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知財高等裁判所 平成20年(行ケ)10049号 判決 2008年12月22日

原告

大和化成工業株式会社

原告

小島プレス工業株式会社

原告ら訴訟代理人弁理士

岡田英彦

犬飼達彦

福田鉄男

太田直矢

服部光芳

伊藤寿浩

神谷十三和

被告

特許庁長官

指定代理人

村本佳史

山岸利治

森山啓

紀本孝

岩谷一臣

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が不服2006-1562号事件について平成19年12月25日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

本件は,特許出願に対する拒絶査定を不服とする審判請求に対する不成立審決の取消しを求める事案である。

1  特許庁における手続の経緯(争いのない事実)

大和化成工業株式会社(以下「旧大和化成工業」という。)及び小島プレス工業株式会社(以下「旧小島プレス工業」という。)は,発明の名称を「クリップ」とする発明について,平成9年3月19日(国内優先権主張:平成8年6月3日)に特許出願(以下「本件出願」という。)をしたが,平成17年12月20日付けで拒絶査定を受けたので,平成18年1月25日,同拒絶査定に対する不服審判を請求した。

特許庁は,上記不服審判請求を不服2006-1562号事件として審理し,平成19年12月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,平成20年1月15日,その謄本を原告らに送達した。

なお,原告大和化成工業株式会社及び同小島プレス工業株式会社は,いずれも平成19年10月1日,会社分割により旧大和化成工業及び旧小島プレス工業から本件出願に係る発明の特許を受ける権利の持分をそれぞれ承継し,いずれも平成20年3月21日,被告に対してその旨の出願人名義変更届(一般承継)をした。

2  発明の要旨

審決は,平成15年7月2日付けの手続補正書(甲4),平成17年10月6日付けの手続補正書(甲5)及び平成19年11月26日付け手続補正書(甲6)により補正された明細書(甲3~6。以下「本願補正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)を対象としたものであるところ,その要旨は次のとおりである(なお,請求項の数は3個である。)。

「【請求項1】 リブを有する被取付け部材を,取付け孔を有する取付け板に装着するために使用されるクリップであって,

被取付け部材のリブに前もって取り付けられ,このリブを取付け板の取付け孔に押し込むことによって該取付け孔に挿入され,それによって被取付け部材が取付け板に取り外し可能に装着されるように構成され,

樹脂材によって一体成形されたクリップ本体は,挿入部と,挿入部の内側から垂下する一対の挟持部と,挿入部の両側において外側に張り出した形状の係止肩とを有し,

係止肩は,クリップ本体が被取付け部材のリブと共に取付け板の取付け孔に挿入されたときに,この取付け孔の縁に弾性的に係合するように設定され,

両挟持部は互いに平行に対向する平坦な挟持面と,これらの挟持面に形成された係合突部とを有し,両挟持面はクリップ本体が被取付け部材のリブに取り付けられたときに該リブの両側面に押し付けられた状態で接触するように設定され,両係合突部はクリップ本体が被取付け部材のリブに取り付けられたときに該リブに形成されている係合孔に,挟持面と直角な面で係合するように設定されていることを特徴とするクリップ。」

3  審決の理由の要旨

(1)  審決は,本願発明は,実願昭62-172298号(実開平1-77111号)のマイクロフィルム(甲1。以下,「刊行物1」という。)に記載された発明及び実願昭63-155953号(実開平2-76211号)のマイクロフィルム(甲2。以下「刊行物2」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。

審決が上記結論に至った理由は,以下のとおりである。なお,略語,符号等を一部訂正したところがある。

ア 刊行物1記載の発明

刊行物1には,以下の発明(以下,「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「内装材4の裏面にクリップ3と係合する突入部材5を構成する壁部6を立設し,クリップ3を突入部材に押し込んで一体的に取り付け,次に,突入部材5をクリップ3と共に自動車のボディパネル1の取付孔2にクリップ3を介して突入させ,容易に着脱しうるようにし,クリップ3は合成樹脂材で一体成形され,U字形状断面をなす頭部11とその頭部11からハの字状断面をなすように延出された一対の脚部12とからなり,頭部11の両脚部12の内側部分に向けて開口する開口部には,互いに対向する向きに凸設された一対の突部13が長手方向に延在しており,U字形状をなす頭部11の内側にはその開口部を両突部13により狭められた凹設部14が郭成され,両突部13は,凹設部14が構成する面と直角な面で係合され,脚部12の両基端部には左右に向けて凹設された溝状の係合部15がそれぞれ形成されているクリップ3。」

イ 刊行物2の記載事項

刊行物2には,「車両の部品取付構造」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア) 「この考案は,上記課題を解決するためになされたもので,ガタツキや異音を発生させることのない車両の部品取付構造を提供することを目的とする。」(第4頁第1-4行参照)

