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知財高等裁判所 平成20年(行ケ)10201号 判決 2009年2月26日

原告

オークランド ユニサービシズ リミテッド

訴訟代理人弁護士

井上愛朗,飯塚卓也,渡邊肇

同弁理士

原島典孝,板垣孝夫,森本義弘,原田洋平,笹原敏司

被告

神鋼電機株式会社

被告

アシストテクノロジーズジャパン株式会社

両名訴訟代理人弁護士

福田親男

同弁理士

梶良之,坪内哲也

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1原告の求めた裁判

「特許庁が無効2007-800122号事件について平成20年2月5日にした審決を取り消す。」との判決。

第2事案の概要

本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,被告らの無効審判請求を受けた特許庁により,本件特許を無効とする旨の審決がされたため,同審決の取消しを求める事案である。

1  特許庁における手続の経緯

(1)  本件特許(甲第15号証)

本件特許に係る出願は,特願平4-504164号特許出願(以下「原出願」という。)の分割出願である。

特許権者:オークランド ユニサービシズ リミテッド(原告)

発明の名称:「誘導電力分配システムおよび車両」

出願日:平成7年4月14日(特願平7-88976号)

原出願の出願日:平成4年2月5日

設定登録日:平成14年5月10日

特許番号:特許第3304677号

(2)  本件手続

審判請求日:平成19年6月29日(無効2007-800122号)

審決日:平成20年2月5日

審決の結論:「特許第3304677号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」

審決謄本送達日:平成20年2月15日(原告に対し)

2  本件発明の要旨

本件特許に係る発明(特許第3304677号の請求項1ないし3に係る発明であり,以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」,請求項2に係る発明を「本件発明2」,請求項3に係る発明を「本件発明3」といい,本件発明1~3を併せて「本件発明」という。なお,請求項の数は全6項である。)の要旨は,以下のとおりである。

(1)  本件発明1

「【請求項1】電源と,前記電源に接続された一次導電路と,前記一次導電路と結合して使用する複数の車両であって,少なくともいくらかの電力を前記一次導電路より発生する磁界から取り出し得ると共に,ピックアップ共振周波数を有する共振回路からなる少なくとも1つのピックアップ手段と,前記共振回路から出力コンデンサへの直流出力電流を供給する全波整流手段と,前記ピックアップ手段に誘導された電力によって駆動される,通常負荷から軽負荷までに亘る負荷電力を要求する少なくとも1つの出力負荷とを有する車両と,からなる誘導電力分配システムであって,前記ピックアップ手段は,ピックアップコイルとこれに並列の同調コンデンサを有する共振回路であり,前記同調コンデンサに前記全波整流手段を介して並列に接続され,前記ピックアップコイル端子間を開閉するスイッチ手段を設け,前記出力コンデンサは,前記スイッチ手段と前記出力負荷の間で前記出力負荷に並列に接続されており,前記スイッチ手段と前記出力コンデンサとの間に,前記スイッチ手段による前記出力コンデンサの短絡を防止するダイオードを接続し,前記車両には,前記スイッチ手段を負荷変動に反応して制御し,前記負荷電力が前記ピックアップコイルから出力できる最大電力の時には,前記ピックアップ手段に循環する循環電流を共振状態での電流として前記一次導電路から前記ピックアップ手段へ電力を転送し,前記出力負荷が軽負荷時には,スイッチング動作を制御することによって前記スイッチ手段を実質的に短絡状態にして,前記ピックアップ手段の循環電流を前記共振状態より小として前記一次導電路から前記ピックアップ手段へ転送する電力を減少または実質的に零とすることによって,軽負荷車両の前記一次導電路に帰還するインピーダンスが同一一次導電路上の他の車両への電力の流れを制限することがないようにする制御手段を設けたことを特徴とする誘導電力分配システム。」

(2)  本件発明2

「【請求項2】前記少なくとも1つの出力負荷が,少なくとも1つの電気モータからなることを特徴とする請求項1に記載の誘導電力分配システム。」

(3)  本件発明3

「【請求項3】前記全波整流手段と前記スイッチ手段との間にインダクタを直列に接続することを特徴とする請求項1または請求項2記載の誘導電力分配システム。」

3  審決の理由の要点

審決は,被告らの主張する無効理由のうち,本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1~3(その文言は上記本件発明1~3の要旨と同一)は「発明の構成に欠くことができない事項のみ」が記載されたものではないから,本件特許は,平成5年法律第26号による改正前の特許法36条5項2号の規定を満たしていない出願に対してされたものであって,同法123条3項により無効とすべきであるとの主張(無効理由1)は認めなかったものの,本件発明は,いずれも米国特許第4914539号明細書(1990(平成2)年4月3日特許。審判及び本訴とも甲第1号証。以下「引用例」という。)に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号により無効とすべきものであるとした。

審決の理由中,引用例の記載事項の認定及び引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)の認定に係る部分,本件発明1と引用発明との対比及び相違点についての判断に係る部分,本件発明2及び本件発明3についての判断に係る部分は,次のとおりである(略称を本判決の指定したものに改めた部分及び審決内で審決の他の箇所の記載を引用する際の当該引用箇所の符号を本判決のものに改めた部分がある。)。

(1)  引用例の記載事項の認定

「引用例には,図面と共に次の事項が記載されている・・・。

a) 『The wireless power distribution system・・・a constant voltage across its load.(訳:上記特許記載の非接触給電システムは更に開発が行われ,現在では,直列共振給電線を駆動する正確に制御された定電流源が含まれる。ピックアップコイルの相互インダクタンスが,給電線内で直列に現れるため,定電流源は,相互インダクタンスおよび負荷が一定である限りにおいてのみ,ピックアップコイル出力での電圧を一定に保持することができる。一方,相互インダクタンスは,給電線とピックアップコイル間の距離に反比例しており,その距離も大幅に変動する可能性がある。更に,娯楽・乗客サービスシステムにより各ピックアップコイルに加えられる電気負荷も,比較的広範囲に変動することもありえる。これら可変パラメータが存在することから,各ピックアップコイルの負荷を横断して電圧を一定に保持するため,該コイル用に調整器を設置する必要がある。)』(1欄50~66行)

b) 『In a power supply system・・・a solid-state voltage regulator.(訳:ピックアップ回路に共振的かつ誘導的に結合される交流信号を生成する電源を有する給電システムにおいて,ピックアップ回路出力上の直流電圧を所定レベルに調整する装置が提供される。この装置には,次の手段が含まれる。ピックアップ回路出力に接続され,所定レベルよりかなり低い調整基準電圧を生成する手段。ピックアップ回路出力に接続され,直流電圧関数として変化し,直流電圧より低い比較電圧を生成するよう動作する分圧器手段。調整基準電圧と比較電圧間の差関数として変化する信号を生成する比較器手段。比較器手段からの信号を受信するよう接続され,ピックアップ回路を通って流れる電流が,その回路内で循環し,信号関数として変化する期間は出力されないよう電流を分路させる分路手段。

分圧器手段は,可変分圧器ネットワークを備え,また比較電圧を調整し,それによりピックアップ回路出力上の直流電圧レベルを判定する手段を含む。更に,ピックアップ回路には,ピックアップ回路結合の交流信号を整流し,それにより整流電流を生成する手段と整流電流の濾波を行い,直流電圧を生成する手段が含まれる。

分路手段は,比較器手段からの信号で判定される期間,整流電流のショートを行うよう接続される半導体スイッチを備えることが好ましい。交流信号は,ゼロ電圧レベルを通過し,ピーク正・負電圧レベル間で定期的に変化し,半導体スイッチで整流信号がショートする期間は,一般に,交流信号がゼロ電圧レベルにあるとき開始される。半導体スイッチにより,ほぼゼロ電圧レベルで状態が変化するため,そのスイッチングで,電磁干渉はほとんど起こらない。調整基準電圧の生成手段には,半導体電圧調整器が備えられる。)』(2欄15~56行)

c) 『As noted above・・・above-referenced patent.(訳:上述のように,航空機座席内設置の負荷に対して,電力と通信信号を分配するシステムが,共通譲受米国特許第4428078号に詳細に開示されている。この特許に関して,ここで参照という形でその開示内容全体を具体的に記載する。本発明は,前記参照の配電システムを更に発展させたものである。好適実施例では,本発明は,複数の遠隔配置負荷,具体的には航空機キャビン内の乗客座席グループ内に設置の乗客娯楽・サービスシステムのそれぞれの貯蔵部分に加えられる電圧の調整提供を対象とする。乗客娯楽・サービスシステムが要する直流電力は,多重巻ピックアップコイルを通して提供される。このコイルは,前記参照特許で開示されるように,給電線に近接して,各座席グループの基部に配置される。)』(3欄9~25行)

d) 『Supply loop 68・・・the supply loop.(訳:給電線68は,参照米国特許第4428078号に記載の図1~4に示す給電線26に関し,その構成と同様の構成で,航空機キャビンの床内に設置される。・・・(中略)・・・図1に示すように,通常のピックアップコイルは多数巻コイル70を備える。システム内の他のピックアップコイル(図示せず)も,それぞれ給電線に誘導結合される多数巻コイルを備える。)』(4欄64行~5欄17行)

e) 『In FIG.2・・・that resistor to lead 110.(訳:図2において,配電システムで使用される調整器回路72が示されている。調整器回路72は複数の調整器回路よりなり,各回路は座席グループ内に配置され,グループ各座席内に設置の娯楽システム・乗客サービスシステムに供給される電圧を調整するよう動作する。ピックアップコイル70は,共振タンク回路内でリード74,76を通り,3個の並列コンデンサ78,80,82に接続される。コンデンサ78,80,82の代わりに,それらの静電容量合計と等しい静電容量を有する単一コンデンサも使用できる。だが,共振タンク回路の各コンデンサでの散逸電力が極めて大きくなるため,3個以上の並列コンデンサを使用することが好ましい。ピックアップコイル70と給電線68(図1参照)間の誘導結合のため,周波数38kHzで電流がタンク回路内を循環する。好適実施例では,循環電流は負荷なし条件下でおよそ8アンペアであり,その中のおよそ2アンペアが接続負荷への電力供給に利用可能である。

リード74も,ショットキー・ダイオード84の陽極に接続される。ショットキー・ダイオードの陰極は,リード86を介し,インダクタ(チョーク)88の一方側,およびツェナー・ダイオード90の陰極に接続される。リード86も,コンデンサ94と直列の抵抗器92に接続され,コンデンサの他方側はリード76に接続される。Nチャンネル電界効果トランジスタ(FET)96はそのドレインがリード86に接続され,そのソースがリード76に接続され,ツェナー・ダイオード90と並列に配置される。FETのドレインは,リード98を通り,ダイオード100の陰極に接続される。

インダクタ88の他方端はリード102を通り,PNPトランジスタ108のコレクタと直列の抵抗器104の一方側に接続される。トランジスタ108のコレクタはリード106を通り,NチャンネルFET96のゲートに接続され,該トランジスタのエミッタは,リード76に接続され,そのベースがリード110を通って,ダイオード100の陽極と,コンデンサ112の一方側に接続される。コンデンサ112の他方側は,リード76に接続される。リード110も,抵抗器114に接続され,抵抗器の他方側は,リード116を通りリード74に接続される。

フィルタ・コンデンサ118は,リード76と102との間に接続される。また,電圧分圧器ネットワークは,可変抵抗器124に直列接続される2個の固定抵抗器120,122を備え,リード76と102との間に伸びる。固定抵抗器122と可変抵抗器124間の共通接続は,可変抵抗器上のワイパアーム126に接続される。固定抵抗器120と122との間の共通接続は,リード132を通して,演算増幅器(オペアンプ)134の反転入力に接続される。リード102は+V出力端子128で終了し,リード76は接地出力端子130で終了する。

