大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

知財高等裁判所 平成20年(ネ)10088号 判決 2009年5月25日

控訴人(附帯被控訴人)

株式会社JAPAN CREATE

控訴人(附帯被控訴人)

株式会社匠

控訴人(附帯被控訴人)ら訴訟代理人弁護士

寒河江孝允

控訴人(附帯被控訴人)ら訴訟復代理人弁護士

高瀬亜富

控訴人(附帯被控訴人)ら補佐人弁理士

保科敏夫

被控訴人(附帯控訴人)

主文

1  附帯控訴に基づき原判決第1項を次のとおり変更する。

控訴人(附帯被控訴人)らは,被控訴人(附帯控訴人)に対し,連帯して金585万6600円及び別紙「附帯金目録2」記載の金員を支払え。

2  本件控訴を棄却する。

3  附帯控訴中,第1項に反する部分を棄却する。

4  訴訟費用(控訴費用,附帯控訴費用を含む。)は,第1,第2審を通じてこれを4分し,その3を控訴人(附帯被控訴人)らの負担とし,その余を被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。

5  この判決は,被控訴人(附帯控訴人)勝訴部分(第1審勝訴部分を含む。)について,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人(附帯被控訴人)ら

(1)  原判決中控訴人(附帯被控訴人)ら敗訴部分を取り消す。

(2)  被控訴人(附帯控訴人)の請求をいずれも棄却する。

(3)  附帯控訴を棄却する。

(4)  訴訟費用(控訴費用,附帯控訴費用を含む。)は,第1,第2審とも被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。

2  被控訴人(附帯控訴人)

(1)  附帯控訴に基づき,原判決第1項を次のとおり変更する。

「控訴人(附帯被控訴人)らは,被控訴人(附帯控訴人)に対し,連帯して金1000万円及びこれに対する平成17年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」

(2)  原判決中,原判決第1項以外の被控訴人(附帯控訴人)敗訴部分を取り消す。

(3)  控訴人(附帯被控訴人)らは,自社ホームページに謝罪広告を1年間掲載せよ。

(4)  本件控訴を棄却する。

(5)  訴訟費用(控訴費用,附帯控訴費用を含む。)は,第1,第2審とも控訴人(附帯被控訴人)らの負担とする。

(6)  被控訴人(附帯控訴人)勝訴部分につき仮執行宣言

第2事案の概要等

(以下,被控訴人(附帯控訴人,原審原告)を単に「原告」といい,控訴人(附帯被控訴人,原審被告)株式会社JAPAN CREATEを単に「被告JAPAN CREATE」といい,控訴人(附帯被控訴人,原審被告)株式会社匠を単に「被告匠」といい,被告JAPAN CREATE及び被告匠を包括して「被告ら」という。

別紙は,「本判決添付の附帯金目録2」,「補償金及び損害金認定額一覧表2」を付加するほかは,原判決別紙のとおりであるから,これを引用する。)

1  原審の経緯等

原告は,特許第3806828号(発明の名称「対物レンズと試料との位置関係を逆にして拡大像を得る方法とその応用」。物の発明に係る請求項2,5,6と方法の発明に係る請求項3を含む。)の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という。),意匠第1171883号(意匠に係る物品「顕微鏡」)及び意匠第1171884号(意匠に係る物品「顕微鏡」)の意匠権(以下,意匠第1171883号の意匠権を「本件カード意匠権」といい,意匠第1171884号の意匠権を「本件レンズチップ意匠権」という。)の権利者である。

原告は,被告らに対し,被告JAPAN CREATEが別紙被告製品目録記載1ないし3の各製品(以下,同目録記載1の製品を「被告製品1」,同目録記載2の製品を「被告製品2」,同目録記載3の製品を「被告製品3」といい,被告製品1ないし3を包括して「各被告製品」という。)を製造し,被告匠がこれらを販売した行為が,本件特許権を直接侵害し又は本件特許権を侵害するものとみなされる(特許法101条2号,5号。ただし,平成18年法律第55号の施行日である平成19年1月1日前の行為については,同号による改正前の特許法101条4号。)と主張して,特許法100条1項,2項,106条に基づき,さらに,本件カード意匠権及び本件レンズチップ意匠権を侵害していると主張して,意匠法37条1項,2項及び同法41条の準用する特許法106条に基づき,各被告製品の製造,輸入,販売及び販売のための展示の差止め,並びに各被告製品の回収及び廃棄,謝罪広告の掲載を求めるとともに,特許法65条1項に基づく補償金の支払(特許権の出願公開後の平成17年9月1日から特許権の設定登録日前である平成18年5月25日までの製造,販売分について),特許権侵害による民法709条,719条に基づく損害賠償の支払(特許権の設定登録日である平成18年5月26日から平成19年11月20日までの製造,販売分について)を請求し,また,意匠権侵害による民法709条,719条に基づく損害賠償の支払(意匠権の設定登録後の平成17年9月1日から平成19年11月20日までの製造,販売分について)を請求した。なお,原審における附帯請求は,平成18年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求であった。

原判決は,各被告製品の製造,販売は,本件特許権を直接侵害し(被告製品1及び被告製品2につき請求項2,5,被告製品3につき請求項2,6),また本件特許権を侵害したものとみなされる(各被告製品につき請求項3,特許法101条5号。ただし,平成18年法律第55号の施行日である平成19年1月1日前の行為については,同号による改正前の特許法101条4号。)とともに,本件カード意匠権及び本件レンズチップ意匠権を侵害するとし,①補償金(平成17年9月1日から平成18年5月25日までの実施料相当額の補償金),特許権侵害による損害賠償(特許権の設定登録日である平成18年5月26日から平成19年11月20日までの実施料相当額の損害金)及び意匠権侵害による損害賠償(意匠権の設定登録後の平成17年9月1日から平成19年11月20日までの実施料相当額の損害金)の合計585万6600円及びこれに対する原判決別紙附帯金目録記載の遅延損害金の支払,②各被告製品の製造,輸入,販売又は販売のための展示の差止め,③各被告製品の廃棄の請求を認容し,原告のその余の請求をいずれも棄却した。

