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知財高等裁判所 平成19年(行ケ)10250号 判決 2008年9月29日

原告

アプライド マテリアルズ インコーポレイテッド

訴訟代理人弁護士

古城春実

堀籠佳典

玉城光博

訴訟代理人弁理士

小橋正明

被告

株式会社東京精密

訴訟代理人弁理士

松浦憲三

八幡宏之

松村潔

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1請求

特許庁が無効2006-80075号事件について平成19年2月28日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

1  本件は,原告が特許権者である特許第3510622号(発明の名称「終点検出方法およびシステム」,請求項の数20)の請求項1ないし20について被告が無効審判請求をしたところ,特許庁が平成18年12月7日付けでなされた訂正請求を認めた上,これを無効とする旨の審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。

2  争点は,上記訂正後の請求項1ないし20に係る発明が,下記甲13発明・甲16発明・甲22発明(請求項ごとの詳細は後述)との関係で進歩性(特許法29条2項)を有するか,である。

・ 甲13発明 特開平7-52032号公報(発明の名称「ウエハ研磨方法及びその装置」,出願人住友金属鉱山株式会社,公開日平成7年2月28日,甲13。以下「甲13公報」といい,そこに記載された発明を「甲13発明」という。)

・ 甲16発明 特開平5-80201号公報(発明の名称「硫黄原子含有ポリウレタン系プラスチックレンズ」,出願人三井東圧化学株式会社,公開日平成5年4月2日,甲16。以下「甲16公報」といい,そこに記載された発明を「甲16発明」という。)

・ 甲22発明 特開平5-309558号公報(発明の名称「貼り合わせウェーハの研磨方法」,出願人コマツ電子金属株式会社,公開日平成5年11月22日,甲22。以下「甲22公報」といい,そこに記載された発明を「甲22発明」という。)

第3当事者の主張

1  請求の原因

(1)  特許庁における手続の経緯

原告は,平成7年3月28日及び平成8年2月22日の優先権(いずれも米国)を主張して平成8年3月28日になした原出願(特願平8-74976号)からの分割出願として,平成15年2月19日,名称を「終点検出方法およびシステム」とする発明について特許出願(特願2003-41566号)をし,平成16年1月9日に特許第3510622号として設定登録を受けた(請求項の数20。以下「本件特許」という。特許公報は甲1)。

これに対し被告が平成18年4月24日付けで本件特許の請求項1ないし20について無効審判請求を行ったところ,特許庁は同請求を無効2006-80075号事件として審理し,その中で原告は平成18年12月7日付けで特許請求の範囲(請求項1と11)の変更を内容とする訂正請求(以下「本件訂正」という。)をしたが,特許庁は,平成19年2月28日,本件訂正を認めた上,「特許第3510622号の請求項1ないし20に係る発明についての特許を無効とする。」旨の審決をし,その謄本は平成19年3月12日原告に送達された。

(2)  発明の内容

本件訂正後の特許請求の範囲は,請求項1ないし20から成るが,その内容は次のとおりである(下線部は本件訂正部分。以下,請求項ごとに順に「本件発明1」ないし「本件発明20」といい,これらを合わせて「本件発明」という。)。

・ 【請求項1】  CMPによるウエハの研磨の最中に使用する終点検出方法であって,前記方法は,

研磨表面,及び上面及び下面を有する中実な透明物質のウィンドウを有する研磨パッドで前記ウエハを研磨するステップであり,ここで,

(i) 前記ウィンドウは,前記研磨パッドの一部であって,光ビームに対して少なくとも部分的に透過性を有する,前記研磨パッドの前記一部を備え,又は

(ii) 前記ウィンドウは,前記パッド内に形成されたプラグであって,光ビームに対して部分的に透過性を有するプラグを備える,ステップと,

前記研磨パッド内の前記ウィンドウを通して,検出光ビームを研磨されるウエハのウエハ表面に透過するステップと,

前記ウエハ表面で反射され,前記研磨パッド内の前記ウィンドウを通過した検出光ビームの反射光を受けるステップと,

前記ウエハ表面で反射された検出光ビームの反射光を使用して,研磨終点を決定するステップと

を含む方法。

・ 【請求項2】 前記研磨するステップは,ポリウレタンから作られたウィンドウを有する研磨パッドで研磨するステップを含む,請求項1に記載の方法。

・ 【請求項3】 前記研磨するステップは,添加物を有するポリウレタンを備える非透過性部分を有する研磨パッドで研磨するステップを含む,請求項2に記載の方法。

・ 【請求項4】 前記ウィンドウは上面を有し,前記研磨表面と前記上面とは同一平面上にある,請求項1に記載の方法。

・ 【請求項5】 前記研磨パッドの底面は,前記ウィンドウに調心され,かつ前記ウィンドウに伸びる取り除かれた部分を含む,請求項1に記載の方法。

・ 【請求項6】 研磨パッドは,研磨面を有する第1の層と,研磨面と反対側の第2の層とを含む,請求項1に記載の方法。

・ 【請求項7】 前記プラグは,前記第1の層内に位置する,請求項6に記載の方法。

・ 【請求項8】 前記ウィンドウは,完全に前記研磨表面と前記研磨パッドの底面との間に配置される,請求項1に記載の方法。

・ 【請求項9】 前記反射光を使用するステップは,周期的な干渉信号を検出するステップを含む,請求項1に記載の方法。

・ 【請求項10】 前記反射光を使用するステップは,周期的な干渉信号によって現れるサイクルの数を計数するステップを含む,請求項9に記載の方法。

・ 【請求項11】 ウエハのCMP研磨装置と共に使用する終点検出システムであって,前記システムは,

研磨表面,及び上面及び下面を有する中実な透明物質のウィンドウを有する研磨パッドであり,ここで,

(i) 前記ウィンドウは,前記研磨パッドの一部であって,光ビームに対して少なくとも部分的に透過性を有する,前記研磨パッドの前記一部を備え,又は

(ii) 前記ウィンドウは,前記パッド内に形成されたプラグであって,光ビームに対して部分的に透過性を有するプラグを備える,研磨パッドと,

前記研磨パッド内の前記ウィンドウを通して,検出光ビームを研磨されるウエハのウエハ表面に透過する光源と,

前記ウエハ表面で反射され,前記研磨パッド内の前記ウィンドウを通過した検出光ビームの反射光を受け,前記ウエハ表面で反射された検出光ビームの反射光を使用して,研磨終点を決定する検出器と

を備えるシステム。

・ 【請求項12】 前記ウィンドウは,ポリウレタンから作られている,請求項11に記載のシステム。

・ 【請求項13】 前記研磨パッドは,添加物を有するポリウレタンを備える非透過性部分を有する,請求項12に記載のシステム。

・ 【請求項14】 前記ウィンドウは上面を有し,前記研磨表面と前記上面とは同一平面上にある,請求項11に記載のシステム。

・ 【請求項15】 前記研磨パッドの底面は,前記ウィンドウに調心され,かつ前記ウィンドウに伸びる取り除かれた部分を含む,請求項11に記載のシステム。

・ 【請求項16】 研磨パッドは,研磨面を有する第1の層と,研磨面と反対側の第2の層とを含む,請求項11に記載のシステム。

・ 【請求項17】 前記プラグは,前記第1の層内に位置する,請求項16に記載のシステム。

・ 【請求項18】 前記ウィンドウは,完全に前記研磨表面と前記研磨パッドの底面との間に配置される,請求項11に記載のシステム。

・ 【請求項19】 前記検出器は,周期的な干渉信号を検出する,請求項11に記載のシステム。

・ 【請求項20】 前記検出器は,周期的な干渉信号によって現れるサイクルの数を計測する,請求項19に記載のシステム。

(3)  審決の内容

ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりであり,その理由の要点は,本件発明1,4ないし11,14ないし20はいずれも甲13発明・甲22発明と周知技術に基づいて,本件発明2・3及び12・13はいずれも甲13発明・甲16発明・甲22発明と周知技術に基づいて,それぞれ容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許を受けることができない,というものである。

イ なお,審決が認定した甲13発明・甲22発明・甲16発明の内容は,以下のとおりである。

・ 甲13発明

「ウエハの研磨の最中に使用する終点検出方法であって、前記方法は、

研磨表面を有し、研磨布窓内に透明窓材が配される研磨布で前記ウエハを研磨するステップであり、ここで、

前記透明窓材は、定盤の貫通孔に嵌め込まれており、

前記研磨布内に配される前記透明窓材を通して、検出光を研磨されるウエハのウエハ研磨面に透過するステップと、

前記ウエハ研磨面で反射され、前記研磨布内に配される前記透明窓材を通過した検出光の反射光を受けるステップと、

前記ウエハ研磨面で反射された検出光の反射光を使用して、研磨終点を決定するステップと

を含む方法。」

・ 甲22発明

「貼り合わせウェーハをマウントプレートに貼着し、ポリシングパッドによる研磨中に使用する終点検出方法であって、ポリシングパッド、ポリシングパッドが貼付されたプラテン、マウントプレートを透明体とし、プラテン側からマウントプレート側へ光を照射するもの。」

・ 甲16発明

「透明なポリウレタン系プラスチックレンズ。」

(4)  審決の取消事由

しかしながら,審決は,以下のとおり,本件発明の進歩性についての判断を誤ったものであるから,違法として取り消されるべきである。

ア 取消事由1(甲13発明の認定の誤り及び本件発明1との相違点の看過)

甲13発明は,①切り抜き穴としての「窓」は研磨布(研磨パッド)に設けられており,②定盤の貫通孔に嵌め込まれる透明窓材は,研磨布の一部を構成するものではなく,定盤に研磨布が張り付けられた状態においても研磨布「窓」内の部分的領域を占めるにすぎない。

一方,本件発明1においては,①’切り抜き穴としての「窓」は存在せず,②’「上面及び下面を有する中実な透明物質のウィンドウ」は,研磨パッドの一部であるか又はプラグとして研磨パッド内に形成されたものである。

このような本件発明1の構成を採ることで,甲13発明とは異なり,「ウィンドウ」とウエハ研磨面との間に,「レーザービームの有害な散乱を生じさせるスラリー40はほとんど存在しない。」,「プラグ42を通ることによるレーザビームの弱化は最小になる。」という顕著な作用効果を有し(本件明細書〔甲1〕の段落【0027】~【0029】参照),さらに,透明窓材等がウエハを損傷するリスクもなくすことができる。

しかし,審決は,本件発明1と甲13発明との相違点として,上記の点を明確に認定しておらず,かかる認定をしなかった審決には,甲13発明の認定の誤り及び本件発明1との相違点を看過した誤りがあり,その誤りが本件発明1の容易想到性の判断に影響を及ぼすことは明らかである。

イ 取消事由2(甲22発明の認定の誤り)

(ア) 審決は,甲22発明を,前記のとおり「貼り合わせウェーハをマウントプレートに貼着し,ポリシングパッドによる研磨中に使用する終点検出方法であって,ポリシングパッド,ポリシングパッドが貼付されたプラテン,マウントプレートを透明体とし,プラテン側からマウントプレート側へ光を照射するもの。」(審決12頁11行目~14行目)と認定した。

しかし,そもそも甲22公報にはCMPの技術は何ら開示されておらず,また,同公報に開示された発明はポリシングパッドを構成要素として含むものでもない。甲22公報が示しているのは,ポリッシングではなく,ラッピングに関する技術である。そして,そこで「ポリシングパット」と呼ばれているものは,正確には,「パッド」を持たない「(ラッピング)プラテン」である。主な理由は以下のとおりである。

a 甲22発明の装置構成

甲22発明の装置構成は,一般的なCMP装置の構成と異なっている。すなわち,CMPでは,ウエハ全体における薄膜化・平坦化の状態をなるべく均一にするため,研磨パッドの直径はウエハのそれに比べて大きなものであることが通常である。また,スラリーを供給しやすくするために,一般的には直径のより大きい研磨パッドをウエハの下側に配置するのが一般的である。しかし,甲22発明の装置は,上記のいずれの点においても逆の構成になっている。

b 「ポリシングパッド1」にどうやってスラリーを保持させるかについての言及の不存在

甲22発明は,貼り合わせウェーハの屈折率より高い屈折率のスラリーを介して,所望の厚さに等しい波長の光を全反射角で貼り合わせウェーハに入射し,貼り合わせウェーハを透過した光を検出するまで研磨を行うことにより,従来精度管理が困難であったSOI半導体基板の研磨精度を容易に向上させることができる,というもので(段落【0013】),全反射現象を利用してウェーハの研磨終点を検出するというものである。よって,甲22発明の「ポリシングパッド1」の構造は,そこを通過するレーザ光の進行方向を一切変えないものでなければならない。さもなくば,本来は上部Si層(甲22公報の図2の11a)で反射すべきレーザ光の一部が,途中で進行方向を変えて,全反射角未満の角度で上部Si層に入射されこれを透過してしまい,甲22発明の終点検出を不可能にしてしまうからである。

しかるところ,甲22発明の「ポリシングパッド1」に,CMPの研磨パッドに必須なスラリー保持機能を持たせるべく,研磨側表面を発泡材で形成したりすれば,微細孔の存在ゆえにレーザ光が散乱してしまう。それにもかかわらず,甲22公報には,「ポリシングパッド1」にどうやってスラリーを保持させるのかにつき何ら言及がない。

なお,ラッピングの場合には,砥粒がプラテンに保持されることのみが必要とされるものではなく,砥粒の転動によっても研磨が行われるため,プラテンの表面は比較的平坦な表面とさせることが可能である。

c 「平坦化」や「鏡面仕上げ」に関する記載の不存在

CMPの重要な目的の一つは,「平坦化」や「鏡面仕上げ」であるところ,甲22公報には,これらについて示唆する記載が全く存在しない。

d 「ポリシングパッド1」が複合構成であることを説明・示唆する記載の不存在

甲22発明の「ポリシングパッド1」が,プラテンにパッドを貼り合わせた複合構成であることを説明・示唆する記載は,甲22公報に存在しない。

特に,甲22発明においては,「屈折率」が極めて重要な要素となっているので,仮にポリシングパッド1がプラテンとパッドからなる複合体である場合には,複合体を構成する各構成要素の屈折率について必ず何らかの説明がなされるはずである。しかし,そのような説明は甲22公報では一切なされていない。

また,甲22公報には,パッドをプラテンに接着するための接着剤について,何らの説明・図示もない。かかる接着剤は,光の屈折,反射にとって無視できない影響をもつ。ウエハとマウントプレートとの間の「ワックス層12」については,その存在が明確に示され,図2でも図示されていることをも考慮すれば,甲22発明の「ポリシングパッド1」が前記複合構成を有しているとは到底考えられない。

e 「ポリシングパッド1」は剛性を持った物体であること

甲22公報の段落【0007】の記載と図1,図2によれば,甲22発明においては,駆動軸に固着することができ,駆動軸の駆動によって回転するような剛性を持った物体が「ポリシングパッド1」と呼ばれており,そのような物体とはプラテンそのものである。

f プラテンのみでパッドを有しないものを「パッド」と称している例の存在

審決は,「プラテンのみでパッドを有さないものを『パッド』と称することは考えにくいこと。」(審決11頁18行~19行)とする。しかし,「ポリシング」と「ラッピング」とはパッドの有無等により区別するのが一般的であるものの,両語の用語例は,時として境界が曖昧であったり,オーバーラップしたりすることがあり,プラテンのみでパッドを有しないものを「パッド」と称している例(甲21:特開昭59-187456号公報,発明の名称「半導体基板の研摩方法」,出願人富士通株式会社,公開日昭和59年10月24日,以下「甲21公報」という。)が存在する。

g 「透明」ないし「透明体」であるCMPポリシングパッドの不存在

甲22発明の出願当時,甲22公報で言及されているような意味で「透明」ないし「透明体」であるCMPのポリシングパッドは存在しなかった。審決は以下の公開特許公報(甲27~29)を根拠に,甲22発明の出願当時,透明なポリシングパッドは周知であったと認定したが,以下のとおり誤りである。

甲27(特開昭61-76260号公報,発明の名称「研摩方法」,出願人キヤノン株式会社,公開日昭和61年4月18日,以下「甲27公報」という。)及び甲28(特開昭63-134162号公報,発明の名称「研磨加工法」,出願人松下電器産業株式会社,公開日昭和63年6月6日,以下「甲28公報」という。)は,光学ガラスの研磨技術に関するものであって,用いる研磨剤(スラリー)やポリシャ(研磨布)に要求される性能も半導体のCMPとは全く異なる。そして,ポリシャの材料として例示されているのは,それぞれ,不透明なポリシャとしての「合成樹脂又は軟質金属等のシート」からなるポリッシャー(甲27公報)と,透明なポリシャとしての「石英ポリッシャ」(甲28公報)である。

甲29(特開平5-102113号公報,発明の名称「Siウエハの鏡面加工方法」,出願人新日本製鐵株式会社,公開日平成5年4月23日,以下「甲29公報」という。)には,「地合指数が5~35の研磨布」が記載されるのみで,透明なポリシングパッドは記載されていない。

