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知財高等裁判所 平成20年(行ケ)10351号 判決 2009年5月28日

原告

株式会社ベストソリューションズ

同訴訟代理人弁理士

押本泰彦

被告

特許庁長官

同指定代理人

石田清

矢澤一幸

安達輝幸

森山啓

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が不服2007-28238号事件について平成20年8月13日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

本件は,原告が,下記1のとおりの商標登録出願に対する拒絶査定不服審判の請求について特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記2のとおり)には,下記3の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

1  特許庁における手続の経緯

(1)  商標登録出願(甲1。以下「本件出願」という。)

商標の構成:別紙商標目録記載1のとおり(以下「本願商標」といい,本願商標のうち,ISOの文字部分を「ISO部分」,その他の文字部分を「ISO以外部分」という。)

出願日:平成18年7月11日(商願2006-64428号)

指定商品:別紙商標目録記載2のとおり

拒絶査定:平成19年9月10日付け(甲4)

(2)  審判請求手続

審判請求日:平成19年10月15日(不服2007-28238号。甲5)

本件審決日:平成20年8月13日

本件審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」

審決謄本送達日:平成20年8月29日

2  本件審決の理由の要旨

本件審決の理由は,要するに,本願商標は,国際標準化機構を表示する著名な標章となっている「ISO」(以下「引用標章」といい,これと本願商標とを「両標章」という。)と類似するから,商標法4条1項6号に掲げる商標に該当し,商標登録を受けることができない,としたものである。

3  取消事由

(1)  取消事由1(両標章の類否判断の誤り)

(2)  取消事由2(商標法4条1項6号の規定の解釈適用の誤り)

第3当事者の主張

1  取消事由1(両標章の類否判断の誤り)について

〔原告の主張〕

(1) 本願商標のISO部分とISO以外部分とを不可分一体のものとみるべきこと

本件審決(3頁下から5行~4頁8行)は,本願商標がISO部分とISO以外部分とから成ることを前提に,「称呼は,極めて冗長であるばかりでなく,…それぞれ外観上容易に,『ISO』の文字部分と他の文字部分とに分離して看取されるというのが自然である。また,これらをそれぞれ常に一体不可分のものとしてみなければならない特段の事情も見出し得ないものであるから,該『ISO』の文字とその他の文字との結合度は弱い」と判断したが,以下のとおり,称呼,観念及び外観のいずれの点からしても,その判断は誤りである。

ア 称呼について

(ア) 本願商標は,別紙商標目録の「商標の構成」上段の欧文字のみから成る部分(以下「上段部分」という。)並びに同下段の欧文字及び片仮名から成る部分(以下「下段部分」という。)とから成るものであるが,①いずれも,同じ書体,同じ大きさ,同じ間隔及び同じ色で横一連に書して成るものであるほか,共通して用いられている「ISO」は,「iso」が用いられる場合を含め,化学用語としては,「異性体」,一般用語としては,「等しい」又は「同一の」といった意味を表す用語として,国際標準化機構の発足した1947年(昭和22年)前から周知となっている接頭語「アイソ」と同じ(甲7及び8参照)であり,そのような接頭語として認識されるものであること,②「isoagglutination」(「アイソアグルティネーション」),「isobutane」(「アイソブタン」),「isoandrosterone」(「アイソアンドロステロン」),「isochromosome」(「アイソクロモサム」),「isocyanic acid」(「アイソシアニックアシド」),「isomagnetic」(「アイソマグネティック」)等の称呼数が13音にまで及ぶ単語も,これを一連に称呼するものとされている(甲7参照)こと,③また,そのような接頭語を冠した英単語(「iso-」)は,接頭語と一連に称呼して初めてその意味を理解することができるものであること,④原告は,総輸入代理店として,「ISO-Base」との商標を付した免震装置を「アイソベース」として紹介し,販売各社においても,「ISO-」(「iso-」)を「アイソ」と称呼するのが自然なものとなっていることからして,上段部分のハイフンの存在及び下段部分の文字種の相違を考慮しても,本願商標は,いずれも「アイエスオーマウントエクステンダー」と称呼するのではなく,「アイソマウントエクステンダー」(又は「イソマウントエクステンダー」)と称呼する(この場合には,「アイソ」と「マウントエクステンダー」とを分離することなく,一連によどみなく称呼する)のが自然である。本願商標を「アイエスオーマウントエクステンダー」と称呼するのは,英単語又はローマ字の「ISO」を読めない需要者及び取引者又は化学的知識のない者に限定されるというべきであるし,「アイソマウントエクステンダー」という称呼を「極めて冗長」などということはできない。

