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知財高等裁判所 平成18年(行ケ)10150号 判決 2007年6月25日

原告

日本碍子株式会社

訴訟代理人弁護士

宮寺利幸

訴訟代理人弁理士

千葉剛宏

鹿島直樹

田久保泰夫

被告

特許庁長官 中嶋誠

指定代理人

増田亮子

板橋一隆

廣野知子

徳永英男

大場義則

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が不服2002-3405号事件について平成18年2月21日にした審決を取り消す。

第2争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は,平成9年12月26日(優先権主張:平成9年2月14日,同年5月16日,日本),発明の名称を「半導体ヒートシンク用複合材料及びその製造方法」とする特許出願(特願平9-359101号,以下「本願」という。)をした。その後,原告は,平成13年11月5日付けで本願に係る明細書(特許請求の範囲を含む。)を補正する手続補正をしたが,平成14年1月18日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)を受け,これに対して,同年2月28日,拒絶査定不服審判を請求した(不服2002-3405号事件)。原告は,平成14年3月29日,その審理の過程で,本願に係る明細書の特許請求の範囲を補正する手続補正をした(以下,この補正後の本願に係る明細書及び図面を「本願明細書」という。)。

特許庁は,平成18年2月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年3月7日,その謄本を原告に送達した。

2  特許請求の範囲

本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。)。

「銅の熱膨張率よりも低い熱膨張率をもつ多孔質体を予備焼成してネットワーク化することによって得られる多孔質焼結体に銅又は銅合金が含浸されて構成され,少なくとも200℃における熱膨張率が,前記銅又は銅合金と前記多孔質焼結体との比率から化学量論的に得られる熱膨張率よりも低い特性を有し,前記多孔質焼結体と前記銅又は銅合金との界面に形成される前記銅又は銅合金との反応層の厚みが5μm以下であることを特徴とする半導体ヒートシンク用複合材料。」

なお,審決は,本願発明における発明を特定する事項を,次のとおり分説した(以下,審決と同じく,本願発明の発明の各特定事項を「特定事項A」などという。)。

A.銅の熱膨張率よりも低い熱膨張率をもつ多孔質体を予備焼成してネットワーク化することによって得られる多孔質焼結体に

B.銅又は銅合金が含浸されて構成され,

C.少なくとも200℃における熱膨張率が,前記銅又は銅合金と前記多孔質焼結体との比率から化学量論的に得られる熱膨張率よりも低い特性を有し,

D.前記多孔質焼結体と前記銅又は銅合金との界面に形成される前記銅又は銅合金との反応層の厚みが5μm以下であることを特徴とする

E.半導体ヒートシンク用複合材料。

3  審決の理由

別紙審決書写しのとおりである。要するに,審決は,「原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第96/41030号パンフレット(上記国際公開の対応特許である特表平11-506806号公報を以下,「引用文献1」という。)には,次の事項が記載されている」(審決書2頁8行~10行)とした上で,特表平11-506806号公報の記載及び該当箇所(頁・行など)を摘示し,「本願発明と引用文献1の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下,「引用発明」という。)」(審決書6頁22行~23行)とを対比して,「本願発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」(審決書11頁34行~35行)と判断して,「本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,本願のその余の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである」(審決書11頁37行~12頁1行)とした。

審決は,上記結論を導くに当たり,本願発明と引用発明との相違点を次のとおり認定した(審決は,本願発明と引用発明とは,その余の構成において一致する旨認定したものと解される。)。

(相違点1)

特定事項Bには引用発明の「液相金属を溶浸」が対応するところ,本願明細書の段落【0024】の記載を参酌すると,特定事項Bにおける「銅又は銅合金」とは殆ど銅からなるものといえるのに対し,引用発明の「液相金属」には,「液相金属がアルミニウム,銅,銀,金,およびそれらの組合せを含む群から選択される金属」(請求項8参照)と銅も包含する記載があるが,実施例には,具体的にアルミニウムについてのみ記載されている点。

(相違点2)

引用発明には特定事項Dに対応する記載がない点。

なお,国際公開第96/41030号パンフレット(甲4A。以下「甲4文献」という。は,本願優先権主張日前に公開されているが,特表平11-506806号公報(甲5。以下「甲5文献」という。)は,同優先権主張日後に公開された。

第3取消事由に係る原告の主張

審決には,以下のとおり,①本願発明と引用発明(以下「甲4発明」という場合がある。)につき,特定事項AないしDのすべての事項(審決の判断中において相違点として掲記したものを含む。)の認定判断に誤りがあり(取消事由1),②公知文献として,甲4文献ではなく,甲5文献を引用した誤り(その他の取消事由の1),③請求項1以外の請求項について何ら判断を加えることなく,請求項1のみ拒絶理由を認定して本願全体を拒絶すべきものとした誤りがある(その他の取消事由の2)。

1  取消事由1(本願発明と甲4発明との対比の誤り)

審決には,本願発明と甲4発明の対比につき,特定事項AないしDのすべての事項の認定判断に,以下のとおりの誤りがある(なお,原告の主張は,審決の引用した発明が甲4発明であると仮定した場合のものである。)。

(1)  特定事項Aについて

審決が,本願発明の特定事項Aには,甲4発明の「部分燒結アグロメレーション」が対応し,甲4発明の「部分燒結アグロメレーション」には,材質,空隙には差異がないとして,本願発明の特定事項Aは,甲4発明の「部分燒結アグロメレーション」に相当すると認定した点には,以下のとおり誤りがある。

ア 複合材料とは,母材(マトリックス)と他の部材を組み合わせて,双方の長所を生かすと共に,お互いの短所を補う材料であり,その母材になっている物質の種類によって,金属基複合材料(以下「MMC」という。),セラミックス基複合材料(以下「CMC」という。),プラスチック基複合材料などに分類される(甲8の1,2)。

そして,本願発明は,セラミックスを母材(マトリックス)とするCMCを対象とする発明であるのに対して,甲4発明は金属を母材(マトリックス)とするMMCを対象とする発明であるから,特定事項Aが甲4発明の「部分燒結アグロメレーション」に相当するということはできない。また,本願発明では,特定事項Aにおいて,「多孔質体を予備焼成してネットワーク化すること」,すなわち,多孔質焼結体が三次元構造を有することを規定しているのに対して,甲4発明では,多孔質燒結体はネットワーク化されていない。

イ 特定事項Aについて,本願発明と甲4発明が相違することは,甲4文献の記載内容に照らして明らかである。

(ア) 甲4文献の「本発明は真空ダイキャスト法による金属マトリックス複合材(MMCs)の製造に関する。」(1頁3行~4行〔甲4B,6頁6行~7行〕),「本発明の目的は,品質,再現性および従来法より優れた融通性の組合せを有し,特にアグリゲートの高い体積率を有する金属マトリックス複合材を製作するための金属マトリックス複合材の製造方法を提供することである。」(2頁37行~3頁4行〔甲4B,7頁24行~26行〕),「『金属マトリックス複合材』,『複合材』または頭文字『MMC』という用語は,本明細書では,二次元的または三次元的に相互結合され,内部に強化材を埋込まれた合金または金属マトリックスを含んで構成された材料を意味するように使用されている。」(5頁3行~7行〔甲4B,9頁19行~22行〕)との記載によれば,甲4発明では,金属がマトリックス,すなわち母材である。

また,甲4文献の「『プリフォーム』または『多孔質プリフォーム』という用語は,本明細書では,浸透される液相金属に対する境界を本質的に定める少なくとも一つの境界面を有して製造される,強化材すなわちアグリゲートからなる形成されたアグロメレーションを意味するように使用されている。」(5頁18行~23行〔甲4B,10頁2行~5行〕)との記載によれば,甲4発明において,プリフォームは,マトリックスに関するものではなく,強化材であるアグロメレーションに関するものである。

そして,甲4文献の「『部分燒結』という用語は,本明細書では実質的に密閉気孔部位を生じることのない燒結工程を開始するのに十分な温度にまで粉状粒子で形成されたアグロメレーションを加熱することを意味するように使用されている。」(5頁11行~15行〔甲4B,9頁25行~27行〕)との記載によれば,甲4発明において,部分燒結とは,強化材であるアグロメレーションの加熱を意味し,マトリックスである金属に関するものではない。

このように,甲4発明では,金属がマトリックスであって,強化材であるアグロメレーションはマトリックス化していない。

(イ) 甲4文献の「『薄壁形状』という用語は,本明細書では壁,ウェブまたはフィン(プレート・フィンまたはピン・フィンとされ得る)のような部分を有する箇所を説明するのに使用されており,その最小厚さは粒径の関数とされ,一般に2.54mm(0.1インチ)未満,好ましくは1.27mm(0.05インチ)未満とされ,0.762mm(0.03インチ)未満とされることすらある。」(6頁9行~14行〔甲4B,10頁22行~26行〕,判決注:甲4Bに,「1インチ」,「0.5インチ」とあるのは,それぞれ「0.1インチ」,「0.05インチ」の誤記と認める。)との記載によれば,「薄壁形状」は粒子の大きさ程度に薄いものであるが,プリフォームを粒子1粒の厚さに焼き固めて十分な強度を得るのは困難であり,また,体積率に応じた粒径を選択しても,薄壁部分に入り込むことができるほどの薄さのプリフォームを部分燒結してネットワーク化することは実際上困難である。すなわち,一般に,炭化ケイ素粒体の大きさは0.01mmから0.1mm程度であって,焼結して粒体を成長させると,ネットワーク化するためにその大きさを1mm以下に抑えるのは技術的には非常に困難である。フィンの厚さを好ましくは0.762mm未満とするためには,「薄壁形状」は単一粒体の大きさ,すなわち,直径程度にならざるを得ず,単一の粒子である以上,「マトリックス」とはなり得ない。

また,甲4文献には,「この方法は,様々なアグリゲートおよびマトリックスの組合わせを使用して,高品質なネット形状またはネットに近い形状の薄壁部付きで複雑な形状をしたMMCを製造することができる。この方法は各種の装置系,すなわち機械装置,アグリゲート,熱処理,真空圧,および金属取入れ,を必要とする。」(3頁14行~20行〔甲4B,8頁4行~8行〕)との記載があるが,ここで複雑な形状のMMCを製作することが示されたとしても,一般にSiCからなるプリフォームを複雑な形状に焼成することは実際上困難であるから,プリフォームがネットワーク化し,マトリックスとして存在することはあり得ない。

さらに,甲4文献の「アグリゲートが存在しないマトリックス表面層は,本発明のMMC製品上に処理を容易にするために真空ダイキャスト時に形成される。」(11頁7行~10行〔甲4B,15頁9行~10行〕)との記載からみて,MMCは表面に「アグリゲート」が存在しない層を有しているといえるから,「プリフォーム」が本願発明のようにネットワーク化して存在するものではない。

ウ 特定事項Aについて,本願発明と甲4発明が相違することは,以下の証拠(実験結果等)から明らかである。

(ア) 甲9

本願発明は,本願明細書の段落【0086】~【0091】に記載された製造方法からみて,多孔質焼結体がネットワーク化され,このネットワーク化された多孔質焼結体が形成する多数の孔の中に銅又は銅合金が含浸され,固化することにより銅又は銅合金もまた三次元構造となる(甲9,図4B)。これに対し,甲4発明は,甲4文献の例1~3,例4~6の製造方法からみて,金属を母材とするもの,すなわち,その金属自体が三次元構造のマトリックス形状であり,その表面はすべて金属であるから,SiC等からなる強化材はマトリックス化された金属の中でバラバラに分散化されているものであって,強化材としてのプリフォーム自体がマトリックス化されているものではない(甲9,図4A)。

