知財高等裁判所 平成17年(行ケ)10506号 判決 2008年2月21日
原告
日本電池株式会社承継人
株式会社ジーエス・ユアサ
パワーサプライ
訴訟代理人弁護士
内田敏彦
訴訟代理人弁理士
後呂和男
同
村上二郎
同
水澤圭子
被告
ウシオ電機株式会社
訴訟代理人弁理士
加茂裕邦
同
五十畑勉男
同
長谷川吉雄
主文
1 特許庁が無効2004-80158号事件について平成17年4月19日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文と同じ。
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
被告は,発明の名称を「誘電体バリア放電ランプ,および照射装置」とする特許第3346291号(平成10年7月31日特許出願(以下「本件出願」という。),平成14年9月6日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は2である。)の特許権者である(以下,設定登録時明細書及び図面(甲2)を併せて「本件明細書」という。)。
原告が,平成16年9月22日,本件特許の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とすることを求めて,審判請求(無効2004-80158号事件)をしたところ,特許庁は,平成17年4月19日に,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をした。
2 特許請求の範囲
本件明細書の特許請求の範囲請求項1及び2の記載は,次のとおりである(以下「本件発明1」,「本件発明2」といい,これらを併せて「本件発明」ということがある。)。
【請求項1】「石英ガラスからなる放電容器の内部に誘電体バリア放電によってエキシマ分子を形成する放電用ガスが充填され,この放電容器の少なくとも一部に光透過性部分が形成されている誘電体バリア放電ランプにおいて,前記光透過性部分における非水素結合性OH基の割合が,全体のOH基に対して,0.36以下であることを特徴とする誘電体バリア放電ランプ。」
【請求項2】「誘電体バリア放電により放電容器内にエキシマが生成されて紫外線が放出される誘電体バリア放電ランプと,この誘電体バリア放電ランプを収納し,誘電体バリア放電ランプからの紫外線を取り出す窓部材よりなる照射装置において,前記窓部材は,石英ガラスよりなり非水素結合性OH基の割合が全体のOH基に対して,0.36以下であることを特徴とする照射装置。」
3 審決の理由
別紙審決書の写しのとおりである。すなわち,審決は,
(1) 本件出願前に「非水素結合性OH基の割合が0.48程度であり,真空紫外から赤外までの透過率特性に優れ,UVランプ材として適している石英ガラス」(以下審決と同様「石英ガラス F310 発明」という。)が公然実施されていたと認定した。
(2) そして,本件発明1及び2と「石英ガラス F310 発明」を対比して,一致点,相違点を以下のとおり認定した。
ア 一致点
「UVランプ材として適している所定割合の非水素結合性OH基を含む石英ガラス」の点。
イ 相違点1
前者が,「石英ガラスからなる放電容器の内部に誘電体バリア放電によってエキシマ分子を形成する放電用ガスが充填され,この放電容器の少なくとも一部に光透過性部分が形成されている誘電体バリア放電ランプ」であるのに対し,後者にはこのような誘電体バリア放電ランプの構成が示されていない点。
ウ 相違点2
石英ガラスに含まれる非水素結合性OH基の割合に関し,前者が0.36以下としているのに対し,後者は0.48程度であって,0.36以下という条件を満たしていない点。
(3) 相違点1については,当業者が格別の推考力を要することなくなし得る程度のことであると判断した(審決書21頁6行~24行,24頁13行~下から9行)。
相違点2については,本件発明1ないし本件発明2は,紫外線によるダメージを軽減するために石英ガラスに含ませるOH基の含有量があまりに多くなるとOH基自体による紫外線吸収によって早期に所望の放射量が得られなくなるという問題を解決することを技術的課題として,石英ガラス中の特定OH基の濃度が0.36より小さいという構成を採用し,これにより真空紫外光の石英ガラス自身による吸収を良好に抑えるとともに,紫外線照射によるダメージを軽減することができるという作用効果を奏するところ,石英ガラス F310 発明は,特定OH基の濃度が本件発明1ないし本件発明2と異なり,石英ガラスに含まれる特定OH基の割合を0.36以下とした点の上記意義を示唆するものではなく,この点が公然知られたものであるとも公然実施されていたともいえないから,当業者が容易に想到し得たものとすることはできないと判断した(審決書23頁19行~下から8行,24頁下から7行~同5行)。
第3取消事由に係る原告の主張
1 取消事由1〔公知技術に係る認定の誤り〕
審決は,「非水素結合性OH基の割合が0.48程度であり,真空紫外から赤外までの透過率特性に優れ,UVランプ材として適している石英ガラス」(「石英ガラス F310 発明」)は本件出願前に公然実施されていたと認定したものの,「石英ガラス F310 発明」を放電ランプの光透過性部分又は照射装置の窓部材に使用した「誘電体バリア放電ランプ」及び「照射装置」は本件出願前に公然実施されていたとはいえないと認定した。
しかし,審決の上記認定は,以下のとおり誤りである。
(1) 本件発明の「石英ガラス」の周知性
本件発明に係る「石英ガラス」は,甲3(審決における甲1)に記載の「SUPRASIL F310」等の合成石英ガラスが上記「石英ガラス」に含まれることについては,例えば甲12(ウシオ電機株式会社「エキシマVUV/O3洗浄装置」カタログ)の6枚目に記載されたエキシマ光照射装置UER 200-172のランプハウスの図面中に部材名として「合成石英ガラス」が記載されているように,当業者に周知である。
(2) 石英ガラスの非水素結合性OH基割合と紫外線照射との関係
ア 石英ガラス(「SUPRASIL F310」など)には,以下の特性がある。
(ア) 本件特許の特許請求の範囲(請求項1)記載の「石英ガラスからなる放電容器の内部に誘電体バリア放電によってエキシマ分子を形成する放電用ガスが充填され,この放電容器の少なくとも一部に光透過性部分が形成されている誘電体バリア放電ランプ」は,本件出願前から工業的に生産され,その放電容器に使用可能なガラスとして各種の石英ガラスが使用されていた(甲12)。
(イ) これらの誘電体バリア放電ランプを構成する石英ガラス又は窓部材を構成する石英ガラスは,誘電体バリア放電ランプが点灯されると,放電容器内部の放電用ガスから放射される真空紫外光を受けて光化学反応を生じ,その非水素結合性OH基の割合(以下,「特定OH基割合」という。)を比較的短時間で減少させる性質を有する(甲13,甲14)。
イ 特定OH基割合についての解析結果
紫外線ランプ用の石英ガラスとして市販されていた信越石英株式会社製の合成石英ガラス SUPRASIL F310(以下,単に「石英ガラス F310」という。)は,一般的な誘電体バリア放電ランプの放電容器に照射されるものと同等強度の真空紫外光を照射すると,わずか25時間後には,その特定OH基割合が0.36以下に低下し,その後は,常に0.36以下の値を維持する(甲14,5頁の<表>及びその直下の記載)。
また,このように真空紫外光の照射によって特定OH基割合が急速に低下する石英ガラスは,次表に示すように,上述のSUPRASIL F310に限らず本件発明の出願前から紫外線ランプ用の石英ガラスとして販売されていた他の石英ガラスである日本石英硝子株式会社製のES(甲17の1),及び信越石英株式会社製のSUPRASIL P20にも共通して現れる性質である(算出の基礎データは,SUPRASIL P20につき甲15,ESにつき甲16,SUPRASIL F310につき甲13に添付の表A及び図A)。
真空紫外光の照射による特定OH基割合の変化
0(受理時)
25時間
100時間
430時間
Suprasil F310
(信越石英株式会社製)
0.481
0.353
0.309
0.237
Suprasil P20
