知財高等裁判所 平成19年(行ケ)10407号 判決 2008年5月28日
原告
株式会社パルカ
被告
オリンパス株式会社
訴訟代理人弁護士
水谷直樹
同
岩原将文
同
曽我部高志
主文
1 原告の下記請求1を棄却する。
2 原告の下記請求2,3に係る訴えをいずれも却下する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 特許庁が再審2006-95007号事件について平成19年10月26日にした審決(以下「本件審決」ということがある。)を取り消す。
2 特許庁が無効2004-80013号事件について平成17年2月16日にした審決(以下「原審決」という。)を取り消す。
3 原審決に対する審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10397号)の確定判決(平成18年4月17日判決言渡)を取り消す。
第2事案の概要
原告は,発明の名称を「ビデオディスプレイ装置」とする後記特許第3129719号(出願平成元年4月21日,登録平成12年11月17日)の特許権者であったところ,被告からの無効審判請求によりその請求項1を無効とする審決がなされたので,その審決(原審決)に対して再審請求をしたところ,特許庁から請求却下の審決を受けた。本件は,原告がその取消しを求めるとともに,原審決の取消し及び原審決に対する審決取消訴訟の確定判決の取消しを求めた事案である。
争点は,原審決に特許法171条2項で準用する民訴法338条1項9号の再審事由(判断遺脱)等があるか,である。
第3当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁等における手続の経緯
ア 原告は,平成元年4月21日,名称を「ビデオディスプレイ装置」とする発明について特許出願(特願平1-102877号)をし,平成12年11月17日特許第3129719号として特許権の設定登録を受けた(請求項の数3。以下「本件特許」という。甲17)。
イ これに対し被告は,平成16年4月13日付けで本件特許の請求項1に係る発明について無効審判請求(以下「本件無効審判請求」という。)をしたところ,特許庁は,同請求を無効2004-80013号事件として審理した上,平成17年2月16日,本件特許の請求項1に係る発明についての特許を無効とする旨の審決(原審決)をした。
ウ そこで原告は,平成17年3月22日,その審決の取消しを求める訴訟(以下「前訴」という。)を提起したところ,知的財産高等裁判所は,平成18年4月17日,請求棄却の判決(平成17年(行ケ)第10397号。以下「前訴判決」という。甲24)をし,これに対し,原告は上告及び上告受理の申立てをしたが,最高裁判所は,平成18年9月21日,上告棄却及び上告不受理の決定をした(甲10)ので,原審決は確定した。
エ これを受けて原告は,平成18年10月23日,確定審決たる原審決に対する再審の請求(以下「本件再審請求」という。)をしたので,特許庁は,同請求を再審2006-95007号事件として審理した上,平成19年10月26日,同請求を却下する旨の審決をし,その謄本は平成19年11月7日原告に送達された。
オ なお原告は,平成18年10月19日,知的財産高等裁判所に対し前訴判決について再審の訴えを提起した(平成18年(行ソ)第10001号)ところ,同裁判所は平成18年12月13日,上記再審請求を棄却する旨の決定(甲27)をした。原告は,同決定に対して特別抗告及び許可抗告の申立てをしたところ,許可抗告の申立てにつき同裁判所は平成19年1月11日,これを許可しない旨の決定をしたことから,原告は同決定に対しても特別抗告をし,これを受けて最高裁判所は,平成19年3月16日,上記2件の特別抗告を棄却する旨の決定をした。
(2) 発明の内容
本件特許の請求項1は,次のとおりである(以下「本件特許発明」という)。
「映像情報信号を表示する左眼用と右眼用のディスプレイと,左眼と前記左眼用のディスプレイの間に配置される左眼用の拡大光学系と,右眼と前記右眼用のディスプレイの間に配置される右眼用の拡大光学系と,前記ディスプレイと拡大光学系を,左眼用と右眼用のディスプレイにそれぞれ同一の映像情報を表示させたとき,前記左眼用のディスプレイに表示された映像情報を前記左眼用の拡大光学系を通して左眼で見る拡大された画面の虚像と前記右眼用のディスプレイに表示された映像情報を前記右眼用の拡大光学系を通して右眼で見る拡大された画面の虚像とが,左右の眼からの虚像の距離に生成されるようにし,
かつ左右の眼が各々の画面の虚像に向けられるとき,人間の眼の間隔をde,拡大光学系の像倍率をmとすると,各々のディスプレイの画面の中心から(de/2)×(1/m)だけ水平方向の外側の点からの光線が左右の拡大光学系を通って左右の眼に注がれるとき,その光線が平行となるように配置することで,左右の画面の虚像が画面全体において一致するように構成したビデオディスプレイ装置。」
(3) 審決の内容
審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,原告主張の再審事由(判断遺脱)は,原告が知りながら前訴において主張しなかったもの又は原告が前訴において主張し前訴判決において判断されたものであるから,特許法171条2項で準用する民訴法338条1項ただし書により本件再審請求は不適法である,というものである。
(4) 審決の取消事由
ア 取消事由1(再審理由1[翻訳文の成立の判断の遺脱]についての認定判断の誤り)
(ア) 審決は,再審理由1を「原審決は,翻訳文の正確性について審判被請求人に意見を述べる機会を与えるべきか否かの判断を怠り,証拠の認定において『翻訳文の成立に争いはない』と判断をした。原審決には,意見を述べる機会を与えるべきか否かの判断を怠った,という『判断の遺脱』がある。」と認定し(2頁下5行~下1行,6頁10行~14行),そして,「…再審請求人は『意見を述べる機会を与えるべきか否かの判断を怠った』ことについて審決取消訴訟において既に知っていたにもかかわらず,そのこと自体を主張してはいない。これは,ただし書きにいう『これを知りながら主張しなかったとき』に該当することは明らかである。」(6頁23行~26行),「判決は『意見を述べる機会を与えるべきか否かの判断を怠った』ことについて判断をしてはいないが,それは,上述したように再審請求人がそのこと自体の主張をしていないためである。」(6頁28行~30行),「他方,判決は,後記のとおり,甲1の『視覚的に離間された~(ocularly spaced~)』について,全文翻訳文(甲1のクレームに記載された『ocularly spaced』をも含む)を考慮して判断をしている。このことは,判決が,…『意見を述べる機会を与えなかった』ことは再審請求人において既に承伏済みであり,審決取消訴訟における主張の段階で既に治癒・解消されていると判断をしていることを示すものである。『意見を述べる機会を与えなかった』ことについては実質的に判断を示している。」(6頁31行~7頁2行)と判断した。
(イ) しかし,審決は再審理由1の認定を誤っており,「原審決には,意見を述べる機会を与えるべきか否かの判断を怠り,そして,翻訳文が正確であるか否か(『原文作成者』の意思に基づいて作成されたものであるか否か)の判断を怠った,という『判断の遺脱』がある。」と認定されなければならない。そして,原告は,前訴において,準備書面(2)(甲23,8頁9行~14行,21頁22行~22頁20行)と準備書面(4)(甲8,10頁2行~17行,28頁20行)で,「全訳文に対して反論の機会を与えられずになされた原審決には,適法性に係わる重大な問題が存在すること(訳文認定の手続違反,判断の遺脱)」と「原審決の判断の根拠となる訳文自体が誤りであること(訳文の正確性)」を主張したから,再審理由1を主張していた。他方,前訴判決(甲24)は,原審決が「翻訳文の成立について争いはない」(甲13,5頁1行)としたことを,前提事実(争いのない事実,不要証事実)として裁判の基礎に用いているから,前訴判決は再審理由1について全く判断を示していない。このことは,前訴判決(甲24)が「審決の理由の要旨」に原審決の「当審の判断」の文頭文「甲第1号証ないし甲第6号証の成立及び審判請求人が提出した甲第1号証の翻訳文の成立について争いはない」(甲13,4頁37行~5頁1行)を記載していないこと,原審決が記載していない甲1の第1パラグラフを新たに引用記載したこと(甲24,14頁7行~10行)等から明らかである。
(ウ)a 民訴法338条1項ただし書前段の趣旨は,上訴で主張し判断を得た事由について再審の訴えで再び主張することを禁止することにある。そうすると,上訴で主張しても裁判所の判断が得られなかった場合は「特段の事情」がある場合に該当する。したがって,再審理由1は,前訴において原告が既に主張したものに該当するが「特段の事情」を有するものである。
b また,仮に上記aの主張が認められないとしても,民訴法338条1項ただし書前段の趣旨からすると,再審理由1は,原告が前訴で主張しても裁判所の判断を得ることができなかったから,同項ただし書が規定する「主張したとき」には該当しない。
c さらに,民訴法338条1項ただし書後段の趣旨は,「再審の訴えが上訴をすることができなくなった後の非常の不服申立方法であることから,上訴が可能であったにもかかわらずそれをしなかった者について再審の訴えによる不服申立てを否定するもの」(最高裁平成4年9月10日第一小法廷判決・民集46巻6号553頁)であるから,原告が前訴で主張した再審理由1は,同項ただし書が規定する「これを知りながら主張しなかったもの」にも該当しない。
(エ) 特許法151条において準用する民訴法228条1項は,「文書は,その成立が真正であることを証明しなければならない」と規定するところ,「訳文の成立が真正である」とは,「原文作成者の意思に基づいて作成された(訳が正確である)こと」をいう。したがって,訳文が真正に成立するためには,「訳文の正確性」を「証明」しなければならない。
上記「証明」を実際に施行するための規則として,特許法においては,特許法施行規則61条が設けられている。同条は,原文を提出する側に「訳文の添付」を義務づける代わりに,相手方には「訳文の正確性」について意見があるときに「意見を記載した書面の提出」を義務づける「手続保障」が規定されている。したがって,同条の規定する事項を実際に遂行したときに初めて,民訴法228条1項の「証明」をしたことになり,形式的証拠力が形成され,訳文が真正に成立したものと推定することができるようになる。
ところで,被告が提出した翻訳文(全訳文,甲2)は,原告には,審理終結後送付されたもので,ほどなくしてされた原審決(甲13)は,証拠の認定で,「翻訳文の成立について争いはない」(甲13,5頁1行)と判断した。原告は,特許法施行規則61条が規定する「意見を記載した書面の提出」をすることができなかったから,「翻訳文の成立」に対し,民訴法228条1項の規定する「証明」がされていない。したがって原審決は,翻訳文(甲2)ひいては原文(甲1)を事実認定に用いることができない。
そうすると,原審決(甲13)の「翻訳文の成立に争いはない」とした判断に誤りがあり,原審決には,証拠(訳文)認定の手続違反と,(翻訳文の正確性について)意見を述べる機会を与えるべきか否かの判断を怠り,そして,翻訳文が正確であるか否か(「原文作成者」の意思に基づいて作成されたものであるか否か)の判断を怠ったという判断の遺脱がある。
(オ) 被告提出の翻訳文(甲2)は,原文(甲1)に9箇所ある「視覚的に離間され~(ocularly spaced~)」のうち,「最重要箇所」のみ「前記レンズ26は目の通常の間隔に対応するように離間され」(甲2,3頁22行)と誤訳している。原審決は,「甲第1号証…には,『二つの拡大レンズの間隔を眼の間隔とし,…たことが記載されており,」(甲13,9頁9行~11行)と判断し,その結果,結論を誤っている。この箇所の訳一つで「拡大レンズの間隔」を「眼の間隔」で配置するのか「視覚的離間の関係」で配置するのかが,ほぼ定まるから,翻訳文には重大な誤訳がある。
イ 取消事由2(再審理由2[甲1のクレーム解釈に対する判断の遺脱]についての認定判断の誤り)
