知財高等裁判所 平成19年(行ケ)10402号 判決 2008年5月28日
原告
ケイ スイス インコーポレーテド
訴訟代理人弁護士
関根秀太,達野大輔,松本慶
被告
ナガイレーベン株式会社
訴訟代理人弁理士
清水修,杉岡真紀
主文
特許庁が無効2006-88017号事件について平成19年7月19日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
主文同旨の判決
第2事案の概要
本件は,被告の有する下記1(1)の意匠登録(以下「本件意匠登録」といい,本件意匠登録に係る意匠権を「本件意匠権」というほか,本件意匠登録に係る意匠を「本件意匠」という。)について,原告が無効審判請求をしたところ,特許庁は,同審判請求は成り立たないとの審決をしたため,原告が,同審決の取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 本件意匠登録(甲1の1,2)
本件意匠は部分意匠である。
意匠権者:ナガイレーベン株式会社(被告)
意匠に係る物品:「短靴」
出願日:平成17年9月6日(意願2005-25741号)
登録日:平成18年3月10日
意匠登録番号:第1269223号
本件意匠の構成:下記のとおり(実線で示した部分が意匠登録を受けた部分である)。
file_2.jpga ae [Dama Se CTV —V OATS) bane 27) (eae) ‘Ue (bam) ees | (oma) (eam(2) 本件手続
審判請求日:平成18年9月22日(無効2006-88017号)
審決日:平成19年7月19日
審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」(ただし,出訴期間について90日が附加されている。)
審決謄本送達日:平成19年8月1日(原告に対し)
2 審決の要旨
(1) 審決は,本件意匠が,出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された引用意匠1~3(その構成は下記ア~ウのとおりである。)と類似する,又はこれらにより容易に創作し得たものであるとの請求人(原告)の主張に係る無効理由について,いずれも認められないとした。
file_3.jpg7 SARE 1 OR fe 3 Ot 4 ~ = os Sa VSaa(2) 審決の理由中「当審の判断」の部分は,以下のとおりであり,審決中の甲号証の番号は本訴と共通である。
「1.請求人の主張する無効理由
請求人の主張を整理すると,以下の無効理由を主張するものと認められる。
(1) 本件登録意匠は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された引用意匠1(甲第2号証及び甲第3号証)に類似し,本件意匠登録は,意匠法第3条1項3号の規定に違反してされたものである(以下,「無効理由1」という。)。
(2) 本件登録意匠は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された引用意匠2(甲第4号証)に類似し,本件意匠登録は,意匠法第3条1項3号の規定に違反してされたものである(以下,「無効理由2」という。)。
(3) 本件登録意匠は,その出願前に日本国内又は外国において公然知られた引用意匠3(甲第5号証及び甲第6号証)に類似し,本件意匠登録は,意匠法第3条1項3号の規定に違反してされたものである(以下,「無効理由3」という。)。
(4) 本件登録意匠は,その出願前に日本国内又は外国において公然知られた引用意匠1ないし3に基づいて当業者が容易に創作し得たもので,本件意匠登録は,意匠法第3条第2項に違反してされたものである(以下,「無効理由4」という。)。
2.本件登録意匠
本件登録意匠は,その意匠登録出願(出願日平成17年9月6日)の願書及び添付図面の記載によれば,意匠に係る物品が「短靴」で,その形態が願書及び添付図面の記載のとおりであり,実線で表した部分について部分意匠として意匠登録を受けたものである。
すなわち,本件登録意匠の実線で表した部分(以下,「本件実線部分」という。)は,靴甲部の両側面を構成する部分であり,ミッドソールに隣接してその上部に設けられた略変形台形状の部分である。そして,本件実線部分の形態は,(A)その外周形状について,(A-1)底辺を,ミッドソールと靴甲部の境界をなすやや上方へ湾曲した線とし,(A-2)上辺を,靴甲部に配置した鳩目に相当する部分の側部,靴甲部の稜線の傾斜角度と略平行に傾斜して引いた直線とし,(A-3)つま先側の斜辺を,つま先側に約60度傾斜して引いた直線とし,(A-4)かかと側の斜辺を,つま先側に約50度傾斜してつま先側の斜辺とは傾斜角度が異なる直線とし,(A-5)その4辺により囲まれ,上方の2つの角を湾曲させてアール形状とした略変形台形状とし,(B)その外周内側に形成される仕切り枠について,(B-1)外周の上辺,つま先側の斜辺,及びかかと側の斜辺の3辺のみに沿って設け,底辺には仕切り枠を設けずミッドソールに隣接させ,(B-2)外周に沿う枠内にさらに縦に4本設け,枠内を5等分し仕切り枠とほぼ同幅の略帯状凹部を5本形成し,(C)この仕切り枠によって形成される5本の略帯状凹部について,(C-1)3辺のみに仕切り枠を設け,底辺をミッドソール境界線に隣接し,(C-2)上方の2つの角を湾曲させてアール形状とし,4辺の長さが全て異なるとともに,上辺よりも下辺を長尺とした略四辺形とし,(C-3)つま先側に約60度前後で各々違った角度に傾斜させ,(C-4)つま先側からかかと側にかけて徐々に縦方向に長くし,(C-5)メッシュ地としたものである。
なお,請求人は「本件登録意匠の外周部は,専ら部分意匠である本件登録意匠の範囲を確定するためにえがかれたものに過ぎず,実際には,つま先側に約60度に傾斜している,つま先側からかかと側にかけて徐々に縦方向に長くなる5つの長方形の凹部の周囲をなぞった結果,かかる外周の図形が観念されるに過ぎない。」と主張する。しかし,上記のように,外周形状は外周内側の仕切り枠の外形状と底辺のミッドソールと靴甲部の境界線とによって形成される形状であって,請求人の主張は採用できない。
3.無効理由1について
(1) 引用意匠1
引用意匠1は,甲第2号証(雑誌「TENNIS」(2003年5月号)に掲載された広告)又は甲第3号証(雑誌「TENNIS」(2005年3月号)に掲載された広告)に記載されたもので,意匠に係る物品が運動靴(テニス用の靴)で,その形態が甲第2号証及び甲第3号証の写真に現したとおりのものである。
すなわち,引用意匠1の本件実線部分に相当する部分(以下,「引用意匠1相当部分」という。)は,靴甲部の両側面を構成する部分であり,ミッドソールの上部に設けられた略変形台形状の部分である。そして,引用意匠1相当部分の形態は,(A)その外周形状について,(A-1)底辺を,ミッドソールと靴甲部の境界線からやや上部にミッドソールに平行に引かれた直線とし,(A-2)上辺を,靴甲部に配置した鳩目に相当する部分の側部,靴甲部の稜線の傾斜角度と略平行に傾斜して引いた直線とし,(A-3)つま先側の斜辺を,つま先側に約60度傾斜して引いた直線とし,(A-4)かかと側の斜辺を,つま先側に約60度傾斜してつま先側の斜辺と平行に引いた直線とし,(A-5)その4辺により囲まれた略変形台形状とし,(B)その外周内側に形成される仕切り枠について,(B-1)底辺にも設け,外周の内側4辺に沿って設け,(B-2)外周に沿う枠内にさらに縦に4本設け,枠内を5等分し仕切り枠とほぼ同幅の略帯状凹部を5本形成し,(C)この仕切り枠によって形成される5本の略帯状凹部について,(C-1)4辺を仕切り枠で囲み,(C-2)角をアール形状とせず,4辺の長さが全て異なるとともに,上辺よりも下辺を長尺とした略四辺形とし,(C-3)5本ともつま先側に約60度で同じ角度に傾斜させ,(C-4)つま先側からかかと側にかけて徐々に縦方向に長くし,(C-5)メッシュ地としたものである。
(2) 本件登録意匠と引用意匠1との対比
両意匠を対比すると,以下の共通点と差異点がある。
<共通点>
両意匠は,以下の点で共通する。
すなわち,両意匠は,意匠に係る物品が「短靴」と「運動靴」で類似し,本件実線部分と引用意匠1相当部分が,靴の両側部分を構成する部分であり,ミッドソールの上部に設けられた略変形台形状の部分であり,その部分の用途及び機能,そして、当該物品全体の形態の中での位置,大きさ,範囲がほぼ共通する。
また,本件実線部分と引用意匠1相当部分の形態において,(A)その外周形状について,(A-1)底辺を,ミッドソールと靴甲部の境界線の上部の線とし,(A-2)上辺を,靴甲部に配置した鳩目に相当する部分の側部,靴甲部の稜線の傾斜角度と略平行に傾斜して引いた直線とし,(A-3)つま先側の斜辺を,つま先側に約60度傾斜して引いた直線とし,(A-4)かかと側の斜辺を,つま先側に約60ないし50度傾斜して引いた直線とし,(A-5)その4辺により囲まれた略変形台形状とし,(B)その外周内側に形成される仕切り枠について,(B-1)外周の内側3辺に沿って設け,(B-2)外周に沿う枠内にさらに縦に4本設け,枠内を5等分し仕切り枠とほぼ同幅の略帯状凹部を5本形成し,(C)この仕切り枠によって形成される5本の略帯状凹部について,(C-1)3辺を仕切り枠で囲み,(C-2)4辺の長さが全て異なるとともに,上辺よりも下辺を長尺とした略四辺形とし,(C-3)5本ともつま先側に約60度で傾斜させ,(C-4)つま先側からかかと側にかけて徐々に縦方向に長くし,(C-5)メッシュ地とした点で共通するものである。