(イ) 「第1図において,インストルメントパネル11に取り付けられる部品の1つであるクラスタ12の背面側には取付用突起13が形成され,この取付用突起13にはクリップ14が装着されている。このクリップ14は第2図および第3図に斜視図で示すように,弾性板材をU字状に折り曲げ,その両端部を断面L字状に拡開変形させて抜止め片15としたものであり,そのクリップ14のU字状部16はクラスタ12の取付用突起13を装着させる部分である。クリップ14の両方の抜止め片15には,その一部を切り起こして抜止め片15の先端側に延びる係止片17がそれぞれ形成されている。また,これらの係止片17の先端にはU字状部16側に向けて折り返された爪17aがそれぞれ形成されている。

一方,クラスタ12の取付用突起13の中胴部には,その先端がクリップ14のU字状部16の底に当接する位置まで挿入を完了した状態のもとで初めて上記係止片17の爪17aの係止を許容する横穴18が形成され,この横穴18に係止片17の爪17aが係止することによってクリップ14は取付用突起13に装着される。」(第5頁第11行-第6頁第12行参照)

ウ 本願発明と刊行物1記載の発明との対比

本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,刊行物1記載の発明の「内装材4の裏面にクリップ3と係合する突入部材5を構成する壁部6を立設し,クリップ3を突入部材に押し込んで一体的に取り付け,次に,突入部材5をクリップ3と共に自動車のボディパネル1の取付孔2にクリップ3を介して突入させ,容易に着脱しうるようにし」は,第1図及び第2図を参酌して検討すると,内装材4は突入部材を構成する壁部6を有し,この突入部材5にクリップ3を取付け,即ち前もって突入部材5にクリップが取り付けられ,この突入部材5を自動車のボディパネル1の取付孔2に突入即ち挿入して着脱しうるもの,すなわち取り外し可能に装着するものである。従って,刊行物1記載の発明の上記事項は,本願発明の「リブを有する被取付け部材を,取付け孔を有する取付け板に装着するために使用されるクリップであって,被取付け部材のリブに前もって取り付けられ,このリブを取付け板の取付け孔に押し込むことによって該取付け孔に挿入され,それによって被取付け部材が取付け板に取り外し可能に装着されるように構成され」に相当する。また,刊行物1記載の発明の「クリップ3は合成樹脂で一体成形され」は本願発明の「樹脂材によって一体成形されたクリップ本体」に相当する。そして,刊行物1記載の発明の「U字形状断面をなす頭部11の内側には,その開口部を両突部13により狭められた凹設部14が郭成されている」は,これにより突入部材5の拡頭部を受容するものであることから本願発明の「挿入部」に相当し,「両突部13」は凹設部14が突入部材5の拡頭部を弾発的に受容するために設けられた突部であることから,本願発明の「係合突部」とその機能において共通する。そして,刊行物1記載の発明の「脚部12の両基端部には左右に向けて凹設された溝状の係合部15」は,挿入部を有する頭部11からハ字状断面をなすように延出,つまり挿入部の両側において外側に張り出した形状の部材であり,また取付孔2に弾発的に係合するものあることから,本願発明の「挿入部の両側において外側に張り出した形状の係止肩」に相当する。

そうすると,本願発明と刊行物1記載の発明とは,本願発明の用語に倣えば,

「リブを有する被取付け部材を,取付け孔を有する取付け板に装着するために使用されるクリップであって,被取付け部材のリブに前もって取り付けられ,このリブを取付け板の取付け孔に押し込むことによって該取付け孔に挿入され,それによって被取付け部材が取付け板に取り外し可能に装着されるように構成され,

樹脂材によって一体成形されたクリップ本体は,挿入部と,挿入部の両側において外側に張り出した形状の係止肩とを有し,

係止肩は,クリップ本体が被取付け部材のリブと共に取付け板の取付け孔に挿入されたときに,この取付け孔の縁に弾性的に係合するように設定され,係合突部を有するクリップ。」

である点で一致し,次の点で相違する。

本願発明は,挿入部の内側から垂下する一対の挟持部を有し,両挟持部は互いに平行に対向する平坦な挟持面と,これらの挟持面に形成された係合突部とを有し,両挟持面はクリップ本体が被取付け部材のリブに取り付けられたときに該リブの両側面に押し付けられた状態で接触するように設定され,係合突部はクリップ本体が被取付け部材のリブに取り付けられたときに該リブに形成されている係合孔に挟持面と直角な面で係合するように設定されているのに対し,刊行物1記載の発明のクリップの挿入部にはこのような挟持部はなく,係合突部は挿入部を構成するものであって,リブに形成されている係合孔に係合するように設定されていない点。

