知財高等裁判所 平成20年(行ケ)10253号 判決 2009年3月26日
原告
サイマー,インコーポレーテッド
訴訟代理人弁護士
松尾和子
訴訟代理人弁理士
大塚文昭
同
須田洋之
同
谷口信行
訴訟代理人弁護士
奥村直樹
同
水沼淳
被告
特許庁長官
指定代理人
岩本勉
同
服部秀男
同
岩崎伸二
同
酒井福造
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2006-6182号事件について平成20年2月25日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1 本件は,原告が,名称を「超狭帯域2室式高反復率のガス放電型レーザシステム」とする発明につき特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。
2 争点は,上記本願が,下記引用発明との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),である。
記
特開2000-58944号公報(発明の名称「高信頼性・モジュラ製造高品質狭帯域高繰り返しレ―トF2レ―ザ」,出願人サイマーインコーポレイテッド,公開日平成12年2月25日。以下,この刊行物を「引用刊行物」といい,そこに記載された発明を「引用発明」という,甲3)
第3当事者の主張
1 請求原因
(1) 特許庁における手続の経緯
原告は,2000年〔平成12年〕10月6日・2001年〔平成13年〕1月23日・同年1月29日・同年2月27日・同年4月13日・同年5月3日・同年5月11日・同年8月29日の優先権(いずれも米国)を主張して,平成13年10月9日,名称を「超狭帯域2室式高反復率のガス放電型レーザシステム」とする発明について特許出願(特願2001-311982号,請求項の数51,以下「本願」という。公開公報〔特開2002-198604号〕は甲1)をし,平成17年1月12日付けで特許請求の範囲の記載を変更することを内容とする手続補正(以下「本件補正」という。請求項の数50。甲2)をしたが,拒絶査定を受けたので,不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2006-6182号事件として審理した上,平成20年2月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(出訴期間として90日を附加)をし,その謄本は平成20年3月10日原告に送達された。
(2) 発明の内容
本件補正後の請求項は,前記のとおり1ないし50から成るが,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の内容は,以下のとおりである(下線は判決で付記,理由は後述。)。
「超狭帯域2室式高反復率のガス放電型レーザシステムであって,
A)1)a)第1のレーザガスと,
b)第1の放電領域を形成する,各々細長形状で間隔を空けて設けられた第1の電極対とを備える第1の放電室,
2)毎秒4000パルス又はそれ以上の範囲の反復率で動作する時に,各パルスの直後に,放電によって生成されたイオンの実質的に全てを,次のパルスに先立ち前記第1の放電領域から除去し得る前記第1の放電領域における前記第1のレーザガスのガス速度を作り出す第1のファン,
3)前記第1のレーザガスから,少なくとも16kwの熱エネルギーを除去することができる第1の熱交換装置,
4)前記第1の放電室で生成された光パルスのスペクトル帯域幅を狭小化するための線幅狭小化ユニットを備える第1のレーザユニットと,
B)1)a)第2のレーザガスと,
b)第2の放電領域を形成する,各々細長形状で間隔を空けて設けられた第2の電極対とを備える第2の放電室,
2)毎秒4000パルス又はそれ以上の範囲の反復率で動作する時に,各パルスの直後に,放電によって生成されたイオンの実質的に全てを,次のパルスに先立ち前記第2の放電領域から除去し得る前記第2の放電領域における前記第2のレーザガスのガス速度を作り出す第2のファン,及び
3)前記第2のレーザガスから,少なくとも16kwの熱エネルギーを除去することができる第2の熱交換装置とを備える第2のレーザユニットと,
C)約4,000パルスの反復率で約5mJの範囲内に正確に制御されたパルスエネルギーを持つレーザパルスを生成し得る電気パルスを,前記第1の電極対と前記第2の電極対に供給するようにしたパルス電力装置と,
D)前記2室式のレーザシステムによって生成されたレーザ出力パルスのパルスエネルギー,波長,及び帯域幅を測定するとともに,フィードバック制御方式で前記レーザ出力パルスを制御するためのレーザビーム測定・制御装置とを備え,
前記第1のレーザユニットは,主発振器として構成されるとともに,前記第2のレーザユニットは,電力増幅器として構成されることを特徴とするレーザシステム。」
(3) 審決の内容
ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,本願発明は前記引用発明及び周知技術に基づき容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許を受けることができない,としたものである。
イ なお審決は,上記判断をするに当たり,本願発明の下線部分(「電力増幅器」)を「パワー増幅器」と認定するとともに引用発明の内容を以下のとおり認定し,本願発明と引用発明との一致点及び相違点を次のとおりとした。
[引用発明の内容]
「非常に狭帯域の2室式の高繰り返し数エキシマレーザであって,
第1のレーザガスと,第1の放電領域を形成する,2つの細長い電極を間隔を空けて設けた第1の電極対とを備える第1のレーザチャンバと,
1000乃至4000Hzの範囲の繰り返し数でレーザパルスを生成する時に,前記第1の電極対の電極間に第1のレーザガスのガスフローを形成し,第1のレーザチャンバ内で第1のレーザガスを循環させる第1のブロワと,
第1のレーザガスから不要な熱を除去する,第1のレーザチャンバに配置された第1の熱交換器と,第1のレーザチャンバの外側に取り付けられた第1の冷却プレートと,
第1のレーザチャンバで生成されたレーザパルスのバンド幅を狭帯域化する線狭帯域化モジュールと,
を備えるマスター発振器と,
第2のレーザガスと,第2の放電領域を形成する,2つの細長い電極を間隔を空けて設けた第2の電極対とを備える第1のレーザチャンバと,
1000乃至4000Hzの範囲の繰り返し数でレーザパルスを生成する時に,前記第2の電極対の電極間に第2のレーザガスのガスフローを形成し,第2のレーザチャンバ内で第2のレーザガスを循環させる第2のブロワと,
第2のレーザガスから不要な熱を除去する,第2のレーザチャンバに配置された第2の熱交換器と,第2のレーザチャンバの外側に取り付けられた第2の冷却プレートと,
を備えるパワー発振器と,
電源と,パルス圧縮及び増幅回路と,1000乃至4000Hzの範囲の繰り返し数で作動し,10乃至5mJの範囲におけるパルスエネルギを持つレーザパルスを生成し得る高電圧電気パルスを作り出すパルスパワー制御とを含み,前記高電圧電気パルスを前記第1の電極対及び前記第2の電極対に供給するパルスパワーシステムと,
2室式のレーザによって生成されたレーザパルスを測定するウェーブメータと,前記パルスパワーシステムによって供給される電圧を制御するために,前記レーザパルスのエネルギを測定し,次のパルスのエネルギが所望のエネルギに近くなるように電源電圧を調節するフィードバック制御システムとを備え,
1000Hzの繰り返し数でレーザパルスを生成する時,第1のブロワ及び第2のブロワは,次のパルスに関して丁度良く電極間で新鮮なレーザガスを提供するのに十分であるガスフローを形成する,
レーザ。」
[一致点]
両者は,
「超狭帯域2室式高反復率のガス放電型レーザシステムであって,
A)1)a)第1のレーザガスと,
b)第1の放電領域を形成する,各々細長形状で間隔を空けて設けられた第1の電極対とを備える第1の放電室,
2)毎秒4000パルス又はそれ以上の範囲の反復率で動作する時に,各パルスの直後に,放電によって生成されたイオンを,前記第1の放電領域から除去し得る前記第1の放電領域における前記第1のレーザガスのガス速度を作り出す第1のファン,
3)前記第1のレーザガスから,熱エネルギーを除去することができる第1の熱交換装置,
4)前記第1の放電室で生成された光パルスのスペクトル帯域幅を狭小化するための線幅狭小化ユニットを備える第1のレーザユニットと,
B)1)a)第2のレーザガスと,
b)第2の放電領域を形成する,各々細長形状で間隔を空けて設けられた第2の電極対とを備える第2の放電室,
2)毎秒4000パルス又はそれ以上の範囲の反復率で動作する時に,各パルスの直後に,放電によって生成されたイオンを,前記第2の放電領域から除去し得る前記第2の放電領域における前記第2のレーザガスのガス速度を作り出す第2のファン,及び
3)前記第2のレーザガスから,熱エネルギーを除去することができる第2の熱交換装置とを備える第2のレーザユニットと,
C)約4,000パルスの反復率で約5mJの範囲内に正確に制御されたパルスエネルギーを持つレーザパルスを生成し得る電気パルスを,前記第1の電極対と前記第2の電極対に供給するようにしたパルス電力装置と,
D)前記2室式のレーザシステムによって生成されたレーザ出力パルスのパルスエネルギーを測定するとともに,フィードバック制御方式で前記レーザ出力パルスを制御するためのレーザビーム測定・制御装置とを備え,
前記第1のレーザユニットは,主発振器として構成されるとともに,前記第2のレーザユニットは,パワー増幅器として構成されることを特徴とするレーザシステム。」である点。
[相違点1]
本願発明では,「第1(第2)のレーザガスのガス速度」が,毎秒4000パルス又はそれ以上の範囲の反復率で動作する時に,放電によって生成されたイオンの「実質的に全てを,次のパルスに先立ち」第1(第2)の放電領域から除去し得るのに対し,引用発明では,「1000Hzの繰り返し数でレーザパルスを生成する時,第1のブロワ及び第2のブロワは,次のパルスに関して丁度良く電極間で新鮮なレーザガスを提供するのに十分であるガスフローを形成する」から,少なくとも1000Hzの繰り返し数でレーザパルスを生成する時には,「第1(第2)のブロワ」が,放電によって生成されたイオンの「実質的に全てを,次のパルスに先立ち」第1(第2)の放電領域から除去し得るガス速度を作り出すものといえるが,4000Hzの繰り返し数でレーザパルスを生成する時のガス速度については明らかでない点。
[相違点2]
本願発明では,「第1(第2)の熱交換装置」が,第1(第2)のレーザガスから,「少なくとも16kw」の熱エネルギーを除去するのに対し,引用発明では,「第1(第2)の熱交換器」及び「第1(第2)の冷却プレート」が除去する熱エネルギー量については明らかでない点。
[相違点3]
本願発明では,「レーザビーム測定・制御装置」がレーザ出力パルスの「波長,及び帯域幅」を測定するのに対し,引用発明では,「フィードバック制御システム」がレーザパルスの波長及びバンド幅を測定することについては明らかでない点。
(4) 審決の取消事由
審決が,本願発明の認定に当たり,請求項1の記載である「電力増幅器」を「パワー増幅器」と読み替えたことは争わない(以下「電力増幅器」を「パワー増幅器」という場合がある)。
しかしながら,審決は,以下のとおり本願発明と引用発明との相違点を看過し,その結果進歩性についての判断を誤ったものであるから,違法として取消しを免れない。
ア 審決が看過した相違点は,以下の2点である。
① 本願発明の第2のレーザユニットは「増幅器」として構成されているのに対し,引用発明の第2のレーザユニットは「発振器」で構成されている点。
② 本願発明は,4000Hz以上という極めて高い繰り返し周波数を対象としたシステムであり,かかる繰り返し周波数を実現するために,従来には存在し得なかった非常に高いガス流速を設定して,放電領域内から実質的に全ての残存ガスを除去するものである点。
イ 上記①の相違点に関し
(ア) 「発振器」と「増幅器」とは機能上区別されること
「増幅器」は,正帰還部(正帰還とは,増幅部からの出力波の一部を増幅部の入力端に戻すこと)を具備せず発振のための発振条件を満たすことができないものであり,「発振器」とは明確に区別されなければならない。
「発振器」とは,<ア>外部入力信号なしに,<イ>特定の周波数の波形を,<ウ>持続的に発生するものをいう(甲20〔「物理学辞典」・平成8年10月15日改訂第3版発行・株式会社培風館・1621頁〕,甲21〔「理化学辞典」・平成15年11月10日第5版第7刷発行・株式会社岩波書店・1052頁〕)。ここで,上記<ア><イ><ウ>の状態を「発振」と呼ぶ。「発振器」は「発振状態」になれば,<ア>のように「外部入力信号」がなくても「発振」が持続することに特徴がある。「発振器」は,入力される波を増幅する増幅部と,増幅部からの出力波の一部を増幅部の入力端に戻す正帰還(ポジティブ・フィードバック)部から構成される。この発振器の構成において「発振」状態が生成されるためには,
・ 出力の一部が正帰還部を通して増幅部の入力端に戻される過程において,正帰還部から増幅部の入力端へ戻ってきた帰還波の振幅が,初めの入力波又は1ループ前の帰還波の振幅より大きいか,または等しいこと。(利得条件)。
・ 帰還波と初めの入力波又は1ループ前の帰還波の位相が同じ(正帰還)であること(位相条件)。
という発振条件を満たす必要がある。
この点を詳述すると,まず,出力波が時間と共に減衰しないためには,正帰還部から増幅部の入力端へ戻ってきた帰還波の振幅が,初めの入力波又は1ループ前の帰還波の振幅より大きいか,または等しくなければならない。すなわち増幅部で得られる利得が「発振器」から失われる損失(発振器外に漏れ出る損失だけでなく,正帰還部を通して帰還されず,発振器の外部出力として取り出される出力部分も含む)を上回らなければならないため,利得条件が必要とされる。また,帰還波と初めの入力波又は1ループ前の帰還波の山と山,谷と谷が一致して互いに強め合うために,帰還波と初めの入力波又は1ループ前の帰還波の位相が同じでなければならず,位相条件が必要とされる。一旦,発振状態に到達すると,その後は,帰還波が振幅を大きくさせながら「発振器」内部を自律的に循環(ループ)するか,又は同じ振幅の帰還波が「発振器」内部を自律的に循環し続け,外部からの入力がなくても発振状態が持続する。
このように,増幅部による利得を得るだけでは,発振条件を満たさず,「発振器」としては作用しない。増幅部による利得を得ることに加えて,出力波の一部を「発振器」内に閉じ込めて「発振器」内部を循環させるための正帰還部を付加し,上記の発振条件を満たすようして,はじめて「発振器」となる。つまり,正帰還部のない単なる増幅部だけでは,上記の発振条件を満たさないために発振することができず「発振器」たり得えないものである。これに対し,「増幅器」においては,正帰還部が具備されておらず,発振のための発振条件を満たすことができないのであるから,「増幅器」は「発振器」とは明確に区別されるものである。
これをレーザについてみると,発振条件は,上記利得条件と位相条件とからなるところ,このうち利得条件は,光が共振器内を1往復した後の光の波の振幅が,元の光の波の振幅より大きいか,または等しいこと,すなわち,光が,増幅器部たるレーザ媒質内を1往復したときのレーザ発振器内の利得が,損失(レーザ発振器外へ出力されるレーザ光を含む)以上であることを意味する。また位相条件は,共振器長が光の半波長の整数倍であること,すなわち,共振器内を1往復して元の位置に戻ってきた光の位相が元の光の位相と同じであることを意味する。
このように,増幅部における利得を得るだけでは,発振条件を満たさず,「レーザ発振器」としては作用しない。増幅部に加えて,増幅光の一部を「レーザ発振器」内に閉じ込めて循環させるための正帰還部,すなわち「共振器(一対の平行な鏡)」を付加することにより,発振条件を満たすようにして,はじめて「レーザ発振器」となる。これに対し,「増幅器」は,正帰還部すなわち「共振器(一対の平行な鏡)」を備えておらず,上記の発振条件を満たすことができないから,「レーザ発振器」たり得ないのである。
(イ) 本願発明の「パワー『増幅器』」は「発振器」を含まないこと
平成17年1月12日付け本件補正後の明細書(甲1,2。以下「本願明細書」という)の発明の詳細な説明の記載からも,本願発明における「パワー増幅器」は「発振器」を含まないことが明らかである。
その前提として,本願明細書には,発明が解決しようとする課題の一つとして「…このようなシステムの1つでは,種ビームを生成する『主発振器』と呼ばれるレーザは,第1の利得媒体において非常に狭い帯域幅即ち超狭帯域幅のビームを作り出すように設計され,このビームが第2の利得媒体において種ビームとして使用される。第2利得媒体が電力増幅器として機能する場合,このシステムを,主発振器電力増幅器(MOPA)システムという。第2利得媒体自体が共振空洞を有する場合,このシステムを,種注入発振器(ISO)システム又は主発振器電力発振器(MOPO)システムといい,この場合,種レーザを主発振器と呼び,下流側のシステムを電力発振器と呼ぶ。…」(甲1,段落【0008】)との記載がある。
この記載から明らかなとおり,第2のレーザユニットが「増幅器」である主発振器電力増幅器(MOPA)システムと,第2のレーザユニットが共振空洞を有する「発振器」である主発振器電力発振器(MOPO)システムとは,文言上のみならず技術思想の上でも明確に区別されているところ,以下のとおり本願発明はMOPAシステムに該当するものである。
本願明細書には,本願発明の実施例中の増幅器の説明として,「電力増幅器は,電力増幅器放電室の放電領域を通る2つのビーム経路用に構成される。図3A及び図3Bは,主発振器及び電力増幅器を通るビーム経路を示す。図3Aに示すように,数回発振されたビームは,MO10の放電室10A及びLNP10Cを通過し,LNP10Cを通過時に大幅に線幅狭小化される。線幅狭小化された種ビームは,ミラー14Aによって上方に反射され,ミラー14Bによって(電極の向きに対して)僅かなスキュー角を持って水平に反射され放電室12Aを通過する。2つのミラー12C及び12Dは,電力増幅器の後端部にて,図3Bに示す電極の向きに一致して水平方向にPA放電室12Aを貫通する第2経路に対して上記線幅狭小化種ビームを反射する。」(段落【0019】)との記載があり,またガス圧に関して「…動作時において,MOにおけるガス圧はPAのガス圧より実質的に低い。…」(段落【0018】)との記載がある。
