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知財高等裁判所 平成19年(行ケ)10335号 判決 2008年10月30日

原告

ケンブリッジテクノロジー,インク.

同訴訟代理人弁理士

廣江武典

武川隆宣

高荒新一

西尾務

神谷英昭

服部素明

被告

特許庁長官

同指定代理人

下中義之

小林和男

岩﨑伸二

江塚政弘

主文

1  特許庁が不服2004-25857号事件について

平成19年5月25日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

主文と同旨。

第2事案の概要

本件は,米国法人である原告が,「回転要素の角位置を決定する軸LED位置検出装置」とする名称の発明につき特許出願したところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。

争点は,①増項補正の許否,特許請求の範囲の補正の許否,②本願発明が,特開昭63-6417号公報(甲1。以下「刊行物1」という。)及び特開昭60-171462号公報(甲2。以下「刊行物2」という。)に記載された各発明(以下,順に「刊行物1発明」,「刊行物2発明」という。)との関係で進歩性を有するかどうか(特許法29条2項)である。

なお,上記括弧内の言い換えは,審決を引用する場合等を含めて用い,以下で用いる他の言い換えも同様とする。

1  特許庁における手続の経緯

原告は,1998年(平成10年)4月17日の優先権(米国)を主張し,同年10月21日,名称を「回転要素の角位置を決定する軸LED位置検出装置」とする発明について国際出願(PCT/US98/22234)をし(国内公表は平成14年4月23日。特表2002-512364号。特願2000-544989号),平成12年10月2日に日本国特許庁に翻訳文を提出したが(甲3),平成16年9月14日に拒絶査定を受けたので,同年12月17日に不服審判請求をした。

特許庁はこれを不服2004-25857号事件として審理し,その手続内で,原告は,平成17年1月17日に2度にわたって特許請求の範囲を変更する各補正(受付番号50500069834号及び50500075496号。以下「本件各補正」といい,各補正につき「本件第1補正」及び「本件第2補正」という。本件第2補正は,本件第1補正と差し換えるためにされたものであった。)を行ったが(甲5,6),特許庁は,平成19年5月25日,本件各補正を却下した上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決を行い,その謄本は,同年6月11日に原告に送達された。

なお,出訴期間として90日が附加された。

2  本件各補正前の特許請求の範囲

本件第1補正前の特許請求の範囲は,次のとおりである(甲4。平成16年8月9日付けの手続補正書〔甲4〕による補正〔以下「審査時補正」という。〕後のもの。この請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。

「【請求項1】 軸方向に延びている長軸を有した回転要素の角位置を決定するための位置検出装置(10)であって,

実質的に該長軸に沿った方向に均等な広角光界を提供する該長軸上に配置された単一の光源(46)と,

該単一の光源(46)から直接的に光を受領するように該長軸を中心として少なくとも1対の対角的に配置され前記回転要素の周囲で整合されている,電気的に接続された複数の光センサー(42,44)と,

を含んでおり,前記複数の光センサー(42,44)のそれぞれは前記長軸周囲にて前記単一の光源(46)とは長軸方向に離れて配置されており,前記少なくとも1対の対角的に配置された光センサー(42,44)のそれぞれは電気線形出力信号を提供し,

本位置検出装置はさらに,前記複数の光センサー(42,44)に照射する前記単一の光源(46)からの光の一部を周期的にブロックするため,前記回転要素に作動式に接続されて前記長軸周囲を共に回転する光ブロック部材(30)を含んでおり,

該光ブロック部材(30)は前記単一の光源(46)に近接した1面と,前記複数の光センサー(42,44)に近接した別面とを有しており,該光ブロック部材(30)と前記複数の光センサー(42,44)との間の間隙にはいかなる障害物も存在せず,前記電気線形出力信号は該光ブロック部材(30)の回転位置と相関関係にあり,

前記複数の光センサー(42,44)のそれぞれは所定の形状を有した感光面を含んでおり,該光ブロック部材(30)は少なくとも1対の対角的に配置された光ブロック部品で構成されており,該光ブロック部品のそれぞれの部分は前記複数のセンサー(42,44)の一つの前記感光面の所定の形状と実質的にマッチするように形状化されており,

本位置検出装置はさらに,前記少なくとも1対の対角的に配置され,電気的に接続された光センサー(42,44)のそれぞれの前記電気線形出力信号を入力として受領するための出力手段(52)と,前記回転要素の角位置の正確な測定値を提供するためにそれぞれの出力を合算する手段(52)とを含んでいる,

ことを特徴とする位置検出装置。

【請求項2】 複数の光センサーは4体の扇型光センサーで構成されており,2対で対角的に配置されており,電気的に接続されていることを特徴とする請求項1記載の位置検出装置。

【請求項3】 単一の光源は1個の光発生器と,該光発生器をカバーする湾曲窓とを含んでいることを特徴とする請求項1記載の位置検出装置。

【請求項4】 湾曲窓は,単一の光源を光ブロック部材と複数の光センサーに向けて前方に全角的に均等な強度で光を提供する点光源として作用させ,単一の光源を広角光発生器として作用させることのできる屈折特性を備えていることを特徴とする請求項3記載の位置検出装置。

【請求項5】 軸方向に延びている長軸を有した回転要素の角位置を決定するための位置検出装置(10)であって,

実質的に該長軸に沿った方向に均等な広角光界を提供する単一の光源(46)と,

該単一の光源(46)から直接的に光を受領するように前記回転要素の周囲で整合されている少なくとも1対の対角的に配置され,電気的に接続された複数の光センサー(42,44)と,

を含んでおり,前記複数の光センサー(42,44)のそれぞれは前記長軸周囲にて前記単一の光源(46)とは長軸方向に離れて配置されており,前記少なくとも1対の対角的に配置された光センサー(42,44)のそれぞれは電気線形出力信号を提供し,

本位置検出装置はさらに,前記複数の光センサー(42,44)に照射する前記単一の光源(46)からの光の一部を周期的にブロックするため,前記回転要素に作動式に接続されて前記長軸周囲を共に回転する光ブロック部材(30)を含んでおり,

該光ブロック部材(30)は前記単一の光源(46)に近接した1面と,前記複数の光センサー(42,44)に近接した別面とを有しており,前記電気線形出力信号は該光ブロック部材(30)の回転位置と相関関係にあり,

前記単一の光源(46)と前記複数の光センサー(42,44)との間の間隙には該光ブロック部材(30)以外には障害物が存在せず,前記単一の光源(46)からの光は,少なくとも該光ブロック部材がブロックしない該光センサー部分を他の物体を通過することなく直接的に照射し,

該光ブロック部材(30)は蝶形であり,自身の剛性を維持する手段を含んでおり,該剛性維持手段は少なくとも1体の剛性リブ体を含んでおり,

本位置検出装置(10)はさらに,少なくとも1対の対角的に配置され,電気的に接続された光センサー(42,44)のそれぞれの前記電気線形出力信号を入力として受領するための出力手段(52)と,前記回転要素の角位置の正確な測定値を提供するためにそれぞれの出力を合算する手段(52)とを含んでいる,

ことを特徴とする位置検出装置。

【請求項6】 光ブロック部材の別面と光センサーとの間の間隙は約0.005インチから0.010インチであることを特徴とする請求項1または5に記載の位置検出装置。

【請求項7】 単一の光源の光発生器と複数の光センサーとの間の間隙は約0.1インチから0.15インチであることを特徴とする請求項1または5に記載の位置検出装置。

【請求項8】 光ブロック部材はプラスチック製であることを特徴とする請求項5記載の位置検出装置。

【請求項9】 光ブロック部材は非反射で不透明な材料製であることを特徴とする請求項5記載の位置検出装置。

【請求項10】 光ブロック部材のそれぞれは複数の光センサーの1つの感光面の所定形状よりも少々大きめであることを特徴とする請求項1記載の位置検出装置。

【請求項11】 軸方向に延びている長軸を有した回転要素の角位置を決定するための位置検出装置(10)であって,

実質的に該長軸に沿った方向に均等な広角光界を提供する単一の光源(46)と,

該単一の光源(46)から直接的に光を受領するように前記回転要素の周囲で整合されている少なくとも1対の対角的に配置され,電気的に接続されたセンサーの形態の複数の光センサー(42,44)と,

を含んでおり,前記複数の光センサー(42,44)のそれぞれは前記長軸周囲にて前記単一の光源(46)とは長軸方向に離れて配置されており,前記少なくとも1対の対角的に配置された光センサー(42,44)のそれぞれは電気線形出力信号を提供し,

本位置検出装置はさらに,前記複数の光センサー(42,44)に照射する前記単一の光源(46)からの光の一部を周期的にブロックするため,前記回転要素に作動式に接続されて前記長軸周囲を共に回転する光ブロック部材(30)を含んでおり,

該光ブロック部材(30)は前記単一の光源(46)と近接する1面と,前記複数の光センサー(42,44)と近接する別面とを有しており,前記電気線形出力信号は該光ブロック部材(30)の回転位置と相関関係を有しており,

本位置検出装置(10)はさらに,前記少なくとも1対の対角的に配置され,電気的に接続された複数のセンサー(42,44)のそれぞれの前記電気線形出力信号を入力として受領するための出力手段(52)と,前記回転要素の角位置の正確な測定値を提供するために出力値を相互に対して合算する手段(52)とを含んでおり,

単一の光源は1個の光発生器と,該光発生器をカバーする湾曲窓とを含んでおり,湾曲窓は,単一の光源を光ブロック部材と複数の光センサーに向けて前方に全角的に均等な強度で光を提供する点光源として作用させ,単一の光源を広角光発生器として作用させることのできる屈折特性を備えていることを特徴とする位置検出装置。

【請求項12】 軸方向に延びる長軸を有した回転要素の角位置を決定するための位置検出装置であって,

実質的に該長軸に沿った方向で均等で広角である光界を提供する単一の光源と,

該単一の光源から直接的に光を受領するように前記回転要素の周囲で整合されている光センサーと,

を含んでおり,前記光センサーは前記長軸周囲にて前記単一の光源とは長軸方向に離れて配置されており,前記光センサーは電気線形出力信号を提供し,

本位置検出装置はさらに,前記回転要素に作動式に接続され,前記光センサーを照射する前記単一の光源からの光の一部を周期的にブロックするために前記長軸の周囲を共に回転する光ブロック部材を含んでおり,

該光ブロック部材は前記単一の光源と近接する1面と,前記複数の光センサーと近接する別面とを有しており,前記電気線形出力信号は該光ブロック部材の回転位置と相関関係を有しており,

前記単一の光源と前記光センサーとの間の間隙には該光ブロック部材を除いていかなる障害物も存在せず,前記単一の光源からの光は,少なくとも該光ブロック部材がブロックしない光部分に対して他の物体を通過することなく直接的に照射され,該光ブロック部材(30)と前記光センサーとの間の間隙にはいかなる障害物も存在せず,

該光ブロック部材の別面と前記光センサーとの間の間隙は約0.005インチから0.010インチであり,

前記単一の光源と前記光センサーとの間の間隙は約0.1インチから0.15インチであり,

前記光センサーからの前記電気線形出力信号を受領し,該電気線形出力信号を利用して前記回転要素の角位置の正確な測定値を提供する出力手段を含んでいることを特徴とする位置検出装置。」

3  本件各補正後の特許請求の範囲

(1)  本件第1補正後の特許請求の範囲は,次のとおりである(甲5。下線部は,補正部分である。)。なお,特許請求の範囲を除くその余の部分については,補正されていない。

「【請求項1】  スキャナーを駆動するための回転要素の角位置を決定する位置検出装置(10)であって,

回転要素は,内部を貫通し更に一端を越えて伸びる長軸を有しており,

位置検出装置(10)は,限定された回転角で一部回転もしくは一部振動する回転要素の角位置を決定する装置であり,

該長軸の延長上に中心が一致する位置に配置されて,実質的に該長軸に沿った方向に均等な広角光界を提供し,長軸上で点光源を構成する単一の光源(46)と,

該単一の光源(46)から直接的に光を受領するように該長手方向の軸を中心として少なくとも1対の対角的に配置され前記回転要素の周囲で整合されている,電気的に接続された複数の光センサー(42,44)とを含んでおり,

前記複数の光センサー(42,44)のそれぞれは前記長手方向の軸周囲にて前記単一の光源(46)とは長手方向の軸の方向に離れて配置されており,前記単一の光源(46)から照射される光が円周的に均等に光センサー(42,44)に到達し,前記少なくとも1対の対角的に配置された光センサー(42,44)は電気線形出力信号を提供し,

本位置検出装置はさらに,前記複数の光センサー(42,44)に照射する前記単一の光源(46)からの光の一部を周期的にブロックするため,前記回転要素に作動式に接続されて前記長手方向の軸周囲を前記回転要素と共に一部回転もしくは一部振動する蝶形の光ブロック部材(30)を含んでおり,

前記蝶形の光ブロック部材(30)は前記単一の光源(46)から前記複数の光センサー(42,44)に対して照射される前記広角光の一部をブロックし,若しくは前記光ブロック部材(30)の不在の場合には光センサー(42,44)が前記単一の光源(46)の広角光に照射され,

光センサー(42,44)の出力する電気線形出力信号は該光ブロック部材(30)の回転位置と相関関係にあり,

該蝶形の光ブロック部材(30)は前記単一の光源(46)に近接した1面と,前記複数の光センサー(42,44)に近接した別面とを有しており,該光ブロック部材(30)と前記複数の光センサー(42,44)との間の間隙にはいかなる障害物も存在せず,

該蝶形の光ブロック部材(30)は,少なくとも1対の対角的に配置された光ブロック部品で構成されており,光ブロック部品のそれぞれの部分は,長軸から放射状に延びる扇形形状を有しており,それぞれの部分は外周部において相互に接続しておらず,それぞれの光ブロック部品は前記複数の光検出器の1つの前記感光面の所定形状と一致するように形成されており,前記単一の光源(46)が光センサー(42,44)を照射する光は,光ブロック部材(30)によって前記周縁部周囲で漏洩することなく遮蔽され,

光ブロック部材(30)の別面と光センサー(42,44)との間の間隙は十分に小さく,光センサー(30)に光ブロック部材(30)のシャープな陰縁が提供されることで,光センサー(42,44)の出力する電気線形出力信号は該光ブロック部材(30)の回転位置と正確な相関関係にあり,

前記複数の光センサー(42,44)のそれぞれは所定の形状を有した感光面を含んでおり,前記複数のセンサー(42,44)の一つの感光面の所定の形状と該光ブロック部品のそれぞれの部分は実質的にマッチするように形成されており,

感光面の扇形の角度は,位置検出装置(10)が意図する一部回転するときの限定された角度よりも少々広めになっており,

本位置検出装置はさらに,前記少なくとも1対の対角的に配置され,電気的に接続された光センサー(42,44)のそれぞれの前記電気線形出力信号を入力として受領するための出力手段(52)と,長軸の放射方向移動による誤差及び回転要素の軸方向移動による誤差をキャンセルして回転要素の角位置の正確な測定値を提供するためにそれぞれの出力を合算する手段(52)とを含んでいることを特徴とする位置検出器。

【請求項2】 複数の光センサーは4体の扇形光センサーで構成されており,2対で対角的に配置されており,電気的に接続されていることを特徴とする請求項1記載の位置検出装置。

【請求項3】 単一の光源は1個の点光源として機能する光発生器と,該光発生器をカバーする湾曲窓とを含んでいることを特徴とする請求項1記載の位置検出装置。

【請求項4】 湾曲窓は,単一の点光源を蝶形の光ブロック部材と複数の光センサーに向けて前方に全角的に均等な強度で光を提供する点光源として作用させ,単一の点光源を広角光発生器として作用させることのできる屈折特性を備えていることを特徴とする請求項3記載の位置検出装置。