リード136は,電圧調整器とリード76間に接続されるリード140を通して接地するよう参照される電圧調整器138の入力に接続される。好適実施例では,電圧調整器138が5Vの直流調整出力を生成し,この出力は,リード142を通り,オペアンプ134の非反転入力に接続される。・・・(中略)・・・オペアンプ134の出力電位はリード148を通って,抵抗器156の一端に送られ,そしてこの抵抗器を通ってリード110に送られる。)』(5欄18行~6欄26行)

f) 『Operation of regulator circuit 72・・・solid-state switching.(訳:調整器回路72の動作は,次の説明から容易に理解できる。つまり,ピックアップコイル70および並列コンデンサ78,80,82を備えるタンク回路は,給電線68からピックアップコイル70に誘導結合される電力周波数38kHzで共振する。タンク回路内の循環電流により,リード74,76を横切って正弦波交流電位が生じる。ショットキー・ダイオード84によって,リード74から正の電流がリード86に流れ,交流電位の負の半分がブロックされる。NチャンネルFET96内のツェナー・ダイオード90と内部ダイオード(別途参照せず)により,リード74,76上での交流電位の他半周期間に,リード76からリード86へ,正進行電流が送られる。これにより,電流は,インダクタ88を通って途切れることなく流れることが可能となる。NチャンネルFET96は,リード76からリード86内への正電流フローに関して,より低い順インピーダンスを有するため,この方向での電流フローの大部分は,ツェナー・ダイオード90ではなく,NチャンネルFET96を通って流れる。NチャンネルFET96がON操作されると,リード76からリード86に正電流が送られる。好適実施例では,ツェナー・ダイオード90により,リード86とリード76間の電圧差がおよそ40Vに制限され,それによりNチャンネルFET96が,その定格電圧限度を超えるドレイン~ソース電圧から保護されることになる。

抵抗器92およびコンデンサ94は,スナッバ・フィルタとして調整器回路内で使用される。このスナッバ・フィルタにより,NチャンネルFET96が導電状態と非導電状態間でスイッチングされる時に生成される無線周波数(RF)騒音が,ピックアップコイル70から給電線68内に伝播返却されることはない。実際には,抵抗器92およびコンデンサ94は任意に設置されるものであり,NチャンネルFET96が生成するEMIが潜在的問題と考えられない適用例では,回路から排除されることが好ましい。(注1:アンダーラインは当審で付した。)しかし,航空機での使用では,調整器回路内でのEMIを減少させるため,適切なあらゆる予防措置が通常取られる。これは,航空電子システム内で使用される通信機器および他の高感度電子装置の破壊を避けるためである。

インダクタ88では,リード86上の半波整流波形と,コンデンサ118による濾波の結果,出力端子128,130を横断して発生する直流電圧間に,インピーダンスが挿入される。(注2:アンダーラインは当審で付した。)好適実施例では,出力電圧は,前もって定められ,通常8V直流に設定される。非調整の場合の出力電圧は,給電線68とピックアップコイル70間での誘導結合の変化および負荷電流の変化が生ずるため,かなりの変動を受ける可能性がある。誘導結合変化は,乗客が機内持ち込み荷物をピックアップコイル上に置き,あるいは足で押すと,ピックアップコイルと給電線68間の物理的距離が減少し,その時に生ずる可能性がある。調整器回路72では,出力端子128,130を横断する電圧が調整される。この電圧調整は,リード74上での38kHz正弦波交流電位の各周期中の短期間,NチャンネルFET96を通る電流を分路することにより行われる。NチャンネルFETが電流分路を開始するのは,リード74上の電位がゼロ交差を通過し,波形の正側から負側に進む時のみである。NチャンネルFET96が電流を分略する期間は,出力を所望の公称レベルに維持するよう制御される。

図3は,NチャンネルFET96が,各周期毎に一度スイッチONされる時間に関し,リード86上における電位波形200を示す。・・・(中略)・・・どのような調整も行われない場合,波形200は波形セグメント202に代わって,破線波形セグメント204に従い,半波形整流信号特性の波形を備えるであろう。

調整器回路72(図2参照)は,16ワットの定格出力電力で,出力端子128,130から,リードに対して2アンペア超の出力電流を提供可能である。出力端子128,130に加えられる負荷により,負荷供給の電流がおよそ2-1/2アンペアを超える場合,ピックアップコイル70およびコンデンサ78,80,82を備える共振タンク回路が共振を停止し,それにより出力端子128,130を横切る電圧が急激に降下し,タンク回路内の共振電流フローがほぼ停止する。この理由から,出力端子128,130を通る短絡電流は,およそ25ミリアンペアに制限される。調整器回路72は,出力端子128,130に定格最大負荷が取り付けられても,NチャンネルFET96により,少なくとも各周期毎,短い間隔で電流が分路される。これにより,ピックアップコイル70と給電線68間の誘導結合が変化する時,出力電圧が調整される。

NチャンネルFET96が電流分路の役割を果たす時間は,電圧調整器138生成の電圧に対して制御される。好適実施例では,電圧調整器138の出力は5V直流であるため,固定抵抗器120,122および可変抵抗器124を備える電圧分圧器ネットワークの構成要素は,所望の公称8V直流(または,他の適当な)出力電圧が出力端子128,130を横断し現れる時,リード132上に公称5V直流を生成するよう選択および調整される。可変抵抗器124により,比較的広範な範囲内,例えば,6~12V直流で,出力端子128,130上での調整電圧の調整が可能となる。これは,調整電圧がリード132上の電圧分圧器ネットワーク出力電圧に対し,制御されるからである。

オペアンプ134は,リード132上で発生の電圧と,リード142上の電圧調整器138からの電圧出力との比較を行う。リード132接続のオペアンプ反転入力上の電位がリード142接続の非反転入力上の電圧より低い場合,オペアンプ134は,正の出力電圧を生成する。オペアンプ134のフィードバック・ネットワークは,比較的高い値のフィードバック抵抗器146(好適実施例では,1メガオーム)を備え,その入力インピーダンスがはるかに低いため,オペアンプ134のゲインが,比較的高くなる。その出力電圧は,オペアンプの反転入力電位が非反転入力電位よりわずかに低い時でも,+Vccに近くなる。オペアンプ134からの正出力電圧は,抵抗器156が電流を制限し,リード110を通ってトランジスタ108のベースに加えられる。トランジスタ108のベースは,リード76を通して接地されるエミッタより正側であるため,トランジスタ108は飽和する。トランジスタ108が飽和すると,トランジスタ108のエミッタおよびNチャンネルFET96のゲートに接続されるリード106上の電位が,約ゼロ,または接地まで降下する。NチャンネルFET96のゲートがトランジスタ108を通って接地されると,それは『OFF状態』に維持され,リード86からリード76への正電流の流れがブロックされる。

出力端子128上の電圧が所望の公称レベルを超えて上昇すると,出力端子128上の電圧から派生するリード132の電圧も,リード142上の電圧調整器138からの電圧出力を超えて上昇する。その結果,オペアンプ134がほぼゼロの出力電圧レベルを有することになる。リード74上の正弦波交流電位がゼロポイントを通り正から負に横切ると,トランジスタ108ベースの電位が接地に対して負となり,その結果トランジスタ108が『OFF操作』される。つまり,そのコレクタとエミッタ接合間での電流フローが停止する。リード106は抵抗器104を通してリード102上の+V電位に接続されるため,NチャンネルFET96が『ON操作』され,それによりリード86からリード76に正電流が分路され,出力端子128での直流電圧が減少する。出力端子128,130横断の電圧は所望のレベルに降下し,その結果,オペアンプ134反転入力に接続されるリード132上の電位が,電圧調整器138からの電位より低くなる。このような状態が起こると,オペアンプ134は,直ちに正電圧生成を開始する。この正電圧はトランジスタ108のベースに加えられ,やがて抵抗器114を通って提供される負電圧を超えることになる。抵抗器114の抵抗は,抵抗器156のおよそ5倍に設定される。よって,リード74上の正弦波交流電位がほとんど負の部分の期間でも,オペアンプ134からの正電流フローはトランジスタ108ベース上の電位を正に駆動することになる。

NチャンネルFET96がリード86からリード76に正電流を伝えるのは,リード74上の正弦波波形が負から正に進む時,つまり周期毎に一回のみであるのは明らかであろう。リード74上の正弦波波形の正半分側の期間では,遅延t3後トランジスタ108がON操作される。この操作は,抵抗器114を通しトランジスタベースに伝えられるリード74上の電位,または抵抗器156を通りベースに達するオペアンプ134からの出力のどちらかにより行われる。オペアンプ134が正出力を生成していない時,抵抗器114,156はリード74上に存在する正電位用に電圧分圧器回路として動作する。これにより,トランジスタ108ベースがエミッタに対して正となることが保証される。このような状態により,トランジスタ108は前述のように導電となり,それによりNチャンネルFET96がリード86からリード76への正電流フローを阻止することになる。

ダイオード100は・・・(中略)・・・遅延t5(図3参照)も与えられる。

オペアンプ134の・・・(中略)・・・電解コンデンサ150を保護する。

調整器回路72は,給電線68とピックアップコイル70間の誘導結合および出力端子128,130に接続されている負荷の両方に関して,比較的広範囲の調整を行う。NチャンネルFET96による分路作用は,負荷に加えられる出力電圧を調整するよう,各波形の一部期間のみ行われ,過度の電流分路による電力消費は起こらない。更に,調整器回路72は,前記のように,過度の負荷電流が引き込まれると短絡により出力電圧が降下するため,短絡保護される。NチャンネルFET96はリード74上の電位がゼロ交差点でのみ電流分路を行うようON操作されるため,生じるEMIは最小となる。半導体スイッチングにより生じるRF騒音のほとんどを濾過排除するため,抵抗器92およびコンデンサ94を任意に設けてもよい。)』(6欄27行~9欄46行)

g) 『The embodiments of the invention・・・at a zero voltage level.(訳:独占権または特権を請求する本発明の実施例は,以下の通り定義される。

【特許請求の範囲】

【請求項1】ピックアップ回路に共振的および誘導的に結合される交流信号を生成する電源を有する給電システムにおいて,前記ピックアップ回路出力上で直流電圧を所定レベルに調整する装置であり,

(a) 前記ピックアップ回路出力に接続され,前記所定レベルよりかなり低い調整基準電圧を生成する手段と;

(b) 前記ピックアップ回路出力に接続され,前記ピックアップ回路からの直流電圧出力関数として変化し,前記直流電圧より低い比較電圧を生成する分圧器手段と;

(c) 前記基準電圧と前記比較電圧間の差関数として変化する信号を生成する比較器手段と;

(d) 前記比較器手段からの信号を受信するよう接続され,前記信号の関数として交流信号の周波数程でしかない低い周波数で変化する期間,電流が前記ピックアップ回路内で循環し,出力されないように,前記ピックアップ回路を流れる電流を周期的に分路する手段とを備えることを特徴とする装置。

【請求項2】前記分圧器手段が可変電圧分圧器ネットワークを備え,前記比較電圧を調整し,それにより前記ピックアップ回路出力上の前記直流電圧レベルを判定する手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。

【請求項3】前記ピックアップ回路が前記ピックアップ回路接続の交流信号を整流し,それにより整流電流を生成する手段と,前記整流電流を濾波し,それにより直流電圧を生成する手段とを含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。

【請求項4】前記分路手段が前記比較器手段からの信号で判定される期間,前記整流電流をショートさせるよう接続される半導体スイッチを備えることを特徴とする請求項3に記載の装置。

【請求項5】前記半導体スイッチが前記整流電流をショートさせる期間は,前記整流電流がほぼゼロ電圧レベルにある時に開始することを特徴とする請求項4に記載の装置。)』(9欄55行~10欄32行)

h) また,FiG.2.には,NチャンネルFET96とコンデンサ118との間に,インダクタ88を接続した回路構成が示されている。」

(2)  引用発明の認定

「これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例には次の発明(引用発明)が記載されていると認められる。

『電源と,

前記電源に接続された給電線68と,

前記給電線68と誘導的に結合される複数の遠隔配置負荷であって,誘導電力が分配されると共に,給電線68に供給される交流電流の38kHzに共振する共振タンク回路と,前記共振タンク回路からコンデンサ118への直流出力電流を供給するショットキー・ダイオード84の半波整流手段と,前記共振タンク回路に誘導された電力によって駆動される,比較的広範囲に変動する電気負荷とを有する遠隔配置負荷と,からなる誘導的に結合される給電システムであって,

前記共振タンク回路は,ピックアップコイル70とこれに並列接続された並列コンデンサ78,80,82を有する共振タンク回路であり,

前記並列コンデンサ78,80,82に前記半波整流手段を介して並列に接続され,前記ピックアップコイル70端子間をON-OFF切替するNチャンネルFET96を設け,

前記コンデンサ118は,前記NチャンネルFET96と前記電気負荷の間で前記電気負荷に並列に接続されており,

前記NチャンネルFET96と前記コンデンサ118との間に,インダクタ88を接続し,

前記遠隔配置負荷には,前記NチャンネルFET96をコンデンサ118の電圧を分圧した分圧電圧と調整基準電圧との比較結果に応じてON-OFF切替操作させ,前記分圧電圧が前記調整基準電圧より大きい場合にNチャンネルFET96をON操作して半波整流回路の出力電流を分路することによりコンデンサ118の電圧を所定レベルに調整する手段を設けた誘導的に結合される給電システム。』」

