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知財高等裁判所 平成19年(行ケ)10155号 判決 2008年1月30日

原告

株式会社カカクコム

代表者代表取締役

田中実

訴訟代理人弁護士

森崎博之

松山智恵

永田幸洋

訴訟代理人弁理士

稲葉良幸

土屋徹雄

被告

特許庁長官 肥塚雅博

指定代理人

久保田昌晴

赤穂隆雄

久保田健

小池正彦

森山啓

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1原告の求めた裁判

「特許庁が不服2003-12181号事件について平成19年3月23日にした審決を取り消す。」との判決

第2事案の概要

本件は,特許出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事案である。

1  特許庁における手続の経緯

(1)  原告(平成12年5月26日組織変更前の商号・有限会社コアプライス)は,平成12年3月8日,名称を「情報処理システム及びその方法,並びにコンピュータ上で動作する情報処理プログラムを記録した記録媒体」とする発明につき,特許出願(以下「本件出願」という。)をした(甲3)。

(2)  原告は,平成15年5月27日,本件出願につき拒絶査定を受けたため,同年6月30日,拒絶査定不服審判の請求をした(不服2003-12181号事件として係属)。

(3)  特許庁は,平成19年3月23日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年4月4日,その謄本を原告に送達した。

2  本願発明の要旨

審決が対象としたのは,平成15年7月30日付け手続補正書(甲5。以下,これによる補正を「本件補正」という。)により補正された請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)であり,その要旨は次のとおりである。

「【請求項1】 複数の販売者に関し,各商品について各販売者が採用する販売価格を販売者の情報に対応づけて記憶する価格記憶手段と,

販売者からの入力に基づいて当該販売者の情報に対応づけて記憶されている販売価格を更新する販売者対応手段と,

商品ごとに低価格順における上位所定数内に含まれる販売価格及び対応する販売者の情報を抽出し,価格順位情報として記憶し更新する価格順位記憶手段と,

ユーザからの入力に基づいて価格順位情報を読み出し,当該ユーザに対し出力するユーザ対応手段と,

ユーザが指定した商品について,販売価格の最安値が変更された場合,販売価格の最安値の変動率が所定値を超える場合,又は販売価格の最安値が所定値以下となった場合に,当該ユーザに対し通知する通知手段と,を備えることを特徴とする情報処理システム。」

3  審決の理由の要旨

審決は,本願発明は下記引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び下記引用例2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,本件出願は拒絶すべきものであるとした。

引用例1 特開平9-251468号公報(甲1)

引用例2 特開平9-330355号公報(甲2)

審決の理由中,引用例1の記載事項及び引用発明1の認定,引用例2の記載事項の認定,本願発明と引用発明1との対比並びに相違点についての判断に係る部分は,以下のとおりである(符号を改めた部分及び略称を本判決が指定したものに改めた部分がある。)。

(1)  引用例1の記載事項及び引用発明1の認定

引用例1には,図面とともに,以下の記載がある。

ア「【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は,消費者(ユーザ)に,商品について,販売店名,価格,サービスなどの商品情報を提供する商品検索システムに関するものである。

【0002】

【従来の技術】従来,消費者がある商品を購入しようとするとき,商品の価格,商品購入後のアフターケア,商品の安全性などのサービスを考慮して,どの商店で購入するかを決める。従来においては,商品価格,サービスなどの商品情報は,広告,口コミなどから得るか,又は自分の足で探さなければならなかった。

【0003】

【発明が解決しようとする課題】上記従来の方法で得られる商品情報には限度があり,消費者は十分な商品情報を得た上で商品を購入することはできなかった。つまり,消費者にとって,簡単かつ確実に商品情報を得る手段はなかった。本発明は,消費者にとって,欲しい商品,価格又はサービスを簡単に探すことができる商品検索システムを提供することを目的とするものである。」

イ「【0006】上記商品検索システムによれば,ユーザは,パソコンネットワークを介して商品情報を得ることができ,希望する価格又はサービスの商品をどの商店で購入することができるかを簡単に決定することができる。」

ウ「【0007】

【発明の実施の形態】本発明の商品検索システムをPOSシステムに組み込み,インターネットを利用して商品情報を公開する例について,図を用いて説明する。図1は,商品検索システムの全体構成を示す図である。本例の商品検索システム1は,POSシステムのホスト2内に設置される。このホスト2には,回線3を介してPOSシステム導入店舗4におけるPOSシステム5が接続される。なお,回線3には,複数の店舗4及びPOSシステム5が接続されるが,図では説明を簡単にするために1つのみを示している。また,POSシステム5は手入力用端末7を具備している。

【0008】商品検索システム1はインターネット回線6が接続される。このインターネット回線6には,消費者端末8(パソコン)が接続されている。商品検索システム1は,受信部11,加工部12,送出部13,ファイル14を具備し,手入力用端末15と接続されている。各部1~14の機能について,以下に説明する。図1のシステムの動作について図2のデータフローと図3のフローチャートを用いて説明する。

【0009】POSシステム5は広く普及している商品管理システムである。このPOSシステム5は,管理している商品情報(商品名,価格,販売店名など)をあるタイミングでホストに送信し,商品検索システム1の受信部11はこれを収集する(ステップS1)。このタイミングとしては,朝一番又は夜間などの,システムの負荷,回線の負荷の低い時間が好ましい。なお,ホスト2の商品検索システム1から各POSシステム5に対して,商品情報の送信要求を出すようにすることもできる。

【0010】商品検索システム1では,受信部11で受信した商品情報をファイル14に格納する(ステップS2)。加工部12では,ファイル14に格納された商品情報を商品の種類ごとに区分けして価格の安い順番にソートする(ステップS3)。商品検索システム1は,この加工した情報をインターネット6上に公開する(ステップS4)。消費者からアクセスがあったときは,ファイル14に格納されたソート済みのデータから希望の商品に関する商品情報を選択して,インターネット6を介して消費者端末8に送信する(ステップS5)。

【0011】消費者は,受信した商品情報を商品購入時の参考にして,商品の購入を決めることができる。このとき,上記ステップS3における価格順のソートが行われていれば,ユーザのニーズに合った情報提供をできる。なお,このユーザニーズに合わせた加工は,価格順に限るものではない。ここで,販売者がインターネット上からも通信販売などの手段を利用し商品を購入する仕掛けをもっていれば,それを利用することにより,自宅に居ながらにして消費者の欲する商品を購入することができる。

【0012】本システムは,販売者にとって以下の利点がある。販売者は,POSシステムにより自動的に最新の商品情報を商品検索システムに送ることができる。これにより,余計な手間を掛けずに常に最新の情報による商品の広告を出しているのと同じ効果を得られる。さらに,販売者は,商品の価格で勝負する場合は安価な定価を設定し,付加価値で勝負する場合は,商品情報に付加価値を掲載するなどすれば,販売者のニーズに合った広告を行うことがタイムリーにできる。この付加価値の入力は,POSシステム5に予め入力しておくことも,入力用端末7から入力することも可能である。

【0013】また,本例を採用する場合には,POSシステムが導入されている店舗であれば,新規の設備投資も小額ですむ。また,POSシステムなどの商品管理システムが導入されていない店舗は,ホスト2の入力用端末15から商品情報を入力することができる。あるいは,POSシステムの導入と同時に商品検索システムを導入することができる。」

エ「【0015】(その他の実施形態)以上説明した例では,商品検索システム1側だけが商品情報の加工をしているが,ユーザ側から商品情報の加工を行うようにすることもできる。その例を図4のフローチャートを用いて説明する。POSシステム5は商品情報をあるタイミングでホストに送信し,受信部11はこれを収集する(ステップS11)。受信部11は受信した商品情報をファイル14に格納する(ステップS12)。この加工した情報をインターネット6上に公開する(ステップS13)。」