【請求項5】  スキャナーを駆動するための回転要素の角位置を決定する位置検出装置(10)であって,

回転要素は,内部を貫通し更に一端を越えて伸びる長軸を有しており,

位置検出装置(10)は,初期の停止位置(角速度ゼロの位置)から限定された回転角で一部回転もしくは一部振動する回転要素の角位置を決定する装置であり,

該長軸の延長上に中心が一致する位置に配置されて,実質的に該長軸に沿った方向に均等な広角光界を提供し,長軸上で点光源を構成する単一の光源(46)と,

該単一の光源(46)から直接的に光を受領するように前記回転要素の周囲で整合されている少なくとも1対の対角的に配置され,電気的に接続された複数の光センサー(42,44)と,

を含んでおり,前記複数の光センサー(42,44)のそれぞれは前記長手方向の軸周囲にて前記単一の光源(46)とは長手方向の軸方向に離れて配置されており,前記少なくとも1対の対角的に配置された光センサー(42,44)のそれぞれは電気線形出力信号を提供し,

本位置検出装置はさらに,前記複数の光センサー(42,44)に照射する前記単一の光源(46)からの光の一部を周期的にブロックするため,前記回転要素の軸方向の周囲に作動式に接続されて前記長手方向の軸周囲を前記回転要素と共に一部回転もしくは一部振動する蝶形の光ブロック部材(30)を含んでおり,

蝶形の光ブロック部材(30)は前記単一の光源(46)に近接した1面と,前記複数の光センサー(42,44)に近接した別面とを有しており,前記電気線形出力信号は該光ブロック部材(30)の回転位置と相関関係にあり,

前記単一の光源(46)と前記複数の光センサー(42,44)との間の間隙には該光ブロック部材(30)以外には障害物が存在せず,前記単一の光源(46)からの光は,少なくとも該光ブロック部材がブロックしない該光センサー部分を他の物体を通過することなく直接的に照射し,

該蝶形の光ブロック部材(30)は,自身の剛性を維持する手段を含んでおり,該剛性維持手段は少なくとも1体の剛性リブ体を含んでおり,少なくとも1対の対角的に配置された光ブロック部品で構成されており,光ブロック部品のそれぞれの部分は,長軸から放射状に延びる扇形形状を有しており,それぞれの部分は外周部において相互に接続しておらず,

本位置検出装置(10)はさらに,少なくとも1対の対角的に配置され,電気的に接続された光センサー(42,44)のそれぞれの前記電気線形出力信号を入力として受領するための出力手段(52)と,長軸の放射方向移動による誤差及び回転要素の軸方向移動による誤差をキャンセルして回転要素の角位置の正確な測定値を提供するためにそれぞれの出力を合算する手段(52)とを含んでいる,

ことを特徴とする位置検出装置。

【請求項6】  蝶形の光ブロック部材の別面と光センサーとの間の間隙は約0.005インチから0.010インチであることを特徴とする請求項1または5に記載の位置検出装置。

【請求項7】 単一の光源の光発生器と複数の光センサーとの間の間隙は約0.1インチから0.15インチであることを特徴とする請求項1または5に記載の位置検出装置。

【請求項8】  蝶形の光ブロック部材はプラスチック製であることを特徴とする請求項5記載の位置検出装置。

【請求項9】  蝶形の光ブロック部材は非反射で不透明な材料製であることを特徴とする請求項5記載の位置検出装置。

【請求項10】  蝶形の光ブロック部材のそれぞれは複数の光センサーの1つの感光面の所定形状よりも少々大きめであることを特徴とする請求項1記載の位置検出装置。

【請求項11】  スキャナーを駆動するための回転要素の角位置を決定する位置検出装置(10)であって,

回転要素は,内部を貫通し更に一端を越えて伸びる長軸を有しており,

位置検出装置(10)は,初期の停止位置(角速度ゼロの位置)から限定された回転角で一部回転もしくは一部振動する回転要素の角位置を決定する装置であり,

該長軸の延長上に中心が一致する位置に配置されて,実質的に該長軸に沿った方向に均等な広角光界を提供し,長軸上で点光源を構成する単一の光源(46)と,

該単一の光源(46)から直接的に光を受領するように前記回転要素の周囲で整合されている少なくとも1対の対角的に配置され,電気的に接続されたセンサーの形態の複数の光センサー(42,44)と,

を含んでおり,前記複数の光センサー(42,44)のそれぞれは前記長手方向の軸周囲にて前記単一の光源(46)とは長手方向の軸方向に離れて配置されており,前記少なくとも1対の対角的に配置された光センサー(42,44)のそれぞれは電気線形出力信号を提供し,

本位置検出装置はさらに,前記複数の光センサー(42,44)に照射する前記単一の光源(46)からの光の一部を周期的にブロックするため,前記回転要素に作動式に接続されて前記長手方向の軸周囲を共に回転する蝶形の光ブロック部材(30)を含んでおり,

該蝶形の光ブロック部材(30)は前記単一の光源(46)と近接する1面と,前記複数の光センサー(42,44)と近接する別面とを有しており,前記電気線形出力信号は該光ブロック部材(30)の回転位置と相関関係を有しており,

本位置検出装置(10)はさらに,前記少なくとも1対の対角的に配置され,電気的に接続された複数のセンサー(42,44)のそれぞれの前記電気線形出力信号を入力として受領するための出力手段(52)と,長軸の放射方向移動による誤差及び回転要素の軸方向移動による誤差をキャンセルして回転要素の角位置の正確な測定値を提供するためにそれぞれの出力を合算する手段(52)とを含んでおり,

単一の光源は1個の光発生器と,該光発生器をカバーする湾曲窓とを含んでおり,湾曲窓は,単一の光源を光ブロック部材と複数の光センサーに向けて前方に全角的に均等な強度で光を提供する点光源として作用させ,単一の光源を広角光発生器として作用させることのできる屈折特性を備えていることを特徴とする位置検出装置。

【請求項12】  スキャナーを駆動するための回転要素の角位置を決定する位置検出装置(10)であって,

回転要素は,内部を貫通し更に一端を越えて伸びる長軸を有しており,

位置検出装置(10)は,初期の停止位置(角速度ゼロの位置)から限定された回転角で一部回転もしくは一部振動する回転要素の角位置を決定する装置であり,

該長軸の延長上に中心が一致する位置に配置されて,実質的に該長軸に沿った方向に均等な広角光界を提供し,長軸上で点光源を構成する単一の光源(46)と,

該単一の光源から直接的に光を受領するように前記回転要素の周囲で整合されている光センサーと,

を含んでおり,前記光センサーは前記長手方向の軸周囲にて前記単一の光源とは長手方向の軸方向に離れて配置されており,前記光センサーは電気線形出力信号を提供し,

本位置検出装置はさらに,前記回転要素に作動式に接続され,前記光センサーを照射する前記単一の光源からの光の一部を周期的にブロックするために前記長手方向の軸の周囲を共に回転する蝶形の光ブロック部材を含んでおり,

該光ブロック部材は前記単一の光源と近接する1面と,前記複数の光センサーと近接する別面とを有しており,前記電気線形出力信号は該光ブロック部材の回転位置と相関関係を有しており,

前記単一の光源と前記光センサーとの間の間隙には該光ブロック部材を除いていかなる障害物も存在せず,前記単一の光源からの光は,少なくとも該光ブロック部材がブロックしない光部分に対して他の物体を通過することなく直接的に照射され,該光ブロック部材(30)と前記光センサーとの間の間隙にはいかなる障害物も存在せず,

該光ブロック部材の別面と前記光センサーとの間の間隙は約0.005インチから0.010インチであり,

前記単一の光源と前記光センサーとの間の間隙は約0.1インチから0.15インチであり,

前記光センサーからの前記電気線形出力信号を受領し,該電気線形出力信号を利用して前記回転要素の角位置の正確な測定値を提供する出力手段を含んでいることを特徴とする位置検出装置。

【請求項13】  単一の光源によって該長軸に沿った方向に提供される広角光界の光度が,-70°から+70°の角度範囲において,相対光出力の割合が80%から100%となることを特徴とする請求項1記載の位置検出装置。

【請求項14】  位置検出装置(10)は,初期の停止位置(角速度ゼロの位置)から-45°から+45°の角度範囲で一部回転もしくは一部振動し定位置に到達することを特徴とする請求項1記載の位置検出装置。」

(2)  本件第2補正後の特許請求の範囲は,次のとおりである(甲6。下線部は,補正部分である。)。なお,特許請求の範囲を除くその余の部分については,補正されていない。

「【請求項1】  スキャナーを駆動するための回転要素の角位置を決定する位置検出装置(10)であって,

回転要素は,内部を貫通し更に一端を越えて伸びる長軸を有しており,

位置検出装置(10)は,限定された回転角で一部回転もしくは一部振動する回転要素の角位置を決定する装置であり,

該長軸の延長上に中心が一致する位置に配置されて,実質的に該長軸に沿った方向に均等な広角光界を提供し,長軸上で点光源を構成する単一の光源(46)と,

該単一の光源(46)から直接的に光を受領するように該長手方向の軸を中心として少なくとも1対の対角的に配置され前記回転要素の周囲で整合されている,電気的に接続された複数の光センサー(42,44)とを含んでおり,

前記複数の光センサー(42,44)のそれぞれは前記長手方向の軸周囲にて前記単一の光源(46)とは長手方向の軸の方向に離れて配置されており,前記単一の光源(46)から照射される光が円周的に均等に光センサー(42,44)に到達し,前記少なくとも1対の対角的に配置された光センサー(42,44)は電気線形出力信号を提供し,

本位置検出装置はさらに,前記複数の光センサー(42,44)に照射する前記単一の光源(46)からの光の一部を周期的にブロックするため,前記回転要素に作動式に接続されて前記長手方向の軸周囲を前記回転要素と共に一部回転もしくは一部振動する蝶形の光ブロック部材(30)を含んでおり,

前記蝶形の光ブロック部材(30)は前記単一の光源(46)から前記複数の光センサー(42,44)に対して照射される前記広角光の一部をブロックし,若しくは前記光ブロック部材(30)の不在の場合には光センサー(42,44)が前記単一の光源(46)の広角光に照射され,

光センサー(42,44)の出力する電気線形出力信号は該光ブロック部材(30)の回転位置と相関関係にあり,

該蝶形の光ブロック部材(30)は前記単一の光源(46)に近接した1面と,前記複数の光センサー(42,44)に近接した別面とを有しており,該光ブロック部材(30)と前記複数の光センサー(42,44)との間の間隙にはいかなる障害物も存在せず,

該蝶形の光ブロック部材(30)は,少なくとも1対の対角的に配置された光ブロック部品で構成されており,光ブロック部品のそれぞれの部分は,長軸から放射状に延びる扇形形状を有しており,それぞれの部分は外周部において相互に接続しておらず,それぞれの光ブロック部品は前記複数の光検出器の1つの前記感光面の所定形状と一致するように形成されており,前記単一の光源(46)が光センサー(42,44)を照射する光は,光ブロック部材(30)によって前記周縁部周囲で漏洩することなく遮蔽され,

光ブロック部材(30)の別面と光センサー(42,44)との間の間隙は十分に小さく,光センサー(30)に光ブロック部材(30)のシャープな陰縁が提供されることで,光センサー(42,44)の出力する電気線形出力信号は該光ブロック部材(30)の回転位置と正確な相関関係にあり,

前記複数の光センサー(42,44)のそれぞれは所定の形状を有した感光面を含んでおり,前記複数のセンサー(42,44)の一つの感光面の所定の形状と該光ブロック部品のそれぞれの部分は実質的にマッチするように形成されており,

感光面の扇形の角度は,位置検出装置(10)が意図する一部回転するときの限定された角度よりも少々広めになっており,

本位置検出装置はさらに,前記少なくとも1対の対角的に配置され,電気的に接続された光センサー(42,44)のそれぞれの前記電気線形出力信号を入力として受領するための出力手段(52)と,長軸の放射方向移動による誤差及び回転要素の軸方向移動による誤差をキャンセルして回転要素の角位置の正確な測定値を提供するためにそれぞれの出力を合算する手段(52)とを含んでいることを特徴とする位置検出器。

【請求項2】 複数の光センサーは4体の扇形光センサーで構成されており,2対で対角的に配置されており,電気的に接続されていることを特徴とする請求項1記載の位置検出装置。

【請求項3】 単一の光源は1個の点光源として機能する光発生器と,該光発生器をカバーする湾曲窓とを含んでいることを特徴とする請求項1記載の位置検出装置。

【請求項4】 湾曲窓は,単一の点光源を蝶形の光ブロック部材と複数の光センサーに向けて前方に全角的に均等な強度で光を提供する点光源として作用させ,単一の点光源を広角光発生器として作用させることのできる屈折特性を備えていることを特徴とする請求項3記載の位置検出装置。

【請求項5】  スキャナーを駆動するための回転要素の角位置を決定する位置検出装置(10)であって,

回転要素は,内部を貫通し更に一端を越えて伸びる長軸を有しており,

位置検出装置(10)は,限定された回転角で一部回転もしくは一部振動する回転要素の角位置を決定する装置であり,

該長軸の延長上に中心が一致する位置に配置されて,実質的に該長軸に沿った方向に均等な広角光界を提供し,長軸上で点光源を構成する単一の光源(46)と,

該単一の光源(46)から直接的に光を受領するように前記回転要素の周囲で整合されている少なくとも1対の対角的に配置され,電気的に接続された複数の光センサー(42,44)と,

を含んでおり,前記複数の光センサー(42,44)のそれぞれは前記長手方向の軸周囲にて前記単一の光源(46)とは長手方向の軸方向に離れて配置されており,前記少なくとも1対の対角的に配置された光センサー(42,44)のそれぞれは電気線形出力信号を提供し,

本位置検出装置はさらに,前記複数の光センサー(42,44)に照射する前記単一の光源(46)からの光の一部を周期的にブロックするため,前記回転要素の軸方向の周囲に作動式に接続されて前記長手方向の軸周囲を前記回転要素と共に一部回転もしくは一部振動する蝶形の光ブロック部材(30)を含んでおり,

蝶形の光ブロック部材(30)は前記単一の光源(46)に近接した1面と,前記複数の光センサー(42,44)に近接した別面とを有しており,前記電気線形出力信号は該光ブロック部材(30)の回転位置と相関関係にあり,

前記単一の光源(46)と前記複数の光センサー(42,44)との間の間隙には該光ブロック部材(30)以外には障害物が存在せず,前記単一の光源(46)からの光は,少なくとも該光ブロック部材がブロックしない該光センサー部分を他の物体を通過することなく直接的に照射し,

該蝶形の光ブロック部材(30)は,自身の剛性を維持する手段を含んでおり,該剛性維持手段は少なくとも1体の剛性リブ体を含んでおり,少なくとも1対の対角的に配置された光ブロック部品で構成されており,光ブロック部品のそれぞれの部分は,長軸から放射状に延びる扇形形状を有しており,それぞれの部分は外周部において相互に接続しておらず,

本位置検出装置(10)はさらに,少なくとも1対の対角的に配置され,電気的に接続された光センサー(42,44)のそれぞれの前記電気線形出力信号を入力として受領するための出力手段(52)と,長軸の放射方向移動による誤差及び回転要素の軸方向移動による誤差をキャンセルして回転要素の角位置の正確な測定値を提供するためにそれぞれの出力を合算する手段(52)とを含んでいる,

ことを特徴とする位置検出装置。

【請求項6】  蝶形の光ブロック部材の別面と光センサーとの間の間隙は約0.005インチから0.010インチであることを特徴とする請求項1または5に記載の位置検出装置。

