知財高等裁判所 平成20年(行ケ)10177号 判決 2008年12月24日
原告
X
訴訟代理人弁理士
伊東忠彦
同
大貫進介
同
山口昭則
同
伊東忠重
被告
特許庁長官
指定代理人
八木誠
同
亀丸広司
同
紀本孝
同
酒井福造
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2006-1706号事件について平成19年12月17日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1 本件は,原告が発明の名称を「管体及びその製造方法」とする後記発明につき国際出願の方法により特許出願をしたところ,日本国特許庁から拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,同庁が請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。
2 争点は,①審判手続の瑕疵の有無,及び,②原告が平成17年5月6日付けでなした補正後の請求項35の発明(本願発明)が下記引用例に記載された発明との関係で進歩性(特許法29条2項)を有するか,である。
記
・ 引用例:特開平2-280765号公報(発明の名称「カテーテルならびにその製造方法および装置」,出願人日立電線株式会社,公開日平成2年11月16日。以下「引用例」といい,同記載の発明を「引用発明」という。甲7)
第3当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁における手続の経緯
原告は,1994年〔平成6年〕4月20日の優先権(米国)を主張して,1995年〔平成7年〕4月3日,名称を「管体及びその製造方法」とする発明につき国際特許出願(PCT/US1995/4169。日本国における出願番号は特願平7-527654号。請求項の数43。以下「本願」という。)をし,平成8年10月18日に日本国特許庁に翻訳文(甲11の1~5,12。国内公表は平成9年12月16日〔特表平9-512445号〕,甲1)を提出し,その後,特許請求の範囲の変更を内容とする補正を平成14年3月29日付け(第1次補正。請求項の数45。甲10)及び平成17年5月6日付け(第2次補正。請求項の数45。以下「本件補正」という。甲3)でしたが,平成17年10月21日付けで拒絶査定を受けたので,平成18年1月27日付けで不服の審判請求をした。
同請求は不服2006-1706号事件として審理されたが,特許庁は,平成19年12月17日,「本件審判の請求は,成り立たない」との審決(出訴期間として90日附加)をし,その謄本は平成20年1月15日原告に送達された。
(2) 発明の内容
本件補正後の特許請求の範囲は,前記のとおり請求項1ないし45から成るが,そのうち請求項35に記載された発明(本願発明)は,次のとおりである。
「35.基部と末端部とを有する細長い管を備えた医療用装置であって,
前記管は,外面と前記管の略全長にわたって延在する中央通路を画成する内面とを有し,前記管は第1の材料,及び,前記第1の材料よりも剛性でない第2の材料よりなり,前記管の壁は,前記第1の材料から前記第2の材料に漸進的に変化し前記基部と前記末端部との間に遷移部を形成し,前記第1と前記第2の材料とは,前記遷移部において漸進的に結合し互いと自然に接着し,前記第1の材料から実質的になる部位から前記第2の材料から実質的になる部位に漸進的に変化する壁を形成し,急な接続部を伴うことなく異なる特性を有する材料よりなる連続的な壊れない管を形成し,前記末端部は,前記第2の材料よりなり,従って前記基部よりも剛性でない医療用装置。」
(3) 審決の内容
ア 審決の詳細は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,本願発明は,前記引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許を受けることができない,というものである。
イ なお審決は,引用発明の内容,本願発明と引用発明との一致点及び相違点を,次のとおりとした。
<引用発明の内容>
「本体側と先端側とを有する細長いチューブによって構成されたカテーテル1であって,
前記チューブは,外面と前記チューブの全長にわたって延在する中央通路を画成する内面とを有し,前記チューブは硬質樹脂1b,及び,硬質樹脂1bよりも軟らかい軟質樹脂1aよりなり,前記チューブの壁は,硬質樹脂1bから軟質樹脂1aに連続的に変化し前記本体側と前記先端側との間に硬質樹脂1bと軟質樹脂1aが混在した部分を形成し,硬質樹脂1bからなる部位から軟質樹脂1aからなる部位に連続的に変化する壁を形成し,急な接続部を伴うことなく異なる特性を有する材料よりなる連続的な破損するおそれがないチューブを形成し,前記先端側は,軟質樹脂1aよりなり,硬質樹脂1bより軟らかいカテーテル。」
<一致点>
本願発明と引用発明とは,
「基部と末端部とを有する細長い管を備えた医療用装置であって,
前記管は,外面と前記管の略全長にわたって延在する中央通路を画成する内面とを有し,前記管は第1の材料,及び,前記第1の材料よりも剛性でない第2の材料よりなり,前記管の壁は,前記第1の材料から前記第2の材料に漸進的に変化し前記基部と前記末端部との間に遷移部を形成し,前記第1の材料から実質的になる部位から前記第2の材料から実質的になる部位に漸進的に変化する壁を形成し,急な接続部を伴うことなく異なる特性を有する材料よりなる連続的な壊れない管を形成し,前記末端部は,前記第2の材料よりなり,従って前記基部より剛性でない医療用装置。」
である点で一致する。
<相違点>
遷移部について,本願発明は,第1と第2の材料とが,遷移部において漸進的に結合し互いと自然に接着しているのに対し,引用発明は,そのような構成ではない点。
(4) 審決の取消事由
しかしながら,審決には以下のとおりの誤りがあるから,審決は違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(審判手続の瑕疵)
(ア) 本件における拒絶査定の理由は,主に請求項1,4,6,24に向けられたものであり,請求項35(本願発明)に対する具体的な拒絶査定の理由の記載は存在しなかった。そのため原告は,請求項35についての拒絶理由は,拒絶理由通知後に提出した平成17年5月6日付け意見書(甲4)により解消したとの認識を持っていた。原告は,審判官から請求項35が特許要件を具備しないことにより出願全体を拒絶されるとの判断がなされることを予め知らされれば,請求項35についても減縮補正をすることができた。それにもかかわらず,原告は意見書も補正書も提出する機会を与えられずに,本願についていきなり拒絶審決を受けたものであり,このような審理は手続保障に欠けるとともに著しく発明の保護に欠けるというべきである。
したがって,審判の審理手続には瑕疵があり,違法として取り消されるべきである。
