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知財高等裁判所 平成20年(行ケ)10042号 判決 2008年6月25日

原告

株式会社ナチュラルプランツ

訴訟代理人弁理士

工藤一郎

吉良香

被告

特許庁長官 肥塚雅博

指定代理人

小川きみえ

内山進

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が不服2006-28028号事件について平成19年12月19日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

1  本件は,原告が,file_2.jpgPRDとする後記商標(以下「本願商標」という。)につき指定商品を第3類「化粧品」として商標登録出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。

2  争点は,本願商標が後記引用商標1~5と類似しているか(商標法4条1項11号),である。

第3当事者の主張

1  請求の原因

(1)  特許庁における手続の経緯

原告は,平成17年8月30日,下記商標について商標登録出願(商願2005-80852号)をしたところ,特許庁から拒絶査定を受けたので,平成18年12月13日,これに対する不服の審判請求をした。

特許庁は,同請求を不服2006-28028号事件として審理した上,平成19年12月19日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成20年1月8日原告に送達された。

(商標)

(指定商品)

file_3.jpgLove cosmet SIDAAF 199第3類「化粧品」

(2)  審決の内容

審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願商標は,別紙引用商標目録記載の1から5の各商標(以下,番号順に「引用商標1」~「引用商標5」といい,これらを総称して「引用商標」という。)と類似し,かつ,本願商品の指定商品は引用商標の指定商品に包含されるから,商標法(以下「法」という。)4条1項11号に該当する,というものである。

(3)  審決の取消事由

しかしながら,審決には次のとおり誤りがあるから,審決は違法として取り消されるべきである。

ア 商標の類似性についての判断の誤り(取消事由1)

(ア) 審決は,本願商標の自他商品識別機能が「Love」又は「ラブ」の文字部分にあると捉え,当該文字部分のみをもって類否判断を行った。

この点,特許庁の審査基準は,法4条1項11号の定める商標の類否の判断基準について,「商標の類否の判断は,商標が使用される商品又は役務の主たる需要者層(例えば,専門家,老人,子供,婦人等の違い)その他商品又は役務の取引の実情を考慮し,需要者の通常有する注意力を基準として判断しなければならない。」と規定する。すなわち,特許庁の審査官が判断する際は,「主たる需要者」を基準に「取引の実情を考慮」して「通常有する注意力」を基準として判断するものとされている。これを本願商標に当てはめれば,指定商品は「化粧品」であるから,判断基準は女性,中でも主に10代後半から60代までの女性であるということができる。

(イ) そこで,以下に原告が行ったアンケート調査の結果(甲17)を示す。

a アンケートの立証趣旨

アンケートの立証趣旨は,まず第1に,本願商標の類否判断を行うに当たって,自他商品識別標識としての機能を果たしうる部分が「Love」,「ラブ」の部分のみであるか否か,である。本願商標は少なくとも「Love cosmetic」,「ラブコスメティック」においては一連一体の標章であって,その一部分を要部であるとして類否判断すべきでないとする原告の主張の適否を判断するためである。

第2に,本願商標と引用商標とが全体観察した際に類似するか否か,である。商標の類否判断は,対象を全体的に観察した上でなされるべきであって,これを前提とせずにその構成の各部分のみを摘出比較するのみでは足りないからである。

b アンケートの形式

平成19年12月8日及び同9日の2日間にかけて,路上にて被アンケート者を募り,アンケート会場に案内し,被アンケート者1名に対し調査員1名を同席させ,対面形式でアンケートを行った。

被アンケート者は化粧品の需要者である10代後半から60代までの女性とした。被アンケート者の詳細は,18歳から29歳まで,30歳から39歳まで,40歳から49歳まで,50歳から69歳までをそれぞれ50名ずつ,計200名である。

なお,各アンケート結果については,その誤差を算出し,その信頼度を特定した。

c アンケートの方法及び結果

「ラブコスメティック」を記載したシート(シートA)を3秒間見せる。その後このシートを伏せ,その状態でシートAに書かれていた文字を被アンケート者に実際に記載してもらう(アンケート1-1)。続いて,シートに書かれていた文字を6つの選択肢の中から1つ選択してもらう(アンケート1-2)。

「アンケート1-1」の結果は,200名中192名が「ラブコスメティック」と記載した。残りの8名は,「コスメティック」,「ラブコスメグッツ」,「ラブコスメチック」がそれぞれ1名ずつ,「ラブコスメティックス」が5名であった。なお,「ラブ」と記載した者はいなかった。つまり,需要者が,一瞬にしてラブコスメティックを「ラブコスメティック」と認識する確率は96.0%(誤差を考慮した場合,93.2%~98.8%)であった。

「アンケート1-2」の結果は,200名中200名が「ラブコスメティック」を選択し,「ラブ」を選択した者はいなかった。つまり,「ラブコスメティック」にほんの数秒接しただけの需要者が「ラブコスメティック」と「ラブ」を混同する確率は0.0%であった。

「Love cosmetic/for two persons who love」(シートB)についても,上記イ,ウと同様のアンケートを行った(アンケート1-3,1-4)。

「アンケート1-3」の結果は,英語で「Love cosmetic for two persons who love」と記載した者は1名のみであった。片仮名も入り混じり「Love cosmetic for two persons who love」と同一の称呼を生じる文字を記載した者は9名であった。また,「Love cosmetic/ラブコスメティック」までは記載したが,その後の文字が完全に書けなかった者が187名であった。残りは,「ラブコスメ」が2名,「twocosmetic」が1名であった。つまり,「Love cosmetic」まで認識できた者が200名中197名であった。なお,「ラブ」と記載した者はいなかった。つまり,需要者が,一瞬にして「Love cosmetic for two persons who love」を「Love cosmetic for two persons who love」又は「Love cosmetic/ラブコスメティック」と認識する確率は98.5%(誤差を考慮した場合,96.8%~100.0%)であった。

