知財高等裁判所 平成17年(行ケ)10817号 判決 2006年5月25日
原告
小林製薬株式会社
訴訟代理人弁護士
深井俊至
同
遠藤崇史
訴訟代理人弁理士
中田和博
被告
ホウ ヒン パク フア ヨウ マニユフアクトリー リミテツド
訴訟代理人弁理士
青山葆
同
河宮治
同
樋口豊治
同
西津千晶
主文
1 特許庁が取消2004-31463号事件について平成17年10月18日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 原告
主文第1,2項と同旨
2 被告
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
(1) 被告は,「WHITE FLOWER」の欧文字を横書きしてなり,指定商品を第1類「化学品,薬剤,医療補助品」として,平成3年4月26日に登録出願,平成6年3月31日に設定登録され,平成16年10月27日に指定商品が第5類「薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,胸当てパッド,歯科用材料」と書換登録された登録第2635064号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。
(2) 原告は,平成16年11月9日,本件商標の指定商品中「薬剤」について,商標法50条1項に基づき,商標登録を取り消すことについて審判を請求し,同月30日,同審判請求の登録(以下,この登録の日を「本件審判請求登録日」という。)がされた。
特許庁は,同審判請求を取消2004-31463号事件として審理し,平成17年10月18日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年10月28日に原告に送達された。
2 審決の理由
審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。
その要旨は,被告は,「白花油/WHITE FLOWER」印の「薬用油」を香港をはじめとするアジア地域に加えて,米国,カナダ,ヨーロッパ,オーストラリア等の地域において販売しており,我が国においても,被告の業務に係る同薬用油は,この種商品に関心のある需要者間において,一定程度知られており,個人輸入の形で我が国に輸入されていたものであるが,使用に係る商標は,「白花油」の漢字と共に「WHITE FLOWER」の欧文字が併せ表示されていて,本件商標と社会通念上同一と認められる商標であり,使用に係る商品「薬用油」は「薬剤」の範疇に属する商品と認められるものであるところ,被告は,本件審判請求登録日前3年以内に,日本の消費者の注文に対して,個人輸入の範囲に限り応じていたものであり,「白花油/WHITE FLOWER」印の「薬用油」を日本に居住する一般の消費者に販売したものであるから,本件審判請求登録日前3年以内に日本国内において商標法2条3項2号に該当する行為,すなわち「商品‥‥‥に標章を付したものを譲渡」する行為をしたというものである。
第3原告主張の取消事由
審決は,被告の日本国内における商品の譲渡行為につき,事実認定を誤り,かつ,商標法の解釈適用を誤ったものであって,その誤りが結論に影響することは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 事実認定の誤り
(1) 後述のとおり,日本の消費者が日本国外に所在する被告から「白花油/WHITE FLOWER」印の商品を日本国内に個人輸入することがあったとしても,被告が日本国内において商標法2条3項2号に該当する行為,すなわち「商品‥‥‥に標章を付したものを譲渡」する行為をしたということはできないものであるが(後記2参照),本件では,本件審判請求登録日前3年以内に,日本の消費者が,被告から「白花油/WHITE FLOWER」印の商品を日本国内に個人輸入したとの事実自体が認められないから,審決には,結論に影響を与える重大な事実誤認がある。
(2) すなわち,被告提出の証拠のうち,本件審判請求登録日前3年以内という要件を満たすのは,乙6の4(審判における乙6の1)のみにすぎないところ,同号証から認定できる事実は,2004年2月25日に,香港に所在する被告と日本在住の「Mutsuya Kawahara」なる個人との間で売買契約が締結されたということだけであって,売買代金の支払も,商品の発送ないし提供,受領も何ら立証されていない上,当該商品のパッケージの記載も全く不明であり,これをもって,「白花油/WHITE FLOWER」印の商品が,日本の個人消費家Kawahara氏によって,2004年2月25日に日本国内に個人輸入されたという認定はできない。
