知財高等裁判所 平成19年(行ケ)10384号 判決 2008年4月28日
原告
株式会社大一商会
訴訟代理人弁護士
大脇保彦
同
鷲見弘
同
相羽洋一
同
谷口優
同
原田彰好
同
宮本増
同
川口一幸
同
成瀬玲
被告
特許庁長官 肥塚雅博
指定代理人
川島陵司
同
伊藤陽
同
吉川康史
同
高木彰
同
内山進
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2003-1299号事件について平成19年9月27日にした審決を取消す。
第2事案の概要
本件は,原告が名称を「遊技機」(補正前の名称は「パチンコ機の払い出し制御装置」)とする発明につき特許出願(本願)したところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。
争点は,本願が,特開平1-308581号公報(発明の名称「パチンコ玉の払出装置」,出願人株式会社三共,公開日平成元年12月13日。以下この文献を「引用文献」といい,そこに記載された発明を「引用発明1」という。甲1)との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),である。
第3当事者の主張
1 請求原因
(1) 特許庁における手続の経緯
原告は,平成5年8月19日,名称を「パチンコ機の払い出し制御装置」とする発明につき特許出願(特願平5-205236号,請求項の数1,甲11。公開公報〔特開平7-51455〕は甲8)をし,平成12年8月8日に発明の名称を「遊技機」とし特許請求の範囲も変更する(請求項の数3)等を内容とする手続補正(甲12)をしたが,平成14年12月16日付けで拒絶査定を受けたので,平成15年1月22日,これに対する不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2003-1299号事件として審理し,その中で原告は平成19年2月9日付けで,特許請求の範囲の変更等を内容とする手続補正(以下「本件補正」という。請求項の数3。甲9)をしたが,特許庁は,平成19年9月27日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成19年10月16日原告に送達された。
(2) 発明の内容
本件補正後の請求項の数は前記のとおり3であるが,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の内容は,以下のとおりである。
「【請求項1】球払い出しユニットを有する払い出し制御装置を備えた遊技機であって,
前記球払い出しユニットは,内部に複数列の球通路が構成されるユニットベースと,そのユニットベース内において水平方向の軸線回りに回転可能に組み付けられかつ前記複数列の球通路の球をそれぞれ逐一受取って放出する球送り部材と,その球送り部材を回転駆動する出力軸を有する払い出しモータと,を備え,
前記ユニットベースは,前記複数列の球通路を区画形成する複数の構成部材が分離可能に結合されて構成され,
前記ユニットベースの複数の構成部材のうち,1つの構成部材には,前記払い出しモータの出力軸が貫挿される金属製の放熱板が当該構成部材と前記払い出しモータとに当接挟持された状態で前記払い出しモータが取り付けられ,
しかも,前記ユニットベースは,透明合成樹脂材によって構成される一方,前記球送り部材は,不透明合成樹脂材によって形成されていることを特徴とする遊技機。」
(3) 審決の内容
ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,本願発明は前記引用発明1及び周知・慣用の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許を受けることができない,というものである。
因みに,審決が周知・慣用技術の例として掲げた文献は,次のとおりである(以下順に,「刊行物2」ないし「刊行物7」という。)
甲2:実願昭57-143450号(実開昭59-50557号)のマイクロフイルム(考案の名称「回転電機の固定子枠」,出願人東京芝浦電気株式会社,公開日昭和59年4月3日)
甲3:実願昭62-8456号(実開昭63-117262号)のマイクロフイルム(考案の名称「回転電機の支持装置」,出願人三菱電機株式会社,公開日昭和63年7月28日)
甲4:実願昭61-34563号(実開昭62-149243号)のマイクロフィルム(考案の名称「樹脂製フレームにおけるモータ放熱構造」,出願人沖電気工業株式会社,公開日昭和62年9月21日)
甲5:特開平2-16400号公報(発明の名称「送風機」,出願人三菱電機株式会社,公開日平成2年1月19日)
甲6:実願昭60-128441号(実開昭62-36779号)のマイクロフィルム(考案の名称「パチンコ機における入賞装置」,出願人京楽産業株式会社,公開日昭和62年3月4日)
甲7:実願昭61-164848号(実開昭63-71077号)のマイクロフィルム(考案の名称「パチンコ機の入賞装置」,出願人株式会社大一商会〔原告〕,公開日昭和63年5月12日)
イ なお,審決は,上記判断をするに当たり,引用発明1の内容を以下のとおり認定したうえ,本願発明と引用発明1との一致点及び相違点を次のとおりとした。
<引用発明1の内容>
「景品玉払出装置29を有する景品玉を払い出すための各種の機構を備えたパチンコ遊技機1であって,
前記景品玉払出装置29は,内部に供給通路34a,34bが構成される取付板30・通路区画板31・通路カバー板32と,その取付板30・通路区画板31・通路カバー板32内において水平方向の軸線回りに回転可能に組み付けられかつ前記供給通路34a,34bの景品玉をそれぞれ逐一受取って放出するスプロケット43a,43bと,そのスプロケット43a,43bを回転駆動する回転軸42を有するステッピングモータ41と,を備え,
前記取付板30・通路区画板31・通路カバー板32は,前記供給通路34a,34bを区画形成する複数の構成部材が分離可能に結合されて構成され,
前記取付板30・通路区画板31・通路カバー板32の複数の部材のうち,通路カバー板32には,モータ取付板46が当該通路カバー板32とステッピングモータ41とに当接挟持された状態で前記ステッピングモータ41が取り付けられている,パチンコ遊技機1。」
<一致点>
いずれも,「球払い出しユニットを有する払い出し制御装置を備えた遊技機であって,
前記球払い出しユニットは,内部に複数列の球通路が構成されるユニットベースと,そのユニットベース内において水平方向の軸線回りに回転可能に組み付けられかつ前記複数列の球通路の球をそれぞれ逐一受取って放出する球送り部材と,その球送り部材を回転駆動する出力軸を有する払い出しモータと,を備え,
