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知財高等裁判所 平成20年(行ケ)10221号 判決 2009年1月28日

原告

持田製薬株式会社

訴訟代理人弁護士

末吉亙

高橋元弘

訴訟代理人弁理士

網野友康

初瀬俊哉

石井茂樹

豊崎玲子

被告

花王株式会社

訴訟代理人弁護士

尾関孝彰

鰺坂和浩

岡崎士朗

訴訟代理人弁理士

長谷川芳樹

齋藤宗也

工藤莞司

黒川朋也

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が無効2007-890143号事件について平成20年4月30日にした審決を取り消す。

第2争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

被告は,登録第4994961号商標(平成17年11月7日登録出願,出願番号2005-104304号。平成18年9月1日登録査定,同年10月13日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。本件商標は,別紙1のとおり,「ディープコラゲ」及び「DEEP COLLAGE」の文字を上下二段に横書きにした構成からなり,商品の区分を第3類,指定商品をせっけん類,化粧品,香料類,つけづめ,つけまつ毛とする。

原告は,平成19年8月30日,本件商標の登録を無効とすることを求めて無効審判請求(無効2007-890143号)をした。

特許庁は,平成20年4月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,平成20年5月19日,原告に送達された。

2  審決の理由

別紙審決書写しのとおりであり,要旨以下のとおりである。すなわち,本件商標は,原告の商標である登録第2120276号商標(構成は,別紙2のとおりである。以下「引用商標1」という。),登録第2318621号商標(構成は,別紙3のとおりである。以下「引用商標2」という。),登録第2413569号商標(構成は,別紙4のとおりである。以下「引用商標3」といい,引用商標1ないし3を包括して「引用商標」という。)と非類似であるから,商標法4条1項11号に該当しない,また,本件商標は,その指定商品に使用しても原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標と認めることはできないから,商標法4条1項15号にも該当しない,したがって,本件商標は商標法46条1項の規定により無効とすることはできない,というものである。

審決のした①商標法4条1項11号該当性の判断(本件商標と引用商標の類否),②商標法4条1項15号該当性の判断(本件商標の使用による原告の業務に係る商品との混同の有無)は,次のとおりである。

(1)  商標法4条1項11号該当性について

本件商標より生ずる「ディープコラゲ」の称呼と引用商標より生ずる「コラージュ」又は「コラージユ」の称呼は,前者が6音よりなるものであるのに対し,後者は4音又は5音よりなるものであるから,構成音数が相違するばかりでなく,両称呼中の各音の配列からみて,両称呼が類似するという要素は見出せないから,それぞれの称呼を一連に称呼した場合においても,その語調,語感が明らかに相違したものとなり,明瞭に聴別し得る。また,本件商標は,構成全体をもって造語を表したものと認識されるから,「貼付け絵,コラージュ」等の観念を生ずる引用商標とは,観念上比較することはできない。さらに,本件商標と引用商標は,それぞれの構成よりみて,外観上明らかに相違するものであり,互いに紛れるおそれはない。

したがって,本件商標と引用商標は,その称呼,観念及び外観のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標である。(審決第5,1(3))

(2)  商標法4条1項15号該当性について

原告の使用に係る「Collage」の表示それ自体は,本件商標の登録出願前より,化粧品等の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないものであり,加えて,本件商標中の「COLLAGE」の文字部分は,「DEEP」の文字部分と外観上軽重の差なく一体的に結びつき,欧文字全体が「ディープコラゲ」との称呼のみを生ずる造語を形成しているものであって,かかる構成よりなる本件商標にあって,その構成中の「COLLAGE」の文字部分のみが独立して,その需要者に強く印象づけられるものとはいえない。

そうすると,本件商標に接する需要者がこれより直ちに原告の使用に係る「Collage」の表示を想起又は連想するとみることはできず,まして,「コラージュ」の表示を想起又は連想することはないというべきである。

したがって,本件商標は,これをその指定商品について使用しても,その商品が原告又は原告と業務上何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように,商品の出所について混同を生ずるおそれがある商標と認めることはできない。(審決第5,2(2))

第3原告主張の取消事由

審決は,次に述べるとおり,商標法4条1項11号該当性判断の誤り(取消事由1),商標法4条1項15号該当性判断の誤り(取消事由2)があるから,違法として取り消されるべきである。

