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知財高等裁判所 平成18年(行ケ)10203号 判決 2007年2月27日

原告

株式会社ジェネス

訴訟代理人弁護士

熊倉禎男

田中伸一郎

小和田敦子

訴訟代理人弁理士

弟子丸健

倉澤伊知郎

被告

株式会社デンソーウェーブ

訴訟代理人弁理士

森下賢樹

青木武司

主文

特許庁が無効2005-80099号事件について平成18年3月22日にした審決のうち,特許第3207192号の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とした部分を取り消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを3分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第1原告の求めた裁判

「特許庁が無効2005-80099号事件について平成18年3月22日にした審決を取り消す。」との判決。

第2事案の概要

本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,被告の無効審判請求を受けた特許庁により,本件特許を無効とする旨の審決がなされたため,同審決の取消しを求めた事案である。

1  特許庁における手続の経緯

(1)  本件特許(甲第6号証)

特許権者:株式会社ジェネス(原告)

発明の名称:「認証方法および装置」

特許出願日:平成12年5月2日(特願2000-133741号)

設定登録日:平成13年7月6日

特許番号:特許第3207192号

(2)  本件手続

審判請求日:平成17年3月31日(無効2005-80099号)

訂正請求日:平成17年12月16日(甲第8号証,以下「本件訂正請求」という。)

審決日:平成18年3月22日

審決の結論:「訂正を認める。特許第3207192号の請求項1ないし7に係る発明についての特許を無効とする。」

審決謄本送達日:平成18年4月3日(原告に対し)

2  本願発明の要旨

審決が対象とした発明(本件訂正請求後の請求項1~7に記載された発明であり,以下,請求項の番号に対応して「本件発明1」などという。なお,請求項の数は訂正後7個となった。)の要旨は,以下のとおりである。

「【請求項1】

携帯電話に表示されるバーコードを使用した認証方法であって,

認証装置が,認証要求者の顧客である被認証者の発信者番号を含むバーコード要求信号を被認証者の携帯電話から通信回線を通じて受信するステップと,

前記認証装置が,前記被認証者の顧客データが顧客データベースに記録されているか否かを判定するステップと,

前記認証装置が,前記被認証者の顧客データが前記顧客データベースに記録されていたときに,前記被認証者に固有のバーコードを生成するステップと,

前記認証装置が,該バーコードを前記被認証者の発信者番号の携帯電話に通信回線を通じて送信すると共に,該バーコードをバーコードデータベースに記憶させるステップと,

前記認証装置が,被認証者によって携帯電話に表示されて提示され,且つ認証を求める認証要求者のバーコード読み取り装置で読み取られて認証を求める認証要求者から通信回線を通じて送信されてきたバーコードを受信するステップと,

前記認証装置が,該受信したバーコードが,前記バーコードデータベースに記録されているバーコードと一致するか否かを判定するステップと,

前記認証装置が,受信したバーコードが前記バーコードデータベースに記憶されていたときに,当該バーコードを携帯電話により提示した被認証者を認証する旨の信号を前記認証要求者に通信回線を通じて送信するステップと,を備えている,

認証方法。

【請求項2】

前記発信者番号が,被認証者の携帯電話番号である,

請求項1に記載の認証方法。

【請求項3】

認証要求者の顧客である被認証者に付与されると共に記憶される前記被認証者に固有の認証用バーコードであって,前記被認証者が携帯電話に表示することによって前記認証要求者に提示され,前記提示された認証用バーコードが記憶されていたとき前記被認証者が認証される,携帯電話に表示される認証用バーコードを被認証者に付与するバーコード付与方法であって,

認証装置が,前記被認証者の発信者番号を含むバーコード要求信号を,被認証者の携帯電話から通信回線を通して受信するステップと,

前記認証装置が,前記被認証者の顧客データが顧客データベースに記録されているか否かを判定するステップと,

前記認証装置が,前記被認証者の顧客データが前記顧客データベースに記録されていたときに前記被認証者に固有のバーコードを生成するステップと,

前記認証装置が,該バーコードを前記被認証者の携帯電話に通信回線を通して送信すると共に,該バーコードをバーコードデータベースに記憶するステップと,を備えている,

バーコード付与方法。

【請求項4】

前記発信者番号が,被認証者の携帯電話番号である,

請求項3に記載のバーコード付与方法。

【請求項5】

認証要求者の顧客である被認証者に付与されると共に記憶される前記被認証者に固有の認証用バーコードであって,前記付与された認証用バーコードを前記被認証者が携帯電話に表示することによって前記認証要求者に提示され,前記提示された認証用バーコードが記憶されていたときには前記被認証者が認証される携帯電話に表示される認証用バーコードを,通信回線を利用して被認証者に付与するバーコード付与方法であって,

認証装置が,前記被認証者の携帯電話からのバーコード要求信号を通信回線を通して受信するステップと,

前記認証装置が,前記被認証者の顧客データが所定の顧客データベースに記録されているか否かを判定するステップと,

前記認証装置が,前記被認証者の顧客データが前記顧客データベースに記録されていたときには前記被認証者に固有のバーコードを生成するステップと,

前記認証装置が,前記バーコードを,前記被認証者の携帯電話に通信回線を通じて送ると共に,バーコードデータベースに記録するステップとを有する,バーコード付与方法。

【請求項6】

携帯電話に表示されるバーコードを使用した認証装置であって,

認証要求者の顧客である被認証者の発信者番号を含むバーコード要求信号を被認証者の携帯電話から通信回線を通して受信する受信装置と,

所定の個人データが記録されたデータベースと,

前記被認証者の個人データが前記顧客データベースに記録されているか否かを判定し,前記被認証者の個人データが前記顧客データベースに記録されていたときに前記被認証者に固有のバーコードを生成するバーコード生成手段と,

バーコード生成手段が生成したバーコードを記録するバーコードデータベースと,

該バーコードを前記被認証者に通信回線を通して送信すると共に,該バーコードを前記バーコードデータベースに記憶させるバーコード伝送手段と,

前記被認証者によって提示され認証要求者のバーコードリーダーで読み取られ認証要求者から認証を求めて通信回線を通して送信されてきたバーコードを受信し,受信したバーコードが,前記バーコードデータベースに記憶されているバーコードと一致するか否かを判定し,受信したバーコードが,前記バーコードデータベースに記憶されていたとき,当該バーコードを提示した被認証者を認証する旨の信号を前記認証要求者に通信回線を通して送信するバーコード照合手段と,

を備えている認証装置。

【請求項7】

携帯電話に表示されるバーコードを使用した認証方法であって,

認証装置が,認証要求者の顧客である被認証者によって携帯電話に表示されて提示され,且つ認証を求める認証要求者のバーコード読取り装置で読み取られて認証を求める認証要求者から通信回線を通して送信されてきた前記被認証者に固有のバーコードを受信するステップと,

前記認証装置が,該受信したバーコードが,前記被認証者からのバーコードの付与の要求に応じて被認証者に対して通信回線を通して送信され且つバーコードデータベースに記憶されたバーコードと,一致するか否かを判定するステップと,

前記認証装置が,受信したバーコードが前記バーコードデータベースに記憶されていたときに,当該バーコードを提示した被認証者を認証する旨の信号を前記認証要求者に通信回線を通して送信するステップと,

を備えている認証方法。」

3  審決の理由の要点

審決は,本件訂正請求を認めるとした上,①本件発明7は,下記甲第1,第2号証に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件発明7に係る特許は,特許法29条2項に違反してなされたものであって,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものであり,②本件発明1は,下記甲第2~第4号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり,また,本件発明2~7は,本件発明1の発明特定事項の一部を発明特定事項とするものであって,本件発明1と同様の理由により容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1~7に係る特許は,特許法29条2項に違反してなされたものであり,同法123条1項2号に該当して,無効とすべきものであるとした(甲第1~第4号証は,審決及び本訴に共通した証拠番号である。)。

甲第1号証 特開平10-69553号公報

甲第2号証「日経ビジネス」2000年(平成12年)4月24日号所収の「特集『ケータイ』日本の世紀」(28~40頁)と題する記事

甲第3号証 特開2000-10927号公報

甲第4号証 特開平10-13695号公報

審決の理由中,①本件発明7が,甲第1,第2号証に基づいて容易に発明をすることができたとする部分(以下「審決判断1」という。),及び,②本件発明1~7が,甲第2~第4号証に基づいて容易に発明をすることができたとする部分(以下「審決判断2」という。)は,以下のとおりである。

(1)  審決判断1について

ア 甲第1号証の記載事項の認定

「甲第1号証には,以下の事項が図面と共に記載されている。

(ア)『【0075】

図1には,本発明に係る発券システムの概念的な構成を示す図である。

【0076】

パーソナルコンピュータ(以下,PCという),インターネット接続用端末,インターネットテレビ,ネットPC等を利用したユーザ装置2と,券を発行する券発行装置を備える発券センタ102とは,通信回線により接続されている。』

(イ)『【0079】

券の購入者である,いわゆるユーザーは,ユーザー装置2を使用して,所望の券の発券要求情報を,発券センタ102の券発行装置に対して送信する。これにより,発券センタ102の券発行装置では,ユーザーの発券要求情報に応じたデータを検索する。そして,券発行装置は,所望のデータを検索したならば,そのデータを券情報としてユーザー装置に送信する。このとき,券情報と共に,その券に対応するユーザーコード情報も送信する。また,発券センタ102からは,具体的には後述するように,ユーザーに対して券情報に応じた金額を課金する。』

(ウ)『【0082】

券使用場所104では,券使用装置に接続される複数の情報読み取り装置106を備えている。例えば,券情報及びユーザーコード情報の少なくとも一方がバーコード情報として印刷されているならば,情報読み取り装置106としてはバーコードリーダー装置を用いることが可能である。券使用場所104では,情報読み取り装置106により,紙に印刷された券情報及びユーザーコード情報の少なくとも一方を読み取って,その券110が有効であるか否かを判別する。これにより,ユーザーが持参した券110が有効であると判別されるならば,ユーザーは,その券110を真の券として使用することができる。

【0083】

もちろん,券使用場所104では,ユーザーが券情報またはユーザーコード情報を記憶していたり,またはそれらが印刷してある部分を確認しながら,キーボード,マウス,操作パネル等の入力機器を使用して,券使用装置3へ券情報またはユーザーコード情報を入力するようにしてもよい。さらに,この入力機器の利用と前述のスキャナ装置,バーコードリーダー装置等を組み合わせて利用する形態であってもよい。また,券情報またはユーザーコード情報が携帯型記録媒体に記録された情報である場合は,その媒体に記憶された情報を取り出すための媒体ドライブ装置等の情報読み取り装置,またはそれが小型電子機器であれば接続ケーブル,光もしくは無線通信機器等を用いることが可能であるとともに,前述の幾つかの読み取り装置と組み合わせて利用する形態であってもよい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【0085】

また,発券センタ102の券発行装置からユーザー装置2に送信される券情報は,紙に印刷する他に,フロッピーディスク,メモリカード,ICカード等の携帯可能な携帯型記録媒体に記録することも可能である。尚,詳細には後述するユーザーコード情報を券情報と共に印刷又は記録したり,ユーザーコード情報のみを印刷又は記録したりしてもよい。

【0086】

このときには,使用場所104の券使用装置として,ユーザーが持参する携帯型記録媒体の情報を読み出すことが可能なコンピュータ装置等を備え,この携帯型記録媒体に記録された券情報及びユーザーコード情報を読み出すようにする。』

(エ)『【0094】

ここで,データ処理部11の概略的な構成を図3に示す。

【0095】

このデータ処理部11は,モデム12により受信した情報を判別する情報判別部200と,モデム12により受信した情報が,情報判別部200により発券要求情報であると判別されたときに,前記発券要求情報に応じた券情報を検索する券情報検索部204と,券情報検索部204により検索された前記券情報に対応するユーザーコード情報を作成するユーザーコード情報作成部206とを備え,モデム12により前記券情報検索部204から出力される券情報及び前記ユーザーコード情報作成部206から出力されるユーザーコード情報をユーザー装置2に送信する。

【0096】

券情報検索部204には,発行するための複数種類の券情報を記憶する券情報記憶部205が接続され,また,ユーザーコード情報作成部206には,複数のユーザーのユーザー情報を記憶するユーザー情報記憶部207が接続される。ユーザー情報は,ユーザーの名前,住所,券の代金の支払いに利用する銀行の口座番号やクレジットカード番号等を含む情報である。

【0097】

また,データ処理部11は,情報判別部200により,モデム12で受信した情報が発券要求情報であると判別されたときに,前記発券要求情報が有効であるか否かを判別する発券要求情報判別部201をさらに有し,発券要求情報判別部201により発券要求情報は有効であると判別されたときに,券情報検索部204により発券要求情報に応じた券情報の検索を開始する。

【0098】

さらに,発券要求情報判別部201により発券要求情報は有効であると判別されたときには,モデム12により受信して情報判別部200により判別された第1の課金用識別情報と,予め記憶する第2の課金用識別情報とを比較する課金用識別情報比較部202と,課金用識別情報比較部202からの比較結果が有効であるならば,前記ユーザー情報及び課金するユーザーを特定する課金用識別情報のうちの少なくともいずれか一方に応じた金額を課金する課金部208とを有している。