仮に,本願商標の称呼が多少冗長であるため,途中で一息つくとしても,「アイソマウント」と「エクステンダー」とに分離して称呼するのが自然である。

(イ) この点に関し,被告は,引用標章に係る「ISO」が「アイエスオー」又は「イソ」の称呼で広く知られているなどと主張する。

しかしながら,甲35によれば,引用標章も,第1に「アイソ」と称呼される旨の記載がある(「アイエスオー」との称呼は第2,「イソ」との称呼は第3とされている)し,また,需要者及び取引者は,アルファベットで記載された商標については,英語の正法に従い,「アイソ」又は「イソ」と称呼するのが自然であるから,本願商標からは,「アイソマウントエクステンダー」又は「イソマウントエクステンダー」の称呼が生ずるとみるのが自然であって,「アイエスオーマウントエクステンダー」といった称呼は生じない。

イ 観念について

(ア) 被告は,上段部分の「Mount」の語及び「Extender」の語が既成の英語であると主張するが,「Extender」の語は単独で,「Mount」の語はその前部に別の語を付して,商標(指定商品の分野を本願商標のそれと同じくするもの)として数多く登録されている(甲36~52)のであり,これらの語は,識別力を有するものである。

(イ) この点に関し,被告は,上段部分の構成全体又は「ISO-Mount」若しくは「Mount-Extender」の各部分は,何ら特定の意味合いを生ずるものではなく,それぞれの語の結び付きが総じて弱いとも主張する。

しかしながら,「Mount」の語が「山」をも意味すること及び「Extender」が原告を権利者とする登録商標であることに照らせば,「Mount-Extender」は,「山のようなエクステンダー」の意味合いを生じるものであり,相互に結び付きがあるというべきである。

また,「iso-」が「等しい」等の意味を有する接頭語であることからすると,「ISO-Mount」は,全体として,「等しい山」,「等しい山のような」などの意味合いを生じるものであり,相互の結び付きは,「Mount」と「Extender」のそれよりも強いというべきである。

ウ 外観について

本願商標のうち,上段部分は,同じ書体,同じ大きさ,同じ間隔及び同じ色で横一連に書して成り,「ISO」,「Mount」及び「Extender」の3つの語が2つのハイフンを介して結合されたものである。また,下段部分も,文字の種類は異なるものの,同じ書体,同じ大きさ,同じ間隔及び同じ色で横一連に書して成るものである。したがって,これらは,外観上も不可分一体のものとみるべきであり,ISO部分が独立して認識されることはない。

エ 小括

以上からすると,本願商標については,本件審決の前記判断とは反対に,上段部分及び下段部分とも,ISO部分とISO以外部分とを不可分一体のものとみるべき特段の事情があるというべきである。

(2) 両標章の類否

本件審決(4頁下から9~8行)は,本願商標が,引用標章と外観,称呼及び観念のいずれにおいても類似する旨判断しているが,以下のとおり,その判断は誤りである。

ア 本件審決の判断は,本願商標からISO部分のみが分離されるとの前提に立ったものであるが,ISO部分とISO以外部分とを不可分一体のものとみるべき特段の事情があることは,前記(1)のとおりであるし,外観及び観念の対比に当たっては,称呼数が考慮されるべきではなく,本願商標の全体と引用標章とが対比されるべきものである。