<差異点>
両意匠は,以下の点に差異がある。
すなわち,両意匠は,本件実線部分がミッドソールに隣接した部分であるのに対し,引用意匠1相当部分は,ミッドソールのやや上部に設けられた部分である点で,その部分の当該物品全体の形態の中での位置に差異がある。
また,本件実線部分と引用意匠1相当部分の形態において,(a)その略変形台形状の外周形状について,(a-1)本件登録意匠は,底辺を,ミッドソールと靴甲部の境界をなすやや上方へ湾曲した線としているのに対し,引用意匠1は,ミッドソールと靴甲部の境界線からやや上部にミッドソールに平行に引かれた直線としている点,(a-2)かかと側の斜辺を,本件登録意匠は,つま先側に約50度傾斜してつま先側の斜辺とは傾斜角度が異なる直線とするのに対し,引用意匠1は,つま先側に約60度傾斜してつま先側の斜辺と平行に引いた直線としている点,(a-3)本件登録意匠は,上方の2つの角を湾曲させてアール形状としたのに対し,引用意匠1は,角の湾曲がない点,(b)その外周内側に形成される仕切り枠について,(b-1)本件登録意匠は,3辺のみに沿って設け,底辺には仕切り枠を設けずミッドソールに隣接させているのに対し,引用意匠1は,底辺にも設け,外周の内側4辺に沿って設けている点,(c)5本の略帯状凹部について,(c-1)本件登録意匠は,3辺のみに仕切り枠を設け,底辺をミッドソール境界線に隣接しているのに対し,引用意匠1は,4辺を仕切り枠で囲んでいる点,(c-2)本件登録意匠は,上方の2つの角を湾曲させてアール形状としているのに対し,引用意匠1は,角をアール形状としていない点,(c-3)本件登録意匠は,各々違った角度に傾斜させているのに対し,引用意匠1は,5本とも同じ角度に傾斜させている点に差異がある。
(3) 本件登録意匠と引用意匠1との類否判断
この種短靴や運動靴の使用状態等を考慮すると,靴を履いて使っている場合は,本人が上方から,また,他人が斜め上方から靴を視認するものであり,靴を着脱したり,運搬したりする場合は,その全体が視認されるものである。そして,この種靴の購入の際は,その全体の形態について注視するものである。したがって,この種靴の両側部分を構成する部分であり,ミッドソールの上部に設けられた略変形台形状の部分の意匠については,その形態の全体が需要者の注意を引くものと認められる。(なお,請求人は,「一般的に靴を観察する場合には靴の甲部など,やや上から見た部分が最も目に触れやすいところであって,この部分のデザインが最も看者の注目を惹く部分となっている。・・・底辺は,通常人が観察する場合には目立たない部分」と主張するが,上記の通りであり,その主張は採用できない。)
そうすると,両意匠の基本的構成態様に係る差異点として,本件実線部分がミッドソールに隣接した部分であるのに対し,引用意匠1相当部分は,ミッドソールのやや上部に設けられた部分であるという位置の差異点,(a)その略変形台形状の外周形状について,(a-1)本件登録意匠は,底辺を,ミッドソールと靴甲部の境界をなすやや上方へ湾曲した線としているのに対し,引用意匠1は,ミッドソールと靴甲部の境界線からやや上部にミッドソールに平行に引かれた直線としている差異点,(b)仕切り枠について,(b-1)本件登録意匠は,3辺のみに沿って設け,底辺には仕切り枠を設けずミッドソールに隣接させているのに対し,引用意匠1は,底辺にも設け,外周の内側4辺に沿って設けている差異点,及び,(c)5本の略帯状凹部について,(c-1)本件登録意匠は,3辺のみに仕切り枠を設け,底辺をミッドソール境界線に隣接しているのに対し,引用意匠1は,4辺を仕切り枠で囲んでいる差異点がある。これらの差異点は,3辺枠か4辺枠かという両意匠の基本的構成態様に係る差異であり,また,底辺部全体に係るもので,大きな割合を占める構成態様における差異であり,看者の注意を引くものである。そして,この基本的構成態様に係る底辺部の差異点に加えて,具体的構成態様における差異点,すなわち,(a)その略変形台形状の外周形状について,(a-2)かかと側の斜辺を,本件登録意匠は,つま先側に約50度傾斜してつま先側の斜辺とは傾斜角度が異なる直線とするのに対し,引用意匠1は,つま先側に約60度傾斜してつま先側の斜辺と平行に引いた直線としている差異点,(a-3)本件登録意匠は,上方の2つの角を湾曲させてアール形状としたのに対し,引用意匠1は,角の湾曲がない差異点,(c)5本の略帯状凹部について,(c-2)本件登録意匠は,上方の2つの角を湾曲させてアール形状としているのに対し,引用意匠1は,角をアール形状としていない差異点,及び,(c-3)本件登録意匠は,各々違った角度に傾斜させているのに対し,引用意匠1は,5本とも同じ角度に傾斜させている差異点が相俟って,本件登録意匠は,角丸のやや変化に富んだ柔らかい意匠的効果があるのに対して,引用意匠1は,角張って直線的で堅い意匠的効果がある。したがって,基本的構成態様に係る底辺部全体の構成態様の差異点と共に,各部の具体的構成態様における差異点が相俟って異なった意匠的効果があり,両意匠は全体として異なる美感を起こさせるものである。
これに対して,両意匠の共通する構成態様,(A)その外周形状について,略変形台形状とし,(B)その外周内側に仕切り枠を設け,その枠内を5等分し仕切り枠とほぼ同幅の略帯状凹部を5本形成し,(C)この仕切り枠によって形成される5本の略帯状凹部について,(C-2)略四辺形とし,(C-3)5本ともつま先側に約60度で傾斜させ,(C-4)つま先側からかかと側にかけて徐々に縦方向に長くし,(C-5)メッシュ地とした構成態様は,両意匠の基本的構成態様のある程度の部分を占めるものであるが,しかし,上記のとおり,基本的構成態様の大きな部分を占める底辺部の構成態様において差異があり,両意匠は,基本的構成態様において相違する。
また,両意匠の共通する構成態様は,下記のように,引用意匠1の公知日(2003年5月)以前から広く知られた構成態様であって,新規な創作性があるものではなく,格別看者の注意を引くものではない。
すなわち,第一に,(A)その外周形状について,略変形台形状とし,(B)その外周内側に仕切り枠を設け,その枠内を等分し仕切り枠とほぼ同幅の略帯状凹部を数本形成し,(C)この仕切り枠によって形成される略帯状凹部について,(C-2)略四辺形とし,(C-3)つま先側に約60度で傾斜させ,(C-4)つま先側からかかと側にかけて徐々に縦方向に長くした構成態様は,下記の公知意匠(1)ないし公知意匠(6)に見られるように,引用意匠1の公知日前にすでに広く知られたものである。すなわち,公知意匠(1)意匠登録第486900号「運動ぐつ」の意匠(1978年7月21日意匠公報発行),公知意匠(2)特許庁総合情報館が1989年8月19日に受け入れた雑誌「FOOTWEAR NEWS」32号45巻93頁所載「運動靴」の意匠(意匠課公知資料番号第HB01035370号),公知意匠(3)特許庁総合情報館が1991年10月24日に受け入れたカタログ「Quelle HERBST/WINTER」646頁所載「運動靴」の意匠(意匠課公知資料番号第HD03017871号),公知意匠(4)特許庁総合情報館が1991年10月24日に受け入れたカタログ「Quelle HERBST/WINTER」647頁所載「運動靴」の意匠(意匠課公知資料番号第HD03017874号),公知意匠(5)特許庁総合情報館が1995年12月22日に受け入れたカタログ「ATHLETICSHOE」7頁所載「運動靴」の意匠(意匠課公知資料番号第HD07013351号),公知意匠(6)特許庁総合情報館が2000年10月23日に受け入れたカタログ「2001SHOES COLLECTION SPRING & SUMMER」17頁所載「靴」の意匠(意匠課公知資料番号第HC12008055号)。第二に,(A)その外周形状について,略変形台形状とし,(B)その内を5等分し同幅の略帯状部を5本形成し,(C)5本の略帯状部について,(C-2)略四辺形とし,(C-3)5本ともつま先側に約60度で傾斜させ,(C-4)つま先側からかかと側にかけて徐々に縦方向に長くした構成態様は,下記の公知意匠(7)ないし公知意匠(13)に見られるように引用意匠1の公知日前にすでに広く知られたものである。すわなち,公知意匠(7)意匠登録第406833号「短靴」の意匠(1975年10月22日意匠公報発行),公知意匠(8)特許庁総合情報館が1989年3月10日に受け入れた雑誌「FOOTWEAR NEWS」6号45巻112頁所載「運動靴」の意匠(意匠課公知資料番号第HB01019172号),公知意匠(9)特許庁総合情報館が1989年3月30日に受け入れた雑誌「FOOTWEAR NEWS」9号45巻44頁所載「運動靴」の意匠(意匠課公知資料番号第HB01019286号),公知意匠(10)特許庁総合情報館が1989年4月14日に受け入れたカタログ「BELLEMAISONシューズディス」12頁所載「くつ」の意匠(意匠課公知資料番号第HC01025664号),公知意匠(11) 特許庁総合情報館が1995年11月2日に受け入れた雑誌「モノマガジン」21号14巻187頁所載「運動靴」の意匠(意匠課公知資料番号第HA07029339号),公知意匠(12)独立行政法人工業所有権総合情報館が2002年3月4日に受け入れた雑誌「ARS sutoria」296巻236頁所載「靴」の意匠(意匠課公知資料番号第HB14002318号),公知意匠(13)意匠登録第1143438号「短靴」の意匠(2002年6月10日意匠公報発行)。
