知財高等裁判所 平成20年(行ケ)10375号 判決 2009年7月29日
原告
大日本印刷株式会社
同訴訟代理人弁護士
櫻井彰人
同訴訟代理人弁理士
結田純次
同
三輪昭次
同
竹林則幸
同
金山聡
同
藤枡裕実
被告
凸版印刷株式会社
同訴訟代理人弁護士
竹田稔
同
木村耕太郎
同
三縄隆
同訴訟代理人弁理士
志賀正武
同
高橋詔男
同
村山靖彦
同
渡辺浩史
同
渡邊隆
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2007-800273号事件について平成20年9月9日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1 特許庁における手続の経緯
被告は,発明の名称を「広告情報の更新方法」とする特許第3265958号(平成7年12月6日出願,平成14年1月11日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は7である。)の特許権者である。
原告は,平成19年12月7日,特許庁に対して無効審判請求をしたが(無効2007-800273号事件),特許庁は,平成20年9月9日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年同月19日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲
本件特許に係る明細書(甲9。以下「本件明細書」という。)によれば,本件特許の請求項1ないし7は,下記のとおりである。
【請求項1】 サーバが,コンピュータネットワークを介して接続される広告依頼者の端末に対し,複数の項目の内容を含んだ広告情報の入力を促す一方,記憶手段に予め記憶された地図情報に基づいて地図を表示させて,当該地図上において広告対象物の位置指定を促す段階と,前記広告依頼者の端末によって位置指定された広告対象物の座標を,当該端末によって入力された広告情報と関連づけて,前記サーバが前記記憶手段に記憶させる段階とによって登録した広告情報を更新する広告情報の更新方法であって,記憶された広告情報において更新すべき項目の内容を含む更新情報を,前記サーバが取得する段階と,記憶された広告情報に含まれる項目の内容を,当該更新情報に含まれる項目の内容に,前記サーバが変更する段階とを備えることを特徴とする広告情報の更新方法。
【請求項2】 前記更新情報は,予め定められた入力フォーマットにしたがっていることを特徴とする請求項1記載の広告情報の更新方法。
【請求項3】 前記更新情報には,広告依頼者全てに共通のヘッダ項目と,広告依頼者の業種毎に異なる顧客情報項目とが含まれることを特徴とする請求項1記載の広告情報の更新方法。
【請求項4】 前記更新情報は,前記項目を前記サーバが認識可能なコード情報と組になっていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の広告情報の更新方法。
【請求項5】 前記更新情報は,更新予定日時情報を含み,前記サーバは,計時手段が示す日時と前記更新予定日時情報とを比較して,これが一致したときに,記憶された広告情報に含まれる項目の内容を,前記更新情報に含まれる項目の内容に変更することを特徴とする請求項1に記載の広告情報の更新方法。
【請求項6】 前記広告依頼者の端末によって位置指定された広告対象物の座標を,当該端末によって入力された広告情報と関連づけて,前記サーバが前記記憶手段に記憶させる段階の後,前記サーバが,再度,広告依頼者の端末に対し広告情報の入力を促す段階と,記憶された広告情報を,再度入力された広告情報に,前記サーバが変更する段階とをさらに備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか記載の広告情報の更新方法。
【請求項7】 前記サーバは,広告依頼者の端末から電子メールとして送信された更新情報を,該電子メールに割り当てられたメールボックスから読み出して,該更新情報を取得することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の広告情報の更新方法。(以下,請求項1ないし請求項7に係る発明を,それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明7」といい,これを併せて「本件各発明」という。)
3 審決の内容
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,審決は,本件各発明は,甲1ないし甲8に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできないと判断した。
審決が認定した甲1記載の発明(以下「引用発明1」という。)の内容並びに本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は次のとおりである。
(1) 引用発明1の内容
「1 電話帳情報と,住宅地図情報,広告情報,伝言情報を有機的に連動し,これらの情報を電話帳情報とともに案内するサービスであって,
2 CUPIDセンタと利用者が使用するパソコン端末等が公衆電話網を介して接続されており,
3 CUPIDセンタからパソコン端末等に電話帳情報や住宅地図情報,広告情報等が供給されるものにおいて,
4 電話帳情報は電話帳掲載者の情報であって,名義(姓名,企業名),電話番号,住所,職業などの情報から構成され,電話帳DBに格納されており,
5 住宅地図情報は,表示用地図データ,建物毎の名義,住所,(地図上の位置を示す)座標などから構成され,地図DBに格納されており,
6 広告情報には,簡易広告,画面広告,営業内容広告などの情報があり,
7 電話帳情報と住宅地図情報に基いて,両者の共通情報である「名義」と「住所」により自動照合し,電話帳情報に座標を対応付けた電話帳DBが作成され,
8 広告情報のうち,簡易広告と営業内容広告は,それぞれ電話帳情報の1項目として電話帳情報に結合され,電話帳DBに格納され,
9 パソコン端末から検索キーとして,名義,住所,職業,電話番号,目標物,地図上の領域などが指定されると,これに対応する情報が電話帳DBから検索され,
10 番号案内サービスにおいて,検索条件に合う電話帳掲載者の情報が提示され,
11 地図案内サービスにおいて,電話帳DB中の当該電話帳掲載者に対応する座標に基づき,地図DBが検索されて当該電話帳掲載者の付近の地図が表示案内され,
12 ピック検索案内サービスにおいて,地図上でピック指定された建物内の企業名が案内され,
13 また,電話帳掲載者の情報を提示する場合,広告サービスにおいて,電話帳掲載者の簡易広告や営業内容広告が表示され,