以上の発明の詳細な説明の記載,及び本願明細書の図面【図3A】・【図3B】の記載から明らかなとおり,【図3A】の下側に記載された主発振器(第1のレーザユニット)においては,「数回発振され」る(上記【0019】)ことが開示されているのに対し,【図3A】の上側及び【図3B】に記載された電力増幅器(第2のレーザユニット)においては,発振器よりも高いガス圧が用いられる(上記【0018】)と共に,「数回発振され」ることなく,「ミラー14Bによって…僅かなスキュー角を持って水平に反射され放電室12Aを通過する。2つのミラー12C及び12Dは,電力増幅器の後端部にて,図3Bに示す電極の向きに一致して水平方向にPA放電室12Aを貫通する第2経路に対して上記線幅狭小化種ビームを反射する」こと(上記【0019】)が開示されている。
すなわち,ビームはミラー12C,12D及び14Bの間を何度も往復することはなく,ビームは1往復だけ電力増幅器を通過するのみであって,ミラー12C,12D及び14Bは発振器に必須の構成要素である共振器を構成しないことが本願明細書には開示されており,これに反する開示や示唆は一切ない。
この記載からも,本願発明は,第2レーザユニットが「増幅器」である主発振器電力増幅器(MOPA)システムに関する発明であり,下記(ウ)記載のとおり引用発明の第2レーザユニットが「発振器」である主発振器電力発振器(MOPO)システムとは,明確に異なることが容易に理解されるものである。
(ウ) 引用発明の第2のレーザユニットは「発振器」で構成されること
引用発明の記載された明細書(甲3)には,【図11B】に1ヶ所だけ2つのレーザユニットによってレーザシステムを構成することが開示されているところ,【図11B】,及び段落【0084】の記載からも明らかなとおり,【図11B】においては,第1のレーザユニットと第2のレーザユニットが,共に「発振器」として構成されていることが明確に開示されており,第2のレーザユニットについて,「増幅器」を採用することは,一切開示も示唆もされていない。
以上のとおり,本願発明の第2レーザユニットは「増幅器」で構成されているのに対し,引用発明においては第2レーザユニットが「発振器」で構成されており,両者は根本的に相違するものである。
(エ) 作用効果の相違
本件発明と引用発明は,上記「増幅器」(本願発明)と「発振器」(引用発明)の機能上及び構成上の相違に基づき,作用効果の上でも,以下の3点で異なる。すなわち,
a 「パワー発振器」においては,MOで狭帯域化されたビームのスペクトル幅が大きく広がってしまうのに対し,「パワー増幅器」においては,MOで狭帯域化されたビームのスペクトル幅の広がりは小さいので,本願発明は,狭帯域化されたビームのスペクトル幅を狭帯域化されたまま維持しやすいこと。
b 「パワー発振器」を採用する引用発明のレーザシステムに比して,「パワー増幅器」を採用する本願発明のレーザシステムの方が耐故障性に優れていること。
c 「パワー発振器」において,レーザ光のコヒーレンス(可干渉性)が高くなるのに対し,「パワー増幅器」においては,コヒーレンスがそれほど高くならないので,本願発明は,スペックルの影響を抑えることができること。
(オ) 上記(エ)のaないしcの内容を説明すると,以下のとおりである。
aについては,レーザユニットのチャンバ内には,自然放出増幅光(ASE:Amplified Spontaneous Emission,以下「ASE」という)が発生するが,このASEは,レーザ光と同じ中心波長をもった広域なスペクトル幅をもつため,ASEが発生すると,MOで狭帯域化されたビームにノイズとして加わり,出力されるビームのスペクトル幅が広がる結果となるため,ASEの発生及び増加は,本願発明の作用効果であるビームの線狭帯域化を阻害する要因となる。引用発明においては,第2のレーザユニットが「PO」,すなわち「パワー発振器」として構成されるが,ASEが発生すると,「パワー発振器」の共振器によりASEまでもが共振し,ASEが非常に大きくなってしまう結果となる。これに対して,本願発明においては,第2のレーザユニットが「PA」,すなわち「パワー増幅器」として構成されているので,共振器はなく,わずかな経路分(実施例では1往復分)の増幅作用を有するのみであるから,「パワー発振器」に比して,ASEの増加の割合が極めて小さく,ASEの影響をわずかなものとすることができる。すなわち,本願発明により,引用発明に比して,より線狭帯域化されたビームの出力を実現することが可能かつ容易となるという優れた作用効果を奏することができる。
bについては,本願発明や引用発明がその適用対象とする露光装置では,1つの露光領域に対して複数のレーザパルス(例えば100パルス)を照射して露光する。このとき,MOからの種ビームの1パルスが何らかの理由(例えば,種ビームの不出力,ミスタイミング等)により第2のレーザユニットに入射されなかった場合,第2レーザユニットで発生したASEのみが1パルス分として,露光光学系に出力されることとなる。このとき,「パワー発振器」においては,その発振作用によってASEが発振するために,非常にエネルギーが大きく,スペクトル幅の広いASEのパルスが出力されてしまい,回復不可能な影響を当該露光領域に与えてしまう。
これに対して,本願発明においては,「パワー増幅器」に発振作用はなく,わずかな経路分(実施例では1往復分)の増幅作用を有するのみであるから,ASEが当該露光領域に与える影響は軽微なのものであり,後に続くパルス連のエネルギーをわずかに大きくすれば,欠落したパルスの影響を回復することができるという優れた作用効果を奏することができる。
cについては,引用発明の「パワー発振器」においては,入射したMOからの種レーザ光が,共振器により共振するために,レーザ光のコヒーレンス(可干渉性;光の干渉のしやすさを示す度合)が非常に高くなってしまう。これに対して,「パワー増幅器」においては,共振器がないので,コヒーレンスはそれほど高くならない。
レーザ光は,コヒーレンスの高い光ビームであるが,コヒーレンスの高さゆえに,同じ位相を有する光が干渉し,不要な光のむら(スペックル)が生じてしまうことが従来から問題となっていた(甲18〔特開平9-148658号公報〕,甲19〔特開2000-121836号公報〕)。例えば,エキシマレーザを光源とする露光装置においては,このスペックルがウエハー面上で点在して現れるため,部分的な露光量の大小を発生させてしまう,という弊害が生じることとなる。
したがって,「パワー発振器」に比して,レーザ光のコヒーレンスを低く抑えることができる「パワー増幅器」から構成される本願発明は,スペックル等の影響を低く抑えることができるという優れた作用効果を奏することができる。
(カ) 以上のとおり,本願発明と引用発明とでは,機能及び構成の相違に基づいて,作用効果上も大きく相違する。
したがって,引用発明の「パワー発振器」が本願発明の「パワー増幅器」に相当するとした審決の認定(審決11頁34行~12頁2行)は誤りであり,審決は両者の相違点を看過したものである。そして「パワー増幅器」の採用とは思想的に異なる「パワー発振器」を採用する引用発明の開示から,本願発明のような「パワー増幅器」を想到することは不可能であり,本願発明が引用発明に対して進歩性を有することも明らかである。
(キ) 被告の主張に対する反論
被告は,「パワー増幅器」とは,レーザ光のパワー(出力)を増幅する機能を有する機器として一義的に明確に理解できると主張するが,本願発明の特許請求の範囲に記載された「パワー増幅器」については,その記載の技術的意義を一義的に明確に理解することができない。すなわち,レーザー光のパワー(出力)を増幅すると言っても,その方法は様々であり,単なる「パワー増幅器」との文言では,どのような方法により増幅を行うのか,その技術的意義が全く明らかでない。
この点,「パワー増幅器」については,本願明細書に用語定義がなされている。すなわち,本願明細書の段落【0008】には,「…第2利得媒体が電力増幅器として機能する場合,このシステムを,主発振器電力増幅器(MOPA)システムという。第2利得媒体自体が共振空洞を有する場合,このシステムを,種注入発振器(ISO)システム又は主発振器電力発振器(MOPO)システムといい,この場合,種レーザを主発振器と呼び,下流側のシステムを電力発振器と呼ぶ。」と記載されており,「電力増幅器」という文言を,「共振空洞を有する場合」すなわち「電力発振器」とは明確に区別して定義している。
以上のとおりであり,本願明細書において,「電力増幅器」すなわち「パワー増幅器」は,共振空洞を有せず,発振作用によらずにレーザー光のパワー(出力)を増幅する機器をいうものとして,明確な用語定義がなされているのであるから,本願明細書における「パワー増幅器」は,発振機能を有しないものとして解釈されなければならない(特許法70条2項)。
また,本願明細書においては,一貫して,「増幅器」と「発振器」とが異なるものとして記載されている。すなわち,発振作用の有無により,「増幅器」と「発振器」とを明確に区別している上記段落【0008】に続き,段落【0011】では,「従来型パターン転写レーザと比較して本実施形態において例証される本発明の主要改良点は,種注入,及び,特に,2つの個別放電室を有する主発振器電力増幅器(MOPA)構成を利用した点にある。」と記載されており,従来型のMOPO構成,すなわち,主発振器電力発振器の構成における課題を解決するため,本願発明においてはMOPA構成,すなわち,主発振器電力増幅器の構成が採用されたことが明確に記載されている。主発振器電力増幅器(MOPA)の構成について説明した段落【0018】・【0019】,【図3A】並びに【図3B】をみても,「増幅器(PA)」は,共振空洞を有せず,正帰還機構を伴わないものとしてしか開示されておらず,これが発振機能を有する旨の開示や示唆は一切ない。
そもそも,本願発明の「パワー増幅器」が,発振機能を有するものまで含むと解釈すると,上記の本願明細書の記載と矛盾が生じる。すなわち,本願明細書の段落【0008】においては,「2つの個別システムで構成されるレーザシステム」として,「主発振器電力発振器(MOPO)システム」と,「主発振器電力増幅器(MOPA)システム」の2つの互いに異なる構成が明確に区別して開示され,段落【0011】において,上記2つのシステムのうち,本願発明においては「主発振器電力増幅器(MOPA)システム」を採用することが明確に記載されている。ここで,「増幅器(PA)」に,発振機能を有するものまで含まれると解釈すると,「増幅器(PA)」は「発振器(PO)」の上位概念ということになってしまい,本願明細書に記載された本願発明の技術思想,すなわち,「2つの個別システムで構成されるレーザシステム」において,「下流側のシステム」を,「発振器(PO)」ではなく,「増幅器(PA)」として構成することに矛盾することとなる。
ウ 上記相違点②に関し
(ア) 本願発明と引用発明とでは,対象とする繰り返し周波数が全く異なる。すなわち,本願発明は,特許請求の範囲の記載,及び段落【0010】の記載からも明らかなとおり,毎秒4000パルス(4000Hz)以上の高い繰り返し周波数でレーザパルスを生成するものであり,かかる繰り返し周波数を実現するために,従来には存在し得なかった非常に高いガス流速を設定して,放電領域内から実質的に全ての残存ガスを除去するものであるという点において,引用発明とは相違するものである。
引用発明は,その特許請求の範囲に「少なくとも1000Hzの周波数」と記載されているに過ぎず,どの程度の繰り返し周波数が対象とされているか,特許請求の範囲の記載からは一義的に明確でない。そこで,引用発明の記載された甲3の発明の詳細な説明を参酌すると,繰り返し周波数として開示されているのは「1000乃至2000Hz」(段落【0006】,3頁4欄49行~50行)である。わずかに「好ましい実施形態」として「1000乃至4000Hzの範囲」の繰り返し周波数が言及されているが(段落【0006】,4頁5欄7行),そもそも,本願明細書の段落【0006】にも記載されているとおり,引用発明が公開された2000年〔平成12年〕当時を含む「1989年から2001年…(の)…一般的なパターン転写レーザモデルの動作パラメータとしては,…2500パルス/秒のパルス率…が挙げられる」にすぎない。
引用発明が公開された当時の技術としては,高くとも2500パルス/秒(2500Hz)程度の繰り返し周波数しか用いられていなかったものであり,それゆえ実施例において実際に開示されているのも,高々2000Hzの繰り返し周波数にとどまるのであって(段落【0038】等),引用発明において,4000Hzという極めて高い繰り返し周波数が対象とされていると考えることは不可能である。
この点,審決は,引用刊行物(甲3)の段落【0006】において,繰り返し周波数として「4000Hz」との記載がある点を強調するが,かかる繰り返し周波数については発明の詳細な説明の記載をみても,実施例において,これを技術的に裏付ける記載が一切なされていない。さらに,少なくとも,引用発明において4000Hzよりも大きい繰り返し周波数については,一切開示も示唆もされていない。
(イ) また,審決が周知技術として挙げた下記甲4,5にも,4000Hzもの高い繰り返し周波数は開示も示唆もされていない。すなわち特開平8-191163号公報(発明の名称「ガスレーザ装置」,出願人株式会社東芝,公開日平成8年7月23日,甲4)には「100pps」(=100Hz)の繰り返し周波数のものしか開示されておらず(段落【0010】,2頁右欄末行),特開平9-228986号公報(発明の名称「タイミングを調整できる送風機モータ」,出願人サイマーインコーポレイテッド,公開日平成9年9月2日,甲5)にも「約1000ないし2000Hzの繰り返し率」が開示されているにすぎない(段落【0004】,4頁左欄7行~8行)。したがって,これらは,「4000Hz以上」の繰り返し周波数を用いる本願発明の周知技術とはなり得ない。これに対して,本願明細書及び図面には,後述するように,電源や,レーザガス循環のためのブロア,その他のシステム構成について,高周波数に必要とされる構造及び作用が明確に開示されている。
以上のとおり,審決が指摘する引用発明及び周知技術において,4000Hz以上という極めて高い繰り返し周波数を用いることは開示されていないことはもちろん,その旨の示唆があると解することもできない。
(ウ) この点,1000Hzから2000Hzまでのシステム開発においては,従来の技術の延長線上で開発が可能であったが,2000Hz程度のシステムから,それ以上のシステム,具体的には本願発明が対象とする4000Hz以上のシステムを開発するためには,技術的な壁があった。その技術的な壁の1つが残存ガスの除去という問題であり,2000Hz程度を超える繰り返し周波数,特に4000Hz以上でのシステムにおいて,安定した放電を生じさせるためには,次の放電に差し支えない程度のガス速度を設定したのでは不十分であった。本願発明は,次の放電に差し支えない程度を超え,それ以上のガス速度を設定し,放電領域内から実質的に全ての残存ガスを除去することにより,技術的課題を解決したのである。
すなわち,本願発明及び引用発明のようなエキシマレーザの供給装置においては,放電により,レーザチャンバ内のガス中の原子,分子を励起(エネルギーを与えること)し,励起されたエキシマ(励起状態のみで結合する希ガス元素とハロゲン元素からなる分子)が基底状態に落ちるときに放出される光を利用して,レーザ発振させ,レーザパルスを生成する。したがって,放電パルスの繰り返し周波数が上がると,それだけ,レーザチャンバにおける単位時間当たりのレーザパルス生成回数が多くなり,トータルとしてより大きなレーザ出力の供給が可能となるため,生産効率の上昇を実現することができる。
しかし,いかに繰り返し周波数を上げても,放電パルスが励起する対象となる原子,分子が不足していれば,実際には高い繰り返し周波数によるメリットを活かせない。そこで,繰り返し周波数を上げる場合,それに併せて,励起の対象となる原子,分子の供給を行うことが不可欠であり,同原子,分子を含有するレーザガスの供給速度を上げることが不可欠である。
本願発明における「第1のファン」及び「第2のファン」は,特許請求の範囲の記載からも明らかなとおり,「各パルスの直後に,放電によって生成されたイオンの実質的に全てを,次のパルスに先立ち…放電領域から除去し得る…レーザガスのガス速度」を作り出す。本願発明においては,4000Hz以上という,極めて高い繰り返し周波数が用いられるため,各パルスの直後に,次のパルスに先立ち,放電後の分子を実質的に全て放電領域から除去した後,励起可能な分子をすぐに供給することが必要となり,そのために高いガス速度を設定することが必要となる。
他方,引用発明の特許請求の範囲からは,どのようなガス速度を採用しているかは一義的に明確でない。そこで,発明の詳細な説明を参酌すると,「次のパルスに関して丁度良く電極間で新鮮なレーザガスを提供する」ことが開示されているにすぎない(段落【0003】)。
すなわち,本願発明は,高い繰り返し周波数を採用したため,放電領域内から実質的に全ての残存ガスを除去し,生成されたイオンの実質的に全てを除去しようとするものであるのに対し,引用発明は,高々2000Hz程度の繰り返し周波数しか想定されていないため,パルス毎に放電領域内のガスを実質的に全て入れ替えるまでの必要は一切なく,「次のパルスに関して丁度良(い)」程度,すなわち次の放電に差し支えない程度の残存ガスの除去を図るにすぎない。
このことは,本願明細書の段落【0117】に,「最大約67m/sのガス流が必要である」と,極めて高いガス速度が記載され,放電領域内から実質的に全ての残存ガスを除去するとの技術思想が開示されているのに対し,審決が周知技術として指摘する特開平8-191163号公報(甲4)の段落【0009】には「動作可能なパルス繰り返し数」と記載され,また,特開平9-228986号公報(甲5)の段落【0004】には「一般に安定した放電を得るには,クリア比は,3で充分であると考えられる」と記載されていることからも明らかである。すなわち,引用発明が公開された当時の技術常識では,高々2000Hz程度のシステムしかなかったために,放電領域内から実質的に全ての残存ガスを除去する必要は全くないと共に,そのような技術思想も全く存在しておらず,単に,次の放電に差し支えない程度のガス流速を設定しようとする技術思想しか存在しなかったものである。
以上のとおり,引用発明には,本願発明の構成である「放電によって生成されたイオンの実質的に全てを,…除去し得る…ガス速度を作り出す(第1及び第2の)ファン」は,一切開示も示唆もされていない。