したがって,両意匠の共通する構成態様は,引用意匠1の公知日以前から広く知られた構成態様であって,新規な創作性があるものではなく,格別看者の注意を引くものではないから,(本件登録意匠の3辺枠とした基本的構成態様や底辺部の構成態様も,格別新規で創作性のある態様とはいえないとしても,)両意匠は,基本的構成態様の大きな部分を占める底辺部の構成態様において差異があり,基本的構成態様において相違すると共に,各部の具体的構成態様が相俟って異なった意匠的効果があり,差異点が共通点を凌駕し,意匠全体として異なる美感を起こさせるものであり,類似しない。
(4) 小括
以上のように,本件登録意匠は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された引用意匠1に類似するものではなく,本件意匠登録は,意匠法第3条1項3号の規定に違反してされたものではない。
4.無効理由2について
(1) 引用意匠2
引用意匠2は,甲第4号証(雑誌「XXL」(2005年8月号)に掲載された広告)に記載されたもので,意匠に係る物品が運動靴(スニーカー)で,その形態を甲第4号証の写真に現したとおりのものである。
すなわち,引用意匠2の本件実線部分に相当する部分(以下,「引用意匠2相当部分」という。)は,靴甲部の両側面を構成する部分であり,ミッドソールの上部に設けられた略変形台形状の部分である。そして,引用意匠2相当部分の形態は,(A)その外周形状について,(A-1)底辺を,ミッドソールと靴甲部の境界線からやや上部にミッドソールに平行に引かれた直線とし,(A-2)上辺を,靴甲部に配置した鳩目に相当する部分の側部,靴甲部の稜線の傾斜角度と略平行に傾斜して引いた直線とし,(A-3)つま先側の斜辺を,つま先側に約60度傾斜して引いた直線とし,(A-4)かかと側の斜辺を,つま先側に約60度傾斜してつま先側の斜辺と平行に引いた直線とし,(A-5)その4辺により囲まれた略変形台形状とし,(B)その外周内側に形成される仕切り枠について,(B-1)外周の内側4辺に沿って仕切り枠は設けず,(B-2)外周内に縦に4本仕切り枠を設け,外周内を5等分し仕切り枠とほぼ同幅の略帯状凹部を5本形成し,(C)この仕切り枠によって形成される5本の略帯状凹部について,(C-1)凹部の間のみを仕切り枠で仕切り,(C-2)角をアール形状とせず,略長方形状とし,(C-3)5本ともつま先側に約60度で同じ角度に傾斜させ,(C-4)つま先側からかかと側にかけて徐々に縦方向に長くし,(C-5)布地としたものである。
(2) 本件登録意匠と引用意匠2との対比
両意匠を対比すると,以下の共通点と差異点がある。
<共通点>
両意匠は,以下の点で共通する。
すなわち,両意匠は,意匠に係る物品が「短靴」と「運動靴」で類似し,本件実線部分と引用意匠2相当部分が,靴の両側部分を構成する部分であり,ミッドソールの上部に設けられた略変形台形状の部分であり,その部分の用途及び機能,そして,当該物品全体の形態の中での位置,大きさ,範囲がほぼ共通する。
また,本件実線部分と引用意匠2相当部分の形態において,(A)その外周形状について,(A-1)底辺を,ミッドソールと靴甲部の境界線の上部の線とし,(A-2)上辺を,靴甲部に配置した鳩目に相当する部分の側部,靴甲部の稜線の傾斜角度と略平行に傾斜して引いた直線とし,(A-3)つま先側の斜辺を,つま先側に約60度傾斜して引いた直線とし,(A-4)かかと側の斜辺を,つま先側に約60ないし50度傾斜して引いた直線とし,(A-5)その4辺により囲まれた略変形台形状とし,(B)その外周内側に形成される仕切り枠について,(B-1)外周内に縦に4本設け,枠内を5等分し仕切り枠とほぼ同幅の略帯状凹部を5本形成し,(C)この仕切り枠によって形成される5本の略帯状凹部について,(C-1)凹部の間のみを仕切り枠で仕切り,(C-2)略四辺形とし,(C-3)5本ともつま先側に約60度で傾斜させ,(C-4)つま先側からかかと側にかけて徐々に縦方向に長くし点で共通するものである。
<差異点>
両意匠は,以下の点に差異がある。
すなわち,両意匠は,本件実線部分がミッドソールに隣接した部分であるのに対し,引用意匠2相当部分は,ミッドソールのやや上部に設けられた部分である点で,その部分の当該物品全体の形態の中での位置に差異がある。
また,本件実線部分と引用意匠2相当部分の形態において,(a)その略変形台形状の外周形状について,(a-1)本件登録意匠は,底辺を,ミッドソールと靴甲部の境界をなすやや上方へ湾曲した線としているのに対し,引用意匠2は,ミッドソールと靴甲部の境界線からやや上部にミッドソールに平行に引かれた直線としている点,(a-2)かかと側の斜辺を,本件登録意匠は,つま先側に約50度傾斜してつま先側の斜辺とは傾斜角度が異なる直線とするのに対し,引用意匠2は,つま先側に約60度傾斜してつま先側の斜辺と平行に引いた直線としている点,(a-3)本件登録意匠は,上方の2つの角を湾曲させてアール形状としたのに対し,引用意匠2は,角の湾曲がない点,(b)その外周内側に形成される仕切り枠について,(b-1)本件登録意匠は,3辺のみに沿って設け,底辺には仕切り枠を設けずミッドソールに隣接させているのに対し,引用意匠2は,外周の内側4辺に沿って仕切り枠は設けていない点,(c)5本の略帯状凹部について,(c-1)本件登録意匠は,3辺のみに仕切り枠を設け,底辺をミッドソール境界線に隣接しているのに対し,引用意匠2は,凹部の間のみを仕切り枠で仕切っている点,(c-2)本件登録意匠は,上方の2つの角を湾曲させてアール形状とし,4辺の長さが全て異なるとともに,上辺よりも下辺を長尺とした略四辺形としているのに対し,引用意匠2は,角をアール形状とせず,略長方形状としている点,(c-3)本件登録意匠は,各々違った角度に傾斜させているのに対し,引用意匠2は,5本とも同じ角度に傾斜させている点,及び(c-4)本件登録意匠は,メッシュ地としたのに対し,引用意匠2は,布地とした点に差異がある。
(3) 本件登録意匠と引用意匠2との類否判断
この種短靴や運動靴の使用状態等を考慮すると,靴を履いて使っている場合は,本人が上方から,また,他人が斜め上方から靴を視認するものであり,靴を着脱したり,運搬したりする場合は,その全体が視認されるものである。そして,この種靴の購入の際は,その全体の形態について注視するものである。したがって,この種靴の両側部分を構成する部分であり,ミッドソールの上部に設けられた略変形台形状の部分の意匠については,その形態の全体が需要者の注意を引くものと認められる。
そうすると,両意匠の基本的構成態様に係る差異点として,本件実線部分がミッドソールに隣接した部分であるのに対し,引用意匠2相当部分は,ミッドソールのやや上部に設けられた部分であるという位置の差異点,(a)その略変形台形状の外周形状について,(a-1)本件登録意匠は,底辺を,ミッドソールと靴甲部の境界をなすやや上方へ湾曲した線としているのに対し,引用意匠2は,ミッドソールと靴甲部の境界線からやや上部にミッドソールに平行に引かれた直線としている差異点,(b)仕切り枠について,(b-1)本件登録意匠は,3辺のみに沿って設け,底辺には仕切り枠を設けずミッドソールに隣接させているのに対し,引用意匠2は,外周の内側4辺に沿って仕切り枠は設けていない差異点,及び,(c)5本の略帯状凹部について,(c-1)本件登録意匠は,3辺のみに仕切り枠を設け,底辺をミッドソール境界線に隣接しているのに対し,引用意匠2は,凹部の間のみを仕切り枠で仕切っている差異点がある。これらの差異点は,外周の仕切り枠の有無という両意匠の基本的構成態様に係る差異であり,また,外周縁部全体に係るもので,大きな割合を占める構成態様における差異であり,看者の注意を引くものである。そして,この基本的構成態様に係る外周縁部の差異点に加えて,具体的構成態様における差異点,すなわち,(a)その略変形台形状の外周形状について,(a-2)かかと側の斜辺を,本件登録意匠は,つま先側に約50度傾斜してつま先側の斜辺とは傾斜角度が異なる直線とするのに対し,引用意匠2は,つま先側に約60度傾斜してつま先側の斜辺と平行に引いた直線としている差異点,(a-3)本件登録意匠は,上方の2つの角を湾曲させてアール形状としたのに対し,引用意匠2は,角の湾曲がない差異点,(c)5本の略帯状凹部について,(c-2)本件登録意匠は,上方の2つの角を湾曲させてアール形状とし,4辺の長さが全て異なるとともに,上辺よりも下辺を長尺とした略四辺形としているのに対し,引用意匠2は,角をアール形状とせず,略長方形状としている差異点,及び,(c-3)本件登録意匠は,各々違った角度に傾斜させているのに対し,引用意匠2は,5本とも同じ角度に傾斜させている差異点が相俟って,本件登録意匠は,角丸のやや変化に富んだ柔らかい意匠的効果があるのに対して,引用意匠2は,角張って直線的で堅い意匠的効果がある。したがって,基本的構成態様に係る外周縁部全体の構成態様の差異点と共に,各部の具体的構成態様における差異点が相俟って異なった意匠的効果があり,両意匠は全体として異なる美感を起こさせるものである。
