大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

知財高等裁判所 平成20年(行ケ)10163号 判決 2008年10月27日

原告

株式会社キーエンス

訴訟代理人弁護士

岩坪哲

田上洋平

被告

オプテックス・エフエー株式会社

訴訟代理人弁護士

本渡諒一

黒田厚志

郷原さや香

訴訟代理人弁理士

杉本修司

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  特許庁が無効2006-80220号事件について平成20年4月15日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,原告が特許権者である特許第3457107号(発明の名称「電子機器ユニット,電子機器および結線構造」,請求項の数5)について,被告から全請求項について特許無効審判請求がなされたところ,特許庁が平成19年8月14日付けでこれを無効とする審決(第1次審決)をした。

しかるに,原告から訴え提起を受けた知的財産高等裁判所が特許法181条2項に基づき上記審決を取り消す旨の決定をしたため,特許庁が再び審理するところとなったが,その中で原告は訂正請求をしたものの,特許庁は,平成20年4月15日付けで,上記訂正を認めるとした上でこれを無効とする審決(第2次審決)をしたことから,これに不服の原告が第2次審決の取消しを求めた事案である。

2  争点は,上記訂正後の本件特許発明(訂正発明1ないし4)が特開平1-184668号公報(発明の名称「識別装置」,出願人立石電機株式会社,公開日平成元年7月24日,甲7)との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),である。

第3当事者の主張

1  請求原因

(1)  特許庁等における手続の経緯

ア 原告は,平成7年9月29日,名称を「電子機器ユニット,電子機器および結線構造」とする発明につき特許出願(特願平7-276818号,請求項の数5)をし,平成15年8月1日,特許第3457107号として設定登録を受け(請求項1~5。以下「本件特許」という。甲12〔特許公報〕)ていたが,被告から,平成18年10月26日付けで本件特許の請求項1~5に係る発明について特許無効審判請求がなされた。

イ 上記請求は無効2006-80220号事件として特許庁に係属したところ,その中で原告は,平成18年12月18日付け(甲24の1)及び平成19年5月1日付け(甲34の1)でそれぞれ訂正請求(いずれも発明の名称を「電子機器ユニットおよび電子機器」と変更するとともに,請求項1・2を変更するほか,請求項3を削除し,請求項4・5を3・4に繰り上げる等を内容とするもの)を行ったが,特許庁は,平成19年8月14日,「訂正を認める。特許第3457107号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。」旨の審決(第1次審決。甲41)をした。

ウ これに対し原告は,知的財産高等裁判所にその取消しを求める訴訟(平成19年(行ケ)第10325号)を提起したが,その後原告が上記特許に関し訂正審判請求(審判2007-390119号)をしたことから,同裁判所は,平成19年12月6日,特許法181条2項に基づき上記審決を取り消す旨の決定をした。

エ そこで特許庁において上記特許無効審判請求事件について再び審理されることとなり,その中で原告は平成19年12月21日付けで訂正請求(発明の名称を「光ファイバ式検出器のアンプユニットおよび光ファイバ式検出器」と変更するとともに,請求項1・2を変更するほか,請求項3を削除し,請求項4・5を3・4に繰り上げる等を内容とするもの。以下「本件訂正」という。甲13の1)をしたが,特許庁は,平成20年4月15日,「訂正を認める。特許第3457107号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。」旨の審決(第2次審決。以下「本件審決」ということがある。)をし,その謄本は平成20年4月25日原告に送達された。

(2)  発明の内容

本件訂正後の請求項1~4記載の発明は,次のとおりである(下線が訂正部分。以下「訂正発明1」~「訂正発明4」という。)。

「【請求項1】光ファイバからの光信号を光電変換して信号の処理を行う光ファイバ式検出器のアンプユニットであって,一枚の配線基板の表面および裏面の対称位置で,各々の接触端子が配置される面と同一面の電路に各々の実装用端子が半田付けされて取り付けられると共に,後記箱状のケース本体内で後記一対の壁面の内壁から内方で後記一対の接続用の開口に近接して臨むように設けられる一対の第1コネクタと,その下方でレールに取り付けられる箱状のケース本体であって,該箱状のケース本体の上方には前記一対の第1コネクタが取り付けられた前記配線基板が挿入される基板挿入用の開口を有し,該基板挿入用の開口の面積が前記一対の第1コネクタが取り付けられた前記配線基板の表面および裏面の各面の面積よりも小さくなるように形成されると共に,前記一対の第1コネクタが取り付けられた前記配線基板に略平行な一対の壁面を有し,該略平行な一対の壁面に沿って前記基板挿入用の開口から下方に前記一対の第1コネクタが取り付けられた前記配線基板が挿入される箱状のケース本体と,該箱状のケース本体の前記基板挿入用の開口を閉塞するカバーと,前記箱状のケース本体における前記一対の壁面の前記基板挿入用の開口から下方に離れた位置に形成され,前記一対の第1コネクタが取り付けられた前記配線基板が前記基板挿入用の開口から前記箱状のケース本体に挿入されたとき前記一対の第1コネクタが前記一対の壁面の内壁から内方で近接して臨む一対の接続用の開口と,該一対の接続用の開口の1つを貫通して該1つの接続用の開口が形成された一方の前記壁面の内壁を越えて前記箱状のケース本体の内側に挿入され,前記一対の壁面の内壁から内方に位置する前記一対の第1コネクタのうちの前記1つの接続用の開口に近接して臨む一方の第1コネクタに前記一対の壁面の内壁から内方で接触端子によって接続されていると共に他の検出器のアンプユニットに前記箱状のケース本体の外側で接触端子によって接続される第2コネクタとを備え,前記一対の第1コネクタの厚みに前記配線基板の厚みを加えた厚みが前記箱状のケース本体の内側の幅よりも小さく前記基板挿入用の開口から挿入可能な厚みであり,かつ,前記箱状のケース本体の内側の幅が前記一対の第1コネクタのうちの一方に前記第2コネクタを接続したときの前記一対の第1コネクタおよび前記第2コネクタの厚みに前記配線基板の厚みを加えた厚みよりも小さいことを特徴とする光ファイバ式検出器のアンプユニット。

【請求項2】複数の,光ファイバからの光信号を光電変換して信号の処理を行う光ファイバ式検出器のアンプユニットを連結した光ファイバ式検出器であって,各光ファイバ式検出器のアンプユニットは,配線基板の表面および裏面の対称位置で,各々の接触端子が配置される面と同一面の電路に各々の実装用端子が半田付けされて取り付けられると共に,後記箱状のケース本体内で後記一対の壁面の内壁から内方で後記一対の接続用の開口に近接して臨むように設けられる一対の第1コネクタと,その下方でレールに取り付けられる箱状のケース本体であって,該箱状のケース本体の上方には前記一対の第1コネクタが取り付けられた前記配線基板が挿入される基板挿入用の開口を有し,該基板挿入用の開口の面積が前記一対の第1コネクタが取り付けられた前記配線基板の表面および裏面の各面の面積よりも小さくなるように形成されると共に,前記一対の第1コネクタが取り付けられた前記配線基板に略平行な一対の壁面を有し,該略平行な一対の壁面に沿って前記基板挿入用の開口から下方に前記一対の第1コネクタが取り付けられた前記配線基板が挿入される箱状のケース本体と,該箱状のケース本体の前記基板挿入用の開口を閉塞するカバーと,前記箱状のケース本体における前記一対の壁面の前記基板挿入用の開口から下方に離れた位置に形成され,前記一対の第1コネクタが取り付けられた前記配線基板が前記基板挿入用の開口から前記箱状のケース本体に挿入されたとき前記一対の第1コネクタが前記一対の壁面の内壁から内方で近接して臨む一対の接続用の開口と,該一対の接続用の開口の1つを貫通して該1つの接続用の開口が形成された一方の前記壁面の内壁を越えて前記箱状のケース本体の内側に挿入され,前記一対の壁面の内壁から内方に位置する前記一対の第1コネクタのうちの前記1つの接続用の開口に近接して臨む一方の第1コネクタに前記一対の壁面の内壁から内方で接触端子によって接続されていると共に隣接する他の検出器のアンプユニットの第1コネクタのうちの1つに接触端子によって接続された第2コネクタとを備え,前記一対の第1コネクタの厚みに前記配線基板の厚みを加えた厚みが前記箱状のケース本体の内側の幅より小さく前記基板挿入用の開口から挿入可能な厚みであり,かつ,前記箱状のケース本体の内側の幅が前記一対の第1コネクタのうちの一方に前記第2コネクタを接続したときの前記一対の第1コネクタおよび前記第2コネクタの厚みに前記配線基板の厚みを加えた厚みよりも小さいことを特徴とする光ファイバ式検出器。

【請求項3】請求項2において,前記一対の第1コネクタに接続された第2コネクタは,一方の第1コネクタに対する結合力よりも他方の第1コネクタに対する結合力の方が小さく設定されている光ファイバ式検出器。

【請求項4】請求項1もしくは2において,前記第2コネクタは,前記一対の第1コネクタの端子部に接触する一対の端子部を備えている光ファイバ式検出器のアンプユニットまたは光ファイバ式検出器。」

(3)  審決の内容

ア 審決の内容は別添審決写し記載のとおりである。その理由の要点は,本件訂正を認めた上,訂正発明1~4はいずれも下記引用例記載の発明(引用発明1又は引用発明2)及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができた(特許法29条2項違反),等としたものである。

引用例:特開平1-184668号公報(発明の名称「識別装置」,出願人立石電機株式会社,公開日平成元年7月24日,甲7)

イ なお審決は,上記引用例の中から次のとおり引用発明1を認定し,引用発明1と上記訂正発明1との一致点及び相違点1~5を以下のとおりとした。

・ 引用発明1の内容

「識別装置のヘッド制御モジュール12-2であって,表面および裏面の対称位置で電気回路に接続された一対のコネクタ15a-2,15b-2と,その下方でガイドレール30に取り付けられて電気回路を収納する箱状のケースと,前記箱状のケースの両側壁に形成され,一対のコネクタ15a-2,15b-2が近接して臨む一対の接続用の開口と,一対のコネクタ15a-2,15b-2のうちの一方のコネクタ15a-2に接続されていると共に他のヘッド制御モジュール12-3に接続される中継コネクタ16とを備えた,識別装置のヘッド制御モジュール12-2。」

・ 一致点

いずれも「検出器の電子機器ユニットであって,表面および裏面の対称位置に配置されて内部回路に接続された一対の第1コネクタと,その下方でレールに取り付けられて内部回路が収納される箱状の電子機器ユニットのケースと,前記箱状の電子機器ユニットのケースの一対の壁面に形成され前記第1コネクタが近接して臨む一対の接続用の開口と,前記一対の第1コネクタのうちの一方の第1コネクタに接続されていると共に他の検出器の電子機器ユニットに接続される第2コネクタとを備えた,検出器の電子機器ユニット。」である点。

・ 相違点1

検出器の電子機器ユニットの種類に関して,訂正発明1においては,光ファイバからの光信号を光電変換して信号の処理を行う「光ファイバ式検出器のアンプユニット」であるのに対し,引用発明1においては,「識別装置のヘッド制御モジュール」である点。

・ 相違点2

一対の第1コネクタに関して,訂正発明1においては,「一枚の配線基板の表面および裏面の対称位置で,各々の接触端子が配置される面と同一面の電路に各々の実装用端子が半田付けされて取り付けられると共に,後記箱形のケース本体内で後記一対の壁面の内壁から内方で後記一対の接続用の開口に近接して臨むように設けられる」のに対し,引用発明1においては,係る事項が不明である点。

・ 相違点3

箱状の電子機器ユニットのケースに関して,訂正発明1においては,「箱状のケース本体の上方には前記一対の第1コネクタが取り付けられた前記配線基板が挿入される基板挿入用の開口を有し,該基板挿入用の開口の面積が前記一対の第1コネクタが取り付けられた前記配線基板の表面および裏面の各面の面積よりも小さくなるように形成されると共に,前記一対の第1コネクタが取り付けられた前記配線基板に略平行な一対の壁面を有し,該略平行な一対の壁面に沿って前記基板挿入用の開口から下方に前記一対の第1コネクタが取り付けられた前記配線基板が挿入される箱状のケース本体」と,「該箱状のケース本体の前記基板挿入用の開口を閉塞するカバー」とで構成され,「前記箱状のケース本体における前記一対の壁面の前記基板挿入用の開口から下方に離れた位置に形成され,前記一対の第1コネクタが取り付けられた前記配線基板が前記基板挿入用の開口から前記箱状のケース本体に挿入されたとき前記一対の第1コネクタが前記一対の壁面の内壁から内方で近接して臨む一対の接続用の開口」を備えるのに対し,引用発明1においては,その具体的構成が不明である点。

・ 相違点4

第2コネクタに関し,訂正発明1においては,「該一対の接続用の開口の1つを貫通して該1つの接続用の開口が形成された一方の前記壁面の内壁を越えて前記箱状のケース本体の内側に挿入され,前記一対の壁面の内壁から内方に位置する前記一対の第1コネクタのうちの前記1つの接続用の開口に近接して臨む一方の第1コネクタに前記一対の壁面の内壁から内方で接触端子によって接続されていると共に他の検出器のアンプユニットに前記箱状のケース本体の外側で接触端子によって接続される」のに対し,引用発明1においては,係る事項が不明である点。

・ 相違点5

箱状の電子機器ユニットのケースに収納される内部回路の厚みと箱状の電子機器ユニットのケースの幅との関係に関して,訂正発明1においては,「前記一対の第1コネクタの厚みに前記配線基板の厚みを加えた厚みが前記箱状のケース本体の内側の幅よりも小さく前記基板挿入用の開口から挿入可能な厚みであり,かつ,前記箱状のケース本体の内側の幅が前記一対の第1コネクタのうちの一方に前記第2コネクタを接続したときの前記一対の第1コネクタおよび前記第2コネクタの厚みに前記配線基板の厚みを加えた厚みよりも小さい」のに対し,引用発明1においては,係る事項が不明である点。

ウ また審決は,前記引用例の中から次のとおり引用発明2を認定し,引用発明2と訂正発明2の一致点を以下のとおりとした(相違点は上記イと同じ)。

・ 引用発明2の内容

「複数の識別装置のヘッド制御モジュール12-2,12-3を連結した識別装置であって,表面および裏面の対称位置で電気回路に接続された一対のコネクタ15a-2,15b-2と,その下方でガイドレール30に取り付けられて電気回路を収納する箱状のケースと,前記箱状のケースの両側壁に形成され,一対のコネクタ15a-2,15b-2が近接して臨む一対の接続用の開口と,一対のコネクタ15a-2,15b-2のうちの一方のコネクタ15a-2に接続されていると共に他のヘッド制御モジュール12-3に接続される中継コネクタ16とを備えた,識別装置。」

・ 一致点

いずれも「複数の検出器の電子機器ユニットを連結した検出器であって,各電子機器ユニットは,表面および裏面の対称位置に配置されて内部回路に接続された一対の第1コネクタと,その下方でレールに取り付けられて内部回路が収納される箱状の電子機器ユニットのケースと,前記箱状の電子機器ユニットのケースの一対の壁面に形成され前記第1コネクタが近接して臨む一対の接続用の開口と,前記一対の第1コネクタのうちの一方に接続されていると共に他の電子機器ユニットに接続される第2コネクタとを備えた,検出器。」である点。

エ また審決は,引用発明2と訂正発明3との一致点及び相違点6を以下のとおりとした(相違点は上記イと同じ)。

・ 一致点

いずれも「複数の検出器の電子機器ユニットを連結した検出器であって,各電子機器ユニットは,表面および裏面の対称位置に配置されて内部回路に接続された一対の第1コネクタと,その下方でレールに取り付けられて内部回路が収納される箱状の電子機器ユニットのケースと,前記箱状の電子機器ユニットのケースの一対の壁面に形成され前記第1コネクタが近接して臨む一対の接続用の開口と,前記一対の第1コネクタのうちの一方に接続されていると共に他の電子機器ユニットに接続される第2コネクタとを備えた,検出器。」である点。

・ 相違点6

訂正発明3は,「一対の第1コネクタに接続された第2コネクタは,一方の第1コネクタに対する結合力よりも他方の第1コネクタに対する結合力の方が小さく設定されている」のに対し,引用発明2では,中継コネクタ16(第2コネクタ)の結合力が,一方のコネクタ15a-2(一方の第1コネクタ)に対する結合力よりも他方のコネクタ15b-2(他方の第1コネクタ)に対する結合力の方が小さく設定されているかどうか不明である点。

(4)  審決の取消事由

しかしながら,審決には以下に述べるような誤りがあるから,審決は違法として取り消されるべきである。

ア 取消事由1(一致点認定の誤り1)

(ア) 審決は,訂正発明1の「光ファイバ式検出器のアンプユニット」と,引用例(甲7)に記載された「多チャンネル用識別装置」の「ヘッド制御モジュール」が,「検出器の電子機器ユニット」である点で一致すると認定したが,誤りである。

訂正発明1の光ファイバ式検出器のアンプユニットと引用例に記載された「識別装置のヘッドの制御モジュール」とは機能も使途も異なる別個の電子機器であって,引用例に「検出器のアンプユニット」は開示も示唆もされていないから,この点を一致点と認定したのは誤りである。

(イ) 訂正発明1は,工場の生産ライン等の制御盤等内で密に連接して用いられる多数の検出器のアンプユニットについて,ケースの薄型化,構造の簡素化延いては強度・気密性の向上という目的を達するためにされたものである(本件訂正後の明細書〔甲13の2〕段落【0002】,同【0008】,同【0028】,【図6】参照)。

