知財高等裁判所 平成17年(行ケ)10780号 判決 2006年11月13日
原告
菊水化学工業株式会社
訴訟代理人弁理士
足立勉
毛利大介
加藤圭一
被告
特許庁長官 中嶋誠
指定代理人
脇村善一
唐木以知良
西川和子
田中敬規
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
「特許庁が不服2003-12918号事件について平成17年9月12日にした審決を取り消す。」との判決。
第2事案の概要
本件は,原告が,名称を「発泡形耐火塗料」とする発明につき特許出願をして拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がなされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 本件出願(甲第8号証)
出願人:菊水化学工業株式会社(原告)
発明の名称:「発泡形耐火塗料」
出願番号:特願平11-216457
出願日:平成11年7月30日
(2) 本件手続
手続補正日:平成12年10月26日(甲第9号証)
手続補正日:平成14年4月18日(甲第10号証)
拒絶査定日:平成15年6月3日
審判請求日:平成15年7月9日(不服2003-12918)
手続補正日:平成17年7月11日(甲第12号証)
審決日:平成17年9月12日
審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
審決謄本送達日:平成17年10月5日
2 本願発明の要旨
審決が対象とした発明(平成17年7月11日付け手続補正後の請求項1に記載された発明であり,以下「本願発明」という。なお,請求項の数は1個である。)の要旨は,以下のとおりである。
「(あ)ペンタエリスリトール,ジペンタエリスリトール,トリペンタエリスリトール,ポリペンタエリスリトールから任意に選択される多価アルコール,(い)メラミン及びその誘導体から選択される含窒素発泡剤,(う)酢酸ビニル樹脂エマルジョン,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン,アクリル樹脂エマルジョンから選択される合成樹脂エマルジョン,(え)リン酸アンモニウム及び/又はポリリン酸アンモニウムである難燃性発泡剤,(お)二酸化チタンを主成分とし,その重量比が(あ):(い):(う):(え):(お)が100:80~150:200~500:280~450:100~300である発泡形耐火塗料にあって,上記発泡形耐火塗料を塗装し,得られた薄膜を加熱し発泡層を形成する過程が,(う)が軟化し,(あ)が260℃で分解ガスを発生し,発泡層を形成し,次に(え)が275℃でアンモニアガスを発生し,(あ)と(う)との結合により網み目構造の発泡層を形成し,さらに,(い)が370℃で発泡倍率を増加させることにより,発泡層のひび割れと脱落を抑制するものであることを特徴とする発泡形耐火塗料。」
3 審決の理由の要点
審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本願発明は,特開平6-55680号公報(甲第2号証。以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができないというものである。
1 刊行物1の記載
刊行物1(特開平6-55680号公報)には,以下の記載がある。
ア 「本発明者らは,このような課題を解決するため,鋭意研究を行った結果,従来の発泡耐火塗料を可燃性の布状物に含浸又は担持させて,シートとして使用すると,施工が容易になり,しかも発泡が均一に起こって耐火性能が向上することを見出し,本発明を完成した。すなわち,本発明は,発泡耐火塗料を含浸又は担持させた可燃性布状物からなる発泡耐火シートにある。」(段落【0014】~【0015】)
イ 「発泡耐火塗料(発泡性防火塗料と呼ばれることもある)は,高温度に接すると塗膜が数倍から数十倍の厚さに膨れる塗料であり,一般に,バインダー,発泡剤及び炭素生成材料を必須成分として含有し,必要に応じて無機質粉体等を含有する。」(段落【0017】)
ウ 「発泡耐火塗料の必須構成成分であるバインダーとしては,ポリシロキサン,アルカリ金属珪酸塩,石膏等の無機系バインダー;合成樹脂エマルション,ラテックス等の分散型有機系バインダー;ポリエチレン,ポリスチレン,ポリ塩化ビニル,ポリ酢酸ビニル等の熱可塑性樹脂又はエポキシ樹脂,ウレタン樹脂,フェノール樹脂,尿素樹脂,メラミン樹脂,アルキッド樹脂,ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を含有する樹脂溶液型有機系バインダーを使用することができる(段落【。」0018】)
エ 「発泡剤としては,ジシアンジアミド系発泡剤,メラミン系発泡剤,塩素化パラフィン系発泡剤,リン酸塩系発泡剤等を使用することができる。中でも,リン酸塩系のポリリン酸アンニウムが優れている。ポリリン酸アンモニウムは,オルトリン酸の縮合物であるピロリン酸,トリリン酸,トリメタリン酸,テトラメタリン酸等のアンモニウム塩であり,300℃程度以上の熱により分解して,不燃性のアンモニアガスの発生と水の脱離とによって火災の消火効果を発揮するものである。」(段落【0019】)
オ 「炭素生成材料としては,多価アルコール,多糖類,熱膨脹性黒鉛等の,炭素,酸素,水素以外の元素を含まない化合物を使用することができる。中でも多価アルコールが好ましく,特にペンタエリスリトールが優れている。ペンタエリスリトールは,熱によって炭化する性質を有し,発泡剤の発泡中には,気泡を内部に含む多孔質の炭化層を形成する。」(段落【0020】)
カ 「無機粉末としては,必要に応じて,珪酸塩,炭酸塩,酸化アルミニウム,粘土,クレー,シラス,マイカ,二酸化チタン等を使用することができる。」(段落【0021】)
キ 「発泡耐火塗料の各成分の構成比率は,公知の発泡性耐火塗料の配合組成を参考にして適宜に選定することができる。具体的に好適な範囲はバインダーの種類によっても異なるが,例えば,アルキド樹脂を含有する樹脂溶液型のバインダーを使用する場合には,樹脂の固形分に換算したバインダーの配合量を100重量部とすると,発泡剤例えばポリリン酸アンモニウムの配合量は100~600重量部,炭素生成材料例えばペンタエリスリトールの配合量は25~300重量部,メラミンの配合量は25~300重量部,無機粉末の配合量は25~200重量部,無機繊維の配合量は1~5重量部の範囲内から選択するのがよい。」(段落【0023】)
ク 「〔発泡耐火塗料の調製及び発泡耐火シートの製造〕
実施例1
一液変性エポキシ樹脂溶剤系バインダー100重量部,ポリリン酸アンモニウム112.7重量部,ペンタエリスリトール26.0重量部,メラミン粉末34.7重量部,二酸化チタン粉末53.3重量部及び希釈剤66.7重量部を配合した。」(段落【0037】)
2 対比・検討
(1)対比
刊行物1には,従来の発泡耐火塗料を布状物に含浸又は担持させた,施工の容易な発泡耐火シートに関する発明が記載されており(摘示ア),その発泡耐火シートに用いられる発泡耐火塗料の成分として,バインダー,発泡剤,炭素生成材料,無機粉末が挙げられ(摘示イ~カ),その具体例として,実施例1には,一液変性エポキシ樹脂溶剤系バインダー100重量部,ポリリン酸アンモニウム112.7重量部,ペンタエリスリトール26.0重量部,メラミン粉末34.7重量部,二酸化チタン粉末53.3重量部及び希釈剤66.7重量部を配合した発泡耐火塗料が示されている(摘示ク)。
その実施例1における発泡耐火塗料において,一液変性エポキシ樹脂溶剤系バインダーの重量部として記載されている「100重量部」は,摘示キの記載からみて,樹脂の固形分の重量であると解されるから,実施例1における各成分の重量割合を,それぞれペンタエリスリトール100重量部あたりに換算すると,メラミン133重量部,バインダー385重量部,ポリリン酸アンモニウム433重量部,二酸化チタン205重量部となり,ペンタエリスリトール,メラミン粉末,ポリリン酸アンモニウム,二酸化チタンは,それぞれ,本願発明の(あ)成分,(い)成分,(え)成分及び(お)成分に該当するから,本願発明と刊行物1の実施例1に記載された発泡耐火塗料に関する発明(引用発明)を対比すると,両者は,「(あ)ペンタエリスリトール,ジペンタエリスリトール,トリペンタエリスリトール,ポリペンタエリスリトールから任意に選択される多価アルコール,(い)メラミン及びその誘導体から選択される含窒素発泡剤,(え)リン酸アンモニウム及び/又はポリリン酸アンモニウムである難燃性発泡剤,及び(お)二酸化チタンを主成分とする発泡耐火塗料」である点で一致し,以下の点で相違する。
相違点1 発泡耐火塗料の樹脂成分が,本願発明では,「(う)酢酸ビニル樹脂エマルジョン,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン,アクリル樹脂エマルジョンから選択される合成樹脂エマルジョン」であるのに対し,引用発明では,一液変性エポキシ樹脂溶剤系バインダーである点
相違点2 発泡耐火塗料の各成分の重量比が,本願発明では(あ):(い):(う):(え):(お)が100:80~150:200~500:280~450:100~300であるのに対し,引用発明では,(あ):(い):(え):(お)が100:133:433:205であり,(う)成分については言及されていない点