(3)  本件発明1と引用発明との対比

「本件発明1と引用発明とを比較すると,その機能・作用からみて,後者における『給電線68』が前者における『一次導電路』に相当し,以下同様に,『誘導的に結合される』が『結合して使用する』に,『誘導電力が分配される』が『少なくともいくらかの電力を一次導電路より発生する磁界から取り出し得る』に,『給電線68に供給される交流電流の38kHzに共振する共振タンク回路』が『ピックアップ共振周波数を有する共振回路からなる少なくとも1つのピックアップ手段』に,『コンデンサ118』が『出力コンデンサ』に,『比較的広範囲に変動する電気負荷』が『通常負荷から軽負荷までに亘る負荷電力を要求する少なくとも1つの出力負荷』に,『誘導的に結合される給電システム』が『誘導電力分配システム』に,『並列接続された並列コンデンサ78,80,82』が『並列の同調コンデンサ』に,『共振タンク回路』が『共振回路』に,『ON-OFF切替』が『開閉』に,『NチャンネルFET96』が『スイッチ手段』に,それぞれ相当し,さらに,後者の『コンデンサ118の電圧』は電気負荷の変動の影響を受けて変わり得るものであるから,後者の『NチャンネルFET96をコンデンサ118の電圧を分圧した分圧電圧と調整基準電圧との比較結果に応じてON-OFF切替操作させ』が前者の『スイッチ手段を負荷変動に反応して制御し』に相当する。

そして,後者における『遠隔配置負荷』と前者における『車両』は,『被電力供給体』なる概念で共通し,後者の『ショットキー・ダイオード84の半波整流手段』と前者の『全波整流手段』とは,『整流手段』との概念で共通し,加えて,後者における『インダクタ88』は,出力コンデンサ(コンデンサ118)の短絡を防止し得る機能(引用例の摘記事項『f)』の中のアンダーラインを付した箇所(注2の部分)の記載参照)を有するものであるから前者における『スイッチ手段による出力コンデンサの短絡を防止するダイオード』と,『スイッチ手段による出力コンデンサの短絡を防止する回路素子』との概念で共通している。

また,前者の『出力負荷が軽負荷時には,スイッチング動作を制御することによってスイッチ手段を実質的に短絡状態にして,ピックアップ手段の循環電流を共振状態より小として一次導電路から前記ピックアップ手段へ転送する電力を減少または実質的に零とすることによって,軽負荷車両の前記一次導電路に帰還するインピーダンスが同一一次導電路上の他の車両への電力の流れを制限することがないようにする制御手段』について検討するに,『出力負荷が軽負荷時には,スイッチング動作を制御することによってスイッチ手段を実質的に短絡状態にして』いる構成により,『ピックアップ手段の循環電流を共振状態より小として一次導電路から前記ピックアップ手段へ転送する電力を減少または実質的に零とすること』となり,さらにその結果として,『軽負荷車両の一次導電路に帰還するインピーダンスが同一一次導電路上の他の車両への電力の流れを制限することがないようにする』ことになるものと解される。

一方,後者の『分圧電圧が調整基準電圧より大きい場合にNチャンネルFET96をON操作して半波整流回路の出力電流を分路することによりコンデンサ118の電圧を所定レベルに調整する手段』について検討するに,『分圧電圧が調整基準電圧より大きい場合にNチャンネルFET96をON操作して』いる態様は,電気負荷(出力負荷)が軽負荷になるほど分圧電圧が調整基準電圧より大きくなり,半波整流期間におけるNチャンネルFET96(スイッチ手段)のON時間が長くOFF時間が短くなるように操作する態様であることは明らかであり,NチャンネルFET96がON操作されている間は,共振タンク回路(ピックアップ手段)の循環電流を共振状態より小として給電線68(一次導電路)から前記共振タンク回路へ転送する電力を減少することとなり,結果,給電線68に帰還するインピーダンスに関しても本件発明1と同様に他の電気負荷への電力の流れを制限することがないようにすることになるものと解される。

そうすると,上記『4.[A]』の『主張1について』での検討内容(判決注:無効理由1についての判断の部分であって、引用は省略してある。)を踏まえれば,後者の『分圧電圧が調整基準電圧より大きい場合にNチャンネルFET96をON操作して半波整流回路の出力電流を分路することによりコンデンサ118の電圧を所定レベルに調整する手段』と前者の『出力負荷が軽負荷時には,スイッチング動作を制御することによってスイッチ手段を実質的に短絡状態にして,ピックアップ手段の循環電流を共振状態より小として一次導電路から前記ピックアップ手段へ転送する電力を減少または実質的に零とすることによって,軽負荷車両の前記一次導電路に帰還するインピーダンスが同一一次導電路上の他の車両への電力の流れを制限することがないようにする制御手段』とは,『出力負荷が軽負荷時には,スイッチング動作を制御することによってスイッチ手段を実質的に短絡状態にして,ピックアップ手段の循環電流を共振状態より小として一次導電路から前記ピックアップ手段へ転送する電力を減少または実質的に零とすることによって,軽負荷被電力供給体の前記一次導電路に帰還するインピーダンスが同一一次導電路上の他の被電力供給体への電力の流れを制限することがないようにする制御手段』との概念で共通しているといえる。

さらに,後者のものにおいて,電気負荷(出力負荷)が大負荷の時には,分圧電圧が調整基準電圧より小さくなって,NチャンネルFET96がON操作されないこととなり,共振タンク回路(ピックアップ手段)は常に共振状態を維持し続け得るものと解されるから,後者は,前者の『負荷電力がピックアップコイルから出力できる最大電力の時には,ピックアップ手段に循環する循環電流を共振状態での電流として一次導電路から前記ピックアップ手段へ電力を転送し』ている構成を実質的に備えているといえる。

したがって,両者は,

『電源と,

前記電源に接続された一次導電路と,前記一次導電路と結合して使用する複数の被電力供給体であって,少なくともいくらかの電力を前記一次導電路より発生する磁界から取り出し得ると共に,ピックアップ共振周波数を有する共振回路からなる少なくとも1つのピックアップ手段と,前記共振回路から出力コンデンサへの直流出力電流を供給する整流手段と,前記ピックアップ手段に誘導された電力によって駆動される,通常負荷から軽負荷までに亘る負荷電力を要求する少なくとも1つの出力負荷とを有する被電力供給体と,からなる誘導電力分配システムであって,

前記ピックアップ手段は,ピックアップコイルとこれに並列の同調コンデンサを有する共振回路であり,

前記同調コンデンサに前記整流手段を介して並列に接続され,前記ピックアップコイル端子間を開閉するスイッチ手段を設け,

前記出力コンデンサは,前記スイッチ手段と前記出力負荷の間で前記出力負荷に並列に接続されており,

前記スイッチ手段と前記出力コンデンサとの間に,前記スイッチ手段による前記出力コンデンサの短絡を防止する回路素子を接続し,

前記被電力供給体には,前記スイッチ手段を負荷変動に反応して制御し,前記負荷電力が前記ピックアップコイルから出力できる最大電力の時には,前記ピックアップ手段に循環する循環電流を共振状態での電流として前記一次導電路から前記ピックアップ手段へ電力を転送し,前記出力負荷が軽負荷時には,スイッチング動作を制御することによって前記スイッチ手段を実質的に短絡状態にして,前記ピックアップ手段の循環電流を前記共振状態より小として前記一次導電路から前記ピックアップ手段へ転送する電力を減少または実質的に零とすることによって,軽負荷被電力供給体の前記一次導電路に帰還するインピーダンスが同一一次導電路上の他の被電力供給体への電力の流れを制限することがないようにする制御手段を設けた誘導電力分配システム。』

である点で一致し,次の点で相違する。

[相違点1]

被電力供給体に関し,本件発明1が,『車両』であるのに対し,引用発明は,かかる特定がなされていない点。

[相違点2]

整流手段に関し,本件発明1が,『全波整流手段』であるのに対し,引用発明は,『半波整流手段』である点。

[相違点3]

スイッチ手段による出力コンデンサの短絡を防止する回路素子に関し,本件発明1が,『ダイオード』であるのに対し,引用発明は,『インダクタ』である点。」

(4)  本件発明1と引用発明との相違点についての判断

「上記相違点について以下検討する。

・ 相違点1について

甲第8号証ないし甲第10号証(判決注:本訴甲第8~第10号証)に開示されているように,非接触給電システムを,電気モータからなる出力負荷を有する車両に適用することは周知技術である。

そして,引用例の摘記事項『a)』を参酌すれば,引用発明の本質的な課題は,非接触給電システムにおける負荷が比較的広範囲に変動してもピックアップコイル出力での電圧を一定に保持する調整器の設置にあることが窺われるところであり,上記周知技術においても,引用発明と同様の課題が生ずることは明らかである。

また,引用発明において,被電力供給体は誘導電力分配が可能な範囲内で当業者が適宜選定し得るものといえる。

そうすると,非接触給電システムの技術分野に属する引用発明において,上記周知技術を踏まえれば,被電力供給体として車両を選定することにより相違点1に係る本件発明1の構成とすることは,かかる選定に際し格別な技術的困難性が何等認められない以上,当業者が容易に想到し得たものというべきである。

・ 相違点2について

整流回路を全波整流回路とするか半波整流回路とするかは,当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計的事項であるから,引用発明において,半波整流回路を全波整流回路に改変することにより相違点2に係る本件発明1の構成とすることは,かかる改変に際し格別な技術的困難性が何等認められない以上,当業者にとって容易であり,また,それにより格別な効果が奏されるともいえない。

・ 相違点3について

甲第3号証ないし甲第7号証(判決注:本訴甲第3~第7号証)に開示されているように,電源回路の分野において,スイッチ手段による出力コンデンサの短絡を防止するダイオードを使用することは周知技術である。

そうすると,引用発明において,スイッチ手段による出力コンデンサの短絡を防止する回路素子として,インダクタに代えてダイオードを使用することで,相違点3に係る本件発明1の構成とすることは,かかる使用に際し格別な技術的困難性が何等認められない以上,当業者にとって容易であり,また,それにより格別な効果が奏されるともいえない。

そして,本件発明1の全体構成により奏される効果も,引用発明及び上記各周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。

なお,被請求人は答弁書において,引用発明においては『生じるEMIは最小となる』という重要な作用効果を奏するものであり,引用発明と本件発明1では,スイッチの制御手段の構成・動作が相異している旨主張している。

ところで,引用例については以下の点が明らかである。

第一に,引用例の摘記事項『a)』を参酌すれば,引用発明の本質的な課題は,非接触給電システムにおける負荷が比較的広範囲に変動してもピックアップコイル出力での電圧を一定に保持する調整器の設置にあることが窺えること。

第二に,引用例の摘記事項『f)』の中のアンダーラインを付した箇所(注1の部分)の記載によれば,引用発明の適用例としては,EMIを考慮しなくてよいものが含まれていると解されること。

第三に,引用例の摘記事項『g)』を参酌すれば,EMIを最小とするための構成は請求項5に記載されてはいるものの,請求項1~4に係る発明の必須の構成要件としては含まれていないこと。

以上の点を踏まえれば,EMIを最小にするための構成は引用発明の必須の構成要件として認定する必要のないものであると共に,EMIを最小にすることが引用発明の解決課題であるともいえないから,引用発明は『生じるEMIは最小となる』という重要な作用効果を奏するものとの前提に立った被請求人の上記主張は採用できない。

以上のとおりであるので,本件発明1は,引用発明及び上記各周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものというべきである。」

(5)  本件発明2についての判断

「本件発明2は,本件発明1に,『少なくとも1つの出力負荷が,少なくとも1つの電気モータからなる』との構成を限定したものである。

しかしながら,上記の限定された構成とすることも,甲第8号証ないし甲第10号証(判決注:本訴甲第8~第10号証)に開示されているように非接触給電システムの分野における周知技術にすぎず,かかる周知技術を採用したことにより格別の効果を奏するとも認められないから,上記『(3),(4)』での検討内容を踏まえれば,本件発明2も,引用発明及び上記各周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものというべきである。