【0099】

情報判別部200には,モデム12,13により受信された情報が入力され,この入力情報が何の情報であるのかを判別する。入力情報が発券要求情報であると判別されたときには,この発券要求情報は,発券要求情報判別部201,券情報検索部204及び課金部208に送られる。また,入力情報がユーザー識別情報であると判別されたときには,このユーザー識別情報はユーザーコード情報作成部206に送られる。また,入力情報が課金用識別情報であると判別されたときには,この課金用識別情報は,課金用識別情報比較部202及び課金部208に送られる。

【0100】

発券要求情報判別部201は,送られた発券要求情報が有効であるか否か,具体的には,発券要求情報により要求される券情報の検索を行うことが可能であるか否かを判別する。そして,発券要求情報判別部201は,判別結果を,課金用識別情報比較部202,券情報検索部204及びユーザーコード情報作成部206に送る。

【0101】

課金用識別情報比較部202には,複数のユーザーの課金用識別情報を記憶する課金用識別情報記憶部203が接続される。この課金用識別情報記憶部203には,複数のユーザーの課金用識別情報が記憶されている。例えば,課金用識別情報比較部202に入力される課金用識別情報を第1の課金用識別情報とし,課金用識別情報記憶部203に記憶している課金用識別情報を第2の課金用識別情報とした場合に,課金用識別情報比較部202は,発券要求情報が有効であることを示す判別結果が入力されたときに,第1の課金用識別情報と第2の課金用識別情報とを比較し,この比較結果を券情報検索部204及び課金部208に送る。

【0102】

券情報検索部204は,発券要求情報判別部201から送られた判別結果が発券可能であることを示すときには,発券要求情報の内容に基づいて,券情報記憶部205に記憶される券情報から適合する券情報を検索し,出力する 尚,券情報検索部204は,課金用識別情報比較部202からの比較結果を用いて券情報の検索を開始するようにしてもよい。この場合には,券情報検索部204は,課金用識別情報比較部202から送られた比較結果が課金可能であることを示すときに,発券要求情報の内容に基づいて,券情報記憶部205に記憶される券情報から適合する券情報を検索する。

【0103】

また,ユーザーコード情報作成部206には,情報判別部200において判別されたユーザー識別情報が送られている。ユーザーコード情報作成部206は,発券要求情報判別部201から送られた判別結果が発券可能であることを示すときには,ユーザー情報記憶部207に記憶されるユーザー情報から,送信されるユーザー識別情報に対応するユーザー情報を読み出し,このユーザー情報を用いてユーザーコード情報を作成する。

【0104】

課金部208は,課金用識別情報比較部202から送られた比較結果が課金可能であることを示すときに,発券要求情報に基づく券の代金を,課金用識別情報を用いて課金する。具体的には,後述するように,課金用識別情報に含まれる銀行口座番号やクレジットカード番号等に基づく銀行等に対して券の代金の支払いを要求する。また,課金処理を行うときには,課金用識別情報の代わりに,ユーザー情報記憶部207に記憶されるユーザー情報を用いて,課金を行ってもよい。具体的には,ユーザー情報記憶部207に記憶される複数のユーザー情報から,発券要求情報に含まれるユーザー識別情報に対応するユーザー情報を読み出し,このユーザー情報に含まれる銀行口座番号やクレジットカード番号に基づいて,課金を行う。』

(オ)『【0109】

券使用装置3は,高速回線網4を介して券発行装置1と接続され,データを送受信するモデム32と,モデム32から送られる情報等を処理するデータ処理部31と,ユーザー装置1のプリンタ装置25で紙に印刷された券情報及びユーザーコード情報の少なくとも一方を読み取って入力する情報入力手段であるスキャナ装置34と,データ処理部31で処理された情報等を表示する表示部33とを備える。

【0110】

券使用装置3のスキャナ装置34は,ユーザーが持参した券の情報,即ち紙に印刷された券情報及びユーザーコード情報の少なくとも一方を読み込む。この読み込まれた券情報及びユーザーコード情報は,データ処理部31に送られる。』

(カ)『【0121】

尚,上述したように,ユーザーコード情報の照合動作は券使用装置3のデータ処理部31で行っているが,券情報判別部302は,情報入力手段により入力した前記第1のユーザーコード情報を前記データ送受信手段により外部へ送信した後に,外部へ送信した前記第1のユーザーコード情報と外部に予め記憶されている第2のユーザーコード情報との照合結果を,前記データ送受信手段を介して外部から受信することによって,前記券情報の有効性を判別するものとし,ユーザコード情報の照合動作を,券発行装置1のデータ処理部11で行うことも可能である。

【0122】

具体的には,券使用装置3は,スキャナ装置34等から読み込まれたユーザーコード情報をデータ処理部31の処理によりモデム32から券発行装置1に送信する。

【0123】

券発行装置1に送信されたユーザーコード情報は,券発行装置1のモデム13から,図3に示すデータ処理部11の情報判別部200で判別され,ユーザーコード情報照合部210に送られる。一方,ユーザーコード情報照合部210には,ユーザーコード情報作成部206から送られるユーザーコード情報が送られている。ユーザーコード情報作成部206からのユーザーコード情報を第2のユーザーコード情報とし,また,券使用装置3から券発行装置1に送信されたユーザーコード情報を第1のユーザーコード情報とすると,ユーザーコード情報照合部210は,第1のユーザーコード情報と第2のユーザーコード情報とを照合する。この照合結果は,モデム13から高速回線網4を介して券使用装置3に送信される。

【0124】

券使用装置3は,送信された照合結果をモデム32で受信し,券情報判別部302に送る。

【0125】

券情報判別部302は,送られた照合結果に基づいて,券情報が有効であるか否かを判別する。この時,券情報が有効であるか否かの判別は,前述のように券使用装置3の券情報判別部302で行う方法以外にも,券発行装置1のユーザーコード情報照合部210でその判別を行い,その結果としての有効である,または有効でない,という情報が,券使用装置3の券情報判別部302に送られる構成でもよい。』

(キ)『【0139】

この課金用識別情報としては,例えば,ユーザーが利用している銀行の口座番号やクレジットカード番号を用いることができる。尚,クレジットカード番号を用いることにより,ユーザーは簡易に券の代金を支払うことができる。』

(ク)『【0172】

尚,ユーザーは,例えば会員として登録し,券発行装置1に対してクレジットカード番号を知らせておくことにより,発券要求情報を送信する度に,券発行装置1に対してクレジットカード番号を送信することなく,券の予約をすることができる。』」

イ 甲第1号証記載の発明(以下「引用発明1」という。)の認定

「甲第1号証には,上記記載事項(ア)-(ク)からみて,次の発明(引用発明1)が記載されている。

紙に券情報と共に印刷されたユーザーコード情報を使用した認証方法であって,

券発行装置が,ユーザーによって提示され,且つ券使用装置のバーコードリーダー装置で読み取られて該券使用装置から通信回線を通じて送信されてきた前記ユーザーコード情報を受信するステップと,

前記券発行装置が,該受信したユーザーコード情報が,前記ユーザーからの発券要求情報に応じてユーザーに対して通信回線を通じて送信されたユーザーコード情報と,一致するか否かを照合するステップと,

前記券発行装置が,受信したユーザーコード情報が送信されたバーコードと一致したときに,当該ユーザーコード情報が付された券情報を有効とする判別結果を券使用装置に通信回線を通じて送信するステップと

を備えている認証方法。」

ウ 本件発明7と引用発明1との対比

「引用発明1においては,券情報に基づいてサービスを提供する者がおり,ユーザーはサービスを提供する者の『顧客』であり,『被認証者』である。また,サービスを提供する者は『認証要求者』であり,券使用装置は『認証要求者』のものである。

引用発明1の『券発行装置』『バーコードリーダー装置』『被認証者に固有のバーコード』は,それぞれ,本件発明7の『認証装置』『バーコード読み取り装置』『ユーザーコード情報』に相当する。

本件発明7において,バーコードの送信とバーコードデータベースへの記録が,バーコードの付与の要求に応じている点について,上記2.(2)で検討したように引用発明1の『発券要求信号』の場合と格別差異があるわけではない。

引用発明1の『ユーザーコード情報が付された券情報を有効とする判別結果』と本件発明7の『バーコードを提示した被認証者を認証する旨の信号』は,認証対象を認証する旨の通知である点で一致している。

本件発明7の『携帯電話』と引用発明1の『券』とは,バーコードを認証するために提示するための媒体である点で一致している。

従って,引用発明1と本件発明7とは,次の点で相違するがその余の点では一致している。

(相異点1)

バーコードが,本件発明7では携帯電話に表示されるものであるのに対し,引用発明1では紙に印刷されているものである点

(相異点2)

一致するか否かの判定に用いるバーコードが,本件発明7ではバーコードデータベースに記憶されたバーコードであるのに対し,引用発明1ではデータベースに記憶されたものかどうか定かでない点

(相異点3)

認証対象が,本件発明7ではバーコードを提示した被認証者であるのに対し,引用発明1では券情報である点」

エ 相違点についての判断

「相異点1について

甲第1号証には,ユーザーに送信された券情報は紙に印刷して券使用装置で使用される形態の他に,フローピーディスク,メモリカード,ICカード等の携帯型記録媒体に電子的に記録し,記録媒体に応じた入力手段で券使用装置に券情報を入力する形態も示されている(例えば,【0083】-【0085】段落)。そして,甲第2号証には,認証に用いるバーコードを記憶しておき,表示させてバーコードリーダーに読み取らせる携帯電話が記載されているから,甲第1号証の携帯型記録媒体として甲第2号証に記載された携帯電話を用いることは当業者が容易に為し得ることである。

相異点2について

甲第1号証には,一致するか否かの判定を券使用装置で行う態様が示されており,この態様では照合に用いる第2のユーザーコード情報は券使用装置の記録手段に予め記録されたものである。また,甲第1号証の【0121】-【0123】段落には,別の態様として照合に用いる第2のユーザーコード情報を外部に予め記録しておき,外部で照合するものが示されている。そして,その具体例として券使用装置はユーザーコード情報を券発行装置に送信し,券発行装置で照合する例が記載されている。これらの記載からみて,第2のユーザーコード情報を券発行装置の記憶手段に記録しておき,この第2のユーザーコード情報を照合に用いるようにすることはごく自然に想到されることであり,また,記憶手段としてデータベースは通常のものに過ぎないから,この相異点は格別のものではない。

相異点3について

引用発明1において,券を提示する者は,確認を受けようとしてそのような行動しているのであるから,『被認証者』とみることができる。

特に,本件発明7における『被認証者』は,バーコードを提示した者であり,それ以上の関係(例えば,所有関係)は限定されないから,この相異点は格別のものではない。」

オ 審決の「小括」

「従って,本件発明7は,甲第1号証および甲第2号証に基づいて容易に発明をすることができたものである。」

(2)  審決判断2について

ア 甲第2号証の記載事項の認定

「甲第2号証の29頁には,次の記載がある。

『携帯電話の購入者に個人を識別するためのバーコードを与え,来店時に携帯電話の画面にバーコードを呼び出してもらう。それを店員がバーコードリーダーで読めば,現金やカードを使わずに決済ができる仕組みだ。』」

イ 甲第3号証の記載事項及び甲第3号証記載の発明(以下「引用発明2」という。)の認定

「甲第3号証には,以下の事項が図面と共に記載されている。

(ア)『【0001】

【発明の属する技術分野】

本発明は認証システム及び認証装置に係り,特にローカルエリアネットワーク(LAN)サービスの提供を正規の利用者に対してのみ許可する認証システム及び認証装置に関する。』

(イ)『【0012】

【発明の実施の形態】

次に,本発明の実施の形態について図面と共に説明する。図1は本発明になる認証システムの一実施の形態のブロック図を示す。同図において,利用者のパーソナルハンディホンシステム(PHS)端末1と,利用者のパーソナルコンピュータ(PC)2と,PHS端末1とPHS公衆回線を介して接続される認証装置3と,利用者PC2と認証装置3に接続されたリモート接続装置4と,リモート接続装置4が提供するネットワークサービス5とからなる。リモートLAN接続側の構成は,認証装置3,リモート接続装置4及びネットワーク5からなる。

【0013】

認証装置3は利用者の正当性を確認する装置であり,利用者における『利用者パスワード要求/通知機能』の管理と,利用者からの接続要求に対し『一時的なパスワード』の発行と,『一時的なパスワード』を利用者パスワード要求/通知機能を持つ利用者PHS端末1と,リモート接続機能を持つリモート接続装置4への通知とを実行する。

【0014】

リモート接続装置4は,認証装置3から発行された『一時的なパスワード』を基に,利用者接続用計算機システムである利用者PC2からの接続要求を受け付け,認証装置3に対して正規ユーザか問い合わせ利用者のリモート接続を行う。利用者PHS端末1は,利用者パスワード要求/通知機能を有する一般市販の簡易型携帯電話機であり,利用者が認証装置3に対して『一時的なパスワード』を要求し,正しく認証されれば,認証装置から『一時的なパスワード』が通知される。『一時的なパスワード』は予め定められた特定のものではなく,要求の都度適宜設定されるパスワードである。

【0015】

利用者接続用計算機システムである利用者PC2は,認証装置から利用者PHS端末1に通知された『一時的なパスワード』に基づいて,リモート接続装置4に対して接続を行う。ネットワークサービス5は各利用者がサービスを受けるネットワークの資源である。

