知財高等裁判所 平成20年(行ケ)10324号 判決 2009年5月27日
原告
X
同訴訟代理人弁護士
日野修男
被告
特定非営利活動法人
全世界空手道連盟新極真会
同訴訟代理人弁護士
木村晋介
同
今井秀智
同
鈴木正勇
同訴訟代理人弁理士
広瀬文彦
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2007-890149号事件について平成20年7月25日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1 特許庁における手続の経緯
被告は,「新極真会」の文字を標準文字で表してなる登録第4756427号の商標(指定役務:第41類,平成14年1月16日登録出願,平成16年3月19日設定登録,以下「本件商標」という。)の商標権者である(甲1,2)。
原告は,本件商標に対し,平成19年9月17日,無効審判請求をしたが(無効2007-890149号事件,甲35),特許庁は,平成20年7月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,平成20年8月6日に原告に送達された。
2 審決の内容
審決の内容は,別紙審決書の写しのとおりである。要するに,審決は,本件商標に係る出願は,商標法4条1項7号及び19号に該当しないと判断したものである。
審決の上記判断の理由の要点は,次のとおりである。
(1) 「A」が死亡した平成6年4月時点においては,「極真関連標章」(判決注:別紙極真関連標章目録記載の各標章を意味するものとして用いられている。本判決においても,同様の意味で用いる。)は,少なくとも空手及び格闘技に興味を持つ者の間では,「A」が代表する「極真会館」(判決注:Aが設立した「国際空手道連盟極真会館」を意味するものとして用いられている。本判決においても,同様の意味で用いる。)というまとまった一つの団体を出所として表示する標章として広く知られていた。
(2) 極真関連標章は,遅くともAが死亡した平成6年4月の時点では,少なくとも空手及び格闘技に興味を持つ者の間では,「極真会館」又は「極真空手」(判決注:「極真空手」は,Aが創始した空手の流派を意味するものとして用いられている。本判決においても,同様の意味で用いる。)を表す標章として広く認識されるに至っていることが認められる。そして,極真関連標章が極真会館ないし極真空手を表す標章として広く認識されるに至ったのは,Aと同人が存命中の極真会館に属する各構成員の努力により,極真会館及び極真空手を全国に普及し,発展させた結果であるから,極真関連標章が表示する出所は,極真会館であることは明らかである。そうすると,Aが死亡したことにより,A及び同人から認可を受けた支部長らによる永年の努力により醸成された信用等が化体されている極真関連標章に係る権利は,極真会館に属する支部長ら構成員全体に,共有的ないし総有的に帰属していたものと解するのが相当である。
(3) A死亡後も,極真関連標章に係る権利は,「A」存命中の極真会館に所属していた支部長ら構成員全体に共有的ないし総有的に帰属し,支部長ら構成員は,その利益を享受し得るべきものというを相当とする。
(4) 本件商標は,東京地方裁判所平成11年(ワ)第12483号使用差止不存在確認請求訴訟(ほか1件)等による極真関連標章に紛争が生じていた当時の平成14年1月16日に商標登録出願され,「極真会」をはじめとする引用商標(判決注:別紙極真関連商標目録1,2,6,8記載の各商標を指すものとして用いられている。本判決においても,同様の意味で用いる。)に類似するとする商標法4条1項11号の拒絶理由通知を受けた後,裁判上の和解により,引用商標の商標権者である「B」こと「B’」(判決注:以下「B」という。)に本件商標に係る出願人の地位を一時的に移転し,登録料納付時に再度移転を受ける形で商標登録を得たものである。
(5) 以上の事実を総合すると,本件商標は,Bその他の極真会館の空手の技術を継承する各派が乱立していた状況の中で自己の会派と他の会派を峻別する目的をもって,被告によって出願され,当時の引用商標の権利者であったBとの裁判上の和解により,法律上やむを得ず,再度の名義変更の手続を経て,被告に登録されたものと認められる。
してみれば,本件商標は,やや特異な経緯を辿って登録に至っているが,これが「その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ない」というべきものではない。また,本件商標は,その構成自体に矯激・卑猥なところのないものである。さらに,本件商標は,「不正の目的」(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的,その他の不正目的をいう。)による出願ということもできない。
第3原告主張の取消事由
審決には,商標法4条1項7号及び19号該当性の判断に誤りがあるから,取り消されるべきである。
1 極真関連標章について
(1) 極真関連標章が広く認識されるに至ったのは,Aが極真関連標章を創作し,極真空手を築き上げ弟子を養成したという,A個人の業績によるものである。極真会館は,Aによって創設されたが,A個人の広範な裁量によって運営されており,極真関連標章もA個人にそのすべての権利が帰属していた。