(信越石英株式会社製)
0.502
0.407
0.336
0.267
ES(日本石英硝子
株式会社製)
0.505
0.392
0.311
0.27
(3) 公然実施を推認する事情の存在
以下の事実経緯に照らすならば,「石英ガラス F310 発明」を部材として使用した「誘電体バリア放電ランプ」及び「照射装置」も本件出願前に公然実施されていたと推認すべきである。
すなわち,信越石英株式会社の「石英ガラス F310」は,甲3(同社の1995年度版カタログ)のみならず,甲6(同社の1994年版カタログ10頁)及び甲7(同社の2004年版カタログ1頁)のいずれにも真空紫外の透過率に優れたUVランプ材として記載されていることに鑑みれば,遅くとも本件出願日(平成10年7月31日)の3年前である1995年から本件出願後まで継続して販売されていた事実が認められる。そして,ガラス等の工業材料製品を,その製造元であるメーカーが3年以上継続して製造販売し,かつ該製品を継続して自社の製品カタログにその用途を記載して掲載している事実があれば,該製品は,製品カタログに掲載されてから1年も経過すれば,実際に販売され,購入業者は該製品を製品カタログに記載されている用途に使用して誘電体バリア放電ランプや照射装置などの最終製品を製造し,公然と販売・使用されるものと認めるのが合理的である。
(4) 「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」の使用
ア 「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」は,本件出願前に公然と販売されるとともに,その用法に従って点灯された。
ところで,誘電体バリヤ放電ランプの寿命は約1000時間とされている(甲8,29頁右欄1行~3行)から,本件特許が出願される1年前の1997年7月までに公然と販売され,公然と点灯使用された「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」は,その大半が,本件出願前に25時間以上点灯されていると推認するのが合理的である。
しかるところ,甲4の実験においては,「石英ガラス F310」にXe誘電体バリア放電ランプからの真空紫外光を照射した場合に,この「石英ガラス F310」における特定OH基割合が,受領時(0時間照射)において0.48程度であったものが,25時間の照射で0.36以下にまで低下した。この実験条件と,「石英ガラス F310」を光透過性部材として使用した場合の条件とは,ほとんど同等であるから,同じ「石英ガラス F310」を光透過性部材として使用して製造した誘電体バリア放電ランプにおいても,ランプの点灯時間が25時間程度となったところで,その特定OH基割合が当初の0.48程度から0.36以下に変化すると推認できる。
イ 前記アのとおり,「石英ガラス F310」を使用して製造した誘電体バリア放電ランプは,ランプの点灯時間が25時間を経過した後には,その特定OH基割合は0.36以下の値を維持するから,本件出願前に25時間以上公然と点灯使用された「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」は,「石英ガラスからなる放電容器の内部に誘電体バリア放電によってエキシマ分子を形成する放電用ガスが充填され,この放電容器の少なくとも一部に光透過性部分が形成されている誘電体バリア放電ランプにおいて,前記光透過性部分における石英ガラス F310の特定OH基の割合が,全体のOH基に対して,0.36以下である誘電体バリア放電ランプ」との構成を有しているということができ,本件発明1と構成は同一となる。
ウ なお,「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」が購入者のもとで点灯されるまで,その光透過性部分たる「石英ガラス F310」が一度もXe誘電体バリア放電による真空紫外光の照射を受けていないことを前提として,「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」の性質の変化を述べたが,一般にランプは購入者に出荷される前にランプメーカーにおいて,ランプ特性を安定化させるためのエージングと呼ばれる初期点灯が,ランプ特性が安定するまでの時間実行される(甲19,甲20)から,購入者において点灯される以前の段階の,ランプメーカーから出荷された時点において既に特定OH基割合の数値がエージングにより本件発明1の数値範囲内に入っていた可能性が高いともいえる。
(5) 小括
以上のとおり,本件発明1は,その出願前にエージングのうえ公然と販売された,又は公然と25時間程度点灯使用された「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」の発明と同一であり,また同じ理由により,本件発明2も,その出願前にエージングのうえ公然と販売された,又は公然と25時間程度照射使用された「F310 使用の照射装置」の発明と同一である。
2 取消事由2〔相違点2に係る容易想到性の判断の誤り〕
審決は,相違点2について,本件発明1ないし本件発明2は,紫外線によるダメージを軽減するために石英ガラスに含ませるOH基の含有量があまりに多くなるとOH基自体による紫外線吸収によって早期に所望の放射量が得られなくなるという問題を解決することを技術的課題として,石英ガラス中の特定OH基の濃度が0.36より小さいという構成を採用し,これにより真空紫外光の石英ガラス自身による吸収を良好に抑えるとともに,紫外線照射によるダメージを軽減することができるという作用効果を奏するところ,石英ガラス F310発明は,特定OH基の濃度が本件発明1ないし本件発明2と異なり,石英ガラスに含まれる特定OH基の割合を0.36以下とした点の上記意義を示唆するものではなく,この点が公然知られたものであるとも公然実施されていたともいえないから,当業者が容易に想到し得たものとすることはできないと判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
すなわち,①仮に25時間程度点灯使用された,「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」ないし「F310 使用の照射装置」が本件出願前に公然実施されたものでないとしても,石英ガラス F310 発明に出願前に周知ないし刊行物記載の「誘電体バリア放電ランプ」ないし「照射装置」を組み合わせて「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」ないし「F310 使用の照射装置」とすることは容易であり,また,②本件発明は,特定OH基割合が0.36以上の石英ガラスを使用して誘電体バリア放電ランプを組み立て,あるいは特定OH基割合が0.36以上の石英ガラスを窓部材として使用し,その後に該石英ガラス中の特定OH基割合を減少させる処理(γ線を照射する方法等)を行って特定OH基割合を0.36以下に減少させたものを含む発明であるところ,特定OH基割合を0.36以下に減少させることに阻害事由は存在しないから,審決の容易想到性に関する判断は誤りである。
(1) 容易想到性判断の誤り(1)〔25時間点灯することによって本件発明に係る技術に至ることの容易性〕
ア 甲4における実験条件の記載(甲4,4067頁左欄下から12行~同欄末行,同訳文2頁33行~3頁3行)を見ると,同号証に記載の実験の条件と市販のSUPRASIL F310を誘電体バリア放電ランプの光透過性部材(又は照射装置の窓部材)として使用した場合の条件とは,次に示すとおり,ほぼ同一である。すなわち,
a Xe誘電体バリア放電ランプの放電容器の光透過性部材(又は照射装置の窓部材)を石英ガラスによって構成したときに石英ガラスが照射を受ける紫外光と,甲4に記載の実験条件の紫外光とは波長においてほぼ一致する。
b 本件出願当時に製造されていた誘電体バリヤ放電ランプの出力についてみるに,放電容器としての合成石英ガラスに照射される紫外線強度は15~16mWcm-2程度であると推測され(甲8,29頁のTable I下方のstandard 200W UER200-172,及びstandard 100W UER1000-172の行のOutput powerの列),甲4に記載されている実験条件が約14mWcm-2(4067頁左欄5行目)であることとほぼ一致する。