1  商標法4条1項11号該当性判断の誤り(取消事由1)

(1)  以下の諸点を総合考慮すると,本件商標の要部は,「COLLAGE」の部分であると解するのが相当である。

すなわち,①「ディープ」,「DEEP」という語は,化粧品,せっけん類との関係において,「頑固な毛穴の汚れ等を強力に落とすために,肌等の深部に浸透する」との意味で品質を表示する語として用いられており,識別力が薄弱であること,②本件商標の下段の「DEEP COLLAGE」の部分において,「DEEP」と「COLLAGE」の間に間隔が存在し,「COLLAGE」の部分が分離して認識されること,③化粧品,せっけん類の業界では,普通名称としてフランス語が用いられているほか,商標の採択に当たってもフランス語が好んで用いられ,また,「collage」という語は,フランス語で「コラージュ」という読み方をし,「貼付け絵」を意味する既成語であって,中学校の美術の教科書にも掲載され,書名やブログ名称等にも用いられるなど,世上一般に通用しているため,本件商標の「COLLAGE」の部分について,需要者,取引者は,フランス語的な発音である「コラージュ」と称呼すること,④化粧品の取引においては,欧文字と仮名文字の二段併記の商標について,欧文字部分のみを使用することが多く,本件商標は,欧文字部分のみが目立つ態様で用いられる可能性が極めて高いから,その称呼の認定に当たって,片仮名文字の存在を重視すべきではないこと,⑤本件商標の登録出願時(平成17年11月7日)及び登録査定時(平成18年9月1日)には,「Collage」との表示は,原告の商品の表示として周知,著名であったこと等の諸事情を総合考慮するならば,本件商標の要部は,「COLLAGE」の部分にあると解すべきである。

そうすると,本件商標は,その要部である「COLLAGE」から,「コラージュ」の称呼を生じ,「貼付け絵,コラージュ」の観念を生ずる。

引用商標は,それぞれ「コラージュ」の称呼及び「貼付け絵,コラージュ」の観念を生ずる。本件商標と引用商標は,いずれも「コラージュ」の称呼を生じ,「貼付け絵,コラージュ」の観念を生ずるから,称呼及び観念を同一とし,いずれも類似する。

(2)  したがって,審決が,本件商標と引用商標は非類似であり,本件商標は商標法4条1項11号に該当しないとした判断は誤りである。

2  商標法4条1項15号該当性判断の誤り(取消事由2)

(1)  原告は,昭和55年1月から,「Collage」又は「コラージュ」との表示を付した化粧品,せっけん類の製造販売を行っていたが,平成16年4月,その事業を,原告が100%出資して設立した持田ヘルスケア株式会社に譲渡した(以下,「Collage」又は「コラージュ」との表示の使用の主体等として,原告と持田ヘルスケア株式会社を通じて「原告」という。)。

原告は,昭和55年1月以降,基礎化粧品を中心としたシリーズ商品であるコラージュシリーズを表す一種のファミリーネームとして,「Collage」との表示を継続して使用してきた。具体的には,①「Collage」の欧文字を,コラージュシリーズの各商品のパッケージに大きく表示し,②新聞・雑誌の広告,コラージュシリーズの各商品を取り扱う薬局等の店頭広告やチラシなどに,「Collage」の欧文字を掲載し,「Collage」の文字が表示された各商品の写真を掲載するなどしてきた。原告は,コラージュシリーズの宣伝に多額の費用をかけ,売上げを伸ばした。また,コラージュシリーズの各商品を取り上げた新聞・雑誌の記事には,「Collage」の文字が表示され,その表示がされた商品の写真が掲載された。このような使用によって,本件商標の登録出願時(平成17年11月7日)及び登録査定時(平成18年9月1日)には,「Collage」との表示は,原告の商品の表示として周知,著名であった。

前記1(1)のとおり,本件商標と引用商標は,称呼及び観念を同一とし,類似する商標である。

そうすると,本件商標は,原告の業務に係るコラージュシリーズの商品と混同を生ずるおそれがある商標(商標法4条1項15号)に該当する。

(2)  したがって,審決が,本件商標は原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標(商標法4条1項15号)と認めることはできないとした判断は,誤りである。

