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知財高等裁判所 平成20年(ネ)10013号 判決 2009年3月18日

控訴人

美濃顔料化学株式会社

(甲・乙・丙事件1審原告)

訴訟代理人弁護士

細井土夫

川本一郎

加藤志乃

犬飼敦雄

山田裕也

磯貝隆博

補佐人弁理士

樋口武尚

山田雅哉

被控訴人

株式会社エコホリスティック

(甲事件1審被告)

被控訴人

株式会社長野セラミックス

(乙事件1審被告)

被控訴人

柴田陶器株式会社

(丙事件1審被告)

上記3名訴訟代理人弁護士

溝上哲也

岩原義則

江村一宏

同訴訟代理人弁理士

山本進

同補佐人弁理士

宇佐見忠男

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴人の求めた裁判

1  控訴人(1審原告)

(1)  原判決を取り消す。

(2)  甲事件

ア 甲事件被告は,原判決添付別紙「イ号物件目録(甲事件)」及び「ロ号物件目録(甲事件)」記載の各物件を生産し,使用し,譲渡し,貸し渡し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。

イ 甲事件被告は,前項記載の各物件(以下「甲被告物件」という。)のカタログを配付してはならない。

ウ 甲事件被告は,インターネットのホームページに甲被告物件を掲載してはならない。

エ 甲事件被告は,甲被告物件を掲載したカタログを回収し廃棄せよ。

オ 甲事件被告は,甲被告物件及びその製造装置を廃棄せよ。

カ 甲事件被告は,原告に対し,7000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成18年11月22日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  乙事件

ア 乙事件被告は,原判決添付別紙「イ号物件目録(乙事件)」記載の物件,同「ロ号物件目録(乙事件)」記載の物件,同「ハ号物件目録(乙事件)」記載の物件,同「ニ号物件目録(乙事件)」記載の物件を生産し,使用し,譲渡し,貸し渡し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。

イ 乙事件被告は,前項記載の各物件(以下「乙被告物件」という。)のカタログを配付してはならない。

ウ 乙事件被告は,インターネットのホームページに乙被告物件を掲載してはならない。

エ 乙事件被告は,乙被告物件を掲載したカタログを回収し廃棄せよ。

オ 乙事件被告は,乙被告物件及びその製造装置を廃棄せよ。

カ 乙事件被告は,原告に対し,金1610万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成18年11月23日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(4)  丙事件

ア 丙事件被告は,別紙「イ号物件目録(丙事件)」記載の物件(以下「丙被告物件」という。)を生産し,使用し,譲渡し,貸し渡し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。

イ 丙事件被告は,丙被告物件のカタログを配付してはならない。

ウ 丙事件被告は,インターネットのホームページに丙被告物件を掲載してはならない。

エ 丙事件被告は,丙被告物件を掲載したカタログを回収し廃棄せよ。

オ 丙事件被告は,丙被告物件及びその製造装置を廃棄せよ。

カ 丙事件被告は,原告に対し,金4900万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成18年11月22日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人(1審被告)

主文同旨。

第2事案の概要等

(以下,略語については,原判決の例による。また,原審甲事件の甲号証を,以下単に「甲1」のようにいう。)

1  事案の概要

控訴人は,名称を「遠赤外線放射体」とする発明について本件特許権(特許第3085182号。平成8年2月8日出願〔特願平8-22180号〕,平成12年7月7日設定登録。請求項の数5。以下「本件特許」)を有しているところ,本件明細書(平成16年9月14日付け訂正審決による訂正後の明細書。甲3。以下「本件明細書」)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下「本件発明」)。

「セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と,全体に対し自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末とを共に10μm以下の平均粒子径としてなる混合物を,焼成し,複合化してなることを特徴とする遠赤外線放射体。」

2  原審の大阪地裁に提起された訴訟は,甲事件,乙事件及び丙事件とから成り,本件特許権者である控訴人(1審甲・乙・丙事件原告)が,被控訴人ら(1審甲事件被告,1審乙事件被告及び1審丙事件被告)に対し,被控訴人らが製造販売している遠赤外線放射体はいずれも本件発明の技術的範囲に属し,同商品を製造販売等する被控訴人らの行為は控訴人の本件特許権を侵害すると主張して,被控訴人らに対し,同商品の製造販売等及び同商品のカタログの配布の差止めと同商品,その製造装置及び同商品のカタログの廃棄を求めるとともに,特許権侵害の不法行為による損害賠償(訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含む。)を請求する事案である。

原判決は,本件特許の明確性要件の充足の有無について,次の判断を示し,本件特許についての被控訴人らの各物件の構成要件充足性や,進歩性等の本件特許の他の無効理由についての判断を示すまでもないとして,甲・乙・丙事件原告の請求はいずれも理由がないとして棄却したので,控訴人が本件控訴を提起した。

すなわち,原判決は,本件明細書(甲2,乙A20の2)の特許請求の範囲の記載中「共に10μm以下の平均粒子径としてなる混合物」との記載は,それが具体的にどのような平均粒子径を有する粒子からなる混合物を指すかが不明であるというほかないから,特許法36条6項2号の明確性要件を満たしておらず,同法123条1項4号の無効理由を有する,としたものである。

第3当事者双方の主張

1  当事者双方の主張は,次に付加するほか,略称も含め,原判決の「事実及び理由」欄の第2「事案の概要」のとおりであるから,これを引用する。

2  控訴人の主張

(1)  本件発明は,「セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と,…調整したモナザイトの粉末とを共に10μm以下の平均粒子径としてなる混合物を,焼成し,複合化してなることを特徴とする遠赤外線放射体」というものであるところ,「10μm以下の平均粒子径」については,本件明細書(甲2,乙A20の2)の段落【0035】に,「遠赤外線放射体は,…製造される。これによって,放射線源材料は均一に分散,分布されると共に,遠赤外線放射材料との粒子間が緻密化される。そのため,特に,遠赤外線放射材料と放射線源材料はできるだけ細かな粒子の微粉末とすることが好ましく,一般に,10μm以下の平均粒子径とすることが好ましい。…そして,それらの粒度が細かい程,自然放射性元素の放射性崩壊によるエネルギ線をより効果的に遠赤外線放射材料に吸収させることができる。」との記載がある。

そうすると,本件発明の「10μm以下の平均粒子径」とは,「10μm以下の平均粒子径」を限界値として特定するものではなく,境界値として特定しているにすぎないものであり,かつ,「粒子間が緻密化」又は「細かな粒子の微粉末」という粒子を,粒子径で表した場合の平均値を「10μm以下の平均粒子径」と表し,本件明細書(甲2,乙A20の2)の発明の詳細な説明においても,「一般に,10μm以下の平均粒子径とすることが好ましい。」というように限定したものである。これらを踏まえれば,本件明細書(甲2,乙A20の2)の記載の解釈として,「10μm以下の平均粒子径」という場合に,「平均粒子径」の「径」が「体積相当径」を意味することは明らかであって,その上で,体積相当径で算出したものについて,算術平均で平均粒子径を算出するものである。

また,本件明細書(甲2,乙A20の2)は,計量法を遵守し,同法と整合性のある日本工業規格の定義に従った表現を用いるものであり,違法になり得ない。すなわち,計量法6条に基づき「粒度」を「ある物質が通過することができる最小の方形網目又は円形網目の一辺の長さ又は直径が1メートルであるときの粒度」と二次元的に定義し,また,検定検査規則8条は,粒子の表面積から算出した粒子径,粒子の長短等のような他の表現を禁止している。そして,日本工業規格(JISZ8901〔甲29〕)は,「(1)粒径…光散乱法による球相当径,…で表したもの。」,「6.2平均粒子径 平均粒子径は,付属書によって測定し,表23の値に適合しなければならない。なお,付属書による方法と同等な測定値が得られる他の測定方法を用いてもよい。」と規定し,レーザ光による光散乱法による球相当径で平均粒子径を測定してもよいとされるものであって,平均粒子径の範囲も上記日本工業規格によって子細に制限され,測定装置の測定結果がその範囲内に入る必要がある。そうすると,計量法及び上記日本工業規格に従って測定装置の校正を行えば,「平均粒子径」が特定できる。

そして,そもそもセラミックス業界(ニューセラミックス,ファインセラミックスを扱う業界を含む業界)では,原材料の粒子を円相当径,球相当値(JISZ8901「試験用粉体及び試験用粒子」の用語の定義〔甲29〕参照)として呼称していたから,当該粒子の形状が円,球とは全く似つかない異形であるにもかかわらず,「粒子径」として粒子を円相当径,球相当値とする「径」で表したものである。このような,同業界で一般的に扱われている「10μm以下の平均粒子径」の表現は,測定装置あるいは測定方法まで特定する必要性はなく,どのような測定装置を使用しても平均粒子径が10μm以下であるかが確認できればよいという意味であると解すれば足りるものである。

京都大学大学院のA准教授作成の「『平均粒子径』の定義についての見解書」(甲40),測定装置あるいは測定方法まで特定する必要性がないとして特許庁で判断された事例の一部である各特許公報(甲39の2~222)は,これらを裏付けるものである。