(イ) また原告は,本件につき審判請求をするに当たり,請求項の数(45項)に応じた手数料として,29万7000円(4万9500円に1請求項につき5500円を加えた額であり,本願の請求項の数は45個であるから,4万9500円+(5500円×45)=29万7000円となる。)という多額の審判請求手数料を特許庁に支払った。このように審判請求手数料が1請求項につき5500円ずつ増額されているのは,各請求項に係る各発明を審理するのに手数を要するからである。ところが,審決は請求項35以外の他の請求項については全く審理をしていないのであって,残る44個分の審判請求手数料である5500円×44個=24万2000円は無に帰した事態となっている。このような事態は経済常識から著しくはずれている。被告は,45個分の審判請求手数料を受領したのであれば,その分だけの審理をすべきところ,被告が最も容易に拒絶できると考えた請求項35のみを審理することにより,すべての請求項を拒絶し去るのは,暴利に加えあまりにも発明の保護に欠けるものであり,特許法1条の趣旨に悖るものである。
したがって,この点においても,審決の審理手続には瑕疵があるから,違法として取り消されるべきである。
イ 取消事由2(相違点の看過及び相違点に関する判断の誤り)
(ア) 審決は,本願発明と引用発明との相違点が「第1と第2の材料とが,遷移部において漸進的に結合し互いと自然に接着している」点のみにあると認定したが,本願発明の構成要素のうち「第1の材料から実質的になる部位から第2の材料から実質的になる部位に漸進的に変化する」点も引用発明との相違点であり,審決はこの相違点を看過したものである。
すなわち,本願発明においては,本願明細書(国内公表公報,甲1)の図面【図1A】に示すように,遷移部19において第1の材料と第2の材料とが混じり合っておらず,第1の材料の部位18から第2の材料の部位16へと漸進的に変化している。言い換えれば,遷移部19において第1の部位18の厚みが次第に減少しており,第2の部位16は逆に厚みが次第に増加する。このように本願発明において第1の部位から第2の部位に漸進的に変化することは,第2の部位の厚みが次第に増加していくことを意味する。このように,第1の部位18と第2の部位16とは遷移部19において明瞭に区別できる。
また,本願発明においては,「第1と第2の材料とは,遷移部において漸進的に結合し互いと自然に接着し」ている。ここで「互いと」とは,区別できる2つの材料がお互いにという意味である。また「接着」とは,区別できるものが密着接合しているという意味である。したがって,本願発明における「互いと接着」とは,第1の材料と第2の材料とが区別できる状態にあって,両材料が密着接合していることを意味している。
他方,引用発明においては,軟質樹脂1aが混合コントロールバルブ12の混合制御孔13Aを通って回転スプール13へと供給され,硬質樹脂1bが混合コントロールバルブ12の混合制御孔13Bを通って回転スプール13へと供給される。軟質樹脂1aと硬質樹脂1bは,回転スプール13内で混合され,かかる混合状態の樹脂が押出ヘッド15に供給される(引用例〔甲7〕3頁右下欄9行~4頁左上欄10行参照)。したがって,混合樹脂が混合制御孔13Cから樹脂出口14を通過し,チューブ押出ヘッド15から吐出されるときには,軟質樹脂1aと硬質樹脂1bとは分離しておらず,互いに混合された混合樹脂状態である。引用発明においては,次第に変化しているのは,両樹脂の混合比である(同2頁左下欄下6行,同右下欄12行参照)。なお被告は,引用発明は2つの材料が混在した部分(遷移部)を設けたものであると主張するが,これは「混在部」と「本願発明における遷移部」とを混同した主張である。
このように,引用発明におけるカテーテルのチューブでは,遷移部において区別なく混じり合った混合状態の両樹脂の間に界面が存在することはなく,区別できる両材料が互いに接着するという状態をとり得ない。
(イ) また,引用発明におけるカテーテルは,遷移部において区別なく混じり合った混合状態の両樹脂の間に界面が存在することはなく,区別できる両材料が互いに接着するという状態をとり得ない。これは阻害事由であって,審決が挙げた周知技術(特開平3-177682号公報〔発明の名称「チューブ」,出願人三菱電線工業株式会社,公開日平成3年8月1日,甲8。以下「甲8公報」という。〕,特開昭60-31765号公報〔発明の名称「カテーテル」,出願人テルモ株式会社,公開日昭和60年2月18日,甲9。以下「甲9公報」という。〕)を引用発明に対して適用することはできない。ちなみに,甲9公報は被覆成形に関する技術を開示するもので,押出成形に関する引用発明とは全く関係がなく,もともと引用発明には適用不可能である。
これに対し被告は,引用発明が接合部の強度不足等の課題を有していたと主張する。しかし,引用例(甲7)のどこにも接合部の強度不足を課題とする旨の記載はなく,むしろ引用発明における課題ないし従来技術の問題点は,熱融着,溶剤接合,接着剤による接着などにより接合する場合に,カテーテルの内腔相互を精度よく突き合わせることが困難であったり,外表面に段差が形成されて円滑な挿入が妨げられたり,使用中に接合部で破損したりするおそれがあることである(甲7,2頁左上欄9行~下5行)。このように,引用発明は「接合」を従来技術の問題点であると捉え,そのような「接合」による問題点を接合によらずに解決しようとしたものであって,引用例には強度不足の課題が示されていないから,接合部の強度を強化したと被告が主張する甲8,9公報の示す周知技術を引用発明に対して適用することは困難である。
2 請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1に対し
ア 原告の主張は,拒絶査定において請求項35(本願発明)の拒絶理由が解消していたと認識していたのに,審決において意見書や補正書を提出する機会がなくいきなり拒絶審決をされたから,審理手続に瑕疵があるというものである。
しかし,拒絶理由通知書(甲2)においては,請求項35に係る発明に対して引用例(甲7)を提示し,その内容について「文献3の左上欄第12-16行には,連続的に変化させる点も記載されている。」と言及している。なお,拒絶理由通知書(甲2)には,「・請求項35-45…」として,請求項35についてそれ以前の請求項とは区別して拒絶理由が記載され,これに対し原告も,平成17年5月6日付け意見書(甲4)において,「C 独立請求項35について;…」として意見を記載しているから,これを原告が認識していたのは明らかである。
また,拒絶査定(甲5)には,備考欄に「・請求項1-45に対して…」と記載されているから,請求項35に拒絶理由があることはその記載上明らかである。そして,原告は,審判請求書(甲6)に,「原査定の理由は,…請求項35-45に係る発明は,引用文献1,2,3,6,7,8に記載してある発明から容易である。』というものであります。」(2頁2行~21行),「請求項35-45に係る発明は,引用文献1,2,3,6,7,8に記載してある発明から容易ではないものと思考致す次第であり,原査定を取り消す,この出願の発明は,これを特許すべきものとする,との審決を求める。」(12頁下3行~下1行)と記載していることからみても,このことを原告が認識したのは明らかである。
そして,本件補正後の請求項35は,平成14年3月29日付け手続補正(第1次補正)によって新たに追加された請求項であり,上記拒絶理由通知の後及び上記拒絶査定の後には,何ら補正がされていない。
したがって,原告には,拒絶理由通知書(甲2)及び拒絶査定(甲5)を通知後の2回にわたり,補正書を提出し,意見書又は審判請求書を提出して意見を述べる機会があり,しかも,拒絶理由通知書のみならず,拒絶査定にも,請求項35についての拒絶理由が記載されていることを原告が認識していたのは明らかであるから,請求項35について,意見書や補正書を提出する機会がなく拒絶審決をされたために審理手続に瑕疵がある旨の原告の上記主張は失当であり,本件審判の審理手続に瑕疵はない。