極真関連標章は,遅くともAが死亡した平成6年4月の時点では,少なくとも空手及び格闘技に興味を持つ者の間では,A個人の出所を表示する標章として広く知られていたものであり,A個人にすべての権利が帰属していた。
(2) 甲7,11の使用実態に照らすならば,極真関連標章は,A個人が自らの空手に名付けた「極真」を,A個人の出所を表示するものとして使用していることを示しているものといえる。
このように,A存命中は,Aが極真関連標章を独占していたが,同人が,それらの商標に係る権利を共有にするために,自らの持分の一部を極真会館に所属する支部長ら構成員に対して譲渡したという事実はない。
A死亡により,Aが保有する極真関連標章に係る権利は,相続によって,原告を含む相続人が包括承継した(民法882条)。原告を含む相続人が,極真関連標章に係る権利を共有にするために,自らの持分の一部を極真会館に所属する支部長ら構成員に対して譲渡した事実はない。
(3) 以上のとおり,極真関連標章が極真会館に所属する支部長ら構成員全体に共有的にも総有的にも帰属しているとはいえない。支部長ら構成員は,極真関連標章に係る権利を承継した原告をはじめ相続人らの許諾を得てはじめて,その利益を享受し得るものである。
2 商標法4条1項7号該当性について
(1) 本件商標と極真関連標章との対比
本件商標は,「新極真会」の文字を漢字でかつ標準文字に書してなる。他方,極真関連標章に係る標章は,別紙極真関連標章目録記載1,2,6,8を含むものである。
本件商標と上記極真関連標章とを対比すると,本件商標のうち「新」は「新しいこと」を示す接頭辞であるから,その要部は「極真会」又は「極真」の文字部分にあるのに対し,上記極真関連標章の要部は「極真」又は「極真会」であり,両者は要部を共通にし,類似する。
(2) Bの出願に係る極真関連商標に係る商標権についての無効審判
別紙極真関連商標目録記載の商標に係る商標権者は,Bであったが,いずれも無効審判において商標法4条1項7号に該当し,同法46条1項により無効とされた(甲3ないし6)。
(3) 小括
本件商標は,裁判上の和解に従ったものではあるが,Bが,被告からの出願に対して,被告に協力する目的で,一時的に譲渡を得ることによって,登録査定を受けて登録を受けたものである。ところで,Bが登録を受けた極真関連商標に係る商標権については,正当な権限なく出願したことを理由として,公序良俗に反するとして,無効事由が存在すると判断された(甲14)。
Bの有していた極真関連商標に係る商標登録について,公序良俗に反するとした事情が存在したことから,本件商標に係る商標登録についても同様に,公正な取引秩序を害し,公序良俗に反するものと評価できる。商標の登録の無効理由は,当該商標自体に付随する事情であるから,商標が第三者(被告)に移転することによって,商標自体の無効理由が治癒されるものではない。以上のとおり,本件商標は,商標法4条1項7号に該当し,同法46条1項により無効である。
3 商標法4条1項19号該当性について
被告は,「A総裁」の氏名を冒用し,「A総裁の意思を受け継ぎ,極真空手の誇りと精神を継承し」等と表示して,空手の教授という営業活動を行なっている(甲24,甲26の1ないし4)。被告は,極真関連標章に係る権利を承継した宗家及びその承継人がその使用を許諾したかのように装うことによって,空手教授や空手に関連する顧客を獲得しているのであって,同行為は,不正の利益を得る目的をもった本件商標の使用行為である。
また,被告は,B出願に係る極真関連商標の登録に無効理由が存在しないことを前提として,それとの抵触を避ける目的で,Bに対して出願中の本件商標をいったん移転した上で,本件商標を取得したものであったが,Bが登録を受けた極真関連商標に係る商標権について,不正の目的があったとして無効と判断された以上,本件商標についても,同様の理由により,商標法4条1項19号に該当し,同法46条1項により無効である。
第4被告の反論
審決には違法はなく,原告の主張には理由がない。
1 極真関連標章について
(1) 極真関連標章の表示する出所について
極真関連標章は,Aの下で,極真会館の構成員全体によって運営されてきた「極真会館」,及びその空手の流派である「極真空手」を,出所として表示するものとして使用され,そのように認識されてきた。需要者等は,極真関連標章を,A個人を表示する標章であるというよりは,むしろ,Aの主催する「極真会館」及び「極真空手」を表示する標章として認識した。
Aの死後,極真会館は混乱し,分裂したが,その後においても,当時の支部長等が極真関連標章を使用して空手の教授等を行ってきた。需要者は,極真関連標章(極真関連商標に類似する商標を含む。)を「極真会館」又はそれを受け継いだ団体又は組織を表示する標章であると認識していた。現在でも,極真会館から分裂した複数の団体が,極真関連標章を使用し,「極真」を含む標章を用いて空手の教授等を行っているが,需要者は,極真関連標章が,Aの遺族を出所とする標章であると認識することはない。
被告は,A生存中の極真会館に属し,Aの教えを受け,極真関連標章を使用する地位にあった支部長が設立した団体であり,極真会館とは,形式的には異なる団体ではあるが,それまで行っていた空手の教授等を継続して実施してきたものであるから,被告の継続的な使用は,極真関連標章が化体する信用等を維持するものとして,尊重されるべきである。
