知財高等裁判所 平成19年(ネ)10014号 判決 2007年6月28日
控訴人(被告)
杏林ファルマ株式会社
被控訴人(原告)
杏林製薬株式会社
訴訟代理人弁護士
中本光紀
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
第2被控訴人の申立て
主文と同旨。
なお,被控訴人の請求を参考のために次に掲記した。
1 控訴人(被告)は,「杏林ファルマ株式会社」の商号を使用してはならない。
2 控訴人(被告)は,東京法務局平成14年5月16日付けでした被告の変更登記のうち,「杏林ファルマ株式会社」なる商号の抹消登記手続をせよ。
第3事案の概要
1 本件は,被控訴人が,控訴人が周知営業表示たる被控訴人の商号と類似する商号を使用し,他人である被控訴人の営業と混同を生じさせて不正競争防止法2条1項1号に該当する不正競争行為を行ったことにより,被控訴人の営業上の利益が侵害されたと主張して,控訴人に対し,同法3条に基づき,商号の使用差止め及び変更登記に係る商号の抹消登記手続を求める事案である。
これに対し,控訴人は,被控訴人の商号が被控訴人の営業表示としての周知性を獲得したことは認めるものの,被控訴人の商号と控訴人の商号との間には類似性がなく,営業の混同は生じないと主張して争った。
2 原審は,控訴人の商号は,営業表示として被控訴人の商号と類似するとした上,控訴人による控訴人の商号の使用は,不正競争防止法2条1項1号にいう「混同を生じさせる行為」に該当するとして,被控訴人の請求を認容したため控訴人がこれを不服として控訴した。
3 当事者間に争いのない事実等,争点及びこれに関する当事者の主張は,4において当審における控訴人の主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中「第2 事案の概要等」の「1 争いのない事実等」,同「3 本件の争点」及び「第3 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。
4 当審における控訴人の主張
(1) 被控訴人の商号の営業表示としての周知性の喪失
被控訴人は,広告宣伝等において,「杏林製薬株式会社」ではなく,「キョーリン製薬株式会社」を専ら使用しており,被控訴人の商号の周知性は既に失われている。
(2) 商号の類似性
ドメイン名は商号と並んで重要であるが,被控訴人のドメイン名である「杏林.JP」又は「キョーリン.JP」とは別に,杏林舎株式会社の「KYORIN.CO.JP」も存在することから「杏林」,「キョーリン」,「KYORIN」が異なるキーワードとして認識されている。
第4当裁判所の判断
1 当裁判所も,被控訴人の請求は理由があると判断する。その理由は,2において当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中「第4 当裁判所の判断」の1から4まで(原判決6頁22行目から15頁20行目)に説示するとおりであるから,これを引用する。
2 当審における控訴人の主張に対する判断
(1) 被控訴人の商号の営業表示としての周知性の喪失について
原審において提出された甲66によると,被控訴人は「杏林製薬株式会社」との商号を用いて医師等の医療従事者向けに広告を行っていることが認められるから,控訴人の主張は前提において誤りがある。
また,前記引用に係る原判決の「事実及び理由」中「第4 当裁判所の判断」1(1)及び(2)において認定された事実によると,「杏林製薬株式会社」なる商号の被控訴人の営業表示としての周知性は,当審の口頭弁論終結時において,なお失われていないと認められるから,控訴人の主張は失当である。
(2) 商号の類似性について
控訴人の主張は,ドメイン名では「杏林」又は「キョーリン」が「KYORIN」とは別のものとして取り扱われていることから,称呼が同じでも類似性がないと考える余地があるという主張と解することができる。
しかし,本件においては,控訴人の商号と営業表示としての被控訴人の商号の類否が争点とされており,前記引用に係る原判決の「事実及び理由」中「第4 当裁判所の判断」3で認定判示されたとおり,控訴人の商号である「杏林ファルマ株式会社」は営業表示としての被控訴人の商号である「杏林製薬株式会社」と類似すると認められるところ,上記控訴人の主張の当否は,この類否の判断に影響を与えるというものとはいえないから,控訴人の主張は既にその点において失当である。
第5結論
以上によれば,被控訴人の請求は理由があり,これを認容した原判決は相当であるから,本件控訴は理由がない。
よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塚原朋一 裁判官 石原直樹 裁判官 杜下弘記)