(6)  本件発明3についての判断

「本件発明3は,本件発明2に,さらに『全波整流手段とスイッチ手段との間にインダクタを直列に接続する』との構成を限定したものである。

しかしながら,甲第5号証ないし甲第7号証(判決注:本訴甲第5~第7号証)に開示されているように,電源回路装置の分野において上記の限定された構成を採用することは周知技術であるといえると共に,かかる周知技術を採用したことにより格別の効果を奏するとも認められないから,上記『(3),(4)』及び『(5)』での検討内容を踏まえれば,本件発明3は,引用発明及び上記各周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものというべきである。」

第3原告の主張(審決取消事由)の要点

審決は,引用発明の認定を誤ったことにより,本件発明1の進歩性の判断において,本件発明1と引用発明との一致点の認定を誤る(取消事由1)とともに,相違点2についての判断を誤った(取消事由2)結果,本件発明1が引用例記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであり,また,このように本件発明1の進歩性の判断を誤ったことにより,本件発明1を限定した構成より成る本件発明2,3についても,引用発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至った(取消事由3)ものであるから,取り消されるべきである。

1  取消事由1(本件発明1と引用発明との一致点の認定の誤り)

(1)  審決は,引用発明を下記のとおり認定した上,この認定を前提として,本件発明1と引用発明との一致点を認定した。

(審決の認定に係る引用発明)

「電源と,

前記電源に接続された給電線68と,

前記給電線68と誘導的に結合される複数の遠隔配置負荷であって,誘導電力が分配されると共に,給電線68に供給される交流電流の38kHzに共振する共振タンク回路と,前記共振タンク回路からコンデンサ118への直流出力電流を供給するショットキー・ダイオード84の半波整流手段と,前記共振タンク回路に誘導された電力によって駆動される,比較的広範囲に変動する電気負荷とを有する遠隔配置負荷と,からなる誘導的に結合される給電システムであって,

前記共振タンク回路は,ピックアップコイル70とこれに並列接続された並列コンデンサ78,80,82を有する共振タンク回路であり,

前記並列コンデンサ78,80,82に前記半波整流手段を介して並列に接続され,前記ピックアップコイル70端子間をON-OFF切替するNチャンネルFET96を設け,

前記コンデンサ118は,前記NチャンネルFET96と前記電気負荷の間で前記電気負荷に並列に接続されており,

前記NチャンネルFET96と前記コンデンサ118との間に,インダクタ88を接続し,

前記遠隔配置負荷には,前記NチャンネルFET96をコンデンサ118の電圧を分圧した分圧電圧と調整基準電圧との比較結果に応じてON-OFF切替操作させ,前記分圧電圧が前記調整基準電圧より大きい場合にNチャンネルFET96をON操作して半波整流回路の出力電流を分路することによりコンデンサ118の電圧を所定レベルに調整する手段を設けた誘導的に結合される給電システム。」

(2)  しかしながら,審決の引用発明の認定のうち,引用発明が,遠隔配置負荷に「前記NチャンネルFET96をコンデンサ118の電圧を分圧した分圧電圧と調整基準電圧との比較結果に応じてON-OFF切替操作させ,前記分圧電圧が前記調整基準電圧より大きい場合にNチャンネルFET96をON操作して半波整流回路の出力電流を分路することによりコンデンサ118の電圧を所定レベルに調整する手段を設けた」誘導的に結合される給電システムであるとした部分は誤りである。

そして,審決は,引用発明に係る上記認定部分を前提とし,「後者(判決注:引用発明)の『分圧電圧が調整基準電圧より大きい場合にNチャンネルFET96をON操作して半波整流回路の出力電流を分路することによりコンデンサ118の電圧を所定レベルに調整する手段』と前者(判決注:本件発明1)の『出力負荷が軽負荷時には,スイッチング動作を制御することによってスイッチ手段を実質的に短絡状態にして,ピックアップ手段の循環電流を共振状態より小として一次導電路から前記ピックアップ手段へ転送する電力を減少または実質的に零とすることによって,軽負荷車両の前記一次導電路に帰還するインピーダンスが同一一次導電路上の他の車両への電力の流れを制限することがないようにする制御手段』とは,『出力負荷が軽負荷時には,スイッチング動作を制御することによってスイッチ手段を実質的に短絡状態にして,ピックアップ手段の循環電流を共振状態より小として一次導電路から前記ピックアップ手段へ転送する電力を減少または実質的に零とすることによって,軽負荷被電力供給体の前記一次導電路に帰還するインピーダンスが同一一次導電路上の他の被電力供給体への電力の流れを制限することがないようにする制御手段』との概念で共通しているといえる。

さらに,後者のものにおいて,電気負荷(出力負荷)が大負荷の時には,分圧電圧が調整基準電圧より小さくなって,NチャンネルFET96がON操作されないこととなり,共振タンク回路(ピックアップ手段)は常に共振状態を維持し続け得るものと解されるから,後者は,前者の『負荷電力がピックアップコイルから出力できる最大電力の時には,ピックアップ手段に循環する循環電流を共振状態での電流として一次導電路から前記ピックアップ手段へ電力を転送し』ている構成を実質的に備えているといえる。」とした上で,「前記スイッチ手段を負荷変動に反応して制御し,前記負荷電力が前記ピックアップコイルから出力できる最大電力の時には,前記ピックアップ手段に循環する循環電流を共振状態での電流として前記一次導電路から前記ピックアップ手段へ電力を転送し,前記出力負荷が軽負荷時には,スイッチング動作を制御することによって前記スイッチ手段を実質的に短絡状態にして,前記ピックアップ手段の循環電流を前記共振状態より小として前記一次導電路から前記ピックアップ手段へ転送する電力を減少または実質的に零とすることによって,軽負荷被電力供給体の前記一次導電路に帰還するインピーダンスが同一一次導電路上の他の被電力供給体への電力の流れを制限することがないようにする制御手段を設けた誘導電力分配システム。」である点を,本件発明1と引用発明との一致点の一部として認定したが,引用発明の上記認定部分が誤りである以上,これを前提とする一致点の認定中の上記認定部分も誤りである。

(3)  すなわち,引用発明は,航空機内の床下に設置された一次導電路と座席に設置されたピックアップコイルとの誘導結合の変化等によって共振回路の電圧が変化する場合においても,共振回路の電圧・電流を一定に維持することによって負荷電圧を一定にすることを主要な技術課題とし,併せて,電流が流れている時にスイッチングを行うことによって生じるEMI(電磁干渉)を回避することをも技術課題とするものである。そして,引用発明は,このような技術課題を解決するため,半波整流回路を用いて,ピックアップコイルに発生する交流電圧信号を常に監視して,交流電圧が正から負に変わった際に毎回分路用のスイッチ(NチャンネルFET96)をオンし,当該交流電圧が負から正に変わった際に少し遅れて毎回同スイッチをオフするという動作を繰り返しているものであり,このようなスイッチ制御の結果,スイッチを含む負荷側に電流が流れない負の半波期間には,共振回路で発生させた共振電流の流れを半波整流器によりブロックしているので,オン操作されても共振回路は自由共振を継続し,常に一定値以上のピックアップコイル電圧を維持する(ピックアップコイル電圧が一定値であれば,ピックアップコイル電流も一定値を維持する。)とともに,スイッチをオンするタイミングを,ピックアップコイルに発生する交流電圧が正から負に変わった際とすることによりEMIの発生をも回避しているのである。

このように,引用発明のスイッチング動作は,交流電圧の周期に同期してオン,オフの動作を行う位相制御であって,審決の認定するような分圧電圧と調整基準電圧との比較によりスイッチング動作を行うものではない。

(4)  被告らは,引用例にEMI対策を必要としない発明が記載されているとか,引用発明は負荷への供給電圧を一定に維持することを目的とする発明であると主張する。

しかしながら,引用例において従来技術とされている米国特許4428078号(乙第4号証)には,航空機の複数の座席に電力を供給するための非接触給電システムの発明(以下「Kuo発明」という。)が開示されているところ,引用例には,引用発明に係る「発明の背景」として,Kuo発明は更に開発され,現在では定電流源が含まれること,定電流源は,相互インダクタンス及び負荷が一定である場合に限りピックアップコイル出力での電圧を一定に保持できるが,相互インダクタンス及び負荷は変動する可能性があるために,ピックアップコイル出力での電圧の変動を防止すべく,「各ピックアップコイルの負荷を横断して電圧を一定に維持するため,該コイル用に調整器を設置する必要」があるものの,直列通過式や分路調整器等の従来の調整器では,「容認しがたい電磁干渉(EMI)」が起こり,定電流源が破壊される可能性があるとともに,過度な電力量が消費されるなど,非効率となる傾向があることが指摘された上で,「本発明の目的は,非接触給電システムの各負荷用に,低コストの調整器を提供することである。」と記載されている(訳文2頁6~末行)。したがって,引用発明が,容認し難い電磁干渉と過度な電力消費を伴わない低コストの調整器を提供することを解決課題としたものであることは明らかである。

そして,引用発明は,直列通過式や分路調整器等の従来の調整器に代わり,やはり従来からの周知技術であるスイッチングレギュレータを採用した点に特徴がある。スイッチングレギュレータは,抵抗によるのではなく,スイッチングによって電圧・電流を制御して調整するため,電力消費が少ないというメリットがあるが,繰り返しスイッチングがされるため,電磁干渉が非常に大きいという欠点がある。そこで,引用発明は,そのスイッチングを開始する時期をスイッチに電流が流れない電圧ゼロの期間に行うこととして電磁干渉を最小限に抑制し,スイッチングレギュレータの欠点を克服したものと理解できるのであり,この点にこそ,引用発明の重要な目的が存するのである。すなわち,引用発明は,非接触給電システムに電力消費の少ないスイッチングレギュレータを採用するに当たって,従来の調整器の抱えていた「電磁干渉」及びそれによる「定電流源の破壊」という課題を解消したスイッチングレギュレータを提供する点において,初めて独自性が認められるものである。

引用例には,被告らが摘記する「抵抗器92およびコンデンサ94は任意に設置されるものであり,NチャンネルFET96が生成するEMIが潜在的問題と考えられない適用例では,回路から排除されることが好ましい。」(訳文7頁6~8行)との記載があるが,この記載において,任意に設置されるものとされているのが,抵抗器92及びコンデンサ94(スナッバ・フィルタ手段)のみであることは明らかであって,ピックアップコイル出力電圧がゼロの期間にスイッチをオンとする構成まで任意とする趣旨ではないし,そのように解する余地もない。すなわち,引用例の「NチャンネルFET96はリード74上の電位がゼロ交差点でのみ電流分路を行うようON操作されるため,生じるEMIは最小となる。半導体スイッチングにより生じるRF騒音のほとんどを濾過排除するため,抵抗器92およびコンデンサ94を任意に設けてもよい。」(訳文9頁34~37行)との記載に照らし,引用発明のスナッバ・フィルタは,ピックアップコイル出力電圧がゼロの期間にスイッチをオンするという構成の下でEMIが最小に抑制されていることを前提とした上で,なおも生じ得るEMIを抑制することによって,定電流源の破壊や航空電子システムへの影響が生じる危険を完全に防止するために設けられるものであることが明らかである。他方,スナッバ・フィルタがノイズ除去の過程で熱を発することは当業者に周知であって,電力消費の観点からも,安全性やコストの観点からも不必要であれば除外することが望ましいから,「回路から排除されることが好ましい」とされているのである。

なお,被告らは,引用例の特許請求の範囲の請求項1及び請求項11に記載された発明は,ゼロ電圧検出手段を特定しないものであり,引用例がEMI対策を必要としない発明を含むことは,特許請求の範囲の記載からも明らかであると主張する。

しかしながら,引用例につき,本件無効審判で判断されるべき事項は,本件発明の回路構造やスイッチング構造が引用例に開示されているか(特段の思考を要さず実施できる程度に技術の開示があるといえるか)否かであるところ,上記請求項1及び請求項11の記載は,回路構成の体をなしておらず,むしろ,非接触給電に分路の期間を変化させるスイッチングレギュレータを設けて分路による定電圧化を図ったという点を抽象的にクレームしただけのものと解され,具体的な回路を開示したものではないというべきであり,特段の考慮を要さずに実施可能な程度の技術の開示があるといえるものではない。したがって,これらの請求項に接した当業者が,そこに記載された発明の意義を理解し,実施しようとすれば,引用例の明細書の部分の記載によらなければならないが,当該部分の具体的な電気回路の説明と図面に接した当業者が,請求項に限定がないからといって,明細書に開示された重要な技術思想と関係することが明らかであるスイッチング方式を不要なものであると理解することなどあり得ない。