(2) 極真関連標章に係る商標権の不存在
極真関連標章は,極真会館を表示する商標として需要者に広く知られていた。しかし,Aは,極真関連標章について,商標登録出願をしたことはなく,極真関連標章に係る商標権は存在しなかった。未登録の商標に係る商標登録を得る地位についてまで,当然に,相続の対象となる権利と評価されるものではない。
極真関連標章は,A及び極真会館の構成員によって,使用されることにより需要者に広く認識されていたものであり,商標権としては成立していないものの,一定の保護すべき法的状態が形成されていた。極真関連標章が表示する出所は,Aではなく,団体としての極真会館及び各道場であることは明らかであり,極真会館の構成員等であった支部長らの極真関連標章の使用が否定されるものではない。
(3) 極真会館の事業の承継について
原告は,極真関連標章に係る権利について,Aから,相続により,包括的に承継したこと,Aの死後,妻のC(以下「C」という。)が,極真会館の二代目館長を襲名することを宣言し,極真会館宗家と名乗ったこと等から,原告が,その極真関連標章に係る権利の承継人である旨主張する。しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,まず,極真関連標章は,Aではなく,団体・組織としての極真会館を表示するものとして需要者に認識されているものであって,極真関連標章に関するそのような事実上の効果が,法律上の権利として,相続の対象になるということはない。また,妻のCの宣言や宗家としての名乗りには,何らの実体もない。Aの死後,A生存中の極真会館により行われていた空手の教授等の事業については,分裂した複数の団体がそれぞれ行っていたのが実情であり,原告を含む遺族は,極真会館及び極真会館が行っていた事業を遂行したことはない。
(4) 極真関連標章の使用権限について
Aの死後,極真会館内部の分裂や離脱等により,混乱した状況のもとでは,少なくとも,支部長らにより行われていた極真空手の教授等については,その事業を継続する限り,極真関連標章の使用が保護されるべきである。そして,極真会館分裂後の複数の団体による極真関連標章の使用実態を考慮すると,原告のみに極真関連標章の使用権限があるということはできず,むしろ実質的な指導に当たっていた団体や組織以外に使用を認めるとした場合には需要者間に混乱を招き,取引秩序を乱し,不当かつ不公正な結果となり許されるべきものではない。
よって,極真関連標章に係る権利は極真会館に所属していた支部長ら構成員全体に共有的ないし総有的に帰属しているとの審決の判断に誤りはない。
2 商標法4条1項7号該当性に対し
(1) 本件商標について
本件商標は,極真会館が分裂したことを前提として,被告により独自に考えられた商標であり,極真会館の他の分派とは,一線を画した別団体を表示するための商標である。極真関連標章に関する一連の裁判例からしても,従前の極真会館を承継する団体である被告が,極真団体の他の分派と区別をすることを目的として「極真」を含む本件商標を使用したのであって,そのような目的から出願された商標登録に,公序良俗に反すると評価される余地のないことは当然であるといえる。
(2) Bとの和解について
本件商標は,A死後の内部の混乱等を前提に,関連団体の意向を十分に考慮した上で,Bと被告との紛争等を終結させる意図をもって定められた新たな名称であって,原告も,このような紛争及び解決については,承知していたはずである。Bが当時有効のものとして有していた極真関連商標に係る商標権と被告の出願した本件商標との抵触を回避する目的で,裁判上の和解の内容に加えられた。本件商標は,同和解の内容に従って,出願手続が実施されて,登録された。仮に,Bの有していた極真関連商標に係る商標権の無効が,既に確定していたのであれば,被告は,当然に,Bの協力を得ることなく,単独で,本件商標の商標登録を得ることができたはずである。したがって,後にBの極真関連商標に係る商標登録が無効となったからといって,本件商標権についてまで,無効理由を含むことにはならない。
また,被告は,Bの有していた極真関連商標に係る商標登録について,無効審判により争っていた。被告は,Bの商標の有効性を是認して裁判上の和解をしたのではなく,Bとの紛争の長期化を避けるために,裁判上の和解に,上記の手段を取ることを加える内容とすることによって,紛争の解決を図ったのであるから,B側の事情と同一視される筋合いは存在しない。
(3) Bの有していた極真関連商標に係る商標登録の無効理由との関係
原告は,商標登録の無効理由は,当該商標自体に付随する事情であるから,商標権が第三者(被告)に移転することによって,商標自体に存在した無効理由が治癒されるものではないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,本件商標に係る商標権とBの有していた極真関連商標に係る商標権とは別個の権利である以上,本件商標に係る商標登録について,独立の無効理由が存在しない限り,無効とはならない。したがって,上記主張は,その主張自体失当である。