第4被告の反論

審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

1  商標法4条1項11号該当性判断の誤り(取消事由1)に対し

(1)  以下の事情を総合考慮すると,本件商標は,「ディープコラゲ」若しくは「DEEP COLLAGE」の各部分又は本件商標全体によって識別力を有するものであり,「COLLAGE」の部分のみが識別力を有するということはできない。

本件商標において,「DEEP」と「COLLAGE」は,同一の書体で軽重の差なく表されているから,「DEEP」と「COLLAGE」が分離して認識されることはない。

「ディープ」,「DEEP」という語が,化粧品,せっけん類との関係において,「頑固な毛穴の汚れ等を強力に落とすために,肌等の深部に浸透する」との意味で品質を表示する語として用いられている事実はない。また,たんぱく質の一種である「コラーゲン(collagen)」が化粧品や食品の成分として注目されており,「コラゲ」,「COLLAGE」の部分は,「コラーゲン(collagen)」を連想させるから,商標としての識別力は弱い。したがって,「ディープ」と「コラゲ」,「DEEP」と「COLLAGE」は,分離されることはなく一体的に認識される。

化粧品や食品の成分として「コラーゲン(collagen)」が注目されていること,他方,「貼付け絵」という意味のフランス語である「collage」という語は本件商標の指定商品である化粧品やせっけん類等とは無関係であることに照らすと,本件商標から「ディープコラゲ」という称呼が生ずることは,合理的であり,不自然とはいえない。

化粧品の取引において,欧文字と片仮名文字の二段併記の商標の片仮名のみを用いることは少なくないから,その称呼の認定に当たって,片仮名文字が存在する点は重視されるべきである。

また,「Collage」との表示は,原告の商品の表示として周知,著名であるとはいえない。

以上によれば,本件商標は,「ディープコラゲ」若しくは「DEEP COLLAGE」の各部分又は本件商標全体によって識別力を有するものであり,「ディープコラゲ」という称呼のみを生じさせ,また,造語であるから,特定の観念を生じさせない。

(2)  本件商標と引用商標は,いずれも外観,称呼,観念を異にし,類似しない。したがって,審決が本件商標と引用商標は非類似であると判断したことに誤りはない。

2  商標法4条1項15号該当性判断の誤り(取消事由2)に対し

(1)  原告がその商品に欧文字の「Collage」との表示ではなく片仮名の「コラージュ」との表示を使用した例があること,「Collage」又は「コラージュ」との表示を付した原告の商品のシェアは,国内の同種の化粧品,せっけん類のうち0.4%を占めるにすぎないこと,「Collage」との表示は,化粧品の成分である「コラーゲン(collagen)」を容易に連想させ,識別力が弱いことなどを総合すると,「Collage」との表示は,原告の商品の表示として周知,著名であったとはいえない。また,前記1(2)のとおり,本件商標と引用商標はいずれも類似しない。以上の事情に照らすと,本件商標をその指定商品に使用しても,原告の業務に係る商品との混同を生ずるおそれはない。

(2)  したがって,審決が本件商標は原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標と認めることはできないとした判断に誤りはない。

第5当裁判所の判断

1  商標法4条1項11号該当性判断の誤り(取消事由1)について

(1)  本件商標と引用商標の類否

ア 本件商標の外観,称呼,観念

(ア) 本件商標は,「ディープコラゲ」の片仮名文字を上段に,「DEEP COLLAGE」の欧文字を下段に,それぞれ上下二段に横書きしたものである。

まず,本件商標のうち,上段の「ディープコラゲ」の構成部分は,同一の書体で一連に記載された一体表記であり,「DEEP COLLAGE」の部分の上段に併記され,「DEEP COLLAGE」は,ローマ字で,「ディープコラゲ」と読まれるから,「ディープコラゲ」の部分は,「DEEP COLLAGE」のローマ字読みをそのまま表記したものと理解される。

次に,本件商標のうち,下段の「DEEP COLLAGE」の構成部分は,「DEEP」と「COLLAGE」の間にわずかな間隔が存在するものの,「DEEP」と「COLLAGE」は,同一の書体及び大きさで表記され,一方が他方よりも看者の注意を強く引くような態様で表記されることもなく,外観的特徴において差異がないことから,一体のものとして認識され,ことさら「COLLAGE」の部分のみが切り離されて認識されることはない。