(ア) 審決は,再審理由2を「原審決は,刊行物に記載された発明の認定においてした判断(『甲1に,二つの拡大レンズの間隔を目の間隔で配置したことが記載されている』とする点)において,要部翻訳文の記載(甲1のクレームを除く記載中に複数箇所ある『視覚的に離間して』との記載のうちの一部)を引用するのみで全文翻訳文の記載(甲1のクレーム中にある『視覚的に離間して』との記載)を考慮に入れていない。
原審決には,甲1のクレームに記載された事項の解釈を怠った,という『判断の遺脱』がある。」と認定し(3頁2行~9行,7頁5行~12行),そして,再審理由2について原告は,前訴において,「…甲1に記載された発明(その本質)の認定に当たっては甲1のクレームの記載をも考慮すべきである旨の主張を実質上既にしていることは明らかである。」(8頁4行~6行),「…原審決が『甲1には二つの拡大レンズの間隔を目の間隔で配置したことが記載されている』と認定をした点は誤りである旨の主張を実質上していることは明らかである。」(8頁27行~29行)と判断し,さらに,「判決が,『ocularly spaced to』に関連する『視覚的離間の関係』について,甲1のクレーム中に記載された『ocularly spaced』をも考慮して判断をしていることは明らかである。」(9頁9行~11行),「『甲1には二つの拡大レンズの間隔を目の間隔で配置したことが記載されている』点について判断をしていることは明らかである。」(9頁19行~21行)と判断した。
(イ) しかし,審決は再審理由2の認定を誤っており,「原審決には,『刊行物(甲1)に記載された発明の認定』において,刊行物(甲1)に記載されている『不明確事項の意義』を解明するべきか否かの判断を怠った,という『判断の遺脱』,そして(または),『登録特許公報である甲1』の『特許権が付与されたクレーム』に記載されている事項の解釈を怠り,認定する『甲1に記載されている事項』の意義が,『クレームに記載されている事項』の意義と反しているか否かの判断を怠った,という『判断の遺脱』がある。」と認定されなければならない。そして,原告は,前訴において,準備書面(1)(甲22,12頁11行~16頁),準備書面(2)(甲23,8頁5行~19行,10頁10行~11頁3行,21頁22行~22頁20行)及び準備書面(4)(甲8,10頁2行~17行)で,これらの点について主張したにもかかわらず,前訴判決(甲24)は,これらの点について判断していない。
(ウ)a 民訴法338条1項ただし書前段の趣旨は,上訴で主張し判断を得た事由について再審の訴えで再び主張することを禁止することにある。そうすると,上訴で主張しても裁判所の判断が得られなかった場合は,ただし書において「特段の事情」がある場合に該当する。したがって,再審理由2は,「審決取消訴訟において原告が既に主張したもの」に該当するが「特段の事情」を有するものである。
b 仮に,上記aの主張が認められないとしても,民訴法338条1項ただし書前段の趣旨が上記のとおりであることからすると,再審理由2は,前訴で主張しても裁判所の判断を得ることができなかったものであるから,同項ただし書が規定する「主張したとき」に該当しない。
c さらに,原告が前訴で主張した再審理由2は,民訴法338条1項ただし書が規定する「これを知りながら主張しなかったもの」にも該当しない。
(エ)a 原審決(甲13)は,甲1から次の記載を摘示し(5頁26行~35行),この記載に基づいて「二つの拡大レンズの間隔を眼の間隔としたこと」が記載されていると判断している。
「『ケースの前部A’は23で示す壁により分離された二つの別々に遮蔽された観察区画を有し,それは視覚的に離間された開口24を備え,その中に拡大レンズ26をつけた接眼レンズ25がはめ込まれ,かつ,保持される。前記レンズ26は目の通常の間隔に対応するように離間され,一方図4に示すようにオパールガラス16と画像17はケースについて横方向により短い距離だけ離間し,その距離は通常の目のフォーカルアングル(focal angle)に対応し,レンズ26と画像17間の軸方向距離に依存し,それによりビュアを使用したときに像の歪曲と目に対するストレスを防止し,観察する画像の最大の忠実度を与える。』(2頁左欄11~26行;翻訳3頁20~26行)」
b 上記の原審決が「摘示した部分」には,「前記レンズ26は目の通常の間隔に対応するように離間され」との記載がある。この箇所の「離間され」が誤訳であり,「視覚的に離間され」が正しい訳であることは,前記アで述べたとおりであるが,仮に「離間され」であったとしても,原審決の判断は,次のとおり,誤りである。
(a) 上記の原審決が「摘示した部分」には,「前記レンズ26は目の通常の間隔で離間され」とは記載されておらず,「その距離は通常の目のフォーカルアングル(focal angle)に対応し」との記載があるから,直ちに,「二つの拡大レンズの間隔を眼の間隔としたこと」が記載されているとすることはできない。
(b) 上記の原審決が「摘示した部分」には,「視覚的に離間された開口24を備え,その中に拡大レンズ26をつけた接眼レンズ25がはめ込まれ,かつ,保持される」ことが記載されているから,「視覚的に離間された開口24」の中に,「接眼レンズ25」が,はめ込まれていること,及び,「接眼レンズ25」に「拡大レンズ26」が付けてあることが記載されている。そこで,甲1の図1と図2を参酌すると,図2より,「接眼レンズ25」は,「視覚的に離間された開口24」にぴたりと嵌合されており,図1と図2より,「拡大レンズ26」は「接眼レンズ25」の中央部に,中心を同じくして装着されていることが,見て取れる。したがって,「視覚的に離間された開口24」と同様に,「拡大レンズ26」もまた,視覚的に離間されていることは,明白である。
c 以上のとおり,上記の原審決が「摘示した部分」には,「視覚的に離間され」という不明確事項が記載されており,この不明確事項について,明細書又は図面並びに技術常識を参酌して,その意義を解釈することなく,直ちに「摘示した部分には二つの拡大レンズの間隔を眼の間隔としたことが記載されている」とした原審決の判断は,「刊行物に記載された発明」の認定において,刊行物に記載されている不明確な事項の意義を解釈(解明)するべきか否かの判断を怠ったという判断の遺脱がある(判断の遺脱1)。
(オ) 本件無効審判事件において,原告は,口頭審理期日に「甲1には,請求人の指摘部分以外にも,第2パラグラフやクレーム等に,関連事項が数多く記載されているから,詳しく調査願う」旨の申入れをした。その結果,同事件の審判長は,被告に対して,「全文翻訳文」の提出を命じた。したがって,「全文翻訳文」を提出させる目的は,第2パラグラフやクレーム等における記載事項の調査であることは明らかである。
このような経緯を考えれば,「視覚的に離間され」という不明確事項を発見したとき,全文翻訳文を参酌すること,特に原告が指摘した「第2パラグラフやクレーム」を参酌してその意義を解釈することは,直ぐに思い浮かぶ事柄であり,かつ,直ぐに調査できる環境にあった。
そして,この場合,「登録特許公報である甲1」の「特許権が付与されたクレーム」に記載されている「視覚的に離間され」の意義を「(単に)離間され」と解釈することは許されない。
したがって,原審決には,「登録特許公報である甲1」の「特許権が付与されたクレーム」に記載されている事項の解釈を怠り,「甲1に記載されている事項の意義」が「クレームに記載されている事項の意義」と反しているか否かの判断を怠った,という判断の遺脱がある(判断の遺脱2)。
(カ) なお,審決が,前訴判決は原告が主張した「クレーム記載を考慮すべきである点」と「レンズの間隔と目の間隔の認定は誤りである点」について判断していると判断したことは,次のとおり誤りである。
a 原告の主張は,甲1は登録特許の明細書であるから,「特許権が付与されたクレーム」に記載されている「視覚的に離間され」の意義を,単に「離間され」と解釈することは許されない点にある。そして,一般に「クレーム解釈」といえば,クレーム(請求項)に記載された発明や発明を特定するための事項(用語)の意義を正しく解釈することであることは,周知である。審決(8頁下6行~9頁6行)が引用している前訴判決の判断(甲24,17頁下1行~18頁22行)は,クレーム中に記載があることを示しているだけであり,「クレーム解釈」を行って,「視覚的に離間され」の意義を解釈するものではない。前訴判決は,甲1は登録特許の明細書であるから,「特許権が付与されたクレーム」に記載されている「視覚的に離間され」の意義を単に「離間され」と解釈することは許されない点について,判断を示していない。
b 審決(9頁14行~18行)が引用している前訴判決(甲24)の「確かに,接眼レンズの位置とそれを通して対象を見る眼の位置とは正確に一致しているということはできないとしても,接眼レンズを密着させて対象を見ることに変わりはないから,眼の位置が接眼レンズ(すなわち,拡大レンズ)の位置であると見ることが不自然であるとまではいえない。」(16頁15行~18行)との判断は,左右の拡大レンズの間隔と左右の眼の間隔について判断を示したのではなく,レンズの光軸方向の位置について判断を示したものである。上記判断の後には,「オパールガラス16や画像17の間隔がレンズ26の間隔よりも狭いことは明らかであるが,レンズ26の間隔が眼の通常の間隔よりも狭いかどうかは明らかでなく,他にレンズ26の間隔と眼の間隔に関する記載はない。」(甲24,17頁1行~4行)との判断がある。したがって,上記記載からは,前訴判決が判断しているとすることはできない。
ウ 取消事由3(再審理由3[特許請求の範囲の解釈に対する判断の遺脱]についての認定判断の誤り)
(ア) 審決は,再審理由3を,「原審決は,相違点3の検討においてした判断において,本件特許発明について特許請求の範囲の記載に基づかない認定(『特許請求の範囲の記載では二つのレンズの間隔と二つの画像の間隔を規定している』とする点)をしたばかりでなく,本件特許発明の『左右の眼に注がれるとき,その光線が平行』なる構成に対して判断をしていない。原審決には,本件特許の特許請求の範囲の記載の解釈を誤り,本件特許発明の主要構成につき判断を怠った,という『判断の遺脱』がある。」と認定し(3頁11行~17行,9頁24行~30行),そして審決は,原告は前訴において「…原審決は本願発明について『特許請求の範囲の記載では二つのレンズの間隔と二つの画像の間隔を規定している』という請求項の記載に基づかない認定をした旨の主張を既にしていることは明らかである。」(10頁6行~8行),「…原審決は本件特許発明の『左右の眼に注がれるとき,その光線が平行』なる構成に対して判断していない旨の主張を既にしていることは明らかである。」(10頁19行~21行)と判断し,さらに,前訴判決が「…審決がした『特許請求の範囲の記載では二つのレンズの間隔と二つの画像の間隔を規定している』との認定につきこれが特許請求の範囲の記載に基づくものであるとの判断をしていることは明らかである。」(10頁下4行~下2行),「…本件特許発明は『その光線が平行となる』構成であると判断していることは明らかである。」(11頁15行~17行)と判断した。
(イ) しかし審決は,再審理由3の認定を誤っており,「原審決には,『本件特許の特許請求の範囲の記載に基づく解釈を怠り,そして,特許請求の範囲の記載が一義的に明確であるか否か(あるいは,特段の事情があるか否か)の判断を怠った,という判断の遺脱』,『一部図面(第1図)を参酌して行った解釈が,他の図面(第10図)に対しても該当するか否かの判断を怠った,という判断の遺脱』,そして『本件特許発明の主要構成(発明が規定する左右の光線が,眼に注がれるとき,平行となる構成)について,引用発明(甲1に記載された発明)と相違するか否かの判断を怠った,という判断の遺脱』がある。」と認定されなければならない。そして原告は,前訴において,本件特許の特許請求の範囲が一義的に明確に定義されている点,本件特許第10図は原審決の認定と構成が異なる点,眼に注がれるとき光線が平行となる構成に対し審判手続で対比していない点を主張している。すなわち原告は,準備書面(2)(甲23,28頁~33頁)や準備書面(4)(甲8,22頁4行~27頁)で「本件特許発明の『請求の範囲記載の文言』に対する判断を怠った点」を主張し,本件特許の特許請求の範囲が規定する内容はそれ自体で明確であることを示した。また,準備書面(1)(甲22,30頁1行~36頁3行)と準備書面(4)(甲8,16頁12行~22頁3行)では「本件特許発明の『平行光線入射の発想』に対する判断を怠った点」を主張し,原審決は本件特許発明と甲1を「所定の光線が両眼に平行に注がれる構成」について対比していないが,仮に対比しても構成が異なることを示した。さらに準備書面(5)(甲9,5頁1行~9行)で本件特許請求の範囲が一義的に定義されることを主張した。