(イ) 甲22

甲22には,甲4発明と同様の製法により製造されたプリフォームについて,2000倍の倍率で走査電子顕微鏡を用いて写真撮影したもの(赤矢印の付された写真)が添付されている。これによれば,甲4文献に記載された実施例における焼成温度(1700℃,1750℃,1850℃)と同様の焼成温度である1700℃,1800℃では,セラミックスのネットワーク化がほとんど進んでいない。甲22では,焼成時間は3時間であるのに対し,甲4文献では30分であるから,甲4発明で用いられているセラミックスのネットワーク化が進むことは,到底実現不可能である。すなわち,甲4発明では,溶融金属を浸透した場合に,プリフォームがネットワークを形成せず,バラバラになっていることが理解される。

(ウ) 甲23

甲23は,①甲4発明と同様の製法により製造されたMMC,②本願発明と同様の製法により(ただし,銅に代えてアルミニウムを含浸させた)製造されたCMCについて,それぞれ200倍の倍率で光学顕微鏡を用いて写真撮影したものである。これによれば,上記①では,セラミックスは溶融金属を流し込んだ際にバラバラになるため,ネットワークが形成されていないのに対し,上記②では,セラミックスがネットワークを形成している。

(エ) 甲24,25

特開平6-81056号公報(甲24),特開平7-102331号公報(甲25)には,一般的なMMCの製造に関する記載があるが,これらによれば,一般に,MMCにおいては,甲4発明におけるプリフォームに相当する強化材は,ネットワークを構成せずに,バラバラに分散している。

(オ) 甲26

甲26は,①甲4文献の例4~6の製法により製造されたMMC,②本願明細書の実施例1~実施例8により製造されたCMC,③上記実施例1~実施例8において銅に代えてアルミニウムを含浸させて製造されたCMCについて,SiCの体積率と熱膨張率との関係(図1)及び熱伝導率と熱膨張率との関係(図2)を比較したものである。

甲26の図1に示されるように,上記①は,SiCの体積率及び熱膨張率が,それぞれ65%程度,8.5ppm/k程度であるのに対し,上記②,③は,SiCの体積率が65%であれば,熱膨張率は5.7ppm/k程度であって,上記①よりも熱膨張率が小さくなっている。また,甲26の図2に示されるように,上記①は,熱伝導率及び熱膨張率が,それぞれ190W/mK程度,8.5ppm/k程度であるのに対し,上記②,③は,熱伝導率が190W/mKであれば,熱膨張率はそれぞれ4.5ppm/k程度,6.2ppm/k程度であり,ICチップの基体として用いられるシリコン(Si)の200℃における熱膨張率3.5ppm/kとの差が,上記①よりも小さくなっている。

甲26に示される上記の実験結果は,本願発明では,甲4発明と異なり,多孔質焼結体であるセラミックスがネットワーク化されることにより,多孔質焼結体に含浸された「銅又は銅合金」の熱膨張が抑えられており,また,本願発明において,「銅又は銅合金」に代えて「アルミニウム」を用いても,同様に熱膨張が抑えられていることを意味し,甲4発明と本願発明との構造上の差異を示すものである。

(2)  特定事項Bについて

審決は,相違点1において相違するとしているものの,その前提として,本願発明の特定事項Bは甲4発明の「液相金属を溶浸」が対応すると認定した点に誤りがある。

すなわち,甲4発明は,強化材であるアグロメレーションがプリフォームの状態になったものに,液相金属を浸透させ,金属をマトリックスとするMMCとするものであるのに対し,本願発明は,「ネットワーク化することによって得られる多孔質焼結体」に,銅又は銅合金を含浸させて,セラミックスである多孔質焼結体を母材とするCMCとするものであり,プリフォーム状の強化材に対して金属を「浸透」させるものではない。

(3)  特定事項Cについて

審決は,本願発明の特定事項Cには,甲4発明の「良好な熱膨張係数」が対応し,「両者の目的とする熱膨張率(熱膨張係数)は一致する」と認定判断したが,両発明の熱膨張率が一致するという根拠を何ら示していない点において誤りがある。

すなわち,本願発明は,ネットワーク化された多孔質燒結体と含浸された銅又は銅合金との一体構成を前提とした上で,熱膨張率に関する特性を規定しているのに対し,甲4発明では,単にプリフォームの中実体積を基準として熱膨張係数を示したものであり,しかも,MMCを前提とするものであるから,本願発明のCMCを前提とする熱膨張率とは異なる。

また,甲4文献には,MMCを単に半導体ヒートシンク用の複合材料に用いることができること以外に記載はなく,具体的に熱膨張率の測定の際の基準温度(200℃)について何ら言及はない。

(4)  特定事項Dについて(相違点2の認定判断)

審決は,相違点2に関し,「多孔質焼結体中に速やかに含浸させ,その後速やかに冷却させることにより」,甲4発明においても,本願発明(特定事項Dにおいて,多孔質焼結体と銅又は銅合金との界面に形成される反応層の厚さが5μm以下とされている。)と「同等の反応層の厚みが達成されている」と認定判断したが,審決の認定判断には誤りがある。

すなわち,審決の上記認定は,本願発明がCMCに関するものであるのに対し,甲4発明がMMCに関するものであって,両発明に明確な相違があることを看過し,両発明が多孔質体に含浸させる点において共通することのみに着目してなされたものであり,具体的な根拠を欠くというべきである。

また,甲4文献は,上記反応層の厚さについて,何ら開示ないし示唆していない。むしろ,甲4文献が採用するダイキャスト法では,溶融金属を本願発明と同じ銅(Cu)とした場合,当該溶融金属とプリフォーム(SiC)間に,短時間で5μmを超える反応層が形成されることが通常である(甲13)。

2  その他の取消事由

(1)  その1(甲5文献を引用した誤り)

審決は,以下のとおり,公知文献として,原査定が引用した甲4文献ではなく,甲5文献を引用した点に違法がある。

ア 審決は,「次の事項が記載されている」として,甲4文献を挙げてはいるものの,甲4文献の記載(英文)は引用せず,甲4文献の「対応特許である」にすぎない甲5文献を「引用文献1」とし,専ら甲5文献の記載及び該当箇所(頁・行など)を摘示している。審決書のこのような記載に照らすならば,審決は,甲4文献ではなく,甲5文献を引用し,本願発明と甲5文献(本願優先権主張日後に公開)記載の発明とを対比したことは明らかであるから,この点で違法がある。

イ 審決は,甲4文献(英文)の真正な翻訳文が甲5文献であると判断した可能性が高いが,甲5文献を「引用文献1」とするのであれば,甲4文献と甲5文献とを対比し,その記載内容が完全に一致する旨判断したことを明示した上で,甲5文献を便宜的に用いたことを審決書の中で明らかにすべきである。

被告は,甲4文献と甲5文献とは,同一の国際出願について原文で公開されたものと日本語の翻訳文で公開されたものという関係にあるから,両者の記載内容には差異がないとみるのが普通である旨主張する。しかし,甲5文献の記載には,誤訳や翻訳漏れ等,甲4文献の記載と明らかに一致しない箇所が多数あり(甲6の1,2),両文献の記載内容は,実質的差異がないとはいえない。仮に甲4文献と甲5文献の記載に実質的差異がないとしても,特許法29条2項を適用する以上,本願の出願後に頒布された甲5文献ではなく,本願の優先権主張に係る日前に頒布された甲4文献を引用すべきである。

(2)  その2(判断遺脱)

審決には,請求項1についてのみ判断し,他の請求項について判断することなく,本願全体を拒絶すべきものとした点に,判断遺脱の違法がある。

特許法195条2項,同法別表6号及び11号は,1請求項ごとに出願審査,審判請求の手数料が加算される旨規定する一方,請求項の数に応じた手数料が支払われない場合は,同法133条3項により,審判請求が却下されることに照らせば,特許庁は,請求項ごとに審査,審判の審理を行い,登録要件を判断すべきである。本願明細書の特許請求の範囲には,請求項1のほかに,請求項2~24(このうち,請求項10,11,19,21,22及び24は,他の請求項を引用することなく,記載されている。)が記載され,原告は,これらすべての請求項について審理を求め,所定の手数料を支払ったのであるから,本願については,請求項ごとに登録要件の審理がなされ,判断が示されるべきである。

しかるに,審決は,請求項1についてのみ判断し,他の請求項について判断することなく,本願全体を拒絶すべきものとしたから,判断遺脱の違法がある。

第4取消事由に係る被告の反論

審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。

1  取消事由1(本願発明と甲4発明との対比の誤り)について

審決の認定判断には,以下のとおり誤りはない。この点は,甲4発明について,原告が甲4文献の正訳と主張する甲4Bを翻訳文として採用したとしても同様である。

なお,審決は,甲4文献のクレーム1を引用発明としたものと理解すべきであるが,念のため,甲4Bによれば,その技術内容は,次のとおりとなる。

「1.高い熱伝導率および良好な熱膨張係数の組合せを有する金属マトリックス複合材を製造する方法であって,(a)粉状微粒子で形成されたアグロメレーションを準備し,(b)前記形成されたアグロメレーションを部分燒結し,(c)前記部分燒結されたアグロメレーションを型キャビティ内部に配置し,(d)前記部分燒結されたアグロメレーションに液相金属を浸透させ,(e)前記液相金属を凝固させて前記部分燒結されたアグロメレーションの周囲および内部に前記金属マトリックスを形成する金属マトリックス複合材の製造方法。」

(1)  特定事項Aについて

以下のとおり,特定事項Aについて審決のした認定判断に誤りはない。

ア 原告は,本願発明はセラミックスを母材(マトリックス)とするCMCを対象とする発明であり,甲4発明は金属を母材(マトリックス)とするMMCを対象とする発明であるから,特定事項Aが甲4発明の「部分燒結アグロメレーション」に相当するということはできない旨主張する。

しかし,原告の主張は,以下のとおり,失当である。

(ア) 本願発明には,母材(マトリックス)が,セラミックスか,金属かは特定されていない。本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載によれば,本願発明はCMCであることを発明特定事項としていないから,本願発明と甲4発明との対比に当たり,CMCであるか,MMCであるかを検討する必要はない。この点の原告の主張は,主張自体失当である。

(イ) また,本願明細書には,本願発明がCMCであること,すなわち,セラミックスである「ネットワーク化することによって得られる多孔質焼結体」が母材(マトリックス)であることが記載されているとはいえない。

甲8の1,2によれば,複合材料を母材(マトリックス)と強化材で構成されるものととらえた場合,金属とセラミックスの複合材料では,前者が母材(マトリックス),後者が強化材として作用すると解される。そうすると,本願発明の複合材も,「ネットワーク化することによって得られる多孔質焼結体」はセラミックスであって,銅又は銅合金を含浸するものであるから,セラミックスが強化材,金属が母材(マトリックス)であると考えることができる。したがって,本願発明をMMCととらえることもできる。

原告は,マトリックスとは,複合材料のうち,大部分の構成要素である,あるいは,ネットワーク化しているものであると主張する。しかし,本願明細書の段落【0020】及び【0037】の記載によれば,本願発明では,大部分の構成要素が「銅又は銅合金」の場合もあるから,一概に「多孔質焼結体」がマトリックスであるとはいえないし,一般に「ネットワーク」とは「網状組織」を意味するが,立体的な複合材料において「網状組織」が三次元的なものであることは自明であり,他方,原告は,本願発明では,多孔質焼結体がネットワーク化され,このネットワーク化された多孔質焼結体が形成する多数の孔の中に銅又は銅合金が含浸され,固化することにより銅又は銅合金もまた三次元構造となると主張しているから,本願発明では,「多孔質焼結体」のみならず,「銅又は銅合金」も「ネットワーク化」していると解されるので,「多孔質焼結体」がマトリックスであると断定することは誤りである。

