知財高等裁判所 平成17年(行ケ)10587号 判決 2007年3月27日
原告
武田薬品工業株式会社
訴訟代理人弁護士
片山英二
北原潤一
同弁理士
小林浩
高橋秀一
被告
特許庁長官 中嶋誠
指定代理人
中野孝一
柳和子
塚中哲雄
森田ひとみ
田中敬規
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
「特許庁が不服2004-15152号事件について平成17年6月13日にした審決を取り消す。」との判決。
第2事案の概要
本件は,後記本件特許発明の特許権者である原告が,特許権存続期間の延長登録出願をして拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がなされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 本件特許(甲第1号証)
特許権者:武田薬品工業株式会社(原告)
発明の名称:「抗菌剤」
特許出願日:平成2年2月9日(特願平2-29960号)
優先権主張日:平成元年2月10日,同年9月15日(日本)
設定登録日:平成7年12月8日
特許番号:特許第1997968号
(2) 本件出願(甲第2号証)
出願人:武田薬品工業株式会社(原告)
出願日:平成12年12月21日
出願番号:特許権存続期間延長登録願2000-700166号
(3) 本件手続
拒絶査定日:平成16年6月10日(甲第3号証)
審判請求日:平成16年7月21日(不服2004-15152号)
審決日:平成17年6月13日
審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
審決謄本送達日:平成17年6月27日
2 本件特許発明の要旨
審決が対象とした発明(以下,請求項1に記載された発明を「本件特許発明」という。なお,請求項の数は2個である。)の要旨は,以下のとおりである。
「【請求項1】式
file_2.jpg〔式中,R1は水素,メトキシまたはトリフルオロメチルを,R2およびR3は同一または異なって水素またはメチルを,R4はフッ素化された炭化水素残基を,nは0または1をそれぞれ示す。〕で表される化合物またはその塩を含有してなる抗菌剤。
【請求項2】
(省略)」
3 審決の理由の要点
審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件出願において,特許法67条2項の政令で定める処分として特定された処分(薬事法14条6項に規定する医薬品の製造の承認事項の一部変更に係る同項の承認。以下「本件処分」という。)は,本件特許発明の「抗菌剤」という用途についてなされたものということはできないから,「抗菌剤」の用途に係る本件特許発明を実施するために本件処分が必要であったとは認められない,とするものである。
(1) 本件出願について
「本件出願は,特許発明の実施について特許法第67条第2項の政令に定める処分を受けることが必要であったとして,4年3月22日の特許権存続期間の延長を求めるものであり,その政令で定める処分として,以下の内容を特定している。
(1)延長登録の理由となる処分
薬事法第14条第6項に規定する医薬品の製造の承認事項の一部変更に係る同項の承認
(2)処分を特定する番号
承認番号20400AMZ01104000号
(3)処分を受けた日
平成12年9月22日
(4)処分の対象となった物
ランソプラゾール
(5)処分の対象となった物について特定された用途
胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助」
(2) 審決の判断
「(4-1)特許法第68条の2は,『特許権の存続期間が延長された場合・・・の当該特許権の効力は,その延長登録の理由となった第67条第2項の政令で定める処分の対象となった物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあっては,当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には,及ばない。』と規定しており,この規定に照らすと,延長登録が認められるためには,政令で定める当該処分の範囲と延長登録出願の対象である特許発明の範囲とが重複していることが必要である。
(4-2)これを本件についてみるに,本件出願の添付資料である,平成2年11月29日付け医薬品製造承認申請書(販売名タケプロンカプセル15),その別紙(1),(2)及び別紙『ランソプラゾール基準品の規格及び試験方法』,並びに平成11年2月16日付け医薬品製造承認事項一部変更承認申請書(販売名タケプロンカプセル15)によれば,本件処分の対象となった物は『ランソプラゾール』であって,本件特許発明の化合物においてR1=水素,R2=メチル,R3=水素,R4=トリフルオロエチル,n=1としたものと一致するから,本件特許発明の物と重複している。
(4-3)一方,本件処分においてランソプラゾールに追加された用途は,上記添付資料によれば,『胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるHpの除菌の補助』であり,本件特許発明の用途である『抗菌(剤)』とは文言上一致していない。
(4-4)そこで,本件処分で追加された『・・・Hpの除菌の補助』という用途が,『抗菌(剤)』という本件特許発明の用途と,文言は相違しても実質的に重複するか否かについて,以下に検討する。
一般に,『抗菌』は『除菌』を包含する広い概念又は上位概念を示す用語であることが認められる。したがって,本件処分で追加された『・・・Hpの除菌の補助』という用途が『・・・Hpの除菌』という用途と実質的に同一である限りにおいては,『抗菌(剤)』が『除菌の補助』をも包含し,両用途は重複することとなる。しかしながら,本件処分で追加された『・・・Hpの除菌の補助』という用途は,『・・・Hpの除菌』という用途と同一視することはできない。その理由は以下のとおりである。
平成16年3月25日付け意見書に参考資料1として添付された『タケプロンカプセル15及び同30の添付文書情報』の【薬効薬理】の欄には,『3.ヘリコバクター・ピロリ除菌の補助作用・・・(1)(省略)(2)アモキシシリン及びクラリスロマイシンとの3剤療法におけるランソプラゾールの役割は胃内pHを上昇させることにより,アモキシシリン及びクラリスロマイシンの抗菌活性を高めることにあると考えられる。』と記載され,ランソプラゾールの除菌の補助が該成分自身の抗菌作用に由来する効能効果でないことが明らかである(クラリスロマイシン,アモキシシリン及びランソプラゾールを,以下単に『3剤』ということがある)。
また上記添付文書の記載の基礎となったランソプラゾールの承認申請の審査結果に係る国立医薬品食品衛生研究所の『審査報告書』(衛研発第2701号)の14頁16~19行及び28頁1~9行によれば,当該承認申請の審査においては,ランソプラゾールが弱いHp抗菌作用を持つという事実は認識しながらも,3剤併用時のランソプラゾールの作用効果は,あくまで他の2剤の抗菌力を高めたり分解を抑制したりすることによって『除菌の補助(胃内pHの調節)』を行うものとして確認されている。