そうすると,本件商標は,「ディープコラゲ」若しくは「DEEP COLLAGE」の各部分又は本件商標全体によって識別され,前記のとおり,「ディープコラゲ」の片仮名文字を上段に,「DEEP COLLAGE」の欧文字を下段に,それぞれ上下二段に横書きした外観を有し,「ディープコラゲ」との称呼を有する商標と認められる。なお,「DEEP COLLAGE」,「ディープコラゲ」は,いずれも特定の観念を生じさせない造語であるから,本件商標は特定の観念を生じさせない造語であると認められる。

(イ) 原告の主張に対し

これに対し,原告は,本件商標のうち,「COLLAGE」の構成部分のみが識別力を有する要部であると主張するが,同主張は,以下のとおり,失当である。

a 原告は,「ディープ」,「DEEP」という語は,化粧品,せっけん類との関係において,「頑固な毛穴の汚れ等を強力に落とすために,肌等の深部に浸透する」との意味で品質を表示する語として用いられており,識別力が薄弱であると主張する。

確かに,化粧品の名称に「ディープ」,「DEEP」との表示を含む例が認められる(甲8の1ないし6,甲31の1ないし10,甲39の1ないし3)。しかし,少なくとも商標が片仮名表記される場合は,「ディープ」との表示は他の語と一体に表記され,「ディープ」という語は,化粧品等の効能を示す語として独立して用いられるのではなく,他の語と結合して商標の一部を構成する要素として用いられており,必ずしも,「ディープ」,「DEEP」という語が,化粧品,せっけん類との関係において,「頑固な毛穴の汚れ等を強力に落とすために,肌等の深部に浸透する」との意味で用いられているとはいえない。

そうすると,「ディープ」,「DEEP」という語は品質を表示する語として用いられているのでその部分の識別力は薄弱であるとする原告の上記主張は,その前提において,採用できない。

b 原告は,化粧品,せっけん類の業界では,フランス語が好んで用いられていること,また,「collage」という語は,フランス語で「コラージュ」という読み方をし,「貼付け絵」を意味する既成語であって,中学校の美術の教科書にも掲載され,世上一般に通用していることから,需要者,取引者は,本件商標の「COLLAGE」という部分から,フランス語的な発音である「コラージュ」の称呼を認識する旨主張する。

確かに,国語辞典には,「コラージュ【collageフランス】(貼り合せの意)近代絵画の技法の一。画面に紙・印刷物・写真などの切抜きを貼りつけ,一部に加筆などして構成する。・・・貼付け絵。」(広辞苑第五版)との記載があり,中学校の美術の教科書などに,絵画の技法の一種として「コラージュ」(貼付け絵)が掲載されていること,化粧品業界においては,フランス語に由来する商標名が少なくないことが認められる(甲5,甲25の1ないし10,甲30の1,2)。

しかし,提出された証拠による限り,中学校の美術の教科書には,「コラージュ」という片仮名が記載されているものがあっても,「collage」という欧文字の綴りが記載されているものは認められない(甲25の1ないし10)。我が国において,欧文字をローマ字読みする例は一般的であることから,ローマ字読みにより「COLLAGE」を「コラーゲ」,「コラゲ」などと読むことが不自然であるとはいえない。また,「コラーゲン(collagen)」は,動物の体内の結合組織に含まれるたんぱく質の一つで,熱を加えるとゼラチンになり,細胞や組織をつなぎ,機能の活性化を促進し,皮膚や骨,目などの老化を防止するとされ,若さを保つ成分として,食品や化粧品の原材料や成分などとして注目されており(乙1,乙36),本件商標の「COLLAGE」の部分,引用商標2,3の「Collage」の部分は,「コラーゲン」を意味する「collagen」と「n」の1文字が相違するのみであって,需要者,取引者をして,「collagen」を容易に連想させる。

そうすると,需要者,取引者は,本件商標の指定商品である化粧品等について使用される「COLLAGE」の文字部分について,そこから,化粧品等とはおよそ関連性の薄い「貼付け絵」を連想して,「コラージュ」と称呼するのではなく,化粧品等の原材料や成分として利用され,化粧品等と関連性の強い「コラーゲン」を連想し,「コラーゲン(collagen)」に由来して「コラーゲ」,「コラゲ」と称呼すると解することに合理性がある。また,「化粧品,せっけん類」を指定商品とし,「コラゲ」や「COLLAGE」の文字を含む商標が,出願され,登録されていることも認められる(乙2)。

