知財高等裁判所 平成20年(行ケ)10189号 判決 2009年1月28日
原告
ブルックス オートメーション (ジャーマニー) ゲーエムベーハー
訴訟代理人弁護士
高橋隆二
訴訟代理人弁理士
藤村元彦
同
永岡重幸
被告
特許庁長官
指定代理人
千葉成就
同
森川元嗣
同
小林和男
同
鈴木敏史
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2006-13890号事件について平成20年1月7日にした審決を取り消す。
第2争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成8年3月25日,特許出願し(特願平8-68465号,以下「原出願」という。パリ条約による優先権主張:優先権主張日 1995年(平成7年)3月28日 同年11月15日,優先権主張国 ドイツ国),平成14年10月29日,原出願の一部を分割して新たな特許出願(特願2002-314956号,以下「本願」といい,その明細書を図面とともに「本願明細書」という。出願当初の請求項の数は22であった。)をした。
原告は,平成18年3月27日,拒絶査定を受け,同年6月30日,これに対する拒絶査定不服審判を請求した(不服2006-13890号,以下「本件拒絶査定不服審判」という。)。
原告は,平成18年7月26日付け手続補正書により,本願明細書の特許請求の範囲の補正をした(以下「本件補正」という。)。本件補正は,特許請求の範囲について,請求項22を削除し,請求項16で特定した事項を請求項14に付加するものである(請求項の数は20となった。)。
特許庁は,平成20年1月7日,本件拒絶査定不服審判につき,本件補正を却下した上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月22日,原告に送達された。なお,審決取消訴訟の出訴期間につき,付加期間が90日と定められた。
2 審決の理由
(以下,条文は特許法の条文を示す。17条の2,53条,159条は,平成18年法律第55号による改正前のものを示す。)
(1) 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件補正のうち本願明細書の特許請求の範囲の請求項14についての補正は,17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するが,本件補正後の請求項14に係る発明(以下「補正発明」という。)は,原出願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭62-264637号公報(以下「刊行物1」という。)に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり,本件補正は17条の2第5項において準用する126条5項の規定に違反するものであるから,159条1項の規定において読み替えて準用する53条1項の規定により却下すべきものであるとした上,本件補正前の特許請求の範囲の請求項22に係る発明は,刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,29条2項の規定により特許を受けることができないとするものである。
(2) 審決のした,補正発明,刊行物1記載の発明(補正発明との対比のために認定された刊行物1記載の発明。以下「刊行物発明の1」という。),補正発明と刊行物発明の1の一致点,相違点(以下「相違点1」という。)の各認定及び相違点1に関する容易想到性の判断は,以下のとおりである(ただし,審決のした一致点の認定については,原告主張の取消事由に関連する部分のみを摘示する。)。
ア 補正発明
半導体基板のためのローディング及びアンローディング用ステーションであって,
基板搬送コンテナを支持するサポートと,
前記基板搬送コンテナは前記サポートに結合している一方,前記基板搬送コンテナの側面からサイドカバーを除去するカバーリムーバと,を含み,
前記カバーリムーバが,自身の側面から外側に向かって延在する少なくとも1つのキーを有し,前記少なくとも1つのキーが回転自在であり,
前記カバーリムーバと前記基板搬送コンテナとの間の相互近接運動のあるとき前記サイドカバー内のキー孔に前記キーがほぼ水平方向に差し込まれ得る,ことを特徴とするローデイング及びアンローデイング用ステーション。(審決2頁)
(下線部は,本件補正により,本件補正前の請求項14に付加された部分である。)
イ 刊行物発明の1
ウエハ9を天蓋2と箱6との中で自由に移動させることができるものであって,
箱6を支持する天蓋2と,
前記箱6は前記天蓋2に結合している一方,前記箱6の側面から第1ドア7を除去する第2ドア5と,を含み,
前記第2ドア5が,自身の側面から外側に向かって延在するばね負荷ラッチ29を有し,
前記第2ドア5と前記箱6との間の相互近接水平運動のあるとき前記第1ドア7に前記ばね負荷ラッチ29が係合する,ウエハ9を天蓋2と箱6との中で自由に移動させることができるもの。(審決4頁)
ウ 一致点