前記ユニットベースは,前記複数列の球通路を区画形成する複数の構成部材が分離可能に結合されて構成され,
前記ユニットベースの複数の構成部材のうち,1つの構成部材には,介在部材が当該構成部材と前記払い出しモータとに当接挟持された状態で前記払い出しモータが取り付けられている,遊技機。」であること。
<相違点>
A:介在部材が,本願発明では払い出しモータの出力軸が貫挿される金属製の放熱板であるのに対し,引用発明1ではモータ取付板である点。
B:本願発明では,ユニットベースは,透明合成樹脂材によって構成される一方,球送り部材は,不透明合成樹脂材によって形成されているのに対し,引用発明1では,それらの材料が明らかでない点。
(4) 審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下に述べるような誤りがあるので,審決は違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(引用発明1の認定・一致点認定・相違点Aについての判断の各誤り)
(ア) 審決は,引用発明1について,「モータ取付板46が当該通路カバー板32とステッピングモータ41とに当接挟持された状態で前記ステッピングモータ41が取り付けられている」と認定した(4頁下6行~下4行)が,誤りである。
引用文献(甲1)には,「…通路カバー板32の後面側には,…ステッピングモータ41がモータ取付板46を介して取り付けられている」(5頁左上欄12行~14行)との記載があるが,その一方で「…モータ取付板46の上下に穿設された取付長穴47a,47b(47bは,図示せず)を通路カバー板32に形成したモータ用取付穴48a,48bに対応させて図示しないビスで螺着することにより取り付けられる」(5頁左上欄15行~19行)との記載があることから分かるとおり,モータ取付板46と通路カバー板32との取付け方法の記載がされているのにステッピングモータ41とモータ取付板46との取付けについては,甲1には記載がない。それでも甲1の構造上は,ステッピングモータ41と通路カバー板32とは固定されていなければならないから,ステッピングモータ41とモータ取付板46とは当然固定されていなければならない。その固定方法について明細書に記載がないことからすると,甲1では,少なくともステッピングモータ41とモータ取付板46とは固着されている構成であることが前提となっているものである。
すなわち,モータ取付板46は,ステッピングモータ41と固着されているとともに,通路カバー板32と螺着固定されているのであって,モータ取付板46は,ステッピングモータ41を通路カバー板32に取付け固定するために不可欠の部材といえる。
したがって,甲1では,通路カバー板32には,モータ取付板46が当該通路カバー板32とステッピングモータ41とを固着する状態で前記ステッピングモータ41が取り付けられているのであって,審決が認定したように,単に「通路カバー板32には,モータ取付板46が当該通路カバー板32とステッピングモータ41とに当接挟持された状態で前記ステッピングモータ41が取り付けられている」のではない。審決の引用発明1の認定は誤りである。
(イ) また審決は,引用発明1について上記認定の上,引用発明1の「モータ取付板46」と本願発明の「放熱板」とが「介在部材」において共通する(9頁2行~4行)としてこれを一致点と認定したが,これも誤りである。
甲1のモータ取付板46は,上記(ア)のとおり,ステッピングモータ41に固着されてステッピングモータ41を通路カバー板32に取付ける作用効果を持つ不可欠の部材であり,「接続部材」ともいうべきものである。
これに対し本願発明の放熱板は,本件補正後の明細書(甲9,11)の請求項1に「金属製の放熱板が当該構成部材と前記払い出しモータとに当接挟持された状態で前記払い出しモータが取り付けられ,」と記載され,発明の詳細な説明に「…払い出しモータ25とカバー板23との間に金属製の放熱板68が挟み込まれた状態で放熱板68とともに取付けられ」(段落【0045】)と記載され,その図7,8からも明らかなとおり,払い出しモータ25とカバー板23とは,その間に放熱板68を挟み付ける状態で螺着されることが示されており,放熱板は払い出しモータと当該構成部材との間に単に介在するだけでこれらを固定する機能を有せず,両者を固定することと無関係の部材である。
これに対して引用発明1のモータ取付板46は,ステッピングモータ41を通路カバー板32に取り付けるために不可欠であることが明白である。
したがって,引用発明1の「モータ取付板46」と本願発明の「放熱板」とを比較すると,「介在部材」において共通するものとはいえないから,審決の認定は誤りである。
(ウ) また審決は,本願発明と引用発明1との一致点として「前記ユニットベースの複数の構成部材のうち,1つの構成部材には,介在部材が当該構成部材と前記払い出しモータとに当接挟持された状態で前記払い出しモータが取り付けられている」(9頁15行~17行)と認定した。
しかし,甲1の「モータ取付板46」は,ステッピングモータ41と通路カバー板32との間に単に介在する部材ではなく,ステッピングモータ41に固着されてステッピングモータ41を通路カバー板32に取付ける機能を持った不可欠の部材であって,上記(イ)のとおり接続部材ともいうべきものであり,甲1については「接続部材が当該構成部材と前記払い出しモータとを固定する状態で前記払い出しモータが取り付けられている」と表現すべきである。
これに対し本願発明の「放熱板」は,払い出しモータと当該構成部材との間に単に介在するだけで,払い出しモータの放熱の作用効果は有するものの,両者を固定する作用効果を有さず,甲1の「モータ取付板46」とは異なり,両者を固定することとは無関係の構成部材であるから,「介在部材が当該構成部材と前記払い出しモータとに当接挟持された状態で前記払い出しモータが取り付けられている」といって差し支えない。
したがって,両者は一致しておらず,これを一致点として認定した審決は誤りである。
(エ) また審決は,本願発明と引用発明1との相違点Aとして「介在部材が,本願発明では払い出しモータの出力軸が貫挿される金属製の放熱板であるのに対し,引用発明1ではモータ取付板である点」(9頁19行~20行)と認定した。
しかし,引用発明1の「モータ取付板」は本願発明では「モータ」のフランジ部に該当するものであるから,本願発明の金属製の放熱板に当る介在部材は引用発明1には存在しないというべきであって,相違点Aとしては「本願発明におけるモータの出力軸が貫挿され,モータとカバー板とに当接挟持された金属製の放熱板が,引用発明にはない点」と認定すべきである。審決の相違点Aの認定は誤りである。