【0016】

次に,この実施の形態の動作について図2のフローチャートを併せ参照して説明する。まず,認証装置3に利用者のPHS端末1のPHS番号,認証装置パスワード及びリモート接続IDを登録する(ステップ11)。続いて,認証装置パスワード及びリモート接続IDをあらかじめ利用者に通知する(ステップ12)。続いて,利用者は利用者PHS端末1から認証装置3に対して電話(TEL)をかける(ステップ13)。電話をかける方法は,例えば『認証装置電話番号#認証装置パスワード』の数字列である。例えば0238211234#ABCDである。

【0017】

次に,認証装置3は利用者PHS端末1からの電話を受け,利用者PHS番号と認証装置パスワードを確認し(ステップ14),それらの値がステップ11での登録情報と一致しているかどうか判断し,一致していれば利用者PHS端末1に対し,『これからパスワードを発行します。電源を切ってお待ち下さい。』等の音声メッセージで答える(ステップ15)。なお,音声メッセージ以外の文字メッセージその他の方法も可能である。

【0018】

次に,利用者は上記の音声メッセージに従い,利用者PHS端末1の電源をオフにする(ステップ16)。続いて,認証装置3は,利用者PHS端末1に対し,『一時的なパスワード』を発行し,利用者PHS端末1に文字メッセージで通知する(ステップ17)。この場合,きゃらめーる等のサービスを利用する。一時的なパスワードは,例えばVWXYZとする。

【0019】

上記の一時的なパスワード『VWXYZ』が利用者のPHS端末1に通知されると(ステップ18),利用者はリモート接続装置4に対してネットワーク接続要求を行う(ステップ19)。すなわち,利用者PC2を使用してリモート接続装置4に対してダイヤルアップを行う。この場合,IDはステップ11で入手したID,パスワードはステップ18で入手した『一時的なパスワード』を使用する。例えば,IDは『SUZUKI』であり,一時的なパスワードは『VWXYZ』である。

【0020】

続いて,リモート接続装置4は利用者PC2から接続要求を受けると(ステップ20),認証装置3に対してユーザID及びパスワードが正しいかどうか問い合わせる(ステップ21)。すると,認証装置3はリモート接続装置4からの問い合わせに対して利用者に発行した情報と一致するか判断する(ステップ22)。上記のステップ22で認証装置3が一致しているとの判断をした場合,その判断結果をリモート接続装置4に通知し,これによりリモート接続装置4はネットワークサービス5の利用を利用者に対して許可し,利用者PC2とネットワークサービス5との接続を行う(ステップ23)。

【0021】

これにより,利用者PC2からネットワークサービス5の資源が利用可能となる(ステップ24)。なお,認証装置3がステップ22で不一致の判断結果を得た場合,リモート接続装置4はその判断結果を受け,利用者に対するネットワークサービス5の提供を拒否する。』

以上の記載より,甲第3号証には以下の発明(引用発明2)が記載されている。

一時パスワードを使用した認証方法であって,

認証装置が,利用者PHS番号を利用者PHS端末からPHS公衆回線を通じて受信するステップと,

前記認証装置が,利用者PHS番号が登録情報と一致しているかどうかを判断するステップと,

前記認証装置が,利用者PHS番号が登録情報と一致していたときに,一時的なパスワードを生成するステップと,

前記認証装置が,該一時的なパスワードを前記利用者PHS番号の利用者PHS端末にPHS公衆回線を通じて通知するステップと,

前記認証装置が,利用者によって利用者PCを使用して提示された一時的パスワードとユーザIDを受け取ったリモート接続装置から問い合わせを受けるステップと,

前記認証装置が,前記リモート接続装置からの問い合わせに対して一時的パスワードとユーザIDが登録されている否かを判断するステップと,

前記認証装置が,前記問い合わせに対して一時パスワードとユーザIDが登録されていると判断したときに,その判断結果をリモード接続装置に通知するステップと,を備えている,

認証方法。」

ウ 甲第4号証の記載事項の認定

「甲第4号証には次の事項が図面と共に記載されている。

(ア)『【特許請求の範囲】

【請求項1】 書込および消去が可能な表示体と,

外部ホスト装置から送信される画像情報に基づいて,表示体上に静止画を形成するための記録手段と,

装置の使用が許可された使用者の識別情報を登録する識別情報登録手段と,

外部ホスト装置から画像情報に付随して送信される送信者の識別情報を検出する送信者識別情報検出手段とを備え,

送信者識別情報検出手段によって検出された送信者識別情報と識別情報登録手段に登録された登録識別情報とを比較して,両者が一致しない場合に画像情報の受信または静止画表示を停止することを特徴とする電子式情報表示装置。』

(イ)『【0009】

本発明の目的は,第三者の使用を確実に制限し,正当な使用者からのアクセスだけを許可して,信頼ある画像表示を実現できる電子式情報表示装置を提供することである。』

(ウ)『【0012】

また本発明は,送信者識別情報が文字,記号,図形またはバーコード形式で記録されていることを特徴とする。

本発明に従えば,送信者識別情報が文字,記号,図形またはバーコード形式で記録されることによって,送信者識別情報検出手段は送信者識別情報を確実に識別することができる。送信者識別情報が文字,記号,図形である場合には,たとえば公知の文字認識プログラムを利用できる。また,送信者識別情報がバーコード形式である場合には,公知のバーコード読取りプログラムを利用できる。』

以上の記載より,甲第4号証には,

外部のホスト装置から送信される画像情報に基づいて画像を表示する電子式情報表示装置において,正当な使用者からの画像情報だけを表示するために画像情報に付随している送信者識別情報を用いるものであって,送信者識別情報が文字,記号,図形またはバーコード形式となっているもの

が記載されている。」

エ 本件発明1と引用発明2との対比

「本件発明1と引用発明2とを比較すると,

引用発明2は,利用者がネットワーク資源を利用する際に,利用者を認証する方法であり,利用者が認証されたときにリモート接続装置が接続を行い,ネットワーク資源を利用できるようにしている。従って,リモート接続装置が利用者PCをネットワークに接続するというのはネットワーク資源をサービスとして提供することである。そこで,引用発明2の『利用者』はネットワーク資源を利用する際に認証を受ける者であり,本件発明1の『被認証者』に相当する。

請求人は,平成17年12月16日付意見書において,『本件発明における『認証要求者』は,段落【0006】に記載で定義されているように『被認証者の身元,信用度などの確認を欲するもの』である』と述べている。引用発明2は,ネットワーク資源をサービスとして提供するシステムであるから,ネットワーク資源を提供する者が存在し,この者は利用者の認証を行っていることから,利用者の身元の確認を欲しているものということができる。従って,引用発明2には,本件発明1の『認証要求者』に相当するネットワーク資源を提供する者が存在する。そして,引用発明2の『利用者』は,ネットワーク資源提供者のサービスを受ける者であるから,ネットワーク資源提供者の顧客でもある。

引用発明2の『認証装置『PHS番号『PHS端末『PHS公衆回線『判断結』』』』果』は,それぞれ,本件発明1の『認証装置』『発信者番号』『携帯電話』『通信回線』『被認証者を認証する旨の信号』に相当する。

引用発明2では,利用者は一時的なパスワードの発行を受けるためにPHS端末を使って認証装置にPHS番号を通知しているので,本件発明の『発信者信号』に相当する信号を有している。

引用発明2の『一時的なパスワード』と,本件発明1において認証装置で生成される『バーコード』とは,認証装置で生成され被認証者の認証に用いられる第1の認証用コードである点で一致し,更に,引用発明2においてリモート接続装置に送られ,認証装置への問い合わせに使用される『一時的なパスワードとユーザID』と,本件発明1において認証要求者から認証装置に送信される『バーコード』とは,引用発明2の『一時的なパスワードとユーザID』は利用者を特定しサービスを提供するかどうかを決定するために利用者を認証しているのであるから,被認証者に固有の第2の認証コードである点で一致している。

引用発明2では,認証装置はリモート接続装置から問い合わせに対して一時的なパスワードとユーザIDが登録されているか否かを判断しているので,生成した一時的パスワード及びユーザIDは何らかの記憶手段に登録されていることになる。従って,引用発明2と本件発明1とは,認証用コード記憶手段を有している点で一致している。

本件発明1の『前記認証装置が,前記被認証者の顧客データが顧客データベースに記録されているか否かを判定するステップ』については,第5.当審の判断 1.訂正請求についてで検討したように,発信者番号が顧客データベースに記録されている否かを判定するステップと解するのが相当であるから,引用発明の『利用者PHS番号が登録情報と一致しているかどうかを判断するステップ』と同等のものである。

よって,本件発明1と引用発明2とは次の点で一致している。

認証用コードを使用した認証方法であって,

認証装置が,認証要求者の顧客である被認証者の発信者番号を含む認証コード要求信号を被認証者の携帯電話から通信回線を通じて受信するステップと,

前記認証装置が,前記被認証者の顧客データが顧客データベースに記録されているか否かを判定するステップと,

前記認証装置が,前記被認証者の顧客データが前記顧客データベースに記録されていたときに,第1の認証用コードを生成するステップ,

前記認証装置が,該第1の認証用コードを前記被認証者の発信者番号の携帯電話に通信回線を通じて送信すると共に被認証者に固有の第2の認証用コードを認証用コード記憶手段に記憶するステップと,

前記認証装置が,被認証者によって提示され,送信されてきた第2の認証用コードを受信するステップと,

前記認証装置が,受信した第2の認証用コードが,前記認証用コード記憶手段に記録されている第2の認証用コードと一致するか否かを判定するステップと,

前記認証装置が,受信した第2の認証用コードが前記認証用コード記憶手段に記憶されていたときに,当該第2の認証用コードを提示した被認証者を認証する旨の信号を前記認証要求者に通知するステップと,を備えている,

認証方法。

一方,本件発明1と引用発明2とは次の点で相違している。

(相異点1)

引用発明2では,第1の認証用コードが『一時的なパスワード』であり,第2の認証用コードが『一時的パスワードとユーザID』であり,第2の認証用コードが利用者PCに入力され,リモート接続装置に受け取られるものであるのに対し,本件発明1では第1の認証用コードと第2の認証用コードが共に『バーコード』であり,携帯電話に表示され,認証要求者のバーコード読み取り装置で読み取られるものである点,

(相異点2)

第1の認証用コードが,本件発明1では,『被認証者に固有』のものであるのに対し,引用発明2では固有のものとは言い切れない点

(相異点3)

認証用コード記憶手段が,本件発明ではデータベースであるのに対し,引用発明2では特に記憶手段の種類に言及されていない点

(相異点4)

認証装置が認証用コードの受信及び認証する旨の信号の通知を,本件発明1では通信回線を通じて行うものであるのに対し,引用発明2では,通信回線を通じて行うかどうか明記されていない点」

オ 相違点についての判断

「相異点1について

引用発明2の『一時的なパスワード』は,文字メッセージとして利用者PHS端末に表示されるものであるが,甲第4号証には識別情報として,文字,記号,またはバーコードのようなコード形式のものが示されており,第1の認証用コード又は第2の認証用コードとしてどのようなコードを用いるかは適宜決定すべきものである。

甲第2号証には,携帯電話を認証に用いる場合に,認証用コードとしてバーコードを表示するものが示されているから,認証用コードとしてバーコードを用いることは容易に為し得ることである。

そして,認証用コードとして,バーコードを用いた場合,入力装置としてバーコード読み取り装置を用いることもバーコードを用いたときの当然に帰結に過ぎない。

例えば,特開平10-69553号公報(甲第1号証)には,

『【0113】

すなわち,情報入力手段としては,ユーザーコード情報が,紙に記録された情報であるときは,スキャナ装置等のOCR装置,バーコードリーダー装置等の光学的読み取り装置を用いることが可能であり,ユーザーコード情報がユーザーの記憶による情報の場合及び前述の紙に記録された情報(数字,文字または記号で表記してある場合)である場合は,キーボード,マウス,操作パネル等の入力機器を用いることが可能であり,また,ユーザーコード情報が携帯型記録媒体に記録された情報である場合は,その媒体に記憶された情報を取り出すための媒体ドライブ装置等の情報読み取り装置,またはそれが小型電子機器であれば接続ケーブル,光もしくは無線通信機器等を用いることが可能である。』と記載されているように,(イ)紙に書かれた文字情報ならユーザがキーボート等の入力機器を用いたり,OCR装置を用いる手法,(ロ)紙に書かれたバーコードならバーコードリーダー装置を用いる手法,(ハ)携帯型記録媒体に記録された情報なら,媒体ドライブ装置等の情報読み取り装置を用いる手法が示されており,入力すべき情報の表示形態,情報の保持手段に応じて適宜な入力装置を用いることは当然に為されることである。

また,引用発明2ではリモート接続装置は認証要求者側に属するが,認証用コードを入力するために用いる利用者PCは利用者側に属するものである。しかしながら,認証のために使用する装置が被認証者側に属するか認証要求者側に属するかは構築するサービスの形態によって自ずと定まる程度のことである。例えば,店舗でクレジットサービスを受ける際には,クレジット番号等は店舗の装置に入力されるが,自宅でオンラインショッピングのサービスを受けるときには利用者のパソコンにクレジット番号等の入力を行いクレジット処理を行うことになる。従って,バーコードが認証要求者のバーコード読み取り装置で読み取られることは格別のことではない。