イ また原告は,45項分の審判請求手数料を受領したのであれば,その分だけの審理をすべきところ,請求項35のみを審理することにより,すべての請求項を拒絶した点においても,審決には審理手続に瑕疵がある旨主張する。
しかし,特許法49条柱書きには,「審査官は,特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは,その特許出願について拒絶すべき旨の査定をしなければならない。」と規定され,同法第51条には,「審査官は,特許出願について拒絶の理由を発見しないときは,特許をすべき旨の査定をしなければならない。」と規定されている。
このように,特許法は1つの特許出願について拒絶査定か特許査定かのいずれかの行政処分をなすべきことを規定しており,本願発明(請求項35)は,特許法29条2項により特許を受けることができない発明であるから,本願は全体として同法49条2号に該当するというべきである。
したがって,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願を全体として拒絶すべき旨の査定をしなければならないのであるから,本件審決が,請求項35以外の請求項について判断しなかったことに審理手続上の瑕疵や違法性はない。
なお,付言すると,審判の審理においては,明細書及び図面すべてを精査していることはいうまでもなく,特許請求の範囲についても,特定の請求項のみを検討するのではなく,他の請求項についても検討していることはもちろんであって,審決で判断されている請求項が1つであるからといって,請求項44個分は無に帰した旨の原告の上記主張は,審判における審理の実態からみても失当である。
(2) 取消事由2に対し
ア 原告は,本願発明の構成要素のうち,「第1の材料から実質的になる部位から第2の材料から実質的になる部位に漸進的に変化する」点は,第1の部位と第2の部位の厚みが次第に変化していることを表しており,この点も引用発明との相違点であるにもかかわらず,審決はこの相違点を看過した旨主張する。
しかし,審決は本願発明の「第1と第2の材料とが,遷移部において漸進的に結合し互いと自然に接着している」点を引用発明との相違点としているところ,上記相違点には第1と第2の材料を接着することが明示され,それにより第1と第2の材料の間に接着面が形成されることは明らかである。したがって,審決の認定した上記相違点は,第1の材料からなる部位と第2の材料からなる部位の厚さが次第に変化しているという事項も含むものであり,原告が看過したと主張する上記相違点を実質上含むものであるから,相違点を看過した旨の原告の上記主張は失当である。
イ また原告は,引用発明において,カテーテルのチューブは,遷移部において区別なく混じり合った混在状態で,区別できる両材料が互いに接着状態をとり得ず,この互いに接着状態をとり得ないことは阻害事由であるとして,引用発明に対して甲8,9公報に示す周知技術を適用することはできない旨主張する。
しかし,従来は剛性を有する部分と曲げやすい先端部分とを別の材料で製造し,それらを突き合わせて,熱融着,溶剤接合,接着剤による接着などにより接合していたため,接合部の強度の不足等の課題を有していた(例えば,引用例〔甲7〕1頁右下欄下5行~2頁左上欄下5行参照)ことから,引用発明は,2つの材料が混在した部分(遷移部)を設けたものである。
そして,審決で示した周知技術は,2つの材料を突き合わせて接合したものに比べて,2つの材料の接合面が広いために接合部の強度が強化されていることは明らかであるから,接合部の強度不足等を課題として構成された引用発明において,上記周知技術を2つの材料が混在した部分(遷移部)に置き換えて適用することに阻害事由があるとはいえず,周知技術を適用できない旨の原告の上記主張は失当である。
第4当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2 取消事由1(審判手続の瑕疵)について
(1) 審決に至る手続の概要
証拠(甲1~6,11-1~5,12,13)及び弁論の全趣旨を総合すれば,平成19年12月17日に審決がなされるまでに至る手続の概要は,前記第3,1,(1)(特許庁における手続の経緯)のほか,次のとおりであったことが認められる。
ア 1995年(平成7年)4月3日に原告から米国においてなされた国際出願(本願)は,平成8年(1996年)10月18日に日本国特許庁に翻訳文が提出された後においても,請求項の数は43であるが,うち請求項1・34・35・36を摘記すると,次のとおりである。
・ 請求項1:
「外面と中央通路を画成する内面とを備える環状壁を有する細長い管であって,
第1の材料より形成された第1の部位と,前記第1の材料に比して高剛性の材料で形成された第2の部位と,前記第1の部位と前記第2の部位とを接続する中間部とを備え,前記中間部は,前記管の前記壁が前記第1の部位のより高剛性の第1の材料から前記第2の部位のより柔らかい材料へ漸進的に変化し,急な接続部を伴うことなく剛性が変化する連続的な壊れない管を形成する遷移部であり,前記第1の部位及び前記第2の部位の材料は,前記遷移部において漸進的に結合され,一方の材料が他方の材料の中へ下流に向けて延びるくさび構造を形成する細長い管。」
・ 請求項34:
「前記接触体積は,前記共有押出し成形ヘッドの前記ダイスを通過する合流した樹脂の流路の体積以上である請求項33記載の細長い管を製造する方法。」
・ 請求項35:
「前記接触体積は,前記共有押出し成形ヘッドの前記ダイスを通過する合流した樹脂の流路の体積以上であるが,前記流路の体積の10倍未満である請求項34記載の細長い管を製造する方法。」
・ 請求項36:
「前記接触体積はゼロまたはゼロ近傍である請求項33記載の細長い管を製造する方法。」
イ その後原告は,平成14年3月29日付けで本願につき第1次補正(甲10)を行った。その内容は,請求項の数を2増加して45とするもの等であり,本件訴訟の争点となっている請求項35(本願発明)は,この補正(第1次補正)において加えられたものである。第1次補正後の請求項1・34・35・36を摘記すると,次のとおりである(下線部は請求項35)。
・ 請求項1:
「外面と中央通路を画成する内面とを備える環状壁を備え,第1の材料より形成された第1の部位と,前記第1の材料に比して高剛性の材料で形成された第2の部位と,前記第1の部位と前記第2の部位とを接続し,前記管の前記壁が前記第1の部位のより柔らかい第1の材料から前記第2の部位のより剛性な材料へ漸進的に変化し,急な接続部を伴うことなく剛性が変化する連続的な壊れない管を形成する中間部とを備え,前記中間部は,前記第1の部位及び前記第2の部位の材料が漸進的に結合される遷移部である細長い管であって,
前記第1及び前記第2の部位の材料は結合され,一方の材料が他方の材料の中へ下流に向けて延びるくさび構造を形成することを特徴とする細長い管。」
・ 請求項34:
「前記共有押出し成形ヘッドから前記第1の樹脂材料を制御的に押出し残留圧力を緩和し,それにより前記樹脂の流れを急に停止することを容易にし,前記遷移部の前記長さを制御する請求項33記載の方法。」
・ 請求項35:
「基部と末端部とを有する細長い管を備えた医療用装置であって,