「アンケート1-4」の結果は,200名中197名が「LOVE COSMETIC」を選択した。残りの3名は「LOVE COSME」を選択した。なお,「LOVE」を選択した者はいなかった。つまり,「Love cosmetic for two persons who love」にほんの数秒接しただけの需要者が「Love cosmetic for two persons who love」と「LOVE」を混同する確率は0.0%であった。

d 以上によれば,本願商標の類否判断を,「Love」,「ラブ」の文字部分のみをもって行うのは誤りであり,少なくとも「Love cosmetic」,「ラブコスメティック」の一連で判断すべきである。

このように解した場合,本願商標と引用商標は,外観,称呼,観念において非類似であることは明らかである。

なお,結合商標の類否判断に関し,特許庁の審査基準は,「結合商標の類否は,その結合の強弱の程度を考慮し,例えば,次のように判断するものとする。ただし,著しく異なった外観,称呼又は観念を生ずることが明らかなときは,この限りでない。」として,外観が著しく異なっている場合は結合商標の一部を抽出して類否判断すべきでないことを明示している。そして,本願商標はアルファベットと片仮名,図形とから構成されており,アルファベットは初めの単語の1文字目のみが大文字でそれ以外は小文字である。これに対し,引用商標1は「LOVE」がすべて大文字で記載されているにすぎず,引用商標2は単に片仮名で「ラブ」と記載されているにすぎず,引用商標3は「Love」を筆記体で記載したものを加えただけであり,引用商標4は「Love」が図案化され,一見して「Love」とは認識できないものであり,引用商標5はアルファベット部分と片仮名部分の上下構成が本願商標と逆であるから,いずれも外観上の著しい相違は明白である。

したがって,審査基準の観点から見ても,本願商標と引用商標とは非類似である。

(ウ) また,化粧品業界において,「Love/ラブ」や「cosmetic/コスメティック」(又は「cosme/コスメ」)の文字を含む商標が多数登録され,使用されているという「取引の実情」もある。つまり,「主たる需要者」が本願商標について,「Love」,「ラブ」の文字部分のみをもって商品を識別することはなく,「Love cosmetic」,「ラブコスメティック」の一連で識別すると考える方が自然であるといえる。これは,本願商標中に「for two persons who love」があることにより,なおさらそのように識別するといえる。

(エ) 以上のとおり,本願商標の類否判断を,「Love」,「ラブ」の文字部分のみをもって行った原審決の判断は誤りであり,「Love cosmetic」,「ラブコスメティック」又は「Love cosmetic/for two persons who love」の一連で類否判断を行うべきである。かかる場合,本願商標と引用商標とは類似しない。

(オ)a これに対し被告は,本願商標における「Love」及び「ラブ」の文字部分は,本願商標の指定商品である「化粧品」との関係において商品名,品質等を記述的に表示する語ではないことを理由に,当該部分のみが自他商品識別機能を果たし得ると主張する。

しかし,指定商品を記述的に表示する語ではないことと識別機能を有することは別の概念であって,記述的商標ではなくとも識別機能を有しない商標は存在し得るから,被告の主張は受け入れられない。

b また被告は,「Love」及び「ラブ」の文字部分が取引者・需要者の注意を引くことが少なくなく,簡易・迅速を尊ぶ取引の実情においては当該部分に着目して取引を行うことも少なくないことを理由に,同文字部分のみが自他商品識別機能を果たすと主張する。

しかし,指定商品「化粧品」においては,むしろ「Love」及び「ラブ」の文字列は多用されている実情があり,そのため,当該部分にのみ着目していては正常な取引などは成立しないというのが「取引の実情」であるし,化粧品の需要者においても,当該文字列のみから特定の化粧品を識別することはないのである。

したがって,本願商標から抽出した「Love」及び「ラブ」の文字部分が識別機能を発揮し得るとの被告の主張は誤りである。

c さらに被告は,「cosmetic/コスメティック」の文字部分は,本願商標の指定商品である「化粧品」を表すものとして広く使用されていることから,自他商品識別標識としての機能を果たし得ないと主張する。

しかし,需要者は商品を購入しようとする際,「化粧品」という言葉を使って商品を特定することはあり得ない。需要者は,化粧品であれば何でもよいということで店に赴くのではなく,ローションやファンデーションや口紅がほしいから店に赴くのである。また香水がほしい需要者が化粧品の文字列を店頭で探すこともない。むしろ,「ラブローション」,「ラブファンデーション」,「ラブリップスティック」,「ラブフレグランス」であれば,需要者が注目する点は「ラブ」であろう。つまり,「コスメティック」という言葉は需要者・取引者が流通過程において覚知する言葉ではなく,ローション,ファンデーションなどを総称する,いわば商品の中分類的機能を有する言葉として用いられるにすぎないのである。

また,世の中に「化粧品」という言葉のみで特定される商品は存在しないことからすれば,特定の商品,例えばローションに「ザ・化粧品」などと銘打って販売すれば需要者の注意を惹起することが予想できるのであって,「cosmetic/コスメティック」の文字部分に自他商品識別力がないとの主張も誤りというべきである。

(カ) なお審決は,「請求人は,過去の登録例を挙げて本願商標は登録されるべきである旨主張しているが,請求人が挙げる登録例は,対比する商標の構成態様等において本願とは異なるものである。」(3頁下8行~下6行)とする。

しかし,原告が拒絶査定不服審判において提出した登録例において,「コスメティック」,「cosmetic」を含む商標は,同書同一同大で一連一体不可分と認定されており(審判請求書〔甲8〕参照),それが,「コスメティック」,「cosmetic」以外の部分のみで成り立つ登録例に対して非類似の理由となっている。つまり,先願先登録の一部を含む後願であっても,全体で一体であればこれを登録するのが審査実務なのである。