そして,準備書面(1)(甲22,34頁13行~35頁)と準備書面(5)(甲9,6頁20行~8頁1行,10頁8行~10行)では本件特許の第10図にも本件特許発明の規定する光線と,その光線が平行となる構成が記載されていることを主張した。しかし,前訴判決は,これらについて全く判断を示していない。
(ウ)a 民訴法338条1項ただし書前段の趣旨は,上訴で主張し判断を得た事由について再審の訴えで再び主張することを禁止することにある。そうすると,上訴で主張しても裁判所の判断が得られなかった場合は,同項ただし書において「特段の事情」がある場合に該当する。
したがって,再審理由3は,「審決取消訴訟において再審請求人が既に主張したもの」に該当するが「特段の事情」を有するものである。
b 仮に,上記aの主張が認められないとしても,民訴法338条1項ただし書前段の趣旨が上記のとおりであることからすると,再審理由3は,前訴で主張しても裁判所の判断を得ることができなかったものであるから,同項ただし書が規定する「主張したとき」に該当しない。
c さらに,原告が前訴で主張した再審理由3は,民訴法338条1項ただし書が規定する「これを知りながら主張しなかったもの」にも該当しない。
(エ)a 原審決(甲13)は,相違点3について,「本件特許発明は,『左右の眼が各々の画面の虚像に向けられるとき,人間の眼の間隔をde,拡大光学系の像倍率をmとすると,各々のディスプレイの画面の中心から(de/2)×(1/m)だけ水平方向の外側の点からの光線が左右の拡大光学系を通って左右の眼に注がれるとき,その光線が平行となるように配置することで,左右の画面の虚像が画面全体において一致するように構成した』ものであるのに対し,甲第1号証には,この点に関する明文の記載がない点。」と認定している(7頁20行~26行)。その上で,原審決は,「特許請求の範囲の記載では,二つのレンズの間隔と二つの画像の間隔との関係を規定しているが,この点は甲第1号証の図4に示された『Focal Point』を中心に虚像を表示するために,必然的に生じる規定である。そして,具体的な関係式も本件特許発明の段落(0009)に示されたレンズの公式や光学の基礎知識(甲第4号証等参照)があれば,当業者が格別推理力を要することなく実施できる程度のものと認められる。」と判断している(9頁16行~22行)。
この判断は,「本件特許の特許請求の範囲が規定するものは,『二つの拡大レンズの間隔を眼の間隔とし,その間隔よりも狭い間隔で画像を配置すること』であるから,甲1には,そのことが実質的に記載されており,具体的な関係式も,他の証拠を参酌することにより,当業者が容易に想到しうる程度のものである。」との判断である。
b しかし,原審決の上記判断は,次のとおり誤りである。
(a) 本件特許明細書(甲17,段落(0019))には次の記載がある。
「この点を考慮した本発明によるビデオディスプレイ装置の実施例を説明する。第8図は前記実施例装置の平面図,正面図,および側面図である。第9図は前記実施例装置を装着した状態を示す側面略図である。第10図は前記実施例装置の主要部品の配置を示す斜視図である。第10図のように各部品の光学配置は第1図および第7図(b)の通りである。ただしハーフミラー54とミラー56を平行に保ちながら左右それぞれ外側にひねることにより液晶ディスプレイ51上での光軸間距離を眼の間隔よりも広くしている。また,本実施例では,シャッタとして液晶シャッタ55を用いている。61はスイッチで,1回押すたびにON-OFFがが切り換わるロック式である。これによりバックライト53と液晶シャッタがコントロールされる。」
(b) 上記記載には,第10図の実施例は,光学的な配置(本件特許請求の範囲が規定する配置)は第1図の実施例と同じであるが,物理的な配置(ディスプレイの間隔と眼の間隔の関係)が異なることが示されている。第10図の実施例は,「二つの拡大レンズの間隔が眼の間隔より広く,その間隔よりもさらに広い間隔でディスプレイ(画像)が配置」された実施例である。さらに,第10図には「各々のディスプレイ51の画面の中心から(de/2)×(1/m)だけ水平方向の外側の点からの光線が左右の拡大光学系(拡大レンズ52)を通って左右の眼62に注がれるとき,その光線が平行となるように配置」した構成と「本件特許発明が規定する左右の光線」が記載されており,第10図の実施例の場合,左右の光線が拡大レンズ52を通過するときは,平行でないことも描かれている。
(c) したがって,第10図の実施例は,「二つの拡大レンズの間隔を眼の間隔とし,その間隔よりも狭い間隔で画像を配置する」ものではないから,原審決の上記判断は誤りである。
c 以上のとおり,本件特許発明には,第1図と異なる物理的配置を示す第10図があり,明細書の「発明の詳細な説明」には,第10図の実施例についての説明が記載されている。
したがって,原審決が第1図の記載を参酌して「特許請求の範囲の記載」を解釈したとしても,原審決は第10図に対する判断を怠っている。原審決には,第10図に対する判断(第1図の記載を参酌して行った解釈が,第10図に対しても該当するか否かの判断)を怠ったという判断の遺脱がある(判断の遺脱1)。
d 本件特許の特許請求の範囲に「二つのレンズの間隔」と「二つの画像の間隔」を示す事項(用語)は存在しない。また,本件特許の第10図を見るとすぐに把握できるように,同じ「眼の間隔」と,同じ「各々のディスプレイの画面の中心からde/2mだけ水平方向の外側の点」であっても,「拡大レンズ52とミラー56,ハーフミラー54による3次元的なひねり具合(傾斜具合)」のみを変更することにより,異なる「二つのレンズの間隔と二つの画像の間隔」の組合せが可能であって,無限の組合せが存在するから,「二つのレンズの間隔と二つの画像の間隔との関係」は一義的に定義されない。
ところが原審決は,上記aのとおり,「特許請求の範囲の記載では,二つのレンズの間隔と二つの画像の間隔との関係を規定している」と認定しているから,原審決は,本件特許発明の要旨を特許請求の範囲に基づいて認定していない。
したがって原審決は,本件特許発明の要旨について,特許請求の範囲の記載に基づく認定を怠り,特許請求の範囲の記載が一義的に明確であるか否か(あるいは,「特段の事情」があるか否か)の判断を怠ったという判断の遺脱がある(判断の遺脱2)。
そして原審決は,特許請求の範囲の記載に基づく認定を怠った結果,「本件特許発明が規定する左右の光線」と「眼に注がれるとき,その光線が平行となる構成」について,甲1に記載された発明と対比していない。原審決には,本件特許発明の主要構成(発明が規定する左右の光線が,眼に注がれるとき,平行となる構成)について引用発明(甲1に記載された発明)と相違するか否かの判断を怠ったという判断の遺脱がある(判断の遺脱3)。
(オ) なお,審決は,前訴判決が原告が主張した「レンズ間隔と画像間隔の規定」と「眼に注がれる光線が平行」について判断していると判断したことは,次のとおり誤りである。
a 前訴判決は,原審決と同様,形式的な「特許請求の範囲の記載に基づく認定」を,何の説明もなく,実質的な「本件特許第1図に基づく認定」に置き換えている。このことは,前訴判決が「原審決が第10図に対する判断(第1図の記載を参酌して行った解釈が,第10図に対しても該当するか否かの判断)を怠った点」について判断していないことを示している。
b(a) 審決(11頁2行~12行)が引用しているとおり,前訴判決(甲24)は,「審判甲1(甲3)に記載された発明も,また,本件発明と同様に,各々の画像17の中心からde/2mだけ水平方向の外側の点から光線が左右のレンズ26(拡大光学系)を通って左右の眼に注がれるときに,その光線が平行となるように配置したものであるということができる。」(21頁20行~23行),「なお,拡大レンズと眼との間に間隔があるとしても,拡大レンズに密着した位置から真後ろに目を移動して間隔を設ければ,眼は単に光軸上を後ろに移動したにすぎないから,左右の眼に入射される光線が平行のままであることは明らかであり,この場合においても,画像の中心の内寄せ量が(de/2)×(1/m)であることは変わらない。」(21頁24行~22行2行)と判断している。
(b) 前訴判決の上記(a)の判断は,本件特許発明が「第1図に示されるように,ディスプレイの画面の中心位置と,拡大光学系の中心位置(光軸が通るレンズの位置)との関係(ディスプレイの画面の中心が拡大光学系の中心より(de/2)×(1/m)だけ内側に位置する)を規定している」ことを前提とするものである。この前訴判決の認定判断が誤りであることは,上記(エ)で述べたとおりである。したがって,前訴判決の上記(a)の判断は,前提を欠くものである。
同様に,甲1に記載された発明において「眼の位置は接眼レンズ(すなわち,拡大レンズ)の位置である」とする,前訴判決(甲24)の判断(21頁18行~19行)には,後記再審理由5の判断の遺脱があり,「拡大レンズ26の間隔は眼の間隔である」とする判断(21頁19行~20行)の前提には,前記再審理由1と再審理由2の判断の遺脱があるから,これらの判断を前提とする,前訴判決の上記(a)の判断は,前提を欠くものである。
そして,前訴判決の上記(a)の判断は,「レンズの光軸から内寄せする前の画像の中心点の位置から左右のレンズの中心を通る光線は,左右平行になる」から,甲1に記載された発明も本件特許発明と同様に,「その光線が平行となるように配置」するものであるとしたのであって,「内寄せする前の光線」について判断を示したに過ぎない。したがって,甲1の構成で「本件特許発明の規定する左右の光線」が,眼に注がれるとき平行となるか否かの判断は,全く示されていない。このことは,原審決が「本件特許発明の規定する左右の光線が眼に注がれるとき平行となる構成」を対比し,甲1に記載された発明と相違するか否かの判断を怠った点について,前訴判決は判断していないことを示している。
エ 取消事由4(再審理由4[光学的記載,技術常識に対する判断の遺脱]についての認定判断の誤り)
(ア) 審決は,再審理由4を,「原審決は,相違点3の検討においてした判断(『Focal Pointは像点である』とする点)において,『光学的な技術常識』ではなく『立体視における技術常識』を勘案したばかりでなく,『Focal Pointは像点である』と認定するだけの光学的記載が甲1にはないこと,『Focal Pointは像点である』と仮定すると甲1の記載と間に矛盾が生じること,についてそれぞれ見解を示していない。原審決には,勘案すべき技術常識を錯誤し正しい技術常識の基づく判断を怠った,という『判断の遺脱』がある。」と認定し(3頁19行~26行,11頁19行~26行),そして審決は,原告は前訴において「…『Focal Point』に虚像が形成されると断定できるだけの光学的記載が甲1にはないこと,および,『Foca1 Pointは像点である』と仮定すると甲1の記載との間に矛盾が生じること,以上について見解を示していない旨の主張を,実質既にしていることは明らかである。」(12頁22行~25行),「さらに,『像点』の定義に関して,『立体視における技術常識』は関係しないとする一方で,『像点は,物点の共役点であり,拡大レンズの焦点と物点の位置によってのみ定まる』(幾何光学の最も基本的な基礎概念)ことに基づき甲1の記載との矛盾を指摘しているので,勘案すべき技術常識を錯誤している旨,正しい技術常識に基づくべきである旨の主張を既にしていることも明らかである。」(12頁27行~32行)と判断し,さらに前訴判決は「…『Foca1 Pointは像点である』とする光学的記載が甲1にはないこと,『Focal Point』は『注視点』であること,以上を認めた上で,『Focal Pointは像点である』と理解しても不合理であるとはいえないと判断しており,光学的記載がないことについて判断を示していることは明らかである。」(13頁26行~30行),「…再審請求人のいう『光学的な技術常識』(物点と像点との共役的関係)を参酌し,その上で,『Foca1 Pointは像点である』と仮定すると甲1の記載と間に矛盾が生じることについて判断を示していることは明らかである。」(14頁9行~12行)と判断した。また審決は,「再審請求人は,光学的記載が甲1にはないこと自体,甲1の記載と間に矛盾が生じること自体について,審決が見解を示していないと主張する。審決は,…『Focal Point』の意義について直接参照すべき記載が甲1にはないと判断をしたからこそ,二次的に「審判甲第5号証」(研究社「新英和大辞典第五版」)を参照したことは明らかである。光学的記載が甲1にはないことにつき見解があるというべきである。…認定判断事項につき他記載と間の矛盾の有無を検討するのは,同事項の当否について後にする確認行為であり,当該認定判断に至るための必要的手順というべきものではない。…矛盾の有無を審決で検討しなかったことは『判断の遺脱』には当たらない。」と判断した(12頁下6行~13頁9行)。