2 商標法の解釈適用の誤り
(1) 審決は,日本の消費者が日本国外に所在する被告から「白花油/WHITE FLOWER」印の商品を日本国内に個人輸入する行為をもって,被告が日本国内において商標法2条3項2号に該当する行為,すなわち「商品‥‥‥に標章を付したものを譲渡」する行為に該当するものとしている。しかし,日本の消費者が,日本国外に所在する被告から商品を個人輸入したところで,「被告が日本国内で商品を譲渡」したことにはならず,審決は商標法の解釈適用を誤っている。
(2) 商標法2条3項2号における「譲渡」が「日本国内において」行われたといえるためには,商標法の適用がある譲渡行為が日本国内で行われる必要がある。日本国外に所在する者(以下,この項において「在外者」という。)が日本国外に所在するその商品について日本国内に所在する者(以下,この項において「在内者」という。)との間で譲渡契約を締結したところで,在外者には何ら日本国内での行為が認められない。そして,当該譲渡契約に基づいて,当該在外者が国外から当該商品を日本に向けて発送したところで,やはり発送行為は日本国外で行われているので,当該在外者の日本国内の行為は認められない。この取引で,日本国内の行為と認められるのは,在内者の商品の「輸入」行為だけである。
商標法2条3項2号は,「譲渡」と「輸入」を分けて定義しているものであり,在外者から在内者に対する在外商品の譲渡行為については,在内者の「輸入」行為に該当するものとしているのである。在内者の「輸入」行為の反面として在外者の「輸出」行為がある。仮に,これを在外者の日本国内での譲渡行為とみるとすれば,在外者の日本国外での「輸出行為」を日本国内行為とみて日本商標法を適用するということになるが,そのような解釈は,商標権の効力は日本国内にしか及ばないという属地主義に反する。
(3) 仮に,被告の日本の消費者に対する薬用油の輸出行為をもって,日本国内における薬用油の譲渡(販売)に該当するというなら,被告の行為は薬事法違反ということになる。さらに,被告の行為について,商法(日本における代表者を定める義務,その他)その他日本国内法が適用されるはずであり,被告がそれを遵守していなければ法令違反ということにもなる。
個人輸入取引に応じたからといって薬事法違反,商法違反等にならないと解されるのは,当該在外者の日本への商品の輸出行為が日本国内の行為に該当しないと解されているからである。商標法の適用上,被告の行為を日本国内の譲渡に当たると解することは,法解釈の統一性に反する。
(4) また,仮に,在外者から日本の消費者が商品を個人輸入する行為を,在外者が日本国内において当該商品を譲渡したものと商標法上解釈するならば,当該商品に第三者の商標権を侵害する商標が付されていた場合,商標権者は,当該在外者を相手に商標権侵害を理由として輸出行為の差止・損害賠償請求をすることができ,税関における商品の輸入差止もできることになるはずであるが,このような請求はできないというのが通説である。それは,商標法上,在外者のこのような行為を日本国内の商品の譲渡行為と解することができないからである。
(5) 審決も指摘するとおり(審決書6頁7行~14行),我が国における承認・許可・登録を取得していない医薬品等の個人輸入行為については,決められた数量の範囲内であれば,個人用等の輸入であるとして,税関限りの確認で通関できることになっている。この個人輸入が,同時に,在外者の日本国内での医薬品等の譲渡行為に該当するとするなら,通関は許されないことになるはずである。しかるに,これが許されているのは,とりもなおさず,個人輸入が在外者の日本国内での医薬品等の譲渡行為に該当しないと解されているからにほかならない。
3 審決の正当理由に関する説示について
(1) 審決は,本件審判請求登録日前3年以内に被告が日本国内において「白花油/WHITE FLOWER」印の商品を譲渡したとして,審判請求は成り立たないとしたものであって,「厚生労働省の許可が下りていないため,『白花油/WHITE FLOWER』印の『薬用油』の日本での正式な販売が未だできないことは,我が国において本格的な販売ができないことについての正当な理由とみても差し支えないものというべきである。」(審決書7頁12行~15行)と述べている点は,審決の結論と関係のない説示というべきであるが,念のために反論しておく。