また,審決は,「商標の類否の判断は,当該出願に係る商標と他人の登録商標との対比において,個別・具体的に判断すべきものであり,過去の登録例等の判断に拘束されることなく検討されるべきものである」とする。これは,ある面では正しいが,常に正しいとはいえない。過去の登録例が共通して採用している判断基準を抽出すれば,その基準は普遍性を持つものであるといえる。審査は,客観的に行われるべきであり,審査官の恣意により行われるべきではないからである。出願人が過去の登録例を挙げているのは,正に過去の例から抽出した判断基準を,本件にも適用すべきであると考えるからである。したがって,過去の登録例等を考慮する必要がないということはなく,十分尊重して審査されるべきである。

イ 再審による引用商標の消滅(取消事由2)

(ア) 原告は,引用商標1~5について,いずれも平成19年12月4日付けで不使用取消審判の再審を請求した(再審2007-950006~10号)。当該再審により引用商標1~5は不使用取消審判の請求登録時の3年前である平成14年9月14日又は請求登録時である平成17年9月14日に遡って消滅する。したがって,本件出願に係る査定審決時には引用商標1~5は消滅しているため,当該拒絶理由に該当しない。

(イ) 上記不使用取消審判及びその再審の概要は,以下のとおりである。

a 不使用取消審判及び再審の経緯

平成17年8月30日

不使用取消審判請求

9月14日

不使用取消審判請求登録

平成18年4月11日

請求不成立審決

平成19年11月5日

再審事由認識(大阪地裁平成16年(ワ)第7663号商標権侵害差止等請求訴訟事件 判決言渡)

12月4日

再審請求

b 再審理由

上記審決では,平成14年12月25日から同27日に,黙示的に通常使用権を許諾されていたと認めることができる者が,社会通念上同一と認められる商標を引用商標1~5の指定商品「化粧品」について使用していたと判断され,請求不成立審決となっている。

しかし,原告の調査では,不使用取消審判の被請求人(株式会社クラブコスメチックス)は上記平成16年(ワ)第7663号商標権侵害差止等請求訴訟事件(その他無効審判及び審決取消訴訟においても同様)において上記期間は当該商標等を使用していないと主張し,裁判所及び特許庁で対象商標を使用していないと判断されていることが判明した。よって,黙示的通常使用権者も社会通念上同一と認められる商標を使用していないと思われる。

したがって,不使用取消審判の確定審決は,法57条2項で準用する民事訴訟法338条1項の再審事由に該当し,当該商標登録は,法50条1項の規定により取り消されるべきである。

c 以上によれば,引用商標1~5は原告が請求している不使用取消審判の再審により遡及して消滅するため,本願拒絶理由も解消する。したがって,本願商標は登録されるべきである。

2  請求原因に対する認否

請求原因(1),(2)の各事実は認めるが,(3)は争う。

3  被告の反論

審決の認定,判断は正当であって,審決に原告主張の違法はない。

(1)  取消事由1に対し

ア 本願商標と引用商標との類否につき

(ア) いわゆる「結合商標」の類否の判断に当たっては,「一般に,簡易,迅速を尊ぶ取引の実際においては,商標は,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほどにまで不可分的に結合していない限り,常に必ずその構成部分全体の名称によって称呼,観念されるというわけではなく,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,その結果,一個の商標から二個以上の称呼,観念の生ずることがあるのは,経験則の教えるところである(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照)。そうである以上,商標については,各構成要素に上記のような不可分的結合が認められない限り,全体観察に対する修正として,より正確には,全体観察を実態に即して行うための必須の手法として,分離観察が必要となるものというべきである。」(東京高裁平成12年10月5日判決・平成12年(行ケ)第155号)と解されている。

(イ) これを本願商標についてみると,本願商標は,アンダーラインを挟んで上段に大きく「Love cosmetic」の欧文字及び下段に小さく「for two persons who love」の欧文字とを2段に表し,その下部に「Love cosmetic」の表音である「ラブコスメティック」の片仮名文字を横書きし,さらに上記「Love cosmetic」の「m」と「e」の文字間の上部に左方向に横に向いているハートを基調とする図形を配してなるところ,「Love cosmetic」と「for two persons who love」の文字部分は,視覚的に分離されて認識されるだけでなく,特定の観念を生ずるものでもないから,相互に関連性を有するとはいえず,全体として不可分一体の商標とはいえないものである。

また,「Love cosmetic」の文字部分が,「Love」と「cosmetic」の文字の間に空間があることから,視覚的に「Love」と「cosmetic」の2語からなると認識されるものである。

そして,「Love cosmetic」及び「ラブコスメティック」の文字中,「Love」「ラブ」の文字部分は,「愛,愛情」等を意味する平易な英語であり,かつ,親しまれた外来語(コンサイスカタカナ語辞典〔第3版,2005年〔平成17年〕10月20日株式会社三省堂・第2刷発行〕1160頁。乙1)であって,本願商標の指定商品「化粧品」との関係においては,商品名や品質等を記述的に表示する語でもないから,自他商品識別標識としての機能を果たし得るものである。

(ウ) 一方,「cosmetic/コスメティック」の文字部分は,「化粧品」を意味する平易な英語であり,かつ,親しまれた外来語(上記カタカナ語辞典 乙2)である。そして,この語が本願商標の指定商品に係る化粧品業界において「化粧品」を意味する語として広く使用されていることは,以下のウェブサイト情報からも窺い知ることができる。

a 「化粧品(コスメ)の比較サイト|化粧品(コスメ)なら比較!ジャパン」の見出しのウェブサイトにおいて,提供している情報のジャンルに「コスメティック」の表示があり,そこには「総合比較(化粧品)」として,各種ブランドの化粧品の比較表が表示されている(http://www.hikakujapan.jp/cosme/ 乙3)。

b 「[STMX]コスメティックの商品一覧」の見出しのウェブサイトにおいて,検索カテゴリーに「コスメティック」の表示があり,「コスメティックの商品一覧」欄に,各種化粧品がその画像とともに掲載されている(http://www.store-mix.com/ko-bai/category.php?or_id=5684&category=5&depth=1 乙4)。