【請求項7】 単一の光源の光発生器と複数の光センサーとの間の間隙は約0.1インチから0.15インチであることを特徴とする請求項1または5に記載の位置検出装置。

【請求項8】  蝶形の光ブロック部材はプラスチック製であることを特徴とする請求項5記載の位置検出装置。

【請求項9】  蝶形の光ブロック部材は非反射で不透明な材料製であることを特徴とする請求項5記載の位置検出装置。

【請求項10】  蝶形の光ブロック部材のそれぞれは複数の光センサーの1つの感光面の所定形状よりも少々大きめであることを特徴とする請求項1記載の位置検出装置。

【請求項11】  スキャナーを駆動するための回転要素の角位置を決定する位置検出装置(10)であって,

回転要素は,内部を貫通し更に一端を越えて伸びる長軸を有しており,

位置検出装置(10)は,限定された回転角で一部回転もしくは一部振動する回転要素の角位置を決定する装置であり,

該長軸の延長上に中心が一致する位置に配置されて,実質的に該長軸に沿った方向に均等な広角光界を提供し,長軸上で点光源を構成する単一の光源(46)と,

該単一の光源(46)から直接的に光を受領するように前記回転要素の周囲で整合されている少なくとも1対の対角的に配置され,電気的に接続されたセンサーの形態の複数の光センサー(42,44)と,

を含んでおり,前記複数の光センサー(42,44)のそれぞれは前記長手方向の軸周囲にて前記単一の光源(46)とは長手方向の軸方向に離れて配置されており,前記少なくとも1対の対角的に配置された光センサー(42,44)のそれぞれは電気線形出力信号を提供し,

本位置検出装置はさらに,前記複数の光センサー(42,44)に照射する前記単一の光源(46)からの光の一部を周期的にブロックするため,前記回転要素に作動式に接続されて前記長手方向の軸周囲を共に回転する蝶形の光ブロック部材(30)を含んでおり,

該蝶形の光ブロック部材(30)は前記単一の光源(46)と近接する1面と,前記複数の光センサー(42,44)と近接する別面とを有しており,前記電気線形出力信号は該光ブロック部材(30)の回転位置と相関関係を有しており,

本位置検出装置(10)はさらに,前記少なくとも1対の対角的に配置され,電気的に接続された複数のセンサー(42,44)のそれぞれの前記電気線形出力信号を入力として受領するための出力手段(52)と,長軸の放射方向移動による誤差及び回転要素の軸方向移動による誤差をキャンセルして回転要素の角位置の正確な測定値を提供するためにそれぞれの出力を合算する手段(52)とを含んでおり,

単一の光源は1個の光発生器と,該光発生器をカバーする湾曲窓とを含んでおり,湾曲窓は,単一の光源を光ブロック部材と複数の光センサーに向けて前方に全角的に均等な強度で光を提供する点光源として作用させ,単一の光源を広角光発生器として作用させることのできる屈折特性を備えていることを特徴とする位置検出装置。

【請求項12】  スキャナーを駆動するための回転要素の角位置を決定する位置検出装置(10)であって,

回転要素は,内部を貫通し更に一端を越えて伸びる長軸を有しており,

位置検出装置(10)は,限定された回転角で一部回転もしくは一部振動する回転要素の角位置を決定する装置であり,

該長軸の延長上に中心が一致する位置に配置されて,実質的に該長軸に沿った方向に均等な広角光界を提供し,長軸上で点光源を構成する単一の光源(46)と,

該単一の光源から直接的に光を受領するように前記回転要素の周囲で整合されている光センサーと,

を含んでおり,前記光センサーは前記長手方向の軸周囲にて前記単一の光源とは長手方向の軸方向に離れて配置されており,前記光センサーは電気線形出力信号を提供し,

本位置検出装置はさらに,前記回転要素に作動式に接続され,前記光センサーを照射する前記単一の光源からの光の一部を周期的にブロックするために前記長手方向の軸の周囲を共に回転する蝶形の光ブロック部材を含んでおり,

該光ブロック部材は前記単一の光源と近接する1面と,前記複数の光センサーと近接する別面とを有しており,前記電気線形出力信号は該光ブロック部材の回転位置と相関関係を有しており,

前記単一の光源と前記光センサーとの間の間隙には該光ブロック部材を除いていかなる障害物も存在せず,前記単一の光源からの光は,少なくとも該光ブロック部材がブロックしない光部分に対して他の物体を通過することなく直接的に照射され,該光ブロック部材(30)と前記光センサーとの間の間隙にはいかなる障害物も存在せず,

該光ブロック部材の別面と前記光センサーとの間の間隙は約0.005インチから0.010インチであり,

前記単一の光源と前記光センサーとの間の間隙は約0.1インチから0.15インチであり,

前記光センサーからの前記電気線形出力信号を受領し,該電気線形出力信号を利用して前記回転要素の角位置の正確な測定値を提供する出力手段を含んでいることを特徴とする位置検出装置。

【請求項13】  単一の光源によって該長軸に沿った方向に提供される広角光界の光度が,-70°から+70°の角度範囲において,相対光出力の割合が80%から100%となることを特徴とする請求項1記載の位置検出装置。

【請求項14】  位置検出装置(10)は,初期の停止位置から-45°から+45°の角度範囲で一部回転もしくは一部振動し定位置に到達することを特徴とする請求項1記載の位置検出装置。」

4  審決の内容

審決の内容は,別紙審決のとおりである。

その理由の要点は,①本件各補正は,いずれも請求項の数を増加するものであるところ,この増加は,平成18年改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)17条の2第4項各号に規定する要件のいずれにも該当せず,却下しなければならない,②本願発明は,刊行物1及び刊行物2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであって,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

(1)  本件各補正を却下した審決の説示は,次のとおりである。

「本件補正は,特許請求の範囲の請求項の数を,本件補正前の12(平成16年8月9日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項の数)から,本件補正後の14に補正するものであり,請求項の数を増加するものである。

そして,この請求項の数の増加は,多数項引用形式で記載された一つの請求項を,引用請求項を減少させて独立形式の請求項とすることによるものではなく,また,構成要件が択一的なものとして記載された一つの請求項を,択一的な構成要件をそれぞれ限定して複数の請求項とすることによるものでもないから,本件補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第4項各号に規定する請求項の削除を目的とするもの,特許請求の範囲の減縮を目的とするもの,誤記の訂正を目的とするもの,明りょうでない記載の釈明を目的とするもののいずれにも該当しない。

したがって,本件補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり,同法第159条1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定ににより却下しなければならないものである。」(2頁11~25行)

(2)  審決は,本願発明と刊行物1発明の一致点及び相違点1ないし3を認定したが,そのうちの一致点と相違点1及び3は,次のとおりである。

ア 一致点

「軸方向に延びている長軸を有した回転要素の角位置を決定するための位置検出装置であって,

実質的に該長軸に沿った方向に均等な光界を提供する該長軸上に配置された単一の光源と,

該単一の光源から直接的に光を受領するように該長軸を中心として少なくとも1対の対角的に配置され,電気的に接続された複数の光センサーと,

を含んでおり,前記複数の光センサーのそれぞれは前記長軸周囲にて前記単一の光源とは長軸方向に離れて配置されており,前記少なくとも1対の対角的に配置された光センサーのそれぞれは電気線形出力信号を提供し,

本位置検出装置はさらに,前記複数の光センサーに照射する前記単一の光源からの光の一部を周期的にブロックするため,前記回転要素に作動式に接続されて前記長軸周囲を共に回転する光ブロック部材を含んでおり,

該光ブロック部材は前記単一の光源に近接した1面と,前記複数の光センサーに近接した別面とを有しており,該光ブロック部材と前記複数の光センサーとの間の間隙にはいかなる障害物も存在せず,前記電気線形出力信号は該光ブロック部材の回転位置と相関関係にあり,

前記複数の光センサーのそれぞれは所定の形状を有した感光面を含んでおり,該光ブロック部材は少なくとも1対の対角的に配置された光ブロック部品で構成されており,該光ブロック部品のそれぞれの部分は前記複数のセンサーの一つの前記感光面の所定の形状と実質的にマッチするように形状化されており,

本位置検出装置はさらに,電気的に接続された光センサーのそれぞれの前記電気線形出力信号を入力として受領するための出力手段と,前記回転要素の角位置の正確な測定値を提供するためにそれぞれの出力を合算する手段とを含んでいる,

ことを特徴とする位置検出装置。」(9頁34行~10頁21行)

イ 相違点

<相違点1> 「本願発明の光源が広角な光を提供するものであるのに対し,刊行物1発明の発光体2は平行光線を発するものである点」(10頁23,24行)

<相違点3> 「本願発明の出力手段(52)が少なくとも1対の対角的に配置されているのに対し,刊行物1発明には配線の配置について記載がない点」(10頁28,29行)

第3原告主張の審決取消事由

1  取消事由1(本件第1補正却下の誤り),取消事由2(本件第2補正却下の誤り)及び取消事由3(本願発明の認定判断の誤り)について

(1)  審決は,本件第1補正及び本件第2補正につき,いずれも,補正によって特許請求の範囲の請求項の数が2項増加したことをとらえて,補正却下の理由としているが,これは,補正の目的を見誤った違法な判断であり,取り消されるべきである。

(2)  拒絶査定不服審判請求の日から30日以内の補正として,旧特許法17条の2第4項2号は,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を許容している(ただし,特許法36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られる。)。

この点,本件各補正で追加された請求項13及び14は,いずれも,元の請求項群では角度範囲を限定していなかったのに対し,単に角度範囲等を限定したものである。

これら請求項13及び14のいずれも,請求項1を引用するとともに,請求項1に記載された発明特定事項を更に限定するものである。そして,その限定の仕方は,請求項1と13との関係においても,請求項1と14との関係においても,産業上の利用分野を変更するものではなく,また,解決しようとする課題を変更するものでもない。

したがって,請求項13及び14は,旧特許法17条の2第4項2号によって許容されるところの特許請求の範囲の減縮を目的として補正された請求項に該当する。すなわち,請求項13及び14は,請求項1に記載された発明の構成要件を限定するにすぎない従属項であり,これら請求項13及び14に記載された事項が,請求項1に記載された発明に内在する技術事項を明示的に記載したにすぎないものであることは一見して明らかである。

(3)  審決は,請求項の数が増加したという見掛け上の変化だけをとらえて,当該補正は,特許請求の範囲の減縮に該当せず,不適法な補正であるとして却下する。しかし,このような取扱いは,審査の遅延防止と出願間の公平とを図るという旧特許法17条の2第4項における「減縮」の解釈適用及びその立法趣旨を逸脱しており,このような明文の規定に反して特許庁審判官に許されるべき裁量の範囲を超えている。

この点に関連して,「特許庁編 特許実用新案審査基準 第Ⅸ部 審査の進め方」中の「6.2.1 却下の対象となる補正」欄の「(3) 目的外の補正」欄中の「(留意事項)」(甲14)には,「第17条の2第5項の規定は,迅速な権利付与の実現及び出願間の公平性の確保の観点から,既になされた審査結果を有効に活用して審査を進められるようにするために設けられたものであり,これを満たしていないことが後に認められた場合であっても,特許を無効とするような実体的な瑕疵があるわけではないので,無効理由とはされていない。したがって,第5項の規定は,既に行った審査結果を有効に活用して審査を迅速に行うことができる場合において,本来保護されるべき発明についてまで,必要以上に形式的に運用することがないようにする。」と記載されている。

上記留意事項は,特許庁自らが,特許法17条の2第5項(旧特許法17条の2第4項)の立法趣旨を解説するとともに,その運用に際しては,形式的運用を極力避けて発明の保護に配慮すべきであることを,自戒の念をこめて審査官及び審判官に向けて訓示するものであり,さらには,出願人に対しても,やむを得ず補正却下する場合においては,保護されるべき発明が存しない場合であることを示し,出願人に対する特許庁の審査・審理上の運用に対する理解を求めたものであると解される。

本件各補正を上記の特許法17条の2第5項(旧特許法17条の2第4項)の運用上の留意事項に照らしてみた場合,請求項1に従属し,かつ,請求項1を更に限定的減縮する内容となっている請求項13及び14を追加することが,従前の審査結果を有効に活用することを妨げ,迅速な権利付与の実現及び出願間の公平性の確保を阻害するような行為であるとは考えられない。

むしろ,請求項13及び14の追加補正は,旧特許法17条の2第4項の立法趣旨及び特許庁での審理負担の軽減に十分に配慮した紳士的な補正であって,同項の規定に違反するものではない。また,上記運用上の留意事項の観点からも,形式的な法の適用を避けて,補正が許容されるべきものである。

(4)  本件の拒絶査定不服審判請求後の平成17年1月14日,出願人代理人弁理士は,本件の拒絶査定を行った審査官と面談した(甲21)。

この面接日の前日である同月13日,出願人代理人弁理士は,審査官に対し,「手続補正書(請求範囲の補正)素案」(甲22)その他の書類をファクシミリで送信した。この甲22のクレーム補正案は,補正却下された本件各補正(甲5,6)中の補正クレームと実質的に同じものであり,問題の二つの追加項(請求項13及び14)を含んだ状態で提示された。

これにつき,審査官は,面接記録(甲21)の「面接結果c.」欄において,「提示された補正案等は,補正の要件を満たしている旨の心証を得た。」との記録を残し,実際にも,審査官は,出頭者である出願人代理人らに対してその旨を明示した。それゆえ,出願人は,補正書が却下されることはないと信じて,同月17日に二つの本件各補正書を提出した。しかしながら,今回の審決を行った審判官は,何の反論の機会も与えずに補正を却下した。

この補正却下の措置は,審査官の言葉を信じた出願人の信頼を裏切る不意打ち行為であり,衡平の原則に明らかに反するものである。一般市民である出願人(ましてや本件出願人は外国法人である。)からみれば,特許庁の審査官と審判官とは行政主体として一体不可分の存在であるから,審査官が以前に明示した事項と矛盾する決定を審判官が下す場合には,出願人に意見表明の機会を前もって与えるべきである。この意味でも,後記(5)の「前置報告を利用した審尋」の機会が与えられて然るべきであった。

そうであるから,特許庁審判官が,出願人に何ら意見表明の機会を与えることなく補正を却下したことは,先の行政行為と矛盾する行政処分であり,法律の一般原則である信義則(ひいては国際信義)及び禁反言の法理にも明らかに違反する行政処分であり,本件審決には,少なくとも手続上の顕著な違法がある。

(5)  特許庁審判部は,平成17年10月,「前置報告を利用した審尋について」と題する運用基準を発表している(甲20)。それによれば,《審尋を行うことが適切な例》として,「c) 審判請求時の補正を却下すべき理由が記載されている場合」が示されている。本件は,そのような場合に該当するが,審判では審尋は行われなかった。特許庁が自ら定めた運用基準に照らしても,審尋の機会を与えなかったことは,行政庁が国民に公示した内容に反する行政の不作為であって,国民の利益を著しく損なうものであるから,実質的な違法性を有するものである。

(6)  以上のとおり,本件各補正は許容されるべきものであるから,審決には,審理対象とすべき発明の対象を誤ったという違法があることになる。

2  取消事由4(本願発明と刊行物1発明との一致点認定の誤り1)について

(1)  審決は,刊行物1発明につき,「第1図の記載からみて,しゃへい板3と受光体4はその直径も略等しいことから,2個の同一形状のしゃへい部はそれぞれ受光部41,42と実質的にマッチするように形状化されて」いると認定した(7頁16~18行,8頁15~17行)。

しかしながら,この事実認定には誤りがある。

刊行物1の第1図からみてとれる内容は,「しゃへい板3における光透過用窓31,32は,その形状が受光体4における受光部41,42の形状とほぼ同じになるように設けられている」ということであって,第1図のしゃへい板3におけるしゃへい部は,受光部41,42とマッチしていない。なぜなら,第1図の構成において,受光部41,42とほぼ同形状の窓31,32をしゃへい板3に形成するためには,第1図に示されているように,しゃへい板3の直径を受光体4の直径よりも若干大きくしなければならないからである。その結果として,第1図のしゃへい板3は,受光部41,42とはマッチしない二つのしゃへい部(すなわち,二つの窓31,32以外の部分であって二つの窓の間に存在する板部)と,当該二つのしゃへい部の両端同士を連結する二つのアーチ状連結部とを具備してなるところの,窓付き円板状又は肉付き円環状の板材として構成されている。しゃへい板3における二つの窓31,32は,各窓の両隣に二つのしゃへい部が位置することで半径方向に沿った境界縁が区画されるとともに,各窓にそれぞれ対応する前記アーチ状連結部によって周方向に沿った各窓の外周縁が区画されるものである。