イ 原告は,甲4文献の記載に関する原告の理解を根拠として,本願発明と甲4発明が相違する旨を主張する。

しかし,甲4発明の多孔質燒結体,すなわち,「部分燒結されたアグロメレーション」は,「ネットワーク化」したものにほかならないから,この点の原告の主張は失当である。

(ア) 甲4文献の「この方法は,(a)粉末で形成されたアグロメレーション(プリフォーム)を準備する,(b)プリフォームを部分的に燒結する,(c)部分燒結されたプリフォームを成形室内に配置する,(d)液相金属をプリフォームに浸透させる,及び(e)液相金属を凝固させて,プリフォームを取囲み且つまた内部を通してなるMMCを形成させることからなる。好ましい実施例では,プリフォームは炭化けい素で形成され,金属マトリックスはアルミニウム-ケイ素合金とされる。」(3頁26行~35行〔甲4B,8頁11行~17行〕),「『プリフォーム』または『多孔質プリフォーム』という用語は,・・・強化材すなわちアグリゲートからなる形成されたアグロメレーションを意味するように使用されている。プリフォームは十分な形状の一体性と強度とを有して,液相金属を浸透される前に寸法的な完全性が与えられるようになされる。プリフォームは液相金属による浸透に適応するために十分に多孔質でなければならない。」(5頁18行~27行〔甲4B,10頁2行~8行〕),「プリフォームは,生強度を与えるために適当な結合剤によりアグリゲートの小片を結合することにより構成された多孔質体として形成される。」(7頁23行~25行〔甲4B,12頁3行~4行〕)との記載によれば,甲4発明の「部分燒結されたアグロメレーション」は,「部分燒結されたプリフォーム」と同義であり,強化材の小片を結合することにより構成された多孔質体が部分燒結され,十分な形状の一体性と強度とを有して,液相金属を浸透される前に寸法的な完全性が与えられた,液相金属が浸透されるために十分に多孔質のものであるということができる。

さらに,甲4文献の「『部分燒結』という用語は,本明細書では実質的に密閉気孔部位を生じることのない燒結工程を開始するのに十分な温度にまで粉状粒子で形成されたアグロメレーションを加熱することを意味するように使用されている。」(5頁11行~15行〔甲4B,9頁25行~27行〕),「プリフォームを熱処理することが好ましく,・・・後で金属マトリックスを受入れる気孔を閉塞させないために,部分結合が好ましい。」(7頁26行~33行〔甲4のB,12頁6行~9行〕),「プリフォームが強度および有機結合剤の除去のために熱処理されるならば,過剰量の閉塞気孔を生じないように注意しなければならない。そうでないと,マトリックスの浸透が阻止されて,形成されるMMCが無気孔とならない」(9頁34行~10頁2行〔甲4B,14頁4行~7行〕),「本発明の特別な利点は,・・・実質的に気孔の存在しないMMCを達成できることが見出された。」(甲4文献9頁第24行~第29行〔甲4B,13頁下から2行目~14頁1行〕)との記載によれば,「部分燒結されたアグロメレーション」の気孔は,密閉気孔部位を生じてないものといえる。

そうすると,甲4発明の「部分燒結されたアグロメレーション」は,少なくとも液相金属の浸透前において,強化材の小片を結合することにより構成された多孔質体を部分燒結してなる,密閉気孔部位を生じてなく,十分な形状の一体性と強度とを有して,寸法的な完全性が与えられた,液相金属が浸透されるために十分に多孔質のものであるといえる。

(イ) 甲4文献の「液相金属は多孔質のプリフォームの周囲および内部に浸透される。金属はその後冷却を行われ,又は冷却するようにされて,連続した金属による強化質量体を形成するようになされる。」(6頁28行~30行〔甲4B,11頁8行~10行〕),「プリフォームが強度および有機結合剤の除去のために熱処理されるならば,過剰量の閉塞気孔を生じないように注意しなければならない。そうでないと,マトリックスの浸透が阻止されて,形成されるMMCが無気孔とならないからである。しかしながら,結合が過剰とならないように注意するにおいて,基本的に得られるプリフォームはこれ以外の用途で用いられるほど強くない。このことは,浸透速度がプリフォームを侵食しないように制御しなければならないことを意味する。・・・これにより多量に装填されたプリフォームを損傷させることなく,適当な強度を有する大きな体積率のアグリゲートMMCが得られる。」(9頁34行~10頁13行〔甲4B,14頁4行~15行〕)との記載によれば,「部分燒結されたアグロメレーション」は,内部の密閉気孔部位を生じていない気孔,つまり開気孔に液相金属が浸透されるものであり,プリフォーム(アグロメレーション)を熱処理する際には,閉塞気孔を生じないようにしないとマトリックスの浸透が阻止されて,形成されるMMCが無気孔とならない。このことは,熱処理によって閉塞気孔が生じた場合には,液相金属であるマトリックスが浸透せずに気孔が生じることを示しており,これはプリフォーム(アグロメレーション)を熱処理して得られる多孔質のもの,つまり「部分燒結されたアグロメレーション」は,液相金属を浸透した後もその形状を維持していることを裏付けているといえる。さらに,浸透速度がプリフォームを侵食しないようにすること,プリフォームを損傷させることなくMMCが得られることも部分燒結されたアグ,「ロメレーション」は液相金属を浸透して得られた複合材料中においてもその形状を維持していることを示している。

なお,甲4文献には,「部分燒結されたアグロメレーション」が液相金属を浸透することによってバラバラに分散化する旨の記載は見当たらない。

このように,甲4発明の「部分燒結されたアグロメレーション」は,液相金属の浸透後において,金属マトリックス複合材中でその形状を維持しているということができる。

(ウ) 甲4発明の「部分燒結アグロメレーション」の形状は,上記のとおり,強化材の小片を結合することにより構成された多孔質体を部分燒結してなる,密閉気孔部位を生じてなく,十分な形状の一体性と強度とを有して,寸法的な完全性が与えられた,液相金属が浸透されるために十分に多孔質のものであって,甲4文献の「『金属マトリックス複合材』,『複合材』または頭文字『MMC』という用語は,本明細書では二次元的または三次元的に相互結合され,内部に強化材を埋め込まれた合金または金属マトリックスを含んで構成された材料を意味するように使用さている。」(5頁3行~7行〔甲4B,9頁19行~22行〕)という記載に照らせば,密閉気孔部位を生じていない気孔は二次元的又は三次元的に相互結合された開気孔であるといえる。

そして,得られる金属マトリックス複合材中においてその形状を維持する「部分燒結されたアグロメレーション」が,二次元的又は三次元的に相互結合された開気孔を形成するためには部分燒結さ,「れたアグロメレーション」自体も,強化材小片が二次元的又は三次元的に結合して構成されているといえる。

ところで,一般に,「ネットワーク」とは「網状組織」と訳されるものであるが,立体的な複合材料において,「網状組織」が三次元的なものであることは自明であること,原告が,本願発明の特定事項Aは多孔質焼結体が三次元構造を有することを規定し,また,ネットワーク化された多孔質焼結体が形成する多数の孔の中に銅又は銅合金が含浸され,固化することにより銅又は銅合金もまた三次元構造となると主張していることに照らせば,強化材小片が二次元的又は三次元的に結合することにより構成された「部分燒結されたアグロメレーション」は,「ネットワーク化」したものにほかならない。

(エ) 原告は,甲4発明の「部分燒結アグロメレーション」がネットワーク化していないとして,その他指摘するが,いずれも失当である。

甲4文献には,具体的な強化材の粒子の大きさは記載されておらず,凝集地の体積率が大きく,実質的に気孔の存在しない金属地複合材が,「真空ダイキャスト機の型キャビティに,例えば大きな体積率とするために必要な隙間充填を達成できるような寸法分布を有する粒体で作られたアグリゲートプリフォームを装填することで達成される」(9頁29行~34行〔甲4B,14頁2行~4行〕)ことが記載されているから,強化材の粒子は体積率に応じた粒径を選択するものであり,例示された薄壁部分の肉厚を「粒子の大きさ程度」と限定して解釈することは適切でない。

また,甲4文献において,「薄壁部分付きの複雑な形状」としては「箱」体等を想定しているところ,例えば,原告の提出にかかる甲22では,SiCの微粉原料として平均粒径1.0μmという,甲4文献における薄壁部分の厚さに対して十分小さいものを用いており,このような微粉を用いて焼成体を得ることはできるとみられるから,薄壁部分の例示された肉厚や箱体程度の複雑な形状を根拠に,甲4発明の「部分燒結アグロメレーション」がネットワーク化していないとはいえない。

さらに,甲4文献の「図1の真空ダイキャスト機は,・・・箱体72の形成を示している。型キャビティよりも僅かに小さい寸法のアグリゲートプリフォームを作ることで,アグリゲートの存在しないマトリックス領域がシールバンドのはんだ結合のために形成される。」(12頁34行~13頁2行〔甲4B,16頁22行~25行〕,判決注:甲4Bに,「マトリックスの存在しないアグリゲート領域」とあるのは,「アグリゲートの存在しないマトリックス領域」の誤記と認める。)との記載,及び「箱体は,蓋をシールバンドにレーザー溶接または低温はんだ付けすることで密閉される。・・・これらの連結法はアグリゲートの存在しないマトリックス材料からなる表面層のダイキャスト時に形成することで容易化され得る。」(13頁30行~14頁9行〔甲4B,17頁18行~18頁1行〕)との記載を参酌すれば,原告が指摘する「アグリゲートが存在しないマトリックス表面層は,本発明のMMC製品上に処理を容易にするために真空ダイキャスト時に形成される。」との記載は,プリフォーム(アグロメレーション)は型キャビティよりも僅かに小さいため,その周囲に僅かにアグリゲートの存在しないマトリックスが形成され,そのマトリックスの存在しない部分は,はんだ付け等の結合法による他の部品との結合を容易にすることを意味するのであり,部分燒結されたアグロメレーションがネットワーク化していないことを示唆するものとはいえない。なお,甲12は,原告の想定するところを図解したものにすぎず,液相金属を流し込むことにより部分燒結されたアグロメレーションが分裂し,アグロメレーションを構成していた粒子が「薄壁部分」へ液相金属とともに流れ込み,粒子が分散することを示すものではない。

ウ 原告は,各証拠(実験結果等)を根拠として,本願発明と甲4発明が相違する旨を主張する。

しかし,この点の原告の主張は,以下のとおり失当である。

(ア) 甲9に対し

原告は,甲4発明では,甲9の図4Aのように,強化材はマトリックス化された金属の中でバラバラに分散化されている旨主張する。

しかし,前記イのとおり,甲4発明の「部分燒結されたアグロメレーション」は,複合材料中においてその形状を維持し,「ネットワーク化」しているというべきである。甲9の図4Aは,原告の主張を描出したものにすぎず,甲4文献の記載に基づくものとはいえない。

(イ) 甲22に対し

原告は,甲22に示される焼成温度を1700℃,1800℃,1900℃,2000℃,2100℃とする焼成後のプリフォームの写真によれば,甲4発明と同様の焼成温度(1700℃及び1800℃)では,セラミックスのネットワーク化がほとんど進んでいないから,甲4発明では,溶融金属を浸透した場合に,プリフォームがネットワークを形成せず,バラバラになっている旨主張する。