したがって,被告らの主張は失当である。

2  取消事由2(本件発明1と引用発明との相違点2についての判断の誤り)

(1)  審決は,本件発明1と引用発明との相違点2として「整流手段に関し,本件発明1が,『全波整流手段』であるのに対し,引用発明は,『半波整流手段』である点」を認定したものの,当該相違点につき,「整流回路を全波整流回路とするか半波整流回路とするかは,当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計的事項であるから,引用発明において,半波整流回路を全波整流回路に改変することにより相違点2に係る本件発明1の構成とすることは,かかる改変に際し格別な技術的困難性が何等認められない以上,当業者にとって容易であり,また,それにより格別な効果が奏されるともいえない。」と判断した。

(2)  しかしながら,引用発明が,共振回路の電圧・電流を一定に維持することと,EMIの発生を回避することの両者を技術課題とし,その解決のため,共振回路から負荷側に電流が流れない,共振交流電圧の負の半波期間に分路用のスイッチをオンするものであること,すなわち,この期間は,共振回路で発生した共振電流の流れが半波整流器によりブロックされているので,スイッチがオンであっても共振回路の自由共振が継続でき,共振回路の電圧を一定値以上に維持することができるものであることは,上記1のとおりである。

したがって,引用発明において,半波整流回路を採用することが,発明の技術的根幹であることは明白であり,審決が,「整流回路を全波整流回路とするか半波整流回路とするかは,当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計的事項である」とした上,「引用発明において,半波整流回路を全波整流回路に改変することにより相違点2に係る本件発明1の構成とすることは,かかる改変に際し格別な技術的困難性が何等認められない以上,当業者にとって容易であり,また,それにより格別な効果が奏されるともいえない。」と判断したことは,明らかに誤りである。

(3)  被告らは,引用発明において,半波整流回路を採用することが発明の技術的根幹であるとの原告の主張が根拠を欠くと主張するが,その理由は,引用例にはEMI対策を必要としない発明が含まれているとする点にあるから,被告らの上記主張が失当であることは明らかである。

3  取消事由3(本件発明2,3についての判断の誤り)

(1)  審決は,本件発明2につき,「本件発明2は,本件発明1に,『少なくとも1つの出力負荷が,少なくとも1つの電気モータからなる』との構成を限定したものである。

しかしながら,上記の限定された構成とすることも,甲第8号証ないし甲第10号証(判決注:本訴甲第8~第10号証)に開示されているように非接触給電システムの分野における周知技術にすぎず,かかる周知技術を採用したことにより格別の効果を奏するとも認められないから,上記『(3),(4)』(判決注:本件発明1と引用発明との対比及び相違点についての判断)での検討内容を踏まえれば,本件発明2も,引用発明及び上記各周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであ(る)」と判断した。

しかしながら,取消事由1及び取消事由2のとおり,審決は,本件発明1と引用発明との一致点の認定及び相違点2についての判断を誤り,本件発明1が引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った判断をしたものであるから,本件発明1を限定した構成から成る本件発明2が,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの判断も当然に誤りである。

(2)  審決は,本件発明3につき,「本件発明3は,本件発明2に,さらに『全波整流手段とスイッチ手段との間にインダクタを直列に接続する』との構成を限定したものである。

しかしながら,甲第5号証ないし甲第7号証(判決注:本訴甲第5~第7号証)に開示されているように,電源回路装置の分野において上記の限定された構成を採用することは周知技術であるといえると共に,かかる周知技術を採用したことにより格別の効果を奏するとも認められないから,上記『(3),(4)』及び『(5)』(判決注:本件発明1と引用発明との対比及び相違点についての判断並びに本件発明2についての判断)での検討内容を踏まえれば,本件発明3は,引用発明及び上記各周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものというべきである。」と判断した。

しかしながら,上記(1)と同様の理由により,本件発明2を限定した構成より成る(したがって,本件発明1を更に限定してなる)本件発明3が,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの判断も当然に誤りである。

第4被告らの反論の要点

1  取消事由1(本件発明1と引用発明との一致点の認定の誤り)に対し

(1)  原告は,引用発明のスイッチング動作は,交流電圧の周期に同期してオン,オフの動作を行う位相制御であって,審決の認定するような分圧電圧と調整基準電圧の比較によりスイッチング動作を行うものではないと主張する。

しかしながら,引用例に「NチャンネルFET96はリード74上の電位がゼロ交差点でのみ電流分路を行うようON操作されるため,生じるEMIは最小となる。半導体スイッチングにより生じるRF騒音のほとんどを濾過排除するため,抵抗器92およびコンデンサ94を任意に設けてもよい。」(訳文9頁34~37行)との記載があるとおり,交流電圧の周期に同期してオン,オフの動作を行うこと,すなわち,交流電圧が正から負に変わるゼロ電圧を検出して,分路用のスイッチ(NチャンネルFET96)をオンし,当該交流電圧が負から正に変わった際に少し遅れて毎回同スイッチをオフするという動作を繰り返すことは,抵抗器92及びコンデンサ94から成るスナッバ・フィルタ手段(訳文7頁3行)と並んでEMI対策手段である。

しかるところ,引用例には「抵抗器92およびコンデンサ94は任意に設置されるものであり,NチャンネルFET96が生成するEMIが潜在的問題と考えられない適用例では,回路から排除されることが好ましい。」(訳文7頁6~8行)との記載があり,抵抗器92及びコンデンサ94(スナッバ・フィルタ手段)が取捨任意であることが示されている。そうすると,ゼロ電圧検出手段も,スナッバ・フィルタ手段と同様,EMI対策手段である以上,EMIが潜在的問題とは考えられない適用例では除去することができるものであり,除去した場合のスイッチのオン,オフ切換操作は,比較器による制御手段のみにより,分圧電圧と調整電圧の比較結果に基づいて行われることになるものである。

すなわち,引用例には,EMI対策を必須とせず,ゼロ電圧検出手段を除いて,分圧電圧と調整電圧の比較結果に基づいてスイッチのオン,オフ切換操作を行う発明が実質的に記載されているといえるのであり,審決は,かかる発明を引用発明として認定したものである。

なお,引用例の特許請求の範囲には,請求項5(訳文10頁26~27行)に,スイッチをオンにするタイミングを「整流電流がほぼゼロ電圧レベルにある時」に限定し,ゼロ電圧検出手段を特定した発明が記載されているが,請求項1(訳文10頁4~16行)及び請求項11(訳文11頁8~20行)に記載された発明は,ゼロ電圧検出手段を特定しないものである。

したがって,引用例がEMI対策を必要としない発明を含むことは,特許請求の範囲の記載からも明らかである。

(2)  また,原告は,引用発明が,共振回路の電圧・電流を一定に維持することによって負荷電圧を一定にすることを主要な技術課題とするとも主張する。

しかしながら,引用発明は,ピックアップ回路出力上の直流電圧を所定レベルに維持することを目的とするものであるところ,引用例でいう「ピックアップ回路」には,ピックアップ回路結合の交流電流を整流し,生成された直流電流の濾波を行って,直流電圧を生成する手段が含まれるものである。したがって,引用発明におけるピックアップ回路出力上の電圧とは,負荷への供給電圧のことである(ゆえに直流電圧である。)。原告の上記主張は,このピックアップ回路出力上の電圧が,あたかも共振回路の電圧(交流電圧)のことであるかのようにいうものであるが,引用例には,共振回路の電圧・電流を一定に維持することに係る記載,示唆は全くない。

(3)  以上のとおり,審決の引用発明の認定に誤りはなく,これを前提とする本件発明1と引用発明の一致点の認定にも誤りはない。

2  取消事由2(本件発明1と引用発明との相違点2についての判断の誤り)に対し

原告は,引用発明において,半波整流回路を採用することが発明の技術的根幹であるとして,本件発明1と引用発明との相違点2につき「整流回路を全波整流回路とするか半波整流回路とするかは,当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計的事項である」とした上,「引用発明において,半波整流回路を全波整流回路に改変することにより相違点2に係る本件発明1の構成とすること」が,当業者にとって容易であり,それにより格別な効果が奏されるものでもないとした審決の判断が誤りであると主張する。

しかしながら,原告主張の根拠は,引用発明が,共振回路の電圧・電流を一定に維持することと,EMIの発生を回避することの両者を技術課題とし,その解決のため,共振回路から負荷側に電流が流れない,共振交流電圧の負の半波期間に分路用のスイッチをオンするものであるという点にあるところ,引用発明が共振回路の電圧・電流を一定に維持することを技術課題とするとの主張が誤りであること,引用例にはEMI対策を必要としない発明(引用発明)が含まれていることは,上記1のとおりであるから,引用発明において,半波整流回路を採用することが発明の技術的根幹であるとの主張が根拠を欠くことは明らかであり,これを前提として,審決の相違点2についての判断が誤りであるとする主張は失当である。

3  取消事由3(本件発明2,3についての判断の誤り)に対し

本件発明2,3が引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとする審決の判断が誤りであるとする原告の主張は,取消事由1,2に係る,本件発明1と引用発明との一致点の認定及び相違点2についての審決の判断が誤りであることを前提とするものであるが,審決の当該認定判断に誤りがないことは上記1,2のとおりであるから,本件発明2,3についての原告の主張は失当である。

第5当裁判所の判断

1  取消事由1(本件発明1と引用発明との一致点の認定の誤り)について

(1)  原告は,審決がした引用発明の認定のうち,引用発明が,遠隔配置負荷に「前記NチャンネルFET96をコンデンサ118の電圧を分圧した分圧電圧と調整基準電圧との比較結果に応じてON-OFF切替操作させ,前記分圧電圧が前記調整基準電圧より大きい場合にNチャンネルFET96をON操作して半波整流回路の出力電流を分路することによりコンデンサ118の電圧を所定レベルに調整する手段を設けた」誘導的に結合される給電システムであるとした部分は誤りであるとし,このことを前提として,審決の本件発明1と引用発明との一致点の認定のうち,「前記スイッチ手段を負荷変動に反応して制御し,前記負荷電力が前記ピックアップコイルから出力できる最大電力の時には,前記ピックアップ手段に循環する循環電流を共振状態での電流として前記一次導電路から前記ピックアップ手段へ電力を転送し,前記出力負荷が軽負荷時には,スイッチング動作を制御することによって前記スイッチ手段を実質的に短絡状態にして,前記ピックアップ手段の循環電流を前記共振状態より小として前記一次導電路から前記ピックアップ手段へ転送する電力を減少または実質的に零とすることによって,軽負荷被電力供給体の前記一次導電路に帰還するインピーダンスが同一一次導電路上の他の被電力供給体への電力の流れを制限することがないようにする制御手段を設けた誘導電力分配システム。」との点で一致するとした部分が誤りであると主張する。

すなわち,原告は,引用発明のスイッチング動作は,交流電圧の周期に同期してオン,オフの動作を行う(交流電圧が正から負に変わった時に毎回分路用のスイッチ(NチャンネルFET96)をオンし,当該交流電圧が負から正に変わるのに少し遅れて毎回同スイッチをオフする)位相制御であって,分圧電圧と調整基準電圧の比較によりスイッチング動作を行うものではないと主張するものであり,当該主張の根拠は,引用発明は,一次導電路とピックアップコイルとの誘導結合の変化等によって共振回路の電圧が変化する場合においても,共振回路の電圧・電流を一定に維持することによって負荷電圧を一定にすることを主要な技術課題とし,併せて,電流が流れている時にスイッチングを行うことによって生じるEMIを回避することをも技術課題とするものであるという点にある。

そこで,以下,引用例の記載事項について検討した上,審決の上記引用発明の認定及び本件発明1と引用発明との一致点の認定のうちの上記部分の当否につき検討する。

(2)  引用例の記載事項

ア 引用例には,「発明の技術分野」及び「発明の背景」として,以下の記載がある。

(ア) 「(発明の技術分野) 本発明は,一般に給電線に誘導結合された複数の負荷への配電システムに関し,より詳細には分散負荷の調整器に関する。」(訳文2頁3~5頁)