相違点3 本願発明では,発泡形耐火塗料を塗装し,得られた薄膜を加熱し発泡層を形成する過程が,(う)が軟化し,(あ)が260℃で分解ガスを発生し,発泡層を形成し,次に(え)が275℃でアンモニアガスを発生し,(あ)と(う)との結合により網み目構造の発泡層を形成し,さらに,(い)が370℃で発泡倍率を増加させることにより,発泡層のひび割れと脱落を抑制するものであるとされているのに対し,引用発明では,発泡性耐火塗料が発泡層を形成する過程等についてそのような特定がなされていない点
(2)検討
ア 相違点1について
刊行物1には,発泡耐火塗料のバインダー(樹脂成分)として合成樹脂エマルション,ラテックス等の分散型有機系バインダーが実施例で使っているエポキシ樹脂等の樹脂溶液型有機系バインダーとともに使用可能なものとして例示されており(摘示ウ),一方,発泡耐火塗料の樹脂成分として水性型及び溶剤型のもののいずれも使用することができること,水性型のものとしてポリ酢酸ビニル樹脂又はアクリル樹脂などのビニル系樹脂が使用できることは周知の技術的事項であり(例えば,特開平10-17796号公報,特開昭52-103898号公報,特開昭49-132821号公報参照),また,水性樹脂としてポリ酢酸ビニル樹脂又はアクリル樹脂などのビニル系樹脂は代表的なものであるから,引用発明の一液変性エポキシ樹脂溶剤系バインダーに代えて,酢酸ビニル樹脂エマルジョン,アクリル樹脂エマルジョン等の水性樹脂を使用することは当業者が適宜選択して行えることであり,水性樹脂を使用することによる効果,すなわち,有機溶剤非使用という構成に基づく健康上等の効果も当業者が広く認識しているもので,十分予測可能な範囲のものである。
イ 相違点2について
刊行物1には,各成分の構成比率は,公知の発泡耐火塗料の配合組成を参考にして適宜選定することができ,その例として,アルキド樹脂含有バインダーの場合が挙げられ,その場合,樹脂固形分100重量部あたり,発泡剤(ポリリン酸アンモニウム)の配合量は100~600重量部,炭素生成材料(ペンタエリスリトール)の配合量は25~300重量部,メラミンの配合量は25~300重量部,無機粉末の配合量は25~200重量部の範囲内から選択するのがよいとされているから(摘示キ),その記載及び前記実施例の発泡耐火塗料の各成分の重量割合を参考にして,ペンタエリスリトール100重量部あたりの他の成分の配合量として,(い)成分(メラミン及びその誘導体から選択される含窒素発泡剤)80~150重量部,(え)成分(リン酸アンモニウム及び/又はポリリン酸アンモニウムである難燃性発泡剤)280~450重量部及び(お)成分(二酸化チタン)100~300重量部という範囲を選択することは,当業者が適宜行えることである。そして,(う)成分に相当する水性樹脂エマルジョンの樹脂固形分の重量として,樹脂溶液型の場合の樹脂固形分の重量とペンタエリスリトールの重量割合を参考として,本願発明のペンタエリスリトール100重量部あたり200~500重量部という配合比率を設定することも,当業者が適宜行えることである。
ウ 相違点3について
相違点3に関する本願発明における構成要件(以下,「構成要件A」という。)は,発泡耐火塗料が加熱された場合に発泡層を形成する過程について,その性状が変化する様子及びその温度を特定し,そのようにして形成された発泡層がどのように耐火塗料として機能するのかを規定したものであり,構成要件Aは,発泡耐火塗料を構成する成分及びその配合量(以下,本願発明における発泡耐火塗料の配合成分及びその配合量に関する構成要件を「構成要件B」という)に因るものであるから,構成要件Bが同じか,あるいは重複する範囲のものであ。る場合には,構成要件Aは,同じか,あるいは重複したものとなるものであり,構成要件Aは構成要件Bとは独立した構成要件であるものとは認められない。言い換えれば,構成要件Aは,構成要件Bにより規定される発泡耐火塗料をさらに限定するものとは認められないものである。
相違点1及び相違点2に関しては,前示したとおり,当業者が容易に想到するものであるから,相違点3は当業者が容易に想到する構成に基づく構成から当然に導かれる構成要件を単に記述しただけのものである。
エ 本願発明の効果について
本願発明の効果は,優れた耐火性能を持った発泡耐火塗料が得られるというものであるが(本願明細書段落【0025】),その効果は,引用発明に基づいて容易に想到する構成に基づく効果の単なる確認にすぎず,引用発明から予測できない程度の優れたものであると認めることはできない。
(3)まとめ
してみると,本願発明1(判決注:「本願発明」の誤記と認められる。)は,刊行物1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 むすび
以上のとおりであるから,本願発明は,その出願前に頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
第3原告の主張(審決取消事由)の要点
審決は,本願発明の効果についての判断を誤り,また,相違点1~3についての判断を誤って,本願発明が,刊行物1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと誤って判断したものであるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(本願発明の効果についての判断の誤り)
便宜上,この点についての判断の誤りから主張する。
(1) 審決は,本願発明の効果につき,「引用発明に基づいて容易に想到する構成に基づく効果の単なる確認にすぎず,引用発明から予測できない程度の優れたものであると認めることはできない。」と判断したが,本願発明は,本訴提起後に原告が行った各実験に係る実験成績証明書(甲第1,第13,第16号証。以下,それぞれの実験及び実験成績証明書を,その証拠番号に従って「甲1実験」,「甲1実験証明書」などという。)が示すとおり,引用発明から予測することのできない顕著な耐火性能を奏するものであり,審決の上記判断は誤りである。
ア 甲1実験について
別紙1記載アの組成の発泡形耐火塗料A~Dを製造し,これらをそれぞれ塗布した試験体(以下,塗布した発泡耐火塗料の符号に従って「試験体A」などという。)につき,加熱試験を行い,①加熱中の試験体A~Dの裏面温度が500℃に到達する時間,②加熱試験終了後の試験体A~Dの発泡形耐火塗料の発泡高さを測定し,また,③加熱試験終了後の試験体A~Dを垂直にして,各発泡層の形状保持機能を評価した。
各発泡形耐火塗料のうち,Aのみが本願発明の構成成分及びその配合量に係る構成要件(以下「組成要件」という。)を充足するものであり,Bは(う)成分を引用発明のものに変えたもの,Cは(う)成分を周知のバインダー樹脂であるアクリル/スチレン樹脂に変えたもの,Dは(う)成分を,審決が周知例として引用している特開平10-17796号公報(甲第3号証。以下「周知例1」という。),特開昭52-103898号公報(甲第4号証。以下「周知例2」という。),特開昭49-132821号公報(甲第5号証。以下「周知例3」という。)に記載されたものに変えたものである。
実験の結果は別紙1記載イのとおりであり,発泡形耐火塗料Aは,発泡形耐火塗料B~Dと比べ,耐火性能において顕著に優れていることが示された。
イ 甲13実験について
甲13実験は,甲1実験の追加実験であり,別紙2記載アの組成の発泡形耐火塗料A1~A10及びEを製造し,これらをそれぞれ塗布した試験体(以下,塗布した発泡耐火塗料の符号に従って「試験体A1」などという)につき,。加熱試験を行い,①加熱中の試験体A1~A10及びEの裏面温度が500℃に到達する時間,②加熱試験終了後の試験体A1~A10及びEの発泡形耐火塗料の発泡高さを測定し,また,③加熱試験終了後の試験体A1~A10及びEを垂直にして,各発泡層の形状保持機能を評価した。
各発泡形耐火塗料のうち,A1~A10は本願発明の組成要件を充足するものであり,Eは(う)成分を引用発明のものに変えたもので甲1実験の発泡形耐火塗料Bに相当するものである。
実験の結果は別紙2記載イのとおりであり,本願発明の組成要件を充足する発泡形耐火塗料A1~A10は,(う)成分が,酢酸ビニル樹脂である場合,酢酸ビニル/アクリル樹脂である場合,及びアクリル樹脂である場合のいずれにおいても,また,(あ)~(お)成分の配合比に関し,本願発明の要旨が規定する範囲の中間の場合,下限の場合,上限の場合のいずれにおいても,発泡形耐火塗料Eと比べ,顕著な耐火性を有することが示された。したがって,本願発明は,本願発明の要旨の規定する範囲全体にわたって優れた耐火性能を奏することは明らかである。
ウ 甲16実験について
甲16実験は,甲1実験の更なる追加実験であり,別紙3記載アの組成の発泡形耐火塗料A11並びにF及びGを製造し,これらをそれぞれ塗布した試験体(以下,塗布した発泡耐火塗料の符号に従って「試験体A11」などという。)につき,加熱試験を行い,①加熱中の試験体A11並びにF及びGの裏面温度が500℃に到達する時間,②加熱試験終了後の試験体A11並びにF及びGの発泡形耐火塗料の発泡高さを測定した。
各発泡形耐火塗料のうち,A11は本願発明の組成要件を充足するものであり,Fは(う)成分を芳香族ポリエステル樹脂に,Gは(う)成分をウレタン樹脂にそれぞれ変えたものである。