さらに,後述のように,シリコンはほぼ1μm以下の波長の光を吸収して透過しない性質を有するところ,一般的に,光学物質の屈折率が高くなると,短い波長の光を一層吸収する傾向がある。よって,シリコンより屈折率の高い「ポリシングパッド1」が,可視光線や1μm以下のレーザ光に対して「透明体」であるということは,技術常識としてありえない。

h シリコンより屈折率の高いポリマーの不存在

甲22発明が利用する全反射の条件が成立するためには,スラリー10の屈折率のみならず,「ポリシングパッド1」の屈折率も,シリコンの屈折率(3.42)より高いことが必須である。しかし,ポリウレタンを含めて,ポリマーの屈折率は通常,1.3~1.6程度であり,シリコンより屈折率の高いポリマーは存在しない。

i 「素子形成層の所定の厚さ近くまでSi単結晶層を研磨したもの」とする甲22公報の記載について

甲22公報において,研磨対象である貼り合わせウェーハは,既に「素子形成層の所定の厚さ近くまでSi単結晶層を研磨したもの」とされている(甲22公報,段落【0008】)が,かかる記述を根拠に,甲22発明が,ラッピングよりも高精度なポリシングの技術であるということはできない。

なぜなら,甲22発明は,平面研削盤を用いて荒研削と仕上げ研削という2段階の研削を行なった後の貼り合わせウェーハについて,その一方のSi単結晶層の厚さの大部分を研磨により除去し,1μmないしそれ以下の層を素子形成層として,高精度に,かつ能率よく均一な厚さに残す技術を提供しようとするものであるところ(段落【0002】,【0003】参照),1μm程度の膜厚に研磨するためには,必ずしもポリシングによることを必要とするものではなく,寸法を小さいスラリー砥粒を使用したラッピングを行うことによっても可能だからである。

なお,甲43(津和秀夫,肥田満「各種ラップによるSi単結晶の鏡面仕上-鏡面ラッピングに関する研究(第1報)-」精密機械34巻10号28頁,1968年〔昭和43年〕10月)においても,0.1μmの砥粒を使用してシリコンウェハにラッピングを行うことにより,梨地面ではなく傷の無い鏡面が得られたことが報告されている。

また,甲44(土肥俊郎ほか「半導体平坦化CMP技術」株式会社工業調査会発行)302頁には,ラッピングによってウエハ全体の厚さ精度をかなり出すことが可能であること,その後ポリシングをすることで,かえってその厚さ精度が壊れることがあることが記載されている。

(イ) また,そもそも甲22発明は,以下のとおり,引用発明としての適格を欠いており,これを引用発明とすることはできない。

a 引用発明の適格性

甲22発明は審決において発明として認定されているところ,特許法上,発明とは少なくとも「自然法則を利用した技術的思想の創作」であることが要求されている。そして,新規性及び進歩性の判断において引用発明を認定する場合には,特許法29条1項及び2項の規定により,引用発明は,まず,特許法上の「発明」であることを認定することが必要である。すなわち,引用発明として成立するためには,その引用文献に記載されている発明が特許法上の発明として成立するものでなければならない。引用文献に記載されている事項が単に希望的事項であったり,単なるアイデアであったり又は当業者が把握することが不可能な事項であった場合には,特許法上の発明とはいえず,したがって,引用発明とはなりえないものである。

しかるに被告は,当業者であれば適宜選択し得るという甲22発明の「ポリシングパッド1」の具体的な材質や表面構造について,後述のゲルマニウム(Ge)を除き,何ら具体的な例を挙げておらず,屈折率や表面構造の点から,甲22発明の「ポリシングパッド1」がCMP用の研磨パッドではありえないという原告の主張に対する反論を実質的に放棄した。

したがって,上記の点に関する被告の主張は当を得ないものである。

b 「ポリシングパッド1」について

上記のとおり,「ポリシングパッド1」の屈折率は,シリコンの屈折率(3.42)よりも高くなければならない。しかしながら,ポリウレタンを含めて,ポリマーの屈折率は通常,1.3~1.6程度であり,シリコンより屈折率の高いポリマーは存在しないことは,上記のとおりである。

(a) これに対し,被告は,「Siより高い屈折率を有する材料(たとえば,Geなど)は存在し,理論上,不可能とはいえない。」旨主張する。

被告がどのようなCMP用のポリシングパッドを念頭において,「理論上,不可能とはいえない。」と主張しているのかは不明であるが,シリコンより高い屈折率を有する材料を用いたCMPのポリシングパッドの存在など公知ではなかったという原告の主張に対する反論を放棄したことは間違いない。

のみならず,ゲルマニウムの光透過率特性の点から見ても,ゲルマニウムはCMP用のパッドであるという「ポリシングパッド1」の材料ではありえない。すなわち,以下の図1に示すように,ゲルマニウム(Ge)は約2μmから20μmの赤外線領域の光は透過させるが,それ以外の波長範囲の光は吸収する性質を有している。つまり,そのようなゲルマニウム(Ge)からなる「ポリシングパッド1」は,可視光線や1μm以下の波長のレーザ光に対して,「透明体」ではないこととなる。

file_2.jpgB11 FLYI9A (Ge) OBR et ABH Tranamitance, % = 82 8 8 ree ’ L i i} 2 5 © @ Wevelangth (micramstars) Cum)ところで,甲22発明は,素子形成層を1μm以下の厚さにすることを目的としており,そのためには,1μm以下の波長のレーザー光を使用することが必要である。

しかし,前記のとおり,Geは約2μm以下の光を透過させないことから,1μm以下の波長のレーザー光を使用しなければならない甲22発明において,ポリシングパッド1をゲルマニウム(Ge)とすることは不可能である。

(b) さらに,その他の物質についてみても,1μm以下のレーザ光を透過しながら,シリコンより高い屈折率を持つものは,技術常識として存在しない。つまり,以下の図2に示すように,シリコンはほぼ1μm以下の波長の光を吸収して透過しない性質を有するところ,一般的に,光学物質の屈折率が高くなると,短い波長の光を一層吸収する傾向がある。よって,シリコンより屈折率の高い「ポリシングパッド1」が,可視光線や1μm以下のレーザ光に対して「透明体」であるということは,技術常識としてありえない。

file_3.jpg@2 YUAY (Si) OFF THY rH R A ‘Transmittance, % Li 5 12 §10 0 M10 Wavelength (micrometers) BE Cum)(c) したがって,当業者は,甲22発明の透明な「ポリシングパッド1」が何であるのか,どのような表面構造を持っているのかを全く把握することができないし,甲22発明に基づいて本件発明1の方法を使用することも,本件発明11のCMP装置を作ることもできない。よって,甲22発明は,CMP用の研磨パッドについて何ら示唆,教示ないしは動機付けを与えるものではない。

c スラリー10について

(a) 甲22発明がCMP用の研磨パッドについて何らの示唆,教示ないしは動機付けを与えるものではないことは,甲22公報の「スラリー10」からも導かれる。すなわち,甲22公報において,スラリー10の屈折率n1は,Si単結晶の屈折率n2(3.42)より大きいことが条件とされている。しかし,CMPの最も基本的な研磨対象であるシリコンウェハ上に形成される酸化物層(SiO2)の研磨に使用されるスラリーの屈折率は,通常1.46程度かそれ以下である(柏木正弘ほか編「CMPのサイエンス」株式会社サイエンスフォーラム1997年〔平成9年〕8月20日第1版第1刷発行〔甲46〕の135頁表―5によれば,スラリーの砥粒の一種であるフュームドシリカの屈折率は,約1.46である。そして一般的には,溶液の屈折率は砥粒の屈折率よりも低いものであるから,フュームドシリカを含むスラリーの屈折率は表―5に示される値よりも低くなる。)。そして,シリコンよりも高い屈折率を有するスラリーなど全く公知ではない。

したがって,甲22発明に接した当業者は,甲22発明で用いられるスラリー10とは,具体的にどのような物質から構成されるものであり,かつ,その組成がどのようなものであるのか,まるで把握することができない。

(b) 被告は,シリコンより高い屈折率を有する材料(例えばGeなど)が存在することを指摘する。

しかし,Geを混入させたスラリーなど一般的なものでもなければ,技術常識でもない。

また,Geの屈折率は約4.00であり,シリコンの屈折率である3.42と比較的近い値となっているため,Geをスラリー中に混入させたとしても,スラリー自体の屈折率をシリコンの屈折率よりも高いものとするためには,スラリー中には大量のGeを混入させる必要がある。

そして,既に述べたように,Geは約2μmから20μmの赤外線領域の光は透過させるが,それ以外の波長範囲の光は吸収する性質を有している。よって,そのようなGeを大量に含むスラリーは,2μm以下の波長の光をひどく吸収することになる。

しかし,甲22発明は,素子形成層を1μm以下の厚さにすることを目的としており,そのためには,1μm以下の波長のレーザー光を使用することが必要である。

したがって,甲22発明のスラリー10として,大量のGeを混入させたスラリーを用いることなど考えられず,やはり,当業者は,甲22発明のスラリーとは一体どのようなものなのか,全く把握することができない。

ウ 取消事由3(本件発明1に関する進歩性判断の誤り)

審決は,甲13発明に甲22発明を適用することで,本件発明1を容易に推考できると判断した。しかし,かかる判断は以下のとおり誤りである。

(ア) 審決の判断は誤った前提に基づいている

審決の前記判断は,甲22公報で「ポリシングパット」と呼ばれているものが,ポリシングパッドとプラテンの複合体であることを前提とする。

しかし,甲22公報で「ポリシングパッド」と呼ばれているものが,正確には,「パッド」を持たない「(ラッピング)プラテン」であることは,既に述べたとおりである。そして,甲22発明の内容を正確に捉えた場合には,以下のとおり,甲22発明を甲13発明に適用することで,本件発明1を容易に推考できるとは到底いえない。

a 技術分野の相違

甲13発明がポリシングの技術であるのに対し,甲22発明はラッピングの技術であるから,両者は技術分野が異なり,甲13発明に甲22発明を適用する契機はない。

b 共通の課題及び動機付けの不存在

甲13発明では,研磨パッド層の光の透過性を確保するだけでなく,研磨パッドがスラリー保持機能を有することが重要な課題とされている。しかし,甲22発明は,既に述べたとおり,「ポリシングパッド」(ラッピングプラテン)がもともとスラリー保持機能を有することを前提としておらず,研磨パッドに如何にスラリー保持機能を持たせつつ,光の透過性を確保するかという課題と無関係である。したがって,甲22発明には甲13発明と共通の課題が存在せず,甲13発明に適用して本件発明1に至る動機付けも存在しない。

c 甲22発明を甲13発明に適用することの技術的障害

甲22発明の「ポリシングパッド1」は,駆動軸に固着することができ,駆動軸の駆動によって回転するような剛性を持った物体である。

この「ポリシングパッド1」は,甲22公報の図1に示されているように,その全体が硬質な平坦面で構成されている場合には,スラリー層が介在するためウエハに接触せずこれを損傷することがなかったとしても,「ポリシングパッド1」を部分的に取り出してウィンドウを形成した場合には,剛性を持っているため,ウエハに接触してこれを損傷するおそれがある。

したがって,透明窓材(パイレックスガラス)をウエハに接触させないために数々の工夫を凝らしている甲13発明において,同じく硬い物体である透明体の「ポリシングパッド1」を,ウエハに接触して研磨作用を行うべき研磨パッドの一部として又はパッド内に形成されたプラグとして採用するなど,当業者がおよそ考えるはずがない。

(イ) 甲22公報で「ポリシングパット」と呼ばれているものが,ポリシングパッドとプラテンの複合体であったとしても,審決の判断は誤りである

仮に,甲22公報で「ポリシングパッド」と呼ばれているものが,ポリシングパッドとプラテンの複合体であったとしても,以下のとおり,審決の判断は誤りである。

CMPの研磨パッドの表面材料には,発泡ウレタンなど,スラリーを保持するための微細孔を有するものが用いられることが多いところ,当該微細孔は光を散乱させるため,光学的インシチュ検出を妨げる原因となる。また,研磨パッドの表面材料として,表面層にスラリー保持のための溝(グルーブ)を設けた硬質樹脂を用いることもあるが,そのようなパッドも,光線を散乱させる構造を有している。したがって,CMPの技術では,研磨パッドの材料そのものが,透過光又は透過する反射光を利用した光学的インシチュ検出と相容れないと考えられていた。甲13発明が,わざわざ研磨パッドに切り抜き穴を開け,さらに,プラテンに溝を設けたり,プラテンの貫通孔に透明窓材を嵌め込んだりして,複雑な工夫を凝らしており,また,甲13発明から僅かに遅れて1993年12月に米国で出願されたIBM社の発明(Patent Number:5,433,651 Date of Patent:Jul.18,1995〔甲30〕)も,光を通過させるために研磨パッド材料を部分的に除去して穴を設ける構成を採用しているのはそのためである。

したがって,甲13発明を前提として本件発明1に想到するためには,研磨パッドにスラリーの保持性能を持たせつつ光を通過させるにはどうしたらよいかという問題を解決しなければならない。また,甲13発明のように研磨パッドに切り抜き穴を設けず,本件発明1のようにパッドの一部やプラグを「ウィンドウ」とする場合は,当該部分の材料の表面特性,適切な硬さその他の物理的性質,物理的・化学的耐久性等々の問題も解決しなければならない。

しかし,甲22公報には,「ポリシングパッド」全体を透明体とするという極めて抽象的な技術的思想が開示されているにすぎず,前記の各種問題を解決するための指針は一切示されていない。

仮に,甲13発明と甲22発明が同じ技術分野に属しており,甲22発明の「ポリシングパッド1」が複合構造であったと仮定しても,甲13発明は,ウエハ用の研磨パッドは不透明であるという当時の技術常識に基づいて,研磨パッドの一部に切り抜き穴とプラテンの貫通孔に嵌め込まれる透明窓材からなるウィンドウを設けるものであるのに対し,甲22発明は,研磨パッド(及びプラテン)全体を透明体で構成するものであり,ウィンドウを画定するという発想はない。そうすると,甲22発明を甲13発明に適用する場合には,当業者は,甲13発明の研磨パッド及びプラテンを甲22発明の「ポリシングパッド1」に置き換えるはずであり,敢えて甲13発明の「透明窓材6」を甲22発明の「ポリシングパッド1」に置き換えるはずはない。被告の主張によったとしても,甲22発明の「ポリシングパッド1」は,ポリシングパッドであって,ウィンドウではない。

加えて,甲13発明においても,甲22発明においても,スラリー層が存在する。そのような二つの発明を組み合わせたとして,ウィンドウにおいてはスラリー層のほとんど存在しない本件発明1に至るはずがないことは自明である。

したがって,仮に甲22公報で「ポリシングパッド」と呼ばれているものが,ポリシングパッドとプラテンの複合体であったとしても,甲22発明には本件発明1への動機付けが存在しない。言い換えれば,甲22発明を甲13発明に適用しても,本件発明1に想到することは決して容易ではないのである。

エ 取消事由4(本件発明2~20に関する進歩性判断の誤り)

(ア) 本件発明2について

a 審決は,本件発明2について,「ポリウレタンからなる研磨パッドそれ自体は周知であり,透明なポリウレタンも甲第16号証のとおり,既知のものである。してみると,光を透過させる必要のある研磨パッドのウィンドウをポリウレタンとすることは,設計的事項にすぎない」(審決15頁7行~10行)と判断した。

しかし,「光を透過させる必要のある研磨パッドのウィンドウ」という概念自体がもともと存在しなかったことは,既述のとおりであるから,この概念の存在を前提にして単なる「設計的事項」であると判断した審決は,その前提において誤っている。

また,審決が指摘する甲16公報は,本件発明とは全く無関係なメガネやカメラ用のレンズの技術分野で,「強靱」で「耐衝撃性にすぐれ」,「切削性,研磨性が良好」(段落【0013】)な「透明なポリウレタン系プラスチックレンズ」が存在したことを示すものにすぎず,CMP用の研磨パッドに設けるウィンドウの素材について如何なる示唆をも与えるものではない。

したがって,本件発明2の進歩性に関する審決の判断は誤りである。

b 被告は,甲16公報及び乙15(特開平5-193991号公報,発明の名称「航空機用の安全合わせ窓ガラス,その製造方法,及びそのための透明ポリウレタンフィルム」,出願人サン-ゴバン ビトラージュ アンテルナショナル,公開日平成5年8月3日,以下「乙15公報」という。)を根拠に,ポリウレタン材料がレーザービーム等の光を実質的に透過させることは,ポリウレタン材料(例えば,Rodel EX2000)に固有の公知の性質にすぎない旨主張する。

しかし,まず,ポリウレタン材料の性質は,CMP用の研磨パッドに中実な透明物質の「ウィンドウ」を設けるという技術的思想について何ら示唆を与えるものではない。

また,一口にポリウレタン材料といっても,そこに含まれる添加物の配合割合等によって,硬度や透明度といった性質は様々である。そして,既に述べたように,CMPにおいて研磨パッドの一部やプラグを「ウィンドウ」とする場合,当該「ウィンドウ」が単に光を実質的に透過させるというだけでは足りず,研磨パッドにスラリーの保持性能を持たせつつ光を通過させるにはどうしたらよいかという問題や,当該部分の材料の表面特性,適切な硬さその他の物理的性質,物理的・化学的耐久性等々の問題を解決しなければならない。