したがって,引用発明の「第1(第2)のブロワ」は本願発明の「第1(第2)のファン」に相当するものではなく,引用発明の「第1(第2)のブロワ」が本願発明の「第1(第2)のファン」に相当するとの審決の認定(審決11頁10行~11行,15行)は誤りである。
(エ) 以上のとおり,本願発明においては,非常に高い繰り返し周波数を用い,かつ,単に次の放電に差し支えない程度の残存ガスの除去を図るだけではなく,各パルスの直後に,放電によって生成されたイオンの実質的に全てを,次のパルスに先だって放電領域から除去する構成を採用している。このような構成を採ることによって,必要な高いガス流速を実現するための電源及びファンを採用すること,及び,高いガス流速を設定することから生じる諸問題,特に衝撃波に耐えうるチャンバの強度の実現,高い電力消費に耐えうる電気システムの実現等を克服することには,当然に技術的な困難が伴う。
一例を挙げれば,本願発明においては,段落【0022】・【0025】,【図5】・【図5A】・【図5B】に記載されているとおり,電源として,放電パルス生成において高電圧を加えるためのコンデンサを超高速充電するために,共振電源を採用している。このような共振電源を採用することで,4000Hz以上という高速での繰り返し周波数(1秒間に4000回以上のスピード)で,パルスを生成することを初めて可能としたのである。他方,引用発明においては,共振電源のような4000Hz以上という高速動作を可能とするための電源を備えることについては開示も示唆もされておらず,引用発明の実施例に記載された電源を用いたのでは,4000Hzの繰り返し周波数を実現することは不可能である。
審決は,引用発明の本質的な技術的特徴を把握することなく,明細書の末節の記載を捉えて,引用発明の認定を誤ったものである。
そして,かかる本願発明の構成については,審決が指摘する引用発明及び周知技術には一切開示も示唆もされておらず,また,4000Hz以上の繰り返し周波数を実現することができる電源をそもそも備えていない,高々2500Hzの繰り返し周波数を対象とした引用発明を,本願発明のような4000Hz以上の繰り返し周波数を目標とするシステムを発明するためのベースとするはずもなく,当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に想到しうるものでもない。
(オ) 被告の主張に対する反論
被告が証拠として提出した乙6(後述)には,「5000Hz程度またはそれ以上」という高い繰り返し周波数に耐えうるような構成は開示も示唆もされていない。したがって,乙6の出願当時の技術水準として,繰り返し周波数を,5000Hz程度またはそれ以上とする技術思想が既に存在していたことはない。
被告は,引用発明における「ファンブレード構造が16の個々に加工されたもので形成され,若しくは,23のブレードを備える各セグメントを有するカートセグメントである図14Bに示したような変形実施形態は,360°/(15×23)だけ,又は,隣接するセグメントに対して約1°だけ各セグメントを回転」したもの及び「図14Aに示したような非対称ブレード配置」したものが,それぞれ本願明細書における「斜視図を図18Aに示す。ブレード構造は5インチ径を有し,中実アルミニウム製合金6061-T6棒材から機械加工される。各部の個々のブレードは,図18Aに示すように,隣接部と若干オフセットされている。このオフセットは,圧力波面の生成を防止するように予め不均一にされている。」もの及び「個々のブレードを,ブレード軸に対して若干角度を付け」たものに相当する旨主張する。
しかし,本願発明において,本願明細書の段落【0121】に記載されているとおり,ファンブレードは「圧力波面の生成を防止するように予め不均一にされている」。他方,引用発明においては,引用刊行物(甲3)の段落【0024】に記載されているとおり,ファンブレードは「360°/(15×23)だけ,又は,隣接するセグメントに対して約1°だけ各セグメントを回転する」ようにされているにすぎない。
本願発明におけるファンブレードは,圧力波面の生成を防止するように,予め不均一にされているのに対し,引用発明のファンブレードは,隣接するセグメントに対して約1°のみ各セグメントを回転しているにすぎず,ほぼ均一にされているのであり,引用発明においては,圧力波面の生成を防止するように,ファンブレードが予め不均一にされていることはない。
したがって,引用発明におけるファンブレードは,本願発明におけるファンブレードとは,根本的にその構成を異にするのであって,引用発明の「第1(第2)のブロア」が,本願発明の「第1(第2)のファン」に相当する旨判断した審決は誤りであり,被告の主張には理由がない。
2 請求原因に対する認否
請求の原因(1)・(2)・(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論
審決の判断は正当であり,原告主張の誤りはない。
(1) 原告主張の相違点①に対し
ア 原告は,本願発明における「パワー増幅器」が「発振器」を含まないことは,本願明細書の記載から明らかであると主張し,これを前提として,引用発明には,「第2のレーザユニットをパワー増幅器として構成する」という点について,一切開示も示唆もされていないと主張するが,以下のとおり,失当である。
審決が11頁下2行~12頁2行で認定したとおり,本願発明は,「第2のレーザユニットは,パワー増幅器として構成される」ものであるところ,「パワー増幅器」とは,その文言から,レーザ光のパワー(出力)を増幅する機能を有する機器であることが一義的に明確に理解できるから,発明の詳細な説明の記載を参酌すべき特段の事情はない。
そして,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1には,「パワー増幅器」について発振機能の有無を特定する記載はないから,本願発明における「パワー増幅器」に該当するというためには,発振機能の有無に拘わらず,レーザ光のパワー(出力)を増幅する機能を有する機器であれば足りるものと理解すべきである。したがって,本願発明における「パワー増幅器」が「発振器」を含まないとの原告の主張は,特許請求の範囲に基づくものではなく,原告の上記主張は,前提において失当であり,これを前提とする,引用発明には「第2のレーザユニットをパワー増幅器として構成する」という点について一切開示も示唆もされていないとの主張も,また失当である。
他方,引用発明の「パワー発振器」が,レーザ光のパワーを増幅する機能を有することは技術常識上明らかであるから,本願発明の「パワー増幅器」に相当する。
したがって,審決が,引用発明の「パワー発振器」が本願発明の「パワー増幅器」に相当するとし,「第2のレーザユニットは,パワー増幅器として構成される」点を両者の一致点として認定したことに,誤りはない。
イ(ア) なお,下記のとおり,本願発明について上記のとおり理解すべきことは,本願明細書の記載及び本願の優先日当時における当業者の技術常識とも符合するものであるから,本願発明の「パワー増幅器」が「発振器」を含まないものであると解する余地はないものといわなければならない。
すなわち,本願明細書には,「電力増幅器」(パワー増幅器)が発振機能を有しないものに限定されるものであることを明示する記載はない。
そして,本願明細書には,以下の記載がある。
・ 「【0008】種注入
(エキシマレーザシステムを含む)ガス放電型レーザシステムの帯域幅を狭めるための公知手法には,狭帯域「種」ビームを利得媒体に注入するものがある。このようなシステムの1つでは,種ビームを生成する「主発振器」と呼ばれるレーザは,第1の利得媒体において非常に狭い帯域幅即ち超狭帯域幅のビームを作り出すように設計され,このビームが第2の利得媒体において種ビームとして使用される。第2利得媒体が電力増幅器として機能する場合,このシステムを,主発振器電力増幅器(MOPA)システムという。第2利得媒体自体が共振空洞を有する場合,このシステムを,種注入発振器(ISO)システム又は主発振器電力発振器(MOPO)システムといい,この場合,種レーザを主発振器と呼び,下流側のシステムを電力発振器と呼ぶ。2つの個別システムで構成されるレーザシステムは,同等の単一室レーザシステムに比較してかなり高価であり,更により大きく複雑になる傾向がある。そのために,2室レーザの商業的用途は制約されたものとなっている。」
・ 「【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は,約4,000Hz又はそれ以上のパルス率及び約5mJから10mJ又はそれ以上のパルスエネルギーで,高品質のパルスレーザビームを生成することができる種注入モジュール式のガス放電型レーザシステムを提供する。2つの個別放電室が設けられ,それらの一方の放電室は,超狭帯域種ビームを生成する主発振器の一部となり,生成された超狭帯域種ビームが第2の放電室において増幅される。各放電室は,主発振器における波長のパラメータ及び増幅室におけるパルスエネルギーのパラメータの双方を最適化できるように個々に制御することができる。好適な実施形態では,MOPAとして構成されるとともに,特に集積回路パターン転写用の光源として使用するために設計されたArFエキシマレーザシステムとされる。
MOPAの好適な実施形態においては,各放電室は単一の横流ファンを備え,この横流ファンは,各パルス間で約0.25ミリ秒未満の時間内に放電領域から残存物を除去することによって4000Hz又はそれ以上のパルス率で動作できるのにするためのガス流を作り出す。主発振器には,線幅狭小化パッケージが設けられ,この線幅狭小化パッケージは,4000Hz又はそれ以上の反復率でパルス対パルスに基づいて中心線の波長を制御するとともに0.2pm(FWHM)未満の帯域幅を作り出すことができる超高速調整ミラーを備える。」
・ 「【0011】
【発明の実施の形態】第1実施形態
全体レイアウト-3波長対応プラットホーム
図1は,本発明による第1の好適な実施形態の斜視図である。本実施形態は,MOPAレーザシステムとして構成された種注入狭帯域エキシマレーザシステムである。このシステムは,特に,集積回路パターン転写用の光源としての使用するために設計されている。従来型パターン転写レーザと比較して本実施形態において例証される本発明の主要改良点は,種注入,及び,特に,2つの個別放電室を有する主発振器電力増幅器(MOPA)構成を利用した点にある。」
・ 「【0012】
本第1実施形態は,アルゴン-弗化物(ArF)エキシマレーザシステムであるが,本システムは,クリプトン-弗化物(KrF),ArF,又はフッ素(F2)レーザ部品のいずれにも適応するように設計されたモジュール型プラットホーム構成を使用している。このプラットホーム設計によって,これら3種類のレーザのいずれに対しても,同一の基本キャビネット及び多くのレーザシステムモジュールや部品を使用することができる。これら3種類のレーザ設計が,KrFについて約248nm,ArFについて約193nm,そして,F2について約157.63nmの波長を持つレーザビームを生成することから,出願人は,このプラットホームを「3波長対応プラットホーム」と呼ぶ。また,本プラットホームは,3つの波長の各々において上記装置の大手メーカ全ての最新パターン転写装置にこのレーザシステムを適合させるための接続部品を備えるように設計される。」
・ 「【0013】図1は,この好適なレーザシステム2の主要部品を示す。主要部品としては以下のものが含まれる。
(1) AD/DC電源モジュールを除くレーザの全モジュールを収納するように設計されたレーザシステムフレーム4,(2)AC/DC高電圧電源モジュール6,(3)4000充電パルス/秒の繰返し数で約1000ボルトに2つの充電コンデンサ列を充電するための共振充電器モジュール7,(4)各々が上記充電コンデンサ列の1つを備えるとともに,各々が充電コンデンサ列に蓄積されたエネルギーによって約16,000ボルトの非常に短い高電圧電気的パルス及び約1μsの持続時間を形成する整流子を備える2つの整流子モジュール8A及び8B,(5)フレーム4内に上下配置で取り付けられ,主発振器モジュール10及び電力増幅器モジュール12から成る2つの放電室モジュール。各モジュールは,放電室10A及び12Aと各放電室の上面に取り付けられた圧縮ヘッド10B及びと12Bを備える。各圧縮ヘッドは,整流子モジュールからの電気パルスを,それに対応して電流増加させながら約1μsから約50nmに(時間に関して)圧縮する。(6)線幅狭小化パッケージ10C及び出力カプラユニット10Dを含む主発振器光学部品,(7)種ビームを整形して電力増幅器に導くとともに,MO出力電力をモニタする光学部品及び計器を備えた波面操作ボックス14,(8)波長モニタ,帯域幅モニタ,及びエネルギーモニタを備えたビーム安定器モジュール16,(9)シャッタモジュール18,(10)ガス制御モジュール20,冷却水配送モジュール22,及び,換気モジュール24が設置される補助キャビネット,(11)関連機器接続モジュール26,(12)レーザ制御モジュール28,及び(13)状態ランプ30。」
・ 「【0014】本明細書において詳細に説明するこの好適な実施形態は,上述したArF・MOPA構成である。この特定構成を他の構成に変えるために必要な変更点の一部は,以下のものである。MOPA設計は,第2放電室の周辺に共振空洞を作ることによってMOPO設計に変更することができる。これを行うために数多くの手法を利用することができるが,その一部は,本明細書に参考文献として記載した関連特許出願で論じられている。KrFレーザ設計は,ArF設計と極めて類似したものとなる傾向があるので,本明細書に記載された構成の大部分はKrFレーザに直接適用することができる。実際,両レーザの波長が回折格子の列間隔の整数倍数に相当することから,ArFレーザ動作に使用される好適な回折格子は,KrFレーザでも正常に機能する。」
(イ) 上記によれば,本願明細書には,以下の事項が記載されているといえる。
a 狭帯域「種」ビームを利得媒体に注入するガス放電型レーザシステムの公知手法の1つでは,種ビームを生成する「主発振器」と呼ばれるレーザは,第1の利得媒体において非常に狭い帯域幅即ち超狭帯域幅のビームを作り出すように設計され,このビームが第2の利得媒体において種ビームとして使用され,第2利得媒体が「電力増幅器」(パワー増幅器)として機能する場合,このシステムを,主発振器電力増幅器(MOPA)システムといい,第2利得媒体自体が共振空洞を有する場合,このシステムを,主発振器電力発振器(MOPO)システムといい,この場合,種レーザを主発振器と呼び,下流側のシステムを「電力発振器」(パワー発振器)と呼ぶこと(段落【0008】)。
b 本願発明の好適な実施形態では,MOPAとして構成されること(段落【0010】)。
c 本願明細書において詳細に説明する好適な実施形態は,段落【0011】~【0013】に記述したArF・MOPA構成であるところ,MOPA設計は,第2放電室の周辺に共振空洞を作ることによってMOPO設計に変更することができ,これを行うために数多くの手法を利用することができるが,その一部が本願明細書に参考文献として記載した関連特許出願で論じられていること(段落【0011】~【0014】)。
上記のとおり,本願明細書においては,MOPA設計は,第2放電室の周辺に共振空洞を作ること,すなわち「電力発振器」(パワー発振器)とすることによってMOPO設計に変更できる旨が記載されているところ,この設計変更により第2利得媒体が「電力増幅器」(パワー増幅器)としての機能を喪失するものではないから,本願明細書の上記記載に接した当業者は,本願発明において,下流側のシステムを,上記aでいう「電力発振器」(パワー発振器)とすることも容易に認識し得ることである。
また,本願明細書には,「電力増幅器」(パワー増幅器)自体の技術的意味について詳細に説明する記載はなく,まして,「発振器」を含まない点についても記載も示唆もないのであるから,上記aのとおり,本願明細書においては,第2利得媒体が電力増幅器(パワー増幅器)として機能する場合,このシステムを,主発振器電力増幅器(MOPA)システムということに照らすと,「電力増幅器」(パワー増幅器)として機能するものであれば,「電力増幅器」(パワー増幅器)といい得るものと解すべきである。
そして,かかる解釈は,当業者の認識とも整合するものである。
すなわち,上記aのとおり,本願明細書には,第2利得媒体自体が共振空洞を有する場合に,下流側のシステムを「電力発振器」(パワー発振器)と呼ぶことの記載があるが,かかる記載からは,共振空洞を有するものを「電力発振器」(パワー発振器)と呼ぶ,ということが理解できるにとどまるのであって,共振空洞を有しないもののみを「電力増幅器」(パワー増幅器)と呼ぶものではないから,上記の解釈を妨げるものではなく,かかる記載を根拠にして,本願発明の「パワー増幅器」が「発振器」を含まないものであるとすることはできない。
また,本願明細書の段落【0019】,図面【図3A】及び【図3B】に示されるものが,「発振器」を構成しないものであるとしても,このものは,単に「好適な実施形態」にすぎず(段落【0011】・【0014】),本願明細書に,かかる実施形態の記載があることをもって,本願発明の「パワー増幅器」について,「発振器」を含まないものに限定されるということもできない。
したがって,本願発明について,上記のように理解すべきことは,本願明細書の記載とも符合するものであって,本願発明における「パワー増幅器」が「発振器」を含まないことは,本願明細書の記載から明らかであるとの原告の主張は失当である。
ウ 加えて,乙1~5には,それぞれ,以下の記載がある(下線は判決で付記)。
(ア) 乙1(特開平9-8389号公報。発明の名称「狭帯域化エキシマレーザー発振器」,出願人三菱重工業株式会社,公開日平成9年1月10日)
「【0002】
【従来の技術】エキシマレーザー発振器は,エキシマ(二つの原子が付着したゆるやかな結合状態の分子)状態から基底状態へ,紫外域の誘導放出光を出して遷移することを利用したものである。このエキシマレーザー発振器は,一般には,放電により励起している。つまり,レーザー管には希ガスとハロゲン元素とでなるレーザー媒質(混合ガス)が封入されており,放電を均一化し効率を上げるため予備放電電極により予備放電をした後,主放電電極がグロー放電して,レーザー発振が行なわれる。
【0003】ここで従来のエキシマレーザー発振器の一例を,図4を基に説明する。図4に示すようにこのエキシマレーザー発振器は,主に発振器10と増幅器20とで構成されている。
【0004】このうち発振器10では,レーザー媒質(希ガスとハロゲン元素との混合ガス)11が封入されたレーザー管12を間にして,一対のアパーチャ(孔直径が2~3mm)13a,13bが配置されている。更にアパーチャ13aの外側(図中左側)に出力鏡14が備えられ,アパーチャ13bの外側(図中右側)にビーム拡大素子(プリズム)15及び波長分散性光学素子(反射式回折格子)16が備えられている。