したがって,「コラージュ」という語が我が国においてある程度知られていたとしても,本件商標の「COLLAGE」の部分が,「コラーゲン」の連想から,ローマ字読みに従って「コラゲ」と発音されることは不自然とはいえず,「COLLAGE」の部分からフランス語的な発音である「コラージュ」の称呼を認識することが一般的であるとはいえない。以上のとおりであるから,原告の上記主張は,採用することはできない。

c 原告は,化粧品の取引においては,欧文字と仮名文字の二段併記の商標について,欧文字部分のみを使用することが多く,本件商標は,欧文字部分のみが目立つ態様で用いられる可能性が高いから,その称呼の認定に当たって,片仮名文字の存在を重視すべきではないと主張する。

確かに,甲16(化粧品業界における登録商標の使用に関する実態調査の報告書)によれば,欧文字と仮名文字の二段併記の商標について,実際の使用態様において,化粧品の容器や包装箱の表面に欧文字のみを表示したものが少なくないことが認められる。

しかし,化粧品の容器や包装箱の表面に欧文字と仮名文字を併記したものも存在する上,化粧品の容器や包装箱の裏面には,製造者に関する記載と併せて片仮名文字により商標が表示されている例も多いこと(甲16),容器の表面に欧文字のみを表示したものについても,ウェブサイト上では,商品名,ブランド名が片仮名のみで表示されていること(乙12ないし乙18),引用商標及び本件商標の双方の指定商品であるせっけん類について,原告は,容器や包装箱の表面に,「Collage」との表示とともに,「コラージュ石鹸」,「コラージュ液体石鹸」,「コラージュ薬用入浴剤」,「コラージュリンス」という片仮名を含む表示を併記して使用していること(乙7ないし乙11)が,それぞれ認められる。

したがって,化粧品,せっけん類などを指定商品とする欧文字と仮名文字の二段併記の商標について,その称呼の認定に当たり,片仮名文字の存在を重視すべきでないとの原告の上記主張は,採用することができない。

d 原告は,本件商標の登録出願時(平成17年11月7日)及び登録査定時(平成18年9月1日)には,「Collage」との表示は,原告の商品の表示として周知,著名であったと主張する。

しかし,後記2(1)イのとおり,「Collage」との表示は原告の商品の表示として周知,著名であったとは認められず,原告の上記主張は,採用することができない。

イ 引用商標の外観,称呼,観念

引用商標1は,「コラージユ」の片仮名文字を横書きにしたものであり,「コラージユ」の称呼を生じ,「貼付け絵」の観念を生じる。

引用商標2は,「コラージュ」の片仮名文字と「Collage」の欧文字を上下二段に横書きにしたものであり,「コラージュ」の称呼を生じ,「貼付け絵」の観念を生じる。

引用商標3は,「Collage」の横書きの欧文字と「コラージュ」の横書きの片仮名文字及び花草模様の図形を上下3段に配したものであり,「コラージュ」の称呼を生じ,「貼付け絵」の観念を生じる。

ウ 本件商標と引用商標の類否

(ア) 本件商標と引用商標1の類否

本件商標と引用商標1を対比すると,外観において,本件商標の「ディープコラゲ」の部分と引用商標1は,「コラ」との文字と片仮名の長音を含む点で共通するが,全体の文字数やその余の文字が異なり,また,本件商標は「DEEP COLLAGE」との欧文字を含むから,本件商標と引用商標1は,外観において異なる。

本件商標より生ずる「ディープコラゲ」の称呼と引用商標1より生ずる「コラージユ」の称呼は,前者が6音よりなるのに対し,後者は4音又は5音よりなり,構成音数が相違する上,「コラ」の音を除いたその他の音が相違するから,本件商標と引用商標1は,称呼において異なる。