すなわち訂正発明1においては,従来技術における技術的課題を,基板挿入用開口(ケースの割れ面)をケース本体の上方に設けて該基板挿入用の開口の面積が基板の表裏面の各面の面積よりも小さくなるように形成し,可及的に小さくなるようにしつつ,一方,当該基板挿入用開口から一対のコネクタが表裏の対称位置に半田付けされた配線基板を挿入可能にするとともに,各検出器のアンプユニット同士の電気的接続に確実を期すべく,従来技術におけるコネクタをケース本体の側壁の「基板挿入用の開口から下方に離れた位置に形成」された接続用開口に,「一対の壁面の内壁から内方で近接して臨むように設けられる一対の第1コネクタ」と,該接続用の開口を貫通して「前記壁面の内壁を越えて前記箱状のケース本体の内側に挿入され」,「一対の壁面の内壁から内方で接触端子によって」上記の一対の第1コネクタに接続される「第2コネクタ」に分割して設けるという解決手段を採用した。これにより訂正発明1は,「一対の第1コネクタ付の配線基板を本体ケースに挿入した後に,第2コネクタを第1コネクタに接続することができるから,第1および第2コネクタを含めた配線基板4の厚みよりもケースを薄くすることができる。しかも,第2コネクタをケース本体の接続用の開口から挿入して第1コネクタに接続することができるので,従来と異なり,切欠部を設ける必要がないから,ケース本体の構造が簡素になる。そのため,ケースの強度や気密性が向上する」との作用効果を奏する(訂正明細書段落【0028】 )。

そして,本件出願当時の電子機器に関する技術水準を記載した甲21(「制御機器・制御システムの現状と将来動向」)の117頁に,検出用スイッチ(検出器のアンプユニット)の技術動向の第一項目として「①軽薄短小 検出スイッチの取付場所は機械や設備が小型化,高密度化されるなかでますます小さくなっています。また,小型化の可能性があればさらに応用の範囲も拡大できる状況にあります」と記され,また,第三項目に「③高信頼性 …検出用スイッチは他の機器に比較して高い信頼性が求められる機器であるといえます。その理由は検出用スイッチが使用される環境が,温度の変化や,水,油,ごみ,ほこり,そして振動,衝撃さらには電気的なノイズなど種々の環境ストレスの高い場所であり,多くの故障要因に対して対応しなければならないからです」と記載されている。

このように,検出器のアンプユニットにおいて薄型化(小型化,高密度化)が基本的要請とされ,且つ,気密性をできるだけ確保すること,すなわち空冷用の通気孔などは設けないことは本件特許出願当時の技術常識であった。

(ウ) 一方,引用例(甲7)に記載された識別装置のヘッド制御モジュールには検出器のアンプユニットのような寸法上の制約はない。

そもそも引用例に記載された識別装置はID(Identification)コントローラの技術分野に属するものであって,検出器のアンプユニットとは技術分野が相違する。そのコントローラ本体には上位通信I/F回路と主制御部(CPU)と下位通信I/F部を備える重厚長大な装置である。識別装置におけるハード構成の複雑さは光ファイバ式検出器のアンプユニットの比ではない。内部には多数の素子や配線がとぐろを巻くかのように隙間なく詰め込まれている(甲18「OMRON TECHNICS 90 IDシステム特集」1989年〔平成元年〕)。

そして,引用例のヘッド制御モジュールは,上位コンピュータや主制御コントローラと共に,監視室等,生産ラインから隔離された室温環境下で用いられるものであり,また,工場や生産ラインのような粉塵や油の飛沫がある場所には設置されない(ユーザーズマニュアル,甲17)。

そうすると,使途や設置環境,特に,工場の生産ライン等に近接して密に用いることが予定されていない識別装置のアンプユニットには訂正発明1のような「ケースを大型化できない基本的制約(薄型化の要請)」も,薄型のままで「強度と気密性を向上する」という課題も存在しない。

(エ) そうすると引用例(甲7)の「識別装置」は,「検出器のアンプユニット」と別異の電子機器であることは明らかである。

審決は,「引用発明1の『識別装置』は,工具やパレット等の物品を識別するものであって…,物品の識別は,物品の種類を示すデータ信号を検出することによって行われることは明らかであることから,一種の検出器である」としたが(19頁23行~26行),「検出器」の普通の用語としての意味とも矛盾し,電子機器業界の当業者の常識とも反する誤った認定である。

「検出器」の普通の用語としての意味は,「物体,放射線,化学物質などの存在を検出するのに用いる装置あるいはシステム」(科学技術用語大辞典,甲19)である。そして,「検出」の普通の用語としての意味は「検査して見出すこと」である(広辞苑,甲20)。つまり,「検出器」とは「物体等の存在を検査して見出す装置あるいはシステム」を意味する学術用語である。

そうすると訂正発明1の「検出器」とは被検出物の存在(通常は工場や検査ライン上における到来。訂正明細書段落【0002】)を検査して見出すために用いられる装置を意味することは用語自体から自明である。訂正発明1は,そのアンプ部という意味で「検出器のアンプユニット」という語を用いている。

これに対し,引用例(甲7)の「識別装置」とは,上位コンピュータの指示によりR/W(注:リード/ライト)ヘッドをアクセスして,非接触でDC(注:データキャリア)のメモリ内容を読み書きする装置である(1頁右欄20行~2頁左上欄3行参照)である。つまり,識別装置とは物品の到来を能動的に「検査して見つけ出す」ものではなく,物品が到来したときに,別個に設けられた検出器によってその到来(存在)を検出せしめ,当該検出信号をトリガーに「上位コンピュータからの指令」を受けて,被識別物(「被検出物」ではない)に付されたデータ記憶ユニットのメモリとの間でデータの非接触通信を行う「通信装置」である。

さらに,「識別装置(IDコントローラ)」と「検出器のアンプユニット」が電子機器として別の分類に属することは当業者の技術常識である。

電子機器の当業者団体(社団法人日本電気制御機器工業会)が本件出願前の1995年〔平成7年〕3月に公表した文献である甲21(制御機器・制御システムの現状と将来動向)の92頁には,「第4章 制御技術動向目次」において,「4.検出用スイッチ」と「5.システム機器」中の「5.4 IDシステム」とは,別個の制御装置に分類されている。このことは,検出用スイッチ即ち「検出器のアンプユニット」と,IDシステム即ち「識別装置」とが,当業者にとって別異の電子機器として理解されていることの証左である。

引用例(甲7)に開示された「識別装置」は,データキャリアのメモリとリード/ライトヘッドとの非接触通信によりデータを交信する通信装置であって,「物体等の到来(存在)を検査して見出す装置」即ち「検出器」ではない。従って,引用例に訂正発明1の「検出器のアンプユニット」が記載されているとはいえない。

データキャリアとリード/ライトヘッドとの間でデータ信号を「通信」する装置を,「物体,放射線,化学物質などの存在を検出する(見出す)のに用いる装置」(甲19,20)と同義に解することは常識に反するうえ,「検出スイッチ」(検出器のアンプユニット)と「識別装置(IDシステム)」とを異なる電子機器として分類する当業者の技術常識(甲21)にも反するものである。

(オ) 以上のとおりであり,引用例に開示された「多チャンネル用の識別装置」(識別装置のヘッド制御モジュール)を訂正発明1の「検出器」の「電子機器ユニット」に該当するものとし,引用発明1と訂正発明1の一致点であるとした審決の認定は誤りであり,これが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

イ 取消事由2(一致点認定の誤り2)

(ア) 審決は引用例に「…表面および裏面の対称位置で電気回路に接続された一対のコネクタ15a-2,15b-2」と「一対のコネクタ15a-2,15b-2のうちの一方のコネクタ15a-2に接続されている…中継コネクタ16」とを備えた識別装置のヘッド制御モジュール12-2」とが開示されているとし(審決19頁2行~3行,6行~9行),「引用発明1の『一対のコネクタ15a-2,15b-2』は,その機能及び構造からみて,本件訂正発明1の『一対の第1コネクタ』に相当し,以下同様に,引用発明1の『一方のコネクタ15a-2』は本件訂正発明1の『一方の第1コネクタ』に,……『中継コネクタ16』は本件訂正発明1の『第2コネクタ』に,それぞれ相当する」とした(審決19頁29行~35行)。

しかし,引用例(甲7)に開示された15a-2,15b-2,及び,中継コネクタ16は,訂正発明1の「一対の第1コネクタ」のような「後記箱状のケース本体内で後記一対の壁面から内方で後記一対の接続用の開口に近接して臨むように設けられる第1コネクタ」ではなく,「第2コネクタ」は,「接続用の開口を貫通して壁面の内壁を越えてケース本体の内側に挿入され,…壁面の内壁から内方に位置する第1コネクタ…に壁面の内壁から内方で接続されている」との特徴を備えないから,審決が「表面及び裏面の対称位置に配置されて内部回路に接続された一対の第1コネクタ」と「前記一対の第1コネクタのうちの一方に接続」された「第2コネクタ」を有する点で一致するとした認定は誤りであり,この誤りが,審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

(イ) 上記を詳述すると,訂正発明1の「一対の第1コネクタ」は「一対の壁面の内壁から内方で」,「一対の接続用の開口」に近接して臨むことを特定事項とするコネクタである。また,第2コネクタは,「一対の接続用の開口の1つを貫通して該1つの接続用の開口が形成された一方の前記壁面の内壁を越えて前記箱状のケース本体の内側に挿入され」,「前記一対の第1コネクタのうちの前記1つの接続用の開口に近接して臨む一方の第1コネクタに前記一対の壁面の内壁から内方で接触端子によって接続されている」ことを特定事項とするコネクタである(訂正発明1の特許請求の範囲の記載)。

このような構成が訂正発明1において採用されているのは,従来の検出器のアンプユニットの形態では訂正発明1の目的である「コネクタを含む配線基板の厚みよりもケースを薄くし得ると共に,ケースの強度および気密性が得られる電子機器ユニット」を実現することができないからである(訂正明細書段落【0008】参照)。

一方,引用例(甲7)に記載された「コネクタ15a-2,15b-2」及び「中継コネクタ16」は,明らかに,訂正発明1の「第1コネクタ」及び「第2コネクタ」の構成を備えない。すなわち,引用例(甲7)には,「…各ヘッド制御モジュール…の両側壁に,ソケット型のコネクタ15a-1,15a-2,…,15a-7,15a-8及び15b-1,15b-2,…,15b-7,15b-8が設けられている」と記載され(3頁右上欄5行~9行),第2図に,コネクタ15b-1がヘッド制御モジュール12-1の外側面と面一に貼着されている構成が明示されているからである。コネクタ15b-1は,モジュールの「壁面の内壁から内方」において「接続用の開口に近接して臨む」ものではない。

従って,コネクタ15b-1と隣接するヘッド制御モジュールのコネクタ15a-2とを接続する「中継コネクタ16」がモジュールの「壁面の内壁を越えて」内壁から内方においてコネクタ15b-1と接続されないことも明らかである。コネクタ15b-1,コネクタ15a-2はそれぞれヘッド制御モジュール12-1,12-2の外壁面と面一に設けられているからこそ,引用例(甲7)の第1図のとおり,各モジュール間に介挿される中継コネクタ16は外壁面からはみ出し,モジュールを接続したとき各モジュール間に中継コネクタの厚み相当分の隙間が生じているのである。

このように,引用例(甲7)には,「一対の壁面の内壁から内方で…一対の接続用の開口に近接して臨む一対の第1コネクタ」は開示されておらず,「壁面の内壁を越えて前記箱状のケース本体の内側に挿入され,前記一対の壁面の内壁から内方に位置する前記一対の第1コネクタのうちの前記1つの接続用の開口に近接して臨む一方の第1コネクタに前記一対の壁面の内壁から内方で接触端子によって接続されている」第2コネクタも開示されていない。

引用例においてヘッド制御モジュールの外側壁面上でコネクタ15b-1と中継コネクタ16とを接続させる構成が採用されているのには技術的理由が存在する。引用例に開示された識別装置(IDシステム)のコントローラには多数の通気孔が設けられているところ,通気孔は,電子機器における空冷用の常套手段であることが当業者にとって自明である。プログラマブルコントローラに関する甲2(特開平2-285698号公報)の2頁右下欄1行~5行における「ケース10は…空冷用の通気孔11を上下の面に有している」との記載は端的にこのことを表している。即ち,識別装置のコントローラは「上位コンピュータと送受信データ信号及び送受信制御信号を授受する上位I/F回路41,CPU42,メモリ43,電源回路33及びヘッド制御モジュール電源45等から構成され」(甲7,3頁左下欄19行~右下欄2行),多量の送受信データの処理によって発熱するため,電解コンデンサ等の素子の寿命劣化やCPUの誤作動を防止するために空冷用の通気孔を設けることが必須である。甲17の5-1頁における「■盤内の取付位置」「・周囲温度が55℃以上になるときは,強制ファンまたはクーラーを設置してください」との記載は,識別装置が熱を発するため一定温度以上で使用できないことの証左である。

審決は,「周知の構造と寸法を備えたケース」即ち甲8~10等に開示された光電スイッチのケースを引用発明1におけるケースとして採用した際には,「…一対のコネクタ15a-2,15b-2(一対の第1コネクタ)は,箱形のケース本体内で一対の壁面の内壁から内方で後記一対の接続用の開口に近接して臨むこと」は明らかであるとするが(22頁下4行~下2行),甲8~10(周知例。特開平4-174924号,同平5-167418号,同平5-268043号)等のケースを識別装置のヘッド制御モジュールに代えることは当業者がなし得ない改変である。

(ウ) このように,訂正発明1の「一対の第1コネクタ」,「第2コネクタ」に該当する構成は引用例に開示も示唆もされていない。また,引用例に開示された「コネクタ(15a-2,15b-2)」ないし「中継コネクタ16」を訂正発明1の「一対の第1コネクタ」ないし「第2コネクタ」のように改変することには技術的な障害が存在する。

ウ 取消事由3(一致点認定の誤り3)

(ア) 審決は,引用例のヘッド制御モジュールの「…箱状のケースの両側壁のコネクタが近接して臨む位置には,コネクタを連通させるための接続用の開口が設けられている」とした(18頁35行~36行)。

しかし,引用例(甲7)には「接続用の開口」が開示されていないばかりか,引用例の「コントローラ本体とヘッド制御モジュールの接続状態を説明するための拡大斜視図」である甲7の第2図においては,筐体外壁表面から一段下がった段差部にコネクタ14,コネクタ15b-1が貼着されている態様が明示されている。

そうすると審決が「前記箱状の電子機器ユニットのケースの一対の壁面に形成され前記第1コネクタが近接して臨む一対の接続用の開口」(20頁9行~10行)を有する点で一致するとの一致点を認定したのは誤りであり,その誤認は審決の結論に影響を及ぼすものである。

(イ) そして上記イ(イ)で述べたように,引用例(甲7)には,「…各ヘッド制御モジュール12-1,12-2,…,12-7,12-8の両側壁に,ソケット型のコネクタ15a-1,15a-2,…,15a-7,15a-8及び15b-1,15b-2,…,15b-7,15b-8が設けられている」(3頁右上欄5行~9行)と記載され,第2図に,コネクタ15b-1がヘッド制御モジュール12-1の外側面と面一に貼着されている構成が明示されている。

すなわちコントローラ本体11ないしヘッド制御モジュール12-1の,紙面上右側外壁面からコネクタの幅寸法に相当する長さ分段落ちする矩形状の段差部があり,当該段差部分に,段差部分よりも僅かにサイズの小さなソケット型のコネクタ14ないしコネクタ15b-1が貼着されている。上記の段差部分は,図面の記載上,筐体の外側壁面から一段下がった筐体外側壁の一部であることは明白であり,筐体に「『コネクタ』を連通させるための接続用の開口」を設けたものではない。引用例にコネクタを臨ませる「接続用の開口」が存在しないことは第5図によっても裏付けられる。

またヘッド制御モジュールの「『コネクタ(第1コネクタ)』がどのようにして内部回路と接続されているのか」につき引用例には明記されていない。しかし引用例(甲7)の第2図には,コネクタ14とコネクタ15a-2,15b-2が一対の壁面に「近接して臨む一対の接続用の開口」が開示されておらず,代わりに,側壁面に貼着されているものが示されている。ここから技術的に合理的に推論することができるコネクタと内部回路との接続の態様は,コネクタのピンコンタクトが筐体を貫通してモジュール内部に設けられた二枚の基板のそれぞれに例えばスルーホールを介して半田付けされ,基板上に形成された配線を介して少なくとも二枚の内部回路基板等(「通信制御回路51」及び「リード/ライトヘッドと送受信データ信号及び送受信制御信号の授受を行うヘッドI/F回路53」並びに「デコーダ52」。甲7の3頁右下欄5~9行)と電気的に接合されていることは明らかである。

そうすると,審決が挙げる「ヘッド制御モジュール12-2のコネクタ15a-2,15b-2は,箱状のケースの中に収納された電気回路と接続されている」との事実は引用例に「接続用の開口」が開示されている根拠となり得ない。引用例のヘッド制御モジュールには開口部がなく,筐体の壁面の段差に貼り付けられたコネクタはスルーホールを介して内部回路基板に接続されていると解するのが引用例の記載から導かれる適切な引用発明1の内容である。

(ウ) 以上のとおりであり,引用例のヘッド制御モジュールが「コネクタ」を連通させるための接続用の開口を設けているとの審決の認定は誤りであり,引用発明1と訂正発明1とが「箱状のケース本体の壁面に形成され前記第1コネクタが近接して臨む一対の接続用の開口」を有するという一致点の認定も誤りである。この事実認定の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

エ 取消事由4(相違点2の判断の誤り)

(ア) 審決は,訂正発明1と引用発明1の相違点2につき,「電子機器の内部回路として用いられる電気回路を配線基板上に構成すること,配線基板の表面および裏面の両側に回路部品を取り付けること,半田付けによって回路部品の実装用端子を電路に取り付けることは,いずれも,慣用技術にすぎないものである。また,電子機器の製造効率やコストの観点からみて,電気回路はできるだけ集約させて構成すべきことは明らかであるから,特別な必要性がない限り,内部回路は一枚の配線基板上に構成されるものといえる。そうすると,引用発明における,『表面および裏面の対称位置で電気回路に接続された一対のコネクタ15a-2,15b-2』を,一枚の配線基板の表面および裏面の対称位置で,各々の接触端子が配置される面と同一面の電路に各々の実装用端子が半田付けされて取り付けられるものとすることは,当業者であれば適宜なし得たことといえる」と判断した(21頁35行~22頁8行)。

(イ) しかし審決の認定には論理の飛躍がある。すなわち,「半田付けによって回路部品の実装用端子を電路に取り付けること」は「慣用技術にすぎない」との認定は,明らかに,回路基板の片面(通常は表面)に回路部品を半田付けできることを述べたものである。しかるに,素子等の回路部品を基板の片面に半田付けすることが仮に電子部品分野における慣用技術であるとしても,引用例に記載されたヘッド制御モジュールの内部構造を知らずして,筐体の両側壁に設けられた「コネクタ15a-2,15b-2」を,一枚の配線基板の表面および裏面の対称位置に半田付けできることが可能であるなどとは結論できない。