したがって,甲13発明等を前提とした上で公知技術を考慮して本件発明2に想到することが容易であったというためには,単に,一般的に,ポリウレタン材料がレーザービーム等の光を実質的に透過させる(ものがある)ことが公知であったというだけでは足りず,前記のCMP特有の諸問題を解決し,かつ光学的検出に十分な程度に光を透過させるポリウレタン材料の存在が公知でなければならない。

しかるところ,被告が根拠とする甲16公報は,既に述べたように,「硫黄原子含有ポリウレタン系プラスチックレンズ」に関する発明であって,メガネレンズやカメラレンズ等に利用されるものである。また,乙15公報も,「航空機用の安全合わせ窓ガラスのための透明ポリウレタンフィルム」に関する発明である。したがって,これらは,本件発明とは技術分野が全く異なる。

さらに,EX2000(後にIC2000と改称)と呼ばれる研磨パッドは,「より高い平坦性を得るために,硬い研磨パッドの要求が出てきた」ことから開発された高硬度研磨パッドであって,光学的検出に用いることができる研磨パッドとして開発されたものではないし,当時,EX2000が光学的検出に用いることができるなどということは全く周知ではなかった。そして,EX2000は2層構造のもののみであり,その裏張り層は発泡層であるから,EX2000は全体として不透明であり,「光ビームに対して少なくとも部分的に透過性を有する」「ウインドウ」について何ら示唆するものではなかった。そのような状況の中で,本件発明者は,種々の検討を重ね,光学的インシチュ検出のためには,CMPの研磨パッドが必ずしもガラスのような透明性を有する必要はなく,EX2000のカバー層が光学的検出に十分な程度に光を透過させるものであることを見出したのである。

よって,甲16公報,乙15公報及びEX2000が本件発明2の出願前に存在したことは,本件発明2の進歩性を否定する理由とはなり得ない。

(イ) 本件発明3について

本件発明3は,本件発明1における研磨パッドについて,「添加物を有するポリウレタンを備える非透過性部分を有する研磨パッド」であることを特定したものである。

審決は,「研磨パッドにおいて,光を透過するウィンドウ以外の材質については,『光を利用した終端検出』との関連性は薄いことから,添加物を加えるか否かは,当業者が適宜選択すべき設計的事項にすぎない」(審決15頁19行~21行)と判断した。

しかし,従来の研磨パッドの多くは,研磨性能を向上させるために光透過性を阻害するような添加物を包含していたところ,本件発明3は,ポリウレタンから作られたウィンドウを有し,かつそれ以外の部分も,添加物を有し光学的検出に十分な程度の光は透過させないものの,ウィンドウと同じ素材であるポリウレタンとすることを特徴とする発明である。研磨パッドは,研磨が進むに連れて摩耗するため,このような構造にすることで,摩耗する度合いをウィンドウ部分とそれ以外の部分とで極力同一にすることができるという効果を有している。審決は,これらの点を看過し,「光を透過するウィンドウ以外の材質については,『光を利用した終端検出』との関連性は薄い」という理由だけで本件発明3の進歩性を否定している点で不当である。

(ウ) 本件発明4について

本件発明4は,本件発明1における研磨パッドについて,「ウィンドウは上面を有し,研磨表面と前記上面とは同一平面上にある」ことを特定したものである。

審決は,「甲13発明に甲22発明を適用したものにおいては,ウィンドウはパッドの一部であるから,ウィンドウが上面を有することは明らかであり,また,特段の事情のない限り,研磨表面とウィンドウ上面とを同一平面とすることが自然である。すなわち,この点は,当然考慮すべき設計的事項にすぎない。」(審決15頁下4行~16頁1行)と判断した。

しかし,甲22公報には透明体としてガラス(SiO2)しか記載されていない(段落【0007】)から,仮に甲13発明に甲22発明を適用するとすれば,ウィンドウの材質はガラスになると考えられるところ,この場合には,甲13発明と同様,ガラスがウエハを傷つけないようする必要がある。言い換えれば,甲13発明に甲22発明を適用する場合には,研磨表面とウィンドウ上面とを同一平面にはしない方が,むしろ自然であり,審決は誤っている。

(エ) 本件発明5について

本件発明5は,本件発明1における研磨パッドについて,「研磨パッドの底面は,ウィンドウに調心され,かつウィンドウに伸びる取り除かれた部分を含む」ことを特定したものである。

審決は,「…甲13発明を前提に,甲22発明に接した当業者は,透明窓材に代えて,光を透過させるパッドでも良いことを容易に予測しうることが明らかである。したがって,甲13発明に甲22発明を適用し,適用に際しては,光が透過する必要がある部分であるウィンドウであるプラグのみ透明とし,本件発明5の相違点6に係る事項とすることに困難性は認められない。」(審決16頁下10行~下5行)と判断した。

しかし,審決の理由は,論旨それ自体が極めて非論理的である上,前提も誤っている。甲22発明は,「光を透過させるパッド」を開示していないから,「透明窓材に代えて,光を透過させるパッドでも良い」という予測は成り立たない。また,甲13発明に甲22発明を適用するといっても,甲13発明の透明窓材は,プラテンの穴に嵌め込まれており,研磨布窓内にその頭部が一部突出しているものであるから,どのようにして研磨パッドの底面に「取り除かれた部分」を設けるのか不明である。さらには,甲13発明に甲22発明を適用するに当たり,何故,「プラグのみを透明」としなければならないのかが全く理解できない。

研磨パッドにウィンドウを設ける場合,その具体的構成をどのようにするかは,それ自体がCMP技術における研磨の精度や信頼性を左右する極めて重要な考慮事項である。CMP用の研磨パッドを供給するメーカーがパッドの表面層と裏打ち層の組み合わせや,研磨パッドの具体的構成につき,様々な工夫を凝らしている事実はこのことを物語る。審決は,本件発明5における特定事項について実質的に何ら考慮,判断することなく,結論のみを先行させており,到底正当な判断とはいえない。

(オ) 本件発明6,7について

本件発明6は,本件発明1において,①「研磨パッドが,研磨面を有する第1の層と,研磨面と反対側の第2の層とを含む」ことを特定したものであり,本件発明7は,本件発明6において,②「プラグは,第1の層内に位置する」ことを特定したものである。

審決は,研磨パッドは研磨面である第1の層と,その反対側の第2の層とを当然に有するものであるから,上記①の特定事項は甲13発明との実質的な相違点ではないとして(審決17頁6行~7行),本件発明6の進歩性を否定し,また,上記②の点につき,「…甲13発明に甲22発明を適用した場合,当然,プラグが第1の層内に位置することになる」(審決17頁8行~10行)として,本件発明7の進歩性を否定した。

しかし,甲13発明の研磨布(Suba500)は単層であるから,研磨パッドは当然に第1層と第2層とからなる構造であるという審決の認定は事実に反する。さらに,甲13発明が研磨布を切り抜いた穴を設ける構成であるのに対し,本件発明5はこれと異なるウィンドウの構成をとるものであるから,研磨パッドの層構成の持つ技術的意義が甲13発明とは異なる。したがって,第1の層と第2の層を設けるか否かは,本件発明6と甲13発明との実質的な相違点というべきであり,この点で審決は誤っている。

さらに,本件発明7については,「甲13発明に甲22発明を適用した場合」を審決が想定していること自体が既に誤りであるが,仮に甲13発明に甲22発明を適用しても,甲22公報では透明体としてガラス(SiO2)しか記載されていない(段落【0007】)から,ウエハを損傷しないためには「プラグ」を第1の層ではなく,むしろ,第2の層内に設定するのが自然である。「甲13発明に甲22発明を適用した場合,当然,プラグが第1の層内に位置することになる」という審決の理由付けは全く合理性を欠いており,このような不合理な理由によって本件発明7を想到容易とした審決は誤りである。

(カ) 本件発明8について

本件発明8は,本件発明1における研磨パッドについて,「ウィンドウは,完全に研磨表面と研磨パッドの底面との間に配置される」ことを特定したものである。

審決は,「ウィンドウは,光を透過させるためのものであるから,その機能からみて,研磨表面と研磨パッドの底面の間から突出することは,不自然である。すなわち,甲13発明に甲22発明を適用したものにおいては,当然,ウィンドウが完全に研磨表面と研磨パッドの底面の間に配置されることになるから,この点は,当然考慮すべき設計的事項にすぎない。」(審決17頁下13行~下9行)と判断した。

しかし,甲13発明に甲22発明を適用したものにおいて,ウィンドウが「当然」に,完全に研磨表面と研磨パッドの底面の間に配置されることになるわけではない。単なる「設計的事項にすぎない」とした審決は,誤っている。

(キ) 本件発明9,10について

審決は,本件発明10について,周期的な干渉信号によって現れるサイクルの数を計数することは,甲8(Katsuro Sugawara,et al,"In Situ Monitoring of Film Deposition Using He-Ne Laser System",Journal of the Electrochemical Society,vol.121.no.9,p.1233,以下「甲8文献」という。),甲9(菅原活郎ほか「半導体プロセスにおける薄膜形成のインプロセス・モニタリング」日経エレクトロニクス1978.7.10号108頁,以下「甲9文献」という。)に見られるごとく周知であるとの理由により進歩性を否定し(審決18頁2行~6行),また,本件発明9についても,本件発明10の発明特定事項の一部を欠くものであるからという理由で同様に進歩性を否定した(審決18頁7行~9行)。

しかし,本件発明9及び10における「周期的な干渉信号を検出するステップ」とは,ウエハが不均一な表面構造を有する段階では干渉信号は周期性を有しない(本件明細書〔甲1〕の段落【0015】参照)が,ウエハの表面が平坦化されると周期的な干渉信号が現れることに着目し,これを利用することによって,研磨終点を決定することを可能にするステップである。

一方,甲8文献及び甲9文献は,いずれも堆積した膜の厚さを測定するものであり,本件発明9,10のように,研磨中の移動するウエハからの反射光について「周期的な干渉信号を検出」することにより,ウエハの表面が平坦化したことや除去された膜の厚さを判定するというものではない。そして,堆積した膜の厚さを測定する場合は,膜はCVDによりほぼ均一に堆積していくことから,パターニングされたウエハのような凹凸面とは異なり,そこに光を照射したときに観察される干渉信号は,当然,はじめから周期的な波形をもった信号である。

したがって,甲8文献及び甲9文献においては,研磨プロセスにおいて膜が平坦化されたときに至って初めて出現する周期的な干渉信号を「検出する」というステップは存在しない。

よって,甲8,9文献を根拠に,本件発明9,10の進歩性を否定した審決の判断は誤りである。

(ク) 本件発明11~20について

本件発明11~20は,本件発明1~10の「方法」を「システム」に変えたものである。審決は,本件発明1~10と同様の理由により,本件発明11~20も想到容易であると判断した(審決18頁10行~15行)。

しかし,本件発明11~20についても本件発明1~10と同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2  請求原因に対する認否

請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。

3  被告の反論

審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

(1)  取消事由1に対し

原告は,審決には甲13発明の認定を誤り,本件発明1との相違点を看過した誤りがある旨主張する。

しかし,審決は,相違点2として,

「研磨パッド部分を光が通ることに関し,

本件発明1は,研磨パッドが上面及び下面を有する中実な透明物質のウィンドウを有し,前記ウィンドウは,前記研磨パッドの一部であって,光ビームに対して少なくとも部分的に透過性を有する,前記研磨パッドの前記一部を備え,又は

前記ウィンドウは,前記パッド内に形成されたプラグであって,光ビームに対して部分的に透過性を有するプラグを備える

ものであるが,

甲13発明は,透明窓材が定盤の貫通孔に嵌め込まれており,その結果,研磨パッド窓内に透明窓材が配されるものである点。」(審決13頁21行~30行)

として,本件発明1と甲13発明との相違点を正確に認定している。

原告が相違点として主張する点は本質的な相違点ではなく,形式的な相違点であり,以下のとおり審決の結論に影響を与えるものではない。

甲13発明には,前記のとおり「ウエハの研磨の最中に使用する終点検出方法であって,前記方法は,研磨表面を有し,研磨布窓内に透明窓材が配される研磨布で前記ウエハを研磨するステップであり,ここで,前記透明窓材は定盤の貫通孔に嵌め込まれており,前記研磨布内に配される前記透明窓材を通して,検出光を研磨されるウエハのウエハ研磨面に透過するステップと,前記ウエハ研磨面で反射され,前記研磨布内に配される前記透明窓材を通過した検出光の反射光を受けるステップと,前記ウエハ研磨面で反射された検出光の反射光を使用して,研磨終点を決定するステップと,を含む方法。」が開示されている。

すなわち,甲13発明はウエハの研磨の最中にインシチュウで終点を検出する方法であって,検出光を光源→定盤1の貫通孔3→透明窓材4→ウエハ研磨面に照射し,その反射光はウエハ研磨面→透明窓材4→貫通孔3を通過して反射光観察装置に入射し,反射光観察装置で研磨中に研磨終点を検出する技術思想を示すもので,透明窓材4が研磨布窓6内に一部分に位置するか,全域に位置するかは,研磨中に終点を検出方法する意味において本質的な相違点ではない。

さらに,一般にウィンドウ(窓)とは,採光の機能(光を透過する機能)があればよく,ウィンドウの透明物質が隙間なく穴の全域に形成される必要はなく,本件発明1においても,ウィンドウは光ビームを通す「研磨パッドの一部」又は「パッド内に形成されたプラグ」と記載され,ウィンドウの透明物質が穴の全域に隙間なく形成されているとは限定されていない。これは,本件発明4である【請求項4】に「前記ウィンドウは上面を有し,前記研磨表面と前記上面とは同一平面上にある」と限定されていることからも明らかである。

(2)  取消事由2に対し

原告は,審決の甲22発明の認定には誤りがある旨主張するが,以下に述べるとおり,原告の主張は失当である。

ア 原告は,甲22公報記載の装置構成が,原告が想定したCMP装置の構成と異なることをもって,甲22発明はポリシング「パッド」を構成要素として含むものではない旨主張し,具体的には,研磨パッドの直径がウエハのそれに比べて大きく構成されていることや,研磨パッドがウエハの下側に配置されていないことを指摘する。

しかし,研磨パッドの直径をウエハの直径と比較して大きく構成しなければCMP装置として成立し得ない技術的理由はないし,CMPの分野においては,ウエハと比較して小さく構成された「パッド」を備えた装置が実在する。したがって,研磨パッドの直径をウエハの直径よりも大きくするかどうかは,単なる設計事項というべきである。

また,研磨工具(ポリシングパッド)を被加工物(ウエハ)の上側に配置するとCMP装置として成立し得ないと解すべき技術的理由はなく,むしろ,CMPの分野においては,研磨工具(ポリシングパッド)を被加工物(ウエハ)の上側に配置した装置も実在する。したがって,研磨工具(ポリシングパッド)を被加工物(ウエーハ)の上側に配置するかどうかは,単なる設計事項というべきである。

イ 原告は,甲22発明には,「ポリシングパッド1」にどうやってスラリーを保持させるのかにつき何ら言及がないと主張する。

しかし,甲22公報記載の「ポリシングパッド1」はCMPに用いられる「パッド」であり,甲22公報ではスラリーを用いることが開示され,ポリシングパッドがスラリー中の砥粒を保持・輸送することは当業者にとって自明であるから,甲22発明には,「ポリシングパッド1」にどうやってスラリーを保持させるのかにつき何ら言及がないとしても,当業者にとって支障はない。

ウ 原告は,甲22公報に「平坦化」や「鏡面仕上げ」について示唆する記載が存在しないことを理由に,甲22公報に開示された技術はラッピングであり,同公報記載の「ポリシングパッド」は,ポリシングパッドを貼付していない「プラテン」である旨主張する。

しかし,甲22発明は,CMPによる研磨を行うものであるが,「膜厚」を高精度に制御する研磨終点検出に関する発明であるから,平坦化や鏡面仕上げと比較して,「厚さ」が極めて重要な意味を持っている。したがって,甲22公報においては,「厚さ」に関する記載(例えば,所望の「厚さ」や均一の「厚さ」等)が多数存在し,「平坦化」や「鏡面仕上げ」についての記載が省略されているのは当然である。このことは,甲22発明と同じCMPにおける研磨終点検出に関する甲13公報(なお,原告は,甲13発明がCMPであることを自認している)においても,「平坦化」や「鏡面仕上げ」について示唆する記載が存在せず,「厚さ」に関する記載が多数存在することからも裏付けられる。

エ 原告は,甲22公報にプラテンにパッドを貼り合わせた複合構成を有することの記載や示唆が存在しないことを理由に,甲22公報に開示された技術はラッピングである旨主張する。