【0005】レーザー管12の放電電極(図示省略)の放電により生じた光は,出力鏡14と波長分散性光学素子16とで反射され両者の間で往復する。つまり出力鏡14と波長分散性光学素子16とにより光共振器が構成されている。3つのプリズムで構成したビーム拡大素子15は,アパーチャ13bから出力された光を拡大(光断面積を拡大)して波長分散性光学素子16に送る。波長分散性光学素子16は,回折現象を利用して入射光を分光し,特定の波長(次数)の光成分のみを反射する。反射した光は,ビーム拡大素子15により光断面積が絞られてアパーチャ13bに戻っていく。よって光は特定の波長幅に絞られて狭帯域化される。また,光はアパーチャ13a,13bを通過することにより拡がり角が制限されて高次の横モード発振が制限され,光の質が向上する。結局,波長分散性光学素子16の波長選択機能と,アパーチャ13a,13bの横モード発振制限機能とが相俟って,光が狭帯域化しきれいなスペクトルが得られる。更に光はレーザー管12を通過する毎に増幅される。そして光強度が発振しきい値を越えたら,出力鏡14からレーザー光Lが出力される。
【0006】一方,増幅器20では,レーザー媒質21が封入されたレーザー管22を間にして,孔付き凹面鏡23a及び凸面鏡23bが相対向して配置されている。この鏡23a,23bにより不安定共振器23が形成されており,凸面鏡23bの中心部には,レーザー光Lつまり発振波長の光成分を100%反射するコーティングが施こされている。更に,レーザー光Lをレーザー管22に導くミラー24,25が備えられている。
【0007】この増幅器20では,発振器10から出力されたレーザー光Lを,ミラー24,25で導びいてレーザー管21に通過させることにより,光強度を増幅する。更にレーザー光Lを不安定共振器23の凸面鏡23a及び凹面鏡23bで反射させることにより,光断面積の大きな平行光線としている。よって光断面積の大きな平行光線となった光強度の高いレーザー光Lが出力(凸面鏡23bから図中右方に出力)される。」(2頁2欄13行~3頁3欄21行)
(イ) 乙2(特開平2-12980号公報,発明の名称「狭帯域レーザ発振装置」,出願人株式会社東芝,公開日平成2年1月17日」)
「(従来の技術)
半導体露光用縮小投影露光装置の光源として狭帯域エキシマレーザが用いられつつあるが,この場合高出力を得るためにレーザ光発振器から発振されたレーザ光の出力を増幅する増幅部を使用したインジェクションロックの技術が用いられる。第5図に従来のインジェクションロック型の狭帯域レーザ発振装置を示す。
このレーザ発振装置1は,主発振部2と増幅部3とからなり,双方2,3ともがエキシマガスレーザ媒質を用いる。主発振部2はエキシマガスレーザ媒質を励起してレーザ光を発光させる放電管4を挟んで対峙する回折格子5および出力ミラー6が設けられている。
上記回折格子5と放電管4との間には上記放電管4側にピンホール7を有するプレート8と,回折格子5側に設けられ図示しないプリズムまたはエタロン等によって構成された波長選択素子9とが設けられ安定型のレーザ共振器が形成されている。
そして,上記主発振部2から発振されたレーザ光は第1および第2の高反射ミラー10,11により光軸が折曲され,増幅部3に入射される。
この増幅部3は上述のごとくエキシマガスレーザ媒質が封入された放電管12と,この放電管12を挟むように対峙して凸面ミラー13および凹面ミラー14とが配設されている。ここで,上記凹面ミラー14の中央部には約1mmの直径の貫通孔15が穿設されており,上記貫通孔15に上記主発振部2で発振されたレーザ光が入射されるようになっている。
上述のように構成されたレーザ発振装置1はまず,主発振部2によってスペクトル幅0.003nm,平均出力0.01wのレーザ光を発振する。これは,上記放電管4で発光された光を上記回折格子5,波長選択素子9およびプレート8のピンホール7等を通過させることにより,単一光を発振状態とし,所定の出力(0.01w)を上記出力ミラー6から上記第1の高反射ミラー10に向けてレーザ光を照射する。そして,第1の高反射ミラー10に反射されたレーザ光は第2の高反射ミラー11に反射されることで上記増幅部3に入射される。この増幅部3に入射されるレーザ光は凹面ミラー14の貫通孔15から不安定型共振器13,14間に入射され,この共振器13,14間でビームを拡大しながら複数回反射されることで,インジェクションロックされ狭いスペクトル幅を保ちながら,出力が増幅され,最終的に凸面ミラー13側から出射する。この増幅作用によりスペクトル幅は主発振部2から発振されたときと同じ0.003nmで,平均出力が50wの狭帯域レーザ光を得ることができる。」(1頁左下欄20行~2頁右上欄11行)
(ウ) 乙3(特開平1-305521号公報,発明の名称「露光装置」,出願人株式会社ニコン,公開日平成元年12月8日)
「もう一つのタイプのレーザ光源は,インジェクションロック型と呼ばれるものであり,第8図のように発振器と増幅器に分かれている。発振器において共振器用ミラー(102a,102b)か配置されている点は前述した安定共振型と同様であるが,このタイプでは発振器内に所定の領域の波長を選択するためのエタロン,回折格子等の波長選択素子(106)か備えられているとともに,放電管100の両端にレーザビームを所定の領域で遮断するアパーチャー(104a,l04b)か配置されており,発振されるレーザビームのスペクトルの半値幅が狭く(△λ~0.001nm),即ち単色性が向上している。さらに発振されたレーサビームはミラー(108)で曲折されて増幅器に入射し,第2の放電管(110)の両端に凸状面と凹状面を向きあわせて配設された不安定共振用ミラー(112a,112b)によって増幅されて出射される。この型のレーサ光源から出射されるレーザビームの特徴の一つは,発振器において単色性が高められており時間的コヒーレンスが高く,投影レンズ7において色消しの必要がないということである。」(5頁左上欄13行~同右上欄13行)
(エ) 乙4(特開平1-259533号公報:発明の名称「照明光学装置」,出願人株式会社ニコン,公開日平成元年10月17日)
「もう一つのタイプのレーザ光源は,インジェクションロック型と呼ばれるものであり,第7図のように発振器と増幅器に分かれている。発振器において共振器用ミラー(102a,102b)が配置されている点は前述した安定共振型と同様であるが,このタイプでは発振器内に所定の領域の波長を選択するためのエタロン,回折格子等の波長選択素子(106)が備えられているとともに,放電管100の両端にレーザビームを所定の領域で遮断するアパーチャ(104a,104b)が配置されており,発信されるレーザビームのスペクトルの半値幅が狭く(Δλ≈0.001nm),即ち単色性が向上している。さらに発振されたレーザビームはミラー(108)で曲折されて増幅器に入射し,第2の放電管(110)の両端に凸状面と凹状面を向きあわせて配設された不安定共振器用ミラー(112a,112b)によって増幅されて出射される。この型のレーザ光源から出射されるレーザビームの特徴の一つは,発振器において単色性が高められており時間的コヒーレンスが高く,投影レンズPLにおいて色消しの必要がないということである。」(5頁左上欄8行~同右上欄9行)
(オ) 乙5(特開平11-298083号公報,発明の名称「注入同期型狭帯域レーザ」,出願人株式会社小松製作所,公開日平成11年10月29日)
「【0028】
【発明の実施の形態】以下,図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0029】図1は,本発明の第1の実施の形態であるインジェクションロック型狭帯域レーザの全体構成を示す図である。
【0030】図1において,このインジェクションロック型狭帯域レーザはオシレータ段A,波長変換部12,および増幅段Bとから構成される。
【0031】オシレータ段Aは,ポンピングレーザ11と,これによって励起され,基本波光L1を出力するチタンサファイヤレーザ10とからなる。
【0032】ポンピングレーザ11としては,アルゴンイオンレーザ,YAGレーザ,YLFレーザ等が用いられ,アルゴンイオンレーザの場合は488nm,515nm等のマルチライン,YAGレーザの場合は第2高調波(532nm),YLFレーザの場合は第2高調波(527nm)がポンピング光として使用される。
【0033】チタンサファイヤレーザ10の詳細構成については後述するが,ポンピングレーザ11からのポンピング光が増幅媒体3としてのチタンサファイヤロッドに入射されると,増幅媒体3は,773.6nmのレーザ光を含む光を発生し,リアミラー1とフロントミラー4とで構成される共振器とこの共振器内の波長選択素子2等によって773.6nmの狭帯域のレーザ光を増幅発振して基本波光L1として波長変換部12に出力する。チタンサファイヤレーザ10内には,波長制御機能を有し,ビームスプリッタ5によって基本波光L1の一部を取り出し,波長モニタ6によって基本波光L1の波長を検出し,この検出した波長をもとに,波長コントローラ7がドライバ8を介して波長選択素子2及びリアミラー1を調整して,狭帯域の773.6nmの基本波光L1が出射されるようにフィードバック制御される。
【0034】波長変換部12は,入射された基本波光L1を和周波混合によって4倍の高調波である193.4nmのレーザ光に変換し,高周波光L2として増幅段Bに入力する。この波長変換部12は,非線形光学効果をもつ波長変換素子によって実現される。例えば,非線形光学素子を3つ用い,最初の非線形光学素子によって,入力された波長ωをもつレーザ光は,波長ωと2ωのレーザ光を生成し,次の非線形光学素子によって波長ωと波長3ω(ω+2ω)のレーザ光を生成し,さらに次の非線形光学素子によって波長ωと4ω(ω+3ω)のレーザ光を生成し,この波長4ωのレーザ光を透過させるミラーを用いて出力させるようにする。この高調波光L2は,全反射ミラー13,14を介して増幅段Bに入力される。
【0035】増幅段Bのチャンバ24内には,193nmのレーザ光を発生することができるArFガスが充填され,このArFガスをエキシマ状態に励起する放電電極23を有する。入力された高調波光L2は,凹面ミラーのカップリングホールを介してチャンバ24内に入力し,凸面ミラー21を介して反射し,さらに凹面ミラー22に反射し,出力光L3として出力する。高調波光L2がチャンバ23内を往復する間に,誘導放出を行うことにより,高調波光L2が増幅された出力光L3として出力される。この場合,ポンピングレーザ11,チタンサファイヤレーザ10,及び増幅段Bの放電電極23の放電タイミングを同期させる必要がある。」(4頁5欄41行~同6欄49行)
(カ) 上記(ア)ないし(オ)の記載によれば,レーザ光のパワー(出力)を増幅する機器であって,共振器を有するものを「増幅器(増幅部,増幅段)」と表現することがあることは,本願の優先日当時の技術常識であったということができる。
したがって,本願の優先日(平成12年10月6日)当時の技術常識を踏まえれば,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は,本願発明における「パワー増幅器」について,発振機能の有無に拘わらず,レーザ光のパワー(出力)を増幅する機能を有する機器であれば足りるものと容易に認識するものであり,本願発明について,上記ア,イのように理解すべきことは,本願の優先日当時の技術常識とも符合するものである。
以上のとおり,原告の主張は,本願発明における「パワー増幅器」が「発振器」を含まないものであるとの前提において失当であり,審決が,引用発明の「パワー発振器」が本願発明の「パワー増幅器」に相当するとし,「第2のレーザユニットは,パワー増幅器として構成される」点を両者の一致点と認定したことに,誤りはない。
エ 作用効果の相違に対し
原告は,本願発明の「パワー増幅器」は,引用発明の「パワー発振器」と作用効果で大きく異なると主張するが,以下のとおり,失当である。
上記のとおり,引用発明の「パワー発振器」は本願発明の「パワー増幅器」に相当し,「第2のレーザユニットは,パワー増幅器として構成される」点において両者は一致するから,この点に基づく作用効果の相違もない。
原告が主張する本願発明が奏する作用効果は,本願発明の「パワー増幅器」が「発振器」を含まないことを前提とするものであるところ,かかる前提が失当であることは,上記のとおりである。のみならず,原告主張に係る本願発明が奏する作用効果は,本願明細書に記載されておらず,原告の主張は,明細書の記載に基づかない点においても,失当である。なお,かかる作用効果が本願明細書に記載されていないことは,本願発明の「パワー増幅器」について,「発振器」を含まないものに限定して解することができないことの証左ともいえる。
(2) 原告主張の相違点②に対し
ア 原告は,引用発明においては,<ア>4000Hz以上の高い繰り返し周波数が対象とされているとはいえない,<イ>各パルスの直後に次のパルスに先立ち,放電後の分子を実質的に全て放電領域から除去しようという技術思想は開示されていない,<ウ>4000Hz以上という高い繰り返し周波数を実現するための具体的構成が開示されていない,と主張するが,以下のとおり,失当である。
引用発明の記載された引用刊行物(甲3)には,「本発明の好ましい実施形態は,10乃至40ワットの範囲におけるパワー出力を備える10乃至5mJの範囲におけるパルスエネルギを備える1000乃至4000Hzの範囲で作動しうる。」(段落【0006】)と明確に記載されていることから,上記記載に接した当業者は,引用発明にはパルスエネルギを4000Hzで作動し得るものとする技術思想が記載されていることを容易に首肯し得るといえる。
原告は,引用発明が公開された当時の技術としても,高くとも2500パルス/秒(2500Hz)程度の繰り返し周波数しか用いられていなかったものであるから,引用発明において,4000Hzという極めて高い繰り返し周波数が対象とされていると考えることは到底不可能である,と主張する。
しかし,引用発明において,リファレンスとして組み入れるとされた「1998年12月15日に出願された米国特許出願シリアル番号09/211,825号 High Pulse Rate Power System with Resonant Power Supply」(段落【0001】〔2頁2欄45行~47行〕)の特許明細書である米国特許6028872号公報(発明の名称「共振電源を備えた高パルス割合のパルス電源システム」,サイマー,インコーポレイテッド,2000年〔平成12年〕2月22日特許公報発行,乙6,7)の12欄7行~14行には,高パルス速度パルス電源システムについて,以下の記載がある。
「当業者は,上記の開示に表された教示に基づいて,本発明の他の多くの実施例が可能であることを理解するであろう。電圧値およびエネルギー値のようなパラメータの多くは異なったものであってもよい。リソグラフィーに使用される商業的なエキシマレーザーについては,少なくとも1000Hzの充電速度が好ましいが,遥かに速い速度,例えば2000Hzまたは5000Hz程度またはそれ以上が望ましいことになろう。」
上記記載によれば,引用発明の出願当時の技術水準として,繰り返し周波数を,5000Hz程度またはそれ以上とする技術思想が既に存在していたものといえ,引用発明の記載もかかる技術水準の存在を前提としてなされているものである。
このことからみても,引用発明において,繰り返し周波数として4000Hzが対象とされていることは明らかである。原告の主張は,失当である。
イ 放電後の分子を実質的に全て放電領域から除去することについて
(ア) 引用発明は,レーザガスのガス速度は「次のパルスに関して丁度良く電極間で新鮮なレーザガスを提供するのに十分である」ものである。
ここで,引用発明は「電極間で新鮮なレーザガスを提供する」ものであることは,電極間に提供されるレーザガスが新鮮なものであることが望ましいことを当然の前提としたものであるから,引用発明において,放電によって生成されたイオンを,次のパルスに先立ち,できる限り除去することは,当業者が当然考慮する程度のことというべきである。
したがって,引用発明において,「第1(第2)のレーザガスのガス速度」を,「放電によって生成されたイオンの実質的に全てを,次のパルスに先立ち」第1(第2)の放電領域から除去し得るガス速度に設定することは,当業者が容易に想到し得る程度のことである。
(イ) しかるところ,審決が繰り返し周波数とガスフローの関係についての周知技術を示すものとした特開平8-191163号公報(甲4),及び特開平9-228986号公報(甲5)には,以下の記載がある(下線は判決で付記)。
a 甲4(特開平8-191163号公報,発明の名称「ガスレーザ装置」,出願人株式会社東芝,公開日平成8年7月23日)
「【0002】
【従来の技術】一般に,ガスレーザ媒質を強制的に循環させるガスレーザ装置においては,上記ガスレーザ媒質が封入される気密容器を有する。この気密容器内には上記ガスレーザ媒質を強制的に循環させるための送風機が配置されているとともに,そのガスレーザ媒質の循環方向と交差する方向に所定の間隔で離間して一対の主電極が配設されている。
【0003】上記一対の主電極間には所定のタイミングで主放電が点弧される。それによって,一対の主電極間の空間部に流入したガスレーザ媒質はその主放電によって励起されてレーザ光を発生するようになっている。
【0004】主電極間の空間部で発生したレーザ光は,その主放電と交差する方向に配設された光共振器で反射を繰り返すことで増幅され,所定の強度に達すると,上記光共振器の出力ミラー側から発振出力される。また,ガスレーザ媒質は放電励起されることで温度上昇する。そこで,上記気密容器内には,温度上昇したガスレーザ媒質を冷却するための熱交換器が配置されている。
【0005】ところで,上記送風機によって強制的に循環するガスレーザ媒質は,一対の主電極間の空間部において流速分布が均一にならないということがある。図8に一対の主電極1,2間におけるガスレーザ媒質Gの流速分布を示す。
【0006】すなわち,一対の主電極1,2間の空間部3を通過するガスレーザ媒質Gは,上記主電極1,2の離間方向中央部分に比べて表面近傍の方が抵抗が大きい。そのため,上記空間部3を流れるガスレーザ媒質Gの流速分布は,同図に曲線Xで示すように一対の主電極1,2の離間方向中央部分が両端部分に比べて速くなることが避けられない。