エ 相違点についての判断

(ア) 上記相違(点)について検討するに,刊行物2には,クラスタの取付用突起に装着し,インストルメントパネルに取り付けられるクリップ,すなわち,本願発明及び刊行物1記載の発明と共通の技術分野に属するリブを有する被取り付け部材を取付板に装着するために使用されるクリップにおいて,ガタツキや異音の発生を防ぐため,挿入部に相当する抜止め片から延びる一対の係止片を形成し,この係止片に取付用突起に設けた横穴に係止するための係止片17a(判決注:「係止片の爪17a」の誤記と認める。)を設けるという技術事項が記載されている。そして,刊行物1記載の発明の挿入部及び係合突部に対して,刊行物2に記載された上記技術事項を適用することにつき,格段の想到困難性があるものともいえない。

したがって,刊行物1記載の発明に対し,刊行物2に記載された技術事項を適用して,上記相違に係る本願発明の構成とすることは,当業者であれば容易に想到しうるものである。

(イ) その際,挟持面と直角な面で係合するように係合突部を設定する点は,刊行物1の摘記事項ニ.(判決注:審決3頁「ニ.」の「第2図,第3図をみると,クリップ3の頭部11の両脚部12の内側に向けて開口する開口部に延在する開口部に突設された一対の突部13は,凹設部14が構成する面と直角な面で拡頭部7と係合しているものと認められる。」との摘記事項)において指摘したように,刊行物1記載の発明の係止突部は,拡頭部7と接する凹設部14の面と直角な面で拡頭部7と係合するものであることに鑑みれば,刊行物1記載の発明の挿入部及び係合突部に対して刊行物2に記載された上記技術事項を適用する際,係止突部の係合部の形状として刊行物1に記載された係止突部のものを採用し,挟持面と直角な面で係合するように係合突部を設定することは,当業者であれば容易に想起しうるものであり,格別な創作性を要するものとはいえない。

(ウ) そして,請求項1に係る発明が奏する作用効果も,刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術事項から当業者が予測できる範囲内のものである。

(2)  原告らは,審決の上記(1)の認定判断のうち,ア,イを認め,ウのうち,「「両突部13」は凹設部14が突入部材5の拡頭部を弾発的に受容するために設けられた突部であることから,本願発明の「係合突部」とその機能において共通する。」との部分を争い,その余の部分を認め,エのうち,(ア)及び(ウ)を争い,(イ)を認めている。

第3審決取消事由の要点

1  取消事由1(一致点の誤認による相違点の看過)

(1)  審決は,本願発明と刊行物1記載の発明の対比において,「「両突部13」は凹設部14が突入部材5の拡頭部を弾発的に受容するために設けられた突部であることから,本願発明の「係合突部」とその機能において共通する。」と認定している。

しかしながら,本願補正明細書における特許請求の範囲の請求項1には「挿入部の内側から垂下する一対の挟持部と,・・・両挟持部は互いに平行に対向する平坦な挟持面と,これらの挟持面に形成された係合突部とを有し,」と特定されているとおり,本願発明の「係合突部」は,「樹脂製のクリップ本体にあって,挿入部の内側から垂下する一対の挟持部の互いに平行に対向する平坦な挟持面に形成される」ものである。

したがって,単に機能面のみを捉えて,本願発明の「係合突部」が刊行物1記載の「両突部13」と共通すると認定したことは違法である。

(2)  本願発明に係るクリップは,「リブを有する被取付け部材を,取付け孔を有する取付け板に装着するために使用されるクリップ」であり,この種のクリップは,一般にその構成要素として,クリップを被取付け部材に取付けるための「リブへの取付け構造」と,クリップを取付け板の取付け孔に係合させる「取付け孔への係合構造」を備えている。

そして,本願発明では,「係合突部」が「挿入部の内側から垂下する挟持部」に形成され,「挿入部の内側」及び「挿入部の内側から垂下する挟持部」と共に,クリップを「リブ」へ取り付けるための「リブへの取付け構造」を構成し,この「リブへの取付け構造」は,「取付け孔への係合構造」に該当する「係止肩」に対して,内外面(表裏)に独立した別部材としての形状で,連続して重複する存在として構成されている。すなわち,本願発明では,「リブへの取付け構造」と「取付け孔への係合構造」は,クリップの拡開方向に対して2重構造をしている。

これに対し,刊行物1記載の発明では,「リブへの取付け構造」は「頭部11の内側」及び「両突部13」により構成され,「取付け孔への係合構造」に該当する「脚部12」は,「両突部13」よりもクリップの挿入方向の下方に形成されている。すなわち,刊行物1記載の発明では,「リブへの取付け構造」と「取付け孔への係合構造」はクリップの挿入方向で上下の位置関係にある。

このように,本願発明と刊行物1記載の発明では,「リブへの取付け構造部」と「取付け孔への係合構造」の位置関係が相違しているにもかかわらず,この相違点を看過した審決は違法であり,取り消されるべきである。