イ その見地から両商標をみると,本願商標は,外観上まとまりよく一体に表されているといえるところ,引用標章にない「-Mount-Extender」又は「マウントエクステンダー」を含む点において,両標章は,外観上大きく相違するし,引用標章に係る「ISO」が単独では単語として特段の意味合いを有しないのに対し,前記(1)イのとおり,本願商標のISO部分は,これに続くISO以外部分と相まって,いずれも「等しい山のようなエクステンダー」などの意味合いを有する点で,両標章は,観念においても異なるというべきである。

また,称呼をみても,引用標章からは「アイエスオー」との称呼が生じるのに対し,前記(1)アのとおり,本願商標からは,「アイソマウントエクステンダー」又は「イソマウントエクステンダー」との称呼のみが生ずる点で,両標章は,大きく異なるものである。

ウ 取引の実情について

(ア) 原告は,平成18年10月から,本願商標を付した免震装置を販売しているが,何らクレームを受けたことはない。また,本願商標を付した免震装置は,経済産業省の外郭団体である財団法人日本産業デザイン振興会主催のイベントにおいて,平成19年度のグッドデザイン賞を受けた(甲34)が,これは,審査員等においても,本願商標が引用標章と類似しないものと考えたことを示している。

(イ) 本願商標と国際標準化機構との関連性

a 引用標章に係る「ISO」の語は,「ISO 12100」などのように,5桁の規格番号が付されて初めて国際標準化機構につながりのある意味を持つものである。すなわち,需要者及び取引者は,「ISO」の語が規格番号と結合したときは,これを国際標準規格であると認識するといえるのであって,そのような規格番号と結合したものではない本願商標は,国際標準化機構とのつながりがないものとして需要者及び取引者に認識されるものである。

b 新聞及び雑誌には,「ISO-Base」,「ISOマウント・モジュラー」,「ISO-Mount-Extender」,「ISOマウントエクステンダー」等の名称の免震装置が頻繁に掲載され(甲72~87),また,「ISO-Base」の名称の免震装置は,850にも上る官公庁及び私企業に対し合計4万5000台が販売された実績を有するものである(甲88~107)ところ,これら販売先において,当該免震装置につき,国際標準化機構との関連で出所の混同を生じたことはない。

c さらに,免震装置以外の商品についても,「ISO-」,「ISO」又は「Iso-」を冠した商標が使用されている(甲108,110~113,132~141,143)。

d 以上のとおり,「ISO-」を冠した商標は,これと規格番号とが結合した場合を除き,国際標準化機構以外の者によって通常に使用されており,その使用に際して,国際標準化機構との関連で出所の混同を引き起こすことはないといえる。

エ 小括

以上からすると,両標章が類似するということはできない。

〔被告の主張〕

(1) 本願商標の構成からISO部分が独立して認識されること

ア 外観について

(ア) 上段部分の先頭の「ISO」の文字は,先頭に配されて看者の目に付きやすく,また,後続の「Mount」の文字とハイフンにより明確に区切られており,さらに,「ISO」の文字だけがすべて大文字であるとの点で,顕著な特徴がある。

加えて,引用標章が国際標準化機構を表す標章(略称)として世界的に著名であることを併せ考慮すると,「ISO」の文字は,「Mount」及び「Extender」に比べて,外観的に特に強い印象を与えるものといえる。

そうすると,先頭のISO部分は,ISO以外部分から独立して認識・把握されるものである。

(イ) また,下段部分の先頭の「ISO」の文字も,先頭に配されて看者の目に付きやすく,また,後続の「マウントエクステンダー」の片仮名文字と文字の種類が異なる点で,顕著な特徴がある。

加えて,引用標章が国際標準化機構を表す標章(略称)として世界的に著名であることを併せ考慮すると,「ISO」の文字は,「マウントエクステンダー」に比べて,外観的に特に強い印象を与えるものといえる。