c 誘電体バリア放電ランプの表面(放電容器の外側)温度は,100℃程度(すなわち373°K程度)とされることが一般的であり(甲18),放電容器の内側温度はそれよりもやや高い温度であろうことが推測される。すると,甲4の試料表面の温度である413±12°Kと差はない。
d 誘電体バリヤ放電ランプの寿命は約1000時間とされている(甲8,29頁右欄1行~3行)。一方,甲4における実験の照射時間は,25時間,100時間,430時間であるから,誘電体バリア放電ランプの通常の点灯時間の範囲内である。
イ 以上のとおり,甲4における実験の条件と,該実験に供したものと同一の合成石英ガラス(市販品たるSUPRASIL F310)を誘電体バリア放電ランプとして使用した場合の条件とは,同等のものである。したがって,Xe誘電体バリア放電ランプからの真空紫外光をSUPRASIL F310に照射した場合に特定OH基割合が25時間の照射で0.48程度から0.36以下に変化したのであるから,同じSUPRASIL F310を光透過性部材として使用して製造した誘電体バリア放電ランプ(上記「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」)においても,ランプの点灯時間が25時間程度経過する時点で,その光透過性部材たる石英ガラス(SUPRASIL F310)の特定OH基割合が当初の0.48程度から0.36以下に変化することを予測することができる。
ウ そうすると,仮に上記の25時間程度点灯使用された,「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」の発明ないし「F310 使用の照射装置」の発明が公然実施されておらず,本件出願前に公然実施された発明が審決のいう「石英ガラス F310 発明」だけであったとしても,この「石英ガラス F310 発明」に,出願前の周知ないし刊行物記載の「誘電体バリア放電ランプ」及び「照射装置」の発明を組み合わせて,「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」ないし「F310 使用の照射装置」とすることが審決も判断したように推考容易である以上,これらをその本来の用法に従って点灯し,又は第三者をして点灯させること,又は周知の通りにエージングを行うことについても,何ら阻害要因は存在せず,しかも,この本来的点灯又はエージングにより25時間程度で本件発明の「誘電体バリア放電ランプ」ないし「照射装置」とすることは容易である。
(2) 容易想到性判断の誤り(2)〔特定OH基割合の数値の意義との関係〕
ア 本件発明1及び2において特定OH基割合の数値限定の部分を除いた前段部分の構成は公知技術である(甲5及び甲9)から,本件発明1及び2が公知技術から容易に発明することができないものであるとするには,特定OH基割合の数値限定が何らかの技術的意義ないし臨界的意義を有していることを要するというべきである。すなわち,前記推考容易な「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」ないし「F310 使用の照射装置」の発明を実施(点灯使用)すると,これらの実施形態による特定OH基割合は,わずか25時間程度の点灯使用により,必然的に本件発明と同じ「0.36以下」となるのであるから,本件発明に係る特定OH基割合の数値(0.36以下)は,キセノンエキシマ光の照射量と共に時間的に変化してゆく特定OH基割合の数値に着目し,単にこれらの数値のうちから,適宜その1つを選択しただけにすぎないものであって,結局,本件発明に特有の困難性はない。
イ 本件明細書(甲2)の記載及び本件出願経過全体から,特許請求の範囲記載の特定OH基割合の数値(0.36以下)には,技術的観点からみて臨界的ないし特異的な意義はない。
甲4,4067頁,FIG.1(a)(訳文3頁,図1(a))及び同4068頁,FIG.2(b)(訳文4頁,図2(b))に基づいて,石英ガラスの厚さが0.5mmである場合及び1mmである場合について,紫外線照射開始時点(0H)と照射開始から25時間経過した時点(25H)との紫外線総吸収量を計算により求めると,厚さが0.5mmである場合,厚さが1mmである場合のいずれも,紫外線総吸収量の値は両時点とも全く差がない。このことは,本件明細書の図4(甲2)に示される160nmという特定波長において,照射量と共に特定OH基割合が時間的に減少するにつれ,透過率が上昇(あるいは吸収率が減少)するとしても,キセノンエキシマ光全体の(全波長領域にわたる)紫外線総透過量(あるいは紫外線総吸収量)は照射時間の経過にもかかわらず全く変化しないこと,すなわち,本件特許の特許請求の範囲請求項1及び2に記載された誘電体バリア放電ランプないし照射装置による,キセノンエキシマ光の全波長領域にわたる照射においては,照射量と共に特定OH基割合が時間的に減少しても,紫外線総透過量は増加せず,本件明細書に記載されているような「十分な紫外線放射量,特にキセノンエキシマ放射帯の短波長側の光を十分に得ることができる」との効果は期待できないことを示している。
ウ 本件出願当時,誘電体バリア放電ランプの放電容器に使用可能なガラスとして販売されていた合成石英ガラスSUPRASIL F310紫外線透過率は,波長170nmよりも長い波長域では85%程度であり,波長170nmよりも短い波長領域で急激に低下し,波長160nmでは約38%まで下がる特性を有する(甲10)。この合成石英ガラスにおいて,波長160nmでの透過率が20%改善されたとすると,その波長での透過率は約46%となる。しかし,もともと85%という高い透過率を有していた波長170nm以上の領域での透過率の変化はほとんど生ぜず,波長170nm以下の領域においては波長が次第に短くなるにつれて少しずつ透過率の改善幅が大きくなり,波長160nmで20%の改善がなされるものと考えられる。その改善度合いは,甲10のグラフを実線で表した次の図において,斜線領域として示す通りであり,エキシマランプからの放射波長である「160nm近傍から180nm近傍の波長域」の全体から見れば,極めて微小な量にすぎない。
file_2.jpglat 160 160-170-180 100 ‘Rm一方,エキシマランプの発光スペクトルは,甲21,442頁のFIG.3,2nd Excimer Continuum(訳文3頁,図3,第2エキシマ連続体)に示されるように波長172nmにピークを持ちその中心波長から離れるにつれて急激に低下する疑似ガウス分布の狭帯域の光である(上記図に二点鎖線で示す。)。誘電体バリア放電ランプから放射されるある波長の紫外線の光量は,その波長の放射光の強度と,放電容器を構成している石英ガラスのその波長における透過率との積として求められるが,上記図から明らかなように,波長160nmの光の放射強度は中心波長172nmの光に比べて極めて低く(1/10程度),波長160nmで透過率が高々20%程度改善されたとしても(しかも波長が170nmに近付くほど改善幅は更に小さくなる),その透過率の増加に起因して,エキシマ光の波長域全体(160nm~180nm)における紫外線放射量(エキシマランプ内部の放射光の強度と透過率との積を160nm~180nmの範囲で積分した値に相当する。)の増加に寄与することはほとんどない。
なお,波長160nmの紫外光は波長172nmの紫外光の1.075倍のエネルギーを有することになるにすぎないから,上述のように波長160nmの紫外光はもともと波長172nmの紫外光のわずか1/10の放射強度であることを考慮すれば,上記の結論に影響を与えない。
第4被告の反論
1 取消事由1〔公知技術に係る認定の誤り〕に対し
審決が,「石英ガラス F310 発明」を放電ランプの光透過性部分又は照射装置の窓部材に使用した「誘電体バリア放電ランプ」及び「照射装置」は本件出願前に公然実施されていたとはいえないとした認定に誤りはない。