(2) 審決は,「本件商標の場合,被請求人の主張によれば,被請求人は,日本におけるディストリビューターと2001年10月15日に契約を締結し,その後,輸入申請に必要な臨床試験を2年ほどかけて繰り返し,2003年9月29日に,『医薬品輸入承認申請書』を厚生労働省に提出しており,日本におけるパッケージデザインも決定し(乙第8号証。判決注:本訴における乙8号証),日本に売り出せる環境を整えて待機している状態にある。」(審決書7頁6行~11行)としているが,証拠上は,乙7号証の1,2(審判における乙7号証の1,2)により,平成15(2003)年9月29日に,販売名を「白花油YY」とする商品について,「医薬品輸入承認申請書」が米田薬品株式会社(以下「米田薬品」という。)なる会社から厚生労働省に提出されたことが認められるものの,この米田薬品と被告との関係を示す証拠は一切提出されていない上,乙8号証(審判における乙8号証)についても,その作成時期が不明であり,本件の審判請求後である可能性も高い。審決の上記記載は,証拠に基づいた認定とはいえない。また,審決は,「本件商標は,‥‥‥既に,我が国においても,一定程度の信用が蓄積されている」(審決書7頁16行~18行)とするが,そのような事実も認められない。
(3) 審決は,厚生労働省の許可が下りていないため,「白花油/WHITEFLOWER」印の「薬用油」の日本での正式な販売が未だできないことは,我が国において本格的な販売ができないことについての正当な理由とみても差し支えないとする。
しかしながら,上記のとおり,被告と申請者である米田薬品との関係が不明である上,米田薬品が厚生労働省に対して「医薬品輸入承認申請書」を提出したのは,平成15年9月29日であり,本件商標が出願(平成3年4月26日)されてから12年余り,公告(平成5年5月11日)されてから10年余りが経過しており,登録(平成6年3月31日)されてから約9年半もの時間が経っている。その間,被告(ないしその輸入・販売代理店)は,医薬品の輸入承認申請を妨げる事情が何ら存在しなかったにもかかわらず,輸入承認申請を怠り,日本国内において,上記「薬用油」を販売する機会を逸し続けて今日に至ったのである。
「正当な理由」の存否について,法令上すなわち薬事法の制限により商標が使用できない場合を考慮する必要があるにしても,輸入承認申請以前の不使用の事実ないし状況も,「正当な理由」の存否について考慮すべきである。すなわち,輸入承認申請をいつでもできる状態であるにもかかわらず輸入承認申請を怠っていたため,本件審判請求登録日前3年以内に日本国内において本件商標を使用していない状況にある場合には,不使用について正当な理由があるということはできないのである。本件のように長期間の不使用期間の後に医薬品輸入承認申請を行なった場合には,許可を待っている間当該承認申請に係る商品について本件商標の使用ができなかったとしても,長期間申請を行わなかったことに「正当な理由」がない限り,商標の不使用について「正当な理由」があるということはできない。
第4被告の反論
本件商標の指定商品中,「薬剤」についての登録を,商標法50条の規定により取り消すことはできないとした審決の認定判断は相当であり,審決に原告主張の取消事由はない。
1 原告は,商標法1条(法目的)の解釈を誤り,結局のところ,被告に薬事法に違反した行為がないことをもって本件商標の登録は取り消されるべきであると主張するに等しく,まさに樹を見て森を見ないかのごとき独自の見解を縷々展開している。
商標法は,商標が使用され商標に化体して発生する業務上の信用を保護することによって,反射的に需要者の利益をも保護し,競業秩序の維持を図ることを目的とし(商標法1条,保護に値する)信用が存在しない場合には,一定の要件の下にその商標登録を取り消すことを定めているのである(同法50条)。
しかして,原告は本件商標の登録の取消しを求めるのであるから,①本件商標には保護に値する業務上の信用が存在しないこと,②存在するとしてもその信用は我が国の需要者と無関係であることを主張立証すれば足りる。それにもかかわらず,原告はその努力をせず,単に独自の見解にたって審決を論難するのみである。