(オ)a その上で審決は,相違点Aについての判断として,刊行物2,3に示された周知慣用技術1(「金属製の放熱板を介在させてモータを取り付ける技術」〔審決9頁31行〕),及び,刊行物4,5に示された周知慣用技術(「モータ出力軸の直径方向の両側まで延伸させた金属製の放熱板を介してモータを取り付ける技術」〔審決9頁32行~33行〕)に照らし,「周知慣用技術1を引用発明1のモータ取付手段に適用する際に,放熱板の構成をモータの出力軸が貫挿されるような構成とし,相違点(A)に係る構成とすることは当業者が容易になし得ることである」(10頁3行~5行)と判断した。
b しかし,本願発明と刊行物2~5による発明とは,根本的に異なる技術的思想に基づくものであるため,その周知慣用技術を引用発明1に適用しただけでは本願発明を容易にすることはできない。すなわち,刊行物2~5に示されるモータの取付けに関する放熱板の構成について周知慣用技術であること自体について原告はこれを争うものではないが,刊行物2~5に示された技術は,いずれもモータ自体の過熱を予防する目的の技術である。
c 例えば甲2では,「回転電機の冷却に関して伝熱特性が悪くなる等の問題があった」(明細書3頁7行~9行)と指摘したうえ,考案の目的として「本考案の目的はこの様な問題を除去する為に成された」(明細書3頁11行~12行)としている。
また甲3は「冷却用放熱フィン」(明細書3頁8行)の構成が考案の目的であるがこの「冷却用放熱フィン」は電動機自体を冷却しようとするものであることは明白である。
甲4は「駆動用モータの放熱構造」(明細書2頁13行~14行)と記載され,駆動用モータの過熱を防止する目的ないし効果が明白である。
甲5は「この発明は,送風機,特にそのモータの冷却装置に関するものである」(1頁右欄11行~12行)と記載があり,モータを冷却するものであることは明白である。
d これに対して,本願発明における放熱板は,本件補正後の明細書(甲9,11)において「払い出し制御装置の過熱を防止することを課題とするものである。」(段落【0003】)とし,「払い出しモータの作動時に異常発熱しても払い出しモータの熱を放熱板によって放散させて,球払い出しユニットのユニットベースおよび球送り部材への熱の伝導を防止することができる。このため,透明合成樹脂材より構成されたユニットベースの複数の構成部材や,不透明合成樹脂材により構成された球送り部材が過熱によって熱変形して球送り動作が阻害されたり不能となる不具合を解消することができ,球の払い出しが実行できない状態となる不具合を解消することができる。」(段落【0006】)と記載していることから明らかなとおり,主として,過熱により変形する樹脂製などの駆動対象へのモータからの熱流束密度を低減することを目的としている。
そのため,本願発明では,放熱部材と駆動対象との接触面積を大きくして熱流束密度を低減することにより駆動対象の熱変形を防ぐことができるという新たな知見に基づき,駆動対象とモータとに当接挟持された状態で金属製の放熱板を配置することとしたものである。モータから駆動対象に伝わる総熱量が増加する可能性があるにもかかわらず,駆動対象との接触面積を大きくして熱流束密度を低減し,駆動対象の熱変形を防ぐという知見は新しいものであって,上記の周知慣用技術にはないものである。
e したがって,本願発明と刊行物2~5に記載された発明とは,その目的も構成も異なるものであり,本願発明と審決が指摘した周知慣用技術とは,根本的に異なる技術的思想に基づくものである。これら周知技術に基づき審決が相違点Aに係る構成につき容易想到とした判断は誤っている。
(カ) また,モータに放熱板を取付けることにより放熱効果を上げられることは周知の技術であるとしても,本願発明は,合成樹脂材によって構成されるユニットベースの1つの構成部材に,放熱板が当該構成部材と払い出しモータとに当接挟持される状態で,払い出しモータが取付けられる構成をとることでモータの熱(特に停止による過熱時の熱)が合成樹脂材のユニットベースに強く伝わらないようにするという効果があり,放熱板とユニットベースの構成部材とが当接することが熱流束密度が小さくするという作用に基づくことを説明しただけであり,放熱板の放熱効果の存在を否定するものではない。ユニットベースという狭いケース内で,熱源たるモータから大きく離すのではなく,放熱材を耐熱性に問題のある合成樹脂部材であるユニットベースに当接させる構成を取ることにより,モータの熱のユニットベースへの伝導を少なくすることができるというのが本願発明の技術思想であり,単にモータに放熱板を取り付けて放熱するという周知技術からは容易に想到しうるものではなく,審決の判断は誤りである。
イ 取消事由2(相違点Bについての認定・判断の誤り)
(ア) 審決は,相違点Bについて,前記甲6,7によれば遊技機の構成部材を透明合成樹脂材及び不透明合成樹脂材によって構成・形成することは周知・慣用の技術であるとして,これを引用発明1のユニットベース及び球送り部材に適用し,相違点Bに係る構成とすることは当業者が容易になし得ると判断した(10頁7行~14行)が,誤りである。
(イ) 刊行物6,7において,透明合成樹脂材と不透明合成樹脂材を選択しているのは,装飾目的のためであって,本願発明のように検査・確認目的のためではない。本願発明の課題は,払い出し制御装置による遊技球の払い出しが異常停止した場合に,その原因が電気的なものか機械的なものなのかがすぐに判断できない状態において,球噛みが発生しているかどうか,また発生している時の球噛みの状況を容易に検査・確認できるようにすることにある。その目的を達成するため,ユニットベースを透明合成樹脂材とすることで,外部からユニットベースの内部を視認可能とし,ユニットベース内に誘導された遊技球の状態をを容易に視認できることとし,さらにユニットベース内部に取り付けられる球送り部材を不透明合成樹脂材とすることで,ユニットベース内部での遊技球と球送り部材との関係が一見しただけで把握できることを可能としたものである。
(ウ) このように,本願発明と刊行物6,7に記載された発明とでは,その目的が異なるにかかわらず,その技術を遊技機の構成部材で共通する引用発明1のユニットベース及び球送り部材に適用し,相違点Bに係る構成とすることは当業者が容易になし得ることであると判断した審決は誤りである。
2 請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論