実験の結果は別紙3記載イのとおりであり,本願発明の組成要件を充足する発泡形耐火塗料A11は,発泡形耐火塗料F,Gと比べ,顕著な耐火性を有することが示された。したがって,本願発明は,(う)成分を他の水性樹脂としたものよりも,優れた耐火性能を奏することは明らかである。
(2) 原告は,本願発明の実施品である発泡形耐火塗料から成る耐火塗覆及びそれを用いて被覆した鉄骨構造耐火柱につき,建築基準法の規定に適合するとの認定を国土交通大臣より得ている(甲第19,第20号証)。本願発明の発泡形耐火塗料は,水性の発泡形耐火塗料でありながら,建築基準法が定めた厳しい基準を充足するのであるから,本願発明の効果についての審決の判断は誤りである。
(3) 被告は,成分の種類と各成分の配合割合によって特定される本願発明は,極めて広範な組成物であるところ,甲1実験及び甲13実験は,本願発明の組成要件を充足する組成物として,合計11種類を実験に供したのみであるから,これらに係る実験結果だけでは,本願発明と耐火性能との関係について総括的な示唆を与えるものではなく,本願発明全体について,それが良好な耐火性能を有するものであることを裏付けるまでに至っているものではないと主張する。
しかしながら,まず,(あ)成分の4種は,いずれも,分子構造の主要部がC(CH2OH)n(n=2~4)であって,共通しており,類似した反応性を有しているから,本願発明において,「難燃性発泡剤と脱水縮合し,難燃性発泡剤及び含窒素発泡剤の分解ガスによって発泡層を形成する」(本願明細書(甲第9,第10,第12号証により順次補正された後の甲第8号証)段落【0005】。甲第12号証)という同様の作用を奏することは,技術常識により明らかである。さらに,この4種は,いずれも,分解温度が260℃にある(同)から,本願発明の構成要件である「(あ)成分が260℃で分解ガスを発生し,発泡層を形成」する点においても一致している。すなわち,(あ)成分の4種は,いずれも,本願発明において,同一の作用を奏するのである。(い)成分のうち,メチロールメラミン等に代表されるメラミン誘導体は,メラミンに対し一部の官能基を置換しただけであって,分子構造の主要部は共通している。また,メラミン及びメラミン誘導体は,分解温度が370℃という点でも共通する(本願明細書段落【。甲第12号証)から0006】,両者は,本願発明において,370℃で発泡するという同様の作用を奏することは明らかである。(う)成分である酢酸ビニル樹脂エマルジョン,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン,アクリル樹脂エマルジョンに,「平均分子量,分子量分布等により多くの品番,グレードがある」があるとしても,それらは,同一種の化学組成物であるから,性状が大きく異なることはあり得ない。(え)成分であるリン酸アンモニウム及びポリリン酸アンモニウムは,分子構造の主要部が共通しているので,その反応性も類似し,分解温度が275℃という点でも共通する(本願明細書段落【0010】。甲第8号証)から,両者は,本願発明において,「加熱によって,両者とも275℃において分解し,アンモニアガスを発生させると同時に,吸熱反応によって材料温度を引き下げる。また,多価アルコールや合成樹脂との結合により難燃効果をもたらし,編み目構造の発泡層を形成する」(同)という同様の作用を奏することは明らかである。したがって,本願発明において,(あ)~(え)成分として,甲1,甲13,甲16実験で用いられていないものを使用しても,これらの実験で使用された成分と同様の効果を奏することは明らかであり,本願発明は,その範囲全体にわたって優れた耐火効果を奏するものである。
また,被告は,甲1実験の発泡形耐火塗料Dに係る試験体Dの塗膜の平均厚さ(1.74mm)が発泡形耐火塗料Aに係る試験体Aの平均厚さ(1.99mm)より13%薄いから,その対比により耐火塗料Aと耐火塗料Dの効果の差を云々することはできないと主張するが,試験体Dと試験体Aとの耐火性能の顕著な違いは,わずか13%の膜厚の差のみによって説明することはできないから,被告の主張は失当である。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)
(1) 審決は,本願発明と引用発明の相違点1である「発泡耐火塗料の樹脂成分が,本願発明では,『(う)酢酸ビニル樹脂エマルジョン,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン,アクリル樹脂エマルジョンから選択される合成樹脂エマルジョン』であるのに対し,引用発明では,一液変性エポキシ樹脂溶剤系バインダーである点」につき,刊行物1に合成樹脂エマルジョン,ラテックス等の分散型有機系バインダーが使用可能ものとして例示されていること,発泡耐火塗料の樹脂成分として水性型及び溶剤型のもののいずれも使用することができ,水性型のものとしてポリ酢酸ビニル樹脂又はアクリル樹脂などのビニル系樹脂が使用できることは,周知例1~3のとおり,周知事項であること,水性樹脂としてポリ酢酸ビニル樹脂又はアクリル樹脂などのビニル系樹脂は代表的なものであることを挙げ,これらを理由として,引用発明の一液変性エポキシ樹脂溶剤系バインダーに代えて,酢酸ビニル樹脂エマルジョン,アクリル樹脂エマルジョン等の水性樹脂を使用することは当業者が適宜選択して行えることであり,水性樹脂を使用することによる効果,すなわち,有機溶剤非使用という構成に基づく健康上等の効果も当業者が広く認識しているもので,十分予測可能な範囲のものであると判断したが,以下のとおり,誤りである。
(2) 本願発明は,バインダーとして(う)成分を用いることにより,優れた耐火性能を実現したものである。(う)成分をバインダーとして用いれば,優れた耐火性能が得られるということは,本願発明の発明者が,(う)成分の構造と作用に関する下記知見を得たことにより,はじめて明らかとなった事項である。したがって,(う)成分をバインダーとすることは当業者にとって容易ではない。
ア (う)成分のようなエマルジョン樹脂(水性樹脂)を構成するエマルジョン粒子は,ポリマーの周囲を乳化剤が取り囲み,分散媒の水中に分散してエマルジョンとなっているので,(う)成分のようなエマルジョン樹脂をバインダーとして用いた発泡形耐火塗料を乾燥させ,分散媒を揮発させ成膜すると,発泡形耐火塗料の塗膜中には,エマルジョン粒子を構成していた乳化剤が残存し,この乳化剤は,塗膜中に適度な「隙間」を生じさせる。これに対し,引用発明の発泡形耐火塗料に用いられているような樹脂溶液型バインダーは,ポリマーが分散媒としての有機溶剤中に溶解しているのみであるから,これを乾燥させ,分散媒を揮発させて成膜しても,塗膜中に「隙間」は生じない。そして,「隙間」が適当な範囲に設定されている塗膜は,「隙間」がない塗膜に比べて,分解発生するガスを封じ込める力が弱いため,ガスの発生による圧力を適度に受け止めながら膨張する(以下「知見ア」という。)。
イ (う)成分のように,結合エネルギーの低いC-O結合を含むエマルジョン樹脂をバインダーとして含む発泡形耐火塗料の塗膜では,加熱により溶融する過程において,(う)成分中のC-O結合が切断され,比較的長い側鎖が遊離する。これが,炭化層形成成分であるペンタエリスリトールや触媒成分でもあるリン酸アンモニウムとの脱水縮合を形成し,網目構造の発泡層を形成しやすく,発泡層の形状保持性に寄与する。これに対し,スチレン樹脂やビニルアルコール樹脂等の他の合成樹脂は,構成分子中にC-O結合を有していないため,上記の作用効果を奏することができない(以下「知見イ」という。)。
(3) 知見ア,イは,刊行物1又は周知例1~3に記載も示唆もされていない。刊行物1の段落【0005】に記載されているように,一般に,発泡形耐火塗料は,発泡成分や炭化成分の作用により耐火性能を発現するものとされてきたところ,本願発明は,発泡成分や炭化成分が引用発明と同様であっても,バインダーとして(う)成分を配合することにより,優れた耐火性能を得たものである。このように,発泡成分や炭化成分ではなく,バインダー成分の設定によって顕著な耐火性能を奏することは,これらの刊行物から到底予測し得るものではない。なお,周知例3に記載された発泡性耐火塗料は,バインダーとして酢ビエマルジョンを用いたものであるが,周知例3には「本発明は,発泡性耐火塗料が耐火性の点でやや劣り,それが炭」化するとポロポロと剥落しやすい欠点(2頁左上欄4~6行)との記載があって,耐火性能が劣っていることが明らかとされているところ,引用発明に周知例3の酢ビエマルジョンを適用することは,耐火性能が劣る周知例3記載の発泡性耐火塗料に近づくことになるので,当業者は,その適用によって耐火性能が向上することを予測することも不可能である。
(4) 上記1の(2)のとおり,本願発明の実施品である発泡形耐火塗料から成る耐火塗覆及びそれを用いて被覆した鉄骨構造耐火柱は,建築基準法の規定に適合するとの認定を国土交通大臣から受けたが,塗装工事における排出炭化水素類(VOC)抑制策に伴って,水性塗料の需要が増大しているにもかかわらず,少なくとも最近5年間において,水性の発泡形耐火塗料で国土交通大臣の認定を受けたのは原告のもののみであり,このことは,顕著な耐火性能を有する水性の発泡形耐火塗料を発明することが非常に困難であることを示している。