本件商標は特定の観念を生じない造語であるから,本件商標と引用商標1の観念を比較することはできない。

したがって,本件商標と引用商標1は,外観,称呼が異なり,観念を比較することはできないから,類似しない。

(イ) 本件商標と引用商標2の類否

本件商標と引用商標2を対比すると,外観において,本件商標の「ディープコラゲ」の部分と引用商標2の「コラージュ」の部分は,「コラ」との文字と片仮名の長音を含む点で共通し,本件商標の「COLLAGE」の部分と引用商標2の「Collage」の部分は,冒頭の「C」の大文字と綴りにおいて共通する。しかし,本件商標の「ディープコラゲ」の部分と引用商標2の「コラージュ」の部分は,全体の文字数が異なり,「コラ」との文字と片仮名の長音以外の文字は異なる上,前記ア(ア)のとおり,本件商標の「DEEP COLLAGE」の部分は,外観上一体のものと認められ,「COLLAGE」のみが切り離されて認識されることはない。そうすると,本件商標と引用商標2は,外観において異なる。

本件商標より生ずる「ディープコラゲ」の称呼と引用商標2より生ずる「コラージュ」の称呼は,前者が6音よりなるのに対し,後者は4音よりなり,構成音数が相違する上,「コラ」の音を除いたその他の音が相違するから,本件商標と引用商標2は,称呼において異なる。

本件商標は特定の観念を生じない造語であるから,本件商標と引用商標2の観念を比較することはできない。

したがって,本件商標と引用商標2は,外観,称呼が異なり,観念を比較することはできないから,類似しない。

(ウ) 本件商標と引用商標3の類否

本件商標と引用商標3を対比すると,外観において,本件商標の「COLLAGE」の部分と引用商標3の「Collage」の部分は,冒頭の「C」の大文字と綴りにおいて共通し,本件商標の「ディープコラゲ」の部分と引用商標3の「コラージュ」の部分は,「コラ」との文字と片仮名の長音を含む点で共通する。しかし,前記ア(ア)のとおり,本件商標の「DEEP COLLAGE」の部分は,外観上一体のものと認められ,「COLLAGE」のみが切り離されて認識されることはない上,本件商標の「ディープコラゲ」の部分と引用商標3の「コラージュ」の部分は,全体の文字数が異なり,「コラ」という文字と片仮名の長音以外の文字も異なり,さらに,引用商標3は,独特の花草模様の図形が配されている点で本件商標と相違する。そうすると,上記のような共通点があるとしても,本件商標と引用商標3は,外観において異なる。

前記(イ)と同様に,本件商標より生ずる「ディープコラゲ」の称呼と引用商標3より生ずる「コラージュ」の称呼は異なる。

本件商標は特定の観念を生じない造語であるから,本件商標と引用商標3の観念を比較することはできない。

したがって,本件商標と引用商標3は,外観,称呼が異なり,観念を比較することはできないから,類似しない。

(2)  本件商標と引用商標の類否に関する判断の誤りの有無

前記(1)ウのとおり,本件商標と引用商標はいずれも類似しないから,審決が,本件商標と引用商標は非類似であり,本件商標は商標法4条1項11号に該当しないと判断したことに誤りはない。したがって,取消事由1は理由がない。

2  商標法4条1項15号該当性判断の誤り(取消事由2)について

(1)  事実認定

ア 原告の「Collage」との表示等に係る使用態様は,以下のとおりである。

原告は,昭和55年1月,「Collage」又は「コラージュ」との表示を付した化粧品の販売を開始し(最初の製品は「コラージュクリーム」であった。),その後,「Collage」又は「コラージュ」との表示を付した化粧品,せっけん類を,「コラージュシリーズ」と称する一連の商品として製造販売してきた。本件商標の登録出願時(平成17年11月7日)及び登録査定時(平成18年9月1日)におけるコラージュの表示を付した一連の商品は,別紙5のとおりである。コラージュの表示を付した一連の商品のパッケージ(容器,包装箱等)には,いずれもその前面に「Collage」又は「コラージュ」との表示が付されている。コラージュの表示を付した一連の商品について,カタログや広告には,低刺激性の化粧品,せっけん類であり,皮膚や毛髪等にトラブルのある場合にも使用することができるという特徴が記載されている(甲6の1,2,甲10の1ないし3,甲13,甲20の1ないし14,甲42)。