(イ) 「(発明の背景) 航空機を発注する航空会社は,製造業者に対し,乗客座席配置を含む多くのデザインオプションを指定することが多い。異なる座席配置,座席間スペースの提供で生じる製造および在庫コストが重大な問題となり,特に各乗客に新しい個人的娯楽とサービス設備を提供する次世代航空機において重要となる。デザイナは,このような航空機の各座席背面に娯楽システムと乗客サービスシステムを設置する計画をたてている。その結果,航空会社が指定するかもしれない各座席では,座席への電力供給のため,異なる長さの電力リードハーネスが要求されることが一般的となる。また,従来技術を使用して各座席に電力供給を行った場合,その関連でコストおよび重量の面で不都合な点が生じ,ほとんどの旅客機では受け入れられない可能性がある。

共通譲受米国特許第4428078号(C.Kuo)に,各座席を電源に有線接続するものに代わるものが開示されている。この特許では,航空機キャビン全体の座席背面に配置される複数の多重巻ピックアップコイルに対して電力を供給する,所謂『無線システム』が開示されている。より正確に記すれば,この技術は,『非接触』給電システムである。なぜなら,電力が,航空機キャビン全体の座席ベースに配置される給電ループから,直接電気接続を使うことなく,ピックアップコイルに誘導結合されるからである。この電力を使い,座席設置の乗客娯楽およびサービスシステムが操作される。この無線システムにより,座席は,個々の航空機が要求するような異なる配列においても移動が可能とされ,その際長さの異なる相互接続配線ハーネスを提供する心配もない。この特許で開示されていないのは,給電線に誘導結合される各分配負荷における電圧調整の詳細である。

上記特許記載の非接触給電システムは更に開発が行われ,現在では,直列共振給電線を駆動する正確に制御された定電流源が含まれる。ピックアップコイルの相互インダクタンスが,給電線内で直列に現れるため,定電流源は,相互インダクタンスおよび負荷が一定である限りにおいてのみ,ピックアップコイル出力での電圧を一定に保持することができる。一方,相互インダクタンスは,給電線とピックアップコイル間の距離に反比例しており,その距離も大幅に変動する可能性がある。更に,娯楽・乗客サービスシステムにより各ピックアップコイルに加えられる電気負荷も,比較的広範囲に変動することもありえる。これら可変パラメータが存在することから,各ピックアップコイルの負荷を横断して電圧を一定に保持するため,該コイル用に調整器を設置する必要がある。

直列通過や分路調整器等の従来の調整器では,容認しがたい電磁干渉(EMI)が起こり,また定電流源が破壊される可能性がある。更に,従来の調整器は,過度な電力量が消費され,一般に部品数も多く,コスト要素も受け入れがたいため,非効率となる傾向がある。

上述の問題に鑑み,本発明の目的は,非接触給電システムの各負荷用に,低コストの調整器を提供することである。本発明の他の目的および利点は,添付図面と好適実施例の説明から明らかになる。」(訳文2頁6~末行)

上記各記載によれば,まず,引用発明は,給電線に誘導結合された複数の負荷への配電システム,特に分散負荷の調整器に関する技術分野に属する発明であり,引用発明の適用対象として,「発明の背景」欄には,航空機キャビンの給電システムに関する記載があるが,「発明の技術分野」欄の記載や,後述の特許請求の範囲の記載などに照らすと,当該技術分野の発明に係る代表的な実施例として航空機キャビンの給電システムが取り上げられたものであり,引用発明の適用対象が上記航空機の分野に限定されるものでないことは明らかである。

次に,上記「発明の背景」欄においては,航空機キャビンの給電システムの技術的発展段階に関し,時系列的にKuo発明前,Kuo発明,Kuo発明後の3段階に分け,①Kuo発明前においては,異なる座席配置,座席間スペースで設置された座席への電力供給のため,異なる長さの電力リードハーネスが必要とされたが,コスト及び重量の点で不都合が生じたこと,②Kuo発明は,リードハーネスによる接続(有線接続)に代わり,電力が給電ループから,ピックアップコイルに誘導結合される「非接触」給電システムの技術を開示したものであったが,給電線に誘導結合される各分配負荷における電圧調整の詳細に関する開示がなかったこと,③Kuo発明後の更に開発の進められた非接触給電システムにおいては,正確に制御された定電流源により給電線を駆動するものであるが,相互インダクタンス及び負荷の変動により「ピックアップコイル出力での電圧」(この文言の意義については後に改めて検討する。)が変動することを防ぎ,当該出力電圧を一定に保持するためには,調整器を設置する必要があるところ,直列通過や分路調整器等の従来の調整器では,EMIの発生,定電流源の破壊並びに消費電力,部品数の多さ及びコストの面での非効率という課題があったことを指摘した上,引用発明の目的は,「非接触給電システムの各負荷用に,低コストの調整器を提供すること」であるとしている。

すなわち,引用例は,Kuo発明後の非接触給電システムにおける,従来の調整器に係る問題点として挙げた上記の各点のうち,直接的には,コスト面での非効率性の改善を引用発明の目的としていると解される。もっとも,上記のとおり,引用例には,これと並んで,EMIの発生や定電流源の破壊等が従来の調整器に係る問題点として摘示されており,また,「本発明の他の目的および利点は,添付図面と好適実施例の説明から明らかになる」との記載があって,現に後述のとおり,「好適実施例の説明」には,引用発明におけるEMI発生の防止の効果についての記載もあるが,少なくとも,上記摘記に係る記載からは,EMI対策が引用発明の目的ないし必須の課題であることまでは読み取ることができない。

因みに,原告は,引用例の上記記載に係る「定電流源の破壊」がEMIを原因として引き起こされるかのような主張をするが,引用例には,「定電流源の破壊」の原因がEMIであることを窺わせるような記載はなく,また,「定電流源の破壊」は,例えば,過度の帰還インピーダンスの発生を原因として起こることなども考え得るところであって,技術常識上,EMI以外の原因は想定し得ないとすることもできないから,この点についての原告の主張は失当である。

イ 引用例には,「発明の要約」及び「好適実施例の説明」として,以下の記載がある。

(ア) 「(発明の要約) ピックアップ回路に共振的かつ誘導的に結合される交流信号を生成する電源を有する給電システムにおいて,ピックアップ回路出力上の直流電圧を所定レベルに調整する装置が提供される。この装置には,次の手段が含まれる。ピックアップ回路出力に接続され,所定レベルよりかなり低い調整基準電圧を生成する手段。ピックアップ回路出力に接続され,直流電圧関数として変化し,直流電圧より低い比較電圧を生成するよう動作する分圧器手段。調整基準電圧と比較電圧間の差関数として変化する信号を生成する比較器手段。比較器手段からの信号を受信するよう接続され,ピックアップ回路を通って流れる電流が,その回路内で循環し,信号関数として変化する期間は出力されないよう電流を分路させる分路手段。

分圧器手段は,可変分圧器ネットワークを備え,また比較電圧を調整し,それによりピックアップ回路出力上の直流電圧レベルを判定する手段を含む。更に,ピックアップ回路には,ピックアップ回路結合の交流信号を整流し,それにより整流電流を生成する手段と整流電流の濾波を行い,直流電圧を生成する手段が含まれる。

分路手段は,比較器手段からの信号で判定される期間,整流電流のショートを行うよう接続される半導体スイッチを備えることが好ましい。交流信号は,ゼロ電圧レベルを通過し,ピーク正・負電圧レベル間で定期的に変化し,半導体スイッチで整流信号がショートする期間は,一般に,交流信号がゼロ電圧レベルにあるとき開始される。半導体スイッチにより,ほぼゼロ電圧レベルで状態が変化するため,そのスイッチングで,電磁干渉はほとんど起こらない。調整基準電圧の生成手段には,半導体電圧調整器が備えられる。

本発明の更なる態様によれば,ピックアップ回路出力上で,直流電圧を調整する方法が提供される。この方法には,上記装置の機能に従い一般的に実施される工程が含まれる。」(訳文3頁1~21行)

(イ) 「(好適実施例の説明) 上述のように,航空機座席内設置の負荷に対して,電力と通信信号を分配するシステムが,共通譲受米国特許第4428078号に詳細に開示されている。この特許に関して,ここで参照という形でその開示内容全体を具体的に記載する。本発明は,前記参照の配電システムを更に発展させたものである。好適実施例では,本発明は,複数の遠隔配置負荷,具体的には航空機キャビン内の乗客座席グループ内に設置の乗客娯楽・サービスシステムのそれぞれの貯蔵部分に加えられる電圧の調整提供を対象とする。乗客娯楽・サービスシステムが要する直流電力は,多重巻ピックアップコイルを通して提供される。このコイルは,前記参照特許で開示されるように,給電線に近接して,各座席グループの基部に配置される。

図1において,本発明による誘導結合配電システム10が示されている。この配電システムの第1構成要素は,この好適実施例において,周波数38kHzの正弦波信号を生成する正弦波発振器12である。正弦波発振器12は,その出力上に高調波が生成されるのを避けるため,比較的低い歪み率を有する。出力に高調波があると,航空機の通信システムの動作や他の航空電子機器に対し,電磁干渉(EMI)を起こす原因となる可能性がある。配電システムでは,方形波発生器や他の周期信号源等が使用できるが,非正弦波波形に高調波が含まれると,結果的にEMIが生じ,本適用では通常容認できるものではない。」(訳文3頁27行~4頁2行)

(ウ) 「抵抗器92およびコンデンサ94は,スナッバ・フィルタとして調整器回路内で使用される。このスナッバ・フィルタにより,NチャンネルFET96が導電状態と非導電状態間でスイッチングされる時に生成される無線周波数(RF)騒音が,ピックアップコイル70から給電線68内に伝播返却されることはない。実際には,抵抗器92およびコンデンサ94は任意に設置されるものであり,NチャンネルFET96が生成するEMIが潜在的問題と考えられない適用例では,回路から排除されることが好ましい。しかし,航空機での使用では,調整器回路内でのEMIを減少させるため,適切なあらゆる予防措置が通常取られる。これは,航空電子システム内で使用される通信機器および他の高感度電子装置の破壊を避けるためである。」(訳文7頁3~11行)

(エ) 「・・・調整器回路72では,出力端子128,130を横断する電圧が調整される。この電圧調整は,リード74上での38kHz正弦波交流電位の各周期中の短期間,NチャンネルFET96を通る電流を分路することにより行われる。NチャンネルFETが電流分路を開始するのは,リード74上の電位がゼロ交差を通過し,波形の正側から負側に進む時のみである。NチャンネルFET96が電流を分路する期間は,出力を所望の公称レベルに維持するよう制御される。」(訳文7頁18~23行)

(オ) 「NチャンネルFET96による各周期毎の電流分路が長いほど,調整器回路72の直流出力電圧が低くなることは明らかである。」(訳文7頁36~37行)

(カ) 「NチャンネルFET96が電流分路の役割を果たす時間は,電圧調整器138生成の電圧に対して制御される。好適実施例では,電圧調整器138の出力は5V直流であるため,固定抵抗器120,122および可変抵抗器124を備える電圧分圧器ネットワークの構成要素は,所望の公称8V直流(または,他の適当な)出力電圧が出力端子128,130を横断し現れる時,リード132上に公称5V直流を生成するよう選択および調整される。可変抵抗器124により,比較的広範な範囲内,例えば,6~12V直流で,出力端子128,130上での調整電圧の調整が可能となる。これは,調整電圧がリード132上の電圧分圧器ネットワーク出力電圧に対し,制御されるからである。

オペアンプ134は,リード132上で発生の電圧と,リード142上の電圧調整器138からの電圧出力との比較を行う。リード132接続のオペアンプ反転入力上の電位がリード142接続の非反転入力上の電圧より低い場合,オペアンプ134は,正の出力電圧を生成する。オペアンプ134のフィードバック・ネットワークは,比較的高い値のフィードバック抵抗器146(好適実施例では,1メガオーム)を備え,その入力インピーダンスがはるかに低いため,オペアンプ134のゲインが,比較的高くなる。その出力電圧は,オペアンプの反転入力電位が非反転入力電位よりわずかに低い時でも,+Vccに近くなる。オペアンプ134からの正出力電圧は,抵抗器156が電流を制限し,リード110を通ってトランジスタ108のベースに加えられる。トランジスタ108のベースは,リード76を通して接地されるエミッタより正側であるため,トランジスタ108は飽和する。トランジスタ108が飽和すると,トランジスタ108のエミッタおよびNチャンネルFET96のゲートに接続されるリード106上の電位が,約ゼロ,または接地まで降下する。NチャンネルFET96のゲートがトランジスタ108を通って接地されると,それは『OFF状態』に維持され,リード86からリード76への正電流の流れがブロックされる。