引用例(甲7)の第3図(物品識別装置のコントローラ本体とヘッド制御モジュールの回路構成を示すブロック図)には,ヘッド制御モジュール内に「通信制御回路51」及び「ヘッドI/F回路53」並びに「デコーダ52」が設けられていることが記載されている。「通信制御回路51」には「割り込み信号」を送出する「IRQ端子」,ヘッドセレクト信号を受信する「HS端子」,アドレス信号を受信する「A0~A3」端子,データを受信する「D0~D7」端子,エネィブル信号を受信する「E」端子,及びリード/ライト信号を受信する「R/W」端子が設けられている(3頁右下欄12行~4頁左上欄16行)。また,「ヘッドI/F回路53」においては,リード/ライトヘッドとの間の「送受信データ信号」の通信,同じく「送受信制御信号」の通信,更にリード/ライトヘッドに対する「ヘッド駆動電源」の供給が行われることが記載されている。そして,デコーダが,リード/ライトヘッドから受信したエンコーダ信号をデコード(復号化)する装置であることは技術常識である。このように,引用例には,ヘッド制御モジュールが,多数の端子を設けた少なくとも二枚の回路基板(「通信制御回路51」及び「ヘッドI/F回路53」),及び該基板のひとつに接続されて信号の復号化を行うデコーダを有する旨が開示されている。

このような二枚基板の回路構成を,側壁に設けられたコネクタが「配線基板の表面および裏面の対称位置で電路に半田付けして取り付けられた」構成に改変することが容易であるとする根拠は存在しない。電子機器の内部回路を改変して高密度化することは当業者が知恵を絞って試行錯誤の末にようやく達成できるものであって,特段の根拠もなく,引用例の二枚基板に貼り付けられた「一対のコネクタ(15a-2,15b-2)」が一枚の配線基板の表裏面の対称位置に容易に配置できるなどといえないことは明らかである。

(ウ) 審決は「…電子機器の製造効率やコストの観点からみて,電気回路はできるだけ集約させて構成すべきことは明らかであるから,特別な必要性がない限り,内部回路は1枚の配線基板上に構成される」とするが,審決が根拠とする甲9(特開平5-167418)には,「回路基板13は,水平板13aと,この水平板13aの下面から相平行に垂設された2枚の垂直板13b,13cをもって,上記ケース11内に内装可能な大きさの略コの字形に形成され」ることが記載され(段落【0026】,【図5】),また甲10(特開平5-268043)の【図7】には,二枚の「回路基板15」が明記されており,根拠を欠くものである。

コネクタ15a-1,15b-1を両側壁に設けた引用例の開示からして,内部回路基板を一枚の配線基板としたうえで,各コネクタの実装用端子が該配線基板の表裏の電路に半田付けされて取り付けられる構成にすることは,引用例の内部回路構造上無理である。なぜなら,ヘッド制御モジュール12-1のコネクタ15a-1,15b-1は,筐体側壁の外壁面からコネクタの幅寸法に相当する長さ分だけ段落ちする矩形状の段差部分に貼着されており(第2図),従って,内部の回路基板とは,コネクタのピンコンタクトを段差部分に挿入して接続される構成だからである。

(エ) 他方,上記のようなヘッド制御モジュールの複雑な回路配置に対して,検出器のアンプユニット(光電スイッチ)の内部構成は単純明快である。審決が周知の技術として引用する特開平4-174924(甲8)には,「第1図,第2図において,プリント配線基板21には表示素子22,その他発光側と受光側の電気回路を構成する抵抗器などの回路部品が搭載」されるという簡易な構成が開示されている(4頁右上欄3行~5行)。

このような簡易な回路構成であるからこそ,逆に,検出器のアンプユニットにおいては更なる軽薄短小化(薄型化,高密度化)が要請されるのである(甲8,甲21)。

用途も回路構成も全く異なる識別装置のヘッド制御モジュールの内部回路を,例えば甲8の第2図に示されるプリント配線基板21のように容易に単純化できるとする根拠はない。引用例と甲8とを比較すれば,引用例においては,識別装置のヘッド制御モジュール内に少なくとも二枚の基板とデコーダを有し,コネクタは各二枚の回路基板に接続されている(半田付け実装ではない)ことが分かり,甲8の光電スイッチのような単純な回路構造とは明確に異なることは明らかである。基本的構成が全く異なるにも関わらず引用例の筐体両側壁に設けられたコネクタを「一枚の配線基板の表面および裏面の対称位置」に設けるとの改変は物理的に不可能であり,当業者は到底到達できない。

従って,「コネクタ15a-2,15b-2」を配線基板の表裏面の対称位置で電路に半田付けすることが当業者にとって適宜なし得た事項であったとはいえないことは明らかである。

(オ) 上記のとおり,基板の両面において回路部品を取り付けること,その際半田付けすることが慣用技術であったとしても,その慣用技術に基づき,一対のコネクタを「一枚の配線基板の表面及び裏面の対称位置で,…電路に各々の実装用端子が半田付けされて取り付けられる」構成とすることが容易であったとは認められない。

審決の相違点2に関する判断は誤りであり,これが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

オ 取消事由5(相違点3ないし5についての判断の誤り)

(ア) 審決は,訂正発明1と引用発明1との相違点3に係る構成について,甲8,9に記された「光電スイッチ(検出器のアンプユニット)」のケース本体を「周知の構造と寸法とを備えたケース」と認定することによって,該「周知」のケースを引用例のヘッド制御モジュールのケースとして採用すれば,相違点3の構成を備えたものになるとしたものである。

しかし引用例のヘッド制御モジュールはその第2図,第3図に開示されているとおり「両側面に設けられたコネクタ」が二枚の基板に内部で接続される構成であることが明らかであるところ,このようなコネクタに接続された基板を「接続用開口を上部に設けた」甲8,9のケース本体に設置することは,物理的に不可能か極めて困難である。引用例の筐体をもって甲8,9の光電スイッチのケース本体に置換容易であるとした審決の判断は誤りである。

更に,「識別装置のヘッド制御モジュール」は強制空冷のための強制ファンやクーラー,或いは空冷用の通気孔,若しくは装置表面から放熱するためのスペーサを要するほど放熱性が要求されるものであって,これに対し,甲8,9に示される光電スイッチのケース本体は気密性の向上(水,油,ほこりなど種々の環境ストレスの高い場所に設置されるため通気孔を設けられない。甲21)を基本的要請とするものである。審決は,放熱性が要求される識別装置のヘッド制御モジュールのケースとして気密性が求められる(通気孔を設けることなどあり得ない)光電スイッチのケースを採用することが容易であるという不合理な判断をしている。

また審決が引用した甲2(特開平2-285698号公報)は,箱状のケース本体の基板挿入用開口に訂正発明1における「略平行な一対の壁面に沿って前記基板挿入用の開口から下方に前記一対の第1コネクタが取り付けられた前記配線基板が挿入される」構成とは無関係の,「プリント基板20はケース10の内部に一枚収容されるもので,開口部側の端部には信号接続用のコネクタ21,22が位置を隔てて設けられている」(2頁右下欄14行~17行)というものであり(第1図),甲8,9と同様に引用例の識別装置に適用できないものである他,配線基板の表面および裏面に半田付けされた一対のコネクタを挿入するケース本体に想到するに際して当業者に何らの教示も付与するものではなく,引用に適した文献ではない。

これれらの判断の誤りは審決の結論に影響を及ぼすものである。

(イ) 引用例(甲7)には,「…各ヘッド制御モジュール12-1,…の両側壁に,ソケット形のコネクタ15a-1…及び15b-1…が設けられている」と記載されている(3頁右上欄5行~9行)。

そして,「物品識別装置のコントローラ本体とヘッド制御モジュールの接続状態を説明するための拡大斜視図」である第2図にはヘッド制御モジュールの筐体外側壁面から僅かに落ち込んだ段差部にコネクタが貼着される状態が記されている。

さらに引用例の第3図には,ヘッド制御モジュールが,「通信制御回路51」と「ヘッドI/F回路53」という二枚の回路基板を備えていることが開示されている。すなわち引用例には,ヘッド制御モジュールが筐体外部の外側壁にコネクタを設けており,筐体と基板に設けたスルーホールを介して,コネクタのピンコンタクトが配線基板に接続されていることが開示されている。

仮にヘッド制御モジュールの筐体が「開口」を有していると解釈し,第2図におけるコネクタ14,15a-1の周囲に露出しているのが筐体の開口越しに見える「基板」の一部であったとすれば,ヘッド制御モジュール内に備わる少なくとも二枚の基板(通信回路制御基板とヘッドI/F回路基板)にコネクタa-1とコネクタb-1のピンコンタクトが接続されていることから,コネクタの周りに見えるのは基板の一部露出面ということになる。

(ウ) 以上のように,引用例の第2図,第3図には,コネクタ15a-1及びコネクタ15b-1が,筐体の一部である段差部を介して,筐体の開口越しに,それぞれ各一枚(計二枚)の基板に接続されていることが開示されている。

そして,ヘッド制御モジュールのケースを甲8,9,2を根拠として「配線基板が該配線基板に略平行な一対の壁面に沿って挿入される基板挿入用の開口を有する箱状のケース本体と,該箱状のケース本体の前記基板挿入用の開口を閉塞するカバーとで構成する」ことは,基板挿入用の開口を上側に設けた場合,基板を筐体に固定する工程は困難である。そうすると,引用例のヘッド制御モジュールにはコネクタが取り付けられた少なくとも二枚の回路基板が備わるため,この基板をヘッド制御モジュールの内側に固定するためには「上方の基板挿入用開口」から挿入する方法は容易に採用し得ない。引用例において基板を設置するための最も自然且つ合理的なケースの構造は,ケースを縦に割って側壁側に大きく開口させ,開口方向と平行に基板を収納し,ボス孔等にネジ止めする構造である。連結使用の光電スイッチないし電子機器用筐体においては基板の面積よりも大きな割れ面を設ける(縦割り)ことが出願時の技術常識であったと解するのが妥当である。従って,引用例のヘッド制御モジュールを縦割りにせず甲8,9,2のような上方開口に改変することは出願当時の当業者の技術常識に反する。

このことは,引用例の開示に基づく限り,二枚基板を筐体内部に固定するためには側壁を平行に縦割りすることによって大きな開口を設けたケースを採用するしかなく,相違点2に係る「上方に配線基板が挿入される開口を有すると共に…前記基板挿入用の開口から下方に前記配線基板が挿入される箱状のケース」を採用できないことは当業者にとって自明である。このことは,引用例に開示されたヘッド制御モジュールのケースとして,甲8,9,2により「周知」とされるケースを適用することが出来ない技術的阻害要因が存在することを意味する。

上方が開口したケースは二枚の基板をケース内部に固定することが困難であると認識されていたことは明らかであって,このようなケースを引用例のヘッド制御モジュールに適用した場合,作業の困難性によって生産効率が大きく低下すると予測されたと解されるのである。従って,上方が開口したケースをヘッド制御モジュールに適用することには,技術的な阻害要因があったというべきである。

審決が「周知の技術」と認定した甲8,9の光電スイッチのケースを常時空冷が必要な識別装置のヘッド制御モジュールのケースとして採用することは,当業者が適宜なし得る事項どころかヘッド制御モジュールの寿命劣化等をもたらす不自然な改変であることは明らかである。

従って,当該阻害要因を看過して,光電スイッチのケースを「引用発明1」に容易に採用できるとした審決の判断は,相違点3~5の判断を誤ったものである。上方で開口した二枚基板のヘッド制御モジュールにおいて甲8,9,2に開示されたケースを採用したならば,基板をケースの内部に挿入固定できないという問題が生じ,この適用阻害要因をも看過して,甲8他に開示されたケースを引用例に記載されたヘッド制御モジュールに適用することが当業者が適宜なし得た事項であるとした審決の判断は誤りである。

審決は,「…あらゆる種類のケースにおいて,その寸法には,収容物を収容可能であって必要以上に大きすぎないことが求められることは明らかである」として,「周知の技術」を識別装置のヘッド制御モジュールのケースに適用した場合は「一対のコネクタ」の厚みに配線基板の厚みを加えた厚みがケース本体の内側の幅より小さくなるものが当然選択されるとするが(審決22頁24行~32行),この判断は,訂正発明1の構成を知ったからこそいえる後知恵である。雌型コネクタ107と雄型コネクタ108が対称位置に取り付けられた本件従来技術の検出器のアンプユニット用基板を,ケースの厚みを大きくせず且つ気密性の低下を抑止しつつ基板に挿入するという訂正発明1の課題を認識せずして,「第1コネクタ」と「第2コネクタ」の分割構造及び一対の第1コネクタを上方の基板挿入用開口から挿入可能なケースを容易に選択できるとはいえない。

(エ) 以上のとおり,審決は,引用例に開示された事項(通信制御回路基板とヘッドI/F回路基板という二枚の基板が側壁内側に固定され,両側壁にソケット形コネクタが設けられる)からして,「上方に基板挿入用開口を有するケース本体」を引用例のヘッド制御モジュールに採用することは困難である(基板を固定する作業が困難である)という自明事項を看過し,安直に,甲8,9,2の光電スイッチのケースを採用できるという誤った判断をした。そしてまた,放熱性が要求され空冷のための工夫が必要のある識別装置のヘッド制御モジュールに,気密性の向上が要請され壁面に開口を設けることが明らかに禁忌である光電スイッチのケース(甲8,9)を容易に適用できるという当業者にとって極めて不自然な判断をした。

これに基づき相違点3ないし5が容易想到であるとした判断は誤りであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

カ 取消事由6(訂正発明2の進歩性についての判断の誤り)

(ア) 審決は,訂正発明2と引用発明2との一致点を上記第3,1(3)ウのとおり認定したが,そこでは(ア)「複数の検出器の電子機器ユニットを連結した電子機器」であるとし,(イ)「表面及び裏面の対称位置に配置される一対の第1コネクタ」を有するとし,(ウ)「第1コネクタが近接して臨む一対の接続用の開口」を有するとし,(エ)「前記第1コネクタのうちの一方で接続された…第2コネクタとを」備えているとしてそれぞれ両者の一致点であるとしたうえで,(オ)訂正発明1と同様の理由で「引用発明2」と周知技術から訂正発明2に想到することは容易であるとした(24頁21行~32行)。

(イ) しかし,上記(ア)の認定が誤りであることは,取消事由1で述べたとおりである。また,(イ)及び(エ)の認定が誤りであることは,取消事由2で述べたとおりである。また,(ウ)の認定が誤りであることは,取消事由3で述べたとおりである。そして,(オ)の判断は,取消事由4,5で述べたとおり成り立たない。

そうすると訂正発明2が本件出願前の容易想到であったという結論は明らかに誤りであり,この誤りは審決の結論に影響を及ぼすものである。

キ 取消事由7(相違点4についての判断の誤り)

(ア) 訂正発明3に関する想到容易の結論は,訂正発明1に関する誤った認定判断に基づくものであるから,審決は取消しを免れない。

(イ) また,審決は,訂正発明3において付加された要件(相違点6)について,「両端に結合部を有するコネクタを分離した際には,必ず,どちらかの結合が先に外れるものであって,先に外れた方の結合部は外れなかった結合部に比べ,結合力が小さくなっているものといえる」とし,相違点6を訂正発明3のようにすることは,想到容易であると判断した(25頁下7行~下3行)が,誤りである。

不意に離脱力が加えられた場合に,審決が述べるように片側が先に外れるとしても,これは予め一方の結合力を他方の結合力と異なるように設定してあるからではなく,力の加わる方向やタイミングによって同一の結合力であっても離脱の順序が異なることは自明であるからである。現に,審決が述べる上記現象の際,特定の一方側が必ず先に外れるとは限らない。

しかし訂正発明3においては,アンプユニットの交換作業性向上という積極的目的をもって,2つのコネクタに対するいずれか特定の一方側における結合力の大小を意図的に「設定」するという構成を採用し,この構成により「第2コネクタにおける一方の第1コネクタに対する結合力よりも,他方の第1コネクタに対する結合力の方を小さく設定しておけば,各電子機器ユニットを分離した際に,第2コネクタが所期の第1コネクタに結合された状態となるので,電子機器ユニットの交換作業が容易になる」との作用効果を奏するものである。

このような構成及び作用効果は明らかに引用例に開示も示唆もされておらず,審決が指摘する「必ず,どちらからの結合が先に外れる」という現象も根拠薄弱であり,引用例や「周知の技術」に基づき訂正発明3が容易想到できたとの審決の判断は誤りである。

2  請求原因に対する認否

請求の原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。

3  被告の反論

(1)  取消事由1に対し

ア 原告は,引用発明1の識別装置はコントローラに関するものであって検出器のアンプユニットとは技術分野が異なると主張し,さらに,コントローラは重厚長大な装置でハード構成の複雑さは光ファイバ検出器のアンプユニットの比ではないとする。しかし,仮に上記差異があるとしても,そのことは技術思想とは関係がない。

イ また原告は,コントローラと検出器の使用する環境の違いを問題にしている。しかし,甲17の「5-1 設置環境」でコントローラについて設置場所として相応しくないとするのは「周囲温度が-10~+55℃の範囲の場所」,「腐食性ガス,可燃性ガス,じん埃,塩分,鉄粉の場所」等であって,識別装置はもちろん,検出器においても「腐食性ガスが機器を腐食させること」は同様であるので上記の場所は設置場所として相応しくはないことは当然のことであり,上記場所がコントローラだけに相応しくないというのではなく,すべての電子機器についても相応しくないことは明らかである。

ウ そうすると,原告が当業者が検出器のアンプユニットの使用ラインでコントローラの識別装置を用いることはなく,技術的に不可能であるとの主張は成り立たない。原告の主張は,使用態様の問題であり,訂正発明1の請求項1の記載に基づかないものである。また訂正前の本件明細書(特許公報,甲12)には技術分野として「本発明は,配線基板をケース内に収納した電子機器ユニットを接続する結線構造に関するものである」(段落【0001】)とあり,配線基板を収納したケースに関するもので,目的は「ケースの厚みを薄くする,強度を得る,気密性を得る構造の提供である」としている(【0003】)。また産業上の利用分野として「プログラマブルコントローラなどの他の電子機器についても採用することができる」(【0027】)とあり,訂正発明1が訂正前発明と同一性を保っているのであれば,引用発明1が「回路基板がケース本体に収納されている複数のケースを中継コネクタで接続する」構成を有するものであるから,訂正前の技術分野と同一の分野に属する「電子機器」であることを否定することは禁反言の原則に反するもので許されない。