しかし,甲22公報には,一貫して「ポリッシングパッド」と記載されており,同公報自体からラッピングとは読み取れず,ポリッシングパッドをプラテンと解釈する余地はない。甲22発明はラッピングに関するものではなくCMPに関するものであり,同号証記載の「ポリシングパッド1」は,プラテンではなく,CMPに用いられる「ポリシング」用の「パッド」である。そして,CMPが,ポリシングのためのパッド及びこのパッドが貼付されたプラテンを用いて行われることは周知であり,甲22公報に接した当業者であれば,当然,同公報記載の「ポリシングパッド1」は,CMPによる研磨を行うためのポリシングパッド及びこのポリシングパッドが貼り付けされたプラテンであると理解し得る。

また,甲22公報の「図面の簡単な説明」の欄には,「【図1】請求項2による貼り合わせウェーハの研磨方法の一実施例を示す構成説明図である。【図2】図1において,光の反射および透過状態を示す説明図である。」と記載されている。すなわち,甲22公報の図面は,製造用の設計図と異なり,説明図であり,当業者にとって自明な場合は省略されるのが常である。したがって,甲22公報の図面に接した当業者は,研磨装置内でポリッシングパッドが明示されていれば,当然にポリッシングパッドが貼り付けられるプラテンが省略されていると解釈するのが自然である。

また原告は,甲22公報に接着剤についての説明・図示がないから,甲22公報に開示された技術はラッピングである旨主張する。

しかし,接着剤は当業者が適宜選択すべき事項であって,甲22公報に接着剤についての説明や図示が存在しないとしても,このことが,甲22公報記載の「ポリシングパッド1」がパッドを持たないプラテンであることを決定づける根拠となるものではない。

オ 原告は,甲22公報の段落【0007】の記載と図1,図2によれば,駆動軸に固着することができ,駆動軸の駆動によって回転するような剛性を持った物体が「ポリシングパッド」と呼ばれており,そのような物体とはプラテンそのものであるから,甲第22号証に開示された技術はラッピングである旨主張する。

しかし,審決が指摘するように,「甲第22号証に,『ポリシングパッド』が『一体物』と明記されているものではない。」(審決11頁19行~20行)。また,甲22公報の「図面の簡単な説明」の欄には,「【図1】請求項2による貼り合わせウェーハの研磨方法の一実施例を示す構成説明図である。【図2】図1において,光の反射および透過状態を示す説明図である。」と記載されている。すなわち,同図面は,製造用の設計図と異なり,説明図であり,当業者にとって自明な場合は省略されるのが常である。したがって,甲22公報の図面に接した当業者は,研磨装置内でポリッシングパッドが明示されていれば,当然にポリッシングパッドが貼り付けられるプラテンが省略されていると解釈するのが自然である。そして,CMPがポリシングのためのパッド及びこのパッドが貼付されたプラテンを用いて行われることは周知であるから,甲22公報に接した当業者であれば,当然,同公報記載の「ポリシングパッド1」は,CMPによる研磨を行うためのポリシングパッド及びこのポリシングパッドが貼り付けされたプラテンであると理解し得る。

しかも,甲22発明は,「膜厚」を高精度に制御する研磨終点検出に関するものであるから,明細書の記載,図1,図2の記載も,この発明を説明できる程度の記載であれば足り,甲22公報に接した当業者であれば当然に理解し得る程度の事項(同公報記載の「ポリシングパッド1」は,CMPによる研磨を行うためのポリシングパッド及びこのポリシングパッドが貼り付けされたプラテンであること)について省略することはあり得るというべきである。

カ 原告は,プラテンのみでパッドを有しないものを「パッド」と称している例が存在することを根拠として,プラテンのみでパッドを有さないものを「パッド」と称することは考えにくいとした審決の判断は誤りである旨主張する。

しかし,「プラテン」とは研磨布を貼付する定盤のことであり,また,プラテンは研磨パッドを貼着する「台」としての機能を有するにすぎないから,審決が指摘するように,「ポリシングパッド」を表面に貼付したプラテンを,その機能(研磨機能)の面から,プラテンを含めて「ポリシングパッド」と称することは極めて自然である。これに対して,プラテンのみでパッドを有しないものを「ポリシングパッド」と称することは,その機能(研磨機能)の面からみて,極めて不自然である。

キ 原告は,「透明」ないし「透明体」であるCMPポリシングパッドが存在しなかったことを,甲22公報がラッピングに関するものであることの理由として挙げる。

しかし,甲22発明の出願当時,「透明」ないし「透明体」であるCMPに用いられる研磨用「パッド」は存在したのであって(甲27~29公報参照),原告の主張はその前提において誤りがある。

ク 原告は,シリコンの屈折率(3.42)よりも高いポリマーは通常存在しないから,「ポリシングパッド1」をポリマーとすることは不可能である旨主張する。

しかし,甲22公報には「パッド」の材質についての記載はないから,たとえかかる「パッド」がポリマーではないとしても,直ちに「ガラス」であると認めることはできない。また,ガラスの屈折率も1.4~1.9であり,ポリマーの屈折率1.3~1.6と大差なく,屈折率の点から甲22発明のポリッシングパッドをガラスであると断定することもできない。甲22発明は,界面での全反射するための条件として,スラリーの屈折率はSi単結晶の屈折率3.42より高いことを示しており(段落【0007】),全反射するためには,界面の条件,即ちスラリーの屈折率がSi単結晶の屈折率3.42より高いことが示されていれば充分である。当業者であれば,全反射させる為にポリッシングパッドの屈折率をSi単結晶の屈折率より高いものに適宜選択することは設計的事項である。

ケ 原告は,甲22発明は,平面研削盤を用いて荒研削と仕上げ研削という2段階の研削を行った後の貼り合わせウェーハについて,その一方のSi単結晶層の厚さの大部分を研磨により除去し,1μmないしそれ以下の層を素子形成層として,高精度に,かつ能率よく均一な厚さに残す技術を提供しようとするものであるところ(段落【0002】,【0003】),1μm程度の膜厚に研磨するためには,必ずしもポリシングによることを必要とするものではなく,寸法を小さいスラリー砥粒を使用したラッピングを行うことによっても可能である旨主張する。

しかし,原告が指摘する段落【0003】に記載された「厚さの大部分」とは,段落【0002】に「…次に,酸化膜SiO2が形成されたSOIウェーハを,たとえば平面研削盤を用いて荒研削および仕上げ研削し,更に研磨によりSOIウェーハを所定の厚さに薄膜化する。」と記載されていることからみて,より正確には,「平面研削盤を用いて荒研削および仕上げ研削した後のSi層の厚さの大部分」との意味であることが,その文脈から明らかである。

仮に,原告が主張するように,「平面研削盤を用いて荒研削および仕上げ研削した後のSi層の厚さの大部分」に対して,「寸法を小さいスラリー砥粒を使用したラッピングを行う」なら,ラッピングは化学的作用を伴わない機械的作用による研磨であるから,いかに砥粒を小さくしたとしても(一般に,数μmから数10μmの粗い砥粒が用いられる),甲22発明のウェーハ1の仕上げ面には,研削条痕(微小な凹凸を持つ梨地面等)及び加工歪層(材料変質,歪み・応力が残存する層。加工変質層ともいう。)が残存し,素子として機能しなくなることは明らかである。

研削条痕及び加工歪層は,研削後の貼り合わせSOIウェーハの素子形成層のCMPを用いた均一薄膜化の際に除去されるべきものであり,研削条痕及び加工歪層を除去する加工技術としてCMPを用いることが技術常識である中で,貼り合わせSOIウェーハの素子形成層,絶縁層にまで達し得る研削条痕及び加工歪層が残存し,素子として機能しなくなるラッピングを,研削後の貼り合わせSOIウェーハの素子形成層の均一薄膜化に採用することは,当業者にとってあり得ない選択というべきである。

(3)  取消事由3に対し

ア 原告は,「パッド」のない甲22発明を甲13発明に適用することは不可能であると主張する。

しかし,甲22公報記載の「ポリシングパッド1」は,CMPに用いられるポリシングパッド及びこのポリシングパッドが貼り付けされたプラテンであるから,甲22発明には「パッド」がないことを理由とする原告の主張は,その前提において誤っている。

イ 原告は,甲13発明と甲22発明は技術分野が異なるから,甲13発明に甲22発明を適用する契機がないと主張する。

しかし,甲22公報記載の「ポリシングパッド1」は,CMPに用いられるポリシングパッド及びこのポリシングパッドが貼り付けされたプラテンであるから,甲22発明は,ラッピングに関するものではなく,CMPに関するものであり,同公報記載の「ポリシングパッド1」は,プラテンではなく,CMPによる「ポリシング」用の「パッド」である。したがって,甲22発明はラッピングの技術であることを理由とする原告の主張は,その前提において誤っている。

そして,甲13発明及び甲22発明は,いずれもCMPに関する技術であり,ポリシングパッド(甲13公報では研磨布というが,いずれも同じものを指す)を通過させてウエハへ照射した光を用いて膜厚を高精度に制御する研磨終点検出に関する技術であり,かつ,貼り合わせSOIウェーハの素子形成層の均一薄膜化を目的とした,研削盤を用いてボンドウェハ側(Si層)の大部分を削除し,薄く残存させたSOI層の研磨における研磨終点検出に関するものである点で,両者は技術分野を共通にしている。

しかも,甲13発明は,パッドを通過させた光の反射光を利用したウエハの研磨終点検出を行うものであり,甲22発明は,パッドを透過させた光の屈折率を利用したウエハの研磨終点検出を行うものであり,両者はパッド内に光路を持ち該パッドを通過させた光を利用してウエハの研磨終点検出する点で同一である。

したがって,両者は技術分野が異なるとはいえず,甲13発明に甲22発明を適用する契機がないとはいえない。

ウ 原告は,甲13発明と甲22発明は共通の課題ないし動機付けが不存在であるから,甲13発明に甲22発明を適用する契機がない旨主張する。

しかし,研磨パッドがスラリー中の砥粒を保持・輸送することは当業者にとって自明であるから,スラリー保持機能を有さないことを理由とする原告の主張は,その前提において既に誤っている。

また,上記のとおり,甲13発明及び甲22発明は技術分野を共通にしているところ,甲13公報における「従来の技術」の欄には,「…実験的な研磨では,研磨を時々中断して,膜厚を確認しながら研磨終了の時期を決めるのが一般的である。この方法は失敗の少ない安全な方法であるが,生産のための方法としては問題が多い。即ち,研磨を中断する度にウエハの洗浄,乾燥が必要なため,1枚当たりの処理時間が長く,自動化のための機構が複雑となり研磨費用が高くなる問題がある。又,中断と中断の間の時間が短くなると,定常状態の研磨と条件が異なってくるため,予期した研磨加工量が得られず,かえって制御性が悪化してしまうという問題があった。」(段落【0004】,【0005】)と,「発明が解決しようとする課題」の欄には,「本発明は,研磨途中でウエハを定盤から離すことなく研磨中の膜の厚さを知ることができ,研磨の高精度な制御が効率よくできるウエハの研磨方法を提供することを課題とする。」(段落【0006】)と記載されており,甲22公報における「発明が解決しようとする課題」の欄には,「…また,貼り合わせウェーハをウェーハ研磨機から取り外してSOIウェーハの厚さを測定する方法では,作業能率を向上させることができない。…SOI半導体基板の製造工程において,素子形成層であるSi層を高精度に,かつ能率よく所望の厚さに研磨するための貼り合わせウェーハの研磨方法を提供することを目的としている。」(段落【0003】)と記載されている。

これらの記載によれば,甲13公報及び甲22公報においては,いずれも研磨を中断しウェーハを取り外して膜厚を測定することの問題点が指摘され,かつ,研磨を中断しウェーハを取り外すことなく高精度に所望の膜厚に研磨することを課題としていることが明らかである。

したがって,甲13発明と甲22発明は共通の課題ないし動機付けが不存在であるとはいえないから,甲13発明に甲22発明を適用する契機がないとはいえない。

エ 原告は,甲13発明の研磨パッドの全体を透明な「ポリシングパッド」で置き換えても,本件発明1のようなウィンドウの構成にはならないと主張する。

しかし,本件発明1の「研磨パッド」及び「ウィンドウ」は,いかなる材質でいかなる方法で両者が接続されているのかが明らかにされていないから,「研磨パッドの一部であって,光ビームに対して少なくとも部分的に透過性を有する,前記研磨パッドの前記一部である前記ウィンドウ」を備えていれば,どのようなものであっても差し支えないというべきである。甲22公報記載の「ポリシングパッド」は,光を透す透明体であるから,本件発明1と同じく「研磨パッドの一部であって,光ビームに対して少なくとも部分的に透過性を有する,前記研磨パッドの前記一部である前記ウィンドウ」を含む。甲13発明の研磨パッドの全体を,甲22公報記載の透明な「ポリシングパッド」で置き換えると,少なくとも部分的に透過性を有する研磨パッドの一部を持つ本件発明1の構成になることは,明らかである。

したがって,甲13発明の研磨パッドの全体を透明な「ポリシングパッド」で置き換えても,本件発明1のようなウィンドウの構成にはならないとの原告の主張は,誤りである。

(4)  取消事由4に対し

ア 本件発明2につき

本件発明2は,本件発明1の「ウィンドウ」を,甲16公報等により周知のポリウレタンでさらに特定したにすぎないものであるから,光を透過させる必要のある研磨パッドのウィンドウをポリウレタンとすることは設計的事項にすぎないとした審決の判断に誤りはない。

イ 本件発明3につき

本件発明3の「添加物を有するポリウレタン」は,いかなる添加物をいかなる目的でいかなる程度有しているかが明らかにされていないから,添加物を有するポリウレタンであれば,どのようなものであっても差し支えないというべきである。

そして,審決が指摘したように,ポリウレタンに添加物を加えるか否かは,当業者が適宜選択すべき設計的事項にすぎないというべきであるから,審決の判断に誤りはない。

ウ 本件発明4につき

原告は,甲22公報には,透明体としてガラス(SiO2)しか記載されていないから,仮に甲13発明に甲22発明を適用するとすれば,ウィンドウの材質はガラスになると考えられる旨主張する。

しかし,甲22公報の段落【0007】には,マウントプレート3はSiO2からなる透明体と記載されているが,「ポリシングパッド」がガラスであることは記載されていないから,原告の主張は,その前提において誤っている。

エ 本件発明5につき

原告は,甲22発明は,「光を透過させるパッド」を開示していないから,「透明窓材に代えて,光を透過させるパッドでも良い」という予測は成り立たないと主張する。

しかし,甲22公報に記載の「ポリシングパッド」は,CMPに用いられる透明なパッドであるから,甲22発明は,「光を透過させるパッド」を開示していないという原告の主張は,その前提において誤っている。

また,甲13公報においては,光の透過が必要なポリシングパッドの一部(研磨布窓)のみを,甲22公報記載の「ポリシングパッド」や甲27~29公報記載の透明なパッド等の透明体で構成し,他のパッド部分を通常のポリシングパッドで構成し,少なくとも部分的に透過性を有する研磨パッドの一部を持つ本件発明1の構成とすることは,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないというべきであるから,「透明窓材に代えて,光を透過させるパッドでも良い」という予測は成り立たないとはいえない。

また原告は,どのようにして研磨パッドの底面に「取り除かれた部分」を設けるのか不明であると主張するが,審決は,甲13発明を前提に,甲22発明に接した当業者は,透明窓材に代えて,光を透過させるパッドでもよいことを容易に予測しうると指摘したのであるから,原告の主張は,審決を正解しないものである。

オ 本件発明6,7につき

原告は,甲13発明の研磨布(Suba500)は単層であるから,研磨パッドは当然に第1層と第2層とからなる構造であるという審決の認定は事実に反すると主張する。

しかし,甲13発明の研磨布(Suba500)は単層であるとしても,本件特許に係る明細書(甲1)の従来技術の欄に「…典型的なCMP装置10は,…このパッド18は典型的には裏張り層20を有し,これは,ウエハ14を研磨するためにケミカルポリシングスラリと共に用いられるカバー層22とプラーテンとの間のインターフェースとなっている。」(段落【0003】)と記載されているように,研磨面である第1の層と,その反対側の第2の層とを有するものが既知であったのであるから,この点は,実質的には相違点ではないとした審決の判断に誤りはない。

また原告は,「甲13発明に甲22発明を適用した場合,当然,プラグが第1の層内に位置することになる」という審決の理由付けは合理性を欠く旨主張する。

しかし,甲22公報には,「ポリシングパッド」がガラスであることは記載されておらず,CMPに用いられる透明な「ポリシングパッド」が記載されているから,原告の主張は,その前提において誤っている。

カ 本件発明8につき

原告は,ウインドウが「当然」に完全に研磨表面と研磨パッドの底面の間に配置されることになるわけではないと主張するが,その主張の根拠となる理由を述べていない。これを設計的事項とした審決の判断に誤りはない。

キ 本件発明9,10につき

原告は,審決が周知技術の根拠として挙げた甲8,9文献の教示をもってしては,サイクル数を計数することによって平坦化の終点を決定することは不可能であるから,本件発明9及び10が甲13発明,甲22発明及び周知技術に基づき想到容易であるとした審決は誤りであると主張する。

しかし,本件発明9の「周期的な干渉信号を検出する」は,どのような方法で検出するかが明らかにされていないから,周期的な干渉信号を検出するのであれば,どのようなものであっても差し支えないというべきである。そして,審決が指摘した甲8,9文献には周期的な干渉信号を検出することが記載されているから,審決の判断に誤りはない。