そうすると,下段部分についても,先頭のISO部分は,ISO部分から独立して認識・把握されるものである。

イ 称呼について

(ア) 上段部分及び下段部分の各全体から生じる称呼は,「アイエスオーマウントエクステンダー」又は「イソマウントエクステンダー」であり,全体として特定の意味合いを看取させず,また,極めて冗長なものである。

加えて,先頭の「ISO」が「アイエスオー」又は「イソ」の称呼(国際標準化機構の呼び名)で広く知られていること,上段部分においてはハイフンが存在し,下段部分においては文字の種類が異なることなどを併せ考慮すると,上段部分及び下段部分は,いずれも,「アイエスオー」又は「イソ」と「マウントエクステンダー」とで区切って発音・聴取されるとみるのが自然であるといえる。

そうすると,冒頭のISO部分の称呼(「アイエスオー」又は「イソ」)は,独立して認識・把握されるものである。

(イ) 原告は,ISO(「iso」)は,「異性体」及び「等しい」又は「同一の」を意味するものとして,周知の接頭語であり,また,接頭語「iso-」を冠した英単語は,一連に称呼して初めてその意味を理解することができるなどと主張する。

しかしながら,原告が挙示する甲7及び8に原告が指摘するような意味が掲載されているとしても,それらの意味を有する「iso」の語は,一般に広く親しまれたものではないし,上段部分については,「ISO」の文字だけがすべて大文字でそろえて表され,ハイフンにより後続の文字と区切られており,下段部分については,「ISO」の欧文字の後に片仮名文字が続いている標記の仕方からみて,本願商標の「ISO」は,英語の接頭語というよりも,3つの欧文字から成る略語を表したものと認識されるとみるのが自然である。

ウ 観念について

(ア) 上段部分の「ISO」の語は「国際標準化機構」を意味するものであり,「Mount」の語は「取り付け台」等を,「Extender」の語は「伸ばすもの」等をそれぞれ意味する既成の英語である(乙11参照)から,上段部分は,3つの独立した語を2つのハイフンで結合したものと理解される。

そして,上段部分の構成全体又は「ISO-Mount」若しくは「Mount-Extender」の各部分は,何ら特定の意味合いを生ずるものではなく,それぞれの語の結び付きは,総じて弱い。

加えて,引用標章が国際標準化機構を表す標章(略称)として世界的に著名であることを併せ考慮すると,「ISO」の文字は,「Mount」及び「Extender」に比べて,観念的にも特に強い印象を与えるものといえる。

そうすると,ISO部分から生じる「国際標準化機構」の観念は,ISO以外部分から独立して認識・把握されるものである。

(イ) 下段部分の「ISO」の語は,前同様,「国際標準化機構」を意味するものであるのに対し,「マウントエクステンダー」の語は特定の意味を有しない造語であり,下段部分の構成全体としても,特定の一体的な意味合いを生じるものではない。

加えて,引用標章が国際標準化機構を表す標章(略称)として世界的に著名であることを併せ考慮すると,「ISO」の文字は,「マウントエクステンダー」に比べて,観念的にも特に強い印象を与えるものといえる。

そうすると,下段部分についても,ISO部分から生じる「国際標準化機構」の観念は,独立して認識・把握されるものである。

エ 小括

以上のとおり,本願商標のISO部分は,外観,称呼及び観念のいずれの点からも,ISO以外部分から切り離され,独立して認識・把握されるものである。

(2) 両標章の類否

ア 前記(1)のとおり,本願商標のISO部分は,ISO以外部分から独立して認識・把握されるべきものであるから,本願商標は,「アイエスオー」又は「イソ」の称呼及び「国際標準化機構」の観念を明確に生ずるものである。

そうすると,本願商標のISO部分と引用標章とは,その外観において「ISO」の文字を共通にし,「アイエスオー」又は「イソ」の称呼及び「国際標準化機構」の観念を共通にするものであるから,類似するというべきである。