これに対して,両意匠の共通する構成態様,(A)その外周形状について,略変形台形状とし,(B)その外周内に仕切り枠を縦に4本設け,枠内を5等分し仕切り枠とほぼ同幅の略帯状凹部を5本形成し,(C)この仕切り枠によって形成される5本の略帯状凹部について,(C-2)略四辺形とし,(C-3)5本ともつま先側に約60度で傾斜させ,(C-4)つま先側からかかと側にかけて徐々に縦方向に長くした構成態様は,両意匠の基本的構成態様のある程度の部分を占めるものであるが,しかし,上記のとおり,基本的構成態様の大きな部分を占める外周縁部の構成態様において差異があり,両意匠は,基本的構成態様において相違する。
また,両意匠の共通する構成態様は,下記のように,引用意匠2の公知日(2005年8月)以前から広く知られた構成態様であって,新規な創作性があるものではなく,格別看者の注意を引くものではない。
すなわち,(A)その外周形状について,略変形台形状とし,(B)その内を5等分し同幅の略帯状部を5本形成し,(C)5本の略帯状部について,(C-2)略四辺形とし,(C-3)5本ともつま先側に約60度で傾斜させ,(C-4)つま先側からかかと側にかけて徐々に縦方向に長くした構成態様は,上記の公知意匠(7)ないし公知意匠(13)に見られるように引用意匠2の公知日前にすでに広く知られたものである。
したがって,両意匠の共通する構成態様は,引用意匠2の公知日以前から広く知られた構成態様であって,新規な創作性があるものではなく,格別看者の注意を引くものではないから,(本件登録意匠の3辺枠とした基本的構成態様や外周縁部全体の構成態様も,格別新規で創作性のある態様とはいえないとしても,)両意匠は,基本的構成態様の大きな部分を占める外周縁部全体の構成態様において差異があり,基本的構成態様において相違すると共に,各部の具体的構成態様が相俟って異なった意匠的効果があり,差異点が共通点を凌駕し,意匠全体として異なる美感を起こさせるものであり,類似しない。
(4) 小括
以上のように,本件登録意匠は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された引用意匠2に類似するものではなく,本件意匠登録は,意匠法第3条1項3号の規定に違反してされたものではない。
5.無効理由3について
(1) 引用意匠3
引用意匠3は,その出願前に日本国内又は外国において公然知られたもので,意匠に係る物品が運動靴(スニーカー)で,その形態が甲第5号証(カタログ「FIRST QUARTER 2003」に掲載された広告)及び甲第6号証(請求人商品「ORIGIN」の2001年の広告)の写真に現したとおりのものである。
すなわち,引用意匠3の本件実線部分に相当する部分(以下,「引用意匠3相当部分」という。)は,靴甲部の両側面を構成する部分であり,ミッドソールに隣接してその上部に設けられた略変形台形状の部分である。そして,引用意匠3相当部分の形態は,(A)その外周形状について,(A-1)底辺を,ミッドソールと靴甲部の境界のほぼ直線とし,(A-2)上辺を,靴甲部に配置した鳩目に相当する部分の側部,靴甲部の稜線の傾斜角度と略平行に傾斜して引いた直線とし,(A-3)つま先側の斜辺を,つま先側に約60度傾斜して引いた直線とし,(A-4)かかと側の斜辺を,つま先側に約60度傾斜してつま先側の斜辺と平行に引いた直線とし,(A-5)その4辺により囲まれた略変形台形状とし,(B)その外周内側に形成される仕切り枠について,(B-1)外周の内側4辺に沿って仕切り枠は設けず,(B-2)外周内に縦に4本仕切り枠を設け,外周内を5等分し仕切り枠とほぼ同幅の略帯状凹部を5本形成し,(C)この仕切り枠によって形成される5本の略帯状凹部について,(C-1)凹部の間のみを仕切り枠で仕切り,(C-2)角をアール形状とせず,略長方形状とし,(C-3)5本ともつま先側に約60度で同じ角度に傾斜させ,(C-4)つま先側からかかと側にかけて徐々に縦方向に長くし,(C-5)メッシュ地としたものである。
(2) 本件登録意匠と引用意匠3との対比
両意匠を対比すると,以下の共通点と差異点がある。
<共通点>
両意匠は,以下の点で共通する。
すなわち,両意匠は,意匠に係る物品が「短靴」と「運動靴」で類似し,本件実線部分と引用意匠3相当部分が,靴の両側部分を構成する部分であり,ミッドソールに隣接してその上部に設けられた略変形台形状の部分であり,その部分の用途及び機能,そして,当該物品全体の形態の中での位置,大きさ,範囲が共通する。
また,本件実線部分と引用意匠3相当部分の形態において,(A)その外周形状について,(A-1)底辺を,ミッドソールと靴甲部の境界線の線とし,(A-2)上辺を,靴甲部に配置した鳩目に相当する部分の側部,靴甲部の稜線の傾斜角度と略平行に傾斜して引いた直線とし,(A-3)つま先側の斜辺を,つま先側に約60度傾斜して引いた直線とし,(A-4)かかと側の斜辺を,つま先側に約60ないし50度傾斜して引いた直線とし,(A-5)その4辺により囲まれた略変形台形状とし,(B)その外周内側に形成される仕切り枠について,(B-1)外周内に縦に4本設け,枠内を5等分し仕切り枠とほぼ同幅の略帯状凹部を5本形成し,(C)この仕切り枠によって形成される5本の略帯状凹部について,(C-1)凹部の間のみを仕切り枠で仕切り,(C-2)略四辺形とし,(C-3)5本ともつま先側に約60度で傾斜させ,(C-4)つま先側からかかと側にかけて徐々に縦方向に長くし,(C-5)メッシュ地とした点で共通するものである。
<差異点>
両意匠は,以下の点に差異がある。
すなわち,本件実線部分と引用意匠3相当部分の形態において,(a)その略変形台形状の外周形状について,(a-1)本件登録意匠は,底辺を,やや上方へ湾曲した線としているのに対し,引用意匠3は,ほぼ直線としている点,(a-2)かかと側の斜辺を,本件登録意匠は,つま先側に約50度傾斜してつま先側の斜辺とは傾斜角度が異なる直線としているのに対し,引用意匠3は,つま先側に約60度傾斜してつま先側の斜辺と平行に引いた直線としている点,(a-3)本件登録意匠は,上方の2つの角を湾曲させてアール形状としたのに対し,引用意匠3は,角の湾曲がない点,(b)その外周内側に形成される仕切り枠について,(b-1)本件登録意匠は,3辺のみに沿って設け,底辺には仕切り枠を設けずミッドソールに隣接させているのに対し,引用意匠3は,外周の内側4辺に沿って仕切り枠は設けていない点,(c)5本の略帯状凹部について,(c-1)本件登録意匠は,3辺のみに仕切り枠を設け,底辺をミッドソール境界線に隣接しているのに対し,引用意匠3は,凹部の間のみを仕切り枠で仕切っている点,(c-2)本件登録意匠は,上方の2つの角を湾曲させてアール形状とし,4辺の長さが全て異なるとともに,上辺よりも下辺を長尺とした略四辺形としているのに対し,引用意匠3は,角をアール形状とせず,略長方形状としている点,及び(c-3)本件登録意匠は,各々違った角度に傾斜させているのに対し,引用意匠1は,5本とも同じ角度に傾斜させている点に差異がある。
(3) 本件登録意匠と引用意匠3との類否判断
この種短靴や運動靴の使用状態等を考慮すると,靴を履いて使っている場合は,本人が上方から,また,他人が斜め上方から靴を視認するものであり,靴を着脱したり,運搬したりする場合は,その全体が視認されるものである。そして,この種靴の購入の際は,その全体の形態について注視するものである。したがって,この種靴の両側部分を構成する部分であり,ミッドソールの上部に設けられた略変形台形状の部分の意匠については,その形態の全体が需要者の注意を引くものと認められる。
そうすると,両意匠の基本的構成態様に係る差異点として,(b)仕切り枠について,(b-1)本件登録意匠は,3辺のみに沿って設け,底辺には仕切り枠を設けずミッドソールに隣接させているのに対し,引用意匠3は,外周の内側4辺に沿って仕切り枠は設けていない差異点,及び,(c)5本の略帯状凹部について,(c-1)本件登録意匠は,3辺のみに仕切り枠を設け,底辺をミッドソール境界線に隣接しているのに対し,引用意匠3は,凹部の間のみを仕切り枠で仕切っている差異点がある。これらの差異点は,外周の仕切り枠の有無という両意匠の基本的構成態様に係る差異であり,また,外周縁部全体に係るもので,大きな割合を占める構成態様における差異であり,看者の注意を引くものである。そして,この基本的構成態様に係る外周縁部の差異点に加えて,具体的構成態様における差異点,すなわち,(a)その略変形台形状の外周形状について,(a-1)本件登録意匠は,底辺を,やや上方へ湾曲した線としているのに対し,引用意匠3は,直線としている差異点,(a-2)かかと側の斜辺を,本件登録意匠は,つま先側に約50度傾斜してつま先側の斜辺とは傾斜角度が異なる直線とするのに対し,引用意匠3は,つま先側に約60度傾斜してつま先側の斜辺と平行に引いた直線としている差異点,(a-3)本件登録意匠は,上方の2つの角を湾曲させてアール形状としたのに対し,引用意匠3は,角の湾曲がない差異点,(c)5本の略帯状凹部について,(c-2)本件登録意匠は,上方の2つの角を湾曲させてアール形状とし,4辺の長さが全て異なるとともに,上辺よりも下辺を長尺とした略四辺形としているのに対し,引用意匠3は,角をアール形状とせず,略長方形状としている差異点,及び,(c-3)本件登録意匠は,各々違った角度に傾斜させているのに対し,引用意匠3は,5本とも同じ角度に傾斜させている差異点が相俟って,本件登録意匠は,角丸のやや変化に富んだ柔らかい意匠的効果があるのに対して,引用意匠3は,角張って直線的で堅い意匠的効果がある。したがって,基本的構成態様に係る外周縁部全体の構成態様の差異点と共に,各部の具体的構成態様における差異点が相俟って異なった意匠的効果があり,両意匠は全体として異なる美感を起こさせるものである。