審決の認定判断に誤りなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1に対し
ア 審決が甲1に示されていると認定した技術事項は,通路カバー板32にステッピングモータ41を取付け固定する具体的な手段・方法に関する技術ではなく,「通路カバー板32にステッピングモータ41が取り付けられた場合における,モータ取付板46についての通路カバー板32及びステッピングモータ41との状態」を認定したものである。それは,甲1の図面,特に「景品玉払出装置の分解斜視図である第2図」と「景品玉払出装置の縦断面図である第3図」には,「通路カバー板32に,ステッピングモータ41が取り付けられ」た場合においては「モータ取付板46が通路カバー板32とステッピングモータ41との間に当接して挟まれた状態」で景品玉払出装置が組み立てられている技術事項が明らかに示されていることによるものである。そうすると,甲1には,「モータ取付板46が通路カバー板32とステッピングモータ41とに当接挟持された状態で,通路カバー板32にはステッピングモータ41が取り付けられ」の技術事項が示されているといえる。
したがって,審決において,甲1には「通路カバー板32には,モータ取付板46が当該通路カバー板32とステッピングモータ41とに当接挟持された状態で前記ステッピングモータ41が取り付けられている」(4頁下6行~下4行)と認定したことに誤りはない。
イ また,引用発明1の「モータ取付板46」と本願発明の「放熱板」とを比較すると,前者は「通路カバー板32とステッピングモータ41とに当接挟持され」るものであり,後者は「1つの構成部材と払い出しモータとに当接挟持され」たものであり,引用発明1の「通路カバー板32」及び「ステッピングモータ41」は本願発明の「1つの構成部材」及び「払い出しモータ」にそれぞれ相当するから,両者は「1つの構成部材と払い出しモータとに挟持された状態」にあることにおいて共通する。そうすると,両者は「1つの構成部材と払い出しモータとの間に挟まって存在する」のであるから,引用発明1における「モータ取付板46」と本願発明の「放熱板」とは「介在部材」において共通する。
したがって,審決が「引用発明1の『モータ取付板46』と本願発明の『放熱板』とを比較すると,『介在部材』において共通する。」(9頁2行~4行)と認定したことに誤りはない。
なお,本願の特許請求の範囲において「放熱板」が「払い出しモータと構成部材とを固定することと無関係である」とする技術的限定はされていないから,原告が本願発明の「放熱板」は,上記両者を固定する機能を有せず,両者を固定することと無関係の部材であるとの主張は,そもそも特許請求の範囲の記載に基づく主張ではない。
ウ 審決が甲1には「通路カバー板32には,モータ取付板46が当該通路カバー板32とステッピングモータ41とに当接挟持された状態で前記ステッピングモータ41が取り付けられている」との技術事項が記載されていると認定したこと,及び「引用発明1の『モータ取付板46』と本願発明の『放熱板』とを比較すると『介在部材』において共通する」と認定したことに,それぞれ誤りはないことは上記のとおりである。
そうすると,審決が一致点として「前記ユニットベースの複数の構成部材のうち,1つの構成部材には,介在部材が当該構成部材と前記払い出しモータとに当接挟持された状態で前記払い出しモータが取り付けられている」(審決9頁15行~17行)ことを含めて認定した点に誤りはない。
エ 上記のとおり,審決が「引用発明1の『モータ取付板46』と本願発明の『放熱板』とを比較すると,『介在部材』において共通する。」と認定したことに誤りはない。したがって,審決が相違点Aとして,「介在部材が,本願発明では払い出しモータの出力軸が貫挿される金属製の放熱板であるのに対し,引用発明1ではモータ取付板である点」と認定したことに誤りはない。
オ(ア) 原告は,審決が周知慣用技術から本願発明は容易想到であるとした判断は誤りであると主張するところ,放熱板については,本件補正後の明細書(甲9,11)には,以下の各記載がある。
「【作用】…払い出しモータの動作において,同払い出しモータが過熱すると,その熱が前記放熱板に伝導されて放熱板を通じて放散する。」(段落【0005】)
「【発明の効果】この発明によれば,払い出しモータの作動時に異常発熱しても払い出しモータの熱を放熱板によって放散させて,球払い出しユニットのユニットベースおよび球送り部材への熱の伝導を防止することができる。このため,透明合成樹脂材より構成されたユニットベースの複数の構成部材や,不透明合成樹脂材により構成された球送り部材が過熱によって熱変形して球送り動作が阻害されたり不能となる不具合を解消することができ,球の払い出しが実行できない状態となる不具合を解消することができる。また,払い出しモータ自体の過熱による払い出しモータの損傷を防止することができる。」(段落【0006】)
「払い出しモータ25が球噛み等の原因によって過熱したときには払い出しモータ25の熱が放熱板68を通じて放散されてユニットベース21への熱の伝導が防止される。」(段落【0047】)
「このため,球払い出しユニット20の払い出しモータ25が球噛み等の原因によって異常発熱しても払い出しモータ25の熱を放熱板68によってユニットカバー76内に放散させ,さらにユニットカバー76内から放熱孔76gを通じて外気中に放散させてユニットベース21へおよび球送り部材27への熱の伝導を防止することができ,ユニットベース21が過熱によって熱変形する不具合や,払い出しモータ25の出力軸25aへの球送り部材27の固定状態が出力軸25aの過熱によって不正化したり,球送り部材27の取付け部に熱膨張によるガタツキが生じて球送り動作が阻害されたり不能となる不具合を解消することができる。」(段落【0110】)
(イ) これらの記載によれば,放熱板68は,払い出しモータの熱をユニットカバー76内に放散させるためのものであって,その熱を放散させることにより,払い出しモータ自体の過熱による払い出しモータの損傷を防止,及び球払い出しユニットのユニットベースおよび球送り部材への熱の伝導を防止するものであることは明らかである。
そうすると,本願発明における放熱板は,主として,過熱により変形する樹脂製などの駆動対象への,モータからの熱流束密度を低減することを目的とし,本願発明では放熱部材と駆動対象との接触面積を大きくして熱流束密度を低減する旨の原告の主張はそもそも明細書の記載に基づかないものである。
そして,金属製の放熱板を介在させてモータを取り付ける技術は,例えば,刊行物2~5のように周知・慣用の技術であって,本願発明と当該周知・慣用の技術とは異なる技術的思想に基づくものではなく,また本願発明と当該周知・慣用の技術との間に目的及び構成において差異は認められない。