前記管は,外面と前記管の略全長にわたって延在する中央通路を画成する内面とを有し,前記管は第1の材料,及び,前記第1の材料よりも剛性でない第2の材料よりなり,前記管の壁は,前記第1の材料から前記第2の材料に漸進的に変化し前記基部と前記末端部との間に遷移部を形成し,前記第1と前記第2の材料とは,前記遷移部において漸進的に結合し互いと自然に接着し,前記第1の材料から実質的になる部位から前記第2の材料から実質的になる部位に漸進的に変化する壁を形成し,急な接続部を伴うことなく異なる特性を有する材料よりなる連続的な壊れない管を形成し,前記末端部は,前記第2の材料よりなり,従って前記基部よりも剛性でない医療用装置。」
・ 請求項36:
「前記遷移部の平均長さは約6.35乃至508ミリメートル(約0.25乃至20インチ)である請求項35記載の医療用装置。」
ウ これに対し特許庁審査官は,平成16年10月28日付けで原告に対し拒絶理由通知(甲2)を発し,この中では上記請求項35に関し,「請求項35-45」は,「引用文献等1-3,6-8」との関係で「容易に発明をすることができた」旨の指摘がなされている。
エ 上記通知を踏まえて原告は,平成17年5月6日付けで第2次補正(本件補正,甲3)及び意見書の提出(甲4)を行ったが,上記補正において,請求項1につき部分的変更はしたものの請求項34・35・36には変更がなく,また上記意見書(甲4)においては,「独立請求項35について」として,「独立請求項35(判決注,「24」は誤記)に係る発明は,第1の材料と第2の材料とが少しずつ組みあわされて,第1の材料からなる部位から第2の材料からなる部位に漸進的に変化する壁が形成されている遷移部を有する細長い管をクレームしております。この内容は,引用文献1~8には記載がありません。」旨を述べている。
オ しかし特許庁は,平成17年10月21日付けで,本願に対して拒絶査定をした。その拒絶査定書(甲5)には,請求項35に関し,「請求項1-45に対して」と題して,「ダイスに同時に複数種類のポリマーが供給される点は,先の引用文献3及び6にも記載されている。このように種類を変化させた時にくさび止め構造となることは当業者が読み取れる事項である。(なお,特開平05-337188号公報の第2図にも同様の構造が開示されている。)」旨の記載がある。
カ これに対し原告は,平成18年1月27日付けで,不服の審判請求をした。その審判請求書(甲6)には,上記請求項35に関しては,「むすび」において「…請求項35-45に係る発明は,引用文献1,2,3,6,7,8に記載してある発明から容易ではないものと思考致す次第であり,…」旨の記載がある。
(2) 原告の主張に対する判断
ア 原告は,本願発明に係る請求項35について減縮補正をする機会を与えられないまま本願について拒絶審決を受けたから,審決の審理手続には瑕疵がある旨主張するので,この点について検討する。
(ア) 平成16年10月28日付け拒絶理由通知書(甲2)には,前記(1)でも一部述べたように,「この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」(1頁下8行~下4行),「・請求項35-45 引用文献等1-3,6-8」(2頁下7行~下6行)との記載があり,その引用文献等一覧の3には,本件における引用例(特開平2-280765号公報,甲7)の記載がある。
これによれば,原告は,本願発明について,本件と同じ引用例との関係で進歩性がない旨の拒絶理由通知を受けていたことが認められる。
(イ) また,平成17年5月6日付け意見書(甲4)には,「(2) そこで本出願人は,此度別紙手続補正書により明細書の特許請求の範囲を補正することにより記載の不備を解消すると共に,刊行物に記載された発明と本願発明との相違点を明らかに致しました。」(2頁下2行~3頁1行),「(5) 以上の通り,『本願発明は,…特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,…』との拒絶理由は解消されたと確信する次第であり,再応御審査の上特許査定賜り度く願い上げます。」(4頁4行~4頁下2行)との記載がある。
これによれば,原告は,「本願発明」(ここでは本願の請求項1~45に係る発明を指す)に進歩性がない旨の指摘を受けて,当該拒絶理由を解消するため補正(第2次補正)の手続をとったことが認められる。
(ウ) これに対し,拒絶査定(甲5)には,「この出願については,平成16年10月28日付け拒絶理由通知書に記載した理由1,2によって,拒絶をすべきものである。なお,意見書及び手続補正書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。」(本文1行~4行)との記載があり,拒絶査定の理由中には上記補正をもってしても拒絶理由が解消されなかった旨が明示されていることが認められる。
(エ) 以上を受けて,平成18年1月27日付け審判請求書(甲6)には,上記(ウ)と同旨の拒絶査定の要点の記載(2頁1行~3頁3行)に加え,「…請求項35-45に係る発明は,引用文献1,2,3,6,7,8に記載してある発明から容易ではないものと思考致す次第であり,原査定を取り消す,この出願の発明は,これを特許すべきものとする,との審決を求める。」(12頁10行~12行)との記載がある。
これによれば,原告は,審判手続において,上記拒絶査定を踏まえつつ,本願発明に進歩性がある旨を主張し,拒絶査定を取り消す旨の審決を求めていることが認められる。
(オ) 以上によれば,原告は請求項35(本願発明)について審決と同旨の理由に基づく拒絶理由通知を受け,これに対し減縮補正をする機会及び意見書を提出する機会を与えられ(現に本件補正〔第2次補正〕において本願発明以外の請求項の一部を補正しており,また,意見書には請求項35に関する記載がある),それを踏まえて拒絶査定及び審決がされたことは明らかであるから,本件の審理手続に原告主張の瑕疵があるということはできない。
なお原告は,請求項35についての拒絶理由は,拒絶理由通知後に提出した平成17年5月6日付け意見書(甲4)により解消したとの認識を持っていたとも主張するが,上記拒絶査定(甲5)及び審判請求書(甲6)の記載に照らして採用することができない。
イ 次に原告は,本願に係る45の請求項分につき審判請求手数料を受領したにもかかわらず,請求項35に記載された発明(本願発明)についてのみ判断し,審判請求が成り立たないとした審決は,特許法1条の趣旨に悖るものであるから,取り消されるべきである旨主張する。
本件のように審査官のなした拒絶査定に対する不服の審判請求において納付すべき手数料の額については,特許法195条等が定めており,同条によれば,2項が「別表の中欄に掲げる者は,それぞれ同表の下欄に掲げる金額の範囲内において政令で定める額の手数料を納付しなければならない」とし,別表11が「審判又は再審(次号に掲げるものを除く。)を請求する者」は「1件につき4万9500円に1請求項につき5500円を加えた額」とし,特許法等関係手数料令(昭和35年政令第20号)も同内容の定めをしている。原告がなした本件不服審判請求の請求項の数は前記のとおり45であるから,その手数料の額は,原告主張のとおり合計29万7000円となり,原告は上記法条に従った手数料を納付したものであることが認められる。