これに対して,両意匠の共通する構成態様 ,(A) その外周形状について,略変形台形状とし,(B)その外周内に仕切り枠を縦に4本設け,枠内を5等分し仕切り枠とほぼ同幅の略帯状凹部を5本形成し,(C)この仕切り枠によって形成される5本の略帯状凹部について,(C-2)略四辺形とし,(C-3)5本ともつま先側に約60度で傾斜させ,(C-4)つま先側からかかと側にかけて徐々に縦方向に長くした構成態様は,両意匠の基本的構成態様のある程度の部分を占めるものではあるが,しかし,上記のとおり,基本的構成態様の大きな部分を占める外周縁部の構成態様において差異があり,両意匠は,基本的構成態様において相違するといわねばならない。
また,両意匠の共通する構成態様は,下記のように,引用意匠3の公知日(2001年6月)以前から広く知られた構成態様であって,新規な創作性があるものではなく,格別看者の注意を引くものではない。
すなわち,(A)その外周形状について,略変形台形状とし,(B)その内を5等分し同幅の略帯状部を5本形成し,(C)5本の略帯状部について,(C-2)略四辺形とし,(C-3)5本ともつま先側に約60度で傾斜させ,(C-4)つま先側からかかと側にかけて徐々に縦方向に長くした構成態様は,上記公知意匠(7)ないし(11)に見られるように引用意匠3の公知日前にすでに広く知られたものである。
したがって,両意匠の共通する構成態様は,引用意匠3の公知日以前から広く知られた構成態様であって,新規な創作性があるものではなく,格別看者の注意を引くものではないから,(本件登録意匠の3辺枠とした基本的構成態様や外周縁部全体の構成態様も,格別新規で創作性のある態様とはいえないとしても,)両意匠は,基本的構成態様の大きな部分を占める外周縁部全体の構成態様において差異があり,基本的構成態様において相違すると共に,各部の具体的構成態様が相俟って異なった意匠的効果があり,差異点が共通点を凌駕し,意匠全体として異なる美感を起こさせるものであり,類似しない。
(4) 小括
以上のように,本件登録意匠は,その出願前に日本国内又は外国において公然知られた引用意匠3に類似するものではなく,本件意匠登録は,意匠法第3条1項3号の規定に違反してされたものではない。
6.無効理由4について
(1) 本件登録意匠の創作非容易性について
本件登録意匠と,引用意匠1ないし3とは,上記のように基本的構成態様及び具体的構成態様において,多くの点で差異があり,引用意匠1ないし3を組み合わせたとしても本件登録意匠の構成態様を形成することはできない。したがって,本件登録意匠は,引用意匠1ないし3に基づき容易に創作できたものではない。
なお,請求人は,「引用意匠1においては5つの凹部の下端は底辺よりも上方に配置され,ミッドソールと接触していない,という点については,略長方形状のメッシュ状の空気穴が,ミッドソールと靴甲部の境界にまで伸びている引用意匠3と組み合わせることによって容易に創作できるものである」旨主張する。しかし,引用意匠1の底辺部をミッドソールに隣接させ,底辺部の仕切り枠をなくしたとしても,その結果形成される構成態様は,本件登録意匠の構成態様と対比すると,(a)その略変形台形状の外周形状について,(a-2)かかと側の斜辺を,本件登録意匠は,つま先側に約50度傾斜してつま先側の斜辺とは傾斜角度が異なる直線とするのに対し,引用意匠1は,つま先側に約60度傾斜してつま先側の斜辺と平行に引いた直線としている点,(a-3)本件登録意匠は,上方の2つの角を湾曲させてアール形状としたのに対し,引用意匠1は,角の湾曲がない点,(c)5本の略帯状凹部について,(c-2)本件登録意匠は,上方の2つの角を湾曲させてアール形状としているのに対し,引用意匠1は,角をアール形状としていない点,(c-3)本件登録意匠は,各々違った角度に傾斜させているのに対し,引用意匠1は,5本とも同じ角度に傾斜させている点に差異があり,引用意匠1と引用意匠3とを組み合わせることによって本件登録意匠が容易に創作できるものではない。
(2) 小括
以上のように,本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に本件登録意匠の属する分野における通常の知識を有する者が,引用意匠1ないし3の形状等に基づいて容易に創作することができたものではなく,本件意匠登録は,意匠法第3条第2項に違反してされたものではない。」
第3審決取消事由の要点
1 取消事由1(本件意匠と引用意匠1の類似性判断の誤り)
(1) 審決は,本件意匠と引用意匠1との共通点及び差異点を認定した上,両意匠の共通する構成態様は,引用意匠1の公知日以前から広く知られた構成態様であって,新規な創作性があるものではなく,格別看者の注意を引くものではないとし,両意匠は,基本的構成態様の大きな部分を占める底辺部の構成態様において差異があり,基本的構成態様において相違すると共に,各部の具体的構成態様が相俟って異なった意匠的効果があり,差異点が共通点を凌駕し,意匠全体として異なる美感を起こさせるものであり,類似しないと判断しているが,審決の判断は誤りである。
(2) スニーカーにおける靴側面の図形は,単純な靴のデザインの一部という意味を超え,一般的に,どのメーカーのスニーカーであるかを識別するための,いわばそのスニーカーの「顔」として認識されている。「ナイキ」の「スウォッシュマーク」,「アディダス」の3本のラインマーク,「ニューバランス」の「N」字のマーク,「アシックス」のストライプマーク等が存在する中で,原告である「ケイスイス」は斜めになった5本の帯状の図形をその製造する靴側面に付しており,これらは看者の注意を強く惹くものである。
原告が1987年にスニーカーの側面に5本の斜線を施した標章について商標登録出願を行ったが,これが商標登録されたのは,使用による顕著性が認められた10年後の1997年であったのに対し,「アディダス」が2000年にスニーカーの側面に3本の斜線を付した標章について商標登録出願を行った際には,翌年に商標登録されたことからも,2000年ころ以降は,スニーカーの側面に付された図形について,一般人が強く着目するようになったことが分かる。
審決が5本の略帯状部を有するものとして挙げる公知意匠(7)~(13)のうち,同(8),(9)及び(11)は原告の製品であり,同(10)も原告の製品である可能性がある。同(7)は5本の帯状部が隙間なく連続しているため本件意匠及び引用意匠1とも異なるものであり,公知意匠(13)は4本の略帯状部を有するものがそれによって区切られた側面部の地の部分が5本に見えるにすぎない。公知意匠(12)は,5本の略帯状部の傾斜角度及びその形状が本件意匠及び引用意匠1と明らかに異なるものである。
そうすると,両意匠の共通点である「靴側面に付された略台形状の外周内に,斜めに配置された5本の帯状の凹部からなる」という点は,看者の注意を惹くものであって本件意匠の要部であるというべきであり,これを共通にする本件意匠と引用意匠1には強い類似性が認められる。
(3) 審決の認定する差異点は,①意匠の底辺がミッドソールに隣接した部分まで延びているか否か,②意匠の上辺及び5本の略帯状凹部の上方をアール形状としているか否か,③5本の略帯状凹部の傾斜の角度が各々違った角度であるか否かの3点にまとめることができる。
そして,①の差異点は靴の底面に付される意匠としては特に顕著な相違を生じるものではなく,ほぼ同一のデザインにおけるバリエーションとして,ミッドソールに隣接した部分まで延びているものと,その上部で止まっているものの両方があるなど,かかるデザインのバリエーションはスニーカーにはよく見られるものであるから,この点を捉えて「基本的構成態様の大きな部分を占める底辺部の構成態様について差異があり,基本的構成態様において相違する」とした審決の判断は誤りである。
また,②の差異点は僅少なものである上,引用意匠1も決して意匠の上方及び略帯状凹部の上方が完全な角を形成しているものではなく,緩やかなアール形状となっているものである。
さらに,③の差異点も,本件意匠の5本の略帯状凹部に係る傾斜角度の違いは僅かであり,通常はかかる角度の違いなどはおよそ認識されるものではない。
そして,本件意匠の①~③に係る態様のいずれも,本件意匠登録出願時において公知である原告の1999年のカタログ「CLUB K・SWISS」(甲第16号証)に掲載されている意匠(以下「引用意匠4」という。)が備える要素であり,ありふれたものである。
(4) 以上によると,審決が認定した本件意匠と引用意匠1の共通点のうち「靴側面に付された略台形状の外周内に,斜めに配置された5本の帯状の凹部からなる」点は本件意匠の要部というべきであり,また,審決が認定する両意匠の差異点はいずれも僅少な差であって,本件意匠と引用意匠1が「意匠全体として異なる美観を起こさせるもの」ということはできないから,本件意匠と引用意匠1が類似しないとした審決の判断は誤りである。
2 取消事由2(本件意匠と引用意匠2の類似性判断の誤り)
審決は,本件意匠と引用意匠2についても類似しないと判断したが,この判断は誤りである。
引用意匠2は,引用意匠1にかなりの部分で類似しており,ただ,5本の略帯状凹部の内部がメッシュ地ではなく布地となっているものであるから,それ以外の点の類否については取消事由1において主張したところが当てはまる。
審決は,引用意匠2は外周の内側4辺に沿って仕切り枠は設けておらず,凹部の間のみを仕切り枠で仕切っている差異点があるとする。