刊行物発明の1の「ばね負荷ラッチ29」と,補正発明の「キー」とは,「カバーリムーバと基板搬送コンテナとの間の相互近接運動のあるとき,サイドカバーとカバーリムーバとを係合させる係合部材」である点で一致している。(審決5頁)
エ 相違点1
係合部材について,補正発明は,「回転自在」な「キー」であり,「キー孔にキーがほぼ水平方向に差し込まれ得るもの」であるが,刊行物発明の1は,水平運動により係合する「ばね負荷ラッチ」である点。(審決5頁)
オ 相違点1に関する容易想到性の判断
係合部材として,「回転自在なキーをキー孔に差し込むもの」は,本件拒絶査定不服審判の審尋で引用した特開平5-82624号公報の回転軸74のほか,特開平7-14906号公報のカム軸28,「特許からみた機械要素便覧【固着】」(特許庁編,発明協会,昭和55年9月25日初版)52ないし59ページにみられるごとく周知である。
したがって,刊行物発明の1の水平運動により係合する係合部材である「ばね負荷ラッチ」を,かかる周知技術を適用し,相違点1に係る構成のものとすることは,必要に応じてなしうる設計的事項にすぎない。
また,相違点によってもたらされる効果も,当業者が予測できる程度のものであって格別のものではない。
原告(本件拒絶査定不服審判の請求人)は,平成19年12月4日の回答書で,審尋で引用した特開平5-82624号公報をも踏まえ,キーが「キー・ホールの後ろ側に係合」する旨主張しているが,補正発明にその旨の特定はないから,原告の主張は根拠がない。仮に,キーが「キー・ホールの後ろ側に係合」するものであるとしても,上記「特許からみた機械要素便覧【固着】」にみられるごとく周知である。
以上のことから,補正発明は,刊行物発明の1,周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,29条2項の規定により,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。(審決5ないし6頁)
第3原告主張の取消事由
審決は,次に述べるとおり,補正発明と刊行物発明の1の一致点,相違点の認定の誤り(取消事由1),相違点1に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由2)があるから,違法として取り消されるべきである。
1 補正発明と刊行物発明の1の一致点,相違点の認定の誤り(取消事由1)
(1) 補正発明のキーは,カバーリムーバの一部で,基板搬送コンテナの側面からサイドカバーを除去するために設けられた部材であり,コンテナ側面にロックされているサイドカバーのロックを解除し,サイドカバーに係合してサイドカバーを引き出すという動作を行う。そのため,補正発明のキーは,サイドカバーのロックを解除することを第1の機能とし,サイドカバーのロックを解除した後,サイドカバーを引き出すためにサイドカバーに係合することを第2の機能としている。補正発明のキーは,回転することにより,このような第1及び第2の機能を果たすものであり,本件補正後の請求項14に記載されているように「回転自在」となっているのは,これらの機能を発揮するためである。そして,補正発明のキーは,ロック解除後のサイドカバーに係合しながらその重量を支持しつつサイドカバーを引き出すために,水平方向に差し込まなければならないとされている。
これに対し,刊行物発明の1のラッチ29は,刊行物1に記載されたドア5とドア7の二つのドアを結合しているだけであり,箱6とドア5(又はドア7)のロックを解除するものではないから,二つのドアを結合する機能しか有しておらず,ロック解除の機能がなく,ロック解除のために必要な回転自在であるという構成も備えていない。
したがって,刊行物発明の1のラッチは係合部材にとどまるが,補正発明のキーは,係合機能の他にロック解除の機能をも有するものであり,単なる係合部材ではない。
確かに,本件補正後の請求項1,請求項13には「ロッキング・エレメントを作動させるための回動可能なキー」と記載されているのに対し,本件補正後の請求項14(補正発明)には,そのような記載はない。しかし,本件補正後の請求項の記載及び本願明細書の記載から,本件補正後の請求項1のキーと本件補正後の請求項14のキーが実質的に同一であることは明らかであり,本願明細書の【0034】の記載によれば,キーがロック解除機能を有しなければ,補正発明は成立し得ない。そして,一つの請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一の記載となることは妨げられない(36条5項)。そうすると,本件補正後の請求項14に「ロッキング・エレメントを作動させるための回動可能なキー」との記載がないことを根拠として,補正発明のキーがロック解除機能を有しないと認定されるべきではない。
(2) 上記のとおり,補正発明のキーは,ロック解除の機能をも有するものであるのに対し,刊行物発明の1のラッチは単なる係合部材であり,刊行物発明の1のラッチと補正発明のキーは,ロック解除機能の有無の点で相違する。