(5) 被告は,周知例1~3や特開平10-7947号公報(乙第1号証。以下「周知例4」という。)に,発泡形耐火塗料のバインダーとして酢酸ビニル樹脂やアクリル樹脂が列挙され,あるいは実施例として用いられているから,当業者が,これらを発泡形耐火塗料のバインダーとして選択することは容易であると主張するが,これらの周知例の記載は,酢酸ビニル樹脂やアクリル樹脂を使用することが可能であるということに止まり,バインダーとして(う)成分を選択することにより,顕著に優れた耐火性能が得られることは記載又は示唆されておらず,このような効果は,これらの周知例から予測することはできない。そうであれば,刊行物1の実施例1における一液変性エポキシ樹脂に代えて,(う)成分を選択することが,当業者にとって容易であるということはできない。なお,これに関連して,被告は,刊行物1の実施例2にバインダーとして記載されたアルキド樹脂を(う)成分に置換することに言及しているが,審決は,エポキシ樹脂を使用した刊行物1の実施例1に基づいて引用発明を認定したものであり,実施例2の記載は全く考慮されていないから,実施例2についての主張は,本件訴訟の審理範囲から逸脱するものである。
また,被告は,知見アにつき,エマルジョン粒子を構成していた乳化剤が塗膜中に適度な「隙間」を生じさせるという点は確認されたものではなく,「隙間」が適当な範囲に設定されている塗膜は,ガスの発生による圧力を適度に受け止めながら膨張するとの知見は,エマルジョン樹脂を耐火塗料のバインダーとしたときの塗膜の状態を正確に説明したものではないと主張するが,エマルジョン粒子を構成していた乳化剤が塗膜中に適度な「隙間」を生じさせるという点は,甲1実験における,試験体Aと同Bの光沢の有無によって明らかであり,また,「隙間」が適当な範囲に設定されている塗膜とそれがない塗膜の相違は,甲1実験における,試験体Aと同Bの発泡高さの相違によって明らかである。
さらに,被告は,知見イに関し,甲1実験の発泡形耐火塗料B~Dに含まれるエポキシ樹脂,アクリル/スチレン樹脂,ビニルアルコール樹脂も分子中にC-O結合を含むものであるから,C-O結合の有無によって,これらの本願発明の組成要件を充足しない発泡形耐火塗料と,これを充足する発泡形耐火塗料Aとの耐火性能の相違を説明できるものではないと主張するが,単に,C-O結合の存在に着目したものではなく,「C-O結合が切断され,比較的長い側鎖が遊離する」ことに着目したものであるから,被告の主張は失当である。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)
審決は,本願発明と引用発明の相違点2である「発泡耐火塗料の各成分の重量比が,本願発明では(あ):(い):(う):(え):(お)が100:80~150:200~500:280~450:100~300であるのに対し,引用発明では,(あ):(い):(え):(お)が100:133:433:205であり,(う)成分については言及されていない点」のうちの,(う)成分に係る重量比の点について,刊行物1に,アルキド樹脂を含有する樹脂溶液型のバインダーを使用する場合の好適な範囲として,樹脂固形分100重量部当たり,炭素生成材料(ペンタエリスリトール)の配合量は25~300重量部の範囲内から選択するのがよいと記載されていることを根拠として,「樹脂溶液型の場合の樹脂固形分の重量とペンタエリスリトールの重量割合を参考として,本願発明のペンタエリスリトール100重量部あたり200~500重量部という配合比率を設定することも,当業者が適宜行えることである。」と判断した。
しかしながら,本願発明の(う)成分と,刊行物1に記載された上記溶剤溶融型バインダーとは,作用効果が全く異なるから,刊行物1の溶剤溶融型バインダーの配合比を,そのまま,本願発明における(う)成分の配合比とすることはできない。したがって,審決の上記判断は誤りである。
4 取消事由4(相違点3についての判断の誤り)
審決は,本願発明と引用発明の相違点3である「本願発明では,発泡形耐火塗料を塗装し,得られた薄膜を加熱し発泡層を形成する過程が,(う)が軟化し,(あ)が260℃で分解ガスを発生し,発泡層を形成し,次に(え)が275℃でアンモニアガスを発生し,(あ)と(う)との結合により網み目構造の発泡層を形成し,さらに,(い)が370℃で発泡倍率を増加させることにより,発泡層のひび割れと脱落を抑制するものであるとされているのに対し,引用発明では,発泡性耐火塗料が発泡層を形成する過程等についてそのような特定がなされていない点」につき,相違点3に関する本願発明における構成要件(構成要件A)の規定は,発泡形耐火塗料を構成する成分及びその配合量(構成要件B)に因るものであって,構成要件Bから独立した構成要件とは認められず,構成要件Bに係る相違点1,2が容易想到であるから,相違点3(構成要件A)は容易想到である構成から当然に導かれる構成要件を単に記述しただけのものであると判断した。
しかしながら,上記2,3のとおり,構成要件Bに係る相違点1,2について,これが容易想到であるとした審決の判断は誤りであるから,相違点3についての判断も誤りである。
第4被告の反論の要点
1 取消事由1(本願発明の効果についての判断の誤り)に対し
(1) 原告は,甲1,甲13,甲16実験に基づき,本願発明が,引用発明から予測し得ないような顕著な効果を奏すると主張するが,誤りである。
(2) 本願明細書には,本願発明の耐火性に係る実験に関する表1~表6が掲記されている(甲第8,第9号証)ところ,この実験は,(あ)~(お)成分の配合割合が本願発明の範囲内のもの(実施例1~11,比較例14)と,その成分のうち1種~4種が本願発明の範囲外のもの(比較例1~13,15~22)につき,加熱中の試験体A~Dの裏面温度が500℃に到達する時間を測定し,加熱後の発泡層のひび割れ及び脱落を評価したものである。そして,審決は,これらの実施例及び比較例を含む本願明細書の記載に基づいて,本願発明の効果が,引用発明から予測できない程度の優れたものであるとは認められないと判断したものであるから,審決後に行われた新たな実験の結果によって,審決の判断の当否を主張すること自体失当である。
(3) のみならず,以下のとおり,甲1,甲13,甲16実験の結果に基づいても,本願発明が,引用発明から予測し得ないような顕著な効果を奏するということはできない。
ア 本願発明の規定に含まれる各成分の種類は,(あ)成分が4種類以上(ポリペンタエリスリトールは単一の化合物ではない。),(い)成分が2種類以上(メラミン誘導体はその範囲が把握できないほど多種類ある。),(う)成分が3種類以上(それぞれの樹脂は単一の高分子化合物ではなく,平均分子量,分子量分布等により多くの品番,グレードがある。),(え)成分が2種類以上(ポリリン酸には,ピロリン酸,トリリン酸,トリメタリン酸,テトラメタリン酸等多くのものが含まれる。)あって,これらの各成分から任意に選択されるものを組み合わせた本願発明は,成分の種類によって多くのものに分類される。さらに,本願発明は各成分の配合割合の範囲をそれぞれ広範囲に規定しているから,成分の種類と各成分の配合割合によって特定される本願発明は,極めて広範な組成物である。これに対し,甲1,甲13,甲16実験では,本願発明の組成要件を充足する組成物として,合計11種類を実験に供したのみであるから,これらに係る実験結果だけでは,本願発明と耐火性能との関係について総括的な示唆を与えるものではなく,本願発明全体について,それが良好な耐火性能を有するものであることを裏付けるまでには至っていない。
イ また,甲1実験の発泡形耐火塗料Dに係る試験体Dの塗膜の平均厚さは1.74mmであり,発泡形耐火塗料Aに係る試験体Aの平均厚さ1.99mmより13%も薄いものであって,同じ条件で対比できるものではないから,その対比により耐火塗料Aと耐火塗料Dの効果の差を云々することはできない。
ウ 甲13実験の発泡形耐火塗料A5,A7に係る耐火性能と,本願明細書の比較例9の耐火塗料に係る耐火性能との間には,実験誤差程度以上の違いはないから,本願発明の組成要件を充足する組成物がそれ以外の組成比に係る組成物と比較して優れた効果を奏しているということはできない。
(4) したがって,「本願発明・・・の効果は,引用発明に基づいて容易に想到する構成に基づく効果の単なる確認にすぎず,引用発明から予測できない程度の優れたものであると認めることはできない。」とした審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)に対し
(1) 原告は,審決の相違点1についての判断に関し,刊行物1又は周知例1~3に,知見ア,イが記載も示唆もされていないなどとして,本願発明がバインダー成分の設定によって顕著な耐火性能を奏することは,これらの刊行物から予測し得るものではないと主張するが,誤りである。
(2) 原告は,本願発明について,バインダーとして(う)成分を用いることにより,優れた耐火性能を実現したものであるところ,(う)成分をバインダーとして用いれば,優れた耐火性能が得られるということは,本願発明の発明者が,(う)成分の構造と作用に関する知見ア,イを得たことにより,はじめて明らかとなった事項であるから,バインダーを(う)成分とすることは,当業者にとって容易ではないと主張するが,知見ア,イによらなくても,バインダーとして,(う)成分(酢酸ビニル樹脂エマルジョン,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン又はアクリル樹脂エマルジョン)を選択することは,当業者が容易になし得たところである。