また,本件発明10の「周期的な干渉信号によって現れるサイクルの数を計数する」は,単にサイクルの数を計数することを述べているにすぎず,このように,単にサイクルの数を計数することが格別の困難を伴うことなく行えることは,例を挙げるまでもなく自明のことであるから,本件発明10は,当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の判断に誤りはない。

ク 本件発明11~20につき

本件発明11~20は「システム」であり,それぞれ,本件発明1~10の「方法」を「システム」に変えたものに相当する。両者は,実質的にカテゴリーの差にすぎないから,本件発明11~20についても,本件発明1~10と同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4当裁判所の判断

1  請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。

2  本件発明の意義

(1)  本件特許に係る明細書(甲1,2)には,本件特許の意義に関し,次の記載がある。

ア 特許請求の範囲

・ 【請求項1】 CMPによるウエハの研磨の最中に使用する終点検出方法であって,前記方法は,

研磨表面,及び上面及び下面を有する中実な透明物質のウィンドウを有する研磨パッドで前記ウエハを研磨するステップであり,ここで,

(i) 前記ウィンドウは,前記研磨パッドの一部であって,光ビームに対して少なくとも部分的に透過性を有する,前記研磨パッドの前記一部を備え,又は

(ii) 前記ウィンドウは,前記パッド内に形成されたプラグであって,光ビームに対して部分的に透過性を有するプラグを備える,ステップと,

前記研磨パッド内の前記ウィンドウを通して,検出光ビームを研磨されるウエハのウエハ表面に透過するステップと,

前記ウエハ表面で反射され,前記研磨パッド内の前記ウィンドウを通過した検出光ビームの反射光を受けるステップと,

前記ウエハ表面で反射された検出光ビームの反射光を使用して,研磨終点を決定するステップと

を含む方法。

・ 【請求項2】 前記研磨するステップは,ポリウレタンから作られたウィンドウを有する研磨パッドで研磨するステップを含む,請求項1に記載の方法。

・ 【請求項3】 前記研磨するステップは,添加物を有するポリウレタンを備える非透過性部分を有する研磨パッドで研磨するステップを含む,請求項2に記載の方法。

・ 【請求項4】 前記ウィンドウは上面を有し,前記研磨表面と前記上面とは同一平面上にある,請求項1に記載の方法。

・ 【請求項5】 前記研磨パッドの底面は,前記ウィンドウに調心され,かつ前記ウィンドウに伸びる取り除かれた部分を含む,請求項1に記載の方法。

・ 【請求項6】 研磨パッドは,研磨面を有する第1の層と,研磨面と反対側の第2の層とを含む,請求項1に記載の方法。

・ 【請求項7】 前記プラグは,前記第1の層内に位置する,請求項6に記載の方法。

・ 【請求項8】 前記ウィンドウは,完全に前記研磨表面と前記研磨パッドの底面との間に配置される,請求項1に記載の方法。

・ 【請求項9】 前記反射光を使用するステップは,周期的な干渉信号を検出するステップを含む,請求項1に記載の方法。

・ 【請求項10】 前記反射光を使用するステップは,周期的な干渉信号によって現れるサイクルの数を計数するステップを含む,請求項9に記載の方法。

・ 【請求項11】 ウエハのCMP研磨装置と共に使用する終点検出システムであって,前記システムは,

研磨表面,及び上面及び下面を有する中実な透明物質のウィンドウを有する研磨パッドであり,ここで,

(i) 前記ウィンドウは,前記研磨パッドの一部であって,光ビームに対して少なくとも部分的に透過性を有する,前記研磨パッドの前記一部を備え,又は

(ii) 前記ウィンドウは,前記パッド内に形成されたプラグであって,光ビームに対して部分的に透過性を有するプラグを備える,研磨パッドと,

前記研磨パッド内の前記ウィンドウを通して,検出光ビームを研磨されるウエハのウエハ表面に透過する光源と,

前記ウエハ表面で反射され,前記研磨パッド内の前記ウィンドウを通過した検出光ビームの反射光を受け,前記ウエハ表面で反射された検出光ビームの反射光を使用して,研磨終点を決定する検出器と

を備えるシステム。

・ 【請求項12】 前記ウィンドウは,ポリウレタンから作られている,請求項11に記載のシステム。

・ 【請求項13】 前記研磨パッドは,添加物を有するポリウレタンを備える非透過性部分を有する,請求項12に記載のシステム。

・ 【請求項14】 前記ウィンドウは上面を有し,前記研磨表面と前記上面とは同一平面上にある,請求項11に記載のシステム。

・ 【請求項15】 前記研磨パッドの底面は,前記ウィンドウに調心され,かつ前記ウィンドウに伸びる取り除かれた部分を含む,請求項11に記載のシステム。

・ 【請求項16】 研磨パッドは,研磨面を有する第1の層と,研磨面と反対側の第2の層とを含む,請求項11に記載のシステム。

・ 【請求項17】 前記プラグは,前記第1の層内に位置する,請求項16に記載のシステム。

・ 【請求項18】 前記ウィンドウは,完全に前記研磨表面と前記研磨パッドの底面との間に配置される,請求項11に記載のシステム。

・ 【請求項19】 前記検出器は,周期的な干渉信号を検出する,請求項11に記載のシステム。

・ 【請求項20】 前記検出器は,周期的な干渉信号によって現れるサイクルの数を計測する,請求項19に記載のシステム。

イ 発明の属する技術分野

・ 「本発明は,半導体の製造に関し,特に,ケミカルメカニカルポリシング(chemical mechanical polishing:CMP)及びCMPプロセス中のインシチュウ(in-situ)終点検出に関する。」(段落【0001】)

ウ 従来の技術

・ 「現代の半導体集積回路(IC)製造のプロセスにおいては,先に形成された層や構造の上に様々な材料の層や構造を形成することが必要となる。しかし,先に形成される際に,プロセス中のウエハの上面の局所構造において,隆起物,高低差のある部分,谷間,溝,及び/又はその他の表面の不均一さが現れ,非常に不均一となることがしばしばである。次の層を形成する際に,これらの不均一さが問題を生じさせる。例えば,先に形成された層の上に細かい幾何的構造をもつフォトリソグラフィのパターンを転写する場合は,フォーカスを非常に浅くする必要がある。従って,表面は平坦で平面的であることが不可欠であり,そうでなければ,パターンの中でフォーカスが合っている部分とそうでない部分とが生じることになる。実際,表面の変動は,25x25mmのダイの上に1000オングストローム未満のオーダーである事が好ましい。更に,主要な処理ステップにおいてこの不均一性をならしておかなければ,ウエハ表面の局所構造が更に不均一となり,その先の処理において積層を重ねる際に更に問題が生じることとなる。用いるダイの種類や幾何的なサイズによっては,この表面の不均一性が,収率やデバイスの性能を悪化させる。従って,IC構造体に何等かの平坦化(プラナリゼーション(planarization))やレベリング(leveling)を行うことが望ましい。実際,多くの高密度ICの製造技術では,製造プロセスにおける重要な局面において,ウエハ表面を平坦化する方法を使用できるようになっている。」(段落【0002】)

・ 「半導体ウエハの平坦化又は局所構造の除去を実現する方法の1つに,ケミカルメカニカルポリシング(CMP)がある。一般的には,ケミカルメカニカルポリシング(CMP)プロセスは,圧力を制御した状態で,回転する研磨プラーテンに対してウエハを保持し又は回転させる。図1に示されるように,典型的なCMP装置10は,研磨プラーテン16に対してウエハ14を保持するための研磨ヘッド12を有している。研磨プラーテン16は,パッド18によって覆われている。このパッド18は典型的には裏張り層20を有し,これは,ウエハ14を研磨するためにケミカルポリシングスラリと共に用いられるカバー層22とプラーテンとの間のインターフェースとなっている。しかし,パッドの中には,カバー層のみを有し裏張り層を有していないものもある。カバー層22は,通例は,オープンセル発泡ウレタン(例えばRodel IC1000)又はグルーブのある表面を有するポリウレタンシート(例えばRodel EX2000)である。このパッド材料は,研磨剤と化学品とを含有するケミカルポリシングスラリによってウェットな状態となっている。典型的なケミカルポリシングスラリの1例は,KOH(水酸化カリウム)とヒュームドシリカ粒子(fumed-silica particles)とを含有している。プラーテンは,通常は自身の中心軸24の回りに回転している。更に,通常は研磨ヘッドが自身の中心軸26の回りに回転し,平行移動アーム28を介してプラーテンの表面の端から端まで平行移動する。図1には研磨ヘッドが1つしか示されていないが,CMP装置には,典型的には,このようなヘッドが1つ以上研磨プラーテンの周方向に間隔をおいて配置される。」(段落【0003】)

・ 「ある部分が所望の平面度又は相対厚さまで平坦化されたかどうかを決定することに,CMPプロセスの最中に生じる特有の問題がある。一般に,所望の表面特性や平坦状態に達したときを検出する必要がある。このことは,様々な方法によって実施されてきた。当初は,CMPプロセスの最中にウエハの性質をモニタすることは不可能であった。典型的には,ウエハをCMP装置から取り出して別の場所で評価していた。ウエハが所期のスペックに適合していなければ,CMP装置に再び戻されて,再処理がなされていた。これは,時間がかかり,しかも人手を要する手法である。あるいは,材料が過剰に除去されてから初めて試験の結果がわかることもあり,その部分を使用不可能にしてしまうこともあった。従って,従来技術においては,CMPプロセスの最中にインシチュウで,所望の表面性質又は厚さが達せられたときを検出することが可能な装置が必要であった。」(段落【0004】)

エ 発明が解決しようとする課題

・ 「CMPプロセスの最中に終点をインシチュウに検出するために,様々な装置や方法が開発されてきた。例えば,超音波の使用と結び付いた装置及び方法や,機械的抵抗,電気的インピーダンスないしウエハ表面温度と結び付いた装置及び方法が用いられてきた。これらの装置や方法は,ウエハやその層の厚さを決定することに依拠し,厚さの変化をモニタすることによりプロセスの終点を確定することに依拠している。ウエハの表面の層が薄くなるようなケースでは,厚さの変化を用いて,表面の層がいつ所望の深さになったかを検出する。また,パターニングを有する表面が不均一なウエハを平坦化するケースでは,厚さの変化をモニタし,表面の不均一度のおよその深さを知ることにより,終点が決定される。厚さの変化が不均一度の深さと等しくなったときに,CMPプロセスが終了する。これらの装置及び方法は,意図していた用途に対してそこそこ良好であったが,更に正確に終点の決定をすることができるシステムがなお必要である。」(段落【0005】)

オ 課題を解決するための手段

・ 「本発明は,研磨プロセスに関して正確性を向上し更に有用な情報を与えるために用いる事ができる終点の検出器及び方法を目指すものである。本発明の装置及び方法は,CMPプロセスの最中に,除去された材料の厚さ又はウエハ表面の平坦度をインシチュウに決定するための,干渉による技術を採用する。」(段落【0006】)

・ 「具体的には,研磨パッドが上についた回転可能な研磨プラーテンと,ウエハを研磨パッドに対して保持するための回転可能な研磨ヘッドと,終点検出器とを用いるケミカルメカニカルポリシング(CMP)の装置及び方法によって,前述の目的が達せられる。研磨パッドは裏張り層を有しており,この裏張り層は,ケミカルスラリによってウェットな状態となっておりウエハとのインターフェースの役割をするカバー層と,プラーテンとの,インターフェースの役目をする。ウエハは,酸化物層の下にある半導体基板から構成されている。そして,終点検出器は,レーザー光(レーザービーム)をウエハに向けて発する事が可能で且つ反射してくる光を検出することが可能なレーザー干渉計と,プラーテンを貫通して形成されているホール(穴)に近接して配置されるウィンドウとを有している。このウィンドウは,少なくともウエハがウィンドウの上方にある間は,ウエハに入射するレーザー光のための通路の役割を果たす。」(段落【0007】)

・ 「このウィンドウは,幾つかの形態が可能である。これらの中には,プラーテンホールの内部に取り付けられるインサートが挙げられる。このインサートはレーザー光に対し透過性の高い,例えばクオーツ等の材料で出来ている。このウィンドウの構成では,インサートの上面は,プラーテンの表面よりも上に突き出ており,また,プラーテンから遠ざかるように延長しているため,ウエハがパッドに対して保持されているときは常に,インサートの上面とウエハとの間にギャップが形成されている。インサートをウエハに接触させずに,このギャップを出来るだけ小さくする方が好ましい。あるいは,ウィンドウは,隣接する裏張り層がそこから取り除かれた後の研磨パッドの一部分の形態であってもよい。ポリウレタンカバー層は少なくとも一部分がレーザー光に対して透過性を有しているため,この形態が可能である。最後に,ウィンドウは,パッドのカバー層に形成されたプラグの形態で裏張り層を有していない形態であってもよい。このプラグは,好ましくは,レーザー光に対して透過性の高いポリウレタン材料製である。」(段落【0008】)

・ 「本発明の1つの具体例では,プラーテンを貫くホール(穴)とウィンドウとは,円形である。別の具体例では,ホールとウィンドウとは円弧形である。この円弧形のウィンドウは,プラーテンの回転の中心と一致する原点からある半径をもって構成される。本発明のいくつかの具体例も,ウエハに入射している所のビームの直径が,用いている波長に対して可能な限り最小の直径に比べて非常に大きいレーザー光を有している。」(段落【0009】)

・ 「また,CMP装置は,ウィンドウがウエハに近接したときを感知する位置センサを有していてもよい。これにより,レーザー干渉計によって発せられたレーザー光が障害なくウィンドウを通過しウエハに入射する事が可能となる。本発明の好ましい具体例では,係るセンサは,放射方向外側へ伸びるプラーテン外縁の部分に沿って取り付けられているフラグを有している。更に,プラーテンの外縁でシャシに取り付けられた光学的干渉タイプのセンサを有している。このセンサは光ビームを発することが可能であり,フラグによってこの光ビームが干渉されたときだけ発せられる信号を生じさせる。従って,レーザービームが障害なしにウィンドウを通りウエハへ入射できるときはいつでも,光ビームがフラグによって干渉されるような,プラーテン上の位置に,フラグは取り付けられる。」(段落【0010】)

・ 「更に,レーザー干渉計は,ウエハから反射してくる光が検出されるときは常に検出信号を発するための装置を有し,また,位置センサは,ウィンドウがウエハに近接しているときは常に感知信号を出力するための要素を有している。このことにより,データ取得装置が,位置センサからの感知信号の継続時間のための,レーザー干渉計からの検出信号をサンプリングする事が可能となる。そして,このデータ取得装置は,サンプリングされた検出信号を代表するデータ信号を出力するための要素を利用する。また,このデータ取得装置は,レーザー干渉計から所定の時間にわたってサンプリングされた検出信号を積分し,この検出信号をサンプリングして積分したものを代表するデータ信号を出力する要素を有している。プラーテンが一周する間に前述の所定のサンプリング時間が得られない場合は,別の区分的データサンプリング方法を利用してもよい。具体的には,あるサンプリング時間に対してプラーテンが完全に一周するそれぞれの一周の間にレーザー干渉計から出力される検出信号をサンプリングする方法を実行し,検出信号の各サンプルをサンプリング時間にわたって積分して各サンプルに対応する積分値を作り出し,そして,各積分値を保存するための,要素を,データ取得装置は有していてもよい。また,プラーテンが完全に一周するその各一周の後の累積サンプリング時間を計算し(この累積サンプリング時間が,検出信号の各サンプルに対するサンプリング時間の総和である場合),この累積サンプリング時間を所望の最小サンプリング時間と比較し,そして,累積サンプリング時間が所定の最小サンプリング時間以上であった場合は保存された積分値を積分要素から総和を計算するための要素へと転送するための,別の要素を,データ取得装置は利用する。従って,前述の出力は,この総和の要素からの積分値の系列を表すデータ信号である。」(段落【0011】)

・ 「データ取得装置によるデータ信号の出力は,CMPプロセスの最中に酸化物層が薄くなるにつれて,ウエハの酸化物層の表面から反射されるレーザービームの部分とこの下のウエハ基板の表面から反射される部分との間で干渉が生じる事により,周期的なものである。従って,ブランク酸化物(blank oxide)ウエハの酸化物層を薄くするCMPプロセスの終点は,データ信号によって現れるサイクルの数を計数し,レーザービームの波長とウエハの酸化物層の反射係数とから出力信号の1サイクルの間に除去される材料の厚さを計算し,酸化物から除去されるべき材料の所望の厚さを,データ信号により現れるサイクルの数と1サイクルの間に除去される材料の厚さとの積を備えた除去厚さと比較し,この除去厚さが除去されるべき材料の所望の厚さ以上になったときにCMPを終了させるための,付加的な装置要素を用いて,決定することが可能である。あるいは,全サイクルを計数する代りに,サイクルの一部を計数してもよい。この手順は,サイクル全体に対してではなくサイクルの一部に対して除去されるべき厚さを決定すること以外は,ほぼ同じである。」(段落【0012】)