ここで,上記摘記事項ウには,「このPOSシステム5は,管理している商品情報(商品名,価格,販売店名など)をあるタイミングでホストに送信し,商品検索システム1の受信部11はこれを収集する(ステップS1)。」,及び,「商品検索システム1では,受信部11で受信した商品情報をファイル14に格納する(ステップS2)。」と記載されているから,ファイルに格納される商品情報が,商品名,価格,販売店名などで構成されていると解することができる。そして,上記摘記事項イには,「上記商品検索システムによれば,ユーザは,パソコンネットワークを介して商品情報を得ることができ,希望する価格又はサービスの商品をどの商店で購入することができるかを簡単に決定することができる。」と記載されており,消費者(ユーザ)が,希望する価格の商品をどの商店で購入するかを決定できるようにするためには,消費者に提供される商品情報が,販売店名に対応して各商品の価格が分かるものとして提供される必要があるから,技術常識に照らしてみれば,提供される情報の元になるファイルには,複数の販売店に関し,各商品について各販売店が設定する価格を販売店名に対応づけて格納する価格格納手段が備えられているのは明らかであるといえる。

また,上記摘記事項ウに,「販売者は,POSシステムにより自動的に最新の商品情報を商品検索システムに送ることができる。これにより,余計な手間を掛けずに常に最新の情報による商品の広告を出しているのと同じ効果を得られる。」と記載されていることから,消費者に提供される情報は常に最新のものであると解することができるので,消費者に提供される情報を選択するのに用いられる,ファイルに格納されている商品情報,及び,ソートされた商品情報が,最新のものに更新されているのは明らかである。

そして,上記摘記事項ウには,「商品検索システム1では,受信部11で受信した商品情報をファイル14に格納する(ステップS2)。」と記載され,上記摘記事項エには,「受信部11は受信した商品情報をファイル14に格納する(ステップS12)。」と記載されていることから,既に検討した事項を踏まえれば,受信部が,販売店のPOSシステムから受信した商品情報に基づいて販売店名に対応づけて格納されている価格を更新しているのは明らかであるといえる。

また,上記摘記事項ウには,「加工部12では,ファイル14に格納された商品情報を商品の種類ごとに区分けして価格の安い順番にソートする(ステップS3)。商品検索システム1は,この加工した情報をインターネット6上に公開する(ステップS4)。」,及び,「ファイル14に格納されたソート済みのデータ」と記載されており,既に検討した事項を踏まえれば,当該公開される情報は「常に最新のもの」であるわけであるから,加工部が,価格及び対応する販売店名をファイルから読み出し,商品の種類ごとに価格の安い順番にソートした後,ファイルにソート済みのデータとして格納し更新しており,ファイルに,商品の種類ごとに価格の安い順番にソートされた価格及び対応する販売店名を格納するソート価格格納手段が備えられているのは明らかであるといえる。

これらの記載事項及び図面の内容を総合すると,引用例1には,

「複数の販売店に関し,各商品について各販売店が設定する価格を販売店名に対応づけて格納する価格格納手段と,

販売店のPOSシステムから受信した商品情報に基づいて販売店名に対応付けて格納されている価格を更新する受信部と,

商品の種類ごとに価格の安い順番にソートされた価格及び対応する販売店名を格納するソート価格格納手段と,

商品の種類ごとに価格の安い順番に価格及び対応する販売店名をソートし,ソート価格格納手段にソート済みのデータとして格納し更新する加工部と,

消費者からのアクセスに基づいてソート済みのデータを選択し,当該消費者に対し提供する送出部とを備えることを特徴とする商品検索システム。」

との発明(引用発明1)が開示されていると認められる。

(2)  引用例2の記載事項の認定

引用例2には,図面とともに,以下の記載がある。

ア「【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は,通信を利用する商品の販売において,顧客が購入を考えている商品の価格や在庫等の情報を顧客に通知する通信販売方法に関する。」

イ「【0007】本発明の目的は,通信回線を用いた通信販売システムにおいて,顧客が毎回商品を探し直すことなく,以前検討した商品を検討できる通信販売方法を提供することにある。また,本発明の他の目的は,何度も通信回線を用いて商品の状況を調べる必要のない,検討した商品の在庫が少ない場合や特別価格商品となったときに連絡することができる通信販売方法を提供することにある。特に,顧客が検討した商品の情報を登録することによって,顧客の潜在的な要望に適応した商品の情報を通知することにある。」

ウ「【0009】上記他の目的を達成するために,通信回線を用いて通信販売の商品を提示するための手段を有し,顧客情報を格納するデータベースと,商品の価格や在庫などの情報を格納するデータベースを用い,顧客が商品を見ているときに,購入候補として商品をピックアップし,ピックアップした商品を特定する情報を,前記顧客情報を格納するデータベースに格納し,ピックアップした商品の価格が変更されたとき,および在庫が少なくなった際には,顧客に商品の情報を通知する。」

エ「【0050】図11は,図4に示した処理フローのステップS12,ステップS13における商品案内処理部3の処理フロー図である。この処理では顧客情報データベース4および図10に示した商品情報データベース5を用いる。まず,通知判断処理部31は,顧客情報データベース4に格納された顧客情報を読み出す(S61)。次いで,通知判断処理部31は,読み出した顧客情報データベース4のピックアップテーブル43から,顧客がピックアップした商品および注文した商品を判別し(S62),それぞれのピックアップ商品および注文商品を通知商品とするか否かの処理(S63,S64)を繰り返す。すなわち,通知判断処理部31は,商品情報データベース5の商品情報データ53を用いて顧客がピックアップした商品または注文した商品を通知商品とするかどうかを,価格の変更の有無を示す特価情報536および,商品情報の在庫の状況を在庫数537と生産予定538と在庫の基準値539から判定する(S63)。通知判断処理部31が通知商品であると判定した場合は,通知商品として商品情報を蓄積する(S64)。

【0051】通知処理部32は,通知判断処理部31が判断した通知商品があるかどうかを商品情報データベース53の在庫数537,生産予定538,在庫の基準値539を参照して判定する(S65)。通知商品がある場合は,通知処理部32は,商品価格の変更があるか,在庫が少ないなどの商品の状況を顧客に通知するための処理を行う(S66)。この通知は,例えば,手紙,FAX,電子メールなどを用いて通知してもよいし,電話通知の場合は,担当者に商品状況が変更したことを顧客に知らせるための指示を出すようにしもよい。また,顧客が次回通信回線を用いて通信販売システムに接続してきたときに,まず,これらの通知商品の情報を提示する様に設定することもできる。

【0052】この実施例によれば,顧客が通信回線を用いて接続すると,顧客を確認し,顧客情報データベース4内に格納された顧客情報から顧客の情報を読み込む。顧客情報には,ピックアップ商品および注文商品についての情報が格納されているので,顧客が以前検討していた商品についての情報が顧客用端末装置6の商品表示画面60上に提示され,顧客はもう一度商品を最初から検討する必要なく,購入商品を決めることができる。また,顧客情報データベース4のピックアップテーブル43の商品について,商品の在庫状況や価格の変更をなどの商品状況を顧客用端末装置6上に通知するので,顧客は何度も商品の状況を調べることなく,商品状況を把握することができる。」

(3)  本願発明と引用発明1との対比

本願発明と引用発明1とを比較する。

引用発明1の「販売店」,「設定」すること,「価格」は,本願発明の「販売者」,「採用」すること,「販売価格」にそれぞれ相当する。

また,本願発明の「販売者の情報」には,販売者名が含まれているから,引用発明1の「販売店名」は,本願発明の「販売者の情報」に包摂される。

また,引用発明1の「格納」すること,「価格格納手段」は,本願発明の「記憶」すること,「価格記憶手段」にそれぞれ相当する。

また,引用発明1の「販売店のPOSシステムから受信した商品情報」と,本願発明の「販売者からの入力」とは,以下の相違点があるものの,「販売者からの情報」という概念で共通する。

また,引用発明1の「受信部」と,本願発明の「販売者対応手段」とは,以下の相違点があるものの,販売者からの情報に基づいて当該販売者の情報に対応づけて記憶されている販売価格を更新する機能を有する「販売価格受信手段」という概念で共通する。

また,引用発明1において,「ソート済みのデータ」として格納し更新されるのは,商品の種類ごとに価格の安い順番にソートされた価格及び対応する販売店名であり,価格の順番を表しているといえるから,引用発明1の「ソート済みのデータ」と,本願発明の「価格順位情報」とは,以下の相違点があるものの,「価格の順番を表す情報」という概念で共通する。