14 電話帳情報と結合した広告情報は,端末,電話回線等に制約されない利用者IDおよびパスワードによる認証を経て,広告の持主がパソコン端末から即時登録・更新することができる,高付加価値型番号案内システム」
(2) 一致点
「サーバが,コンピュータネットワークを介して接続される広告依頼者の端末に対し,広告情報の入力を促して登録した広告情報を更新する広告情報の更新方法であって,記憶された広告情報において更新すべき内容を,前記サーバが取得する段階と,記憶された広告情報の内容に,前記サーバが変更する段階とを備えることを特徴とする広告情報の更新方法」である点。
(3) 相違点
ア 相違点1
本件発明1は,登録された広告情報が,「記憶手段に予め記憶された地図情報に基づいて地図を表示させて,当該地図上において広告対象物の位置指定を促す段階と,前記広告依頼者の端末によって位置指定された広告対象物の座標を,当該端末によって入力された広告情報と関連づけて,前記サーバが前記記憶手段に記憶させる段階」によって登録されるものであるのに対し,引用発明1は上記構成を具備していない点。
イ 相違点2
本件発明1は,広告依頼者の端末に対して,「複数の項目の内容を含んだ広告情報の入力を促す」ものであるのに対し,引用発明1には,広告情報(電話帳情報)中の一部の情報(広告)の入力を促すことについて示唆があるものの,上記構成を具備していない点。
ウ 相違点3
本件発明1は,「登録した広告情報を更新する広告情報の更新方法であって,記憶された広告情報において更新すべき項目の内容を含む更新情報を,前記サーバが取得する段階と,記憶された広告情報に含まれる項目の内容を,当該更新情報に含まれる項目の内容に,前記サーバが変更する段階とを備える」ものであるのに対し,引用発明1には,上記構成の示唆はあるものの,上記のような具体的な構成については記載されていない点。
第3取消事由に関する原告の主張
審決には,下記の取消事由があるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件発明1及び引用発明1の各認定の誤り)
(1) 「複数の項目の内容を含んだ広告情報」の認定の誤り
審決は,本件発明1の「複数の項目の内容を含んだ広告情報」を顧客ファイル作成に必要な情報のすべてを指すものと解しているが,誤りである。「複数の項目の内容を含んだ広告情報」は,店名,電話番号,業種情報,広告メッセージ等の顧客ファイル情報の一部であってもよいと解すべきである。
すなわち,①請求項1には,「広告情報」が顧客作成に必要な情報の集合(全体)であることを示唆する記載はなく,②上記審決の解釈は,「広告情報」の持つ通常の意味から逸脱している。
また,「複数の項目の内容」は,更新対象となる複数項目(店名,席数,予約,代表的メニュー等)と解釈され,「広告情報」はかかる「複数の項目の内容を含んだ」「広告情報」と解釈すべきである。
(2) 引用発明1の「電話帳情報」の認定の誤り
審決は,引用発明1の「電話帳情報」は,名義,電話番号,職業及び簡易広告や営業内容広告を含む情報であるから,本件発明1の「広告情報」に対応すると認定したが,誤りである。
甲1の記載(839頁左欄24~32行)によれば,簡易広告や営業内容広告は,電話帳情報に含まれる情報ではなく,電話帳情報と結合した広告データベースに含まれる情報である。
(3) 「新規に広告情報を登録」との認定の誤り
審決は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて,「地図上の任意の位置に対応付けて,広告依頼者が新規に広告情報を登録するために」との目的を付加して,「広告依頼者の端末」で行なわれる行為・動作に限定解釈したが,誤りである。
本件発明1は,新規登録のみならず,登録した広告情報の変更,修正を行うために,又は,広告情報を追加登録するために行う広告情報の入力も含むものである。
(4) 「第三者のサーバー」との認定の誤り
ア 審決は,本件発明1の構成を,広告依頼者がデータを管理している第三者のサーバに対し,広告依頼者の端末から座標情報と関連づけて広告情報を登録するものであり,広告依頼者とデータを管理している第三者は別人格であり,広告依頼者の端末はサーバ(第三者)の管理下にない端末であると解しているが,誤りである。
本件発明1においては,「サーバー」に第三者の限定や,「端末」がいずれの管理下にあるかの限定はされておらず,「サーバー」と広告依頼者を別個のものと規定しているにすぎない。したがって,本件発明1の「サーバー」の管理者と広告依頼者が別人格であり,広告依頼者の端末はサーバー(第三者)の管理下にない端末であるとの限定解釈は誤りである。
イ 被告は,本件発明1の「サーバー」は不特定多数の広告依頼者を対象としていると主張する。しかし,本件発明1は,「サーバー」,「広告依頼者の端末」等の装置の動作として特定されており,「サーバー」が対象としているのは,「広告依頼者」ではなく,「広告依頼者の端末」である。したがって,「広告依頼者の端末」を不特定多数か否かで区別する技術的意義は存しないし,甲23によれば,「広告」は広告依頼者が誰であるかを問わない用語とされる。被告の上記主張は失当である。
2 取消事由2(一致点の認定の誤り)
審決は,甲1には,入力した広告情報と座標情報が関連づけられてサーバーに記憶されることは記載されていないとして,一致点を認定しているが,誤りである。
甲1には,地図上の企業や店(広告対象物)の座標情報は,電話帳DB(名義,住所,電話番号等の広告情報)と関連づけてサーバーに記憶され,この地図座標と関連づけてサーバーに記憶される広告情報について,広告の持主がオンラインで即時登録・更新できることが示されている。したがって,本件発明1と引用発明1とは,広告対象物の座標を,当該端末によって入力された広告情報と関連づけて,前記サーバーが前記記憶手段に記憶させる段階で一致しており,これを看過した審決の一致点の認定は誤りである。
そして,審決は,甲1において,広告依頼者が広告情報を入力する以前から電話帳情報と座標に関連づけられているか否かを考慮して,容易想到性の判断を行っているので,審決の結論に影響を及ぼす誤りである。
3 取消事由3(相違点1に関する容易想到性の判断の誤り)
(1) 本件発明1と引用発明1との対比に関する容易想到性の判断の誤り
審決は,相違点1に関し,「甲第1号証には,利用者端末から「広告」を登録・更新することができることが記載されているものの,・・甲第1号証には,利用者端末から広告情報(電話帳情報)と地図上の座標情報を関連づけてサーバに登録できることは記載されていない。」,「甲第1号証記載のものは,(狭い意味の)広告の登録以前から電話帳情報と座標情報が関連づけられて登録されており,この情報の登録を,広告依頼者ではなく付加情報サービス提供者(センタ側)が行なうことを前提としたシステムである。」と判断したが,誤りである。