・ 「ブランク酸化物ウエハのCMP処理終点を決定する別の方法は,サイクルの所定の数又は1サイクルの所定の部分が終わるための要する時間を測定し,この測定された時間に除去された材料の厚さを計算し,材料の厚さを測定された時間で除して除去速度を算出し,酸化物層から除去されるべき材料の所望の厚さから材料の厚さを減じて残りの除去厚さを確定し,この残りの除去厚さを除去速度で除して残りのCMP時間を確立し,そして,この残りのCMP時間が経過した後CMPプロセスを終了させる,付加的な装置要素を用いる。」(段落【0013】)

・ 「更に,この残りのCMP時間は,材料除去速度の変化を補償するため,サイクルの前述の数が生じるたびに改められてもよい。このケースでは,この手順は,材料の厚さを確定するステップにおいてまず初期の繰り返しにおいて除去された厚さ全てを総和しこの累積厚さを所望の厚さから減じて残りの厚さの数値を決定する点を除いて,ほぼ同じである。」(段落【0014】)

・ 「しかし,ウエハが始めから不均一な表面局所構造を有するためCMPプロセスで平坦化されるべきである場合は,データ信号は,ウエハの表面がスムーズになった後でなければ周期性を有しない。このケースでは,ウエハが平坦化したことを決定することに対応するCMPプロセスの終点は,データ信号の周期な変化を検出し,検出要素がこの周期的な変化を検出したときにCMPプロセスを終了させる,付加的な装置要素を用いることにより得られる。好ましくは,この検出要素は,この変化の最初のほぼ1サイクル以内のデータ信号の周期的な変化を検出する事が可能である。」(段落【0015】)

カ 発明の効果

・ 「以上詳細に説明してきたように,本発明の装置及び方法は,CMPプロセスの最中に,除去された材料の厚さ又はウエハ表面の平坦度をインシチュウに決定するための,干渉による技術を採用する。」(段落【0081】)

・ 「このため,研磨プロセスに関して正確性を向上し更に有用な情報を与えるために用いる事ができる終点の検出器及び方法が提供される。」(段落【0082】)

(2)  以上によれば,本件発明は,半導体の製造に関し,ケミカル・メカニカル・ポリシング(CMP)及びCMPプロセス中のインシチュウ(in-situ)終点検出に関するものである。すなわち,現代の半導体集積回路(IC)製造のプロセスにおいては,先に形成された層や構造の上に様々な材料の層や構造を形成することが必要となり,その際,半導体ウエハの平坦化又は局所構造の除去を実現することが求められるところ,その方法としてCMPプロセス(一般的には,圧力を制御した状態で,回転する研磨プラテンに対してウエハを保持又は回転させ,研磨剤と化学品とを含有するケミカルポリシングスラリによってウェットな状態となったパッド材料に覆われた研磨プラテンを回転させてウエハを研磨するプロセス)があるが,従来技術におけるCMPプロセスにおいては,当該プロセスの最中にウエハの性質をモニタすることができないため,終点を検出することを可能ならしめること求められていた。本件発明は,これを実現するため,研磨パッドの一部を光透過性のウィンドウとし,ここに光ビームを透過させ,その反射光を使用して研磨終点を決定するというステップを採ることで,CMPプロセスの最中に終点をインシチュウに(そのままの状態で)検出することを可能としたことに主たる意義を有するものであると認められる。

3  取消事由1~3について

(1)  審決は,甲13発明の内容,本件発明1と甲13発明との一致点及び相違点を下記のとおり認定した上で,甲13発明に甲22発明を適用して本件発明1の進歩性を否定したものであるが,原告は,本件発明1に係る審決の取消事由として,①一致点・相違点の前提となった甲13発明の認定の誤り(取消事由1),②相違点2に対する判断の前提となった甲22発明の認定の誤り(取消事由2),③相違点2についての進歩性判断の誤り(取消事由3)を主張するので,以下,順次検討を加える。

<甲13発明の内容>

「ウエハの研磨の最中に使用する終点検出方法であって,前記方法は,

研磨表面を有し,研磨布窓内に透明窓材が配される研磨布で前記ウエハを研磨するステップであり,ここで,

前記透明窓材は,定盤の貫通孔に嵌め込まれており,

前記研磨布内に配される前記透明窓材を通して,検出光を研磨されるウエハのウエハ研磨面に透過するステップと,

前記ウエハ研磨面で反射され,前記研磨布内に配される前記透明窓材を通過した検出光の反射光を受けるステップと,

前記ウエハ研磨面で反射された検出光の反射光を使用して,研磨終点を決定するステップと

を含む方法。」

<一致点>

「ウエハの研磨の最中に使用する終点検出方法であって,前記方法は,

研磨表面を有する研磨パッドで前記ウエハを研磨するステップであり,ここで,

前記研磨パッド部分を光が通り,検出光ビームを研磨されるウエハのウエハ表面に透過するステップと,

前記ウエハ表面で反射され,前記研磨パッドを通過した検出光ビームの反射光を受けるステップと,

前記ウエハ表面で反射された検出光ビームの反射光を使用して,研磨終点を決定するステップと

を含む方法。」

<相違点1>

研磨に関し,本件発明1はCMP(化学機械研磨)であるが,甲13発明は不明である点。

<相違点2>

研磨パッド部分を光が通ることに関し,

本件発明1は,研磨パッドが上面及び下面を有する中実な透明物質のウィンドウを有し,前記ウィンドウは,前記研磨パッドの一部であって,光ビームに対して少なくとも部分的に透過性を有する,前記研磨パッドの前記一部を備え,又は

前記ウィンドウは,前記パッド内に形成されたプラグであって,光ビームに対して部分的に透過性を有するプラグを備える

ものであるが,

甲13発明は,透明窓材が定盤の貫通孔に嵌め込まれており,その結果,研磨パッド窓内に透明窓材が配されるものである点。

(2)  取消事由1(甲13発明の認定の誤り及び本件発明1との相違点の看過)について

原告は,甲13発明は,①切り抜き穴としての「窓」は研磨布(研磨パッド)に設けられており,②定盤の貫通孔に嵌め込まれる透明窓材は,研磨布の一部を構成するものではなく,定盤に研磨布が張り付けられた状態においても研磨布「窓」内の部分的領域を占めるにすぎないにもかかわらず,審決がこれを認定しないことは違法である旨主張する。

しかし,上記(1)のとおり,審決は,甲13発明の内容として,「研磨布窓内に透明窓材が配される研磨布で前記ウエハを研磨するステップ」,「前記透明窓材は,定盤の貫通孔に嵌め込まれており,」,「前記研磨布内に配される前記透明窓材を通して,」,「前記研磨布内に配される前記透明窓材を通過した」と認定しており,これによれば,審決は,切り抜き穴としての「窓」が研磨布に設けられていること(原告の主張する上記①),及び定盤の貫通孔に嵌め込まれる透明窓材が研磨布の一部を構成するのではなく研磨布「窓」内の部分的領域を占めるものであること(同②),の各構成を備えるものとして甲13発明を認定しているというべきである。

また,実質的にみても,審決は,相違点2として,甲13発明は,「透明窓材が定盤の貫通孔に嵌め込まれており,その結果,研磨パッド窓内に透明窓材が廃されるものである点」と認定し,かつ,その判断において,「甲13発明は,研磨パッドが光を透過しないものであることを前提に,研磨パッドに窓を形成し,その窓から研磨液の漏れを防ぐために,透明窓材を定盤の貫通孔に嵌め込んだものであり,検出のための装置の製造に相応の工数を必要とするものである。してみると,甲13発明を前提に,甲22発明に接した当業者は,光を透過させるパッドによれば,研磨パッドに窓を形成すること,透明窓材を定盤の貫通孔に嵌め込むことという装置の製造上の工数が不要となり,製造効率が向上することを容易に理解できることが,明らかである。」(審決14頁9行~16行)として,原告の主張する上記①及び②を相違点として認定した上で,これを前提に進歩性を判断したものであると認められる。

したがって,審決に甲13発明の認定誤りないし相違点の看過があったということはできず,原告の上記主張は採用することができない。

(3)  取消事由2(甲22発明の認定の誤り)について

ア 原告は,審決が甲22発明について,「貼り合わせウェーハをマウントプレートに貼着し,ポリシングパッドによる研磨中に使用する終点検出方法であって,ポリシングパッド,ポリシングパッドが貼付されたプラテン,マウントプレートを透明体とし,プラテン側からマウントプレート側へ光を照射するもの。」と認定したことは誤りである旨主張するので,この点について検討する。

イ 甲22公報には,次の記載がある。

(ア) 特許請求の範囲

・ 【請求項1】研磨対象ウェーハの所定の厚さに等しい波長の光を研磨対象ウェーハに全反射角で入射し,前記研磨対象ウェーハを光が透過したとき,または研磨対象ウェーハの所定の厚さに等しい波長の光を研磨対象ウェーハに偏光角で入射し,前記研磨対象ウェーハから反射する偏光を遮断するように配設された偏光板を前記偏光が通過したとき,研磨を終了することを特徴とする貼り合わせウェーハの研磨方法。

(イ) 産業上の利用分野

・ 「本発明は,貼り合わせウェーハの研磨工程において,素子形成層に要求される厚さを実現するための貼り合わせウェーハの研磨方法に関する。」(段落【0001】)

(ウ) 従来の技術

・ 「2枚のSiウェーハの間に絶縁層を介在させ,直接接着技術(貼り合わせ技術)により接着して得られる貼り合わせウェーハは,ICの高耐圧化,高速化,高信頼性化を実現させる方法として注目されている。前記貼り合わせウェーハは,2枚のSiウェーハのうち,上側のSiウェーハの表面を酸化して酸化膜SiO2を形成させ,この上側のSiウェーハすなわちSOIウェーハと,下側のSiウェーハすなわちベースウェーハとを洗浄処理した上,常温で貼り合わせる。これを800~1100°C程度の高温で熱処理すると,前記上側のSiウェーハと下側のSiウェーハとは酸化膜SiO2を介して完全に接着する。次に,酸化膜SiO2が形成されたSOIウェーハを,たとえば平面研削盤を用いて荒研削および仕上げ研削し,更に研磨によりSOIウェーハを所定の厚さに薄膜化する。このような手順により,SOIウェーハとベースウェーハとの間に絶縁層すなわち酸化膜SiO2を介在させたSOI半導体基板が製造される。」(段落【0002】)

(エ) 発明が解決しようとする課題

・ 「上記のような研磨方法で貼り合わせウェーハの一方,すなわちSOIウェーハについて,その厚さの大部分を研磨により除去し,1μmないしそれ以下の層を素子形成層として均一な厚さに残すことは極めて困難である。特に,素子形成層の厚さのばらつきが大きく,±0.5μm程度の精度であるため,SOI半導体基板の製造歩留りが低い。また,貼り合わせウェーハをウェーハ研磨機から取り外してSOIウェーハの厚さを測定する方法では,作業能率を向上させることができない。本発明は上記従来の問題点に着目してなされたもので,SOI半導体基板の製造工程において,素子形成層であるSi層を高精度に,かつ能率よく所望の厚さに研磨するための貼り合わせウェーハの研磨方法を提供することを目的としている。」(段落【0003】)

(オ) 課題を解決するための手段

・ 「上記目的を達成するため,本発明に係る貼り合わせウェーハの研磨方法は,研磨対象ウェーハの所定の厚さに等しい波長の光を研磨対象ウェーハに全反射角で入射し,前記研磨対象ウェーハを光が透過したとき,または研磨対象ウェーハの所定の厚さに等しい波長の光を研磨対象ウェーハに偏光角で入射し,前記研磨対象ウェーハから反射する偏光を遮断するように配設された偏光板を前記偏光が通過したとき研磨を終了するものとし,具体的には,ウェーハ研磨機のマウントプレートを透明体で構成し,前記マウントプレートに透明ワックスを用いて貼り合わせウェーハを貼着するとともに,ポリシングパッドと貼り合わせウェーハとの間に研磨対象ウェーハの屈折率より高い屈折率を有するスラリーを流し,前記貼り合わせウェーハの素子形成層に要求される厚さに等しい波長の光を貼り合わせウェーハに全反射角で入射し,前記マウントプレートの下方に配設した光検出器が貼り合わせウェーハに入射した光の透過光を検出したとき,貼り合わせウェーハの研磨を終了する一連の制御を行うものとした。

また,上記に代わる貼り合わせウェーハの研磨方法として,ウェーハ研磨機のマウントプレートを透明体で構成し,前記マウントプレートに透明ワックスを用いて貼り合わせウェーハを貼着し,前記貼り合わせウェーハの素子形成層に要求される厚さに等しい波長の光を,前記マウントプレートの下方から研磨対象ウェーハに偏光角で入射し,研磨対象ウェーハから反射する偏光の偏光面に対して直角方向に設けた偏光板を光が通過したとき,これを検出して貼り合わせウェーハの研磨を終了する一連の制御を行うものとしてもよい。」(段落【0004】)

(カ) 作用

・ 「透明な第1媒質の屈折率をn1,第2媒質の屈折率をn2とし,n1>n2であるとき,sinθ>n2/n1となるような入射角θで第1媒質から第2媒質へ光が進むと,その境界面で全反射する。しかし,前記第2媒質の厚さtが光の波長λに等しくなると,それまで全反射していた光の一部が第2媒質を透過するようになる。請求項2の研磨方法は前記現象を利用したものであり,SOIウェーハの屈折率より高い屈折率を有するスラリーを用い,所望のSOIウェーハの厚さt1に等しい波長の光をSOIウェーハに全反射角で入射させ,SOIウェーハを透過した光を検出するまで研磨したとき,SOIウェーハの厚さは所望の厚さt1となる。このような一連の制御を行うことにより,貼り合わせウェーハをマウントプレートに貼着したままの状態でSOIウェーハの厚さが所望の寸法に研磨された時点を把握することができ,この時点で研磨を終了させることができる。」(段落【0005】)

(キ) 実施例

・ 「…ウェーハ研磨機のポリシングパッド1は透明体で,パッド駆動装置2により回転および昇降する駆動軸2aの先端に固着されている。マウントプレート3は,たとえばSiO2からなる透明体で,前記ポリシングパッド1の上方にレーザ発振器4,波長変換装置5がそれぞれ配設されている。マウントプレート3の下方には光検出器6が設けられ,光検出器6の出力配線は制御装置7に接続されている。」(段落【0007】)

・ 「貼り合わせウェーハ11は,2枚の単結晶Siウェーハを絶縁層SiO2を介して貼り合わせたいわゆるSOI基板で,直接接着技術によって形成される貼り合わせ型SOI基板の製造工程に従って,素子形成層の所定の厚さ近くまでSi単結晶層を研磨したものである。この貼り合わせウェーハ11は,前記マウントプレート3上に透明ワックスを用いて接着されている。レーザ発振器4によって発振されたレーザ光は,波長変換装置5により所定の波長λすなわちSOIウェーハの目標厚さをt1としたとき,λ=t1となるように変換された後,ポリシングパッド1とスラリー10とを透過して貼り合わせウェーハ11に全反射角θで入射される。…t=λになると,それまで上部Si層11aの上面で全反射していた光の一部が上部Si層11aを透過し,更にSiO2層11b,下部Si層11c,ワックス層12,マウントプレート3を透過してマウントプレート3の下方に進む。光検出器6はこの透過光を検出すると制御装置7に信号を出力し,制御装置7はパッド駆動装置2に研磨終了指令信号を送るので,ポリシングパッド1が上昇するとともに,表示装置8に研磨終了の表示が行われる。…」(段落【0008】)

(ク) 発明の効果

・ 「以上説明したように本発明によれば,貼り合わせウェーハの屈折率より高い屈折率のスラリーを介して,所望の厚さに等しい波長の光を全反射角で貼り合わせウェーハに入射し,貼り合わせウェーハを透過した光を検出するまで研磨を行うことにしたので,この方法によれば従来精度管理が困難であったSOI半導体基板の研磨精度を容易に向上させることができる。また,所望の厚さに等しい波長の光を偏光角で貼り合わせウェーハに入射し,その反射光が通過しない方向に偏光板を設け,前記偏光板を光が通過するまで研磨を行う方法においても,前記と同様に研磨精度の向上を容易に達成することができる。更に,本発明による研磨方法によれば,貼り合わせウェーハをマウントプレートに貼着したままの状態で,SOIウェーハが所望の厚さになったか否かを直接検出することができ,所望の厚さになるとポリシングパッドが上昇して研磨を停止するので,貼り合わせウェーハの研磨作業能率を向上させることが可能となる。」(段落【0013】)

ウ 以上によれば,甲22公報には,「貼り合わせウェーハをマウントプレートに貼着し,ポリシングパッドによる研磨中に使用する終点検出方法であって,ポリシングパッド,ポリシングパッドが貼付されたプラテン,マウントプレートを透明体とし,プラテン側からマウントプレート側へ光を照射するもの。」との発明が記載されていることは明らかというべきであり,これと同旨の審決の認定に誤りがあるということはできない。