なお,引用発明2の『一時的パスワード』は,パスワードによるセキュリティ機能を強化するためにパスワードの変更を容易にしたものであり,通常のパスワードと本質的に変わるところはない。

相異点2について

引用発明2において,第2の認証用コードは被認証者に固有となっているのに対し,一時的なパスワード自身については,ユーザに固有とまでは言い切れないが,特開平11-338933号公報には,コンピュータ間で申込者を認証するためにパスワードを用いる技術が示されており,ここにおいてパスワードは申込者固有のものとされている。従って,引用発明2において認証のために用いる一時的なパスワードを被認証者に固有のものとすることは容易に想到し得ることである。

また仮に,一時的なパスワードを被認証者に固有のものとすることが容易に想到し得ないとしても,引用発明2において,利用者の認証に必要となるのはユーザIDと一時的なパスワードを組み合わせた情報であり,認証に必要となる一部の情報である一時的なパスワードを認証装置で作成し,利用者側でユーザIDと組み合わせて利用者を特定し認証できる情報としているのであるから,入力の合理性を考慮し,ユーザIDと一時的なパスワードを別のコード体系としたり別の装置で別個に作成するのではなく,ユーザIDと一時的なパスワードを一体として認証装置で作成することはごく自然に想到されることである。

相異点3について

データベースは,共有されるデータの集合を記憶する手段とされるものであり,データの記憶手段として一般的なものであるから,認証用コードの記憶手段としてデータベースを用いることは格別のことではない。

相異点4について

引用発明2では,リモート接続装置が認証装置に問い合わせを行い,認証装置は問い合わせに対する判断結果を返しており,両装置間で信号のやり取りを行っている。装置間の信号のやり取りを通信回線を通じて行う形態は通常のものであるから,この点を格別の相違ということはできない。」

カ 審決の「むすび」

「以上のとおり,本件発明1は,甲第2,3,4号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

本件発明2-7は,本件発明1の発明特定事項の一部を発明特定事項とするものであるから,本件発明1におけると同様の理由により容易に発明をすることができたものである。」

第3原告の主張(審決取消事由)の要点

審決は,①審決判断1において,引用発明1の技術内容を誤って,本件発明7と引用発明1の相違点を看過するとともに(取消事由1),その認定に係る相違点1,3についての判断を誤り(取消事由2,3),②審決判断2において,引用発明2の技術内容を誤って,本件発明1と引用発明2の一致点の認定を誤るとともに(取消事由4),その認定に係る相違点1,2についての判断を誤った(取消事由5,6)ものであるから,取り消されるべきである。

1  取消事由1(審決判断1における相違点の看過)

(1)  審決は,審決判断1において,本件発明7と引用発明1とが,審決の認定に係る相違点1~3以外の点で一致すると認定したが,以下のとおり,相違点を看過した誤りがある。

すなわち,まず,審決は,「引用発明1においては,・・・ユーザーはサービスを提供する者の『顧客』であり,『被認証者』である。」(24頁17~18行)とし,引用発明1の「ユーザー」が本件発明7の「顧客」に相当するものであって,この両者が相違するものとはしていない。

しかしながら,引用発明1は,発券システム等に関するものであり,「ユーザー」は券の購入者であるが,紙に印刷された券のようなものは,一般社会において頻繁に譲渡されているものであるから,券の購入者が実際にサービスの提供を受ける「顧客」であるかはどうかは不明であり,まして「被認証者」ではない。したがって,審決は,引用発明1の「ユーザー」と本件発明7の「顧客」の相違を看過したものである。

また,審決は,「引用発明1の・・・『被認証者に固有のバーコード』は,・・・本件発明7の・・・『ユーザーコード情報』に相当する。」(24頁21~23行。ただし,審決のこの部分の記載は,「被認証者に固有のバーコード」と「ユーザーコード情報」とを逆にしたものであって,本来は「引用発明1の『ユーザーコード情報』は,本件発明7の『被認証者に固有のバーコード』に相当する。」となるはずである。)とする。

しかしながら,引用発明1の「ユーザーコード情報」は,ユーザーが印刷した宿泊券が真の宿泊券であるかどうかというような,「券の属性」を示すものであるが,当該「ユーザーコード情報」が当該ユーザーに固有のものであるとする限定は,甲第1号証にないから,「ユーザーコード情報」は,「ユーザー」を認証するものではない。甲第1号証に「ユーザーの名前情報53は,券の使用に際しての安全性を高めるために表示することが望ましい。具体的には,この宿泊券5を使用する際には,この宿泊券5を持参したユーザーに身分証明書等を提示してもらい,ユーザーの名前情報53と身分証明書の名前とを比較して,この宿泊券5の正規の使用者であるか否かを確認することにより,券の不正使用を防止することができる。」(段落【0161】)と記載され,個人認証のためには,別途身分証明書の提示が必要とされていることが,まさに,このことを示している。したがって,審決は,引用発明1の「ユーザーコード情報」と本件発明7の「被認証者に固有のバーコード」の相違を看過したものである。

さらに,審決は,「本件発明7において,バーコードの送信とバーコードデータベースへの記録が,バーコードの付与の要求に応じている点について,・・・引用発明1の『発券要求信号』の場合と格別差異があるわけではない。」(24頁24~27行)とする。

しかしながら,引用発明1における「発券要求信号」は,単に券の発行を要求するもの,すなわち,購入を希望する券に関する情報を含み,そのような券の発行を要求する発券要求情報にすぎず,バーコードをその一部に含む可能性のある発券は,券情報の検索,課金用識別情報の判別がなされることにより,行われるものであるから,引用発明1の「発券要求信号」が本件発明7の「バーコードの付与の要求」に相当するものではない。したがって,審決は,引用発明1の「発券要求情報」と本件発明7の「バーコードの付与の要求」の相違を看過したものである。

(2)  被告は,引用発明1の「ユーザー(券の購入者)」と本件発明7の「顧客」の相違は,相違点3を言い換えたものにすぎないと主張するが,上記のとおり,引用発明1の「ユーザー」(券の購入者)が本件発明7の「顧客」に相当するものではない。

また,被告は,甲第1号証の段落【0035】~【0036】の記載を引用して,引用発明1のユーザーコード情報が,各ユーザーの固有情報であって,ユーザーを認証するものであると主張するが,甲第1号証の上記記載は,引用発明1の「ユーザーコード情報」がどのように使用されるかについて記載したものではない。券面に記載されたユーザー識別情報は,それを身分証明書等と比較するというだけのものであり,個人認証を行うための本件発明7の「被認証者に固有のバーコード」とは全く異なるものである。

2  取消事由2(審決判断1における相違点1についての判断の誤り)

審決は,その認定に係る,引用発明1と本件発明7の相違点1である「バーコードが,本件発明7では携帯電話に表示されるものであるのに対し,引用発明1では紙に印刷されているものである点」につき,「甲第1号証には,ユーザーに送信された券情報は紙に印刷して券使用装置で使用される形態の他に,フローピーディスク,メモリカード,ICカード等の携帯型記録媒体に電子的に記録し,記録媒体に応じた入力手段で券使用装置に券情報を入力する形態も示されている・・・そして,甲第2号証には,認証に用いるバーコードを記憶しておき,表示させてバーコードリーダーに読み取らせる携帯電話が記載されているから,甲第1号証の携帯型記録媒体として甲第2号証に記載された携帯電話を用いることは当業者が容易に為し得ることである。」(25頁10~17行)と判断したが,以下のとおり,誤りである。

すなわち,上記1のとおり,引用発明1は個人の認証(識別)に関するものではないから,甲第2号証の記載事項を引用発明1と組み合わせる理由はない。また,引用発明1において,紙に印刷され,あるいは携帯型記録媒体に電子的に記録される情報は,バーコード(ユーザーコード情報)だけではなく,発券される券に係る各種の情報を含むものであるから,一覧性の観点より,これを携帯電話に表示することは考え難い。さらに,甲第2号証には,携帯電話の購入者に,個人を識別するためのバーコードを与えることは記載されているが,購入後にバーコードを記憶することについて,記載や示唆はなく,まして,どのような条件でバーコードを生成するか,さらに生成されたバーコードがどこに記憶されるかについても何ら言及していない。したがって,甲第1号証に記載された「携帯型記録媒体」として,甲第2号証に記載された携帯電話を用いることは,当業者が容易に想到し得るところではない。

3  取消事由3(審決判断1における相違点3についての判断の誤り)

審決は,その認定に係る,引用発明1と本件発明7の相違点3である「認証対象が,本件発明7ではバーコードを提示した被認証者であるのに対し,引用発明1では券情報である点」につき,「引用発明1において,券を提示する者は,確認を受けようとしてそのような行動しているのであるから,『被認証者』とみることができる。特に,本件発明7における『被認証者』は,バーコードを提示した者であり,それ以上の関係(例えば,所有関係)は限定されないから,この相異点は格別のものではない。」(25頁31行~26頁1行)と判断した。

しかしながら,引用発明1において,券を提示する者は,当該券を使用しようとしているだけであり,券の内容について確認を得ようとするものではない。また,本件発明7において,「被認証者」は,バーコード付与の要求をなした者であることが要求されており,単にバーコードを提示した者ではない。

したがって,審決の上記判断は誤りである。

4  取消事由4(審決判断2における一致点の認定誤り及び相違点の看過)

(1)  審決は,「引用発明2は,ネットワーク資源をサービスとして提供するシステムであるから,ネットワーク資源を提供する者が存在し,この者は利用者の認証を行っていることから,利用者の身元の確認を欲しているものということができる。従って,引用発明2には,本件発明1の『認証要求者』に相当するネットワーク資源を提供する者が存在する。」(30頁23~28行)とした上,本件発明1と引用発明2とが,「認証装置が,認証要求者の顧客である被認証者の発信者番号を含む認証コード要求信号を・・・受信するステップ」,「被認証者を認証する旨の信号を前記認証要求者に通知するステップ」を備えている点で一致すると認定した。

しかしながら,引用発明2は,ネットワークサービスの利用者が,自らが正当な利用者であることを示すために,「リモート接続装置」を機械的に介在させるものの,利用者自身において,認証装置に認証を要求するものである。すなわち,引用発明2においては,利用者(被認証者)以外の者であって,「認証要求者」に相当する者は存在しない。したがって,審決の上記一致点の認定は誤りである。

また,本件発明1は,認証装置から被認証者に送信された認証のための情報(バーコード)が,認証を求める認証要求者から認証装置に送信される構成を有するのに対して,甲第3号証には,引用発明2につき,このような構成が開示されていないことを,審決は,相違点として認定しておらず,相違点を看過したものである。

さらに,審決は,「引用発明2においてリモート接続装置に送られ,認証装置への問い合わせに使用される『一時的なパスワードとユーザID』と,本件発明1において認証要求者から認証装置に送信される『バーコード』とは,引用発明2の『一時的なパスワードとユーザID』は利用者を特定しサービスを提供するかどうかを決定するために利用者を認証しているのであるから,被認証者に固有の第2の認証コードである点で一致している。」(31頁2~8行)とした上,本件発明1と引用発明2が,「被認証者に固有の第2の認証用コードを認証用コード記憶手段に記憶するステップ」,「前記認証装置が,被認証者によって提示され,送信されてきた第2の認証用コードを受信するステップ」,「前記認証装置が,受信した第2の認証用コードが,前記認証用コード記憶手段に記録されている第2の認証用コードと一致するか否かを判定するステップ」,「前記認証装置が,受信した第2の認証用コードが前記認証用コード記憶手段に記憶されていたときに,当該第2の認証用コードを提示した被認証者を認証する旨の信号を前記認証要求者に通知するステップ」を備える点で一致すると認定した。

しかしながら,本件発明1においては,「認証装置」が生成した「バーコード」によって「被認証者」を特定し,認証するのに対し,引用発明2は,通常のユーザIDとパスワードによる認証方法と同じく,リモート接続IDで本人を特定し,同IDに対応するものとして記憶された一時的パスワードによって,同IDで特定された者がログインしようとしていることを確認することにより,認証を行うものである。そうすると,引用発明2の「一時的なパスワード」をバーコード形態に変更したとしても,利用者を特定するユーザID(リモート接続ID)の入力は必要であり,バーコード化された「一時的なパスワード」を,ユーザIDとともに使用して認証を行う構成となるにすぎず,それ自体によって被認証者を特定するバーコードを,被認証者からの要求に応答して生成した上,被認証者に送信し,このバーコードによって認証を行う本件発明1の構成とはならない。したがって,引用発明2の「一時的なパスワードとユーザID」と,本件発明1において認証要求者から認証装置に送信される「バーコード」とが一致することを前提とする上記一致点の認定は誤りである。

(2)  被告は,本件訂正明細書の段落【0036】の記載を引用して,引用発明2が,ユーザIDと一時的なパスワードの組合せに基づいて認証を行うことは,本件発明1に包含されており,本件発明1との相違点ではないと主張する。しかしながら,本件発明1のバーコードは,あくまで被認証者に固有のもので,被認証者を特定するものである。他の情報が組み合わされていても,それは,バーコードによる認証についてその手続を容易にし,あるいは付加的に補強するものでしかない。したがって,ユーザIDと一体となって認証がなされる引用発明2の認証における一時的なパスワードを,本件発明1のバーコードに置き換え得るものではなく,被告の上記主張は失当である。