なお,仮に上記原告主張の,明細書に記載されていない「放熱部材と駆動対象との接触面積を大きくしてモータからの熱流束密度を低減する」との目的が,本願発明の構造から当然に導き出されるものであるとすれば,放熱板を介在させた点で本願発明と共通する刊行物2~5を引用発明1にモータ冷却のため適用した場合には目的効果は必然的に生じるものと認められ,いずれにしろ審決の判断に影響を及ぼすものではない。
以上のように,金属製の放熱板を介在させてモータを取り付ける技術は周知・慣用の技術であるから,引用発明1に周知・慣用の技術を適用する,即ち引用発明1のモータと通路カバー板とに放熱板を挟持させ,相違点Aに係る本願発明の構成とすることは当業者であれば容易に想到し得たことである。
したがって,審決が「周知慣用技術1を引用発明1のモータ取付手段に適用する際に,放熱板の構成をモータの出力軸が貫挿されるような構成とし,相違点(A)に係る構成とすることは当業者が容易になし得ることである。」とした判断(10頁3行~5行)に誤りはない。
(2) 取消事由2に対し
ア 前記甲7には,以下のとおり本願発明と同様に透明合成樹脂により成形された部材を通して視認・確認できる技術が記載されているから,前記甲6,7に示された周知・慣用の技術と本願発明とは異なる技術的思想に基づくものではなく,原告の主張は理由がない。
イ 甲7には以下の事項が記載されている。
①「さて,本実施例は…入賞装置3であって,その本体4には開閉扉用開口部6の下方に透視窓部7を形成するとともに,開閉扉62の左右に入賞口12およびランプ取付孔13を形成し,これらの前面には透明合成樹脂により透視窓部7の覆い部69と入賞口12への球受部78を有するランプカバー部70を一体成形した飾り板68を装着する構成としたものである。」(13頁15行~14頁4行)
②「さらに,特定の入賞口27を通過したパチンコ球は透視窓部7の存在により該透視窓部7中央より通し孔21への流下が視認でき特定の入賞の発生を確認することができる。また,特定の入賞口27の両側の支持片30により左右に振分けられて通常の入賞となるパチンコ球は,…該パチンコ球が受け皿部材16の左右のガイド片17,18に案内されて透視窓部7左右両側からの通過を該透視窓部より視認することができて通常入賞が確認できる。」(14頁18行~15頁8行)
③「さて,本考案は…入賞装置であって,その本体には開閉扉用開口部の下方に透視窓部を形成するとともに,開閉扉の左右に入賞口およびランプ取付孔を形成し,これらの前面には透明合成樹脂により透視窓部の覆い部と入賞口への球受部を有するランプカバー部を一体成形した飾り板を装着したものである。したがって,この飾り板を透明な合成樹脂により形成したことで遊技者は当該のパチンコ球が特定の入賞球であるか,通常の賞球であるかを確認することができるともに,…」(15頁19行~16頁10行)
ウ 上記によれば,甲7には,透視窓部7の覆い部69とランプカバー部70とを透明合成樹脂により一体成形した飾り板68であって,遊技者はパチンコ球を該透視窓部より視認することができて,当該のパチンコ球が特定の入賞球であるか,通常の賞球であるかを確認することができる,飾り板68が記載されているといえるから,原告の主張は理由がない。
第4当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2 取消事由1(引用発明1の認定・一致点の認定・相違点Aについての判断の各誤り)について
(1)ア 原告は,本願発明における「挟持」は互いに押さえ付けようとする両端の部材の間に存在することを意味する一方,引用発明1(甲1)ではステッピングモータ41とモータ取付板46とは固着した構成であることが前提となっているところ,審決が相違点Aについて判断するに当たり,引用発明1においてモータ取付板46が通路カバー板32とステッピングモータ41とに当接挟持された状態でステッピングモータ41が取り付けられていると認定したのは誤りであると主張する。
イ 本件補正後の明細書(甲9,11)には,以下の記載がある。
「【請求項1】球払い出しユニットを有する払い出し制御装置を備えた遊技機であって,
前記球払い出しユニットは,内部に複数列の球通路が構成されるユニットベースと,そのユニットベース内において水平方向の軸線回りに回転可能に組み付けられかつ前記複数列の球通路の球をそれぞれ逐一受取って放出する球送り部材と,その球送り部材を回転駆動する出力軸を有する払い出しモータと,を備え,
前記ユニットベースは,前記複数列の球通路を区画形成する複数の構成部材が分離可能に結合されて構成され,
前記ユニットベースの複数の構成部材のうち,1つの構成部材には,前記払い出しモータの出力軸が貫挿される金属製の放熱板が当該構成部材と前記払い出しモータとに当接挟持された状態で前記払い出しモータが取り付けられ,
しかも,前記ユニットベースは,透明合成樹脂材によって構成される一方,前記球送り部材は,不透明合成樹脂材によって形成されていることを特徴とする遊技機。」
「【作用】
請求項1に係る遊技機において,球払い出しユニットを構成する複数の構成部材のうち,1つの構成部材に,当該構成部材との間に放熱板を当接挟持した状態で取り付けられている払い出しモータの動作によって球送り部材が水平方向の軸線回りに回転駆動されると,その球送り部材によって複数列の球通路の球を逐一受取って放出する。払い出しモータの動作において,同払い出しモータが過熱すると,その熱が前記放熱板に伝導されて放熱板を通じて放散する。…」(段落【0005】)
「【発明の効果】
この発明によれば,払い出しモータの作動時に異常発熱しても払い出しモータの熱を放熱板によって放散させて,球払い出しユニットのユニットベースおよび球送り部材への熱の伝導を防止することができる。このため,透明合成樹脂材より構成されたユニットベースの複数の構成部材や,不透明合成樹脂材により構成された球送り部材が過熱によって熱変形して球送り動作が阻害されたり不能となる不具合を解消することができ,球の払い出しが実行できない状態となる不具合を解消することができる。…」(段落【0006】)
「カバー板23の後面(この発明のモータ取付部に相当する)には支軸26の後方に突合わせ状に隣設された出力軸25aを有するステッピングモータ型の払い出しモータ25が,この払い出しモータ25とカバー板23との間に金属製の放熱板68が挟み込まれた状態で放熱板68とともに取付けられ,放熱板68は本例ではアルミニルム板をほぼL形状に曲折した形状に形成されている。」(段落【0045】)