c 「コスメティック|2008プランタン銀座のホワイトデー|プランタン銀座|PrintempsGinzaOnline」の見出しのウェブサイトにおいて,商品カテゴリーに「コスメティック」の表示があり,「商品紹介/コスメティック」の欄に,各種化粧品がその画像とともに掲載されている(http://www.printemps-ginza.co.jp/ special/080301_whiteday/item_cosmetics.php 乙5)。

d 「コスメティック・ルビー」の見出しのウェブサイトにおいて,「MENULIST」に「コスメティック」の表示があり,「~コスメティック~」の欄に,各種化粧品がその画像とともに掲載されている(http://www.cosme-ruby.com/product_01.html 乙6)。

e 「コスメティック コスメティック|グローバルダイエット」の見出しのウェブサイトにおいて,商品カテゴリーに「コスメティック」の表示があり,「コスメティック」の欄に,各種化粧品がその画像とともに掲載され,また,「コスメティックフェア」の広告が掲載されている(http://www.global-diet.co.jp/shop/d001006/ 乙7)。

f 「【楽天市場】コスメティック:ネイルチップ工房」の見出しのウェブサイトにおいて,「ビューティスタジオ/Health&BeautyStudio」「コスメティック」の欄に,各種化粧品がその画像とともに掲載されている(http://www.rakuten.co.jp/nailkoubou/591911/乙8)。

g 「コスメティック|チャコット株式会社」の見出しのウェブサイトにおいて,ジャンル別情報に「コスメティック」の表示があり,「コスメティック/Cosmetics」の欄に化粧品の画像を配し,その下方部には「コスメティック商品取扱店」の紹介がされている(http://www.chacott-jp.com/j/cosme/index.html 乙9)。

h 「近鉄百貨店インターネットショップ」の見出しのウェブサイトにおいて,「近鉄春のコスメティックフェア2008」の欄に,「ページ掲載のコスメティック商品をお買いあげの方…プレゼント!!…」の記載,及び各種化粧品がその画像とともに掲載されている(http://shop.d-kintetsu.co.jp/NASApp/mnas/MxMProduct?Action=search_next_category&Class=-1&DISPCATEGORY=00000107cosm08sp&SHOP_ID=1&LoginShopID=1&DispType= 乙10)。

i 「【楽天市場】コスメティック:Pretty-Style」の見出しのウェブサイトにおいて,「商品カテゴリー」に「コスメティック」の表示があり,「コスメティック」の欄に,各種化粧品がその画像とともに掲載されている(http://item.rakuten.co.jp/pretty-style/c/0000000115/乙11)。

j 「コスメティック,アイデア商品雑貨通販販売ショップ・雑貨王国」の見出しのウェブサイトにおいて,「CATEGORY」として「ビューティー雑貨」に「コスメティック」の表示があり,「コスメティック」の欄に,各種化粧品がその画像とともに掲載されている(http://zakka-ohkoku.com/?ct=9乙12)。

k 「株式会社マギー」のウェブサイトにおいて,「マグー健康ショップ」「コスメティック」の欄に,「クレンジング」「化粧水」等,化粧品の種類が記載され,さらに,「商品名」欄に「コスメティック/Cosmetics」の表示と,その種類毎に各種化粧品がその画像とともに掲載されている(http://www.magi-shop.com/kategori/1-kosume.htm乙13)。

(エ) 以上によれば,本願商標は,その構成中の「Love cosmetic」及び「ラブコスメティック」の文字部分にあっては,「cosmetic/コスメティック」の文字部分が,指定商品との関係では,「化粧品」を表すものとして広く使用されていることから,自他商品識別標識としての機能を果たし得ないものといわざるを得ず,前半部の「Love」の文字部分及び「ラブ」の文字部分が,特に取引者,需要者の注意を惹くことが少なくないから,簡易・迅速を尊ぶ取引の実際においては,当該文字部分に着目し,これから生ずる「ラブ」の称呼及び「愛,愛情」の観念をもって取引に資することも少なくないというべきである。

したがって,本願商標は,その構成中,「LOVE」,「ラブ」の文字部分が独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るというべきであり,「Love cosmetic」,「ラブコスメティック」又は「Love cosmetic/for two persons who love」の一連で類否判断を行うべきである旨の原告の主張は,失当である。

イ 原告が行ったアンケート調査につき

原告は,「Love cosmetic」,「ラブコスメティック」又は「Love cosmetic/for two persons who love」の一連で類否判断を行うべきである旨の主張の根拠として,本願商標の指定商品の主たる需要者(10代後半から60代までの女性)を対象に行ったアンケートの結果を提出する。

しかし,本願商標の指定商品「化粧品」の主たる需要者には男性も含まれ,10代後半から60代までの女性の需要者に限定されるものではない。その点は措くとしても,原告の行ったアンケート調査の方法(質問)は,本願商標と引用商標の類似・混同の有無を示すものとして適切なものではないから,本件アンケート調査の結果は,原告の主張を基礎付けるものではない。

すなわち,本件アンケート調査は,被アンケート者が,「ラブコスメティック」のロゴが記載された用紙と「Love cosmetic/for two persons who love」のロゴが記載された用紙をそれぞれ3秒間見た後に,その用紙に何が書いてあったかを尋ね,口頭で回答してもらう(アンケート1-1及び1-3)及び6つの選択肢の中から1つ選択してもらう(同1-2及び1-4)という方法で行われたものである。

そして,アンケート1-1を例に取ると,平均的な日本人といえる被アンケート者が,「ラブコスメティック」の文字を3秒見た場合は,「ラブコスメティック」の全体を記憶することは十分可能であり,「ラブ」の部分しか記憶しないということは,通常,あり得ない。そうすると,本件アンケートは単に記憶力を問うのみの調査であるから,その回答において「ラブ」,「LOVE」の部分のみとする回答が皆無であり,「ラブコスメティック」,「LOVE COSMETIC」と回答する者が圧倒的に多いとしても,その回答結果が,提示されたものが常に一連一体であるとか,「Love」,「ラブ」が自他商品の識別機能を有するか否かということについての根拠となるものではないし,本願商標中の「ラブ」「Love」の文字部分が自他商品の識別機能を有することを否定するものでもない。