しかしながら,引用意匠2においても,5本の略帯状凹部を前後からはさむ靴甲部の生地,また鳩目部分に使用される生地により,外周部分にも仕切り枠に相当する部分は存在するものであるから,これが存在しないものとした上,「外周の仕切り枠の有無という両意匠の基本的構成態様に係る差異」があるとした審決の判断は誤りである。
3 取消事由3(本件意匠と引用意匠3の類似性判断の誤り)
審決は,本件意匠と引用意匠3についても類似しないと判断したが,この判断は誤りである。
引用意匠3は,引用意匠1及び2とかなりの部分で類似しており,ただ,5本の略帯状凹部が,ミッドソールと靴甲部の境界線からやや上部に置かれているのではなく,ミッドソールに隣接した部分まで延びているものである。
したがって,本件意匠と引用意匠3との関係では,本件意匠と引用意匠1の間に存した差異点①~③のうち,①の差異点は存在しない。
審決は,本件意匠においては底辺が「やや上方へ湾曲した線」であるのに対し,引用意匠3においては「ほぼ直線としている」という差異があるとするが,かかる差異は僅少なものであり,両意匠の類似性を否定するものではない。
また,審決は,引用意匠2についてと同様に,引用意匠3は,外周の内側4辺に沿って仕切り枠は設けておらず,凹部の間のみを仕切り枠で仕切っている差異点があるとするが,引用意匠2についてと同様の理由により,この点の審決の判断は誤りである。
4 取消事由4(創作容易性についての判断の誤り)
審決は,引用意匠1及び同3の組合せについて,たとえ引用意匠1を同3のようにミッドソールと靴甲部の境界にまで延ばしたとしても,本件意匠との間では,意匠の上方及び5本の略帯状凹部の上方をアール形状としている点,5本の略帯状凹部の傾斜の角度が各々違った角度である点について差異が残るため,引用意匠1と同3を組み合わせることによって,本件意匠が容易に創作できるものではないとする。
しかしながら,そもそも本件意匠の上方及び5本の略帯状凹部の上方のアール形状は,全体の意匠の大きさからすれば僅かなものであって,かかる僅少な差異は,全体の構成要素の強い類似性からみて,無視できるほど小さいものであり,また,5本の略帯状凹部の傾斜の角度が各々違った角度であるという点についても,非常に僅かな角度の違いであって,他の強い類似性を凌駕して両意匠を異ならしめるものではないから,審決の判断は誤りである。
第4被告の主張の要点
1 取消事由1(本件意匠と引用意匠1の類似性判断の誤り)に対して
(1) 原告は,審決が認定した本件意匠と引用意匠1の共通点のうち「靴側面に付された略台形状の外周内に,斜めに配置された5本の帯状の凹部からなる」点は本件意匠の要部というべきであって,審決が認定する両意匠の差異点はいずれも僅少な差であり,「意匠全体として異なる美観を起こさせるもの」ということはできないと主張する。
しかしながら,審決が本件意匠と引用意匠1の共通する構成態様は引用意匠1の公知日以前から広く知られた構成態様であって,新規な創作性があるものではなく,格別看者の注意を惹くものではないと判断したことに誤りはない。靴は手に持ってみることができることから,店頭などにおいて需要者・取引者は靴を手にとって全体を詳細に見分するものであり,特定の部分のみを注視して他の部分を軽く見る等の区別をすることはなく,全体が需要者・取引者の注意を惹くものであることは経験則から明らかであり,この場合において,公知部分が看者の注意を惹かないことは当然である。
原告は,この点に関し,スニーカーにおける靴側面の図形は単純な靴のデザインの一部という意味を超え,スニーカーの「顔」として認識されている旨主張するが,この点は,上記審決の判断とは全く関連性がない上に,原告提出の証拠においても,一部のメーカーのものが取り上げられているにすぎず,また,靴側面の図は少量であって,上面,正面,全面,斜め上方からの写真が圧倒的に多いのであり,そもそも「靴側面の図形がスニーカーの『顔』となっている」ということは到底できない。
(2) 原告は,「意匠の底辺がミッドソールに隣接した部分まで延びているか否か」について,このようなデザインの違いは,スニーカーには一般的に認められるデザインのバリエーションの違いにすぎないと主張する。
しかしながら,このようなバリエーションは,原告提出の証拠(甲第7,第8,第17~第19号証)においていくつかの例が示されているのみである上,これらは3本の線を側面に表示した靴についてのものであるから,本件意匠と引用意匠1のデザインの差異がバリエーションの違いであることを示すものではない。5本線を表示した靴についての引用意匠4を考慮しても,「靴の側面に付された図形の底辺がミッドソールに隣接した部分まで延びて」いない意匠の方がはるかに多い。
また,原告は,「意匠の上方及び5本の略帯状凹部の上方をアール形状としているか否か」について,引用意匠1も,意匠の上方及び略帯状凹部の上方が完全な角を形成しているものではなく,緩やかなアール形状となっていると主張する。
しかしながら,肉眼により観察した限りでは,引用意匠1の該当部分に「緩やかなアール形状」を明確に認識することはできない。仮に,該当部分を拡大すればこれが存在するとしても,通常の取引における観察方法によって確認し得ないようなものは,類比判断の対象とはならないというべきである。
さらに,原告は,「5本の略帯状凹部の傾斜の角度が各々違った角度であるか否か」について,傾斜の角度は僅かであり,通常はかかる角度の違いなどはおよそ認識されるものではないと主張するが,本件意匠の5本の略帯状凹部の傾斜が各々違った角度であることは,拡大図を見るまでもなく,通常の取引時の肉眼による観察においても明らかに認識することができるものであり,引用意匠4がそのようなものであるとしても,そのことのみによってこのような意匠がありふれたものであるということはできない。
(3) したがって,原告の主張は失当であり,本件意匠と引用意匠1の類似性についての審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(本件意匠と引用意匠2の類似性判断の誤り)に対して
原告は,引用意匠2は,引用意匠1にかなりの部分で類似しており,ただ,5本の略帯状凹部の内部がメッシュ地ではなく布地となっているものであるから,それ以外の点の類否については取消事由1において主張したところが当てはまると主張する。
しかしながら,そもそも引用意匠1と同2は全く別の意匠であり,本件意匠と引用意匠2の差異点が本件意匠と引用意匠1の差異点と共通性を有することはあり得ない。また,本件意匠と引用意匠1は非類似のものであることは上記1のとおりであるから,引用意匠2が引用意匠1に「かなりの部分」で類似するとしても,本件意匠と引用意匠2は非類似というほかない。
さらに,「5本の略帯状凹部の前後からはさむ靴甲部の生地,また鳩目部分に使用される生地」からは,一定幅を有する仕切り枠を本件意匠のように視覚により全く確認することはできず,引用意匠2にも「仕切り枠に相当する部分」があるとすることはできないし,本件意匠は,仕切り枠によって内部に配置した5本の略帯状凹部がまとまって一体的に配置された印象を与えるのに対し,引用意匠2にはこのような仕切り枠が設けられていることが視覚により全く確認できないため,内部に配置した5本の略帯状凹部が全体的にまとまりなく,ばらけた状態で配置された印象を与えるものである。
したがって,原告の主張は失当であり,本件意匠と引用意匠2の類似性についての審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3(本件意匠と引用意匠3の類似性判断の誤り)に対して
原告は,引用意匠3は,引用意匠1及び2とかなりの部分で類似しており,ただ,5本の略帯状凹部が,ミッドソールと靴甲部の境界線からやや上部に置かれているのではなく,ミッドソールに隣接した部分まで延びているものであると主張する。
しかしながら,そもそも引用意匠3は,引用意匠1及び同2とは全く別の意匠であり,本件意匠と引用意匠2の差異点が本件意匠と引用意匠1及び同2の差異点と共通性を有することはあり得ない。また,本件意匠と引用意匠1及び同2は非類似のものであることは上記1のとおりであるから,引用意匠3が引用意匠1及び同2に「かなりの部分」で類似するとしても,本件意匠と引用意匠3は非類似というほかない。
さらに,上記2と同様,引用意匠3からは,「仕切り枠に相当する部分」があるとすることはできないし,そのために本件意匠と引用意匠3は異なる印象を与えるものである。
したがって,。本件意匠と引用意匠3の類似性についての審決の判断に誤りはない。
4 取消事由4(創作容易性についての判断の誤り)に対して
原告は,引用意匠1と同3を組み合わせることによって本件意匠を創作することは容易である旨主張するが,これを具体的に理由付ける主張をしておらず,失当であって,本件意匠の創作容易性についての審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(本件意匠と引用意匠1の類似性判断の誤り)について
原告は,本件意匠と引用意匠1の共通点のうち「靴側面に付された略台形状の外周内に,斜めに配置された5本の帯状の凹部からなる」点は本件意匠の要部というべきであり,また,審決が認定する両意匠の差異点はいずれも僅少な差であって,本件意匠と引用意匠1が「意匠全体として異なる美観を起こさせるもの」ということはできないから,本件意匠と引用意匠1が類似しないとした審決の判断は誤りであると主張するので,以下,この点について検討する。