また,引用発明1の「商品の種類ごとに価格の安い順番にソートされた価格及び対応する販売店名を格納するソート価格格納手段」及び「商品の種類ごとに価格の安い順番に価格及び対応する販売店名をソートし,ソート価格格納手段にソート済みのデータとして格納し更新する加工部」が協働したものと,本願発明の「商品ごとに低価格順における上位所定数内に含まれる販売価格及び対応する販売者の情報を抽出し,価格順位情報として記憶し更新する価格順位記憶手段」とは,以下の相違点があるものの,「低価格順の販売価格及び対応する販売者の情報を求め,価格の順番を表す情報として記憶し更新する価格順番記憶手段」という概念で共通する。

また,引用発明1の「消費者」,「アクセス」,「選択」すること,「提供」することは,本願発明の「ユーザ」,「入力」,「読み出」すこと,「出力」することにそれぞれ相当する。

また,引用発明1の「送出部」は,ユーザからの入力に基づいて,価格の順番を表す情報を当該ユーザに対し出力しているから,本願発明の「ユーザ対応手段」に相当する。

また,引用発明1の「商品検索システム」と,本願発明の「情報処理システム」とは,以下の相違点があるものの,ユーザに対し商品の販売価格を提供する「販売価格提供システム」という概念で共通する。

そうすると,本願発明と引用発明1とは,

「複数の販売者に関し,各商品について各販売者が採用する販売価格を販売者の情報に対応づけて記憶する価格記憶手段と,

販売者からの情報に基づいて当該販売者の情報に対応づけて記憶されている販売価格を更新する販売価格受信手段と,

低価格順の販売価格及び対応する販売者の情報を求め,価格の順番を表す情報として記憶し更新する価格順番記憶手段と,

ユーザからの入力に基づいて価格の順番を表す情報を読み出し,当該ユーザに対し出力するユーザ対応手段とを備えることを特徴とする販売価格提供システム。」

である点で一致し,以下の点で相違している。

[相違点1]

価格記憶手段に記憶されている販売価格が,本願発明では,「販売者からの入力」に基づいて更新されているのに対して,引用発明1では,「販売店のPOSシステムからの商品情報」に基づいて更新されている点。

[相違点2]

価格順番記憶手段が,本願発明では,「価格順位記憶手段」であるのに対し,引用発明1では,「加工部とソート価格格納手段とが協働したもの」であり,かつ,価格の順番を表す情報として記憶し更新されるのが,本願発明では,「商品ごとに低価格順における上位所定数内に含まれる販売価格及び対応する販売者の情報を抽出」したものであるのに対して,引用発明1では,「商品の種類ごとに価格の安い順番に価格及び対応する販売店名をソート」したものである点。

[相違点3]

本願発明では,情報処理システムが,ユーザが指定した商品について,販売価格の最安値が変更された場合,販売価格の最安値の変動率が所定値を超える場合,又は販売価格の最安値が所定値以下となった場合に,当該ユーザに対し通知する通知手段を備えているのに対して,引用発明1では,そうではない点。

(4)  相違点についての判断

上記相違点について検討する。

[相違点1]について

上記摘記事項(1)ウに,「また,POSシステムなどの商品管理システムが導入されていない店舗は,ホスト2の入力用端末15から商品情報を入力することができる。」と記載されているように,引用発明1では,販売価格などの商品情報を,POSシステムによる自動送信と並んで端末から入力することも可能な構成とされている。そして,販売価格はもともと販売者により決定されるものであることを考慮するならば,販売価格を入力するための端末を,販売価格を決定する販売者側にも配置して,販売者が販売価格を入力できるようにすることは,ごく自然な発想であるといえる。してみると,引用発明1において,販売者側に販売価格を入力する端末を配置し,販売者からの入力に基づいて販売価格が更新されるようにすることは,当業者が必要に応じて想起し得た事項である。

即ち,引用発明1に基づいて,本願発明の相違点1に係る構成を得ることは,当業者が容易になし得たことである。

[相違点2]について

まず,価格順番記憶手段の情報処理を行う仕組みについて検討すると,本願発明における「価格順位記憶手段」は,「商品ごとに低価格順における上位所定数内に含まれる販売価格及び対応する販売者の情報を抽出し,価格順位情報として記憶し更新する」機能を有するものであるわけであるから,単なる記憶機能のみならず,情報を読み出して加工する機能も併せて備え,加工した結果の情報を格納し更新する手段として解することができる。一方,引用発明1においては,情報を読み出して加工する加工部とソート価格格納手段とが協働して価格順番記憶手段を構成するものであるから,情報処理の仕組みとしては,本願発明における「価格順位記憶手段」と引用発明1における「加工部とソート価格格納手段とが協働したもの」とは,実質的に同等であるといえる。

次に,価格の順番を表す情報について検討すると,引用発明1においては,商品の種類ごとに価格の安い順番に価格及び対応する販売店名をソートすることに留まるものの,当該ソートされた情報は,そもそもが,消費者が希望する商品を有利に購入できるようにするための情報であることから,消費者にとって関心があるのは,希望する商品の低価格順における上位所定数内に含まれる販売価格及び対応する販売者の情報であることは,社会常識に照らし明らかである。また,一定の基準に従ってソートされた情報に関して,上位所定数内に含まれる情報に注目し,この上位の情報を抽出することは,多くの分野で普通に行われていることである。そうすると,引用発明1において,価格の安い順番にソートされた販売価格及び対応する販売者の情報に関して,商品ごとに低価格順における上位所定数内に含まれる販売価格及び対応する販売者の情報を抽出し,価格の順番を表す情報として記憶し更新するようにすることは,当業者が容易に想到し得た事項である。

即ち,引用発明1に基づいて,本願発明の相違点2に係る構成を得ることは,当業者が容易になし得たことである。

[相違点3]について

相違点3に係る本願発明の構成は,通知手段がユーザに対し通知する場合として,「販売価格の最安値が変更された場合」,「販売価格の最安値の変動率が所定値を超える場合」,「販売価格の最安値が所定値以下となった場合」の3つの場合を択一的なものとしているが,このうち「販売価格の最安値が変更された場合」を選択して,販売価格の最安値が変更された場合にユーザに対し通知する通知手段を備える構成もまた,相違点3に係る本願発明の構成と解することができるので,以下,当該構成を前提として検討する。

引用例2には,顧客が何度も調べることなく,商品の価格の変更などの商品状況を把握できるようにするために,顧客がピックアップした商品の価格が変更された場合,価格の変更などの商品状況を顧客用端末装置上に通知することが開示されている。

一方,消費者が,購入を検討している商品の最安値の状況を調べ,商品を購入するときの判断材料の一つとすることは,社会常識であるといえるし,また,引用例1において,上記摘記事項(1)ウに,「加工部12では,ファイル14に格納された商品情報を商品の種類ごとに区分けして価格の安い順番にソートする(ステップS3)。商品検索システム1は,この加工した情報をインターネット6上に公開する(ステップS4)。」と記載され,既に検討した事項を踏まえれば,当該公開される情報は「常に最新のもの」であるわけであるから,引用発明1では,消費者が最安値の最新の状況を常に把握できるようにするという要請が内在することは明らかである。

してみると,引用発明1において,消費者が最安値の最新の状況を常に把握できるようにするために,引用例2記載の発明の技術を適用して,ユーザが指定した商品について,販売価格の最安値が変更された場合に,当該ユーザに対し通知する通知手段を設けることは,当業者が容易に想到できたことである。

即ち,引用発明1及び引用例2に記載された発明に基づいて,本願発明の相違点3に係る構成を得ることは,当業者が容易になし得たことである。

(5)  審決の「むすび」

以上のとおり,本願発明は,上記引用発明1及び引用例2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。

第3当事者の主張の要点

1  原告主張の審決取消事由(相違点3についての判断の誤り)の要点

審決は,以下のとおり,相違点3についての判断を誤った結果,本願発明が特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断したものであるから,取り消されるべきである。

(1)  審決は,「引用発明1では,消費者が最安値の最新の状況を常に把握できるようにするという要請が内在することは明らかである。」と判断したが(以下,当該要請を「本件要請」という。),以下のとおり,この判断は誤りである。