ところで,手数料の額を法によりどのように決すべきかは,立法者たる国会の合理的裁量に委ねられていると解すべきところ,審判請求の手数料の額を,請求項の数如何にかかわらない固定金額4万9500円と請求項の数ごとに5500円ずつを加算した金額の合算額とする前記のような算出方法は,審判請求を受けた特許庁担当官の労力と請求項の数が多いほど利益を受ける請求人の立場の双方を勘案した合理的なものと認められるから,一つの発明に瑕疵を発見した場合に他の発明について審理・判断せずに手数料だけを取るのは暴利であるなどとする原告の主張は,法解釈論としては,これを採用することができない。
なお,特許法は,一つの特許出願に対し,一つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて一つの特許が付与され,一つの特許権が発生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるものではない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは予定されていない。このことは,特許法49条,51条の文言のほか,特許出願の分割という制度の存在自体に照らしても明らかである(最高裁平成19年(行ヒ)第318号平成20年7月10日第一小法廷判決参照)。したがって,拒絶査定に関する特許法49条,51条からすれば,複数の請求項が含まれる特許出願中に特許をすることができない発明に係る請求項が1個でも存在するときは,その特許出願全体について拒絶をすべき旨の査定をしなければならないものと解されるから,これと同旨の判断をした審決に誤りはない。
3 取消事由2(相違点の看過及び相違点に関する判断の誤り)について
(1) 本願発明の意義
ア 本願発明の内容は,前記第3,1,(2)記載のとおりである。
イ 一方,本願明細書(甲11の1~5,12。ただし,引用は公表公報〔甲1〕の【発明の詳細な説明】による)には,次の記載がある。
・ 「カテーテルは種々の内科及び外科処置での機械の分野において用いられている。例えば,カテーテルは診断用あるいは治療用の薬品を体内の選択された部位に送るのに広く用いられている。…」(9頁3行~5行)
・ 「これらのカテーテルは,しばしば,曲がりくねった経路を通されなければならないため,カテーテルは,その末端側端部が内科医あるいは外科医により操作され得るように十分な剛性を有していなければならない。一方,カテーテルは,所望の部位まで曲がりくねった経路をたどることができるように十分柔軟でなければならない。柔軟性への要求と共に操作のための剛性への要求をも満足するために,カテーテルの種々の構成が知られ用いられている。かかるカテーテルの一つは,末端側端部に,部分的に膨張された場合に血液流により所望の位置まで運ばれる膨張可能な風船を備えた柔軟カテーテルを利用している。しかしながら,薬品が適用される部位が血液流速が小さい血管を通してのみアクセスすることができる場合には,かかるカテーテルを用いることができない。
より一般的には,所望の部位まで前進可能な案内ワイヤが用いられ,この案内ワイヤが所定の位置にある状態で,カテーテルはこのワイヤ上を入れ子にされて適用部位まで前進される。しかしながら,案内ワイヤ技術を用いるカテーテルはなお,ワイヤに追従するのに十分な柔軟性と,カテーテルが基部側端部において曲がることなく前進するように十分な剛性を有していなければならない。」(9頁13行~下1行)
・ 「かかる型式の剛性変化カテーテルは,通常は,2又は3以上の管を互いに接続することにより手作業で製作されるため,大きな労働力を要し,従って,製造費が高価となる。更に,このカテーテルは,剛性が急変する接続部において曲がったり捩れたりしようとする。曲がりや捩れはカテーテルにとって非常に好ましくない。また,接続部が体内にカテーテルの先端を残して分離し易く,外科医がそれを回収しなければならなくなる。曲がりや捩れの問題を低減し,全長にわたって比較的柔らかい層を備えたカテーテルを製作することにより接続部の分離を防止する試みがなされているが,かかる構成によれば末端における剛性を低下させることになる。
従来技術は剛性変化カテーテルを製作する種々の方法を含んでいる。DE-A-4032869号は,長さ方向に沿って所定の硬い断面面積と柔らかい断面面積とを有するカテーテル管の製造が可能な方法を開示している。本方法により製造されるカテーテルは,硬い内管と柔らかい外管とを備え,2つの押出機及びダイスとを用いて形成される。WO-a-93/08861号には,異なる硬さの管状部を有するカテーテルを製造する方法が開示されている。カテーテルの内部管状部の最内層は熱可塑性材料を,2-オリフィス型押出しヘッドから排出させることにより形成され,内部管状部の最外層は熱可塑性材料を押出しヘッドの同軸の外側の環状オリフィスから排出させることにより形成される。
QuacKenbushの米国特許第5,125,913号,及び,Flynnの米国特許第4,250,072号及び第4,283,447号などの従来特許は,共有押出し成形と呼ばれるプロセス技術を用いて剛性可変カテーテルを製作することの潜在的な利点を認めている。しかしながら,これらの技術によったのでは,不満足な結果しか得られていない。従来技術の教唆するところを用いた周期的中断により製造された共有押出し成形カテーテルにおいては,遷移部が不都合に長くなってしまう。ここで,遷移部とは,管体が剛性の管から柔らかい管に変化するカテーテルの部位である。従来のプロセスにより製造されたカテーテルの中には,カテーテルの全長にわたる遷移部を有するものもある。このような不都合に長い遷移部は,カテーテル,あるいは中断層や中断部材を備える他の医療用管体を製作する上での主要な問題となっている。…」(49頁18行~50頁9行,10頁下6行~11頁2行)
・ 「従って,本発明の目的は,遷移部を短縮することが可能であると共に,遷移部を,中断層及び中断部材を備える種々の適当な医療用カテーテルが妥当なコストで適正に製造され得るように制御することが可能なカテーテル等の管体を形成する共有押出し成形方法を開発することにある。」(50頁14行~17行)
・ 「本発明は,長さ方向に沿って異なる特性,例えば,異なる剛性あるいは異なる断面を有する管体の製造に関する。かかる管体はカテーテル等,多くの医療用途に有用である。本発明の原理を用いて製作されたカテーテルは『押し込み可能な』剛性の基部と,案内ワイヤに追従する柔軟性を有する柔らかい末端部と,例えば従来の押出し成形方法により可能であった長さよりもかなり短い制御された長さの独特の遷移部とを備えている。遷移部においては,基部の剛性材料と末端部を構成する柔軟性材料とが順次共有押出し成形され,例えば,互いに『くさび止め』し合うことにより非常に強固で実際的には破壊し得ない2つの材料間の接続部が形成される。2つの材料の合体部は非常に滑らかかつ漸進的であり,異なる剛性を有する2つの材料間の急な接続部において通常生ずるような曲がりや捩れが排除されている。
漸進的な遷移により案内ワイヤへの追従も容易とされる。また,この遷移部は十分に短く,いわゆるマイクロカテーテルを含むカテーテルへの適用に有用である。典型的には,かかる医療用カテーテル管体の遷移部の平均長さは約0.25~20インチであり,好ましくは,約0.5~10インチである。」(50頁20行~51頁7行)
・ 「図1Fは,剛性材料と柔らかい材料とが共にカテーテルの全長にわたって延び,剛性の差が遷移部における2つの材料の相対的な厚みの変化より得られる,くさびを有しない構成を示す。剛性材料は,基部18において末端部16よりもかなり厚く,遷移部19において厚みが漸進的に減少する内側層15を形成している。