本件発明1も引用発明1も,地図情報に関連付けられた広告情報を,広告受給者の端末に出力するものであるから,地図情報と広告情報との関連付けをどのような手法で行なうのかが重要である。そのため,広告依頼者が広告情報を登録する以前から電話帳情報と座標情報が関連づけられているかは重要ではないにもかかわらず,その点を重視して,相違点1の容易想到性の判断を行なっている点で誤りである。
(2) 引用発明1と周知技術(甲2,4,5)との組合せの判断の誤り
審決は,「甲第1号証に記載されたものと甲第2号証に記載されたものを組み合わせたとしても,広告依頼者自身が新規に広告情報(店舗情報)を登録するために,サーバに記憶された地図情報に基づき広告依頼者の端末に地図を表示させ,その地図上において広告対象物の位置を広告依頼者に指定させ,かつ,広告依頼者が入力した広告情報と前記地図上で指定した位置の座標情報を関連付けてサーバに記憶すること,が容易に想到できたとは認めることができない。」,「(甲第4号証及び甲第5号証)もまた広告依頼者の端末から座標情報と関連づけて広告をサーバに登録し,広告受給者がサーバにアクセスして広告等を見ることができるようなシステムに関するものではなく,上記相違点1に係る事項が記載されているとはいえない。」と判断したが,誤りである。
上記審決の相違点1の判断は,①本件発明1について「新規に登録」,「第三者のサーバー」と認定している点で誤っている点,②仮にこれらの認定に誤りがないとしても,甲1には,広告依頼者自身が新規に,広告情報を第三者のサーバーに登録する技術が記載されている点,③甲2,4,5には,座標情報と属性情報を関連づける手法として,地図上の位置を指定する周知技術が示されているにもかかわらず,引用発明1との組合せの判断において考慮されていないことから,失当である。
4 取消事由4(周知技術の認定及びそれに基づく相違点1に関する容易想到性の判断の誤り)
審決は,「広告依頼者が自分の端末から地図座標と広告情報を関連づけて第三者のサーバに記憶させることが周知技術であるとは認められず,相違点1に係る事項が甲10ないし甲15に記載されたものから容易に想到できたということはできない。」と判断したが(審決19頁4行~7行),誤りである。
甲11には,端末から第三者のホストに対して座標情報と属性情報の入力,更新,検索等を行うシステムが実質的に開示されているし,甲14には,各事業者の端末に第三者のホストに記載されている地図を表示して,第三者のホストに座標情報と属性情報を入力するシステムが開示されている。したがって,端末から地図情報と属性情報を関連づけて第三者のサーバ(ホスト)に記憶させることは,甲11及び甲14から周知技術であり,これを否定する審決の周知技術の認定は誤りであり,この誤った認定に基づいて相違点1の容易想到性を判断している点も誤りである。
5 取消事由5(本件発明1の顕著な作用効果の判断の誤り)
審決は,「本件発明1は,上記構成を備えることにより,サーバ管理者が広告依頼者からの依頼を受けて地図と関連付けられた広告情報を登録するのではなく,広告依頼者自身が自分の端末からサーバに対して広告情報と関連付けられる地図座標の指定及び登録を行うことができるため,広告配布までのタイムラグが短くなるという作用効果が生じるものと認められる。」と本件発明1には顕著な作用効果がある旨判断しているが,誤りである。
引用発明1においても,広告依頼者自身が自分の端末からサーバーに対して広告情報を即時登録でき,登録された広告情報は,地図と関連づけられ,一般利用者に案内されるため,広告配布までのタイムラグが短くなるという作用効果が生じる。よって,本件発明1の上記作用効果は顕著な作用効果とはいえず誤りである。
6 取消事由6(本件発明2ないし7に関する判断の誤り)
審決は,本件発明2ないし7に関し,本件発明1と同じ理由で当業者が容易に発明できたものとは認められないと判断した。しかし,前記のとおり本件発明1に関する審決の認定判断は誤りであるから,上記判断もまた誤りである。
第4被告の反論
原告主張の取消事由には理由がなく,審決を取り消すべき違法は認められない。
1 取消事由1(本件発明1及び引用発明1の各認定の誤り)に対し
(1) 「複数の項目の内容を含んだ広告情報」の解釈の誤りに対し
ア 「広告情報」について
原告は,「広告情報」は顧客ファイル作成に必要な情報のうち,そのいずれでもよいと主張する。しかし,そのような解釈を前提とすると,「広告情報」は明らかに広告として提供されることのない登録者IDのみでもパスワードのみでもよいことになり,失当である。
イ 「複数の項目の内容を含んだ広告情報」について
本件明細書の段落【0016】,【0034】によれば,「更新対象となる複数の項目」とは顧客ファイルに含まれている項目であり,席数,予約,代表的メニュー等もまた顧客ファイルを構成する情報であると解される。したがって,「複数の項目の内容を含んだ広告情報」とは,広告情報に含まれる情報が複数の項目に分類されていることを意味し,その顧客ファイルの一部として,更新される候補となる幾つかの項目の内容が存在することを意味すると解される。
原告は,「複数の項目の内容」との記載を更新対象となる複数の項目と解釈しているが,誤りである。本件発明1において,①広告情報の「更新」は区別して記載されていること,②「広告情報において更新すべき項目」との記載は,広告情報には更新する必要がない項目,すなわち更新情報に含まれる項目以外の項目も存在することを明らかにしていること,③「記憶された広告情報に含まれる項目の内容を,当該更新情報に含まれる項目の内容に,前記サーバが変更する」との記載において,「記憶された広告情報」に含まれる項目と「更新情報」に含まれる項目が一致しているか否かについて何ら限定されていないことからすれば,「複数の項目の内容を含んだ広告情報」を「更新対象となる複数の項目」に限定して解釈する理由はない。
ウ 原告は,「複数の項目」を「店名,席数,予約,代表的メニュー等」に限られると解釈しているが,誤りである。本件明細書の段落【0031】の記載によれば,更新情報に含まれる項目とは,「店登録番号,登録者ID,パスワードおよび更新予定日時からなるヘッダ項目」と,「店名,席数,予約,代表的メニュー等の飲食店に特有の顧客情報項目」の両方を含んだ項目であり,原告の主張は上記ヘッダ項目の存在を考慮していない点で誤りである。
(2) 引用発明1の「電話帳情報」の認定の誤りに対し