ア 引用例1には,「最新の商品情報」を送ることに関する販売者の利点に関する記載はあるが,そのことに関する消費者の利点についての記載はない。

イ そうすると,引用発明1においては,販売者が「最新の商品情報」を送ること及びその結果として商品検索システムに公開される情報が「常に最新のもの」になっていることと,消費者の利点とを結び付けて検討されていないのであるから,引用発明1に本件要請が内在するということはできない。

(2)  審決は,「引用発明1において,消費者が最安値の最新の状況を常に把握できるようにするために,引用例2記載の発明の技術を適用して,ユーザが指定した商品について,販売価格の最安値が変更された場合に,当該ユーザに対し通知する通知手段を設けることは,当業者が容易に想到できたことである。」,「即ち,引用発明1及び引用例2に記載された発明に基づいて,本願発明の相違点3に係る構成を得ることは,当業者が容易になし得たことである。」と判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。

ア 上記(1)のとおり,「引用発明1では,本件要請が内在することは明らかである。」との審決の判断は誤りであるから,これを前提にして,「引用発明1において,『消費者が最安値の最新の状況を常に把握できるようにするために』,引用例2記載の発明の技術を適用」するとの審決の論理構成は誤りである。

イ(ア) 引用例2の記載によれば,同引用例が開示する「商品の価格が変更された場合」に顧客に通知するとの構成は,複数の販売者が存在することを想定しておらず,ある一つの販売者が採用する商品の価格に変更があった場合に顧客に通知するとの構成であると理解すべきである。したがってまた,引用例2が,複数の販売者の存在を前提とする「最安値」の概念を開示していないことは明らかである。

そうすると,引用発明1に引用例2が開示する構成を適用した場合,当業者であれば,ある一つの販売店が採用する商品の価格に変更があった場合に顧客に通知するとの構成に想到するはずであり,「販売価格の最安値が変更された場合に,当該ユーザに対し通知する」との相違点3に係る本願発明の構成に容易に想到することはできない。

(イ) 被告は,「引用発明1に引用例2記載の発明の技術を適用して,ユーザが指定した商品について,ユーザにとって関心があり,その状況を把握しようとしている価格である,販売価格の最安値が変更された場合に,当該ユーザに対し通知する通知手段を設けることは,当業者が容易に想到し得たことである。」と主張するが,以下のとおり,失当である。

a 引用発明1に「ユーザが指定した商品について,販売価格の最安値が変更された場合に,当該ユーザに対し通知する通知手段」を設けて機能させるためには,販売価格の最安値が変更されたことを検知することが必要であるところ,そのためには,販売価格の最安値を時系列的に記憶して比較することができるよう,各販売者の販売価格を格納するファイルとは別に,各時点の販売価格の最安値を格納するファイル(以下「第2のファイル」という。)を有する必要がある。

したがって,「販売価格の最安値が変更された場合に,当該ユーザに対し通知する通知手段を設ける」との構成に想到するためには,引用発明1に「ファイル14」とは別の第2のファイルを設けた上,同ファイルに格納される販売価格の最安値に対して引用例2記載の技術を適用することが必要になる。

b しかるに,引用発明1が備えるファイルは「ファイル14」のみであるところ,引用発明1においてソート前の商品情報とソート後の商品情報を同時に保持する必要が全くないことに照らせば,「ファイル14」に格納されるのは,ソート前後のいずれかの商品情報であるといえるから,引用発明1が,各販売者の販売価格を格納するファイルとは別に,第2のファイルを有していないことは明らかである。また,引用例1には,第2のファイルを設けることについての記載はない。

さらに,引用例2には,販売価格の最安値という概念さえ開示されておらず,加えて,本件出願当時,商品検索システムに,各販売者の販売価格を格納するファイルとは別に,第2のファイルを設けることが周知技術であったともいえない。

なお,被告は,「引用発明1には,本件要請が内在している」と主張するが,仮にそうであったとしても,引用発明1における消費者は,「低価格順にソートされ最安値が最上位とされている情報」の「最新のもの」を閲覧することで,最安値の最新の状況を常に把握することができるのであるから,当業者は,本件要請を考慮して引用発明1を変形しようとは考えない。したがって,引用発明1に本件要請が内在していることは,引用発明1に第2のファイルを設けることの動機付けとはなり得ない。

c そうすると,引用発明1に,「ファイル14」とは別に,第2のファイルを設けることは,当業者にとって容易に想到することができなかったものであるから,第2のファイルを設けた上,同ファイルに格納される販売価格の最安値に対して引用例2記載の技術を適用して,相違点3に係る本願発明の構成に想到することも,当業者にとって容易ではなかったというべきである。

d なお,仮に,引用発明1に第2のファイルを設けることが当業者にとって容易に想到し得ることであるということができ,他方,第2のファイルに格納される販売価格の最安値に対して引用例2記載の技術を適用して,相違点3に係る本願発明の構成に想到することが,当業者にとって容易であるといえたとしても,これは,容易に想到し得たものを基準にして,更に引用例2記載の技術を適用することが容易であるという,いわゆる「容易の容易」の場合に相当するから,引用発明1から出発して,相違点3に係る本願発明の構成に想到することは,当業者にとって容易であるとはいえない。

ウ(ア) 審決は,「引用発明1において,消費者が最安値の最新の状況を常に把握できるようにするために」,どのように「引用例2記載の発明の技術を適用」すれば,「ユーザが指定した商品について,販売価格の最安値が変更された場合に,当該ユーザに対し通知する通知手段を設ける」との構成に想到し得るのかについて,具体的な理由を何ら示していない。

(イ) 被告は,「審決は,『消費者が最安値の最新の状況を常に把握できるようにするために』と説示するとおり,引用発明1に引用例2記載の発明の技術を適用するとき,ユーザにとって関心があり,その状況を把握しようとしている価格が,販売価格の最安値であることを示している。」として,「審決が,引用発明1に,どのように引用例2記載の発明の技術を適用するかについての具体的な理由を示していることは明らか」であると主張する。

しかしながら,引用発明1は,第2のファイルを有しておらず,販売価格の最安値という情報をそもそも管理していないから,「ユーザにとって関心があり,その状況を把握しようとしている価格が,販売価格の最安値であることを示し」ただけでは,単なる発想の可能性を示したにとどまり,引用発明1に対して引用例2記載の発明の技術をどのように適用すれば,相違点3に係る本願発明の構成を得ることができるのか全く明らかではない。したがって,この点について審決が具体的な理由を示しているとはいえない。

エ 以上のとおり,引用発明1に引用例2が開示する構成を適用しても,当業者は,相違点3に係る本願発明の構成に容易に想到することはできない。

2  被告の反論の要点

(1)  原告の主張(1)に対し

以下のとおり,「引用発明1では,本件要請が内在することは明らかである。」との審決の判断に誤りはない。

ア 審決は,「消費者が,購入を検討している商品の最安値の状況を調べ,商品を購入するときの判断材料の一つとすることは,社会常識であるといえる」ことを考慮して,「引用発明1では,本件要請が内在することは明らかである。」と判断したものである。

イ 原告は,「引用発明1においては,販売者が『最新の商品情報』を送ること及びその結果として商品検索システムに公開される情報が『常に最新のもの』になっていることと,消費者の利点とを結び付けて検討されていないのであるから,引用発明1に本件要請が内在するということはできない。」と主張する。

しかしながら,消費者が,購入を検討している商品の最安値の状況を調べ,商品を購入するときの判断材料の一つとすることは,社会常識であるということができ,しかも,商品の価格は変動するものであるから,消費者が,購入を検討している商品の価格の状況を調べる場合,最新の状況を調べようとすることは,ごく自然な行動であるといえる。

また,引用例1の記載によれば,引用発明1においては,消費者のニーズに合わせて,消費者に提供される情報が低価格順にソートされているのであるから,引用発明1における消費者は,低価格順にソートされ最安値が最上位となっている情報を望んでいると理解することができる。

そうすると,低価格順にソートされ最安値が最上位とされている情報が公開されるとともに,当該公開される情報が常に最新のものである引用発明1に,本件要請が内在することは明らかであるから,原告の上記主張は理由がない。