(イ) しかし,審決は,再審理由4の認定を誤っており,「原審決には,『レンズ26と画像17間の軸方向距離に依存し』レンズと画像の軸方向距離に比例した分だけ画像の横方向間隔を狭くすると甲1に記載されている事項について本件特許発明と甲1が相違するか否かの判断を怠った,『甲1に欠如する光学的関係を示す記載』を補うため勘案すべき技術常識が適切であるか否かの判断を怠った,相違点の検討において『立体視の技術常識』を勘案したときに一致点の条件を充足するか否かの判断を怠った,甲1の画像を本件特許発明のディスプレイに対応させた甲1の構成について,本件特許と甲1を対比して,本件特許と一致するか否か(あるいは相違するか否か)の判断を怠った,という『判断の遺脱』がある。」と認定されなければならない。そして原告は,前訴において,甲1に記載された事項が本件特許発明と矛盾する点,対比における「立体視の技術常識」が不適当であり一致点の規定を充足していない点,一致点の認定の前提に誤りがあり前提を欠いている点について,準備書面(1)(甲22,4頁22行~5頁7行,23頁~25頁),準備書面(2)(甲23,10頁5行~9行,11頁12行~12頁12行)及び準備書面(4)(甲8,7頁23行~8頁22行,10頁21行~11頁1行,12頁17行~19行,34頁1行~10行)で主張したが,前訴判決は,これらについて全く判断を示していない。
(ウ)a 民訴法338条1項ただし書前段の趣旨は,上訴で主張し判断を得た事由について再審の訴えで再び主張することを禁止することにある。そうすると,上訴で主張しても裁判所の判断が得られなかった場合は,同項ただし書において「特段の事情」がある場合に該当する。
したがって,再審理由4は,「審決取消訴訟において再審請求人が既に主張したもの」に該当するが「特段の事情」を有するものである。
b 仮に,上記aの主張が認められないとしても,民訴法338条1項ただし書前段の趣旨が上記のとおりであることからすると,再審理由4は,前訴で主張しても裁判所の判断を得ることができなかったものであるから,同項ただし書が規定する「主張したとき」に該当しない。
c さらに,原告が前訴で主張した再審理由4は,民訴法338条1項ただし書が規定する「これを知りながら主張しなかったもの」にも該当しない。
(エ)a 甲1の図4を見ると,画像17(オパールガラス16)と,拡大レンズ26がフォーカルアングル(2本の一点鎖線)上に並び,拡大レンズの間隔よりも,画像の間隔の方が狭く配置されている。そして,図4より,画像が拡大レンズから離れ,「Focal Point」に近づくほど,画像の間隔を狭くして配置することが,見て取れる。したがって,甲1には,「画像17を,レンズ26と画像17間の軸方向距離に依存しながら(レンズと画像の軸方向距離に比例した分だけ,横方向間隔を狭くして),離間する」ことが示されているといえる。このことは,甲1の「…一方図4に示すように,オパールガラス16と画像17は,通常の目のフォーカルアングルに対応するために,そして,レンズ26と画像17間の軸方向距離に依存しながら,ケースの横方向により短い距離で離間され,…」との記載(2頁左欄18行~23行,翻訳文は原告による),クレーム1における「…二重画像スライドを前記光透過要素および前記接眼レンズに対する動作位置に挿入しかつ取り外すことができることを特徴とするステレオスコープビュア」(翻訳文は甲2,5頁2行~4行)との記載及びクレーム3における「…そうしてスライドがケースに挿入されたときにその上の画像が光透過要素と接眼レンズにより焦点的に照準を合わせられることを特徴とするクレーム1記載のステレオスコープビュア」(翻訳文は甲2,5頁9行~11行)との記載から明らかである。
b これに対して,本件特許明細書(甲17)の(0008)と(0009)には,本件特許発明の前提条件が,次のとおり記載されている。
「いま,2つの液晶ディスプレイ1,2には同じテレビジョン信号を表示させているものとする。まず,右眼用の液晶ディスプレイ2と右眼6との間に右用の拡大レンズ4を液晶ディスプレイと拡大レンズの距離をu,拡大レンズと右眼の距離がtとなる位置に置く。
液晶ディスプレイ上の画面は拡大レンズにより拡大された拡大虚像8が右眼からDだけ離れた位置に生ずる。…
左右の拡大レンズの焦点距離をともにfとするとレンズの公式よりD,u,t,f間には次の関係が成立する。
1/f =-1/(D-t)+1/u (1)
また拡大レンズの像倍率をmとすると,
m=(D-t)/u (2)
ところで人間の左・右の眼はde(通常58mm~72mm,平均65mm,日本人の平均は62mm)だけ離れている。」
上記(1)式を変形すると,次のようになる。
D-t=fu/(f-u) (1)*
ここで,拡大レンズの焦点距離fは,一般に変更できない拡大レンズの固有値である。いま,拡大レンズと眼の距離tも一定であると考えると,(1)*式より,ディスプレイ(画像)とレンズの軸方向距離uが定まれば,虚像位置Dは一点に(一義的に)定まることが理解できる。逆に,虚像位置Dが定まれば,ディスプレイ(画像)とレンズの軸方向距離u(つまりは画像位置,厳密には画像の光学位置を示す)は,一点に(一義的に)定まる。これは,画像位置(物点)と虚像位置(像点)との共役関係を示している。
したがって,本件特許発明は,輻輳点である「Focal Point」が虚像の生成位置(像点)であるから,本件特許発明では,光学的な画像位置は「Focal Point」が定まれば一義的に定まる。
c そこで,仮に,ディスプレイ(画像)とレンズの軸方向距離uが変化したとき,de/2mの値が,どのように変化するかを検証すると,本件特許明細書(甲17)の(0011)には,次の記載がある。
「そこで,第1図のように,眼からDだけ離れたところに左右の拡大虚像が一致した結像面が存在する場合を考える。このとき左右のレンズの光軸は結像面上でもdeだけ離れている。逆にこれを成立させるためには,液晶ディスプレイの画面の中心から水平方向の外側に
de/2m=de・u/2(D-t)
だけ離れた点にレンズの光軸を合わせればよく,この条件を満たすように左右の液晶ディスプレイと左右の拡大レンズを配置してやれば,あたかも眼からDだけ離れた位置に1つの大きな画面が置いてあるように見える。」
上記記載中の式に,前記(1)*式を代入すると,次のようになる。
de/2m=de/2・(f-u)/f ∵ m=f/(f-u)
正立虚像を観察する場合,焦点距離の手前に物体(画像)を配置(f>u)するが,上記式から,画像が焦点に近づく(u→f)程,de/2mが小さくなり,画像が焦点位置にあるとき(u=f),de/2mは0になることが,直ぐに理解できる。
本件特許発明の第1図では,ディスプレイの画面の中心から水平方向の外側にde/2mだけ離れた点にレンズの光軸を合わせるから,ディスプレイの画面の中心は,焦点に近づく程,光軸に近づくことになる。つまり,ディスプレイ(画像)の間隔は,画像とレンズの軸方向距離uが長くなるほど,広くなる。したがって,本件特許の第1図では,画像とレンズの軸方向距離に比例して,画像の横方向間隔は広くなる。
d 以上のように,甲1に記載された発明は,輻輳点と像点を一致させる規定がないから画像とレンズの軸方向距離に比例した分だけ二つの画像の横方向間隔が狭くなるのに対し,本件特許発明は,輻輳点と像点を一致させる規定があるから,「光学的関係」により,輻輳点(像点)が定まれば(光学的)画像位置は一点に定まり,比例することはなく,あえて画像をレンズの軸方向に移動させた場合,物点の移動に伴う像点の移動により輻輳点も移動する結果,画像とレンズの軸方向距離に比例して二つの画像の横方向間隔が広くなる。このように両者は相違する。
原審決(甲13)は,「画像17を,レンズ26と画像17間の軸方向距離に依存しながら,レンズと画像の軸方向距離に比例した分だけ,横方向間隔を狭くする」という,甲1に記載されている事項について,本件特許発明と対比していないから,判断の遺脱がある。
(オ)a 原審決(甲13)は,相違点2の検討では,「甲1の技術で,(立体視を必要としない)平面画像を得るように同一の画像を用いることは,当業者が任意に採用しうる事項にすぎない」と判断している(8頁2行~12行)。
これに対し,原審決(甲13)は,相違点3の検討では,「以上の点と,立体視における技術常識を勘案すると,甲第1号証の図4における『Focal Point』は,左の拡大レンズ26と左の画像17の中心を結ぶ延長線上と,右の拡大レンズ26と右の画像17の中心を結ぶ延長線上の交差する箇所を示していることから,左右の画像の対応する点が結像する箇所を示しており,その箇所に両眼の焦点が合っていると理解できる。」(8頁30行~35行)と判断している。相違点3の検討では,「甲1に欠如する光学的関係を示す記載」を補うため,「光学的な」技術常識が勘案されるべきところ,原審決は,立体視が必要ない平面画像の対比であるのに,「立体視」の技術常識を勘案している。
ところで,虫めがね(拡大レンズ)の物体(物点)と虚像(像点)の関係は,小学校でも習うことであり,「実像や虚像」と「立体像」は異なることは,技術常識である以前の,ごく普通に知られた一般常識である。
したがって,原審決は,「本件特許発明と甲1に記載された発明との対比」において認定した相違点の検討で,「甲1に欠如する光学的関係を示す記載」を補うため,「光学的な技術常識」ではなく「立体視の技術常識」を勘案しており,「甲1に欠如する光学的関係を示す記載」を補うため,勘案すべき技術常識が適切であるか否かの判断を怠ったという判断の遺脱がある。
b また,原審決において「一致点」とされた本件特許発明の構成には,左右の「光学的に拡大した虚像」を「輻輳点」に生成するように構成することが規定されている。虚像の位置(像点)は拡大レンズに対する画像の位置(物点)のみにより定まるものであり,左右の「拡大レンズと画像の中心を結ぶ延長線」上の交点に虚像が生成されるものではないから,原審決の上記aの判断は,上記規定に違反している。このように,原審決には,「立体視の技術常識」を勘案した結果,一致点の前提を欠いているという判断の遺脱がある。
c さらに,原審決が認定した相違点3には,「拡大光学系の像倍率をmとする」と記載されている。像倍率とは,左右のディスプレイの画面(画像)を光学的に拡大した結果の,「拡大した画面の虚像」と「ディスプレイの画面」の倍率である。原審決には,「拡大光学系の像倍率をmとする」点について判断が示されていない。原審決には,相違点の検討において,一致点の条件を充足するか否かの判断を怠ったという判断の遺脱がある。
(カ) 原審決は,本件特許発明と甲1に記載された発明との一致点を,次のとおり認定している。
「左眼と左眼用のディスプレイの間に配置される左眼用の拡大光学系と,右眼と右眼用のディスプレイの間に配置される右眼用の拡大光学系と,前記ディスプレイと拡大光学系を,前記左眼用のディスプレイに表示された画像情報を前記左眼用の拡大光学系を通して左眼で見る拡大された画面の虚像と,前記右眼用のディスプレイに表示された画像情報を前記右眼用の拡大光学系を通して右眼で見る拡大された画面の虚像とが,左右の眼からの虚像の距離に生成されるように構成した装置である点。」(7頁5行~11行)このように,原審決は,左右の「拡大された画面の虚像」が共に,輻輳点(「左右の眼からの虚像の距離」の位置)に生成されるように,画像と拡大レンズの配置位置を定めることを,本件特許発明と甲1に記載された発明との一致点としている。しかし,甲1には,このような一致点を認定することができる記載はないから,この認定は,誤りである。