被告のした本件商標に係る出願は,Bの出願に係る極真関連商標を先願としてこれと類似するとの理由で拒絶されたため,原告とBとの間で成立した裁判上の和解において,本件商標を登録する手段として,一時的にBに出願人の地位を譲渡するとの手段を採ることを約したものである。そして,本件商標に対して先願であったBの有していた商標(引用例)が,その後,公序良俗に違反するとして無効と判断されたとしても,そのことを理由に,本件商標登録までが無効となるものではない。被告が,Bの協力を得て,本件商標の登録を得たことに,不正の意図等がないことは明らかである。また,被告は,極真関連商標と峻別する目的で,新たな商標である本件商標を創作し,出願したのであって,本件商標の取得に関して,B自身が使用する目的が存在したわけではない。Bは,上記和解の趣旨に沿って被告の商標登録手続に協力したにすぎない。以上のとおり,本件商標についての出願時及び査定時において,被告に公序良俗に反する不正の意図がないことは明らかである。
また,原告は,本件商標が,Bが当時有していた極真関連標章に係る登録商標と類似する点が公序良俗に違反すると主張する。しかし,この点の主張も,主張自体失当である。すなわち,極真関連標章と類似するか否かと公序良俗に反するか否かは,別個に判断されるべき事項であり,類似性があることをもって公序良俗違反に該当するものではない。本件商標が極真関連標章と類似していたとしても,本件商標の登録に至る経緯は正当なもので公序良俗違反ではない以上,商標法4条1項7号に該当しないという結論に影響を及ぼすことはない。
3 商標法4条1項19号の該当性に対し
(1) 不正の目的について
被告による本件商標の採用及び商標権は,当時係属していた訴訟における和解の内容とすることによって,Bが当時有していた極真関連商標の商標権との抵触を回避したものである。被告は,他の団体と峻別する目的で,あえて新たな商標である本件商標を採用したものであり,不正の目的はなかった。
(2) 被告のホームページ(甲26の1ないし4)の記載について
原告は,被告のホームページにおいて「A総裁」の氏名を冒用し,Aの著作である「極真」の由来の記述を冒用していると主張する。
しかし,被告は,上記ホームページにおいて,Aの氏名や由来について記載しているが,同記載は,被告が,「極真会」,「極真会館」から派生した団体であることを説明したにすぎない。被告は極真関連標章については使用することができる地位にあったこと,被告のホームページの記載は,自己の団体を説明する上での通常の範囲の使用であること等に照らすならば,同記載によって,本件商標を不正の利益を得る目的があったと解することはできない。のみならず,そもそも,被告が設立された平成15年当時において,原告は,本件商標の権利者でもない。
(3) 需要者等の誤認について
原告は,本件商標は,取引者及び需要者をして,Aの極真関連標章に係る権利を承継した宗家及びその承継人が,その使用を許諾したかのように誤認混同させる商標に当たると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,①そもそも,被告は,極真関連標章について使用できる地位にあったこと,②需要者の間には,極真会館が分裂し,複数の団体が「極真」の語及び極真関連標章を使用していることが認識されていたこと,③被告は,平成15年7月当時,極真会館から派生した正統な一派として認識されていたこと,④本件商標は,「新」の文字を付すことにより,他の極真団体と明確に区別することを意図したものと認められること等の事情に照らすならば,需要者の間において,宗家のみが極真に関するすべての権利を掌握管理しているという認識はなく,また,宗家の承諾を得たかのように装う必要性もなかった。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,原告主張の取消事由には理由がなく,原告の請求を棄却すべきものと判断する。以下,理由を述べる。
1 前提事実
当事者間に争いのない事実並びに証拠(甲1ないし5,13ないし15,18ないし22,31ないし34,41ないし43,44の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) Aは,「極真空手」の創始者であり,昭和39年,同空手に関する団体として極真会館を設立し,死亡した平成6年4月まで,極真会館の館長ないし総裁と呼ばれ,代表者として,同団体を運営していた。極真会館は,法人格はないものの,Aの下で規模を拡大し,世界各地に多数の支部等を置くほか,日本国内においても,総本部のほか,全国各地に支部等を置いた。支部は,それぞれ担当する地区が定められており,Aによって任命された支部長が,各担当の地区において,道場を開設し,極真空手の教授を行っていた(争いのない事実)。
(2) 支部長は,担当地区内に道場を開設して,極真空手に入門した道場生に対し,極真空手の教授を行い,極真空手の級位や初段の段位を与えることができ,また,担当地区内に,分支部を設けることができた。極真空手を学ぶ者は,本部直轄道場や各支部の道場に入門して,極真会館の会員となり,道場生として,極真空手の教授を受けた。Aが死亡した平成6年4月当時,極真会館は,日本国内において,総本部,関西本部のほか,55支部,550道場,会員数50万人を有し,世界130か国,会員数1200万人を超える勢力に達していた。極真会館は,毎年,「全日本空手道選手権大会」及び「全日本ウェイト制空手道選手権大会」との名称を付した極真空手の大会を開催すると共に,4年に1度,「全世界空手道選手権大会」との名称を付した極真空手の大会を開催していた(争いのない事実,甲14,15,18)。