さらに上記報告書の『審査結果』の項の6~7頁によれば,3剤併用療法において新たに追加された各薬剤の用途(効果・効能)については,ランソプラゾールが『胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるHpの除菌の補助』と記載されているのに対し,アモキシシリン及びクラリスロマイシンは『胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるHp感染』と記載されている。また同報告書の『新医薬品第四調査会における審査の概要』の項の19頁26~32行をみても,各薬剤が奏する作用に関し『Hpの除菌』と『除菌の補助(胃内pHの調節)』とは区別して記載されている。すなわち同報告書では,3剤併用療法においてランソプラゾールについて認められた『・・・Hpの除菌の補助』という用途は,Hpに対して除菌又は抗菌作用を発揮する役割を果たす他の2剤の用途とは相違するものとして認識されていることが明らかである。
そうすると,これら添付文書及びその基礎となった審査報告書の記載内容からみて,承認申請の審査で3剤併用療法において新たに認められたランソプラゾールの『・・・Hpの除菌の補助』という用途は,『・・・Hpの除菌』という用途と実質的に同一とみることはできないから,結局,本件処分で追加されたランソプラゾールの『・・・Hpの除菌の補助』という用途は,他の2剤の用途とは異なり,本件特許の『抗菌剤』という用途と実質的に重複すると言うことはできない。
(4-5)この点に関し請求人は,平成16年11月18日付けの審判請求書の手続補正書において,本件処分で新たに認められたランソプラゾールの用途が文言上『Hpの除菌の補助』という表現であっても,これは3剤併用療法におけるランソプラゾールがそれ自体としての抗菌作用の発揮以上に他の抗菌剤の抗菌力の向上や分解の防止という主要な役割を果たすことが当局に重視されたに過ぎず,ランソプラゾール自体が単独でHpに対する選択的抗菌作用を有することを当局は認めた上で承認を与えているのであるから,本件処分で追加された『Hpの除菌の補助』という用途は『Hpの除菌』という用途と実質的に同義であるか,又は『Hpの除菌』若しくは『3剤の組合せによる抗菌剤』という用途の下位概念であることを主張するとともに,平成17年3月22日付けのFAXによる審尋書に対する平成17年4月15日付け回答書において,本件処分の審査では『除菌』という用語は菌に対する作用の程度(強さ)に関して『抗菌』という用語と区別して使用されていることを考慮すれば,『審査報告書』にランソプラゾールが『除菌』効果を有しないという記載があったとしても,そのことは『抗菌』効果がないことを意味せず,むしろランソプラゾールがHpに対する『抗菌』作用を持つことを当局は否定していないのであるから,『抗菌剤』に係る本件特許発明を実施するためには本件処分が必要であったことを主張している。
(4-6)しかしながら,たとえランソプラゾールがそれ自体単独で『抗菌』作用を有することが事実であっても(そもそも『抗菌剤』に係る本件特許が存在すること自体,ランソプラゾールが『抗菌』作用を有することを前提としているから,このことは当然の事実であることは措くとして),本件出願に係る延長登録が認められるためには,あくまで本件処分の範囲(物と用途)と本件特許発明の範囲(物と用途)とが重複していることが必要であることは上記(4-1)で述べたとおりであり,本件処分で追加されたランソプラゾールの『・・・Hpの除菌の補助』という用途が,本件特許発明の『抗菌剤』という用途と文言上一致していないばかりか,実質的にも重複しないことは,上記(4-3)及び(4-4)で述べたとおりであって,本件処分は本件特許発明の『抗菌剤』という用途についてされたものということはできないから,ランソプラゾールがそれ自体単独でHpに対する抗菌作用を有するか否かにかかわりなく,『抗菌剤』の用途に係る本件特許発明を実施するために『Hpの除菌の補助』の用途を追加する本件処分が必要であったとは認められない。」
(3) 審決の「むすび」
「したがって,本件処分は,本件出願に係る特許発明の実施に必要な処分であったとは認められないから,本件出願は特許法第67条の3第1項第1号の規定に該当し,本件特許権存続期間の延長登録を受けることができない。」
第3原告の主張(審決取消事由)の要点
審決は,著しい理由不備があり,また,本件処分において,対象である物である「ランソプラゾール」(本件特許発明に係る化合物の一般名)について特定された用途である「胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助」(以下,ヘリコバクター・ピロリを「Hp」と,この特定された用途を,単に「Hpの除菌の補助」又は「除菌の補助」ということがある。)が,本件特許発明における「抗菌(剤)」という用途と実質的に重複しないと誤って判断したものであるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(著しい理由不備)
審決は,「一般に,『抗菌』は『除菌』を包含する広い概念又は上位概念を示す用語であることが認められる。」としながら,「したがって,本件処分で追加された『・・・Hpの除菌の補助』という用途が『・・・Hpの除菌』という用途と実質的に同一である限りにおいては,『抗菌(剤)』が『除菌の補助』をも包含し,両用途は重複することとなる。」,「しかしながら,本件処分で追加された『・・・Hpの除菌の補助』という用途は,『・・・Hpの除菌』という用途と同一視することはできない。」と判断したのみで,除菌の補助と抗菌とが実質的に重複しないとの結論を導いたものである。
Hpの除菌の補助という用途がHpの除菌という用途と実質的に同一であれば,Hpの除菌の補助が抗菌に包含され,両用途が重複することは,そのとおりである。しかしながら,仮に,Hpの除菌の補助という用途がHpの除菌という用途と同一でなかったとしても,直ちに,除菌の補助と抗菌とが実質的に重複しないということはできない。なぜなら,抗菌は除菌の上位概念であるから,抗菌という概念は,除菌以外の下位概念の領域を有するところ,除菌の補助が当該領域において抗菌という概念に含まれ,これと重複する可能性があるからである。すなわち,抗菌と除菌の補助とが重複しないことを論証するためには,除菌の補助が,除菌と実質的に同一でないことを示すだけでは不十分であり,除菌の補助が,抗菌に属するあらゆる下位概念と実質的に同一でないことを示さなければならない。
したがって,単に,除菌の補助が除菌と実質的に同一でないという理由のみで,除菌の補助が抗菌と実質的に重複しないと結論付けた審決には,論理の飛躍があり,著しい理由不備が存するものというべきである。
2 取消事由2(除菌の補助が,本件特許発明における抗菌という用途と実質的に重複しないとした判断の誤り)