これに対し,被告らは,原判決中の被告ら敗訴部分を不服として本件控訴を提起した。また,原告は,原判決を不服とし,①1000万円及びこれに対する平成17年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払,②被告らの自社ホームページへ謝罪広告を1年間掲載することを求めて附帯控訴を提起した。

なお,原判決の略語表示は当審においてもそのまま用いる。

2  前提となる事実,争点

次のとおり訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要等」,「1 争いのない事実等」,「2 争点」記載のとおりであるから,これを引用する。

原判決3頁14行目ないし15行目の「本件特許に係る明細書(甲7。別紙特許公報参照)「を本件明細書」という。」「を本件特許に係る明細書(甲7。別紙特許公報参照)を図面とともに「本件明細書」という。」と改める。

第3争点に関する当事者の主張

次のとおり付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に関する当事者の主張」記載のとおりであるから,これを引用する。

1  原判決19頁1行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。

「請求項2,3,5,6の発明は,正視観察法を除外しており,正視観察法を含んでいない。その理由は,以下のとおりである。

請求項2,3,5,6には,逆視観察法に限る又は正視観察法を除くとの明確な記載はない。しかし,本件明細書には,発明の実施の形態の項に,「図4の(b)は現在市販されている,複式顕微鏡のプレパラートに相当する試料受け部分で」(【0006】),「このレンズ側からの観測は従来の方法であるが,透明フィルム(5)側に目を近ずけて覗くとフィルムにつけてある試料が拡大して見える,図3の様なレーウエン・フック型の試料取り付け針(11)がないために目をレンズ(2)に近ずけられるから,このことが可能になった訳である。又,複式顕微鏡の様なものでは試料側からは覗くこともできないが,本簡易顕微鏡では簡単に本発明の逆視顕微鏡的方法と正視顕微鏡的な方法の二つで観察ができる。」(【0006】)と記載されている。この記載から,当業者は,本件特許に係る発明の簡易顕微鏡が,レーウエン・フック型の改良版であって,従来の試料取り付け手段である針(11)に代えて,今や一般的なプレパラートに相当する手段を用いたものであること,そして,針(11)をプレパラートに相当するものに変えたことにより,通常のレーウエン・フック型とは異なる逆視観察が可能になったことを理解すると考えられる。また,特許性の観点から,公知のレーウエン・フック型において試料の取り付けに周知のプレパラートに相当する手段を用い,従来どおりの正視観察を行うということでは明らかに特許を受けることができないと理解し,当業者は,請求項に明示はされていないものの,請求項2ないし6の発明は,通常のレーウエン・フック型とは異なる逆視観察との組み合わせがあってこそ技術的に有意義であること,すなわち,正視観察法を除外し,逆視観察法のみを対象としていることを理解する。」

2  原判決20頁4行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。

「(ウ)請求項5の発明は,特許請求の範囲における「透明部を有する試料保持シート」との記載から,どのように試料を保持するかについて技術的意義を明確にすることができないから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面を参酌することにより,レンズと試料の間に所定のギャップをもつような保持であると解釈するのが妥当である。被告製品1及び被告製品2は,レンズと試料が直接接触しているから,請求項5の発明の構成要件を充足しない。」

3  原判決21頁26行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。

「(ウ)請求項6の発明は,特許請求の範囲における「透明部を有する試料保持シート」との記載から,どのように試料を保持するかについて技術的意義を明確にすることができないから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面を参酌することにより,レンズと試料の間に所定のギャップをもつような保持であると解釈するのが妥当である。被告製品3は,レンズと試料が直接接触しているから,請求項6の発明の構成要件を充足しない。」

4  原判決24頁19行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。

「エ 請求項2の構成要件A3,請求項3の構成要件B3は,「前記レンズに前記観察する試料を直接接触させつつ」とされ,レンズに試料を直接接触させることが特定されているが,同構成は,以下のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていないから,請求項2,3の記載は特許法36条6項1号に適合しない。

本件明細書には,「逆視及び正視のどちらの場合でも,試料を透明フィルム(5)の左でも右でも,即ち,中でも外でも,どちらにでも着けて良い。」(【0006】)と記載されている。しかし,この記載は,レンズに試料が直接接触する形態を示すものではない。その理由は,次のとおりである。すなわち,

(ア)  レーウエン・フック顕微鏡においては,観察時にレンズと試料とは所定の距離を保ち,互いに直接触れ合うことはない。試料を針(11)で支持したレーウエン・フック顕微鏡による観察の形態や,試料をレンズに触れさせると観察位置を変えようとするときに試料が形を変えてしまうことからしても,それは明らかである。そうすると,本件明細書の上記記載の「透明フィルム(5)の左」,「中」とは,本件明細書の図4などの実施例とは異なり,「透明フィルム(5)をシート(43)の反対側の面に張り,レンズ(2)に臨むシート(43)の穴(4)内」を意味するものと解される。

(イ)  特許出願の願書に添付された図面(乙1の3)に示された実施例のすべてにおいて,試料は,少なくとも透明フィルム(5)の分のギャップを介してレンズ(2)に臨んでおり,審査過程において原告から審査官に宛てて送付された平成18年2月13日付け手続補正書案(乙6の6)の請求項2に「前記試料とレンズのギャップは一義的にほぼ固定され」と記載されていることから明らかなとおり,本件明細書においては,正視観察,逆視観察を問わず,レンズ(2)と試料の間に所定のギャップ,すなわち作動距離を維持することが前提とされている。