(1) 本件意匠と引用意匠1の類似性についての審決の判断
ア 共通点の認定
審決は,本件意匠と引用意匠1の意匠に係る物品が「短靴」と「運動靴」で類似しているとしたほか,両意匠の共通点につき,次のように認定した。
(ア) 部分意匠である本件意匠と引用意匠1の相当部分は,いずれも靴の両側部分を構成する部分であって,ミッドソールの上部に設けられた略変形台形状の部分であり,その用途及び機能,物品全体の形態の中での位置,大きさ,範囲がほぼ共通する。
(イ) 外周形状について,底辺をミッドソールと靴甲部の境界線の上部の線,上辺を靴甲部に配置した鳩目に相当する部分の側部に靴甲部の稜線の傾斜角度と略平行に傾斜して引いた直線とし,つま先側斜辺をつま先側に約60度傾斜して引いた直線,かかと側斜辺をつま先側に約50~60度傾斜して引いた直線として,これら4辺により囲まれた略変形台形状とする点で共通する。
(ウ) さらに,外周の内側3辺に沿って設けられた仕切り枠と,外周に沿う枠内に縦に4本設けられた仕切り枠によって枠内を5等分し,仕切り枠とほぼ同幅の略帯状凹部を5本形成し,各仕切り枠によって形成される5本の略帯状凹部につき,3辺を仕切り枠で囲み,4辺の長さが全て異なるとともに,上辺よりも下辺を長尺とした略四辺形とし,5本ともつま先側に約60度で傾斜させ,つま先側からかかと側にかけて徐々に縦方向に長くし,メッシュ地とした点で共通する。
イ 差異点の認定
審決は,当該物品全体の形態の中での位置につき,部分意匠である本件意匠はミッドソールに隣接した部分であるのに対し,引用意匠1の相当部分はミッドソールのやや上部に設けられた部分である点で差異があるとしたほか,本件意匠と引用意匠1の差異点につき,次のように認定した。
(ア) 略変形台形状の外周形状につき,本件意匠は底辺をミッドソールと靴甲部の境界をなすやや上方へ湾曲した線としているのに対し,引用意匠1は底辺をミッドソールと靴甲部の境界線からやや上部にミッドソールに平行に引かれた直線としている点,本件意匠はかかと側の斜辺をつま先側に約50度傾斜してつま先側の斜辺とは傾斜角度が異なる直線としたのに対し,引用意匠1はつま先側に約60度傾斜してつま先側の斜辺と平行に引いた直線としている点,本件意匠は上方の2つの角を湾曲させてアール形状としたのに対し,引用意匠1は角に湾曲がない点で差異がある。
(イ) 外周内側に形成される仕切り枠につき,本件意匠は3辺のみに沿って設け,底辺には仕切り枠を設けずミッドソールに隣接させているのに対し,引用意匠1は底辺にも設け,外周の内側4辺に沿って設けている点で差異がある。
(ウ) 5本の略帯状凹部につき,本件意匠は3辺のみに仕切り枠を設け,底辺をミッドソール境界線に隣接しているのに対し,引用意匠1は4辺を仕切り枠で囲んでいる点,本件意匠は上方の2つの角を湾曲させてアール形状としたのに対し,引用意匠1は角をアール形状としていない点,本件意匠は各々違った角度に傾斜させているのに対し,引用意匠1は5本とも同じ角度に傾斜させている点で差異がある。
ウ 共通点及び差異点の評価
審決は,上記ア,イの共通点及び差異点の認定を前提として,本件意匠と引用意匠1は,基本的構成態様において相違するとともに,各部の具体的構成態様における差異点が相俟って異なった意匠的効果があり,差異点が共通点を凌駕して,意匠全体として異なる美感を起こさせるものであると評価したものである。しかるところ,当該評価においては,差異点のうち,本件意匠はミッドソールに隣接した部分であるのに対し,引用意匠1の相当部分はミッドソールのやや上部に設けられた部分である点,外周形状につき,本件意匠は底辺をミッドソールと靴甲部の境界線としているのに対し,引用意匠1は底辺をミッドソールと靴甲部の境界線からやや上部に引かれた直線としている点,外周内側の仕切り枠につき,本件意匠は3辺のみに沿って設け,底辺には仕切り枠を設けずミッドソールに隣接させているのに対し,引用意匠は外周の内側4辺に沿って設けている点,5本の略帯状凹部につき,本件意匠は3辺のみに仕切り枠を設け,底辺をミッドソール境界線に隣接しているのに対し,引用意匠1は4辺を仕切り枠で囲んでいる点が,3辺枠か4辺枠かという両意匠の基本的構成態様に係り,かつ,大きな割合を占める底辺部全体の構成態様における差異であって,看者の注意を引くものであると判断され,他方,本件意匠と引用意匠1に共通する構成態様である,略変形台形状の外周形状枠内を仕切り枠によって等分して,ほぼ同幅の略帯状凹部を数本形成し,その各略帯状凹部を略四辺形とし,つま先側に約60度で傾斜させ,つま先側からかかと側にかけて徐々に縦方向に長くした構成態様は公知意匠(1)~(6)により,また,略変形台形状の外周形状枠内を5等分して,同幅の略帯状部を5本形成し,その各略帯状部を略四辺形とし,つま先側に約60度で傾斜させ,つま先側からかかと側にかけて徐々に縦方向に長くした構成態様(以下「5本の略帯状部に係る構成態様」という。)は公知意匠(7)~(13)により,ぞれぞれ引用意匠1の公知日以前から広く知られた構成態様であり,新規な創作性があるものではないから,格別看者の注意を引くものではないと判断されている。
なお,公知意匠(1)~(6)の構成は以下のとおりである(公知意匠(7)~(13)の構成については,後記(2)において個別に示す。)。
file_4.jpg(Ame) (ame) Pil 103017874.(2) 審決が,上記(1)ウのとおり,5本の略帯状部に係る構成態様が格別看者の注意を引くものではないと評価した根拠は,公知意匠(7)~(13)から,同構成態様が引用意匠1の公知日以前において広く知られたものであるとする点にある。
そこで,これらの公知意匠について順次検討する。
公知意匠(7)は,意匠登録第406833号に係る「短靴」の意匠であって,その構成は下記のとおりであり,略変形台形状の外周形状を有するものと認められるものの,その内部の態様に関しては,4本のごく狭小の仕切り枠によって仕切られて5本の略帯状部が形成されたようにも見えるが,3本の略帯状部が,これらと同幅の仕切り枠によって仕切られて形成されたと見ることもでき,必ずしも5本の略帯状部を形成した構成態様であると即断することはできない。
file_5.jpg公知意匠(8)は雑誌「FOOTWEAR NEWS」6号45巻112頁所載の写真に示された「運動靴」の意匠,同(9)は同誌9号45巻44頁所載の写真に示された「運動靴」の意匠,同(11)は雑誌「モノマガジン」21号14巻187頁所載の写真に示された「運動靴」の意匠であって,その各構成は下記のとおりである。 公知意匠(8),同(9)及び同(11)は,いずれも略変形台形状の外周形状内に5本のほぼ同幅の略帯状部を形成し,その各略帯状部を略四辺形とし,つま先側に約60度で傾斜させ,つま先側からかかと側にかけて徐々に縦方向に長くしたものといえるが,上記各写真に示された「運動靴」には,いずれも,甲第4~第6,第16,第18号証所載の各原告製品に付された左記標章と同じ標章が付されており,このことに照らすと,これらの意匠は原告製品である運動靴に係るものと認められる。
file_6.jpgfile_7.jpg(snl (8)) moioivi7e (asm)公知意匠(10)はカタログ「BELLEMAISON シューズデイズ」12頁所載の写真に示された「くつ」の意匠であって,その構成は下記のとおりであり,側面部に5本の略帯状部を形成し,その略帯状部を略四辺形とし,つま先側に約60度で傾斜させ,つま先側からかかと側にかけて徐々に縦方向に長くしたものであると認められる。しかしながら,上記5本の略帯状部が略変形台形状の外周形状内に形成されていることについては,必ずしも明確に認識することができないものである。
file_8.jpg(Ase (10))公知意匠(12)は雑誌「ARS sutoria」296巻236頁所載の写真に示された「靴」の意匠であって,その構成は下記のとおりであり,略変形台形状の外周形状内に5本の略帯状部を形成し,つま先側からかかと側にかけて徐々に縦方向に長くしたものといえるが,各略帯状部の上辺に相当する部分は,直線状の辺ではなく,アール形状をなしており,各略帯状部が略四辺形をなしているとはいい難い上,かかと側の略帯状部の傾斜角度は約60度より小さいことが一瞥して見て取れるものである。なお,略帯状部はメッシュ地となっており,下辺はミッドソールに隣接しているものと認められる。
file_9.jpg(aso 12) ) \ Q公知意匠(13)は意匠登録第1143438号に係る「短靴」の意匠であって,その構成は下記のとおりであり,ミッドソールと靴甲部の境界線からやや上部でミッドソールに平行に引かれた直線を底辺とした略変形台形状の外周形状を有し,その内部に,下辺が上記略変形台形の底辺を超えてミッドソールと隣接する位置まで延長された4本の略帯状部を形成した態様のものである。もっとも,当該4本の略帯状部自体を仕切り枠と捉えれば,上記略変形台形状の外周形状枠内に配設された生地が,これによってその内部の4箇所で仕切られ,5本の略帯状部を形成したものと見られなくもないが,少なくとも,5本の略帯状部を形成したものと自然に感得し得るような態様のものということはできない。
file_10.jpg(amee03))そうすると,審決が「引用意匠1の公知日前にすでに広く知られたもの」とする,5本の略帯状部に係る構成態様は,審決の挙げる公知意匠(7)~(13)のうち,公知意匠(8)~(11)において見られるのみであるというべきであるが,これらは,公知意匠(10)の1例を除き,その余は,引用意匠1と同様(引用意匠1が原告製品である運動靴に係る意匠であることは,甲第2,第3号証によって認められる。),原告製品である運動靴に係る意匠であると認められる。しかも,公知意匠(10)は,略変形台形状の外周形状について必ずしも明確に認識することができないことは上記のとおりである。