2  取消事由2(刊行物2記載の技術事項の誤認による相違点についての判断の誤り)

審決は,刊行物1記載の発明に対し,刊行物2記載の「ガタツキや異音の発生を防止するため,挿入部に相当する抜止め片から延びる一対の係止片を形成し,この係止片に取付用突起に設けた横穴に係止するための係止片17aを設ける」との技術事項を適用し,相違点に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことであると判断しているが,誤りである。

(1)  本願発明の「挟持部」及び「係止肩」は,本願補正明細書の請求項1において「樹脂材によって一体形成されたクリップ本体は,・・・挿入部の内側から垂下する一対の挟持部と,挿入部の両側において外側に張り出した形状の係止肩とを有し,・・・両挟持部は互いに平行に対向する平坦な挟持面と,これらの挟持面に形成された係合突部とを有し,」と特定されている。すなわち,本願発明のクリップ本体を構成する一対の挟持部は,「挿入部の内側から垂下され,かつ互いに平行に対向する平坦な挟持面」を有するものであり,同じくクリップ本体を構成する係止肩は,「挿入部の両側において外側に張り出した形状」に形成されるものであり,また,本願発明の「係合突部」は,「挟持部の互いに平行に対向する平坦な挟持面に形成され」るものである。

そして,相違点に係る本願発明の構成は,上記の「挟持部」,「係止肩」及び「係合突部」が挿入部とともに樹脂材によって一体成形され,「挟持部」と「係止肩」とが内外面(表裏)に独立する別部材としての形状で,連続して重複する存在として構成されている。すなわち,本願発明では,挿入部の内側から垂下する「挟持部」と挿入部の両側において外側に張り出した「係止肩」が,共に挿入部から延設され,クリップの拡開方向に対して「挟持部」が内側に形成され,「係止肩」が外側に形成された,2重構造をしている。

(2)  これに対し,刊行物2に記載された発明の「係止片17」は,弾性板材をU字状に折り曲げて抜止め片15とし,その抜止め片15の一部を切り起こして抜止め片15の先端側に延びるように形成されたものであって,あくまでも係止片17は,抜止め片15の一部としての形状を構成するものである。このように,刊行物2においては,一枚の弾性板材から形成される係止片17と抜止め片15を,内外面(表裏)に重複して存在するように構成することは不可能であり,刊行物2には,係止片17と抜止め片15とが内外面(表裏)に重複して存在するように構成すること,すなわち,本願発明の「挿入部の内側から垂下する一対の挟持部」との技術事項は記載されていない。

(3)  以上のとおり,刊行物2には,相違点に係る本願発明の構成は記載されていないから,刊行物1記載の発明に対し,刊行物2に記載された技術事項を適用して本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことではない。

3  取消事由3(顕著な作用効果の看過)

審決は,本願発明が奏する作用効果は,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術事項から当業者が予測できる範囲内のものであると認定しているが,誤りである。

本願発明は,その構成により,「取付け孔に対する挿入に伴って係止肩には内側(内方)の弾力が蓄積され,その蓄積弾力が挟持部を内側(内方)に向って撓む方向の弾力として付与され,この付与される弾力によって,挟持部の挟持面に形成された係合突部とリブに形成された係合孔との係合状態をより一層強固とし,両者の係合状態を外れにくくする」という特有の作用効果を奏するものであり,この作用効果は,抜止め片15の一部を切り起こして抜止め片15の先端側に延びる係止片17を形成する刊行物2記載の技術事項からは達成し得ないものである。

第4被告の反論の要点

1  取消事由1(一致点の誤認による相違点の看過)に対し

刊行物1記載の発明の「両突部13」は,本願発明の「リブ」に相当する「突入部材5」に係合するものであるから,本願発明の「係合突部」と刊行物1記載の発明の「両突部13」は,構成上の相違はあるものの,共に「リブ」に係合する機能を奏する点で共通する。

審決は,このことを踏まえて,本願発明の「係合突部」と刊行物1記載の発明の「両突部13」について,上記の共通する機能を一致点とし,異なる構成を相違点と認定したのであるから,審決の認定に誤りはない。

2  取消事由2(刊行物2記載の技術事項の誤認による相違点についての判断の誤り)に対し

(1)  原告らは,本願発明の「挟持部」と「係止肩」とは,内外面(表裏)に独立する別部材としての形状で,連続して重複する存在として構成されていると主張する。

しかし,本願補正明細書の請求項1には,本願発明の「挟持部」が「挿入部の内側から垂下する一対の」ものであること,「係止肩」が「挿入部の両側において外側に張り出した形状」であること,が特定されているにすぎず,「挟持部」と「係止肩」とは必ずしも「連続して重複する存在」とはされておらず,また,請求項1の上記「挟持部」と「係止肩」に係る特定事項から,「挟持部」と「係止肩」とが「連続して重複する存在」であることを明らかに導き出せるものでもない。