(2)  このように審決には,刊行物1発明の構成に関する事実認定について誤りがあり,その誤った事実認定に基づいて,本願発明と刊行物1発明との一致点を認定した点にも誤りがある。

刊行物1における「しゃへい板3に設けられた光透過用窓31,32の形状が受光体4における受光部41,42の形状とほぼ同じである」ということと,本願発明における「(光ブロック部材(30)を構成している一対の)光ブロック部品のそれぞれの部分が,複数のセンサー(42,44)の一つの感光面の所定の形状と実質的にマッチするように形状化されている」ということは,一見すると同義等価のように思われるが,実際にはそれぞれの構成の技術的内容及び意義において著しい相違がある。

そもそも,本願発明の位置検出装置は,レーザー加工やバイオメディカル分野の精密機器で使用される高精度ガルバノスキャナー等に用いられるような位置検出装置である。本願発明は,回転要素の角位置の検出を極めて高精度かつ高レスポンスで実現するとともに,装置の小型化及び回転軸に及ぼされる慣性重量の極小化を図ることを目的としたものであり,その目的を達成するために請求項1に記載したような構成を採用したものである。具体的には,①均等な広角光界を提供する単一の光源(46)を採用したこと,②光ブロック部材(30)の1面が前記単一の光源(46)に近接するとともに,光ブロック部材(30)の別面が複数の光センサー(42,44)に近接するほどに,単一の光源(46),光ブロック部材(30)及び光センサー(42,44)の三者の配置間隔を詰めたこと,③「該光ブロック部材(30)は少なくとも1対の対角的に配置された光ブロック部品で構成されており,該光ブロック部品のそれぞれの部分は前記複数のセンサー(42,44)の一つの感光面の所定の形状と実質的にマッチするように形状化され」ていることによって,検出の高精度化と装置の小型化とを同時に達成するものである。

つまり,光ブロック部品によってシャープな陰影を得ることで回転要素の角位置を高精度に検出するために,本願発明の各構成要素は互いに関連しており,かつ,すべて必要不可欠で重要な意義を有しているのである。上記③の記載は,単一の光源(46)と光ブロック部材(30)とが互いに近接配置関係にあり,かつ,光ブロック部材(30)と複数の光センサー(42,44)とが互いに近接配置関係にあることを念頭においた上での構造限定なのである。

それゆえ,請求項1の「光ブロック部品のそれぞれの部分が複数のセンサーの一つの感光面の所定の形状と実質的にマッチするように形状化されている」とは,発明の目的,作用及び効果に照らせば,光ブロック部品と所定形状の感光面とが単に形状的な類似性又は相似性を有しているというにとどまらず,大きさの面でも「実質的にマッチ」(日本語でいえば「匹敵する」又は「釣り合っている」)していなければならないことを意味する。

仮に,光ブロック部材(30)を構成する光ブロック部品が,光センサーの感光面とは形状的相似性を有するものの,当該感光面にマッチするに必要な以上に大きな慣性(重量)を持ち,かつ,ずっと複雑であったとするならば,増大した慣性(重量),低い共鳴周波数及び追加製造時のばらつきのために,本発明の有利な特徴であるところの,回転軸の回転機動性(つまり,回転しやすさ,止まりやすさ,回転速度加減速時の応答性といった性質)が損なわれ,回転位置検出の速さ及び正確さの低下を来し,検出レスポンスに悪影響を及ぼしかねない。上記③の「実質的にマッチ」とは,位置検出装置の優れた正確性,スピード,サイズ及びコストというような,本発明の目的に悪影響を及ぼすような機械的又は力学的要因のすべてを排除することを意味する。

このような視点をもって刊行物1の第1図に示された構造をみると,上記のとおり,第1図のしゃへい板3の直径は受光体4の直径よりも大きくなっており,それゆえに,二つの窓31,32間に存在する板部としての二つのしゃへい部は,受光部41,42とはマッチしていない。また,しゃへい板3は,前記二つのしゃへい部の両端同士を連結する二つのアーチ状連結部を備えており,これらアーチ状連結部は,しゃへい板3全体としての慣性重量を増大させるものである。したがって,第1図のしゃへい板3は,本願の請求項1において「実質的にマッチ」と構造限定した趣旨に反する構造を備えるものである。すなわち,刊行物1の装置は,本願発明の解決課題について,何ら考慮しておらず,また,何ら対策を示していない。

なお,刊行物1の第1図では,二つのしゃへい部と二つのアーチ状連結部とが一体となって窓付き板形状のしゃへい板3が構成されており,しゃへい部とアーチ状連結部とは一体不可分の関係にある。アーチ状連結部もしゃへい板3の慣性重量の決定に大きく影響するという視点を持つならば,しゃへい部とアーチ状連結部とを切り離してその技術的意義を認定すべきではない。

(3)  本願発明で用いる光源(46)は,「実質的に(回転要素の)長軸に沿った方向に均等な広角光界を提供する該長軸上に配置された単一の光源(46)」である。これに対し,刊行物1の光源は,均等な広角光界に向かう回転要素の長軸上に単一の光源を提供するものではなく,それは,単一の大面積の光源であって,本願発明(及びその利点)とは相入れない,プレート面からの一般的な光を提供するものである。

また,刊行物1発明では,長軸を中心として少なくとも一対の対角的に配置されるとともに電気線形出力信号を提供する複数の光センサーは用いられていない。

(4)  したがって,刊行物1の第1図から読み取れるところの,「しゃへい板3における光透過用窓31,32は,その形状が受光体4における受光部41,42の形状とほぼ同じになるように設けられている」という点をもって,請求項1における「該光ブロック部品のそれぞれの部分は前記複数のセンサー(42,44)の一つの前記感光面の所定の形状と実質的にマッチするように形状化されており」に相当する(9頁18~24行)とした審決には,事実認定の誤り及び一致点認定の誤りがあり,取り消されるべきである。

3  取消事由5(本願発明と刊行物1発明との一致点認定の誤り2)について

(1)  刊行物1発明に関して,審決は,「しゃへい板3は発光体2に近接した面と,受光体41,42に近接した他の面とを有して」(8頁9,10行)いる旨認定したが,この認定は誤りである。

刊行物1の第1図から読み取れる内容は,しゃへい板3が二つの面(第1図では上面及び下面)を持っており,その一方の面(上面)が円盤状の発光体2に対面し,他方の面(下面)が受光体4の受光部41,42に対面するという内容にとどまるものである。この第1図及び刊行物1の記載からは,しゃへい板3の一方の面(上面)が円盤状の発光体2に近接し,他方の面(下面)が受光部41,42に近接するという内容まで読み取ることはできない。むしろ第1図を素直に見るならば,しゃへい板3の上下二つの面は,円盤状の発光体2及び受光体4(受光部41,42)のいずれに対しても「近接」しておらず,発光体2,しゃへい板3及び受光体4の三者は互いに離間した関係にある。

また,刊行物1に開示された光源が円盤状の発光体2であり,審決でも当該発光体2を「回転軸1に沿った平行光線を発する発光体」と認定していること(例えば6頁29,30行)をも併せ考えるならば,発光体2からの平行光線が,しゃへい板3のしゃへい部によって遮られた影を受光部41,42に投影するという状況を実現するために,円盤状の発光体2,しゃへい板3及び受光体4の三者が殊更に近接配置されていなければならないとする特段の事情も存在しない。

したがって,審決が,本願発明についての独自の課題解決に向けた,本願発明の構成要件の特殊性・独創性について配慮することなく,刊行物1に開示されたしゃへい板3が,発光体2に近接した面と,受光部41,42に近接した他の面とを有するものであるとしたことには,事実認定の誤りがあり,また,そのような誤った事実認定に立って本願発明との一致点認定を行った審決には,誤りがある。

本願請求項1において「該光ブロック部材(30)は前記単一の光源(46)に近接した1面と,前記複数の光センサー(42,44)に近接した別面とを有しており,該光ブロック部材(30)と前記複数の光センサー(42,44)との間の間隔にはいかなる障害物も存在せず」と記載し,光源,光ブロック部材及び光センサーの三者が互いに接近した配置であることを限定しているのは,単に三者間の間隔を詰めることで装置の小型化を図るといった意味だけではなく,広角光界を持った単一の光源(46)を採用したこととも深く関係している。本願発明で使用する単一の光源(46)は,「広角光界を提供する」と限定されていることからも分かるように,光の放射方向が広角,つまり広い角度範囲に及ぶものである(実施例レベルではLED光源のような点光源をイメージしている。)。それゆえ,このような光源(46)から照射対象物までの距離が離れると光が広範囲に分散し,照射対象物に十分な光量を供給できないおそれがある。そういった事情からも,本願発明では,単一の光源(46)が,光ブロック部材(30)の1面に近接しているとともに,その影が投影されるべき光センサーが,光ブロック部材(30)の別面に近接している必要がある。

これに対し,審決によれば,刊行物1発明で使用される光源としての発光体2は,平行光線を放射するものであるから,しゃへい板3に届く光量を慮って,しゃへい板3と発光体2とを「近接」といえるほど近くに配置する必要性はない。したがって,審決が,刊行物1について,発光体2,しゃへい板3及び受光体4の相互近接配置を開示していると認定したことには,誤りがある。

さらに,刊行物1発明には,光源として面発光体2を使用したために,受光体4上に投影されるしゃへい板3の影の輪郭がぼけやすいという欠点がある。つまり,面発光体2は多数の点光源の集合体ととらえることができるので,しゃへい板3の縁は,それに向けて多数の点光源から発されるところの互いに非平行な光線群にさらされることになる。そうであるから,個々の点光源からの光線に対応するしゃへい板3の縁のそれぞれの影は,わずかに位置がずれた状態で受光体4上に映し出され,受光体4上の特定の1箇所に収束しない。その結果,受光体4上に投影されるしゃへい板3全体の影の輪郭がぼけてしまう。このような刊行物1の開示内容からも明らかなように,刊行物1発明には,本願発明の解決課題に関する配慮や示唆が全くされていない。

これに対し,本願発明では,広角光界を持った単一の光源(46)を採用するとともに,その単一の光源,光ブロック部材(30)及び光センサー(42,44)を互いに近接配置したことにより,広角光界を提供する光源によって作り出された光ブロック部材の影が,光センサー上にシャープに投影されることになるものである。

(2)  被告は,光学式ロータリーエンコーダに関する特開平3-211417号(乙3)を示し,光の回折に起因する検出精度の低下(つまり,影のぼけ)を防止するために,固定スリット12と回転スリット14とを数10μmの間隔まで相互接近させることはよく知られている,と主張する。

しかしながら,刊行物1発明は昭和61年6月の出願であるのに対し,乙3の発明は平成2年1月の出願である。刊行物1よりも後に刊行された乙3をもって,刊行物1の開示内容を読み解くのは不当である。

被告の主張は,刊行物1と乙3とを組み合わせて勘案するならば,刊行物1におけるしゃへい板3,面発光体2及び受光体4の三者を互いに近接配置することは自明である」というものである。そうであるならば,特許庁は,審判段階において,乙3を引用しつつ拒絶理由通知を発するという法的義務を果たしていないことになるから,審決には,拒絶理由通知を発しなかったという著しい手続上の瑕疵があり,それだけで取消しに値することになる。審決取消訴訟の段階で,乙3のような新証拠(つまり,審判段階では全く示されず,かつ,審判段階で示された既出の証拠を単に補強するような関係にあるとはいえない証拠)を提出することは,第1審級を省略した審決取消訴訟制度の趣旨に反し許されるものではない。

4  取消事由6(進歩性についての判断の誤り1)について

(1)  審決は,「刊行物2に記載された光学式速度検出器は,スリット円板13が結合された軸の回転速度を検出するものであるから,回転角度を検出する刊行物1記載の検出装置と,軸の回転に関する物理量を検出する検出装置である点で共通するものであり,その基本的構成についても,光源と受光部との間に光を周期的に遮蔽する回転板を配置したものである点で両者は共通しており,しかも,軸線上に配置した光源が回転板の広範囲にわたる部分を照射するものである点でも両者は共通している。」(10頁35行~11頁3行)とする。しかし,これは,刊行物1及び2に開示されたそれぞれの発明の本質的な違いを看過し,両者の共通点を形式的に認定したものにすぎない。

(2)  刊行物2に記載されているような光学式速度検出器と,本願発明及び刊行物1におけるような位置検出装置との間には,以下に述べるような本質的な違いがある。

ア 一般に光学式速度検出器(刊行物2)は,光源と,複数のスリットを有するとともに,速度を検出すべき被検出体に連動して回転するスリット円板と,スリット円板のスリットを通過した光源からの光を検出する受光器とを備えている。このような光学式速度検出器では,光源から受光器に向かう光が回転するスリット円板によって断続的に遮断される頻度に基づいて,被検出体の回転速度が検出される。つまり,光学式速度検出器では,回転するスリット円板による光の遮断の回数を単にカウントすることが重要なのであって,スリット円板により光が遮られてできるスリット円板の影,すなわち,個々のスリットの輪郭が受光器上にシャープに投影されるか否か,及び,その面積を厳格に判定することは,重要ではない。換言すれば,光学式速度検出器における受光器の基本的役割は,スリット円板によって光が遮られたときを「OFF」と認識する一方,スリット円板のスリットを通過した光が受光器に到達したときを「ON」と認識するという具合に,スリット円板による光の遮断/通過を単に二値的に検出することである。したがって,受光器上に投影されるスリット円板の影の鮮明さ及びその面積の大小は,問題とはならない。

刊行物2の光学式速度検出器において,広角の光源(11)を採用している理由は,スリット円板(13)が複数のスリット(14)を有しているという光学式速度検出器に特有の構造と関係がある。すなわち,複数のスリットを有するスリット円板を必須部材とする一般的な光学式速度検出器においては,複数のスリットの配列ピッチにムラがあると,回転速度の検出精度が低下するという問題があった(刊行物2の1頁右下欄)。それゆえ,刊行物2に開示された好ましい実施例では,複数のスリットにそれぞれ対応する複数の受光器(12,19)を設けるとともに,スリット円板(13)の回転軸線上に広角の光源(11)を配置し,その光源(11)によって,スリット円板のスリット配列部分の全体に対して同時に光を照射している。このような構成の採用により,仮にスリット円板(13)の複数のスリット(14)に配列ピッチのムラが存在したとしても,スリット配列ピッチのムラによる悪影響は緩和され,回転速度の検出精度が極力高められる。

イ これに対し,光学式の位置検出装置(刊行物1及び本願発明)では,光センサーの感光面上に投影される光ブロック部材の影の面積(あるいは,感光面上において光が照射されている部分の面積)に基づいて回転要素の角位置が決定される。本願発明で「広角光界を提供する単一の光源(46)」を採用している理由は,このような光学式位置検出装置の位置検出精度を高めるためには,光センサーの感光面上に投影される光ブロック部材の影の輪郭を最大限可能な限りシャープにすることが要求されるという,本願発明が対象とする超高精度の光学式位置検出装置に特有の技術的要請によるものである。

なお,本願発明では,広角光界を提供する単一の光源(46),光ブロック部材(30)及び光センサー(42,44)を互いに近接配置することにより,広角光界を提供する光源によって作り出された光ブロック部材の影が,光センサーの感光面上にシャープに投影される。したがって,本願発明の位置検出装置の位置検出精度は,刊行物1の位置検出装置の位置検出精度よりも格段に優れている。このように,本願発明における特定の部材形状,構造及び配置によって,刊行物1発明よりも,高精度,高速,小型及び低コストが実現されている。

ウ このように,本願発明と刊行物2とは,広角の単一光源を用いる点で似ているように見えるけれども,広角の単一光源を採用する目的,作用及び効果は全く次元の異なるところにある。それは,本願発明が解決しようとする課題の独自性に基づくものである。