5  取消事由5(審決判断2における相違点1についての判断の誤り)

審決は,その認定に係る引用発明2と本件発明1の相違点1である「引用発明2では,第1の認証用コードが『一時的なパスワード』であり,第2の認証用コードが『一時的パスワードとユーザID』であり,第2の認証用コードが利用者PCに入力され,リモート接続装置に受け取られるものであるのに対し,本件発明1では第1の認証用コードと第2の認証用コードが共に『バーコード』であり,携帯電話に表示され,認証要求者のバーコード読み取り装置で読み取られるものである点」(32頁6~11行)につき,「引用発明2の『一時的なパスワード』は,文字メッセージとして利用者PHS端末に表示されるものであるが,甲第4号証には識別報として,文字,記号,またはバーコードのようなコード形式のものが示されており,第1の認証用コード又は第2の認証用コードとしてどのようなコードを用いるかは適宜決定すべきものである。甲第2号証には,携帯電話を認証に用いる場合に,認証用コードとしてバーコードを表示するものが示されているから,認証用コードとしてバーコードを用いることは容易に為し得ることである。そして,認証用コードとして,バーコードを用いた場合,入力装置としてバーコード読み取り装置を用いることもバーコードを用いたときの当然に帰結に過ぎない。・・・入力すべき情報の表示形態,情報の保持手段に応じて適宜な入力装置を用いることは当然に為されることである。また,引用発明2ではリモート接続装置は認証要求者側に属するが,認証用コードを入力するために用いる利用者PCは利用者側に属するものである。しかしながら,認証のために使用する装置が被認証者側に属するか認証要求者側に属するかは構築するサービスの形態によって自ずと定まる程度のことである。例えば,店舗でクレジットサービスを受ける際には,クレジット番号等は店舗の装置に入力されるが,自宅でオンラインショッピングのサービスを受けるときには利用者のパソコンにクレジット番号等の入力を行いクレジット処理を行うことになる。従って,バーコードが認証要求者のバーコード読み取り装置で読み取られることは格別のことではない(32頁24行~33。」頁27行)と判断した。

しかしながら,まず,引用発明2においては,認証装置から受信した「一時的なパスワード」とユーザIDは,被認証者(利用者)が,被認証者のPCを利用して入力するものであるところ,引用発明2のシステムにおいて,「一時的なパスワード」をバーコードに置き換えたとしても,その読取りが被認証者側で行われる以上,セキュリティのレベルとしては,「一時的なパスワード」を使用する場合と変わらず,何のメリットもないだけでなく,バーコードの読取りのため,被認証者(利用者)のPCにバーコード読取り装置を備えなければならず,付加的な費用が発生することになる。したがって,引用発明2における「一時的なパスワードとユーザID」をバーコードに置き換えるようなことを,当業者が行うとは考え難い。

また,認証情報入力が,認証要求者側でなされるか,被認証者側でなされるかは,システムのセキュリティレベルに多大な影響を及ぼす事柄であり,審決が,「バーコードが認証要求者のバーコード読み取り装置で読み取られることは格別のことではない。」としたことは,明らかに誤りである。

したがって,審決の上記相違点1についての判断は誤りである。

6  取消事由6(審決判断2における相違点2についての判断の誤り)

審決は,その認定に係る引用発明2と本件発明1の相違点2である「第1の認証用コードが,本件発明1では,『被認証者に固有』のものであるのに対し,引用発明2では固有のものとは言い切れない点」(32頁13~14行)につき,特開平11-338933号公報(甲第9号証)の記載を引用して,「引用発明2において認証のために用いる一時的なパスワードを被認証者に固有のものとすることは容易に想到し得ることである。」と判断した。

しかしながら,パスワードはIDに対応して設けられるものであり,一つのIDに対し特有なものとして認識されていれば,他のIDに対して同じパスワードが存在するか否かは,問題とされないものである。まして,「一時的なパスワード」であれば,使用時ごとに変更していくこととなるが,そのように変更されるパスワードを,すべて利用者ごとに固有とするためには,相当に大きい桁数のパスワードが必要であり,採用発行前の関連付けの検索作業に多大な時間を要することとなる。したがって,引用発明2において,当業者が,「一時的なパスワード」を,利用者ごとに固有のものとすることは考え難い。

また,審決は,上記相違点2につき,「引用発明2において,利用者の認証に必要となるのはユーザIDと一時的なパスワードを組み合わせた情報であり,認証に必要となる一部の情報である一時的なパスワードを認証装置で作成し,利用者側でユーザIDと組み合わせて利用者を特定し認証できる情報としているのであるから,入力の合理性を考慮し,ユーザIDと一時的なパスワードを別のコード体系としたり別の装置で別個に作成するのではなく,ユーザIDと一時的なパスワードを一体として認証装置で作成することはごく自然に想到されることである。」(34頁2~9行)との判断を併記する。

しかしながら,IDとパスワードの組合せは,両者を別個に管理し,仮に一方が知られても,それだけでは認証が得られないようにする点に意義がある。したがって,引用発明2においても,ユーザIDとパスワードは別個に作成され,別個に管理されているのである。そうすると,引用発明2において,ユーザIDと一時的なパスワードを一体として作成するようなことをすれば,たとえ,入力が容易になるとしても,上記のような,ユーザIDとパスワードを別個に作成し,管理することのセキュリティ上の意義が失われることになるから,当業者が,そのようなことを行うとは考え難い。

したがって,相違点2につき,「当業者が容易に想到し得る」こととした審決の判断は誤りである。

第4被告の反論の要点

1  取消事由1(審決判断1における相違点の看過)に対し

原告は,審決が,審決判断1における引用発明1と本件発明7との対比において,引用発明1の「ユーザー」が本件発明7の「顧客」,「被認証者」に相当するものであるとして,この点を相違点として認定しなかったことにつき,引用発明1の「ユーザー」は券の購入者であるが,実際にサービスの提供を受ける「顧客」であるかはどうかは不明であり,まして「被認証者」ではないから,審決は,相違点を看過したものであると主張する。

しかしながら,審決は,相違点3として,「認証対象が,本件発明7ではバーコードを提示した被認証者であるのに対し,引用発明1では券情報である点」を認定しているところ,原告の上記主張は,審決が「認証対象が,・・・引用発明1では券情報である」と認定した点を,「被認証者が認証されるわけではない」と言い換えているにすぎないから,原告主張に係る点は,実質的に相違点として認定されており,原告の主張は失当である。

また,原告は,引用発明1の「ユーザーコード情報」は,「ユーザー」を認証するものではないから,審決は,引用発明1の「ユーザーコード情報」と本件発明7の「被認証者に固有のバーコード」の相違を看過したものであると主張する。

しかしながら,甲第1号証には,「前記ユーザーコード情報には,前記ユーザーを識別するユーザー識別情報を含み,前記ユーザーコード情報の照合時には,前記ユーザー識別情報も照合することを特徴とする。これにより,記録媒体を持参したユーザーが,その記録媒体に記録された券情報の真の利用者であるか否かを判別することができるので,記録媒体の偽造や不正使用を防止することができる。」(段落【0035】~【0036】)との記載があり,この記載によれば,引用発明1のユーザーコード情報が,各ユーザーの固有情報であって,ユーザーを認証するものであることが明らかである。原告が指摘する,甲第1号証の段落【0161】の記載は,「券の使用に際しての安全性を高めるために表示することが望ましい」態様を記載したものであり,身分証明書を提示しなければ,認証が行えないというものではない。したがって,原告の上記主張も失当である。

原告は,さらに,審決が「本件発明7において,バーコードの送信とバーコードデータベースへの記録が,バーコードの付与の要求に応じている点について,・・・引用発明1の『発券要求信号』の場合と格別差異があるわけではない。」とした点につき,引用発明1における「発券要求信号」は,購入を希望する券に関する情報を含み,そのような券の発行を要求する発券要求情報にすぎず,本件発明7の「バーコードの付与の要求」に相当するものではないから,審決は,相違点を看過したものであると主張する。

しかしながら,原告の主張によっては,引用発明1の「発券要求信号」が本件発明7の「バーコードの付与の要求」に相当するものではないとする理由が明らかではなく,上記主張は失当である。

2  取消事由2(審決判断1における相違点1についての判断の誤り)に対し

原告は,甲第1号証に記載された「携帯型記録媒体」として,甲第2号証に記載された携帯電話を用いることは,当業者が容易に想到し得るところではないから,相違点1についての審決の判断が誤りであると主張するが,以下のとおり,失当である。

すなわち,審決の判断が誤りである理由として,原告は,まず,引用発明1は個人の認証(識別)に関するものではないから,甲第2号証の記載事項を引用発明1と組み合わせる理由がないと主張するが,引用発明1も,発券した券を認証する認証装置としての機能を有しており,甲第2号証の記載事項と組み合わせる理由は十分にある。

また,原告は,審決の判断が誤りである理由として,引用発明1においては,バーコードだけでなく,発券される券に係る情報も,携帯型記録媒体に電子的に記録されるから,一覧性の観点より携帯電話に表示することは考え難いと主張するが,甲第1号証には,券に係る情報の量が,携帯電話で一覧できなくなる程度であることの記載はなく,原告の主張は,憶測に基づくものである。仮に,券に係る情報の量が相当程度大きいとしても,全情報を一覧できるように表示しなければならない必然性はないから,引用発明1に甲第2号証記載の技術を適用するに当たっての阻害事由となるものではない。

原告は,審決の判断が誤りである理由として,さらに,甲第2号証には,携帯電話の購入後にバーコードを記憶することについて記載や示唆はなく,どのような条件でバーコードを生成するか,さらに生成されたバーコードがどこに記憶されるかについても言及していないと主張する。しかしながら,相違点1に係る本件発明7の構成は,「バーコードが,本件発明7では携帯電話に表示される」というものであるところ,甲第2号証には,携帯電話に個人を識別するためのバーコードを表示することが明確に記載されているのであるから,それで足りるものであり,バーコード生成の条件やバーコードの記憶場所などは問題とならない。

したがって,相違点1についての審決の判断が誤りであるとする原告の主張は失当である。

3  取消事由3(審決判断1における相違点3についての判断の誤り)に対し

原告は,相違点3に係る審決の判断が誤りであると主張するが,以下のとおり,失当である。

すなわち,原告は,審決の判断が誤りである理由として,まず,引用発明1において,券を提示する者は,当該券を使用しようとしているだけであって,券の内容について確認を得ようとするものではないと主張する。しかしながら,認証装置が処理する内容は,引用発明1と本件発明7との間で相違がなく,ただ,認証の結果によって,本件発明7では人(被認証者)の認証として捉えられ,引用発明1では券の認証として捉えられているだけである。したがって,相違点3が格別のものではないとした審決の判断に誤りはない。

また,原告は,審決の判断が誤りである理由として,本件発明7においては,「被認証者」は,バーコード付与の要求をなした者であることが要求されており,単にバーコードを提示した者ではないと主張する。しかしながら,本件発明7において,認証装置は,バーコードの照合を行っているにすぎず,バーコードが一致しさえすれば,バーコードを提示した者は誰であっても(バーコードの付与を要求した被認証者でなくても)認証されるものであるから,原告の上記主張は,前提を欠くものである。

4  取消事由4(審決判断2における一致点の認定誤り及び相違点の看過)に対し

原告は,審決が,審決判断2における引用発明2と本件発明1との対比において,一致点の認定を誤り,相違点を看過したと主張するが,以下のとおり,失当である。

まず,原告は,引用発明2においては,利用者(被認証者)以外に,「認証要求者」に相当する者は存在しないから,審決が,「引用発明2には,本件発明1の『認証要求者』に相当するネットワーク資源を提供する者が存在する。」との認定に基づいてなした一致点の認定が誤りであると主張するが,引用発明2においては,審決が認定するとおり,「ネットワーク資源をサービスとして提供する者」が,本件発明1の「認証要求者」に相当するのであり,原告の上記主張は誤りである。

また,原告は,引用発明2において,「一時的なパスワード」をバーコード形態に変更したとしても,IDの入力は必要であり,バーコード化された「一時的なパスワード」とIDによって認証を行う構成となるとして,審決が,「引用発明2においてリモート接続装置に送られ,認証装置への問い合わせに使用される『一時的なパスワードとユーザID』と,本件発明1において認証要求者から認証装置に送信される『バーコード』とは,引用発明2の『一時的なパスワードとユーザID』は利用者を特定しサービスを提供するかどうかを決定するために利用者を認証しているのであるから,被認証者に固有の第2の認証コードである点で一致している。」との認定に基づいてなした一致点の認定が誤りであると主張する。しかしながら,本件発明1に係る発明の要旨は「前記認証装置が,該受信したバーコードが,前記バーコードデータベースに記録されているバーコードと一致するか否かを判定する」と規定していて,判定をバーコードのみで行うものに限定されておらず,本件訂正請求後の本件明細書(甲第8号証添付。以下「本件訂正明細書」という。)に記載されているとおり,「バーコード信号とパスワード等の他の暗号或いは信号とを組み合わせて,確認,認証を行うように構成してもよい」(段落【0036】)のであるから,引用発明2が,ユーザIDと一時的なパスワードの組合せに基づいて認証を行うことは,本件発明1に包含されており,本件発明1との相違点ではなく,原告の上記主張は失当である。