したがって,本件アンケート調査の結果を根拠として本願商標と引用商標が類似しないとする原告の主張は,失当である。

ウ 過去の登録例につき

原告は,その主張の根拠として,不服の審判請求時に挙げた登録例(甲8)の存在を指摘する。

しかし,原告が挙げる登録例は,「コスメティック」,「cosmetic」を含む商標が外観上「コスメティック」,「cosmetic」の文字部分を分離抽出し難い構成・態様からなるものであったり,「コスメティック」,「cosmetic」以外の部分が同一の綴りでないために,そこから生ずる称呼を異にするものである等,個々の事情があって登録に至ったものと考えられるものであり,本願商標と同列に論じることはできない。

したがって,原告の上記主張は失当である。

(2)  取消事由2に対し

原告は,引用商標1~5について不使用取消審判の再審を請求していることにより,引用商標1~5は不使用取消審判の請求登録時の3年前である平成14年9月14日又は請求登録時である平成17年9月14日に遡って消滅するから,本願商標は登録されるべきであると主張する。

しかし,法は,4条3項において,「第1項第8号,第10号,第15号,第17号又は第19号に該当する商標であつても,商標登録出願の時に当該各号に該当しないものについては,これらの規定は,適用しない。」と例外を規定しつつ,同法4条1項11号を適用する場合について特段の規定を設けていないことからすると,法4条1項11号の適用時期は,査定時又は審決時と解すべきである。

これを本件についてみると,審決は,平成19年12月19日に引用商標を引用して,本願商標が法4条1項11号に該当すると認定・判断したものである。

これに対し,引用商標1は,昭和46年8月5日に登録出願され,平成2年3月27日に設定登録され,その後,平成12年5月23日に商標権の存続期間の更新登録がされ,引用商標2は,昭和46年8月5日に登録出願,平成2年3月27日に設定登録され,その後,平成12年5月23日に商標権の存続期間の更新登録がされ,引用商標3は,昭和48年5月10日に登録出願,平成4年7月31日に設定登録され,その後,平成14年5月28日に商標権の存続期間の更新登録がされ,引用商標4は,平成9年12月22日に登録出願,平成11年5月28日に設定登録され,引用商標5は,平成13年1月9日に登録出願,平成13年11月16日に設定登録され,いずれも,現に有効に存続しているものである(乙14~18)。

そして,原告の請求した引用商標1に対する不使用取消審判は,平成18年4月11日に請求不成立の審決がなされ,同年5月22日に審決が確定し,引用商標2は,平成18年4月3日に請求不成立の審決がなされ,同年5月15日に審決が確定し,引用商標3は,平成18年3月31日に請求不成立の審決がなされ,同年5月12日に審決が確定し,引用商標4は,平成18年3月31日に請求不成立の審決がなされ,同年5月12日に審決が確定し,引用商標5は,平成18年4月3日に請求不成立の審決がなされ,同年5月15日に審決が確定している(乙14~18)。

したがって,引用商標は,本願商標が法4条1項11号に該当するか否かの判断時である審決時,すなわち平成19年12月19日において,いずれも存続していたものであり,審決は,その審決時に商標登録原簿に基づいて引用商標の存在を確認した上で行ったものであるから,何ら違法な点はない。

なお,仮に,その後の原告の不使用取消審判の再審請求により引用商標の登録が不使用取消審判の予告登録日において取消しとなる可能性があるとしても,審決時において,「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて,その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」として引用商標が有効に存在している以上,本願商標は,法4条1項11号に該当すると解すべきである。

したがって,原告の上記主張は失当である。

第4当裁判所の判断

1  請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。

2  取消事由1(商標の類似性についての判断の誤り)について

(1)  証拠(乙1~13)によれば,以下の事実が認められる。

ア コンサイスカタカナ語辞典〔第3版〕(株式会社三省堂,2005年〔平成17年〕10月20日・第2刷発行)1160頁には,「ラブ」に関し,次の記載がある。

「[love]①愛,愛情.恋,恋愛,<明>②(男性からみて)恋人,愛人.<明>…」(乙1)

イ 前掲コンサイスカタカナ語辞典350頁には,「コスメティック」(「コスメチック」)に関し,[「cosmetic<ギkosmos(装飾)]①整髪料の1.…②広く,化粧品一般.<明>」との記載がある(乙2)。

ウ ウェブサイト上「コスメティック」ないし「コスメ」の表示があるものとして,次のようなものがある。

(ア) 「化粧品(コスメ)の比較サイト|化粧品(コスメ)なら比較!ジャパン」の見出しのウェブサイトにおいて,提供している情報のジャンルに「コスメティック」の表示があり,そこには「総合比較(化粧品)」として,各種ブランドの化粧品の比較表が表示されている(乙3)。

(イ) 「[STMX]コスメティックの商品一覧」の見出しのウェブサイトにおいて,検索カテゴリーに「コスメティック」の表示があり,「コスメティックの商品一覧」欄に,各種化粧品がその画像とともに掲載されている(乙4)。

(ウ) 「コスメティック|2008プランタン銀座のホワイトデー|プランタン銀座|PrintempsGinzaOnline」の見出しのウェブサイトにおいて,商品カテゴリーに「コスメティック」の表示があり,「商品紹介/コスメティック」の欄に,各種化粧品がその画像とともに掲載されている(乙5)。

(エ) 「コスメティック・ルビー」の見出しのウェブサイトにおいて,「MENULIST」に「コスメティック」の表示があり,「~コスメティック~」の欄に,各種化粧品がその画像とともに掲載されている(乙6)。

(オ) 「コスメティック コスメティック|グローバルダイエット」の見出しのウェブサイトにおいて,商品カテゴリーに「コスメティック」の表示があり,「コスメティック」の欄に,各種化粧品がその画像とともに掲載され,また,「コスメティックフェア」の広告が掲載されている(乙7)。