(3)  刊行物2は,広角の単一光源を用いる理由を,光学式速度検出器におけるスリット円板でのスリット配列のピッチムラによる不利益を解消することにあると明記している。また,本願発明と刊行物2発明とでは,性質,動作原理,目的,技術的教示及び構成の面で非常に大きな違いがある。そうである以上,たとえ光学式センサーの分野の当業者が,刊行物2に接したとしても,刊行物2における教示を,位置検出装置の検出精度を向上するという目的で(すなわち,光ブロック部材の影を光センサーの感光面上にシャープに投影するという目的で),位置検出装置に転用できる,と容易に思い付くものではない。

(4)  審決は,刊行物1に記載の回転位置検出装置と,刊行物2に記載の速度検出器とを,「軸の回転に関する物理量を検出する検出装置である点で共通する」(10頁末から2行,末行)とする。しかしながら,時間という物理量に依存しない「回転位置」と,時間という物理量に依存する「回転速度」とは,「軸の回転に関する物理量」というようなあいまいな概念でひとまとめにされ,あるいは同一視されるようなものではない。このような審決の認定は,発明の進歩性の判断において必要不可欠かつ重要な要素であるところの,発明が解決しようとする課題及び技術分野についての特殊性に関する考察を欠くものである。

刊行物1及び2に記載の検出装置は,光源からの光を利用するという点では共通するが,回転位置及び回転速度の検出原理に照らせば,光源からの光に起因して生じた影をどのように利用するかについて両者は全く異なっている。つまり,位置検出装置と速度検出器との間に,技術分野,課題あるいは機能における共通性を認めることはできない。したがって,刊行物1と刊行物2とを結びつけて進歩性を論ずることに合理性はない。

(5)  また,審決は,刊行物1及び2に記載の装置に関して,「その基本的構成についても,光源と受光部との間に光を周期的に遮蔽する回転板を配置したものである点で両者は共通しており」(10頁末行~11頁2行)とするが,これも誤りである。

刊行物2に記載の速度検出器において,スリット板が光を周期的に遮蔽することが予定されていることは確かである。しかしながら,刊行物1に記載の回転位置検出装置においては,回転体と連結されたしゃへい板3が周期的に回転することは必然ではなく,しゃへい板3が動いているか停止しているかにかかわらず,回転位置は常に検出されなければならない。回転位置の検出は,時間の経過とは関係がない。それゆえ,この点でも,位置検出装置と速度検出器との間に,技術分野,課題あるいは機能における共通性を認めることはできない。したがって,刊行物1と刊行物2とを結びつけて進歩性を論ずることに合理性はない。

(6)  さらに,審決は,刊行物1及び2に記載の装置に関して,「しかも,軸線上に配置した光源が回転板の広範囲にわたる部分を照射するものである点でも両者は共通している」(11頁2行,3行)とするが,これも誤りである。

刊行物1において,しゃへい板3の広範囲にわたる部分が照射される理由は,しゃへい板3全体の影を受光体4上に投影するためであり,そのために光源として面発光体2が採用されている。他方,刊行物2において,スリット円板上のスリット配列部分全体に光が照射される理由は,スリット配列ピッチムラによる不利益を緩和するためである。仮に,刊行物1及び2に記載の装置が,軸線上に配置した光源が回転板の広範囲にわたる部分を照射するものである点で共通しているとしても,広範囲照射の意義又は目的において両者は明らかに異なっている。それゆえ,審決が指摘するような見掛けの共通性だけをもってして,位置検出装置と速度検出器との間に,技術分野,課題あるいは機能における共通性を認めることはできない。したがって,刊行物1と刊行物2とを結びつけて進歩性を論ずることに合理性はない。

(7)  被告は,実願昭58-11958号(実開昭59-117915号)のマイクロフィルム(乙4),特開昭63-18270号公報(乙5),特開平3-100421号公報(乙6)を例示し,「軸の回転に関する物理量の検出」という点で,位置検出装置と速度検出器とが互いに密接な技術的関連性を有していることは,技術常識であると主張する。

しかしながら,一般にロータリーエンコーダにおいては,回転板のスリット位置に対して部分的に光が照射される。このようなロータリーエンコーダでは,個々のスリットにおける光の通過又は遮断を二値的に検出することのみが重要なのであって,受光器上に投影される個々のスリットの影が鮮明であるか否か,及び,受光器に投影される光が均等なものであるか否かは,全く意味を持たない事項である。

刊行物2に開示されたロータリーエンコーダ方式の光学式速度検出器において,広角の光源(11)を採用している理由は,複数のスリットの配列ピッチのムラに起因する回転速度検出の精度低下を緩和するためであり,受光器上に投影される個々のスリットの影の鮮明化を目的としたものではない。

(8)  ロータ(本願発明でいう回転要素)を支持するベアリングの精度は,世界最高レベルのものであっても有限の精度しか持ち得ない(つまり公差がある)。計器用に設計された最高精度のベアリングであっても,作動時には軸方向に数マイクロインチで変位するという現実がある。このようなベアリングにおける軸方向移動は,位置検出器による位置検出の精度に重大な影響を与えるが,「均等な広角光界を提供する単一の光源」を採用することで,この軸方向移動の影響を極力低減することができる。すなわち,小面積の光源(イメージ高の小さな光源)を用いた場合には,ベアリングの軸方向精度に起因して光ブロッカーと受光面との間隔が多少変動したとしても,光ブロッカーのラジアルサイドエッジに対応した半暗部の面積は小さいままであり,かつ,暗部のエッジも適正な位置に残されたままである。それゆえ,ベアリングの軸方向移動に影響されて不正確な位置検出を生じるおそれがない。

他方,大面積の光源(イメージ高の大きな光源)を用いた場合,光ブロッカーのラジアルサイドエッジに対応した暗部及び半暗部が受光面上に作り出される。光ブロッカーと受光面との間隔が狭い場合でも,半暗部の面積は小さくない。ベアリングの軸方向精度に起因して,光ブロッカーと受光面との間隔が広がると,それに伴って半暗部の面積が更に大きくなるだけでなく,暗部エッジの位置も大きく移動してしまう。つまり,大面積の光源を用いると,実際には光ブロッカーが回転方向には停止していたとしても,ベアリングの軸方向移動のために,あたかも光ブロッカーが移動(微少回転)したかのごとき不正確な位置検出を生じてしまう。

本願発明の「均等な広角光界を提供する単一の光源(46)」は,上述のような小面積の光源を提供すると同時に,その光源を光ブロッカーに近接配置した場合でも光ブロッカーのラジアルサイドエッジの全体を照射することを可能とするものである。これに対し,刊行物1に記載された面発光体2は,上記大面積の光源と同じ欠点を有する。また,面発光体により均等な光界を得ることは,非常に困難である。

(9)  よって,刊行物1に記載の発光体2に代えて刊行物2に記載の光源を採用することで,本願発明を容易に想到することができるとした審決には,進歩性判断に関する誤りがある。

5  取消事由7(進歩性についての判断の誤り2)について

(1)  審決は,「本願発明が奏する効果についても,刊行物1発明及び刊行物2に記載された事項に基づいて当業者が予測し得る範囲内のものであって格別のものではない。」(11頁23~25行)とするが,これは誤りである。

(2)  本願発明の位置検出装置は,ガルバノスキャナーなどの非常に高精度の回転位置測定が必要な技術への適用を意図して開発されたものであり,従来の位置検出装置以上に検出精度の高度化と装置の小型化とを図ったものである。それゆえ,回転要素に対する余分な重量負担や,測定結果に影響する微細な構成上の無駄あるいは不安定要素を,一切排除することが求められる。そして,そのことを具体化した主要な構成が,「単一の光源(46),光ブロック部材(30)及び光センサー(42,44)の近接配置」や,「光ブロック部材(30)の光ブロック部品が光センサー(42,44)の感光面の形状と実質的にマッチするように形状化されている」こと等である。

そうであるのに,刊行物1及び2には,そのような厳格な位置測定(角位置測定)のためには,微細な構造上の無駄や不安定要素を排除した構成を採用する必要がある,というような課題認識が全く存在しない。

刊行物1につき,面発光体2を使用しており,受光体4上に投影されるしゃへい板3の影がぼけるという欠陥について配慮が全くされていないこと,また,しゃへい板3にアーチ状連結部が形成されていることで,しゃへい板3の慣性重量が増大するという欠陥について配慮が全くされていないことは,上記の厳格な位置測定のために必要な構成を採用する必要があるという課題に関する認識,示唆の欠如を示すものである。また,刊行物2につき,速度検出器に関するものであり,技術分野,課題及び機能において本願発明とは著しく相違するものであるから,上記のような位置検出装置に特有の欠陥(問題点)に関して配慮がされていないことも明らかである。

他方で,本願発明は,厳格な角位置測定に必要とされる最適かつ不可欠の構成を得るという課題に対して一切の妥協を排した結果得られたものであり,①広角かつ単一の光源を用いることで光源と光センサーとの距離を最小限とし,光センサー上に投影される光ブロック部材の影をできる限りシャープにすること,②光ブロック部材を構成する光ブロック部品の形状を光センサーの感光面の形状と実質的にマッチさせ,光ブロック部材の慣性重量を最小とすることは,本願発明が顕著な技術的優越性を有することを示すものである。

(3)  本願発明のこのような技術的優越性については,file_2.jpg10年以上もの間その必要性が求められていながら解決されていなかった課題を解決したものであること(甲8~11),file_3.jpgその結果、著しい商業的成功が存するという事実(甲12,13),及び,file_4.jpg対応米国特許出願について既に特許を取得しているという事実(甲7,15)からも証明されている。

(4)  本願請求項1に記載の光源(46)は,「均等な広角光界を提供する・・・」単一の光源(46)である。この点,刊行物2の光源(11)が「均等な」光界を提供するものであるか否かについては,刊行物2には明示的な記載はない。刊行物2はロータリーエンコーダに関するものであり,スリット円板のスリットを通過した光は二値的な電気信号として利用できればよいのであるから,刊行物2の光源(11)が「均等な」光界を提供する光源である必要性は殊更にない。

これに対し,本願発明では,高い位置検出精度を保つためには,単一の光源(46)が単に「広角光界を提供する」だけでは足りず,その光界の「均等性」をも必要とするものである。

このような理由から,刊行物2は,本発明の重要な要素である「均等な広角光界を提供する・・・」という部分の開示を欠いている。したがって,刊行物1及び刊行物2に基づく,進歩性欠如の論理付けは成立しない。

(5)  刊行物2の第2図によれば,その光学式速度検出器(ロータリーエンコーダ)は,光源11,スリット円板13及び受光素子15のほかに,スリット17付きのマスク16を有している。そのマスク16は,スリット円板13と受光素子15との間に介在する部材である。

これに対し,本願請求項1には,「光ブロック部材(30)と複数の光センサー(42,44)との間の隙間にはいかなる障害物も存在せず」との明確な限定記載がある。刊行物2の第2図の開示は,上記限定記載と矛盾するものであるから,刊行物1に刊行物2を結びつけて進歩性を論じることは不適切である。

第4被告の反論

1  取消事由1(本件第1補正却下の誤り),取消事由2(本件第2補正却下の誤り)及び取消事由3(本願発明の認定判断の誤り)に対して

(1)  旧特許法17条の2第4項2号は,「特許請求の範囲の減縮」について,括弧書きで「第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。」と規定しているから,同号にいう「特許請求の範囲の減縮」は,補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって,かつ,補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請されるものというべきであって,補正前の請求項と補正後の請求項とは,一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。そうであってみれば,増項補正は,補正後の各請求項の記載により特定される各発明が,全体として,補正前の請求項の記載により特定される発明よりも限定されたものとなっているとしても,上述したような一対一又はこれに準ずるような対応関係がない限り,同号にいう「特許請求の範囲の減縮」には該当しないというべきである。

(2)  このような増項補正が特許請求の範囲の減縮に該当しないことは,「特許庁編 特許・実用新案審査基準」においても明示されており,その「第Ⅲ部 第Ⅲ節4.3.1(1)」に「特許請求の範囲の減縮に該当しない具体例」として「請求項数を増加する補正」が示されている(乙1)。

このように,特許庁は,審査基準を公表して実質的に請求項数を増加する増項補正が特許請求の範囲の減縮に該当しないことを周知しており,これは判決によっても支持されている。

(3)  本件各補正は,請求項13及び14を新規に追加するものであり,また,多数項引用形式で記載された一つの請求項を,引用請求項を減少させて独立形式の請求項とするものではなく,構成要件が択一的なものとして記載された一つの請求項について,その択一的な構成要件をそれぞれ限定して複数の請求項とするものでもないから,上記(1)及び(2)で述べたように,旧特許法17条の2第4項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しない。さらに,本件各補正は,同項1号に規定する請求項の削除,同項3号に規定する誤記の訂正,同項4号に規定する明りょうでない記載の釈明を目的とするもののいずれにも該当しないから,同項の規定に違反するものであり,本件各補正を却下した審決に誤りはない。

(4)  さらにまた,本件各補正は,請求項13及び14を新規に追加するものであるが,請求項13は,「単一の光源によって該長軸に沿った方向に提供される広角光界の光度が,-70°から+70°の角度範囲において,相対光出力の割合が80%から100%となることを特徴とする請求項1記載の位置検出装置。」というものであるから,請求項1記載の位置検出装置において,光源の光度に関して所定の角度範囲における相対光出力を数値により規定するものであり,また,請求項14は,「位置検出装置(10)は,初期の停止位置(角速度ゼロの位置)から-45°から+45°の角度範囲で一部回転もしくは一部振動し定位置に到達することを特徴とする請求項1記載の位置検出装置。」又は「位置検出装置(10)は,初期の停止位置から-45°から+45°の角度範囲で一部回転もしくは一部振動し定位置に到達することを特徴とする請求項1記載の位置検出装置。」というものであるから,請求項1記載の位置検出装置において,回転又は振動の角度範囲を数値により規定するものである。

しかしながら,このような光源の光度,回転又は振動の角度範囲に関する事項は,本件各補正によって初めて特許請求の範囲に追加された事項であり,本件各補正以前の特許請求の範囲には,これらの事項に関する記載はおろか,それらを数値により規定することなど全く記載されていなかった。

したがって,本件各補正により請求項13及び14を追加することは,これらの事項に関して新たな審査負担を生じさせるものであり,「特許庁編 特許実用新案審査基準 第Ⅸ部 6.2.1(3)」の(留意事項)における「既に行った審査結果を有効に活用して審査を迅速に行うことができる場合」に該当しないことは明らかである。

よって,上記(留意事項)に照らしてみても,本件各補正を却下した審決に不当な点はない。

(5)  審査官作成の面接記録(甲21)の内容をみると,「面接結果」の「記」以下の欄に,「請求項1,5,11,12,14については新規事項の追加があるものと伝えた。又,あいまい表現が,いくつか含まれている点についても伝えた。進歩性については,請求項1~14について,現時点では,ないものと判断し,その理由についても伝えた。」との記載があることから,出願人による「手続補正書(請求範囲の補正)の素案」(甲22)では,補正の要件が満足されず,却下の対象となるものであることは,明白であった。たとえ,その補正の素案につき「c.提示された補正案等は,補正の要件を満たしている旨の心証を得た。」ものに該当し(ただし,この「c.」には○印は付されていない。),その旨が出頭者である出願人代理人に伝えられたとしても,それのみが補正の素案に対する心証又は意見のすべてではなく,かつ,それのみが出願人代理人に伝えられたものでないことは,上記面接記録の「記」欄の記載内容から明らかである。そして,これらに照らしてみれば,弁理士であれば,単に文言を○で囲むことにより作成した文面である,「c.提示された補正案等は,補正の要件を満たしている旨の心証を得た。」との上記面接記録の記載が矛盾するものであることは,容易に判断のつく事項である。

そうすると,面接の趣旨及び実際の面接記録から判断しても,補正却下の措置が,審査官の言葉を信じた出願人の信頼を裏切る不意打ち行為であり,衡平の原則に明らかに反するとの原告の主張は失当であり,理由がないといえる。