出力端子128上の電圧が所望の公称レベルを超えて上昇すると,出力端子128上の電圧から派生するリード132の電圧も,リード142上の電圧調整器138からの電圧出力を超えて上昇する。その結果,オペアンプ134がほぼゼロの出力電圧レベルを有することになる。リード74上の正弦波交流電位がゼロポイントを通り正から負に横切ると,トランジスタ108ベースの電位が接地に対して負となり,その結果トランジスタ108が『OFF操作』される。つまり,そのコレクタとエミッタ接合間での電流フローが停止する。リード106は抵抗器104を通してリード102上の+V電位に接続されるため,NチャンネルFET96が『ON操作』され,それによりリード86からリード76に正電流が分路され,出力端子128での直流電圧が減少する。出力端子128,130横断の電圧は所望のレベルに降下し,その結果,オペアンプ134反転入力に接続されるリード132上の電位が,電圧調整器138からの電位より低くなる。このような状態が起こると,オペアンプ134は,直ちに正電圧生成を開始する。この正電圧はトランジスタ108のベースに加えられ,やがて抵抗器114を通って提供される負電圧を超えることになる。抵抗器114の抵抗は,抵抗器156のおよそ5倍に設定される。よって,リード74上の正弦波交流電位がほとんど負の部分の期間でも,オペアンプ134からの正電流フローはトランジスタ108ベース上の電位を正に駆動することになる。

NチャンネルFET96がリード86からリード76に正電流を伝えるのは,リード74上の正弦波波形が負から正に進む時,つまり周期毎に一回のみであるのは明らかであろう。リード74上の正弦波波形の正半分側の期間では,遅延t3後トランジスタ108がON操作される。この操作は,抵抗器114を通しトランジスタベースに伝えられるリード74上の電位,または抵抗器156を通りベースに達するオペアンプ134からの出力のどちらかにより行われる。オペアンプ134が正出力を生成していない時,抵抗器114,156はリード74上に存在する正電位用に電圧分圧器回路として動作する。これにより,トランジスタ108ベースがエミッタに対して正となることが保証される。このような状態により,トランジスタ108は前述のように導電となり,それによりNチャンネルFET96がリード86からリード76への正電流フローを阻止することになる。

ダイオード100は,NチャンネルFETのドレイン上に現れる可能性がある負電流スパイクからNチャンネルFET96およびトランジスタ108を保護し,また騒音スパイクがトランジスタ108をON操作することを防ぐ。コンデンサ112では正変化を記憶することにより,トランジスタ108のOFF操作に少し遅延が与えられる。これによりリード74上の電位がゼロポイントを通過し終えるまで,トランジスタがOFFとならないことが保証される。またコンデンサ112では,遅延t5(図3参照)も与えられる。

オペアンプ134のフィードバック・ネットワーク内コンデンサ150では,オペアンプの出力が統合され,抵抗器144と共に,オペアンプからの出力信号に進み位相シフトがわずかに与えられる。これにより整調器回路72による電圧調整の安定性が向上する。ダイオード154はリード148上に現れる可能性がある逆電位信号に対して電解コンデンサ150を保護する。

調整器回路72は,給電線68とピックアップコイル70間の誘導結合および出力端子128,130に接続されている負荷の両方に関して,比較的広範囲の調整を行う。NチャンネルFET96による分路作用は,負荷に加えられる出力電圧を調整するよう,各波形の一部期間のみ行われ,過度の電流分路による電力消費は起こらない。更に,調整器回路72は,前記のように,過度の負荷電流が引き込まれると短絡により出力電圧が降下するため,短絡保護される。NチャンネルFET96はリード74上の電位がゼロ交差点でのみ電流分路を行うようON操作されるため,生じるEMIは最小となる。半導体スイッチングにより生じるRF騒音のほとんどを濾過排除するため,抵抗器92およびコンデンサ94を任意に設けてもよい。」(訳文8頁10行~9頁37行)

上記各記載のうち,まず,「好適実施例」について見るに,(イ)~(カ)の各記載及び第1~第3図によれば,当該実施例は,「航空機キャビン内の乗客座席グループ内に設置の乗客娯楽・サービスシステムのそれぞれの貯蔵部分に加えられる電圧の調整提供を対象とする」(上記(イ))ものであり,その調整器回路72が調整する電圧は,「出力端子128,130を横断する電圧」(上記(エ)),すなわち,当該調整器回路72の出力電圧である。

そして,当該電圧調整は,「NチャンネルFET96を通る電流を分路することにより行われる」ものであり(上記(エ)),具体的には,固定抵抗器120,122及び可変抵抗器124を備える電圧分圧器ネットワークが,出力端子128,130間の出力電圧(調整器回路72の出力電圧)が所望値(所定値。例えば8V)であるときに,電圧調整器138の出力電圧(当該実施例では5V)と同一の5V直流をリード132上に生成するように調整した上で,オペアンプ134が,上記出力電圧の分圧電圧である「リード132上で発生の電圧」と「リード142上の電圧調整器138からの電圧出力」とを比較し,分圧電圧が電圧調整器からの出力電圧よりも低い場合(電圧分圧器ネットワークによる上記調整の結果に基づくものであり,「調整器回路72の出力電圧が所定値よりも低い場合」を意味する。)には,オペアンプ134はNチャンネルFET96をOFF状態として電流の分路を行わず,出力電圧の分圧電圧が電圧調整器からの出力電圧を超えて上昇した場合(同様に,「調整器回路72の出力電圧が所定値を超えて上昇した場合」を意味する。)には,オペアンプ134がNチャンネルFET96をON状態として電流の分路を行い,それにより,調整器回路72の出力電圧を低下させる(上記(カ))というものである。

なお,当該実施例は,上記のとおり,航空機キャビンへの給電に係る電圧調整を想定したものであるから,航空機の通信システム,その他の航空電子機器の動作に影響を及ぼすEMIの発生が容認できない例に関するものである(上記(イ))。そして,EMIの発生を防止するために,当該実施例においては,①給電側(一次側)の発振器として,出力上にEMIを起こす原因となる可能性がある高調波が生成されることを避けるため,比較的低い歪み率を有する「正弦波発振器」を用い(上記(イ)),②調整器回路内で抵抗器92及びコンデンサ94から成る「スナッバ・フィルタ」を使用して,NチャンネルFET96のスイッチング時に生成される無線周波数(RF)騒音が,ピックアップコイル70から給電線68内に伝播返却されることを防ぐ手段を講じている(上記(ウ))ほか,③出力電圧の分圧電圧(リード132上で発生する電圧)が電圧調整器からの出力電圧を超えた場合に,オペアンプ134がNチャンネルFET96をON状態とするタイミングを,リード74(すなわち共振回路)上の正弦波交流電位が正から負に変わるゼロポイント時とし,リード74上の正弦波交流電位が再び負からゼロポイントを通過して正に変わるのにやや遅れてNチャンネルFET96をOFF状態として,出力電圧の分圧電圧が電圧調整器からの出力電圧(すなわち,調整器回路72の出力電圧)が所定値に下がるまで,このスイッチング動作を継続するものとし,その結果,NチャンネルFET96はリード74上の電位がゼロ交差点でのみ電流分路を行うようON操作されるため,生じるEMIは最小となるものである(上記(エ)~(カ))ことが認められる。

また,上記(ア)の「発明の要約」には,おおむね「好適実施例」に沿って,当該発明が「ピックアップ回路に共振的かつ誘導的に結合される交流信号を生成する電源を有する給電システムにおいて,ピックアップ回路出力上の直流電圧を所定レベルに調整する装置」であること,当該装置が,調整基準電圧生成手段(上記実施例の電圧調整器138),比較電圧(同分圧電圧)生成手段,比較器手段(同オペアンプ134),半導体スイッチを備えることが好ましい分路手段(同NチャンネルFET96を通る分路)などを含むものであることなどが記載されているほか,「半導体スイッチで整流信号がショートする期間は,一般に,交流信号がゼロ電圧レベルにあるとき開始される。半導体スイッチにより,ほぼゼロ電圧レベルで状態が変化するため,そのスイッチングで,電磁干渉はほとんど起こらない。」との記載がある。

ウ 引用例の特許請求の範囲の請求項1,3~5,11の記載は以下のとおりである。

(ア) 請求項1(訳文10頁4~16行)

「ピックアップ回路に共振的および誘導的に結合される交流信号を生成する電源を有する給電システムにおいて,前記ピックアップ回路出力上で直流電圧を所定レベルに調整する装置であり,

(a) 前記ピックアップ回路出力に接続され,前記所定レベルよりかなり低い調整基準電圧を生成する手段と;

(b) 前記ピックアップ回路出力に接続され,前記ピックアップ回路からの直流電圧出力関数として変化し,前記直流電圧より低い比較電圧を生成する分圧器手段と;

(c) 前記基準電圧と前記比較電圧間の差関数として変化する信号を生成する比較器手段と;

(d) 前記比較器手段からの信号を受信するよう接続され,前記信号の関数として交流信号の周波数程でしかない低い周波数で変化する期間,電流が前記ピックアップ回路内で循環し,出力されないように,前記ピックアップ回路を流れる電流を周期的に分路する手段とを備えることを特徴とする装置。」

(イ) 請求項3(訳文10頁20~22行)

「前記ピックアップ回路が前記ピックアップ回路接続の交流信号を整流し,それにより整流電流を生成する手段と,前記整流電流を濾波し,それにより直流電圧を生成する手段とを含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。」

(ウ) 請求項4(訳文10頁23~25行)

「前記分路手段が前記比較器手段からの信号で判定される期間,前記整流電流をショートさせるよう接続される半導体スイッチを備えることを特徴とする請求項3に記載の装置。」

(エ) 請求項5(訳文10頁26~27行)

「前記半導体スイッチが前記整流電流をショートさせる期間は,前記整流電流がほぼゼロ電圧レベルにある時に開始することを特徴とする請求項4に記載の装置。」

(オ) 請求項11(訳文11頁8~20行)

「ピックアップ回路に共振的および誘導的に結合される交流信号を生成する電源を有する給電システムにおいて,前記ピックアップ回路出力上で,直流電圧を所定レベルに調整する装置であり,

(a) 前記ピックアップ回路出力に接続され,前記所定レベルよりかなり低い調整基準電圧を生成する手段と;

(b) 前記ピックアップ回路からの直流電圧出力の関数として変化し,前記直流電圧より低い比較電圧を生成し,前記比較電圧を調整し,前記ピックアップ回路出力上の直流電圧レベルを判定する手段を含む,可変電圧分圧器ネットワークと;

(c) 前記調整基準電圧と前記比較電圧間の差関数として変化する信号を生成する比較器手段と;

(d) 前記比較器手段からの信号を受信するよう接続され,前記信号の関数として変化する期間,電流が前記ピックアップ回路内で循環して出力されないように,前記ピックアップ回路を流れる電流を分路する手段とを備えることを特徴とする装置。」

(3)  引用例の上記各記載及び第1~第3図によれば,まず,引用発明は,交流電流を生成する共振回路のほか,交流電流を整流して直流電流を生成する手段を含む「ピックアップ回路」の出力上で,直流電圧を所定レベルに調整維持することを目的とするものであることが認められる。なお,上記「発明の背景」の記載中には「ピックアップコイル出力での電圧」という文言があるが,引用例の他の部分(請求項11,「発明の要約」,「好適実施例」)の記載及び第2図の図示に照らし,引用発明が上記ピックアップ回路出力上の直流電圧を所定レベルに調整することを目的とするものであることは明らかであり,引用例には,共振回路の電圧・電流を一定に維持する旨の記載は見当たらない。

次に,引用例の「発明の要約」,「好適実施例」及び請求項11の各記載によれば,引用例には,当該引用発明である調整器回路の出力電圧の分圧電圧(リード132上で発生する電圧)と電圧調整器からの電圧出力とを比較し,当該分圧電圧が電圧調整器からの出力電圧を超えた場合に,NチャンネルFET96をON状態として電流の分路を行う発明,すなわち,分圧電圧と調整基準電圧との比較によりスイッチング動作を行う発明が記載されていることが認められる。

もっとも,「好適実施例」は,EMIの発生が容認できない例である航空機キャビンへの給電に係る電圧調整を想定したものであるから,給電側(一次側)の発振器として「正弦波発振器」を用いること,及び調整器回路内で抵抗器92及びコンデンサ94から成る「スナッバ・フィルタ」を使用することと並んで,EMI対策の一環として,出力電圧の分圧電圧が電圧調整器からの出力電圧を超えた場合のNチャンネルFET96のスイッチング動作を,共振回路上の正弦波交流電位が正から負に変わるゼロポイント時にONにするものである。