(ウ)  本件明細書の「逆視及び正視のどちらの場合でも,試料を透明フィルム(5)の左でも右でも,即ち,中でも外でも,どちらにでも着けて良い。」(【0006】)との記載を根拠にギャップがゼロであるとするならば,逆視及び正視のどちらの場合でもギャップがゼロということになるが,そうすると,逆視における作動距離と正視における作動距離が同じであるという事態となる。しかし,逆視の作動距離は正視の作動距離よりも大きく,両観察における各作動距離は異なるから(【0005】,【0007】),そのような事態はあり得ない。

「試料を直接レンズに付けても見られるようになる」,「このギャップの中に試料を置き,レンズ保持シートと試料保持シートを重ねれば,当然,試料はレンズに付着することになる」との事項は,本件明細書に記載も示唆もなく,むしろ本件明細書の記載に反する内容である。すなわち,本件明細書には,例えば「レンズ(2)と透明フィルム(5)とのギャップ」(【0007】),「レンズと試料との距離をあらかじめ計算して制作」(【0008】)との記載が示すように,「レンズと試料とを所定距離だけ離す」という考え方が記載されているのみである。その所定距離の大きさは,それほど大きい値とはいえないものの,試料受けである透明フィルム(5)の厚さ0.05mm(【0006】)よりは大きく,本件特許に係る発明は,あくまでもレンズと試料との間にギャップを存在させることを大前提とするものである。図10に示す実施例では,更に大きなギャップを得るために,レンズの付近をフィルム(5)から離す工夫も加えている(【0011】)。本件特許に係る発明の複数の実施例は,すべてレンズ(2)と試料との間に透明フィルム(5)を介在させ,少なくともその厚さ相当分のギャップを備えている形態であり,このギャップは,試料を観察する上で必要であり,ギャップの中に試料を置きギャップをなくすことはあり得ない。透明部である透明フィルム(5)は試料受けであって,透明フィルム(5)に隣接するシート(43)があくまで「試料保持シート」であり,シート(43)には穴(4)があり,その穴(4)の中に試料を保持している。本件明細書には,「試料を直接レンズに付ける」という考え方は何ら記載されていないし示唆もされていない。

液浸とは,観察しようとする試料とレンズとの間に,試料とは別に,レンズとほぼ同じ屈折率をもつ液体を満たすことによって,レンズの開口数を大きくして分解能を高める方法である。各被告製品においては,試料である直径2mm程度の精液をレンズに付着させた形態で観察が行われており,これは,レンズと試料との間にギャップを存在させる本件特許に係る発明とは異なるし,液浸とも異なる。」

5  原判決28頁7行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。

「逆視観察と正視観察とでは作動距離(観察すべき試料とレンズとの間の距離)が異なるはずである(本件明細書【0007】)から,逆視観察用顕微鏡と正視観察用顕微鏡とでは異なる要件が定められるべきであるにもかかわらず,請求項2,3には,そのような要件についての記載がないから,請求項2,3の記載は特許法36条6項2号に適合しない。

請求項5の構成要件C5には「X,Y方向の移動が自由に出来る」との記載があるが,本件明細書には,図8において,平行な二つの切れ目(52,53)をもつシート(51)と,そのシート(51)に結合する十字型の別のシート(54)が示されているだけであり,当業者は,「X,Y方向の移動が自由に出来る」構成を得る方法として,そのような実施例又はそれに準じるもの以外を理解することができないから,請求項5の記載は36条6項1号,2号に適合しない。

請求項6の構成要件D3には,「その他のシート」との記載があるが,「その他のシート」と「レンズ保持シート」(D1)や「試料保持シート」(D2)との関係が全く不明であるから,請求項6の記載は36条6項2号に適合しない」。

6  原判決31頁6行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。

「請求項2の構成要件A3,請求項3の構成要件B3の「前記レンズに前記観察する試料を直接接触させつつ」との事項は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載がないから,請求項2,3に係る発明は,同事項を除いて特定される。そうすると,乙7,8,25,26,50を考慮するならば,請求項2,3に係る発明の進歩性は否定される。特許庁審査官も,同様の趣旨で出願当初のクレームに対し拒絶理由通知をした(乙4)。」

7  原判決31頁19行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。

「請求項2の構成要件A3,請求項3の構成要件B3の「前記レンズに前記観察する試料を直接接触させつつ」との事項は,出願当初明細書に記載されておらず,平成18年2月16日付け手続補正書(乙6の7)による補正によって付加された新規事項であるから,同補正は,平成14年法律第24号による改正前の特許法17条の2第3項に規定する要件を満たさない。」

8  原判決31頁23行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。

「請求項2の構成要件A3,請求項3の構成要件B3の「前記レンズに前記観察する試料を直接接触させつつ」との事項は,以下の理由により,本件明細書の記載から自明である。

ア  すなわち,本件明細書の【0013】に記載されているように,レンズ径が小さくなると倍率が高くなり,焦点距離が短くなり,試料を直接レンズに付けても見られるようになる。

イ  本件特許に係る発明の実施例で使用された球形レンズは,本件明細書の【0013】に記載されているように,直径が0.25mmから1.4mmである。球形レンズの焦点距離fとレンズの半径r,レンズの屈折率nとの関係式は,f=n・r÷2(n-1)で表されるはずであるから,焦点距離fは,レンズの屈折率をn=1.5と仮定すれば,f≒0.188mmないし1.05mmである。したがって,試料保持シートとレンズのギャップはこの焦点距離の範囲内であり,このギャップの中に試料を置き,レンズ保持シートと試料保持シートを重ねれば,当然,試料はレンズに付着することになるから,「レンズを直接試料に接触させつつ」との状態は,本件明細書から自明である。

また,レンズが直接試料である精液などに接触することにより,液浸効果により解像度がよくなったり,試料を変形させて観察できるという多くの利点が生ずることから,請求項2,3に係る発明は特許性を有する。」