甲1(862頁図3)には,簡易広告と営業内容広告が電話帳データベースに格納された情報の1項目として記載されていることからすれば,審決の認定した「電話帳情報」は,「電話帳情報に結合され」て「電話帳データベースに格納された」簡易広告や営業内容広告に関する情報という趣旨に解されるべきであり,審決の認定に誤りはない。
(3) 「新規に広告情報を登録」との認定の誤りに対し
ア 本件発明1の「入力された広告情報」とは,新規に入力されたものなのか,変更,修正及び追加登録のために入力されたものなのかについての解釈は,技術常識に照らせば明らかである。すなわち,広告情報を変更,修正及び追加登録する場合には,広告情報のみを変更,修正及び追加登録すればよく,改めて座標の位置指定を行う必要はないと考えるのが自然であり,「広告対象物の位置指定」を前提とする広告情報の入力とは,新規の入力を意味すると解されるからである。したがって,審決が本件明細書の発明の詳細な説明を参酌して「新規に広告情報を登録」と解したことに誤りはない。
仮に,特許請求の範囲からは,上記のように一義的に明確に理解できないとしても,本件明細書において「既登録の変更」について記載されている(段落【0025】)ことに照らすならば,本件発明1がサーバー側管理者において広告依頼者の情報を何ら有しないことを前提として,顧客ファイル作成に必要なすべての情報を広告依頼者自身に入力させるのであるから,「入力された広告情報」とは,「新規に入力された広告情報」と解するのが相当である。
イ 仮に,本件発明1に「広告情報」の変更,修正,及び追加登録の場合も含むとしても,本件発明1の広告情報の供給方法においては実施に際してまず新規登録が必要である。また,当該広告情報の供給方法の実施途中においても新規顧客に対する新規登録の必要性は生じる。そして,これら新規登録における広告情報の入力に際しては,サーバーにおいて広告依頼者の情報を何ら保有しないところから出発して,顧客ファイル作成に必要なすべての情報を広告依頼者自身に入力させ,広告依頼者自身の端末に表示された地図上において広告対象物を位置指定するように促す段階が必ず生じる。審決は,本件発明1において必ず必要となる新規登録について引用発明と比較したものであり,誤りはない。
(4) 「第三者のサーバー」との認定の誤りに対し
広告依頼者とデータを管理している第三者が別人格であり,かつ広告依頼者の端末は「サーバー側」の管理下にない端末であることは特許請求の範囲自体から明らかであり,原告の主張は失当である。
すなわち,本件発明1では,①広告情報の入力を促されるのは広告依頼者であり,広告情報の入力を促すのは「サーバー側」であり,「促される」ものと「促す」ものとは別人格であるといえること,②本件明細書の段落【0013】には,「広告とは,ある者がその者の商品・サービス等に関し,その消費者等に成り得る者に対して宣伝等を行なうことであるが,その情報の提供は,第三者を介して行なわれることもある。本願発明は,このような「第三者」に相当する部分である。」との記載があり,この記載から,広告依頼者とは第三者の関係にある者がサーバー側の管理者であるといえること,③広告情報を入力する「広告依頼者」がサーバー側の管理者と別人格であることを前提としてはじめて,本件発明1の作用効果が奏すること,④広告依頼者が自ら端末から広告情報の入力をすることによって,同じ住所を有する領域内における店舗の詳細な位置を指定できるという効果を奏すること等に照らすならば,広告依頼者とデータを管理している第三者が別人格であることは明らかである。
2 取消事由2(一致点の認定の誤り)に対し
本件発明1の「座標」は,「記憶手段に予め記憶された地図情報に基づいて地図を表示させて,当該地図上において広告対象物の位置指定を促す段階」を経て得られる座標であり,単なる「地図上の広告対象物の座標」ではない。そして,本件発明1では,広告依頼者により地図上において位置指定される構成によってはじめて,作用効果を奏する。原告の主張は失当である。
3 取消事由3(相違点1に関する容易想到性の判断の誤り)に対し
本件発明1と引用発明1とは,電話帳情報の管理を広告依頼者にゆだねるのか(本件発明1),サーバー側で行なうのか(引用発明1)という点で,技術的思想における相違がある。また,本件発明1と引用発明1とは,以前から電話帳情報と座標情報が関連づけられているか否かの点でも,技術的思想における相違がある。原告の主張は失当である。
4 取消事由4(周知技術の認定及びそれに基づく相違点1に関する容易想到性の判断の誤り)に対し
本件発明1の「サーバー」は,前記1(4)のとおり,広告依頼者や広告受給者とは別人格の第三者の関係にあり,かつ不特定多数の広告依頼者を対象としている。これに対し,甲11では,各支社,事業部の端末とホストコンピュータとが異なるコンピュータであることが示されているにすぎず,ホストコンピュータの運営主体と各支社や事業部は,登録された情報との関係では一体と見られ,第三者とはいえない。また,甲14のセンターシステム(ホスト)では,「電信電話,電力,ガス,水道,下水道,地下鉄」といった特定の「事業者」を想定しており,本件発明1の「サーバー」のような不特定多数の第三者を対象としていない。原告の主張は失当である。
5 取消事由5(本件発明1の顕著な作用効果の判断の誤り)に対し
引用発明1では,サーバーに情報が記憶されていない状態から,広告記載依頼をして広告頒布するまでの手順を想定した場合,まず,通信事業者に電話回線の申込みを行うことにより,サーバーに電話帳情報が記憶され,座標の自動生成が行われる。この段階で,電話回線の申込みから,通信事業者側における電話帳情報の確認・登録作業を経て,座標の自動生成まで,数日程度は要する。その後,広告依頼者が端末を通じてオンラインでサーバーに簡易広告や営業内容広告を登録するという手順を経ることになる。
これに対し,本件発明1では,通信事業者に電話回線の申込みを行ってサーバに電話帳情報を記憶させ,座標の自動生成を行うといった時間が一切不要である。サーバー側に何ら情報がない段階から,広告依頼者が自ら端末を通じて広告情報の入力と地図上での位置指定を行うだけで広告頒布することが可能だからである。したがって,タイムラグの短さという点において,本件発明1は,引用発明1にはない顕著な作用効果が得られる。原告の主張は理由がない。
6 取消事由6(本件発明2ないし7に関する判断の誤り)に対し
原告の主張は,争う。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,審決の本件発明1の認定のうち「新規に広告情報を登録」との認定及び「第三者のサーバー」との認定(取消事由1)に誤りがあるものの,いずれも審決の結論に影響を及ぼすものではなく,その余の取消事由にはいずれも理由がないから,原告の請求を棄却すべきものと判断する。以下理由を述べる。
1 事実認定
