴法7条,民訴法62条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塚原朋一 裁判官 田中昌利 裁判官 佐藤達文)

別紙

① 決定が対象とした発明の要旨(全10項であるが請求項3ないし5及び9の記載は省略。)

【請求項1】飲料水が詰められた容器から飲料水を配管系統を介して供給するディスペンサにおいて,雑菌の繁殖する可能性のある配管系統を熱により殺菌する装置を備えたことを特徴とするディスペンサ。

【請求項2】飲料水が詰められた容器から飲料水を配管系統を介して供給するディスペンサにおいて,上記配管系統中に飲料水を貯溜するタンクを有し,雑菌の繁殖する可能性のある配管系統及び貯溜タンクに,熱により殺菌する装置を備えたことを特徴とするディスペンサ。

【請求項6】請求項1乃至5に記載のディスペンサにおいて,熱により殺菌する装置が自動的に行われる装置を介してコントロールできることを特徴とするディスペンサ。

【請求項7】請求項1乃至6に記載のディスペンサにおいて,熱により殺菌する装置が,ディスペンサ中に設けられたヒータによる加熱装置であるディスペンサ。

【請求項8】請求項1乃至6に記載のディスペンサにおいて,熱により殺菌する装置が,熱水を通入させる装置であるディスペンサ。

【請求項10】請求項1乃至9に記載の飲料水が,ミネラルウォーターであることを特徴とするディスペンサ。

② 本件訂正審判後の発明の要旨(全9項であるが請求項2ないし4及び8の記載は省略。なお,従前の請求項2は削除され,従前の請求項6ないし8は請求項5ないし7に,従前の請求項10は請求項9にそれぞれ請求項番号が繰り上げられた。

下線部分が①と対比した訂正箇所。)

【請求項1】飲料水が詰められた容器に配管系統を接続し,上記容器から飲料水を配管系統を介して供給するディスペンサにおいて,上記配管系統中に飲料水を貯溜するタンクを有し,雑菌の繁殖する可能性のある配管系統及び貯溜タンクを,熱により殺菌する装置を備えたことを特徴とするディスペンサ。

【請求項5】請求項2乃至4に記載のディスペンサにおいて,熱により殺菌する装置が自動的に行われる装置を介してコントロールできることを特徴とするディスペンサ。

【請求項6】請求項2乃至5に記載のディスペンサにおいて,熱により殺菌する装置が,ディスペンサ中に設けられたヒータによる加熱装置であるディスペンサ。

【請求項7】請求項2乃至5に記載のディスペンサにおいて,熱により殺菌する装置が,熱水を通入させる装置であるディスペンサ。

【請求項9】請求項2乃至8に記載の飲料水が,ミネラルウォーターであることを特徴とするディスペンサ。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例