しかしながら,引用例において,航空機キャビンの給電システムは,当該技術分野の発明に係る代表的な実施例として取り上げられたものであり,引用発明がこれに限定されるものではないこと,引用例は,Kuo発明後の非接触給電システムにおける,従来の調整器に係る問題点として挙げた各点のうち,直接的にはコスト面での非効率性の改善を引用発明の目的としているものと解されることは,上記(2)のアのとおりである。また,上記(2)のイの引用例の「好適実施例の説明」の記載中には,EMI対策として採用された給電側の「正弦波発振器」の使用に関して,「配電システムでは,方形波発生器や他の周期信号源等が使用できるが,非正弦波波形に高調波が含まれると,結果的にEMIが生じ,本適用では通常容認できるものではない。」(上記(2)のイの(イ))との記載があって,「本適用」以外の,EMIが問題とならない「配電システム」では,方形波発生器や他の周期信号源等が使用できることが示唆されていること,同様に,EMI対策として採用された「スナッバ・フィルタ」に関しても,「抵抗器92およびコンデンサ94は任意に設置されるものであり,NチャンネルFET96が生成するEMIが潜在的問題と考えられない適用例では,回路から排除されることが好ましい。しかし,航空機での使用では,調整器回路内でのEMIを減少させるため,適切なあらゆる予防措置が通常取られる。」(同(ウ))との記載があり,抵抗器92及びコンデンサ94(スナッバ・フィルタ)は,「調整器回路内でのEMIを減少させるため,適切なあらゆる予防措置」が採られる「航空機での使用」であるからこそ組み込まれているものであって,EMIが問題とならない「適用例」では必要とはされないことが示されている。そうであれば,これらと同じEMI対策として採用された,NチャンネルFET96のスイッチング動作を,共振回路上の正弦波交流電位が正から負に変わるゼロポイント時にONにすることも,EMI対策が要求されない実施の形態では必要がないことは明らかであり,引用例の上記記載からは,このようなスイッチング動作を交流電圧の周期に係らしめない発明も,十分に読み取ることができるものというべきである。

そして,NチャンネルFET96のスイッチングを交流電圧の周期に係らしめない発明においては,そのスイッチング動作は,出力電圧の分圧電圧(リード132上で発生する電圧)と電圧調整器からの電圧出力とを比較し,当該分圧電圧が電圧調整器からの出力電圧を超えた場合に,NチャンネルFET96をON状態として電流の分路を行うだけのものとなるから,かかる発明は,審決が,引用発明について認定した,遠隔配置負荷に「前記NチャンネルFET96をコンデンサ118の電圧を分圧した分圧電圧と調整基準電圧との比較結果に応じてON-OFF切替操作させ,前記分圧電圧が前記調整基準電圧より大きい場合にNチャンネルFET96をON操作して半波整流回路の出力電流を分路することによりコンデンサ118の電圧を所定レベルに調整する手段を設けた」ものに他ならない。

そして,審決は,引用例の記載から,スイッチング動作を交流電圧の周期に係らしめない上記のような発明を引用発明として認定したものと解されるから,審決の引用発明の認定に誤りはない。

(4)  本件発明に係る明細書(甲第15号証)には,「・・・図14に示すように,ピックアップコイル(14111)に,このピックアップコイル(14111)を(ピックアップ)共振周波数に同調させるコイル同調コンデンサ(14112)が接続され,このコイル同調コンデンサ(14112)は,図12に示すように全波整流器からなる整流器(14114)に接続され,この整流器(14114)の出力側にインダクタ(14121)が接続され,また出力負荷(14116)と並列に出力コンデンサ(14115)が接続され,前記インダクタ(14121)と出力コンデンサ(14115)との間にダイオード(14122)が接続され,さらにインダクタ(14121)とダイオード(14122)との間で,同調コンデンサ(14112)と並列にスイッチ(14113)が設けられている。

上記コイル同調コンデンサ(14112)の電圧は整流器(14114)により整流され,インダクタ(14121)とダイオード(14122)とによりフィルタがかけられてdc電圧を発生する。コンパレータ(14117)はこのdc電圧を監視し基準電圧(14118)と比較し,もし負荷電力がピックアップコイル(14111)から出力できる最大電力より小さいときは出力コンデンサ(14115)電圧が増加する。これによりコンパレータ(14117)にスイッチ(14113)を投入せしめて有効にピックアップコイル(14111)を短絡する。ダイオード(14122)によりdc出力コンデンサの短絡を防止する。この作用の結果,ピックアップコイル(14111)から転送した電力は実質的にはゼロである。・・・」(段落【0047】~【0048】),「かくして,図12の回路は・・・ピックアップコイル内の共振電流を上限以下に維持する。・・・」(段落【0051】),「【発明の効果】以上述べたように本発明によれば,一次導電路と結合して使用する車両が複数の場合において,車両の出力負荷が軽負荷時には,ピックアップ手段に循環する循環電流を共振状態より小として一次導電路からピックアップ手段へ転送される電力を減少または実質的に零とすることにより,出力負荷の要求する出力電力が通常負荷から軽負荷に亘って変化し,その結果,電力需要もまた広く変化することにより1次導電路に帰還させられるインピーダンスの広い変化をもたらす軽負荷の車両により他の車両に電力が届くのを妨げるという事態を回避できる。」(段落【0087】)との各記載があり,これらの記載と本件発明1の要旨とによれば,本件発明1は,出力負荷が軽負荷時には,スイッチング動作を制御してスイッチ手段を実質的に短絡状態(ON状態)にすることにより,ピックアップ手段の循環電流を共振状態より小として,一次導電路からピックアップ手段へ転送する電力を減少又は実質的に零とし,軽負荷車両の一次導電路に帰還するインピーダンスが同一一次導電路上の他の車両への電力の流れを制限することがないようにするものであると認められる。

他方,引用例の「発明の背景」に係る「定電流源は,相互インダクタンスおよび負荷が一定である限りにおいてのみ,ピックアップコイル出力での電圧を一定に保持することができる。」(上記(2)のアの(イ))との記載によれば,引用発明において,負荷が変動すれば,ピックアップ回路出力上の直流電圧(上記「ピックアップコイル出力での電圧」との文言をピックアップ回路出力上の直流電圧の趣旨と解すべきことは前述したとおりである。)が変動することが認められるところ,負荷が小さくなり,その消費電力が減少すれば,ピックアップ回路から(すなわち調整器回路72から)取り出す電流が減る結果,出力電圧が上昇することは技術常識上明らかである。そして,引用発明は,上記のとおり,遠隔配置負荷にNチャンネルFET96をコンデンサ118の電圧を分圧した分圧電圧と調整基準電圧との比較結果に応じてON-OFF切替操作させ,前記分圧電圧が前記調整基準電圧より大きい場合(すなわち,負荷が小さくなり,ピックアップ回路(調整器回路72)の出力電圧が上昇した場合)にNチャンネルFET96をON操作する(実質的に短絡状態にする)ものであるから,これにより,本件発明1と同様,ピックアップ手段の循環電流を共振状態より小として,一次導電路からピックアップ手段へ転送する電力を減少又は実質的に零とすることにより,軽負荷被電力供給体の一次導電路に帰還するインピーダンスが同一一次導電路上の他の被電力供給体への電力の流れを制限することがないようになるものと認められる。

そうすると,本件発明1と引用発明とは,「出力負荷が軽負荷時には,スイッチング動作を制御することによってスイッチ手段を実質的に短絡状態にして,ピックアップ手段の循環電流を共振状態より小として一次導電路から前記ピックアップ手段へ転送する電力を減少または実質的に零とすることによって,軽負荷被電力供給体の前記一次導電路に帰還するインピーダンスが同一一次導電路上の他の被電力供給体への電力の流れを制限することがないようにする制御手段」である点で共通するものと認めることができる(なお,本件発明1の「車両」が「被電力供給体」の概念に含まれることは明らかである。)。

また,本件発明に係る明細書の上記各記載によれば,本件発明1において,負荷電力がピックアップコイルから出力できる最大電力である場合(大負荷時である場合)には,スイッチ手段を実質的に短絡状態(ON状態)にすることはなく,したがって,ピックアップ手段の循環電流は共振状態のままであると解されるところ,引用発明も,出力負荷が大負荷であるときには,ピックアップ回路からの出力電圧は上昇せず,出力電圧の分圧電圧(リード132上で発生する電圧)は調整基準電圧より大きくなることはないので,NチャンネルFET96はOFF状態のままである(上記1の(2)のイの(カ))から,本件発明1と同様,ピックアップ手段の循環電流は共振状態を維持するものと考えられる。

そうすると,引用発明は,実質的に,本件発明1の「負荷電力がピックアップコイルから出力できる最大電力の時には,ピックアップ手段に循環する循環電流を共振状態での電流として一次導電路から前記ピックアップ手段へ電力を転送し」との構成を備えるものと認めることができる。

したがって,審決が,上記(3)の引用発明の認定を前提として,「前記スイッチ手段を負荷変動に反応して制御し,前記負荷電力が前記ピックアップコイルから出力できる最大電力の時には,前記ピックアップ手段に循環する循環電流を共振状態での電流として前記一次導電路から前記ピックアップ手段へ電力を転送し,前記出力負荷が軽負荷時には,スイッチング動作を制御することによって前記スイッチ手段を実質的に短絡状態にして,前記ピックアップ手段の循環電流を前記共振状態より小として前記一次導電路から前記ピックアップ手段へ転送する電力を減少または実質的に零とすることによって,軽負荷被電力供給体の前記一次導電路に帰還するインピーダンスが同一一次導電路上の他の被電力供給体への電力の流れを制限することがないようにする制御手段を設けた誘導電力分配システム。」である点を,本件発明1と引用発明との一致点と認定したことに誤りはない。

(5)  以上のとおり,取消事由1の主張は理由がない。

2  取消事由2(本件発明1と引用発明との相違点2についての判断の誤り)について

原告は,本件発明1と引用発明との相違点2につき,審決がした「整流回路を全波整流回路とするか半波整流回路とするかは,当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計的事項であるから,引用発明において,半波整流回路を全波整流回路に改変することにより相違点2に係る本件発明1の構成とすることは,かかる改変に際し格別な技術的困難性が何等認められない以上,当業者にとって容易であり,また,それにより格別な効果が奏されるともいえない。」との判断が誤りであるとし,その理由として,引用発明は,共振回路の電圧・電流を一定に維持することと,EMIの発生を回避することとを技術課題とし,その解決のため,共振回路から負荷側に電流が流れない,共振交流電圧の負の半波期間に分路用のスイッチをオンするものであるから,引用発明において,半波整流回路を採用することは発明の技術的根幹をなすものであると主張する。

しかしながら,引用例には,そこに記載された発明について,共振回路の電圧・電流を一定に維持する旨の記載は見当たらないこと,また,審決が認定した引用発明は,引用例に記載された発明のうち,EMI対策が必要とされない実施態様のものであることは上記1の(3)のとおりであり,したがって,原告が,引用発明の技術課題であるとして主張するところはいずれも誤りである。そうすると,当該技術課題の存在を前提として,引用発明において,半波整流回路を採用することが発明の技術的根幹であるとの原告の主張も誤りであるといわざるを得ないから,審決の相違点2についての判断には,原告主張の誤りはない。

したがって,取消事由2の主張は理由がない。

3  取消事由3(本件発明2,3についての判断の誤り)について

原告は,審決は,本件発明1と引用発明との一致点の認定及び相違点2についての判断を誤り,本件発明1が引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った判断をしたものであるから,本件発明1を限定した構成から成る本件発明2及び本件発明1を更に限定した構成から成る本件発明3が,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの判断も当然に誤りであると主張する。

すなわち,本件発明2,3についての審決の判断が誤りであるとする原告の主張は,いずれも,審決がした本件発明1と引用発明との一致点の認定及び相違点2についての判断が誤りであることを前提とするものであるが,審決の当該認定及び判断に誤りがないことは上記1及び2のとおりであるから,原告の上記主張は,その前提を欠き,いずれも失当である。

4  結論

以上によれば,原告の主張はすべて理由がなく,原告の請求は棄却されるべきである。

(裁判長裁判官 田中信義 裁判官 杜下弘記)

裁判官石原直樹は,転補につき署名押印することができない。 裁判長裁判官 田中信義

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