(1) 本件発明1に係る特許請求の範囲及び本件明細書(甲9)の記載等
ア 「サーバが,コンピュータネットワークを介して接続される広告依頼者の端末に対し,複数の項目の内容を含んだ広告情報の入力を促す一方,記憶手段に予め記憶された地図情報に基づいて地図を表示させて,当該地図上において広告対象物の位置指定を促す段階と,前記広告依頼者の端末によって位置指定された広告対象物の座標を,当該端末によって入力された広告情報と関連づけて,前記サーバが前記記憶手段に記憶させる段階とによって登録した広告情報を更新する広告情報の更新方法であって,記憶された広告情報において更新すべき項目の内容を含む更新情報を,前記サーバが取得する段階と,記憶された広告情報に含まれる項目の内容を,当該更新情報に含まれる項目の内容に,前記サーバが変更する段階とを備えることを特徴とする広告情報の更新方法。」(特許請求の範囲請求項1)
イ 「・・広告とは,ある者がその者の商品・サービス等に関し,その消費者等に成り得る者に対して宣伝等を行なうことであるが・・」(段落【0013】)
ウ 「・・・かかる顧客ファイルは,店登録番号毎に作成されるものであり,1つの店登録番号に対応する顧客ファイルは,登録者ID,パスワード,店舗情報,(x,y)情報等のように店舗固有の情報から構成される。このうち,店舗情報は,さらに店名や,電話番号,ファックス番号,(最寄り駅から店舗までの)行程,店舗の業種を示す業種情報,(他の情報と結びつける場合に,参照すべきネットワーク上の情報の行先を示す)リンク情報,(広告の内容を示す)広告メッセージ等のように,広告対象の店舗に関する種々の情報から構成される。本願の広告情報とは,狭義では広告メッセージを指すが,広義には,店舗情報よりも上位であって,顧客ファイル作成に必要な情報のすべてを指す。・・・さらに,記憶手段18には,更新情報ファイルが記憶されている。かかる更新情報ファイルには,端末から送信されてくる更新情報が記憶されている。この更新情報は,店登録番号,登録者ID,パスワード,更新予定日時のように店舗固有の情報とともに,店名,席数,予約,代表的メニューのような業種毎に異なる更新情報項目から構成される。この更新情報に基づき,記憶手段17に記憶されている顧客ファイルが更新される。」(段落【0016】)
エ 「この入力フォーマットは,広告依頼者の営む業種によって異なるが,例えば「飲食店」の場合,図11に示すように,店登録番号,登録者ID,パスワードおよび更新予定日時からなるヘッド項目と,店名,席数,予約,代表的メニュー等の飲食物に特有の顧客情報とからなっている。・・・」(段落【0031】)
オ 「・・そして,更新情報ファイルに記述された更新予定日時の項目を参照し,その項目が空欄であれば,直ちに更新プログラムを起動し,当該更新情報ファイルに基づき記憶手段17に記憶された顧客ファイルを更新する。すなわち,更新情報ファイルに記述されたヘッダ項目から対応する顧客ファイルを検索し,更新情報ファイルの顧客情報項目の各項目に従って対応する顧客ファイルの顧客情報を変更する。」(段落【0034】)
(2) 引用刊行物(甲1)の記載
甲1には,以下の記載がある。
ア 「CUPIDでは,電話帳情報に住宅地図情報,広告情報,伝言情報を有機的に連動し,これらの情報を電話帳情報とともに案内するサービスを実現した。」(833ページ)
「現在の電話帳情報は,「名前」「電話番号」「住所」「職業分類」の項目から構成され,これらの項目をキーワードとして該当する電話番号が抽出できる。「地図上の位置を表す座標」や企業の「広告」などを付加すれば,電話帳をインデックスとして,電話帳掲載のお客さまの様々な情報が得られ,日常生活の利便向上に役立てることができる。」(834ページ)
イ 「4.2 電話帳データベースと地図データベースの結合
電話帳情報と地図情報の結合により,電話帳掲載者の周辺の地図を表示したり,逆に地図上で電話帳情報を検索するための領域を指定可能とした。具体的には,電話帳情報に地図上の座標情報を追加することにより,電話帳情報を地図上の位置へ対応付けた。」(839ページ)
ウ 「4.3 電話帳データベースと広告データベースの結合
企業の広告情報として,多様な利用形態を評価する観点から,次の3種類の広告を電話帳と関連付けて格納した。
(1) 簡易広告:1~2行の簡単な広告
(2) 画面広告:画面単位の広告
(3) 営業内容広告:営業時間,設備状況等,業種ごとに統一した営業内容に関する情報
(中略)
(2) 電話帳情報と地図情報,広告情報,伝言情報を有機的に結合した付加価値サービスを実現した。」(839ページ)
エ 「3.1 電話帳情報の構成要素
CUPIDで扱う電話帳情報の構成要素として,以下の項目がある。
(中略)
(2) 場所情報
行政区分を表す「住所」および,地理的な位置を表す「座標」が考えられる。(ただし,現在の電話帳には,「座標」は含まれていない。)
(中略)
3.2 電話帳の利用形態と検索仕様
(中略)
これら3つの調べ方に加えて,住所の区名や町名が不確かな場合,「○○駅近く」など,目標物を指定したり,地図上で領域を指定する方法が有効である。
本システムでは,これらの目的に対応するため,「名義」「住所」「職業」「電話番号」に加えて,「目標物」,地図上で指定した「領域」を検索条件項目とし,これらの条件を組み合わせることにより,多様な検索を実現した。」(842ページ~843ページ)
「「目標物」を指定した場合,その周辺領域を条件とする検索を実現するため,目標物の位置を示す2次元の座標情報に変換し,これを中心とする決められた範囲の矩形の「領域」で電話帳を検索するようにした。
「領域」で検索可能とするため,電話帳データベースには,地図上の座標情報を収容した。」(844ページ)
オ 「(1)異種DBである電話帳DBと地図DBを自動結合する技術を提案し,「名義」+「住所」により結合処理を行い,約60%の結合率を得た。」(851ページ)
「本システムでは,付加価値の1つとして地図情報を取り上げ,これを利用した種々の付加価値サービスを実現している。電話帳に掲載されている企業や店の所在地を地図上で案内する,地図上で指定した領域内からレストランを探し出す等がその一例である。」(851~852ページ)
カ 「2.2 開発技術
この付加価値サービスを実現するために,以下の技術を開発する。
(1) 電話帳DBと地図DBの結合
地図情報を利用した付加価値サービスでは,「電話帳情報から地図情報の参照・案内」および,「地図情報から電話帳情報の参照・案内」という双方向のサービスを実現する.このため,電話帳DBと地図DBの間に関連付け(電話帳DBと地図DBの結合)を行う。」(852ページ)
「3.2 電話帳DBと地図DBの結合処理