9  原判決33頁14行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。

「ウ 請求項2の構成要件A3,請求項3の構成要件B3の「前記レンズに前記観察する試料を直接接触させつつ」との事項は,出願当初明細書の記載から自明である。」

10  原判決39頁12行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。

「被告製品1及び被告製品2は,顕微鏡という完成品であるから,類否判断に当たってその一部であるカード部を抽出することは誤りである。

顕微鏡とその部品であるカードは,意匠に係る物品として非類似であるから,利用関係が成立しない限り,その意匠は互いに非類似となる。」

11  原判決40頁3行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。

「被告製品1及び被告製品2は,顕微鏡という完成品であるから,類否判断に当たってその一部であるレンズチップ部を抽出することは誤りである。

顕微鏡とその部品であるレンズチップ部は,意匠に係る物品として非類似であるから,利用関係が成立しない限り,その意匠は互いに非類似となる。」

12  原判決45頁10行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。

「微小な球レンズを支持する場合に球レンズの支持部分が山型の凸部を形作ることは,顕微鏡の機能を発揮させるために必然的に備えられる形態であるから,本件レンズチップ意匠は創作容易である。」

13  原判決50頁6行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。

「原告は,平成12年10月30日から平成17年まで,本件特許,本件意匠の実施品を販売しており,それにより200万円程度の売上があった(甲64,65)。原告は,本件特許,本件意匠の実施品を,数は少ないが,被告らと同じ価格で販売し得る能力がある。したがって,原告の損害は,特許法102条1項,意匠法39条1項に基づいて計算することができる。」

14  原判決51頁16行目及び17行目の「被告ら」を,それぞれ「原告」と改める。

15  原判決52頁1行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。

「ク レンズチップを付けないで各被告製品を販売することはできないから,本件レンズチップ意匠の各被告製品に対する寄与率は100%である。」

16  原判決52頁21行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。

「本件カード意匠,本件レンズチップ意匠は,各被告製品中のカード,レンズチップの部分に関するものであり,各被告製品に対する寄与率は10%程度である。」

17  原判決53頁3行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。

「原告は,本件特許,本件意匠の実施品を販売しているところ,被告らが各被告製品の販売を継続していることにより商談が流れてしまい(甲64,71,72),業務上の信用を害されたから,謝罪広告を求める。」

第4当裁判所の判断

当裁判所は,被告製品1及び被告製品2はいずれも請求項2,5の発明の技術的範囲に属し,被告製品3は請求項2,6の発明の技術的範囲に属し,各被告製品の製造,販売は,本件特許権を直接侵害するとともに,請求項3の発明につき本件特許権を侵害するものとみなされるが(特許法101条5号,改正前特許法101条4号),請求項2,3の発明に係る特許はいずれも無効にされるべきものと認められ(平成14年法律第24号による改正前の特許法123条1項4号,同改正前の特許法36条6項1号,同改正前の特許法123条1項1号,同改正前の特許法17条の2第3項),また,被告製品1及び被告製品2の製造,販売は,本件カード意匠権を侵害するが,本件レンズチップ意匠権を侵害せず,原告の本訴請求は,各被告製品の製造,輸入,販売及び販売のための展示の差止め,各被告製品の廃棄,補償金,本件特許権及び本件カード意匠権の侵害による損害賠償(一部)の請求につき認容すべきであり,原告のその余の請求は棄却すべきものと判断する。

その理由は,次のとおり付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。

1  原判決64頁2行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。

「被告らは,本件明細書の発明の実施の形態の記載から,当業者は,本件特許に係る発明の簡易顕微鏡が,レーウエン・フック型の試料取り付け手段である針(11)に代えてプレパラートに相当する手段を用いたものであること,それにより逆視観察が可能になったことを理解し,特許性の観点から,公知のレーウエン・フック型において試料の取り付けに周知のプレパラートに相当する手段を用い,従来どおりの正視観察を行うということでは明らかに特許を受けることができないと理解し,請求項に明示はされていないものの,請求項2ないし6の発明は,正視観察法を除外し,逆視観察法のみを対象としているものと理解する旨主張する。

しかし,本件明細書は,正視観察法と逆視観察法の双方について記載されており,その記載に照らして,逆視観察法によらない限り本件特許に係る発明が進歩性を欠くと理解されるものとは認められないし,請求項に逆視観察法に限定される旨の記載がないにもかかわらずその発明がその旨限定されると解すべき根拠はない。したがって,被告らの上記主張は,採用することができない。」

2  原判決65頁26行目「b 構成要件C5についての補足説明」を「b 構成要件C5についての補足説明等」と改める。

3  原判決66頁9行目ないし15行目を次のとおり改める。

「しかし,被告製品1及び被告製品2の前記カバーフィルムの短辺部の幅は,前記カードの長辺部両側に設けられた二つの円弧状の切れ目の端部間の幅よりも若干短く(甲1,弁論の全趣旨),上記切れ目の端部間の幅と前記カバーフィルムの短辺部の幅の差(余裕)の範囲において,前記カバーフィルムは,Y方向(短辺部に平行な方向)に自由に移動することができるものと認められる。したがって,被告らの上記主張は,採用することができない。よって,⑦は構成要件C5に相当するものと認められる。

また,被告らは,請求項5の発明は,特許請求の範囲における「透明部を有する試料保持シート」との記載から,どのように試料を保持するかについて技術的意義を明確にすることができないから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面を参酌することにより,レンズと試料の間に所定のギャップをもつような保持であると解釈するのが妥当であるとした上で,被告製品1及び被告製品2は,レンズと試料が直接接触しているから,請求項5の発明の構成要件を充足しないと主張する。