これに対し原告は,甲22発明の装置構成等を挙げて,甲22公報が開示する技術は本件発明1に係るCMPの技術ではなく,ラッピングに関する技術である旨主張するが,原告が指摘する事情は,進歩性判断の当否を論じる前提として検討するのであればともかく,甲22公報に上記記載がある以上,これにより甲22発明を上記のとおり認定すべきことを左右するものではないし,上記主張を進歩性(甲13発明と甲22発明との組合せの困難性)の判断の誤りをいうものと理解したとしても,後記(4)のとおり採用することができない。

また原告は,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は,甲22発明の透明な「ポリシングパッド1」が何であるのか,どのような表面構造を持っているのかを全く把握できないし,「スラリー10」とは具体的にどのような物質から構成されるものであり,かつ,その組成がどのようなものであるのか把握できないから,甲22公報には引用例としての適格が欠ける旨主張する。

しかし,特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明というためには,特許出願当時(本件では優先権主張〔米国〕時である平成7年〔1995年〕3月28日)の技術水準を基礎として,当業者が当該刊行物を見たときに,特許請求の範囲の記載により特定される特許発明等の内容との対比に必要な限度において,その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり,かつ,それで足りると解するのが相当である。そして,甲22公報からは,審決が認定した限度における上記発明を優に把握できるのであるから,甲22公報におけるポリシングパッドの素材や表面構造あるいはスラリーの抗生物質ないし組成を厳密に特定できないからといって,引用例としての適格に欠けるものではない。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

(4)  取消事由3(本件発明1に関する進歩性判断の誤り)について

ア 上記(1)のとおり,審決は甲13発明に甲22発明を適用して本件発明1の進歩性を否定したものであるところ,原告は,甲22発明はポリシング(CMP)ではなくラッピングに関する技術であるなどとして,審決の判断は前提において誤りがある旨主張するので,この点について検討する。

(ア) 前記2のとおり,本件発明に係る明細書(甲1,2)には,CMPに関する一般的な説明として,

「半導体ウエハの平坦化又は局所構造の除去を実現する方法の1つに,ケミカルメカニカルポリシング(CMP)がある。一般的には,ケミカルメカニカルポリシング(CMP)プロセスは,圧力を制御した状態で,回転する研磨プラーテンに対してウエハを保持し又は回転させる。図1に示されるように,典型的なCMP装置10は,研磨プラーテン16に対してウエハ14を保持するための研磨ヘッド12を有している。研磨プラーテン16は,パッド18によって覆われている。このパッド18は典型的には裏張り層20を有し,これは,ウエハ14を研磨するためにケミカルポリシングスラリと共に用いられるカバー層22とプラーテンとの間のインターフェースとなっている。しかし,パッドの中には,カバー層のみを有し裏張り層を有していないものもある。カバー層22は,通例は,オープンセル発泡ウレタン(例えばRodel IC1000)又はグルーブのある表面を有するポリウレタンシート(例えばRodel EX2000)である。このパッド材料は,研磨剤と化学品とを含有するケミカルポリシングスラリによってウェットな状態となっている。典型的なケミカルポリシングスラリの1例は,KOH(水酸化カリウム)とヒュームドシリカ粒子(fumed-silica particles)とを含有している。プラーテンは,通常は自身の中心軸24の回りに回転している。更に,通常は研磨ヘッドが自身の中心軸26の回りに回転し,平行移動アーム28を介してプラーテンの表面の端から端まで平行移動する。図1には研磨ヘッドが1つしか示されていないが,CMP装置には,典型的には,このようなヘッドが1つ以上研磨プラーテンの周方向に間隔をおいて配置される。」(段落【0003】)

との記載がある。

そして,甲22公報に関する前記記載をみると,段落【0003】からは,甲22発明の課題として,素子形成層であるSi層を高精度にかつ能率よく所望の厚さに研磨するためのウエハの研磨方法を提供することを目的とすることが理解でき,段落【0004】,【0007】~【0012】からは,その目的達成のために,「ポリシングパッド1」によって「スラリー」を流しながら「ウェーハ」を研磨していることが認められ,これらの研磨方法は,本件発明に係る上記CMP研磨と同様の方法と理解できるのであって,甲22発明をラッピングに関する技術に限定して把握すべきものと解することはできない。

(イ) また,CMPに関する文献には,次のような記載がある。

・ 「Planarization;CMP&Its Applications vol.42001」(精密工学会平成14年5月10日発行,乙1)には,「新しいコンセプトのCMP研磨装置」として,アクティブな研磨を実現するためのCMP研磨装置について記載されており,そこに記載された図1の説明として,「ウエハより小さな径の研磨パッドを使用している点,ウエハがフェイスアップしている点で,終点検出が容易になる。研磨パッドで隠れていないウエハ面が常にあるため,常時定点測定が可能になり,検出器を回転させずにin-situで監視できる。また,ウエハを見下ろすように監視するため,研磨パッドに観察用の窓が不要になり,スラリーの影響を受けにくい上側に主点検出器を配置することができる。研磨による観察窓の傷による光の透過率変動が生じないため,終点検出器の光量調整機構が不要になる。」(41頁右欄23行~32行)との記載がある。

・ 「CMPの実践的基礎技術」(EDリサーチ社平成16年〔2004年〕8月23日発行,乙12)には,「CMP(Chemical Mechanical Polishing)技術は主として半導体シリコン基板の仕上げ研磨技術として30数年以上の歴史を経て実務領域において発展してきた。現状では超LSIの多層配線プロセスにおける平坦化研磨技術の代名詞のように使われているふしもあるが,シリコン結晶を化学的,機械的な複合エネルギによって研磨する場合の研磨メカニズムを表す言葉であり,厳密に使われているか疑問を持つ場合もある。技術課題の解決とステップアップにはその技術の本質的な面の理解が必要であり,その点で言葉の定義なども明確にしておくべきであると考える。したがって,本書で主として扱うのは多層配線プロセスで使用されるCMP応用の平坦化研磨技術であるので,あえて平坦化CMP技術として区別する。」(「はじめに」1行~8行),「CMP(Chemical Mechanical Polishing)技術は化学的および機械的作用を複合化させてそれぞれの単独の作用よりも効果的に主としてシリコン結晶を精密に研磨する技術として発展してきた。…技術の名称としては,ケモメカニカル(Chemomechanical)やメカニカルケミカル(Mechanical-chemical)とも呼ばれてきたが,近年超LSI用基板の多層配線平坦化研磨技術としてCMPの名称が一般化している。したがってCMPは本来,研磨技術の研磨メカニズムを表す,すなわち技術の本質を表す名称である。これには多層配線のプロセス技術としての平坦化を意味する言葉は見えない。」(4頁「1.1CMP技術の基礎」1行~10行)と記載されている。

以上によれば,これらの文献に記載されたCMP研磨機は甲22発明に係るウエハ研磨機と矛盾するものではなく,甲22発明に係るウエハ研磨機の構成及び機能が一般的なCMP装置と異なるものとは認められないし,上記のような本件発明に係る明細書の記載と矛盾するものではなく,上記文献は本件発明の出願後に発行されたものではあるが,これらの文献によってもなお,甲22発明はCMPに関する技術であると把握することができる。

(ウ) これに対し原告は,以下の各事情をもって,甲22発明はポリシング(CMP)ではなくラッピングに関する技術であることの根拠として主張するので,以下,順次検討する。

a 原告は,甲22発明の装置構成は,研磨パッドの直径の点や,研磨パッドとウエハの位置関係からみて,一般的なCMP装置の構成と異なる旨主張する。

しかし,前記認定のとおり,甲22公報には,ウェーハ研磨機のマウントプレートにウェーハを貼着するとともに,ポリシングパッドとウェーハとの間にスラリーを流し,ウェーハに光を全反射角で入射し,マウントプレートの下方又は上方に配設した光検出器がウェーハに入射した光の透過光を検出したとき,貼り合わせウェーハの研磨を終了し(段落【0004】,【0007),【0008】),これにより研磨精度を容易に向上させることができ,研磨作業効率を向上させることができることが記載されている。他方,甲22公報には,研磨パッドの直径がウエハのそれに比べて小さかったり,直径のより小さい研磨パッドがウエハの上側に配置されているために,ウエハ全体における薄膜化・平坦化の状態を均一にできないとか,スラリーの供給が困難であるなどといった記載は見当たらない。

そうすると,甲22発明における研磨装置は,その構成及び機能からしてCMP研磨に使用できると認められるのであって,一般的なCMP装置と異なる装置とまでは認められない。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

b 原告は,甲22公報には,「ポリシングパッド1」にどうやってスラリーを保持させるかについての言及が存在しない旨主張するところ,これは,甲13発明を前提として本件発明1に想到するためには,研磨パッドにスラリーの保持性能を持たせつつ光を通過させるにはどうしたらよいかという問題を解決しなければならないにもかかわらず,甲22公報にその旨の記載がないことをいうものと理解することができる。

たしかに,甲22公報には,実施例において,「ポリシングパッド1」にCMPの研磨パッドに必須なスラリー保持機能を持たせるべく研磨側表面を発泡材で形成した場合,微細孔の存在ゆえにレーザ光が散乱してしまう旨の記載はあるものの(段落【0008】),これに対する解決についての記載はない。

しかし,甲22発明においては,上記実施例の説明にあるように,ポリシングパッド1,スラリー10を透過した光は,貼り合わせウェーハ11を構成する上部Si層11aの上面に全反射角θで入射する。そして,t>λのとき前記入射光は上部Si層11aの上面で全反射するため,光検出器6では透過光が検出されないが,t=λになると,それまで上部Si層11aの上面で全反射していた光の一部が上部Si層11aを透過し,更にSiO2層11b,下部Si層11c,ワックス層12,マウントプレート3を透過してマウントプレート3の下方に進む。そして,光検出器6は,このウェーハを透過した光の一部を検出することによりウエーハが一定の厚さ(t=λ)となったことを検知するものであり,光の全部を検出することを前提とするものではない。そうである以上,仮にポリシングパッド1の発泡材で形成した微細孔によりレーザ光の多くが散乱するとしても,それにより甲22公報に記載された発明を把握できないということにはならない。

したがって,原告の上記主張をもってしても,甲22発明がCMPの研磨装置に関する発明でないとすることはできない。

c 原告は,CMPの重要な目的の一つは「平坦化」や「鏡面仕上げ」であるところ,甲22公報には,これらについて示唆する記載が全く存在しないと主張する。

しかし,上記のとおり,甲22公報の【従来の技術】には,「…次に,酸化膜SiO2が形成されたSOIウェーハを,たとえば平面研削盤を用いて荒研削および仕上げ研削し,更に研磨によりSOIウェーハを所定の厚さに薄膜化する。このような手順により,SOIウェーハとベースウェーハとの間に絶縁層すなわち酸化膜SiO2を介在させたSOI半導体基板が製造される。」(段落【0002】)と記載されているところ,ウエハの薄膜化とは,平面研削盤を用いて二次元の平面の研削及び研磨を行い,その結果所定の厚さに薄膜化するものであるから,その研削及び研磨された表面は平面であることは明らかであるし,最初に荒研削及び仕上げ研削し,その後研磨を行うことからみて,鏡面仕上げをも目標とした研削・研磨であることも明らかである。

また,前記認定のとおり,甲22公報の【発明が解決しようとする課題】には,甲22発明が素子形成層の厚さのばらつきをなくし,高精度に能率良く所望の厚さに研磨することを目的とするものであること,【実施例】以下には,ポリシングパッド1は,パッド駆動装置2により回転されて,ウエーハ研磨することが記載されているのであるから,その際の研磨はウエーハ表面が研磨され平坦化されるものであることは明らかである。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

d 原告は,甲22発明の「ポリシングパッド1」が,プラテンにパッドを貼り合わせた複合構成であることを説明・示唆する記載が甲22公報に存在しないなどと主張する。

しかし,前記認定のとおり,甲22公報の段落【0007】【0008】には,ポリシングパッド1によりウエハ11の上部Si層11aの上面が研磨されることが記載されている。原告は,甲22公報記載の「ポリシングパッド」がプラテンであると主張するが,CMP用語辞典(精密工学会「プラナリゼーション加工/CMP応用技術専門委員会編,グローバルネット株式会社平成12年5月29日発行,甲10)によれば,「プラテン」とは,研磨布を貼付する定盤のことであると認められるし,また,甲22公報の「ポリシングパッド」がプラテンであるとすると,甲22発明においては,研磨布を貼付していない「プラテン」のみにより研磨を行うことになり,甲22発明の目的である,素子形成層であるSi層を高精度にかつ能率よく所望の厚さに研磨することができなくなるから,背理といわなければならない。

そして,プラテンとパッドの屈折率や接着剤についての記載がなされていなくとも,屈折率の調整や接着剤の選択は当業者が適宜選択して実施する事項であるから,当業者は,甲22発明をポリシングパッドを用いたCMP研磨に関する発明であると解するのが自然である。

したがって,原告の上記主張をもってしても,甲22発明がCMPの研磨装置に関する発明でないとすることはできない。

e 原告は,甲22公報の段落【0007】の記載と図1,図2によれば,甲22発明においては,駆動軸に固着することができ,駆動軸の駆動によって回転するような剛性を持った物体が「ポリシングパッド1」である旨主張する。

しかし,柏木正弘編「CMPのサイエンス」(サイエンスフォーラム1997年〔平成9年〕8月20日第1版第1刷発行,甲6)に,「パッドを装着する台としては,米国ではPlaten,Polishing Plate等が使用される。日本語では定盤が多い(富士通,不二越機械等)。」(17頁)との記載があるとおり,ポリシングのためのパッドはプラテンに貼付したものが用いられることは周知の事項であると認められるから,甲22公報に接した当業者は,そこに記載された「ポリシングパッド1」も剛性をもったプラテンに貼付され,パッド駆動装置により回転ないし昇降されるものであると理解できるのであって,原告の上記主張のように解すべきものではない。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

f 原告は,「ポリシング」と「ラッピング」とはパッドの有無等により区別するのが一般的であるが,両語の用語例は,時として境界が曖昧であったり,オーバーラップしたりすることがあり,プラテンのみでパッドを有しないものを「パッド」と称している例が存在すると主張する。

たしかに,原告が指摘するように,特開昭59-187456号公報(甲21公報)には,「…例えばナイロン短繊維5が密に植えつけられたプラスチック研磨布6等が張られた回転するポリシング・パッド7上に…」(2頁左上欄1行~3行)として,プラテンのみでパッドを有しないものを「パッド」と称する例もないではない。しかし,「ポリシング」と「ラッピング」とは一般的にパッドの有無により区別できることは原告も自認するところであって,そうである以上,甲21公報に記載された例が存在するからといって,甲22発明をCMPに関する技術であると解することの妨げとなるものではない。

g 原告は,甲22発明の出願当時(平成4年5月8日),甲22公報で言及されているような意味で「透明」ないし「透明体」であるCMPのポリシングパッドは存在しなかったと主張する。

しかし,甲27公報(特開昭61-76260号公報)に,「化学的作用と機械的作用との双方により研磨作用が行なわれると考えられている」(1頁右下欄3行~4行),「ポリシャ4が透明なものである場合には,第2図に示される様にポリシャ4の貫通孔は設けなくともレーザ光の照射は良好に行われる。」(2頁左下欄15行~18行)と記載されているとおり,甲27公報の記載内容は正にCMPに関するものであるとともに,CMPに用いられる透明のポリシングパッドが記載されていると認められる。同様に,甲28公報(特開昭63-134162号公報)には,「この機械的,化学的作用を複合させた研磨加工は,一般にメカノケミカルポリシングと称されている。」(2頁右上欄2行~4行),「ポリッシャ3は光学的に透明な材料を用い」(2頁右下欄5行~6行),「この光源9より発生した光はポリッシャ3を透過し,被加工面6を照射する。」(同15行~16行)と記載されており,これらの記載によれば,同公報にもCMPに用いられる透明のポリシングパッドが記載されていると認められる。さらに,甲29公報(特開平5-102113号公報)には,「…研磨布2は光源8から光を受け,CCDカメラ7に明るさが検出される。」(段落【0007】)と記載されており,化学的,機械的な複合エネルギによる研磨,すなわちCMPに用いられる透明な「パッド」が記載されていると認められる。

したがって,甲22発明出願当時(平成4年5月8日),CMPに用いられる透明なポリシング「パッド」は存在したと認められるから,原告の上記主張は採用することができない。

また,原告は,一般的に,光学物質の屈折率が高くなると,短い波長の光を一層吸収する傾向があり,シリコンより屈折率の高い「ポリシングパッド1」が,可視光線や1μm以下のレーザ光に対して「透明体」であるということは,技術常識としてありえない旨主張するが,甲22発明において,光検出器6は,ウェーハを透過した光の一部を検出することによりウエーハが一定の厚さ(t=λ)となったことを検知するものであり,光の全部を検出することを前提とするものではない。原告主張のように,甲22発明において,「ポリシングパッド1」及びウエーハを透過する透過光が吸収され減少する場合があるとしても,甲22公報に記載された発明を把握できなくなるものではないから,原告の上記主張は採用することができない。

h 原告は,甲22発明が利用する全反射の条件が成立するためには,スラリー10の屈折率のみならず,「ポリシングパッド1」の屈折率も,シリコンの屈折率(3.42)より高いことが必須であるにもかかわらず,シリコンより屈折率の高いポリマーは存在しないと主張する。