電話帳DBと地図DBの関連付けは,地図座標データを電話帳掲載者ごとに付与することにより行った(図1)。
住宅地図は,建物ごとの名義,住所,座標および表示用地図データ等からなり,電話帳は,名義,住所,電話番号等からなる。地図座標データを電話帳掲載者に付与するため,各々独立に作成された住宅地図と電話帳を,両者の共通情報である「名義」と「住所」により自動照合した。本照合により,住宅地図の座標を,対応する電話帳掲載者に付与し,座標付きの電話帳DBを作成した。
自動照合により座標を付与できた割合は,『名義』照合で50%,『名義』+『住所』照合により60%に向上した。付与できない要因としては以下が考えられる。
(1) 『名義』は,電話帳ではご契約者の名義を使用しているのに対し,住宅地図では表札,看板,刊行物等の掲載名義を使用している(表1)。
(2) 電話帳は日々更新され絶えず最新の情報となっている一方,住宅地図は1年1回の更新のため,両者の間に情報の新しさの相違ができる。
(3) 同一ビル名で建物が複数存在し,1つの建物に特定できない場合がある。」(852~853ページ)
キ 「図1 電話帳DBと地図DBの結合および地図データ構造(記載内容は省略)」(853ページ)
ク 「また,実データを用いて技術確認を実施した結果,以下の成果が得られた。
(1) 電話帳DBと地図DBの結合は,自動結合処理を行った結果約60%について結合することができた。」(856ページ)
ケ 「本論文では,広告・伝言情報と電話帳情報の結合方式と広告・伝言の登録更新,参照の処理方式について述べる。」(857ページ)
「本システムでは,電話帳情報をリレーショナルDBとして格納している.すなわち,電話帳情報は,電話帳の掲載単位を「行」(電話帳レコードと呼ぶ)に,検索対象項目(住所,名前等)を「カラム」として電話帳テーブルに格納した。」(858ページ)
コ 「3.1 広告の種類
電話帳と結合した広告情報の利用形態として,①検索された企業のリストから各々の広告情報を比較しながら絞り込むために利用する形態,②検索された企業の詳しい情報を個々に参照する形態,③企業の営業内容を条件に検索された企業を絞り込む形態,が考えられ,それぞれに対応して,①簡易広告,②画面広告,③営業内容広告と呼称する3種類の広告を設けた(表1)。」(858ページ)
サ 「3.3 広告の登録・更新方式
本システムでは,端末に格納された動画広告を除いて,広告情報を広告の持主が端末から即時登録・更新する機能を実現した。
広告の登録・更新機能を利用者に提供する場合,以下の点に留意することが重要である。」(861ページ)
「図3 広告の登録・更新に関するテーブル関連図(記載内容は省略)」(862ページ)
シ 「本システムは,一般の利用者が直接端末を操作するタイプの情報案内システムであり,電話帳,地図,広告,伝言等の情報を案内する。」(865ページ~866ページ)。
2 取消事由1(本件発明1及び引用発明1の各認定の誤り)について
(1) 本件発明1の「広告情報」について
ア 「広告情報」の意義
特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件発明1の「広告情報」とは,広告依頼者の端末に対して入力を促される情報であると認められる。それに発明の詳細な説明の記載(段落【0016】)を参酌すると,「広告情報」とは,顧客ファイル作成に必要な情報のすべてであると解するのが相当である。したがって,原告の主張は,理由がない。
イ 原告の主張に対し
原告は,本件発明1の「広告情報」は「複数の項目の広告情報」と理解すべきと主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
すなわち,前記認定の本件明細書の記載によれば,「複数の項目の」とは広告情報に含まれる情報が複数の項目に分類されていることを意味するにとどまり,また,入力する広告情報の項目の数は,適宜定められるべき事項であって,「複数の項目の」との限定に格別の意味があるとは認められない。したがって,本件発明1の「広告情報」を「複数の項目の広告情報」に限定して解釈する理由がなく,原告の主張は理由がない。
(2) 引用発明1の「電話帳情報」について
原告は,甲1の記載(839頁)から,引用発明1の「電話帳情報」が簡易広告や営業内容広告を含むとの審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
すなわち,甲1のうち,①862頁の図3「広告の登録・更新に関するテーブル関連図」には,簡易広告や営業内容広告が「電話帳」に含まれるとの記載があること,②838頁の表4「データベース一覧」には「電話帳」について「③付加情報の一部として「簡易広告」(略),「営業内容広告」(略)を収容」との記載があること,③859頁以下に「以上の点から,電話帳情報との結合方式は,電話帳情報と同時に検索され,データ量が小さく定型的な簡易広告と営業内容広告は,電話帳テーブルへ格納する方式を,・・採用した(図1)。」との記載があることに照らせば,甲1の「電話帳情報」には簡易広告や営業内容広告を含むことは明らかである。原告の主張は理由がない。
(3) 「新規に広告情報を登録」との認定について
本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,広告情報の登録を「新規」に限るとの記載はなく,文言上「更新」の場合も含まれるというべきであり,本件明細書の発明の詳細な説明を参酌しても,広告情報を新規に登録する場合の他既に登録された広告情報の変更,削除の場合の記載も存する(段落【0025】~【0040】)。したがって,「『新規に』広告情報を登録」と認定した審決の認定は誤りである。しかし,「広告情報を登録」が新規の場合に限られないとしても,後記のとおり審決の相違点1に対する判断に誤りがないことから,上記審決の認定の誤りは審決の結論に影響を及ぼすものではない。
(4) 「第三者のサーバー」について
特許請求の範囲(請求項1)によれば,本件発明において,「広告依頼者の端末」と「サーバー側」とが別個のものとして記載されているものの,「サーバー側」が広告依頼者とは異なる「第三者」のサーバーであることの記載はない。また,「広告依頼者の端末」と「サーバー側」の装置が対置されているが,その主体を特定する記載はない。前記本件明細書の記載によれば,「広告」とは,「ある者がその者の商品,サービス等に関し,その消費者等に成り得る者に対して宣伝等を行なうこと」とされ,甲23によれば「広く世間に告げ知らせること」を意味するとされ,「依頼主」と「広告を提供する者」とが同一である場合を排除するものとはいえない。
したがって,本件発明1の「サーバー」の管理者と広告依頼者が別人格であり,広告依頼者の端末はサーバー(第三者)の管理下にない端末であるとの審決の認定は誤りである。