したがって,審決が,刊行物発明の1と補正発明の一致点について「刊行物発明の1の『ばね負荷ラッチ29』と補正発明の『キー』とは,『カバーリムーバと基板搬送コンテナとの間の相互近接運動のあるとき,サイドカバーとカバーリムーバとを係合させる係合部材』である点で一致している。」と認定したことは誤りであり,また,相違点について「係合部材について,補正発明は,『回転自在』な『キー』であり,『キー孔にキーがほぼ水平方向に差し込まれ得るもの』であるが,刊行物発明の1は,水平運動により係合する『ばね負荷ラッチ』である点。」と認定したことは,ロック解除機能の有無という相違点を看過したものであって,誤りである。
2 相違点1に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由2)
刊行物発明の1のラッチ29は,ドア5とドア7を結合している係合部材であり,二つのものを結合するという機能以外の機能は有していないから,ラッチ29にいかなる周知技術を適用しても,二つのものを結合する係合部材であることに変わりはなく,補正発明のキーのようにロック解除の機能とサイドカバーへの係合機能を有するキーにはならない。そうすると,補正発明は,刊行物発明の1,周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって,補正発明は,刊行物発明の1,周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の相違点1に関する容易想到性の判断には誤りがある。
第4被告の反論
原告主張の取消事由は,いずれも理由がない。
1 補正発明と刊行物発明の1の一致点,相違点の認定の誤り(取消事由1)に対し
本件補正後の請求項1,請求項13には,「ロッキング・エレメントを作動させるための回動可能なキー」という記載があり,キーがコンテナ・カバーのロックを解除するものであることが記載されているのに対し,本件補正後の請求項14には,キーについて,「前記カバーリムーバが,自身の側面から外側に向かって延在する少なくとも1つのキーを有し,前記少なくとも1つのキーが回転自在であり,前記カバーリムーバと前記基板搬送コンテナとの間の相互近接運動のあるとき前記サイドカバー内のキー孔に前記キーがほぼ水平方向に差し込まれ得る」との記載があるにとどまり,キーがサイドカバーのロックを解除する旨の記載はない。また,補正発明のキーは回転自在であるが,回転自在であることをもって,ロック解除機能を有するということはできない。そのため,補正発明のキーは,ロック解除機能を有しない。
上記のとおり,補正発明のキーについて,ロック解除機能を有しないものと認定し,刊行物発明の1と補正発明の一致点,相違点を認定した審決の認定に誤りはない。
2 相違点1に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由2)に対し
補正発明のキーは,ロック解除の機能を有さず,サイドカバーへの係合機能のみを有するにすぎないから,補正発明は,刊行物発明の1,周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた。
したがって,補正発明は,刊行物発明の1,周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1 補正発明と刊行物発明の1の一致点,相違点の認定の誤り(取消事由1)について
(1) 本願明細書の記載
ア 本件補正後の請求項1ないし13及び本願明細書の発明の詳細な説明(前記第2,1のとおり,本件補正は特許請求の範囲のみを変更するものであった。)の各段落には,次のとおりの記載がある。
(ア) 本件補正後の請求項1
「・・・前記コンテナ・カバー内には前記コンテナ・カバーを前記搬送コンテナにロックするためのロッキング・エレメントが設けられ,前記クロージャには前記ロッキング・エレメントを作動させるための回動可能なキーが設けられ,前記キーは前記搬送コンテナを開放すべく前記クロージャの表面から外向きに突出し,前記ロッキング・エレメントを作動させるべく前記コンテナ・カバーの表面に前記キーが挿入されるキー・ホールが設けられ,前記キー・ホールに挿入された前記キーが回動されたとき前記キーが前記キー・ホールの後ろ側に係合し,前記クロージャがコンテナ・カバーに係合して,前記コンテナ・カバーが前記キーから離れて水平方向に移動することを防ぐ,ことを特徴とするローディング及びアンローディング用ステーション。」
(イ) 本件補正後の請求項2ないし12
本件補正後の請求項2ないし12は,請求項1を直接に引用し又は他の請求項を介して間接的に引用するものである。
(ウ) 本件補正後の請求項13
「・・・前記コンテナ・カバーには前記コンテナ・カバーを前記搬送コンテナにロックするためのロッキング・エレメントが設けられ,前記クロージャには前記ロッキング・エレメントを作動させるための回動可能なキーが設けられ,前記ロッキング・エレメントを作動させるべく前記コンテナ・カバーの表面に前記キーが挿入されるキー・ホールが設けられ,前記キー・ホールに挿入された前記キーが回動されたとき前記キーが前記キー・ホールの後ろ側に係合し,前記クロージャがコンテナ・カバーに係合して,前記コンテナ・カバーが前記キーから離れることを防ぐべく前記カバーと前記クロージャとの間に第2の係合態様を形成して前記第1係合態様に拘わらず,前記クロージャを前記コンテナカバーに係合せしめる,ことを特徴とするローディング及びアンローディング用ステーション。」