(カ) 「【楽天市場】コスメティック:ネイルチップ工房」の見出しのウェブサイトにおいて,「ビューティスタジオ/Health&BeautyStudio」「コスメティック」の欄に,各種化粧品がその画像とともに掲載されている(乙8)。

(キ) 「コスメティック|チャコット株式会社」の見出しのウェブサイトにおいて,ジャンル別情報に「コスメティック」の表示があり,「コスメティック/Cosmetics」の欄に化粧品の画像を配し,その下方部には「コスメティック商品取扱店」の紹介がされている(乙9)。

(ク) 「近鉄百貨店インターネットショップ」の見出しのウェブサイトにおいて,「近鉄春のコスメティックフェア2008」の欄に,「ページ掲載のコスメティック商品をお買いあげの方…プレゼント!!…」の記載,及び各種化粧品がその画像とともに掲載されている(乙10)。

(ケ) 「【楽天市場】コスメティック:Pretty-Style」の見出しのウェブサイトにおいて,「商品カテゴリー」に「コスメティック」の表示があり,「コスメティック」の欄に,各種化粧品がその画像とともに掲載されている(乙11)。

(コ) 「コスメティック,アイデア商品雑貨通販販売ショップ・雑貨王国」の見出しのウェブサイトにおいて,「CATEGORY」として「ビューティー雑貨」に「コスメティック」の表示があり,「コスメティック」の欄に,各種化粧品がその画像とともに掲載されている(乙12)。

(オ) 「株式会社マギー」のウェブサイトにおいて,「マグー健康ショップ」「コスメティック」の欄に,「クレンジング」「化粧水」等,化粧品の種類が記載され,さらに,「商品名」欄に「コスメティック/Cosmetics」の表示と,その種類毎に各種化粧品がその画像とともに掲載されている(乙13)。

(2)  一方,本願商標は,前記のとおり,次のようなものである。(争いがない)

(商標)

(指定商品)

file_4.jpgLove cosmet SIDAAF 199第3類「化粧品」

(登録出願日)

平成17年8月30日

すなわち,アンダーラインを挟んで上段に大きく「Love cosmetic」の欧文字を,下段に上段より顕著に小さい「for two persons who love」の欧文字を2段に表し,その下部に上段の欧文字における小文字部分とほぼ同大で間隔を狭めた「ラブコスメティック」の片仮名文字を横書きし,さらに上段の欧文字における「m」と「e」の文字間上部に左方向に横に向いているハートを基調とする図形を配した構成から成るものである。

また,本願商標の称呼は,欧文字部分を一連に読んだ場合,「ラブ コスメティック フォー ツー パーソンズ フー ラブ」との称呼が生じるが,両欧文字部分はアンダーライン及び文字の大小により外観上分離され,かつ,上段の欧文字部分と最下部の片仮名文字部分とは後者が前者の日本語表記として対応関係をなしていることからすれば,顕著に小さい「for two persons who love」部分を除いた「ラブ コスメティック」の称呼が生じるものということができる。

さらに,本願商標の観念についてみると,上記(1)のとおり,「Love」の語が「愛,愛情」等を意味する英語であり,「ラブ」という語が同旨の外来語として我が国において一般に定着していることからすると,同部分からは「愛,愛情」との観念が生じる。「cosmetic」の語もまた「化粧品」を意味する英語であり,「コスメ」ないし「コスメティック」の語が同旨の外来語として少なくとも本願商標の指定商品である化粧品の需要者において広く定着していると認められることからすると,同部分からは「化粧品」との観念が生じる。

そして,上記のように「cosmetic/コスメティック」の語は本願商標の指定商品である「化粧品」それ自体を指称する語であり,同旨の観念を生ぜしめる語であるから,当該指定商品との関係で同部分に出所表示の識別機能を見出すことはできず,需要者には,「Love cosmetic/ラブ コスメティック」は識別機能を有する「Love/ラブ」を出所表示主体とする化粧品の関連商品と認識されるものと認められる。なお,本願商標の図形部分は可愛らしさを表現するものとして一般的な図形であるハートをモチーフとするものであり,特段の出所識別機能を有するものとは認められない。

(3)  他方,引用商標は別紙の1ないし5とおりである。すなわち,引用商標1は「LOVE」の欧文字を横書きして成るものであり,引用商標2は「ラブ」の片仮名文字を横書きして成るものであり,引用商標3は筆記体による「Love」の欧文字と「ラブ」の片仮名文字とを上下2段に配して成るものであり,引用商標4は「L」の文字の横線部分を他の文字の下に延長するよう図形化された「Love」の欧文字を横書きして成るものであり,引用商標5は「ラブ」の片仮名文字と「LOVE」の欧文字とを上下2段に配して成るものである。

これら引用商標は,いずれも「ラブ」を称呼とし,また,引用商標3及び4につき一部図形的な部分があるものの,その変形は大きなものではなく,少なくともこれにより独自の観念を生ぜしめるものではないと認められる。そうすると,引用商標からはいずれも「愛,愛情」という観念が生じるものと認められる。

(4)  ところで,商標の類否は,対比される両商標又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的取引状況に基づいて判断すべきである(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁)。そして,一般に,簡易,迅速を尊ぶ取引の実際においては,商品の購買者は二個の商標を現実に見比べて商品の出所を識別するのではなくして,その商標を構成する文字,図形の各部分又はその総括した全体を通じて最も印象の強いものによって商品の出所を識別するのが普通であり,かように商標は,その作成者の意図如何にかかわらず,常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されず,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,一個の商標から二つ以上の称呼,観念の生ずることがあるというべきところ,一個の商標から二つ以上の称呼,観念が生ずるものと認めることが許されるかどうかは,当該商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているか否かによって決すべきである(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁)。