このような誤りが生じた原因は,甲1の「オパールガラス16」を本件特許発明のディスプレイと認定したことにある。この「オパールガラス16」に関する認定は誤りであり,そのことは,前訴の裁判官も認めていた。したがって,原審決の「一致点の認定」は前提を欠いており,判断の遺脱がある。
(キ) 審決は,上記(ア)のとおり,原審決は「『Focal Point』の意義について直接参照すべき記載が甲1にはないと判断をしたからこそ,二次的に「審判甲第5号証」(研究社「新英和大辞典第五版」)を参照したことは明らかである。光学的記載が甲1にはないことにつき見解があるというべきである。…認定判断事項につき他記載と間の矛盾の有無を検討するのは,同事項の当否について後にする確認行為であり,当該認定判断に至るための必要的手順というべきものではない。…矛盾の有無を審決で検討しなかったことは『判断の遺脱』には当たらない。」と判断した(12頁下1行~13頁9行)。
しかし,原告は,上記(オ)のとおり,「甲1に光学的記載はない」と判断したのなら,対比に当たり勘案すべきは「光学的な技術常識」であり,「立体視を使用しない」と認定しながら「立体視の技術常識」を用いたのは,判断の遺脱があると主張しているのであって,見解を示していないから判断の遺脱があると主張しているのではない。
また,矛盾する点とは,「本件特許発明」と「甲1に記載されている事項」との間に矛盾が生じる(相違する)点であり,原告は,「甲1に記載されている事項」について本件特許発明と対比して相違するか否かの判断をしていない点を主張している。したがって,単なる確認行為ではなく,新規性・進歩性の審理における必要的手順であるから,判断の遺脱に当たる。
オ 取消事由5(再審理由5[接眼レンズに対する判断の遺脱]についての認定判断の誤り)
(ア) 審決は,再審理由5を,「原審決は,相違点3の検討においてした判断において,両当事者が主張もしない判断(『拡大レンズを目の位置と見ることができる』とする点)を新たに職権により示したばかりでなく,接眼レンズの基本スペック(レンズと目の間隔(アイポイント)の存在)を考慮に入れていない。原審決には,無効理由を通知し再審請求人に意見を述べる機会を与えなかった,接眼レンズに関する技術常識を看過した,という『判断の遺脱』がある。」と認定し(3頁28行~34行,14頁15行~21行),そして再審理由5について,原告は前訴において「接眼レンズに関する技術常識を看過した旨の主張を実質既にしていることは明らかである。」(14頁下3行~2行),「審決がした『拡大レンズを目の位置と見ることができる』との判断は,結論を導く過程においてした単なる事実の認定にすぎず,…『意見を述べる機会が与えられなかった』ことをもって『判断の遺脱』」はあったとすることはできない。」(15頁3行~7行),「…再審請求人は,自ら,無効審判の手続きにおいて『拡大レンズを目の位置と見ることができる』ことにつき意見を述べている。」(15頁20行~21行)と判断した。
(イ) しかし,審決は,再審理由5の認定を誤っており,「原判決には,無効理由を通知し再審請求人に意見を述べる機会を与えるべきか否か,接眼レンズに関する技術常識を勘案すべきか否か,職権により示した引用発明の構成が,認定した一致点の構成を充足するか否かの判断,本件特許発明の相違点3の構成と相違する否か,相違する場合に相違点3の容易想到性の論理づけが可能か否かの判断を怠ったという判断の遺脱がある。」と認定されなければならない。そして原告は,前訴において,本件特許発明ではレンズと眼の軸方向距離tが存在し,対比で眼とレンズの間隔を一方のみ0とすると比較の意味をなさない点,像点であるか否か(二者択一)の判断のためでなく,計算式を導く議論で眼とレンズの間隔を0とすることはできない点,甲1の内寄せ量の検討において,明視の距離以上ある虚像の距離ではなく画像とレンズの距離(約4cm)と比較したときにはレンズと眼の距離は十分に小さいといえない点を,準備書面(1)(甲22,9頁5行~12頁8行,14頁6行~16頁10行,26頁下11行~27頁下1行),準備書面(2)(甲23,14頁7行~12行,20頁1行~21頁21行)及び準備書面(4)(甲8,9頁11行~10頁1行,14頁1行~11行,21頁12行~22頁3行,30頁11行~15行)で主張したが,前訴判決は,これらについて全く判断を示していない。
(ウ)a 民訴法338条1項ただし書前段の趣旨は,上訴で主張し判断を得た事由について再審の訴えで再び主張することを禁止することにある。そうすると,上訴で主張しても裁判所の判断が得られなかった場合は,同項ただし書において「特段の事情」がある場合に該当する。
したがって,再審理由5は,「審決取消訴訟において再審請求人が既に主張したもの」に該当するが「特段の事情」を有するものである。
b 仮に,上記aの主張が認められないとしても,民訴法338条1項ただし書前段の趣旨が上記のとおりであることからすると,再審理由5は,前訴で主張しても裁判所の判断を得ることができなかったものであるから,同項ただし書が規定する「主張したとき」に該当しない。
c さらに,原告が前訴で主張した再審理由5は,民訴法338条1項ただし書が規定する「これを知りながら主張しなかったもの」にも該当しない。
(エ)a 原審決(甲13)は,本件特許発明と甲1に記載された発明は,共に,拡大光学系を,眼とディスプレイの間に配置するものであり,また,拡大された画面の虚像を,拡大光学系を通して眼で見るものであると認定している(7頁5行~11行)。「…の間に」とは「二つのものにはさまれた部分」にあることを意味し,一方と同じ位置にあることは意味しない。また「…を通して」の「通す」も「一方から他方にとどかせる」ことを意味する。このため,拡大光学系と眼が同じ位置にあると,「拡大光学系を通して眼で見る」ことはできない。そして,上記の点が一致点であるなら,甲1に記載された発明も,本件特許発明と同様,拡大光学系と眼の間に距離(≠0)が存在する。したがって,原審決は,一致点では,甲1に記載された発明の拡大レンズと眼との間に,距離(≠0)が存在すると認定している。この点は当事者間に争いがない。
b また,原審決(甲13)は,本件特許発明と甲1に記載された発明の相違点3を,「本件特許発明は,『左右の眼が各々の画面の虚像に向けられるとき,人間の眼の間隔をde,拡大光学系の像倍率をmとすると,各々のディスプレイの画面の中心から(de/2)×(1/m)だけ水平方向の外側の点からの光線が左右の拡大光学系を通って左右の眼に注がれるとき,その光線が平行となるように配置することで,左右の画面の虚像が画面全体において一致するように構成した』ものであるのに対し,甲第1号証には,この点に関する明文の記載がない点。」と認定している(7頁20行~26行)。ここで,「光線が平行」となるためには,拡大光学系から射出した光線が,眼に入射するまでの距離(≠0)が必要である。本件特許の図面を見ると,図面には眼が記載されているが,眼と拡大レンズの位置は明らかに異なっている。したがって,本件特許発明の拡大光学系と眼の間に,距離(≠0)が存在する(眼の位置と拡大光学系の位置は異なる)ことは明白であり,この点は当事者間で争いがない。他方,原審決は,甲1に記載された発明は,この点に関する明文の記載がないと認定している。
c そして,原審決(甲13)は,相違点3の検討では,職権で,甲1について,「前記1(3)における『拡大レンズ26をつけた接眼レンズ25』との記載から,拡大レンズ26を眼の位置とみることができ,…」(8頁下1行~9頁1行)と判断した。
d 上記cの判断は,「拡大レンズと眼の間に距離が存在する」点で当事者間に争いがないこと(上記一致点の認定)に反している。当事者間に争いがない場合でも,より合理的な判断がなされるのであれば,特許法において,職権による判断を否とする理由はない。しかし,「接眼」の記載から眼の位置を速断した上記判断は,接眼レンズの技術常識を考慮したものでなく,甲1の図面を考慮して判断したものでもない上,明視の距離(25cm)以上ある虚像の距離に対し,「眼の位置が拡大レンズの位置であるとみること(甲1で14mm程度あるアイポイント距離を0と見ること)が不自然であるか否か」を考える場合と「内寄せ量」を考察するときのように画像とレンズの距離(甲1で43mm程度)に対して「眼の位置が拡大レンズの位置であるとみることが不自然であるか否か」を考える場合との違いを考慮しておらず,不合理であり,対世効を考慮したともいえない。
また,上記相違点3の認定では,本件特許発明は,拡大光学系と眼の間に距離(≠0)が存在する記載があることを認定しているから,上記cのような判断をすると,甲1に記載された発明に基づいて相違点3を想到するためには,困難性が増すばかりである。
e 原審決は,上記cの判断後,甲1に記載された発明に基づく相違点3の容易想到性,具体的には,認定した甲1に記載された発明から,拡大レンズの位置と異なる位置に眼の位置を配置し直しても,「規定する光線が拡大レンズを通って,左右の眼に注がれるとき,その光線が平行になる」ことの論理づけができるか否かの判断がされていない。
また,仮に,本件特許発明も「拡大レンズの位置が眼の位置である」と判断しているとすれば,本件特許の特許請求の範囲,明細書及び図面の記載と相違する。
f したがって,原審決には,職権により示した甲1の構成が,認定した一致点の構成を充足するか否かの判断,本件特許発明の相違点3に係る構成と相違するか否か,相違する場合に相違点3の容易想到性の論理づけが可能か否かの判断を怠ったという判断の遺脱がある。
(オ) 本件特許発明の容易想到性を検討する際に,原審決が示した「(レンズの位置が眼の位置である)甲1の構成」と本件特許発明とを対比させた場合の答弁(ないしは意見)を,原告は全く行っていないから,原審決は原告に対して「意見を述べる機会」を与える必要がある。
なお,審決は,「意見を述べる機会」について,口頭審理陳述要領書5頁3行~8行における原告の主張を根拠として,「再審請求人は,自ら,無効審判の手続きにおいて『拡大レンズを目の位置と見ることができる』ことにつき意見を述べている。」と判断している(15頁20行~21行)。
しかし,原告の上記主張は,甲1の図4の2本の一点鎖線は作像線を示したものではなく,Focal Pointは像点ではないことを証明するために,仮にt=0としたものであって,甲1における眼の物理的な配置位置について主張したものではないことは明らかであるから,審決の判断は当を得ない。
(カ) また,審決は,前訴判決が,原告が「接眼レンズに関する技術常識を看過した旨の主張」をした点について,実質的に接眼レンズに関する技術常識(アイポイント距離[レンズと目の間隔])を考慮して判断していると判断した(15頁29行~16頁5行)。
しかし,前訴判決の「…眼の位置が接眼レンズ(すなわち,拡大レンズ)の位置であるとみることが不自然であるとまではいえない。」との判断(甲24,16頁17行~18行)は,アイポイント距離を考慮した上で判断したとはいえないから,前訴判決は,実質上接眼レンズの技術常識を考慮して判断しているとはいえない。
カ 取消事由6(民訴法338条ただし書についての法令解釈の誤り)
審決は,本件再審の請求は,特許法171条2項で準用する民訴法338条ただし書により不適法な請求であると判断している。しかし,本件再審の請求が不適法でないことは,ア~オで述べたとおりであり,審決は,民訴法338条ただし書についての法令解釈を誤っている。
キ 原審決と前訴判決の取消し
既に述べたとおり,原告の主張する再審事由はいずれも,民訴法338条1項ただし書に照らし適法であるから,審決は取り消されなければならない。そして,審決取消し後,すぐに特許庁に戻り,審理が再開された場合,再審事由があると判断されると,原審決を取り消し,改めて審決がされることになる。
しかし,特許庁は,前訴判決の取消しはできないために,確定した前訴判決の影響(既判力,信義則)を完全に取り除くことができず,適正な審理審決に関し,問題が残る。前訴判決は,前提事実に誤りがあるため,その結論も誤っており,取り消されるべきものである。
したがって,本訴は通常と異なり,特別の状況にあるため,原審決と前訴判決を取り消した後に,特許庁に戻して再審の審理が再開される必要がある。原審決と前訴判決の取消しは,本件審決取消訴訟の審理範囲内にあり,本訴において審理することに問題はない。