「放熱板68にはユニットベース21のカバー板23と払い出しモータ25との間に垂立状態で介座されて払い出しモータ25が後面に固定され,払い出しモータ25の出力軸25aが中心部に貫挿されたモータベース部68aと,このモータベース部68aの外端縁に直交状に連接されて後方へ突出され,払い出しモータ25の外方に近接して垂立された遮蔽部68bとが形成されている。モータベース部68aの下端には後記球送り数センサ71に接続されたリード線束が挿通保持されるリード線挿通部86が切欠き形成され,このリード線挿通部86はリード線の脱出が阻止されるようにその入口部の挿通幅を狭くした形状に形成されている。」(段落【0046】)
「払い出しモータ25が球噛み等の原因によって過熱したときには払い出しモータ25の熱が放熱板68を通じて放散されてユニットベース21への熱の伝導が防止される。また,球払い出しユニット20の組付け等に際し,球払い出しユニット20が誤って落下したときなどに放熱板68によって落下衝撃を受止めてユニットベース21および払い出しモータ25を落下衝撃から防護することができる。」(段落【0047】)
file_2.jpgABD pel te 28. 2 = 22 2 28 25a (a 296 - 729A ly 298 Na 71ウ 上記からすると,本願発明の放熱板68は,ユニットベース21と払い出しモータ25との間にあって,払い出しモータ25とカバー板23との間に挟み込まれた状態で取付けられており,払い出しモータ25の熱が放熱板68を通じて放散されてユニットベース21への熱の伝導が防止されること,球払い出しユニット20が誤って落下したときなどに放熱板68によって落下衝撃を受止めてユニットベース21および払い出しモータ25を落下衝撃から防護することができること,が記載されているといえる。
そうすると,本願発明における放熱板が「挟持」されていることの意味は,挟み込まれた状態にあることを意味し,固着されているか否かを問うものではないと解される。
エ 一方,引用発明1が記載されている甲1(引用文献)には,以下の記載がある。
「…前記通路カバー板32の後面側には,駆動モータとしてのステッピングモータ41がモータ取付板46を介して取り付けられている。すなわち,モータ取付板46の上下に穿設された取付長穴47a,47b(47bは,図示せず)を通路カバー板32に形成したモータ用取付穴48a,48bに対応させて図示しないビスで螺着することにより取り付けられる。この場合,取付長穴47a,47bが移動可能であるため,供給通路34a,34b及び排出通路36a,36bに対するスプロケット43a,43bの好ましい位置調節が容易にできるようになっている。また,ステッピングモータ41の回転軸42(第1図参照)には,所定間隔離れて2つのスプロケット43a,43bが固着されている。」(5頁左上欄12行~右上欄6行)
オ 上記によれば,甲1には,ステッピングモータ41とモータ取付板30との間にモータ取付板46が配置されることが記載され,本願発明の放熱板も,上記ウのとおり払い出しモータ25とカバー板23との間に挟み込まれた状態で取付けられているものであるから,本願発明の放熱板と引用発明1の「モータ取付板46」は,払い出しモータ(引用発明1では「ステッピングモータ41」)とユニットベース(引用発明1では「取付板30・通路区画板31・通路カバー板32」)との間に配置されている点で共通しており,いずれもユニットベースあるいは「取付板30・通路区画板31・通路カバー板32」に固定するように取り付けられている。
そうすると,審決が「引用発明1の『モータ取付板46』と本願発明の『放熱板』とを比較すると,『介在部材』において共通する」(9頁2行~4行)と認定したことに誤りはない。
カ これに対し原告は,甲1のモータ取付板46は,ステッピングモータ41と通路カバー板32との間に単に介在する部材ではなく,ステッピングモータ41に固着されてステッピングモータ41を通路カバー板32に取付ける作用効果を持つ不可欠の部材であり,接続部材というべきものであるのに対し,本願発明の放熱板は払い出しモータと当該構成部材との間に単に介在するだけで,払い出しモータの放熱の作用効果は有するものの,両者を固定する機能を有しないと主張する。
しかし,上記オで検討したとおり,本願発明の放熱板と引用発明1の「モータ取付板46」は,払い出しモータ(「ステッピングモータ41」)とユニットベース(「取付板30・通路区画板31・通路カバー板32」)との間に配置されている点で共通し,両者ともユニットベースあるいは「取付板30・通路区画板31・通路カバー板32」に固定するように取り付けられており,「介在部材」において共通するといえるから,原告の主張は採用することができない。
キ また原告は,「挟持」の意味は,固定することとは無関係であるとも主張する。しかし,上記ウで検討したとおり本願発明における「挟持」の意味は,挟み込まれた状態にあることを意味するところ,上記イで摘示した本件補正後の明細書(甲9,11)の段落【0047】に「…球払い出しユニット20の組付け等に際し,球払い出しユニット20が誤って落下したときなどに放熱板68によって落下衝撃を受止めてユニットベース21および払い出しモータ25を落下衝撃から防護することができる。」と記載されているように,本願発明の放熱板は払い出しモータに固定されている場合も含まれるのであるから,原告主張のように「挟持」の意味を固定することと無関係であると限定して解釈する根拠はない。
ク さらに原告は,甲1においては「接続部材が当該構成部材と前記払い出しモータとを固定する状態で払い出しモータが取り付けられている」というべきであるのに対し,本願発明の「放熱板」は,払い出しモータと当該構成部材との間に単に介在するだけで,両者を固定することとは無関係の構成部材であるから,「介在部材が当該構成部材と前記払い出しモータとに当接挟持された状態で前記払い出しモータが取り付けられている」のでこれを一致点とすることはできない,とも主張する。
しかし,既に上記オで検討したとおり,本願発明の放熱板と引用発明1の「モータ取付板46」とは,払い出しモータ(「ステッピングモータ41」)とユニットベース(「取付板30・通路区画板31・通路カバー板32」)との間に配置されている点で共通している。そして,両者ともユニットベースあるいは「取付板30・通路区画板31・通路カバー板32」に固定するように取り付けられているものであるから,審決がこれらを『介在部材』において共通する」としたことに誤りはない。