(2)  原判決では,「1個の粒子の大きさ(粒子径,代表径)の表し方としては種々のものがあり,大きく幾何学的径と相当径(何らかの物理量と等価な球の直径に置き換えたもの)とがあり,幾何学的径には定方向径,マーチン径,ふるい径などがあり,相当径には投影面積円相当径,等表面積球相当径,等体積球相当径,ストークス径,空気力学的径,流体抵抗相当径,光散乱径など種々のものがある。平均粒子径とは,粒子群を代表する平均的な粒子径(代表径)を意味するものであるが,個数平均径,長さ平均径,面積平均径等といった種々の平均粒子径及びその定義式(算出方法)があり,同じ粒子であってもその代表径の算出方法によって異なる」と説示する。

机上論として,「1個の粒子の大きさ(粒子径,代表径)の表し方」としては、現実に測定できるか否かを別とすれば,最大長,最小長,体積等の種々のものがあることは自明である。しかし,本件発明は「1個の粒子の大きさ」を問題とするものではなく,「多くの粒子の集合である粉体」を対象とするものであり,さらに,平均粒子径10μm以下の個々の粒子の真の体積値,向きが特定されない粒子群の個々の粒子の真の最大値及び真の最小値を測定する技術は,現在に至っても確立されていない。したがって,実際の体積(真の値)から何らかの物理量と等価な球の直径に置き換えることは現実には不可能であり,現在の相当径は、向きが特定されない粒子群の個々の粒子の径の大きさとしてみなしているにすぎない。

すなわち,本件発明の「粒子径」とは,個々の実際の粒子の体積,外形を測定する技術が確立されていなかったことから,本件発明の出願日以前にセラミックスの原材料の粒子を円相当径,球相当値(JISZ8901「試験用粉体及び試験用粒子」〔甲29〕の用語の定義参照)の概念が使用されていたことにかんがみ,本件発明の粒子についてもセラミックス業界(ニューセラミックス,ファインセラミックスを扱う業界を含む業界)の技術常識に習って,「粒子径」として表したものである。

したがって,原判決は,「長さ平均径,面積平均径等といった種々の平均粒子径及びその定義式(算出方法)があり」と説示するものの,本件明細書(甲2,乙A20の2)の段落【0035】の粒子相互間を緻密化するという内容と全く異なる概念を,何の根拠もなく導き入れ,しかも,セラミックス業界(ニューセラミックス,ファインセラミックスを扱う業界を含む業界)の技術常識を無視し,平均粒子径10μm以下の個々の実際の粒子の立体としての体積(真の値),外形(真の外形線)を直接的に測定する技術が確立されていないにもかかわらず,机上論によって本末転倒した結論に至ったものである。

(3)  平成8年の本件特許出願当時は,レーザ回折・散乱法に基づく測定装置が各社から発売されるようになって,10年以上を経過していたものであり,セラミックス業界(ニューセラミックス,ファインセラミックスを扱う業界を含む業界)において平均粒子径を計測する場合(中でも0.01μmから100μmくらいまでを計測する場合)においては,「レーザ回析・散乱法」による測定装置で計測することが一般化していた。そして,粉体の平均粒子径を指定して取引をする事例においては,レーザ回折・散乱法による測定装置で計測したデータを添付して納品することが常識になっていたのであり,平均粒子径の測定手法は,ほぼ統一されており,ファインセラミック業界において,レーザ回折・散乱法に基づく粒子の測定装置が主流となっていた。

このことは,次のことから明らかである。

ア 愛窯技ニュースNo.74(甲46の2)の記載

このニュースは,愛知県常滑窯業技術センターが発行しているものである。同センターでは,昭和61年と平成元年にレーザ回折・散乱法の測定装置を導入している(甲46の1)。同ニュースNo.74は,昭和62年10月1日に発行されたもので,これは,本件特許出願から10年前のものである。

同ニュースの「レーザー光散乱・回折式粒度分析法」(伊藤征幸著,甲46の2)の記事によると,次のとおりの記載がある。

「レーザー光散乱・回折式粒度分析法(以下レーザー回折法)は,電磁波散乱法の一種であり,ここ数年で急速に普及した方法である。沈降法では事実上測定不可能なサブミクロン級の粒子径まで数分の短時間で測定可能にした。…いずれの粒子径でも約2%以下と非常に繰返し精度もよく,沈降法に比較して個人誤差がなく精度がよいと考えられる。以上のことから,レーザー回折法は,試料の分散処理からサブミクロン級の微細粒子の粒度測定まで約10分と短時間であり,沈降法等の他の粒度分析法に比較し,大幅に時間短縮ができ,粒度分析を管理項目として導入する際に,有用な手段であると考えられる。」

このニュースによれば,昭和61年(1986年)の段階において,すでに「レーザ回折・散乱法による測定装置」は,「ここ数年で急速に普及した方法」であり,沈降法に比べて,精度が良く短時間で粒度の測定が可能な「有用な手段」として紹介されている。したがって,同ニュースから10年を経過した平成8年当時においては,レーザ回折・散乱法による測定装置が,主流を占めるにいたったことは,想像に難くない。

イ JFCCに所属していたB及びCの論稿(甲46の3・4)

(ア) JFCCは,正式名称を「ファインセラミックスセンター」といい,昭和60年(1985年)に名古屋に設立された財団法人であり,その寄付行為は,「本財団は,ファインセラミックスに関する統一的試験評価体制の整備を中心とする技術的基盤の整備及び研究開発を通じて同製品の品質の改善向上に資するとともに,今後の利用及び用途の拡大に寄与することにより,ファインセラミックスに関連する産業を振興し,もって我が国経済の発展と国民生活の向上に貢献することを目的とする。」と記載され,中部・東海地方だけでなく全国の企業の支援を受けている,ファインセラミックスの製造,利用,検査及びその研究においては,日本で最有力の研究機関である(そのホームページによれば,平成19年度のキャッシュフロー計算書によると事業活動収入が28億7000万円に達している)。

そして,同「ファインセラミックセンター」(JFCC)において,Bは,平成4年ないし5年当時の同センターの「試験研究所プロセス技術グループ統括部長」であり,Cは,同研究員であった。なお,両名は乙A66の「現場に役立つ粒子径計測技術」の著者であり,平成13年当時,Bは名古屋大学大学院の教授であり,Cは三井・デュポンフロロケミカル㈱に転出していた。このような両名の論稿(甲46の3・4)の内容は,次の(イ),(ウ)に述べるとおり,非常に信頼性の高いものである。

(イ) 「屈折率未知試料のレーザー回折散乱法による測定手法の開発」(甲46の4)

これは,Cが中心となってまとめた論稿で,1992年(平成4年)に作成されたものであるが,次のとおりの記載がある。

「サブミクロン粒子の粒子径分布測定装置の主流となっているレーザー回折散乱法は,粒子屈折率を装置に入力しなければ正しい結果が得られないことから,屈折率が未知の試料は測定できないとされてきた。本研究では屈折率未知試料でも,簡単な操作を加えることにより適正屈折率を推定する測定手法を確立した。その結果測定装置間の整合性,測定結果の確からしさは飛躍的に向上した。…ファインセラミックスに代表される先端技術材料分野において原料粉体の微細化が進むに従い,最終製品の特性に影響を及ぼすと考えられる粒子径に関する計測技術にも,より高い測定精度が要求されている。このようなサブミクロン粒子の粒子径分布を測定するためには,現在種々の原理に基づく装置が開発され,多くの機種が目的に応じて使用されている。今ではレーザー回折散乱法が粒子径分布測定装置の主流になっている。本装置の特長は,従来の測定法では原理上の制約等から達成できなかった,良い再現性,広い測定粒子径範囲,短い測定時間等の優れた操作性を同時に兼ね備えている点である。」

これによって,ファインセラミックスの業界では,平成4年当時,レーザ回折・散乱法による計測装置が主流となっていたことが,明らかである。

(ウ) 「食い違ってはいけない測定結果」(甲46の3)

これは,Bが,1993年(平成5年)になした技術講演会の講演内容をまとめたものであるが,次のとおりの記載がある。

「サブミクロン粒子の粒度分布を測定するためには,現在いくつかの原理に基づく装置が開発され,数多くの機種が目的に応じて使用されている。セラミックの製造分野では,X線透過法,遠心沈降光透過法などの液相沈降法が広く普及していたが,現在ではこれらの短所をカバーするような装置が多く使用されるようになった。レーザー回折散乱法がその一つに挙げられるが,この装置はここ数年で粒度分布測定装置の市場をがらっと塗り変えてしまうほどの勢いで普及し,今では測定装置の主流となりつつある。その特徴として,1回で測定できる粒度範囲が広い,操作が簡単,迅速に測定でき再現性も良いなどが挙げられ,粒度の情報が手軽にかつタイムリーに要求される工程内管理の分野で主に使用されている。」

これによって,レーザ回折・散乱法による測定装置は,平成5年当時,急速に普及し,測定装置の主流となっていることが明らかである。

ウ 株式会社島津製作所名古屋支店勤務のEの回答メール(甲49)

(ア) 株式会社島津製作所は,計測機器の製造販売の分野では日本における最有力のメーカーであり,1980年代からレーザ回折・散乱法による測定装置として「SALDシリーズ」の販売を開始し,この分野で最も実績のある会社である。