(1) 審決は,「タケプロンカプセル15」及び「タケプロンカプセル30」(いずれもランソプラゾールの販売名)の添付文書情報(乙第1号証。以下「本件添付文書情報」という。)の【薬効薬理】欄3に,「ヘリコバクター・ピロリ除菌の補助作用」との標題で,「アモキシシリン及びクラリスロマイシンとの3剤療法におけるランソプラゾールの役割は胃内pHを上昇させることにより,アモキシシリン及びクラリスロマイシンの抗菌活性を高めることにあると考えられる。」との記載があり(以下,アモキシシリン,クラリスロマイシン及びランソプラゾールを,単に「3剤」ということがある。),また,ランソプラゾールの承認申請の審査結果に係る国立医薬品食品衛生研究所の審査報告書(衛研発第2701号)(甲第22号証。以下「本件審査報告書」という。)に,「ランソプラゾールは弱いHp抗菌作用を持つが,Hp除菌における3剤併用のメリットは,Hpに対して抗菌力を示す3剤による相加作用ではなく,抗菌薬アモキシシリン及びクラリスロマイシン2剤の抗菌力を高め,胃酸によるこれら2剤の分解を抑制するために,ランソプラゾールが組み合わされ,相乗作用が期待されていることを確認した。」(14頁16~19行),「これらの3剤を組み合わせることによって,ランソプラゾールによる胃内pHの上昇は,アモキシリンの胃内での分解を抑制し,クラリスロマイシンの抗菌作用を高め,アモキシシリンとクラリスロマイシンのHpに対する相加・相乗的除菌効果の上昇をもたらす。」(28頁4~7行)等の記載があることに基づいて,「同報告書では,3剤併用療法においてランソプラゾールについて認められた『・・・Hpの除菌の補助』という用途は,Hpに対して除菌又は抗菌作用を発揮する役割を果たす他の2剤の用途とは相違するものとして認識されていることが明らかである。そうすると,これら添付文書及びその基礎となった審査報告書の記載内容からみて,承認申請の審査で3剤併用療法において新たに認められたランソプラゾールの『・・・Hpの除菌の補助』という用途は,『・・・Hpの除菌』という用途と実質的に同一とみることはできない」とし,ひいて,ランソプラゾールの『Hpの除菌の補助』という用途と本件特許発明の『抗菌剤』という用途が実質的に重複するということはできない,と判断した。
審決のこの判断は,ランソプラゾールのHpの除菌の補助という用途の範囲を,胃内のpHの調節というランソプラゾールの作用の一つに基づき限定解釈したことによって,導かれたものと考えられるが,行政処分である本件処分の対象である医薬品の効能,効果(用途)と,行政処分の対象ではない当該医薬品の作用機序とを混同したものであって,誤りである。
(なお,被告は,原告がその主張で用いる「作用機序」という語の用い方が誤りであって,ランソプラゾールの「胃内のpHの調節」作用等については,「薬理作用」という語を用いるべきであると主張するが,これを「作用機序」と表記するか,「薬理作用」と表記するかは,単なる言葉の問題にすぎない。)
(2) すなわち,本件処分は,薬事法14条6項(平成11年法律第160号による改正前のもの。以下,同法14条を引用する場合は,同改正前のものを指す。)に基づく,販売名「タケプロンカプセル15」に係る医薬品製造承認事項一部変更承認(「効能及び効果」を「胃潰瘍,十二指腸潰瘍,吻合部潰瘍,逆流性食道炎,Zollinger-Ellison 症候群」から「胃潰瘍,十二指腸潰瘍,吻合部潰瘍,逆流性食道炎,Zollinger-Ellison 症候群,胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助」に変更すること等を変更事項とするもの)であるところ,同法14条による医薬品の製造承認(本件と関連のある医療用医薬品に限定し,また,製造承認事項一部変更承認を含む。以下同じ。)の構造上,承認の要件である,当該医薬品の有効性(同条2項1号の「効能,効果」を有すること)の審査の対象となるのは,その医薬品が臨床現場において使用される特定の用途(特定の治療法)との関係における効能,効果それ自体であり,当該医薬品が,その投与を受けた患者の体内でどのようなメカニズムにより上記効能,効果を発現するかという,医薬品の作用機序までは,有効性審査の対象となるものではない。承認審査の過程においては,当該医薬品の作用機序についても検討されるのが通例であるが,審査の対象はあくまで,当該医薬品の特定の治療法に係る効能,効果それ自体であって,医薬品の作用機序は,臨床試験の結果によって確認される医薬品の効能,効果の論拠を科学的に説明するための情報として位置付けられるものである。
そうすると,医薬品の製造承認という行政処分において,処分の対象である医薬品の効能,効果(用途)は,臨床現場における特定の治療法との関係で,その意味内容や範囲が確定されるものであり,医薬品の作用機序に基づいて確定されるものではない。たとえば,承認に係る効能,効果を発現するに至る当該医薬品の作用機序が,承認審査の段階で議論されたものと異なることが,承認後に判明したとしても,そのことをもって,当該医薬品が,承認に係る効能,効果と異なる効能,効果を有する医薬品であると判断されるものではない。
(3) 本件処分は,ランソプラゾールにつき,アモキシシリンとクラリスロマイシンとの併用において「胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助」を効能,効果とするものである。
しかるところ,審決は,ランソプラゾールの効能,効果である「除菌の補助」と「胃内pHの調節」とを同義であるものとして,上記判断をしたものである。
しかしながら,「胃内pHの調節」とは,「除菌の補助」という効能,効果と同一ではなく,「除菌の補助」という効能,効果を発現するためのメカニズム(作用機序)である。そして,上記のとおり,作用機序自体は,医薬品の製造承認という行政処分において,処分の対象ではない。本件処分におけるランソプラゾールの効能,効果は,「Hpの除菌の補助」,すなわち,アモキシシリン及びクラリスロマイシンと併用して除菌療法に使用されることにより,除菌を補い助けることであって,どのような作用機序で除菌を補い助けるかは,本件処分の対象である効能,効果の範囲とは無関係である。のみならず,審決は,本件審査報告書の14頁16~19行及び28頁1~9行の記載を要約するに当たり,「除菌の補助(胃内pHの調節)」との表記を用いて,本件審査報告書が,あたかも除菌の補助と胃内pHの調節とを同義としているかのように記載しているが,本件審査報告書の各該当箇所には「除菌の補助(胃内pHの調節)」との表記はなく,かつ,各該当箇所の記載は,除菌の補助と胃内pHの調節とを同義と判断したものでもない。本件審査報告書の19頁26~32行の記載中には「除菌の補助(胃内pHの調節)」との表記があるが,この記載部分は,「Hpの除菌」と「潰瘍治療又は潰瘍の再発防止」との区別に力点があるのであって,除菌の補助と胃内pHの調節とを同義としているものではない。
したがって,除菌の補助と胃内pHの調節とが同義であるものとした上で,ランソプラゾールの「Hpの除菌の補助」という用途を「Hpの除菌」という用途と実質的に同一とみることはできないとした審決の判断は誤りである。
(4) 上記のとおり,「除菌の補助」という効能,効果を発現するための作用機序は,本件処分の対象ではないから,ランソプラゾールをアモキシシリン及びクラリスロマイシンと併用して除菌療法に使用した場合の「Hpの除菌の補助」,すなわち,Hpの除菌を補い助けるための作用機序は,胃内pHの調節に限られず,たとえば,静菌作用,すなわち「菌の増殖を一時的に止めること」であっても,また,胃内pHの調節作用と静菌作用の双方でHpの除菌を補い助けることであっても,本件処分の効力の範囲内である。
他方,抗菌剤における「抗菌」とは「菌に対抗すること」であり,除菌(菌を取り除くこと),殺菌(菌を死滅させること),静菌などは,いずれも抗菌の概念に含まれるし,また,静菌作用を有する薬剤,すなわち,静菌剤は,抗菌剤の概念に含まれるものである。