柔らかい材料は,基部18において末端部16よりもかなり薄く,遷移部19において漸進的に厚みが増加する外側層11を形成している。従って,内側層15により案内ワイヤの通路に対して連続的で滑らかな表面が得られており,また,外側層11により体内通路を通るカテーテルの通路に対して低摩擦層が得られている。典型的には,かかるカテーテルの遷移部19の長さは約6.35~508ミリメートル(約0.25~20インチ)である。他の実施例においては,内側層15又は外側層11の何れかはカテーテルの全長にわたって延びなくともよい。即ち,内側層15は基部18の長さ方向に沿った何れかの位置で途切れてもよく,あるいは,外側層11が末端部16の長さ方向に沿った何れかの位置で途切れてもよい。しかしながら,典型的には,内側層15又は外側層11の何れか,あるいは,これらの双方はカテーテルの全長にわたって延びる。…」(53頁下4行~54頁11行)
ウ 以上によれば,本願発明は,カテーテル等の細長い管を備えた医療用装置に関するものである。医療用のカテーテルは,医師の操作により体内の曲がった経路を通すため,操作側は十分な剛性を持ちつつ先端側は十分な柔軟性が必要とされ,従来,このカテーテルは2又は3以上の管を互いに接続することで製作されていたが,手作業で管を互いに接続するためコストがかかったり,剛性が急変する接続部において曲がったり捻れたりし,更には接続部が破損したりするなどの課題があり,これを克服するために接続部を遷移部(管体が剛性の管から柔らかい管に変化するカテーテルの部位)として成形しようとしても,当該遷移部が不都合に長くなってしまうなどの問題があった。本願発明は,このような問題を解消するため,第1の材料から第2の材料に漸進的に変化し基部と末端部との間に遷移部を形成し,前記第1と前記第2の材料とは,前記遷移部において漸進的に結合し互いと自然に接着し,前記第1の材料から実質的になる部位から前記第2の材料から実質的になる部位に漸進的に変化する壁を形成するという構成を採用し,これにより,急な接続部を伴うことなく異なる特性を有する材料よりなる連続的な壊れない管を形成し,従来の押出し成形方法により可能であった長さよりもかなり短い制御された長さの独特の遷移部とを備え,2つの材料の合体部は非常に滑らかかつ漸進的であり,異なる剛性を有する2つの材料間の急な接続部において通常生ずるような曲がりや捻れを排除し,案内ワイヤへの追従も容易とされるものである。
(2) 原告の主張に対する判断
ア(ア) 原告は,本願発明における遷移部が「第1の材料から実質的になる部位から第2の材料から実質的になる部位に漸進的に変化する」ものであることは,第2の部位の厚みが次第に増加していくことを意味するものであるから,この構成要素は引用発明にはない相違点であり,審決はこの相違点を看過したものであると主張するので,この点について検討する。
(イ) 本願発明における遷移部の構成は,前記(1)のとおり,「前記第1の材料から前記第2の材料に漸進的に変化し前記基部と前記末端部との間に遷移部を形成し,前記第1と前記第2の材料とは,前記遷移部において漸進的に結合し互いと自然に接着し,前記第1の材料から実質的になる部位から前記第2の材料から実質的になる部位に漸進的に変化する壁を形成し」というものであり,審決はこのうち「第1と第2の材料とが,遷移部において漸進的に結合し互いと自然に接着している点」をもって本願発明と引用発明との相違点として認定したものである。
ここで,本願発明の遷移部における「第1と第2の材料とが,遷移部において漸進的に結合し互いと自然に接着している」旨の構成は,「前記第1と前記第2の材料と」が「互いと」「接着」するとの構成から明らかなとおり,第1の材料と第2の材料という区別できるもの同士が互いに密着接合する趣旨と解されるから,当該構成は,剛性の異なる両材料が混合されるのではなく,それぞれが区別できる状態にあることを前提とするものであり,しかも,これが「漸進的に」「結合」するものであることから,両材料は密着接合しながら,その薄さ・厚さが互いに変化する構成を意味するものと認められる。
そうすると,原告が主張する「第2の部位の厚みが次第に増加していく」との趣旨の構成要素は,審決における上記相違点の認定に含まれるものであるから,審決には相違点の看過があるということはできない。
(ウ) 更に進んで,審決が「第1の材料から実質的になる部位から第2の材料から実質的になる部位に漸進的に変化する」との構成要素を一致点とした認定の当否について検討してみても,以下のとおり,その認定に誤りがあるということはできない。
a この点,引用例(甲7)には次の記載がある。
<産業上の利用分野>
「本発明は,臓器に直接接触する先端部に一体成形されてなる軟質部を有する新規なカテーテルならびにその製造方法および装置に関するものである。」(1頁右下欄7行~10行)
<従来の技術>
「カテーテルは,一般にゴム・プラスチックなどよりなるチューブによって構成され,血管,消化器,気管,尿道などにおける診断・検査・治療などに広く使用されている。
とくに,血管内に挿入し薬物を注入したり,心臓にまで到達させて圧力測定したり,狭窄した血管を拡張通過させたりする目的で使用されるカテーテルは,所望の位置まで正確に導入される必要があり,その挿入操縦性が要求される。このため,カテーテルの先端部は血管等の曲りに対応して自由に曲がり得る柔軟性(しなやかさ)が必要となる反面,本体側は押込み力を先端まで伝達できるだけの剛性を有していることが必要であり,いわばしなやかさと剛性といった相反する特性が要求されることになる。
このような特性を持たせるために,従来は剛性を有するカテーテル本体と曲げ易い先端部とを別な材料によって別個に製造し,それらを熱融着,溶剤接合,接着剤による接着などにより接合していた。
しかし,この接合方法による場合には,カテーテルの内腔相互を精度よく突き合せることが困難であったり,外表面に段差が形成されて円滑な挿入が妨げられたり,使用中に接合部で破損したりするおそれがある。」(1頁右下欄12行~2頁左上欄下5行)
<発明が解決しようとする課題>
「…カテーテルは先端だけしなやかであれば本体側は同じ剛性でよいというものではなく,挿入に際しては長手方向の剛性に次第に変化があることがより一層望ましい。しかし,編組によってそのような任意の変化を与えることは,非常に困難である。
本発明の目的は,上記したような従来技術の問題点を解消し,接合法によることなくしかも編組による補強も行なうことなしに,長手方向のしなやかさと剛性をそれぞれ適切に具有させ得た新規なカテーテルならびにその製造方法および装置を提供しようとするものである。」(2頁右上欄4行~左下欄4行)
<課題を解決するための手段>
「本発明は,カテーテルを熱可塑性樹脂の連続押出成形体によって構成し,かつ長手方向に材料自身を軟質材をもって構成してなる軟質部と材料自身を硬質材をもって構成してなる硬質部とを有する構成とすることを第1の要旨とし,上記カテーテルのチューブ押出を行なうに当り,押出ヘッドに樹脂を供給する押出機を2基設置し,一方の押出機からは軟質材料を他方の押出機からは硬質材料をそれぞれ加圧供給し,押出ヘッド部分において上記供給される樹脂の混合比を選択変化させることにより長手方向に軟質部と硬質部とを有するチューブを連続的に押出成形する押出製造方法を第2の要旨とし,かかる押出を可能にするものとして,2基の押出機よりの2つ供給路を一のコントロールバルブに連通させ,該コントロールバルブ内に3方滑栓状の回転スプールを配置し,当該回転スプロールを回転させることにより,前記2つの供給路のいずれか一方あるいはその両方の材料を押出ヘッドに選択導通せしめ得るように構成した装置をもって第3の要旨とするものである。」(2頁左下欄6行~右下欄5行)