すなわち,発泡耐火塗料に用いられるバインダーとしては,刊行物1の実施例1で用いられているエポキシ樹脂や実施例2で用いられているアルキド樹脂などとともに,周知例1~4に記載されているアクリル樹脂,酢酸ビニル系樹脂等が広く知られている。本願当初明細書(甲第8号証)においても,そのような技術的背景を基に,アクリル樹脂,アルキッド樹脂(アルキド樹脂),酢酸ビニル樹脂,エポキシ樹脂等が,何らの区別なく記載されている(段落【0007】)。そうすると,刊行物1の実施例で用いられているエポキシ樹脂やアルキド樹脂に代えて,酢酸ビニル樹脂やアクリル樹脂を選択し,その耐火塗料としての効果を検討することは,当業者が容易に行えることである。さらに,周知例1~3においては,それぞれバインダーとして列挙された樹脂の中から,周知例1では,酢ビ/アクリル樹脂(エマルジョン)を選択して実施例に用い(段落【0026】表1),周知例2では,実施例に用いられたものの中に,アクリル系共重合樹脂,酢酸ビニル樹脂,酢酸ビニル樹脂エマルジョン,アクリル系樹脂エマルジョンが含まれており,周知例3では,酢ビエマルジョンを選択して使用している。したがって,バインダーとして用いられることが知られている多くの樹脂の中から,酢酸ビニル樹脂エマルジョン,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン,アクリル樹脂エマルジョンを選択することは,当業者が極めて容易になし得るものであり,また,列挙されたもののうちから,実施例として選択されていることに照らして,効果・性能が大きいことも,当業者が予測し得るところである。
(3) さらに,本願明細書には,知見ア,イに関する記載はないから,知見ア,イに基づく本願発明の作用効果に関する主張は,本願明細書に基づくものではない。のみならず,本願当初明細書には,(う)成分に相当する③成分につき,特許請求の範囲には単に「合成樹脂」とのみ記載され,また,発明の詳細な説明には,これに当たるものとして,メラミン樹脂,アクリル樹脂,アルキッド樹脂,塩化ビニル樹脂,酢酸ビニル樹脂,ウレタン樹脂,エポキシ樹脂,シリコーン樹脂,ポリエステル樹脂が例示列挙され,さらにこれらの樹脂の形態として,有機溶媒に溶解させたものも,エマルジョンとして水に分散させたものも,どちらも利用できる旨が記載されており(段落【0007】),エマルジョン樹脂バインダーと樹脂溶液形バインダーの効果の優劣についての考察などは示されていない。このことは,本件特許出願時には,知見ア,イが得られていなかったことを示すものであるところ,特許出願後に,出願した発明の一部について,明細書に記載のない新たな効果又は新たな構成と効果の因果関係を主張し,その新たな効果を奏する部分に発明を減縮することは,新たな発明を元の明細書の中に創り出すこととなり,そのようなことは許されるものではない。
(4) 加えて,原告が主張する知見ア,イは,いずれも酢酸ビニル樹脂エマルジョン,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン又はアクリル樹脂エマルジョンを選択する根拠とはなり得ない。
すなわち,まず,知見アについては,エマルジョン樹脂一般に関する推測であり,酢酸ビニル樹脂エマルジョン,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン又はアクリル樹脂エマルジョンに関する推測ではないから,これらの樹脂を選択する根拠を説明し得るものではない。のみならず,エマルジョン粒子を構成していた乳化剤が塗膜中に適度な「隙間」を生じさせるという点は確認されたものではなく,「隙間」が適当な範囲に設定されている塗膜は,分解発生するガスを封じ込める力が弱いため,ガスの発生による圧力を適度に受け止めながら膨張するとの知見は,エマルジョン樹脂を耐火塗料のバインダーとしたときの塗膜の状態を正確に説明したものとはいえない。
また,知見イについては,酢酸ビニル樹脂エマルジョン,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン又はアクリル樹脂エマルジョンがC-O結合を含むエマルジョン樹脂であることを根拠とするものであるが,甲1実験に係る発泡形耐火塗料Bに含まれるエポキシ樹脂,同Cに含まれるアクリル/スチレン樹脂,同Dに含まれるビニルアルコール樹脂も分子中にC-O結合を含むものであるから,C-O結合の有無によって,これらの本願発明の組成要件を充足しない発泡形耐火塗料と,これを充足する発泡形耐火塗料Aとの耐火性能の相違を説明できるものではない。のみならず,酢酸ビニル樹脂エマルジョン,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン又はアクリル樹脂エマルジョンでは,C-O結合が切断されて比較的長い側鎖が遊離し,これが炭化層形成成分であるペンタエリスリトールや触媒成分でもあるリン酸アンモニウムとの脱水縮合を形成し,網目構造の発泡層を形成しやすく,発泡層の形状保持性に寄与するとの知見は,確認されたものではなく,原告の単なる憶測の域を出るものではない。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)に対し
原告は,本願発明の(う)成分と,刊行物1に記載された溶剤溶融型バインダーとは,作用効果が異なるから,刊行物1の溶剤溶融型バインダー(アルキド樹脂を含有する樹脂溶液型のバインダー)の配合比を,そのまま,本願発明における(う)成分の配合比とすることはできないと主張する。
しかしながら,刊行物1のエポキシ樹脂溶剤系バインダーも,本願発明の(う)成分も,基本的には発泡耐火塗料のバインダー成分として塗膜の形成を行うという共通の役割をもつものであり,その役割をもつ成分として刊行物1の記載は十分に参酌できるものである。このことは,本願当初明細書において,「常温時における塗膜の付着性,耐候性を与える役目をする」ものとして,エポキシ樹脂やアルキド樹脂がアクリル樹脂や酢酸ビニル樹脂と同列に記載され(段落【0007】),また,配合量についても,樹脂の種類を特定せず,単に「合成樹脂」としたままで,「多価アルコールの配合量を100重量部としたとき,合成樹脂の配合量は固形分換算で200~500重量部,望ましくは251~400重量部でなければならない。」(段落【)と記載されていることによって0008】も裏付けられる。
したがって,審決の相違点2についての判断に誤りはない。
4 取消事由4(相違点3についての判断の誤り)に対し
相違点3についての判断の誤りをいう原告の主張は,要するに,相違点1,2についての審決の判断が誤りであるから,相違点3についての判断も誤りであるというものであるところ,相違点1,2ついての審決の判断に誤りがないことは上記のとおりであり,原告の主張は失当である。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(本願発明の効果についての判断の誤り)について
(1) 原告は,本訴提起後になされた甲1,甲13,甲16実験の結果を根拠と
して,本願発明が,引用発明から予測することのできない顕著な耐火性能を奏するものであって,審決の「引用発明に基づいて容易に想到する構成に基づく効果の単なる確認にすぎず,引用発明から予測できない程度の優れたものであると認めることはできない。」との判断が誤りであると主張する。
しかしながら,甲1,甲13,甲16実験及びその結果は,本願明細書に記載されているものではないから,これによって,本願明細書の記載を敷衍補強する趣旨であれば格別,その実験結果のみを根拠として,本願発明が,顕著な作用効果を奏する旨主張するのであれば,明細書に基づかない主張として許容されるものではない。
そこで,まず,本願明細書の作用効果に関する記載を検討し,当該記載によって,又は甲1,甲13,甲16実験の結果が当該記載を敷衍補強することによって,本願発明が,引用発明から予測することのできない顕著な耐火性能を奏するものと認め得るかどうかを検討する。
(2) 本願明細書には,「発明の目的」として「この発明は,バランスのとれた発泡のコントロールによって,脱落しにくい発泡層の形成を実現し,薄膜において優れた耐火性能(例えば,JIS A 1304(建築構造部分の耐火試験方法)の加熱試験において,耐火塗料を2mm厚で塗装した試験体の裏面温度が500℃に到達するまでの時間が45分以上であること)を得ることを目的とす。る。」(甲第8号証,段落【0003】)との記載,及び,「発明の効果」として「本発明によれば,2mm厚の塗布により45分間以上の耐火試験に耐えうる優れた耐火性能を持った発泡形耐火塗料が得られる。」(甲第8号証,段落【0025】)との記載がある。