(イ) 同社従業員のEの回答メールには,次のとおりの記載がある。

「弊社におきましては,業界に先駆けてレーザ回折式粒度分布測定装置の開発及び実用化を行い,1980年代に「SALD」(登録商標)シリーズの第1号機として,島津レーザ回折式粒度分布測定装置SALD-1000の販売を開始しました。…1980年代までは,広く使用されていた遠心沈降式の粒度分布測定装置は,2002年までに各社ともに製造中止となりました。…平成8年(1996年)当時では,レーザ回折式粒度分布測定装置を国内で販売していたメーカーは弊社を含め8社あります。それに対し遠心沈降式の粒度分布測定装置の販売は弊社含め3社の状況でした。当時の粒度分布測定装置(粒体業界)の流れとしまして,レーザ回折式のニーズが高まってきており弊社の出荷ベース情報となりますが,レーザ式:遠心沈降式の割合は8:2程度と記憶しています。」「…画像処理やナノ粒子用の動的光散乱法の装置を除いて,現在日本国内で出荷されている粒度分布測定装置の80%以上がレーザ回折式粒度分布測定装置になっています。その中で40%以上(粒度分布測定装置全体の30%以上)が島津のSALDシリーズとなっております。また,現在稼働中の遠心沈降式の粒度分布測定装置のほとんどがすでに老朽化し,修理不可能となってきているため,出荷ベースの比率と稼働ベースの比率も既にほとんど一致していると言えます。」

これによれば,現在日本国内で出荷されている粒度分布測定装置の80%以上がレーザ回折・散乱法による測定装置であり,平成8年当時においても,レーザ回折式のニーズが著しく高まっており,島津製作所の出荷ベースの情報であるが,その販売実績は,レーザ式が80%,遠心沈降式が20%となっており,レーザ回折・散乱法による装置が圧倒的に優勢であったことを示している。なお,島津製作所は,測定装置の分野では,日本で最有力のメーカーであるから,島津製作所の実績は,業界全体の状況を反映しているものと推測することができる。

(4)  本件発明の平均粒子径10μm以下の粒子の「沈降法」による測定は,セラミックス材料の比重が軽く,粒子サイズが微細であることから,粒子同士が集まってあたかも1つの粒子のようになるという凝集が生じ,測定が困難になったり,測定値が乱れたりするなどの問題点を有することは当業者たるセラミックス業界(ニューセラミックス,ファインセラミックスを扱う業界を含む業界)の者にとって自明なことである。

当然,本件発明の出願当時(平成8年)においても,セラミックス業界(ニューセラミックス,ファインセラミックスを扱う業界を含む業界)のセラミックス材料の商取引では,複数の成分からなり試料の真比重値が特定できないセラミックス材料の測定に,人為的誤差が大きい「沈降法」は採用されていなかった。そして,購入先の需要家は,レーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所では1987年から発売)の測定結果の添付を義務付けていた。

したがって,測定方法としては幾つかの原理が存在し,現在も存在しているが,平均粒子径10μm以下の粒子であるか否かを測定できる実用的な測定装置としては,レーザ回折式粒度分布測定装置以外は存在していなかった。

また,沈降式の粒度分布測定装置は,レーザ回折式粒度分布測定装置が発売された以降急速にすたれて行き,全ての測定装置の製造メーカーで,2002年(平成14年)までに製造中止となっており,このことからも,本件発明の出願当時(平成8年)には,沈降式の粒度分布測定装置がほとんど使用されなくなっていたことが裏付けられる。

(5)  被控訴人らの主張に対し

被控訴人らの主張は,失当である。

ア 被控訴人らは,本件明細書(甲2,乙A20の2)の記載について縷々述べ,机上論で本末転倒の結論に至った原判決を正当であるとする。しかし,前記(1),(2)に述べたとおりであり,本件明細書(甲2,乙A20の2)の段落【0035】の記載から明らかなように,本件では,10μmの平均粒子径という場合に,測定の対象物は立体的(三次元)に表現されており,その粒子が不整型な形状をしていることから粒子径を直接的に測定する方法がないので「相当径」という概念を使用することが必要であり,それ自体において「体積相当径」を意味することは自明である。その上で,球の直径を算出すると,その直径が平均して10μm以下となることを,本件特許の構成要件としたものである。なお,平均径の算出方法は,体積相当径で算出したものについて,算術平均で平均粒子径を算出するものである(甲40のA意見書,甲29のJISZ8901)。したがって,本件特許においては,その明細書の記載から,平均粒子径の定義を読み取ることができるものである。

イ 被控訴人らは,平成8年当時のセラミックス業界において平均粒子径の測定方法としてレーザ回折・散乱法が主流になっていたとの控訴人の主張について反論し,沈降法等その他の測定方法の普及度について縷々述べるが,次のとおり,失当である。

(ア) 現在のインターネットのホームページの情報から,平成8年当時の状況を推測することはできないし,日本工業規格(JIS)は,当該技術が普及したとみなされたときに制定されるものであり,当該技術がその時点で広く使用されているか否かとは関係がない。また,粉体工学会の粉体とは,粉体工学会に加入する業界の取扱商品等からみて,食品,化粧品,医薬品,研磨剤等の粉体も含まれるから,その広告欄等の記載をもって,控訴人の主張を否定する理由にはならないし,被控訴人らが言及する昭和61年,平成4年発行の文献によって,平成8年当時の状況について述べる控訴人の上記主張を否定する理由にはならない。また,山口耐火有限会社の営業のDの報告書(乙A96)は,セラミックス業界(ニューセラミックス,ファインセラミックスを扱う業界を含む業界)と「陶磁器(瀬戸物)業界」との区別ができておらず,レーザ回折・散乱法を用いた粒度分布装置においても,有機物は水に溶かされ透明又は流体となり検出されないことと矛盾する説明をしており,信用性が低い。

(イ) 現在,粒度測定において,レーザ回折・散乱法に基づく測定機器が圧倒的なシェアを有していることは事実である。被控訴人らが言及する用語辞典,便覧,ハンドブック等は,用語の解説や構成の説明等を行う本であって,これらをもって,当業者が実際に用いていた測定方法の普及度等を証明することはできない。また,「土岐市立陶磁器試験場」名の「粒度分析に関しての説明」(乙A67)は,作成者も不明であり,同試験場の担当者との面談結果(甲53)にも反するので,その成立を否認する。また,被控訴人らが主張する公的試験機関におけるセラミックス粒子径測定の実情の主張についても,瑞浪市窯業技術試験場と岐阜県陶磁器試験場では,平成8年の翌年である平成9年にレーザ回折・散乱法に基づく検査機器を導入しており,その後,いずれもセディグラフの検査機器を使用しなくなっている。これは,平成8年当時,レーザ回折・散乱法に基づく検査機器が主流になっていたことと一致する現象である。また,被控訴人らの行った実験も,いかに測定誤差が出ないように資料調整条件を設定したかについては触れられておらず,「サンプルをスラリーとして0.5リットル送付」するといったような配慮もなされていない。

(ウ) 被控訴人らは,株式会社タイタン・テクノロジーが多数のセラミックス業者や公的試験場等に対し,「X線透過式の粒度分布測定装置であるセディグラフ」を納品し,今日に至るまで納品先で使用されていると主張し,乙A112の1~18を提出する。しかし,同社の顧客ファイル(乙A112の1~18)により把握できるセディグラフの販売台数は,16台(乙A112の8,17は使用されていない。)にすぎず,その販売実績は極めて限られたものである上,これらのセディグラフは,平成8年頃には作動するPC(パソコン)がほとんどなかったはずである「MS-DOS」によって作動しているから,平成8年当時は,セディグラフは販売されておらず,すでに競争力を失っていたものである。

ウ 被控訴人らは,沈降法には凝集の問題があるとの控訴人の主張に対し,レーザ回折・散乱法についても同様の問題がある,と反論する。しかし,レーザ回折・散乱法は,原理的に水溶液に拡散した粒子を水溶液の比重に関係なく測定するものであり,攪拌しながら短時間で測定するので,沈降法と異なり,必ずしも凝集が生じないように分散液を使用する必要はない。

3  被控訴人らの主張

(1)  控訴人の主張(1)に対し

ア 控訴人は,本件発明の「10μm以下の平均粒子径」とは,「10μm以下の平均粒子径」を限界値として特定するものではなく,境界値として特定しているにすぎないと主張する。しかし,特許請求の範囲に「10μm以下の平均粒子径」と記載されている以上は,その「平均粒子径」の定義(算出方法)や採用されるべき測定方法が明確にされなければ,特許発明の技術的範囲を画することができないから,特許法にいう明確性要件を満たすことにはならない。

イ 控訴人は,セラミックス業界(ニューセラミックス,ファインセラミックスを扱う業界を含む業界)では,原材料の粒子を円相当径,球相当値(JISZ8901「試験用粉体及び試験用粒子」の用語の定義〔甲29〕参照)として呼称しており,「10μm以下の平均粒子径」の表現は,セラミックス業界(ニューセラミックス,ファインセラミックスを扱う業界を含む業界)で一般的に扱われているものであって,測定装置あるいは測定方法まで特定する必要性はないと主張する。