エ 原告は,上記のことから,識別装置のアンプユニットには訂正発明1の「薄型化の要請,強度と気密性の向上」という課題は存しないと主張するが,課題の相違が技術分野の異同に影響を与えるものではない。訂正発明1の課題は「薄型化の要請」,「強度と気密性の向上」であるとしているが(甲13の2,訂正明細書【0008】),その課題が解決されたのかについては「第1コネクタ,第2コネクタを設けたから,従来と異なり,切欠部を設ける必要がないから」(段落【0028】参照),「薄型化の要請,強度と気密性の向上」が達成される旨を述べている。しかし訂正発明1によって「薄型化,気密性の向上」が訂正発明の構成で達せられているとはいえないから,訂正発明1は単に連結構成を課題としているものと理解せねばならない。

オ また原告は,広辞苑による識別と検出の語義の相違を主張し,検出器は「検査して見つけ出すこと」であり,識別は「到来した物を検出器により検出させる通信装置である」として,両者は別異のものであると主張する。

確かに検出器と識別装置は同一の物品ではない。しかし,審決が「識別装置は工具やパレット等の物品を識別するものであって,物品の識別は,物品の種類を示すデータ信号を検出して行われるものであることから,一種の検出器である」と指摘するように,識別装置は検出器といえるのである。即ち,識別装置は物品が当該物品であるか否かで存否を判断して当該物品を検出する装置なのである。光電センサの場合は物品に対する投光からの反射光を分析して当該物の存否を判断するが,識別装置の場合はデータ信号を分析して当該物か否かを判断して当該物を検出するのである。即ち,識別装置は検出と識別を行う装置であるから検出機能を含む装置なのである。審決が「一種の検出器である」と認定したのは正当な判断である。

従って,検出器と識別装置は同一技術分野の技術である。

(2)  取消事由2に対し

ア 原告は,引用例は訂正発明1の「第1コネクタ」及び「第2コネクタ」の構成を備えないと主張し,その根拠として①引用例にはヘッド制御モジュールの両側壁に,コネクタ15a-1,…,15a-8及び15b-1,…,15b-8が設けられ,第2図に,コネクタ15b-1がヘッド制御モジュール12-1の外側面と面一に貼付されている構成が明示されている,②中継コネクタ16がヘッド制御モジュールの「壁面の内壁を越えて」内壁から内方においてコネクタ15b-1と接続されていないことも明らかである。③上記①,②から,ヘッド制御モジュール間に間隙がある,と主張する。しかし,原告の主張は,当業者の技術常識に反する。

なぜならば,引用例の第1図,第2図は,発明の技術思想を正確に表すものではなく,明細書の「発明の詳細の説明」を理解するための補助的なものであり,発明技術を正確に表したものではない。引用例(甲7)の明細書3頁の右上欄15行~17行には「もっとも,第1図,第2図で示すコネクタ14及び中継コネクタ16は略図しており」と記載して,正確なものでないことを明記して,注意を促している。そして,第1図,第2においては原告が主張する上記①,②の事実は明記されていない。そもそも,引用例の発明は「コントローラに対して必要な数のヘッド制御モジュールを任意に連結する」ことを課題とするものであって,コネクタ14やコネクタ15と中継コネクタ16とが結合されて連結する構成の具体的な構成は,技術常識に委ねている。ゆえに原告も指摘するように審決はコネクタ14,15と中継コネクタ16との具体的構成が「不明である」としているのである。

さらに,原告の主張である間隙についていえば,確かに第1図には間隙があるかのような記載がある。しかし,第1図のコネクタ14,15と中継コネクタ16との図は明細書が上述のとおり注意しているが「略図」であり,図面からそのコネクタ間の係合構成の詳細を確定することはできない。ヘッド制御モジュール間に「間隙」がないことは,引用例の明細書において「コントローラ本体と,各ヘッド制御モジュール底部の凹溝とガイドレールで,装着時の位置決めを容易にしているが,これに代えて,コントローラ本体と各ヘッド制御モジュールの接面側壁に嵌合用の凹凸部を設けてもよい」〔(甲7〕明細書5頁右上欄14行~19行)と記載してあることから十分に理解できることである。何故ならば,「接面側壁」とは「面が接する」ことを意味し,かつ「側壁」であり,この側壁は各ヘッド制御モジュールが対面する壁であるから,「接面側壁」とは各ヘッド制御モジュールは対面する側壁同士が接していることを意味するからである。

そうであるから,引用例(甲7)におけるヘッド制御モジュール同士は接して連接されており,故に,ヘッド制御モジュール間に中継コネクタ16の厚み分の空隙は存在しない。空隙が存在していないということから,中継コネクタ16の厚みはその2分の1ほどが各ヘッド制御モジュール内に貫通していることを理解できる。また,具体的な接続方法は審決がいうように正確に説明されているものではないが,引用例の明細書の記述からは上記のことが理解されているところ,基板の接続に関する公知の技術を示す,例えば,

<ア> 甲1(特開平7-36585号公報)

ジョイントコネクタ(中継コネクタ)がケース側壁を貫通してケース本体内に存するコネクタと結合する技術が開示されている。

<イ> 甲2(特開平2-285698号公報)

プリント基板20に付けられたコネクタ21,22は,外部からの電気信号を受け入れ,かつ,プリント基板で処理された電気信号を外部に送るためのコネクタが示され,上記受入れはカバーに設けられた開口を介して他の基板のコネクタと結合される技術が開示されている。

<ウ> 甲17(FA HOLON 形V600)

表紙絵に,ケース本体内のコネクタがケース本体に設けられた開口に近接して配置され,このコネクタと外部電気信号が結合される技術が開示されている。

に示される接続手段がある。このような接続手段を利用することは極めて容易なことであって技術常識である。

原告が引用例についてその内部構造であると主張する構造のごとく,ケース側壁の外部に有底の段差部を設け,この底部にコネクタ14,15の針を通す孔を設け,この孔からケースに貫通された該針とケース内に収容されている基板とを結合する作業は不可能に近い作業であり,可能であるとしても作業時間,経済性に目を向けたとき通常の技術者が採る手段ではない。また,原告主張の「ケース側壁に孔を複数個設け,この孔にコネクタの針を通し,針と基板を半田付けして,ケース内のある基板にコネクタを固定する」という方法及び作業について,被告はこれまで仄聞したこともない。原告の主張は,引用例に接した当業者の常識に反するものであって合理的解釈とはいえない。

イ 原告は,ヘッド制御モジュールの側壁面上でコネクタ15b-1と中継コネクタ16とを接続させる構成が採用されているのには積極的理由が存するとし,その理由は大略「装置からの発熱を空冷する放熱」のためであるとし,その根拠に甲2(特開平2-285698号公報),甲17(FA HOLON 形V600)を挙げたうえ,結論として,引用例(甲7)では「コネクタ15b-1と中継コネクタ16の構成を『モジュール本体の壁面を越えてケース本体の内側に挿入』し,『ケース本体のうち壁から内方に位置するコネクタ15b-1に内壁から内方で接続される』構成に改変することは引用例に開示も示唆もされていないばかりではなく,そのような改変は中継コネクタ16が担う放熱用スペースとしての機能を喪失させる不自然な改変であることは明らかである」と主張している。

しかし引用例(甲7)においてはその明細書の発明の詳細な説明の項において,原告が主張する「装置が発熱する」との説明はなく,「装置からの発熱を放熱させる必要がある」との説明も存在しない。また,その故に,引用例の明細書にはヘッド制御モジュールとヘッド制御モジュールの間に中継コネクタ16の厚み分の間隔を設ける必要があるか否かについても一切触れていない。

また甲2(特開平2-285698号公報)は,電子機器用筐体に関する発明である。ここでは空冷用の通気口11が示されているが,この通気口は特許請求の範囲に記載される構成要素ではなく,実施例としてケースにおいて基板と対面しない側の壁に設けられている。甲2には,引用発明1のコネクタ15b-1と中継コネクタ16がケース壁面において如何様に構成されるかについては,言及されていない。よって甲2から,引用例のコネクタ15b-1と中継コネクタ16及びケース壁面の相互構成関係を推測することさえできない。

また甲17(FA HOLON 形V600)は,オムロン製のコントローラの設置環境についての説明であり,引用例におけるコネクタ15b-1と中継コネクタ16及びケース壁面の相互構成関係を具体的に理解する手助けにならない。

原告が主張するように,仮にコントローラやヘッド制御モジュールにつき空冷の必要があるならば,ヘッド制御モジュール間に空隙を設けて配設するのではなく,甲2にあるような通気口を各ヘッド制御モジュールに設けるのが通常である。この技術を実施していることが甲17の表紙にある図から理解できる。甲17の上記図では,図面手前側のケース側壁をみると,左側には上下2段に分かれ,上段部には3列で1列に5個の黒色矩形部,下段部は3列で1列4個の黒色矩形部が図示されている。この黒色矩形部が通気口である。また,図面手前側のケース側壁をみると,右側には,中央部付近に開口があり,このケース開口の内方に雌型コネクタが配設されているのが看取できるところ,この雌型コネクタはケース外部の雄形コネクタと係合されるものであるが,この雄形コネクタはケース壁面を貫通して係合するものであると理解される。この甲17の表紙絵から理解できることは,外部コネクタとケース内の基板とを結合するために,基板に雌型コネクタを設け,ケース側壁に雌型コネクタに外部雄型コネクタを貫通結合させるために雄型コネクタ貫通用開口を設ける構成手法が慣用的な技術であったことを物語っている。

(3)  取消事由3に対し

ア 原告は,引用例(甲7)における「各ヘッド制御モジュールの両側壁にコネクタ15が設けられているとの説明と第2図」を根拠にして,コネクタ14及びコネクタ15b-1がコントローラ14及びヘッド制御モジュール12-1の該壁面と面一状に側壁に貼着されている構成が明示されていると主張しているが,誤りである。

確かに,引用例の明細書の3頁2~3行目には「コントローラ11の側壁には,第2図に示すようにソケット形のコネクタ14が設けられ」との記載がある。しかし,この引用例の明細書にある上記「設ける」の記述は,「コントローラにコネクタ14を貼着する」と説明してあるのではない。上記「側壁に設ける」は,単に,コネクタ14の位置を示すものである。

何故なら,引用発明1は,コントローラとヘッド制御モジュール,複数個のヘッド制御モジュールを連結することを課題とするものであるから,引用例(甲7)の3頁右上欄では,コントローラとヘッド制御モジュール間の結合がコントローラの壁面にあるコネクタ14と中継コネクタを介して結合させる方法を示し,同様に,各ヘッド制御モジュール間の結合が壁面に設けられたコネクタ15と中継コネクタ16を介して結合させる方法を示して説明しているにすぎない。このことは,ヘッド制御モジュールとコネクタ15の関係について,「ヘッド制御モジュールの壁面にコネクタ15が設けられ」との説明がなされていないことからも理解できる。

審決が認定するように,壁面に中継コネクタ接続用の開口を設けて,ケース内に存する回路基板に付着されているコネクタとを結合する技術は周知,慣用の技術である。この技術は,甲1の図7,図14,甲2の第2図,甲17の表紙にある図にあるように周知であり,このような周知技術を用いて引用発明1を理解するにおいて何らの障害も無く,その限りで,引用発明の明細書(甲7)は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載している。

また,引用発明の明細書(甲7)には,「コントローラ本体11と各ヘッド制御モジュールの接面側壁に嵌合用の…」(明細書5頁右上欄17行~18行)と「接面側壁」との説明がなされているが,この言葉は,コントローラの側壁とヘッド制御モジュールの側壁並びに各ヘッド制御モジュールの側壁が,相互に接面することを意味するものであるから,中継コネクタ16は,二つのケース側壁を貫通して外部からはその存在が看取できない状態の構成であることが理解できる。審決に誤りはない。

イ 原告は,引用例(甲7)の内部構造では,接続用開口が開示されておらず,コネクタ14とコネクタ15が側壁に貼着されていることが明らかに開示されており,回路は電気的に結合している旨主張する。

しかし,上記については,明細書には開示されておらず原告の主張は誤りであるうえ,電気的に結合されているとの主張も,側壁にコネクタ14やコネクタ15の針を貫通させる孔を設けることにさほどの困難性はないが,貫通された該針をケースに収容されている回路基板の孔(スルーホール)に通したうえで如何にして半田付けするのかは,極めて困難な作業で,経済性に悖るもので当業者が採用するものではない作業と推測されるところ,引用例の明細書には説明はない。技術常識的には,甲17の表紙にあるように,基板に付着するコネクタに開口を通じて他のコネクタが嵌合されて,結合がなされるものであるから,原告の主張は明細書から理解できるものではない。

(4)  取消事由4に対し

ア 原告は,引用例(甲7)の明細書第3図の回路図を根拠にして,引用例には①ヘッド制御モジュールが,多数の端子を設けた少なくとも二枚の回路基板(「通信制御回路51」)及び「ヘッドI/F回路53」),及び該基板の一つに接続されて信号の復元化を行うデコーダを有する旨が開示されている,②上記の各内部回路に出入力されるデータ信号,制御信号,電源等が「側壁に設けられているコネクタ15a-2,コネクタ15b-2」を介してコントローラ本体或いは他のヘッド制御モジュールとやり取りされるものである,③上記①,②から,ヘッド制御モジュールの内部構造は前記3(2)②で示した内部構造が極めて自然かつ合理的に理解される,と主張する。

しかし,「通信制御回路51」,「ヘッドI/F回路53」及びデコーダの機能をもつ機能を有する回路をもつには二枚の基板が必要とするのは論理的につながらない。コネクタとして配線基板を貫通しない端子を有した表面実装型を用いると,一枚の基板に上記の機能をもつ回路の配設が可能なことは当然である(乙2〔製品カタログ「CONNECTORS GENERAL CATALOGUE」ヒロセ電機株式会社‘94.5(平成6年5月)発行〕)。

イ また審決は,「特別な必要性がないかぎり,内部回路は1枚の配線基板上に構成される」としているが,この認定部分に関して甲9(特開平5-167418)や甲10(特開平5-268043)を引用しているのではない。甲9,10は,「光ファイバからの光信号を光電変換して信号の処理を行う光ファイバ式検出器のアンプユニットは,引用発明1にみられる識別装置のヘッドモジュールと共に,検出器の電子機器ユニットとして周知である」との認定(審決21頁の相違点5)に用いられているのであり,甲9は,「箱状ケースとガイドレールの存在,ケース本体と配線基板挿入用開口,一対のコネクタが取り付けられた配線基板に平行な箱状のケースの側壁,基板挿入用開口の存在等の構成は当業者であれば適宜なし得たことである」旨の認定(審決22頁14行~24行目)に用いられているものであって,配線基板が一枚であるか,二枚であるかの認定に援用されたものではない。

また,甲8の第2図において記号21で示される配線基板は一枚であることが明記されていることを原告は無視している。

ウ 原告は,コネクタ15a-1,コネクタ15b-1を両側壁に設けた引用例(甲7)の開示からして,内部回路基板を一枚の配線基板としたうえで,各コネクタの実装端子が該配線基板の表裏の電路に半田付けされて取り付けられる構成にするには,引用例の構成上,明らかに無理があると主張するが,コネクタ15はケース側壁に設けられた有底段差部の多数の孔を介して(壁を間に挟んで)回路と結合するのではない。ケース側壁には中継コネクタ挿入用の開口が設けられているのである。そして,甲17の表紙絵にあるように,コネクタ15は回路基板と最初から結合されてケース本体に収納されている。

ヘッド制御モジュールのケース側壁には,中継コネクタ15挿入用の開口が存在すると引用発明1を理解すべきであり,有底の段差部があるとの理解はできないと被告がこれまで主張してきたところから理解されるように,有底段差部の存在を前提とする原告の主張は理由がない。

エ また原告は,基板が一枚でかつケース側壁に開口があれば,コネクタ15b-1に接する基板が存在しなくなるから,引用例の第2図の開示と整合しない旨を述べて,基板は二枚であると主張する。

しかし,上記第2図には引用例の基板と開口,基板とコネクタ15b-1の関係は明記されていない。審決の認定に誤りはない。

原告は,審決が甲8(特開平4-174924)を援用していることにつき,用途も回路構成も全く異なる識別装置のヘッド制御モジュールの内部回路を,例えば甲8の第2図に示されるプリント配線基板21のように容易に単純化できるとする証拠はないと主張する。

しかし,審決が甲8を援用したのは,光ファイバ式検出器が周知であることのためであり,「ガイドレール,基板挿入用開口,ケース本体の一対の側壁が配線基板に平行であること,基板挿入用開口を閉塞するカバー」の認定に援用している。原告は,審決の援用するところとは異なり,「ヘッド制御モジュールの内部回路を,例えば甲8の第2図に示されるプリント配線基板21のように容易に単純化できるとする証拠はない」というが,甲8の構成を引用発明1の理解において援用することは容易である。

また原告は,コネクタ15a-1,コネクタ15b-1を配線基板の表裏面の対称位置で電路に半田付けすることが当業者にとって適宜なし得た事項でないことは明らかであると主張するが,引用発明1のケース側壁とコネクタ15の構成関係が不明であるから,この構成関係は慣用技術,周知技術の存在を前提に理解すべきことになる。段差部という概念を持ち込まず,段差部がないとすれば,ケース外にある回路基板の表裏面対称位置にコネクタ15を半田付けすることは容易であるところ,このコネクタ15と中継コネクタ16との結合は,引用例の出願者である立石電機株式会社が甲17において示すケース側壁に開口を設けケース内に収容されている回路基板に付着したコネクタを開口に対応させる位置に配する方法であり,また,公知技術(甲1,乙1)でもある。そもそも,ケース内の基板と外部とを電気的に接続する方法としてケースに孔を設けて行うことは,電機機器の世界では常識であって,甲1や乙1もこの常識を利用しているにすぎない。審決に違法な点はない。