(3) 極真会館は,次第にその規模が拡大し,規模の拡大に応じて,組織やその運営に関して,「道則」,「支部規約」及び「極真会館国内支部規約」等の基本的な規定が定められたものの,館長ないし総裁たる地位の決定や承継等に関する規定はなく,また,現実の組織運営は,必ずしも同規定どおりに実施されていたのではなく,具体的な状況に応じて,Aが,個別的により裁量によって判断していた例もあった(甲15)。
Aの生存中における極真会館の基本的な組織及びその運用の概要は,以下のとおりであった。すなわち,極真会館は,総本部及び関西本部の下に,全国各地に支部が設けられ,Aが認可した支部長は,認可された支部で道場を開設し,極真空手の教授等を行なった。支部は基本的には,県などの地方行政区画ごとに設けられたが,東京都,大阪府,神奈川県等の一部の都府県については,さらに複数に分割された区域ごとに設けられた。各支部には一人の支部長が置かれ,原則として,一人の者が複数の支部の支部長に認可されることはないが,例外もあった。支部長の認可を受けた者は,①認可料,支部会費等を総本部に納入すること,②全日本選手権大会等の各種大会へ選手を派遣し,同大会の運営に協力すること,③支部長会議及び支部長講習会へ出席すること等が義務づけられており,極真会館を表示するマークを無断で使用することが禁止されていた。しかし,極真会館の支部長は,前記義務を果たす限り,道場や各種大会等において極真関連標章を使用することができたし,分支部長も,支部長の個別の許可等を要することなく,道場において,極真関連標章を使用することができた。極真会館において,極真関連標章の使用態様等を明確に規制していたことをうかがわせるに足りる証拠はない(甲14,18)。
また,支部長が上記の義務,規律に違反した場合は,支部長認可の取消しや除名等の処罰を受けることとされていた。なお,極真会館は,法人格を取得することはなく,またその代表者である館長ないし総裁の地位の決定や承継等に関する規定はなかった(甲18)。
(4) Aの死亡
ア Aは,平成6年4月26日に死亡した。同人が入院中の同年4月19日付けで同人の危急時遺言(以下「本件危急時遺言」という。)が作成され,本件危急時遺言には,Aの後継者をBとすること,極真会館の本部直轄道場責任者,各支部長及び各分支部長らはBに協力すべきこと並びにAの相続人は極真会館に一切関与しないこと等が記載されていた。
Aは,生前に,極真会館に属する者に対して,自己の死後に自己の館長たる地位を誰に承継させるかについて,その意思を示したということはなかった。
Aの葬儀は,同月27日に行われた。出棺の際,本件危急時遺言の証人の一人であるD(以下「D」という。)から,Aが遺言でBを後継館長に指名した旨の発表がされ,同日開催された支部長会議においても,Dから本件危急時遺言の内容についての説明がされ,Bも,自ら後継館長に就任する意思を表明した。その後,同年5月10日に開催された支部長会議において,全員一致でBの極真会館館長就任が承認された(甲13ないし15)。
イ 本件危急時遺言の証人の一人である弁護士のE(以下「E」という。)は,平成6年5月9日,東京家庭裁判所に対し,本件危急時遺言の確認を求める審判申立てをしたが,Aの相続人らは,同遺言に疑義を表明して争った。上記審判申立てに対して,東京家庭裁判所は,平成7年3月31日,これを却下した。
上記決定に対して,Eは東京高等裁判所に対して抗告したが,同裁判所は,平成8年10月16日,抗告を棄却し,最高裁判所も,特別抗告を棄却した(甲14,15)。
ウ Aの死亡により,妻C,長女F,二女G,原告,Hの5名が相続し(甲42),その後,上記長女が平成8年9月21日に死亡し,平成17年12月29日,Aに係る遺産分割協議書及び他に相続人がいないことの証明書が作成され,Aのすべての権利義務はCに相続された(甲41)。そして,Cは平成18年6月6日に死亡し,上記二女,原告及びIが相続したが,上記二女は同年8月18日に相続放棄をし,平成19年3月28日,Cに係る遺産分割協議書が作成され,上記Iが現金50万円を相続したのを除き,その余のすべての権利義務については原告が相続した(甲44の1ないし4)。
(5) 極真会館の分裂
ア Aの相続人らは,Bが極真会館の館長の地位を承継したと主張してAの後継者として活動したことに対して反発した。Cは,平成6年5月26日に,各支部長に対して,極真会館,極真空手等の名称や標章は自ら管理する旨を通知し,平成7年2月15日には,Cが,記者会見を開催して,自ら極真会館2代目館長を襲名することを発表した(甲15)。なお,Aの遺族が,極真会館又は極真空手の活動に従事したことはなかった。
イ 極真会館の支部長の中にも,Bに対して反感を持つ者が多数おり,相互に連絡を取り合って,Bが極真会館を私物化したなどの批判をし,Bに対する反発は高まっていった。このような状況の下で,平成7年4月5日,全国の各地区の代表者による支部長協議会が開催される予定であったが,その会場には支部長協議会の構成員ではない支部長も参集していた。そして,臨時に支部長会議が開催され,同支部長会議において,Bの館長解任の緊急動議が提出され,Bの館長解任が決議された。この解任動議に賛成した支部長らは,支部長協議会議長を中心に極真会館を運営すると主張した。