しかし,請求項5の構成要件において,レンズと試料の間にギャップがあるものに限定し,レンズと試料が直接接触するものを排除する趣旨の記載はないし,本件明細書によれば,本件特許に係る簡易顕微鏡の試料は精子等の微小な物であり,当業者であれば,容易にシートに付着させるなどすることができ,シートへの試料保持は容易に実現できるものと推認され,当業者にとって,試料の保持について技術的意義が不明であるとは認められない。したがって,被告らの上記主張は,採用することができない。」

4  原判決68頁15行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。

「被告らは,請求項6の発明は,特許請求の範囲における「透明部を有する試料保持シート」との記載から,どのように試料を保持するかについて技術的意義を明確にすることができないから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面を参酌することにより,所定のギャップをもつような保持であると解釈するのが妥当であるとした上で,被告製品3は,レンズと試料が直接接触しているから,請求項6の発明の構成要件を充足しないと主張する。

しかし,請求項6の構成要件において,レンズと試料の間にギャップがあるものに限定し,レンズと試料が直接接触するものを排除する趣旨の記載はないし,本件明細書によれば,本件特許に係る簡易顕微鏡の試料は精子等の微小な物であり,当業者であれば,容易にシートに付着させるなどすることができ,シートへの試料保持は容易に実現できるものと推認され,当業者にとって,試料の保持について技術的意義が不明であるとは認められない。したがって,被告らの上記主張は,採用することができない。」

5  原判決68頁20行目ないし70頁4行目を次のとおり改める。

「ア 当裁判所は,請求項2の構成要件A3,請求項3の構成要件B3の「前記レンズに前記観察する試料を直接接触させつつ」との事項は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていないから,請求項2,3の記載は平成14年法律第24号による改正前の特許法36条6項1号に適合しないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

すなわち,本件明細書の発明の詳細な説明には,レンズに観察する試料を直接接触させることを記載した箇所はない。段落【0006】には,図4の実施例について,「観察するポイントを移動するときは親指と人差し指とでシート(41)と(43)を挟んですり合わせるようにして,ずらせれば良い。」(3頁36行ないし37行目),「逆視及び正視のどちらの場合でも,試料を透明フィルム(5)の左でも右でも,即ち,中でも外でも,どちらにでも着けて良い。」(3頁47行目ないし48行目)との記載がある。これによれば,レンズが取り付けられた顕微鏡本体のシート(41)と透明フィルム(5)が装着された試料受けシート(43)との間に試料が存在し,かつ,親指と人差し指とで顕微鏡本体のシート(41)と試料受けシート(43)を挟んですり合わせるようにする例が記載されている。そして,そのようにした場合に,レンズに試料が直接接触する可能性があることは否定し得ないものの,常にレンズに試料が直接接触することまでは認められない。むしろ,「観察するポイントを移動するときは・・・ずらせれば良い。」との記載は,試料が試料受けシート(43)にのみ付着していてレンズには付着しておらず,試料受けシート(43)をずらすことにより,レンズの正面に位置する試料をずらし,試料の観察ポイントを移動することを意味していると解するのが自然である。そうすると,本件明細書の上記記載をもって,観察する試料をレンズに直接接触させることが記載されているということはできない。そして,その他に,本件明細書の発明の詳細な説明に,観察する試料をレンズに直接接触させることが記載されているとは認められない。

イ  原告は,レンズに観察する試料を直接接触させるとの事項は,本件明細書の記載から自明であると主張し,その理由として,レンズ径が小さくなると倍率が高くなり,焦点距離が短くなり,試料を直接レンズに付けても見られるようになること(ア),試料保持シートとレンズのギャップは,【0013】に記載された直径が0.25mmから1.4mmの球形レンズの計算上の焦点距離であるf≒0.188ないし1.05mmの範囲であり,このギャップの中に試料を置き,レンズ保持シートと試料保持シートを重ねれば,当然,試料はレンズに付着すること(イ)などを主張する。

しかし,焦点距離の短い球形レンズの場合に,レンズを試料に直接接触させて観察することができるとしても,そのことから直ちに,本件明細書の発明の詳細な説明に,レンズを直接試料に接触させることが記載されているとはいえない。また,本件明細書の発明の詳細な説明には,親指と人差し指とで顕微鏡本体のシート(41)と試料受けシート(43)を挟んですり合わせるようにすることは記載されているが,その記載をもって,観察する試料をレンズに直接接触させることが記載されているといえないのは,前記アのとおりであるし,本件明細書の上記記載を根拠として,観察する試料がレンズに直接接触することが自明であるともいえない。したがって,レンズに観察する試料を直接接触させるとの事項が,本件明細書の記載から自明であるとの原告の主張は,採用することができない。」

6  原判決71頁2行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。

「ウ 被告らは,逆視観察と正視観察とでは作動距離(観察すべき試料とレンズとの間の距離)が異なるはずである(本件明細書【0007】)から,逆視観察用顕微鏡と正視観察用顕微鏡とでは異なる要件が定められるべきであるにもかかわらず,請求項2,3には,そのような要件についての記載がないから,請求項2,3の記載は特許法36条6項2号に適合しないと主張する。

しかし,逆視観察と正視観察とで作動距離(観察すべき試料とレンズとの間の距離)が異なるとしても,弁論の全趣旨によれば,その距離は,逆視観察か正視観察かのみならず,レンズの焦点距離等によっても左右されるものであり,当業者であれば,個々の場合の条件に応じて適宜定めることができると推認されるから,請求項2,3において,観察すべき試料とレンズとの間の距離について,逆視観察と正視観察とで異なる要件が定められていなかったとしても,それによって,請求項2,3の記載が特許法36条6項2号に適合しないということはできず,被告の上記主張は,採用することができない。