(5)  取消事由5に対し

ア 引用例の第3図に通信制御回路51とヘッドI/F回路53という二枚の回路基板を備えているとの原告の主張は誤りであり,引用例(甲7)の第3図は,回路ブロックを示す図であり,決して回路基板ごとに示したものではない。この第3図から回路基板の枚数を判断することはできない。

第3図は,回路基板が一枚であることを示している。すなわち,

① 第3図の右側部分のヘッドI/F回路53はリード/ライトヘッドに接続される回路であるが,この接続相手はヘッド接続用コネクタ33(明細書3頁左下欄12行目)であって,第1図に示されている。

② 第3図の左側部分の通信制御回路51はコントローラ本体11またはヘッド制御モジュール12に接続する回路であるが,この接続相手はコネクタ15a,15bであって第1図に示され,コネクタ15a,15bはヘッド制御モジュール12の左右側に配されている。

上記のとおり①の部分と②の部分をそれぞれ別個の回路基板に設ける必然性はなく(第4図に示されるように信号本数が23本もあり,二枚の回路基板間の接続が極めて煩雑になる),かえって,一枚の回路基板に設けた方が構造が単純になる。

イ また引用例の明細書に「…各ヘッド制御モジュール12-1,…の両側壁に,ソケット形のコネクタ15a-1…及び15b-1…が設けられている」との記載は,側壁に段差部があり,この段差部にコネクタが貼着されているという技術解釈には繋がらない。

引用例の明細書5頁右上欄17行~18行には「コントローラ11と各ヘッド制御モジュールの接面側壁…」と説明されていて,この説明の意味するところは「コントローラとヘッド制御モジュール,各ヘッド制御モジュールの側壁は接面,即ち,面が接している,側壁同士が接触する」ということである。従って,上記側壁間には空間は存在せず,中継コネクタ16の厚みに相当する空間は存在しない。

原告は側壁間に空間がありこの空間を空冷用に設けられていると主張するが,原告の主張は引用例の明細書に説明されていない事項を引用発明1の技術解釈に持ち込むものである。

このようなことから,側壁に設けられた段差部にコネクタ14,コネクタ15を貼着し,段差部に設けた孔にコネクタ14,コネクタ15の針を貫通させたうえ,該針をスルーホールを介して配線基板に接合させるという構成を引用発明1は有しないし,開示もしていない。

ウ 原告は,基板をケース本体上部の開口から挿入することを前提にして「引用発明1の構成として,コネクタ14,コネクタ15と回路基板の取り付け構成が『ケース側壁,段差部,コネクタ14とコネクタ15を貫通させる孔,基板が二枚』,『仮に接続用開口があるとしても』の構成であるとしたうえで,この構成の構築を完成させる作業(回路基板をケースに挿入後に回路基板をケースに取り付ける作業)」が不可能か或いは極めて困難であるから,ケース本体は「縦割り」の構成であるとして,縷々主張する。

しかし,原告の主張は,ケースに基板を取り付ける手段を「ネジ止め式」に限定し,このネジ止め作業が困難であるとするものであるが,「ネジ止め式」に固定方法しかないとする根拠がない。ケースに基板を固定するために溝を設けてこの溝に回路基板を合わせて挿入し固定する方法,あるいは,ケースにばね性のある爪を設けて固定する方法,回路基板にケース内面に密着するガイド部材を設ける方法(甲4,8)等がある。これらの外に甲号証の証拠で示せば,ケース本体上部の基板挿入用開口を閉塞するカバーにより回路基板を固定する「カバー固定式」がある(甲4の1〔Jファイバシリーズカタログ〕,9〔特開平5-167418号公報〕,10〔特開平5-268043号公報〕)。

従って,「ネジ止め式」を前提とする原告の主張は理由がない。

エ さらに,コネクタ14,コネクタ15と回路基板の取り付け構成についても以下のとおり理解できる。

(ア) 回路基板とコネクタの関係

回路基板にコネクタ15を取り付ける。

この構成は,甲1の図5,図7,甲2の第1図から分かるように周知の技術であり,また,回路基板に種々の部品を取り付けるのは甲8,9,10に見られるように慣用技術である。従って,回路基板にコネクタ14,コネクタ15a-1,コネクタ15b-1を取り付けることは当業者であれば容易にできることである。

(イ) ケースとコネクタ付回路基板の挿入関係及びカバー

上記の回路基板をケースに収める方法であるが,引用例ではこのことについて何ら説明をしていない。しかし,採用できる方法としては,甲1のごとくケースを二つ割れにしたものを用意して回路基板の収納後にこれをあわせる方法,また甲8,9,10のごとくケース本体の上部開口から回路基板を挿入し挿入後にカバーで密閉する方法など適宜選択できる。

(ウ) 中継コネクタ挿入用開口

回路基板に設けられたコネクタ14,コネクタ15と中継コネクタ16と結合する方法であるが,甲1の図7,図14,甲7の表紙絵に見られるところのケース本体側壁に中継コネクタ16を貫通させる開口を設けるという周知技術,慣用技術があるからこの方法を選択するのは当業者にとって容易で工夫も要しない。

(エ) コネクタ14,コネクタ15と回路基板の位置

前記(ア)で示したようにコネクタ14とコネクタ15を回路基板に取り付けるのであるが,この位置をどこにするか,それは自由に設定できるが,引用例の第1図では,ヘッド制御モジュールの両側壁の中央部の位置において,コネクタ14,中継コネクタ16,コネクタ15b-8が図示されているから,コネクタ14とコネクタ15は回路基板の中央部に配設されるものであることが理解でき,従ってまた,コネクタ15は回路基板の表面と裏面の位置で対称位置になければならないことも容易に理解できる。

以上(ア)~(エ)の周知技術,慣用技術をもって,引用例の明細書を読めば,引用発明1におけるケースとカバー,回路基板とコネクタ(訂正発明1の第1コネクタ)の取り付け位置並びに順序と方法,ケース上面における回路基板(コネクタ付)の挿入開口の設置,ケース側壁に中継コネクタ挿入用開口,中継コネクタによる回路基板のコネクタとの結合という構成を理解できるものであり,原告が主張する構成とすることはない。

オ 甲10(特開平5-268043号公報)の図7に示されるのは,光電スイッチの分解斜視図であるが,同図と同様に,甲2,8,9の開示技術は,箱状のケースの上面に設けられた開口から回路基板が挿入される構成のもので,このような技術が既に訂正発明1の出願以前に周知技術である。

カ また原告の技術的阻害要因の主張はいずれも根拠がないものであり,これまで述べた周知技術,慣用技術からすれば,引用発明1の構成を訂正発明1の構成に改変することは極めて容易であるから,訂正発明1の創作につき技術的な適用阻害要因はない。

原告は,引用発明1は発熱するからこれを放熱する必要がありそのために通気孔を必要とする,気密性を要するケースに訂正発明1に引用発明1の構成を採用することは当業者がするはずはない,故に,適用阻害要因を看過した審決は違法である旨主張するが,引用発明1の明細書には機器の発熱と放熱に関しては何の説明もない。

キ また甲8,9,10には,付属部品を取り付けた回路基板をケース上面の開口から挿入する技術が開示されており,従って,一般的に回路基板にコネクタを取り付けることは周知(甲2)であるから,上記付属部品としてコネクタを取り付けることも開示されているといえる。原告は,本件明細書(甲13の2)の段落【0005】の記載から縷々説明している。これは,切り欠き部をもつケースについての説明であり,結論として訂正発明1はアンプの内側幅を狭くできるという主張である。

しかし,原告の主張根拠は,第1コネクタを表裏面に付した回路基板を,ケース本体の上面の基板挿入開口から挿入構造にしたからアンプ内側幅を狭くできるということであるが,付属品(コネクタも含む)を付した回路基板を上記の挿入用開口から挿入することは,前述したとおり周知の技術であり,訂正発明1のみが達成した技術ではない。原告の主張は,引用例において,二枚の回路基板を上部挿入用開口からは挿入できないという誤まった前提で議論を展開しているにすぎない。従って,甲8~10の如く,ケース上面の開口から付属部品を取り付けた回路基板を挿入するとすれば,ケース内幅は,付属部品の厚みと回路基板の厚みを加えた厚みよりも狭くはならないのであって,特別に薄くなるわけではない。

ク また原告は,甲12(本件特許公報)の図7に関して「ケース本体104に挿入する場合,ケース本体104の内側の幅を配線基板106およびコネクタ107,108の厚みよりも大きくする必要があり,そのため,アンプ部102が厚くなるのは避けられない」とするが,アンプ部102の方を厚くすると,隣接するアンプ部との連接が不可能となり,前提が誤りである。審決の認定に誤りはない。

(6)  取消事由6に対し

原告の主張するア~オ項につき,いずれも審決の認定に誤りはない。原告は,引用発明1の構成につき開示されている前提を誤り,また,公知技術についても独自の解釈をして,審決を論難するにすぎず理由がない。

(7)  取消事由7に対し

ア 審決は訂正発明1に関して正しい認定をしており,違法は存しない。

イ また審決は,引用発明2における中継コネクタ16とコネクタ15a-2とコネクタ15b-2との結合につき,「コネクタ16とコネクタ15a-2との結合力」と「コネクタ16とコネクタ15b-2との結合力」とを比較したとき,引用発明2においては両者の結合力の大小は不明であると認定している。上記の認定には何の誤りもない。そして,訂正発明2の上記の結合構成につき,いずれかの結合力を小さくするのは技術常識と捉えて訂正発明3における中継コネクタとコネクタ15a-2とコネクタ15b-2の結合にこれを用いることは容易想到であるとしているのである。

コネクタにおいて端子の結合力に差異を設けることは技術常識である。例えば,甲6(特開平5-157939号公報)は,光ファイバコネクタの製造方法に関する発明であるが,その明細書2欄9行~18行目において,「…その調整により,射出成形品である光コネクタプラグ本体のプラグ側係合部の突起高さ又は溝深さを調整することができる。このようにして…プラグ側部に設けられたプラグ側係合部と係合する。光コネクタプラグ本体のプラグ側係合部の突起高さ又は溝深さが調整されているので,光コネクタレセプタクルとの結合力・離脱力を所望に応じて種々に調整し,例えば,レセプタクルとの着脱回数が多い場合には,レセプタクル側係合凸部の突起高さを低く調整する」(明細書2欄9行~18行)と説明されているように,コネクタプラグにおいてその結合力を調整する技術思想は,周知のものである。原告の主張は理由がない。

第4当裁判所の判断

1  請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。

2  取消事由1(一致点認定の誤り1)について

(1)  原告は,審決が「引用発明1の『識別装置』の『ヘッド制御モジュール12-2』と,本件訂正発明1の『光ファイバ式検出器』の『アンプユニット』とは,検出器の電子機器ユニットである点で一致する」(19頁26行~28行)としたのは誤りであると主張するので,以下検討する。

ア 本件訂正後の明細書(以下「本件訂正明細書」という。甲13の2〔明細書〕。図面は甲12〔特許公報〕)には,以下の記載がある。

(ア) 発明の詳細な説明

・ 「【発明の属する技術分野】本発明は,配線基板をケース内に収納した光ファイバ式検出器のアンプユニットと,該光ファイバ式検出器のアンプユニットを接続する結線構造に関するものである。」(段落【0001】)

・ 「【従来の技術】近年,工場の生産ラインや検査ライン等においては,図6のように,多数の検出器100を用いている。各検出器100は,たとえば光ファイバ101と,該光ファイバ101からの光信号を光電変換して信号の処理を行うアンプ部102とから構成されている。アンプ部102は制御盤103内に収納されている。…」(段落【0002】)

・ 「本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので,その目的は,コネクタを含む配線基板の厚みよりもケースを薄くし得ると共に,ケースの強度および気密性が得られる光ファイバ式検出器のアンプユニットおよび光ファイバ式検出器を提供することである。」(段落【0008】)

・ 「本発明の光ファイバ式検出器は,複数の光ファイバ式検出器のアンプユニットを連結した光ファイバ式検出器であって,…」(段落【0011】)

・ 「【発明の実施の形態】…図1において,電子機器ユニット1は光ファイバ式の検出器のアンプユニット(以下「電子機器ユニット」という場合同じ)を構成しており,ユニットケース2のケース本体20がレール3に取り付けられている。」(段落【0013】)

・ 「図2は電子機器ユニット1の概略分解斜視図である。ユニットケース2内に収容される配線基板4には,その表面および裏面に一対の第1コネクタ5A,5Bが半田付けされている。前記ケース本体20は,前記一対の第1コネクタ5A,5B付の配線基板4が挿入される基板挿入用の開口23を有すると共に,配線基板4に略平行な一対の壁面24,24を有する箱状に形成されている。ユニットケース2は,前記ケース本体20と,該ケース本体20に上方から嵌合してケース本体20の前記基板挿入用の開口23を閉塞するカバー21とで構成されている。前記ケース本体20の壁面24には,一対の接続用の開口22が形成されている。該接続用の開口22は,一対の第1コネクタ5A,5Bが近接して臨んでおり,第2コネクタ6は,前記接続用の開口22の1つを貫通して,第1コネクタ5A,5Bのうちの一方の第1コネクタ5Bに接続される。」(段落【0014】)

・ 「…第1コネクタ5A,5Bは,たとえば雌型コネクタであり,一部を除き,互いに同一の形状・構造であるため,代表して一方のコネクタ5Bについて説明する。」(段落【0015】)

・ 「図3において,第1コネクタ5Bは,樹脂からなるベース50に形成された多数の取付孔51を有し,該取付孔51には雌型コンタクト52が嵌め込んである。各雌型コンタクト52は,配線基板4(図2)の電路に半田付けされる実装用端子部52aと,第2コネクタ6の雄型コンタクト61が嵌まり込んで接触する接触端子部52bとが一体に形成されている。また,前記第1コネクタ5Bは取付金具53が配線基板4(図2)に半田付けされている。…」(段落【0016】)

・ 「前記第2コネクタ6は,中心線Cを中心に対称に形成されている。前記雄型コンタクト61は,図4のように,中央部61cがハウジング60内に埋設されていると共に,両端の端子部61b,61aが凹所62内において突出している。第2コネクタ6の一方の端子部61bは,第1コネクタ5Bの接触端子部52bに接触して第1コネクタ5Bに接続され,第2コネクタ6の他方の端子部61aには,隣接する電子機器ユニット1の第1コネクタ5Aの接触端子部52bが接触した状態で接続される。すなわち,第2コネクタ6は,互いに隣接する一対のユニットケース2の開口22を貫通して,隣接する電子機器ユニット1の第1コネクタ5B,5A同士を接続する。」(段落【0018】)

・ 「つぎに,組立方法等について説明する。まず,図2の第1コネクタ5A,5Bが半田付けされた配線基板4を,ケース本体20の基板挿入用の開口23から挿入した後,第2コネクタ6を接続用の開口22からケース本体20内に挿入して,第1コネクタ5Bに第2コネクタ6を接続する。その後,カバー21をケース本体20に嵌合させて,電子機器ユニット1を組み立てる。組み立てられた電子機器ユニット1を,順次,図1のレール3に取り付け,隣接する電子機器ユニット1同士を第2コネクタ6を介して互いに接続する。こうして,複数の電子機器ユニット1からなる電子機器,即ち光ファイバ式検出器が組み立てられる。」(段落【0020】)

・ 「ところで,この種の電子機器ユニット1は消耗品であるため,電子機器ユニット1を交換する必要が生じる。電子機器ユニット1を交換するには,図1の電子機器ユニット1をレール3に沿ってスライドさせて隣接する電子機器ユニット1から分離する。…」(段落【0022】)

・ 「【発明の効果】以上説明したように,本発明によれば,配線基板に取り付けた一対の第1コネクタの他に,第2コネクタを設けているので,一対の第1コネクタ付の配線基板を本体ケースに挿入した後に,第2コネクタを第1コネクタに接続することができるから,第1および第2コネクタを含めた配線基板4の厚みよりもケースを薄くすることができる。…」(段落【0028】)

(イ) 図面(かっこ内は【図面の簡単な説明】の記載)

・ 【図1】(本発明の一実施形態にかかる電子機器の拡大斜視図である。)

file_2.jpg・ 【図2】(電子機器ユニットの拡大分解斜視図である。)

file_3.jpg・ 【図3】(第1および第2コネクタを示す拡大斜視図である。)

file_4.jpgイ 上記によれば,訂正明細書の図1には,複数の電子機器ユニット1がレール3上に配置され,第2コネクタ6が連結されているものが図示され,図2には,電子機器ユニット1,ケース本体20とその開口23を閉塞するカバー21が,また配線基板4の表及び裏の両面には,第1コネクタ5A,5Bが設けられ,第2コネクタ6が,ケース本体20の接続用の開口22のに面して配置されていることが示されている。そして,図3には,第1コネクタ5及び第2コネクタ6が図示されている。

発明の詳細な説明には,本アンプユニットは,レール3に取り付けられたケース本体20(段落【0013】)とカバー21とからなり(段落【0014】),ケース本体20は,一対の第1コネクタ5A,5B付の配線基板4が挿入される基板挿入用の開口23を有すると共に,配線基板4に略平行な一対の壁面24,24を有する箱状に形成されており,カバー21は,ケース本体20の上方から嵌合してケース本体20の基板挿入用の開口23を閉塞する構成となっている(段落【0014】)ことが読みとれる。そして,ケース本体20の壁面24には,一対の接続用の開口22が形成され,該接続用の開口22は,一対の第1コネクタ5A,5Bが近接して臨んでおり,第2コネクタ6は,前記接続用の開口22の1つを貫通して,第1コネクタ5A,5Bのうちの一方の第1コネクタ5Bに接続される(段落【0014】)ことが読みとれる。そして,第1コネクタ5Bは,樹脂からなるベース50に形成された多数の取付孔51を有し,該取付孔51には雌型コンタクト52が嵌め込んであり,各雌型コンタクト52は,配線基板4(図2)の電路に半田付けされる実装用端子部52aと,第2コネクタ6の雄型コンタクト61が嵌まり込んで接触する接触端子部52bとが一体に形成されている(段落【0016】)。また,前記第1コネクタ5Bは取付金具53が配線基板4(図2)に半田付けされている(段落【0016】)。第1コネクタ5Aも,第1コネクタ5Bと同様の構成を有していることが読みとれる(段落【0015】)。そして,第2コネクタ6は,互いに隣接する一対のユニットケース2の開口22を貫通して,隣接する電子機器ユニット1の第1コネクタ5B,5A同士を接続するものである(段落【0018】)。