(1) 原告は,上記誘電体バリア放電ランプを構成する石英ガラスは,誘電体バリア放電ランプが点灯されると,放電容器内部の放電用ガスから放射される真空紫外光を受けて光化学反応を生じ,その特定OH基の割合を比較的短時間で減少させる性質を有すると主張する。
しかし,原告の指摘する甲13,甲14は,甲4のデータの解析結果を示すだけであり,甲4そのものが本件出願後に発行された文献であるし,解析の計算方法も本件明細書記載の方法であり,本件出願の公開後でなければ分からないから,本件出願前に,石英ガラスが上記性質を有することが知られていたとの事実を,上記解析結果が立証するものではない。
原告が根拠とする,甲14,5頁の<表>に示す値も,上記と同様に,甲4のデータの解析結果を示すだけであるから,本件出願前に同表の事実が知られていたことを立証するものではない。
(2) また,甲4には,430時間照射時のデータが示されているだけであるから,特定OH基の割合が25時間後にどのような値となるか不明である。甲4の石英ガラス試料の厚みは実際の誘電体バリア放電ランプの石英ガラスの厚みと異なるから,甲14,5頁の<表>や甲4の「430時間」照射時のデータを基にした値は,本件発明の石英ガラスの特徴を示す値とはいえない。
なお,甲4の石英ガラス試料の厚みは0.5mmである(甲4,4067頁左欄本文7行,訳文2頁下から5行~同4行)が,本件明細書に石英ガラスの厚み1mmの例が示される(段落【0010】)ように,実際の誘電体バリア放電ランプの石英ガラスの厚みはそれより厚く,薄い石英ガラスで実験した甲4の特定OH基割合の変化速度は,実際の誘電体バリア放電ランプで用いられる厚い石英ガラスの特定OH基割合の変化速度より速くなるから,誘電体バリア放電ランプの石英ガラスの特定OH基割合が減少する速度は遅くなる。この点からしても,特定OH基割合が25時間後に0.36以下に低下するものではない。
(3) 原告は,「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」又は「F310 使用の照射装置」は,本件出願前に公然と販売・使用されていたと主張する。
しかし,甲3ないし甲6により認定できる事実は,カタログに「石英ガラス F310」が記載されていたというだけであって,「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」又は「F310 使用の照射装置」が,本件特許の出願前に公然と販売され,公然と使用されていたことではない。
(4) 原告は,本件発明1は,その出願前にエージングのうえ公然と販売され,又は公然と25時間程度点灯使用された「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」の発明と同一であると主張する。
しかし,原告の主張に係る「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」は,本件特許の出願前に公然と販売されたものではなく,公然と使用されていたものでもないから,誘電体バリア放電ランプの寿命のいかんにかかわらず,点灯使用されることはない。また,甲4は本件出願後に発行された文献であるから,本件出願前に,「石英ガラス F310」の特定OH基割合が,25時間の照射で0.36以下にまで低下したり,同じ「石英ガラス F310」を光透過性部材として使用して製造した誘電体バリア放電ランプにおいても,ランプの点灯時間が25時間程度となったとしても,特定OH基割合が当初の0.48から0.36以下に変化するであろうと推論することは,甲4の発行前には不可能であった。
(5) 原告がする「F310 使用の照射装置」についての主張も,同様の理由により,失当である。
2 取消事由2〔容易想到性の判断の誤り〕に対し
(1) 本件発明に係る技術に至ることの容易性の主張に対し
以下のとおり,審決が,石英ガラス F310 発明に出願前に周知ないし刊行物記載の「誘電体バリア放電ランプ」ないし「照射装置」を組み合わせて「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」ないし「F310 使用の照射装置」とすることは困難であると判断した点に誤りはない。
ア 本件出願前に「SUPRASIL F310」に対し誘電体バリア放電ランプから公然と照射されたと認定するに足りる証拠はない。甲4の実験では「SUPRASIL F310」に対して照射されているが,甲4は本件出願後に発行された文献であるから,甲4記載の内容は,本件出願前には一切知られておらず,Xe誘電体バリア放電ランプからの紫外光により石英ガラスの特定OH基割合が減少するか否かは,全く知られていない。
確かに,「SUPRASIL F310」は,信越石英株式会社から本件特許の出願前に市販されていたものであるが,その特定OH基割合は,甲4のデータを借りて計算すると,受領時(0時間照射)において0.48程度であったと推定されるだけであって,それ以外の技術的示唆はない。
イ 原告は,甲4記載の実験条件と,市販のSUPRASIL F310を誘電体バリア放電ランプの光透過性部材(又は照射装置の窓部材)として使用した場合の条件とはほぼ同一であり,甲4によれば,Xe誘電体バリア放電ランプからの真空紫外光を照射した場合にSUPRASIL F310の特定OH基割合が25時間の照射で0.48程度から0.36以下に変化したのであるから,同じSUPRASIL F310を光透過性部材として使用して製造した誘電体バリア放電ランプにおいても,ランプの点灯時間が25時間程度経過した時点で,その光透過性部材たる石英ガラス(SUPRASIL F310)の特定OH基割合が当初の0.48程度から0.36以下に変化すると推測できると主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,本件出願後に発行された文献である甲4の記載に基づく主張であり,本件出願前に,SUPRASIL F310の特定OH基割合が25時間の照射で0.48程度から0.36以下に変化するか否かは知られていないし,本件出願前に,SUPRASIL F310を誘電体バリア放電ランプとして使用した証拠もないから,本件出願前に,放電容器の光透過性部材を構成するSUPRASIL F310の特定OH基割合が0.36以下に低下するかどうかも知られていない。
また,ランプに「エージング」を行ったにしても,特定OH基割合の数値がどのような値になるのか不明である。原告は,「ユーザーにおいて点灯される以前の段階の,ランプメーカーから出荷された時点で既に特定OH基割合の数値が本発明の範囲内に入っていた蓋然性は極めて高い。」などと主張するが,本件発明において光透過性部分の特定OH基割合が0.36以下であることは事実に係る事項であるから,蓋然性つまり確率をもって云々されるべき事項ではない。
ウ 原告は,「石英ガラス F310 発明」に,出願前の周知ないし刊行物記載の「誘電体バリア放電ランプ」及び「照射装置」の発明を組み合わせて,「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」ないし「F310 使用の照射装置」とすることが容易である以上,これらをその本来の用法に従って点灯し,又はエージングを行うことについても,阻害要因は存在しないと主張する。
しかし,この点の原告の主張も失当である。
すなわち,原告の主張に係る「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」ないし「F310 使用の照射装置」は,本件出願前に公然と販売されたものではなく,公然と使用されていたものでもないから,本件出願前には「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」ないし「F310 使用の照射装置」も公然と存在していない。
(2) 特定OH基割合の数値の意義との関係に係る主張に対し