イ 原告は,本願商標に係る取引の実情として,同商標が付された免震装置がグッドデザイン賞を受けた事実及び同商標が付された免震装置が販売されている事実を挙げるが,当該受賞の対象は,商品たる免震装置であって本願商標とは関係がないし,また,その販売に関する事実は,本願商標に係る指定商品中の特定の商品(免震装置)のみについての個別具体的な事情にすぎない。

2  取消事由2(商標法4条1項6号の規定の解釈適用の誤り)について

〔原告の主張〕

本件審決(3頁下から12~6行)も説示するとおり,商標法4条1項6号の規定の趣旨は,同号に掲げる標章を一私人に独占させることが同号に掲げる団体等の権威の尊重及び国際信義の上から好ましくないという点にある。

そうすると,国際信義の上から好ましくないといえる場合でなければ,同号の規定を根拠に商標登録出願を拒絶するのは相当でないところ,「ISO-」の構成部分を有する商標については,国際標準化機構以外の者を権利者として,欧米において数多くの商標登録がされているのであり(甲25の1,甲26~29,甲30~33の各1),「ISO-」の構成部分を有する本願商標につき,我が国において商標登録がされても,何ら国際信義に反しないというべきであるから,同号の規定を根拠に本件出願を拒絶する旨の本件審決は,同号の規定の解釈適用を誤るものである。

なお,被告は,「ISO」を含む商標につき,一部の外国において商標登録がされているとしても,そのことをもって,我が国において本願商標に係る商標登録がされても国際信義に反しないということはできないと主張するが,国際信義に反するか否かの判断は,各国においておおむね違いはないはずであるから,被告の主張は失当というべきである。

〔被告の主張〕

本願商標と構成は異なるが,「ISO」を含む商標につき,国際標準化機構以外の者を権利者として,一部の外国において商標登録がされているとしても,そのことをもって,我が国において本願商標に係る商標登録がされても国際信義に反しないということはできない。

また,国際標準化機構は,その略称である「ISO」又は「iso」を,無断で,組織等の名称,略称,商標若しくはその一部又はドメインネーム若しくはその一部として使用することを禁止しており(乙13及び14参照),一私人である原告が「ISO」と類似する本願商標につき,我が国で商標登録を受けることは,国際標準化機構の権威の尊重及び国際信義の上から好ましくない。

第4当裁判所の判断

1  取消事由1(両標章の類否判断の誤り)について

(1)  本願商標のISO部分及びISO以外部分の一体性あるいは独立性

本願商標の構成につき,原告は,本願商標のISO部分とISO以外部分とが不可分一体のものとして看取される旨主張するのに対し,被告は,独立して認識されるものである旨主張するので,以下,その外観,観念及び称呼の順に,その当否について検討する。

ア 外観について

(ア) 本願商標のうち,上段部分は,原告が主張するとおり,同じ書体,同じ大きさ(文字のポイント。以下同じ。)及び同じ色の欧文字を同じ間隔で横一連に書して成るものである。

しかしながら,上段部分は,「ISO」,「Mount」及び「Extender」の3つの英単語が2つのハイフンを介して結合されたものであり,また,先頭の「ISO」がすべて大文字から成るのに対し,その余の2つの英単語はいずれも冒頭の文字のみを大文字と,その余の各文字をいずれも小文字とするものであるから,ISO部分は,ISO以外部分と異なる外観を呈するものであることが認められる。

(イ) また,下段部分も,原告が主張するとおり,同じ書体,同じ大きさ及び同じ色の欧文字あるいは片仮名を同じ間隔で横一連に書して成るものである。

しかしながら,下段部分は,先頭の「ISO」が欧文字のみを書して成るのに対し,その余は片仮名のみを書して成るものであるから,上段部分と同様,ISO部分は,ISO以外部分と異なる外観を呈するものであることが認められる。

イ 観念について

(ア) 国際標準化機構(「International Organization for Standardization」)の英語上の略表記である「ISO」(引用標章)が本件出願日(平成18年7月11日)当時に著名な標章であったことは,原告も,これを争うものではない。