また,本願明細書には,耐火性能を比較実証するものとして,各成分につき,本願発明の組成要件を充足する発泡形耐火塗料(実施例1~11)と,これを充足しない発泡形耐火塗料(比較例1~22,ただし,比較例14については,下記の理由で除外せざるを得ない。)について,耐火性能を試験した経過と結果とが記載されている(甲第8号証,段落【0018】~【0024】,甲第9号証,段落【0017】。以下,この試験を「明細書試験」という。)。そして,その実施例1~11の組成及び比較例1~22の組成は,別紙4のア,イのとおりであるところ,比較例14の組成は,本願発明の組成要件を充足しており,これが正しければ,本願発明の1実施態様ということになるが,いずれかの成分に係る配合量を誤記した可能性もあり,結局,本願発明の効果を検討するに当たっては,組成が明確でないものとして,比較例から除外し,本願発明の1実施態様とも評価しないとするのが相当である(以下,「比較例」について言及する際には「比較例14」は含まない。)。明細書試験の実施方法は,「ブラスト処理したJIS G 3466に規定するSTKR400正方形一般構造用角形鋼管(300mm×300mm×厚み9mm)長さ1000mmの角形鋼管に発泡形耐火塗料をスプレーで2mm厚に塗装し,21日間養生して試験体を作製した。耐火塗料を塗装するに当たっては,それぞれの塗料について水希釈により,粘度30~35dPa・sに入るように調整した。この試験体をJIS A 1304の標準加熱曲線に従って加熱試験を行い,K熱電対によって鋼材の裏面温度を測定した。評価は,鋼材の裏面温度が500℃に達した時間(分)と加熱終了後の試験体の外観を観察することによって行った」(甲第8号証,段落【0020】)というものであり,試験結果は別表4のウ,エのとおりである。
しかるところ,明細書試験の比較例の組成は,(あ)~(お)成分に係る具体的な構成成分(物質)が,すべての例で本願発明の限定の範囲内である「ペンタエリスリトール」((あ)成分),「メラミン」((い)成分),「酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン」((う)成分),「ポリリン酸アンモニウム」((え)成分),「二酸化チタン」((お)成分)から成り,その配合量が,少なくとも1成分について,本願発明の組成要件を充足していないというものである。他方,実施例については,実施例10,11が,(う)成分を,それぞれ「アクリル樹脂エマルジョン」,「酢酸ビニル樹脂エマルジョン」としているが,(あ),(い),(え),(お)の各構成成分(物質)は比較例と同一であり,実施例1~9については,(う)成分も含め,全部の構成成分(物質)が比較例と同一である。そうすると,仮に,明細書試験の結果に基づいて,実施例が比較例に比べて顕著な耐火性能を奏するものといえるとしても,その効果の相違は,本願発明の(あ)~(お)成分に係る構成成分(物質)の限定に含まれるか否かよってもたらされたものではなく,主として,「ペンタエリスリトール,メラミン,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン,ポリリン酸アンモニウム,二酸化チタン」という物質の組合せの範囲内における,各成分の配合量の相違によってもたらされたものといわざるを得ない。すなわち,二酸化チタンのみに限定されている(お)成分は別として,(あ)~(え)成分について,本願発明の限定の範囲内である他の物質の組合せから成るものが奏する効果や,(あ)~(え)成分のうちの一又はそれ以上が,本願発明の限定の範囲外である物質に置き換わったものが奏する効果が,明細書試験からは明らかとならず,そうであれば,明細書試験によっては,本願発明の(あ)~(お)成分に係る構成成分(物質)と配合量の限定に含まれるあらゆる実施態様が,顕著な効果を奏するということはできないし,また,少なくとも構成成分(物質)の限定に含まれるものが,この限定から外れるものに対して,効果の優位性を示しているということもできないから,結局,明細書試験が,本願発明が顕著な作用効果を奏することを示すものと認めることはできない。
本願明細書の上記「発明の目的」や「発明の効果」に関する記載は,本願発明が,塗料を2mm厚で塗装した試験体の裏面温度が500℃に到達するまでの時間を45分間以上とすることができるという効果を奏することを内容とするものであるが,この記載の根拠も明細書試験以外には存在しないから,明細書試験が,本願発明が顕著な作用効果を奏することを示すものとは認められない以上,この記載も同様であるといわざるを得ない。
(3) 上記(2)のとおり,本願明細書の記載は,本願発明が顕著な作用効果を奏することを示しているとはいえず,そうであれば,仮に,甲1,甲13,甲16実験の結果により,本願発明に顕著な作用効果が認められたとすれば,当該作用効果は,専らこれらの実験を根拠として認められるに至ったものであって,これらの実験が明細書の記載を敷衍補強するものとはいえないから,当該作用効果に関する主張は,明細書の記載に基づくものといえず,主張自体失当というべきである。
のみならず,以下のとおり,甲1,甲13,甲16実験の結果によっても,本願発明が顕著な作用効果を奏すると認めることはできない。
すなわち,まず,甲1,甲13,甲16実験において,本願発明の組成要件を充足する発泡形耐火塗料は,合計10例あるが(発泡形耐火塗料A,A1~A4,A6~A10。なお,A5,A11の組成は,配合量を含めてAの組成と全く同一であるから,A5,A11を独立の実験例として考慮に入れることはできない。),当該10例に係る(あ)成分,(い)成分及び(え)成分として用いられているのは,いずれも実施例1~10と同じ組合せである,「ペンタエリスリトール」((あ)成分),「メラミン」((い)成分),「ポリリン酸アンモニウム」((え)成分)であって,それ以外のものを使用した例はない。また,(う)成分についても,酢酸ビニル樹脂エマルジョンを使用したものが1例(A1),アクリル樹脂エマルジョンを使用したものが1例(A2)あるのみで,他の8例は,実施例1~9と同じ「酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン」を使用したものである。したがって,仮に,甲1,甲13,甲16実験において,本願発明の組成要件を充足する発泡形耐火塗料に顕著な耐火性能が認められたとしても,その効果は,主として,「ペンタエリスリトール,メラミン,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン,ポリリン酸アンモニウム,二酸化チタン」という物質の組合せによって得られたものといわざるを得ない。仮に,(う)成分について,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン以外のものを使用した2例を考慮するとしても,少なくとも,(あ)成分,(い)成分及び(え)成分については,「ペンタエリスリトール,メラミン,ポリリン酸アンモニウム」という特定の組合せに係るものの効果であって,本願発明の組成要件に係る構成成分(物質)の組合せに顕著な効果が認められるか否かは明らかでないといわざるを得ない。
もっとも,この点につき,原告は,(あ)成分,(い)成分及び(え)成分のそれぞれにおいて,本願発明の組成要件が選択可能としている各物質は,いずれの成分に係るものであっても,分子構造の主要部が共通しており,また,分解温度が共通しているから,甲1,甲13,甲16実験で用いられていないものを使用しても,これらの実験で使用されたものと同様の効果を奏する旨主張する。しかしながら,化合物の反応性は,分子構造の主要部だけでなく,主要部に結合された官能基によっても影響されることは技術常識であり,(あ)成分,(い)成分及び(え)成分のそれぞれにおいて,本願発明の組成要件が選択可能としている各物質が,仮に,分子構造の主要部分や分解温度を共通にしているとしても,そのことによって,これらの各物質から任意に選択した物質を,(う)成分及び(お)成分と,本願発明の組成要件の範囲内である任意の配合比によって組み合わせて得た発泡形耐火塗料のすべてが,例えば,これを塗布した試験体の裏面が500℃に達するまでの時間において,発泡形耐火塗料A,A1~A4,A6~A10と同等以上の結果を常に示すものと認めるに足りる証拠はなく,そのように断定して差し支えないとする根拠となるような技術常識の存在を認めることもできないから,原告の上記主張を直ちに採用することはできない。
また,本願明細書の上記「発明の目的」や「発明の効果」に関する記載に照らすと,本願発明において,「顕著な耐火効果」とは,塗料を2mm厚で塗装した試験体の裏面温度が500℃に到達するまでの時間を45分間以上とすることができることを意味するものと解されるところ,発泡形耐火塗料A,A7,A9は45分未満で500℃に達しているから(甲1実験証明書によれば,発泡形耐火塗料Aに係る試験体Aの塗膜厚さの平均値は1.99mmであって,2mmに達していないが,ほぼ2 mmといい得るし,上記のとおり,Aと全く同一の組成であるA5については,試験体A5の塗膜厚さが2mmを超えているにもかかわらず,やはり45分未満で500℃に達しているから,Aについても,2mm厚で塗装した試験体の裏面温度が500℃に到達するまでの時間が45分未満であるものというべきである。),これらは,本願発明の組成要件を充足するにもかかわらず,顕著な耐火効果を有するとは認められない。仮に,試験体の裏面温度が500℃に到達するまでの時間が45分間以上であることが,発泡形耐火塗料が顕著な耐火効果を有するというために必須ではないとすれば,発泡耐火塗料F,Gについては,500℃に到達するまでの時間が45分未満ではあっても,A7,A9とほとんど変わらず,少なくとも,A7,A9がF,Gと比較して顕著な耐火性能を有するものということはできない。