エ また,被告らは,請求項5には「X,Y方向の移動が自由に出来る」との記載があるが,本件明細書には,平行な二つの切れ目(52,53)をもつシート(51)と,そのシート(51)に結合する十字型の別のシート(54)が示されているだけであり,当業者は,「X,Y方向の移動が自由に出来る」構成を得る方法として,そのような実施例又はそれに準じるもの以外を理解することができないから,請求項5の記載は36条6項1号,2号に適合しないと主張する。

しかし,被告製品1及び被告製品2のように,試料保持シートの短辺部の幅がレンズ保持シートの切れ目の端部間の幅よりも短ければ,X方向の移動が自由であるのみならず,Y方向の移動も自由に行うことができ,そのことを理解するのはそれ程困難なことではなく,また,明細書の発明の詳細な説明に実施例のすべてが記載されていなくても,その故に,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえないし,特許請求の範囲が不明確であるともいえないから,被告らの上記主張は,採用することができない。

オ 被告らは,請求項6の構成要件D3には,「その他のシート」との記載があるが,「その他のシート」と「レンズ保持シート」(D1)や「試料保持シート」(D2)との関係が全く不明であるから,請求項6の記載は36条6項2号に適合しないと主張する。

しかし,請求項6の記載において,「その他のシート」(D3)が,「レンズ保持シート」(D1)や「試料保持シート」(D2)とは別のシートであり,穴が設けられ(D4),穴を中心に各シートを互いに回転できるようにハトメ玉様部材で止めて重ね合わされていること(D5)は明らかであり,「その他のシート」(D3)と「レンズ保持シート」(D1)や「試料保持シート」(D2)との関係が不明であるとはいえないから,被告らの上記主張は,採用することはできない。」

7  原判決74頁10行目ないし21行目を次のとおり改める。

「本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,出願当初から変更がない。他方,本件特許の請求項1ないし7は,平成18年2月16日付け手続補正書(乙6の7)により補正された。

請求項1の逆視顕微鏡的観察法の発明は,出願当初明細書(乙1の2)の段落【0004】,【0005】及び【図1】(a)等に開示されている。また,請求項5の発明は出願当初明細書の段落【0010】及び図8に開示されており,請求項6の発明は出願当初明細書の段落【0012】及び図11に開示されている。したがって,平成18年2月16日付け手続補正書(乙6の7)による補正は,請求項1,5,6については,平成14年法律第24号による改正前の特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしている。

これに対し,平成18年2月16日付け手続補正書による補正により付け加えられた「前記レンズに前記観察する試料を直接接触させつつ」との事項(請求項2の構成要件A3,請求項3の構成要件B3)は,出願当初明細書及び図面において何らの記載がなく,出願当初明細書及び図面のすべての記載を総合することによって導かれる技術的事項との対比において,新たに導入された技術的事項であるというべきであるから,同補正のうち請求項2,3に関する部分は,出願当初明細書及び図面に記載した事項の範囲を超えたものであり,平成14年法律第24号による改正前の特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。」

8  原判決74頁22行目ないし23行目を次のとおり改める。

「(6)以上によれば,請求項2,3の発明に係る特許は,平成14年法律第24号による改正前の特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされ,また,同改正前の特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたから,無効にされるべきものであり(平成14年法律第24号による改正前の特許法123条1項1号,4号),その点に関する被告らの主張は理由があるが,請求項5,6の発明に係る特許が無効とされるべきものであるとする被告らの主張は,理由がない。」

9(1)ア 原判決76頁8行目の「(ア)被告製品1及び被告製品2のカード部の構成」を「(ア)被告製品1及び被告製品2の構成」と改める。

イ  原判決76頁12行目の「カード型の単式顕微鏡の部品である板状カードより成る。」を「板状のカード型の単式顕微鏡である。」と改める。

ウ  原判決76頁23行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。

「(f)カード中心部の小穴にはレンズチップがはめ込まれており,カードの表面には,カード中心部に設けられた小穴を中心として,地が金色で,順次,黒太円,黒細円,黒細円の同心円状模様が表され,赤色及び黒色の文字等が書かれた円形状レンズチップ支持ラベルが貼付されている。円形状レンズチップ支持ラベルが貼付されているため,被告製品1及び被告製品2において,レンズチップは,その凸部とその下部に連続する円形平面部の一部のみが,円形状レンズチップ支持ラベルの中心部の穴から見える」。

エ  原判決77頁12行目,23行目,26行目の各「被告製品1及び被告製品2のカード部」,をいずれも「被告製品1及び被告製品2」と改める。

オ  原判決78頁1行目の「小穴が設けられていない点である。」の後に次のとおり挿入する。

「また,本件カード意匠は,カード中心部に小穴が設けられているにとどまるのに対し,被告製品1及び被告製品2は,カード中心部の小穴にレンズチップがはめ込まれている点も異なる。」

カ  原判決78頁2行目ないし9行目を次のとおり改める。

「なお,被告らは,被告製品1及び被告製品2には,カード中心部に設けられた小穴を中心として,順次,黒太円,黒細円,黒細円の同心円状模様より成る円形状レンズチップ支持ラベルが存する点において,相違すると主張する。しかし,本件カード意匠の意匠公報(甲30)に,意匠の説明として,「材質は紙やプラスチック等の板状で色彩と文様はデザインしだいである。」と記載されていることから,本件カード意匠は,色彩や文様を問うことなく,図面代用見本に表された形状により示されている意匠と解すべきであるところ,被告製品1及び被告製品2の円形状レンズチップ支持ラベルは,特定の色彩又は模様から成るものではあるが,それらの具体的な態様は,被告製品1及び被告製品2の形状を左右するものと評価することはできない。そうすると,被告ら主張に係る円形状レンズチップ支持ラベルの有無は,本件カード意匠と被告製品1及び被告製品2との類否判断の上では,相違点として考慮する必要はない。(上記の被告らの主張は,円形状レンズチップ支持ラベルの有無をもって,模様の有無と捉える主張と解される。円形状レンズチップ支持ラベルを貼付したことにより,カード中心部の小穴部分の直径は,カード自体に設けられた小穴の直径よりも若干小さくなっており,これにより,被告製品1及び被告製品2の中心部の小穴は,本件カード意匠の中心部の小穴よりも小さいとみることもできるが,このような相違点は,意匠全体からみて微細な部分にとどまるものと認められる。)」