しかし,そもそも控訴人が引用した「JISZ8901」(甲29)は,集じん試験などに用いる試験用粉体と,光散乱式自動粒子計数器などの校正に用いる試験用粒子に関する規格であって,セラミックス粒子の粒子径に関する規格ではない。また,同JIS規格では,上記試験用粒子の粒径(粒子径)は,「ふるい分け法によって測定した試験用ふるいの目開きで表したもの,沈降法によるストークス相当径で表したもの,顕微鏡法による円相当径で表したもの及び光散乱法による球相当径,並びに電気抵抗試験方法による球相当値で表したもの」のいずれかと定義されており,粒径は,ふるい分け法,沈降法,顕微鏡法,光散乱法,電気抵抗試験法などの種々の測定方法によって測定されることが記載されている(甲29・「2.用語の定義(1)粒径」の欄)。また,上記試験用粒子の平均粒子径は,「光学顕微鏡法又は透過形電子顕微鏡法により撮影した粒子径の直径の平均値」と定義されている(甲29・「2.用語の定義(7)平均粒子径」の欄)。

そうすると,セラミックス業界ではあたかも同JIS規格によって1つの平均粒子径の定義(算出方法)や測定方法が決まっているようにいう控訴人の主張は,「JISZ8901」(甲29)に記載されている事実と符合しないものであって,失当である。

ウ 控訴人は,どのような測定装置を使用しても平均粒子径が10μm以下であるかが確認できればよいと解すれば足りると主張する。しかし,侵害訴訟において裁判所は当該特許が特許無効審判により無効にされるべきもとの認められるときは,その特許権の行使を制限する特許無効の抗弁(特許法104条の3)を審理することができるのであるから,技術的範囲に属するか否かの問題として判断すべきという主張は,控訴人の願望にすぎず,法律上の理由がない。控訴人の同主張は,粒子の大きさの表し方として種々の粒子径があり,平均の算出方法も種々のものがあることを無視した主張であり,理由がないものである。そして,特許請求の範囲に「10μm以下の平均粒子径」と記載されている本件特許は,その「平均粒子径」の定義(算出方法)や測定方法が明らかにされなければ,特許法にいう明確性要件を満たすことにはならない。

エ 控訴人は,京都大学大学院のA准教授作成の「『平均粒子径』の定義についての見解書」(甲40。以下「A見解書」という。)や,測定装置あるいは測定方法まで特定する必要性がないとして特許庁で判断された事例の一部である各特許公報(甲39-2~222)が,控訴人の主張を裏付けるものであると主張するが,次に述べるとおり,いずれも失当である。

(ア) A見解書について

本件明細書(甲2,乙A20の2)中には,A見解書も認めているとおり,「長さ平均」によるとも「面積平均」によるとも「体積平均」によるとも「重量平均」によるとも一切記載がなく,本件明細書の記載からは,本件発明の「平均粒子径」が,A見解書に述べられているように「長さの次元つまり一次元」によって表されることや,「『粒子の直径の算術平均値』を意味すること」まで読み取ることはできない。また,株式会社島津製作所名古屋支店のE作成の2007年(平成19年)10月10日付けFAX文書(甲35)にも,「粒子量の基準(次元)としては,体積,面積,長さ,個数がありますが,一般的には,体積基準を用いることが多いようです。」と記載されているように(3頁6行~7行),粒度分布測定では,長さ平均に限らず,例えば体積平均が使用されることも多いから,本件明細書の記載から特許請求の範囲の「平均粒子径」が「長さの次元つまり一次元」によって表されるものであると一義的に断定することは不可能である。

そもそも,特許を出願する際に,明細書に「平均粒子径」の定義(算出方法)や測定方法について記載しておくことは,その発明について実際に種々の試験を行った発明者にとっては別段困難なことではなく,過度の手間や負担を強いるものでもない。むしろ,特許請求の範囲で使用する用語の意義(定義や測定方法)を必要に応じて明細書中に記載しておくことは,普通に行われていることである。しかるに,本件明細書では,実施していれば容易に書ける計測器のメーカーはもとより,測定方法も書いていない上に,実施例の平均粒子径すら書いていないものである。

(イ) 特許公報(甲39の2~222)について

そもそも,本訴においては,本件特許(特許第3085182号)の無効理由が争点となっているのであるから,他社特許の無効理由の存否を本訴において議論する意味はない。

(2)  控訴人の主張(2)に対し

控訴人は,原判決は,セラミックス業界(ニューセラミックス,ファインセラミックスを扱う業界を含む業界)の技術常識を無視し,平均粒子径10μm以下の個々の実際の粒子の立体としての体積(真の値),外形(真の外形線)を直接的に測定する技術が確立されていないにもかかわらず,机上論によって本末転倒した結論に至ったものであると主張する。

しかし,原判決は,当時の技術常識を前提として,何らかの物理量と等価な球の直径に置き換えた「相当径」による測定方法があることも当然踏まえた上で,本件明細書には「平均粒子径」の定義(算出方法)についての記載がなく,「相当径」による測定方法はもとより,いかなる測定方法についても明示の記載も手掛かりとなる記載もないことから,明確性要件違反を認定したものであって,控訴人の主張は失当である。また,例えば前述の電気的検知帯法では粒子の体積をμmオーダーまで一個一個測定できると説明され,遮光法では粒子を一個一個計測するため,厳密な粒度管理が可能であると説明されているように(乙A66),顕微鏡法,光散乱法,電気的検知帯法,遮光法,画像処理法等によって個々の粒子の実際の粒子径を直接に測定する技術も確立されており,この意味においても控訴人の主張は失当である(乙A62,乙A64,乙A66)。

(3)  控訴人の主張(3)に対し

控訴人は,平成8年の本件特許出願当時は,レーザ回折・散乱法に基づく測定装置が各社から発売されるようになって,10年以上を経過していたものであり,セラミックス業界(ニューセラミックス,ファインセラミックスを扱う業界を含む業界)において平均粒子径を計測する場合(中でも0.01μmから100μmくらいまでを計測する場合)においては,「レーザ回析・散乱法」による測定装置で計測することが一般化していた,平均粒子径の測定手法はほぼ統一されており,ファインセラミック業界において,レーザ回折・散乱法に基づく粒子の測定装置が主流となっていたと主張するが,次のとおり,失当である。

ア インターネット検索により確認できる現在の状況

平成8年(本件特許出願)当時だけでなく現在においても,10μm以下の平均粒子径を測定できる測定装置として種々の測定原理に基づく装置が実用化されており,セラミックス業界において実際に使用されている。このことは,粉砕機等のメーカーである日清エンジニアリング株式会社のホームページ(乙A56の1~3),日機装株式会社のホームページ(乙A57),大和薬品工業株式会社のホームページ(乙A58の1,2),島津製作所のホームページ(乙A60),日本軽金属株式会社のホームページ(乙A61の1,2),社団法人日本粉体工業技術協会のホームページ(乙A72),白石カルシウムのホームページ(乙A73),共立マテリアル株式会社のホームページ(乙A74)及び株式会社タイタン・テクノロジーのカタログ(乙A75)における各記載に照らし,明らかである。

イ 平成8年2月(本件特許の出願時)以前の状況

平成8年(本件特許出願)当時,セラミックス業界では沈降法による計測が実用性を失っていたとか,レーザ回折・散乱法のみが利用されていたということはない。このことは,「ファインセラミックス粉末の液相沈降光透過法による粒子径分布測定方法」に関するJIS規格(平成7年6月1日制定,JISR1619〔乙A77〕),「粉体工学会誌」粉体工学会・1994年(平成6年)12月号(乙A78の1),同1995年(平成7年)1月号(乙A78の2),2月号(乙A78の3),8月号(乙A78の4),同1996年(平成8年)1月号(乙A78の5),2月号(乙A78の6),「CERAMICSJAPANセラミックス」社団法人日本セラミックス協会・1995年(平成7年)2月号(乙A79),「粉体工学便覧」日刊工業新聞社・昭和61年2月28日発行(乙A80),「粒子径計測技術」日刊工業新聞社・平成4年(1992年)11月30日発行(乙A81),株式会社タイタン・テクノロジー「X線透過式粒度分布測定装置セディグラフⅢ5120」のカタログ(乙A68),特開平8-113773号公報(出願日:平成6年10月18日)(乙A83),特開平8-104505号公報(出願日:平成7年6月16日,優先日:平成6年8月12日)(乙A84),特開平8-136439号公報(出願日:平成6年11月4日)(乙A85),特開平9-25567号公報(出願日:平成8年4月18日,優先日:平成7年4月18日,平成7年4月21日,平成7年5月11日)(乙A86),特開平9-195060号公報(出願日:平成8年1月18日)(乙A87),特開平6-329412号公報(出願日:平成5年5月20日)(乙A92),特開平7-101723号公報(出願日:平成5年10月4日)(乙A93)及び特開平9-124376号公報(出願日:平成8年9月24日,優先日:平成7年9月22日)(乙A95)における各記載に照らし,明らかである。

ウ セラミックス業界における粒子径測定の実情(平成7~10年当時)

平成8年(本件特許出願時)当時から現在に至るまで,セラミックス大手業者のほとんどは,セディグラフ(X線透過方式)によって精度管理を行っている。このことは,次のことから裏付けられる。