(2)  原告の主張(2)に対し

以下のとおり,「引用発明1において,消費者が最安値の最新の状況を常に把握できるようにするために,引用例2記載の発明の技術を適用して,ユーザが指定した商品について,販売価格の最安値が変更された場合に,当該ユーザに対し通知する通知手段を設けることは,当業者が容易に想到できたことである。」,「即ち,引用発明1及び引用例2に記載された発明に基づいて,本願発明の相違点3に係る構成を得ることは,当業者が容易になし得たことである。」との審決の判断に誤りはない。

ア 上記(1)のとおり,「引用発明1では,本件要請が内在することは明らかである。」との審決の判断に誤りはないから,当該判断に誤りがあることを前提に,審決の論理構成の誤りをいう原告の主張(2)アは,その前提を欠くものとして失当である。

イ(ア) 原告は,「引用例2の記載によれば,同引用例が開示する『商品の価格が変更された場合』に顧客に通知するとの構成は,複数の販売者が存在することを想定しておらず,ある一つの販売者が採用する商品の価格に変更があった場合に顧客に通知するとの構成であると理解すべきである。したがってまた,引用例2が,複数の販売者の存在を前提とする『最安値』の概念を開示していないことは明らかである。」,「そうすると,引用発明1に引用例2が開示する構成を適用した場合,当業者であれば,ある一つの販売店が採用する商品の価格に変更があった場合に顧客に通知するとの構成に想到するはずであり,『販売価格の最安値が変更された場合に,当該ユーザに対し通知する』との相違点3に係る本願発明の構成に容易に想到することはできない。」と主張する。

しかしながら,上記(1)のとおり,引用発明1には,本件要請が内在しているところ,消費者にとって関心のある情報の一つが,購入を検討している商品の最安値であることは,周知の事項である。

また,引用例2記載の発明においては,顧客が商品をピックアップすることにより,ピックアップされた商品の価格の変更等の商品状況が顧客に通知されるようになっているところ,通知を希望する情報は,顧客が自らの意思で選択したものであるから,引用例2記載の発明において,顧客がピックアップした商品の価格とは,顧客にとって関心があり,その状況を把握しようとしている価格であると理解することができる。

そうすると,引用発明1において,ユーザ(消費者)にとって関心があり,その状況を把握しようとしている価格は,販売価格の最安値であるといえるから,引用発明1に引用例2記載の発明の技術を適用して,ユーザが指定した商品について,ユーザにとって関心があり,その状況を把握しようとしている価格である,販売価格の最安値が変更された場合に,当該ユーザに対し通知する通知手段を設けることは,当業者が容易に想到し得たことである。

以上によれば,原告の上記主張は理由がない。

(イ) 原告は,「引用発明1に『ユーザが指定した商品について,販売価格の最安値が変更された場合に,当該ユーザに対し通知する通知手段』を設けて機能させるためには,販売価格の最安値が変更されたことを検知することが必要であるところ,そのためには,販売価格の最安値を時系列的に記憶して比較することができるよう,各販売者の販売価格を格納するファイルとは別に,第2のファイルを有する必要がある。」と主張する。

しかしながら,本願発明の要旨には,販売価格の最安値が変更されたことを検知するために,具体的に,どのような情報を,どのように処理するかについての規定がないばかりか,販売価格の最安値を「時系列的に」記憶して比較するために,各販売者の販売価格を格納するファイルとは別に,「各時点の」販売価格の最安値を格納する第2のファイル(記憶手段)を設けることについての規定もないから,原告の上記主張は,本願発明の要旨に基づかないものとして失当である。

また,引用発明1には,ファイルに 低価格順であって,最安値が最上位となっている情報を格納するソート価格格納手段が備えられており,販売価格の最安値が変更されたことを検知するためには,①ソート価格格納手段に,更新前の情報及び更新後の情報の双方を格納し,更新前後の販売価格の最安値を比較する,②ソート価格格納手段のうち販売価格の最安値を格納している領域に対して情報を更新する指示がされたか否かを監視するなど,様々な方法が考えられるのであって,引用発明1において,第2のファイルを備えることが必須の事項であるとはいえず,したがって,この点からも,原告の上記主張は理由がない。

(ウ) 原告は,上記(イ)の主張に引き続いて,「『販売価格の最安値が変更された場合に,当該ユーザに対し通知する通知手段を設ける』との構成に想到するためには,引用発明1に『ファイル14』とは別の第2のファイルを設けた上,同ファイルに格納される販売価格の最安値に対して引用例2記載の技術を適用することが必要になる。」と主張し,このことを前提として,「第2のファイルを設けた上,同ファイルに格納される販売価格の最安値に対して引用例2記載の技術を適用して,相違点3に係る本願発明の構成に想到することも,当業者にとって容易ではなかった」旨主張する。

しかしながら,第2のファイルを有する必要があるとの原告の主張に理由がないことは,上記(イ)のとおりであるから,原告の上記主張は,その前提を欠くものとして失当である。

加えて,審決は,「してみると,引用発明1において,消費者が最安値の最新の状況を常に把握できるようにするために,引用例2記載の発明の技術を適用して,ユーザが指定した商品について,販売価格の最安値が変更された場合に,当該ユーザに対し通知する通知手段を設けることは,当業者が容易に想到できたことである。」と説示するように,相違点3について判断するに当たり,原告の上記主張に係る「引用発明1に『ファイル14』とは別の第2のファイルを設けた上,同ファイルに格納される販売価格の最安値に対して引用例2記載の技術を適用する」との論理構成を用いているわけではないから,原告の上記主張は,審決が採用していない論理構成を前提として,審決の容易想到性判断を非難するものであり,失当である。

(エ) 原告は,「仮に,引用発明1に,本件要請が内在しているとしても,引用発明1における消費者は,『低価格順にソートされ最安値が最上位とされている情報』の『最新のもの』を閲覧することで,最安値の最新の状況を常に把握することができるのであるから,当業者は,本件要請を考慮して引用発明1を変形しようとは考えない。したがって,引用発明1に本件要請が内在していることは,引用発明1に第2のファイルを設けることの動機付けとはなり得ない。」旨主張する。

しかしながら,引用例2には,「顧客が何度も調べることなく,商品の価格の変更などの商品状況を把握できるようにするために,顧客がピックアップした商品の価格が変更された場合,価格の変更などの商品状況を顧客用端末装置上に通知すること」が開示されているから,引用発明1において,引用例2記載の発明の技術を適用して,ユーザが何度も調べることなく,最安値の最新の状況を常に把握することができるように変形しようとすることは,引用発明1及び引用例2に接した当業者にとって,格別に困難なことではない。

また,第2のファイルを有する必要があるとの原告の主張に理由がないことは,上記(イ)のとおりであるから,引用発明1に本件要請が内在していることが第2のファイルを設けることの動機付けとなるか否かは,相違点3についての審決の判断の当否に影響を及ぼすものではない。

したがって,原告の上記主張は失当である。

ウ(ア) 原告は,「審決は,『引用発明1において,消費者が最安値の最新の状況を常に把握できるようにするために』,どのように『引用例2記載の発明の技術を適用』すれば,『ユーザが指定した商品について,販売価格の最安値が変更された場合に,当該ユーザに対し通知する通知手段を設ける』との構成に想到し得るのかについて,具体的な理由を何ら示していない。」と主張する。

しかしながら,審決は,まず,引用発明1に,本件要請が内在することについて検討し,次に,本件要請が内在していることを考慮して,引用発明1に引用例2記載の発明の技術を適用することについて判断している。しかも,審決は,「消費者が最安値の最新の状況を常に把握できるようにするために」と説示するとおり,引用発明1に引用例2記載の発明の技術を適用するとき,ユーザにとって関心があり,その状況を把握しようとしている価格が,販売価格の最安値であることを示している。

そうすると,審決が,引用発明1に,どのように引用例2記載の発明の技術を適用するかについての具体的な理由を示していることは明らかであり,したがって,引用発明1に引用例2記載の発明の技術を適用して,当業者が相違点3に係る本願発明の構成に容易に想到することができたことについての具体的な理由も示しているといえるから,原告の上記主張は理由がない。