したがって,原告らの上記主張は,本願発明の構成に基づくものではなく,失当である。

(2)  樹脂製あるいは金属製のクリップは,いずれも広く利用されている慣用手段であって,しかも,形状や構造が類似しているものも多々存在することから,一方のクリップの構造,形状についての技術を他方のクリップに適用することは,当業者であれば当然試みるものである。

そして,刊行物2に記載された技術事項は「ガタツキや異音を発生させることのない車両の部品取付構造を提供することを目的とする。」(甲2の4頁2~4行)ものであり,本願発明の「被取付け部材のリブに対するクリップ本体の取り付け状態を安定させ」(本願補正明細書の段落番号【0005】)という目的と共通するものであるし,この目的は,クリップを設計する際に通常考慮することでもあり,刊行物1記載の発明も当然有するものである。

加えて,刊行物1記載の発明に対して刊行物2に記載された技術事項を適用することを阻害する技術的理由はない。

したがって,刊行物1記載の発明と刊行物2に記載された技術事項が共に有する目的を達成すべく,刊行物1記載の発明の「両突部13」に対し刊行物2に記載された技術事項を適用し,「挿入部の内側から垂下する一対の挟持部を有し」,さらに「両挟持部は互いに平行に対向する平坦な挟持面と,これらの挟持面に形成された係合突部とを有し,両挟持面はクリップ本体が被取付け部材のリブに取り付けられたときに該リブの両側面に押し付けられた状態で接触するように設定され,係合突部はクリップ本体が被取付け部材のリブに形成されている係合孔に挟持面と直角な面で係合するように設定されている」という構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たことである。

3  取消事由3(顕著な作用効果の看過)に対し

原告らが主張する「取付け孔に対する挿入に伴って係止肩には内側(内方)の弾力が蓄積され,この蓄積弾力が挟持部を内側(内方)に向って撓む方向の弾力として付与され,この付与される弾力によって,挟持部の挟持面に形成された係合突部とリブに形成された係合孔との係合状態をより一層強固とし,両者係合状態を外れにくくする」という特有の作用効果は,本願補正明細書に明記されたものでも,本願発明の構成から導かれるものでもない。

仮に,本願発明の構成が,原告ら主張に係る上記作用効果を奏するものであるとすれば,刊行物2に記載されたクリップについても,その形状・構造から,取付用穴11aへの挿入に伴い,抜止め片15に蓄積される内側の弾力によって内側に向かって撓む方向の弾力が係止片17に付与され,係止片17の爪17aと横穴18の係合状態が一層強固となるから,本願発明と同様の上記作用効果を奏するといえる。

そうすると,刊行物1記載の発明の「両突部13」に対し刊行物2に記載された技術事項を適用し,「挿入部の内側から垂下する一対の挟持部を有し」,さらに「両挟持部は互いに平行に対向する平坦な挟持面と,これらの挟持面に形成された係合突部とを有し,両挟持面はクリップ本体が被取付け部材のリブに取り付けられたときに該リブの両側面に押し付けられた状態で接触するように設定され,係合突部はクリップ本体が被取付け部材のリブに形成されている係合孔に挟持面と直角な面で係合するように設定されている」としたものが,原告ら主張に係る本願発明と同様の作用効果を奏することは,当業者であれば容易に予測できるものである。

したがって,本願発明が奏する作用効果は,刊行物1記載の発明及び刊行物2に記載された技術事項から当業者が予測できる範囲内のものあるとした審決の判断に誤りはない。

第5当裁判所の判断

1  取消事由1(一致点の誤認による相違点の看過)について

(1)  原告らは,審決が,本願発明と刊行物1記載の発明の対比において,「「両突部13」は凹設部14が突入部材5の拡頭部を弾発的に受容するために設けられた突部であることから,本願発明の「係合突部」とその機能において共通する。」と認定したことは誤りであると主張する。

ア そこで,まず,本願発明の係合突部と刊行物1記載の発明の両突部13とが機能において共通するとした審決の認定判断の当否について検討する。

(ア) 本願補正明細書には,係合突部について,以下の記載がある。

(a) 「【0008】このように前記クリップ本体は,その両挟持部の平坦な挟持面が前記リブをその両側から挟み付けた状態で接触し,かつ前記係合突部がリブの係合孔に係合することにより,前記被取付け部材に取り付けられる。したがってこのクリップ本体の取り付け状態が安定し,前記取付け板の係合孔に対するクリップ本体の挿入作業が容易となり,また前記リブからクリップ本体が外れ落ちるといったことが防止される。」

(b) 「【0017】・・・図4で示すように両挟持面18がリブ32に対してその両側から接触すると同時に,前記の係合突部22がリブ32の係合孔34に対してその両側からそれぞれ係合する。これにより,クリップ本体10はセンタクラスター30のリブ32に対して安定した状態で取り付けられたこととなる。」