甲4文献には,実施例4~6の焼成温度として,1700℃,1750℃,1850℃が記載されているものの,例えば,クレーム4に,「請求項1に記載された方法であって,さらに・・・(ⅱ)形成されたアグロメレーションを酸化雰囲気中で600℃~1000℃の温度に加熱し,(ⅲ)形成されたアグロメレーションを実質的に不活性雰囲気中で約1650℃~2000℃の温度に加熱することからなる金属マトリックス複合材の製造方法と。」記載されているように甲4発明に,おける部分燒結は,酸化雰囲気中で加熱(タッキング)後に,不活性雰囲気中で加熱すること,また,その温度も実施例4~6の焼成温度よりも高い2000℃までとすることを想定したものと解される。甲22では,サンプルは,SiCの粉原料を成形した後,直接焼成していると解されるから,甲22において,タッキングをせずに,1700℃及び1800℃で焼成した焼成体は,甲4発明の「部分燒結アグロメレーション」と同じ条件で焼成されたものとはいえない。また,1800℃を甲4文献と同様の温度として取り上げることも不適切である。

さらに,甲22に示された写真をみると,1700℃,1800℃で焼成したものでは,1900℃~2100℃で焼成したものに比べて,微粉原料と解される粒子の形状がみてとれるが,このことが「ネットワーク化」しているか否かを示しているかは不明である。

したがって,甲22に基づく原告主張は,失当である。

(ウ) 甲23に対し

原告は,甲23に示される,甲4発明と同様の製法により製造されたMMCの写真によれば,セラミックスは溶融金属を流し込んだ際にバラバラになるため,ネットワークが形成されていない旨主張する。

甲23は,甲4発明の製造方法(ダイカスト法)により製造した金属マトリックス複合材として,700℃でタッキングされたプリフォームに対して,溶融金属であるアルミニウムを注入することにより製造した複合材を示しているが,上記(イ)のとおり,甲4発明における部分燒結は,酸化雰囲気中で加熱(タッキング)後に,不活性雰囲気中で1650℃~2000℃(実施例4~6では1700℃,1750℃,1850℃)で加熱することを意味する。甲23では,タッキングのみが行われているにすぎないから,甲4発明を示したものとはいえない。

したがって,甲23に基づく原告主張は,失当である。

(エ) 甲24,25に対し

原告は,甲24,25によれば,一般に,MMCにおいては,甲4発明におけるプリフォームに相当する強化材は,ネットワークを構成せずに,バラバラに分散している旨主張する。

甲24は,「アルミニウム」又は「アルミニウム-チタン金属間化合物」がマトリックスであり,該マトリックス中に「二酸化チタン」又は「α-アルミナ」が分散してなる複合材に関するものであり,MMCに分類されるものであることは確かである。しかし,該分類は,強化材の形態を示すものではない。甲24は,「分散強化型複合材料」に関するものであり,その【発明の効果】の項の記載に示されるように,強化材を積極的にマトリックス中に分散させ,かつ反応硬化によって,「均質な組織を有する硬質材料」を得ようというものであるから,甲24において強化材が分散しているからといって,MMC一般において,強化材が分散されるということはできない。また,甲24には,【実施例1】に関し,「TiO2(ルチル)の粉末(・・・)を冷間で加圧成型し,これをプリフォーム」とするとの記載があり,該「プリフォーム」と,甲4発明における「部分燒結されたアグロメレーション」は異なるものというべきである。また,甲25は,甲24と同様の技術である。

したがって,甲24,25に基づく原告主張は,失当である。

(オ) 甲26に対し

原告は,甲26に示される実験結果は,本願発明では,甲4発明と異なり,多孔質焼結体であるセラミックスがネットワーク化されることにより,多孔質焼結体に含浸された「銅又は銅合金」の熱膨張が抑えられており,また,本願発明において,「銅又は銅合金」に代えて「アルミニウム」を用いても,同様に熱膨張が抑えられていることを意味し,甲4発明と本願発明との構造上の差異を示すものである旨主張する。

しかし,甲26において,図1の「■:本願(Al含浸実施例1~8)」は,表1に記載された値をプロットしたものであり,実施例1~8とはSiCの体積率が異なるから,本願の実施例において,銅に代えてアルミニウムを含浸したものとはいえない。また,図2の「■」のプロット値は,本願明細書の図4の曲線d(SiCにアルミニウムを含浸させた場合の実測値)と整合していない。そして,甲26の「アルミニウムを含浸させた場合」とは,そもそもどのような条件で焼成したのか明らかでなく,また,アルミニウムを含浸させる「SiC」として,本願発明でいう「予備焼成してネットワーク化することによって得られる多孔質焼結体」を用いたのかも明らかでない。したがって,甲26を根拠として,本願発明において,「銅又は銅合金」に代えて「アルミニウム」を用いた場合に,本願発明と同様に熱膨張が抑えられているとはいえない。

そして,アルミニウムは銅に比べて大きい熱膨張率(熱膨張係数)を有する(乙1では,銅の線膨張率は,0.162×10-4/K,アルミニウムの線膨張率は,0.237×10-4/Kであるとされ,乙2では,銅の膨張係数は16.5×10-6,アルミニウムの膨張係数(20℃)は23.8×10-6とされている。)から,甲26において,甲4発明について,本願発明と比較して,熱膨張率が大きいという結果が示されているとしても,直ちに甲4発明と本願発明とは構造上の差異があるとはいえない。

なお,仮に本願発明において,銅に代えてアルミニウムを含浸したものが,甲4発明に比べて熱膨張率が小さいとしても,甲4発明の「部分燒結されたアグロメレーション」が「ネットワーク化」していないということはできない。すなわち,本願明細書には,「・・・本実施の形態に係る複合材料は,・・・具体的には,図2に示すように,例えばSiCからなる多孔質焼結体20の開気孔部(オープンポア部)に銅又は銅合金22が含浸されて構成される。・・・この構成によれば,後述するように,SiCと該SiCに含浸される銅又は銅合金22の比率によって決定される熱膨張(理論値)よりも低い値に膨張を抑えることができ・・・る。」(段落【0066】~【0067】)との記載はあるが,「ネットワーク化」のための「予備焼成」の条件については何ら記載されていないから,多孔質焼結体が「ネットワーク化」,すなわち,小片が三次元的に結合した構造であれば,開気孔部に含浸された金属の膨張を抑え,例えば粉末成形した場合等の理論値よりも熱膨張率を低くできるものと解される。そうすると,甲4発明においても,「部分燒結されたアグロメレーション」は複合材料中においてもその形状を維持し,ネットワーク化しているのであるから,該ネットワーク化した構造によって,浸透された液相金属の熱膨張は単なる粉末成形の場合等に比較して当然低く抑えられたものになっていると解されるのである。

したがって,甲26に基づく原告主張は,失当である。

(2)  特定事項Bについて

特定事項Aと甲4発明の「部分燒結されたアグロメレーション」とは,前記(1)のとおり,実質的に差異はないから,審決が,特定事項Bと甲4発明の「液相金属」とを対比し,後者については,具体的にはアルミニウムについてのみ記載されている点について,相違点1と認定したことに誤りはない。

なお,相違点1について,甲4文献には,アルミニウムと銅とを同等に扱えることを示唆する記載があり,甲4発明において液相金属として銅又は銅合金を用いることは当業者が容易に想到し得ることであるとした審決の判断にも誤りはない。

(3)  特定事項Cについて

審決は,特定事項Aと甲4発明の「部分燒結されたアグロメレーション」とは,前記(1)のとおり,実質的に差異はなく,また,特定事項Bと甲4発明の「液相金属」とは,前記(2)のとおり,相違点1において相違することを前提として,特定事項Cを甲4発明の「良好な熱膨張係数」とを対比し,両者の目的とする熱膨張率(熱膨張係数)は一致するとした。すなわち,審決は,まず,①本願発明の特定事項C所定の熱膨張率に関する「特性」は,本願明細書段落【0016】~【0017】を参酌すると「室温から200℃までの平均熱膨張率が4.0×10-6~9.0×10-6/℃の範囲にある」とし,次に,②甲4文献の記載を参酌して,引用発明の「良好な熱膨張係数」は,その値は表2に示される程度であるから,それらの記載を根拠に,両者の目セラミック材料および半導体材料の熱膨張係数に近い熱膨張係数であって,的とする熱膨張率(熱膨張係数)は一致すると認定した。

審決の上記認定判断は,以下のとおり合理性がある。

すなわち,甲4発明は,セラミック材料及び半導体材料の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有することを目的としたものである一方,特定事項Cに規定された本願発明の熱膨張係数の範囲も,「AlN等のセラミック基板やSiおよびGaAs等の半導体基板の熱膨張率と合わせる」ことを目的としているから,両発明の目的としている熱膨張係数は一致する。

そして,甲4文献の表2に示された熱膨張係数の値は,65体積%SiCを部分燒結したプリフォームに銅又は銅合金を溶浸したもの複合材における値ではないが,銅の熱膨張係数はアルミニウムのそれより小さいこと(乙1,2)からみれば,上記表2に示された複合材の溶融金属として,銅を浸透した複合体にあっては,表2に示された熱膨張係数の値よりさらに小さくなると推定されるから,その値は,特定事項CがAlN等のセラミック基板やSi及びGaAs等の半導体基板の熱膨張率と合わせることを目的として規定した室温から200℃までの平均熱膨張率が4.0×10-6~9.0×10-6/℃の範囲に,十分入るものと考えられる。

甲4文献には,熱膨張係数の基準温度に関する記載はないが,甲4発明は,本願発明と同じく,半導体ヒートシンク用複合材料として用いるものであるから,同じ程度の温度における熱膨張率が重要であることは明らかであり,甲4発明における基準温度も本願発明の基準温度と同程度であると理解される。

(4)  特定事項D(相違点2の認定判断)について

原告は,相違点2に関する審決の認定は,①本願発明がCMCに関するものであるのに対し,甲4発明がMMCに関するものであって,両発明に明確な相違があることを看過し,両発明が多孔質体に含浸させる点において共通することのみに着目してなされたものであり,具体的な根拠を欠く,②甲4文献は,上記反応層の厚さについて,何ら開示ないし示唆しておらず,むしろ,甲4文献が採用するダイキャスト法では,溶融金属を本願発明と同じ銅(Cu)とした場合,当該溶融金属とプリフォーム(SiC)間に,短時間で5μmを超える反応層が形成されることが通常である,とそれぞれ主張する。

しかし,前記(1)のとおり,本願発明がCMCに関するものであるとの原告主張は誤りであり,また,引用発明の部分燒結アグロメレーションも複合材料中においてその形状を維持し,ネットワーク化しているものであるから,本願発明と引用発明はこの点において相違しないというべきであって,反応層の厚みに関する点のみを相違点2として認定した審決に誤りはない。

そして,甲4文献に記載された金属地複合材は,「真空ダイキャスト法」により製造されるもので,「本発明の真空圧補助による圧力ダイキャスト工程の特定の利点は,溶融金属とアグリゲートすなわち強化材との間の潜在的な有害反応を最少限にし,または排除する急速な浸透および凝固の組合せを可能にさせることである。」(9頁18行~23行〔甲4B,13頁下から7行目~下から5行目〕)との記載のとおり,真空ダイキャスト法を採用することによって,急速な溶浸,凝固が可能となり,溶融金属と凝集地すなわち強化材との有害反応を最少限とする,あるいは,なくすことができるものであるから,甲13添付の文献3ないし文献5に開示された一般的なダイキャスト法におけるチルタイムをそのまま根拠として反応層を計算することは適切ではない。

また,甲13添付の文献1に「SiCと溶融Cuが接触するとごく短時間で被覆が起こり,温度の上昇とともに被覆開始時間が早くなった。」と記載されているように,反応層の生成は,SiCと溶融金属の温度にも依存すると解されるが,甲13添付の文献2は,1498Kに保持した場合の反応層の厚みを示しており,このように特定温度における反応層の厚みを,時間と生成する反応層の厚みの関係に一般化することも適当でない。