そして,ランソプラゾールは,Hpの静菌作用を有するものであるところ,臨床現場において,ランソプラゾールを静菌剤として,アモキシシリン及びクラリスロマイシンと併用し,Hpの除菌療法に使用することは,「Hpの除菌の補助」という本件処分で承認された効能,効果の範囲内の行為であり,ランソプラゾールが,臨床現場において静菌剤としてHpの除菌療法に使用されることを認識しつつ,「除菌の補助」という効能,効果を有するものとして,これを製剤化し,販売することは,本件処分の効力の範囲内の行為であるとともに,「ランソプラゾールを含有してなる抗菌剤」の発明である本件特許発明の実施に該当するものである。
したがって,ランソプラゾールの「Hpの除菌の補助」という用途と本件特許発明の「抗菌(剤)」という用途は重複するものであり,実質的に重複するということはできないとした審決の判断は誤りである。
(5) 被告は,本件添付文書情報及び本件審査報告書の記載から見て,本件処分において,ランソプラゾールに係る「除菌の補助」とは,ランソプラゾールが胃内pHの調節を行い,アモキシシリン及びクラリスロマイシンの胃酸による分解を防ぐことによって,アモキシシリン及びクラリスロマイシンの除菌作用を補助することを意味するものであって,ランソプラゾールの薬理作用は,除菌作用でも抗菌作用でもないことを述べ,本件処分で認められたランソプラゾールの用途は抗菌剤としての用途とはいえないと主張する。
しかしながら,本件処分の対象である「除菌の補助」という効能,効果の意味を,本件処分に至る審査過程において,当該効能,効果をもたらす作用機序(被告のいう「薬理作用」)として最も有力視されたものだけに基づく効能,効果に限定しなければならない必然性は存在せず,「除菌の補助」に対する抗菌作用の貢献が審査の過程で完全に否定されたものでない以上,たとえ,抗菌作用が胃内pHの調節作用と比べて「除菌の補助」への貢献度が低いものであったとしても,胃内pHの調節作用とともに抗菌作用が貢献した結果としての「除菌の補助」についても,本件処分により承認されたものと解することができる。
薬事法による製造承認の制度は,申請に係る医薬品が申請に係る効能,効果を有するものとして承認を与えるものであって,当該効能,効果をもたらす作用機序について承認を与えるという構造にはなっておらず,これを一義的に確定することは必須ではない。承認に係る効能,効果をもたらす可能性のある作用機序が複数あり得る場合,そのうちのある作用機序につき,承認に至る審査の過程において,当該効能,効果をもたらすものでないことが明確に確認されたといったような特段の事情がない限り,当該作用機序によってもたらされる当該効能,効果についても,承認の処分により薬事法上の禁止が解除されたことになるとの理解を前提として,特許発明との間の重複の有無を判断すべきである。
(6) 仮に,本件処分によって承認された効能,効果である「除菌の補助」の意義を,「胃内pHの調節作用のみによってもたらされる除菌の補助」と限定して解したとしても,ランソプラゾールにおいて,胃内pHの調節作用は,Hp抗菌作用をもたらすメカニズムの一つと考えられるから,「胃内pHの調節作用のみによってもたらされる除菌の補助」という効能,効果は,「抗菌作用によってもたらされる除菌の補助」を概念上包含することになり,かかる効能,効果は本件特許発明の「抗菌剤」の用途と重複するということができる。
すなわち,ランソプラゾールは,プロトンポンプ阻害薬(以下,略称を用いて「PPI」という。)に含まれるものであるところ,「Helicobacter Research vol.8, no.1」所収の小池智幸外9名による「酸分泌抑制薬による尿素呼気試験の偽陰性化」と題する論文(甲第30号証)には,PPIによる胃内中性化(胃内pHの上昇)が,Hp以外の細菌の胃内での増殖を引き起こし,その結果としてHpの発育や活性が抑制される可能性があることや,上記胃内pHの上昇が,低pHの胃中でもHpが生存できる根拠であるHpのウレアーゼ活性の低下を引き起こすと推察されることが記載されており,PPIの胃内pHの調節作用も,Hpの静菌(抗菌)作用をもたらすメカニズムの一つであると考えられているのである。
したがって,仮に,「除菌の補助」の意義を,「胃内pHの調節作用のみによってもたらされる除菌の補助」と限定して解した場合であっても,本件処分によって承認された効能,効果(用途)は,本件特許発明の用途と重複するものである。
第4被告の反論の要点
1 取消事由1(著しい理由不備)に対し
原告は,「除菌の補助」が「除菌」と実質的に同一でないという理由のみで,除菌の補助が「抗菌」と実質的に重複しないと結論付けた審決には,論理の飛躍があり,著しい理由不備が存すると主張するが,誤りである。
すなわち,特許権の存続期間の延長登録出願において,特許法67条2項の「その特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であって当該処分の目的,手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるもの」(以下「政令で定める処分」という。)を受けることにより禁止が解除された範囲と,特許発明の範囲とが重複していなければ,同法67条の3第1項1号の「その特許発明の実施に第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないとき。」に当たることになり,存続期間の延長登録出願は拒絶される。しかるところ,本件特許発明は,抗菌作用(本件特許出願に係る公告公報(甲第1号証)に掲載された本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の実験例1によれば,「Hpの発育阻止作用」)を利用した医薬用途発明であり,用途発明については,処分の範囲と特許発明の範囲とは,物と用途によって画されることになる。そして,本件特許発明における物(化合物群)と本件処分の対象となった物(ランソプラゾール)とが重複していることは明らかであるが,本件出願においては,本件処分で認められた用途(除菌の補助という効能,効果)が,本件特許発明に係る用途(抗菌剤)と,文言上,一致していないのであるから,これが実質的に重複するか否かを判断するためには,除菌の補助という効能,効果が,用途発明である本件特許発明が利用する用途(抗菌作用又はHpの発育阻止作用)を利用した効能,効果であるか否かを実体的に判断せざるを得ない。
そこで,審決は,本件処分で認められた用途(除菌の補助という効能,効果)が,本件特許発明に係る用途(抗菌剤)と,文言上,一致していないことを指摘した上,本件添付文書情報及びその基礎となった本件審査報告書の記載から見て,本件処分においてランソプラゾールにつき特定された効能,効果である「除菌の補助」とは,ランソプラゾールが胃内pHの調節を行い,アモキシシリン及びクラリスロマイシンの胃酸による分解を防ぐことによって,アモキシシリン及びクラリスロマイシンの除菌作用を補助することを意味すること,すなわち,本件添付文書情報及び本件審査報告書に,Hpの除菌はアモキシシリン及びクラリスロマイシンの働きによって行われ,本件処分で認められた効能,効果である「除菌の補助」に寄与するランソプラゾールの作用は,抗菌作用ではないことが明記されていることに基づき,「ランソプラゾールの除菌の補助が該成分自身の抗菌作用に由来する効能効果でないことが明らかである」旨指摘して,除菌の補助が抗菌と実質的に重複しないと判断したものであり,原告主張の誤りはない。
2 取消事由2(除菌の補助が,本件特許発明における抗菌という用途と実質的に重複しないとした判断の誤り)に対し