【0007】上記放電空間部3におけるガスレーザ媒質Gの流速分布が一対の主電極1,2の離間方向において上述したごとく不均一となると,とくにレーザ発振の繰り返し数を高くした場合,主電極1,2近傍ではガスレーザ媒質Gが確実に置換されないことがある。つまり,前回の主放電に寄与したガスレーザ媒質Gがつぎの主放電時に空間部3に残留するということがある。
【0008】一度,主放電に使われたガスレーザ媒質Gには放電生成物などの不純物が含まれる。そのため,その不純物によって一対の主電極1,2間に点弧される主放電(グロー放電)が不安定となってアーク放電の発生を招き,出力の低下を招いたり,主電極1,2を早期に損傷させるなどのことがある。
【0009】一方,上記構成のガスレーザ装置において,動作可能なパルス繰り返し数fは,放電の幅Lとガスレーザ媒質Gの流速vに対してつぎの関係を有する。
f=v/(CR・L)…(1)式図中CRはクリアラアンスレシオと呼ばれ,装置固有の値で,通常,2~5程度である。したがって,パルス繰り返し数fはガスレーザ媒質Gの流速vによって決定されることになる。
【0010】ガスレーザ媒質Gの流速を高めるためには,上記送風機として静圧の大きい軸流型ファンが用いられている。直径60mm程度のファン1つでは最大静圧が330Pa程度であるから,比重量が0.43のガスレーザ媒質では流速vは最大で6m/sとなり,CR=2のとき,放電幅30mmでは動作可能な繰り返し数は100ppsとなる。
【0011】したがって,これ以上のパルス繰り返し数を得たいとき,つまりレーザ光の出力を高くしたいときには,2つの軸流ファンを直列に配置して静圧を増加させ,ガスレーザ媒質の流速を速くすることが考えられる。」(2頁1欄41行~3頁3欄6行)
b 甲5(特開平9-228986号公報,発明の名称「タイミングを調整できる送風機モータ」,出願人サイマーインコーポレイテッド,公開日平成9年9月2日)
「【0003】エキシマレーザは,一般に,パルスモードで動作する。放電領域内のガスに,基底即ち初期熱状態に復帰させるに充分な時間を与えるためにパルス動作が必要とされる。静的なガスシステムでは,ガスがこの状態に到達するのにほぼ1秒の時間を必要とし,従って,繰り返し率を甚だしく制限する。近代的なレーザシステムは,通常,ガスを循環するための接線方向送風機ファンを用いて,ガス放電領域内のガスを能動的に循環することにより,高い繰り返し率を得ている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】特定の繰り返し率を維持するのに必要なガスの流量は,次の式を用いて決定することができる。
クリア比=(流量)/〔(放電巾)(繰り返し率)〕
一般に,安定した放電を得るには,クリア比は,3で充分であると考えられる。しかしながら,パルス対パルスのエネルギー安定性を保証するためには,クリア比は,5ないし6であるのが好ましい。約1000ないし2000Hzの繰り返し率を維持するに必要なクリア比を得るためには,高いガス流量,ひいては,高い送風機ファン速度が必要とされる。」(3頁4欄40行~4頁5欄10行),
「【0014】エキシマレーザにおいては,パルス率が通常はかなり低い。ガスが静的である場合には,放電領域内のガス体積に,レーザパルスとレーザパルスとの間にその初期の熱的状態に復帰させるに充分な時間を与えねばならない。一般的に,この復帰時間は1秒程度であり,従って,静的ガスシステムのパルス率は約1パルス/秒に制限される。ガスが循環される場合には,パルス率を増加することができる。レーザを放電できる繰り返し率は,循環速度と,放電体積内のガス体積が交換される率とに基づく。従って,循環速度が高いほど,達成できる繰り返し率が高くなる。」(4頁6欄40行~50行)
(ウ) 上記のとおり,甲4,5には,電極間の空間(放電領域)に強制的にレーザガスを循環させながらレーザ光を得る装置においては,繰り返し周波数に応じてレーザガスのガス速度が設定される技術が開示されており,これによれば,当該技術は,本願の優先日当時の周知技術であったといえる。
そうすると,4000Hzの繰り返し数でパルスレーザを生成する引用発明において,ガス速度を,繰り返し数である4000Hzに応じたものに設定することは,当業者が適宜なし得る程度のことである。
ここで,上記のとおり,引用発明において,「第1(第2)のレーザガス…実質的に全てを…除去し得る」ガス速度に設定することは,当業者が容易に想到し得る程度のことであるから,結局,引用発明において,「第1(第2)のレーザガスのガス速度」を,「4000Hzの繰り返し数でレーザガスを生成する時に…実質的に全てを…除去し得る」ものに設定し,これにより相違点1に係る本願発明の構成を得ることは,当業者が容易になし得たものというべきである。
したがって,引用発明において,4000Hzの繰り返し数でレーザパルスを生成するに当たり,第1(第2)のレーザガスのガス速度を,放電によって生成されたイオンの実質的に全てを,次のパルスに先立ち第1(第2)の放電領域から除去し得るガス速度に設定することは,当業者が容易に着想できたことであるとした審決(14頁5行~16行)の判断に誤りはない。
原告は,本願発明は,高い繰り返し周波数を採用したため,放電領域から実質的に全ての残存ガスを除去し,生成されたイオンを実質的に除去しようとするものである,として,「次のパルスに関して丁度良い」程度に残存ガスの除去を図る引用発明との相違を主張する。
しかし,本願明細書には,「MOPAの好適な実施例においては,…4000Hz又はそれ以上のパルス率で動作できるのにするためのガス流を作り出す。」(段落【0010】)との一般的な記載,ガス速度について「約80m/sの速度のレーザガス流」(段落【0017】),「最大約67m/sのガス流」(段落【0117】)及び「67m/秒のガス流」(段落【0121】)との具体的な値の記載があるにとどまり,高い繰り返し周波数を採用することと,放電領域から実質的に全ての残存ガスを除去することとの関係を窺わせる記載は存在しないから,原告の主張は,本願明細書の記載に基づかないものである。
これをひとまずおくとしても,上記のとおり,引用発明において,放電によって生成されたイオンを,次のパルスに先立ち,できる限り除去することは,当業者が当然考慮する程度のことであって,引用発明において,「第1(第2)のレーザガス…実質的に全てを…除去し得る」ガス速度に設定することは,当業者が容易に想到し得る程度のことであるから,原告の上記主張は,審決(14頁5行~16行)の判断を左右するものではない。
さらに原告は,引用発明には,本願発明の構成である「放電によって生成されたイオンの実質的に全てを,…除去し得る…ガス速度を作り出す(第1及び第2の)ファン」は一切記載も示唆もされていないので,引用発明の「第1(第2)のブロア」は本願発明の「第1(第2)のファン」に相当するものではないと主張する。
原告の上記主張は,一致点の誤認に基づく相違点の看過をいうものと解される。
しかし,審決は,引用発明の「第1(第2)のブロア」なる構成が本願発明の「第1(第2)のファン」なる構成に相当すると判断し(11頁9行~18行),「放電によって生成されたイオンを,…除去し得る…ガス速度を作り出す」限りにおいて両者が一致すると認定した(11頁25行~30行)のであって,除去されるイオンが,放電によって生成されたイオンの「実質的に全て」であることまで一致すると認定していないことは,審決が,本願発明の構成である「第1(第2)のレーザガスのガス速度」が「放電によって生成されたイオンの『実質的に全てを,次のパルスに先立ち』…除去し得る」点を相違点1として認定した(13頁17行~29行)上で,相違点1について判断したものであることからも明らかである。
したがって,審決が相違点を看過したものということはできない。
そして,審決の相違点1の判断に誤りのないことは,上記のとおりである。原告の主張は,審決を正解しないものであって,失当である。
ウ(ア) 加えて,「第1(第2)のファン」の構造について,引用発明の記載された引用刊行物(甲3)には,図14A及び図14Bとともに以下の記載がある。
「【0021】ファン改良
本発明のこの好ましい実施形態は,従来技術のガスサーキュレータにおける大きな改良を含んでおり,レーザの性能を大きく改善する。これらの改良は,鑞付けなしのブロワーブレード構造の構築である。共鳴の影響を大幅に低減する非対称ブレード配置と,改良されたベアリングである。
…
【0024】ファン構造設計における改良は,図14Aに示したような非対称ブレード配置を必要とする。ファンブレード構造が16の個々に加工されたもので形成され,若しくは,23のブレードを備える各セグメントを有するカートセグメントである図14Bに示したような変形実施形態は,360°/(15×23)だけ,又は,隣接するセグメントに対して約1°だけ各セグメントを回転することである。」(6頁9欄38行~同10欄39行)
(イ) 上記において,「ファンブレード構造が16の個々に加工されたもので形成され,若しくは,23のブレードを備える各セグメントを有するカートセグメントである図14Bに示したような変形実施形態は,360°/(15×23)だけ,又は,隣接するセグメントに対して約1°だけ各セグメントを回転」したもの及び「図14Aに示したような非対称ブレード配置」したものは,それぞれ,本願明細書の段落【0121】及び図面【図18A】に記載の,「斜視図を図18Aに示す。ブレード構造は5インチ径を有し,中実アルミニウム製合金6061-T6棒材から機械加工される。各部の個々のブレードは,図18Aに示すように,隣接部と若干オフセットされている。」もの及び「個々のブレードを,ブレード軸に対して若干角度を付け」たものに相当する。
そうすると,引用発明の「第1(第2)のブロア」のファン構造は,本願明細書及び図面に記載の,「毎秒4000パルスまたはそれ以上の範囲」の繰り返し周波数での動作が可能なガス速度を作り出せるファンと同じ構造のものである。
このことからみても,審決(11頁9行~18行)が,引用発明の「第1(第2)のブロア」は,本願発明の「第1(第2)のファン」に相当すると判断したことに誤りはない。
エ 4000Hz以上の繰り返し周波数を実現するための具体的構成について
原告は,高い流速を設定することから生じる諸問題を克服することには,当然に技術的に困難を伴うと主張し,その一例として,本願発明においては,共振電源を採用していることを挙げ,引用刊行物(甲3)の実施例に記載された電源を用いたのでは,4000Hzの繰り返し周波数を実現することは不可能であると主張する。
しかし,上記実施例に記載された電源を用いたのでは4000Hzの繰り返し周波数を実現することが不可能であるとの原告の主張は,それ自体根拠を欠くものであって,失当である。そもそも,本願発明は,審決が認定したとおりのものであるところ,原告が例として挙げる「共振電源」は,本願発明の要旨とするものではないから,これをもって引用発明との差異を論じることには意味がない。
しかるところ,上記のとおり,引用刊行物(甲3)の記載に接した当業者は,引用発明にはパルスエネルギを4000Hzで作動し得るものとする技術思想が記載されていることを容易に首肯し得るといえる。
また,引用発明を実施するに当たり,当業者は,引用刊行物に記載された実施例に限らず,適宜設計的に当業者が利用可能な手段を採用し得るものというべきところ,引用刊行物にレファレンスとして組み入れられ,繰り返し周波数を5000Hz程度またはそれ以上とする技術思想が明示されている上記乙6の9欄54行~10欄3行には,以下の記載がある。
「共振充電
本発明の好ましい実施例において,図1および図2に示した第一の好ましい実施例について説明した二つの整流器,一つのインバータおよび一つの変圧器を利用する電源モジュールが,規格品の電源および共振充電回路で置換される。この後者のアプローチは,充電キャパシタの遥かに速い充電を提供する。
第一の共振充電器
この好ましい実施例を示す電気回路が図9Aに示されている。この場合,480VAC/40ampの入力および1200VDC50ampの出力を有する標準のキャパシタ充電電源200が使用される。このような電源は,Ecgar,Maxwell,KaiserおよびAleのような供給業者から入手可能である。」
上記によれば,引用発明の出願当時の技術水準として,原告のいう共振電源を用いる技術が存在していたものといえるから,電源の構成をもって引用発明が実施不可能であるということはできない。
第4当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2 取消事由の有無
(1) 原告は,審決が本願発明と引用発明との相違点を看過したものであるとし,具体的には,①本願発明の第2のレーザユニットは「増幅器」として構成されているのに対し,引用発明の第2のレーザユニットは「発振器」で構成されている点,②引用発明は繰り返し周波数が1000Hzであるのに対し,本願発明は4000Hz以上という極めて高い繰り返し周波数を対象としたシステムであり,かかる繰り返し周波数を実現するために,従来には存在し得なかった非常に高いガス流速を設定して,放電領域内から実質的に全ての残存ガスを除去するものである点,の2点が看過された相違点である旨主張するので,以下検討する。
ア 本願明細書(甲22〔特許願〕及び甲2〔平成17年1月12日付け手続補正書〕)には,以下の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲の請求項1は,前記第3,1(2)記載のとおりである。
(イ) 発明の詳細な説明の記載
・ 「本発明は,放電ガスレーザ,特に,超狭帯域・高反復率・種注入式のガス放電型レーザに関する。…」(段落【0001】)
・ 「【従来の技術】
放電ガスレーザ
放電ガスレーザは周知のものであり,1960年代にレーザが発明されて間もない頃から現在まで広く利用されている。2つの電極間の高電圧放電によりレーザガスが励起されることにより,ガス状の利得媒体が生成される。この利得媒体の入った共振空洞は,光の誘導増幅を可能とし増幅された光がレーザビームとして取り出される。これら放電ガスレーザの多くはパルスモードで作動される。」(段落【0002】)
・ 「エキシマレーザ
エキシマレーザは,放電ガスレーザの内の特定形式であり,1970年代半ばから知られている。集積回路パターン転写に有用なエキシマレーザの詳細は,1991年6月11日発行の『Compact Excima Laser』と題する米国特許第5,023,884号(以下「‘884特許」という)に記載されている。この特許は出願人の雇用主に譲渡されている。尚,この特許を本明細書の参考文献として参照されたい。上記‘884特許に記載されているエキシマレーザは,高反復率(高繰返し率)パルスレーザである。これらのエキシマレーザが集積回路パターン転写に使用される際には,通常,『24時間体制で』時間当り何千個もの高価な集積回路を生産する集積回路製造ラインで稼動される。従って,その停止時間は非常に高くつく可能性がある。このため,構成部品の大部分は,数分以内で交換可能なモジュールで各々構成される。通常,パターン転写に使用されるエキシマレーザでは,出力ビームの帯域幅を数ピコメートルまで狭める必要がある。この『線幅狭小化』は,通常,レーザの共振空洞の背面を形成する線幅狭小化モジュール(『線幅狭小化パッケージ』又は『LNP』と呼ばれる)において行なわれる。このLNPは,プリズム,ミラー,回折格子等の繊細な光学素子で構成される。…」(段落【0003】)
・ 「種注入
(エキシマレーザシステムを含む)ガス放電型レーザシステムの帯域幅を狭めるための公知手法には,狭帯域『種』ビームを利得媒体に注入するものがある。このようなシステムの1つでは,種ビームを生成する『主発振器』と呼ばれるレーザは,第1の利得媒体において非常に狭い帯域幅即ち超狭帯域幅のビームを作り出すように設計され,このビームが第2の利得媒体において種ビームとして使用される。第2利得媒体が電力増幅器として機能する場合,このシステムを,主発振器電力増幅器(MOPA)システムという。第2利得媒体自体が共振空洞を有する場合,このシステムを,種注入発振器(ISO)システム又は主発振器電力発振器(MOPO)システムといい,この場合,種レーザを主発振器と呼び,下流側のシステムを電力発振器と呼ぶ。2つの個別システムで構成されるレーザシステムは,同等の単一室レーザシステムに比較してかなり高価であり,更により大きく複雑になる傾向がある。そのために,2室レーザの商業的用途は制約されたものとなっている。」(段落【0008】)
・ 「【課題を解決するための手段】
本発明は,約4,000Hz又はそれ以上のパルス率及び約5mJから10mJ又はそれ以上のパルスエネルギーで,高品質のパルスレーザビームを生成することができる種注入モジュール式のガス放電型レーザシステムを提供する。2つの個別放電室が設けられ,それらの一方の放電室は,超狭帯域種ビームを生成する主発振器の一部となり,生成された超狭帯域種ビームが第2の放電室において増幅される。各放電室は,主発振器における波長のパラメータ及び増幅室におけるパルスエネルギーのパラメータの双方を最適化できるように個々に制御することができる。好適な実施形態では,MOPAとして構成されるとともに,特に集積回路パターン転写用の光源として使用するために設計されたArFエキシマレーザシステムとされる。MOPAの好適な実施形態においては,各放電室は単一の横流ファンを備え,この横流ファンは,各パルス間で約0.25ミリ秒未満の時間内に放電領域から残存物を除去することによって4000Hz又はそれ以上のパルス率で動作できるのにするためのガス流を作り出す。主発振器には,線幅狭小化パッケージが設けられ,この線幅狭小化パッケージは,4000Hz又はそれ以上の反復率でパルス対パルスに基づいて中心線の波長を制御するとともに0.2pm(FWHM)未満の帯域幅を作り出すことができる超高速調整ミラーを備える。」(段落【0010】)
・ 「【発明の実施の形態】
第1実施形態
全体レイアウト-3波長対応プラットホーム
図1は,本発明による第1の好適な実施形態の斜視図である。本実施形態は,MOPAレーザシステムとして構成された種注入狭帯域エキシマレーザシステムである。このシステムは,特に,集積回路パターン転写用の光源としての使用するために設計されている。従来型パターン転写レーザと比較して本実施形態において例証される本発明の主要改良点は,種注入,及び,特に,2つの個別放電室を有する主発振器電力増幅器(MOPA)構成を利用した点にある。」(段落【0011】)