(6)  特許庁審判部が平成17年10月に公表した「前置報告を利用した審尋について」(甲20)には,「2.審尋の要否」とし,「審判請求人にとって,反論機会が与えられることは利益になることであるが,以下の例に見られるように,各案件毎に前置報告の内容は異なるので,審判合議体は,すべての案件について一律に審尋を行う必要はない。審尋を行うか否かは,審判合議体が判断する。」(甲20の3頁)と記載されている。

本件の場合には,上記(5)のとおり,補正の素案についての審査官の見解が却下されるものとして示唆されていたというべきものであり,審判請求人は,そのような審査官の見解を考慮に入れた上で手続補正書を提出する機会を持ち得たということができる。

そうすると,本件に関して,審判請求人に審尋の機会を与えなかったことが,「行政庁が国民に公示をした内容に反する行政の不作為であって,国民の利益を著しく損なうものであるから,実質的な違法性を有するものである。」とはいえない。

(7)  そして,上記面接時における審判請求人代理人,審査官の認識がどのようなものであったにせよ,次のとおり,審判における補正却下の決定につき,審判官の合議体による手続上の瑕疵はない。

拒絶査定不服審判に対する審判における特則を規定した(平成14年法律第24号による改正前の)特許法159条1項には,「第53条〔補正の却下〕の規定は,第121条1項〔拒絶査定不服審判〕の審判に準用する。この場合において,第53条第1項中『第17条の2第1項第2号』とあるのは『第17条の2第1項第2号又は第3号』と,『補正が』とあるのは『補正(同項第2号に掲げる場合にあっては,第121条第1項の審判の請求前にしたものを除く。)が』と読み替えるものとする。」と規定されている。

また,補正の却下について規定した(同改正前の)特許法53条1項には,「第17条の2第1項第2号に掲げる場合において,願書に添付した明細書又は図面についてした補正が同条第3項から第5項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときは,審査官は,決定をもってその補正を却下しなければならない。」とある。

旧特許法17条の2第4項,上記53条1項,159条1項の規定を踏まえて,本件各補正についてみるに,補正が旧特許法17条の2第3項から第5項までの規定に違反していると審判官の合議体が認めたときには,決定をもってその補正を却下しなければならないことになる。

したがって,上記面接との関係でいえば,審査官が審判請求人代理人と面接をして,その面接を踏まえた心証を審判請求人代理人に伝えたとしても,審判官の合議体が,原審の審査官による前置報告の報告内容(原審の審査官の心証)にとらわれることなく,審判請求時の補正の適法性を判断できることを,特許法は規定しているものであり,補正却下の決定につき,審判官の合議体による手続上の瑕疵はない。

(8)  以上のとおり,本件各補正は却下されるべきものであるから,審決が本件発明の認定を誤ったということはない。

2  取消事由4(本願発明と刊行物1発明との一致点認定の誤り1)に対して

(1)  本願請求項1の「該光ブロック部品のそれぞれの部分は前記複数のセンサー(42,44)の一つの前記感光面の所定の形状と実質的にマッチするように形状化されており」との記載における「実質的にマッチする」がどのような技術内容を意味する表現であるかについて検討するに,上記「実質的にマッチする」がどの程度「匹敵する」又は「釣り合っている」ことを意味するのかについては,本願請求項1の記載のみからでは必ずしも判然とはしない。

そこで,本願明細書の記載を参照すると,光ブロック部品及びセンサーの感光面の形状,大きさ等に関して,次のような記載がある。

ア 「【0022】・・・蝶形ブロック部材30の外径は充分に大きいものであって感光領域とオーバーラップし,シャフト14の不都合な放射方向移動に関連する問題の排除に貢献する。」

イ 「【0028】・・・光電池活性領域あるいは光センサー34,36,38及び40は扇型であり,蝶形ブロック部材の形状と合致する。」

ウ 「【0029】・・・活性光電池領域(感光領域)は扇型であり,蝶形ブロック部材30の形状とマッチするように製造される。」

エ 「【0030】・・・ブロック部材30は図2に示すように完全回転したときLED源46からの光が直径方向で向き合った光センサー34と40に到達することを完全及び同時に妨害するように形状化されている。」

上記アの記載からは,蝶形ブロック部材30の外径は充分に大きく感光領域とオーバーラップするものであり,シャフト14の不都合な放射方向移動に対し十分な余裕があること,上記エの記載からは,特定の回転位置において,LED源46からの光が光センサー34と40に到達することをブロック部材30が完全に妨害するように形状化されていることが読み取れるから,上記イ,ウの記載と併せてこれらの記載を総合的に勘案すると,蝶形ブロック部材30と光センサー34,40の感光領域は,ともに扇型で形状が合致しており,蝶形ブロック部材30の外径は充分に大きく感光領域とオーバーラップするものであり,特定の回転位置において,LED源46からの光が,光センサー34,40の感光領域に到達することを完全に妨害するように余裕をもって形状化されていることが読み取れる。

そうすると,本願発明における「実質的にマッチする」とは,光ブロック部品と光センサーの感光面の形状に関して,ともに扇型で形状が合致しており,光ブロック部品の外径は充分に大きく感光領域とオーバーラップするものであり,特定の回転位置において,光源からの光が光センサーの感光面に到達することを完全に妨害するように余裕をもって形状化されているということを意味する表現であるといえる。

このことは,本願請求項10の「光ブロック部材のそれぞれは複数の光センサーの1つの感光面の所定形状よりも少々大きめであることを特徴とする請求項1記載の位置検出装置」との記載からも裏付けられるといえる。

(2)  一方,刊行物1の記載についてみると,審決が,刊行物1の記載から,「しやへい板3は,回転軸1を中心として空間的な角度で90度にわたつて2個の同一形状のしやへい部を互いに90度の間隔をあけて配置している」及び「受光体4も,この2個の同一形状のしやへい部と同じく,受光部41,42を回転軸1を中心として90度にわたつて90度の間隔をあけて配置したものとなっており」ということが読み取れるとした点(7頁11~16行)については原告も争わず認めるところであり,これらのことから,2個のしゃへい部と受光部41,42はそれぞれの中心角がともに90度で一致しているということがいえる。

そして,これらの半径については,直接言及した記載はないものの,刊行物1の図面の第1A図には,第1図に示された実施例の受光部41,42の出力を示す波形図が示され,受光部41,42の出力V21,V22が,しゃへい板3の回転量θに応じて零→最大値→零→最大値・・・というように三角波状に繰り返して変化することが示されており,このように,受光部41,42の出力V21,V22が特定の回転量θにおいて零となるためには,その回転量θにおいてしゃへい部が周方向のみならず半径方向においても受光部を覆って発光体2からの光が受光部に照射されないようにしなければならないことから,しゃへい部の半径は,少なくとも受光部41,42の半径以上でなければならないことになる。

そして,このしゃへい部の半径は受光部41,42の半径以上であれば幾らでも大きくしてもよいというものではなく,およそ角度検出装置において小型化という課題は一般的なものであり,そのことは,刊行物1の[従来の技術]に関する欄の「小型,軽量化には限度があり」(2頁左上欄12行),「そこで,出願人は光を利用して回転体の位置を回転角度の関数として出力することにより,上記の如き難点を克服する方式を提案している」(2頁右上欄3~5行)という記載からもうかがうことができることから,このような小型化の観点からみて,しゃへい部の半径は,極力小さく受光部を実質的に覆う程度の大きさであればよく,このことは,刊行物1の図面の第1図の記載からも裏付けられることである。

そうすると,2個のしゃへい部と受光部41,42は,中心角が一致しており,半径はしゃへい部が受光部を実質的に覆う程度の大きさのものであるということになる。

したがって,刊行物1発明における2個のしゃへい部と受光部41,42も,本願発明における光ブロック部品と光センサーの感光面と同様に,「実質的にマッチ」しているということができる。

(3)  以上のとおりであるから,審決が,刊行物1発明に関して,「2個の同一形状のしやへい部はそれぞれ受光部41,42と実質的にマッチするように形状化されており」と認定した点に誤りはなく,また,「第1図の記載からみて,しやへい板3と受光体4はその直径も略等しいことから,2個の同一形状のしやへい部はそれぞれ受光部41,42と実質的にマッチするように形状化されている」と認定した点に誤りはなく,さらに,これらの認定に基づいて,本願発明と刊行物1発明が「該光ブロック部品のそれぞれの部分は前記複数のセンサーの一つの前記感光面の所定の形状と実質的にマッチするように形状化されており」という点で一致していると認定した点にも誤りはない。

(4)  また,「二つのしゃへい部の両端同士を連結する二つのアーチ連結部」を刊行物1記載のしゃへい板3が備えるものであるとしても,小型化の観点から,しゃへい部の半径は幾らでも大きくしてもよいというわけではなく,その場合でも,しゃへい部の半径は受光部を実質的に覆う程度のものでなければならないから,結局,しゃへい部と受光体4の感光面は,実質的にマッチしていることになる。

そして,慣性質量についても,そもそもセンサー自身が負荷となって測定対象に影響を及ぼしその動作を妨げてしまうようなことが極力生じないように配慮すべきであるということは,測定分野全般における技術常識であるから,測定対象である回転体1に連結されたしゃへい板3の慣性質量をいたずらに増大させるような構成を採用することは通常あり得ないことである。

したがって,「アーチ連結部」を刊行物1記載のしゃへい板3が備えるものであるとしても,2個のしゃへい部と受光部41,42が実質的にマッチしていることには変わりはないから,審決が,刊行物1発明に関して,「2個の同一形状のしやへい部はそれぞれ受光部41,42と実質的にマッチするように形状化されており」と認定した点に誤りはなく,この認定に基づいて,本願発明と刊行物1発明が「該光ブロック部品のそれぞれの部分は前記複数のセンサーの一つの前記感光面の所定の形状と実質的にマッチするように形状化されており」という点で一致していると認定した点にも誤りはない。

(5)  原告は,「本願発明で用いる光源(46)は,『実質的に(回転要素の)長軸に沿った方向に均等な広角光界を提供する該長軸上に配置された単一の光源(46)』である。これに対し,刊行物1の光源は,均等な広角光界に向かう回転要素の長軸上に単一の光源を提供するものではなく,それは,単一の大面積の光源であって,本願発明(及びその利点)とは相入れない,プレート面からの一般的な光を提供するものである。」と主張する。しかし,これは,発光体2が平行光線を発するものであるという刊行物1の記載(「リング状に形成されて平行光線を発するLED(発光ダイオード)の如き発光体2」〔甲1の2頁右上欄18~20行〕)から離れたものであり理由がない。

また,原告は,「刊行物1では,長軸を中心として少なくとも一対の対角的に配置されるとともに電気線形出力信号を提供する複数の光センサーは用いられていない。」と主張する。しかし,刊行物1には,回転軸を中心として少なくとも一対の対角的に配置されるとともに電気線形出力信号を提供する複数の受光部が用いられているといえるので(甲1の2頁右上欄3行~右下欄12行,3頁右下欄12行~4頁左上欄4行,第1図及び第1A図),光センサーに関する原告の主張には理由がない。

3  取消事由5(本願発明と刊行物1発明との一致点認定の誤り2)に対して

(1)  本願請求項1の「該光ブロック部材(30)は前記単一の光源(46)に近接した1面と,前記複数の光センサー(42,44)に近接した別面とを有しており」という記載の意味について検討するに,一般に,「近接」とは「近くにあること」(広辞苑第5版)という意味であるから,上記記載は,「該光ブロック部材(30)は前記単一の光源(46)の近くにある1面と,前記複数の光センサー(42,44)の近くにある別面とを有しており」という明確な技術内容を表現したものである。

(2)  刊行物1には,しゃへい板3,発光体2及び受光体4の配置に関して,「回転体の回転軸1に結合されたしやへい板3に対し,その一方側にはリング状に形成されて平行光線を発するLED(発光ダイオード)の如き発光体2と,その他方側には例えば半円形状の受光部41をもつ受光体4とを同軸上に配置する。こゝで,発光体2および受光体4は固定して設置されており,回転するしやへい板3と接触しないよう所定の間隔が形成されている。」(2頁右上欄17行~左下欄5行)と記載されており,この記載によると,しゃへい板3は,発光体2と受光体4との間にあり,その一方側には発光体2,その他方側には受光体4が所定の間隔をあけて配置されていることになるから,しゃへい板3の一方側の面は発光体2の近くにあり,他方側の面は受光体4の近くにあることになる。

そして,およそ角度検出装置において小型化という課題は一般的なものであり,そのことは,刊行物1の〔従来の技術〕に関する欄の「小型,軽量化には限度があり」(2頁左上欄12行),「そこで,出願人は光を利用して回転体の位置を回転角度の関数として出力することにより,上記の如き難点を克服する方式を提案している」(2頁右上欄3~5行)という記載からもうかがうことができるから,刊行物1記載の発光体2,しゃへい板3及び受光部41,42の三者は,このような小型化の観点からみて互いに近接して配置されていなければならないものである。

したがって,審決が,刊行物1発明に関して「しやへい板3は発光体2に近接した面と,受光体41,42に近接した他の面とを有しており」(なお,「受光体41,42」は「受光部41,42」の誤記である。)と認定した点に誤りはない。

(3)  刊行物1記載の発光体2が平行光線を発するものであっても,しゃへい板3の縁における回折(「光や音が障害物などをかすめたとき幾何学的に直進しないで,影の部分にまわりこむ現象をさす。波では一般的におこり,粒子と区別される特徴の1つである」「(岩波 理化学辞典第4版」196頁〔乙2〕))により,しゃへい板3の縁において光が影の部分に回り込み,この回り込んだ光は,しゃへい板3から遠ざかるほどそれだけ影の部分に深く入り込んでくるから,受光部41,42が,しゃへい板3から離れた位置にあればそれだけ,受光部41,42へ投影される影の輪郭がぼけることになり,その結果,角度検出の精度が低下することになる。

このような回折現象による検出精度の低下については,角度検出の技術分野においても,例えば,特開平3-211417号公報(乙3の2頁左上欄11行~右上欄7行)の記載のように,従来から認識されていることである。

したがって,たとえ発光体2が平行光線を発するものであるとしても,しゃへい板3及び受光部41,42は,必要な検出精度が確保できる程度の距離に近接させて配置しなければならないものである。

なお,乙3は,回折現象により角度検出精度が低下するという事実が従来より認識されていたということを示すために被告が挙示したものであって,刊行物1と組み合わせるための新証拠ではない。審決には,審判段階において乙3を引用した拒絶理由通知を発しなかったという著しい手続上の瑕疵があるとの原告の主張には理由がない。

(4)  以上のとおりであるから,審決が,刊行物1発明に関して「しやへい板3は発光体2に近接した面と,受光体41,42に近接した他の面とを有しており」と認定した点に誤りはない。

そして,上記(1)のとおり,本願請求項1の「該光ブロック部材(30)は前記単一の光源(46)に近接した1面と,前記複数の光センサー(42,44)に近接した別面とを有しており」は,「該光ブロック部材(30)は前記単一の光源(46)の近くにある1面と,前記複数の光センサー(42,44)の近くにある別面とを有しており」ということにほかならず,それ以上のものでもそれ以下のものでもないから,審決が,刊行物1発明に関して「しやへい板3は発光体2に近接した面と,受光体41,42に近接した他の面とを有しており」と認定したことに基づいて,本願発明と刊行物1発明が「該光ブロック部材は前記単一の光源に近接した1面と,前記複数の光センサーに近接した別面とを有しており」という点で一致していると認定した点に誤りはない。

(5)  本願請求項1の「該光ブロック部材(30)は前記単一の光源(46)に近接した1面と,前記複数の光センサー(42,44)に近接した別面とを有しており」という記載における「近接」とは,単に「近くにある」ことという意味でしかなく,それ以上のものでもそれ以下のものでもないのであり,まして,原告が主張するような広角光界を持った光源(46)の採用と関連づけて具体的にその程度が数値等の条件で規定されているような「特殊な」近接でもないから,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものとはいえず理由がない。