そこで,原審決と前訴判決の取消しを求める。
2 請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3 被告の反論-原告の請求1に対して
(1) 取消事由1に対し
原告は,①本件無効審判事件において,甲1の翻訳文の正確性について意見を述べる機会が与えられなかったこと,②当該翻訳文が正確でないことの2点を主張しているものと考えられる。
これらのうち,上記②の翻訳文が正確でないとの主張は,具体的には「『ocularly spaced~』の解釈が誤りである」との主張に他ならないから,実質的には後記(2)の取消事由2と同じ主張というべきであり,後記(2)のとおり理由がない。次に,上記①については,原告は,前訴において,準備書面(1)(甲22,12頁12行~14行)で,「なお,被告の提出した翻訳文は原審審判長の慫慂によるもので,原告には審理終結通知書と共に送達されたものであり,原告は前審において検討することが出来なかったが,詳細に検討すると以下の通りである。」と,格別異議も述べずに翻訳文の内容について主張をしており,本件無効審判事件において翻訳文の正確性について意見を述べる機会を与えられなかったのか否かの点につき,裁判所にその判断を求めていたとは到底いえない。したがって,再審理由1は,民訴法338条1項ただし書後段(知りながら主張しなかったとき)に該当する。
なお,翻訳文の正確性について意見を述べる機会が与えられなかったとの原告の主張は,単なる手続違背を主張するものにすぎず,そもそも再審事由たる判断の遺脱には当たらないというべきである。
(2) 取消事由2に対し
ア 原告は,審決につき,①原審決が「『刊行物(甲1)に記載された発明の認定』において,刊行物(甲1)に記載されている『不明確事項の意義』を解明するべきか否かの判断を怠った」,②原審決が「『登録特許公報である甲1』の『特許権が付与されたクレーム』に記載されている事項の解釈を怠り,認定する『甲1に記載されている事項』の意義が,『クレームに記載されている事項』の意義と反しているか否かの判断を怠った」にもかかわらず,原審決のこのような判断の遺脱を看過しており,不当であると主張している。
まず,上記①の「不明確事項の意義」の主張は,甲1中の「ocularly spaced~」(訳:視覚的に離間され)の意義の認定に関するものと考えられる。次に,上記②の主張は,甲1中の「ocularly spaced~」の意義の認定において,原告の主張を採用せず,これを誤ったとの主張であるものと考えられる。
イ 原告は,上記の再審理由2について,前訴で主張済みであることを認めているところ,前訴判決(甲24,17頁26行~18頁4行,18頁23行~19頁2行)では,原告の上記「『ocularly spaced~』の意義の認定が誤りである」との主張に対して明確に判断がされている。
したがって,再審理由2は,民訴法338条1項ただし書前段(当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき)に該当する。
(3) 取消事由3に対し
ア 原告は,審決につき,①原審決が「本件特許の特許請求の範囲の記載に基づく解釈を怠り,そして,特許請求の範囲の記載が一義的に明確であるか否か(あるいは,『特段の事情』があるか否か)の判断を怠った」,②原審決が「一部の図面(第1図)を参酌して行った解釈が,他の図面(第10図)に対しても該当するか否かの判断を怠った」,③原審決が「本件特許発明の主要構成(発明が規定する左右の光線が眼に注がれるとき平行となる構成)について甲1に記載された発明と相違するか否かの判断を怠った」にもかかわらず,原審決のこのような判断の遺脱を看過しており,不当であると主張している。
上記①は,原審決が,本件特許の特許請求の範囲の解釈につき,特許請求の範囲の記載に基づかず,本件特許公報中の第1図に基づいて特許請求の範囲を解釈した結果,特許請求の範囲の解釈を誤ったとの主張であると考えられる。上記②は,原審決が,特許請求の範囲を解釈するに当たって,本件特許公報の第1図のみを参酌して,第10図を参酌しなかった結果,特許請求の範囲の解釈を誤ったとの主張であると考えられる。上記③は,原審決が,本件特許の特許請求の範囲に記載されている「左右の光線が眼に注がれるとき平行となる構成」についての解釈を誤っており,本件特許発明と甲1に記載された発明とが正しく比較されていないとの主張であると考えられる。これらによれば,上記①~③の主張は,「左右の光線が眼に注がれるとき平行となる構成」の意義につき,原告主張を採用すべきというものであり,結局,特許請求の範囲の解釈に誤りがあるとの主張に尽きることになると考えられる。
イ 原告は,上記の再審理由3について,前訴で主張済みであることを認めている。これに対して,前訴判決(甲24,19頁13行~24行)では,原告の上記主張に係る「左右の光線が眼に注がれるとき平行となる構成」について,明確に判断がされている。
したがって,再審理由3は,民訴法338条1項ただし書前段に該当する。
(4) 取消事由4に対し
ア 原告は,審決につき,①原審決が,「甲1において『レンズ26と画像17間の軸方向距離に依存し,』レンズと画像の軸方向距離に比例した分だけ,画像の横方向間隔を狭くすると,と記載されている事項について,本件特許発明と甲1が相違するか否かの判断を怠った」,②原審決が「『甲1に欠如する光学的関係を示す記載』を補うため,相違点の検討において,『立体視の技術常識』を勘案したときに,一致点の条件を充足するか否かの判断を怠った」,③原審決が「『甲1の画像を本件特許発明のディスプレイに対応させた甲1の構成について,本件特許と甲1とを対比して,本件特許と一致するか否か(あるいは相違するか否か)の判断』を怠った」にもかかわらず,原審決のこのような判断の遺脱を看過しており,これが不当であると主張している。
上記①の主張は,甲1に記載された発明においては,画像とレンズの軸方向距離に比例して2つの画像の横方向間隔が狭くなるのに対し,本件特許発明においては,画像とレンズの軸方向距離に比例して二つの画像の横方向間隔が広くなるから,両者は相違するとの主張であるものと考えられる。上記②の主張は,甲1に記載されていない事項を補うため,「立体視の技術常識」を勘案するのは誤りであり,「光学的な技術常識」を勘案すべきであるとの主張であると考えられる。上記③の主張は,原審決が甲1中の「オパールガラス16」を,本件特許発明の「ディスプレイ」に対応させて両者を比較したのは誤りであり,甲1中の「画像17」を,本件特許発明の「ディスプレイ」に対応させて,両発明を比較すべきであるとの主張であるものと一応考えられる。
イ 原告は,上記の再審理由4について,前訴で主張済みであることを認めている。これに対して,前訴判決(甲24,20頁7行~20行)は,原告の上記①の主張につき,本件特許発明においても,甲1に記載された発明においても,画像の中心は,拡大レンズの中心よりも[(de/2)×(1/m)]分だけ内寄せられる点で一致していることを明確に判断している。次に,前訴判決(甲24,14頁2行~15頁24行)は,光学的な技術常識(物点と像点の共役的関係)を勘案した上で,上記②の主張について判断している。さらに,前訴判決(甲24,20頁17行~20行)は,原告の上記③の主張に対して,本件特許発明におけるスクリーンと甲1に記載された発明中の画像17とを対応させて判断していることが明らかである。
したがって,再審理由4は,民訴法338条1項ただし書前段に該当する。
なお,上記①~③の主張は,いずれも原審決がした判断の誤りを主張するものにすぎず,そもそも再審事由となる判断の遺脱には当たらない。
(5) 取消事由5に対し
ア 原告は,審決につき,①原審決が「無効理由を通知し再審請求人に意見を述べる機会を与えるべきか否かの判断を怠った」,②原審決が「接眼レンズに関する技術常識を勘案すべきか否かの判断を怠った」,③原審決が「職権により示した甲1に記載された発明の構成が,認定した一致点の構成を充足するか否かの判断,本件特許発明の相違点3の構成と相違するか否か,相違する場合に相違点3の容易想到性の論理づけが可能か否かの判断を怠った」にもかかわらず,原審決のこのような判断の遺脱を看過しており,不当であると主張している。
上記①の主張は,甲1に記載された発明において,レンズの位置を眼の位置とすることは誤りであり,このことにつき原告に意見を述べる機会が与えられるべきであったとの主張と考えられる。上記②の主張は,甲1に記載された発明において,画像とレンズの距離が短いことを考えると,レンズと眼との間の距離(アイポイント距離)を無視することはできないから,レンズの位置を眼の位置とすることは誤りであるとの主張と考えられる。上記③の主張は,原審決が,甲1に記載された発明と本件発明の一致点の認定において,レンズと眼との間に距離が存在するとしておきながら,相違点3の容易想到性の判断において,レンズの位置を眼の位置とするのは矛盾しており,相違点3の容易想到性は認められないはずであるとの主張であると考えられる。
イ 原告は,上記②及び③の主張について,前訴で主張済みであることを認めている。原告は,前訴において,上記①の主張を行っていない。なお,上記①に関しては,原審決が指摘しているとおり(15頁1行~27行),原告の主張は,およそ失当というべきである。
前訴判決(甲24,16頁15行~18行)は,上記②について判断しているし,また,前訴判決(甲24,16頁8行~17頁15行,22頁12行~13行)は,上記③についても,レンズの位置を眼の位置とする解釈は誤りであるとの原告の主張を明確に否定した上で,相違点3の容易想到性を認めた原審決の認定判断に誤りはないと判断している。したがって,上記②及び③の点については,前訴判決中において明確に判断がされている。
ウ 以上のとおりであるから,上記①については,民訴法338条1項ただし書後段に該当する。また,上記②,③については,民訴法338条1項ただし書前段に該当する。
(6) 取消事由6に対し
ア 原告は,民訴法338条1項ただし書につき,「当事者が審決取消訴訟においてその事由を主張したとき,又はこれを知りながら主張しなかったときであっても,特段の事情がある限りその事由に基づいて再審の請求ができる」と解すべきと主張している。
しかし,同項ただし書は,「当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき,又はこれを知りながら主張しなかったときは,この限りではない」と規定しているにすぎず,「特段の事情」が認められる場合に例外的取扱いを許容すべきとする趣旨は一切規定されていない。
したがって,同項ただし書中に「特段の事情」などというあいまいな概念を持ち込む余地は皆無である。
イ 既に述べたとおり,原告が主張している再審事由は,前訴において主張済であったり,あるいはこれを知りながら主張しなかったものばかりであり,主張済みの事項については,いずれも前訴判決(甲24)中で判断がされている。
4 被告の反論-原告の請求2及び3に対して
原告の請求2及び3は,本件審決とは異なる審決又は判決につき,その取消を求めるというものであり,かつ,上記2の請求には既に出訴期間を徒過し,上記3の請求に係る判決は既に確定しているから,いずれについても訴えそれ自体において不適法であり,却下を免れない。
第4当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2 本件審決の取消しを求める請求(原告の請求1)の当否
(1) 原告の請求1は,特許権者であった原告が被告からの無効審判請求に基づきその請求項1につき特許庁から無効審決(原審決)を受けそれが確定したのでその誤りを主張して,特許法171条に基づき再審の請求をしたが,特許庁から審決により同条2項の準用する民訴法338条1項の規定に該当しないので不適法な請求であるとして却下された(本件審決)ので,その取消しを求めたものである。