(1) 原告は,薬事法14条による医薬品の製造承認において,承認の要件である,当該医薬品の有効性の審査の対象となるのは,その医薬品の効能,効果それ自体であり,当該医薬品が,その投与を受けた患者の体内でどのようなメカニズムにより上記効能,効果を発現するかという,医薬品の作用機序までは,有効性審査の対象となるものではなく,ランソプラゾールの効能,効果である「除菌の補助」と,当該効能,効果を発現するための作用機序である「胃内pHの調節」とを同義であるものとして,除菌の補助が,本件特許発明における抗菌という用途と実質的に重複しないとの判断をした審決は誤りであると主張する。
(なお,一般に,薬物の「作用(薬理作用)」という語と,「作用機序」という語は区別されて使用されている。「薬理作用」とは,薬物が生体に働きかけて起こす作用のことをいい,たとえば,ランソプラゾールの「胃内pHの調節」作用は薬理作用である。そして,薬理作用が生体に有利に作用した結果が効能,効果になる。これに対し,「作用機序」とは,薬物が生体の細胞に働きかけて組織,器官,個体の生理学的な反応を引き起こす諸過程のことをいい,薬物がある「薬理作用」を発現するための生化学的又は生理学的な「メカニズム」とも言い換えられる。以下,原告の主張する「作用機序」は,「薬理作用」の意味であると理解して反論する。)
しかしながら,処分に係る効能,効果(用途)を特許発明の用途と対比して,その重複の有無を検討する際に,両者の文言が異なっているときには,当然,その実体を判断しなければならない。本件についていえば,本件処分で認められた「Hpの除菌の補助」という効能,効果(用途)が,本件特許発明と同じく抗菌作用に基づくものであるか,あるいは胃酸抑制作用など他の薬理作用を利用したものであるかによって,両用途が重複するか否かの判断が変わってくることは当然であり,したがって,本件処分で認められた「Hpの除菌の補助」の意味を理解する必要がある。そして,そのために,添付文書(本件添付文書情報)や,本件審査報告書のような審査資料を参照することも常識的な手段である。
しかるところ,上記1のとおり,本件添付文書情報及びその基礎となった本件審査報告書の記載から見て,本件処分においてランソプラゾールにつき特定された効能,効果である「Hpの除菌の補助」とは,ランソプラゾールが胃内pHの調節を行い,アモキシシリン及びクラリスロマイシンの胃酸による分解を防ぐことによって,アモキシシリン及びクラリスロマイシンの除菌作用を補助することを意味するものであって,ランソプラゾールの薬理作用は,除菌作用を発揮する他の2剤(アモキシシリン及びクラリスロマイシン)とは相違するものであることが認められるので,審決は,本件処分で認められた除菌の補助という効能,効果を得るために利用されているランソプラゾールの(薬理)作用が「胃内pHの調節」作用であり,除菌作用でも抗菌作用でもないことを述べ,本件処分で認められたランソプラゾールの用途は抗菌剤としての用途とは言えないとの判断をしたものである。
(2) 原告は,ランソプラゾールを,静菌剤としてアモキシシリン及びクラリスロマイシンと併用し,Hpの除菌療法に使用することは,「Hpの除菌の補助」という本件処分で承認された効能,効果の範囲内の行為であり,ランソプラゾールが,臨床現場において静菌剤としてHpの除菌療法に使用されることを認識しつつ,「除菌の補助」という効能,効果を有するものとして,これを製剤化し,販売することは,本件処分の効力の範囲内の行為であるとともに,「ランソプラゾールを含有してなる抗菌剤」の発明である本件特許発明の実施に該当するものであると主張する。
しかしながら,本件処分において,ランソプラゾールについて認められた効能,効果(除菌の補助)の範囲内に,静菌剤(抗菌剤)としての使用(行為)が存在するというためには,3剤併用Hp除菌療法の用法用量に従って使用したときに,ランソプラゾールの静菌作用(抗菌作用)が発揮され,その作用が除菌の補助という効能,効果をもたらしていることが,本件処分に当たって確認され,製造承認がなされたことが明らかにされなければならないが,そのようなことは明らかにされていない。また,ランソプラゾールを使用したことが,「抗菌剤」に係る医薬用途発明である本件特許発明の実施に該当するといえるためには,ランソプラゾールが単に抗菌作用を持っているだけでは足りず,これに抗菌作用を発揮させるための使用でなければならない。そうでなければ,物の有する性質(薬理作用)を専ら利用する用途発明を実施したことにならないからである。しかるに,ランソプラゾールは抗菌作用ではなく,あくまでpH調節作用を発揮して他の2剤を補助するための除菌補助剤として承認されたのであるから,除菌療法に使用されるという認識とは関係なく,当該使用は,「抗菌剤」に係る本件特許発明の実施に該当しない。
(3) したがって,原告の主張は誤りであり,審決に原告主張の誤りはない。
第5当裁判所の判断
1 本件処分について
(1) 甲第4(医薬品製造承認事項一部変更承認書),第5(医薬品製造承認事項一部変更承認申請書),第22号証(本件審査報告書),乙第1号証(本件添付文書情報)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
ア 本件処分は,販売名「タケプロンカプセル15」に係る,薬事法14条6項に基づく医薬品製造承認事項一部変更承認であり,変更事項は,「効能及び効果」について,従前の「胃潰瘍,十二指腸潰瘍,吻合部潰瘍,逆流性食道炎,Zollinger-Ellison 症候群」に「胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助」を追加し,これに伴って,「用法及び用量」につき,「胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助の場合」に係るものとして,「通常,成人にはランソプラゾールとして1回30mg,アモキシシリンとして1回750mg(力価)及びクラリスロマイシンとして1回200mg(力価)の3剤を同時に1日2回,7日間経口投与する。なお,クラリスロマイシンは,必要に応じて適宜増量することができる。ただし,1回400mg(力価)1日2回を上限とする。」を付け加えた点である。
イ 本件処分と並行して,アモキシシリン(販売名・「アモリンカプセル125」等)及びクラリスロマイシン(販売名・「クラリス錠200」等)についても,医薬品製造承認事項一部変更承認の処分がなされたところ,その変更事項は,「効能及び効果」について,「胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリ感染」を追加し,「用法及び用量」につき,「胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリ感染」に係るものとして,上記アと同旨の内容を付加した点である。
ウ 本件処分後の「タケプロンカプセル15」の添付文書(「タケプロンカプセル30」の添付文書を兼ねる。)の「薬効薬理」欄には,「ヘリコバクター・ピロリ除菌の補助作用」として,「(2)アモキシシリン及びクラリスロマイシンとの3剤療法におけるランソプラゾールの役割は胃内pHを上昇させることにより,アモキシシリン及びクラリスロマイシンの抗菌活性を高めることにあると考えられる。」との記載がある。
エ 本件処分並びに上記イのアモキシシリン及びクラリスロマイシンについての医薬品製造承認事項一部変更承認の処分に係る承認申請に関し,医薬品医療機器審査センターでの審査の結果を記載した,国立医薬品食品衛生研究所長作成の厚生省医薬安全局長宛て審査報告書(本件審査報告書)には,以下の記載がある。