(エ) 発明の詳細な説明の記載
【0008】 「・・・コンテナ・カバー内には同コンテナ・カバーを搬送コンテナにロックするためのロッキング・エレメントが設けられ,クロージャの表面には搬送コンテナを開放すべくロッキング・エレメントを作動させるための回動可能なキーが設けられ,コンテナ・カバーの表面には,ロッキングエレメントを作動させるべくキーが挿入されるキー・ホールが設けられ,キー・ホールに挿入されたキーが回動されたとき,クロージャ及びコンテナ・カバーが互いに固定されるように,キーがキー・ホールの後ろ側に係合するローディング及びアンローディング用ステーションによって実現される。クロージャはコンテナ・カバーに結合すべく真空吸引装置を有する。」
【0019】 「コンテナ・カバー15は搬送コンテナ6内へ摺動して同搬送コンテナ6内でロックされる。コンテナ・カバー15はシール17によって周囲を被覆されており,同シール17によってコンテナ・カバー15は周囲の壁に対して密閉されている。ロック解除は前記の摩擦係合がなされた後で行われる。図1に示すように,クロージャ12は折れ曲がった矢印が示す方向へ向かってコンテナ・カバー15とともに半導体加工装置内へ移動する。」
【0034】 「・・・更に,コンテナ・カバー30内のロッキング・エレメント62を作動させるためのダブルビット(double-bit)を備えたキー61がクロージャ23内に取り付けられている。・・・キー61を回動させることにより,コンテナ・カバー30の内部に取り付けられたドライバ67が駆動され,ロッキング・エレメント62が開放される。クロージャ23は搬送用チャネルを形成すべくコンテナ・カバー30とともに半導体加工装置内へ下降させ得る。」
【0035】 「キー61はロッキング・エレメント62を開放する以外にも別の作用を有する。キー・ホール65内に挿入したキー61を回動した後,吸引エレメント59内における減圧が適切に行われなかった場合,ダブルビットがキー・ホール65の後ろ側に係合することによりコンテナ・カバー30を保持し得る。・・・」
イ 本件補正後の特許請求の範囲の記載(甲5),本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面(甲9)によれば,本件補正後の請求項14の「カバーリムーバ」は,本件補正後の特許請求の範囲,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された「クロージャ」に該当し,本件補正後の請求項14の「サイドカバー」は,本件補正後の特許請求の範囲,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された「コンテナ・カバー」に該当するものと認められる。
前記アによれば,本件補正後の請求項1ないし13及び本願明細書の発明の詳細な説明には,コンテナ・カバー内に,コンテナ・カバーを搬送コンテナにロックするためのロッキング・エレメントが設けられ,クロージャにはロッキング・エレメントを作動させるための回動可能なキーが設けられ(本件補正後の請求項1ないし13),コンテナ・カバーの表面には,ロッキング・エレメントを作動させるべくキーが挿入されるキー・ホールが設けられ,キー・ホールに挿入されたキーが回動されたとき,クロージャ及びコンテナ・カバーが互いに固定され(【0008】),ダブルビットを備えたキーを回動させることにより,コンテナ・カバーの内部に取り付けられたドライバが駆動され,ロッキング・エレメントが開放され(【0034】),吸引エレメント内における減圧が適切に行われなかった場合でも,キーに備えられたダブルビットがキー・ホールの後ろ側に係合することによりコンテナ・カバーを保持し得る(【0035】)との発明が記載されているものと認められる。そして,上記発明においては,クロージャのキーは,回動することにより,ロックを解除する機能を有するともに,サイドカバーに係合するという機能を有するものであると認められる。
(2) 補正発明
ア 本件補正後の請求項14には,次のとおりの記載がある。
「半導体基板のためのローディング及びアンローディング用ステーションであって,
基板搬送コンテナを支持するサポートと,
前記基板搬送コンテナは前記サポートに結合している一方,前記基板搬送コンテナの側面からサイドカバーを除去するカバーリムーバと,を含み,
前記カバーリムーバが,自身の側面から外側に向かって延在する少なくとも1つのキーを有し,前記少なくとも1つのキーが回転自在であり,
前記カバーリムーバと前記基板搬送コンテナとの間の相互近接運動のあるとき前記サイドカバー内のキー孔に前記キーがほぼ水平方向に差し込まれ得る,ことを特徴とするローデイング及びアンローデイング用ステーション。」(前記第2,2(2)ア)
イ 前記アの記載によると,本件補正後の請求項14には,コンテナの側面からサイドカバーを除去するカバーリムーバを備え,カバーリムーバが,1つの回転自在なキーを有しており,カバーリムーバと基板搬送コンテナとの間の相互近接運動のあるときサイドカバー内のキー孔にキーがほぼ水平方向に差し込まれ得るとの発明が記載されているものと認められる。