キ  原判決78頁10行目ないし12行目を次のとおり改める。

「c 本件カード意匠の物品は顕微鏡であり,被告製品1及び被告製品2はカード型の単式顕微鏡であるから,被告製品1及び被告製品2と本件カード意匠は物品が同一である。

被告製品1及び被告製品2の意匠は,本件カード意匠と,その要部というべき点において共通する。他方,被告製品1及び被告製品2の意匠と本件カード意匠の相違点は,意匠全体からみて微細な部分に係るものと認められる。

したがって,被告製品1及び被告製品2の意匠は,本件カード意匠と類似する。」

(2) 原判決78頁14行目から79頁19行目を,次のとおり改める。

「被告製品1及び被告製品2の意匠と本件レンズチップ意匠は,基本的構成態様及び具体的構成態様において大きく異なるから,被告製品1及び被告製品2の意匠と本件レンズチップ意匠は,類似しない。」

10  原判決79頁21行目ないし24行目を,次のとおり改める。

「被告製品3の意匠は,レンズ保持カード(シート),試料保持用カバーフィルム(保持シート),試料ガードフィルムをカシメ部材で止めて重ね合わせた簡易顕微鏡の意匠であるのに対し,本件レンズチップ意匠は,単式顕微鏡の部品であるレンズが装着された小片を基本的構成態様とするものであるから,被告製品3の意匠と本件レンズチップ意匠は,構成態様が大きく異なり,類似しない。」

11  原判決85頁23行目ないし86頁16行目を,次のとおり改める。

「以上によれば,被告JAPAN CREATEは,業として,各被告製品を製造し,被告匠は,業として,これらを譲渡することにより,①被告製品1及び被告製品2については,請求項5に係る発明について本件特許権を侵害するとともに本件カード意匠権を侵害し,②被告製品3については,請求項6に係る発明について本件特許権を侵害しているものと認められる。

そして,被告らには,上記行為について,少なくとも過失が推定される(特許法103条,意匠法40条)。

被告JAPAN CREATEと被告匠は代表者が共通であることに加え,両社の取締役は全員共通であること(甲53ないし55),被告JAPANCREATEと被告匠とは,各被告製品の販売について,その製造元と発売元の関係にあること(甲2,3及び弁論の全趣旨)等に照らせば,被告らは,上記侵害行為について共同不法行為責任(民法719条1項)を負うというべきである(不真正連帯債務)。

また,被告らは,出願公開がされた特許出願に係る発明であることを知って(製品上,又は,その使用説明書上に「特許出願中」との記載があることから明らかである。),本件特許権の設定登録前に,業として,請求項5及び6に係る発明を実施したから,設定登録(平成18年5月26日設定登録)までの実施について,共同して補償金を支払う義務を負う(不真正連帯債務)。」

12  原判決92頁23行目ないし93頁2行目を次のとおり改める。

「被告製品1及び被告製品2の製造,販売は,請求項5に係る発明について本件特許権を侵害するとともに本件カード意匠権を侵害するものであり,被告製品1及び被告製品2の構成,被侵害権利の内容及び上記事情に照らせば,被告製品1及び被告製品2の製造,販売による本件特許権及び本件カード意匠権の侵害について,実施料相当額は,需要者への販売価格の10パーセントと認めるのが相当である。なお,当裁判所は,請求項2,3に係る特許は無効にされるべきものであり,被告製品1及び被告製品2は本件レンズチップ意匠権を侵害するものではないと判断するが,被告製品1及び被告製品2の態様に照らして,その商品価値は,請求項5に係る発明の構成要件を充足する顕微鏡である点に負うところが少なくないと認められることなどから,請求項2,3に係る特許が無効にされるべきであり,本件レンズチップ意匠権を侵害しないことを考慮してもなお,実施料相当額は,需要者への販売価格の10パーセントと認めるのが相当であると解する。」

13  原判決93頁4行目ないし10行目を次のとおり改める。

「被告製品3の製造,販売は,請求項6に係る発明について本件特許権を侵害するものであり,被告製品3の構成,被侵害権利の内容及び上記事情に照らせば,被告製品3の製造,販売による本件特許権の侵害について,実施料相当額は,需要者への販売価格の10パーセントと認めるのが相当である。なお,当裁判所は,請求項2,3に係る特許は無効にされるべきものであり,被告製品3は本件レンズチップ意匠権を侵害するものではないと判断するが,被告製品3の態様に照らして,その商品価値は,請求項6に係る発明の構成要件を充足する顕微鏡である点に負うところが少なくないと認められることなどから,請求項2,3に係る特許が無効にされるべきであり,本件レンズチップ意匠権を侵害しないことを考慮してもなお,実施料相当額は,需要者への販売価格の10パーセントと認めるのが相当であると解する。」

14  原判決93頁20行目ないし94頁11行目を次のとおり改める。

「ウ 被告製品1及び被告製品2の製造,販売は,本件特許権(請求項5)とともに本件カード意匠権(平成15年3月7日設定登録)を侵害するから,平成17年9月1日以降の製造,販売は少なくとも本件カード意匠権侵害の不法行為を構成し,損害賠償としてその実施料相当額,及び各月の実施料相当額に対する翌月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