審決は「本件商標は,香港への旅行客を通じて,また,インターネット情報により,あるいは,個人輸入の形式によって,既に,我が国においても,一定程度の信用が蓄積されているものであるから,何らの信用も蓄積されることなく,長期間に亘って不使用の状態のまま放置されていた商標と同一に扱うことは,むしろ,不使用取消制度の趣旨に反するものというべきである。」(審決書7頁16行~21行)と明確に説示している。原告はこの説示の一体どこに非があるというのであろうか。
2 原告は,いわゆる「個人輸入」や「みやげ物として外国で購入した商品を日本に持ち帰る行為」は,商標法2条3項の「商標の使用」に該当せず,本件商標は使用されていないと言いたいようであるが,失当である。
確かに「個人輸入」や「みやげ物として外国で購入した商品を日本に持ち帰る行為」は個人消費を前提としたもので,これらにより購入した商品を再販の目的で市場に出せば薬事法違反となる。しかしながら,このような「個人輸入行為者」や「外国旅行者」を商標法1条にいう「需要者」から除かねばならない理由は存在しない。
また,被告は,商標法が我が国の流通市場を対象としたものであることを否定するものではないが,日本のことを考慮するのみでよいとは思えない。地球全体が一つの市場であるといわれる今日,政府の標榜する「知的財産立国」なるスローガンは,世界の一員としての日本を強く意識させるものである。そうであるならば,既にアジア一円において巨大な業務上の信用が蓄積されている商標の登録を取り消さねばならないとする理由はない。本件商標「WHITE FLOWER」は,たしかに「白花油」の副次的商標と位置付けられなくはないが,それはあくまでも漢字文化圏での位置付けにすぎない。本件商標の使用されている地域に含まれるオーストラリア,カナダ,アメリカ合衆国などの英語文化圏においては「WHITE FLOWER」こそが出所標識である。この「WHITE FLOWER」なる商標に蓄積された巨大な信用を奪い,これにフリーライドしようとする原告の行為(乙20号証)は,商標法4条1項19号に該当する。原告は同条にいう「不正の目的」はないと反論するであろうが,被告の提出した乙1~10号証から,被告が創業以来70年以上の長きにわたって一貫して「白花油「WHITE」FLOWER」の2商標抜きでは被告の営業そのものが存続し得なかったことを原告は十分推認できたはずである。原告は,被告提出の証拠について,乙6号証の4(審判における乙6号証の1)を除くものは,本件審判請求登録日前3年以内という要件を満たしていないと非難するが,本件審判請求登録日以前から現在に到るまでの期間において,本件商標には保護に値する信用の蓄積が存在しないとは主張していない。すなわち,本件の最大の争点といえる部分には頬かむりしているのである。
原告は,訴状提出日現在(平成17年11月25日)において,本件商標にフリーライドするに値する巨大な信用が存在していたことを乙号証から充分認識できたといわざるを得ない。被告としては,本件訴訟は原告のこのようなフリーライドの意図からされたものと解さざるを得ない。
第5当裁判所の判断
1 商標の不使用による登録取消しの審判請求があった場合,商標法50条2項本文は「前項の審判の請求があった場合,においては,その審判の請求の登録前三年以内に日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り,商標権者は,その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない」と規定している。
そこで,本件について検討するに,審決は,「被請求人は,日本の消費者からの注文に対して,個人輸入の範囲に限り応じていたものであり,『白花油/WHITE FLOWER』印の『薬用油』を日本に居住する一般の消費者に販売したものであるから,日本において商標法第2条第3項第2号に該当する行為,すなわち,『商品‥‥‥に標章を付したものを譲渡』する行為をなしたものであることは明らかである。」(審決書6頁27行~32行)としている。