以下のとおり,審決が,本件発明は,紫外線によるダメージを軽減するために石英ガラスに含ませるOH基の含有量があまりに多くなるとOH基自体による紫外線吸収によって早期に所望の放射量が得られなくなるという問題を解決することを技術的課題として,石英ガラス中の特定OH基の濃度が0.36より小さいという構成を採用し,これにより真空紫外光の石英ガラス自身による吸収を良好に抑えるとともに,紫外線照射によるダメージを軽減することができるという作用効果を奏するのに対し,石英ガラス F310 発明は,特定OH基の濃度が本件発明1ないし本件発明2と異なり,石英ガラスに含まれる特定OH基の割合を0.36以下とした点の上記意義を示唆するものではなく,この点が公然知られたものであるとも公然実施されていたともいえないから,当業者が容易に想到し得たものとすることはできないと判断した点に誤りはない。
ア 本件発明は,「石英ガラスにOH基が含まれる場合は,いかなる場合であってもOH基自身による紫外線の吸収が起こる」という従来の常識を覆し,「石英ガラスに含まれるOH基のうち非水素結合性OH基がこの現象に深く関与している」ことを見い出し(本件明細書段落【0005】),(a)真空紫外光の透過率を高めること,及びその透過率を高めることで石英ガラスに吸収される量を少なくして石英ガラスのダメージを抑えるという課題を解決するために,(b)全体のOH基のうち非水素結合性OH基の割合を下げるという構成を採り,これにより,(c)石英ガラスの紫外線透過率を向上させて紫外光を十分に利用し,かつ石英ガラスの紫外光によるダメージを抑えるという効果を得る,という技術思想を基本として,誘電体バリア放電ランプ及び照射装置として光透過率が約20%も改善されるという実用的な観点から「石英ガラスにおける全体のOH基のうち非水素結合性OH基の割合0.36以下」との数値を選定したものであり,数値の選定が容易であるとはいえない。
イ 甲23には「‥‥‥放電容器は合成石英ガラスで,その透過率は160nmでは約26%,165nmでは約68%,170nm以上においては83%であった。従って,図3のスペクトルの170nm以下の形は,合成石英ガラスの透過率に影響されており,‥‥‥」(32頁右欄21行~26行)と記載されている。
このことから,エキシマランプからの放射波長は160nm近傍から180nm近傍の範囲であり,石英ガラスは波長170nmよりも160nmの方が吸収が大きく透過率が低く(吸収が大きいと,その分透過率が低くなる),また波長170nm以下の光は石英ガラスの透過率に強く影響を受け,しかもその影響は,170nmよりも160nmの方が大きいことが分かる。
このように波長160nmの方が石英ガラスの透過率への影響を強く受け,また石英ガラスの透過率は波長170nm以上においては83%,つまり波長172nm近傍よりも波長が長いと変化がなく,逆に波長172nm近傍よりも波長が短いと変化が大きく,その変化は波長160nm近傍でより大きい。
ウ 下掲図は透過率の異なる2つの石英ガラスのモデルケースを示すもので,ラインAは透過率の高い石英ガラスの光透過率を示し,ラインBはそれよりも光透過率の低い石英ガラスの透過率曲線を示す。いずれのガラスも波長172nm近辺では同じように透過率が高めであり両者の差は小さい。一方,波長160nm近傍では,ラインAの透過率が高いのに対して,ラインBの透過率は低めであり,両者の差は波長172nmにおける差よりも大きい。
file_3.jpgChg BE (nm) 160すなわち,波長160nmの紫外線は,もともと石英ガラスに対する透過率が低いため,その紫外線の透過率を高めることは,石英ガラスに吸収(蓄積)される紫外線の量を少なくすることであり,そして石英ガラスに吸収(蓄積)される紫外線の量を少なくすることは石英ガラスへのダメージを抑えることであるにほかならない。
これに対して,波長172nmの紫外線は,石英ガラスに対する透過率が高いので,もともと石英ガラスへのダメージに係る影響は小さく,例えば180nmという波長域の紫外線の透過率を示す実験例を示しても,本件発明で課題とする「石英ガラスの紫外線によるダメージを良好に抑える」上では有意義なものではない。
エ さらに,波長172nmよりも波長160nmの方が短波長であり,短波長光のエネルギーは,長波長光のエネルギーより高いので,石英ガラスに対するダメージ(損傷という意味のダメージ)は大きい。石英ガラスにダメージが発生すると光透過率は減少するので,その意味からも,エキシマランプの中心波長である172nmよりも波長160nmでの光透過率についての実験を示す方が改善効果は見えやすい。また,波長172nmよりも波長160nmの方がエネルギーが高いので,光洗浄や物体の表面改質などの能力は高い。
このことから,波長160nmの光が,どれだけ石英ガラスを透過してランプから放射されているかの実験を示すことが,処理プロセスの効率化という実用的な改善効果をより把握しやすくすることになり,この点からも波長160nmでの光透過率の実験結果を示すことには十分な意味がある。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,審決の理由中,原告主張の取消事由1〔公知技術に係る認定の誤り〕と原告主張の取消事由2〔相違点2の容易想到性判断の誤り〕の(1)(25時間点灯することによって本件発明に係る技術に至ることの容易性)については誤りがないと判断するが,取消事由2の(2)(特定OH基割合の数値の意義との関係)については誤りがあると判断する。
審決を取り消す理由は取消事由2の(2)のみであるが,他の取消事由の主張に対する判断と相互に関連するので,取消事由の主張のすべてを順に判断する。
1 取消事由1〔公知技術についての認定の誤り〕について
原告は,審決は,「非水素結合性OH基の割合が0.48程度であり,真空紫外から赤外までの透過率特性に優れ,UVランプ材として適している石英ガラス」(「石英ガラス F310 発明」)は,本件出願前に公然実施されていたと認定したものの,「石英ガラス F310 発明」を放電ランプの光透過性部分又は照射装置の窓部材に使用した「誘電体バリア放電ランプ」及び「照射装置」は本件出願前に公然実施されていたとはいえないと認定した点に誤りがあると主張する。
しかし,原告の主張は以下のとおり理由がない。
(1) カタログの記載
ア 甲3(「Shin-Etsu QUARTZ PRODUCTS 製品ガイド」と題する信越石英株式会社の製品カタログ。平成7年発行)及び甲6(「Shin-Etsu QUARTZ PRODUCTS 製品ガイド」と題する同社製品カタログ。平成6年発行)のいずれにも,以下の記載がある。
(ア) 「透明石英ガラスは,通常のガラス類と比べて,光透過率が紫外から赤外の全波長にわたって非常に高いという特徴があります。特に短波長の紫外領域では,他のどんなガラスより良好な透過性を示します。」(4頁第3段落)
(イ) 「合成石英ガラス 合成(「信越石英の主要品種」の項目)SUPRASIL F300,310(「品種名」の項目) ファイバ用・ランプ用 (「用途」の項目) 管・棒(「形状」の項目)」(4頁下段の表)
(ウ) 「SUPRASIL-F300 SUPRASIL-F310(「品種名」の項目) 超高純度の合成石英ガラス管・棒で,泡や異物がなく金属不純物を含有していません。F300は最高品質の光ファイバー用石英素材で,高強度で長尺の光ファイバーが高収率で得られます。F310はOH基を含有しますが,他の特性はF300と同等です。(「特徴」の項目)」(9頁下段「光通信用透明石英ガラス」の表)
(エ) 「ランプ用石英ガラス管として,Mシリーズ(M-235,M282,M382),HERALUX,及び合成石英ガラスSUPRASIL-F300,F310があります。いずれも独自のツールフリー法で製造,管の内外面は平滑で欠陥がありません。UVランプ材として適しており,Mシリーズはオゾンレスタイプ,HERALUXはオゾンタイプです。また,SUPRASIL-Fシリーズは,真空紫外から赤外までの透過率特性に優れています。」(10頁「ランプ用透明石英ガラス」の欄)
イ 甲7(「Shin-Etsu QUARTZ A JOINT VENTURE WITH Heraeus ランプ用石英ガラス」と題する同社の製品カタログ。本件出願後の平成16年発行)には,次の各記載がある。
(ア) 「石英ガラスは,一般のガラス素材に比べ,光透過性に優れ,耐熱性が高いことから,水銀ランプやハロゲンランプ,キセノンランプなどの材料として広く使われています。」(表題頁1行~2行)