(ア) 「本剤はランソプラゾール,アモキシシリン及びクラリスロマイシンの併用投与による胃潰瘍又は十二脂腸潰瘍におけるHpの除菌を目的とした薬剤である」(11頁11~13行)
(イ) 「また,ランソプラゾールは弱いHp抗菌作用を持つが,Hp除菌における3剤併用のメリットは,Hpに対して抗菌力を示す3剤による相加作用ではなく,抗菌薬アモキシシリン及びクラリスロマイシン2剤の抗菌力を高め,胃酸によるこれら2剤の分解を抑制するために,ランソプラゾールが組み合わされ,相乗作用が期待されていることを確認した。」(14頁16~19行)
(ウ) 「また,調査会は,申請者に,①3剤併用療法の副作用及び投与期間についての適切な情報伝達を行い,患者に対しては適切な情報伝達及び十分な服薬指導を行うこと,②3剤併用の『効能・効果』は『胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリの除菌』であり,各薬剤は『ヘリコバクター・ピロリの除菌』又は『除菌の補助(胃内pHの調節)』を行っているにすぎない。したがって,『潰瘍の治療』あるいは『潰瘍の再発防止』については,国内において検証されていないことを,臨床現場及び患者に十分に情報提供すること,等を指導した。」(19頁26~32行)
(エ) 「胃潰瘍,十二脂腸潰瘍患者で,Hp感染が明らかな患者に対して,ランソプラゾール,アモキシシリン,クラリスロマイシン各単剤それぞれでは,Hp除菌を行うことは不十分であることが明らかである。しかしながら,これらの3剤を組み合わせることによって,ランソプラゾールによる胃内pHの上昇は,アモキシシリンの胃内での分解を抑制し,クラリスロマイシンの抗菌作用を高め,アモキシシリンとクラリスロマイシンのHpに対する相加・相乗的効果をもたらす。・・・これらの成績は併用療法による除菌効果を裏付けるものであり,各単剤のみで除菌効果を裏付けるものではない。そのため,用法・用量の記載は・・・併用する薬剤の用量も明記させた。」(28頁2~13行)
(2) 上記(1)の各事実によれば,本件処分は,ランソプラゾール,アモキシシリン,クラリスロマイシンの3剤併用療法によるHp除菌作用において,ランソプラゾールによる胃内pHの上昇が,アモキシシリンの胃内での分解を抑制し,クラリスロマイシンの抗菌作用を高め,アモキシシリン及びクラリスロマイシン2剤のHpの除菌に係る相加・相乗的効果をもたらすことを認め,「効能及び効果」を「胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助」とし,この「効能及び効果」に係る「用法及び用量」を,アモキシシリン及びクラリスロマイシンとの各所定量の同時投与として,なされたものであること,これに対し,アモキシシリン及びクラリスロマイシンは,3剤併用療法によるHp除菌作用において,Hpの除菌効果そのものが確認され,この2剤に対しては,「胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリ感染」を追加された「効能及び効果」とする医薬品製造承認事項一部変更承認の処分がなされたことを認めることができる。3剤併用療法によるHp除菌作用において,ランソプラゾールがこれと異なる作用を経て,アモキシシリン及びクラリスロマイシン2剤のHpの除菌に係る相加・相乗的効果を発現,向上させる事実が確認され,それが本件処分がなされるにつき考慮されたとの事実を認めるに足りる証拠はない。
2 取消事由1(著しい理由不備)について
原告は,「抗菌」が「除菌」の上位概念であって,除菌以外の下位概念の領域を有するところ,「除菌の補助」が当該領域において抗菌という概念に含まれ,抗菌と重複する可能性があるから,除菌の補助が除菌と実質的に同一でないという理由のみで,除菌の補助が抗菌と実質的に重複しないと結論付けた審決には,論理の飛躍があり,著しい理由不備が存すると主張する。
しかるところ,原告の上記主張は,形式論理上は,成り立たないでもない。しかしながら,抗菌の下位概念に包含されるもので,文言上,「除菌の補助」と最も近いと考えられるものは「除菌」であるから,審決が,本件処分に係る効能,効果(用途)である「除菌の補助」と,本件特許発明の用途である「抗菌(剤)」との実体的な重複の有無を判断するに当たり,「除菌の補助」という用途を,抗菌の下位概念のうちの「除菌」という用途と対比して実質的な同一性を検討し,これを否定する判断をした以上,除菌以外の下位概念についてまで,検討を及ぼさなくとも,特段の事情のない限り,「除菌の補助」と「抗菌」との実体的な重複の有無の判断において足りるものというべきであり,上記特段の事情の存在を認めるに足りる証拠もない。
なお,原告は,後記のとおり,除菌以外の抗菌の下位概念である「静菌」という用途が,「除菌の補助」と重複すると主張するが,上記1のとおり,本件審査報告書及び本件添付文書情報,その他の資料上,3剤併用療法によるHp除菌作用において,ランソプラゾールが,その静菌作用により,アモキシシリン及びクラリスロマイシン2剤のHpの除菌に係る相加・相乗的効果を発現,向上させる事実が確認され,それが本件処分がなされるにつき考慮されたことを窺わせる根拠はなく,審決は,このことにより,「静菌」という下位概念との重複は論ずるまでもないと判断したものと解されるところ,後記3の(3)のイ,ウで説示するところによれば,審決のかかる判断が誤りであるということはできない。
したがって,審決に,原告主張の理由不備があるということはできない。
3 取消事由2(除菌の補助が,本件特許発明における抗菌という用途と実質的に重複しないとした判断の誤り)について
(1) 特許法67条2項,67条の3第1項によれば,特許権の存続期間の延長は,その特許発明の実施に,政令で定める処分を受けることが必要である場合になされ,その特許発明の実施に,政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないときは,特許権の存続期間の延長登録の出願は拒絶されるところ,同法68条の2に「特許権の存続期間が延長された場合・・・の当該特許権の効力は,その延長登録の理由となった第67条第2項の政令で定める処分の対象となった物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあっては,当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には,及ばない。」との規定があること,及び,本件特許発明が,いわゆる用途発明であって,特許請求の範囲の請求項1記載の化合物(ランソプラゾール)の抗菌作用(性質)を専ら利用する発明であることにかんがみれば,本件特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であるというためには,本件処分において定められた特定の用途である「胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助」と,本件特許発明の用途である「抗菌」とが重複することが必要であり,これが重複すると認められないときは,同法67条の3第1項により,本件出願は拒絶されるべきものと解される。