・ 「本第1実施形態は,アルゴン-弗化物(ArF)エキシマレーザシステムであるが,本システムは,クリプトン-弗化物(KrF),ArF,又はフッ素(F2)レーザ部品のいずれにも適応するように設計されたモジュール型プラットホーム構成を使用している。このプラットホーム設計によって,これら3種類のレーザのいずれに対しても,同一の基本キャビネット及び多くのレーザシステムモジュールや部品を使用することができる。これら3種類のレーザ設計が,KrFについて約248nm,ArFについて約193nm,そして,F2について約157.63nmの波長を持つレーザビームを生成することから,出願人は,このプラットホームを『3波長対応プラットホーム』と呼ぶ。また,本プラットホームは,3つの波長の各々において上記装置の大手メーカ全ての最新パターン転写装置にこのレーザシステムを適合させるための接続部品を備えるように設計される。」(段落【0012】)
・ 「図1は,この好適なレーザシステム2の主要部品を示す。主要部品としては以下のものが含まれる。
(1)AD/DC電源モジュールを除くレーザの全モジュールを収納するように設計されたレーザシステムフレーム4,(2)AC/DC高電圧電源モジュール6,(3)4000充電パルス/秒の繰返し数で約1000ボルトに2つの充電コンデンサ列を充電するための共振充電器モジュール7,(4)各々が上記充電コンデンサ列の1つを備えるとともに,各々が充電コンデンサ列に蓄積されたエネルギーによって約16,000ボルトの非常に短い高電圧電気的パルス及び約1μsの持続時間を形成する整流子を備える2つの整流子モジュール8A及び8B,(5)フレーム4内に上下配置で取り付けられ,主発振器モジュール10及び電力増幅器モジュール12から成る2つの放電室モジュール。各モジュールは,放電室10A及び12Aと各放電室の上面に取り付けられた圧縮ヘッド10B及びと12Bを備える。各圧縮ヘッドは,整流子モジュールからの電気パルスを,それに対応して電流増加させながら約1μsから約50nmに(時間に関して)圧縮する。(6)線幅狭小化パッケージ10C及び出力カプラユニット10Dを含む主発振器光学部品,(7)種ビームを整形して電力増幅器に導くとともに,MO出力電力をモニタする光学部品及び計器を備えた波面操作ボックス14,(8)波長モニタ,帯域幅モニタ,及びエネルギーモニタを備えたビーム安定器モジュール16,(9)シャッタモジュール18,(10)ガス制御モジュール20,冷却水配送モジュール22,及び,換気モジュール24が設置される補助キャビネット,(11)関連機器接続モジュール26,(12) レーザ制御モジュール28,及び(13)状態ランプ30。」(段落【0013】)
・ 「本明細書において詳細に説明するこの好適な実施形態は,上述したArF・MOPA構成である。この特定構成を他の構成に変えるために必要な変更点の一部は,以下のものである。MOPA設計は,第2放電室の周辺に共振空洞を作ることによってMOPO設計に変更することができる。これを行うために数多くの手法を利用することができるが,その一部は,本明細書に参考文献として記載した関連特許出願で論じられている。KrFレーザ設計は,ArF設計と極めて類似したものとなる傾向があるので,本明細書に記載された構成の大部分はKrFレーザに直接適用することができる。実際,両レーザの波長が回折格子の列間隔の整数倍数に相当することから,ArFレーザ動作に使用される好適な回折格子は,KrFレーザでも正常に機能する。」(段落【0014】)
・ 「この設計をF2レーザに使用する場合,固有F2スペクトルは一方が選択されて他方が除外される2つの主要線幅を含むため,MOPA又はMOPOのいずれか,好ましくは,線幅セレクタユニットが,本明細書に記載されたLNPの代わりに使用される。」(段落【0015】)
・ 「電力増幅器は,電力増幅器放電室の放電領域を通る2つのビーム経路用に構成される。図3A及び図3Bは,主発振器及び電力増幅器を通るビーム経路を示す。図3Aに示すように,数回発振されたビームは,MO10の放電室10A及びLNP10Cを通過し,LNP10Cを通過時に大幅に線幅狭小化される。線幅狭小化された種ビームは,ミラー14Aによって上方に反射され,ミラー14Bによって(電極の向きに対して)僅かなスキュー角を持って水平に反射され放電室12Aを通過する。2つのミラー12C及び12Dは,電力増幅器の後端部にて,図3Bに示す電極の向きに一致して水平方向にPA放電室12Aを貫通する第2経路に対して上記線幅狭小化種ビームを反射する。」(段落【0019】)
・ 「共振充電
出願人は,C0の超高速充電のための2つの形式の共振充電システムを利用した。これらのシステムは,図5A及び図5Bを参照して説明することができる。
共振充電器
この好適な共振充電器を示す電気回路を図5Aに示す。この場合,交流208V/90amp入力及び直流1500V・50amp出力を有する標準直流電源200が使用される。電源は,約600Vから1500Vに調整可能な直流電源である。電源は,C-1に直接取り付けられるので,電源への電圧フィードバックが不要となる。電源がオンされると,C-1コンデンサの電圧が一定に調整される。システムの性能は,C-1の電圧調整とは無関係な面があるので,電源では,最も基本的な制御ループのみが必要である。第2に,電源は,C-1の電圧が電圧設定値を下回る場合には常にシステムにエネルギーを加えるようになっている。これによって,電源つまり各レーザパルスが初期化される間の時間全体わたって(及び,レーザパルス時も),C-1からC0への供給エネルギーを補給することができる。これによって,従来のパルス電力システムと比較して,電源ピーク電流に対する要件は更に緩和される。最も基本的な制御ループを備えた電源が必要なこと,及びシステムの平均電力要件に対して電源のピーク電流定格値を最小限に抑えることを組み合わせることによって,電源コストは,推定で50%低減される。更に,一定電流で一定出力の電圧電源は,複数の供給元から容易に入手可能であることから,この好適な設計によって販売業者選定に関する自由度が生まれる。このような電源は,Elgar,Universal Voltronics,Kasier及びEMIから販売されている。」(段落【0022】)
・ 「システム精度
IGBTスイッチ206が開放された後,インダクタ208の磁場内に蓄積されたエネルギーは,束縛のないダイオード経路215を介して(MO及びPA用C0の)2つのコンデンサ列42に移送される。リアルタイムのエネルギー算出精度によって,コンデンサ列42の最終電圧に存在する変動ディザー量が決まる。本システムの高い充電速度により,過大なディザーが存在して±0.05%の目標とするシステム調整要求量を満足することができない可能性がある。その場合は,例えば,以下で説明するデキューイング(De-Qing)回路又はブリードダウン回路など,追加の回路を利用することができる。」(段落【0024】)
・ 「第2の共振充電器
第2の共振充電器システムを図5Bに示す。この回路は図5Aに示すものと類似している。主な回路要素は以下のものである。
I1-定DC電流出力を有する三相電源300,
C-1-既存のC0コンデンサ42と同容量又はそれより容量の大きいソースコンデンサ302,
Q1,Q2,及びQ3-C0の調整電圧を充電及び維持するための電流を制御するスイッチ類,
D1,D2,及びD3-電流を一方向に流すためのダイオード,
R1及びR2-制御回路に電圧フィードバックするための抵抗,
R3-若干過充電が生じた際,C0の電圧を急速放電させるための抵抗,
L1-電流を制限し電荷移送タイミングを調整するC-1コンデンサ302とC0コンデンサ列42間の共振インダクタ,及び
制御盤304-回路フィードバックパラメータに基づいてQ1,Q2,及びQ3の開閉を指令する。」(段落【0025】)
・ 「レーザ室
熱交換器
この実施形態は,4,000パルス/秒のパルス反復率で動作するように設計される。パルス間の放電の影響を受けたガスの放電領域を清掃するには,電極18Aと電極20Aとの間に最大約67m/sのガス流が必要である。この速度を達成するために,横流ファンユニットの径は5インチ(ブレード構造体の長さは26インチ)に設定されており,回転速度は約3500rpmに上げられている。この性能を達成するために,実施形態は,協働して最大4kWの駆動電力をファンブレード構造体に送る2つモータを利用する。4000Hzのパルス速度で,放電によって約12kWの熱エネルギーがレーザガスに付与される。ファンによって付加された熱と共に放電によって生成された熱を除去するために,4つの個別の水冷式フィン付き熱交換器ユニット58Aが設けられる。以下,モータ及び熱交換器について詳細に説明する。本発明の好適な実施形態は,図4に全体的に示す4つの水冷式フィン付き熱交換器58Aを利用する。これらの熱交換器の各々は,図1で58に示す単一の熱交換器に多少類似するが実質的な改良点がある。」(段落【0117】)
・ 「ブロアモータ及び大型ブロア
本発明のこの第1の好適な実施形態では,レーザガスを循環させる2台のモータによって駆動される大型横流ファンが設置される。図24に示すこの好適な配置によって,4,000Hzパルス間で,放電領域内の約1.7cmの空間を通過し得る67m/秒のガス流が電極間に作り出される。ファンのブレード構造の断面を図4に参照番号64Aで示す。斜視図を図18Aに示す。ブレード構造は5インチ径を有し,中実アルミニウム製合金6061-T6棒材から機械加工される。各部の個々のブレードは,図18Aに示すように,隣接部と若干オフセットされている。このオフセットは,圧力波面の生成を防止するように予め不均一にされている。代案として,(圧力波面の生成を防止するように)個々のブレードを,ブレード軸に対して若干角度を付けることができる。」(段落【0121】)
(ウ) 図面(かっこ内は【図面の簡単な説明】の記載である)
・ 【図1】(本発明の好適な実施形態の斜視図である。)
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・ 【図3A】(2経路MOPAを示す図である。)
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・ 【図3B】(2経路MOPAを示す図である。)
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・ 【図5】(パルス電力システムの他の構成を示す図である。)
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・ 【図5A】(パルス電力システムの他の構成を示す図である。)
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・ 【図5B】(パルス電力システムの他の構成を示す図である。)
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・ 【図18A】(好適なファンブレ-ドを示す図である。)
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(エ) 本願発明の「電力増幅器」の技術的意義について,本願発明の電力増幅器がパワー増幅器として構成されることに争いがないところ,被告は,パワー増幅器とはその文言から「レーザ光のパワー(出力)を増幅する機能を有する機器であること」が一義的に明確に理解でき,発明の詳細な説明の記載を参酌すべき特段の事情はないとして,請求項1の「パワー増幅器」「(電力増幅器」を読み替えたもの)に関し発振機能の有無を特定する記載がないから,本願発明の「パワー増幅器」は,発振機能の有無に拘わらずレーザ光のパワー(出力)を増幅する機能を有する機器であれば足りると主張する。
しかし,「パワー増幅器」の意味について,「レーザ光の出力を増幅する機能を有する機器であること」については一応理解できるものの,特許請求の範囲の記載のみからは,「パワー増幅器」について,発振機能の有無に拘わらずレーザ光の出力を増幅する機能を有すれば足りるもの,すなわち発振機能を持たないパワー増幅器に限定されるものでない,と直ちに理解することはできない。
そして上記(ア)ないし(ウ)の記載によれば,本願発明は,以下のとおりの内容のものであることが認められる。
本願発明は,集積回路パターン転写用のレーザ光源に用いられる放電ガスレーザ(段落【0003】・【0011】)であり,特に超狭帯域・高反復率・種注入式のガス放電型レーザに関するものである(段落【0001】)。この放電ガスレーザのうちの特定の形式であるエキシマガスレーザは,高反復率パルスレーザとして実用に供されるところ,その装置は通常24時間体制で稼働するため一部の構成が停止すると工場全体に大きな影響を及ぼすこととなる。そこでこれら装置は,簡単に一部分のみの交換が可能なモジュールの集成として構成される(段落【0003】,【図1】)。このようなレーザシステムは,電源を除くレーザの全モジュールを収納するレーザシステムフレーム,電源モジュール,共振電源モジュール,放電室モジュール等から構成される(段落【0013】)。本願発明は,A)第1のレーザユニット,B)第2のレーザユニット,C)パルス電力装置,D)レーザビーム測定・制御装置から成り,第1のレーザユニットは主発振器として構成され,第2のレーザユニットは電力増幅器(パワー増幅器)として構成される(特許請求の範囲の記載)。
そして,本願発明の第2のレーザユニットは,上記のとおり電力増幅器(パワー増幅器)として構成される(特許請求の範囲の記載)ところ,従来公知のシステムにおいては,第2利得媒体(第2のレーザユニットに相当)が電力増幅器として機能する場合,主発振器電力増幅器(MOPA)システムといい,第2利得媒体が共振空洞を有する場合,主発振器電力発振器(MOPO)システムという(段落【0008】)。
その上で本願は,好適な実施形態では「MOPA」(第2のレーザユニットが増幅器であるもの)として構成される(段落【0010】)とするが,MOPA設計は,第2放電室の周辺に共振空洞を造ることによってMOPO設計(第2のレーザユニットが発振器であるもの)に変更することができる(段落【0014】)とし,MOPA構成とMOPO構成のいずれをも採用しうるレーザについての開示もある(段落【0015】)。そして特許請求の範囲には,第2のレーザユニットに関しては電力(パワー)増幅器とのみ記載されており,発振機能を有しないものに限定する旨の記載はない。
(オ) レーザーに関する文献である甲15~17には,以下の記載がある(本願の優先日〔平成12年10月6日〕以後に発行された文献もあるが,本願優先日当時の技術水準を示すものとして争いがない)。
a 甲15(黒澤宏「レーザー基礎の基礎」・平成18年10月19日第1版第3刷発行・株式会社オプトロニクス社・36頁~38頁)
「…反転分布を生じた媒質中を,その準位間のエネルギー差に相当する振動数の光が伝搬するとき,誘導放出が起こり,光は増幅されてレーザー発振に至ることになります。…
この場合,媒質外から光を入射させなくても,媒質中で生じた自然放出光を”たね”に誘導放出が起こります。ただし,媒質の単位長さ当たりの増幅度は小さいので,レーザー発振を起こさせるためには,非常に長い媒質が必要になります。しかしながら,実際にそのような長い媒質を作ることは不可能で,また実用的でもないことから,短い媒質の両端に反射鏡を置いて,光を何回もこの媒質中を往復させることによって,媒質との作用長を実質的に長くしています。このように2枚1組の反射鏡によって光を反射往復させる仕組みを”光共振器”と言います。」
b 甲16(潮秀樹「図解入門よくわかる光学とレーザーの基本と仕組み」・2007年〔平成19年〕9月1日第1版第2刷発行・株式会社秀和システム・212頁)
「レーザー発振の仕組み
すべてのレーザーは,レーザー媒質*と平行な2枚の鏡からできています。レーザー媒質は,反転分布状態になって誘導放出により光を放出する物質です。
…最初にレーザー媒質から自然放出された光は鏡で反射され,レーザー媒質に入射します。誘導放出で増幅された光が再び鏡で反射されレーザー媒質に入射します。これを繰り返すことにより,ねずみ算的に光が増幅され,…」
c 甲17(田幸敏治,大井みさほ「光学技術シリーズ12 レーザー入門」1997年〔平成9年〕6月10日初版第6刷発行・共立出版株式会社・13頁~14頁)
「…このように,光共振器は,光をその中に閉じ込め,定在波を形成し,出てくるレーザー光の特性を決める作用をする。はじめのきっかけは自然放出光であって,それが誘導放出光を引きだす…軸方向に進む光は誘導放出光を引きだすことによって増幅されながら反射鏡間を往復し続け,共振器の共振モードに規定される定在波を形成し,発振に至るのである。」
(カ) また,発振器に関する技術文献である甲20,21には,以下の記載がある(本願の優先日以後に発行された文献につき本願優先日当時の技術水準を示すものとして争いがない)。
a 甲20(「物理学辞典」・1996年〔平成8年〕10月15日改訂第3刷発行・株式会社培風館・1621頁)
「発振器[英 oscillator,…]外部入力信号なしに特定の周波数の波形を定常的に発生するものをいう.増幅器の出力が特定の周波数に対し十分な利得で正帰還されて発振する.帰還回路を抵抗とコンデンサーで構成したものがCR発振器で約1MHz以下の低い周波発生に適している.帰還回路がコイルとコンデンサーからなる共振回路で構成されたものをLC発振器といい,通常0.1MHz程度以上の高い周波数に適している.…」
b 甲21(「理化学辞典」・2003年〔平成15年〕11月10日第5版第7刷発行・株式会社岩波書店・1052頁)
「発振器[英 oscillator,…]周期性をもつ信号を持続的に発生する装置.ふつうは電気信号の場合をさし,増幅器に正のフィードバック*を組み合わせた反結合型が多く,発振条件はナイキストの定理*で求められる.代表的な正弦波発振器は増幅器に真空管またはトランジスターを用いており,出力の位相は入力とπだけ違っているので,RC回路を組み合わせて位相をさらにずらしてフィードバックすれば,適当な周波数に対して発振条件がみたされ,超低周波から10MHz程度までの発振が可能である.…」
(キ) そして,本願の優先日(平成12年10月6日)当時の「発振器」ないし「増幅器」に関する技術常識を示す証拠として被告が提出する乙1~5には,以下の記載がある(下線は判決で付記)。
a 乙1(特開平9-8389号公報。発明の名称「狭帯域化エキシマレーザー発振器」,出願人三菱重工業株式会社,公開日平成9年1月10日)の【発明の詳細な説明】
・ 「【従来の技術】エキシマレーザー発振器は,エキシマ(二つの原子が付着したゆるやかな結合状態の分子)状態から基底状態へ,紫外域の誘導放出光を出して遷移することを利用したものである。このエキシマレーザー発振器は,一般には,放電により励起している。つまり,レーザー管には希ガスとハロゲン元素とでなるレーザー媒質(混合ガス)が封入されており,放電を均一化し効率を上げるため予備放電電極により予備放電をした後,主放電電極がグロー放電して,レーザー発振が行なわれる。」(段落【0002】)