ところで,本件補正後の請求項1,請求項13には,コンテナ・カバー内にロッキング・エレメントが設けられ,クロージャにロッキング・エレメントを作動させるための回動可能なキーが設けられていること,キーがロッキング・エレメントを作動させてコンテナ・カバーのロックを解除することが記載されている。これに対し,本件補正後の請求項14には,カバーリムーバが回転自在なキーを有していることは記載されているが,サイドカバー内にロッキング・エレメントが設けられることや,カバーリムーバにロッキング・エレメントを作動させるための回動可能なキーが設けられていることは,記載されていない。そのため,本件補正後の請求項14の記載によれば,補正発明は,カバーリムーバがサイドカバーを除去するものであることから,カバーリムーバのキーがサイドカバーのキー孔に差し込まれ回転することにより,カバーリムーバとサイドカバーが係合することは推認されるが,それ以上に,キーの回転によりロックが解除されることまでは認めることはできない。
前記(1)アのとおり,本願明細書の発明の詳細な説明(【0008】,【0019】,【0034】)には,クロージャに備えられたキーがコンテナ・カバーのキー・ホールに差し込まれてロックを解除する発明が記載されており,この発明は,本件補正後の請求項1ないし13に対応するものと認められる。しかし,発明の詳細な説明にそのような発明が記載されているとしても,発明の内容は請求項の記載により特定されるべきであり,本件補正後の請求項14には,請求項1ないし13とは異なり,ロッキング・エレメントの存在やキーによるロッキング・エレメントの作動(ロック解除)についての記載はないから,補正発明は,キーによるロッキング・エレメントの作動(ロック解除)を内容としないものというべきである。
この点について,原告は,補正発明のキーは,回転することにより,ロック解除の機能と係合の機能を発揮する旨主張する。確かに,補正発明のキーは,回転自在のものではある。しかし,上記のとおり,本件補正後の請求項14の記載によれば,カバーリムーバのキーがサイドカバーのキー孔に差し込まれ回転することにより,カバーリムーバとサイドカバーが係合することは推認されるが,本件補正後の請求項14には,ロッキング・エレメントの存在やキーによるロッキング・エレメントの作動(ロック解除)についての記載はないから,キーが回転自在であることから,直ちに回転によりロックを解除する機能を有すると認めることはできない。そうすると,原告の上記主張は,採用することができない。
(3) 審決の認定の当否
以上によれば,補正発明は,カバーリムーバのキーがロック解除の機能を有しない半導体基板のためのローディング及びアンローディング用ステーションの発明であるものと認められ,補正発明のキーは,カバーリムーバとサイドカバーを係合させる係合部材としての機能のみを有するものと認められる。
そうすると,審決が,刊行物発明の1と補正発明の一致点について「刊行物発明の1の『ばね負荷ラッチ29』と補正発明の『キー』とは,『カバーリムーバと基板搬送コンテナとの間の相互近接運動のあるとき,サイドカバーとカバーリムーバとを係合させる係合部材』である点で一致している。」と認定したこと,相違点について「係合部材について,補正発明は,『回転自在』な『キー』であり,『キー孔にキーがほぼ水平方向に差し込まれ得るもの』であるが,刊行物発明の1は,水平運動により係合する『ばね負荷ラッチ』である点」と認定したことは,誤りではない。したがって,取消事由1は理由がない。
2 相違点1に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由2)について
原告は,補正発明のキーが,ロック解除の機能とサイドカバーへの係合機能を有することを前提として,刊行物発明の1のラッチ29は,二つのものを結合するという機能以外の機能は有していないから,ラッチ29にいかなる周知技術を適用しても,補正発明のキーのようにロック解除の機能とサイドカバーへの係合機能を有するキーにはならないと主張し,審決の相違点1に関する容易想到性の判断には誤りがあると主張する。
しかし,前記1のとおり,補正発明のキーは,ロック解除の機能を有さず,カバーリムーバとサイドカバーを係合させる係合部材としての機能のみを有するものと認められるから,原告の上記主張は,その前提が失当であり,採用することができない。そして,補正発明のキーが係合部材としての機能のみを有することからすれば,補正発明は,刊行物発明の1,周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。そうすると,補正発明は,刊行物発明の1,周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の容易想到性の判断に誤りはない。したがって,取消事由2は理由がない。
3 結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。原告は,その他縷々主張するが,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 中平健 裁判官 上田洋幸)