なお,本件特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であるというためには,本件処分において定められた特定の用途と,用途発明である本件特許発明の用途とが重複することのほか,本件処分の対象となった物と,物の発明である本件特許発明で特定された物とが重複すること(すなわち,本件処分及び本件特許発明をそれぞれ画する物と用途の双方が重複すること)が,もとより必要であるが,物が重複することについては,審決がこれを認めており,当事者間に争いがない。
(2) しかるところ,審決は,本件添付文書情報の記載内容に基づき「ランソプラゾールの除菌の補助が該成分自身の抗菌作用に由来する効能効果でないこと」を,また,本件審査報告書の記載内容に基づき,「承認申請の審査においては,・・・3剤併用時のランソプラゾールの作用効果は,あくまで他の2剤の抗菌力を高めたり分解を抑制したりすることによって『除菌の補助(胃内pHの調節)』を行うものとして確認されている」こと,及び本件審査報告書では,「3剤併用療法においてランソプラゾールについて認められた『・・・Hpの除菌の補助』という用途は,Hpに対して除菌又は抗菌作用を発揮する役割を果たす他の2剤(判決注:アモキシシリン及びクラリスロマイシン)の用途とは相違するものとして認識されていること」を,それぞれ認定した上,「承認申請の審査で3剤併用療法において新たに認められたランソプラゾールの『・・・Hpの除菌の補助』という用途は,『・・・Hpの除菌』という用途と実質的に同一とみることはできないから,結局,本件処分で追加されたランソプラゾールの『・・・Hpの除菌の補助』という用途は,他の2剤の用途とは異なり,本件特許の『抗菌剤』という用途と実質的に重複すると言うことはできない」と判断したものである。
そして,上記1の認定事実に照らして,審決の上記各認定事項に誤りはなく,これらの認定事項に基づく上記判断にも誤りはないものと認められる。
(3) これに対し,原告は,審決の上記認定判断が誤りであると主張するので,以下,原告の当該主張の論拠について,順次検討する(なお,被告は,原告の「作用機序」という語の用い方が誤りであって,「薬理作用」という語を用いるべきであると主張するが,少なくとも,本件において原告の使用する「作用機序」の語と,被告の使用する「薬理作用」の語は,いわゆる言葉の問題以上に相違するものではないと認められるから,差し当たり,原告の用語に従って,「作用機序」の語を用いることにする。)。
ア まず,原告は,医薬品の製造承認という行政処分において,処分の対象である医薬品の効能,効果(用途)は,臨床現場における特定の治療法との関係で,その意味内容や範囲が確定されるものであり,当該医薬品がどのようなメカニズムにより上記効能,効果を発現するかという,作用機序に基づいて確定されるものではないと主張するところ,本件につき,当該主張に係る「臨床現場における特定の治療法との関係」が,「3剤併用Hp除菌療法の用法用量に従った使用との関係」という意味であれば,本件処分に係る行政処分としての効力の範囲の問題としては,原告主張のとおりと考えられる。すなわち,仮に,本件処分後に,ランソプラゾール,アモキシシリン,クラリスロマイシンの3剤併用療法によるHp除菌作用において,ランソプラゾールが,アモキシシリン及びクラリスロマイシン2剤のHpの除菌に係る相加・相乗的効果をもたらす作用機序が,ランソプラゾールによる胃内pHの上昇が,アモキシシリンの胃内での分解を抑制し,クラリスロマイシンの抗菌作用を高めることによるものではなく,例えば,Hp菌の増殖を一時的に止める静菌作用によるものであることが判明したとしても,本件処分が誤りであるとか,新たな医薬品製造承認事項一部変更承認が必要であるとされるものではない。
しかるところ,原告は,このことを根拠として,審決が,ランソプラゾールの効能,効果である「Hpの除菌の補助」と「胃内pHの調節」という作用機序とを同義であるものとして判断した誤りがあると主張する。
しかしながら,審決が,「除菌の補助(胃内pHの調節)」という表記を用いたとしても,それは,ランソプラゾールが,胃内pHの調節という作用機序によって,アモキシシリン及びクラリスロマイシン2剤のHpの除菌効果を補助するという趣旨であって,審決が,「Hpの除菌の補助」と「胃内pHの調節」という作用機序とを同義であるものとしているものではないことは,その説示に照らして明らかである(本件審査報告書も,同様の趣旨で,「除菌の補助(胃内pHの調節)」との表記を用いていることは,上記1の(1)のエの(ウ)のとおりである。)。そして,本件処分が,行政処分としての効力の範囲としては,3剤併用療法におけるランソプラゾールの「Hpの除菌の補助」という効能,効果が,胃内pHの調節(上昇)という特定の作用機序に基づく場合に限られるものではないとしても,審決が,本件特許権存続期間の延長登録出願の当否を判断するに当たって,「Hpの除菌の補助」という効能,効果をもたらす作用機序について検討したことをもって,誤りということはできない。
すなわち,仮に,本件出願に対する当否の判断に当たり,ランソプラゾールの「除菌の補助」という効能,効果をもたらす作用機序を全く考慮してはならないとすれば,本件処分におけるランソプラゾールの効能,効果(用途)と,用途発明である本件特許発明の用途とが重複するか否かは,本件処分に係る「除菌の補助」との文言と,本件特許発明の用途である「抗菌(剤)」との文言が一致するかどうかに従って,これを検討する以外に方法はなく,そうであれば,「除菌の補助」との文言と,「抗菌(剤)」との文言は一致していないから,本件処分で追加されたランソプラゾールの「Hpの除菌の補助」という用途は,直ちに,本件特許発明の「抗菌(剤)」という用途と重複していないと評価されざるを得ない。
しかるところ,審決は,「本件処分においてランソプラゾールに追加された用途は,・・・『胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるHpの除菌の補助』であり,本件特許発明の用途である『抗菌(剤)』とは文言上一致していない」(審決書3頁30行~4頁2行)とした上で,「本件処分で追加された『・・・Hpの除菌の補助』という用途が,『抗菌(剤)』という本件特許発明の用途と,文言は相違しても実質的に重複するか否かについて」(同4頁3~5行),さらに判断をしているのであり,その判断過程において,「Hpの除菌の補助」という効能,効果をもたらす作用機序を取り上げて検討しているものであるところ,このように,「除菌の補助」と「抗菌(剤)」との重複の有無を,単に文言上の一致・不一致だけに求めるのではなく,文言は相違しても実質的に重複するか否かという検討を経て判断することはまことに相当であり,そして,その場合に,実質的に重複するか否かを判断するための資料は,「除菌の補助」という効能,効果をもたらす作用機序以外に見当たらないから,審決が,本件出願の当否を判断するに当たって,「Hpの除菌の補助」という効能,効果をもたらす作用機序について検討したことは当然であり,これを誤りとすることはできない。