(イ) 原告は,「引用発明1は,第2のファイルを有しておらず,販売価格の最安値という情報をそもそも管理していないから,『ユーザにとって関心があり,その状況を把握しようとしている価格が,販売価格の最安値であることを示し』ただけでは,単なる発想の可能性を示したにとどまり,引用発明1に対して引用例2記載の発明の技術をどのように適用すれば,相違点3に係る本願発明の構成を得ることができるのか全く明らかではない。したがって,この点について審決が具体的な理由を示しているとはいえない。」と主張する。

しかしながら,本願発明の要旨には,販売価格の最安値が変更されたことを検知するために,具体的に,どのような情報を,どのように処理するかについての規定はない。

してみると,低価格順であって,最安値が最上位となっている情報を格納するソート価格格納手段が備えられている引用発明1に引用例2記載の発明の技術を適用するとき,ユーザにとって関心があり,その状況を把握しようとしている価格が,販売価格の最安値であることを示していれば,どのように適用するかについて十分具体的に示しているといえるから,原告の上記主張は失当である。

第4当裁判所の判断(相違点3についての判断の誤りについて)

1  原告の主張(1)について

原告は,審決が「引用発明1では,本件要請が内在することは明らかである。」と判断したことについて,「引用発明1においては,販売者が『最新の商品情報』を送ること及びその結果として商品検索システムに公開される情報が『常に最新のもの』になっていることと,消費者の利点とを結び付けて検討されていないのであるから,引用発明1に本件要請が内在するということはできない。」と主張するので,以下検討する。

(1)  引用例1(発明の名称・「商品検索システム」)には,次の各記載がある。

ア「【発明の属する技術分野】本発明は,消費者(ユーザ)に,商品について,販売店名,価格,サービスなどの商品情報を提供する商品検索システムに関するものである。」(段落【0001】)

イ「【従来の技術】従来,消費者がある商品を購入しようとするとき,商品の価格,商品購入後のアフターケア,商品の安全性などのサービスを考慮して,どの商店で購入するかを決める。従来においては,商品価格,サービスなどの商品情報は,広告,口コミなどから得るか,又は自分の足で探さなければならなかった。」(段落【0002】)

ウ「【発明が解決しようとする課題】上記従来の方法で得られる商品情報には限度があり,消費者は十分な商品情報を得た上で商品を購入することはできなかった。つまり,消費者にとって,簡単かつ確実に商品情報を得る手段はなかった。本発明は,消費者にとって,欲しい商品,価格又はサービスを簡単に探すことができる商品検索システムを提供することを目的とするものである。」(段落【0003】)

エ「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため,本発明のシステムは,各店舗に設置された商品管理システムと回線を介して接続され,また,パソコンネットワークを介して消費者端末と接続される。本発明のシステムは,受取手段と,加工手段と,送出手段を具備する。」(段落【0004】)

オ「データ加工手段は,受け取った商品情報を,例えば,各商品の種類ごとに価格順に並べるなどの,ユーザニーズに合ったデータ加工を行う。データを送出する手段は,パソコンネットワークを通じてユーザから要求があったときは,その要求に応じてデータ加工をした商品情報を消費者に提供する。

上記商品検索システムによれば,ユーザは,パソコンネットワークを介して商品情報を得ることができ,希望する価格又はサービスの商品をどの商店で購入することができるかを簡単に決定することができる。また各商店においては,一定のタイミングで自動的に商品管理システムから商品情報を送出するので,販売者は,格別な労力をかけずに最新の商品情報をシステムに提供し,消費者に対して広告をすることができる。」(段落【0005】~【0006】)

カ「商品検索システム1はインターネット回線6が接続される。このインターネット回線6には,消費者端末8(パソコン)が接続されている。」(段落【0008】)

キ「商品検索システム1では,受信部11で受信した商品情報をファイル14に格納する(ステップS2)。加工部12では,ファイル14に格納された商品情報を商品の種類ごとに区分けして価格の安い順番にソートする(ステップS3)。商品検索システム1は,この加工した情報をインターネット6上に公開する(ステップS4)。消費者からアクセスがあったときは,ファイル14に格納されたソート済みのデータから希望の商品に関する商品情報を選択して,インターネット6を介して消費者端末8に送信する(ステップS5)。

消費者は,受信した商品情報を商品購入時の参考にして,商品の購入を決めることができる。このとき,上記ステップS3における価格順のソートが行われていれば,ユーザのニーズに合った情報提供をできる。」(段落【0010】~【0011】)

ク「本システムは,販売者にとって以下の利点がある。販売者は,POSシステムにより自動的に最新の商品情報を商品検索システムに送ることができる。これにより,余計な手間を掛けずに常に最新の情報による商品の広告を出しているのと同じ効果を得られる。」(段落【0012】)

ケ「一方,本システムは,消費者にとって以下の利点がある。消費者は,ウインドウショッピングでは探せないものなど自分の知らない商品などの情報も入手できる。また,・・・自宅で商品を選択することができる。」(段落【0014】)

コ「【発明の効果】本発明によれば,消費者にとって,欲しい商品,価格又はサービスを簡単に探すことができる商品検索システムを得ることができる。」(段落【0019】)

(2)  上記(1)の各記載のとおり,引用発明1は,欲しい商品,その価格等に係る商品情報を得ようとする消費者が,ネットワークを介してこれを簡単に得ることができる商品検索システムを提供することを目的とするものであり,複数の販売者から一定のタイミングで商品情報を受け取り,これに消費者のニーズに合ったデータ加工(例えば,各商品の種類ごとに低価格順にソートするなどの加工)を加え,当該加工後の商品情報をインターネット上に公開し,消費者からアクセスがあった場合に,希望の商品に関する商品情報を消費者端末に送信するという商品検索システムである。これにより,販売者は,常に最新の商品情報による商品の広告を行うのと同じ効果を得ることができ,他方,消費者は,欲しい商品に係る商品情報を簡単に得ることができる。

このように,引用発明1は,販売者から,「常に最新の商品情報」を受け取り,このようにして受け取った「常に最新の商品情報」に対し,各商品の種類ごとに低価格順にソートするなどの加工を加えてインターネット上に公開し,消費者端末からのアクセスを可能にするものである(厳密には,商品情報は,各販売店から「一定のタイミング」で引用発明1の商品検索システムに送出されるのであるから,個々の販売店の商品情報に変化が生じた場合,その変化が生じた時点と,当該変化が生じた後の商品情報を商品検索システムが受け取り,これに低価格順にソートするなどの加工を加えて,消費者からのアクセスを可能とするまでの間,すなわち,商品検索システムによる商品情報の更新の時点までの間に,ある程度のタイムラグが生ずることは否めない。しかしながら,引用例1には,「このタイミングとしては,朝一番又は夜間などの,システムの負荷,回線の負荷の低い時間が好ましい。」(段落【0009】)との記載があって,少なくとも1日1回は各販売店から商品検索システムへの商品情報の送出が行われることが開示されているから,上記タイムラグは最大24時間程度であり,この程度であれば,「常に最新の商品情報(を受け取る)」ということに何ら妨げはないというべきである。)。

他方,商品の購入を考える消費者にとって,商品情報中,商品の価格が必須のものであることは自明の事項であり,さらに,特定の販売者のホームページ等ではなく,複数の販売者に係る商品情報を各商品の種類ごとに低価格順にソートするなどの加工を加えてインターネット上に公開する引用発明1の商品検索システムにアクセスする消費者のほとんどが,同種商品間における価格の比較,すなわち,同種商品中の最安値に係る情報を求めていることもまた,社会通念に照らし,自明の事項であるといえる。

以上からすると,引用発明1に本件要請が内在することは明らかであるというべきであるから,これと同旨の審決の判断に誤りはなく,原告の主張(1)は理由がない。

2  原告の主張(2)アについて

原告は,「『引用発明1では,本件要請が内在することは明らかである。』との審決の判断は誤りであるから,これを前提にして,『引用発明1において,消費者が最安値の最新の状況を常に把握できるようにするために,引用例2記載の発明の技術を適用』するとの審決の論理構成は誤りである。」と主張するが,上記1のとおり,引用発明1に本件要請が内在することは明らかであるとの審決の判断に誤りはないから,原告の上記主張は,その前提を欠くものとして失当である。