(イ) 「SUPRASIL-F300,F310は,天然石英ガラスより更に超高純度で,泡のない合成石英ガラスです。真空紫外から赤外までの透過率特性に優れています。F300はOH基を無くした合成石英ガラス,F310はOH基を約00ppm含有した合成石英ガラスです。」(1頁第3段落,「合成石英ガラス SUPRASIL-F300,F310」の欄)
(2) 認定及び判断
ア 甲3,6,7の上記の各記載によれば,OH基を含有し,UV(紫外線)ランプ材に適した,製品名「SUPRASIL-F310」と称する合成石英ガラス(「石英ガラス F310」)が,平成6年,平成7年発行に係る信越石英株式会社の製品カタログに掲載されていたこと,「石英ガラス F310」は平成16年発行に係る同社カタログにも掲載されていたことが認められる。そして,「石英ガラス F310」が,信越石英株式会社から本件出願前に市販されていたこと(審決書17頁11行~12行)に争いはない。
イ 「石英ガラス F310」は,平成6年発行の甲6,平成7年発行の甲3,平成16年発行の甲7の製品カタログに掲載され,本件出願前に市販されていたことからすれば,本件出願前に,これをカタログに記載された用途に適する「ランプ」が製造された可能性はあるといえる。
しかし,そのようなランプが製造された可能性があるとしても,上記の証拠のみでは,本件出願前に,「石英ガラス F310」を放電ランプの光透過性部分又は照射装置の窓部材に使用して「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」ないし「F310 使用の照射装置」が製造されたうえ,公然販売又は使用されたとまでは認めるには十分でないというべきである。
したがって,本件出願前に,「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」ないし「F310 使用の照射装置」がエージングのうえ,製造され,公然販売又は使用されたとする原告の主張は,採用することができない。
したがって,審決の認定には誤りはない。
2 取消事由2の(1)〔25時間点灯することによって本件発明に係る技術に至ることの容易性〕について
原告は,仮に25時間程度点灯使用された,「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」ないし「F310 使用の照射装置」が本件出願前に公然実施されたものでないとしても,石英ガラス F310 発明に出願前に周知ないし刊行物記載の「誘電体バリア放電ランプ」ないし「照射装置」を組み合わせて「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」ないし「F310 使用の照射装置」の技術に至ることは容易であり,これらを25時間程度点灯使用,あるいはエージングすれば,特定OH基の割合が本件発明の範囲内のものとなり,本件発明が得られるから,本件発明は当業者が容易に発明をすることができたので,審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
原告主張に係る「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」ないし「F310 使用の照射装置」が本件出願前に製造されていたならば,これらをその本来の用法に従って点灯したり,エージングを行ったりすることに格別の妨げはないといえるが,上記1(2)のとおり,前記証拠のみによっては,本件出願前に,「石英ガラス F310」を放電ランプの光透過性部分又は照射装置の窓部材に使用して「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」ないし「F310 使用の照射装置」が製造されたことを認定することができない以上,本件出願前に,「F310 使用の誘電体バリア放電ランプ」ないし「F310 使用の照射装置」を25時間程度点灯又はエージングを行うことを,当業者が容易になし得たということはできない。
3 取消事由2〔特定OH基割合の数値の意義との関係〕について
原告は,本件特許の特許請求の範囲に記載されている特定OH基割合の数値(0.36以下)には,技術的観点からみて意味がなく,同数値は,キセノンエキシマ光の照射量と共に時間的に変化する特定OH基割合の数値に着目して,単にこれらの数値のうちから,適宜1つの数値を選択しただけにすぎないものであるから,本件発明に困難性はないと主張する。
(1) 本件明細書(甲2)の記載
ア 本件明細書の発明の詳細な説明欄には,以下の記載がある。
「【0001】【発明の属する技術分野】この発明は,誘電体バリア放電によってエキシマ分子を形成し,このエキシマ分子から放射される光を利用する誘電体バリア放電ランプ,および,この誘電体バリア放電ランプを光源とした照射装置に関するもので,特に,誘電体バリア放電ランプの光透過性部分である石英ガラス,あるいは照射装置の窓部材に関するものである。‥‥‥
【0004】このような誘電体バリア放電ランプは,従来の低圧水銀ランプや高圧アーク放電ランプにない特徴,例えば,その中心波長は172nmという短い波長の真空紫外線を放射して,しかも線スペクトルに近い単一波長の光を選択的に高効率で発生する,を有している。‥‥‥
【0005】ところで,この石英ガラスは適量のOH基(水酸基)を含ませる方が,純粋なシリカ(SiO2)で構成するより,放射する紫外線によるダメージを軽減できるということが知られている。つまり,石英ガラスにOH基を含ませる方が良いわけであるが,その含有量があまりに多くなるとOH基自体による紫外線吸収によって早期に所望の放射量が得られなくなるという問題がある。逆に,OH基の含有量があまりに少なすぎる場合は,紫外線のダメージを受けてしまい石英ガラスの劣化を招くなどの問題を生ずる。
【0006】【発明が解決しようとする課題】そこで,この発明が解決しようとする課題は,OH基を含有した石英ガラスを光透過性部分とした誘電体バリア放電ランプ,および誘電体バリア放電ランプを光源とし,OH基を含有した石英ガラスを窓部材とした照射装置であって,石英ガラスの紫外線によるダメージを良好に抑え,かつ,十分な紫外線放射量を得ることができる構造を提供することである。
【0007】【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために,この発明にかかる誘電体バリア放電ランプは,石英ガラスからなる放電容器の内部に誘電体バリア放電によってエキシマ分子を形成する放電用ガスが充填され,この放電容器の少なくとも一部に光透過性部分が形成されており,この光透過性部分における非水素結合性OH基の割合が全体のOH基に対して,0.36以下であることを特徴とする。
【0008】さらに,この発明にかかる照射装置は,誘電体バリア放電により放電容器内にエキシマが生成されて紫外線が放出される誘電体バリア放電ランプと,この誘電体バリア放電ランプを収納し,誘電体バリア放電ランプからの紫外線を取り出す窓部材よりなる構成において,前記窓部材は,石英ガラスよりなり非水素結合性OH基の割合が全体のOH基に対して,0.36以下であることを特徴とする。‥‥‥」
「【0012】ここで,誘電体バリア放電ランプは,内側管2もしくは外側管3で,少なくとも光透過性部分の石英ガラスについて非水素結合性OH基の濃度が一定範囲内になるように処理されている。これは非水素結合性OH基の濃度を制御することによって波長160nmの付近の光の透過性を著しく向上できるからである。
【0013】この点をもう少し説明する。本発明者らは,石英ガラスにOH基が含まれる場合は,いかなる場合であってもOH基自身による紫外線の吸収が起こるという従来の常識(例えば,「J,Spectrosc,Soc,Jap,vol.41,2(1992)81」には,石英ガラス中のOH基は168nm以下の波長の光を吸収することが開示される)を覆し,種々の研究のすえ,石英ガラスに含まれるOH基のうち非水素結合性OH基がこの現象に深く関与していることを見出したのである。すなわち,水素結合性OH基は紫外光,特には真空紫外光の吸収が大きいものではないということである。従って,真空紫外光を放射させる誘電体バリア放電ランプやこの誘電体バリア放電ランプを光源とする照射装置にあっては,光透過性部分や光透過窓を構成する石英ガラスは,非水素結合性OH基の濃度を限りなく少なくして,水素結合性OH基の濃度をある程度維持することによって,真空紫外光の石英ガラス自身による吸収を良好に抑えることができるとともに,紫外線照射によるダメージを軽減できるというものである。‥‥‥