これに対し,B及びBを支持する支部長らは,平成7年4月6日,記者らと懇談し,Aが決めたものを支部長会議で覆すことはできず,上記の解任決議は効力がない旨反論し,Bが引き続き極真会館の館長の地位にある旨を宣言した。
このように,Aの死後,極真会館は,いくつかの分派が形成されたが,支部長会議においてBの解任決議がされた時点での極真会館の勢力関係は,Bを支持する支部長又は直轄道場責任者はBを含めて12人(「B派」と呼ばれた。),Cを支持する支部長は9人(「遺族派」と呼ばれ,後に「宗家」の他に「J派」と称するようになった。),前記の支部長会議において,Bを解任した勢力を支持する支部長又は直轄道場責任者は30人であった(「支部長協議会派」と呼ばれた。以上につき,甲13ないし15)。
ウ 上記各派は,いずれも自派が極真空手を正当に承継するものであるとして,極真会館を名乗って,道場の運営を行ない,従前,極真会館が行なっていたのと同一名称の極真空手の大会を開催するなどした。
その後,支部長協議会派は,代表者のKの名から「K派」と呼ばれていたが,平成12年10月10日付けで「特定非営利活動法人国際空手道連盟極真会館」との名称で法人登録をし,被告を設立した(その後,平成15年10月14付けで,名称を「特定非営利活動法人全世界空手道連盟新極真会」と変更した)。また,遺族派の一部,支部長協議会派の一部等は,平成13年12月,「日本空手道連盟極真会館全日本極真連合会」と称する団体を組織したり,平成15年11月には,B派の支部長の一部が同派から脱退し,「極真館」と称する団体を組織したりした。平成15年5月の時点では,A死亡時の支部長の数は,「J派」3名,「K派」12名,「B派」17名,「全日本極真連合会」12名,「極真館」3名,無所属3名となった。
このように,Aの生前の極真会館における支部長等は,各派に分かれ,それぞれが,本部,支部等を設け,道場で極真空手の教授等を行なったり,極真空手の大会を開催したりしており,Aの生前における,団体としての極真会館は,それぞれの支部長らが,これを承継すると主張して,複数の団体に分かれるに至った(甲14,18)。
(6) 極真関連商標をめぐる紛争について
ア 前記のとおり,Aないし極真会館は,大山の生存中,極真会館の構成員が極真関連商標を使用することについて特段の制限を設けなかった。また,Aから任命された支部長や,さらに支部長によって任命された分支部長が道場での極真空手の教授等の極真会館の活動を行なうに際して,極真関連標章を使用していた(甲14)。
イ Aは,その生存中,極真関連標章について,自己名義で商標権を有していなかった。もっとも,財団法人極真奨学会が,昭和51年,別紙極真関連標章目録記載2の標章と構成を同じくする「極真会館」との文字を横書きにし,指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)別表第24類「空手道衣及びその帯を含む運動用特殊衣服,その他本類に属する商品」又は同別表第26類「印刷物(文房具類に属するものを除く)書画,彫刻,写真,これらの附属品」とする商標,別紙極真関連標章目録記載8の標章と構成を同じくする「極真会」との文字を筆字によって縦書きにしてなり,指定商品を同別表第24類「空手道衣,その他の運動用特殊衣服,その他本類に属する商品」又は同別表第26類「印刷物(文房具類に属するものを除く)書画,彫刻,写真,これらの附属品」とする商標等について登録出願し,昭和55年から昭和59年にかけて,合計12件の商標登録がされた。しかし,そのうち,上記4件を含む9件は,平成2年から4年にかけて存続期間が満了したにもかかわらず,更新登録の手続をすることを失念していたために失効し,Aの死亡時までには登録が抹消されていた。そして,昭和59年に登録された3件の商標については,Bが,平成6年6月1日譲渡を原因として,同年10月24日,自己名義への移転登録手続を行なった(甲18)。
ウ 極真関連商標については,極真会館が法人格を有さず,極真会館の名義により商標登録出願を行なうことができないことから,Bが極真会館の代表者として個人名義で平成6年ないし7年に商標登録出願し,登録を受けた。これに対し,原告は,極真関連商標のうち4件の商標(別紙極真関連商標目録1,2,6,8記載の商標)に対して無効審判を請求し(無効2004-35028ないし35030号,35032号事件),特許庁は,平成16年9月22日,いずれの商標についても登録を無効とするとの審決をした(甲3ないし6,18)。これに対し,Bは審決取消訴訟を提起したが(平成17年(行ケ)第10029ないし10031号,10033号審決取消請求事件),知的財産高等裁判所は,平成18年12月26日,上記請求を棄却する旨の判決をしたので,さらにBは上告を提起し上告受理申立てをしたが,最高裁判所は,平成19年6月28日,Bの上告を棄却すると共に上告不受理の決定をし,上記審決は確定した(甲18ないし22,当裁判所に顕著な事実)。
エ Bは,極真関連商標の登録後,平成11年から平成12年にかけて,NTTに対し,極真関連商標を使用した広告の掲載の禁止を申し入れたため,B派以外の極真会館を名乗る団体の支部長らは,NTTが発行したタウンページに掲載する広告に極真関連商標を使用することができなくなった。