なお,認定の誤りは,後記のとおり,審決の結論に影響を及ぼすものではない。
3 取消事由2(本件発明1と引用発明1との一致点の認定の誤り)について
原告は,本件発明1と引用発明1とは,地図上の広告対象物の座標を,入力された広告情報と関連づけてサーバー側で記憶する段階であることでも一致すると主張する。
しかし,原告の上記主張は失当である。
すなわち,本件発明1に係る特許請求の範囲請求項1には,「・・記憶手段に予め記憶された地図情報に基づいて地図を表示させて,当該地図上において広告対象物の位置指定を促す段階と,前記広告依頼者の端末によって位置指定された広告対象物の座標を,当該端末によって入力された広告情報と関連づけて,前記サーバが前記記憶手段に記憶させる段階とによって登録した・・」とあり,広告対象物の「座標」は,「地図上において位置指定された」ものであると記載され,単なる地図上の広告対象物の座標とは異なると記載されている。そして,前記1(2)で認定したとおり,甲1には,地図上で電話帳情報を検索できること,広告主が広告情報を端末から即時登録・更新することができることが記載されているものの,広告対象物の座標が地図上で位置指定されたものであることについて何ら記載がない。したがって,原告の主張は理由がない。
4 取消事由3(相違点1の容易想到性の判断の誤り)について
(1) 「記憶手段に予め記憶された地図情報に基づいて地図を表示させて,当該地図上において広告対象物の位置指定を促す段階と,前記広告依頼者の端末によって位置指定された広告対象物の座標を,当該端末によって入力された広告情報と関連づけて,前記サーバが前記記憶手段に記憶させる段階」の意義
前記1(1)で認定した本件明細書の記載によれば,相違点1に関して,本件発明1にいう「記憶手段に予め記憶された地図情報に基づいて地図を表示させて,当該地図上において広告対象物の位置指定を促す段階と,前記広告依頼者の端末によって位置指定された広告対象物の座標を,当該端末によって入力された広告情報と関連づけて,前記サーバが前記記憶手段に記憶させる段階」とは,広告依頼者において,その端末において画面上に表示された地図上で位置を指定して,当該座標を広告対象物の位置として登録させることで,広告対象物の座標と入力された広告情報に関連性をもたせることを意味するものと解される。
(2) 引用発明1及び周知技術(甲2,4,5)とによる容易想到性の判断
上記認定判断を前提に甲1及び甲2について検討すると,前記1(2)で認定したとおり,甲1には,利用者の端末から「広告情報」を登録・更新できることが記載されているが,既に地図上の座標と電話帳情報とが関連付けられて登録された情報に対して登録したり変更したりすることが開示されているにすぎず,広告依頼者の端末から地図を利用して位置指定をすることにより,利用者において地図上の座標情報を入力された広告情報と関連づけるとの技術的思想の開示はない。
そして,甲2には,「1 電話番号と,該電話番号の該当地区の地図等のデータ検索システムに関し,2 電話番号,住所,持ち主,住所コード等のデータと,住所コードに対応した複数のイメージデータを対応させ,また,表示された地図の該当地番の場所にポイントを表示するための地番座標変換テーブルを備え,3 電話番号あるいは住所コードを入力すると,該当する地図(区分地図)を表示し,かつ,地番に対応する地番ポイントを地図上に表示(第2図,14)するものであって,4 指定された地区の地図を表示し,該地図画面上にライトペン等により所望の位置を指定してその座標を読み取らせるとともに,キーボードにて角番地,住所コードのデータを入力して,座標-角番地対応テーブルが作成され,続いて地番座標変換テーブルを自動作成する,地番座標変換テーブル作成システムを有する,電話番号-地図データ処理システム。」が記載されている(当事者間に争いがない。)。
上記のとおり,甲2には,地図上の位置と地番とを対応づける地番変換システムを作成するシステムの記載はあるものの,広告依頼者の端末から地図を利用して位置指定することにより,座標を入力された広告情報と関連づけるとの技術的思想の開示はない。
甲4,5を検討しても,同様に,広告依頼者の端末から地図を利用して位置指定することにより,座標を入力された広告情報と関連づけることの技術的思想の開示はない。
そうすると,引用発明1に周知技術(甲2,4,5)を組み合わせても,本件発明1のように広告情報の端末から地図を利用して位置指定することにより座標を入力された広告情報と関連づけるとの構成を想到することはできないというべきである。原告の主張は理由がない。
(3) 原告の主張に対し
原告は,広告依頼者が広告情報を登録する以前から広告情報と座標情報が関連づけられているかは重要ではないにもかかわらず,その点を重視して,相違点1の構成が容易に想到できないとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
すなわち,本件発明1においては,広告依頼者自身が簡単な操作で広告対象物の広告情報を登録し,広告対象物に関連づけられた広告情報は,広告受給者も簡単な操作で直ちに読み出すことができる広告情報を得られることで広告記載依頼から広告頒布までのタイムラグをできるだけ短くするという作用効果を奏するのであるから,広告情報と座標情報の関連づけを広告依頼者がするか否かは,上記作用効果の有無に直接影響を及ぼす構成というべきである。原告の主張は,理由がない。
5 取消事由4(周知技術の認定及びそれに基づく相違点1に関する容易想到性の判断の誤り)について
原告は,端末から地図情報と属性情報を関連づけて第三者のサーバ(ホスト)に記憶させることは,甲11及び甲14から周知技術であり,これを否定する審決の周知技術の認定は誤りであると主張する。しかし,以下の理由から原告の主張は失当である。
(1) 審決は,周知技術(甲10ないし15)の認定及び判断として,「甲第10ないし15号証記載のものは,ホストコンピュータで記憶・管理される情報(地図情報や属性情報)を該ホストコンピュータに接続された端末で作成,修正(編集),削除するシステム,つまり情報を蓄積・管理しているセンタ(ホスト)のデータを,センタの管理下にある複数の端末によって,作成,照会,編集,登録できるようなシステムに関するものであって,そもそも広告依頼者が広告を出すために,広告依頼者の端末から第三者のホストに情報を登録するようなシステムではないから,広告依頼者が自分の端末から地図座標と広告情報を関連付けて第三者のサーバに記憶させることが周知技術であるとは認められず,上記相違点1に係る事項が甲第10号証ないし甲第15号証に記載されたものから容易に想到できたということはできない。」と判断している。要するに,審決は,周知技術(甲10ないし15)から,「広告依頼者がその端末から,第三者のサーバに記憶させる」ことが周知技術であるとは認められないと判断したものであり,後記のとおり,その判断を誤りとする理由はない。なお,原告の指摘する周知技術は,審決が判断の対象とした周知技術と内容において異なるから,原告の主張は,その主張自体失当である。