5  取消事由5(審決判断2における相違点1についての判断の誤り)に対し

審決の相違点1についての判断に対し,原告は,引用発明2のシステムにおいて,「一時的なパスワード」をバーコードに置き換えたとしても,何のメリットもなく,被認証者(利用者)のPCにバーコード読取り装置を備える付加的な費用が発生するとして,引用発明2における「一時的なパスワード」とユーザIDをバーコードに置き換えるようなことを,当業者が行うとは考え難いと主張し,また,認証情報入力が,認証要求者側でなされるか,被認証者側でなされるかは,システムのセキュリティレベルに多大な影響を及ぼすとして,審決の「バーコードが認証要求者のバーコード読み取り装置で読み取られることは格別のことではない。」との判断が誤りであると主張する。

しかしながら,バーコードには,文字メッセージに比べると,人間にとって判読が困難であるとか,データの入力(読取り)が容易である等のメリットがあり,本件特許出願時(平成12年5月2日)に広く普及していた状況からみても,バーコードにメリットがないなどということはあり得ない。また,バーコード読取り装置の設置費用は,引用発明2にバーコードを組み合わせるための技術的な阻害要因ではなく,技術的には,組合せが容易であることは明らかである。したがって,原告の上記主張は失当である。

なお,個人認証にバーコードを用いることは,本件特許出願時において,周知技術であった(乙第1~第5号証)。

6  取消事由6(審決判断2における相違点2についての判断の誤り)に対し

原告は,引用発明2において,「一時的なパスワード」を利用者ごとに固有のものとするためには,相当に大きい桁数のパスワードが必要であり,採用発行前の関連付けの検索作業に多大な時間を要するから,当業者が,「一時的なパスワード」を利用者ごとに固有のものとすることは考え難いとし,また,引用発明2において,ユーザIDと一時的なパスワードを一体として作成することは,ユーザIDとパスワードを別個に作成し,管理することのセキュリティ上の意義が失われるから,当業者が行うとは考え難いとして,審決の相違点2についての判断が誤りであると主張する。

しかしながら,パスワードとして,被認証者に固有のパスワードを適用した例は,審決の引用する特開平11-338933号公報のほか,特開平11-25050号公報(乙第6号証),特開平8-227397号公報(乙第7号証)に記載されており,何ら特別のことではない。

また,甲第3号証には,引用発明2において,IDとパスワードとを別個に管理することは,仮に一方が知られても,それだけでは認証が得られないようにする点に意義があるという記載はないから,原告の上記主張は,原告の独自の見解に基づくものであり,失当である。

第5当裁判所の判断

1  取消事由1(審決判断1における相違点の看過)について

(1)  原告は,引用発明1の「ユーザー」は券の購入者であるが,実際にサービスの提供を受ける「顧客」であるかどうかは不明であり,まして「被認証者」ではなく,審決は,引用発明1の「ユーザー」と本件発明7の「顧客」の相違を看過したものであると主張する。

しかるところ,甲第1号証には,以下の記載がある。

「また,請求項11の発明は,請求項8~10のいずれかにおいて,前記ユーザーコード情報には,前記ユーザーを識別するユーザー識別情報を含み,前記ユーザーコード情報の照合時には,前記ユーザー識別情報も照合することを特徴とする。これにより,記録媒体を持参したユーザーが,その記録媒体に記録された券情報の真の利用者であるか否かを判別することができるので,記録媒体の偽造や不正使用を防止することができる。」(段落【0035】~【0036】)

「図5に,ユーザー装置2としてPCを用いた場合の発券処理手順のフローチャートを示す。

尚,図5のフローチャートでは,具体的には,ホテルの宿泊券を予約する場合の発券処理手順について示している。先ず,ステップS2で,ユーザー装置2から券発行装置1に対して,発券要求情報を送信する。この発券要求情報は,例えば,ホテルの宿泊券の券情報を検索することを要求する検索要求情報,及びそのホテルを限定する複数の条件を示す条件提示情報等を含む。ここで,券発行装置1は,例えば旅行代理店等に設置されたコンピュータ装置である。また,この券発行装置1の他の具体例としては,旅行代理店が設置しているWWWサーバーまたはホテルが設置しているWWWサーバーでもよい。この場合,ユーザーはインターネット上で,発券サービスを受けることになり,非常に便利である。一方,ユーザー装置2の表示部23には,例えば,図6(A)に示すように,先ず,ホテルの予約のタイトルが表示される。

次に,図6(B)に示すように,ホテルを検索する際のホテルを限定する各条件の項目が表示される。ユーザーは,ユーザーインターフェイス部24を操作して,表示されている各条件について所望の情報を入力する。この入力された各条件の情報が,前記条件提示情報として券発行装置1に送信される。」(段落【0127】~【0132】)

「この後,ステップS20で,ユーザーは,印刷された宿泊券を使用する。即ち,ユーザーは,宿泊券に適応するホテルの窓口で前記宿泊券を提示する。このホテルの窓口には,上述したように,コンピュータ装置等から成る券発行装置1が設けられている。一方,券発行装置1は,ステップS18で,ユーザー装置2に送信した券情報及びユーザーコード情報を券使用装置3にも送信する。券使用装置3は,ステップS22で,ユーザーが印刷した宿泊券のユーザーコード情報を読み取り,このユーザーコード情報と,券発行装置1から送信されているユーザーコード情報とを照合する。この照合により,2つのユーザーコード情報が一致するならば,ユーザーが印刷した宿泊券は真の宿泊券であると判別される。これにより,ユーザーは宿泊券を使用して,ホテルに宿泊することができる。」(段落【0152】~【0154】)

上記各記載によれば,甲第1号証には,引用発明1において,ユーザーコード情報が,ユーザーを識別するユーザー識別情報を含み,ユーザーコード情報の照合時にユーザー識別情報も照合することにより,記録媒体を持参したユーザーが,その記録媒体に記録された券情報の真の利用者であるか否かを判別する態様,及びホテルの宿泊券を購入したユーザーが,自ら,ホテルに宿泊する態様(すなわち,券の購入者が,自ら当該券に係るサービスの提供を受ける態様)が開示されているものと認めることができる。そして,この各態様は,相互に矛盾するものではないから,双方の態様を兼ねる場合を当然に想定することができるところ,かかる場合においては,券を購入したユーザーは,同時に当該券に係るサービスの提供を受ける「顧客」であり,かつ,当該券に係るサービスの提供を受けるに当たって,その真の利用者であるか否かが判別されるものであるから,結果として,ユーザーの個人認証が行われ,ユーザーは「被認証者」であるということができる。

したがって,「引用発明1においては,・・・ユーザーはサービスを提供する者の『顧客』であり,『被認証者』である。」とした審決の認定に誤りはなく,原告主張の相違点の看過は存在しない。

(2)  原告は,引用発明1の「ユーザーコード情報」が当該ユーザーに固有のものであるとする限定はなく,「ユーザー」を認証するものではないから,審決は,引用発明1の「ユーザーコード情報」と本件発明7の「被認証者に固有のバーコード」の相違を看過したものであると主張する。

しかしながら,甲第1号証に,引用発明1において,ユーザーコード情報が,ユーザーを識別するユーザー識別情報を含み,ユーザーコード情報の照合時にユーザー識別情報も照合することにより,記録媒体を持参したユーザーが,その記録媒体に記録された券情報の真の利用者であるか否かを判別する態様が記載されていることは,上記(1)のとおりであり,かかる態様においては,ユーザー識別情報を含むユーザーコード情報が当該ユーザーに固有のものであることが明らかであるから,引用発明1の「ユーザーコード情報」と本件発明7の「被認証者に固有のバーコード」との間に,原告主張の相違はない。

なお,甲第1号証には,「ユーザーの名前情報53は,券の使用に際しての安全性を高めるために表示することが望ましい。具体的には,この宿泊券5を使用する際には,この宿泊券5を持参したユーザーに身分証明書等を提示してもらい,ユーザーの名前情報53と身分証明書の名前とを比較して,この宿泊券5の正規の使用者であるか否かを確認することにより,券の不正使用を防止することができる。」(段落【0161】)との記載があるところ,原告は,この記載に関連して,券面に記載されたユーザー識別情報は,身分証明書等と比較するというだけのものであると主張するが,ユーザーコード情報がユーザー識別情報を含み,ユーザーコード情報の照合時にユーザー識別情報も照合することにより,記録媒体を持参したユーザーが,その記録媒体に記録された券情報の真の利用者であるか否かを判別する態様においては,ユーザーコード情報が当該ユーザーに固有のものであると認められることは上記のとおりであり,上記段落【0161】の身分証明書の名前等との対比は,ユーザーコード情報(ユーザー識別情報)による認証を,単に付加的に補強するものにすぎないと解するのが相当である。

したがって,審決が,「引用発明1の『ユーザーコード情報』は,本件発明7の『被認証者に固有のバーコード』に相当する。」と認定したこと(審決の「引用発明1の・・・『被認証者に固有のバーコード』は,・・・本件発明7の・・・『ユーザーコード情報』に相当する。」(24頁21~23行)との記載は誤記と認める。)に,原告主張の誤りはない。

(3)  原告は,引用発明1における「発券要求信号」は,購入を希望する券に関する情報を含み,そのような券の発行を要求する発券要求情報にすぎず,本件発明7の「バーコードの付与の要求」に相当するものではないから,審決は,引用発明1の「発券要求情報」と本件発明7の「バーコードの付与の要求」の相違を看過したものであると主張する。

しかるところ,甲第1号証には「券の購入者である,いわゆるユーザーは,ユーザー装置2を使用して,所望の券の発券要求情報を,発券センタ102の券発行装置に対して送信する。これにより,発券センタ102の券発行装置では,ユーザーの発券要求情報に応じたデータを検索する。そして,券発行装置は,所望のデータを検索したならば,そのデータを券情報としてユーザー装置に送信する。このとき,券情報と共に,その券に対応するユーザーコード情報も送信する。」(段落【0079】)との記載があり,この記載及び上記(1),(2)で説示したところによれば,引用発明1における「発券要求情報」は,確かに,所望の券の発行を要求するものであるといえるが,その発券(ユーザー装置への券情報の送信)には,券情報とともに,当該券に対応するユーザーコード情報が付加されるものであり,ユーザーコード情報は,照合を行うための必須の構成要素であること,ユーザーコード情報には,各ユーザー固有のユーザー識別情報を含むものであって,これにより,ユーザーの個人認証を行う態様が存在し得ることが認められる。そうすると,「発券要求情報」は,ユーザーコード情報の発行要求を含むものということができ,「本件発明7において,バーコードの送信とバーコードデータベースへの記録が,バーコードの付与の要求に応じている点について,・・・引用発明1の『発券要求信号』の場合と格別差異があるわけではない。」とした審決の認定に,原告主張の誤りはない。

(4)  したがって,審決判断1に係る本件発明7と引用発明1との一致点及び相違点の認定に,相違点の看過があるとする原告の主張は失当である。

2  取消事由2(審決判断1における相違点1についての判断の誤り)について

原告は,審決判断1における相違点1についての審決の判断につき,引用発明1は個人の認証(識別)に関するものではないから,甲第2号証の記載事項を引用発明1と組み合わせる理由はないとか,引用発明1において,記録媒体に記録されるのは,バーコード(ユーザーコード情報)だけではなく,発券される券に係る各種の情報が含まれるから,一覧性の観点より,これを携帯電話に表示することは考え難いとして,甲第1号証に記載された「携帯型記録媒体」として,甲第2号証に記載された携帯電話を用いることは,当業者が容易に想到し得るところではないと主張する。

しかしながら,引用発明1が,記録媒体を持参したユーザーがその記録媒体に記録された券情報の真の利用者であるか否かを判別し,結果として,ユーザーの個人認証を行う態様を含んでいることは,上記1の(1)のとおりであるから,引用発明1が個人の認証(識別)に関するものではないとする主張は失当である。

加えて,審決の認定のとおり,甲第1号証には,「発券センタ102の券発行装置からユーザー装置2に送信される券情報は,紙に印刷する他に,フロッピーディスク,メモリカード,ICカード等の携帯可能な携帯型記録媒体に記録することも可能である。」(段落【0085】),「券使用場所104では,ユーザーが券情報またはユーザーコード情報を記憶していたり,またはそれらが印刷してある部分を確認しながら,キーボード,マウス,操作パネル等の入力機器を使用して,券使用装置3へ券情報またはユーザーコード情報を入力するようにしてもよい。さらに,この入力機器の利用と前述のスキャナ装置,バーコードリーダー装置等を組み合わせて利用する形態であってもよい。また,券情報またはユーザーコード情報が携帯型記録媒体に記録された情報である場合は,その媒体に記憶された情報を取り出すための媒体ドライブ装置等の情報読み取り装置,またはそれが小型電子機器であれば接続ケーブル,光もしくは無線通信機器等を用いることが可能であるとともに,前述の幾つかの読み取り装置と組み合わせて利用する形態であってもよい。」(段落【0083】)との各記載があり,ユーザーに送信された券情報を紙に印刷して,キーボード等の入力機器を使用して券使用装置に入力する形態の他に,フロッピーディスク,メモリカード,ICカード等の携帯型記録媒体に電子的に記録し,記録媒体に応じた入力手段により券使用装置に券情報を入力する形態も開示されている。しかるところ,甲第1号証には,さらに,「パーソナルコンピュータ・・・,インターネット接続用端末,インターネットテレビ,ネットPC等を利用したユーザ装置2と,券を発行する券発行装置を備える発券センタ102とは,通信回線により接続されている。」(段落【0076】),「また,発券センタ102の券発行装置は,その券の使用場所104の,発行された券の情報を読み取る券使用装置と,通信回線により接続されている。」(段落【0077】),「前記発券システムで用いる通信回線は,有線であって,電話線を使用することが一般的であるが,ISDN回線やCATV・・・のケーブル,または光ファイバケーブルを用いることも可能である。また,通信回線は,無線であってもよく,PHS(簡易型携帯電話)や携帯電話,または人工衛星の双方向を利用した通信システムを利用することが考えられる。」(段落【0078】)との各記載があり,このうち,段落【0078】の「前記発券システムで用いる通信回線」とは,段落【0076】の券発行装置とユーザ装置とを接続する「通信回線」と,段落【0077】の券発行装置と券使用装置とを接続する「通信回線」との双方を示しているものと解されるから,結局,甲第1号証には,券発行装置から,携帯電話の回線によって,ユーザーコード情報を含む券情報をユーザーに送信し,ユーザーの携帯型記録媒体に電子的に記録する態様が開示されているものということができ,そうすると,券情報を記録する携帯型記録媒体として,携帯電話を用いることが開示又は示唆されていることは明らかである。したがって,原告の上記主張は失当である。