そして訂正発明1は,電子機器のアンプユニットのうち,「光ファイバ式検出器」からなるものに限定したものであるところ,訂正発明1の「光ファイバ式検出」ユニットは,工場の生産ラインや検査ライン等で検出した生産物(製品)の情報を光信号として光ファイバ101を通してアンプ部1に送られ,アンプ部において光電変換して信号処理を行い,上位のコンピュータにおける情報処理を可能にするものである(段落【0002】)。そして,訂正発明1は,複数の生産物(製品)情報の信号処理を可能にするために,上記「光ファイバ式検出器」を複数備え(段落【0020】),各「光ファイバ式検出器」は,コネクタにより接続して「光ファイバ式検出器」ユニットを構成するものであり(段落【0011】),各「光ファイバ式検出器」のアンプ部を構成する配線基板に一対のコネクタ(第1コネクタ)と共に,第2コネクタを備えているので,一対の第1コネクタの付いた配線基板を本体ケースに挿入した後に,第2コネクタを第1コネクタに接続し隣接する光ファイバ式検出器同士を連結して,信号の伝達や電源電流の供給を行うので連結作業が容易になり,ケースの厚さを薄くすることができ,更に,ケースに切欠部を設ける必要がないから,ケース本体の構造が簡素になり,ケースの強度や気密性が向上するとの作用効果を奏するものである(段落【0028】)。

ウ 一方,引用例(甲7,特開平1-184668号公報,発明の名称「識別装置」,出願人立石電機株式会社,公開日平成元年7月24日)には,以下の記載がある。

(ア) 発明の詳細な説明

・ 「(イ)産業上の利用分野 この発明は,工具やパレット等の物品を被識別対象とする識別装置,特に多チャンネル用の識別装置に関する。」(1頁右欄7行~10行)

・ 「この種の識別装置の従来の概略構成例を第6図に示している。この識別装置は,上位コンピュータlに,コントローラ2が接続され,このコントローラ2には,2個のリード/ライトヘッド3a,3bが接続されている。リード/ライトヘッド3aは,例えばパレット(図示せず)に付設される偏平なデータキャリア4aとの間で,また,リード/ライトヘッド3bは,例えば工具等に付設される円柱状のデータキャリア4bとの間で,データを授受するために設けられている。コントローラ3内には,いずれのデータキャリアに対し,データをライト処理し,あるいはリード処理するかの選択をなすためのヘッド制御回路が設けられている。」(2頁左上欄4行~17行)

・ 「この識別装置では,例えば3チャンネル構成としようとすれば3個のヘッド制御モジュールを用意し,コントローラに対し,第1,第2及び第3のヘッドモジュールを,コネクタにより順次接続すればよい。さらに例えば4チャンネル構成としようとすれば,第4のヘッド制御モジュールを,第3のヘッド制御モジュールに対し,コネクタにより接続すれば,ビルドアップされる。構成された各チャンネルのヘッド制御モジュールは,コントローラのコネクタのデータ端子及び信号端子に,自己のコネクタのデータ端子及び信号端子が接続され,さらに互いのヘッド制御モジュール間においても,データ端子及び信号端子が並列接続される。また,各ヘッド制御モジュールの装着位置に応じた信号がコントローラに対して伝送可能となる。…」(2頁左下欄19行~右下欄14行)

・ 「第1図は,この発明の一実施例を示す多チャンネルの物品識別装置の外観斜視図である。この実施例物品識別装置はリ-ド/ライト制御装置10と,データキャリア20とから構成されている。リード/ライト制御装置10は,コントローラ本体11と,8個(この実施例は8チャンネル)のヘッド制御モジュール12-1,12-2,…,12-7,12-8と,これらヘッド制御モジュール12-1,12-2,…,12-7,12-8にそれぞれ対応して個別に接続される8個のリード/ライトヘッド13-1,13-2,…,13-7,13-8とから構成されている。また,8チャンネルであるからパレットや工具に付設される8個のデータキャリア20-1,20-2,…,20-7,20-8がそれぞれリード/ライトヘッド13-1,13-2,…,13-7,13-8に接近する。

コントローラ11の側壁には,第2図に示すように,ソケット形のコネクタ14が設けられ,コントローラ本体11の内部で後述する電子回路部に接続されている。同様に各ヘッド制御モジュール12-1,12-2,…,12-7,12-8の両側壁に,ソケット形のコネクタ15a-1,15a-2,…,15a-7,15a-8及び15b-1,15b-2,…,15b-7,15b-8が設けられている。そして,コントローラ本体11とヘッド制御モジュール12-1のコネクタ14と15a-1間は,中継コネクタ16によって接続されるようになっており,同様に各ヘッド制御モジュール12-1,12-2,…,12-7,12-8間も中継コネクタによって接続されるようになっている。…」(3頁左上欄6行~右上欄15行)」

・ 「コントローラ本体11,及びヘッド制御モジュール12-1,12-2,…,12-7,12-8の底部には,凹溝18,19-1,19-2,…,19-7,19-8が設けられ,コントローラ本体11に,ヘッド制御モジュール12-1,12-2,…,12-7,12-8を接続する場合には,ガイドレール30に凹溝18,19-1,19-2,…,19-7,19-8を摺動させて装着するようになっている。」(3頁右上欄20行~左下欄7)

・ 「また,ヘッド制御モジュール12-1は,パラレル/シリアル,シリアル/パラレル変換機能を有し,コントローラ本体11のCPU42と接続される通信制御回路51,デコーダ52及びリード/ライトヘッドと送受信データ信号及び送受信制御信号の授受を行うヘッドI/F回路53から構成されている。他のヘッド制御モジュール12-2,12-3,…,12-7,12-8もヘッド制御モジュール12-1と全く同様の回路を備えている。」(3頁右下欄3行~11行)

・ 「この実施例物品識別装置において,例えば4チャンネルの装置を構成する場合には,ガイドレール30にコントローラ11を装着した後,第1番目のヘッド制御モジュール12-1をガイドレール30に装着し,コントローラ11とヘッド制御モジュール12-1間を中継コネクタ16で接続し,以下同様に順次,第2番目から第4番目までのヘッド制御モジュールをガイドレール30に装着し,互いの隣接するヘッド制御モジュール間を中継コネクタ16で接続すればよい。…」(4頁右上欄6行~15行)」

(イ) 図面(かっこ内は「4.図面の簡単な説明」の記載)

・ 第1図(この発明の一実施例を示す多チャンネルの物品識別装置の外観斜視図)

file_5.jpg_— roscoe Wiootoeaath Aowvid BeBe «Fale Pan |cetbogure 8/34 ao tog 3878 we aas77 Owe 20-9 2064-200 = Pky・ 第2図(同物品識別装置のコントローラ本体とヘッド制御モジュールの接続状態を説明するための拡大斜視図)

file_6.jpg・ 第3図(同物品識別装置のコントローラ本体とヘッド制御モジュールの回路構成を示すブロック図)

file_7.jpgfa] pos seerエ 上記ウ(イ)の図面の記載によれば,第1図には,ヘッド制御モジュール12-2が全体として箱状であり,その側壁に中継コネクタ16が取り付けられること,ヘッド制御モジュール12-2に同形状の他のヘッド制御モジュール12-1が連結され,ヘッド制御モジュール12-2に接続されたリード/ライトヘッド13-2は,非接触でデータキャリア20-2と信号の授受を行う様が看て取れる。また,第3図には,ヘッド制御モジュール12-1のヘッドI/F回路53から送受信データ信号が入出力される態様が看て取れる。

そして,第1図に関しての上記発明の詳細な説明の記載をみると,上記摘記のように,「リード/ライト制御装置10は,コントローラ本体11と,8個(この実施例は8チャンネル)のヘッド制御モジュール12-1,12-2,…,12-7,12-8と,これらヘッド制御モジュール12-1,12-2,…,12-7,12-8にそれぞれ対応して個別に接続される8個のリード/ライトヘッド13-1,13-2,…,13-7,13-8とから構成されている。」と記載されており,第1図において間隔を空けて図示されたヘッド制御モジュール12-2と同形状のヘッド制御モジュール12-7との間には,更に同形状のヘッド制御モジュール12-3ないしヘッド制御モジュール12-6が連結されることが示されている。そうすると,ヘッド制御モジュール12-2の両側壁に位置するコネクタ15a-2,15b-2は,ガイドレール30に装着された状態で,同形状のヘッド制御モジュール12-1のコネクタ15a-1,及び,ヘッド制御モジュール12-3のコネクタ15b-3とそれぞれ接続されるのであるから,コネクタ15a-2及びコネクタ15b-2は,箱状のケースの表面および裏面の対称位置に配置されているものといえる。

また,ヘッド制御モジュール12-2は,全体として箱状であって,通信制御回路51,デコーダ52及びヘッドI/F回路53から構成されることより,箱状のケースの中に,通信制御回路51,デコーダ52及びヘッドI/F回路53等の電気回路が収納されて構成されていることは明らかである。

さらに,ヘッド制御モジュール12-2のコネクタ15a-2,15b-2は,箱状のケースの中に収納された電気回路と接続されていることも明らかであり,隣接するヘッド制御モジュール12-1とヘッド制御モジュール12-2同士,ヘッド制御モジュール12-2とヘッド制御モジュール12-3同士は,コネクタ15a-2,15b-2を介して接続されるものであると解される。

以上の検討によれば,引用例(甲7)には,電子機器である識別装置が記載されており,この識別装置は,リード/ライトヘッド3a,3bにより工具やパレット等の製品に付設されたデータキャリア4a,4bからデータを接受し,そのデータをヘッド制御モジュール12-2に送り,ヘッド制御モジュール12-2で信号処理を行い,コントローラ本体11内のコンピュータ(CPU42)において情報処理が行われる。そして,引用発明の識別装置は,複数の生産物(製品)情報の信号処理を可能にするために,複数の識別装置のヘッド制御モジュール12-2,12-3をコネクタにより接続して識別装置を構成し,各ヘッド制御モジュール12-2,12-3は,その下方でガイドレール30に取り付けられて電気回路を収納する箱状のケースで構成され,その箱状のケースの両側壁に一対のコネクタ15a-2,15b-2が配置され,そのうちの一方のコネクタ15a-2に接続されていると共に他のヘッド制御モジュール12-3にも接続される中継コネクタ16を備えている。

オ 以上を基に本件訂正発明1と引用例記載の発明(引用発明1)とを比較すると,訂正発明1の「光ファイバ式検出器」も引用発明1の「識別装置」も共に電子機器であるところ,訂正発明1の「光ファイバ式検出」ユニットは,工場の生産ラインや検査ライン等で検出した生産物(製品)の情報を光信号として光ファイバ101を通してアンプ部1に送られ,アンプ部において光電変換して信号処理を行い,上位のコンピュータにおいて情報処理を行うものであり,一方,引用例に記載された「識別装置」は,生産ラインを流れる工具やパレット等の製品に付設されたデータキャリア4a,4bからデータを接受し,そのデータをヘッド制御モジュール12-2に送り,ヘッド制御モジュール12-2で信号処理を行い,コントローラ本体11内のコンピュータ(CPU42)において情報処理を行うものである。引用発明1の「識別装置」において,工具やパレット等の物品の識別は,それらのデータ信号を検出することによって行っているところから,結局,訂正発明1の「光ファイバ検出器」と同様に,引用発明1の「識別装置」も一種の検出器であるということができる。

そうすると,引用発明1の「識別装置」の「ヘッド制御モジュール12-2」と,訂正発明1の「光ファイバ式検出器」の「アンプユニット」とは,検出器の電子機器ユニットである点で一致する。審決がこれを一致点と認定したことに誤りはない。

(2)  原告の主張に対する補足的説明

ア 原告は,「検出器」とは物体等の存在を検査して見出す装置あるいはシステムを意味する学術用語(技術用語大辞典,甲19)であるから,データキャリアとリード/ライトヘッドとの間でデータ信号を「通信」する装置を,「物体,放射線,化学物質などの存在を検出する(見出す)のに用いる装置」(甲19,20)と同義に解することは,常識に反すると主張する。

確かに甲19(マグローヒル科学技術用語大辞典」524頁,2000年〔平成12年〕3月15日改訂第3版第1刷発行,株式会社日刊工業新聞社)には「検出器 detector《科技》物体,放射線,化学物質などの存在を検出するのに用いる装置あるいはシステム」,甲20(広辞苑第5版,1998年〔平成10年〕11月11日第5版第1刷発行)には「けんしゅつ【検出】検査して見つけ出すこと。」との記載がある。

しかし,引用発明1の「識別装置」は,工具やパレット等の製品に付設されたデータキャリア4a,4bからデータを接受し,そのデータをヘッド制御モジュール12-2に送るものであり,データを「通信」している装置である。訂正発明1の「光ファイバ式検出器」が物体等の存在を検査して見出し,それをアンプに送信しているのと同様に,引用発明の「識別装置」においても,工具やパレット等の製品に付されたデータキャリア4a,4bからのデータを接受し,それをヘッド制御モジュール12-2に送信しているのであるから,両者は製造ラインにおける物体の情報を検出して,それを処理するアンプ乃至ヘッド制御モジュールに送信しているのであるから,検出器の電子ユニットである点で一致するものである。審決の判断に誤りはなく,原告の上記主張は採用することができない。

イ また原告は,引用発明1の識別装置は,じん挨の舞い散る環境を嫌い耐熱性に優れないものであり,空冷用開口が必要であって気密性と相反し,また寸法上の制約もないのに対し,訂正発明1の光検出器のアンプユニットは,空冷用の開口を設けることなどおよそ想定し得ない気密性の確保が要請されるものであるから,これらを検出器の電子機器ユニットである点で一致すると認定したのは誤りであると主張する。

確かに甲17(「FA用IDシステムFA HOLON 形V600 ユーザーズマニュアルシリアルインターフェースタイプ」立石電機株式会社1989年〔平成元年〕発行〔日付不詳〕)には,その5-1頁に「■設置場所 IDコントローラ本体は次のような場所は避けて設置してください。 ・周囲温度が,-10~+55℃の範囲を超える場所や温度変化が急激で結露するような場所…・腐食性ガス,可燃性ガス,じん挨,塩分,鉄粉のある場所…」,「■盤内の取付位置 IDコントローラの使用周囲温度は-10~+55℃です。下記項目にご注意ください。…」等の記載がある。また甲21(「制御機器・制御システムの現状と将来動向1995年3月」社団法人日本電気制御機器工業会,117頁(3)③)にも,「検出用スイッチが使用される環境が,温度の変化や,水,油,ごみ,ほこり,そして振動,衝撃さらには電気的なノイズなど種々の環境ストレスの高い場所であり…」との記載がある。

しかし,訂正明細書(甲13の2)には,光検出器のアンプユニットにおいては,使用される環境の程度が気密性ないし寸法上の制約とどの程度関連するのかの説明はなく,訂正明細書には空冷用開口が不要であるとの記載もない。引用例(甲7)にも識別装置がじん挨の舞い散る環境を嫌い耐熱性に優れないものであるので空冷用開口が必要であること等に関する記載はなく,また,その空冷用開口の必要性と箱状のケースの構造に関する記載もない。訂正発明1の「光ファイバ式検出器のアンプユニット」も,引用発明1の「識別装置の制御モジュール」も共に,上記のように製造ラインにおける物体の情報を検出し,それを処理してコンピュータ(CPU42)に送信するためのものであるから,その使用する環境が異なり,それによって必要とされる気密性が格別異なるとも認められない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。

ウ また原告は,引用例(甲7)の「識別装置」と訂正発明1の「検出器のアンプユニット」では通信手段が異なり,また当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)の団体の分類である甲21(制御機器・制御システムの現状と将来動向)でも別異の電子機器として理解されていると主張する。

しかし引用発明1の「識別装置」は,工具やパレット等の製品に付設されたデータキャリア4a,4bからデータを接受し,そのデータをヘッド制御モジュール12-2に送るので,データを「通信」している装置ではあるが,訂正発明1の「光ファイバ式検出器」が物体等の存在を検査して見出し,それをアンプに送信しているのと同様に,引用発明1の「識別装置」においても,工具やパレット等の製品に付されたデータキャリア4a,4bからのデータを接受し,それをヘッド制御モジュール12-2に送信しているのであるから,両者は製造ラインにおける物体の情報を検出して,それを処理するアンプないしヘッド制御モジュールに送信している点で共通し,その機能は同じである。また用途についても,検出する対象は製造ラインの製品である点で同じである。また,検出し送信する方式が,訂正発明1においては,光により検出し光データをファイバにより送信するものであるのに対し,引用発明1においては,データキャリアからの電子データを検出し,その電子データをケーブルを介して送信する点で相違するところ,審決はこの点は,相違点1として認定し,判断しており,その内容も適切である。原告の上記主張は採用することができない。

3  取消事由2(一致点認定の誤り2)について

(1)  原告は,審決が「引用発明1の『一対のコネクタ15a-2,15b-2』は,その機能及び構造からみて,本件訂正発明1の『一対の第1コネクタ』に相当し」(19頁29行~31行)として,「表面および裏面の対称位置に配置されて内部回路に接続された一対の第1コネクタ」と「前記一対の第1コネクタのうちの一方に接続され」た「第2コネクタ」を有する点で一致するとした一致点認定は誤りである旨主張するので,以下検討する。

引用例(甲7)には,上記2(1)エのとおり,ヘッド制御モジュール12-2は全体として箱状であり,その両側壁にはコネクタ15a-2,15b-2が配置されているところ,上記2(1)ウ(イ)で摘記した第1図におけるヘッド制御モジュール12-2と同形状のヘッド制御モジュール12-7との間には,更に同形状のヘッド制御モジュール12-3ないしヘッド制御モジュール12-6が連結されることが示されている。そうすると,ヘッド制御モジュール12-2の両側壁に位置するコネクタ15a-2,15b-2は,ガイドレール30に装着された状態で,同形状のヘッド制御モジュール12-1のコネクタ15a-1,及び,ヘッド制御モジュール12-3のコネクタ15b-3とそれぞれ接続されるのであるから,コネクタ15a-2及びコネクタ15b-2は,箱状のケースの表面及び裏面の対称位置に配置されているものといえる。そして,ヘッド制御モジュール12-1~12-8のコネクタ15a-2~15a-7,及び,コネクタ15b-2~15b-8は,互いに中継コネクタ16により接続されている。