そうすると,甲1,甲13,甲16実験によっても,本願発明が顕著な耐火効果を奏することを認めることはできない。
(4) なお,原告は,本願発明の実施品である発泡形耐火塗料から成る耐火塗覆及びそれを用いて被覆した鉄骨構造耐火柱につき,建築基準法の規定に適合するとの認定を国土交通大臣より得ていることを理由として,本願発明の効果についての審決の判断が誤りであるとも主張するが,仮に,原告主張の耐火塗覆及び鉄骨構造耐火柱につき,原告主張の国土交通大臣による認定がなされており,優れた耐火効果が認められるとしても,目的・制度が異なれば当然に要件(耐火効果の程度,その他)も異なる上,仮に特許法の求める顕著な耐火効果が肯定されたとしても,当該耐火塗覆及び鉄骨構造耐火柱に用いた発泡形耐火塗料は,本願発明の1実施品にすぎないものであるから,それについて優れた耐火効果が認められたからといって,本願発明全体について顕著な耐火効果が認められるということはできない。
(5) したがって,いずれにしても,審決の「引用発明に基づいて容易に想到する構成に基づく効果の単なる確認にすぎず,引用発明から予測できない程度の優れたものであると認めることはできない。」との判断が誤りであるということはできない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について
(1) 発泡形耐火塗料に使用されるバインダー(樹脂成分)につき,周知例1には「本発明で用いられる(D)合成樹脂としては,水性及び溶剤型のいずれも使用でき,例えば,ポリウレタン樹脂,アルキッド樹脂,ポリ酢酸ビニル樹脂,アミノアルキッド樹脂,アクリル樹脂,ポリエステル樹脂,フェノール樹脂,もしくはこれらの変性樹脂,その他本発明で用いる含窒素発泡剤であるメラミン系,尿素系,ジシアンジアミド系の各物質のメチロール化物,変性メチロール化物等が挙げられる。」(段落【0015】)との記載があり,その実施例(段落【0026】)では,「酢ビ/アクリル(EM)」(酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン)が用いられており,また,周知例2には「本発明に用いられるバインダーとしては,アクリル系樹脂,酢酸ビニル系樹脂,塩化ビニリデン系樹脂などのビニル系樹脂及び共重合樹脂やアルキッド樹脂,アミノ樹脂,エポキシ樹脂,ポリエステル樹脂,ウレタン樹脂,シリコーン樹脂,合成ゴム,又はポリビニルアルコール,繊維素及びその誘導体,澱粉及びその誘導体,蛋白質などがあげられる。」(3頁左上欄10~17行)との記載があり,その実施例2(4頁右上欄9行~左下欄5行)にはアクリル系樹脂エマルジョン(ブライマルAC-35)が,実施例6(5頁左上欄9~18行)には酢酸ビニル樹脂エマルジョン(モビニールDC)が用いられており,さらに,周知例3には「普通,発泡性耐火塗料の組成は,炭化物形成を,発泡剤,脱水炭化触媒,およびバインダーとから成っている。そして,・・・バインダーとしては,酢ビエマルジョン,アクリルエマルジョンなどが使用されている。」(2頁右上欄2~11行)との記載があり,実施例(2頁右下欄3行~3頁左上欄15行)には「酢ビエマルジョン」(酢酸ビニルエマルジョン)が用いられており,周知例4には「本発明に用いる樹脂は,塗膜形成成分であり,例えば,アクリル樹脂,オレフィンアクリル樹脂,アルキド樹脂,メラミン樹脂,エポキシ樹脂などが挙げられ」(段落【0009】)との記載がある。
これらの周知例の記載によれば,発泡形耐火塗料のバインダー成分として,本願発明の(う)成分に該当する,酢酸ビニル樹脂エマルジョン,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン,アクリル樹脂エマルジョンを用いることは,従来周知の技術事項であると認められ,かつ,周知例1~3における実施例に用いられていることにかんがみると,これらは,バインダーとして使用される樹脂の代表的なものともいい得るから,引用発明に用いられた一液変性エポキシ樹脂溶剤に換えて,酢酸ビニル樹脂エマルジョン,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン又はアクリル樹脂エマルジョンを使用し,その耐火性能を検討してみることは,当業者において容易になし得たものと認められる。
なお,原告は,周知例3につき,「本発明は,発泡性耐火塗料が耐火性の点でやや劣り,それが炭化するとポロポロと剥落しやすい欠点」(2頁左上欄4~6行)との記載があることを理由として,引用発明に周知例3の酢ビエマルジョンを適用することは,耐火性能が劣る周知例3記載の発泡性耐火塗料に近づくことになるので,当業者は,その適用によって耐火性能が向上することを予測することが不可能であると主張する。しかしながら,上記記載を含む周知例3の記載は,「発泡性の耐火塗料を鉄骨の耐火被覆に利用しようとする研究や実験が各方面で行なわれている。しかし,発泡性耐火塗料は,耐火性能が不足し,その性能はせいぜい45分耐火・・・であり,1~3時間耐火を満足させるには困難な現状にある。本発明は,鉄骨の耐火被覆に,発泡性の耐火塗料を・・・利用する目的で研究したものであり,本発明によって,発泡性耐火塗料による鉄骨の耐火被覆を完璧に実施できる。すなわち,本発明は,発泡性耐火塗料が耐火性能の点でやや劣り,それが炭化するとポロポロと剥落しやすい欠点を重視し(1頁右欄14行~2頁左上欄」6行)というものであり,この記載においては,発泡性耐火塗料一般について「耐火性能がやや劣る」とされているのであって,周知例3の実施例に記載された発泡性耐火塗料が,他の発泡性耐火塗料に比べて耐火性能が劣るとされているものでないことは明らかであるから,原告の上記主張は失当である。
また,原告は,周知例1~4の記載は,酢酸ビニル樹脂やアクリル樹脂を使用することが可能であるということに止まり,バインダーとして(う)成分を選択することにより,顕著に優れた耐火性能が得られることは記載又は示唆されていないから,引用発明における一液変性エポキシ樹脂に代えて,(う)成分を選択することは,当業者にとって容易であるということはできないとも主張するが,上記のとおり,発泡形耐火塗料のバインダー成分として,酢酸ビニル樹脂エマルジョン,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン又はアクリル樹脂エマルジョンを用いることは従来周知の技術事項であり,かつ,これらはバインダーとして使用される樹脂の代表的なものともいい得る以上,これらを選択して,その効果(耐火性能)を試してみることは,当業者として当然に,かつ容易になし得るところであるから,周知例1~4に,これらを使用することにより優れた耐火性能が得られることが記載されていないとしても,当業者が,引用発明の一液変性エポキシ樹脂に代えて,これらを使用することは容易であるというべきである。
(2) 原告は,本願発明は,バインダーとして(う)成分を用いることにより,優れた耐火性能を実現したものであるところ,(う)成分をバインダーとして用いれば,優れた耐火性能が得られるということは,本願発明の発明者が,知見ア,イを得たことにより,はじめて明らかとなった事項であるから,(う)成分をバインダーとすることは当業者にとって容易ではないと主張する。
しかしながら,本願当初明細書(甲第8号証)には,(う)成分に相当する③成分につき,特許請求の範囲には「合成樹脂」と,発明の詳細な説明には「③成分の合成樹脂は,常温時における塗膜の付着性,耐候性を与える役目をする。その合成樹脂には,メラミン樹脂,アクリル樹脂,アルキッド樹脂,塩化ビニル樹脂,酢酸ビニル樹脂,ウレタン樹脂,エポキシ樹脂,シリコーン樹脂,ポリエステル樹脂などが例示できる。これらの樹脂は単独に用いても良く,あるいは共重合したものにして,またこれらを混合して用いることもできる。さらに,これらの樹脂の形態として,有機溶媒に溶解させたもの,あるいはエマルションとして水に分散させたもの,そのどちらも利用できる。」(段落【0007】)と記載されていて,樹脂の種類又は樹脂の形態による合成樹脂の限定は何らなされておらず,もとより知見ア,イの記載もなかったところ,平成17年7月11日付け手続補正(甲第12号証)により,(う)成分が「酢酸ビニル樹脂エマルジョン,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン,アクリル樹脂エマルジョンから選択される合成樹脂エマルジョン」と減縮され,段落【0007】が「(う)成分の合成樹脂は,常温時における塗膜の付着性,耐候性を与える役目をする。その合成樹脂には,酢酸ビニル樹脂,酢酸ビニル/アクリル樹脂,アクリル樹脂のエマルジョンとして水に分散させたものが利用できる。」と改められたが,知見ア,イに関しては,同手続補正においても本願明細書に記載されなかった。このような手続経過に照らすと,仮に,本願発明の発明者が知見ア,イを得ていたとしても,本件特許出願において,(う)成分(③成分)は知見ア,イに従って,その構成がなされているとはいえず,そのため,上記手続補正において,(う)成分の範囲を減縮した際にも,知見ア,イについて明細書に記載することはしなかったものと認められるから(仮に,明細書に知見ア,イの記載をしようとした場合には,新規事項の追加に当たるものとして,手続補正が許容されなかったと考えられる。),結局,本件特許出願においては,知見ア,イは,本願発明の(う)成分(③成分)の構成と何ら関連するものとはされていないといわざるを得ない。そして,本願発明の進歩性等に関する主張は,技術常識に属するようなことを除けば,本願発明に関するものとして本願明細書に開示されたところに基づいて行わなければならないから,原告の知見ア,イに基づく主張は,それ自体失当であるといわざるを得ない。