3  原告の主張(2)イについて

原告は,「引用例2の記載によれば,同引用例が開示する『商品の価格が変更された場合』に顧客に通知するとの構成は,複数の販売者が存在することを想定しておらず,ある一つの販売者が採用する商品の価格に変更があった場合に顧客に通知するとの構成であると理解すべきである。したがってまた,引用例2が,複数の販売者の存在を前提とする『最安値』の概念を開示していないことは明らかである。」として,「引用発明1に引用例2が開示する構成を適用した場合,当業者であれば,ある一つの販売店が採用する商品の価格に変更があった場合に顧客に通知するとの構成に想到するはずであり,『販売価格の最安値が変更された場合に,当該ユーザに対し通知する』との相違点3に係る本願発明の構成に容易に想到することはできない。」と主張するので,以下検討する。

(1)  引用例2(発明の名称・「通信販売方法」)には,次の各記載がある。

ア「【発明の属する技術分野】本発明は,通信を利用する商品の販売において,顧客が購入を考えている商品の価格や在庫等の情報を顧客に通知する通信販売方法に関する。」(段落【0001】)

イ「本発明の目的は,通信回線を用いた通信販売システムにおいて,顧客が毎回商品を探し直すことなく,以前検討した商品を検討できる通信販売方法を提供することにある。また,本発明の他の目的は,何度も通信回線を用いて商品の状況を調べる必要のない,検討した商品の在庫が少ない場合や特別価格商品となったときに連絡することができる通信販売方法を提供することにある。特に,顧客が検討した商品の情報を登録することによって,顧客の潜在的な要望に適応した商品の情報を通知することにある。」(段落【0007】)

ウ「上記他の目的を達成するために,通信回線を用いて通信販売の商品を提示するための手段を有し,顧客情報を格納するデータベースと,商品の価格や在庫などの情報を格納するデータベースを用い,顧客が商品を見ているときに,購入候補として商品をピックアップし,ピックアップした商品を特定する情報を,前記顧客情報を格納するデータベースに格納し,ピックアップした商品の価格が変更されたとき,および在庫が少なくなった際には,顧客に商品の情報を通知する。

また,上記他の目的を達成するために,顧客情報を格納するデータベースと,商品の価格や在庫などの情報を格納するデータベースを用い,顧客が商品を見ているときに,購入候補として商品をピックアップする代わりに,顧客がピックアップした商品を通知したときに,ピックアップした商品を特定する情報を前記顧客情報に格納し,ピックアップした商品の価格が変更されたとき,および在庫が少なくなった際には,顧客に商品の情報を通知する。」(段落【0009】~【0010】)

エ「【実施例】まず,本発明にかかる通信販売方法の第1の実施例について説明する。図1は,通信販売のシステム全体の構成およびその処理フローを示す図である。本発明にかかる・・・通信販売のシステムは,商品選択処理部1と,商品情報処理部2と,商品案内処理部3と,顧客情報を格納する顧客情報データベース4と,商品情報を格納する商品情報データベース5と,通信回線を利用できる顧客用端末装置または顧客が指示するための顧客用入力装置部6と,さらに通信販売側の端末装置または通信販売側から指示するための通信販売側入力装置7から構成される。」(段落【0018】)

オ「図4は,図1に示した通信販売システムの処理フロー図である。・・・ステップS12からステップS13が商品案内処理部3での処理を示している。」(段落【0024】)

カ「通知判定処理部31では,商品情報を顧客に通知するかどうかについて判定する(S12)。通知処理部32では,ステップS12において,商品情報を通知すると判定した顧客に商品情報を通知する(S13)。ステップS12とステップS13の処理については,図11を用いて後に詳細に説明する。」(段落【0033】)

キ「図11は,図4に示した処理フローのステップS12,ステップS13における商品案内処理部3の処理フロー図である。この処理では顧客情報データベース4および・・・商品情報データベース5を用いる。まず,通知判断処理部31は,顧客情報データベース4に格納された顧客情報を読み出す(S61)。次いで,通知判断処理部31は,読み出した顧客情報データベース4のピックアップテーブル43から,顧客がピックアップした商品および注文した商品を判別し(S62),それぞれのピックアップ商品および注文商品を通知商品とするか否かの処理(S63,S64)を繰り返す。すなわち,通知判断処理部31は,商品情報データベース5の商品情報データ53を用いて顧客がピックアップした商品または注文した商品を通知商品とするかどうかを,価格の変更の有無を示す特価情報536および,商品情報の在庫の状況を在庫数537と生産予定538と在庫の基準値539から判定する(S63)。通知判断処理部31が通知商品であると判定した場合は,通知商品として商品情報を蓄積する(S64)。

通知処理部32は,通知判断処理部31が判断した通知商品があるかどうかを商品情報データベース53の在庫数537,生産予定538,在庫の基準値539を参照して判定する(S65)。通知商品がある場合は,通知処理部32は,商品価格の変更があるか,在庫が少ないなどの商品の状況を顧客に通知するための処理を行う(S66)。この通知は,例えば,手紙,FAX,電子メールなどを用いて通知してもよいし,電話通知の場合は,担当者に商品状況が変更したことを顧客に知らせるための指示を出すようにしもよい。また,顧客が次回通信回線を用いて通信販売システムに接続してきたときに,まず,これらの通知商品の情報を提示する様に設定することもできる。

この実施例によれば,・・・顧客はもう一度商品を最初から検討する必要なく,購入商品を決めることができる。また,顧客情報データベース4のピックアップテーブル43の商品について,商品の在庫状況や価格の変更などの商品状況を顧客用端末装置6上に通知するので,顧客は何度も商品の状況を調べることなく,商品状況を把握することができる。」(段落【0050】~【0052】)

ク「次に,本発明にかかる通信販売方法の第5の実施例について説明する。実施例5では,図26から図35を用いて,通知方法および通知時期を登録できる通信方法について説明する。また,この実施例において,ピックアップした商品の通知方法および,通知時期の情報を登録する通信方法について説明する。」(段落【0077】)

ケ「図28は,通知方法の画面表示の例である。通知方法として,郵送,電話,FAX,電子メールなどがある。・・・。

図29は,通知時期の画面表示例である。通知時期として,カタログの有効期限前に検討するための『カタログ有効期限前1カ月』,商品価格を変更したときの『商品価格変更時』,商品の在庫数が少なくなったときの『在庫商品が少ない時』,直接日付けを指定する方法などがある。」(段落【0080】~【0081】)

コ「上記通知方法や通知時期は顧客の要請に基づいて登録することができる。・・・顧客が通知時期や通知方法を指定していない場合は,任意に通知時期や通知方法を決めることができる。」(段落【0086】)

サ「次に,図34と図35を用いて,商品毎に通知方法と通知時期を指示する通信販売方法について説明する。・・・。

図35は,顧客情報処理部(登録)16における処理のフロー図である。・・・商品を提示し,ピックアップ商品または注文商品の指示があると(S51),その商品の通知方法を登録するかどうかを顧客に対して設問し(S517),登録する場合は,通知方法の登録画面を表示して,入力された通知方法を商品に登録し,通知方法番号445を番号付けして通知情報テーブル44に格納する(S5171)。・・・。さらに,ピックアップもしくは注文指示があったときにはその商品を顧客に対して提示し,その商品の通知時期を登録するかどうかについて設問する(S518)。登録する場合は,通知時期の登録画面を表示して,入力された通知時期を商品に登録し,通知時期番号446を番号付けして通知情報テーブル44に格納する(S5181)。・・・。

ステップS51で,ステップS517からステップS519を繰り返し実行するので,各商品について通知方法や通知時期を登録することができる。・・・また,通知方法や通知時期を指示していない場合は,任意に通知方法や通知時期を決定する。この方法によれば,通知時期や通知方法に番号付けし,商品毎に通知時期や通知方法を指示できるので,指示した時期に,指示した商品の情報を得ることができる。」(段落【0088】~【0090】)