なお,原告は,甲第2号証には,携帯電話の購入後にバーコードを記憶することや,どのような条件でバーコードを生成するか,さらに生成されたバーコードがどこに記憶されるかについて記載や示唆がないから,甲第1号証に記載された「携帯型記録媒体」として,甲第2号証に記載された携帯電話を用いることは,当業者が容易に想到し得るところではないと主張する。

しかしながら,甲第2号証には,「携帯電話の購入者に個人を識別するためのバーコードを与え,来店時に携帯電話の画面にバーコードを呼び出してもらう。それを店員がバーコードリーダーで読めば,現金やカードを使わずに決済ができる仕組みだ。」(29頁中欄19~24行)との記載があって,個人の識別(認証)のために,携帯電話の画面にバーコードを呼び出し,画面に表示されたバーコードを,バーコードリーダーによって読み取ることが記載されているところ,上記のとおり,甲第1号証には,引用発明1において,ユーザーの個人認証を行うためのユーザーコード情報を含む券情報を記録する携帯型記録媒体として,携帯電話を用いることが開示又は示唆されているのであるから,原告主張の各点が甲第2号証自体に記載されていなくとも(もっとも,甲第2号証においては,来店時に携帯電話の画面にバーコードを呼び出すのであるから,その前提として,携帯電話の記録領域(メモリ)にバーコード情報が記録されていることは明らかである。),引用発明1に甲第2号証記載の技術事項を適用することの妨げになるものではない。したがって,原告の上記主張も失当である。

3  取消事由3(審決判断1における相違点3についての判断の誤り)について

原告は,審決判断1における相違点3についての審決の判断につき,引用発明1において,券を提示する者は,当該券を使用しようとしているだけであり,券の内容について確認を得ようとするものではないから,審決の判断が誤りであると主張するが,上記1の(1)のとおり引用発明1においては,券(記録媒体)を持参したユーザーがその記録媒体に記録された券情報の真の利用者であるか否かを判別し,結果として,ユーザーの個人認証が行われると認められるところ,審決が,相違点3につき,「券を提示する者は,確認を受けようとしてそのような行動しているのであるから,『被認証者』とみることができる。」としたのは,かかる趣旨であると解され,その判断に誤りはない。

また,原告は,本件発明7において,「被認証者」は,バーコード付与の要求をなした者であることが要求されており,単にバーコードを提示した者ではないとも主張する。

しかしながら,引用発明1において,ユーザーの個人認証のためのユーザーコード情報をバーコードとして,これを携帯電話に記録し,かつ,その認証の方法として,甲第2号証に記載された,携帯電話の画面に表示したバーコードを,バーコードリーダーで読み取る方法を適用した場合には,バーコードを提示した者(正確には,当該バーコードを記録した携帯電話を所持し,当該バーコードを画面表示した者)は,本件発明7と同一レベルの厳密性をもって,バーコード付与の要求をなした者ということができる。すなわち,バーコード付与の要求(発券要求)に応じて,バーコードが携帯電話に送信された後,提示までの間に,携帯電話の所持者が変わることがあり得る点は,本件発明7も引用発明1も同様であるということができ,審決が「本件発明7における『被認証者』は,バーコードを提示した者であり,それ以上の関係(例えば,所有関係)は限定されない」としたのは,かかる趣旨であると解され,その判断に誤りはない。

したがって,審決の相違点3についての判断の誤りをいう原告の主張を採用することはできない。

4  小括

以上によれば,審決判断1が誤りであるとする原告の主張は,すべて理由がなく,本件発明7は,甲第1,第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。

5  取消事由4(審決判断2における一致点の認定誤り及び相違点の看過)について

(1) 原告は,審決判断2における審決の一致点及び相違点の認定につき,引用発明2は,利用者自身において,認証装置に認証を要求するものであって,利用者(被認証者)以外の者で,「認証要求者」に相当する者は存在しないから,審決が,「引用発明2には,本件発明1の『認証要求者』に相当するネットワーク資源を提供する者が存在する。」(30頁27~28行)とした上,「認証装置が, 認証要求者の顧客である被認証者の発信者番号を含む認証コード要求信号を・・・受信するステップ」,「被認証者を認証する旨の信号を前記認証要求者に通知するステップ」を備えている点を一致点とした認定は誤りであり,また,審決には,甲第3号証に,引用発明2につき,認証装置から被認証者に送信された認証のための情報が,認証を求める認証要求者から認証装置に送信される構成が開示されていないという相違点を看過した誤りがあると主張する。

原告の上記主張は,要するに,本件発明1の要旨の「前記認証装置が,被認証者によって携帯電話に表示されて提示され,且つ認証を求める認証要求者のバーコード読み取り装置で読み取られて認証を求める認証要求者から通信回線を通じて送信されてきたバーコードを受信するステップ」との規定を根拠として,利用者(被認証者)に付与された認証コード(バーコード,一時的パスワード)を,認証装置に送信する者をもって「認証要求者」と定義することを前提とするものである。しかしながら,本件発明1の要旨には,「認証要求者の顧客である被認証者」との規定もあるところ,この規定に関して,本件訂正明細書には,「ここで,被認証者とは,認証により自らの身元,信用度等を明らかにすることを欲するものを指し,例えば,買い物をする顧客,クレジットカード使用者である。又,認証要求者とは,被認証者の身元,信用度などの確認を欲するものを指し,例えば,店舗,クレジットカード会社,銀行がある。」(段落【0006】)との記載があるから,本件発明1において,「被認証者」,「顧客」とは,買い物をする顧客,クレジットカード使用者等の,認証により自らの身元,信用度等を明らかにすることを欲する者を意味し,「認証要求者」とは,店舗,クレジットカード会社,銀行等の,被認証者(顧客)の身元,信用度などの確認を欲する者を意味すると解すべきであって,上記「前記認証装置が,被認証者によって携帯電話に表示されて提示され,且つ認証を求める認証要求者のバーコード読み取り装置で読み取られて認証を求める認証要求者から通信回線を通じて送信されてきたバーコードを受信するステップ」との規定は,単に,本件発明1においては,認証要求者(被認証者(顧客)の身元,信用度などの確認を欲する者)が,バーコードを読み取って認証装置に送信する構成を採用しているということにすぎない。

そして,引用発明2においては,自らの身元,信用度等を明らかにすることを欲する者,すなわち「被認証者(顧客)」に当たる者が「利用者」であり,被認証者(顧客)の身元,信用度などの確認を欲する者,すなわち「認証要求者」に当たる者が「ネットワーク資源を提供する者」であることが明らかであるから,審決の「引用発明2には,本件発明1の『認証要求者』に相当するネットワーク資源を提供する者が存在する。」との認定に誤りはない。また,審決は,本件発明1と引用発明2とが,「前記認証装置が,被認証者によって提示され,送信されてきた第2の認証用コードを受信するステップ」を備える点で一致し,「引用発明2では,・・・第2の認証用コードが利用者PCに入力され,リモート接続装置に受け取られるものであるのに対し,本件発明1では・・・第2の認証用コードが・・・携帯電話に表示され,認証要求者のバーコード読み取り装置で読み取られるものである点」を相違点1として認定しているところ,この相違点の認定中には,第2の認証用コードを利用者PCに入力するのが,当然利用者であることを含むものと解されるから,審決の一致点及び相違点の認定にも,上記原告主張に係る誤りはない。

(2)  次に,原告は,審決が,「引用発明2においてリモート接続装置に送られ,認証装置への問い合わせに使用される『一時的なパスワードとユーザID』と,本件発明1において認証要求者から認証装置に送信される『バーコード』とは,引用発明2の『一時的なパスワードとユーザID』は利用者を特定しサービスを提供するかどうかを決定するために利用者を認証しているのであるから,被認証者に固有の第2の認証コードである点で一致している。」と認定し,これを前提として,本件発明1と引用発明2との一致点の認定をしたことに関し,引用発明2の「一時的なパスワード」をバーコード形態に変更したとしても,ユーザID(リモート接続ID)とともに使用して認証を行う構成となるにすぎず,それ自体によって被認証者を特定するバーコードによって認証を行う本件発明1の構成とはならないから,上記一致点の認定は誤りであると主張する。

しかるところ,引用発明2において,「一時的なパスワード」をバーコード形態に変更した場合であっても,これとユーザIDの双方を使用して認証を行う構成となることは,原告主張のとおりと認められる。

他方,本件訂正明細書には,下記の記載がある。

「次に,図3に沿って,認証装置100が認証用のバーコードを付与する際の作動(認証付与方法)を説明する。」(段落【0023】)

「まず,この認証装置100による認証用のバーコードの付与を求める顧客が,認証装置100に対して通信回線を介してバーコード要求信号を発する。この実施形態では,顧客が携帯電話200から認証装置100に対して,電話をかけることにより,バーコード要求信号が,認証装置100に伝送されるように構成されている。顧客の携帯電話200のバーコード要求手段(発信装置)202からのバーコード要求信号には,当該携帯電話200の発信者番号(携帯電話番号)を示す信号が含まれているので,認証装置100に設けられたバーコード付与手段110のバーコード生成手段114が,顧客からのバーコード要求信号を受信することにより,発信者番号を受信することになる(S1)。」(段落【0024】)

「次に,認証装置100では,バーコード生成手段114が,受信した顧客の発信者番号が顧客データベース112内に存在しているか否かを判定する(S2)ことによって,バーコードの付与を求める顧客が会員登録済みの顧客であるか否かをチェックする。」(段落【0025】)

「受信した顧客の発信者番号が顧客データベース112内に存在していた場合には,バーコード生成手段114が,当該顧客の特定の店舗300用のバーコード信号を生成し,バーコード伝送手段116に出力する(S3)。バーコード伝送手段116は,バーコード信号を,通信回線を介して,顧客の携帯電話200の受信装置(バーコード受信手段)204に伝送するとともに,バーコード判定手段120のバーコードデータベース122にも送る(S4)。このとき,バーコードデータベース122には,バーコード信号と共に,当該バーコードを発行された顧客の発信者番号(携帯電話番号)も伝送され,両者が組み合わせとして記録される(S4)。」(段落【0026】)

「この実施形態の認証システムでは,携帯電話200は,伝送されたバーコード信号を記憶し,これに対応したバーコード400を,その場であるいはその後の呼び出しに応じて,表示部206に表示できるように構成されているので,携帯電話200の所有者である顧客は,この認証システムの加盟者(店舗300等)で買い物等を行う際,受信した(付与された)バーコード400を携帯電話の表示部206に表示させ,このバーコード400と自らが所有する携帯電話200の番号(発信者番号)とを組み合わせて,身元を確認させる手段(ID)として使用することになる。」(段落【0027】)

「次に,図4に沿って,認証装置100が付与されたバーコードに基づいて認証を行う際の作動(認証方法)を説明する。」(段落【0028】)

「この認証装置100による認証を求める顧客は,この認証システムの加入店300で買い物をする際,上述のようにして予め取得したバーコード400を,自らの携帯電話200の表示部206に表示させ(図3),店舗300側のバーコード読取装置302に読取らせてバーコード確認手段304に入力させる。さらに,顧客は,当該携帯電話200の番号(発信者番号)を,バーコード確認手段304に,例えば,これに接続されたキーボードなど・・・を介して,入力する。このようにして店舗300側で入力されたバーコード400に対応するバーコード信号と発信者番号との組み合わせが,認証装置100に送られ,顧客の身元確認,即ち,認証に使用される。」(段落【0029】)

「認証装置100のバーコード照合手段124は,店舗300のバーコード読取り装置302で読みとられ,バーコード確認手段304から送られてきたバーコード,詳細には,バーコード信号と発信者番号との組み合わせを受信する(S10)。」(段落【0030】)