【0018】次に,全体のOH基濃度に対する非水素結合性OH基の割合と紫外線透過量の関係を示す。図4は縦軸に波長160nmの光の透過率(%)を表し,横軸に非水素結合性OH基の相対濃度を表す。図より,石英ガラス中の非水素結合性OH基の濃度が0.36より小さい場合は,真空紫外光,図においては波長160nmの光の透過率が13%以上であることがわかる。そして,非水素結合性OH基濃度が0.30より小さい場合に透過率は16%以上となり,さらにOH基濃度が0.27以上の場合は0.18以上となり,急激に透過率が増加していることがわかる。
【0019】ここで,石英ガラス中の非水素結合性OH基の含有濃度を減少させる方法として石英ガラスにγ線源から放射されるγ線を照射する方法がある。これは,例えば,市販の石英ガラスにγ線を例えば100時間照射することである。あるいは,他の方法として,石英ガラスを湿った雰囲気(水の分圧で例えば4.6×104Pa)で比較的低温,例えば350℃で加熱することが考えられる。これらの処理方法によって,石英ガラス中の水酸化ケイ素(SiOH)に関する結合状態が変化するからと考えられる。そして,このような処理を誘電体バリア放電ランプを組み立てるとき,あるいは,組み立てた後に処理を施すことで石英ガラス中に含まれる非水素結合性OH基の濃度を上記範囲内のものとすることができる。なお,上述の図4に示す実験では,処理前の非水素結合性OH基の割合は,全体のOH基の0.50であり,波長160nmの光の透過率は11%であった。‥‥‥
【0024】【発明の効果】この発明にかかる誘電体バリア放電ランプは放電容器の少なくとも一部に光透過性部分が形成されており,この光透過性部分における非水素結合性OH基の割合を全体のOH基の0.36以下としたので,石英ガラスの紫外線によるダメージを良好に抑えることができ,かつ,十分な紫外線放射量,特にキセノンエキシマ放射帯の短波長側の光を十分に得ることができる。また,この発明にかかる照射装置は,誘電体バリア放電ランプからの紫外線を取り出す窓部材の非水素結合性OH基の割合を全体のOH基の,0.36以下としたので,同様に石英ガラスの紫外線によるダメージを良好に抑えることができ,かつ,十分な紫外線放射量,特にキセノンエキシマ放射帯の短波長側の光を十分に得ることができる。」
イ 図4には,以下の内容が示されている。
すなわち,全体のOH基濃度に対する特定OH基(非水素結合性OH基)の割合と波長160nmの紫外線透過率との関係を示すもので,石英ガラス中の特定OH基の濃度が0.5では,波長160nmの紫外線透過率が11%程度,0.36の辺りでは13%程度,0.27の辺りでは18%程度,0.26の辺りでは25%弱であることが示されており,特定OH基の割合が0.5から少なくなるにつれて,波長160nmの紫外線透過率が徐々に大きくなるが,0.36辺りから透過率の傾きが大きくなり,0.27以下では,急激に透過率が増加していることが示されている。
ウ 上記各記載を総合すれば,本件発明の内容は,以下のとおりと認められる。
すなわち,①本件発明は,例えば,中心波長が172nmという短い波長の真空紫外線を放射して,しかも線スペクトルに近い単一波長の光を選択的に高効率で発生するという,従来の低圧水銀ランプや高圧アーク放電ランプにない特徴を有する(段落【0004】)誘電体バリア放電ランプ,及び,この誘電体バリア放電ランプを光源とした照射装置に関し,特に,誘電体バリア放電ランプの光透過性部分である石英ガラス,あるいは照射装置の窓部材に関する(段落【0001】)ものである,②石英ガラスにOH基を含ませると紫外線によるダメージを軽減できるが,含有量が多くなるとOH基自体による紫外線吸収によって早期に所望の放射量が得られなくなる(段落【0005】)という関係があるところ,本件発明は,石英ガラスに含まれるOH基のうち特定OH基が紫外線の吸収現象に深く関与しているとの知見を得て,特定OH基の濃度を限りなく少なくして,水素結合性OH基の濃度をある程度維持することによって,真空紫外光の石英ガラス自身による吸収を良好に抑えることができるとともに,紫外線照射によるダメージを軽減できるようにしたものである(段落【0013】),③従来の特定OH基の割合0.50の市販の石英ガラス(石英ガラス F310 発明における特定OH基の割合は0.48程度であり,0.50にきわめて近い割合のものである。)では,波長160nmの真空紫外光の透過率が11%である(段落【0019】)のに対し,特定OH基の濃度が0.36の辺りでは透過率が13%程度,0.27以下では,透過率が18%程度から急激に増加する(段落【0018】及び図4)旨が記載されている。
そして,本件明細書の図4には,OH基の濃度自体を一定のものとして,紫外線によるダメージ軽減効果を維持しつつ,特定OH基の割合を低下させれば,波長160nmの真空紫外光の透過率が大きくなる(波長160nmの紫外線吸収率が小さくなる)ことが示されている。
(2) 判断
本件明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2においては,放出される光の波長について何ら記載がない。また,発明の詳細な説明欄には,本件発明において,特定OH基の割合を特定するに当たり,透過率をみる波長として図4に示される160nmに着目することに何らかの意義があることを示した記載を見いだすことはできないし,160nm以外の波長について,特定OH基の割合を低下させれば,図4記載のように透過率が大きくなるとする根拠を見いだすこともできない。
そうすると,特定OH基の割合を低下させれば波長160nmの真空紫外光の透過率が大きくなる関係が理解されるにしても,本件明細書の記載上放出される光の波長について何ら特定されない本件発明において,波長160nmの真空紫外光の透過率が大きくなることによって,格別の技術的意義が生じるものと認めることはできない。
したがって,本件明細書の記載から,特定OH基の割合を0.36以下であると特定することにより,真空紫外光の石英ガラス自身による吸収を良好に抑えることができるとともに,紫外線照射によるダメージを軽減できるようにするとの作用効果(技術的意義)が生ずると解することはできない。
(3) 被告の主張に対し
ア 被告は,エキシマランプからの放射波長は160nm近傍から180nm近傍の範囲であり,石英ガラスは波長170nmよりも160nmの方が吸収が大きく透過率が低いことなどから,波長160nmでの光透過率の実験結果を示すことには十分な意味があり,本件発明において,波長160nmの真空紫外光の透過率に基づき特定OH基の割合を特定したことには技術的意義がある旨主張する。
しかし,被告の同主張は,以下のとおり,本件発明がXeを放電ガスとして中心波長172nmの発光を得るものであることを前提とするものであり,前提を欠くものというべきである。被告の上記主張は,本件明細書の記載に基づくものということができず失当である。