そうすると,本願商標に接した需要者及び取引者は,そのISO部分から「国際標準化機構」との明確な観念を抱くのが通常であると認められる。

他方,本願商標のISO以外部分(「Mount-Extender」及び「マウントエクステンダー」)からは,特定の観念が生じると判断し得るだけの事実を認めるに足りる証拠はない。

(イ) この点に関し,原告は,英語の接頭辞としての「iso」の意味,英単語としての「Mount」の意味及び「Extender」,「エクステンダー」等から成る登録商標の存在を理由として,本願商標からは「等しい山のようなエクステンダー」などの観念が生じる旨主張するが,ISO部分とISO以外部分とが結び付けられて生ずるという「等しい山」の観念自体が極めて不明確なものであり,具体性に欠け,かえって,ISO部分とISO以外部分とを分離して,「国際標準規格」に合った「マウントエクステンダー」という商品を想起させる可能性が高いことなどに照らせば,本願商標に接した需要者及び取引者が少なくとも原告主張のような観念を抱くものとは認め難いというべきである。

また,原告は,本願商標のISO部分が英語の接頭辞として認識される旨主張するが,同商標のうち,上段部分については,先頭の「ISO」がすべて大文字から成るのに対し,その余の2つの英単語はいずれも冒頭の文字のみを大文字と,その余の各文字をいずれも小文字とするものであること,下段部分については,先頭の「ISO」が欧文字のみを書して成るのに対し,その余は片仮名のみを書して成るものであることに照らせば,同商標のISO部分が英語の接頭辞として認識され,「国際標準化機構」との観念を生じないということはできない。これがまた,前記説示で「国際標準規格」に合った「マウントエクステンダー」という商品といった観念が生ずる可能性が高いと判断した理由でもある。

さらに,原告は,「ISO」の語は,「ISO 12100」などのように,5桁の規格番号が付されて意味を持つものであるから,需要者及び取引者は,「ISO」の語が規格番号と結合したときに,これを国際標準規格であると認識するといえるが,当該規格番号と結合したものでない本願商標は,国際標準化機構とのつながりがないものとして需要者及び取引者に認識されると主張するが,「ISO 12100」などの語を国際標準規格であると認識する需要者及び取引者の判断が,前記説示したところからしても,一般的にいって,「ISO」に着眼しての判断であると解されるのであって,規格番号と結合しない「ISO」の語であれば,これを「国際標準化機構」とつながりがあるものとは認識しないとまでいうことはできない。

ウ 称呼について

(ア) 本願商標から生じる称呼としては,同商標を構成する各英単語の通常の読み(発音)及び片仮名の存在からして,「アイエスオーマウントエクステンダー」,「アイソマウントエクステンダー」及び「イソマウントエクステンダー」の3つが考えられる。

しかし,上記3つの称呼のうち,原告が主張する後2者をみても,これらが有する音節数は,決して少ないものではないし,また,「マウントエクステンダー」又は「エクステンダー」との称呼は,需要者及び取引者になじみの深い英単語として,通常よく使用するものとみることもできないことに加えて,本願商標のうち,上段部分については,先頭の「ISO」の次にハイフンが配されていること,下段部分については,先頭の「ISO」が欧文字のみを書して成るのに対し,その余は片仮名のみを書して成るものであること,上記イのとおり,本願商標のISO部分からは「国際標準化機構」との観念が明確に生じるのに対し,ISO以外部分からは特定の観念が生じるとはいえないことをも併せ考えると,本願商標が,上段部分と下段部分という違いはあるが,いずれも同じ書体,同じ大きさ及び同じ色の欧文字又は片仮名を同じ間隔で横一連に書して成るものであることを考慮に入れてもなお,本願商標に接した需要者及び取引者は,同商標のISO部分とISO以外部分とを区別し,これらを「アイソ,マウントエクステンダー」又は「イソ,マウントエクステンダー」というように,「アイソ」又は「イソ」と「マウントエクステンダー」とを区切って称呼するものと認めるのが相当であり,当該需要者及び取引者にとって,原告主張のように,これを一息によどみなく称呼するのが自然であると認めることはできないというべきである。