本件審決に至る審判手続において,請求人たる原告は,前記のとおり原審決には特許法171条2項の準用する民訴法338条1項9号にいう判断遺脱事由がありかつ同条項ただし書にいう「控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき又はこれを知りながら主張しなかったとき」に該当しないと主張し,上記再審請求を不適法とした本件審決の取消しを求める本訴においても同旨の主張をしている。一方,上記再審請求の被請求人たる被告は,上記審判手続及び本訴において,前記のとおり,原告主張の再審理由は特許法171条2項の準用する民訴法338条1項9号の判断遺脱事由に当たらないし,同条1項ただし書にいう「控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき」(前段)又は「これを知りながら主張しなかったとき」(後段)に該当するから,本件再審請求は不成立とすべきであり,本件審決の取消しを求める原告の請求1は棄却されるべきであると主張している。
よって検討するに,再審に関する特許法の定めは,その171条で,同じく再審に関する民訴法338条1項及び2項並びに339条を,その174条4項で民訴法348条1項をそれぞれ準用している。そして,再審事由について定めた民訴法338条の解釈として,同条1項ただし書に該当する事由があるときは再審の訴えとしては不適法となり(なお,最高裁平成6年10月25日第三小法廷判決・判例タイムズ868号154頁等参照),一方,上記ただし書の事由はないが同条1項各号の再審事由もないときは再審請求を棄却すべきこととなると解されるところ,これを特許法の再審請求に即していえば,民訴法338条1項ただし書の事由があるときは特許法174条の準用する135条により不適法として却下すべきであり,また単に民訴法338条1項各号の再審事由(本件でいえば9号の「判断遺脱」)が認めらないときは再審請求不成立の審決をすべきものと解するのが相当である。そして,民訴法338条1項ただし書にいう「控訴若しくは上告」とは,特許法に則していうと「審決取消訴訟の提起若しくは同訴訟に対する上告」のことをいい,また「判断の遺脱」とは,当事者が適法に提出した攻撃防御方法たる事項で当然審決の結論に影響するものに対し審決の理由中で判断を示さなかった場合であると解される。
そこで,以上の見地に立って,原告主張の取消事由について判断する。
(2)ア 取消事由1(再審理由1[翻訳文の成立の判断の遺脱]についての認定判断の誤り)について
(ア) 審決は,再審理由1を「原審決は,翻訳文の正確性について審判被請求人に意見を述べる機会を与えるべきか否かの判断を怠り,証拠の認定において『翻訳文の成立に争いはない』と判断をした。原審決には,意見を述べる機会を与えるべきか否かの判断を怠った,という『判断の遺脱』がある。」と認定した(2頁下5行~下1行,6頁10行~14行)。これに対し,原告は,審決は,再審理由1の認定を誤っており,「原審決には,意見を述べる機会を与えるべきか否かの判断を怠り,そして,翻訳文が正確であるか否か(『原文作成者』の意思に基づいて作成されたものであるか否か)の判断を怠った,という『判断の遺脱』がある。」と認定されなければならないと主張する。
しかし,再審理由1についての審決の上記認定も,原告の上記主張も,本件無効審判事件において原告に対し甲1の全文翻訳文(甲2)の正確性について意見を述べる機会を与えなかったことと,当該翻訳文の正確性についての判断の誤りを主張する点において,その実質に違いはないものというべきである。そして,このような再審理由1は,本件無効審判事件における手続違背又は翻訳文の正確性についての認定の誤りを主張するもので,前述した判断遺脱を主張するものとはいえないと解されるから,そもそも再審事由に当たるものではない。
(イ) また原告は,前訴において,準備書面(2)(甲23)で,「…原告には,このような重大な記載がなされた全訳文が審理終結後に初めて送達されたのである。原告に反論の機会が与えられずに成された審決は適法性に係わる重大な問題が存在する。」(8頁12行~14行),「…『前記レンズ26は目の通常の間隔に対応するように離間され』の部分は,原文通りに解釈すれば『前記レンズ26は目の通常の間隔に対応するように視覚的離間され』の意味である…」(22頁7行~9行)と主張し,準備書面(4)(甲8)で,「…『前記レンズ26は目の通常の間隔に対応するように離間され』の記載は,請求人の誤訳であり,正しくは『前記レンズ26は目の通常の間隔に対応するように視覚的離間…され』である。」(10頁8行~11行,28頁20行),(審決は)「次に「イ」の項で『拡大レンズの間隔を目の間隔とする記載がある』と判断した。・請求人の誤訳をそのまま用いた。」(28頁18行~20行)と主張しているから,本件無効審判事件において原告に対し甲1の全文翻訳文(甲2)の正確性について意見を述べる機会を与えられなかったことと当該翻訳文の「前記レンズ26は目の通常の間隔に対応するように離間され」の部分が正確でないことを主張している。したがって,原告は,前訴において,再審理由1に当たる事由を主張していたから,特許法171条2項で準用する民訴法338条1項ただし書前段が規定する,審決取消訴訟において「当事者がその事由を主張したとき」に当たる。
この点について原告は,再審理由1に当たる事由について,前訴で主張しても裁判所の判断が得られなかったと主張する。しかし,前訴判決(甲24)は,甲1について,「前記レンズ26は目の通常の間隔に対応するように視覚的離間され」との訳文を採用し(14頁下6行~下5行),それを前提として,甲1に記載された発明について判断しているから,再審理由1に当たる事由についての原告の主張は排斥されていると解される。したがって,前訴判決が,再審理由1に当たる事由についての原告の主張を判断していないということはできないから,原告の上記主張を採用することはできない。
イ 取消事由2(再審理由2[甲1のクレーム解釈に対する判断の遺脱]についての認定判断の誤り)について
(ア) 審決は,再審理由2を「原審決は,刊行物に記載された発明の認定においてした判断(『甲1に,二つの拡大レンズの間隔を目の間隔で配置したことが記載されている』とする点)において,要部翻訳文の記載(甲1のクレームを除く記載中に複数箇所ある『視覚的に離間して』との記載のうちの一部)を引用するのみで全文翻訳文の記載(甲1のクレーム中にある『視覚的に離間して』との記載)を考慮に入れていない。
原審決には,甲1のクレームに記載された事項の解釈を怠った,という『判断の遺脱』がある。」と認定した(3頁2行~9行,7頁5行~12行)。これに対し原告は,審決は,再審理由2の認定を誤っており,「原審決には,『刊行物(甲1)に記載された発明の認定』において,刊行物(甲1)に記載されている『不明確事項の意義』を解明するべきか否かの判断を怠った,という『判断の遺脱』,そして(または),『登録特許公報である甲1』の『特許権が付与されたクレーム』に記載されている事項の解釈を怠り,認定する『甲1に記載されている事項』の意義が,『クレームに記載されている事項』の意義と反しているか否かの判断を怠った,という『判断の遺脱』がある。」と認定されなければならないと主張する。
しかし,再審理由2についての審決の上記認定も,原告の上記主張も,原審決が,甲1に記載された発明の認定において,クレーム中にある「視覚的に離間して」との記載を考慮することなく誤った判断をしたことを主張する点において,その実質に違いはないものというべきである。そして,このような再審理由2は,原審決が,甲1に記載された発明の認定を誤ったことを主張するもので,前述した判断遺脱を主張するものとはいえないと解されるから,そもそも再審事由に当たるものではない。
(イ) また原告は,前訴において,準備書面(1)(甲22,12頁11行~16頁),準備書面(2)(甲23,8頁5行~19行,10頁10行~11頁3行,21頁22行~22頁20行)及び準備書面(4)(甲8,10頁2行~17行)で,甲1のクレームに記載されている「視覚的に離間された」という用語の意義について主張している。したがって,原告は,前訴において,実質的に再審理由1に当たる事由を主張していたから,特許法171条2項で準用する民訴法338条1項ただし書前段が規定する,審決取消訴訟において「当事者がその事由を主張したとき」に当たる。
この点について原告は,再審理由2に当たる事由について,前訴で主張しても裁判所の判断が得られなかったと主張する。しかし,前訴判決(甲24)は,甲1のクレーム等に記載されている「視覚的離間の関係」について,その意義を「…単に,像あるいはイメージ,開口24及びその中の拡大レンズ26をつけた接眼レンズ25が左右方向に離間していることを意味するにとどまるものといわざるを得ない。」(18頁下1行~19頁2行)と判断し,その判断を前提として,甲1には,拡大レンズ26の間隔を眼の間隔とすることが記載されていると判断している(19頁3行~8行)から,前訴判決において,原告が前訴において主張した再審理由2に当たる事由について判断がされている。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
ウ 取消事由3(再審理由3[特許請求の範囲の解釈に対する判断の遺脱]についての認定判断の誤り)について
(ア) 審決は,再審理由3を,「原審決は,相違点3の検討においてした判断において,本件特許発明について特許請求の範囲の記載に基づかない認定(『特許請求の範囲の記載では二つのレンズの間隔と二つの画像の間隔を規定している』とする点)をしたばかりでなく,本件特許発明の『左右の眼に注がれるとき,その光線が平行』なる構成に対して判断をしていない。原審決には,本件特許の特許請求の範囲の記載の解釈を誤り,本件特許発明の主要構成につき判断を怠った,という『判断の遺脱』がある。」と認定した(3頁11行~17行,9頁24行~30行)。これに対し原告は,審決は,再審理由3の認定を誤っており,「原審決には,『本件特許の特許請求の範囲の記載に基づく解釈を怠り,そして,特許請求の範囲の記載が一義的に明確であるか否か(あるいは,特段の事情があるか否か)の判断を怠った,という判断の遺脱』,『一部図面(第1図)を参酌して行った解釈が,他の図面(第10図)に対しても該当するか否かの判断を怠った,という判断の遺脱』,そして『本件特許発明の主要構成(発明が規定する左右の光線が,眼に注がれるとき,平行となる構成)について,引用発明(甲1に記載された発明)と相違するか否かの判断を怠った,という判断の遺脱』がある。」と認定されなければならないと主張する。
しかし,再審理由3についての審決の上記認定も,原告の上記主張も,原審決(甲13)が本件特許発明について「特許請求の範囲の記載では,二つのレンズの間隔と二つの画像の間隔との関係を規定している…」(9頁16行~17行)と判断したことの誤りと,本件特許発明の「発明が規定する左右の光線が,眼に注がれるとき,平行となる構成」と甲1に記載された発明との対比についての判断の誤りを主張するものであって,その実質に違いはないものというべきである。そして,このような再審理由3は,原審決が本件特許発明の認定を誤り,甲1に記載された発明との対比についての判断を誤ったことを主張するもので,判断遺脱を主張するものとはいえないから,そもそも再審事由に当たるものではない。
(イ) また原告は,前訴において,準備書面(1)(甲22,30頁1行~36頁3行),準備書面(2)(甲23,28頁~33頁),準備書面(4)(甲8,16頁12行~27頁)及び準備書面(5)(甲9,5頁1行~9行,6頁20行~8頁1行,10頁8行~10行)で,本件特許発明の意義が明確であること,本件特許発明は「二つのレンズの間隔と二つの画像の間隔との関係を規定するもの」でないこと,及び甲1に記載された発明が本件特許発明の「発明が規定する左右の光線が,眼に注がれるとき,平行となる構成」を備えていないことを主張している。したがって,原告は,前訴において,再審理由3に当たる事由を主張していたから,特許法171条2項で準用する民訴法338条1項ただし書前段が規定する,審決取消訴訟において「当事者がその事由を主張したとき」に当たる。