本願明細書には,反応層を5μm以下とするために,「両者が銅又は銅合金の融点以上に達した段階で,両者を接触させて直ちに高い圧力をかけて,前記銅又は銅合金を多孔質焼結体中に含浸させ,その後速やかに冷却させる」ことにより達成できる旨記載され,甲4文献にも,凝集地に溶融金属を速やかに溶浸させ,その後速やかに冷却させることによって,溶融金属と凝集地すなわち強化材との間の潜在的な有害反応を最少限,または排除することができる旨が記載されているから,審決が,甲4発明においても,反応層の厚みは小さく,5μm以下と同等であると判断したことに誤りはない。

2  その他の取消事由について

(1)  その1(甲5文献を引用した誤り)について

ア 審決は,「2.引用文献原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第96/41030号パンフレット(上記国際公開の対応特許である特表平11-506806号公報を以下,「引用文献1」という。)には,次の事項が記載されている。」としており,審決における引用文献が,原査定が引用した甲4文献であることは,明らかである。審決は,甲5文献を「引用文献1」と称するとともに,甲5文献における摘示箇所を示しているが,これは,甲4文献の翻訳文の趣旨で,甲5文献を摘示したものである。審決は,甲4文献に甲5文献に対応する記載が存在することを確認した上で,後者の記載箇所を示したものであって,このような記載の体裁によって審決における引用文献が甲5文献であると断定することは相当でない。

イ また,審決における引用文献である甲4文献と,審決が「引用文献1」と称した甲5文献とは,同一の国際出願(国際出願PCT/US96/09082号)について原文で公開されたものと,日本語の翻訳文で公開されたものという関係にある(特許法184条の9第1項,184条の4第1項参照)から,両者に記載された技術内容には差異がないとみても,誤りはない。

さらに,甲4文献と甲5文献を対比すると,両者には実質的な差異がないから,甲5文献を甲4文献の翻訳文として採用し,「引用文献1」と称した審決の摘示に違法はない。この点,原告は誤訳や翻訳漏れ等を指摘するが,甲4文献と甲5文献とはその記載から把握される技術事項に実質的な差異はないから,甲5文献が甲4文献の翻訳文として採用したことに違法はない。

ウ 以上のとおり,審決は,甲4文献を引用文献として,特許法29条2項を適用したものであり,甲5文献を引用したという原告の主張は失当である。

(2)  その2(判断遺脱)について

特許法49条は,「審査官は,特許出願が次の各号の一に該当するときは,その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。」と規定し,同法51条の「特許出願について拒絶の理由を発見しないときは,特許をすべき旨の査定をしなければならない。」との規定とともに,一つの特許出願について,拒絶査定か特許査定かのいずれかの行政処分をすべきことを定めている。これらの規定によれば,一つの特許出願に複数の請求項に係る発明が含まれている場合,そのうちのいずれか一つでも特許をすることができないものであるときは,その特許出願全体を拒絶すべきことになる。なお,請求項の数に応じて手数料を払うべきものとされていることは,特許法49条及び51条の規定の解釈に何ら影響を及ぼすものではない。

したがって,審決は,請求項1について審理した結果,本願発明が特許法29条2項の規定に基づき特許をすることができないと判断している以上,その余の請求項について判断しなかったことが違法を来すことはない。

第5当裁判所の判断

1  取消事由1(本願発明と甲4発明との対比の誤り)について

当裁判所は,以下の理由から,本願発明と甲4発明との対比に当たり,審決には,原告主張に係る認定判断の誤りはないものと判断する(なお,甲4文献の訳文として,審決が用いた甲5文献に替えて,原告が正訳であるとする甲4Bを採用したとしても,上記の判断に影響を与えるものではない。)。

(1)  特定事項Aについて

原告は,本願発明の特定事項Aと甲4発明の「部分燒結されたアグロメレーション」とが相違するとして,概要2点を主張するが,そのいずれも理由がない。以下順に述べる。

ア 母材(マトリックス)に関する原告の主張について

原告は,本願発明はセラミックスを母材(マトリックス)とするCMCを対象とする発明であるのに対し,甲4発明は金属を母材(マトリックス)とするMMCを対象とする発明である旨主張する。

しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。

まず,本願明細書(甲1,2,3)の特許請求の範囲の請求項1の記載によれば,本願発明が,特定事項Aの「多孔質焼結体」と特定事項Bの「銅又は銅合金により構成されることが認められるが多孔質焼」,「結体」と「銅又は銅合金」のいずれが母材(マトリックス)であるかは明白ではない。

ところで,証拠(甲8の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,複合材料は,母材(マトリックス)と強化材により構成されるものであり,セラミックス及び金属からなる複合材料の場合,いずれの素材も母材(マトリックス)になり得ることが認められる。

そして,本願明細書(甲1,2,3)の「そして,前記多孔質焼結体としては,SiC,AlN,Si3N4,B4C,BeOから選ばれた1種以上の化合物からなることが望ましく,前記銅又は銅合金の比率(含浸率)としては,20vol%~70vol%であることが望ましい。銅の含浸率が20vol%以下では,180W/mK(室温)の熱伝導率を得ることができず,70vol%を超えると多孔質焼結体(特にSiC)の強度が低下し,熱膨張率を9.0×10-6/℃以下に抑えることができない。」(段落【0020】),「なお,多孔質焼結体の気孔としては,平均直径が0.5μm~50μmのものが90%以上存在し,かつ,気孔率が20vol%~70vol%であることが望ましい。」(段落【0037】)との記載によれば,本願発明において,「銅又は銅合金」の体積率が50%を超え,「多孔質焼結体」の体積率が50%未満となる場合があることが認められ,このような場合であれば,全体に占める割合からみて,「銅又は銅合金」が母材(マトリックス)と理解するのが自然である。また,そもそも,本願明細書には,「多孔質焼結体」と「銅又は銅合金」のいずれを母材(マトリックス)とするかよって,本願発明が,機能上ないし性質上,どのような特徴が生じるのかについて,何らの記載又は示唆はない。

そうすると,本願発明は,CMCに限定されていないものと解すべきであるから,その母材(マトリックス)において,甲4発明と異なるとはいうことはできない。

イ ネットワーク化に関する原告の主張について

原告は,本願発明では,多孔質焼結体がネットワーク化され,三次元構造を有するのに対し,甲4発明では,多孔質燒結体がネットワーク化されていない旨主張する。

しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。

そもそも,本願明細書(甲1,2,3)の記載からは,多孔質焼結体が開気孔を有し,その開気孔内に金属を含浸させることが認められ(段落【0020】~【0023】,【0066】参照。),また,一般的に「網状組織」を意味するものであると理解されるにとどまり,「ネットワーク化」がどのような構造で,どのような予備焼成を行うことによりこれを実現するかに関して,何ら明らかにされていない。そして,甲4発明においても,「部分燒結されたアグロメレーション」が開気孔を有し,その開気孔内に金属を含浸させることが認められるから,この点において,本願発明と異なるものとは認められない。

したがって,原告の主張は,その余の判断をすることなく,失当である。

以下,念のため,原告の主張に従って,特定事項Aの「多孔質焼結体」を「多孔質焼結体の外面から内部にかけて空孔が連通することによって三次元形状を呈する」ものとの理解に立った上で,甲4発明との対比を行う。

(ア) 甲4文献の記載内容

a 甲4文献の請求項1の記載は次のとおりである。したがって,甲4発明は,下記方法により得られる「複合材料」である。

「1.高い熱伝導率および良好な熱膨張係数の組合せを有する金属マトリックス複合材を製造する方法であって,(a)粉状微粒子で形成されたアグロメレーションを準備し,(b)前記形成されたアグロメレーションを部分燒結し,(c)前記部分燒結されたアグロメレーションを型キャビティ内部に配置し,(d)前記部分燒結されたアグロメレーションに液相金属を浸透させ,(e)前記液相金属を凝固させて前記部分燒結されたアグロメレーションの周囲および内部に前記金属マトリックスを形成する金属マトリックス複合材の製造方法(甲4B,。」,請求項1)

b 甲4文献の「発明の詳細な説明」欄の記載によれば,以下のとおりの事項が明らかである。

① 「この方法は,(a)粉末で形成されたアグロメレーション(プリフォーム)を準備する,(b)プリフォームを部分的に燒結する,(c)部分燒結されたプリフォームを成形室内に配置する,(d)液相金属をプリフォームに浸透させる,及び(e)液相金属を凝固させて,プリフォームを取囲み且つまた内部を通してなるMMCを形成させることからなる。好ましい実施例では,プリフォームは炭化けい素で形成され,金属マトリックスはアルミニウム-ケイ素合金とされる。」(3頁26行~35行〔甲4B,8頁11行~17行〕)との記載によれば,「アグロメレーション」は「プリフォーム」に該当し,「液相金属」は溶融状態の金属に該当するから,上記記載における(d)の工程は,「部分燒結されたプリフォーム」に溶融金属を浸透させる工程であるということができる。

② 甲4文献の「プリフォームは,生強度を与えるために適当な結合剤によりアグリゲートの小片を結合することにより構成された多孔質体として形成される。」(7頁23行~25行〔甲4B,12頁3行~4行〕)との記載によれば,部分燒結前の「プリフォーム」は,「強化材の小片を結合することにより構成された多孔質体」であるということができる。

③ 甲4文献の「『プリフォーム』または『多孔質プリフォーム』という用語は,・・・強化材すなわちアグリゲートからなる形成されたアグロメレーションを意味するように使用されている。プリフォームは十分な形状の一体性と強度とを有して,液相金属を浸透される前に寸法的な完全性が与えられるようになされる。プリフォームは液相金属による浸透に適応するために十分に多孔質でなければならない。」(5頁18行~27行〔甲4B,10頁2行~10頁8行〕)との記載によれば,液相金属が浸透する前のプリフォーム,すなわち「部分燒結されたアグロメレーション」は,「十分な形状の一体性と強度とを有して,液相金属を浸透される前に寸法的な完全性が与えられ」,「液相金属による浸透に適応するために十分に多孔質」のものであるということができる。

④ 甲4文献の「『部分燒結』という用語は,本明細書では実質的に密閉気孔部位を生じることのない燒結工程を開始するのに十分な温度にまで粉状粒子で形成されたアグロメレーションを加熱することを意味するように使用されている。」(5頁11行~15行〔甲4B,9頁25行~27行〕),「プリフォームを熱処理することが好ましく,・・・後で金属マトリックスを受入れる気孔を閉塞させないために,部分結合が好ましい。」(7頁26行~33行〔甲4B,12頁6行~9行〕),「プリフォームが強度および有機結合剤の除去のために熱処理されるならば,過剰量の閉塞気孔を生じないように注意しなければならない。そうでないと,マトリックスの浸透が阻止されて,形成されるMMCが無気孔とならないからである。」(9頁34行~10頁2行〔甲4B,14頁4行~7行〕),「本発明の特別な利点は,・・・実質的に気孔の存在しないMMCを達成できることが見出された。」(9頁24行~29行〔甲4B,13頁下から2行~14頁1行〕)との記載によれば,「部分燒結アグロメレーション」は多孔質体であるが,内在する気孔については「密閉気孔部位」または「閉塞気孔」が生じないようにしているということができる。

⑤ 甲4文献の「このことは,浸透速度がプリフォームを侵食しないように制御しなければならないことを意味する。圧搾鋳造法に使用される圧力に比べてダイキャスト法での圧力が低いことは,真空ダイキャスト法に使用される事前の真空引きおよび金属速度の制御とを組み合わせ,その結果適当な状態バランスを生み,これにより多量に装填されたプリフォームを損傷させることなく,適当な強度を有する大きな体積率のアグリゲートMMCが得られる。」(10頁5行~13行〔甲4B,14頁9行~15行〕)との記載によれば,液相金属の浸透によりプリフォームが損傷しないように制御されるから,「部分燒結アグロメレーション」は液相金属の浸透により得られた複合材料中においてもその形状を維持していることは明らかである。

c 以上によれば,「部分燒結アグロメレーション」は,少なくとも液相金属の浸透前においては,強化材の小片を結合することにより構成された多孔質体を部分燒結してなる,密閉気孔部位を生じていないものであり,十分な形状の一体性と強度とを有して,寸法的な完全性が与えられた,液相金属が浸透されるために十分に多孔質のものであると認められる。