(2)ア 原告は,引用発明1の「モータ取付板」は本願発明ではモータのフランジ部に該当するから,これを本願発明の放熱板と一致するとすることはできないし,本願発明と引用発明1との相違点Aにはこの点も含め,「本願発明におけるモータの出力軸が貫挿され,モータとカバー板とに当接挟持された金属製の放熱板が,引用発明1にはない点」と認定すべきであるとも主張する。
イ しかし,本件補正後の明細書(甲9,11)には,原告がモータのフランジ部であると主張するその「フランジ部」に関する記載はなく,払い出しモータと区別されるとする根拠を欠く上,本願発明の放熱板と引用発明の「モータ取付板46」は,払い出しモータ(「ステッピングモータ41」)とユニットベース(「取付板30・通路区画板31・通路カバー板32」)との間に配置されている点で共通しており,審決が相違点Aとして「介在部材が,本願発明では払い出しモータの出力軸が貫挿される金属製の放熱板であるのに対し,引用発明1ではモータ取付板である点」と認定したことに誤りはない。
(3)ア 原告は,刊行物2~5に示されるモータの取付けに関する放熱板の構成について,これが周知・慣用の技術であることは争わないとするところ,これらはいずれもモータ自体の過熱を予防する目的の技術であるとし,これに対して,本願発明における放熱板は,主として,過熱により変形する樹脂製などの駆動対象への,モータからの熱流束密度を低減することを目的としており,本願発明に上記周知・慣用の技術を適用することはできないと主張する。
イ 審決が相違点Aに関し周知・慣用の技術であるとするのは,①金属製の放熱板を介在させてモータを取り付ける技術(審決9頁25行),②モータ出力軸の直径方向の両側まで延伸させた金属製の放熱板を介してモータを取り付ける技術(同9頁32行~33行)の2点である。
まず上記①の周知技術に関し,前記甲2(実願昭57-143450号〔実開昭59-50557号〕のマイクロフイルム,考案の名称「回転電機の固定子枠」,出願人東京芝浦電気株式会社,公開日昭和59年4月3日)には「回転電機の冷却」(明細書3頁7行~8行)に関する「波形の薄鋼板」(同3頁16行)が示され,また前記甲3(実願昭62-8456号〔実開昭63-117262号〕のマイクロフイルム,考案の名称「回転電機の支持装置」,出願人三菱電機株式会社,公開日昭和63年7月28日)には,「回転電機本体を支持する支持部を上記冷却用放熱フィンと一体に形成されてなることを特徴とする回転電機の支持装置」(明細書1頁7行~9行)が示されていることから,上記①の金属製の放熱板を介在させてモータを取り付ける技術に関しては周知であると認められる。
また上記②の周知技術に関し,前記甲4(実願昭61-34563号〔実開昭62-149243号〕のマイクロフィルム,考案の名称「樹脂製フレームにおけるモータ放熱構造」,出願人沖電気工業株式会社,公開日昭和62年9月21日)には,後記(4)イのとおり,アルミ板等の放熱板3を介在せしめた,モータの放熱構造が示されており,前記甲5(特開平2-16400号公報,発明の名称「送風機」,出願人三菱電機株式会社,公開日平成2年1月19日)には,「モータの冷却装置」(1頁右欄11行~12行)につき「アルミニウムの放熱部材を送風機ケーシングとモータとの間に挟み付けて組付ける」(2頁左下欄7行~9行)との技術が示され,上記②のモータ出力軸の直径方向の両側まで延伸させた金属製の放熱板を介してモータを取り付ける技術についても従来周知・慣用であることが認められる。
ウ 一方,この点に関し,本件補正後の明細書(甲9,11)には,以下の記載がある。
「【作用】請求項1に係る遊技機において,球払い出しユニットを構成する複数の構成部材のうち,1つの構成部材に,当該構成部材との間に放熱板を当接挟持した状態で取り付けられている払い出しモータの動作によって球送り部材が水平方向の軸線回りに回転駆動されると,その球送り部材によって複数列の球通路の球を逐一受取って放出する。払い出しモータの動作において,同払い出しモータが過熱すると,その熱が前記放熱板に伝導されて放熱板を通じて放散する。」(段落【0005】)
「【発明の効果】この発明によれば,払い出しモータの作動時に異常発熱しても払い出しモータの熱を放熱板によって放散させて,球払い出しユニットのユニットベースおよび球送り部材への熱の伝導を防止することができる。このため,透明合成樹脂材より構成されたユニットベースの複数の構成部材や,不透明合成樹脂材により構成された球送り部材が過熱によって熱変形して球送り動作が阻害されたり不能となる不具合を解消することができ,球の払い出しが実行できない状態となる不具合を解消することができる。…」(段落【0006】)
エ 上記ウの記載によれば,本願発明の放熱板については,払い出しモータ自体の過熱を予防することも目的としていることが明らかであり,本願発明における放熱板は,主として過熱により変形する樹脂製などの駆動対象(球払い出しユニット)への,モータからの熱流束密度を低減することことを目的としていると限定して解することはできない。審決の上記認定に誤りはなく,原告の主張は採用することができない。
(4)ア 原告は,本願発明は,合成樹脂材によって構成されるユニットベースの1つの構成部材に,放熱板が当該構成部材と払い出しモータとに当接挟持される状態で,払い出しモータが取付けられる構成をとることにより,モータの熱(特に停止による過熱時の熱)が合成樹脂材のユニットベースに強く伝わらないようにするという効果があり,放熱板とユニットベースの構成部材とが当接することが熱流速密度が小さくするという作用に基づくことを説明しただけであり,放熱板の放熱効果の存在を否定するものではないとも主張する。
イ しかし,前記甲4(実願昭61-34563号〔実開昭62-149243号〕のマイクロフィルム,考案の名称「樹脂製フレームにおけるモータ放熱構造」,出願人沖電気工業株式会社,公開日昭和62年9月21日)には以下の記載がある。
・※ 実用新案登録請求の範囲
「樹脂製フレームとモータ間に放熱板を介在せしめ,この放熱板の一部を筐体ベースと接合せしめたことを特徴とする樹脂製フレームにおけるモータ放熱構造」
・※ 「本考案は,樹脂製フレーム2とモータ1間にL型金具(放熱板)3を介在せしめ」(明細書3頁4行~6行)
・※ 「本考案によれば,以上のように樹脂製フレームにおけるモータの放熱構造を構成したので,モータの自己発熱は放熱用シリコン・グリース4,L型金具3及びその底部3aを経て筐体ベース5に放熱される。」(明細書3頁13行~17行)
・※ 第1図
file_3.jpgRO MOD bes 2A Lok faery) aay 7% Se Ras-nウ 上記によれば,モータと「樹脂製フレーム」の間に金属製の放熱板を介在させ,モータの熱が樹脂製フレームに強く伝わらないようにすることは,周知の技術であるといえる。