・ 「ここで従来のエキシマレーザー発振器の一例を,図4を基に説明する。図4に示すようにこのエキシマレーザー発振器は,主に発振器10と増幅器20とで構成されている。」(段落【0003】)
・ 「このうち発振器10では,レーザー媒質(希ガスとハロゲン元素との混合ガス)11が封入されたレーザー管12を間にして,一対のアパーチャ(孔直径が2~3mm)13a,13bが配置されている。更にアパーチャ13aの外側(図中左側)に出力鏡14が備えられ,アパーチャ13bの外側(図中右側)にビーム拡大素子(プリズム)15及び波長分散性光学素子(反射式回折格子)16が備えられている。」(段落【0004】)
・ 「レーザー管12の放電電極(図示省略)の放電により生じた光は,出力鏡14と波長分散性光学素子16とで反射され両者の間で往復する。つまり出力鏡14と波長分散性光学素子16とにより光共振器が構成されている。3つのプリズムで構成したビーム拡大素子15は,アパーチャ13bから出力された光を拡大(光断面積を拡大)して波長分散性光学素子16に送る。波長分散性光学素子16は,回折現象を利用して入射光を分光し,特定の波長(次数)の光成分のみを反射する。反射した光は,ビーム拡大素子15により光断面積が絞られてアパーチャ13bに戻っていく。よって光は特定の波長幅に絞られて狭帯域化される。また,光はアパーチャ13a,13bを通過することにより拡がり角が制限されて高次の横モード発振が制限され,光の質が向上する。結局,波長分散性光学素子16の波長選択機能と,アパーチャ13a,13bの横モード発振制限機能とが相俟って,光が狭帯域化しきれいなスペクトルが得られる。更に光はレーザー管12を通過する毎に増幅される。そして光強度が発振しきい値を越えたら,出力鏡14からレーザー光Lが出力される。」(段落【0005】)
・ 「一方,増幅器20では,レーザー媒質21が封入されたレーザー管22を間にして,孔付き凹面鏡23a及び凸面鏡23bが相対向して配置されている。この鏡23a,23bにより不安定共振器23が形成されており,凸面鏡23bの中心部には,レーザー光Lつまり発振波長の光成分を100%反射するコーティングが施こされている。更に,レーザー光Lをレーザー管22に導くミラー24,25が備えられている。」(段落【0006】)
・ 「この増幅器20では,発振器10から出力されたレーザー光Lを,ミラー24,25で導びいてレーザー管21に通過させることにより,光強度を増幅する。更にレーザー光Lを不安定共振器23の凸面鏡23a及び凹面鏡23bで反射させることにより,光断面積の大きな平行光線としている。よって光断面積の大きな平行光線となった光強度の高いレーザー光Lが出力(凸面鏡23bから図中右方に出力)される。」(段落【0007】
・ 【図4】
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b 乙2(特開平2-12980号公報,発明の名称「狭帯域レーザ発振装置」,出願人株式会社東芝,公開日平成2年1月17日)
・ 「(従来の技術)
半導体露光用縮小投影露光装置の光源として狭帯域エキシマレーザが用いられつつあるが,この場合高出力を得るためにレーザ光発振器から発振されたレーザ光の出力を増幅する増幅部を使用したインジェクションロックの技術が用いられる。第5図に従来のインジェクションロック型の狭帯域レーザ発振装置を示す。
このレーザ発振装置1は,主発振部2と増幅部3とからなり,双方2,3ともがエキシマガスレーザ媒質を用いる。主発振部2はエキシマガスレーザ媒質を励起してレーザ光を発光させる放電管4を挟んで対峙する回折格子5および出力ミラー6が設けられている。
上記回折格子5と放電管4との間には上記放電管4側にピンホール7を有するプレート8と,回折格子5側に設けられ図示しないプリズムまたはエタロン等によって構成された波長選択素子9とが設けられ安定型のレーザ共振器が形成されている。
そして,上記主発振部2から発振されたレーザ光は第1および第2の高反射ミラー10,11により光軸が折曲され,増幅部3に入射される。
この増幅部3は上述のごとくエキシマガスレーザ媒質が封入された放電管12と,この放電管12を挟むように対峙して凸面ミラー13および凹面ミラー14とが配設されている。ここで,上記凹面ミラー14の中央部には約1mmの直径の貫通孔15が穿設されており,上記貫通孔15に上記主発振部2で発振されたレーザ光が入射されるようになっている。
上述のように構成されたレーザ発振装置1はまず,主発振部2によってスペクトル幅0.003nm,平均出力0.01wのレーザ光を発振する。これは,上記放電管4で発光された光を上記回折格子5,波長選択素子9およびプレート8のピンホール7等を通過させることにより,単一光を発振状態とし,所定の出力(0.01w)を上記出力ミラー6から上記第1の高反射ミラー10に向けてレーザ光を照射する。そして,第1の高反射ミラー10に反射されたレーザ光は第2の高反射ミラー11に反射されることで上記増幅部3に入射される。この増幅部3に入射されるレーザ光は凹面ミラー14の貫通孔15から不安定型共振器13,14間に入射され,この共振器13,14間でビームを拡大しながら複数回反射されることで,インジェクションロックされ狭いスペクトル幅を保ちながら,出力が増幅され,最終的に凸面ミラー13側から出射する。この増幅作用によりスペクトル幅は主発振部2から発振されたときと同じ0.003nmで,平均出力が50wの狭帯域レーザ光を得ることができる。」(1頁左下欄20行~2頁右上欄11行)
・ 第5図
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c 乙3(特開平1-305521号公報,発明の名称「露光装置」,出願人株式会社ニコン,公開日平成元年12月8日)
・ 「もう一つのタイプのレーザ光源は,インジェクションロック型と呼ばれるものであり,第8図のように発振器と増幅器に分かれている。発振器において共振器用ミラー(102a,102b)か配置されている点は前述した安定共振型と同様であるが,このタイプでは発振器内に所定の領域の波長を選択するためのエタロン,回折格子等の波長選択素子(106)か備えられているとともに,放電管100の両端にレーザビームを所定の領域で遮断するアパーチャー(104a,l04b)か配置されており,発振されるレーザビームのスペクトルの半値幅が狭く(△λ~0.001nm),即ち単色性が向上している。さらに発振されたレーサビームはミラー(108)で曲折されて増幅器に入射し,第2の放電管(110)の両端に凸状面と凹状面を向きあわせて配設された不安定共振用ミラー(112a,112b)によって増幅されて出射される。この型のレーサ光源から出射されるレーザビームの特徴の一つは,発振器において単色性が高められており時間的コヒーレンスが高く,投影レンズ7において色消しの必要がないということである。」(5頁左上欄13行~同右上欄13行)
・ 第8図
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d 乙4(特開平1-259533号公報:発明の名称「照明光学装置」,出願人株式会社ニコン,公開日平成元年10月17日)
「もう一つのタイプのレーザ光源は,インジェクションロック型と呼ばれるものであり,第7図のように発振器と増幅器に分かれている。発振器において共振器用ミラー(102a,102b)が配置されている点は前述した安定共振型と同様であるが,このタイプでは発振器内に所定の領域の波長を選択するためのエタロン,回折格子等の波長選択素子(106)が備えられているとともに,放電管100の両端にレーザビームを所定の領域で遮断するアパーチャ(104a,104b)が配置されており,発信されるレーザビームのスペクトルの半値幅が狭く(Δλ≈0.001nm),即ち単色性が向上している。さらに発振されたレーザビームはミラー(108)で曲折されて増幅器に入射し,第2の放電管(110)の両端に凸状面と凹状面を向きあわせて配設された不安定共振器用ミラー(112a,112b)によって増幅されて出射される。この型のレーザ光源から出射されるレーザビームの特徴の一つは,発振器において単色性が高められており時間的コヒーレンスが高く,投影レンズPLにおいて色消しの必要がないということである。」(5頁左上欄8行~同右上欄9行)
e 乙5(特開平11-298083号公報,発明の名称「注入同期型狭帯域レーザ」,出願人株式会社小松製作所,公開日平成11年10月29日)
・ 「【発明の実施の形態】以下,図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。」(段落【0028】)
・ 「図1は,本発明の第1の実施の形態であるインジェクションロック型狭帯域レーザの全体構成を示す図である。」(段落【0029】)
・ 「図1において,このインジェクションロック型狭帯域レーザはオシレータ段A,波長変換部12,および増幅段Bとから構成される。」(段落【0030】)
・ 「オシレータ段Aは,ポンピングレーザ11と,これによって励起され,基本波光L1を出力するチタンサファイヤレーザ10とからなる。」(段落【0031】)
・ 「ポンピングレーザ11としては,アルゴンイオンレーザ,YAGレーザ,YLFレーザ等が用いられ,アルゴンイオンレーザの場合は488nm,515nm等のマルチライン,YAGレーザの場合は第2高調波(532nm),YLFレーザの場合は第2高調波(527nm)がポンピング光として使用される。」(段落【0032】)
・ 「チタンサファイヤレーザ10の詳細構成については後述するが,ポンピングレーザ11からのポンピング光が増幅媒体3としてのチタンサファイヤロッドに入射されると,増幅媒体3は,773.6nmのレーザ光を含む光を発生し,リアミラー1とフロントミラー4とで構成される共振器とこの共振器内の波長選択素子2等によって773.6nmの狭帯域のレーザ光を増幅発振して基本波光L1として波長変換部12に出力する。チタンサファイヤレーザ10内には,波長制御機能を有し,ビームスプリッタ5によって基本波光L1の一部を取り出し,波長モニタ6によって基本波光L1の波長を検出し,この検出した波長をもとに,波長コントローラ7がドライバ8を介して波長選択素子2及びリアミラー1を調整して,狭帯域の773.6nmの基本波光L1が出射されるようにフィードバック制御される。」(段落【0033】)
・ 「波長変換部12は,入射された基本波光L1を和周波混合によって4倍の高調波である193.4nmのレーザ光に変換し,高周波光L2として増幅段Bに入力する。この波長変換部12は,非線形光学効果をもつ波長変換素子によって実現される。例えば,非線形光学素子を3つ用い,最初の非線形光学素子によって,入力された波長ωをもつレーザ光は,波長ωと2ωのレーザ光を生成し,次の非線形光学素子によって波長ωと波長3ω(ω+2ω)のレーザ光を生成し,さらに次の非線形光学素子によって波長ωと4ω(ω+3ω)のレーザ光を生成し,この波長4ωのレーザ光を透過させるミラーを用いて出力させるようにする。この高調波光L2は,全反射ミラー13,14を介して増幅段Bに入力される。」(段落【0034】)
・ 「増幅段Bのチャンバ24内には,193nmのレーザ光を発生することができるArFガスが充填され,このArFガスをエキシマ状態に励起する放電電極23を有する。入力された高調波光L2は,凹面ミラーのカップリングホールを介してチャンバ24内に入力し,凸面ミラー21を介して反射し,さらに凹面ミラー22に反射し,出力光L3として出力する。高調波光L2がチャンバ23内を往復する間に,誘導放出を行うことにより,高調波光L2が増幅された出力光L3として出力される。この場合,ポンピングレーザ11,チタンサファイヤレーザ10,及び増幅段Bの放電電極23の放電タイミングを同期させる必要がある。」(段落【0035】)
・ 【図1】
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(ク) 上記(オ)~(キ)によれば,本願の優先日(平成12年10月6日)当時のレーザシステムの技術分野において,増幅器とは,レーザ光を増幅するものであると認められるところ,発振器とは,増幅器の構成に一対の平行な反射鏡等の共振器を加え,これによる共振機能を備えた増幅器をいうものと認められる。
そして,前記(エ)記載のとおり,本願明細書には,従来公知のシステムとしてMOPA構成とMOPO構成があるとし,その双方を採用しうる記載があり,特許請求の範囲には,本願発明のパワー増幅器である第2のレーザユニットに関し,発振(共振)機能を備えない増幅器に限定されると解すべき記載はないのであるから,本願発明のパワー増幅器は,パワー発振器とパワー増幅器のいずれをも含むものであると認められる。
イ 一方,引用発明の記載された甲3には,以下の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲の記載
「【請求項1】少なくとも約1000Hzの繰り返し数で狭帯域パルスレーザビームを生成するための非常に狭帯域の高信頼性・モジュラ製造高品質高繰り返し数ArFエキシマレーザであって,
A.レーザチャンバを包含する迅速に交換可能なレーザチャンバモジュールとを有し,前記レーザチャンバモジュールが,
1)2つの細長い電極と,
2)a)フッ素と,
b)不活性ガスと,
からなるレーザガスと,
3)少なくとも2cm/ミリ秒の速度で前記電極の間で前記ガスを循環させるためのガスサーキュレータと,を備え,
B.少なくとも1つの迅速に交換可能なモジュールからなるモジュラーパルスパワーシステムとを有し,前記システムは,電源と,パルス圧縮及び増幅回路と,少なくとも約1000Hzの周波数で前記電極にわたって少なくとも14000ボルトの高電圧電気パルスを作り出すパルスパワー制御とを含み,
C.前記パルスパワーシステムによって提供される電圧を制御するためのレーザパルスエネルギ制御システムとを有し,前記制御システムは,レーザパルスエネルギモニタと,所望のエネルギ範囲内でパルスエネルギを有するレーザパルスを生成するのに必要な電気パルスを,歴史的なパルスエネルギデータに基づいて計算するためのアルゴリズムをプログラムされたコンピュータプロセッサとを含む,レーザ。」
(イ) 発明の詳細な説明の記載
・ 「…本発明は,レーザに関し,特に狭帯域ArFエキシマレーザに関する。」(段落【0001】)
・ 「【従来の技術】KrFエキシマレーザ
フッ化クリプトン(KrF)エキシマレーザは,集積回路リソグラフィ産業の役に立つ光ソースに現在なっている。…フッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザは,KrFレーザと非常に似ている。主な違いは,レーザガス混合と,出力ビームのより短い波長である。基本的に,アルゴンはクリプトンを置換し,その結果,出力ビームの波長は193nmである。このことにより,集積回路の寸法が約120nmまで更に減少する。157nmでのF2ビームによりパターン解像度の実質的な改良ができるので,F2レーザは,集積回路リソグラフィ産業において長らくKrF及びArFの後継者として認識されていた。これらのF2レーザは,KrF及びArFエキシマレーザと多少の変形を伴い非常に似ており,F2レーザとして作動させるために従来技術のKrF又はArFレーザと交換することが可能である。…」(段落【0002】)
・ 「電極6はカソード6Aとアノード6Bとからなる。アノード6Bは,図3の断面に示したアノード支持バー44によってこの従来技術の実施形態において支持される。フローは向かって時計回りである。アノード支持バー44の一つの角及び一つの端は,電極6A及び6Bの間に流すようにブロワー10からの空気を強制するためのガイド羽根として役立つ。この従来技術のレーザにおける他のガイド羽根を,46,48及び50で示す。穴が開けられた電流リターンプレート52は,アノード6Bをチャンバ8の金属構造に接地するのを助ける。プレートは,レーザガスフローパスに配置された大きな穴(図3では図示せず)で穴が開けられており,電流リターンプレートはガスフローに実質的に影響しない。個々のキャパシタ19のアレイからなるピークキャパシタは,パルスパワーシステム2によって各パルスの前にチャージされる。電圧がピークキャパシタにビルドアップする間,2つのプレイオン化装置56は,電極6A及び6Bの間でレーザガスを弱くイオン化させ,キャパシタのチャージは約16,000ボルトに達するとき,電極の放電は,エキシマレーザパルスを生成するように生成される。次の各パルスに関して,ブロワー10によって生成され,約1インチ/ミリ秒の電極間のガスフローは,1ミリ秒後に生じる次のパルスに関して丁度良く電極間で新鮮なレーザガスを提供するのに十分である。」(段落【0003】)
・ 「【課題を解決するための手段】本発明は,1000乃至2000Hz又はそれ以上の範囲における繰り返し数で,約1pm又はそれ以下の半値幅を備える10mJより大きなパルスエネルギを備えるレーザパルスを作り出すことができる,高信頼性,モジュラ,プロダクション,高品質F2エキシマレーザを提供する。本発明の好ましい実施形態は,10乃至40ワットの範囲におけるパワー出力を備える10乃至5mJの範囲におけるパルスエネルギを備える1000乃至4000Hzの範囲で作動しうる。照射源としてこのレーザを使用する際,ステッパ又はスキャナ装置は,0.1μm又はそれ以下の集積回路解像度を作り出す。交換可能なモジュールには,レーザチャンバ,モジュラーパルスパワーシステムを含む。」(段落【0006】)
・ 「ファン改良
本発明のこの好ましい実施形態は,従来技術のガスサーキュレータにおける大きな改良を含んでおり,レーザの性能を大きく改善する。これらの改良は,鑞付けなしのブロワーブレード構造の構築である。共鳴の影響を大幅に低減する非対称ブレード配置と,改良されたベアリングである。」(段落【0021】)
・ 「ファン構造設計における改良は,図14Aに示したような非対称ブレード配置を必要とする。ファンブレード構造が16の個々に加工されたもので形成され,若しくは,23のブレードを備える各セグメントを有するカートセグメントである図14Bに示したような変形実施形態は,360°/(15×23)だけ,又は,隣接するセグメントに対して約1°だけ各セグメントを回転することである。ファンブレード構造製造に対する鋳造アプローチ又は加工において比較的容易にすることができる別の改良は,図14Cの320で示したようにエアーフォイル内にブレードを形成することである。従来技術のブレードはスタンプされ,スタンプされたブレードの2つの断面を314で比較して示す。318及び330で示された回転の方向は,ブレード構造円周を表す。従来のブレードが均一の厚さであるのに対して,エアーフォイル・ブレードは,周囲リード端,密集中央部,及び,テーパー跡端を包含するテア形状プロファイルを有する。」(段落【0024】)