すなわち,山口耐火有限会社のDの「報告書」(乙A96)には,平成8年以前から,X線透過法方式の測定器であるセディグラフが,日本ガイシ,INAX,明智ガイシ,キンセイマテック,日本陶器,ソブエクレー,愛知県陶磁器工業組合,佐賀窯業技術センター等で精度管理のために使用されており,その理由としては,レーザ回折・散乱法方式の測定器よりもセディグラフ(X線透過方式)の方が正しい精度が得られること,セディグラフの方が各機種間に相関性があり,新しい機種にスムーズに置き換えられること等があげられることが記載されている。また,乙A98の1~5は,上記Dの勤務する山口耐火有限会社が,ある製土メーカーから陶器原料を仕入れた際に添付された試験表であり,いずれも愛知県陶磁器工業協同組合に依頼して試験されたものであるが(乙A98の1は1995年(平成7年)11月24日に,乙A98の2は1996年(平成8年)1月22日に,乙A98の3は1996年(平成8年)6月24日に,乙A98の4は1996年(平成8年)7月18日に,乙A98の5は1998年(平成10年)12月9日にそれぞれ試験された各試験表である。),これらの各試験表における粒度分析も,上記協同組合所有のセディグラフ5100(X線透過方式)を用いて行われている。さらに,乙A99の1~3は,ソブエクレー株式会社の納入業者の丸重クレーにおいて試験されたものであるが,これらの各試験表における粒度分析も,セディグラフ5000(X線透過方式)を用いて行われている(乙A99の1は平成8年1月19日付け,乙A99の2は平成8年2月14日付け,乙A99の3は平成8年8月13日付けの各試験表である。)。

エ 公的試験機関におけるセラミックス粒子径測定の実情

(ア) 瑞浪市窯業技術研究所

現在使用している粒子径分布測定装置は,日機装マイクロトラック9320-X100(レーザー回折・散乱法)であり,平成9年からリースした機種である。それまでは,島津RECORDING SEDIMETER RS1000(沈降法の一種であるX線透過方式)を使用していた。

(イ) 愛知県陶磁器工業協同組合(瀬戸市)

現在使用している粒子径分布測定装置は,マイクロメリティックス社製セディグラフ5100(乙A97,沈降法の一種であるX線透過方式)であり,平成2年7月に購入した機種である。この機種を選定した理由は,セラミックス原料には通常バインダーとして水簸粘土が添加されており,この場合はレーザー回折・散乱法では粘土に含有されている有機物のために正確な粒子径が測定されないことにある。X線透過式では有機物の影響を除去できるので,より正確な粒子径が得られる。組合としてはセラミックスの粒子径を測定するには,セディグラフを使用することが,常識になっている。

(ウ) 岐阜県陶磁器試験場(多治見市,現岐阜県セラミックス研究所)

平成8年当時使用していた粒子径分布測定装置はマイクロメリティックス社製セディグラフ5000-02型である(乙A91)。現在は平成9年に購入した島津製作所製SALD-2000J(レーザ回折・散乱法)を使用しているが(乙A100),買い替えた理由は,単にセディグラフが古くなったことにある。

オ 測定方法及び測定機種の差による平均粒子径測定値の差

測定方法の違い,あるいは同一原理の測定方法にあっても機種の違いによって,得られる平均粒子径には差が出る(乙A67,乙A78の3,乙A83,乙A85等)。これを裏付けるために,次の実験を行った。

A. 試料

イ. ジルコンフラワーM-350(美濃顔料化学(株))

ロ. 純珪石粉末(美濃顔料化学(株))

B. 測定機器

(1)  瑞浪市窯業技術研究所

装置:日機装マイクロトラック9320-X100(レーザ回折・散乱法)

(2)  東海工業株式会社

装置:日機装マイクロトラック3300(レーザ回折・散乱法)

(3)  岐阜県セラミックス研究所

装置:島津製作所SALD2000J(レーザ回折・散乱法)

(4)  ソブエクレー(株)

装置:島津SALD2000(レーザ回折・散乱法)

(5)  愛知県陶磁器工業協同組合

装置:セディグラフ5100(X線透過法)

C. 測定結果上記各種測定機器によって測定されたイ:ジルコンフラワーM-350とロ:純珪石粉末の平均粒子径(レーザ回折・散乱法にあっては,50累積(%)粒径,X線透過法にあっては算定質量%50%における中間粒子径)を表1に示す。

(1)  瑞浪市窯業技術研究所,MT-9320(乙A101の1~2)

(2)  東海工業株式会社,MT-3300(乙A102の1~2)

(3)  岐阜県セラミックス研究所,SALD2000J(乙A103の1~2)

(4)  ソブエクレー(株),SALD2000(乙A104)

(5)  愛知県陶磁器工業協同組合,セディグラフ5100(乙A105)

表1

イ(μm)

ロ(μm)

(1) MT-9320

10.42

7.557

(2) MT-3300

14.36

7.910

(3) SALD2000J

5.271

6.784

(4) SALD2000

10.316

(5) セディグラフ5100

9.16

表1に示すように,レーザ回折・散乱法であってもメーカー及び機種の相違(1),(2),(3),(4)によって平均粒子径の測定値には顕著な差が見られ,レーザ回折・散乱法(1),(2),(3),(4)とX線透過法(5)とを比較しても顕著な差が認められる。したがって平均粒子径を,「特許請求の範囲」においてパラメータとして使用するためには,測定方法,機種,測定条件を特定しなければ,権利範囲が確定されないことは明らかである。

例えばジルコンフラワーM-350は,SALD-2000J及びセディグラフ5100によって測定された場合は10μm以下(5.271μm,9.16μm)であり,「特許請求の範囲」内にあるが,SALD-2100,MT-9320,MT-3300によって測定された場合は「特許請求の範囲」外(10μm以上)にある。

カ 小括

以上からすれば,本件特許が出願された平成8年以前から現在に至るまで,控訴人がいうレーザ回折・散乱法に限らず,種々の測定原理を用いた粒度分布測定装置が実用されていたことは明らかである。セラミックス業界では,平成8年当時,レーザ回折・散乱法だけではなく,沈降法や他の方法(比表面積測定法,画像処理法,電気的検知帯法)も利用されていた(上記イ,ウ)。また,平成8年以降の状況を見ても,沈降法が実用されなくなったとか,レーザ回折・散乱法以外の測定方法は実用されなくなったとの記載あるいはそのような事実は一切見当たらない(上記エ)。実際,沈降法,特にX線透過法を利用した粒度分布測定装置や電気的検知帯法を利用した粒度分布測定装置,比表面積測定法に用いる装置などが販売されており(上記ア),これらの装置は平成8年以前から継続して販売され,実用に供されてきたものである(上記イ~カ)。

すなわち,平成8年当時から現在に至るまで,セラミックス業界では,各測定方法の利点と不利な点を踏まえた上で,複数ある装置の中から適当な測定方法の装置を選択して利用しているのであり,平均粒子径の測定方法が1つのものに統一されていないことは明らかである。そして,平均粒子径の測定方法が統一されていないことを前提とした上で,測定方法の違いによって測定結果にどのような差異が生じるのかについての研究がなされているのであり(乙A65,乙A78の3),試験場においても,試験依頼者に対し,「同じレーザー回折散乱式の装置でも,メーカーが異なれば結果もかなり異なります。さらに言えば,同じメーカーの同じレーザー回折散乱式と雖も,機種が異なれば(例えばレーザーの周波数が違うとか,センサーの数か異なるとか,モデルチェンジされた機種での比較の場合等)結果は,随分違ってくるようです。…異種装置による粒度分析の比較は意味がありません。」との注意説明がなされているのである(乙A67)。

したがって,控訴人の,平均粒子径の測定手法は,ほぼ統一されていた旨の主張は事実に反するものである。

(4)  控訴人の主張(4)に対し

ア 控訴人は,沈降法による粒子の測定は,セラミックス材料の比重が軽く,粒子サイズが微細であることから,粒子同士が集まってあたかも1つの粒子のようになるという凝集が生じ,測定が困難になったり,測定値が乱れたりすることは当業者たるセラミックス業界(ニューセラミックス,ファインセラミックスを扱う業界を含む業界)の者にとって自明なことである,当然,本件発明の出願当時(平成8年)においても,セラミックス業界(ニューセラミックス,ファインセラミックスを扱う業界を含む業界)のセラミックス材料の商取引では,複数の成分からなり試料の真比重値が特定できないセラミックス材料の測定に,人為的誤差が大きい「沈降法」は採用されていなかった,などと,沈降法の問題点について主張する。

しかし,「粒子径測定のための試料調整-粉体の液中分散方法」についてのJIS規格である「JISZ8824:2004」(乙A70)は,粉体材料の粒子径を測定するために,試料を分散させる調製方法について規定したものであるが(1.適用範囲),序文には「通常,粉体は,“一次”粒子が強い力で凝集した凝集体(アグリゲート)又は弱い力で凝集した凝集体(アグロメレート)から成っている。液体に分散した後に残る凝集体の大きさは,凝集体を壊すために,どれくらいのエネルギーが使われたかということに依存している。大抵の粒子径測定方法において,凝集体は大きな粒子とみなされるので,完全に分散された場合に比べて凝集体が残っていると,粒子径分布は大きい方にひずむ。粒子径測定は,粒子の分散度が明らかである試料に対してだけ有効である。大部分の凝集体が完全に解凝集され,更に測定中に粒子が再凝集したり,試料容器壁に付着しないことが好ましい。」との説明がある。このJIS規格がレーザ回折・散乱法に使用する分散液も対象にしていることは,「10.試料ハンドリング中の分散安定性の保持」の「10.1希釈時の安定性」の項(第14頁)に,「光散乱に基づく粒子径測定方法においては,多くの場合,測定を行う前に大幅な希釈を必要とするので,希釈による分散安定性の低下の可能性が最も高い。」と記されていることから明らかである。したがって,控訴人がいう「凝集」の問題は「沈降法」に限ったものではなく,レーザ回折・散乱法を含む粒子径測定のための試料調整全般についていえる問題である。また,前記のとおり,沈降法を利用した測定装置は実際に実用化されているから(乙A62~乙A68),控訴人の主張は失当である。