しかしながら,前記のとおり,商標法50条2項本文は,商標の不使用による登録取消しの審判請求があった場合,被請求人は,日本国内における登録商標の使用を証明しなければならないことを規定しているところ,商標法2条3項2号にいう「譲渡」が日本国内において行われたというためには,譲渡行為が日本国内で行われる必要があるというべきであって,日本国外に所在する者が日本国外に所在する商品について日本国内に所在する者との間で譲渡契約を締結し,当該商品を日本国外から日本国内に発送したとしても,それは日本国内に所在する者による「輸入」に該当しても,日本国外に所在する者による日本国内における譲渡に該当するものとはいえない。
本件において,審決は,上記のとおり,日本国内に在住する個人消費者が個人輸入により被告から「白花油/WHITE FLOWER」印の「薬用油」を購入していたことをもって,被告が日本国内において商標法2条3項2号にいう「商品‥‥‥に標章を付したものを譲渡」する行為をしたと判断しているが,上記に説示したところに照らせば,審決の上記判断は,商標法の解釈適用を誤ったものといわざるを得ない。
2 被告は,審決の認定判断は相当であって,取消事由はないと主張する。
しかし,本件取消訴訟において原告が①本件商標には保護に値する業務上の信用が存在しないこと,②存在するとしてもその信用は我が国の需要者と無関係であることを主張立証することを要する旨をいう被告の主張は,商標法50条の趣旨を正解しない主張であって,到底採用できない。
また,被告は,日本国内に在住する個人消費者による被告からの個人輸入をもって,商標法2条3項の「商標の使用」と認めることができる旨をも主張するが,上記1において説示したところに照らし,採用の限りでない(なお,被告は,「みやげ物として外国で購入した商品を日本に持ち帰る行為」も商標法2条3項の「商標の使用」に該当するかのごとく主張するもののようであるが,それが日本国内における商標の使用といえないことは明らかであり,採用の限りでない。)。
さらに,被告は,原告には本件商標に蓄積された信用にフリーライドする意図があるなどとも主張しているが,本件は,商標の不使用による登録取消しの審判請求に関するものであり,本件商標が日本国内において使用されていない以上,その登録の取消しを免れるものではない。
3 なお,審決は,「厚生労働省の許可が下りていないため,『白花油/WHITE FLOWER』印の『薬用油』の日本での正式な販売が未だできないことは,我が国において本格的な販売ができないことについての正当な理由とみても差し支えないものというべきである。」(審決書7頁12行~15行)とも説示している。前記のとおり,審決は,日本国内に在住する個人消費者が個人輸入により被告から「白花油/WHITE FLOWER」印の「薬用油」を購入していたことをもって,被告が日本国内において商標法2条3項2号にいう「商品‥‥‥に標章を付したものを譲渡」する行為をしたとして,本件商標の指定商品中「薬剤」についての登録を取り消すことができないと結論付けたものであって,審決の上記記載は,結論と関係なく説示された部分と解するのが相当であるが,本件事案にかんがみ,この点についても付言しておく。
本件においては,平成15(2003)年9月29日に,販売名を「白花油YY」とする商品について「医薬品輸入,承認申請書」が米田薬品から厚生労働大臣宛に提出されたことが認められるものの(乙7号証の1,2),米田薬品と被告との関係を認めるに足りる証拠はない。また,この点を措くとしても,米田薬品が厚生労働大臣に対して上記申請書を提出したのは,平成15年9月29日であり,本件商標が設定登録(平成6年3月31日)されてから約9年6か月経過後であるところ,その間,被告(ないしその輸入・販売代理店)において医薬品の輸入承認申請につき何らかの妨げが存在したことをうかがわせる事情も認められないのであって,上記申請書提出前にこのように長期間不使用の期間が継続していたことをも併せ考慮すれば,本件において,本件商標を使用していないことに正当な理由があるということもできない。
4 以上検討したところによれば,被告が本件審判請求登録日前3年以内に日本国内において商標法2条3項2号にいう「商品‥‥‥に標章を付したものを譲渡」する行為をしたとの審決の判断は誤りであって,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,審決は取消しを免れない。
5 以上によれば,原告の本訴請求は,理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐藤久夫 裁判官 三村量一 裁判官 古閑裕二)