シ「【発明の効果】本発明の通信販売方法によれば,次の効果が得られる。

(1)・・・。

(2)興味をもったり購入候補としてピックアップした商品を顧客情報として格納するので,ピックアップした商品の価格が変更されたとき,および在庫が少なくなった際には,顧客情報からピックアップしているかどうかを調べることができ,ピックアップしている際は,商品の情報を通知することができる。したがって,何度も通信回線を用いて商品の状況を調べることなく,商品の情報を得ることができる。

(3)顧客が通知したピックアップした商品を顧客情報として格納するので,ピックアップした商品の価格が変更されたとき,および在庫が少なくなった際には,顧客情報からピックアップしているかどうかを調べることができ,ピックアップしている際は,商品の情報を通知することができる。したがって,何度も通信回線を用いて商品の状況を調べることなく,商品の情報を得ることができる。」(段落【0096】~【0098】)

なお,図1(通信販売のシステム全体の処理フロー図),図4(通信販売の処理フロー図),図12(第2の実施例にかかる通信販売のシステム全体の処理フロー図(引用例2に係る平成8年8月8日付け手続補正書により補正されたもの)),図26(通信販売のシステム全体の処理フロー図)及び図36(同)には,いずれも,「通信販売社」以外の販売者から商品情報を受け取る仕組みについての図示はなく,その他,発明の詳細な説明にも,「通信販売社」以外の販売者から商品情報を受け取る仕組みについての記載又は示唆はない。

(2)  上記(1)のとおり,引用例2には,「通信販売社」以外の販売者から商品情報を受け取る仕組みについての記載も示唆もなく,かえって,上記(1)の各記載によれば,引用例2に記載された通信販売方法は,通信販売事業を行う者が自己の販売する商品について,消費者の便宜,効果的な顧客管理等を考慮して採用するものであると認められるから,原告が主張するとおり,引用例2は,複数の販売者が存在することを前提としておらず,したがって,複数の販売者があって初めて成り立つ「最安値」の概念を開示し,又は示唆するものではないというべきである。

しかしながら,上記(1)のとおり,引用例2には,顧客の要請に基づき,商品ごとに,「商品の価格が変更されたとき」など任意の通知時期に,任意の通知方法により,顧客に対し,商品情報を通知するとの構成が開示されているところである。

他方,引用発明1には,上記1のとおり,本件要請が内在するものであるから,消費者が最安値の最新の状況を常に把握することができるようにするため,引用例2に開示された,任意の通知時期に,任意の通知方法により,顧客に対し商品情報を通知するとの構成を,その「任意の通知時期」を「販売価格の最安値が変更されたとき」として,引用発明1に適用し,「ユーザが指定した商品について,販売価格の最安値が変更された場合に,当該ユーザに対し通知する通知手段」(相違点3に係る本願発明の構成)を得ることは,当業者であれば,容易に想到することができたものと認めるのが相当である。この場合に,引用例2に記載された発明自体が「最安値」の概念を有するものでないとしても,引用発明1に内在する本件要請に照らして,引用例2に開示された構成の「任意の通知時期」を「販売価格の最安値が変更されたとき」とすることは,当然に選択されるところであるから,「引用発明1に引用例2が開示する構成を適用した場合,当業者であれば,ある一つの販売店が採用する商品の価格に変更があった場合に顧客に通知するとの構成に想到する」との原告の主張を採用することはできない。

(3)  原告は,引用発明1に「ユーザが指定した商品について,販売価格の最安値が変更された場合に,当該ユーザに対し通知する通知手段」を設けて機能させるためには,販売価格の最安値が変更されたことを検知することが必要であり,そのためには,販売価格の最安値を時系列的に記憶して比較することができるよう,各販売者の販売価格を格納するファイルとは別に,各時点の販売価格の最安値を格納する第2のファイルを設ける必要がある旨主張する。

ア しかしながら,本願発明の要旨には,「販売価格の最安値が変更されたことを検知するため,販売価格の最安値を時系列的に記憶して比較することができるよう,各販売者の販売価格を格納するファイルとは別に設けられた第2のファイル」についての規定は全くないのであるから,仮に,原告の上記主張が,当該「第2のファイル」を設けることが,相違点3に係る本願発明の構成要件であるとの趣旨であれば,本願発明の要旨に基づかないものとして失当であるといわざるを得ない。

イ また,仮に,原告の上記主張の趣旨が,「ユーザが指定した商品について,販売価格の最安値が変更された場合に,当該ユーザに対し通知する通知手段」を,引用発明1について設けて機能させるために,上記「第2のファイル」を設けることが,技術上必須であるとの趣旨であるとしても,そのような事実を認めるに足りる証拠はなく,かえって,平成15年4月1日付け手続補正書(甲4)による補正及び本件補正の後の本件出願に係る明細書(甲3ないし5)に,販売価格の最安値が更新されたことの検知に係る本願発明の技術手段に関し次の記載があることにかんがみれば,これと同様の技術手段を採用することが可能でないとはいえないから,原告の上記主張を採用することはできない。

すなわち,上記本件出願に係る明細書には,以下の記載がある。

「通知条件を判断するタイミングとしては,例えば販売者対応手段11により価格記憶手段10に記憶する販売価格が登録・更新されたタイミングが考えられる。また,例えば順位記憶手段12により価格順位情報が登録・更新されたタイミングでもよい。

販売価格が登録・更新されたタイミングで判断する場合,変動通知手段151は,販売価格が登録・更新された商品を前記所定の商品とし,当該商品に対応する価格順位情報を順位記憶手段12から読み出す。このとき読み出す価格順位情報は,まだ登録・更新された販売価格については反映されていない(更新されていない)ものとする。次に,前記読み出した価格順位情報から低価格順における最上位の販売価格(更新前最安値)を抽出する。そして,前記登録・更新された販売価格と,前記抽出した更新前最安値を比較することにより,通知条件が満たされているかどうかを判断する。

例えば,前記登録・更新された販売価格の方が,前記抽出した更新前最安値よりも低価格であった場合,当該商品について最安値が変動したことという通知条件が満たされたと判断する。また,例えば,前記登録・更新された販売価格を,前記抽出した更新前最安値により除算した値が所定値以上であった場合,当該商品について最安値の変動率が所定値以上となったという通知条件が満たされたと判断する。

なお,価格順位情報が登録・更新されたタイミングで判断する場合であれば,更新前の価格順位情報と更新後の価格順位情報を比較することにより,通知条件が満たされているかどうかを判断することができる。」(段落【0062】~【0065】)

ウ 以上のとおり,原告の上記主張は,いずれにせよ,これを採用することはできず,したがってまた,第2のファイルを設けることを前提とする原告のその余の各主張については,いずれも,その前提を欠くものとして失当であるというべきである。

4  原告の主張(2)ウについて

原告は,「審決は,『引用発明1において,消費者が最安値の最新の状況を常に把握できるようにするために』,どのように『引用例2記載の発明の技術を適用』すれば,『ユーザが指定した商品について,販売価格の最安値が変更された場合に,当該ユーザに対し通知する通知手段を設ける』との構成に想到し得るのかについて,具体的な理由を何ら示していない。」と主張する。

(1)  しかしながら,審決は,引用例2に開示された技術事項を認定し,また,引用発明1に本件要請が内在することを認定した上,「引用発明1において,消費者が最安値の最新の状況を常に把握できるようにするために,引用例2記載の発明の技術を適用して,ユーザが指定した商品について,販売価格の最安値が変更された場合に,当該ユーザに対し通知する通知手段を設けることは,当業者が容易に想到できたことである。」と判断しているのであるから,引用発明1に引用例2記載の発明の技術を適用して相違点3に係る本願発明の構成を得ることが,当業者にとって容易に想到することができたものであるとの理由を具体的に説示しているというべきである。

(2)  なお,引用発明1が第2のファイルを有していないことを理由として,審決が具体的な理由を示していないとする原告の主張は,上記3(3)において説示したとおりであるから,その前提を欠くものとして失当である。

5  結論

よって,原告の主張する審決取消事由は理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。

(裁判長裁判官 石原直樹 裁判官 古閑裕二 裁判官 浅井憲)

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