イ 控訴人は,購入先の需要家は,レーザ回折式粒度分布測定装置の測定結果の添付を義務付けていたと主張するが,一般にメーカーのカタログやホームページには,レーザ回折式粒度分布測定装置以外のふるい分け法やSEM,あるいは遠心沈降X線透過法(セディグラフ)で測定した平均粒子径が記載されている場合もあるから(乙A61の2,乙A73,乙A74),そのような義務付けがセラミックス業界に存在した事実はない。

ウ 控訴人は,沈降式の粒度分布測定装置は,レーザ回折式粒度分布測定装置が発売された以降急速にすたれていき,すべての測定装置の製造メーカーで,2002年(平成14年)までに製造中止となっている,このことからも,本件特許の出願当時(平成8年)に,沈降式の粒度分布測定装置が殆んど使用されなくなっていたことが裏付けられる,と主張する。

しかし,沈降法による測定装置が急速にすたれて行ったという控訴人の主張は,事実に反するものであり,セラミック業界では,レーザ回折式の測定装置だけではなく,沈降法や他の測定方法による装置も利用され続けてきたものである。

このことは,「セラミックス用語辞典」日刊工業新聞社・平成9年(1997年)9月11日発行(乙A62),「粉体工学便覧」日刊工業新聞社・平成10年(1998年)3月30日発行(乙A65),「粒度分析に関しての説明」土岐市立陶磁器試験場・平成9年7月18日(乙A67),液相重力沈降法及び液相遠心沈降法に関するJIS規格,並びにレーザー回折法に関するJIS規格(乙A76の1~4,乙A82),「セラミック材料用語辞典」株式会社工業調査会・平成11年(1999年)6月20日発行(乙A63),「セラミック工学ハンドブック 第2版」技報堂出版株式会社・平成14年(2002年)3月31日発行(乙A64),「現場で役立つ粒子径計測技術」日刊工業新聞社・平成13年(2001年)10月26日発行(乙A66),ベックマン・コールター株式会社「Multisizer 3 精密粒度分布測定装置」のカタログ(乙A69),特開平9-255828号公報(出願日:平成8年3月25日)(乙A88),特開平10-169982号公報(出願日:平成8年12月11日)(乙A89),特開平9-296128号公報(出願日:平成8年10月2日,優先日:平成8年3月7日)(乙A90)及び特開平9-309722号公報(出願日:平成8年5月24日)(乙A94)における各記載に照らし,明らかである。

第5当裁判所の判断

1  当裁判所も,本件発明は,特許法の定める明確性の要件を満たさないという無効理由を有するから,原判決と同じく,控訴人の請求を棄却すべきと判断する。その理由は,次に付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第3当裁判所の判断」に記載したとおりであるから,これを引用する。

2  控訴人の主張(1)について

(1)  控訴人は,本件発明の「10μm以下の平均粒子径」については,本件明細書(甲2,乙A20の2)の段落【0035】の記載を踏まえれば,「10μm以下の平均粒子径」を限界値として特定するものではなく,境界値として特定しているにすぎず,本件明細書(甲2,乙A20の2)の記載の解釈として,「10μm以下の平均粒子径」という場合に,「平均粒子径」の「径」が「体積相当径」を意味することは明らかであって,その上で,体積相当径で算出したものについて,算術平均で平均粒子径を算出するものであると主張する。

しかし,本件特許の特許請求の範囲において,「10μm以下の平均粒子径」との文言で記載され,発明の詳細な説明(本件明細書(甲2,乙A20の2)の段落【0035】)において,「遠赤外線放射体は,…製造される。これによって,放射線源材料は均一に分散,分布されると共に,遠赤外線放射材料との粒子間が緻密化される。そのため,特に,遠赤外線放射材料と放射線源材料はできるだけ細かな粒子の微粉末とすることが好ましく,一般に,10μm以下の平均粒子径とすることが好ましい。…そして,それらの粒度が細かい程,自然放射性元素の放射性崩壊によるエネルギ線をより効果的に遠赤外線放射材料に吸収させることができる。」とのように具体的にその技術的意義が説明されているものを,できるだけ細かいものであればよいという見地から,当然に,単なる境界値として特定しているにすぎないということはできない。また,「10μm以下の平均粒子径」という場合の「粒子径」については,技術的に見て,粒子をふるいの通過の可否等の見地から二次元的に捉えたり,体積等の見地から三次元的に捉えるなど様々な見地があり得る中で,本件明細書(甲2,乙A20の2)を精査しても,「粒子径」をどのように捉えるのかという見地からの記載はなく,平均粒子径の定義(算出方法)や採用されるべき測定方法の記載も存しない。これを踏まえると,本件発明の「10μm以下の平均粒子径」の「径」を,本件明細書の段落【0035】等の記載に照らして当然に,ふるい径等の幾何学的径や投影面積円相当径等ではなく体積相当径という意味であるということは困難であるし,仮に体積相当径とみることができたとしても,後記2~4にも照らせば,本件発明の「10μm以下の平均粒子径」が特許法にいう明確性要件を満たすということはできない。

以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。

(2)  控訴人は,計量法は,「粒度」を二次元的に定義し,検定検査規則8条は,粒子の表面積から算出した粒子径,粒子の長短等のような他の表現を禁止している,そして,日本工業規格(JISZ8901〔甲29〕)は,「(1)粒径…光散乱法による球相当径,…で表したもの。」,「6.2平均粒子径 平均粒子径は,付属書によって測定し,表23の値に適合しなければならない。なお,付属書による方法と同等な測定値が得られる他の測定方法を用いてもよい。」と規定し,レーザ光による光散乱法による球相当径で平均粒子径を測定してもよいとされるものであって,平均粒子径の範囲も上記日本工業規格によって子細に制限され,測定装置の測定結果がその範囲内に入る必要がある,そうすると,計量法及び上記日本工業規格に従って測定装置の校正を行えば,「平均粒子径」が特定できる,本件明細書は,計量法を遵守し,同法と整合性のある日本工業規格の定義に従った表現を用いるものであり,違法になり得ないと主張する。

しかし,本件明細書の記載が計量法を遵守し日本工業規格の定義に従っていたとしても,そのことから,本件発明の「10μm以下の平均粒子径」という文言が特許法にいう明確性要件を満たすことが当然に導かれることにはならない。また,日本工業規格(JISZ8901〔甲29〕)については,試験用粒子の粒径(粒子径)について,「ふるい分け法によって測定した試験用ふるいの目開きで表したもの,沈降法によるストークス相当径で表したもの,顕微鏡法による円相当径で表したもの及び光散乱法による球相当径,並びに電気抵抗試験方法による球相当値で表したもの」のいずれかと定義されており(甲29・「2.用語の定義(1)粒径」の欄),一義的に特定されているものではなく,また,同粒子の平均粒子径は,「光学顕微鏡法又は透過型電子顕微鏡法により撮影した粒子径の直径の平均値」と定義されている(甲29・「2.用語の定義(7)平均粒子径」の欄)。そうすると,こうした上記JIS(甲29)を根拠として,「平均粒子径」の意義が,レーザ光による光散乱法による球相当径による測定に一義的に特定されるということはできないし,その他,本件記録を精査しても,計量法及び上記日本工業規格に従って校正を行えば,測定方法が異なる測定装置で平均粒子径を測定した場合にあっても同一の値が測定されると認めるに足りる証拠はない。

以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。

(3)  控訴人は,セラミックス業界(ニューセラミックス,ファインセラミックスを扱う業界を含む業界)では,原材料の粒子を円相当径,球相当値(JISZ8901「試験用粉体及び試験用粒子」の用語の定義〔甲29〕参照)として呼称していたから,当該粒子の形状が円,球とは全く似つかない異形であるにもかかわらず,「粒子径」として粒子を円相当径,球相当値とする「径」で表したものであり,このような,同業界で一般的に扱われている「10μm以下の平均粒子径」の表現は,測定装置あるいは測定方法まで特定する必要性はなく,どのような測定装置を使用しても平均粒子径が10μm以下であるかが確認できればよいという意味であると解すれば足りるものであると主張する。

しかし,上記(2)に説示したとおり,JISZ8901〔甲29〕を根拠として,「平均粒子径」の意義が,レーザ光による光散乱法による球相当径による測定に一義的に特定されるということはできないし,また,後記3,4の説示に照らせば,セラミックス業界における技術の普及度に照らし,「10μm以下の平均粒子径」との表現が,測定装置あるいは測定方法まで特定する必要のないものであったということもできない。さらに,前記(1)の説示に照らせば,本件発明の「10μm以下の平均粒子径」という文言は,できるだけ細かいものであればよいという見地からの単なる境界値ということはできず,あくまで,具体的な技術的意義を有する発明特定事項というべきである。そうすると,このような「10μm以下の平均粒子径」との文言について,「10μm」という数値自体ではなく,「10μm以下の平均粒子径」という文言が明確であるかどうかを検討するに当たり,この文言の意義が,どのような測定装置を使用しても「平均粒子径」が10μm以下であるかが確認できればよいという意味であると解して明確性の要件を満たすとすることは,当業者に過度の試行錯誤を課するものであって発明特定事項の開示として相当でなく,また,「平均粒子径」について明確性の要件の充足は要しないというに等しいものというほかない。