(2) 甲11
甲11には,「東京ガスの地下埋設物情報管理システム」に関して,以下の記載がある。
ア 「コンピュータ・マッピング・システムは基本的に,①入力,更新,検索の場合などに図形情報を表示するグラフィック・ディスプレイ,②図形の座標点を入力するためのディジタイザ,③登録された情報から作図するプロッタ,④全体をコントロールするミニコンピュータから構成される。」(144頁~145頁)
イ 「図11-1 東京ガスのハードウェア構成図」には,東京ガスの20支社に設置された端末から中央の各コンピュータに接続するハードウェア構成が記載されている。(144頁)
ウ 「図面データおよびその属性データの登録・修正・削除を効率的に行うためのもので,特にデータのメンテナンスを容易にするため,任意の多角形(ポリゴン)を指定し,内部の情報を修正,削除し情報の更新を行う機能を持つ。」(147頁)
以上によれば,甲11には,東京ガスの支社に設置された端末から中央のコンピュータに対して,地図上の図形を指定して図形に関連する属性のデータの入力を行うことが記載されているといえるが,「広告提供者の」端末から,サーバー側に対して広告対象物の座標を「広告情報」と関連づけて記憶することについての技術的思想の開示はない。
(3) 甲14
甲14には,以下の記載がある。
ア 「図16はその機運にのっとったコンピュータ・マッピングシステムのシステム構成図であり,センターシステムCSには,通信回線Lにより複数のユーザーシステムUSが接続されている。センターシステムCSは,たとえば基本地図データベースを入力し,維持管理するとともに設備データを預かり保管する機関に設置され,各ユーザーシステムUSは,電信電話,電力,ガス,水道,下水道,地下鉄など,道路を占有する設備を管理する各事業者に設置されている。」(段落【0003】)
イ 「センターシステムCSは,地図および設備に関して構築された各種の図形データベースを外部記憶装置CES上で維持管理するものであり,センターシステムCSのホストコンピュータCHCは,各ユーザーシステムUSの要求に応じて各種の図形データベースの検索処理を行う。」(段落【0004】)
ウ 「センターシステムCSが有する図形データベースは・・・大別すると,本センターシステムCSが設置された上記の機関により作成され,地形,道路,街区などの地図情報,ビルなどの構築物の占有位置,名称など地図に関する各種のデータをデータベース化した基本地図データベースDB1と,上記のような各事業者により個別に作成されて本機関に提供された設備の配設状況に関する各種データをデータベース化した設備地図データベースDB2とに分けられる。」(段落【0005】)
エ 「各事業者に設置されたユーザーシステムUSは,自己の管理下に属する設備の配設状況に関する各種データを地形や街区データと対応づけてデータベース化した図形データベース・・・を,自己の外部記憶装置UES上で個別に登録,更新,検索するなどして維持管理するものであるが,自己の管理下に属する設備を改修する場合など,他の事業者が管理している設備を破損しないようにするために,他の事業者が管理している設備の配設状況を調査しなければならない場合があるため,センターシステムCSに提供されている他の事業者の管理下にある設備の設備地図データベースDB2を検索する機能をも有している。」(段落【0006】)
オ 「また,各事業者の管理下にある設備の設備地図データベースDB2は,・・・各設備地図データベースDB2の背景となる地図としては,上記機関により作成された基本地図データベースDB1を共通に使用するよう要請されている。すなわち,基本地図データベースDB1を背景とした設備地図データベースDB2のみをセンターシステムCSに提供するよう要請されている。」(段落【0007】)
カ 「デジタイザ2は,たとえばガス管の位置データ(座標データ),ガス管の材質,太さなどの属性などの図形データの入力に使用され,このデジタイザ2でもメニューシートを利用して入力内容を指示する。ただし,メニューの選択などは,カーソルにより行う。」(段落【0026】)
キ 「パソコン4は,街,家屋などの名称など,座標データ以外の文字データを入力する場合などに使用される。・・」(段落【0028】)
以上の記載によれば,甲14には,各事業者のパソコンから地図データベースを維持管理するセンターシステムに対して,街,家屋等の名称を入力する旨の記載があるといえるが,「広告提供者の」端末から,サーバー側に対して「広告対象物の」座標を,「広告情報」と関連づけて記憶するとの技術的思想の開示はない。
(4) したがって,原告が指摘する甲11及び甲14の内容を検討しても,いずれも,広告依頼者が自分の端末から地図座標と広告情報を関連付けてサーバに記憶させることができるとの技術的思想の開示はなく,上記審決の判断に誤りがあるとは認められない。原告の主張は理由がない。
6 取消事由5(本件発明1の顕著な作用効果の判断の誤り)について
原告は,引用発明1においても,広告依頼者自身が自分の端末からサーバーに対して広告情報を即時登録でき,登録された広告情報は,地図と関連づけられ,一般利用者に案内されるため,広告配布までのタイムラグが短くなるという作用効果が生じると主張する。しかし,前記5で認定判断したとおり,引用発明1には,広告依頼者の端末から地図を利用して位置指定をすることにより,座標を入力された広告情報と関連づけるものということはできない。これに対し,本件発明1は,広告依頼者の端末から地図を利用して位置指定をすることにより,座標を入力された広告情報と関連づけるものであり,これにより,「広告記載依頼から実際の広告頒布までのタイムラグをできるだけ短く」(【0005】)するという作用効果を奏するものである。原告の主張は理由がない。
7 取消事由6(本件発明2ないし7に関する判断の誤り)について前記のとおり,本件発明1についての審決の判断に違法はないから,それを前提とする本件発明2ないし7に関する審決の判断に誤りはない。
8 結論
以上のとおり,原告の主張する取消事由には理由がない。原告は,その他縷々主張するが,審決を取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 中平健)
裁判官上田洋幸は,差し支えのため,署名押印することができない。裁判長裁判官 飯村敏明