この点について原告は,再審理由3に当たる事由について,前訴で主張しても裁判所の判断が得られなかったと主張する。しかし,前訴判決(甲24)は,「本件特許請求の範囲の『左右の眼が各々の画面の虚像に向けられるとき,人間の眼の間隔をde,拡大光学系の像倍率をmとすると,各々のディスプレイの画面の中心から(de/2)×(1/m)だけ水平方向の外側の点からの光線が左右の拡大光学系を通って左右の眼に注がれるとき,その光線が平行となるように配置する』は,第1図に示されるように,ディスプレイの画面の中心位置と,拡大光学系の中心位置(光軸が通るレンズの位置)との関係(ディスプレイの画面の中心が,拡大光学系の中心より(de/2)×(1/m)だけ内側に位置する)を規定しているから,『二つのレンズの間隔と二つの画像の間隔との関係』を規定しているということができる。」(19頁17行~24行)と判断した上,この判断を前提として,本件特許発明と甲1に記載された発明を対比し,「したがって,『特許請求の範囲の記載では,二つのレンズの間隔と二つの画像の間隔との関係を規定しているが,この点は審判甲1(甲3)の図4に示された「Focal Point」を中心に虚像を表示するために,必然的に生じる規定である。』とした審決の認定判断に,誤りはない。」(20頁下1行~21頁3行)と結論付けているから,前訴判決において,原告が前訴において主張した再審理由3に当たる事由について判断がされている。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
エ 取消事由4(再審理由4[光学的記載,技術常識に対する判断の遺脱]についての認定判断の誤り)について
(ア) 審決は,再審理由4を,「原審決は,相違点3の検討においてした判断(『Focal Pointは像点である』とする点)において,『光学的な技術常識』ではなく『立体視における技術常識』を勘案したばかりでなく,『Focal Pointは像点である』と認定するだけの光学的記載が甲1にはないこと,『Focal Pointは像点である』と仮定すると甲1の記載と間に矛盾が生じること,についてそれぞれ見解を示していない。原審決には,勘案すべき技術常識を錯誤し正しい技術常識の基づく判断を怠った,という『判断の遺脱』がある。」と認定した(3頁19行~26行,11頁19行~26行)。これに対し原告は,審決は,再審理由4の認定を誤っており,「原審決には,『レンズ26と画像17間の軸方向距離に依存し』レンズと画像の軸方向距離に比例した分だけ画像の横方向間隔を狭くすると甲1に記載されている事項について本件特許発明と甲1が相違するか否かの判断を怠った,『甲1に欠如する光学的関係を示す記載』を補うため勘案すべき技術常識が適切であるか否かの判断を怠った,相違点の検討において『立体視の技術常識』を勘案したときに一致点の条件を充足するか否かの判断を怠った,甲1の画像を本件特許発明のディスプレイに対応させた甲1の構成について,本件特許と甲1を対比して,本件特許と一致するか否か(あるいは相違するか否か)の判断を怠った,という『判断の遺脱』がある。」と認定されなければならない,と主張する。
しかし,再審理由4についての審決の上記認定も,原告の上記主張も,原審決が,相違点3の検討で「立体視における技術常識」(8頁30行)を勘案して,甲1の「Focal Point」は像点であると認定したことの誤りを主張する点においては,その実質に違いはないものというべきである。そして,再審理由4のうち,この事由は,原審決が,甲1に記載された発明の認定を誤ったことを主張するもので,判断遺脱を主張するものとはいえないから,そもそも再審事由に当たるものではない。
(イ) また原告は,さらに,①甲1に記載された発明は,輻輳点と像点を一致させる規定がないから,画像とレンズの軸方向距離に比例した分だけ二つの画像の横方向間隔が狭くなるのに対し,本件特許発明は,輻輳点と像点を一致させる規定があるから,「光学的関係」により,輻輳点(像点)が定まれば(光学的)画像位置は一点に定まり,比例することはなく,あえて画像をレンズの軸方向に移動させた場合,物点の移動に伴う像点の移動により輻輳点も移動する結果,画像とレンズの軸方向距離に比例して二つの画像の横方向間隔が広くなるため,両者は相違する,②原審決が,甲1の「オパールガラス16」を本件特許発明のディスプレイと誤認し,それに基づいて,左右の「拡大された画面の虚像」が共に,輻輳点(「左右の眼からの虚像の距離」の位置)に生成されるように,画像と拡大レンズの配置位置を定めることを,本件特許発明と甲1に記載された発明との一致点と認定したことは誤りである,との各点も,再審理由4として主張していたとする。
しかし,上記①の点は,再審事件弁駁書(甲15,23頁14行~23行)において,「判決は,『立体視における技術常識』を用いたことに関しては全く判断を示さなかった。又,矛盾点については,画像(物点)の移動毎に「Focal Point」(共役点)を設定し直し,条件を満たす位置に画像を配置すれば,矛盾は生じないと判断したが,この判断が,請求の範囲に記載された関係式を導く際に用いた比例関係や図4から想到できる画像の移動関係(視覚的離間における移動関係:目から離れるごとに間隔を狭く配置する(参考図7a)と矛盾している点(判決の判断だと画像を目から離れるごとに所定の関係で広くして配置しなければならない(参考図7b)には判断を示さなかった…」として,前訴判決の矛盾点として主張されているのみで,原審決の再審事由として主張されているとは解されない。また,上記②の点は,再審請求書(甲14)でも再審事件弁駁書(甲15)でも主張されておらず,再審事件において再審事由として主張されているものではない。したがって,上記①②の事由を本訴において再審事由として主張することはできない。
なお,上記①②が再審事由であるとしても,その実質は,本件特許発明と甲1に記載された発明との対比の誤りを主張するにすぎず,判断遺脱を主張するものとはいえないから,そもそも再審事由に当たるものではない。
(ウ) さらに原告は,前訴において,準備書面(2)(甲23,11頁12行~12頁12行)及び準備書面(4)(甲8,7頁23行~8頁22行)で,原審決が,相違点3の検討で「立体視における技術常識」を勘案して,甲1の「Focal Point」は像点であると認定したことの誤りを主張している。したがって原告は,前訴において,再審理由4のうち,この点に関する事由を主張していたから,特許法171条2項で準用する民訴法338条1項ただし書前段が規定する,審決取消訴訟において「当事者がその事由を主張したとき」に当たる。
この点について原告は,再審理由4に当たる事由について前訴で主張しても裁判所の判断が得られなかったと主張する。しかし,前訴判決(甲24,13頁13行~16頁7行)は,「『Focal Point』が像点であるとした審決の認定について」との表題の下に,甲1の「Focal Point」が像点であるとした原審決の認定について判断し,「したがって,『Focal Point』が像点であるとした審決の認定判断に,誤りはない。」(16頁6行~7行)と結論付けているから,前訴判決において,再審理由4のうち,原告が前訴において主張した上記事由について判断がされている。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
オ 取消事由5(再審理由5[接眼レンズに対する判断の遺脱]についての認定判断の誤り)について
(ア) 審決は,再審理由5を,「原審決は,相違点3の検討においてした判断において,両当事者が主張もしない判断(『拡大レンズを目の位置と見ることができる』とする点)を新たに職権により示したばかりでなく,接眼レンズの基本スペック(レンズと目の間隔(アイポイント)の存在)を考慮に入れていない。原審決には,無効理由を通知し再審請求人に意見を述べる機会を与えなかった,接眼レンズに関する技術常識を看過した,という『判断の遺脱』がある。」と認定した(3頁28行~34行,14頁15行~21行)。これに対し,原告は,審決は,再審理由5の認定を誤っており,「原判決には,無効理由を通知し再審請求人に意見を述べる機会を与えるべきか否か,接眼レンズに関する技術常識を勘案すべきか否か,職権により示した引用発明の構成が,認定した一致点の構成を充足するか否かの判断,本件特許発明の相違点3の構成と相違する否か,相違する場合に相違点3の容易想到性の論理づけが可能か否かの判断を怠ったという判断の遺脱がある。」と認定されなければならないと主張する。
しかし,再審理由5についての審決の上記認定も,原告の上記主張も,原審決が相違点3の検討において,甲1につき,「拡大レンズを目の位置と見ることができる」と職権で判断し相違点3について容易に想到することができると判断したことについて,原告に意見を述べる機会を与えるべきであったことと,上記判断の誤りを主張する点においては,その実質に違いはないものというべきである。そして,このような再審理由5は,原審決が,本件無効審判手続の手続違背,甲1に記載された発明の認定の誤り,それに基づく相違点3についての容易想到性の判断の誤りを主張するもので,判断遺脱を主張するものとはいえないから,そもそも再審事由に当たるものではない。
(イ) また原告は,前訴において,準備書面(1)(甲22,9頁5行~12頁8行,14頁6行~16頁10行,26頁下11行~27頁下1行),準備書面(2)(甲23,14頁7行~12行,20頁1行~21頁21行)及び準備書面(4)(甲8,9頁11行~10頁1行,14頁1行~15行,21頁12行~22頁3行,30頁11行~15行)で,原審決が,相違点3の検討において,甲1につき,「拡大レンズを目の位置と見ることができる」と,職権で判断し,相違点3について容易に想到することができると判断したことが誤っていることを主張している。したがって,原告は,前訴において,再審理由5のうち,この点に関する事由を主張していたから,特許法171条2項で準用する民訴法338条1項ただし書前段が規定する,審決取消訴訟において「当事者がその事由を主張したとき」に当たる。
この点について原告は,再審理由5に当たる事由について,前訴で主張しても裁判所の判断が得られなかったと主張する。しかし,前訴判決(甲24,16頁8行~17頁17行)は,「『拡大レンズを目の位置と見ることができ』るとした審決の認定判断について」との表題の下に,甲1につき,「拡大レンズを目の位置と見ることができる」とした審決の認定について判断し,「したがって,『拡大レンズを目の位置と見ることができ』るとした審決の認定判断に,誤りはない。」(17頁16行~17行)と結論付け,その上で,前訴判決(甲24)は,相違点3についての原審決の認定判断について検討し,「…相違点3についての審決の認定判断に誤りはない…」と判断している(22頁12行~13行)から,前訴判決において,再審理由5のうち,原告が前訴において主張した上記事由について判断がされている。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(ウ) なお原告は,前訴において,甲1につき「拡大レンズを目の位置と見ることができる」と職権で判断するに際し,原告に意見を述べる機会を与えるべきであったことについて主張しているとは認められないが,特許法171条2項で準用する民訴法338条1項ただし書後段が規定する,審決取消訴訟において「当事者が…これを知りながら主張しなかったとき」に当たると認めることができる。
カ 取消事由6(民訴法338条ただし書についての法令解釈の誤り)について
前記ア~オのとおり,本件再審の請求は,特許法171条2項で準用する民訴法338条ただし書により不適法な請求であるというべきであって,その旨の審決の判断に誤りはない。
3 原審決及び前訴判決の各取消しを求める請求に係る訴え(原告の請求2及び3)の適否
原告の請求2は原審決の取消しを求めるものであり,同3は,前訴判決の取消しを求めるものである。
前記第3の1(1)によると,原審決は既に確定しており,特許庁において再審の審決において取り消されることは格別,それ以外に訴訟において取り消しを求める手続は存しないというべきである。また,同様に,前訴判決は既に確定しており,再審の訴えにおいて取り消されることは格別,それ以外の訴訟において取消しを求める手続は存しないというべきである。そのことは,原審決に対する再審請求についての審決の取消訴訟とともに原審決や前訴判決の取消しが求められている場合でも変わりがないと解される。
したがって,原告の請求2及び3に係る訴えは,法律で認められていない訴えであるからいずれも不適法である。
4 結論
以上のとおりであるので,原告の請求1は理由がないから棄却し,原告の請求2及び3に係る訴えは不適法であるから却下することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 森義之 裁判官 澁谷勝海)
(平成20年5月30日付け更正決定により,上記判決の表記を一部訂正)