以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。

(4)  控訴人は,A見解書(甲40)及び各特許公報(甲39の2~222)が,控訴人の見解を裏付けるものであると主張するが,上記(1)~(3),後記3,4の説示に照らし,採用することができない。

3  控訴人の主張(2)について

控訴人は,原判決は,「1個の粒子の大きさ(粒子径,代表径)の表し方としては種々のものがあり,大きく幾何学的径と相当径(何らかの物理量と等価な球の直径に置き換えたもの)とがあり,幾何学的径には定方向径,マーチン径,ふるい径などがあり,相当径には投影面積円相当径,等表面積球相当径,等体積球相当径,ストークス径,空気力学的径,流体抵抗相当径,光散乱径など種々のものがある。平均粒子径とは,粒子群を代表する平均的な粒子径(代表径)を意味するものであるが,個数平均径,長さ平均径,面積平均径等といった種々の平均粒子径及びその定義式(算出方法)があり,同じ粒子であってもその代表径の算出方法によって異なるものである。」(57頁11行~19行)と説示するが,これは,本件明細書の段落【0035】の粒子相互間を緻密化するという内容と全く異なる概念を何の根拠もなく導き入れ,セラミックス業界(ニューセラミックス,ファインセラミックスを扱う業界を含む業界)の技術常識を無視し,個々の実際の粒子の体積,外形を測定する技術が確立されていないにもかかわらず,机上論によって本末転倒した結論に至ったものである,と主張する。

しかし,前記2(1),(3)に説示したとおり,本件発明における「10μm以下の平均粒子径」とは,具体的な技術的意義を有する発明特定事項というべきであり,当業者が「粒子径」という文言の意義を理解できる必要があるところ,「10μm以下の平均粒子径」という場合の「粒子径」については,技術的に見て,粒子をふるいの通過の可否等の見地から二次元的に捉えたり(幾何学的径,ふるい径),体積等の見地から三次元的に捉える(相当径,等体積球相当径)など様々な見地があり,それにもかかわらず,本件明細書に記載がなく特定できないものである。原判決は,こうした内容について敷衍して説示したものと見ることができる。しかるに,前記2(1)に説示したとおり,本件発明の「10μm以下の平均粒子径」の「径」は,本件明細書の段落【0035】等の記載に照らしても,当然に,ふるい径等の幾何学的径や投影面積円相当径等ではなく体積相当径という意味であるということは困難であるから,原判決が,本件明細書の段落【0035】の粒子相互間を緻密化するという内容と異なる概念を根拠なく導き入れたということはできない。また,仮に個々の実際の粒子の体積,外形を測定する技術が確立されていないということを前提としても,そのことからは,平均粒子径については測定方法により有意な差が生じ得ることが導かれることはあっても,数ある捉え方の中から,当業者が,本件発明の平均粒子径の「粒子径」の意義を体積相当径の意味であると理解することが導かれることにはならない。

以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。

4  控訴人の主張(3)について

(1)  控訴人は,本件特許の出願(平成8年2月)当時の技術常識について主張するので,検討する。

ア 平均粒子径の測定の対象となる粉体(セラミックス遠赤外線放射材料の粉末,モナザイトの粉末)について

まず,本件発明は,「セラミックス遠赤外線放射材料の粉末」と,「モナザイトの粉末」を扱うものであり,その属する技術分野はセラミックスを扱う分野であるところ,本件明細書において,「セラミックス」の定義を直接説明する記述は見当たらない。

しかるに,「セラミックス」という文言が有する通常の意味は,「①陶磁器類。広義にはセメント・ガラス・煉瓦などを含めていう。②成形・焼成などの工程を経て得られる非金属無機材料の総称。従来の陶磁器類の製法を発展させ,珪酸塩以外にも適用したもの…。」(広辞苑第4版)というものであるが,本件発明は,セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と,放射性鉱物であるモナザイトの粉末との混合物を主要な原材料とし,これらを焼成し焼結させて複合化したものであるから,本件発明の遠赤外線放射体そのものが,上記の「セラミックス」という文言が有する通常の意味である「陶磁器類」もしくは「成形・焼成などの工程を経て得られる非金属無機材料」に相当するというべきである。

そして,粉体工業の粉体には,食品,化粧品,医薬品,研磨材などの粉体も含まれるところ,本件発明の原材料であるモナザイトが[(Ce,La,Th)PO4,ThO26%,U3O80.3%]という組成からなり(本件明細書の段落【0031】),セラミックス遠赤外線放射材料の各具体例が本件明細書の段落【0026】~【0029】に記載されていることを踏まえると,平均粒子径の測定の対象となる粉体は,成形・焼成などの工程を経て得られる陶磁器類等の焼結体(「セラミックス」)の原材料である無機酸化物や金属炭化物の粉末を主に指すと解するのが相当である。

イ そこで,無機酸化物等のセラミックスの原材料について,その平均粒子径を測定するに当たり,本件特許の出願(平成8年2月)当時,どのような方法が用いられていたかについて検討する。

(ア) 乙A79(「CERAMICSJAPANセラミックス」,1995年(平成7年)2月号,社団法人日本セラミックス協会)の広告欄(前付-6頁)によれば,本件特許の出願(平成8年2月)の前年である平成7年2月頃,日機装株式会社が,レーザー回折式粒度分析計「マイクロトラックFRA・SRA/UPA」のほか,X線透過式のディスク遠心式粒度分析計「BI-XDC」(測定範囲:0.01~100μm)を販売していたことが認められる。

この点,たとえ当該広告欄に,同測定装置がセラミックス業界(ニューセラミックス,ファインセラミックスを扱う業界を含む業界)で使用するものであるという明示的な記載がないとしても,当該広告が掲載された雑誌は,セラミックスに係る技術情報誌としての性格を有するものであるから,そこに掲載されている広告の製品は,少なくともセラミックスの分野において使用されるものであるといえ,同雑誌の発行当時(平成7年2月)頃,X線透過式のディスク遠心式粒度分析計が当技術分野において使用されていたということができる。

(イ) 乙A91(岐阜県陶磁器試験場年報 平成8年度版〔平成9年5月30日発行〕)には,「1.6主要試験研究設備 …粒度分布測定装置 マイクロメリティックス セディグラフ5000-02型 0.25~50μm」との記載があり,また,乙A68(マイクロメリテックス社の日本総代理店株式会社タイタン・テクノロジー作成の「X線透過式粒度分布測定装置 セディグラフIII5120」のカタログ)には,「マイクロメリテックス社のセディグラフは世界中の工場や研究所でスタンダードな粒度分布装置として30年間以上の歴史と共に確立されてきました。…ストークス法により,粒子が液中を重力によって沈降していく,その粒度分布は沈降法とX線吸収率によって測定されます。セディグラフは従来レーザー解析法では測定できなかった偏平や棒状の複雑な粒子も測定できます。…」,「アプリケーション ◆セラミックス…」,「様々なメリット…完全な粒子計測。300μmから0.1μmまでのサンプル測定可能。」との記載がある。

そうすると,本件特許の出願(平成8年2月)当時において,岐阜県陶磁器試験場では,レーザ回折散乱法以外の測定方法による装置であり,数十年にわたり広く使われていたセディグラフが用いられていたこと,セディグラフ自体も,レーザー解析法で測定できない偏平や棒状の複雑な粒子を測定できるように改良が加えられたこと,が認められる。乙A100(岐阜県陶磁器試験場年報 平成9年度版〔平成10年6月1日発行〕)には「粒度分布測定装置 (株)島津製作所 SALD-2000J レーザー回折/散乱法0.03~700μm」との記載があるが,上記認定を左右するものではない。

(ウ) 乙A86(特開平9-25567号公報,出願日平成8年4月18日)の段落【0040】には,ITO焼結体(セラミックス)の原料粉末について,そのメジアン径の測定につき,「メジアン径とは,粒度の累積分布の50%に相当する粉末の粒子径を意味する。…本発明における粒度分布の測定は,堀場製作所製,商品名「CAPA-300」を用い,2μm未満の粒径に対しては,遠心沈降法(回転数:2000rpm)で,2μm以上の粒径に対しては,自然沈降法により測定した。」という記載がある。

そうすると,粒径が2μm未満の場合(遠心沈降法),2μm以上の場合(自然沈降法)を問わず,いずれにしても沈降法の原理を用いる堀場製作所の「CAPA-300」という測定装置が,本件特許の出願(平成8年2月)当時において,セラミックスの原料粉末のメジアン径(粒度の累積分布の50%に相当する粒子径)の測定のために用いられていたと認められる。同公報において,2μm未満の粒径の選別,2μm以上の粒径の選別をどのように行ったかを特定する記載がないとしても,上記認定を左右するものではない。