上記記載によれば,本願発明は,クリップ本体を被取付け部材に取り付けたときに,両挟持部の平坦な挟持面が取付部材のリブを両側から挟み付けた状態で接触するとともに係合突部がリブの係合孔に係合することにより,クリップ本体のリブへの安定的取付けとクリップ本体のリブからの抜止めの機能を実現するための部材であるといえる。

(イ) 刊行物1(甲1)には,以下の記載がある。

(a) 「クリップに設けられた凹設部に,取付部材に設けられた突入部材の拡頭部が弾発的に係合した状態で,クリップを被取付部材の係止孔に抜け止めさせれば,取付部材を被取付部材に好適に固定することができる。」(4頁8~12行)

(b) 「合成樹脂材からなる内装材4の裏面には,クリップ3と係合する突入部材5を構成する壁部6が一体成形されて立設しており,その壁部6の図に於ける上方には長円形断面形状をなす拡頭部7が形成されている。」(5頁5~9行)

(c) 「クリップ3は,図に於ける下方に向けて開口するU字形状断面をなす頭部11と,その頭部11から図の下方に向けてハの字状断面をなすように延出された一対の脚部12とからなり,可撓性を有する合成樹脂材で一体成形されている。頭部11の両脚部12の内側部分に向けて開口する開口部には,互いに対向する向きに凸設された一対の突部13が長手方向に延在しており,U字形状をなす頭部11の内側にはその開口部を両突部13により狭められた凹設部14が郭成されている。」(5頁17~6頁6行)

(d) 「次に本実施例の組付要領を以下に示す。

先ず,第1図に示されるように,クリップ3をその脚部12側から矢印Aの向きに内装材4の突入部材5に押込む。このとき,クリップ3の凹設部14が突入部材5の拡頭部7を弾発的に受容するため,クリップ3が突入部材5に一体的に取付けられる。」(6頁10~16行)

(e) 第2図は,取付部材を被取付部材に取り付けた状態のクリップの構造を示す断面図であるが,クリップ3の両脚部12の内側に向けて開口する開口部に長手方向に延在するように突設された一対の突部13は,凹設部14が構成する面と直角な面で拡頭部7と係合している。

以上の記載によれば,刊行物1記載の発明は,クリップ3を被取付部材に取り付けたときに,突入部材5の壁部6の上方に形成された拡頭部7が,可撓性を有する凹設部14に弾発的に受容され,両突部13が拡頭部7と係合することにより,クリップ3が突入部材5に一体(安定)的に取り付けられるようにしたものであり,両突部13は,クリップ3を突入部材5に一体(安定)的に取り付けるとともにクリップ3の突入部材5からの抜止めの機能を有する部材といえる。

(ウ) 以上の検討結果によれば,本願発明の係合突部も刊行物1記載の発明の両突部13も共にクリップを被取付部材のリブ(刊行物1記載の発明における突入部材5がこれに相当する。)に安定的に取り付けるとともにクリップのリブからの抜止めの機能を有する部材である点で共通するといえる。

したがって,審決が,刊行物1記載の発明の両突部13は本願発明の係合突部と機能において共通すると判断したことに誤りはない。

イ そして,審決は,上記の判断に基づき,機能の共通性において対応する本願発明の係合突部と刊行物1記載の発明の両突部13とを対比し,前記第2の3(1)ウのとおり,本願発明の「係合突部」は「挿入部の内側から垂下する一対の挟持部の互いに平行に対向する平坦な挟持面に形成される」点及び「クリップ本体が被取付け部材のリブに取り付けられたときに該リブに形成されている係合孔に挟持面と直角な面で係合するように設定されている」点を,上記対比に係る本願発明と刊行物1記載の発明との構成上の相違点として認定しており,この相違点の認定については,原告らも認めているところである。

したがって,審決の上記一致点の認定に誤りはなく,原告らの主張は失当である。

(2)  また,原告らは,本願発明では,「リブへの取付け構造」と「取付け孔への係合構造」は,クリップの拡開方向に対して2重構造をしているのに対し,刊行物1記載の発明では,「リブへの取付け構造」と「取付け孔への係合構造」はクリップの挿入方向で上下の位置関係にあり,本願発明と刊行物1記載の発明では両者の位置関係が相違しているにもかかわらず,この相違点を看過した審決は違法であると主張する。