<作用>
「押出時の材質の違いによって軟質部と硬質部を形成すれば,接合や編組によることなく必要なしなやかさと剛性が長手方向に配分されてなるカテーテルを入手できる。この押出の際に,軟質材押出機と硬質材押出機の2基を用い,押出製品における両材料の混合比を選択変化させ得るようにすれば,カテーテルの長手方向の柔軟性と剛性を自在に加減することができ,中間部分の剛性に変化を与えたような画期的製品をも入手することが可能となる。」(2頁右下欄7行~下5行)
<実施例>
・ 「本発明に係る上記構成のカテーテルによれば,軟質部と硬質部に接合部分がなく連続的に押出成形されているから,先の従来例における接合部の問題点は存在しない。また,剛性を持たせるために編組を用いることもなく,材料自体の有する性質に依存して剛性を持たせているから,前述した編組を用いた場合の問題点も存在しない。」(3頁右上欄11行~下4行)
・ 「本発明においては,押出機が2基設置され,一方の押出機10Aよりはカテーテルに必要な柔軟性を持たせ得る軟質樹脂1aが押出され,押出機10Bよりは必要な剛性を有する硬質樹脂1bが押出され,それぞれ供給路11Aおよび11Bを通って,それぞれの樹脂1aおよび1bが混合コントロールバルブ12のAポートおよびBポートに送り出される。
コントロールバルブ12内には3方滑栓状の回転スプール13があり,前記Aポートには混合制御孔13Aが,Bポートには混合制御孔13Bが,そして押出ヘッド14に連通する樹脂出口14を有するCポートには混合制御孔13Cがそれぞれ配置され,それぞれの制御孔は連通されていて,後述するように回転スプール13を適当に回転することにより,軟質樹脂1aと硬質樹脂1bの押出ヘッド15への供給比を制御変化し得る構成となっている。」(3頁左下欄1行~下3行)
・ 「カテーテル1の先端部分を成形しようとするときは,コントロールバルブ12の回転スプール13は第5図の状態にされ,しなやかさの大きい軟質樹脂1aのみが押出成形される。かくして,必要長の軟質部が成形されたら,回転スプール13を回転して第4図の状態とし,軟質樹脂1aに硬質樹脂1bを混合させることで次第に剛性を高め,最後に第3図の位置に回転スプール13を回転させて硬質樹脂1bのみを押出して剛性の大きい本体尾部側を成形する。
このようにすれば,カテーテル自体は一体物の押出成形品に形成され,しかも長手方向には必要なしなやかさと剛性を必要な長さだけ有する本発明に係るカテーテルを容易に入手することができる。」(4頁左上欄1行~下6行)
<発明の効果>
「以上の通り,本発明によれば,押出中の材質を自由に変えることで操作性に優れたカテーテルを安価に量産できるものであり,実用に際し接合部や金属編組を有しないことの利点を十分に発揮し得るものであって,その有用性は極めて大きい。」(4頁右上欄9行~13行)
b 以上によれば,引用発明は,医療用カテーテルにおいて要求されるしなやかさと剛性という相反する特性を持たせるための発明であり,従来技術においてはこのような特性を実現するため,剛性の異なる材料を接着するなどして接合していたが,これによると両材料を精度良く合わせることの困難性や,使用中に接合部で破損するおそれ等の課題が存し,また,剛性に次第に変化を与えるという構成は望ましいものであるものの,編組によってそのような任意の変化を与えることの困難性もあることから,引用発明においては,本体側には硬質樹脂を,先端側には軟質樹脂を用いるとともに,その接続部において両樹脂が混在した部分を形成し,これらが連続的に変化するような構成を採用したものである。その具体的な構成は,押出機10Aと10Bからそれぞれ送り出された軟質樹脂と硬質樹脂が,回転スプール13を通過して押出ヘッド15に供給され,そこからカテーテル1が成形されるというものであり,回転スプールの回転に応じて,押出ヘッド15に供給される樹脂が,すべて軟質樹脂となる状態からすべて硬質樹脂となる状態にその割合が連続的に変化する構成,すなわち,実質的に軟質樹脂からなる部位から硬質樹脂からなる部位が混合されつつ,その割合が次第に変化するという構成である。
c そうすると,引用発明における接続部の構成は,本体側は硬質樹脂のみで形成されていたものが,接続部の基端において軟質樹脂が混合され,その量が末端側に向かうに従い増加し,接続部の末端においては軟質樹脂のみで形成されるというものであるから,各材料の含有量は漸進的に変化するものと評価することができ,このような構成は,審決の認定した「第1の材料から実質的になる部位から第2の材料から実質的になる部位に漸進的に変化する」との一致点の構成に合致するものいうことができる。
そして,本願発明における接続部の構成が,前記相違点として認定した構成を除き,上記のように両材料が漸進的に変化する遷移部を有することは前記(1)のとおりであるから,これを本願発明と引用発明との一致点とした審決の認定に誤りがあるということはできない。
(エ) したがって,原告が相違点を看過したとする構成は,審決において相違点として抽出された技術事項に係る構成ということができ,本願発明と引用発明との遷移部に係る審決の一致点及び相違点の認定に誤りはないから,原告の上記主張は採用することができない。
イ(ア) また原告は,引用発明の遷移部において混合状態の両樹脂間に界面が存在せず,区別できる両材料が互いに接着状態を取り得ないということは阻害事由であって,審決が周知技術として挙げた甲8公報及び甲9公報を引用発明に対して適用することはできず,相違点は容易想到とはいえない旨主張するので,この点について検討する。
(イ) 本願発明と引用発明の相違点は遷移部の構成に関するものであることから,その課題についてみると,前記(1)ウのとおり,本願発明においては,解決すべき課題として,医療用のカテーテルの操作性の観点から,操作側は十分な剛性を持ちつつ先端側は十分な柔軟性が必要とされること,従来技術においては剛性の異なる管の接続という方法により解決を図ろうとしていたが,それにはコストや,剛性が急変する接続部における曲がり・捻れ,接続部の破損といった課題が認識されていたことが認められる。
他方,引用発明においても,前記ア(ウ)のとおり,カテーテルには挿入操縦性の観点から,先端部に柔軟性(しなやかさ)が必要とされる反面,本体側は剛性が必要とされること,従来技術においては剛性の異なる管の接合方法には両材料を精度良く合わせることの困難性や,使用中に接合部で破損するおそれ等の課題が存し,また,剛性に次第に変化を与えるという構成は望ましいものであるものの,編組によってそのような任意の変化を与えることの困難性があるといった課題が認識されていたことが認められる。
以上によれば,本願発明と引用発明が前提とする課題は実質的に共通するということができる。
(ウ) また,甲8公報,甲9公報には次の記載がある。
a 甲8公報
・ <特許請求の範囲>
「1.軟質樹脂からなる部分と硬質樹脂からなる部分とを結合させて長さ方向における曲げ剛性を変化させてなり,前記の軟質樹脂部分と硬質樹脂部分との結合部が軟質樹脂層の肉厚の漸減に応じて硬質樹脂層の肉厚が漸増して重畳する二層構造を有することを特徴とするチューブ。」(1頁左下欄3行~10行)