(エ) 乙A64(「セラミック工学ハンドブック 第2版」,技報堂出版株式会社,平成14年3月31日)には,次の記載がある。

「液相沈降法も広く使用されている方法である。粒子の沈降速度は,粒子の大きさに依存する。大きな粒子ほど沈降速度が速い。したがって,ある位置における粒子濃度の経時変化を観測すれば,粒子径分布の情報が得られる。濃度の観測方法によって,遠心沈降光透過法,X線透過法,重量法などに分類される。」「電気的検知帯法は,電解質溶液など電気伝導性のある液中に粒子を懸濁させて,その体積と個数を電気的に検知する方法である。現在,測定装置として実用化されているものの多くは,電解質溶液中に細孔を介して形成された電気回路を粒子が横切るときに生じる電気抵抗の変動を検出する方法である。」

「表5.3 測定方法の比較一覧

遠心沈降光透過法  測定範囲 10-1~101μm

X線透過法  測定範囲 10-1~101μm

レーザ回折散乱法  測定範囲 10-1~102μm

電気的検知帯法  測定範囲 10-1~103μm」

そうすると,本件特許の出願(平成8年2月)当時から約6年が経過した時点で発行されたセラミック工学のハンドブックにおいても,「液相沈降法も広く使用されている方法である。」,「現在,測定装置として実用化されているものの多くは,…粒子が横切るときに生じる電気抵抗の変動を検出する方法である。」等の表現で,レーザ回折散乱法の測定装置のほかにも,沈降法,電気的検知帯法等による測定装置が用いられていることが紹介されていることが認められる。この点,控訴人は,ハンドブックは,用語の解説及び構成の説明を行うものであることを指摘するが,用語辞典における単なる用語の解説であればともかく,本件の「セラミック工学ハンドブック 第2版」は,その記載内容の表現ぶりからしても,セラミック工学のハンドブックとして発行当時の技術常識を反映する内容が記載されていると認めることができる。

(オ) 乙A69(「Multisizer3 精密粒度分布測定装置」のカタログ,ベックマン・コールター株式会社)には,次の記載がある。

「Multisizer3は,粒子径と粒子数を最も正確に測定できる,多機能な粒度分布測定装置です。粒子の色,形状,成分及び屈折率の影響を受けずに,0.4~1,200μmまでの粒子の個数,体積,重量及び表面積分布を1回の測定で得ることが可能です。全世界で認められた業界標準であるコールター原理(細孔電気抵抗法)とデジタルパルス処理(DPP)技術の採用により,高分解能で高精度なデータを提供します。」

「アプリケーションと業種 …セラミックス…」

「コールター原理は電気抵抗法を利用した原理で,電解液に浮遊している粒子が感応領域を通過する際に生じる2電極間の電気抵抗の変化を測定します。…粒子(細胞)の3次元の体積に比例している電気パルスを分析することによって,正確な体積から球相当径の粒度分布を取得することができます。…」

そうすると,これに上記(エ)を併せれば,本件特許の出願時(平成8年2月)から約6年が経過した時点で発行されたセラミック工学のハンドブックに,「現在,測定装置として実用化されているもの」として掲載されている,「電気的検知帯法」の原理によるセラミックスの測定装置として,ベックマン・コールター株式会社の「Multisizer3 精密粒度分布測定装置」があり,粒子径と粒子数を最も正確に測定できるものとしてカタログに記載されていることが認められる。

(カ) 乙A94(特開平9-309722号公報,出願日平成8年5月24日)は,その【特許請求の範囲】等から,焼結体(セラミックス)の粉砕物であるα-アルミナ粉体に係る発明であると認められるところ,同段落【0031】には,α-アルミナ粉体の「中心粒子径はX線セディグラフ…を使用した。」と,同段落【0037】には,「【表3】α-アルミナの粉体物性 中心粒子径 2.3 0.82.0」,「単位:中心粒子径:μm…注):粉砕物の50重量%径」と記載されている。そうすると,本件特許の出願(平成8年2月)当時の付近である平成8年5月,焼結体(セラミックス)の粉砕物であるα-アルミナ粉体について,中心粒子径(50重量%径)をX線セディグラフで測定した旨の記載がなされた特許出願がされ,その内容が公開特許公報として発行されたことが認められる。この点,測定対象となるα-アルミナ粉体は,セラミックスを製造するための原料でなく,セラミックスの粉砕物であるが,上記認定を左右するものではない。

ウ 以上のア,イ(ア)~(カ)を総合すれば,本件特許の出願(平成8年2月)当時において,当業者は,レーザ回折・散乱法以外にも,沈降法等の様々な方法による測定装置によりセラミックスの粒子径を測定していたと認められるものであって,沈降法が実用性を失った状態にあったとは認められず,仮にレーザ回折・散乱法が多く用いられつつある状況にあったとしても,当業者全体の間において見たとき,レーザ回析・散乱法による測定装置で計測することが既に主流になっていたとか,一般化していたということもできないというべきであって,当業者の間に,既にレーザ回折・散乱法による測定装置で計測することが自明であるという技術常識が存在していたということはできない。

そして,前記2(1)~(4)の説示に照らしても,本件明細書(甲2,乙A20の2)に,「平均粒子径」の意義を特定することができる手掛かりとなる記載が存するとは認められないから,本件明細書(甲2,乙A20の2)に接した当業者は,本件発明の「平均粒子径10μm以下」という文言について,その意義を理解することができず,本件特許は,特許法にいう明確性の要件を満たしていないというほかない。

(2)  その他の控訴人の主張について

以上判断したとおりであるから,これに反する控訴人の主張は,いずれも失当であるか,又はことさら判断する必要がないものである。念のため,控訴人の主張の要点については,次のとおりである。

ア 控訴人は,セラミックス業界(ニューセラミックス,ファインセラミックスを扱う業界を含む業界)において平均粒子径を計測する場合(中でも0.01μmから100μmくらいまでを計測する場合)においては,「レーザ回析・散乱法」による測定装置で計測することが一般化していた,平均粒子径の測定手法は,ほぼ統一されており,ファインセラミック業界において,レーザ回折・散乱法に基づく粒子の測定装置が主流となっていた,粉体の平均粒子径を指定して取引をする事例においては,レーザ回折・散乱法による測定装置で計測したデータを添付して納品することが常識になっていたと主張するが,上記(1)の説示に照らしていずれも失当である。

イ 控訴人は,平成8年の本件特許出願当時は,レーザ回折・散乱法に基づく測定装置が各社から発売されるようになって10年以上を経過していた,と主張するが,仮に同主張を前提としても,前記(1)の説示を左右するものではない。

ウ 控訴人は,「愛窯技ニュースNo.74」(甲46の2),「食い違ってはいけない測定結果」(甲46の3),「屈折率未知試料のレーザー回折散乱法による測定手法の開発」(甲46の4)及び株式会社島津製作所名古屋支店勤務のEの回答メール(甲49)等を取り上げ,セラミックスの分野では,本件発明の出願(平成8年2月)当時,レーザ回折散乱法による装置が主流になっていたと主張する。

しかし,たとえ上記各証拠によって,本件特許の出願時(平成8年2月)当時において,レーザ回折・散乱法による測定装置が,販売高だけでなく,当業者がセラミックスの粒子径の測定に当たり使用するものとして,従来の沈降法等による測定装置に代わり,主流になりつつある過渡期にあったことが窺われるとしても,前記(1)の説示に照らせば,本件特許の出願(平成8年2月)当時において,当業者の間で,既にレーザ回析・散乱法による測定装置で計測することが自明であるという技術常識が存在していたといえる程度に,同測定装置で計測することが主流になっていたとか,一般化していたということはできず,そのような技術常識が既に存在していたということはできないとの前記説示を左右するものとはいえない。

以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。

エ 控訴人は,株式会社タイタン・テクノロジーの顧客ファイル(乙A112の1~18)により把握できるセディグラフの販売台数は,16台(乙A112の8,17は使用されていない。)にすぎず,その販売実績は極めて限られたものである上,これらのセディグラフは,平成8年頃には作動するPC(パソコン)がほとんどなかったはずである「MS-DOS」によって作動しているから,平成8年当時は,セディグラフは販売されておらず,すでに競争力を失っていたと主張する。

しかし,株式会社タイタン・テクノロジーのセディグラフの販売台数や「MS-DOS」による作動についての上記指摘を前提としても,前記(1)の説示に照らせば,本件特許の出願(平成8年2月)当時,当業者の間において,既にレーザ回析・散乱法による測定装置で計測することが自明であるという技術常識が存在していたということはできないとの前記説示を左右するものとはいえない。

以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。

5  控訴人の主張(4)について

控訴人は,沈降法の問題点について指摘し,本件特許の出願(平成8年2月)当時においても,セラミックス業界(ニューセラミックス,ファインセラミックスを扱う業界を含む業界)のセラミックス材料の商取引では,複数の成分からなり試料の真比重値が特定できないセラミックス材料の測定に,人為的誤差が大きい「沈降法」は採用されておらず,沈降式の粒度分布測定装置は,レーザ回折式粒度分布測定装置が発売された以降急速にすたれていった旨を主張する。

しかし,仮に沈降法に測定方法としての短所があったとしても,上記4(1)に説示したとおり,本件特許の出願(平成8年2月)当時において当業者の間において沈降法が実用性を失った状態にあったとは認められないから,控訴人の上記主張は採用することができない。

6  結語

以上のとおりであるから,本件控訴はいずれも理由がない。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塚原朋一 裁判官 本多知成 裁判官 田中孝一)

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