ヘッド制御モジュール12-2が箱状であり,その中に通信制御回路51,デコーダ52及びヘッドI/F回路53が収納され,コネクタ15a-2,中継コネクタ16と接続・連結している。

そして,このような,箱状のケース内に収納された制御回路に接続されたコネクタと,ケース外の他のコネクタを接続するについて,文献(甲1~3〔審判甲1~3〕,17)には以下のとおりの記載がある。

ア 甲1(特開平7-36585号公報。発明の名称「オプション装置」,出願人株式会社日立製作所,公開日平成7年2月7日)

(ア) 発明の詳細な説明

・ 「以上本発明は情報処理装置に設けたオプション増設用のオプションコネクタに,複数のオプション装置を増設可能とする情報処理装置とオプション装置を提供することにある。」(段落【0008】)

・ 「図14はこのオプション接続基板41を内蔵する接続ユニット42である。4か所に設けた外部コネクタ43が全て同一高さでは増設するオプション装置のハウジングと干渉するためにジョイントコネクタ44を用いてコネクタ高さを高くし,増設コネクタ45とオプション装置に設けた接続コネクタ21とを接続することで,特定のオプション装置を増設しなくともユーザが必要とするオプション装置のみ増設することができる。」(段落【0035】)

(イ) 図面

・ 【図7】

file_8.jpg・ 【図14】

file_9.jpg・ 【図15】

file_10.jpgイ 甲2(特開平2-285698号公報。発明の名称「電子機器用筐体」,出願人横河電機株式会社,公開日平成2年11月22日)

(ア) 特許請求の範囲

・ 「(1) プリント基板を挿入する開口部を有するケースと,この開口部に取付けられて当該開口部を塞ぐフロントカバーを有する電子機器用筐体において,…」

(イ) 発明の詳細な説明

・ 「プリント基板20はケース10の内部に一枚収容されるもので,開口部側の端部には信号接続用のコネクタ21,22が位置を隔てて設けられている。」(2頁右下欄14行~17行)

(ウ) 図面

・ 【第1図】

file_11.jpgウ 甲3(特開平6-230809号公報。発明の名称「ビルディングブロック構造のプログラマブルコントローラ用ユニット」,出願人オムロン株式会社,公開日平成6年8月19日)

(ア) 発明の詳細な説明

・ 「ユニット本体1は箱状をなしており,ユニット本体1内にはプリント電気回路基板3が固定装着されている。」(段落【0013】)

・ 「プリント電気回路基板3を隔てて,ユニット本体1の一方の側には電源ラインおよびデータバス,アドレスバス,コントロールバスの各バスライン接続用の雄型電気コネクタ5が,ユニット本体1の他方の側には雄型電気コネクタ5と同種類の電源ラインおよび各バスライン接続用の雌型電気コネクタ7が各々設けられている。」(段落【0014】)

(イ) 図面

・ 【図1】

file_12.jpgエ また,甲17(「FA用IDシステムFA HOLON 形V600 ユーザーズマニュアルシリアルインターフェースタイプ」立石電機株式会社1989年〔平成元年〕発行〔日付不詳〕)の1頁(マニュアル表紙)には,箱状のケース内部に設置された電気通信手段がケース側壁に設けられた開口部を通して外部に接続される装置が図示されている。

オ 上記によれば,箱状のケース内に収納された制御回路に接続されたコネクタと,ケース外の他のコネクタを接続する際に,ケースの一部に他のコネクタを連通させるための接続用の開口を設けることは技術常識であることが認められる。

そうすると,引用例においても,箱状のケースの両側壁のコネクタが近接して臨む位置には,コネクタを連通させるための接続用の開口が設けられていると解するのが自然である。

(2)  原告の主張に対する補足的説明

ア 原告は,引用例(甲7)の第2図から明確に開示されているとおり,コネクタ15b-1はヘッド制御モジュールの外壁面と面一であり,その第1図から中継コネクタ16は各モジュール間にその厚み相当分の隙間を形成しているとして,中継コネクタ16が「一対の接続用の開口の1つを貫通して該1つの接続用の開口が形成された一方の前記壁面の内壁を越えて前記箱状のケース本体の内側に挿入」されるものではないことが明らかであると主張する。

しかし,引用例(甲7)には,コネクタ15b-1がヘッド制御モジュールの外壁面と面一であることも,中継コネクタ16が各モジュール間にその厚み相当分の隙間を形成するものであることも特段記載されていないし,上記(1)の検討によれば,箱状のケースの両側壁のコネクタが近接して臨む位置には,コネクタを連通させるための接続用の開口が設けられていると解するのが自然である。原告の上記主張は採用することができない。

イ また,原告は,引用例(甲7)のヘッド制御モジュールには「ヘッド駆動電源」が設けられているため空冷用の隙間を設けて素子の劣化を防ぐ必要があり,そのためヘッド制御モジュールのコネクタ15a-1,15b-1をケース本体内に引き込ませず,中継コネクタ16をケース外部にスペーサ代わりに位置させている旨主張する。

しかし,甲7には,中継コネクタが空冷用隙間を確保するためのスペーサの役割をしているとの記載はないし,原告の上記主張が技術常識であることを認めるに足りる証拠もないから,原告の上記主張は採用することができない。

ウ また原告は,引用発明の識別装置は,熱源を有するため気密になし得ないのみならずスペーサの設置や開口の穿設といった措置が必要なものであり,このような識別装置のヘッド制御ユニットのケースとして,気密性の確保が基本的に要請される光電スイッチのケースである甲8(特開平4-174924号公報),甲9(特開平5-167418号公報)の採用を試みることは阻害要因を有すると主張し,審決が「このような,周知の構造と寸法とを備えたケースを引用発明1における箱状のケースとして採用した際には」(22頁下5行~下4行)とするその前提自体において誤りがあるとし,甲2(特開平2-285698号公報)の技術も「空冷用の通気孔11を上下の面に有している」ものであるから(2頁右下欄4~5行),これを引用例のヘッド制御モジュールに適用しても,気密性が低下することになり,耐久性が低下したり,誤動作を起こす原因となるのであるから,訂正発明1の検出器のアンプユニットにはなり得ない旨主張する。

しかし,引用例の識別装置に関して,その明細書(甲7)には熱源を有するため気密になし得ないことや,スペーサの設置や開口の穿設といった措置が必要なものであり中継コネクタが空冷用隙間を確保するためのスペーサの役割をしているのである旨の記載はない。また光電スイッチのケース(甲8,9)において気密性の確保が基本的に要請されるとしても,光電スイッチのケースも識別装置のケースも,共に製造ラインにおける物体の情報を検出し,それを処理してコンピュータに送信する電気機器を収納するケースである点で共通しており,光電スイッチの場合よりも識別装置の場合の方が発熱量が多いとしても,それだけで,ケースの採用を試みることを妨げる理由とはいえない。原告の上記主張は採用することができない。

エ また原告は,審決の判断は,訂正明細書(甲13の2)に接した上で甲7に訂正発明1の「一対の第1コネクタ」,「第2コネクタ」が開示されていると解釈するという後知恵の判断であるとも主張するが,甲7(引用例)の記載,及びケース側のコネクタに他のコネクタを連通させる際には,そのケースに接続用の開口を設けることは上記(1)オのとおり技術常識であり,その上で訂正発明1の「一対の第1コネクタ」,「第2コネクタ」が開示されていると解釈したものであり,後知恵の判断といえないことは明らかである。原告の上記主張は採用することができない。

オ また原告は,甲7(引用例)の第2図にコネクタ15b-1より一回り大きい底部が見られることが明白であるから,底部の存在を前提に内部構成を解釈するのは合理的である,該底部が仮に基板の裏面であれば「一対のコネクタ15a-1,15b-1」が訂正発明1における「一枚の配線基板の表面及び裏面で,…同一面の電路に各々の実装用端子が半田付けされて取り付けられる」に相当するとはいえないと主張する。

甲7の第2図は上記2(1)ウ(イ)のとおりであるところ,そこからは,コネクタ15b-1より一回り大きい底部,あるいは何らかの底部ないし基板の表面又は裏面があると解することはできず,それを裏付ける記載もない。原告の上記主張は採用することができない。

カ さらに原告は,該底部が段差部の底部(ケースの一部)であれば,これに加えて,仮に審決がいう内部回路基板は一枚に配線基板上に構成されるとの解釈(22頁3行~4行)を採ったとしても「一枚の配線基板の…各々の接触碍子が配置される面と同一面の電路に各々の実装用端子が配線基板に各々の接触端子が半田付けされて取り付けられる」構成すら導き出されない,底部を「段差部の底面」とする解釈を採用した場合には,「コネクタ15a-1,15b-1」は「箱状のケース本体内で・‥一対の壁面の内壁から内方で…一対の接続用の開口に近接して臨むように設けられる」構成も備えていないから,訂正発明1の構成を甲7から導き出すことは不可能であるとも主張する。

しかしこれも上記オ同様であり,甲7には,該底部が段差部の底部(ケースの一部)であるとは記載されていないのであるから,原告の上記主張は採用することができない。

4  取消事由3(一致点認定の誤り3)について

(1)  原告は,審決が引用例(甲7)のヘッド制御モジュールに「コネクタを連通させるための接続用の開口が設けられている」と認定し(18頁35行~36行),この「接続用の開口」が設けられている点を一致点と認定した(19頁6行)が,誤りであると主張する。

しかし,上記3(1)のとおり,甲7の記載事項,及び第1図,第4図を参酌すると,ヘッド制御モジュール12-2は,全体として箱状であって,その箱状のケースの中には,通信制御回路51,デコーダ52及びヘッドI/F回路53が収納され,箱状のケース側壁に配置されたコネクタ15a-2と接続しており,そのコネクタ15a-2は,中継コネクタ16を介して同形状の他のヘッド制御モジュール12-1に連結していると解される。そして,各ヘッド制御モジュール12-1のケース両側壁のコネクタは,中継コネクタを介して近接して臨む位置に配置されていることは明らかである。このような,ケース内に収納された制御回路に接続されたコネクタに,ケース外の他のコネクタを接続する際には,ケースに他のコネクタを連通させるための接続用の開口を設けることが技術常識であることからすると,箱状のケースの両側壁のコネクタが近接して臨む位置には,コネクタを連通させるための接続用の開口が設けられていると解するのが自然であり,この点は既に検討したとおりである。

審決が「箱状のケースの両側壁のコネクタが近接して臨む位置には,コネクタを連通させるための接続用の開口が設けられているといえる」(18頁下3行~下2行)と認定したことに誤りはない。

(2)ア  原告は,甲7の第2図においては,筐体外壁表面から一段下がった段差部にコネクタ14,コネクタ15b-1が貼着されている態様が明示されており,「コネクタを連通させるための開口」は存在しないことが明らかであると主張する。

しかし,甲7の第2図に関する発明の詳細な説明には,上記2で摘記したとおり,「コントローラ11の側壁には,第2図に示すように,ソケット形のコネクタ14が設けられ,コントローラ本体11の内部で後述する電子回路部に接続されている。同様に各ヘッド制御モジュール12-1,12-2,…,12-7,12-8の両側壁に,ソケット形のコネクタ15a-1,15a-2,…,15a-7,15a-8及び15b-1,15b-2,…,15b-7,15b-8が設けられている。そして,コントローラ本体11とヘッド制御モジュール12-1のコネクタ14と15a-1間は,中継コネクタ16によって接続されるようになっており,同様に各ヘッド制御モジュール12-1,12-2,…,12-7,12-8間も中継コネクタによって接続されるようになっている。もっとも,第1図,第2図で示すコネクタ14及び中継コネクタ16は略図しており,端子数は少ないが,実際には,端子数は第4図に示すように多数個設けられている。」(3ページ右上欄2行~右上欄19行)と記載されているだけであり,原告主張の筐体外壁表面から一段下がった段差部にコネクタ14,コネクタ15b-1が貼着されている態様を見出すことはできない。

イ  また原告は,「各ヘッド制御モジュール12-1,…の両側壁に,ソケット形のコネクタ15a-1…及び15b-1…が設けられている」という引用例(甲7)の記載(3頁右上欄5行~9行)も,両側壁における落ち込んだ段差部にコネクタが「設けられている」ことを表現したものであり,引用例には,ヘッド制御モジュールの「ケースの一対の壁面に形成され前記一対のコネクタが近接して臨む一対の接続用の開口」は開示されていないとも主張する。

しかし,既に検討したとおり,ケース内に収納された制御回路に接続されたコネクタに,ケース外の他のコネクタを接続する際にケースに他のコネクタを連通させるための接続用の開口を設けることは技術常識であり,上記「設けられている」との記載はこの開口の存在を否定するものではないから,箱状のケースの両側壁のコネクタが近接して臨む位置には,コネクタを連通させるための接続用の開口が設けられていると解するのが自然であるから,原告の上記主張は採用することができない。

ウ  また原告は,甲7の第2図には,コントローラ本体11ないしヘッド制御モジュール12-1の,紙面上右側外壁面からコネクタの幅寸法に相当する長さ分段落ちする矩形状の段差部があり,当該段差部分に,段差部分よりも僅かにサイズの小さなソケット型のコネクタ14ないしコネクタ15b-1が明記されている,そうすると,段差部の内側に更にコネクタの外径と同寸法の開口を設けて,該開口にコネクタ14ないしコネクタ15b-1をはめ込むなど無意味であり,段差部にはスルーホールが設けられ,このスルーホールにピンコンタクトが貫通して内部の回路と接合されていると理解するのは自然であると主張する。

しかし,上記アのとおり,甲7には,コントローラ本体11ないしヘッド制御モジュール12-1の,右側外壁面からコネクタの幅寸法に相当する長さ分段落ちする矩形状の段差部があると解する根拠はない。そして,このような段差部分に,段差部分よりも僅かにサイズの小さなソケット型のコネクタを設けて,他のコネクタを連結することが技術常識であるとも認められない。原告の主張を採用することはできない。

エ  さらに原告は,筐体を縦割にして左右から組みつければ容易になしうる作業であり,当業者であれば,基板の組付けや半田付けが不可能に近い上方に基板挿入用開口を有するケース本体の構成と,基板の組付けも半田付けも容易で効率的に作業できる構成との選択に迫られたとき,甲7のケースとして必然的に後者の構成を採用することは明らかである,と主張する。

しかし,引用例(甲7)には,ヘッド制御モジュールを構成する筺体を縦割に2分し,それらを左右から組みつけて構成することは記載されておらず,また,箱状の電子機器ユニットのケースを,配線基板が該配線基板に略平行な一対の壁面に沿って挿入される基板挿入用の開口を有する箱状のケース本体と,該箱状のケース本体の前記基板挿入用の開口を閉塞するカバーとで構成することは,周知の技術(甲8:特開平4-174924号公報,甲9:特開平5-167418号公報,甲10:特開平5-268043号公報,甲2:特開平2-285698号公報)であることからすると,原告主張のように取り付ける方法のみを採用することが必然的であると解することはできない。原告の上記主張は採用することができない。

5  取消事由4(相違点2の判断の誤り)について

(1)  原告は,審決が相違点2についての判断において,「半田付けによって回路部品の実装用端子を電路に取り付けることは,いずれも,慣用技術にすぎない」(21頁下2行~22頁1行)と認定したが,素子等の回路部品を基板の片面に半田付けすることが仮に電子部品分野における慣用技術であるとしても,引用例に記載されたヘッド制御モジュールの内部構造を知らずして,筐体の両側壁に設けられた「コネクタ15a-2,15b-2」を,一枚の配線基板の表面および裏面の対称位置に半田付けできることが可能であるとは結論できないと主張するので検討する。

素子等の回路部品を基板に半田付けすることに関して,甲8(平4-174924号公報,発明の名称「光電スイッチおよび光電スイッチ本体ケースカバーの保持構造」,出願人富士電機株式会社,公開日平成4年6月23日)には,以下の記載がある。

「第1図,第2図において,プリント配線基板21には表示素子22,その他発光側と受光側の電気回路を構成する抵抗器などの回路部品が搭載され,この回路はコード23で外部に導出されている。」(4頁右上欄3行~6行)

上記記載から明らかなように,素子等の回路部品を基板に半田付けすることは周知の技術であり,素子等の回路部品をその配線基板の片面だけでなく両面に設けることは,当業者が適宜選択して実施する設計的事項である。

審決の認定に誤りはない。

(2)  原告の主張に対する補足的説明

ア 原告は,甲9,甲10には,複数の基板を有する検出器のアンプユニットが開示されているだけであると主張する。

しかし審決が周知技術として引用した甲9(特開平5-167418号公報,発明の名称「光電スイッチ」,出願人アルプス電気株式会社,公開日平成5年7月2日),甲10(特開平5-268043号公報,発明の名称「光電スイッチ」,出願人アルプス電気株式会社,公開日平成5年10月15日)は,一枚の配線基板の表面および裏面の対称位置に半田付けできることが可能であることを示すために引用されたのではなく,甲9,10は,「光ファイバからの光信号を光電変換して信号の処理を行う光ファイバ式検出器のアンプユニットが,引用発明1にみられる識別装置のヘッドモジュールと共に,検出器の電子機器ユニットとして周知である」とする認定(審決21頁の相違点1)に用られているものであり,さらに甲9は,「箱状ケースとガイドレールの存在,ケース本体と配線基板挿入用開口,一対のコネクタが取り付けられた配線基板に平行な箱状のケースの側壁,基板挿入用開口の存在等の構成は当業者であれば適宜なし得たことである」旨の認定(22頁14行~24行)に用いられているものであって,配線基板が一枚であるか,二枚であるかの認定に援用されたものではない。原告の上記主張は採用することができない。

イ また原告は,引用例(甲7)には少なくとも二枚の回路基板(「通信制御回路51」,「ヘッドI/F回路53」)の構成が開示されていると主張するが,甲7には,第3図中の「通信制御回路51」,「ヘッドI/F回路53」及び「ヘッド接続コネクタ33-1」を原告主張のように配置することについては何ら記載されていない。そして,既に検討したように,素子等の回路部品をその配線基板の両面に設けることは,当業者が適宜選択して実施する設計的事項であること,及び箱状の電子機器ユニットのケースを,配線基板が該配線基板に略平行な一対の壁面に沿って挿入される基板挿入用の開口を有する箱状のケース本体と,該箱状のケース本体の前記基板挿入用の開口を閉塞するカバーとで構成することは,周知の技術(甲8:特開平4-174924号公報,甲9:特開平5-167418号公報,甲10:特開平5-268043号公報,甲2:特開平2-285698号公報)であることからすると,図3中の「通信制御回路51」,「ヘッドI/F回路53」及び「ヘッド接続コネクタ33-1」が,原告主張の配置であると推測することも技術常識とは整合しないということができる。原告の上記主張は採用することができない。