・ <産業上の利用分野>
「本発明は,軟質樹脂部分と硬質樹脂部分を結合して長さ方向の曲げ剛性を変化させてなり,カテーテルなどに好適なチューブに関する。」(1頁左下欄12行~15行)
・ <従来の技術及び課題>
「長さ方向における曲げ剛性の異なるチューブがカテーテルなどとして使用されている。カテーテルの場合,血管や気管等を経由して治療目的の臓器等に到達する必要のあることなどから,先方部分が血管や臓器等を傷つけない可撓性を有すると共に,後方部分が先方部分の進路制御を可能とする回転トルク等の力の伝達性を有することが要求される。
従来,長さ方向の曲げ剛性が異なるチューブとしては,第5図の如く軟質樹脂からなるチューブ31の垂直端面と,硬質樹脂からなるチューブ32の垂直端面とを突き合わせ接続したものが知られていた。しかしながら,チューブ31,32の接続部の界面近傍における曲げ剛性の変化が急激すぎて回転トルク等の伝達による方向転換性に劣る問題点があった。」(1頁左下欄16行~右下欄12行)
・ <課題を解決するための手段>
「本発明は,軟質樹脂部分と硬質樹脂部分を特殊な重畳形態で接続することにより上記の課題を克服したものである。
すなわち本発明は,軟質樹脂からなる部分と硬質樹脂からなる部分とを結合させて長さ方向における曲げ剛性を変化させてなり,前記の軟質樹脂部分と硬質樹脂部分との結合部が軟質樹脂層の肉厚の漸減に応じて硬質樹脂層の肉厚が漸増して重畳する二層構造を有することを特徴とするチューブを提供するものである。」(1頁右下欄下1行~2頁左上欄10行)
「二層押出成形方法によるチューブは,軟質樹脂層と硬質樹脂層の肉厚比が漸次変化する重畳二層構造からなる結合部の接合界面が特に滑らかで,チューブ内を流れる液体が乱流を生じ難くカテーテルとして特に好適である。」(3頁左下欄下7行~下3行)
b 甲9公報
・ 「…カテーテル1にあっては,本体部2にある程度の硬さすなわち比較的小なる可撓性を備えることを必要とされるとともに,先端部3にある程度の柔軟さすなわち比較的大なる可撓性を備えることを必要とされる。…」(2頁左上欄4行~8行)
・ 「従来,上記のような可撓性が比較的小なる本体部2と,可撓性が比較的大なる先端部3とからなるカテーテル1として,本体部2と先端部3とを接着剤や融着等によって接続してなるカテーテル1が提案されている。しかしながら,上記従来提案されているカテーテル1にあっては,製作工程が煩雑になるとともに,本体部2と先端部3との接続部に段差を生じ,血管等への挿入を円滑に行うことが困難であり,血栓を生じるおそれがある。また,本体部2と先端部3との接続不良により,両者間での離脱にともなう切断等を生ずるおそれがある。」(2頁左上欄下6行~右上欄6行)
・ 「なお,上記カテーテル10においては,各内管部13,外管部14の,本体部11と先端部12との境界領域における肉厚変化が第2図に示すように滑らかに変化せしめられていることから,カテーテル10の本体部11と先端部12との可撓性の変化も滑らかなものとなっており,血管内等への挿入を円滑に行うことができる。」(3頁左上欄12行~下3行)
・ 「次に,上記カテーテル10の製造方法について説明する。まず,本体部11の肉厚が先端部12の肉厚より厚く,その可撓性が比較的小なる内管部13を押出し成形等により作製する。例えば,曲げ弾性率3,000Kg/cm<sup>2</sup>のポリアミドエラストマーで本体部11が内径1.4㎜,外径2.1㎜であり,先端部12が内径1.4㎜,外径1.6㎜である内管部13を形成する。次に,上記内管部13の上面に,内管部13に比してその可撓性が比較的大なる外管部14を被覆する。例えば,曲げ弾性率1,200Kg/cm<sup>2</sup>のポリアミドエラストマーで外径2.3㎜の外管部14を被覆する。次に,上記のようにして一体成形された内管部13および外管部14を必要な長さに切断し,カテーテル10を得る。」(3頁右上欄下6行~左下欄8行)
・ 「したがって,本発明によれば,本体部と先端部とが確実かつ両者間に段差を形成することなく一体成形されてなるカテーテルを得ることが可能となり,血管等への挿入を円滑に行うことが可能となるとともに,血栓を生ずることがなく,また本体部との先端部との間で離脱を生ずるおそれもない。…」(4頁左下欄4行~10行)
(エ) 以上によれば,甲8公報及び甲9公報には,カテーテルの操作性,接合部の剛性が急変することによる捻れ,接合の精度,先端部の破損といった,上記(イ)の本願発明及び引用発明に共通の課題が示され,これを解決する手段として,カテーテルにおける軟質樹脂と硬質樹脂を接合する方法を採用した発明が開示され,しかも,その接合部の構成は,押出成形などにより硬質樹脂と軟質樹脂が連続的に変化するようにし,当該部分で両部樹脂層を滑らかに接合するという,審決の認定した前記相違点に相当する構成が開示されていると認められる。
そうすると,かかる構成は本願の優先日(1994年〔平成6年〕4月20日)前において周知技術であったと認められるから,課題を共通する引用発明に上記周知技術を適用することにより,本件の相違点に相当する構成を導くことは容易であったというべきである。
(オ) これに対し原告は,引用発明が異なる剛性の材料を混合する遷移部の構成を採用していることが阻害要因になると主張するが,引用発明は上記(イ)のとおり,その遷移部の構成について,本願発明と共通の課題を前提としつつ,剛性の異なる材料を当接するという本願発明の構成とは異なり,両材料を混合させるという構成を採用し,その点が相違点に当たるものである。そして,このような相違点が容易想到であることは前記のとおりであり,このことは,引用発明における遷移部の具体的構成が剛性の異なる材料を混合するものであるということにより左右されるものではない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
また原告は,甲9公報記載の発明は被覆成形に関する技術であり,押出成形に関する引用発明とは関係がないから,これを引用発明に適用することはできないと主張する。しかし,前記(ウ)bのとおり,甲9公報記載の発明においても,内管部は押出成形等により作製するものとされているのであって,押出成形に関する引用発明と関係がないということはできないし,上記(エ)のとおり,甲8公報及び甲9公報には接合部の構成について審決の認定した相違点に相当する構成が開示されているところ,被覆成形に関する技術を引用発明に適用して上記構成を実現することが困難であると解すべき事情は見当たらないから,原告の上記主張は採用することができない。
さらに原告は,本願発明の課題と引用発明,甲8公報ないし甲9公報の課題とは異なるから,後者を前者に適用することはできないなどと主張するが,上記のとおり本願発明,引用発明,甲8公報及び甲9公報はカテーテルの操作性の観点等から生じる課題を回避するため,基部と末端部において剛性の異なる材料を遷移部において漸進的に接合させることに関する点で課題ないし目的を共通するものであるから,相互の適用が困難ということはできない。したがって,原告の主張は採用することができない。
4 結論
以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 森義之 裁判官 澁谷勝海)