4  取消事由6(進歩性についての判断の誤り1)に対して

(1)  本願発明における「広角な光を提供する」光源とは,その記載から明らかなように,広角に広がる光を放射する光源であるから,刊行物2にも示されるようにごくありふれた光源にすぎないものである。

したがって,相違点1(本願発明の光源が広角な光を提供するものであるのに対し,刊行物1発明の発光体2は平行光線を発するものである点)は,刊行物1発明における「平行光線を発する」光源を,単に,このようなごくありふれた光源である「広角な光を提供する」光源に置換したにすぎないものであり,しかも,刊行物1発明と刊行物2発明とは,審決が指摘するように光源の機能を含めて相互に広範な共通性を有しており,さらに,刊行物1には,「広角な光を提供する」光源を採用することを排除する記載も見当たらない。

そして,およそ角度検出装置において小型化という課題は一般的なものであり,そのことは,刊行物1の[従来の技術]に関する欄の「小型,軽量化には限度があり」(2頁左上欄12行),「そこで,出願人は光を利用して回転体の位置を回転角度の関数として出力することにより,上記の如き難点を克服する方式を提案している」(2頁右上欄3~5行)という記載からもうかがうことができることから,このような小型化の観点からみて,小型な光源である「広角な光を提供する」光源を採用すれば,刊行物1記載の検出装置自身の小型化が図れるということも当業者であれば容易に予測できることである。

(2)  審決は,刊行物1に記載された位置検出装置と刊行物2に記載された光学式速度検出器とが,ともに軸の回転に関する物理量を検出する検出装置であるという技術分野の共通性,ともに光源と受光部との間に光を周期的に遮蔽する回転板を配置したものであるという基本的な構成の共通性,さらに,ともに軸線上に配置した光源が回転板の広範囲にわたる部分を照射するものであるという光源の機能についての共通性に照らしてみて,刊行物1発明に刊行物2に記載された事項を適用することについての容易想到性を判断したものであって,原告主張のように形式的に見掛け上の共通性をもって判断したものではない。

そして,このように,ともに光源と受光部との間に光を周期的に遮蔽する回転板を配置した基本構成から成り,軸の回転に関する物理量を検出する検出装置である,位置検出装置と光学式速度検出器とが互いに密接な技術的関連性を有することは,このような基本構成を有する回転検出器が,従来より角度検出又は速度検出に用いられてきたという技術常識からも裏付けられることである。

このような技術常識に関しては,例えば,実願昭58-11958号(実開昭59-117915号)のマイクロフィルム(乙4),特開昭63-18270号公報(乙5),特開平3-100421号公報(乙6)の記載からもいえる。

したがって,このような角度検出及び速度検出の両者の密接な技術的関連性に関する技術常識を備えた当業者が,上記基本構成をともに具備する刊行物1,刊行物2の各発明に接したときに,両者の光源がともに回転板の広範囲にわたる部分を照射するものであるという共通性に照らし合わせ,刊行物2記載の光源を刊行物1記載の回転位置検出装置の光源として採用しようとすることは容易に想到し得たということができる。

(3)  回転位置検出装置に要求される小型化の観点から,光源,しゃへい板及び受光体の三者を近接配置させなければならず,また,検出精度の観点からみて,広角の光源の場合にはそれから放射される光は遠ざかるにつれて広がってしまうことから,受光部41,42へ投影される影の輪郭をシャープに保つとともに,受光部41,42上に投影される影の輪郭位置がしゃへい部の輪郭位置と回転角度方向でみて対応する位置ではなくずれた位置になってしまうというようなことが生じないようにするために,しゃへい板と受光体をより一層近接させなければならないということも当業者にとっては明らかなことである。

原告は,本願発明が「広角光界を提供する単一の光源(46)」を採用した理由は,光学式位置検出器の位置検出精度を高めるためには,光センサーの感光面上に投影される光ブロック部材の影の輪郭を最大限可能な限りシャープにすることが要求されるという光学式位置検出器に特有の技術的要請によるものであると主張しているが,光センサーの感光面上に投影される光ブロック部材の影の輪郭をシャープにするのは,光ブロック部材を感光面に近接させたことによるものであって,「広角光界を提供する単一の光源(46)」を採用したことによるものではない。そして,刊行物1発明において,広角の光源を採用した場合に,影の輪郭をシャープに保つためにしゃへい板と受光体をより一層近接させなければならないということは上記のとおりである。

(4)  刊行物1記載の「回転角度」と刊行物2記載の「回転速度」は,ともに「軸の回転に関する物理量」であるから,審決が,刊行物1記載の検出装置と刊行物2記載の光学式速度検出器とを「軸の回転に関する物理量を検出する検出装置である点で共通する」とした点に誤りはなく,また,影の利用についても,両者はともに軸の回転に伴う影の変化に応じて受光部の受光量が変化することを利用するものであるから,この点においても原告の主張には理由がない。

(5)  刊行物1記載の検出装置は,軸が周期的に回転する場合も含めてその回転角度を検出することができるものであるから,審決が,この検出装置と刊行物2に記載の光学式速度検出器が「その基本的な構成についても,光源と受光部との間に光を周期的に遮蔽する回転板を配置したものである点で両者は共通しており」とした点に誤りはない。

(6)  刊行物2には,軸線上に配置した発光ダイオードからなる光源11から広角の光を放射し,スリット円板13を広範囲にわたって照射することが示されているから,審決が「しかも,軸線上に配置した光源が回転板の広範囲にわたる部分を照射するものである点でも両者は共通している」とした点に誤りはない。

5  取消事由7(進歩性についての判断の誤り2)に対して

(1)  刊行物2記載の広角の光源を刊行物1記載の回転位置検出装置の光源として採用した場合に,回転位置検出装置に要求される小型化の観点から,光源,しゃへい板及び受光体の三者を近接配置させなければならないことは従来と同様であり,また,検出精度の観点からみて,広角の光源の場合にはそれから放射される光は遠ざかるにつれて広がってしまうことから,受光部41,42へ投影される影の輪郭をシャープに保つとともに,受光部上に投影される影の輪郭位置がしゃへい部の輪郭位置と回転角度方向でずれてしまうというようなことが生じないようにするために,しゃへい板と受光体をより一層近接させなければならないということも当業者にとっては明らかなことである。

したがって,刊行物1及び刊行物2には,検出精度の高度化と装置の小型化を図るという課題認識が全くないという原告の主張には理由がなく,審決が「本願発明が奏する効果についても,刊行物1記載の発明及び刊行物2に記載された事項に基づいて当業者が予測し得る範囲内のものであって格別のものではない。」とした点に誤りはない。

(2)  商業的成功は,広告宣伝力,販売力などいろいろな要因に起因するものであるから,本願発明に係る位置検出器について商業的に成功したからといって,本願発明に直ちに進歩性を認めることができる事情となるものではない。

また,審決は,本願発明の進歩性を,刊行物1,刊行物2の各発明に基づいて判断したものであり,本願発明に係る位置検出器が各種刊行物において紹介されたという事実や米国における対応特許の存在があるとしても,上記進歩性の判断を左右するに足りるものではないから,審決の結論に影響を与えるものではない。

第5当裁判所の判断

1  取消事由1(本件第1補正却下の誤り),同2(本件第2補正却下の誤り)及び同3(本願発明の認定判断の誤り)について

(1)  審査審判の手続の経緯

証拠及び弁論の全趣旨によれば,本願出願に関する審査及び審判の手続の経緯は,次のとおりであることが認められる(引用に係る部分には原文の表記やレイアウトを一部改めたところもある。)。

ア 本件出願の内容

本件出願手続は,平成10年10月21日,原告の代理人である廣江武典弁理士(事務所は岐阜市所在)によって行われた。当初明細書(甲3)によれば,その請求項は,1~26からなっていた。

イ 本件出願に対する拒絶理由通知

本件出願についての審査請求手続は,平成13年11月12日,同弁理士によって行われた。そして,A審査官は,同弁理士あてに,平成16年2月17日付けで原告に対する拒絶理由通知書を発した(甲26)。

その記載内容は,次のとおりである。

「理由

この出願の請求項1乃至26に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。

記  (引用文献等については引用文献等一覧参照)

請求項1乃至26について

引用文献:1乃至6

備考:

引用文献1には,複数の扇形センサーと,回転する光ブロック部材と,光源とを有し,扇形センサーの出力を合算した位置検出装置が記載されている。

引用文献2には,光ブロック部材の剛性を維持する手段が記載されている。

引用文献3には,プラスチック製である光ブロック部材が記載されている。

引用文献4には,光ブロック部材のブロック部と光センサーの感光面の形状が実質的にマッチしている構成が記載されている。

引用文献5には,光発生器をカバーする湾曲窓が記載されている。

引用文献6には,点光源で光ブロック部材を照射する手段が記載されている。

また,光ブロック部材と光センサーの感光領域との距離,及び,光源と光発生器と光センサーの環境領域との距離を所定の値に設定することは,当業者にとって適宜実施しうる設計事項にすぎない。

拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。

引用文献等一覧

1.特開昭63-6417号公報

2.特開平7-318370号公報

3.実願昭57-198585号(実開昭59-104013号)のマイクロフィルム

4.特開昭60-171462号公報

5.実願平1-1219号(実開平2-93715号)のマイクロフィルム

6.特開昭63-50722号公報」

ウ 上記拒絶理由通知に対する原告の対応

原告は,上記拒絶理由通知に対し,同年8月9日付けをもって,次のとおり,意見書(甲27)及び手続補正書(以下「審査時補正」ということがある。甲4)を提出した。

(ア) 意見書の内容

「・・・本願発明は,引用文献1乃至6に記載の発明とは,その目的,構成,効果において顕著な相違を有し,進歩性を有するものと考えられるので,特許請求の範囲を補正し,引用文献1乃至6とのかかる相違を明瞭に致しました。以下にその理由を述べさせていただきます。

・・・(判決注:2~10頁にわたって詳細な理由が展開されている。)

以上のとおり,本願発明は,引用文献1乃至6に記載の発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができるものではなく,特許法第29条第2項の規定には該当しないものと思料いたします。

よって,審査官殿におかれましては,上記意見を配慮の上,本願を再度ご審査いただき,本願に対して何とぞ特許査定を賜りますよう懇請する次第であります。」

(イ) 手続補正書(甲4)の内容

請求項の数は26から12に減少しているものの,基本的にはすべての請求項にわたって何らかの補正がされており,補正前の請求項が先行の請求項を引用している場合に,これに数字上対応する補正後の請求項が引用する先行の請求項を増加させたり(これはいわゆる増項補正に当たることが多い。),引用する先行の請求項を変更したり(これは特許請求の範囲を変更したり,新規事項を含みやすくする危険が高い。)するなど,その対応関係が必ずしも明瞭であるとはいえない部分がある。そして,発明の詳細な説明は,【0009】,【0012】,【0013】,【0014】,【0024】について,補正がされている。

なお,補正したとされる箇所に下線が施されているが,補正した箇所はそれにとどまらず,随所に散見される。

エ 本件出願に対する拒絶査定

A審査官は,平成16年9月14日,本件出願について,拒絶査定をした(甲28)。その内容は,次のとおりである。

「この出願については,平成16年2月17日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって,拒絶をすべきものである。

なお,意見書及び手続補正書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。

備考:

請求項1について

出願人は,意見書において,引用文献1について,(1)『引用文献1の回転位置検出装置が備えている発光体は,図1および図3において,リング状に形成されて平行光を発する構成のみが開示されています』,(2)『回転軸の先端部に相当の面積を有する受光板を配置するためのスペースを確保する必要があり』と主張し,更に,『(5)組み合せの困難性について』において,(3)『本願出願の回転位置検出装置は,1個の光発生器と湾曲窓からなる広角光発生器として機能する光源と,蝶形の光ブロック部材とを備えており,これらの構成は引用文献1乃至6のいずれにも開示されていない』,と主張している。

上記主張(1)乃至(3)について検討する。

(1)  について

引用文献4における『第2は本発明の一実施例を示し・・・光源11はスリット円板13上の多数のスリット14が配列されている部分全体に光を照射し,スリット円板13上の全てのスリット14を通過した光がマスク16上のスリット17を介して受光素子15により受光される。』(第1頁右欄第18行~第2頁左上欄第20行)及び『(効果)以上のように本発明によれば光源からスリット円板上のスリット配列部分全体に光を照射してそのスリット通過光を受光器の一定間隔で全周にわたって配置された複数の受光部で受光するので,受光器の出力信号がスリット円板上のスリットのビッチムラに影響されなくなり,速度検出精度が高くなる』(第2頁右欄第20行~同左下欄第6行)の記載と,第2図から,光源11がスリット円板13の中心,すなわち,長軸上に配置されているものと解することができるから,引用文献4に記載された長軸上の単一光源,本願『光ブロック部品』に相当する『スリット円板13』,長軸方向に離れて配置された本願『光センサー』に相当する『受光素子15』の配置構成を引用文献1に記載された発明に適用して,引用文献1に記載された発光体2を単一光源とすることは,当業者にとって格別な困難性はない。

(2)  について

本願請求項1に係る発明と比較した,上記主張する根拠が詳細に記載されておらず,よって,(2)の主張が不明である。

(3)  について

本願請求項1に係る『光源』が,湾曲窓からなる広角光発生器として機能するものとは,認められない。また,意見書の『(5)組み合わせ困難性について』には,引用文献1と引用文献4に記載された発明との組み合わせの困難性について何ら言及されておらず,また,組み合わせることによる格別な阻害要因もないことから,上記(3)の主張は妥当なものとして採用することはできない。

従って,上記拒絶理由通知書にて指摘した理由及び上記(1)乃至(3)の理由から,請求項1に係る発明は,引用文献1乃至6に記載された発明から,当業者にとって容易に想到しえたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお,他の請求項においても同様に同規定により特許を受けることができない。」

オ 原告による拒絶査定不服の審判請求

原告は,平成16年12月17日,廣江弁理士によって,拒絶査定に対する審判請求をした(甲29)。審判請求書(甲29)によれば,その内容は,次のとおりである。

原告は,拒絶査定の上記エ(1)ないし(3)記載の理由に対して,詳細な反論を展開した上,末尾に次のとおり述べている。

「本出願人は,本発明と引用文献1乃至6との相違をより明確にすることを目的として,本審判請求の日より30日以内に特許請求の範囲などを補正する手続補正書を提出する予定であります。本審判請求の理由については,この手続補正書提出の際に,詳しく述べる所存であります。」

カ 原告による補正書仮案の事前送付

廣江事務所の事務所員であるBは,平成17年1月13日,担当のA審査官に対し,次のようなファックス(甲22,乙7)を送信した。

「・・・下記の資料をご送付させていただきます。

それでは,明日担当弁理士の武川と,Bでお伺いいたします。・・・

1.手続補正書(請求範囲の補正)の素案

2.手続補正書(審判請求書の請求の理由)の素案

3.LED製品カタログ」

上記ファックスで送付された上記「1.手続補正書(請求範囲の補正)の素案」(甲22,乙7)の記載内容は,基本的に本件第1補正に係る手続補正書(甲5)と同旨である。また,上記「2.手続補正書(審判請求書の請求の理由)の素案」(乙7)の記載内容は,基本的に後出「ク」の平成17年1月20日付けの審判請求書「請求の理由」の変更(甲30,乙8)と同旨である。

上記「手続補正書(請求範囲の補正)の素案」(甲22,乙7)の【特許請求の範囲】の記載においては,訂正部分として下線を付して【請求項13】及び【請求項14】が付加して記載され(9頁9~14行),また,上記「手続補正書(審判請求書の請求の理由)の素案」(乙7)において,「3-1)補正の内容 今回の補正においては,請求項1,請求項3,請求項4,請求項5,請求項6,請求項8,請求項9,請求項10,請求項11,請求項12を補正しており,更に請求項1の従属項である請求項13,14を追加しております。」(4頁16~19行)と記載されていた。