(3) ところで,意匠法にいう「意匠」とは,物品(物品の部分を含む。),の形状模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるものをいうのであり(意匠法2条1項),同法3条1項3号が,同項1,2号の意匠(公知意匠)と並んで,これに類似する意匠についても意匠登録を受けることができない旨規定しているのは,公知意匠に係る物品と同一又は類似の物品につき,公知意匠に類似する美感を起こさせるような意匠については,独占的実施権である意匠権を付与するに値しないと考えられるからであり,意匠権の効力が,登録意匠に類似する意匠,すなわち,登録意匠に係る物品と同一又は類似の物品につき,登録意匠と類似の美感を起こさせる意匠について及ぶものとされている(同法23条)ことと裏腹の関係にあるものである。
したがって,同法3条1項3号に係る意匠の類否判断とは,同号該当の有無が問題とされている意匠と公知意匠のそれぞれから生ずる美感の類否についての判断をいうものであり,その判断は,意匠に係る物品の全体(部分意匠については当該部分の全体)に係る構成態様及び各部の構成態様について認定した共通点及び差異点を,それらが類否判断に与える影響を各々評価した上で,それらを総合して行うべきものである。そして,その場合に,共通点又は差異点の認定に係る構成態様がよく知られたものであるときは,そのような構成態様は通常ありふれたものであるから,一般に看者の注意を引き難くなり,そのような構成態様に係る共通点又は差異点が類否判断に及ぼす影響も相対的に小さいことが多く,したがって,両意匠の共通点をなす構成態様がよく知られたものであるときは,当該共通点によって両意匠が類似と判断される度合いは低くなることが多いということはできる。しかしながら,ある物品に係る特定の製造販売者が,その製造販売に係る当該物品の特定の部位に,特定の構成態様からなる意匠を施し,そのような意匠が施された物品が,当該特定の製造販売者の製造販売に係る商品として,長年にわたり,多量に市場に流通してきたため,当該意匠の態様が,その製造販売者を表示するいわばロゴマークに相当するものとして,需要者に広く知られるに至ったような場合においては,当該物品に関する限り,そのような意匠の態様は,広く知られているからといって,看者の注意を引き難くなるものではなく,むしろ,広く知られているために,かえって,その注意を引くものであることは明らかであり,そうであれば,そのような構成態様が共通する場合においては,その共通点が意匠の類否判断に及ぼす影響は,相対的に大きいものとなるというべきである。
しかるところ,上記(2)の認定事実に,甲第4~第6,第15,第16,第18号証及び弁論の全趣旨を総合すれば,5本の略帯状部に係る構成態様は,原告がその製造販売する運動靴(スニーカー)の側面に施してきたものであって,かかる意匠を施した運動靴が,原告の製造販売する商品として,長年にわたり,多量に市場に流通してきたために,本件意匠の登録出願日前までに,かかる5本の略帯状部に係る構成態様は,原告を表示するいわばロゴマークに相当するものとして,需要者に広く知られるに至っていたものと認めることができる。そして,略変形台形状の外周形状について必ずしも明確に認識することのできない公知意匠(10)の1例が存在するのみでは,かかる認定を覆すに足りず,他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。
そうすると,5本の略帯状部に係る構成態様が,広く知られているものであるゆえに格別看者の注意を引くものでないとした審決の評価は誤りといわざるを得ず,かかる構成態様は逆に看者の注意を引くものというべきである。
(4) そこで,本件意匠と引用意匠1の類否について検討するに,本件意匠と引用意匠1の意匠に係る物品が類似するほか,両意匠に上記(1)のアの各共通点が認められることは,審決の認定のとおりであるが,これらの共通点のうち,5本の略帯状部に係る構成態様,すなわち,略変形台形状の外周形状枠内を5等分して,同幅の略帯状部を5本形成し,その各略帯状部を略四辺形とし,つま先側に約60度で傾斜させ,つま先側からかかと側にかけて徐々に縦方向に長くした構成態様が,広く知られているものであるゆえに格別看者の注意を引くものでないとした審決の評価は誤りであって,かかる構成態様は逆に看者の注意を引くものであることは,上記(3)のとおりである。
そして,5本の略帯状部に係る構成態様を含む,略変形台形状の外周形状枠内を5等分して,メッシュ地よりなる同幅の略帯状凹部を5本形成し,その各略帯状凹部を略四辺形とし,つま先側に約60度で傾斜させた構成態様は,両意匠の意匠に係る物品におけるその位置関係,意匠全体に占めるその割合,その機能等にかんがみて,両意匠の最も特徴的な部分であり,看者の注意を強く引くものであると認めることができ,本件意匠と引用意匠1は,このような構成態様において共通するものである。
他方,本件意匠と引用意匠1に,上記(1)のイの各差異点(ただし,後記外周形状の上方つま先側の角の形状に関する点を除く。)があることは,審決の認定のとおりである。そして,審決が,両意匠の基本的構成態様に係るものとして挙げた各差異点,すなわち,本件意匠はミッドソールに隣接した部分であるのに対し,引用意匠1の相当部分はミッドソールのやや上部に設けられた部分である点,外周形状につき,本件意匠は底辺をミッドソールと靴甲部の境界線としているのに対し,引用意匠1は底辺をミッドソールと靴甲部の境界線からやや上部に引かれた直線としている点,外周内側の仕切り枠につき,本件意匠は3辺のみに沿って設け,底辺には仕切り枠を設けずミッドソールに隣接させているのに対し,引用意匠1は外周の内側4辺に沿って設けている点,5本の略帯状凹部につき,本件意匠は3辺のみに仕切り枠を設け,底辺をミッドソール境界線に隣接しているのに対し,引用意匠1は4辺を仕切り枠で囲んでいる点が,結局,部分意匠である本件意匠及び引用意匠1のこれに相当する部分がそれぞれ3辺枠か4辺枠か(底辺がミッドソールと靴甲部の境界線に隣接するか,これとの間に間隔があるか)という差異に帰着することも審決の判断のとおりであるが,当該差異は,畢竟,上記略変形台形状の外周形状枠内を5等分して,メッシュ地よりなる同幅の略帯状凹部を5本形成し,その各略帯状凹部を略四辺形とし,つま先側に約60度で傾斜させた構成態様の底辺部における差異であるにすぎず,上記構成態様との関係では相対的に目立たない部分に係るものである上,甲第16~第19号証によれば,靴の両側部に略帯状部を形成した意匠において,略帯状部の下辺をミッドソールと靴甲部の境界線に隣接させる構成態様も,これとの間に間隔を設ける態様も,ともにありふれていることが認められる,なお(複数のメーカーの商品に,それぞれ両態様があることが認められるので,略帯状部の下辺をミッドソールと靴甲部の境界線に隣接させる態様又は間隔を設ける態様が,5本の略帯状部に係る構成態様のように,製造販売者を表示するいわばロゴマークに相当するものということもできない。)のであるから,上記差異は,格別看者の注意を引くものではないというべきである。
さらに,審決が,各部の具体的構成態様における差異であるとする差異点のうち,略変形台形状の外周形状及び5本の略帯状凹部について,本件意匠は上方の2つの角を湾曲させてアール形状としたのに対し,引用意匠1は角に湾曲がない点(なお,引用意匠1における外周形状の上方の2角のうち,少なくともつま先側の角については,アール形状となっていることが認められ,この点については,審決の差異点の認定自体が誤りである。)は,それぞれ上辺の微細な点に関する差異であり,また,略変形台形状の外周形状につき,本件意匠はかかと側の斜辺をつま先側に約50度傾斜してつま先側の斜辺とは傾斜角度が異なる直線としたのに対し,引用意匠1はつま先側に約60度傾斜してつま先側の斜辺と平行に引いた直線としている点,及び5本の略帯状凹部につき本件意匠は各々違った角度に傾斜させているのに対し,引用意匠1は5本とも同じ角度に傾斜させている点は,わずかな角度の相違に基づくものであって,一見して直ちに感得し得るようなものではなく,いずれも看者の注意を引かない微差であるというべきである。
そうすると,その余の差異点も含め,本件意匠と引用意匠1との差異点は,上記のとおり,両意匠の最も特徴的な部分であり,看者の注意を強く引くものであると認められる,略変形台形状の外周形状枠内を5等分して,メッシュ地よりなる同幅の略帯状凹部を5本形成し,その各略帯状凹部を略四辺形とし,つま先側に約60度で傾斜させた構成態様における共通点を凌駕するものとはいえず,両意匠が意匠全体として異なる美感を起こさせるものと認めることはできないから,両意匠は類似すると認めるのが相当である。
(5) 以上のとおり,本件意匠と引用意匠1とが類似しないとした審決の判断は誤りであり,取消事由1は理由がある。
2 結論
以上の次第で,取消事由1は理由があるから,その余の点について判断するまでもなく,審決は取り消しを免れない。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石原直樹 裁判官 榎戸道也 裁判官 杜下弘記)