たしかに,シリコンより屈折率の高いポリマーがポリシングパッドとして実用されていることを窺わせる事情は見当たらないが,前記のとおり,甲22公報にはポリシングパッドを透明体とすること及びこれに光を透過させることで光検出を可能にする旨の技術思想は開示されているのであるから(段落【0007】,【0008】),これを甲13発明に適用することで本件発明1の構成を容易に想到できるというべきである。

したがって,原告の主張する上記事情は前記判断を左右するものではなく,採用することができない。

i なお原告は,甲22公報に「素子形成層の所定の厚さ近くまでSi単結晶層を研磨したもの」(段落【0008】)との記載があるとしても,甲22発明がラッピングよりも高精度なポリシングの技術ではないことの根拠となるものではない旨主張するが,甲22公報における上記記載がポリシング技術を意味すると解する余地を排除できない以上,かかる事情が上記判断を左右するものではない。

イ 以上に対し,原告は,仮に甲22公報で「ポリシングパッド」と呼ばれているものがポリシングパッドとプラテンの複合体であったとしても,審決の判断は誤りであると主張するので,この点について検討する。

(ア) 原告は,CMPの研磨パッドの表面材料には,発泡ウレタンなど,スラリーを保持するための微細孔を有するものが用いられ,当該微細孔やその表面層にスラリー保持のための溝(グルーブ)を設けるので,甲13発明を前提として本件発明1に想到するためには,研磨パッドにスラリーの保持性能を持たせつつ光を通過させるにはどうしたらよいかという問題を解決しなければならないが,これら各種問題を解決するための指針は一切示されていないと主張する。

しかし,甲13公報には,「本発明の装置において,透明窓材とウエハとの間にできる研磨液の膜を通してウエハの研磨面に照射した光の反射光を観察あるいは評価するのであるが,研磨液は液中に微粒子が懸濁したものであり,光を散乱する性質をもっているので,透明窓材の表面とウエハの研磨面との間の間隔が小さい方が観察あるいは評価に都合がよい。」(段落「【0015】)との記載があり,研磨パッドにスラリーの保持性能を持たせつつ光を通過させるには,透明窓材の表面とウエハ研磨面との間隔を小さくし,スラリーを少なくして光の散乱を低減することが記載されているのであるから,原告主張の問題点について指針が示されていないものではない。

また原告は,甲13発明のように研磨パッドに切り抜き穴を設けず,本件発明1のようにパッドの一部やプラグを「ウィンドウ」とする場合は,当該部分の材料の表面特性,適切な硬さその他の物理的性質,物理的・化学的耐久性等々の問題も解決しなければならないが,甲22公報には,「ポリシングパッド」全体を透明体とするという極めて抽象的な技術的思想が開示されているだけで,これら各種問題を解決するための指針は一切示されていないとも主張する。

しかし,甲22発明のポリシングパッドはCMP研磨のパッドであり,また,CMP研磨に使用パッドを透明体とすることが甲27~29公報に記載されているように周知の事項であることは既に認定したとおりであり,このようなポリシングパッドを甲13発明に適用する際,当該材料の表面特性,適切な硬さその他の物理的性質,物理的・化学的耐久性等をいかにすべきかは,当業者が適宜設定すべき事項にすぎない。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

(イ) 原告は,甲22発明は研磨パッド(及びプラテン)全体を透明体で構成するものであり,ウィンドウを画定するという発想がなく,甲22発明を甲13発明に適用する場合に,敢えて甲13発明の「透明窓材6」を甲22発明の「ポリシングパッド1」に置き換えることはない旨主張する。

しかし,本件発明1の「ウインドウ」は研磨パッドの一部であって,光ビームを透過するものであればよいのであるから,甲22発明のポリシングパッド1のように,研磨パッド全体が透明体であるものを含むと理解することができる。そして,甲13発明の「透明窓材6」は,光ビームを透過するためのものであるから,甲22発明を甲13発明に適用する場合には,当業者は,甲13発明の「透明窓材6」の代わりに,甲22発明の「ポリシングパッド1」を置き換えるのが自然である。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

(ウ) なお原告は,甲13発明においても甲22発明においてもスラリー層が存在するから,両者を組み合わせたとして,ウィンドウにおいてスラリー層のほとんど存在しない本件発明1に至ることはないと主張するが,上記(ア)のとおり,甲13公報にはスラリー層が薄いことの技術的意義に関する記載があるし,また,本件発明に係る明細書の記載上,スラリーを「ほとんど存在しない状態」にするための記載は見当たらないから,原告の主張は本件発明の明細書の記載に基づかないものといわざるを得ない。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

ウ 以上のとおりであるから,甲22公報にはCMPに関する技術的事項が記載されていると認めることができる。そうすると,当業者がこれを甲13発明に適用することにより,審決の認定に係る相違点2の構成を想到することは容易ということができるから,取消事由3に係る原告の主張は理由がない。

4  取消事由4(本件発明2~20に関する進歩性判断の誤り)について

原告は,本件発明2~20に関する審決の判断に誤りがある旨主張するので,以下,順次検討する。

(1)  本件発明2に係る進歩性の有無

ア 本件発明2の内容は前記2のとおり(請求項2)であり,これを甲13発明と対比すると,審決が認定したとおり,両者は本件発明1における一致点,相違点に加え,以下の点で相違する。

<相違点3>

研磨パッドに関し,本件発明2はポリウレタンから作られたウインドウを有するものであるが,甲13発明は不明である点(審決15頁4行~5行)。

イ そして,前記2に述べた本件発明の意義に照らせば,本件発明における「ウインドウ」は研磨パッドの一部であって,光ビームを透過するものであればよく,甲22発明のポリシングパッド1のように研磨パッド全体が透明体であるものも含むと解されるところ,甲16公報には,「…本発明に係わる硫黄(S)原子を含有したウレタン系プラスチックレンズを用いた場合は屈折率ND20℃=1.56以上のものが得られ,また着色等の外観や耐候性等に問題が生じることが殆どない。また,前述のウレタン系レンズでは,3官能以上の化合物を入れないと切削性及び研磨性等の加工性に劣る傾向にあるが,本発明のポリウレタン系プラスチックレンズでは必ずしも3官能以上の3次元架橋剤を入れなくてもプラスチックレンズとして必要な切削性及び研磨性等の加工性が良好なものが得られる。」(段落【0006】)として,光ビームを透過するものとしてポリウレタンが記載されている。そうすると,甲22発明のポリシングパッド1として,既に公知である光ビームを透過するポリウレタンを採用することは,当業者が適宜選択して実施する設計的事項というべきである。

したがって,本件発明2は,甲13発明・甲22発明・甲16発明及び周知技術に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,原告の主張は採用することができない。

(2)  本件発明3に係る進歩性の有無

ア 本件発明3の内容は前記2のとおりであり,これは,本件発明1における研磨パッドについて,「添加物を有するポリウレタンを備える非透過性部分を有する研磨パッド」であると特定するものであるところ,これを甲13発明と対比すると,審決が認定したとおり,両者は本件発明2における一致点,相違点に加え,以下の点で相違する。

<相違点4>

研磨パッドに関し,本件発明3は添加物を有するポリウレタンを備える非透過性部分を有するものであるが,甲13発明は不明である点(審決15頁16行~17行)。

イ この点,甲13公報には,「定盤1の溝2を有する面には,定盤1と同形の厚さ0.7mmのローデルニッタ社製,商品名suba-500ウレタン含浸ポリエステル不織布からなる研磨布5が張り付けられ…」(段落【0023】)として,研磨布5をウレタン含浸ポリエステル不織布とすること,すなわち,ポリウレタンから成る研磨パッドの非透過部分でCMP研磨することが記載されており,ウインドウも含めすべて同一の素材であるポリウレタンとすることは,本件発明1について述べたとおり,格別困難なことではない。

そして,上記を超えて本件発明3において更に添加物を加えることの技術的意義は明細書の記載上明らかではないから,研磨パッドにおいて,光を透過する必要のあるウインドウ以外の材質について添加物を加えるか否かは,当業者が適宜選択すべき設計的事項というべきである。

したがって,本件発明3は,甲13発明・甲22発明・甲16発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから,原告の主張は採用することができない。

(3)  本件発明4に係る進歩性の有無

ア 本件発明4の内容は前記2のとおりであり,これは,本件発明1における研磨パッドについて,「ウインドウは上面を有し,研磨表面と前記上面とは同一平面上にある」と特定するものであるところ,これを甲13発明と対比すると,審決が認定したとおり,両者は本件発明1における一致点,相違点に加え,以下の点で相違する。

<相違点5>

研磨パッドに関し,本件発明4は,ウインドウが上面を有し,研磨表面とウインドウ上面とは同一表面上にあるものであるが,甲13発明は不明である点(審決15頁下8行~下6行)。

イ そして,甲13公報には,「…透明窓材の表面とウエハの研磨面との間隔が小さい方が観察あるいは評価に都合がよい。」(段落【0015】)と記載されていることからすると,研磨表面とウインドウ上面とを同一平面とすることは自然というべきであるから,本件発明4は,甲13発明・甲22発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたというべきである。

これに対し,原告は,甲22発明におけるウインドウの材質がガラスであることを前提に,研磨表面とウインドウ上面とを同一平面にしない方が自然である旨主張するが,甲22公報には,前記のとおり,「マウントプレート3」が「たとえばSiO2からなる透明体」であること(段落【0007】)が記載されているだけで,ポリシングパッド1について透明体とすること以上にその材質について記載するところがない。そうすると,ウインドウの材質を原告主張のように限定すべき理由は見当たらないから,原告の主張は採用することができない。

(4)  本件発明5に係る進歩性の有無

ア 本件発明5の内容は前記2のとおりであり,これは,本件発明1における研磨パッドについて,「研磨パッドの底面は,ウインドウに調心され,かつウインドウに伸びる取り除かれた部分を含む」ことを特定するものであるところ,これを甲13発明と対比すると,審決が認定したとおり,両者は本件発明1における一致点,相違点1を有し,さらに,相違点2に代えて以下の相違点6を有する。

<相違点6>

研磨パッド部分を光が通ることに関し,

本件発明5は,研磨パッドが上面及び下面を有する中実な透明物質のウィンドウを有し,前記ウィンドウは,前記研磨パッドの一部であって,光ビームに対して少なくとも部分的に透過性を有する,前記研磨パッドの前記一部を備え,又は

前記ウィンドウは,前記パッド内に形成されたプラグであって,光ビームに対して部分的に透過性を有するプラグを備え,

前記研磨パッドの底面は,前記ウィンドウに調心され,かつ前記ウィンドウに伸びる取り除かれた部分を含む

ものであるが,

甲13発明は,透明窓材が定盤の貫通孔に嵌め込まれており,その結果,研磨パッド窓内に透明窓材が配されるものである点(審決16頁6行~17行)。

イ そして,甲13発明は,研磨パッドが光を透過しないものであることを前提に,研磨パッドに窓,すなわち取り除かれた部分を形成し,その取り除かれた部分から研磨液の漏れを防ぐために,透明窓材を定盤の貫通孔に嵌め込んだものであり,検出のための装置の製造に相応の工数を必要とするものである。

そうすると,甲13発明を前提に,甲22発明に接した当業者は,透明窓材に代えて,光を透過させるパッドでよいことを容易に予測できるというべきである。

この点原告は,甲22発明は「光を透過させるパッド」を開示していないから,透明窓材に代えて光を透過させるパッドでよいことを容易に予測することはできない旨主張するが,そのような前提自体採用することができない。

したがって,甲13発明に甲22発明を適用し,適用に際しては,光が透過する必要がある部分であるウインドウであるプラグのみ透明とし,本件発明5の相違点6に係る事項とすることが困難であるとは認められないから,本件発明5は,甲13発明・甲22発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)  本件発明6,7に係る進歩性の有無

ア 本件発明6,7の内容は前記2のとおりであり,本件発明6は,本件発明1において,「研磨パッドが,研磨面を有する第1の層と,研磨面と反対側の第2の層とを含む」ことを特定したものであり,本件発明7は,本件発明6において,「プラグは,第1の層内に位置する」ことを特定したものであるところ,本件発明7を甲13発明と対比すると,審決が認定したとおり,両者は本件発明1における一致点,相違点に加え,以下の点で相違する。

<相違点7>

研磨パッドに関し,本件発明7は研磨面を有する第1の層と,研磨面と反対側の第2の層とを含み,プラグが第1の層内に位置するものであるが,甲13発明は不明である点(審決17頁2行~4行)。

イ そして,本件特許に係る明細書(甲1)の従来技術の欄に「…典型的なCMP装置10は,…このパッド18は典型的には裏張り層20を有し,これは,ウエハ14を研磨するためにケミカルポリシングスラリと共に用いられるカバー層22とプラーテンとの間のインターフェースとなっている。」(段落【0003】)と記載されているように,研磨面である第1の層とその反対側の第2の層とを有する研磨パッドは既に知られていたところである。

また,プラグが第1の層内に位置する点については,上記相違点6について述べたところを前提に甲13発明に甲22発明を適用した場合,プラグが第1の層内に位置することは明らかである。この点原告は,甲22公報には透明体としてガラスしか記載されていないから,ウエハを損傷しないためには「プラグ」を第2の層内に設定するのが自然である旨主張するが,本件発明4について述べたとおり,前提において採用することができない。

したがって,本件発明7は,甲13発明・甲22発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

また,本件発明6は,本件発明7の発明特定事項の一部を欠くものであるから,同様の理由により,本件発明6は,甲13発明・甲22発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

したがって,原告の主張は採用することができない。

(6)  本件発明8に係る進歩性の有無

ア 本件発明8の内容は前記2のとおりであり,本件発明8は,本件発明1における研磨パッドについて,「ウインドウは,完全に研磨表面と研磨パッドの底面との間に配置される」ことを特定したものであるところ,これを甲13発明と対比すると,審決が認定したとおり,両者は本件発明1における一致点,相違点に加え,以下の点で相違する。

<相違点8>

ウインドウに関し,本件発明8は完全に研磨表面と研磨パッドの底面の間に配置されるものであるが,甲13発明は不明である点(審決17頁下16行~下15行)。

イ そして,ウインドウは光を透過されるためのものであり,その機能からみて,研磨表面又は研磨パッドの底面から突出するものと解することは不自然であることからすれば,甲13発明に甲22発明を適用したものにおいて,ウインドウが完全に研磨表面と研磨パッドの底面の間に配置されることは設計的事項というべきである。

したがって,本件発明8は,甲13発明・甲22発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり,原告の主張は採用することができない。

(7)  本件発明9,10に係る進歩性の有無

ア 本件発明9,10の内容は前記2のとおりであり,本件発明10を甲13発明と対比すると,審決が認定したとおり,両者は本件発明1における一致点,相違点に加え,以下の点で相違する。

<相違点9>

本件発明10は反射光を使用するステップが,周期的な干渉信号によって現れるサイクルの数を計数するものであるが,甲13発明は不明である点(審決17頁下3行~下1行)。

イ そして,干渉信号によって現れる波形を得ることは,甲8文献に「この2種類の反射ビームをセレン光電池(最高感度波長6000A)によって受光,増幅し,干渉波として記録した。この光波は膜厚に対応して変化するため,得られたパターンから,膜堆積中の膜厚を測定できる。」(1233頁〔訳文による〕)との記載があり,甲9文献に「CVD膜生成中のインプロセス・モニタリングは,…CVD膜生成中に外部からレーザー光をシリコン試料表面に照射し,試料から反射される光を受光器で検知する。その電気信号を増幅してレコーダ上に干渉波形として記録する。…」(111頁右欄3行~113頁2行),「…反射光の中で光路差の位相が合った光が相互に強めあい,また位相のずれた光は互いに干渉し弱めあう。この光の干渉による強弱をセンサで検出し,電気的信号に変化すれば,容易に膜厚に応じた干渉波形が得られる。…」(114頁3行~7行)との記載があるように周知であり,かつ,一定の膜厚(平坦化)に至った場合の干渉波が周期的な波形を持つに至ることは干渉波の性質から自明であるから,「周期的な干渉信号によって現れるサイクルの数を計数すること」は実質的に甲8,甲9文献に記載されているということができる。

そうすると,相違点9は容易想到というほかないから,本件発明10は,甲13発明・甲22発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

また,本件発明9は,本件発明10の発明特定事項の一部を欠くものであるから,同様の理由により,本件発明9は,甲13発明・甲22発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

したがって,原告の主張は採用することができない。

(8)  本件発明11~20に係る進歩性の有無

本件発明11~20の内容は前記2のとおりであり,いずれも本件発明1~10の「方法」を順次「システム」に変えたものに相当する。

そうすると,両者は,実質的にカテゴリーの差にすぎないから,本件発明11~20についても,本件発明1~10と同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである。

したがって,原告の主張は採用することができない。

5  結論

以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。

よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 森義之 裁判官 澁谷勝海)

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