・ 「パルスエネルギの制御
フォトダイオード92からの信号は,制御ボード100のプロセッサ102に転送され,プロセッサは,このエネルギ信号と,次の及び/又は更なるパルスに関するコマンド電圧を設定するために(パルスエネルギ制御アルゴリズムと名付けられた後の項で議論するような)好ましくは他の歴史的なパルスエネルギデータとを使用する。好ましい実施形態では,レーザは(約0.1秒のデッドタイムで区切られ2000Hzで100パルス0.5秒バーストするような)一連の短いバーストで作動し,制御ボード100のプロセッサ102は,パルス間のエネルギ変化を最小にするように,また,バースト間のエネルギ変化を最小にするように次のパルスに関して制御電圧を選択するために他の歴史的パルスプロファイルデータと一緒にバーストにおける全ての前のパルスのエネルギ信号と一緒に最も近いパルスエネルギ信号を使用する特定のアルゴリズムでプログラムされる。この計算は,約35μsの間,このアルゴリズムを使用して制御ボード100のプロセッサ102によって実行される。レーザパルスは,図8F3に示されたIGBTスイッチ46のT0発火に続く約5μS生じ,約20μsはレーザパルスエネルギデータを修正するために要求される。(スイッチ46の発火の開始をT0と呼ぶ。)従って,新しい制御電圧値はかくして,(2000Hzで発火期間が500μsである)前のパルスに関してIGBTスイッチ46の発火の後,約70ミリ秒(図8F1に示したように)準備される。エネルギ制御アルゴリズムの特徴を以下に記載し,米国特許出願第09/034,870号により詳細が記載されており,ここにリファンレンスとして組み入れる。」(段落【0038】)
・ 「単一ライン及び狭ラインコンフィギュレーション
図11Aは好ましいF2レーザシステムに関する好ましい単一ラインを示す。この構成では,2つの大きなF2ラインのうちの1つが,図に示したように簡単なプリズムセレクタで選択される。図11Bは,パワー発振器がマスター発振器によってシードされる好ましい線狭帯域化システムを示す。」(段落【0084】)
(ウ) 図面(かっこ内は【図面の簡単な説明】の記載である)
・ 【図11B】(2つの好ましいF2システムコンフィギュレーションを示す。)
file_13.jpgeaten y i S i 3 BS ° ; q x i 4 4 ” a ’ . : 4 Ny 1 +
・ 【図14A】(好ましいブロワーブレード構造設計を示す。)
file_14.jpg
・ 【図14B】(好ましいブロワーブレード構造設計を示す。)
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(エ) 上記(ア)ないし(ウ)の記載によれば,引用発明が記載された甲3には,集積回路リソグラフィに用いるエキシマレーザ(段落【0001】,【0002】)に関し,マスター発振器及びパワー発振器の2室からなる線狭帯域化システムにおいて,パワー発振器(図11B)に一対のミラーがありマスター発振器から注入されたレーザ光がその間を通過する構造が示されている。
以上の甲3の記載及び前記ア(オ)~(キ)によれば,引用発明のパワー発振器は,一対のミラーによりレーザ光のパワー(振幅)を増加させて大きいエネルギーの振動とする機能を有する装置であって,その振幅の成長が共振器(一対のミラー)により行われるものであると認められる。
ウ 以上の事実を前提として,まず,原告が審決が看過した相違点①として主張する,本願発明の第2のレーザユニットは「増幅器」として構成されているのに対し,引用発明の第2のレーザユニットは「発振器」で構成されているとの点について判断する。
上記ア,イによれば,本願発明のパワー増幅器と,引用発明のパワー発振器とは,ともに発振機能を備えたパワー増幅器を含むものである点で一致する。そうすると,審決が「引用発明の『パワー発振器』は,本願発明の『第2のレーザユニット』に相当し,また,マスター発振器から出力されたレーザ光を増幅するものであるから,上記パワー発振器が,本願発明の『パワー増幅器』であることも明らかである。」(11頁下2行~12頁2行)であるとして,「第2のレーザユニットは,パワー増幅器として構成されること」(13頁11行~12行)を一致点と認定したことに誤りはないというべきである。
エ 次に,原告が,審決が看過した相違点②として主張する,引用発明は繰り返し周波数が1000Hzであるのに対し,本願発明は4000Hz以上という極めて高い繰り返し周波数を対象としたシステムであり,かかる繰り返し周波数を実現するために,従来には存在し得なかった非常に高いガス流速を設定して,放電領域内から実質的に全ての残存ガスを除去するものであるとの点について検討する。
(ア) 上記ア(ア)~(ウ)に摘示したところによれば,ガス放電型レーザシステムにおいては,パルスの直後に放電によって生成されたイオンの実質的に全てを除去する必要があるところ,本願発明においては4000Hzの反復率で放電するために必要な残存ガス除去のためのガス流を設定する(特許請求の範囲,段落【0010】)ものと認められる。
(イ) 一方引用発明は,上記イ(ア)~(ウ)に摘示したところによれば,繰り返し周波数1000~4000Hzの範囲で作動しうるものである(段落【0006】)。
(ウ) 加えて,審決が「ガス放電型レーザシステムの技術分野において,レーザパルスを生成する反復率(繰り返し数)に応じてレーザガスのガス速度を設定すること」(14頁5行~6行)が周知であることの証拠とした挙げた甲4,5には以下の記載がある(下線は判決で付記)。
a 甲4(特開平8-191163号公報,発明の名称「ガスレーザ装置」,出願人株式会社東芝,公開日平成8年7月23日)
「【0002】
【従来の技術】一般に,ガスレーザ媒質を強制的に循環させるガスレーザ装置においては,上記ガスレーザ媒質が封入される気密容器を有する。この気密容器内には上記ガスレーザ媒質を強制的に循環させるための送風機が配置されているとともに,そのガスレーザ媒質の循環方向と交差する方向に所定の間隔で離間して一対の主電極が配設されている。
【0003】上記一対の主電極間には所定のタイミングで主放電が点弧される。それによって,一対の主電極間の空間部に流入したガスレーザ媒質はその主放電によって励起されてレーザ光を発生するようになっている。
【0004】主電極間の空間部で発生したレーザ光は,その主放電と交差する方向に配設された光共振器で反射を繰り返すことで増幅され,所定の強度に達すると,上記光共振器の出力ミラー側から発振出力される。また,ガスレーザ媒質は放電励起されることで温度上昇する。そこで,上記気密容器内には,温度上昇したガスレーザ媒質を冷却するための熱交換器が配置されている。
【0005】ところで,上記送風機によって強制的に循環するガスレーザ媒質は,一対の主電極間の空間部において流速分布が均一にならないということがある。図8に一対の主電極1,2間におけるガスレーザ媒質Gの流速分布を示す。
【0006】すなわち,一対の主電極1,2間の空間部3を通過するガスレーザ媒質Gは,上記主電極1,2の離間方向中央部分に比べて表面近傍の方が抵抗が大きい。そのため,上記空間部3を流れるガスレーザ媒質Gの流速分布は,同図に曲線Xで示すように一対の主電極1,2の離間方向中央部分が両端部分に比べて速くなることが避けられない。
【0007】上記放電空間部3におけるガスレーザ媒質Gの流速分布が一対の主電極1,2の離間方向において上述したごとく不均一となると,とくにレーザ発振の繰り返し数を高くした場合,主電極1,2近傍ではガスレーザ媒質Gが確実に置換されないことがある。つまり,前回の主放電に寄与したガスレーザ媒質Gがつぎの主放電時に空間部3に残留するということがある。
【0008】一度,主放電に使われたガスレーザ媒質Gには放電生成物などの不純物が含まれる。そのため,その不純物によって一対の主電極1,2間に点弧される主放電(グロー放電)が不安定となってアーク放電の発生を招き,出力の低下を招いたり,主電極1,2を早期に損傷させるなどのことがある。
【0009】一方,上記構成のガスレーザ装置において,動作可能なパルス繰り返し数fは,放電の幅Lとガスレーザ媒質Gの流速vに対してつぎの関係を有する。
f=v/(CR・L)…(1)式図中CRはクリアラアンスレシオと呼ばれ,装置固有の値で,通常,2~5程度である。したがって,パルス繰り返し数fはガスレーザ媒質Gの流速vによって決定されることになる。
【0010】ガスレーザ媒質Gの流速を高めるためには,上記送風機として静圧の大きい軸流型ファンが用いられている。直径60mm程度のファン1つでは最大静圧が330Pa程度であるから,比重量が0.43のガスレーザ媒質では流速vは最大で6m/sとなり,CR=2のとき,放電幅30mmでは動作可能な繰り返し数は100ppsとなる。
【0011】したがって,これ以上のパルス繰り返し数を得たいとき,つまりレーザ光の出力を高くしたいときには,2つの軸流ファンを直列に配置して静圧を増加させ,ガスレーザ媒質の流速を速くすることが考えられる。…」(2頁1欄41行~3頁3欄6行)
【図8】(従来の主電極間の空間部におけるガスレーザ媒質の速度分布を示す説明図)
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b 甲5(特開平9-228986号公報,発明の名称「タイミングを調整できる送風機モータ」,出願人サイマーインコーポレイテッド,公開日平成9年9月2日)
「【0003】エキシマレーザは,一般に,パルスモードで動作する。放電領域内のガスに,基底即ち初期熱状態に復帰させるに充分な時間を与えるためにパルス動作が必要とされる。静的なガスシステムでは,ガスがこの状態に到達するのにほぼ1秒の時間を必要とし,従って,繰り返し率を甚だしく制限する。近代的なレーザシステムは,通常,ガスを循環するための接線方向送風機ファンを用いて,ガス放電領域内のガスを能動的に循環することにより,高い繰り返し率を得ている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】特定の繰り返し率を維持するのに必要なガスの流量は,次の式を用いて決定することができる。
クリア比=(流量)/〔(放電巾)(繰り返し率)〕
一般に,安定した放電を得るには,クリア比は,3で充分であると考えられる。しかしながら,パルス対パルスのエネルギー安定性を保証するためには,クリア比は,5ないし6であるのが好ましい。約1000ないし2000Hzの繰り返し率を維持するに必要なクリア比を得るためには,高いガス流量,ひいては,高い送風機ファン速度が必要とされる。」(3頁4欄40行~4頁5欄10行)
「【0014】エキシマレーザにおいては,パルス率が通常はかなり低い。ガスが静的である場合には,放電領域内のガス体積に,レーザパルスとレーザパルスとの間にその初期の熱的状態に復帰させるに充分な時間を与えねばならない。一般的に,この復帰時間は1秒程度であり,従って,静的ガスシステムのパルス率は約1パルス/秒に制限される。ガスが循環される場合には,パルス率を増加することができる。レーザを放電できる繰り返し率は,循環速度と,放電体積内のガス体積が交換される率とに基づく。従って,循環速度が高いほど,達成できる繰り返し率が高くなる。」(4頁6欄40行~50行)
(エ) 上記(ウ)によれば,ガス放電型レーザシステムの技術分野において,レーザパルスを生成する反復率に応じた放電によるイオン除去のため必要なガス速度は,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)において適宜設定しうるものであると認められるところ,上記(イ)のとおり,引用発明においても4000Hzの反復率で作動するシステムが開示されているのであるから,本願発明と引用発明とで,「両者は,『毎秒4000パルス』(4000Hz)の『反復率』(繰り返し数)でレーザパルスを生成する点で一致する。」(11頁21行~22行)として,これを一致点とした審決の認定に誤りはない。
その上で審決は,「本願発明では,『第1(第2)のレーザガスのガス速度』が,毎秒4000パルス又はそれ以上の範囲の反復率で動作する時に,放電によって生成されたイオンの『実質的に全てを,次のパルスに先立ち』第1(第2)の放電領域から除去し得るのに対し,引用発明では,『1000Hzの繰り返し数でレーザパルスを生成する時,第1のブロワ及び第2のブロワは,次のパルスに関して丁度良く電極間で新鮮なレーザガスを提供するのに十分であるガスフローを形成する』から,少なくとも1000Hzの繰り返し数でレーザパルスを生成する時には,『第1(第2)のブロワ』が,放電によって生成されたイオンの『実質的に全てを,次のパルスに先立ち』第1(第2)の放電領域から除去し得るガス速度を作り出すものといえるが,4000Hzの繰り返し数でレーザパルスを生成する時のガス速度については明らかでない点。」を相違点1として認定し,レーザパルスを生成する反復率に応じてレーザのガス速度を設定することは周知であるとした(この認定に誤りがないことは上記のとおりである)上で,相違点1の構成は周知技術に基づき容易に着想できると判断したものである。したがって,この点についての審決の認定・判断にも誤りはない。
(2) 原告の主張に対する補足的判断
ア 原告は,発振器と増幅器は機能上区別されるところ,本願発明のパワー増幅器は発振器を含まず,この点について本願明細書の段落【0008】において明確にしていると主張する。
しかし,上記(1)ウで検討したとおり,本願発明のパワー増幅器は発振器を含まないものとは認められず,また本願明細書の段落【0008】の記載も,上記(1)ア(イ)で摘記のとおり「種注入(エキシマレーザシステムを含む)ガス放電型レーザシステムの帯域幅を狭めるための公知手法には,…このようなシステムの1つでは,…このビームが第2の利得媒体において種ビームとして使用される。第2利得媒体が電力増幅器として機能する場合,このシステムを,主発振器電力増幅器(MOPA)システムという。第2利得媒体自体が共振空洞を有する場合,このシステムを,種注入発振器(ISO)システム又は主発振器電力発振器(MOPO)システムといい,この場合,種レーザを主発振器と呼び,下流側のシステムを電力発振器と呼ぶ。…」とするものであり,従来公知のシステムにおいて,MOPA構成とMOPO構成とが上記内容であることを説明したものにすぎず,本願発明がこのうちのMOPA構成であることに限定するものではない。原告の上記主張は採用することができない。
イ 次に原告は,本願発明は第2のレーザユニットをパワー増幅器で構成したことにより,ビームのスペクトル幅を狭帯域化することができる(原告主張のa),耐故障性に優れる(同b),スペックル(光のむら)の影響を抑えることができる(同c),との3点で引用発明にはない作用効果を奏すると主張する。
しかし,原告主張の上記効果(a~c)は,いずれも本願発明の第2のレーザユニットが,共振機能を含まない増幅器に限定されることを前提とするものであって,この前提を採り得ないことについては既に検討したとおりであるほか,原告主張の上記効果(a~c)は,いずれも本願明細書には何らの記載がないものであって,原告の主張は明細書に基づかないものである。原告の上記主張は採用することができない。
ウ 次に原告は,本願発明の出願前の従来技術におけるパルス周波数は2500Hz程度であったところ,本願発明はこれを4000Hzという高い周波数で実現し,そのための残存ガスを除去するガス流速を設定したほか,共振電源を採用したものであるところ,引用発明の4000Hzとの記載は技術的に裏付ける記載がないと主張する。
乙6(米国特許6028872号公報,発明の名称 HIGH PULSE RATE PULSE POWER SYSTEM WITH RESONANT POWER SUPPLY〔共振電源を備えた高パルス割合のパルス電源システム〕,発明の譲受人〔出願人〕サイマーインコーポレイテッド,2000年〔平成12年〕2月22日特許公報発行)には,以下の記載がある。
「当業者は,上記の開示に表された教示に基づいて,本発明の他の多くの実施例が可能であることを理解するであろう。電圧値およびエネルギー値のようなパラメータの多くは異なったものであってもよい。リソグラフィーに使用される商業的なエキシマレーザーについては,少なくとも1000Hzの充電速度が好ましいが,遥かに速い速度,例えば2000Hzまたは5000Hz程度またはそれ以上が望ましいことになろう。」(12欄7行~14行,訳文による)
上記記載によれば,本願出願当時において,エキシマレーザにおいて既に5000Hz程度のパルス速度を用いる装置が知られていたほか,引用発明の記載された甲3に「1000乃至4000Hzの範囲で作動しうる」(段落【0006】)と明確に記載されていること,レーザパルスを生成する反復率に応じた放電によるイオン除去のため必要なガス速度は,当業者において適宜設定しうるものであることからして,本願発明のパルス速度(4000Hz)の点についても特段の意義があるものとはいえず,また本願発明において採用したとする共振電源についても,特許請求の範囲にはその記載はないから,原告の上記主張は採用することができない。
エ さらに原告は,本願発明におけるファンブレード(上記ア(ウ)の図18A)と引用発明のブロワーブレード(上記イ(ウ)の図14B)をみると,本願発明のファンブレードは圧力波面の生成を防止するように予め不均一にされているのに対し,引用発明のブロワーブレードはほぼ均一にされているから,両者は構成を異にする旨主張する。
しかし,本願発明におけるファンブレードの構成については,特許請求の範囲の記載に特段の記載がないほか,上記(1)エ(エ)のとおり,レーザパルスを生成する反復率に応じて放電によるイオン除去のため必要なガス速度は当業者において適宜設定しうるものであり,そこで設定されたガス速度に応じてファンブレード(ブロワーブレード)の構造を決定することは設計的事項であると認められる。原告の上記主張は採用することができない。
3 結語
以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は全て理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 今井弘晃 裁判官 清水知恵子)