(3) なお,原告は,(ア)最近5年間において国土交通大臣の認定を受けた水性の発泡形耐火塗料は,原告のもののみであること,(イ)このことは,顕著な耐火性能を有する水性の発泡形耐火塗料を発明することが非常に困難であることを示している,と主張するが,その主張(ア)のとおりであるとしても,これから直ちに(イ)のようにいえるかは疑問であり,そもそも(ア),(イ)のことと,発泡形耐火塗料のバインダーとして酢酸ビニル樹脂エマルジョン,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン又はアクリル樹脂エマルジョンを使用することが,周知技術であって,引用発明に用いられた一液変性エポキシ樹脂溶剤に換えて,これらを使用することが,当業者において容易になし得るか否かという問題との間に直接の関係がないことは明らかであり,上記主張は,それ自体失当である。
(4) したがって,審決の相違点1についての判断に,原告主張の誤りはない。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について
刊行物1には,発泡形耐火塗料の各成分の配合比に関し,「発泡耐火塗料の各成分の構成比率は,公知の発泡性耐火塗料の配合組成を参考にして適宜に選定することができる。具体的に好適な範囲はバインダーの種類によっても異なるが,例えば,アルキド樹脂を含有する樹脂溶液型のバインダーを使用する場合には,樹脂の固形分に換算したバインダーの配合量を100重量部とすると,発泡剤例えばポリリン酸アンモニウムの配合量は100~600重量部,炭素生成材料例えばペンタエリスリトールの配合量は25~300重量部,メラミンの配合量は25~300重量部,無機粉末の配合量は25~200重量部,無機繊維の配合量は1~5重量部の範囲内から選択するのがよい。」(段落【0023】)との記載があり,アルキド樹脂を含有する樹脂溶液型のバインダーに関してであるが,樹脂の固形分に換算したバインダーの配合量100重量部に対するペンタエリスリトールの配合量を25~300重量部とすることが記載されているところ,このバインダーとペンタエリスリトールの配合比を,ペンタエリスリトールの配合量を100重量部として換算すれば,アルキド樹脂含有の樹脂溶液型バインダーの配合量は33~400重量部となる。
しかるところ,上記のとおり,③成分((う)成分)につき,アルキッド樹脂(アルキド樹脂)を含む広範な範囲の樹脂を用いることができ,かつ,樹脂の形態につき,有機溶媒に溶解させたものも,エマルジョンとして水に分散させたものも,どちらも利用できると記載されている本願当初明細書には,③成分の作用として,「③成分の合成樹脂は,常温時における塗膜の付着性,耐候性を与える役目をする。」(段落【0007】)との記載があり,他方,(う)成分を「酢酸ビニル樹脂エマルジョン,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン,アクリル樹脂エマルジョンから選択される合成樹脂エマルジョン」に限定した本願明細書(甲第12号証)にも,(う)成分の作用として,「(う)成分の合成樹脂は,常温時における塗膜の付着性,耐候性を与える役目をする。」(段落【0007】)との全く同じ記載があることにかんがみると,発泡形耐火塗料のバインダーが,アルキド樹脂含有の樹脂溶液型バインダーであれ,酢酸ビニル樹脂エマルジョン,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン又はアクリル樹脂エマルジョンであれ,その作用に変わりはないものと認められる。そして,このことと,本願当初明細書において,③成分((う)成分)の配合量が,樹脂の種類や形態にかかわりなく,①成分(ペンタエリスリトール,ジペンタエリスリトール,トリペンタエリスリトール,ポリペンタエリスリトールから任意に選択される多価アルコール。本願発明の(あ)成分に相当する。)100に対し,「200~500」と規定されていること(特許請求の範囲)とに照らせば,引用発明に用いられた一液変性エポキシ樹脂溶剤に換えて,酢酸ビニル樹脂エマルジョン,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン又はアクリル樹脂エマルジョンを使用する際,その配合量を設定するに当たっては,上記刊行物1から導き得るペンタエリスリトール100重量部に対し,アルキド樹脂含有の樹脂溶液型バインダーの配合量33~400重量部という配合比は,十分参考になるものというべきである。
そして,組成物における各成分の適正な配合割合は,本来,当業者が様々に試みて,見出すべきものであるところ,その際に,上記配合比を参考とし,酢酸ビニル樹脂エマルジョン,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン又はアクリル樹脂エマルジョンの配合量を,ペンタエリスリトール100重量部に対して200~500重量部と設定することは,当業者において容易になし得るところと認められる。
したがって,審決の相違点2についての判断に,原告主張の誤りはない。
4 取消事由4(相違点3についての判断の誤り)について
原告は,相違点1,2を容易想到であるとした審決の判断が誤りであることを前提として,本願発明の相違点3に係る「発泡形耐火塗料を塗装し,得られた薄膜を加熱し発泡層を形成する過程が,(う)が軟化し,(あ)が260℃で分解ガスを発生し,発泡層を形成し,次に(え)が275℃でアンモニアガスを発生し,(あ)と(う)との結合により網み目構造の発泡層を形成し,さらに,(い)が370℃で発泡倍率を増加させることにより,発泡層のひび割れと脱落を抑制するものであること」との構成要件(構成要件A)が,発泡形耐火塗料を構成する成分及びその配合量に係る構成要件(構成要件B)に因るものであって,構成要件Bから独立した構成要件とは認められず,構成要件Bに係る相違点1,2が容易想到であるから,相違点3(構成要件A)は容易想到である構成から当然に導かれる構成要件を単に記述しただけのものであるとした審決の判断も誤りであると主張する。
しかしながら,審決の相違点1,2についての判断に原告主張の誤りがないことは上記2,3のとおりであるから,原告の上記主張は,前提を欠くものであって,失当である。
5 結論
以上によれば,原告の主張はすべて理由がなく,原告の請求は棄却されるべきである。
(裁判長裁判官 塚原朋一 裁判官 石原直樹 裁判官 高野輝久)
別紙1甲1実験の内容及び結果
ア 発泡耐火塗料A~Dの組成
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別紙2甲13実験の内容及び結果
ア 発泡耐火塗料A1~A10、Eの組成
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別紙3甲16実験の内容及び結果
ア 発泡耐火塗料A11、F、Gの組成
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別紙4本願明細書記載の実験内容及び結果
ア 実験例1~11の組成
file_8.jpgg AG: : eae BCH [Poe i |e 7 OY bse AE | 3 Uys 1 100) 100} 350! 450) 200] 2| 100) 80) 200} 400) 175) 3 4100) 150] 275) 280) 150} 4 100] 100} 250) 355) 240) 5) 100] 120} 200) 300) 300} 6) 100] 90} 300) 370) 100] 7 100] 100] 225) 310) 140] E} 100! 120] 200! 280} 270) 9 100} 135] 305) 355) 210) 10} 100) 85} 230 380] 125) dW 100] 100} 280) 420} 280)イ 比較例1~22の組成
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file_10.jpg& /RRAOZMASO ji [OCIRTSETO UUEIA RAO Al (BSR (Sd) i 6oE CEL Exaw 2| 62|2CEL Ean 3] EU ECAM EXGa 4 Ss] 2CL EXCW 5 CH EZCAw EXGa 6 EXAM EXC 7 [CARSCA EXC 8] 58/2 aL EXG8 9 ED EXC EXAW 10] THEXCAW EXAW i GIEZCAD EXCADエ 比較例1~22に係る実験結果
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