したがって,放熱材を耐熱性に問題のある合成樹脂部材であるユニットベースに当接させる構成を採ることに格別の困難性があるとはいえず,原告の主張は採用することができない。
3 取消事由2(相違点Bについての認定・判断の誤り)について
ア 原告は,相違点Bにつき,審決が遊技機の構成部材を透明合成樹脂材及び不透明合成樹脂材によって構成・形成することは刊行物6,7に示されたとおり周知であってこれを引用発明1のユニットベース及び球送り部材に適用し相違点Bに係る構成とすることは容易想到であると判断したのは誤りであり,刊行物6,7において,透明合成樹脂材と不透明合成樹脂材を選択しているのは装飾目的のためであって,本願発明のように検査・確認目的のためではなく,本願発明は制御装置による遊技球の払い出しが異常停止した場合に,球噛みの状況を容易に検査・確認できるようするため,ユニットベース内に誘導された遊技球の状態を容易に視認できるようにするとともに,ユニットベース内部に取り付けられる球送り部材を不透明合成樹脂材とすることで,ユニットベース内部での遊技球と球送り部材との関係が一見しただけで把握できることを可能としたものであることを看過している旨主張する。
イ(ア) この点に関し,前記甲6(実願昭60-128441号〔実開昭62-36779号〕のマイクロフィルム,考案の名称「パチンコ機における入賞装置」,出願人京楽産業株式会社,公開日昭和62年3月4日)には以下の記載がある。
・※ 実用新案登録請求の範囲
「取付基板の一部または全部を有色透明な合成樹脂によつて形成し,かつ該取付基板に開口した球入口の前部にチャッカーを固着するとともに,該チャッカーの上部に有色透明な合成樹脂によつて形成し後面が解放された一対の可動片を傾動自在に軸支し,さらに取付基板の後方に案内箱,案内部材などを設けた入賞装置において,取付基板の有色透明部分の後方に小型ランプを設け,さらに左右の可動片の下部に対向する取付基板の後面にそれぞれ筒状のランプハウスを設け,該ランプハウスの内孔を取付基板の前面に開口させるとともに後方へ貫通させ,該ランプハウス内にも小型ランプを挿入し,これらの小型ランプを共に一つの配線板に取付け,該配線板の後面に小型ランプの電極部を形成し,該配線板を案内箱の一部に取付けるとともに,該配線板の電極部に対向するカバー部材を案内箱に着脱自在に設けてなるを特徴とするパチンコ機における入賞装置。」
・※ 実施例
「図面に基づいて本考案の一実施例を説明する。
入賞装置を遊技盤に取付けるための取付基板1は,不透明な合成樹脂により板状に形成され,且つその上部の一部2は有色透明な合成樹脂によって形成されており」(3頁7行~12行)
・※ 考案の効果
「本考案の入賞装置は,可動片のみならず取付基板の一部または全部を有色透明素材によって形成し」(6頁下4行~下1行)
・※ 図面の簡単な説明
「図面は本考案の一実施例を示し,第1図は本例の入賞装置の斜視図」(7頁8行~10行)
・※ 第1図
file_4.jpg(イ) また,前記甲7(実願昭61-164848号〔実開昭63-71077号〕のマイクロフィルム,考案の名称「パチンコ機の入賞装置」,出願人株式会社大一商会〔原告〕,公開日昭和63年5月12日)には以下の記載がある。
・※ 実用新案登録請求の範囲
「全ての入賞球を検出するスイッチと特定の入賞球を検出するスイッチとを有する入賞装置であって,その本体には開閉扉用開口部の下方に透視窓部を形成するとともに,開閉扉の左右に入賞口およびランプ取付孔を形成し,これらの前面には透明合成樹脂により透視窓部の覆い部と入賞口への球受部を有するランプカバー部を一体成形した飾り板を装着したことを特徴とするパチンコ機の入賞装置。」
・※ 「本考案は上記従来の問題点を解決すべくなされたもので,玉受けプレートにより誘導されたパチンコ球の入賞部での通過状態を遊技者が目視により確認することのできるパチンコ機の入賞装置を提供することを目的とする」(3頁下2行~4頁3行)
・※ 「この入賞装置3の本体4は不透明合成樹脂よりなるもので,遊技盤2に取付けられる略平板状の取付基板5を主体とし」(5頁1行~3行)
・※ 「この受け皿部材16は開閉扉用開口部6からの入賞球を受けるものであって,該受け皿部材16は無色透明の合成樹脂よりなり」(5頁末行~6頁2行)
・※ 「25は本体4の背面側に取付けられて入賞部15の背面を塞ぐ中板で,例えば赤色透明の合成樹脂からなり」(6頁15行~17行)
・※ 「このランプ押え部材45は透明合成樹脂からなるもので」(9頁3行~4行)
・※ 「この開閉扉62は…例えば白色不透明の合成樹脂からなり」(11頁2行~4行)
・※ 「68は本体4の前面側に取付けられる飾り板であって,例えば赤色透明の合成樹脂からなり」(11頁末行~12頁1行)
・※ 「この飾り板を透明な合成樹脂により形成したことで遊技者は当該のパチンコ球が特定の入賞球であるか,通常の入賞球であるかを確認することができるとともに,例えばランプ切れ等があったとしても,それに基因するトラブルを解消することができ信頼性を高めることができる。」(16頁7行~12行)
・※ 第2図
file_5.jpgwong aウ 上記によれば,甲6,7には,遊技機の構成部品を透明合成樹脂材と不透明合成樹脂材とを選択的に使用し,透明合成樹脂材を使用した箇所からはパチンコ球を視認することも記載されており,遊技機においてその内部を視認できるように透明合成樹脂材を使用することは周知の技術手段であることが認められる。
そうすると,引用発明1にこれら周知の技術を適用して,外部からユニットベースの内部を視認可能とし,ユニットベース内に誘導された遊技球の状態を容易に視認できることとし,さらにユニットベース内部に取り付けられる球送り部材を不透明合成樹脂材とすることで,ユニットベース内部での遊技球と球送り部材との関係が一見しただけで把握できることを可能とすることは容易に想到することができたものといえる。
上記によれば,審決の相違点Bについての認定,判断に誤りはない。
エ なお原告は,甲6,7において透明合成樹脂と不透明合成樹脂を選択しているのは装飾目的であり,本願発明と目的が異なると主張するが,上記ウのとおり,甲6,7において一部透明合成樹脂を用いるのはその部分から遊技機の内部を視認できるようにする目的もあることが明らかであるから,原告の上記主張は採用することができない。
3 結語
以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はすべて理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 今井弘晃 裁判官 清水知恵子)
<編注:『※』部分は原文のとおり。>