そして,甲4文献の「『金属マトリックス複合材』,『複合材』または頭文字『MMC』という用語は,本明細書では二次元的または三次元的に相互結合され,内部に強化材を埋め込まれた合金または金属マトリックスを含んで構成された材料を意味するように使用されている。」(5頁3行~7行〔甲4B,9頁19行~22行〕)との記載によれば,液相金属が浸透する気孔部位は「二次元的または三次元的に相互結合」されているのであるから,そのような構造の気孔を形成するためには,「部分燒結されたアグロメレーション」自体も,強化材の小片が二次元的または三次元的に結合して構成されることは当然というべきである。

(イ) 小括

そうすると,甲4発明の「部分燒結されたアグロメレーション」は,「多孔質焼結体の外面から内部にかけて空孔が連通することによって三次元形状を呈する」ものであることは明らかであるから,本願発明の「多孔質体を予備焼成してネットワーク化することによって得られる多孔質焼結体」と実質的な差異がないというべきである。

ウ 原告の主張に対し

(ア) 甲4文献の記載内容について

a 原告は,甲4文献において,「薄壁形状」は粒子の大きさ程度に薄いもので,粒子1粒の厚さに焼き固めること,体積率に応じた粒径を選択しても,薄壁部分に入り込むことができるほどの薄さのプリフォームを部分燒結してネットワーク化することは実際上困難であると主張する。

しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。

すなわち,甲4文献は,「最小厚さは粒径の関数」とするだけで,強化材の粒径について具体的な数値は記載されていない。そして,甲4文献の「真空ダイキャスト機の型キャビティに,例えば大きな体積率とするために必要な隙間充填を達成できるような寸法分布を有する粒体で作られたアグリゲートプリフォームを装填することで達成される。」(9頁29行~34行〔甲4B,14頁2行~4行〕)との記載のとおり,強化材粒子の粒径については体積率に応じて選択されるものであるから,例示された薄壁部分の肉厚を「粒子の大きさ程度」と限定して解すべき理由はない。さらに,SiCの微粉原料としては,例えば甲22に記載されるように,平均粒径が数μm程度で,甲4文献における薄壁部分の厚さに対して十分小さいものが使用可能であるから,0.762mm(762μm)未満の厚さの薄壁形状を得ることは困難なことではない。粒体の成長は,焼成条件の選択により制御可能であり,また,形成される気孔の大きさは,甲22に「最大10μm程度」,本願明細書に「0.5~50μm」(段落【0021】)とあるように,薄壁部分の厚みよりも十分に小さいものであるから,成長した粒体の大きさを,例えば1mm以下に抑えることが,技術的に非常に困難であるとする理由はない。

b 原告は,甲4文献において,複雑な形状のMMCを製作することが示されたとしても,一般的にSiCからなるプリフォームを複雑な形状に焼成することは実際上困難であるから,プリフォームがマトリックスとして存在することはあり得ないと主張する。

しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。

すなわち,一般的にSiCからなるプリフォームを複雑な形状に焼成することが実際上困難であるとしても,甲4発明において複雑な形状に焼成することができないとする理由は明らかでなく,原告の主張には根拠がない。

c 原告は,甲4発明では,外表面に金属のマトリックスで構成することによりMMCを構成しており,「プリフォーム」が本願発明のようにネットワーク化して存在するものではないと主張する。

しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。

すなわち,甲4文献には,「図1の真空ダイキャスト機は,・・・箱体72の形成を示している。型キャビティよりも僅かに小さい寸法のアグリゲートプリフォームを作ることで,アグリゲートの存在しないマトリックス領域がシールバンドのはんだ結合のために形成される。」(12頁34行~13頁2行〔甲4B,16頁22行~25行〕,判決注:甲4Bに,「マトリックスの存在しないアグリゲート領域」とあるのは,「アグリゲートの存在しないマトリックス領域」の誤記と認める。),「箱体は,蓋をシールバンドにレーザー溶接または低温はんだ付けすることで密閉される。・・・これらの連結法はアグリゲートの存在しないマトリックス材料からなる表面層のダイキャスト時に形成することで容易化され得る。」(13頁30行~14頁9行〔甲4B,17頁18行~19頁1行〕)との記載があり,これらによれば,プリフォーム(アグロメレーション)は,型キャビティよりも僅かに小さいために,その周囲に僅かにアグリゲートの存在しないマトリックスが形成されるのであって,マトリックスの存在しない部分は,はんだ付け等の結合法による他の部品との結合を容易にするものであるから,部分燒結されたアグロメレーションがネットワーク化していないことを示唆する記載とはいえない。

(イ) 甲22,23について

原告は,①甲22に示される焼成温度を1700℃,1800℃,1900℃,2000℃,2100℃とする焼成後のプリフォームの写真によれば,甲4発明と同様の焼成温度(1700℃及び1800℃)では,セラミックスのネットワーク化がほとんど進んでいないから,甲4発明では,溶融金属を浸透した場合に,プリフォームがネットワークを形成せず,バラバラになっている,②甲23に示される,甲4発明と同様の製法により製造されたMMCの写真によれば,セラミックスは溶融金属を流し込んだ際にバラバラになるため,ネットワークが形成されていない,などと主張する。

甲4文献には,「例1~3」及び「例4~6」に関し,「プリフォームはその後約700℃まで空気中で加熱され(すなわちタッキングされ)約1~8時間ほど保持されたプリフォームは溶融金属。」,「を溶浸される前に,1700℃,1750℃および1850℃まで部分燒結され・・・た。」との記載があり,これらによれば,例4~6は,タッキングした後,1700~1850℃で焼成していることが認められる。

一方,甲22には,「甲4Aに記載されたプリフォームの焼成条件と同等の方法を行った」と記載されるが,添付された「試験報告書」によれば,サンプルは,SiCの粉原料を成形した後,そのまま焼成されたものであって,タッキングが行われていないものと解される。

また,甲23には,「金属マトリックス複合材を700℃でタッキングされたプリフォームに対して,溶融金属であるアルミニウムを注入することにより製造した」と記載されるように,タッキングしただけで,1700~1850℃の焼成は行われていないものと解される。

したがって,甲22,23の実験は,いずれも甲4発明と同じ焼成条件でなされたものとはいえない。

(ウ) 甲24,甲25について

原告は,甲24,25にによれば,一般に,MMCにおいては,甲4発明におけるプリフォームに相当する強化材は,ネットワークを構成せずに,バラバラに分散している旨主張する。

甲24の【請求項1】,【0001】,【0017】,【0018】,図2(a),(b)の記載によれば,甲24には,金属からなるマトリックス中にアルミナまたは酸化チタンからなる粒子を分散させた分散強化型複合材料が開示されている。また,甲25の図1には,甲24と同様に,強化材がマトリックス中に均質に分散した複合材料組織が開示されている。

しかし,甲24,25に記載されているような分散強化型複合材料は,強化材をマトリックス中に積極的に分散させたものであって,複合材料の1つのタイプにすぎない(甲8の1,2参照)から,一般に,MMCにおいて,強化材が,ネットワークを構成せずに,バラバラに分散しているということはできない。

(エ) 甲26について

原告は,甲26に示される実験結果は,本願発明では,甲4発明と異なり,多孔質焼結体であるセラミックスがネットワーク化されることにより,多孔質焼結体に含浸された「銅又は銅合金」の熱膨張が抑えられており,また,本願発明において,「銅又は銅合金」に代えて「アルミニウム」を用いても,同様に熱膨張が抑えられていることを意味し,甲4発明と本願発明との構造上の差異を示すものである旨主張する。

甲26には,図1及び図2は,「本願で銅又は銅合金を含浸した場合を●,アルミニウムを含浸した場合を■(表1),甲第4号証のAに係る発明の場合を△」として,グラフ表記されたものである旨記載され,図1及び図2には,「●:本願(Cu含浸実施例1~8)」,「■:本願(Al含浸実施例1~8)」,「△:甲第4号証のA(例4~例6)」と記載されている。

しかし,「■」については,表1に記載された6つの値をプロットしたものであり,SiCの体積率の点で本願明細書に記載された実施例1~8とは異なるものである。また,甲26には,「1.2003年8月にSiCに対してアルミニウムを含浸させて製造した半導体ヒートシンク用複合材料について測定したSiCの体積率と熱膨張率,熱伝導率と熱膨張率の関係について報告する。」と記載されるが,焼成温度等の具体的な製造条件が明らかでなく,アルミニウムを含浸させる「SiC」として,本願発明の「予備焼成してネットワーク化することによって得られる多孔質焼結体」が使用されたのか明らかではない。したがって,「■」は,本願明細書に記載された実施例1~8において,単に銅に代えてアルミニウムを含浸したものであるとは認められない。

そうすると,甲26の図1及び図2において,銅を含浸したもの(●)とアルミニウムを含浸したもの(■)の熱膨張率が,ほぼ同じという関係が示されているとしても,それが本願発明の特定事項Aに係る構成に由来するものであるということはできないし,本願発明(●)と甲4発明(△)との間で熱膨張率に差があるとしても,甲4発明と本願発明との構造上の差異を示すものということもできない。

なお,アルミニウムの熱膨張率(熱膨張係数)が銅のそれに比べて大きいこと(乙1,2参照。)を考慮すれば,甲26において,アルミニウムを含浸させた甲4発明が,銅を含浸させた本願発明よりも大きい熱膨張率を示したとしても,その点に矛盾があるとはいえない。

したがって,甲26に基づく原告の主張は採用することができない。

エ 特定事項Aに関する判断

以上のとおり,特定事項Aと甲4発明の対比について審決の認定判断に誤りはなく,この点に関する原告の主張は理由がない。

(2)  特定事項Bについて

原告は,甲4発明は,強化材であるアグロメレーションがプリフォームの状態になったものに,液相金属を浸透させ,金属をマトリックスとするMMCとするものであるのに対し,本願発明は,「ネットワーク化することによって得られる多孔質焼結体」に,銅又は銅合金を含浸させて,セラミックスである多孔質焼結体を母材とするCMCとするものであり,プリフォーム状の強化材に対して金属を「浸透」させるものではないから,本願発明の特定事項Bと甲4発明の「液相金属を溶浸」が対応し,相違点1において相違するとした審決の認定判断には誤りがあると主張する。

しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。

ア 本願発明は,CMCに限定されておらず,その母材(マトリックス)において,甲4発明と異なるとはいえない上,甲4発明の「部分燒結されたアグロメレーション」は,本願発明の「多孔質体を予備焼成してネットワーク化することによって得られる多孔質焼結体」と実質的な差異がないことは,前記(1)のとおりであるから,甲4発明の「部分燒結されたアグロメレーション」に「金属を浸透させる」ことは,「ネットワーク化することによって得られる多孔質焼結体」に「金属を含浸させる」ことと同義というべきであり,原告の主張は理由がない。

イ なお,甲4文献の「本発明の好ましい実施例はアルミニウム合金地材を有するMMCを形成するのが特に有利であると上述で説明したが,当業者には本発明が他の金属で金属地複合材を形成するのも有利であることが明白となろう。本発明にて使用されるのが適当な金属はアルミニウムおよびアルミニウム合金に限られない。銅,銀および金,およびそれらの合金のような他の金属で形成されたMMCも本発明による利益を得る。」(21頁13行~22行〔甲4B,23頁25行~24頁4行〕)の記載によれば,含浸金属として銅又は銅合金が例示されているから,本願発明が含浸金属として銅又は銅合金を用いた点は,甲4発明に基づいて,当業者が適宜なし得る事項であると認められる。