これを本件についてみると,本願は前記のとおり,大きく「Love cosmetic」・「for two persons who love」・「ラブコスメティック」と三段に分かれ,さらにその上に「file_5.jpg」の図が付されており,しかも上記「Love cosmetic」は「Love」と「cosmetic」との間に幅一字分くらいの空白があるのであるから,全体が「分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合している」と認めることはできず,本願商標のそれぞれの構成部分から複数の称呼,観念が生ずるものと認められる。そして,本願商標と引用商標は,上記のとおり称呼及び外観において「ラブ」ないし「LOVE」の語が含まれている点で共通し,観念において「愛,愛情」を生ぜしめる点でも共通する。その上,「cosmetic/コスメティック」の語は本願商標の指定商品である「化粧品」それ自体を指称する語であり,同旨の観念を生ぜしめる語であるから,当該指定商品との関係で同部分に出所表示の識別機能を見出すことはできず,需要者には,「Love cosmetic/ラブ コスメティック」は識別機能を有する「Love/ラブ」を出所表示主体とする化粧品の関連商品と認識されるものと認められる。

以上を総合すれば,本願商標と引用商標はいずれも化粧品販売という取引において使用される商標であり,その外観において類似するとまでいえないとしても,称呼及び観念において類似すると認めることができるから,両商標は全体としては類似するといわなければならない。

(5)ア これに対し原告は,原告が行ったアンケート調査の結果(甲17)によれば,本願商標の類否判断を「LOVE」,「ラブ」の文字部分のみをもって行うのは誤りであり,少なくとも「Love cosmetic」,「ラブコスメティック」の一連で判断すべきであると主張するので,この点について検討する。

(ア) 証拠(甲17)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

a アンケート調査は,平成19年12月8日及び9日の2日間にかけて,東京都内の路上において,日頃化粧品を利用している10代後半(18歳)から60代までの被アンケート者200名(10~20代,30代,40代,50~60代を各50名)を募り,アンケート会場に案内して対面形式で行ったものである。

b アンケートの形式は,次のとおりである。

① 被アンケート者に「ラブコスメティック」と記載されたシートを3秒間見せた後に,何が書いてあったかを尋ね,口頭で回答してもらう(以下「アンケート①」という。)

② 被アンケート者に「ラブコスメティック」と記載されたシートを3秒間見せた後に,何が書いてあったかを選択肢形式(「ラブ」,「ラブリー」,「ラブコスメ」,「ラブコスメティック」,「ラブリーコスメ」,「この中にはない」の各選択肢)で提示し,回答してもらう(以下「アンケート②」という。)

③ 被アンケート者に本願商標から片仮名表記の部分を除いたものが記載されたシートを3秒間見せた後に,アンケート①と同様の問答を行う(以下「アンケート③」という。)

④ 被アンケート者に本願商標の記載されたシートを3秒間見せた後に,何が書いてあったかを選択肢形式(「LOVE」,「LOVELY」,「LOVE COSME」,「LOVE COSMETIC」,「LOVELY COSME」,「この中にはない」の各選択肢)で提示し,回答してもらう(以下「アンケート④」という。)

c アンケートの結果は,次のとおりである。

アンケート①では,「ラブコスメティック」が192名,「ラブコスメティックス」が5名,「コスメティック」,「ラブコスメグッツ」,「ラブコスメチック」が各1名であった。

アンケート②では,200名全員が「ラブコスメティック」を選択した。

アンケート③では,「Love cosmetic」又は「ラブコスメティック」までは記載したが,その後の文字が完全に書けなかった者が187名,片仮名も入り混じり「Love cosmetic for two persons who love」と同一の称呼を生じる文字を記載した者が9名,「ラブコスメ」が2名,英語で「Love cosmetic for two persons who love」と記載した者が1名,「two cosmetic」が1名であった。

アンケート④では,197名が「LOVE COSMETIC」を選択し,3名が「LOVE COSME」を選択した。

(イ) 以上によれば,各アンケートにおいて,「ラブコスメティック」ないし本願商標から片仮名表記の部分を除いたものが記載されたシートを見て,「ラブ」・「LOVE」又は「コスメティック」・「COSMETIC」と分断して回答した者はおらず,むしろ,ほとんど(アンケート②ではすべて)の者が「ラブコスメティック」ないし「Love cosmetic」と,これらを一連のものとして回答したことが認められる。

しかし,「ラブコスメティック」ないし「LOVE COSMETIC」が一連のものとして把握される場合があるとしても,前記のとおり,「コスメティック」の語は本願商標の指定商品である「化粧品」それ自体を指称する語であり,当該指定商品との関係で同部分に出所表示の識別機能を見出すことはできないことからすれば,需要者において,本願商標が「Love/ラブ」を出所表示主体とする化粧品の関連商品として認識されることは否定できず,したがって,上記のようなアンケート結果によっても本願商標と引用商標は類似するという前記判断が左右されるものではない。

(ウ) 次に原告は,上記アンケート結果により,本願商標と「ラブ」ないし「LOVE」とを混同する確率は0%である旨主張する。

確かに,上記アンケートにおいては本願商標の構成の一部からなるシートを見て,これと「ラブ/LOVE」とを混同した者はいなかったことが認められる。

しかし,上記アンケートは,「ラブコスメティック」ないし本願商標から片仮名表記の部分を除いたものの記載されたシートを3秒間注視し,それを記憶するよう求められ,その記憶に基づいて回答するというものである。そして,前者のシートについていえば,そのすべてを記憶することは極めて容易であるし,後者のシートについても,少なくとも大きな文字で記載され,かつ,前記のとおり外来語として定着している「Love cosmetic」の文字を記憶することもまた極めて容易であることからすれば,これらを見た者が「ラブ/LOVE」と回答しなかったことは,いわば当然の帰結といわざるを得ない。

そして,上記(イ)のとおり,本願商標の指定商品との関係では「コスメティック/COSMETIC」に出所表示の識別機能を見出すことができず,需要者において,本願商標が「Love/ラブ」を出所表示主体とする化粧品の関連商品として認識されることは否定できないのであるから,上記アンケートの結果によっても,本願商標と「ラブ/LOVE」から成る引用商標とが混同される可能性は否定できるものではない。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