これに対し,平成11年及び12年,被告(当時の名称は前記「特定非営利活動法人国際空手道連盟極真会館」)外7名が,B外8名を相手として,使用差止不存在確認請求訴訟を提起し(東京地方裁判所平成11年(ワ)第12483号外1件),平成15年4月15日,同裁判所において,被告外7名及び利害関係人47名とB外8名との間において,裁判上の和解が成立した。
同和解は,①被告らとBらとは,Aの創設した極真空手を指導,教授,普及することをめざしていることを相互に認めるとともに,過去における相互の確執関係を解消させ,かつ,互いにその存在を尊重し合うこと,②被告は,平成15年7月15日限り,その名称を「特定非営利活動法人国際空手道連盟極真会館」から「特定非営利活動法人全世界空手道連盟新極真会」に変更すること,③本件商標については,Bが,被告の費用により被告が指定する弁理士を代理人として,和解成立後,被告の要請に応じて商標登録出願手続をし,同商標が商標登録出願後は同商標が商標登録されるために必要不可欠な手続を行い,同商標が商標登録された後は速やかに同商標登録による商標権を被告に移転するとともに,同移転登録を被告が単独申請することを承諾すること,④被告は,「極真」の文字が入る語を商標として用いる場合には,必ず同様の字体及び字の大きさにより「新」を直前に付して用いるものとすることを含むものであった(甲31)。
また,平成14年には,極真会館の支部長であった者が原告となり,Bを相手として,東京地方裁判所及び大阪地方裁判所に,被告が空手の教授等を行なうに際して極真関連商標を使用することについて,Bの有していた商標権に基づく差止めを求める権利を有しない旨の「差止請求権不存在確認等請求事件」を提起した(東京地方裁判所平成14年(ワ)第16786号,大阪地方裁判所平成14年(ワ)第1018号)。平成15年9月,東京地方裁判所及び大阪地方裁判所は,いずれも,支部長らのBに対する差止請求権不存在確認請求を認容した(甲14,15,18,弁論の全趣旨)。
(7) 本件商標及びその手続の経緯について
ア 本件商標は,「新極真会」の文字を標準文字で表してなるものであるところ,平成14年1月16日,被告(前記のとおり,当時の名称は,「特定非営利活動法人国際空手道連盟極真会館」)によって出願され,同年4月25日付けで上記出願は,極真関連商標に類似するので商標法4条1項11号に該当するとの拒絶理由通知を受けた。これに対し,被告は,上記和解に基づき,「本件商標につきましては,平成15年4月15日に引用商標権者との間で訴訟上の和解が成立し,本件商標を引用商標権者に,一旦譲渡して引用商標権者が本件商標権を登録することになりました。」との平成15年6月18日付け意見書及び同日付けで出願人名義人を被告からBに変更する旨の出願人名義変更届を提出した。そして,本件商標は,平成15年12月1日,登録査定がされ,平成16年1月7日,出願人名義変更届の提出により,名称を被告に変更し,被告が本件商標を承継した(争いのない事実,甲1,2,32,33)。
イ なお,被告は,平成17年10月21日,本件商標とは別に,上部に図柄を有し下部に「新極真会」と縦書きで表記した標章について,指定商品分類を第6類,第9類,第14類,第16類,第18類,第24類,第25類,第28類,第32類,第33類として商標登録出願をした(商願2005ー098689号,甲32)。ところが,原告が,平成16年10月22日,「新 極真会」と「SIN KYOKUSINKAI」と上下二段からなる標章で,指定商品を第25類「被服,空手衣」として,商標登録出願していたことから(商願2004-96659号,甲34),被告の上記商標登録出願については,上記原告出願の商標を含む引用商標に類似するとして,平成18年3月30日付けで商標法4条1項11号に該当することを理由に拒絶理由通知を受けている(甲33)。
2 商標法4条1項7号該当性について
(1) 前記1で認定したとおり,①「極真会館」は,Aが創設し,代表として活動していた団体・組織であり,法人格は取得していないものの,運営・組織についての規定が存在し,原則的にその規定に沿って,団体活動を継続していた一つのまとまった団体であったこと,②極真関連標章は,遅くともAが死亡した平成6年4月には,少なくとも空手及び格闘技に興味を持つ者の間では,Aが代表者として運営していた団体・組織である「極真会館」又はその空手の流派である「極真空手」を表す標章として広く知られていたこと,③しかし,Aは,その生存中,極真関連商標につき自己名義で商標登録出願をしていなかったこと(前記1認定のとおり,極真関連商標については,財団法人極真奨学会が商標登録していたことがあったが,A死亡時までには商標登録が抹消されているか,一部についてBに対して移転登録手続がされていた。),④支部長や支部長によって任命された分支部長が,道場での極真空手の教授等の極真会館の活動を行なう限りにおいては,極真関連商標を使用することができ,それぞれの支部長は,極真関連商標を使用してきた実情があったこと,⑤Aの死亡後,極真会館は分裂し,各支部長が,複数の分派に分かれて,それぞれが,「極真」ないし「極真会館」を承継する団体として,極真関連標章又はこれに