ウ 以上のとおり,特定事項Bと甲4発明の対比について審決の認定判断に誤りがあるという原告の主張は,採用することができない。

(3)  特定事項Cについて

ア 原告は,審決が,本願発明と甲4発明の熱膨張率が一致するという根拠を何ら示していない旨主張する。

しかし,審決は,本願明細書の記載と甲4文献の記載に基づき,両発明の熱膨張率が一致するとしたものであって,その判断は,以下のとおり合理性がある。

(ア) 本願明細書(甲1,2,3)には,熱膨張率について,次の記載がある。

「【0016】【課題を解決するための手段】まず,ヒートシンク材として最適な特性について説明すると,必要な熱膨張率としては,AlN等のセラミック基板やSi及びGaAs等の半導体基板の熱膨張率と合わせる必要から,室温から200℃までの平均熱膨張率として4.0×10-6/℃~9.0×10-6/℃の範囲が好適であり,必要な熱伝導率としては,現有のCu-W材と同等以上の要求を満たす必要から,180W/mK(室温)以上が好適である。

【0017】前記特性を得るために,本発明に係る半導体ヒートシンク用複合材料は,銅の熱膨張率よりも低い熱膨張率をもつ多孔質体を予備焼成してネットワーク化することによって得られる多孔質焼結体に銅又は銅合金を含浸させて構成し,少なくとも200℃における熱膨張率が,前記銅又は銅合金と前記多孔質焼結体との比率から化学量論的に得られる熱膨張率よりも低い特性を有するようにする。

【0018】これにより,多孔質焼結体と該多孔質焼結体に含浸される銅又は銅合金の比率によって決定される熱膨張(理論値)よりも低い値に膨張を抑えることができ,セラミック基板や半導体基板(シリコン,GaAs)等と熱膨張率がほぼ一致し,熱伝導性のよいヒートシンク材を得ることができる。

【0019】具体的には,室温から200℃までの平均熱膨張率が4.0×10-6/℃~9.0×10-6/℃で,かつ熱伝導率が180W/mK(室温)以上であるヒートシンク材を得ることができる。」

(イ) 甲4文献には,熱膨張率について,以下の記載がある。

「この製造方法は,セラミック材料および半導体材料の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有するとともに高い熱伝導率を有する金属マトリックス複合材の製作に関する。」(1頁5行~9行〔甲4B,6頁7行~9行〕)

「約10%のけい素を含有するアルミニウム合金が浸透金属の基本として選択された。アルミニウムおよびその合金は本願に適した熱伝導率を有している。

例1~例3

SiCの装填レベルとして55体積%,65体積%および75体積%が評価された。これらの例に使用されたSiCは米国ニュー・ジャージー州フェアロウンに所在するロンザ・インコーポレーテッド社で製造された。55体積%,65体積%および75体積%のけい素粒体を含有するグリーンプリフォームは米国ジョージア州アルファレッタに所在するテクニカル・セラミック・ラボラトリー・インコーポレーテッド社から入手された。55体積%,65体積%および75体積%の炭化けい素粒体を含有するプリフォームは,まず最初に約500℃(250℃/時間)まで加熱され,約1時間にわたって保持されてプリフォームに亀裂を発生することなく有機結合剤を燃焼させた。加熱割合はプリフォームの寸法形状ならびに炉の形式に応じて変化され得ることに留意されたい。プリフォームはその後約700℃まで空気中で加熱され(すなわちタッキングされ)約1~8時間ほど保持された。プリフォームは黒鉛モールド型内に配置され,それらが炉温度にまで達するのに十分な時間にわたって別の電気抵抗炉内で約700℃に保持された。その間,充填される溶融金属が準備された。マトリックスに対して溶融金属はAl-10%Siの組成を有して準備され,約700℃に保持された。溶融金属の化学組成がチェックされた。型および充填室は浄化され,潤滑が施されそして約250℃に予熱された。部分燒結されたプリフォームおよび黒鉛型が型キャビティ内部に配置され,型が閉じられて施錠された。その後,必要となる量の溶融金属が充填室に注入された。型キャビティはその後真空引きされて,型およびプリフォームの内部に存在する空気を排除された。真空引きが完了した際に,溶融金属が型キャビティへ導入され,加圧されてモールド型内のSiCの内部に浸透された。溶融金属が凝固した後,この組立体はモールド型から取出された。作られた製品が試験され,その製品は応用例における要求条件に合致しているかを判定された。製品は十分に大きな熱伝導率と,エレクトロニックパッケージの作製または製造に典型的に使用される材料の熱膨張係数に近いまたは合致する熱膨張係数とを示した。製品の全Al/SiC境界面積もまた測定されて,熱伝導率と複合材の境界面の影響との間の関係が査定された。境界面の影響は,SiCのようなアグリゲート(すなわち強化材)が本来的に大きな熱伝導率を有するばあいに特に重要となる。」(15頁35行~17頁13行〔甲4B,19頁17行~20頁24行〕)

「例4~例6

65体積%の炭化けい素粒体を含有するプリフォームが例1~例3のプリフォームと同様に処理された。例1~例3に基づいて65体積%のアグリゲートが選ばれ,熱伝導率と熱膨張係数の非常に良好な組合せを有する材料が得られた。プリフォームは溶融金属を浸透される前に,1700℃,1750℃および1850℃まで部分燒結され,プリフォームの部分燒結温度がMMC材料の熱伝導率および熱膨張係数の値に及ぼす影響を測定するようになされた。すべては非常に速い加熱速度で実験され,所望温度に約30分間ほど保持された。再び述べるが,結果として得られた製品が試験され,その製品が応用実験に合致するかを査定した。製品は十分に高い熱伝導率および適当な熱膨張係数を示した。表2に示し,図7にプロットしたように,この結果は浸透前のプリフォームの部分燒結が得られた複合体の熱伝導率に及ぼす劇的な影響を示している。驚くべきことに,浸透前のプリフォームの部分燒結は,例4~例6に示されるように,例1~例3に示したようにタッキングしただけのプリフォームよりも格段に高い熱伝導率を有するMMCを形成した。例2のプリフォームは,SiCが65体積%で700℃までタッキングされたもので,163w/m・kの熱伝導率を有する複合材を形成しているのに対し,例4~例6の部分燒結プリフォームは1185w/m・kを超えた熱伝導率を有する複合材を形成しており,これはタッキングしたプリフォームより18%以上の増大を見せている(19頁7行~20頁4行〔甲4B,。」,21頁下から5行~22頁15行〕)

表2には,例4~6の熱膨張係数が,それぞれ8.45ppm/k,8.7ppm/k,8.4ppm/kであったことが記載されている。

(ウ) 本願明細書の前記(ア)の記載によれば,本願発明は,「AlN等のセラミック基板やSi及びGaAs等の半導体基板の熱膨張率と合わせる」ことを目的とするものであり,他方,甲4文献の上記(イ)の記載によれば,甲4発明も,「セラミック材料および半導体材料の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有する」ことを目的としているから,両発明は,熱膨張率(熱膨張係数)を設定する目的において,実質的な差異はない。

また,本願明細書には,本願発明の特定事項C(熱膨張率)について,具体的には,「室温から200℃までの平均熱膨張率として4.0×10-6/℃~9.0×10-6/℃」(段落【0016】,【0019】)が例示されている一方,甲4文献には,65体積%の炭化けい素(SiC)粒体を含有するプリフォームを部分燒結したものに,約10%のけい素1を含有するアルミニウム合金(Al-10%Si)からなる溶融金属を溶浸することにより複合材を製造し,その複合材について測定された熱膨張係数として,8.4ppm/k,8.45ppm/k,8.7ppm/k(「ppm/k」は「×10-6/℃」に相当。)の各数値が記載されている。甲4文献の上記数値は,「銅又は銅合金」を含浸した複合材料において測定されたものではないが,甲4文献に,前記(2)イのとおり,含浸金属として銅又は銅合金が例示されていること,銅の熱膨張係数がアルミニウムのそれよりも小さいこと(乙1,2参照。)を考慮すれば,甲4発明において,含浸金属を銅とした場合の熱膨張係数は,甲4文献の表2に示された数値よりも小さくなると理解するのが合理的であり,少なくとも表2の数値を超えることはないものと推認される。

そうすると,甲4発明において,「銅又は銅合金」を含浸させた場合の熱膨張係数は,特定事項Cの「4.0×10-6/℃~9.0×10-6/℃」の範囲に含まれるものと考えられ,特定事項Cと甲4発明の「良好な熱膨張係数」との間に,実質的な差異はないというべきである。

イ 原告は,甲4文献には,MMCを単に半導体ヒートシンク用の複合材料に用いることができることしか記載されておらず,具体的に熱膨張率の測定の際の基準温度(200℃)について何ら言及していない旨主張する。

しかし,甲4文献の図4には半導体ヒートシンク用複合材料として用いたものが図示されており,甲4発明は,半導体ヒートシンク用複合材料として用いるものであること(原告もこの点を争うものではない。)を考慮すれば,半導体ヒートシンクの使用温度における熱膨張率が重要であることは明らかである。そうすると,甲4文献に記載された熱膨張係数についても,本願発明の基準温度と同程度と解するのが相当である。

ウ 以上のとおり,特定事項Cと甲4発明の対比について審決の認定判断に誤りはなく,この点に関する原告の主張は理由がない。

(4)  特定事項D(相違点2の認定判断)について

ア 原告は,審決は,本願発明がCMCに関するものであるのに対し,甲4発明がMMCに関するものであるという明確な相違があることを看過し,両発明が多孔質体に含浸させる点において共通することのみに着目してなされたものであり,具体的な根拠を欠く旨主張する。

しかし,本願発明は,CMCに限定されておらず,その母材(マトリックス)において,甲4発明と異なるとはいえない上,甲4発明の「部分燒結されたアグロメレーション」は,本願発明の「多孔質体を予備焼成してネットワーク化することによって得られる多孔質焼結体」と実質的な差異がないことは,前記(1)のとおりであるから,原告の上記主張は理由がない。

イ 原告は,甲4文献は,上記反応層の厚さについて,何ら開示ないし示唆しておらず,むしろ,甲4文献が採用するダイキャスト法では,溶融金属を本願発明と同じ銅(Cu)とした場合,当該溶融金属とプリフォーム(SiC)間に,短時間で5μmを超える反応層が形成されることが通常である旨主張する。

しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。

(ア) 本願明細書には,特定事項D(「反応層の厚みが5μm以下であること」)に関し,次の記載がある。

「【0025】また,前記多孔質焼結体と前記銅(銅のみ若しくは銅に1%までの範囲でBe,Be(判決注,誤記と認められる。),Al,Si,Mg,Ti,Ni等が含まれたもの)との界面に形成される該銅との反応層の膜厚としては,5μm以下であることが望ましく,1μm以下が更に好ましい。反応層が5μmよりも厚くなると,多孔質焼結体と銅の間の熱伝達が悪化し,半導体ヒートシンク用複合材料の熱伝導が低下するからである。

【0026】次に,本発明に係る半導体ヒートシンク用複合材料の製造方法は,基材となる多孔質焼結体と,少なくとも銅を含む金属を,互いに接触させない状態で加熱し,所定温度に達した段階で両者を接触させて直ちに高圧力を付与して,前記金属を前記多孔質焼結体中に含浸させる含浸工程と,少なくとも前記金属が含浸された前記多孔質焼結体を冷却する冷却工程とを有する。

