知財高等裁判所 平成19年(行ケ)10246号 判決 2007年12月20日
原告
千住金屬工業株式会社
訴訟代理人弁理士
広瀬章一
入交孝雄
被告
株式会社日本スペリア社
訴訟代理人弁理士
濱田俊明
主文
1 特許庁が無効2005-80288号事件について平成19年5月29日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文第1項と同旨
第2事案の概要
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「鉛フリーはんだ合金」とする特許第3622788号(平成14年6月25日出願(優先日:平成13年6月28日),平成16年12月3日設定登録。以下「本件特許」という。)特許の特許権者である。
被告は,平成17年10月5日,本件特許に対して無効審判請求をし,特許庁は,上記審判請求を無効2005-80288号事件として審理した結果,平成18年9月25日,請求項1及び2に係る発明についての審判の請求は成り立たない,請求項3及び4に係る発明についての特許を無効とする,との審決(以下「前審決」という。)をした。
原告は,平成18年11月2日,前審決中,請求項3及び4に係る発明についての特許を無効とするとの部分の取消しを求める訴えを提起した。知的財産高等裁判所は,この訴えを平成18年(行ケ)第10496号事件として審理し,原告が同年12月6日に訂正審判請求をしたため(訂正2006-39194号事件),特許法181条2項に基づき,前審決の上記部分を取り消す決定をした。
上記取消決定により,特許庁は,無効審判請求について再度審理することとなり,特許法134条の3第5項によって原告が上記訂正審判請求書添付の訂正明細書を援用したものとみなされ,平成19年5月29日,訂正請求を認めた上で,「特許第3622788号の請求項3,4に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をした。
原告は,平成19年7月5日,本件審決の取消しを求める本件の訴えを提起した後,同月20日に訂正審判請求(以下「本件訂正審判請求」という。)をし,特許庁は,同年10月31日,これを認める審決(甲第35号証。以下「本件訂正審決」という。)をし,同年11月12日,本件訂正審決の謄本が原告に送達された。
2 本件審決の理由の要旨
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,平成18年12月6日にされた訂正審判請求の審判請求書添付の訂正明細書を援用したものとみなされた訂正請求(下記(1)の特許請求の範囲を下記(2)のとおりに訂正するもの)を認めた上で,訂正後の請求項3に係る発明は,特許第3036636号公報(甲第3号証)記載の発明に特開平10-144718号公報(甲第2号証)記載の事項を組み合わせることにより,訂正後の請求項4に係る発明は,国際公開第99/48639号パンフレット(甲第4号証)記載の発明に甲第2号証記載の上記事項を組み合わせることにより,それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから,訂正後の請求項3及び4に係る発明についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから,これらの特許を無効とすべきであるというものである。
(1) 上記訂正前の特許請求の範囲
【請求項3】
Cu0.1~3質量%,P0.001~0.1質量%,Ni0.5質量%以下,残部Snからなることを特徴とする,ゼロ・クロス時間で評価されるはんだぬれ性に優れた鉛フリーはんだ合金(ただし,Cu1.2質量%,添加したその他元素P0.002質量%,Pを含むその他元素合計0.007質量%,残部Snから成るはんだボールを除く)。
【請求項4】
Cu0.1~3質量%,P0.001~0.1質量%,Ge0.001~0.1質量%,Ni0.5質量%以下,残部Snからなることを特徴とする,ゼロ・クロス時間で評価されるはんだぬれ性に優れた鉛フリーはんだ合金(ただし,Cu1.2質量%,添加したその他元素P0.002質量%,Pを含むその他元素合計0.007質量%,残部Snから成るはんだボールを除く)。
(2) 上記訂正後の特許請求の範囲(訂正部分を下線で示す。)
【請求項3】
Cu0.1~3質量%,P0.001~0.05質量%,Ni0.3質量%以下,残部Snからなることを特徴とする,ゼロ・クロス時間で評価されるはんだぬれ性に優れた鉛フリーはんだ合金(ただし,Cu1.2質量%,添加したその他元素P0.002質量%,Pを含むその他元素合計0.007質量%,残部Snから成るはんだボールを除く)。
【請求項4】
Cu0.1~3質量%,P0.001~0.05質量%,Ge0.001~0.1質量%,Ni0.3質量%以下,残部Snからなることを特徴とする,ゼロ・クロス時間で評価されるはんだぬれ性に優れた鉛フリーはんだ合金(ただし,Cu1.2質量%,添加したその他元素P0.002質量%,Pを含むその他元素合計0.007質量%,残部Snから成るはんだボールを除く)。
3 本件訂正審決による訂正
本件訂正審決は,上記2(1)の特許請求の範囲を次のとおりに訂正する(訂正部分を下線で示す。)ことを認めたものである。
【請求項3】
Cu0.1~3質量%,P0.001~0.01質量%,Ni0.3質量%以下,残部Snからなることを特徴とする,ゼロ・クロス時間で評価されるはんだぬれ性に優れた鉛フリーはんだ合金(ただし,Cu1.2質量%,添加したその他元素P0.002質量%,Pを含むその他元素合計0.007質量%,残部Snから成るはんだボールを除く)。
【請求項4】
Cu0.1~3質量%,P0.001~0.01質量%,Ge0.001~0.1質量%,Ni0.3質量%以下,残部Snからなることを特徴とする,ゼロ・クロス時間で評価されるはんだぬれ性に優れた鉛フリーはんだ合金(ただし,Cu1.2質量%,添加したその他元素P0.002質量%,Pを含むその他元素合計0.007質量%,残部Snから成るはんだボールを除く)。
第3審決取消事由
本件審決は,本件発明の要旨を上記第2の2(2)のとおり認定し,これに基づき,上記第2の2のとおり,本件特許の請求項3,4に係る発明についての特許を無効とすべきであると判断したが,本件訂正審決が確定したことによって,特許請求の範囲が上記第2の3のとおりに減縮されたから,本件審決は,結果的に本件発明の要旨の認定を誤ったことになり,取消しを免れない。
第4当裁判所の判断
1 甲第35号証によると,本件訂正審決は,本件訂正審判請求に係る訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,実質上特許請求の範囲を拡張,変更するものでもなく,新規事項を追加するものでもないとした上,独立特許要件も満たすとして,本件訂正を認めたものである。
したがって,本件訂正審決が確定した結果,本件特許に係る請求項の記載は前記第2の3のとおりとなり,本件審決は前記第2の2(2)の記載を前提として発明の要旨認定をしていたのであるから,本件審決がした本件発明の要旨認定は,結果的に誤ったものとなるというべきである。
2 以上のとおり,審決取消事由は理由があるから,本件審決は取り消されるべきものである。よって,原告の請求は理由があるから本件審決を取り消すこととし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法62条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中信義 裁判官 古閑裕二 裁判官 浅井憲)