(ア) 特開平5-138014号公報(甲5,審判における甲3)の段落【0008】,【0013】,【0014】の記載,レーザー研究第23巻第12号(平成7年12月発行,甲8。審判における参考資料3)の「放電ガスをそれぞれ,Ar,Kr,Xe,KrCl,XeClを選ぶことにより126nm,146nm,172nm,222nm,308nmの5波長が得られる。126nm,146nmランプは照射窓にMgF2を用いているが他ランプの照射窓は石英ガラスを使用している。…Fig.2にAr,Kr,Xe,20W型エキシマランプの分光分布を示す。…XeCl,KrClタイプの分光スペクトルをFig.3に示す。」(28頁左欄下から10行~右欄4行)の記載,光技術コンタクトVol.32,(1994)No.2別刷(平成6年発行,甲23)の「われわれは,誘電体バリア放電を励起源としたエキシマランプの実用化を目的にして,種々の検討を行っているが本報告では,放電用ガスとしてキセノン,クリプトン/塩素およびキセノン/塩素を使用した中空円筒形誘電体バリア放電エキシマランプの特性および応用について報告する。」(30頁右欄12行~18行),「誘電体バリア放電励起で実験されているエキシマと,エキシマ光の中心波長,半値全幅,放射効率を,波長順に表1にまとめた。エキシマの種類を選択することによって,真空紫外領域から可視光領域にわたって,従来の放電ランプで得られない波長の,比較的挟帯域のスペクトルが,高効率で得られている。」(31頁右欄第3段落),「実験に使用した資料ランプの概略図を図2に示す。管径の異なる2本の石英ガラス管を同軸に配置し,中空円筒の放電空間を形成した。」(32頁左欄13行~15行),「放電用ガスとしてキセノン,クリプトン/塩素およびキセノン/塩素を使用した中空円筒形誘電体バリア放電エキシマランプの発光スペクトルを,図3に示す。それぞれ,波長172nm,222nmおよび308nmに最大値を有し,半値幅がそれぞれ約14nm,2nmおよび2nmである単色光的な発光スペクトルが得られた。」(32頁右欄13行~19行),「キセノンエキシマにより,中心波長172nm,20W入力,出力2W,効率10%のランプが商品化されている。同様にクリプトン/塩素およびキセノン/塩素により,222nm,308nmランプも商品化されている。」(37頁左欄7行~12行)の記載によれば,本件出願当時,放電容器を石英ガラスとするエキシマランプとして,Xeを放電ガスとして用い,中心波長172nmのエキシマ光を得るものに限らず,中心波長222nmのエキシマ光を得るKrCl,中心波長308nmのエキシマ光を得るXeClなどを用いるものも知られていたことが認められる。
(イ) これに対し,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2においては,放出される光の中心波長について何ら記載がないのであるから,本件発明は,Xeを放電ガスとして用い,中心波長172nmのエキシマ光を用いるものに限定されるのではなく,中心波長222nmのエキシマ光を得るKrCl,中心波長308nmのエキシマ光を得るXeClなどを用いるものも含むものと解される。
以上のとおり,本件発明がXeを放電ガスとして中心波長172nmの発光を得るものであることを前提とする被告の上記主張は,本件明細書の記載に基づかないものであって,前提を欠くものである。
波長160nmの真空紫外光の透過率に基づいて特定OH基の割合を特定したことの技術的意義をいう被告主張は,放電ガス,あるいは中心波長について,何ら特定のない,本件発明の「誘電体バリア放電ランプ」ないし「照射装置」について,被告主張に係る技術的意義が存在するものということはできない。
なお,甲8のFig.3ないし甲23の図3によれば,中心波長が222nmあるいは308nmの場合には,そもそも波長160nmのエキシマ光が放出されるものとは認めがたいのであるから,石英ガラスの波長160nmの透過率を高めたところで,何ら技術的意義が生ずるものとは認められない。
file_4.jpg1 30800 1 22a 08 0.5 0 oi 20 220 24d 280799 310 3) 360 Kroi* Xecl* Wavelength (ra) Fig. 3 Spectra of KrCl* and XeCl* excimer lamps. 80 Fig3file_5.jpgBo MAY pRBTEL TSI TRAN bat 23083イ 仮にXeを放電ガスとして中心波長172nmのエキシマ光を得るエキシマランプについて,本件明細書の図4に示されるような,特定OH基の割合の相違に基づく透過率の相違が生ずるとしても,次のとおり,特定OH基の割合を0.36以下とする点に格別の技術的意義があるとは認められない。
(ア) 甲13(審判請求書,6頁2行~15頁14行及び添付の表A),甲14(審判事件弁駁書,3頁22行~5頁12行),甲15及び甲16によれば,前記第3,1(2)イの表は,甲4(審判における甲2)の図3(訳文5頁)及び図7(訳文9頁)から読み取ったデータに基づき,本件明細書の段落【0016】【0017】記載の算出方法によって,SUPRASIL F310,SUPRASIL P20(以上信越石英化学株式会社製)及びES(日本石英硝子株式会社製)なる合成石英ガラス(各製品名につき,甲4訳文2頁下から12行~同9行参照)について,Xe誘電体バリア放電ランプ(同頁下から3行参照)を照射した際の,照射前,25時間照射後,100時間照射後,430時間照射後の特定OH基割合を求めたものと認められる。
(イ) 同表によれば,いずれの合成石英ガラスにおいても,ランプ照射後,特定OH基の割合は徐々に減少し,SUPRASIL F310では25時間照射後に0.353,SUPRASIL P20及びESでは100時間照射後にそれぞれ0.336,0.311となっており,本件発明で特定される0.36以下の範囲のものとなっていることが認められる。
上記表の数値は,甲4の図3及び図7から読み取ったデータに基づくものであるので,数値自体厳密に正確なものとはいえず,また,ガラスの厚みにより要する時間の多少はあるにせよ,上記表によれば,特定OH基を含む石英ガラスにXe誘電体バリア放電ランプを照射すれば,使用当初の特定OH基の割合が0.36以上であっても,相応の時間(数十時間程度)が経過すると,0.36以下になることは推測に難くないものと認められる。
(ウ) 本件発明1は,放電容器が石英ガラスからなる誘電体バリア放電ランプ,本件発明2は,誘電体バリア放電ランプからの紫外線を取り出す窓部材石英ガラスよりなる照射装置であるから,Xeを放電ガスとしてこれらを使用すれば,いずれにおいても,石英ガラスがXe誘電体バリア放電ランプからの紫外線を照射されることになる。
そうすると,誘電体バリア放電ランプの寿命が約1000時間とされる(甲8,29頁右欄「3.3 寿命」の欄)ところ,使用当初の特定OH基の割合が0.36以上か否かにかかわらず,数10時間程度の照射で0.36以下という本件発明1の要件を満たすことになるので,本件発明を特定するに当たり,特定OH基の割合を0.36以下と規定したことは,使用につれて変化する特定OH基の割合について,単に,使用中のある時点(寿命と対比して,使用開始から相当短い時点)の数値を特定したにすぎないことになり,真空紫外光の石英ガラス自身による吸収を良好に抑えるとともに紫外線照射によるダメージを軽減することができるといった,本件明細書記載の格別の技術的意義を生ずるような特定とはいえず,単なる設計的事項以上のものということはできない。
(4) 小括
以上の検討によれば,本件発明において,特定OH基に着目し,その割合を特定したことに技術的意義は認められず,単なる設計的事項以上のものということはできない。
したがって,本件発明1の相違点2に係る構成について,本件特許明細書記載の作用効果に基づく意義があることを前提として,本件発明1の想到容易性を否定した審決の判断は,根拠を欠くものであって,誤りである。
また,本件発明2の相違点2についての審決の判断も,同様に誤りである。
4 結論
以上によれば,本件発明1及び2は本件出願前に日本国内において公然実施されていた発明である「石英ガラス F310 発明」並びに本件出願前の公知事実又は刊行物記載事実である甲5(特開平5-138014号公報),甲6(信越石英株式会社「Shin-Etsu QUARTZ PRODUCTS 製品ガイド」),甲7(信越石英株式会社「ランプ用透明石英ガラス」),甲8(レーザー研究第23巻第12号),甲9(特開平5-174793号公報)及び甲10(「信越石英株式会社・技術情報‥‥‥ 93LT001」)に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできないとした審決の判断は誤りであり,この誤りは審決の結論に影響するので,審決を取り消すこととする。主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 三村量一 裁判官 上田洋幸)