そして,以上説示したところは,上記3つの称呼のうち,「アイエスオーマウントエクステンダー」との称呼についても,同様に当てはまるものといわなければならない。

(イ) この点に関し,原告は,「isoagglutination」(アイソアグルティネーション)等の13音にまで及ぶ単語も,一連に称呼するものとされていると主張するが,甲7によっても,「isoagglutination」等の単語に接した需要者及び取引者が,これを一息によどみなく称呼するものとまで認め得るものではなく,その他,そのように認めるに足りる証拠はない。

また,原告は,接頭語「iso-」を冠した英単語は,一連に称呼して初めてその意味を理解することができるとも主張するが,そのような英単語についても,必ずしも一連に称呼せずとも,そのすべてを称呼し,又は視認すれば,その意味を理解することができるのであるから,仮に,本願商標のISO部分が英語の接頭辞であるとしても,これに続くISO以外部分と一連によどみなく称呼されることの根拠となるものではない。

さらに,原告は,仮に,本願商標の称呼が多少冗長であるため,途中で一息つくとしても,「アイソマウント」と「エクステンダー」とに分離されるとみるのが自然であると主張するが,本願商標のうち,下段部分が「ISO」の欧文字と「マウントエクステンダー」の片仮名とから構成されることに照らしても,そのようにいうことはできないというべきである。

エ 小括

以上説示したところによれば,本願商標のISO部分は,上段部分及び下段部分のいずれも,外観,観念及び称呼の点からみて,ISO以外部分から独立して看取されるものといえるのであって,以上の判断を覆し,ISO部分とISO以外部分とを不可分一体のものと看取すべき特段の事情があると認めさせるだけの証拠はない。

(2)  両標章の類否

原告は,免震装置等に係る取引の実情についてるる主張し,両商標が類似しない旨主張するが,前記(1)において説示したところによれば,本願商標のISO部分と引用標章とは,その外観,観念及び称呼において共通するといえ,引用標章が国際標準化機構を表示するものとして著名であることにも照らせば,原告が主張する取引の実情を考慮してもなお,本願商標に接した需要者及び取引者は,同商標を付した商品,当該商品を製造・販売するなどする業者等が国際標準化機構が定める国際規格に適合するなどの印象を抱くものと認められるから,両標章は,互いに類似するものと認めるのが相当であり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはないというべきである。

(3)  したがって,取消事由1は理由がない。

2  取消事由2(商標法4条1項6号の規定の解釈適用の誤り)について

原告は,「ISO-」の構成を有する商標につき,国際標準化機構以外の者を権利者として,欧米において数多くの商標登録がされているとして,これを根拠に,我が国において本願商標につき商標登録がされたとしても,国際信義に反することはないから,本件出願を拒絶する旨の本件審決は商標法4条1項6号の規定の解釈適用を誤ったものである旨主張する。

しかしながら,商標法4条1項6号の規定は,同号に掲げる団体の公共性にかんがみ,その権威を尊重するとともに,出所の混同を防いで需要者の利益を保護しようとの趣旨に出たものであり,同号の規定に該当する商標,すなわち,これらの団体を表示する著名な標章と同一又は類似の商標については,これらの団体の権威を損ない,また,出所の混同を生ずるものとみなして,無関係の私人による商標登録を排斥するものであると解するのが相当である。

そうすると,仮に,欧米において,「ISO-」の構成を有する商標につき国際標準化機構以外の者を権利者とする数多くの商標登録がされているとしても,そのことをもって,我が国において,引用標章と類似する本願商標に係る本件出願を拒絶した本件審決が,商標法4条1項6号の規定の解釈適用を誤ったということはできないから,取消事由2も理由がない。

3  結論

以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。

(裁判長裁判官 滝澤孝臣 裁判官 本多知成 裁判官 浅井憲)

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