イ 次に,上記のとおり,本件処分の行政処分としての効力の範囲としては,3剤併用療法におけるランソプラゾールの「Hpの除菌の補助」という効能,効果が,胃内pHの調節(上昇)という特定の作用機序に基づく場合に限られるものではなく,例えば,仮に,Hp菌の増殖を一時的に止める静菌作用によるものであることが判明した場合であっても,また,胃内pHの調節と静菌作用の双方によるものであることが判明した場合であっても,本件処分の効力が及ぶものと考えられるところ,原告は,「静菌」は「抗菌」の概念に含まれ,かつ,ランソプラゾールはHpの静菌作用を有するものであるから,ランソプラゾールを静菌剤として,アモキシシリン及びクラリスロマイシンと併用し,Hpの除菌療法に使用することは,「Hpの除菌の補助」という効能,効果の範囲内の行為であり,ランソプラゾールが,臨床現場において静菌剤としてHpの除菌療法に使用されることを認識しつつ,「除菌の補助」という効能,効果を有するものとして,これを製剤化し,販売することは,本件処分の効力の範囲内の行為であるとともに,「ランソプラゾールを含有してなる抗菌剤」の発明である本件特許発明の実施に該当するものであると主張する。
しかしながら,本件処分が,ランソプラゾール,アモキシシリン,クラリスロマイシンの3剤併用療法によるHp除菌作用において,ランソプラゾールによる胃内pHの上昇が,アモキシシリンの胃内での分解を抑制し,クラリスロマイシンの抗菌作用を高め,アモキシシリン及びクラリスロマイシン2剤のHpの除菌に係る相加・相乗的効果をもたらすことを認めてなされたものであること,3剤併用療法によるHp除菌作用において,ランソプラゾールが,静菌作用等,これと異なる作用により,アモキシシリン及びクラリスロマイシン2剤のHpの除菌に係る相加・相乗的効果を発現,向上させる事実が確認され,それが本件処分がなされるにつき考慮された形跡が認められないことは,上記1のとおりである。そして,上記アのとおり,本件処分におけるランソプラゾールの効能,効果(用途)と本件特許発明の用途とが,実質的に重複するか否かの判断に当たって,ランソプラゾールの「除菌の補助」という効能,効果をもたらす作用機序について検討する場合には,本件処分がなされるにつき,考慮された作用機序に基づいてこれを行うべきものであり,仮に,「静菌」が「抗菌」の概念に含まれ,また,ランソプラゾールが,Hpの静菌作用を有するものであるとしても,3剤併用療法によるHp除菌作用において,ランソプラゾールの静菌作用が,アモキシシリン及びクラリスロマイシン2剤のHpの除菌に係る相加・相乗的効果をもたらすとの,本件処分において考慮された形跡のない作用機序について検討すべきであるとすることはできない。
この点につき,原告は,「除菌の補助」という効能,効果の意味を,本件処分に至る審査過程において,当該効能,効果をもたらす作用機序として最も有力視されたものだけに基づく効能,効果に限定しなければならない必然性は存在しないとか,抗菌作用が胃内pHの調節作用と比べて「除菌の補助」への貢献度が低いものであったとしても,胃内pHの調節作用とともに抗菌作用が貢献した結果としての「除菌の補助」についても,本件処分により承認されたものと解されると主張するが,上記のとおり,本件処分がなされるにつき,3剤併用療法によるHp除菌作用において,ランソプラゾールの静菌作用が,胃内pHの調節作用より貢献度が低いにせよ,アモキシシリン及びクラリスロマイシン2剤のHpの除菌に係る相加・相乗的効果を発現,向上させる事実が確認され,それが本件処分がなされるにつき考慮されたという形跡はないのであるから,上記主張は,前提を誤るものといわざるを得ない。
また,原告は,薬事法による製造承認の制度は,申請に係る医薬品が申請に係る効能,効果を有するものとして承認を与えるものであって,当該効能,効果をもたらす作用機序について承認を与えるという構造にはなっていないから,製造承認に係る効能,効果をもたらす可能性のある作用機序が複数あり得る場合,承認に至る審査の過程において,ある作用機序が,当該効能,効果をもたらすものでないことが明確に確認されたといったような事情がない限り,当該作用機序によってもたらされる当該効能,効果についても,承認の処分により薬事法上の禁止が解除されたことになるとの理解を前提として,特許発明との間の重複の有無を判断すべきであると主張する。しかしながら,薬事法による製造承認の制度の構造が,原告主張のとおりであり,本件処分の行政処分としての効力の範囲としては,3剤併用療法におけるランソプラゾールの「Hpの除菌の補助」という効能,効果が,胃内pHの調節(上昇)という特定の作用機序に基づく場合に限られるものではなく,本件処分後に,Hp菌の増殖を一時的に止める静菌作用によるものであることが判明した場合であっても,本件処分の効力が及ぶものと考えられるとしても,当該効能,効果が,Hp菌の増殖を一時的に止める静菌作用によるものであることが判明した場合というのは,あくまで仮定の議論であり,現実に,そのような作用機序が認められるとして,本件処分に当たって考慮されたものではない。そして,少なくとも本件においては,上記アのとおり,本件処分に係る「除菌の補助」との文言と,用途発明である本件特許発明の用途である「抗菌(剤)」との文言が一致しない場合に,これが実質的に重複するか否かを判断するために,ランソプラゾールの「除菌の補助」という効能,効果をもたらす作用機序について検討することを要するのであり,この場合の検討の対象である作用機序が,本件処分に係る審査の段階で否定されなかった(むしろ,「言及されなかった」というべきである。)というだけの,仮定のもので足りるということはできない。
したがって,原告の上記主張も失当である。
ウ 原告は,小池智幸外9名による「酸分泌抑制薬による尿素呼気試験の偽陰性化」と題する論文(甲第30号証)に,PPIによる胃内中性化(胃内pHの上昇)が,Hp以外の細菌の胃内での増殖を引き起こし,その結果としてHpの発育や活性が抑制される可能性があることや,上記胃内pHの上昇が,低pHの胃中でもHpが生存できる根拠であるHpのウレアーゼ活性の低下を引き起こすと推察されることが記載されているから,PPIに含まれるランソプラゾールの胃内pHの調節作用も,Hpの静菌(抗菌)作用をもたらすメカニズムの一つであり,ランソプラゾールの「除菌の補助」の意義を,「胃内pHの調節作用のみによってもたらされる除菌の補助」と解した場合であっても,本件処分によって承認された効能,効果(用途)は,本件特許発明の用途と重複すると主張する。
しかしながら,仮に,ランソプラゾールの胃内pHの調節作用が,Hpの静菌作用をもたらすメカニズムの一つであるとしても,本件処分が,ランソプラゾール,アモキシシリン,クラリスロマイシンの3剤併用療法によるHp除菌作用において,ランソプラゾールによる胃内pHの上昇が,アモキシシリンの胃内での分解を抑制し,クラリスロマイシンの抗菌作用を高め,アモキシシリン及びクラリスロマイシン2剤のHpの除菌に係る相加・相乗的効果をもたらすことを認めてなされたものであることは,上記1のとおりであり,本件審査報告書及び本件添付文書情報には,ランソプラゾールの胃内pHの調節作用が,Hpの静菌作用をもたらし,Hpの静菌作用がアモキシシリン及びクラリスロマイシン2剤のHpの除菌に係る相加・相乗的効果をもたらすというような作用機序については記載も示唆もされておらず,他に,本件処分が,そのような作用機序を認めてなされたことを認めるに足りる証拠もない。
そうすると,ランソプラゾールの胃内pHの調節作用が,Hpの静菌(抗菌)作用をもたらすメカニズムの一つであるとしても,本件処分におけるランソプラゾールの「除菌の補助」という効能,効果が,「抗菌作用によってもたらされる除菌の補助」を概念上包含するということはできず,原告の上記主張も失当である。
4 結論
以上によれば,原告の主張はすべて理由がなく,原告の請求は棄却されるべきである。
(裁判長裁判官 塚原朋一 裁判官 石原直樹 裁判官 佐藤達文)