【0027】例えば基材となる多孔質焼結体と,これに含浸させようとする銅又は銅合金を互いに接触させないまま加熱する。両者が銅又は銅合金の融点以上に達した段階で,両者を接触させて直ちに高い圧力をかけて,前記銅又は銅合金を多孔質焼結体中に含浸させ,その後速やかに冷却させる。」

「【0045】また,多孔質焼結体と銅又は銅合金は溶融状態において反応が生じ,多孔質焼結体として例えばSiCを用いた場合においては,該SiCがSiとCに分解されて本来の機能が発揮されなくなる。このため,SiCとCuとが溶融状態で直接接触する時間を短縮することが必要である。本発明に係る製造方法(請求項14,請求項15又は請求項20に記載の製造方法)によれば,SiCとCuとの接触時間を短くすることができるため,前記のようなSiCの分解反応を事前に回避することができる」。

本願明細書の上記記載によれば,反応層の厚みを「5μm以下」に限定したのは,反応層の形成による熱伝達率の低下を防止するためであること,また,「銅又は銅合金を多孔質焼結体中に含浸させ,その後速やかに冷却させる」手段を用いるのは,反応層の厚みを5μm以下とするためであることが明らかである。

(イ) 甲4文献には,次の記載がある。

「加熱手段が充填室および型の内部に備えられて,強化アグリゲートが完全に浸透するまでは溶融金属が凝固しないことを補償するようになされる。浸透の完了に続いて,マトリックスの所望の金属学的特性を得るために,また溶融金属がアグリゲートと反応したりアグリゲートが溶解するというような傾向を示すばあいに,これを防止するために,急速凝固するのが有利である。凝固収縮を少なくとも可能なレベルで発生させるために,凝固が方向性を有し,先端部から溶融金属の供給源へ向かって進行されることも望ましい。これらの要求は,完全な溶浸を得た後に急速且つ望ましい方向性のある凝固を達成するために,温度状態のバランスをとり,または時機にあった制御を必要とする。界面結合を改善するには,融解マトリックスとアグリゲート間の若干の相互作用を許容するのが有効であり,凝固させる速さには制限があってもよい。しかしながら,本発明の真空圧補助による圧力ダイキャスト工程の特定の利点は,溶融金属とアグリゲートすなわち強化材との間の潜在的な有害反応を最少限にし,または排除する急速な浸透および凝固の組合せを可能にさせることである(8。」頁36行~9頁23行〔甲4B,13頁11行~24行〕)

上記記載によれば,甲4文献には,「溶融金属がアグリゲートと反応したりアグリゲートが溶解する」ことを防止し,「溶融金属とアグリゲートすなわち強化材との間の潜在的な有害反応を最小限に」することが記載され,そのために,溶融金属を強化材に急速に浸透し凝固させる手段を用いることが記載されている。

(ウ) 上記(ア)及び(イ)によれば,甲4文献の「有害反応」は,本願発明における「反応層の形成」に相当することが認められる。そうすると,甲4文献には,有害反応により生じる反応層の厚みを最小限にする技術的思想が開示され,最小限にするための手段として溶融金属の急速に浸透させ冷却させることが記載されているから,甲4発明における反応層の厚みは,本願発明の「5μm以下」の範囲と格別に相違しないというべきであり,当業者であれば適宜なし得る設計事項であると認められる。

したがって,特定事項Dについて,審決が,甲4発明においても,「同等の反応層の厚みが達成されている」と判断した点に誤りはないというべきである。

(エ) また,原告は,甲13を根拠として,甲4発明で採用されるダイキャスト法においては5μmを超える反応層が形成されるのが通常であると主張する。

しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。

甲13は,甲13添付の文献2に記載された反応層の形成速度(20μm/3秒,80μm/10秒)に,甲13添付の文献3~5に記載されたダイキャスト法における溶融金属の凝固時間(チルタイム又はキュアリング)の最小値(7秒)を乗じて,甲4発明における反応層の厚みを推定したものであるが,以下のとおり,甲13に基づく原告の主張は採用することができない。

甲4文献の前記イ(イ)の記載によれば,甲4発明は,いわゆる「真空ダイカスト法」を用いて,溶融金属の急速な浸透(溶浸)と凝固を可能にするものということができる。これに対し,甲13添付の文献3~5に記載された鋳造手段は真空ダイカスト法のような特,「」殊なものではなく,一般的なダイカスト法であり,甲4発明と同等な冷却凝固作用をもたらすのか明らかではない。そうすると,甲13添付の文献3~5に示された溶融金属の凝固時間を,甲4発明のダイカスト法に直ちに適用できるとはいえない。

甲13添付の文献2のFig3-3は,溶融した銅を,1498K(1225℃に相当し,銅の融点(1083℃,乙1及び乙2参照。)を超える。)の一定温度に保持したSiCに接触させたときの界面組織を示すものであるところ,甲13添付の文献3~5に開示された凝固時間は,型内への溶融金属の充填を終了してから型開きを開始するまでの時間に相当し,その間は,溶融金属の温度が低下することに加え,凝固後の時間も含まれると考えられるから,甲13添付の文献2の保持時間と甲13添付の文献3~5の凝固時間とは,同等なものとはいえない。

なお,甲13添付の文献1には,「SiCと溶融Cuが接触するとごく短時間で被覆が起こり,温度の上昇とともに被覆開始時間が早くなった。」との記載があるにとどまり,甲4発明における反応層の厚みを推定するに足りるものではない。

そうすると,甲13に基づいて,甲4発明における反応層の厚みを推定することはできない。

ウ 以上のとおり,審決における相違点2の認定判断に誤りがあるという原告の主張は,採用することができない。

(5)  よって,審決は,本願発明と甲4発明との対比に当たり,認定判断を誤ったものということはできず,原告主張の取消事由1は理由がない。

2  その他の取消事由について

(1)  甲5文献を引用した誤りについて

原告は,審決が甲5文献を引用した点に違法がある旨主張する。

ア 審決の記載等

(ア) 審決には,「2.引用文献」の項に,「原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第96/41030号パンフレット(上記国際公開の対応特許である特表平11-506806号公報を以下,「引用文献1」という。)には,次の事項が記載されている」(審決書2頁8行~10行)との記載がある。また,審決の「3.対比」の項には,「本願発明と引用文献1の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下,「引用発明」という。)とを対比する」(審決書6頁22行~23行)との記載がある。さらに,審決の「4.判断」の項には,「本願発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」(審決書11頁34行~35行)との記載がある。

(イ) 甲4文献と甲5文献との関係を見ると,証拠(甲4A〔甲4Bはその訳文である。〕),甲5)及び弁論の全趣旨によれば,甲4文献は国際出願番号PCT/US96/09082号の国際特許出願の明細書,特許請求の範囲及び図面の原文(英文)を掲載した刊行物であり,甲5文献は上記国際特許出願の明細書,特許請求の範囲及び図面の翻訳文(和文,上記国際特許出願の出願人の作成に係るもの)を掲載した刊行物であることが認められる。

イ 判断

(ア) 審決の前記ア(ア)の記載によれば,審決は,引用文献として,原査定が引用した国際公開第96/41030号パンフレット,すなわち甲4文献を摘示したものであり,また,上記イのとおり,甲5文献は,甲4文献の記載内容をその作成者である国際出願番号PCT/US96/09082号の国際特許出願の出願人自身が和訳したものであるから,審決は,甲4文献の翻訳文とする趣旨で,甲5文献を「対応特許である」と摘示したものと理解することができる。

審決は,前記ア(ア)の記載において,甲5文献を「引用文献1」と略称している点に照らすならば,形式的には,甲5発明を本願発明と対比して結論を導いたと理解することができる。しかし,審決が,甲5文献を引用文献とする趣旨であれば,甲4文献に言及する理由はないこと,引用文献として甲4文献を摘示していることに照らすならば,審決は,甲甲5文献について,甲4文献の翻訳文との趣旨で掲記したものと理解することができる。したがって,審決書の全体から判断すれば,甲5文献そのものを引用する趣旨でないことは明白である(もっとも,審決書において,甲5文献を甲4文献(英文)の翻訳文として用いることを明記するとともに,両者の対応関係を明らかにするため,甲5文献のみでなく,甲4文献の該当箇所(頁・行等)をも摘記すべきであり,「引用発明」との略語を甲4発明を指すものとして使用すべきである点はいうまでもない。)。

(イ) 原告は,甲5文献の記載には,誤訳や翻訳漏れ等,甲4文献の記載と明らかに一致しない箇所が多数あり,両文献の記載内容に実質的差異がないとはいえない旨主張する。しかし,原告の指摘に係る両文献の記載内容の相違は,審決が本願発明と甲4発明とを対比してした認定判断の当否を検討するに当たり考慮すべき要素となり得るにとどまり,審決における引用文献が甲4文献か甲5文献かの判断を左右するものとはいえない。

(ウ) 以上によれば,審決が甲5文献を引用したとの原告主張は理由がない。

(2)  判断遺脱について

原告は,審決が,請求項1についてのみ判断し,他の請求項について判断することなく,本願全体を拒絶すべきものとしたから,請求項1以外の請求項に係る発明の特許性について判断を遺脱した違法がある旨主張する。

しかし,特許法49条柱書きが「審査官は,特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは,その特許出願について拒絶すべき旨の査定をしなければならない。」と規定し,同法51条が「特許出願について拒絶の理由を発見しないときは,特許をすべき旨の査定をしなければならない。」と規定していることによれば,特許法は,一つの特許出願について,拒絶査定か特許査定かのいずれかの行政処分をなすべきことを規定しているものであって,特許出願が複数の請求項に係る発明を対象とするものであっても,一つの請求項に係る発明につき同法49条の規定により特許を受けることができないときは,その特許出願全体として拒絶すべき旨の査定をしなければならないと解するのが相当である。このことは,特許法123条1項本文が,特許査定後の特許無効の審判について,「2以上の請求項に係るものについては,請求項ごとに請求することができる。」と明文で規定し,特許査定という行政処分をした後には,各請求項ごとに無効審判請求をすることができることを明記しているのに対し,前記49条及び51条においては,これと対照的に「特許出願について」拒絶査定ないし特許査定をすることを明記していることからも明らかというべきである(東京高等裁判所平成14年1月31日判決・平成12年(行ケ)第385号審決取消請求事件参照)。

そして,拒絶査定不服審判における審理の対象は,拒絶査定がされた当該特許出願を特許すべきか否かという点にあり,拒絶査定不服審判においても審査における手続の効力を有すること(特許法158条)に鑑みると,拒絶査定不服審判においても,拒絶査定に関する同法49条の規定は当然に適用されるものと解すべきである(知的財産高等裁判所平成19年4月25日判決・平成18年(行ケ)第10335号審決取消請求事件参照)。

本件においては,前記1で判示したとおり,本願発明(請求項1)は,特許法29条2項により特許を受けることができない発明であるから,本願は同法49条2号にいう「その特許出願に係る発明が・・・第二十九条・・・の規定により特許をすることができないものであるとき」に該当するというべきである。したがって,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願を全体として拒絶すべき旨の査定をしなければならないのであるから,審決が,請求項1以外の請求項について判断を示すことなく「本件審判の請求は,成り立たない。」と判断した点に判断遺脱の違法はない。

なお,原告は,特許庁への納付手数料が請求項の数に応じたものとなっている旨主張するが,このことは,特許がされる場合にすべての請求項について審理・判断がされることに対応するものにすぎず,一つの請求項に係る発明につき特許法49条の規定により特許を受けることができないときは,その特許出願全体として拒絶すべき旨の査定をしなければならないことを左右するものということはできない。原告の主張は,採用することができない。

よって,判断遺脱との原告主張は理由がない。

3  結論

その他,原告は縷々主張するがいずれも理由がない。以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決に,これを取り消すべき誤りは認められない。

したがって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 大鷹一郎 裁判官 嶋末和秀)

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