コラージュの表示を付した一連の商品の売上額は,別紙6のとおりであり,年間15億円ないし28億円で推移している(甲18,甲43)。

コラージュの表示を付した一連の商品は,(a)新聞・雑誌への広告の掲載(甲12,甲26の1ないし124),(b)コラージュの表示を付した一連の商品を販売する薬局等におけるパンフレットやチラシの配布,POP広告やディスプレイの設置(甲9の2,甲10の1ないし46,甲28の1ないし44),(c)コラージュの表示を付した一連の商品の愛用者の会である「コラージュ倶楽部」の結成,会員への情報や便宜の提供(甲9の3,甲10の4ないし6,甲13),(d)新製品の販売開始に際しての,試供品や商品セットのプレゼントキャンペーンの実施(甲10の1ないし46)などにより,宣伝広告がされてきた。「コラージュ倶楽部」の会員は,平成12年9月の時点で1万5000人を超えており(甲10の4),コラージュの表示を付した一連の商品の宣伝広告費は,別紙7のとおりであり,年間2億円ないし7億6000万円余りであった(甲19)。

新聞・雑誌には,コラージュの表示を付した一連の商品を紹介する記事等が掲載され,低刺激性であること,皮膚や毛髪等にトラブルのある場合でも使用が可能であること等の説明がされている(甲11,甲14,甲15,甲27の1ないし43)。また,インターネット上においても,コラージュの表示を付した一連の商品が販売されている(乙7ないし乙11)。

上記使用態様によれば,原告のコラージュの表示を付した一連の商品は,低刺激性であること等の特徴から,需要があり,化粧品,せっけん類の需要者の中に,「Collage」又は「コラージュ」との表示を,原告の商品を表示するものとして認識する者が存在することが認められる。

イ しかし,そのような事実があっても,「Collage」との表示が,原告の商品の出所を示すものとして,周知又は著名であったということはできない。

すなわち,前記アの使用態様のうちには,片仮名の「コラージュ」との表示のみを使用し,欧文字の「Collage」との表示を使用していないものや欧文字の「Collage」との表示が判読できないものも多数存在すること(乙19ないし乙21),コラージュの表示を付した原告商品の年間の売上額は多くても28億円(別紙6,平成5年度,6年度,甲18,甲43)であるのに対して,国内における同種の商品(シャンプー,ヘアリンス,クレンジングクリーム,モイスチャークリーム,乳液,化粧水,美容液)の売上額(出荷額)は年間約6400億円(平成18年。乙22中の「平成18年(1月~12月分)全国化粧品出荷実績表」の上記商品の出荷金額の合計)であって,上記原告商品の同種商品全体に占めるシェアは,わずか約0.44%(28億円/6400億円≒0.0044)にすぎないこと等の事情にかんがみると,「Collage」との表示は,原告の商品を表示するものとして,本件商標の登録出願時(平成17年11月7日)及び登録査定時(平成18年9月1日)に周知又は著名であったとは認められない。

ウ また,前記1(1)ウのとおり,本件商標と引用商標はいずれも類似しない。

(2)  原告の商品との混同の有無についての判断

前記(1)イのとおり,「Collage」との表示は,原告の商品を表示するものとして周知又は著名であるとは認められないこと,前記1(1)ウのとおり,本件商標と引用商標はいずれも類似しないことから,本件商標は,その指定商品である化粧品,せっけん類等に使用しても,「Collage」又は「コラージュ」との表示を付した原告の商品と混同を生ずるおそれはないと解される。

なお,審決は,片仮名文字の「コラージュ」との表示は,原告の業務に係る商品を表示する商標として,本件商標の登録出願時に,化粧品,せっけん類等の需要者に周知であったと認定しているが(審決第5,2(1)キ),仮に審決の認定するとおり,片仮名文字の「コラージュ」との表示が原告の商品の表示として周知であったとしても,上記のとおり,欧文字の「Collage」との表示が原告の商品の表示として周知又は著名であるとは認められないこと,本件商標と引用商標はいずれも類似しないことから,本件商標をその指定商品である化粧品,せっけん類等に使用しても,「Collage」又は「コラージュ」との表示を付した原告の商品と混同を生ずるおそれはないものと解される。

したがって,本件商標は,原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標(商標法4条1項15号)に該当しないというべきである。

そうすると,審決が,本件商標は原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標(商標法4条1項15号)と認めることはできないと判断したことに誤りはない。したがって,取消事由2は理由がない。

3  結論

以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。

よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 中平健 裁判官 上田洋幸)

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