そこで,検討するに,本願発明の構成に関する原告らの上記主張の適否はさておき,原告らは,刊行物1記載の発明が本願発明の係止肩に相当する構成(これが,原告らのいう「取付け孔への係合構造」に当たるものと解される。)を備えていることは認めているのであるから,結局,上記主張は,原告らが主張するところの「リブへの取付け構造」に係る構成が本願発明と刊行物1記載の発明とで相違していることをいうものと解されるところ,上記(1)に判断したとおり,審決は,原告らのいう「リブへの取付け構造」に係る構成を本願発明と刊行物1記載の発明との相違点と認定しており,その対比自体に不十分な点は認められないのであるから,審決が相違点を看過したとの主張は,その前提を欠くものというべきである。

(3)  以上のとおりであるから,取消事由1は理由がない。

2  取消事由2(刊行物2記載の技術事項の誤認による相違点についての判断の誤り)について

原告らは,刊行物2には,相違点に係る本願発明の構成が記載されていないから,刊行物1記載の発明に対し,刊行物2に記載された技術事項を適用して本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことではないと主張するので,以下,検討する。

(1)  刊行物2(甲2)には,名称を「車両の部品取付構造」とする考案について,図面とともに以下の記載がある。

(ア) 「実用新案登録請求の範囲

(1) U字状に折り曲げた弾性板材の両端部を拡開変形させて抜止め片としたクリップのU字状部に部品の取付用突起を装着し,インストルメントパネルに形成された取付用穴に前記クリップを挿入しその抜止め片を取付用穴の口縁に係止させることによりクリップを介して部品をインストルメントパネルに取り付けるようにした車両の部品取付構造において,

前記クリップの抜止め片の一部を切り起こして,クリップのU字状部側に向けて折り返された爪を先端に有する係止片を形成するとともに,前記部品の取付用突起には,その先端がクリップのU字状部の底に当接する位置まで挿入されたときは,はじめて前記係止片の爪が係止しうる横穴を形成したことを特徴とする車両の部品取付構造。」(1頁4~19行)

(イ) 「この考案は,・・・ガタツキや異音を発生させることのない車両の部品取付構造を提供することを目的とする。」(4頁1~4行)

(ウ) 「第1図において,インストルメントパネル11に取り付けられる部品の1つであるクラスタ12の背面側には取付用突起13が形成され,この取付用突起13にはクリップ14が装着されている。このクリップ14は第2図および第3図に斜視図で示すように,弾性板材をU字状に折り曲げ,その両端部を断面L字状に拡開変形させて抜止め片15としたものであり,そのクリップ14のU字状部16はクラスタ12の取付用突起13を装着させる部分である。クリップ14の両方の抜止め片15には,その一部を切り起こして抜止め片15の先端側に延びる係止片17がそれぞれ形成されている。また,これらの係止片17の先端にはU字状部16側に向けて折り返された爪17aがそれぞれ形成されている。

一方,クラスタ12の取付用突起13の中胴部には,その先端がクリップ14のU字状部16の底に当接する位置まで挿入を完了した状態のもとで初めて上記係止片17の爪17aの係止を許容する横穴18が形成され,この横穴18に係止片17の爪17aが係止することによってクリップ14は取付用突起13に装着される。」(5頁11~6頁12行)

(エ) 第1図は,実施例である車両の部品取付構造を示す縦断面図であるが,同図では,係止片17は,クリップをインストルメントパネル11の取付用穴11aに挿入する方向を上方とした場合に,U字状部16の下方に挿入方向と平行に形成されている。また,クリップを取付用突起に取り付けた状態において,係止片17は,取付用突起13の横穴18から先端にかけての部分13aに接している。

(2)  上記記載によれば,刊行物2について,以下のことが認められる。

ア 刊行物2の車両の部品取付構造は,クラスタの取付用突起に装着し,インストルメントパネルに取り付けられるクリップに関する考案であり,リブを有する被取付け部材を取付板に装着するために使用されるクリップであるという点で,本願発明及び刊行物1記載の発明と共通の技術分野に属する。

イ 刊行物2のクリップは,ガタツキや異音の発生を防ぐため,抜止め片の一部を切り起こして一対の係止片を形成し,この係止片に取付用突起に設けた横穴に係止するための係止片爪を設けている。この係止片及び係止片爪は,クリップを取付用突起(本願発明のリブに相当する。)にがたつくことなく取り付けるための部材であり,係止片爪は,クリップの取付用突起からの抜止めの機能を有している。

ウ 係止片は,クリップの挿入方向と平行に,U字状部の下方に形成されており,平坦面を有し,当該平坦面は,クリップを取付用突起に取り付けた状態において,取付用突起の横穴よりも先端の部分の側面に接している。

(3)  以上によれば,刊行物1記載の発明と刊行物2のクリップは,共通の技術分野に属しているうえ,この種のクリップにおいては,従来から「クリップ1と取付用突起2aとの間にガタツキが生じて,車両走行時にビビリ音などの異音を発生させる」(甲2の3頁16~18行),「左右にぐらつきやすく,リブ32に対するクリップ本体200の取り付け状態が不安定になる」(甲3の段落【0004】)など,クリップのリブへの取付けの不具合に関連した課題として知られていたところ,これらの課題は,刊行物1記載の発明においても共通するものといえるから,刊行物1記載の発明において,クリップのリブへの取付け部材である両突部に対し,刊行物2に記載された,クリップのリブへの取付けに関する係止片に係る技術事項を適用することは,当業者にとって格別困難なことではないというべきである。