類似する標章を使用していた状況にあったこと,⑥Aの遺族は,極真会館及び極真空手の活動に従事したことはなかったこと,⑦被告は,その一分派として,「極真会館」の10数名の支部長により構成され,全国に支部を設けて,活動を行っていた団体であるが,平成12年10月10日付けで「特定非営利活動法人国際空手道連盟極真会館」との名称(後に,「特定非営利活動法人全世界空手道連盟新極真会」と名称変更)で法人登録をし,被告を設立し,自己の分派と他の分派を区別する目的をもって,「新極真会」との標章を用いて,団体としての活動を継続し,その活動の過程で,本件商標を出願したこと,⑧被告による同出願は,当時,Bが有していた極真関連商標を引用例として拒絶理由通知を受けたこと,⑧引用商標の権利者であったBとの間の民事訴訟における和解において,一旦,Bに名義変更をした上で,再度の名義変更の手続を経由するとの裁判上の和解を得て,被告に登録されたこと等の事実が認められる。
以上のとおり,被告は,極真会館が分裂するまでは,極真会館の活動を続けていた「極真会館」の10数名の支部長により構成された団体であり,Aが死亡し,極真会館が分裂するまでは,当然に,事業活動に極真関連商標を使用することができたものであり,他の分派との区別を図る目的で,あえて「新極真会」の標章を用いて活動を行ったものである点に照らすならば,本件商標の出願が,その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ないものではないというべきである。
したがって,本件商標は,商標法4条1項7号に該当するものということはできない。
(2) 原告の主張に対し
ア 原告は,極真関連標章はAの死亡後,原告が相続したことを前提として,審決が,極真関連標章に係る権利は,極真会館及び各支部長に共有的に帰属していたと認定した点に誤りがあると主張する。
しかし,極真関連標章に係る権利を原告が承継したものといえないことは前記認定判断のとおりであり,原告の主張は,その主張自体失当である。
イ 原告は,極真関連標章は,Aないしその相続人の許諾なくして使用することができなかったと主張し,その証拠としてB作成の陳述書(甲38)及びBの本人尋問調書(甲39)を提出する。
しかし,上記各証拠によっても,極真会館の支部長は,その支部長として在任しその義務を果たす限り,極真関連標章を使用することができたというにとどまり,それを超えて,極真関連標章の使用に関して,Aの許諾を要するものであったということはできない。のみならず,Aの死後,極真関連標章の使用に関して,極真会館の事業に従事していない相続人の許諾を要するとの経緯が存在したことを認めるに足りる証拠はない。
かえって,前記1で認定したとおり,極真会館の支部長等の構成員は,その地位にとどまる限り,極真関連標章を使用することができたこと,被告は,極真会館の支部長であった者によって組織された団体であること,Aの死亡後,極真会館は分裂し,被告を含む各団体が極真関連標章を使用していたことに照らすと,被告が,本件商標を使用することを妨げる事情は存在しない。以上のとおりであり,原告の主張は理由がない。
ウ 原告は,本件商標がBが出願した極真関連商標と類似するものであるところ,Bが出願した極真関連商標が商標法4条1項7号により無効とされた以上,本件商標出願も同様に無効とされるべきものと主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
確かに,被告の本件商標の出願については,当時,Bの有していた極真関連商標を引用例として拒絶理由通知を受けたため,引用商標の権利者であったBに名義変更をした上で,再度の名義変更の手続を経由することによって,被告に登録された事情がある。そして,Bが有していた引用例とされた極真関連商標は,その後,無効とされるに至ったが,それは,Bの極真関連商標の出願に関するBの個別的事情によるものであって,そのような事情による無効理由があったからといって,被告の出願に係る本件商標についても,同様に,無効理由が存在するいうことはできない。そして,被告の本件商標に,商標法4条1項7号に該当する無効事由が存在しないことは,前記のとおりである。原告の主張は理由がない。
3 商標法4条1項19号該当性について
原告は,本件商標について,極真関連標章に係る権利を承継した宗家及びその承継人がその使用を許諾したかのように装い,空手教授や空手に関連する顧客を獲得するという不正の利益を得る目的をもって使用するものであるから,商標法4条1項19号に該当すると主張する。
しかし,原告の上記主張は失当である。
すなわち,原告が極真関連商標に係る権利を承継しその使用に原告の許諾を要するものとはいえないことは前記2で認定判断したとおりである。そして,本件商標は前記裁判上の和解にしたがって出願,登録されたものであり,Bの団体との峻別を目的に採用されたものである。
4 結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由には理由がない。原告は,その他縷々主張するが,他に審決を取り消すべき違法はない。したがって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 中平健 裁判官 上田洋幸)
file_3.jpg別紙