ウ また原告は,審決がいうように,特別の事情がない限り一枚基板にするのが当業者にとって自明であるというのであれば,複数枚基板の内部回路構造を開示している甲9や甲10はその知見を否定するに十分な証拠資料である,そして,甲8に一枚基板の「光電スイッチ」が開示されているからといって,その一事で甲7の「識別装置のヘッド制御モジュール」における内部回路を一枚基板にできることが想到容易であるなどと結論されるはずもないとも主張する。

(ア) 甲9(特開平5-167418号公報,発明の名称「光電スイッチ」,出願人アルプス電気株式会社,公開日平成5年7月2日)には以下の記載がある。

a 発明の詳細な説明

・ 「回路基板13は,水平版13aと,この水平板13aの下面から相平行に垂設された2枚の垂直板13b,13cをもって,上記ケース11内に内装可能な大きさの略コの字形に形成されている。この回路基板13には,図1に示した回路のうちの,電極3と送信用コイル59と受信用コイル50とを除いた部分が,所望の配列で形成されている。そして,一方の垂直板13bの外面には,上記電極3と送信用コイル59とが場所を異にして取り付けられ,また他方の垂直板13cの外面には,受信用コイル50が送信用コイル59と同心に取り付けられて,回路基板13に形成された回路と電気的に接続されている。なお,上記各コイル50,59としては,光電スイッチを薄形化するため,フレキシブルプリント配線板に渦巻状に印刷形成されたプリントコイルを用いることもできる。回路基板13を上記ケース11内に収納すると,電極3および送信用コイル59が一方の側板11b側に,受信用コイル50が他方の側板11c側に配設される。」(段落【0026】)

・ 「図6に示す光電スイッチは,ケース11に投光用光ファイバ14および受光用光ファイバ15を接続する構成に代えて,ケース11の後面板11aに投光用レンズ16および受光用レンズ16aが設定されている。また,回路基板13が水平板13aと,後面板13dと,これら水平板13aおよび後面板13dに対して垂直に設定された1枚の垂直板13bとから構成されており,垂直板13bの片面に上記電極3と送信用コイル59とが場所を異にして取り付けられ,その裏面に受信用コイル50が送信用コイル59と同心に取り付けられて,回路基板13に形成された回路と電気的に接続されている。その他については,図5の光電スイッチと同様に形成される。本例の光電スイッチは,図6の示すように,ねじ19をもって複数個を連設することができる。」(段落【0028】)

b 図面

・ 図5

file_13.jpg・ 図6

file_14.jpg(イ) また甲10(特開平5-268043号公報,発明の名称「光電スイッチ」,出願人アルプス電気株式会社,公開日平成5年10月15日)には以下の記載がある。

a 発明の詳細な説明

・ 「次に,上記第1実施例に係る光電スイッチの内部構造の一例を,図4~図6に基づいて説明する。図4は光電スイッチの側面図,図5は光電スイッチの平面方向から見た断面図,図6はLEDの説明図である。図4及び図5において,11はケース,12は蓋板,13は投光用光ファイバ,14は受光用光ファイバ,15は回路基板,36は検出用投光部に備えられたLED,50は受信部に備えられたホトダイオード,16はLED36からのモニター用光vをホトダイオード50に導く第1のミラー,17はマスタ側の光電スイッチからの伝達用光信号をホトダイオード50に導く第2のミラーを示している。」(段落【0031】)

・ 「回路基板15は,図1の回路を搭載してなり,上記ケース11内に収納可能な大きさに形成されている。蓋板12は,ケース11の開口部を密封可能な大きさの平板状に形成されており,回路基板15をケース11内に収納した後,ケース11の開口部に着脱可能に被着される。」(段落【0033】)

b 図面

・ 【図4】

file_15.jpg・ 【図5】

file_16.jpg・ 【図6】

file_17.jpgm| [Lm(ウ) 上記甲9によれば,回路基板の二枚の垂直板13b,13cに受信用コイル50と送信用コイル59とを別個に設けることと共に,光電スイッチを薄形化するため,各コイル50,59をフレキシブルプリント配線板に渦巻状に印刷形成することも記載されており(段落【0026】,図5),この場合は,その目的からして,一枚のフレキシブルプリント配線板に印刷形成するものであると解される。また一枚の垂直板13bの片面に電極3と送信用コイル59とが,その裏面に受信用コイル50が送信用コイル59と同心に取り付けることが記載されている(段落【0028】,図6)。これによれば甲9は,一枚基板にすることが当業者にとって自明であることを否定する根拠とならない。

また,甲10の上記記載からは,回路基板15の形状及びその機能等を把握することができない。従って,原告が主張するように,上記甲10は,一枚基板にするのが当業者にとって自明であることを否定する証拠にはならない。

上記の検討によれば,原告の主張は採用することができない。

エ さらに原告は,該基板を一枚にした場合における甲7のヘッド制御モジュールは,訂正発明1の一枚の配線基板の表面及び裏面の対称位置で,各々の接触端子が配置される面と同一面の電路に各々の実装用端子が半田付けされて取り付けられると共に,後記箱状のケース本体内で後記一対の壁面の内壁から内方で後記一対の接続用の開口に近接して臨むように設けられる一対の第1コネクタを備えないものとなると主張する。

しかし,既に検討したとおり,甲7の第1図及び第4図に関する記載事項及びその図面を参酌すると,ヘッド制御モジュール12-2は,全体として箱状であって,その箱状のケースの中には,通信制御回路51,デコーダ52及びヘッドI/F回路53が収納され,箱状のケース側壁に配置されたコネクタ15a-2と接続しており,そのコネクタ15a-2は,中継コネクタ16を介して同形状の他のヘッド制御モジュール12-1に連結していると解される。そして,各ヘッド制御モジュール12-1のケース両側壁のコネクタは,中継コネクタを介して近接して臨む位置に配置されていること,このような,ケース内に収納された制御回路に接続されたコネクタに,ケース外の他のコネクタを接続する際には,ケースに他のコネクタを連通させるための接続用の開口を設けることが技術常識であることからすると,箱状のケースの両側壁のコネクタが近接して臨む位置には,コネクタを連通させるための接続用の開口が設けられていると解するのが自然である。原告の上記主張は採用することができない。

6  取消事由5(相違点3~5の判断の誤り)

(1)  原告は,審決が訂正発明1と甲7(引用例)に開示された発明との相違点3について,かかる箱状の電子機器ユニットのケースは甲8(特開平4-174924号公報),甲9(特開平5-167418号公報),甲2(特開平2-285698号公報)等にみられるように周知の技術であるから容易想到であると判断した(22頁8行~24行)が,引用例(甲7)の開示,すなわち引用例には基板を二枚とした構成が示されていることを前提とすれば,このような結論は導き出せないと主張する。

原告の主張は,甲7の第2図の記載からして,ヘッド制御モジュールの側面に設けられたコネクタ14,15b-1が矩形状の「段差部」の底面か,或いは基板の裏面に貼り付けられていることは明らかで,甲7において基板を設置するための最も自然且つ合理的なケースの構造はケースを縦に割って側壁側に大きく開口させ,開口方向と平行に基板を収納し,ボス孔等にネジ止めする構造である。上方が開口したケースは二枚の基板をケース内部に固定することが困難であると認識されていたことは明らかであって,このようなケースを引用例のヘッド制御モジュールに適用した場合は,作業の困難性によって生産効率が大きく低下するので,上方が開口した本件相違点3に係るケースをヘッド制御モジュールに適用することには,技術的な阻害要因があるとするものである。

しかし,既に検討したように,甲7には,ヘッド制御モジュールの側面に設けられたコネクタ14,15b-1が矩形状の「段差部」の底面に,或いは基板の裏面に貼り付けられているとは記載されておらず,またそのことは第2図から把握することもできない。またケース内に収納された制御回路に接続されたコネクタとケース外の他のコネクタを接続する際には,ケースの一部に他のコネクタを連通させるための接続用の開口を設けることが技術常識であること,箱状のケースの両側壁のコネクタが近接して臨む位置には,コネクタを連通させるための接続用の開口が設けられていると解するのが自然であることも既に検討したとおりである。

また,上方が開口したケースに基板を固定することが困難であるとの原告の主張も,基板を二枚とし,その配置間隔をコネクタがケースの開口に突出する位置に設定した場合を前提にした主張であるが,上方が開口したケース内部に一枚の基板を固定することも既に検討したとおり周知であり,原告の主張は前提を欠き,採用することができない。

その他,審決が相違点3~5につき引用例及び甲2,8,9等に記載された周知技術から容易想到であるとした点につき誤りは認められない。

(2)ア  また原告は,ケース本体を配線基板の面と平行に縦割りにして該開口面から配線基板を収納載置することは,訂正明細書の【図8】(特許公報〔甲12〕),甲1の【図4】・【図15】,甲3の【図2】に示されているように当技術分野における技術常識であり,また訂正発明1のように,上方に基板挿入用の開口を設け,ケース本体の壁面に沿って基板を挿入することは,基板載置の困難性ゆえに採用し難い構成であることは明らかであると主張する。

しかし,上方が開口したケース内部に一枚の基板を固定することは既に検討したとおり周知であるから,訂正発明1のように,上方に基板挿入用の開口を設け,ケース本体の壁面に沿って基板を挿入することは,当業者にとって格別困難なことではない。

イ  また原告は,コネクタ付きの基板を「上方の基板挿入用開口」から挿入することは,コネクタと筐体との干渉のため絶対不可能であり,甲7を仮に一枚基板とした場合にコネクタ付き基板をケース内に収納可能となしうる唯一の構成は,甲3のようなケースを縦割することによる「基板より大きな開口」からの収納しかあり得ないとも主張する。

しかし,箱状のケースに配線基板を挿入して固定する周知の技術を甲7の引用発明に適用する際に,基板に配置したコネクタの幅方向の寸法をケースの開口幅よりも小さくすることは,当業者が適宜決定する設計的事項であるから,原告の上記主張は採用することができない。

ウ  また原告は,甲7(引用例)の第2,3図は,ヘッド制御モジュールが複数枚の基板を内装している根拠とはなり得ても一枚に全ての素子が集積化されている根拠とはならないと主張する。

しかし甲7には,図3中の「通信制御回路51」,「ヘッドI/F回路53」及び「ヘッド接続コネクタ33-1」を複数基板に配置することは記載されていない。そして,素子等の回路部品をその配線基板の両面に設けることは,当業者が適宜選択して実施する設計的事項であること,及び箱状の電子機器ユニットのケースを,配線基板が該配線基板に略平行な一対の壁面に沿って挿入される基板挿入用の開口を有する箱状のケース本体と,該箱状のケース本体の前記基板挿入用の開口を閉塞するカバーとで構成することは,周知の技術であることからすると,図3中の「通信制御回路51」,「ヘッドI/F回路53」及び「ヘッド接続コネクタ33-1」が,上記原告主張のように複数の基板にしか設けることができないと推測することは技術常識と合致しない。原告の上記主張は採用することができない。

エ  また原告は,上方開口を設けたケースの開口から基板を挿入する方法と,縦割の広い開口から基板を格納する方法との選択に迫られた場合,当業者が後者を選択することは明らかであると主張する。

しかし,上方が開口したケース内部に一枚の基板を固定することは,周知のことであり,訂正発明1のように,上方に基板挿入用の開口を設け,ケース本体の壁面に沿って基板を挿入することは,当業者にとって格別困難なことではない。原告の上記主張は採用することができない。

オ  さらに原告は,甲2,8~19,17はいずれも単体使用の電子機器に関するものであり,甲7とは基本的構造及び機能作用を異にするため,参照に耐えず,作業効率に劣る方法をあえて選択することが当業者であれば適宜なし得たこととはいえない旨主張する。

しかし,単体使用の電子機器の技術をその単体を複数個ユニット化した電子機器の技術に適用することが格別のこととは認められないし,訂正発明1のように箱状のケース本体を薄くし密封性を高めることは,単体使用の場合であろうと複数の単体をユニット化して使用する場合であろうと共通の課題であり,甲7ばかりでなく,甲2,8~19,17の単体使用の電子機器においても有する課題である。したがって,基本的構造及び機能作用を異にするとはいえない。また,上方に基板挿入用の開口を設けケース本体の壁面に沿って基板を挿入することは作業効率が劣る旨についても,これを比較しまた評価すべきとする根拠を欠くうえ,箱状のケース本体を薄くし密封性を高める周知の技術を採用しない理由とは認められない。原告の上記主張は採用することができない。

7  取消事由6(訂正発明2の進歩性についての判断の誤り)

原告は,審決が訂正発明2と引用発明2とが(ア)「複数の検出器の電子機器ユニットを連結した電子機器」であるとし,(イ)「表面及び裏面の対称位置に配置される一対の第1コネクタ」を有するとし,(ウ)「第1コネクタが近接して臨む一対の接続用の開口」を有するとし,(エ)「前記第1コネクタのうちの一方で接続された…第2コネクタとを」備えているとしてそれぞれ両者の一致点であるとしたうえで,(オ)本件訂正発明1と同様の理由で「引用発明2」と周知技術から本件訂正発明2に想到することは容易であるとした(24頁21行~32行)ところ,上記(ア)の認定が誤りであることは取消事由1で述べたとおりであり,また,(イ)及び(エ)の認定が誤りであることは取消事由2で述べたとおり,(ウ)の認定が誤りであることは取消事由3で述べたとおりである。そして,(オ)の判断は,取消事由4,5で述べたとおりであって,訂正発明2が容易想到であるとの審決の結論は誤りであり,この誤りは審決の結論に影響を及ぼすと主張する。

しかし,上記(ア)の認定については取消事由1で,上記(イ)及び(エ)の認定については取消事由2で,上記(ウ)の認定については取消事由3で,上記(オ)の判断については取消事由4,5の該当箇所で,それぞれ理由がないことは既に検討したとおりである。

原告の取消事由6の主張は理由がない。

8  取消事由7(相違点4の判断の誤り)

(1)  原告は,訂正発明3に関し,①容易想到性についての判断は訂正発明1に関する誤った認定判断に基づくものである,②相違点6についての判断も誤りであると主張する。

まず原告が,訂正発明3に関する容易想到性の判断は訂正発明1に関する誤った認定判断に基づくものであると主張する点については,訂正発明1に関する審決の判断に誤りがないことは既に検討したとおりであり,原告の主張は採用することができない。

(2)  また原告は,訂正発明3においては,アンプユニットの交換作業性向上という積極的目的をもって,2つのコネクタに対するいずれか特定の一方側における結合力の大小を意図的に「設定」するという構成を採用し,この構成により「第2コネクタにおける一方の第1コネクタに対する結合力よりも,他方の第1コネクタに対する結合力の方を小さく設定しておけば,各電子機器ユニットを分離した際に,第2コネクタが所期の第1コネクタに結合された状態となるので,電子機器ユニットの交換作業が容易になる」との作用効果を奏し,このような構成及び作用効果は明らかに引用例に開示も示唆もされておらず,引用例や周知技術に基づき訂正発明3が容易想到であるとした判断は誤りであると主張する。

しかし,引用例(甲7)においても,二つのコネクタと中継コネクタとが接続された状態において,一方のヘッド制御モジュールを固定し,他方のヘッド制御モジュールを移動させれば,中継コネクタはどちらか一方のヘッド制御モジュールのコネクタから外れ,他方のヘッド制御モジュールのコネクタには連結していることになるのは自明のことである。そして,中継コネクタがどちらのヘッド制御モジュール側のコネクタから外れるのかは,二つのコネクタと中継コネクタとの結合力の大きさにより定まり,弱い結合力に設定した側が外れる。また,二つのコネクタと中継コネクタとの結合力を両者同一又はほぼ同一の結合力に設定した場合には,コネクタ間に加わる力の方向やタイミングによってどちら一方側のコネクタが外れることになり,一定でなくなることも自明である。そして,中継コネクタがどちらのコネクタ側から外れるのかが定まらない場合は,ヘッド制御モジュールの交換や分解の際に,中継コネクタの所在を確認する作業が必要になり,また交換する側のヘッド制御モジュールに中継コネクタが接続している場合は,それを外し再接続するための作業が生じるという課題が生じる。そして,これらの課題は,引用発明1,2も有することは当業者にとって自明のことである。

さらに甲6(特開平5-157939号公報,発明の名称「光コネクタプラグの製造法」,出願人三菱レイヨン株式会社,公開日平成5年6月25日)には,以下の記載がある。

「…その調整により,射出成形品である光コネクタプラグ本体のプラグ側係合部の突起高さ又は溝深さを調整することができる。このようにして得られた光コネクタプラグの本体に光ファイバを装着して光ファイバコネクタを製造することができる。製造されたプラグは,光コネクタレセプタクルの挿入部内壁に嵌合し,プラグ側部に設けられたプラグ側係合部と係合する。光コネクタプラグ本体のプラグ側係合部の突起高さ又は溝深さが調整されているので,光コネクタレセプタクルとの結合力を所望に応じて種々に調整し,例えば,レセプタクルとの着脱回数が多い場合には,レセプタクル側係合凸部の突起高さを低く調整する。」(2頁右欄9行~21行)

上記甲6の記載によれば,コネクタにおいて端子の結合力に差異を設けることは技術常識であり,コネクタプラグにおいてその結合力を調整する技術思想は,周知のものと認められる。そして,引用例において,2つのコネクタに対するいずれか特定の一方側における結合力の大小を意図的に設定することも当業者にとって格別困難なことではないから,中継コネクタ16(第2コネクタ)の結合力を,一方のコネクタ15a-2(一方の第1コネクタ)に対する結合力よりも他方のコネクタ15b-2(他方の第1コネクタ)に対する結合力の方が小さくなるように設定することは,当業者にとって適宜行うことができるといえる。

以上の検討によれば,原告の主張する取消事由7は理由がない。

9  結語

以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 今井弘晃 裁判官 清水知恵子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例