被告製品1及び被告製品2の各月の実施料相当額等は,別紙「補償金及び損害金認定額一覧表2」のとおりである。

エ(ア) 被告製品3の製造,販売は,本件特許権(請求項6)を侵害するから,原告は,平成17年9月1日から平成18年5月25日(設定登録日の前日)までの補償金と,同月26日(設定登録日)から平成19年11月20日までの損害賠償を請求することができる。

被告製品3の各月の実施料相当額等は,別紙「補償金及び損害金認定額一覧表2」のとおりである。

(イ)  補償金の金額について検討する。被告らは,出願公開(平成12年1月14日出願公開)がされた特許出願に係る発明であることを知って,特許権の設定登録前に各被告製品の製造,販売を行っていたものであり,原告は,平成17年9月1日ないし平成18年5月25日に製造,販売された各被告製品について補償金を請求している。ただし,被告製品1及び被告製品2については同期間についても意匠権侵害の不法行為が成立し,損害賠償について不法行為時から遅延損害金が発生するから,請求後についてのみ遅延損害金が発生する補償金の金額は,同期間について補償金のみを請求し得る被告製品3について検討する。

本件特許の設定登録日(平成18年5月26日)が属する平成18年5月の被告製品3の譲渡数量は258個,実施料相当額は5万1600円であり,この実施料相当額5万1600円を,5月1日から25日まで(補償金)と26日から31日まで(特許権侵害)に日割りにより分けると,前者は4万1613円,後者は9987円となり,補償金として請求し得る平成17年9月1日から平成18年5月26日までの被告製品3の実施料相当額の合計は,平成17年9月ないし平成18年4月の実施料相当額に上記4万1613円を加えた282万6413円である。

補償金請求権に基づく債務は,法律の規定に基づき発生する債務であり,法律により特に履行期が定められていないものであるから,履行の請求を受けた時から遅滞に陥るものと認められる。ところで,原告が被告らに対して補償金請求をした時期については,甲26(甲26中の被告JAPAN CREATの担当者Tから原告に宛てた平成18年9月30日付けのファックス文書)及び弁論の全趣旨によれば,平成18年9月30日までに請求されたことが認められるにとどまる。そうすると,補償金についての遅延損害金は,請求後の平成18年10月1日から請求することができるというべきである。

オ(ア) 以上をもとに,原告が被告らに対して請求し得る損害賠償等を時系列に従って整理すると,次のとおりとなる。

平成17年9月ないし平成18年4月については,損害賠償として,被告製品1及び被告製品2の実施料相当額と,各月の実施料相当額に対する翌月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を請求することができる。

平成18年5月については,損害賠償として,被告製品1及び被告製品2の実施料相当額(3万9680円)と被告製品3の同月26日ないし31日の実施料相当額(9987円)の合計4万9667円及びこれに対する同年6月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

平成18年6月ないし平成19年11月については,損害賠償として,各被告製品の実施料相当額と,各月の実施料相当額に対する翌月1日から(ただし平成19年11月については同月21日から)支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を請求することができる。

さらに,補償金282万6413円及びこれに対する請求後の平成18年10月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる(そのため,平成18年9月分の各被告製品の実施料相当額の合計34万6160円と補償金282万6413円の合計317万2573円については,平成18年10月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を請求することができる。)。

(イ)  認容額の合計について検討すると,平成17年9月ないし平成18年4月の被告製品1及び被告製品2の実施料相当額の小計70万2400円,同年5月ないし平成19年11月の各被告製品の実施料相当額(ただし,被告製品3の平成18年5月分については同月26日ないし31日の分である。)の小計232万7787円,補償金282万6413円の合計は585万6600円である。

(ウ)  以上をまとめると,原告は,被告らに対し,連帯して585万6600円及び別紙「附帯金目録2」記載の金員の支払を求めることができる。」

15  原判決94頁22行目ないし24行目を次のとおり改める。

「(3)原告は,本件特許,本件意匠の実施品を販売しているところ,被告らが各被告製品の販売を継続していることにより商談が流れてしまい(甲64,71,72),業務上の信用を害されたと主張する。

甲64は,原告が本件に関して生じた事項を時系列に従って記載した表であり,平成17年12月ころの出来事として「いろんな所に売込みするも侵害者の存在により商談が不成立,事業成立困難と判断,提訴の段取りを開始する。」と記載されており,甲71,72によれば,原告が同月,株式会社ガーデンに対し,本件特許の実施品の試料とサンプルを送付したこと,同月14日に株式会社ガーデンから原告に送付されたファックスに「以前お電話いただいた際にお聞きした前に販売していた会社との契約はどうなっているのか?」との質問が記載されていたことが認められる。しかし,信用毀損に関し,それ以上の具体的な事実は明らかではなく,これらの証拠によっては,被告らが本件特許権を侵害したことにより特許権者である原告の業務上の信用が害されたことは認められないし,その他に原告の業務上の信用が害されたことを認めるに足りる証拠はない。」

16  原判決94頁25行目ないし95頁1行目を次のとおり改める。

「8 結論

よって,控訴審において附帯控訴に基づき原判決第1項を「控訴人(附帯被控訴人)らは,被控訴人(附帯控訴人)に対し,連帯して金585万6600円及び別紙「附帯金目録2」記載の金員を支払え。」と変更し,原判決が被告らに対して各被告製品の製造,輸入,販売,販売のための展示の差止め,廃棄を認めた点も相当であるから,本件控訴を棄却し,附帯控訴中,上記変更に反する部分を棄却し,訴訟費用(控訴費用,附帯控訴費用を含む。)については,第1,第2審を通じてこれを4分し,その3を被告らの負担とし,その余を原告の負担とし,原告勝訴部分(本判決主文第1項の金銭請求,第4項の訴訟費用の勝訴部分の他,原判決主文第2項の差止め,第3項の廃棄を含む。)について,仮執行宣言を付することとし,主文のとおり判決する。」

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 中平健 裁判官 上田洋幸)

file_2.jpg別紙

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例