「バーコード照合手段124は,バーコードデータベース122に記憶されているバーコード信号とこのバーコードが付与された顧客の発信者番号(携帯電話番号)と組み合わせを検索して,店舗300から送られてきたバーコード信号と携帯電話番号との組み合わせが,バーコードデータベース122に存在しているか否かを判定する(S12)。存在していない場合には,正当な使用ではないと判断し,当該顧客は認証されていない旨の信号を確認手段304に送信する(S14)。又,存在している場合には,正当な使用である判断し,当該顧客が認証されている旨の認証信号をバーコード確認手段304に送信することによって,当該顧客の認証を行う(S16)。」(段落【0031】)

上記各記載によれば,本件発明1は,実施例として,認証装置から被認証者に付与され,被認証者によって携帯電話に表示されて提示され,かつ,認証要求者のバーコード読み取り装置で読み取られるバーコードと,被認証者が入力する当該携帯電話に係る発信者番号(携帯電話番号)との組合せによって,認証を行う態様を含むものと認めることができ,この態様においては,認証装置から付与されるコードであるバーコードが,引用発明2の「一時的なパスワード」に相当し,認証装置からの付与の対象ではない発信者番号(携帯電話番号)が,引用発明2のユーザID(リモート接続ID)に相当するものというべきである。

そうすると,審決の「引用発明2においてリモート接続装置に送られ,認証装置への問い合わせに使用される『一時的なパスワードとユーザID』と,本件発明1において認証要求者から認証装置に送信される『バーコード』とは,引用発明2の『一時的なパスワードとユーザID』は利用者を特定しサービスを提供するかどうかを決定するために利用者を認証しているのであるから,被認証者に固有の第2の認証コードである点で一致している。」との認定は,本件発明1に係る第2の認証コードを,「バーコードと発信者番号」とせずに,「バーコード」のみとしている点において,本件発明1を引用発明2と対比するに当たり,本件発明1の最も引用発明2に近い態様を対比の対象としていないという趣旨で,誤りであり,ひいて,相違点1の認定において,本件発明1の第2の認証用コードを,「バーコードと発信者番号」とせずに,「バーコード」であると認定した点も誤りとなるが,上記本件訂正明細書の記載に照らし,本件発明1と引用発明2とが,「被認証者に固有の第2の認証用コードを認証用コード記憶手段に記憶するステップ」,「前記認証装置が,被認証者によって提示され,送信されてきた第2の認証用コードを受信するステップ」,「前記認証装置が,受信した第2の認証用コードが,前記認証用コード記憶手段に記録されている第2の認証用コードと一致するか否かを判定するステップ」,「前記認証装置が,受信した第2の認証用コードが前記認証用コード記憶手段に記憶されていたときに,当該第2の認証用コードを提示した被認証者を認証する旨の信号を前記認証要求者に通知するステップ」を備える点で一致するとした認定は,結果的に誤りはなく,本件発明1のバーコードが,それ自体によって被認証者を特定し,認証を行うことを前提として,上記一致点の認定が誤りであるとする原告の主張は失当である。

そして,上記相違点1の認定において,本件発明1の第2の認証用コードを,「バーコードと発信者番号」とせずに,「バーコード」であると認定した誤りは,要するに,相違点1についての判断において,引用発明2の第2の認証用コードのうちの「ユーザID」を,これに対応する「発信者番号」に置換することが容易であるかどうかという点についての判断の欠落を招来するものであるが,審決は,相違点1についての判断において,包括的に「第2の認証用コードとしてどのようなコードを用いるかは適宜決定すべきものである。」と判断しており,この判断は,引用発明2の第2の認証用コードとして,バーコードを用いることが容易であったかどうかという点を問題とせず(その点は,取消事由5に関して判断する。),単に発信者番号を用いることが容易であったとする限度であれば,誤りはないものと認められ,そうすると,上記相違点の認定の誤りは,結局,審決の結論に影響を及ぼさないものというべきである。

6  取消事由5(審決判断2における相違点1についての判断の誤り)について

原告は,引用発明2における「一時的なパスワードとユーザID」をバーコードに置き換えるようなこと(正確には,上記のとおり,「『一時的なパスワードとユーザID』を『バーコードと発信者番号』に置き換えること」であり,対応関係を考慮すれば,「『一時的なパスワード』を『バーコード』に置き換えること」である。)を,当業者が行うとは考え難い旨主張する。

しかるところ,甲第1号証には,審決が認定するとおり,「情報入力手段としては,ユーザーコード情報が,紙に記録された情報であるときは,スキャナ装置等のOCR装置,バーコードリーダー装置等の光学的読み取り装置を用いることが可能であり,ユーザーコード情報がユーザーの記憶による情報の場合及び前述の紙に記録された情報(数字,文字または記号で表記してある場合)である場合は,キーボード,マウス,操作パネル等の入力機器を用いることが可能であり,また,ユーザーコード情報が携帯型記録媒体に記録された情報である場合は,その媒体に記憶された情報を取り出すための媒体ドライブ装置等の情報読み取り装置,またはそれが小型電子機器であれば接続ケーブル,光もしくは無線通信機器等を用いることが可能である。」(段落【0113】)との記載があり,この記載によれば,認証用コード(ユーザーコード情報)には,様々な種類があり,かつ,その種類によって入力手段(入力装置)も異なることが認められる。そうすると,当業者がどのような認証用コードを選択するかについては,認証用コードを用いる目的や,それぞれの認証用コードを用いた場合の利害得失,認証用コードを入力する状況(入力者が,認証要求者側であるか,被認証者であるか,入力場所が認証要求者の支配領域であるか,被認証者の支配領域であるか,認証要求者と被認証者が対面しているか否か等)などを考慮して決定されるものであることは明らかであって,これらの点を度外視して,特定の認証用コードが,周知又は公知であるからといって,それを適用することが直ちに容易であるとすることはできない。

しかるところ,審決は,「甲第2号証には,携帯電話を認証に用いる場合に,認証用コードとしてバーコードを表示するものが示されているから,認証用コードとしてバーコードを用いることは容易に為し得ることである。」と判断する。そして,甲第2号証には,「同社(判決注:「コンビニエンスストアチェーンのサンクスアンドアソシエイツ」)はほかのコンビニチェーン同様,店舗にマルチメディア端末を設置し,来店客にオンラインで商品やチケットなどを購入してもらうサービスを始めている・・・年内には携帯電話による決済も始める予定だ。携帯電。話の購入者に個人を識別するためのバーコードを与え,来店時に携帯電話の画面にバーコードを呼び出してもらう。それを店員がバーコードリーダーで読めば,現金やカードを使わずに決済ができる仕組みだ。」(29頁中欄9~24行)との記載があるから,審決の認定のとおり,「携帯電話を認証に用いる場合に,認証用コードとしてバーコードを表示するものが示されている」ということができる。しかしながら,上記記載によれば,甲第2号証には,そのほかに,当該認証用コードの使用目的は商品等購入代金の決済であること,認証用コードを使用する場所が認証要求者の支配領域である店舗内であり,認証要求者側の者(店員)と被認証者が対面し,認証要求者側の者が認証要求者の機器(バーコードリーダー)により認証用コードの入力を行うことが記載又は示唆されており,これらの状況に,認証用コードとしてのバーコードの特徴である,当該コード情報を視覚的に読み取ることが不可能であることや,入力にバーコード読取り装置という専用の(換言すれば,汎用性のない)装置を必要とすることを併せ考えると,バーコードがコード情報を視覚的に読み取ることが不可能であるという点は,甲第2号証の場合における,購入代金の決済という目的,店舗内という他の来店客等の目を考えなければならない状況,認証要求者側の者と被認証者が,認証要求者の支配領域内で対面し,認証コードの入力を認証要求者側が,認証要求者の装置で行い得るという,不正に対処する上での利点(仮に,認証コードが,数桁の暗証番号のような容易に記憶できるようなものであれば,来店客は,認証要求者側に属するとはいえ店員にそれを知られることにつき抵抗を感ずるから,不正に対処する上での利点を多少犠牲にすることになるとしても,その入力を,他の者に見えない状況で来店客自身が行う仕組みを採用することが予想される。)等に適合するし,また,バーコード読取り装置は,多数の来店客に係るバーコードの読取りに使用されるから,汎用性がないという欠点も補うことができる。したがって,甲第2号証記載のシステムにおいて,認証コードとしてバーコードを利用することは,極めて合理的であるということができる。

他方,甲第3号証には「発明の属する技術分野】本発明,【は認証システム及び認証装置に係り,特にローカルエリアネットワーク(LAN)サービスの提供を正規の利用者に対してのみ許可する認証システム及び認証装置に関する。」(段落【0001】),「【発明の実施の形態】次に,本発明の実施の形態について図面と共に説明する。図1は本発明になる認証システムの一実施の形態のブロック図を示す。同図において,利用者のパーソナルハンディホンシステム(PHS)端末1と,利用者のパーソナルコンピュータ(PC)2と,PHS端末1とPHS公衆回線を介して接続される認証装置3と,利用者PC2と認証装置3に接続されたリモート接続装置4と,リモート接続装置4が提供するネットワークサービス5とからなる。リモートLAN接続側の構成は,認証装置3,リモート接続装置4及びネットワーク5からなる。」(段落【0012】),「一時的なパスワードは,例えばVWXYZとする。」(段落【0018】),「上記の一時的なパスワード『VWXYZ』が利用者のPHS端末1に通知されると(ステップ18),利用者はリモート接続装置4に対してネットワーク接続要求を行う(ステップ19)。すなわち,利用者PC2を使用してリモート接続装置4に対してダイヤルアップを行う。この場合,IDはステップ11で入手したID,パスワードはステップ18で入手した『一時的なパスワード』を使用する。例えば,IDは『SUZUKI』であり,一時的なパスワードは『VWXYZ』である。」(段落【0019】)との各記載があり,これらの記載によれば,引用発明2は,ネットワークサービスに関する利用者の認証システムであり,認証用コードである「一時的なパスワード」は,例えば「VWXYZ」のような文字メッセージであって,利用者(被認証者)により,利用者のパーソナルコンピュータに入力されるものであることが認められ,また,認証用コードを使用する場所は,利用者の自宅等,被認証者の支配領域内であり,被認証者と認証要求者(ネットワーク資源の提供者)とは対面しておらず,認証用コードは,利用者のパーソナルコンピュータのキーボードという,通常,パーソナルコンピュータに付属し,かつ,汎用性の高い入力機器によって入力されることが示唆されているということができる。

そうすると,上記甲第2号証の場合において,認証用コードとしてバーコードを利用することを合理的とした事情,とりわけ,店舗内という他の来店客等の目を考えなければならない状況,認証要求者側の者と被認証者が,認証要求者の支配領域内で対面し,認証コードの入力を認証要求者側が,認証要求者の装置で行い得るという不正に対処する上での利点,バーコード読取り装置の汎用性のないという欠点を,多数の来店客について使用することによって補い得ること等は,引用発明2においては存在し得ない条件となるから,これらの点について何ら考慮することなく,甲第2号証に,携帯電話を認証に用いる際,認証用コードとしてバーコードを表示するものが示されているとの理由により,引用発明2に,認証用コードとしてバーコードを適用することが,当業者に容易になし得ることとするのは誤りである。

しかるところ,審決は,「引用発明2では・・・認証用コードを入力するために用いる利用者PCは利用者側に属するものである」点を取り上げ,「認証のために使用する装置が被認証者側に属するか認証要求者側に属するかは構築するサービスの形態によって自ずと定まる程度のことである。例えば,店舗でクレジットサービスを受ける際には,クレジット番号等は店舗の装置に入力されるが,自宅でオンラインショッピングのサービスを受けるときには利用者のパソコンにクレジット番号等の入力を行いクレジット処理を行うことになる。従って,バーコードが認証要求者のバーコード読み取り装置で読み取られることは格別のことではない。」と判断する。しかしながら,クレジットサービスに係るクレジット番号は,通常,視覚的に読むことができ,読みながら,パーソナルコンピュータのキーボードによって入力することも可能であるが,暗証番号のように容易に記憶し得る程単純ではない文字(数字)列によって構成されており,店舗内で入力する場合には専用の読取り装置が用いられるものであって,来店客が,店舗側の者にその入力を委ねることにさほど抵抗を感ずるものではないという特徴を有しており,これらのことから,クレジットサービスでは,クレジット番号を,来店者が店舗の装置に入力することによる認証も,オンラインショッピングの際に,利用者のパーソナルコンピュータに入力することによる認証も,ともに,本件特許出願当時,既に確立された技術として,相互に代替可能で等価な取引形態となっていたという事情が存在することが推認される。そして,そうであれば,そのようなバーコードともパスワードとも全く異なる特徴を有する認証用コードを例に挙げて,「バーコードが認証要求者のバーコード読み取り装置で読み取られることは格別のことではない。」と判断することは誤りであるといわざるを得ない。

そして,他に,甲第2号証の場合と引用発明2における場合との,バーコード使用の条件の相違についての合理的な説明は,審決になく,本件において主張も立証もされていないから,審決の相違点1についての判断は誤りというべきである。

7  小括

以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,審決判断2は誤りというべきであり,本件発明1~7が,審決判断2の理由により,甲第2~第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない(もっとも,本件発明7が,審決判断1の理由によって,進歩性を有していないと認められることは,上記のとおりである。)。

8  結論

以上によれば,原告の請求は,本件発明1~6についての審決の判断の取消しを求める限度で理由があり,その余は理由がない。

(裁判長裁判官 塚原朋一 裁判官 石原直樹 裁判官 高野輝久)

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