キ A審査官による面接

廣江事務所の武川弁理士は,B事務所員を同伴して特許庁に赴き,平成17年1月14日午後2時から約1時間30分にわたって,上記ファックス送信された素案等を既に見ていたA審査官に面接をした。その際の面接内容を記録した「面接記録(出頭者用)」(甲21)には,次のとおり記載されている(記載のうち,file_5.jpg,file_6.jpg,・・・は,「a」,「b」,・・・に手書きで○が付加されていることを意味する。)。

file_7.jpgme AS ee eee eiucewrnn| iLEedanecdsmemmssontent £.Z0HH ( ) ee [emo ey (MRE: = OMMNLEBE TCHS.) ] mR = * > nea & RBI, 6, 11, 12, LAC TRAAPROBMEDS LOLHAR. X, HVEVRBH, WS HBLATHSMICONT, HAR BEBIC OTH, MRHI~ LAC ONT, MUTT, LEO LAL, 20 MICONTEEAR, (HOUR: D4 TAEHE CHS.) SRT, LOMRORTECHERIAHAMESR LAFOMAICLY, Lem a oe ee ee ee ee ae erク 原告による手続補正書(審判請求書の請求の理由の変更)の提出

原告は,平成17年1月20日,上述のファックスで仮案を送信しておいた手続補正書(審判請求書の請求の理由の変更。以下「審判請求書の理由の変更」という。甲30,乙8)を提出した。

審判請求書の理由の変更の記載内容は,次のとおりである。

「3.本件発明が特許されるべき理由

本出願人(原告)は,上記拒絶査定の内容を詳細に検討いたしました結果,本願発明は引用文献1乃至6に記載の発明とはその目的,構成,効果において顕著な相違を有し,進歩性を有するものと確信しております。上記認定は到底承服することができず,本審判を請求するに至ったものであります。

本出願人は,本願発明をより明確にすることを目的として,平成17年1月17日に手続補正書を提出して特許請求の範囲を補正しております。この補正後の本願発明について,以下に特許されるべき理由を述べます。

3-1)補正の内容

今回の補正においては,請求項1,請求項3,請求項4,請求項5,請求項6,請求項8,請求項9,請求項10,請求項11,請求項12を補正しており,更に請求項1の従属項である請求項13,14を追加しております。以下に,その詳細を述べます。」

ケ 審決の判断

これに対し,審決は,次のとおり理由を説示して,本件各補正を却下した(上記第2の4(1)に掲記)。

「本件補正は,特許請求の範囲の請求項の数を,本件補正前の12(平成16年8月9日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項の数)から,本件補正後の14に補正するものであり,請求項の数を増加するものである。

そして,この請求項の数の増加は,多数項引用形式で記載された一つの請求項を,引用請求項を減少させて独立形式の請求項とすることによるものではなく,また,構成要件が択一的なものとして記載された一つの請求項を,択一的な構成要件をそれぞれ限定して複数の請求項とすることによるものでもないから,本件補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第4項各号に規定する請求項の削除を目的とするもの,特許請求の範囲の減縮を目的とするもの,誤記の訂正を目的とするもの,明りょうでない記載の釈明を目的とするもののいずれにも該当しない。

したがって,本件補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり,同法第159条1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下しなければならないものである。」(2頁11~25行)

なお,審決がされるまでに,審査官又は審判官等から原告に対して,増項補正に問題があるなどの通知がされることはなかった。

(2)  審決のうち増項違反に係る判断部分の当否

ア 原告は,本件各補正において追加された請求項13及び14は,いずれも,請求項1を引用するとともに,請求項1に記載された発明特定事項を更に限定するものであって,その限定の仕方は,請求項1と同13との関係においても,請求項1と同14との関係においても,産業上の利用分野を変更するものではないことは明らかであり,また,解決しようとする課題を変更するものでもないことは明らかであるから,請求項13及び14は,旧特許法17条の2第4項2号によって許容されるところの特許請求の範囲の減縮を目的として補正された請求項に該当すると主張する。

イ そこで,検討するに,旧特許法17条の2第4項は,審判請求に伴って行われる場合における特許請求の範囲についてする補正は,同項1号ないし4号に掲げる事項を目的とするものに限ると規定しているもので,請求項を増加させる補正は,原則として,同項で補正の目的とし得る事項として規定された「請求項の削除」(1号),「特許請求の範囲の減縮」(2号),「誤記の訂正」(3号)及び「明りょうでない記載の釈明」(4号)のいずれにも該当しないものと解するのが相当である。

そして,同項2号は,「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」と規定しており,同括弧書きの文言によれば,2号において補正が認められる特許請求の範囲の減縮といえるためには,補正後の請求項が補正前の請求項に記載された発明を限定する関係にあること,並びに,補正前の請求項と補正後の請求項との間において,発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることを必要とするとしたものである。そうすると,この「限定する」ものであるかどうか,「同一である」かどうかは,いずれも,特許請求の範囲に記載された当該請求項について,その補正の前後を比較して判断すべきものであり,補正前の請求項と補正後の請求項とが対応したものとなっていることを当然の前提としているといえる。したがって,同号の規定は,請求項の発明特定事項を限定して,これを減縮補正することによって,当該請求項がそのままその補正後の請求項として維持されるという態様による補正を定めたものとみるのが相当であって,増項による補正は,補正後の各請求項の記載により特定された発明が,全体として,補正前の請求項の記載により特定される発明よりも限定されたものとなっているとしても,上記のような対応関係がない限り,同号にいう「特許請求の範囲の減縮」には該当しないことになる。

また,特許出願の審査は,請求項ごとに行われ,拒絶理由の通知も請求項ごとに記載されるものであるところ,審判請求に伴ってする補正につき,出願人の便宜と迅速,的確かつ公平な審査の実現等の調整という観点から,既にされた審査結果を有効に活用できる範囲内で補正を認めることとした旧特許法17条の2第4項の制度趣旨に照らすならば,1つの請求項を複数の請求項に分割するような態様による補正は,特段の事情がない限り,認められないとする上記の解釈は是認されるものといえる。

もっとも,①多数項引用形式で記載された一つの請求項を,引用請求項を減少させて独立形式の請求項とする場合や,②構成要件が択一的なものとして記載された一つの請求項を,その択一的な構成要件をそれぞれ限定して複数の請求項とする場合のように,補正前の請求項が実質的に複数の請求項を含むものであるときに,補正に際し,これを独立の請求項とすることにより,請求項の数が増加することになるとしても,それは,実質的に新たな請求項を追加するものとはいえず,実質的には,補正前の請求項と補正後の請求項とが対応したものとなっているということができるから,このような補正についてまで否定されるものではない。

ウ 以上の見解に基づいて,本件を検討することとする。

本件各補正のうち増項に係る部分は,いずれも,請求項の数を,補正前の12から補正後の14に補正するというものであり,実質的にみても,増項によって生じた請求項が補正前の請求項の従属項であるとしても,請求項の数を増加させるものであるこことに変わりはない。そして,この増加は,①多数項引用形式で記載された1つの請求項を,引用請求項を減少させて独立形式の請求項とする場合や,②構成要件が択一的なものとして記載された1つの請求項を,その択一的な構成要件をそれぞれ限定して複数の請求項とする場合でもない。

そして,本件各補正の増項に係る部分は,特許請求の範囲を全体として拡張するものではないものの,これを減縮するものでもないことは明らかであり,また,誤記の訂正であるということも,明りょうでない記載の釈明であるということも,困難であるから,旧特許法17条の2第4項2号ないし4号のいずれにも該当しないといわざるを得ない。

したがって,本件各補正のうち増項に係る部分は,旧特許法17条の2第4項の規定に違反するものであり,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項により却下される場合に該当し,これと同旨の審決の判断は,その限りにおいて誤りということはできない。

(3)  本件各補正を却下した審決の措置の当否

ア 審決が判断した本件各補正のうち増項に係る部分については,上述のとおり誤りではないが,審決は,前記(1)で摘示したように,本件各補正のうち請求項13及び14を増項した部分の違法を指摘したのみで,原告のした本件各補正の全体を却下すべきものとした。このため,審決は,その余の請求項についてされた本件各補正の可否について何ら判断することなく,本件各補正前の請求項に基づいて実体判断をして,結局本願発明には進歩性が認められないとして,原告の審判請求を不成立としたものである。

しかしながら,審決の上記措置は是認することができない。その理由は,次に判示するとおりである。

イ 確かに,補正は,複数の請求項にまたがり多数の補正事項を含んでいるとしても,基本的には,補正全体が不可分一体性を有するものとし,出願人のした補正がその一部についてでも補正の要件を満たさないときは,その余の補正について審理判断することなく,全体としてこれを却下することができるとされることは,被告の主張するとおりであるが,本件手続においては,上記(1)に認定したところに基づいて検討すると,以下のとおりである。

(ア) まず,補正事項の不可分一体性は,補正事項がその内容自体から相互に関連し合って分離することが不可能又は困難である場合があること,出願人が補正事項の全体又は枢要な事項を是認されるのでない限りその補正の目的を達しない場合があるなど,多くの場合にこれを肯定せざるを得ないが,その反面,補正事項の中には,他の補正事項と容易に分離することが可能である場合もあるところ,増項補正は,他の補正事項と,違反事由として目的・要件等が明らかに異なり,截然と区別することが比較的容易である場合もある。本件各補正における増項も,その内容においても,増項補正がされた時期においても,他の補正事項と容易に区別することができることが認められる。

(イ) 原告は,本件各補正において初めて増項補正を試みたものであり,増項補正の可否は,それまでの手続で全く問題にされていなかった(もっとも,審査時補正においても,上記(1)で認定説示したように,一部の請求項について増項補正ともみることのできる補正がされているが,審査官は,基本的に請求項1についてのみ判断したため,増項補正であることを何ら問題視していない。)。

しかるに,審判官は,原告がした本件各補正について,拒絶理由通知書等により増項違反を指摘することなく,審決において,増項違反を重視し,これのみを理由に,本件各補正を却下したものである。

(ウ) 弁論の全趣旨によれば,審判官が増項違反を本件各補正却下の唯一の理由とすることを何らかの機会に何らかの方法で提示又は示唆していさえすれば,本件各補正のうち増項に係る請求項が大きな危険をおかして行うべきものであるとは考えにくいことを考えると,原告は,審決の前にこれを撤回する蓋然性は高かったものと推察される。

しかも,請求項13,14の増項については,審判請求を行った後の平成17年1月13日にA審査官にファクス送信された「手続補正書(請求範囲の補正)の素案」に記載され,また,同時にファクス送信された「手続補正書(審判請求書の請求の理由)の素案」には「更に請求項1の従属項である請求項13,14を追加しております。」とも記載されており,A審査官は,これらの書類を見ていたにもかかわらず,面接記録によれば,A審査官は,増項の点をとがめることなく,請求項1,5,11,12,14について,武川弁理士らに対し,新規事項ありとの拒絶理由のあることは伝えているが,増項違反に何ら言及せず,かえって,面接記録の「面接内容」の「c.」欄の「提示された補正案等」及び「満たしている」との部分に丸印を付けて,全体として「c.提示された補正案等は,補正の要件を満たしている旨の心証を得た。」との記載を完成させており,そうすると,原告としては,本件第1補正については,特に言及された点以外については問題がないとの認識を示されたと判断する状況であったと認めるのが相当である。

(エ) A審査官が原告代理人との面接の際に伝えた,増項に係る「請求項14についての新規事項」が具体的にいかなるものであるかは明らかではないものの,同じく増項に係る請求項13に新規事項があるとの指摘がされなかったことを考えると,A審査官が原告代理人との面接の際に伝えた請求項14についての違反事由に,増項違反を含んではいないことが認められ,これらの経緯等によれば,A審査官は,増項の点を全く問題視しておらず,むしろ容認していたものと認めるのが相当である。

(オ) A審査官が原告代理人に渡した上記「面接記録(出頭者用)」には,「審査官は,この面接の終了後に新事実又は新証拠を発見した等の理由により,上記面接結果と異なった判断や処分をすることとなった場合は,その旨を拒絶理由通知書又は電話等によって通知する。」との記載があったにもかかわらず,審査官又は審判官等から原告に対して増項補正に問題があるなどの通知は全くされないままで,審決がされたものであった。

ウ 本件における以上のような手続の経緯を考えると,担当審査官が,前置審査という最終局面まで増項以外の補正事項について新規事項を理由に補正が却下されることのあることを説明しながら,増項補正の点は全く問題視せず,しかも面接において,面接結果と異なった判断や処分をすることとなった場合はその旨を拒絶理由通知書又は電話等によって通知すると告げていたなどという本件の状況の下で,審決において,増項補正の違法のみを理由に補正請求全体を却下し,これによって,補正後の請求項に何ら言及することなく補正前の請求項に基づいて判断をしたことは,あらかじめ増項補正の点についてその違法性を拒絶理由通知等によって認識させ検討撤回等の機会を付与すべきであったか,又は,そのような機会を付与しない場合には増項補正を判断し,併せて,その余の補正事項を判断すべきであったものというべきであり,そのいずれもしなかったことには違法があるものといわざるを得ず,審決は,違法として取消しを免れない。

エ なお,参考のために,以下の点を付言しておきたい。

本件の上記手続の経緯に照らすならば,審決が増項違反のみを理由に本件各補正を却下した措置について,原告は,実質的にみても,防御・反論等を何らしていないものであり,増項補正を撤回することを含め,防御する機会を与えられていないものと認められる。

被告が主張する増項補正が許される例外的な場合(上記(2)イ①②の場合)は,増項補正が許される典型的な場合を例示したにすぎず,法解釈上は,それに限られるわけではない。原告がした本件の増項補正は,補正前の特定の請求項にいわゆる従属項を追加したものというのであるから,少なくとも従前の特許請求の範囲を全体として拡張するものではないということができ,特許請求の範囲の減縮には文言上該当しないとしても,法解釈論として成り立ち得ない見解といえず,明らかに違法な補正であると断じ得るものでもなく,本件のような従属項を追加する補正が一般的に違法であるとする裁判例がないではないが,少なくとも,実務上,周知確立していた取扱いであるとは認められない。現に,A審査官は,本件の増項補正が問題であるという認識がなかったものと認められることは,上記指摘のとおりである。

したがって,原告がした本件の増項補正は,権利範囲の拡張や変更を伴わない補正であり,明らかに違法な補正であるとか,到底却下を免れない暴挙ともいうべき補正であるなどということはできず,原告ないしその担当代理人が本件の手続において増項補正が許容されるものと推断したとしても,一概に不合理なものと断ずることはできない。

なお,本件において,当裁判所は,増項補正の違反を含む補正の場合に,常に増項に関わらない補正事項についてまで判断すべきであるという見解を示しているのではない。本件の事実関係の下においては,審決が請求項1~12について新規事項の存否について判断しないで,増項補正に係る部分が違法であると判断しただけで,本件各補正の全体を却下するとした措置の違法を指摘したにとどまるものである。被告の考え方によると,出願人が増項補正をしないときは,審判官は,その余の補正事項である新規事項の有無等について審理判断しなければならないが,出願人において増項補正といういわば敵失をしたことによって,上記新規事項の有無等の審理判断をしなければならないという負担を免れるという僥倖を与えられ,出願人は新規事項の有無等の審理判断を受けるという機会を奪われることになるが,本件において,そのような不公平を容認するような事情は見当たらない。

したがって,本件が審判手続に戻った場合は,被告(審判官)が原告(請求人)に対し,本件各補正のうち増項補正部分を維持するか否かの検討を求めることとなるが,原告が増項補正部分の撤回をしないときは,原則に戻って,増項補正の違法のみを理由に本件各補正の全体を却下することは許されるものというべきである(この場合,原告は,審決取消訴訟で増項補正の適法性を主張することとなる。)。

オ 以上のとおりであるから,原告の取消事由1ないし3の主張は,審決の上記措置の違法をいうものと解する限りにおいて,理由があるというべきである。

2  結論

以上によれば,本件各補正のうち増項補正以外の点について判断しなかった審決の措置の違法をいう原告主張の取消事由理由は理由があり,原告の請求は認容されるべきである。

(裁判長裁判官 塚原朋一 裁判官 本多知成 裁判官 田中孝一)

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