イ  また原告は,需要者が商品を購入しようとする際,「化粧品」という言葉を使って商品を特定することはあり得ず,ローションやファンデーション等,個々の商品の種類をもって特定するものであるから,「cosmetic/コスメティック」の文字部分に自他商品識別力がないということはできない旨主張する。

しかし,「cosmetic/コスメティック」が「化粧品」を意味するものとして広く定着していることは前記のとおりであり,しかも,「化粧品」の語がローションやファンデーション等,個々の商品を包括する上位概念として広く定着しており,個々の商品を指して「化粧品」という場合のあることもまた疑いのないところである。そうすると,指定商品である「化粧品」に包含される個々の商品についてみた場合であってもなお,「cosmetic/コスメティック」に識別力を見出すことはできないというべきであるから,原告の主張は採用することができない。

なお原告は,指定商品「化粧品」においては,むしろ「Love/ラブ」の文字列は多用されている実情があり,そのため,当該部分にのみ着目していては正常な取引などは成立しないというのが「取引の実情」であるし,化粧品の需要者においても,当該文字列のみから特定の化粧品を識別することはないから,「Love/ラブ」の文字部分が識別機能を発揮するとはいえない旨主張するが,仮に化粧品の分野において「LOVE/ラブ」の文字列が多用されているとしても,化粧品そのものを指す「cosmetic/コスメティック」との比較において「Love/ラブ」の方がより識別力を有することは明らかであるから,原告の主張は採用することができない。

ウ  なお原告は,「LOVE/ラブ」や「COSMETIC/コスメティック」等を含む商標が多数登録され,使用されている「取引の実情」があるとして,これを踏まえれば本願商標も一連で識別されると考えるべきであるなどと主張するが,原告の挙げる登録例が存在することを考慮に入れたとしても,前記判断が左右されるものではないから,原告の主張は採用することができない。

(6)  以上によれば,本件商標と引用商標は類似するから,本願商標は,法4条1項11号により商標登録を受けることができない。

3  取消事由2(再審による引用商標の消滅)について

(1)  再審請求に係る事実関係

証拠(甲18~23,乙14~18〔枝番があるものはこれを含む〕)によれば,以下の事実が認められる。

ア 原告は,平成17年8月30日,引用商標の商標権者である株式会社クラブコスメチックスを被請求人として,各引用商標の不使用を理由とする法50条1項に基づく商標登録の取消審判を請求した(取消2005-31061号,同31062号,同31063号,同31067号,同31068号)が,各引用商標はいずれも同審判の予告登録前3年以内に使用されていたとして,特許庁により請求不成立の審決(平成18年3月31日ないし4月11日付け,甲18-3,19-3,20-3,21-3,22-3)がされた。

イ 大阪地裁は,平成16年(ワ)第7663号商標権侵害差止等請求事件(原告株式会社クラブコスメチックス,被告株式会社フィッツコーポレーション)に係る平成19年11月5日言渡しの判決(甲18-4)において,前記引用商標1~3に関し,「したがって,原告が本件原告商標等の『LOVE』商標を使用していたのは,昭和50年6月12日のスミス・クライン・アンド・フレンチオーバーシーズ・カンパニー及びラブジャパン社との和解成立までであり,通常実施権者の使用も平成元年9月28日までであるから,被告による被告標章の使用開始時である平成15年8月…まで長期間にわたって本件原告商標等の『LOVE』商標は使用されていなかったものである。」(20頁2行~8行)などと認定した。

ウ 原告は,上記大阪地裁判決の認定を援用して,平成19年12月4日,特許庁に対し上記各審決に対する再審請求(再審2007-950006~10号)を行った。

(2)  原告は,上記のような事実関係を前提に,引用商標は上記不使用取消審判の再審請求により不使用取消審判の請求登録時の3年前である平成14年9月14日又は請求登録時である平成17年9月14日に遡って消滅するから,これを引用商標とする審決の判断は誤りである旨主張する。

しかし,登録商標は,これにつき不使用取消審判の再審請求があったとしても,現に商標登録の取消しを認める審決がなされかつ同審決が確定するまでは依然として有効に存続するものであるところ,弁論の全趣旨によれば,本件口頭弁論の終結時である平成20年5月28日当時,本件における引用商標につき商標登録の取消しを認める審決がなされこれが確定したと認めることはできない。

したがって,原告の上記主張はそれ自体失当といわざるを得ない。

4  結語

以上のとおり,原告主張に係る取消事由はいずれも理由がない。

よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 森義之 裁判官 澁谷勝海)

別紙引用商標

1 登録第2219231号(引用商標1)

(商標)

(指定商品)

file_6.jpgLOVE第4類

「歯みがき,化粧品,香料類」

出願日

昭和46年8月5日

登録日

平成2年3月27日

権利者

株式会社クラブコスメチックス

2 登録第2219232号(引用商標2)

(商標)

(指定商品)

file_7.jpg第4類

「歯みがき,化粧品,香料類」

出願日

昭和46年8月5日

登録日

平成2年3月27日

権利者

株式会社クラブコスメチックス

3 登録第2431617号(引用商標3)

(商標)

(指定商品。ただし,平成16年2月24日の書換後)

file_8.jpgIN第3類

「歯みがき,化粧品,香料類,薫料」

第30類

「食品香料(精油のものを除く。)」

出願日

昭和48年5月10日

登録日

平成4年7月31日

権利者

株式会社クラブコスメチックス

4 登録第4277280号(引用商標4)

(商標)

(指定商品)

file_9.jpg第3類

「歯みがき,化粧品,香料類」

出願日

平成9年12月22日

登録日

平成11年5月28日

権利者

株式会社クラブコスメチックス

5 登録第4522976号(引用商標5)

(商標)

(指定商品)

file_10.jpga7 LOVE第3類

「歯みがき,化粧品,香料類」

出願日

平成13年1月9日

登録日

平成13年11月16日

権利者

株式会社クラブコスメチックス

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