そして,前記(2)に認定した刊行物2の係止片の形状,機能,クリップ本体における位置,取付用突起との関係等の技術事項に照らして見れば,合成樹脂材で一体成形される刊行物1記載の発明において,刊行物2の係止片を適用するに当たり,これを挿入部に相当する頭部の内側から垂下する一対の挟持部として構成することは,当業者がさしたる困難もなく試行し得た範囲の事項であると認められるから,相違点に係る本願発明の構成は当業者が容易に想到し得たものと認められる。

(4)  これに対し,原告らは,本願発明では,挿入部の内側から垂下する「挟持部」と挿入部の両側において外側に張り出した「係止肩」が,共に挿入部から延設され,クリップの拡開方向に対して「挟持部」が内側に,「係止肩」が外側に,独立する別部材として形成され,2重構造をしているが,刊行物2には,本願発明のこの2重構造に係る「挿入部の内側から垂下する一対の挟持部」との技術事項は記載されていないと主張する。

しかしながら,本件においては,審決は,本願発明と刊行物1記載の発明との相違点について,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の技術事項を適用して容易想到であると判断しているのであるから,刊行物2記載の技術事項を適用した結果として,相違点に係る本願発明の構成を容易に想到することができたかどうかが問題なのであり,必ずしも刊行物2において,相違点に係る本願発明の構成と全く同一の構成が記載されている必要はないというべきであるから,原告らの上記主張は,相違点についての審決の判断の誤りを指摘するものとして的確な主張とはいえない。加えて,相違点に係る本願発明の構成が,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の技術事項を適用して容易に想到し得たものであることは,上記(3)に説示したとおりである。

したがって,原告らの主張を採用することはできず,取消事由2は理由がない。

3  取消事由3(顕著な作用効果の看過)について

(1)  原告らは,本願発明は,その構成により,「取付け孔に対する挿入に伴って係止肩には内側(内方)の弾力が蓄積され,その蓄積弾力が挟持部を内側(内方)に向って撓む方向の弾力として付与され,この付与される弾力によって,挟持部の挟持面に形成された係合突部とリブに形成された係合孔との係合状態をより一層強固とし,両者の係合状態を外れにくくする」という特有の作用効果を奏すると主張する。

(2)  本願補正明細書には,挟持部とリブとの係合状態について,以下の記載がある。

ア 「【0017】つづいてクリップの使用手順について説明する。まず前記センタクラスター30のリブ32に対してクリップ本体10をはめると、このリブ32が前記案内片20に案内されて前記挟持部16を押し広げながら、これら挟持部16における平坦な挟持面18の間に進入する。これによって図4で示すように両挟持面18がリブ32に対してその両側から接触すると同時に、前記の係合突部22がリブ32の係合孔34に対してその両側からそれぞれ係合する。これにより、クリップ本体10はセンタクラスター30のリブ32に対して安定した状態で取り付けられたこととなる。」

イ 「【0020】メンテナンスなどにおいて、インストルメントパネル40からセンタクラスター30を取り外す必要が生じた場合は、センタクラスター30を強く引っ張ることにより、クリップ本体10の挿入部12が内側に撓んで前記取付け孔42の縁に対する両係止肩24の係合が外れる。これはセンタクラスターのリブ32に対してクリップ本体10が安定して取り付けられているためであり、これによって前記リブ32にクリップ本体10を取り付けたままでセンタクラスター30をインストルメントパネル40から取り外すことができる。したがってセンタクラスター30をインストルメントパネル40に対して再び装着するときにはクリップ本体10をそのまま使用できる。」

(3)  上記記載によれば,本願補正明細書には,本願発明の挟持部とリブとの係合状態について,クリップ本体がリブに対して安定して取り付けられると記載されているのみで,原告らの主張に係る前記(1)の特有の作用効果を奏する旨の記載はないから,原告らの主張は,本願補正明細書に基づくものとはいえない。

そうすると,本願発明の挟持部とリブとの係合状態について本願発明の構成から認められる効果としては,クリップ本体がリブに対して安定して取り付けられることに尽きるのであり,この効果は,当業者にとって格別予想外のものであるとは認められない。

したがって,原告らの主張を採用することはできず,取消事由3は理由がない。

4  以上の次第であるから,審決取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を違法とする事由もないから,審決は適法であり,本件請求は理由がない。

第6結論

よって,本件請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中信義 裁判官 榎戸道也 裁判官 浅井憲)

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