知財高等裁判所 平成20年(行ケ)10390号 判決 2009年9月30日
原告
X
同訴訟代理人弁理士
黒田博道
同
北口智英
被告
アルゼ株式会社
同訴訟代理人弁護士
長沢幸男
同訴訟代理人弁理士
正林真之
同
青木和夫
同
佐藤武史
同
八木澤史彦
同訴訟復代理人弁護士
伊奈優子
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が,無効2008-800051号特許無効審判事件について平成20年9月17日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,名称を「遊技機」とする被告の特許権(特許第3908896号。甲13。以下「本件特許権」といい,同特許権に係る発明を「本件発明」といい,同特許権の特許明細書を「本件明細書」という。)について,原告が,本件発明は,本件出願前に出願され出願後に公開された先願発明と実質的に同一であるから,特許法29条の2違反であり,同法123条1項2号によって無効とされるべきであるとして無効審判請求をしたところ,請求不成立の審決を受けたことから,同審決の取消しを求める事案である。
1 本件特許権の設定登録及び審決に至る手続の経緯
本件特許権は,原告によって平成12年7月19日に出願され,平成19年1月26日に設定登録された。
原告は,平成20年3月17日,本件特許権の請求項1ないし5の特許に対して審判請求(請求書記載の日付は同月14日)をしたところ,同年6月3日,被告は答弁書とともに訂正請求書(書面記載の日付は同月2日)を提出して訂正請求をした(以下「本件訂正請求」という。)が,特許庁が同月14日付けで訂正拒絶理由を通知したので,被告は同年8月15日,意見書(書面記載の日付は同月14日)を提出し,同月19日,原告も意見書(書面記載の日付は同月18日)を提出した。
特許庁は,審理の結果,同年9月17日,本件訂正請求を却下したが,本件審判請求は成り立たないとの審決をし,同月29日,その謄本を原告に送達した。
2 本件特許の特許請求の範囲
本件訂正請求が認められなかったことから,本件発明は本件明細書の特許請求の範囲【請求項1】ないし【請求項5】に記載された事項によって特定されるものであり,その特許請求の範囲の記載は次のとおりである(以下,各請求項の番号に従って「本件発明1」などという。)。
【請求項1】
遊技に必要な複数の図柄を変動表示する変動表示手段と,
特定役の入賞成立を示す特定の図柄組合せが,前記変動表示手段の変動表示の停止時に所定のラインに沿って並ぶこととなるために必要な情報を報知する報知手段と,
前記変動表示手段及び前記報知手段を制御する制御手段とを具備し,
前記制御手段は,
前記特定の図柄組合せを含む,遊技者にとって有利な図柄組合せが,前記変動表示の停止時に前記所定のラインに沿って並ぶことを許可するか否かの第一の決定と,
該第一の決定の結果及び遊技者の停止操作のタイミングに基づいて,前記変動表示の停止時に表示すべき態様を決定する第二の決定と,
特別増加役の入賞成立に基づいて発生する特別遊技状態の終了後に前記報知手段により報知される遊技者にとって有利な状況を発生させるか否かを,特別遊技状態が複数回発生した場合の各々の回について,一の乱数抽選の結果に基づいて予め決定する第三の決定とを行い,
前記制御手段は,前記第一の決定の結果と前記タイミングのほか遊技者の停止操作の順番に基づいて前記第二の決定を行い,前記第一の決定結果が,前記特定の図柄組合せが前記所定のラインに沿って並ぶことを許可するものであるとき,前記情報として停止操作の順番が報知されることを特徴とする遊技機。
【請求項2】
請求項1記載の遊技機において,
前記有利な状況は,特別増加役の入賞成立に基づいて複数回発生する所定の遊技状態の各々において発生可能であることを特徴とする遊技機。
【請求項3】
請求項1記載の遊技機において,
前記有利な状況は,特別増加役の入賞成立に基づいて発生する特別遊技状態が終了した後の遊技状態において発生可能であることを特徴とする遊技機。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか記載の遊技機において,
前記制御手段は,前記有利な状況が発生可能な複数の遊技状態の各々について,一の抽選処理により,前記有利な状況を発生させるか否かを予め決定することを特徴とする遊技機。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか記載の遊技機において,
前記制御手段は,前記変動表示手段の制御と前記第一の決定及び前記第二の決定とを行う主制御手段と,前記報知手段の制御及び前記第三の決定を行う副制御手段とにより構成されることを特徴とする遊技機。
3 本件審判請求における原告(請求人)の主張
本件発明1ないし5は,本件出願前に出願され出願後に公開された特願2000-109980号(甲1。以下「先願」という。)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下,添付図面を含めて「先願明細書」という。)に記載された発明(以下「先願発明」という。)と,実質的に同一発明である。
なお,本件発明1と先願発明との後記「相違点」は,特開2000-70485号公報(甲2。以下「周知例1」という。),特開2000-79192号公報(甲3。以下「周知例2」という。),特開2000-84192号公報(甲4。以下「周知例3」という。),特開平6-134099号公報(甲5。以下「周知例4」という。),特開2000-135306号公報(甲6。以下「周知例5」という。)に記載された周知技術を勘案すれば,実質的な相違点ではない。
したがって,本件発明1ないし5は特許法29条の2の規定に違反してされた特許であるから,同法123条1項2号の規定により無効とされるべきである。
4 審決の理由
審決は,次のとおり,本件発明1ないし5は先願発明と実質的に同一発明ではなく,本件発明1ないし5は特許法29条の2の規定に違反して出願された特許ではないから,原告(請求人)が主張する理由によって,本件発明1ないし5を無効とすることはできないとした(なお,以下において引用した審決中の当事者及び公知文献等の表記は,本判決の表記に合わせて統一した。)。
(1) 先願発明の認定
「複数種類の図柄を表示した複数のリールと,
各前記リールに対応して設けられ,前記リールの回転を停止させるときに遊技者が操作するストップスイッチと,
前記ストップスイッチの操作順番に対応する前記リールの停止制御を定めたリール制御パターンを複数設けたリール制御パターンデータテーブルと,
前記リール制御パターンデータテーブルから,リール制御パターンを抽選するリール制御パターン抽選手段と,
前記リール制御パターン抽選手段で選択したリール制御パターンに関する内容を報知するリール制御パターン報知手段とを備え,
ビックボーナスを含む特別役,複数種類の小役,又はリプレイの役の役抽選手段を有し,ビックボーナスゲームの終了後に移行する遊技を,通常遊技とするか又は特典付き遊技とするかを乱数発生手段や所定の抽選テーブルを用いて決定し,
前記特典付き遊技においては,前記リール制御パターンデータテーブルのリール制御パターンにおける前記リールの停止制御は,前記役抽選手段で特定小役が当選したときに,前記リールの停止可能位置の範囲内において,その特定小役に係る図柄を有効ラインに停止させる制御を行う停止制御と,前記役抽選手段で特定小役が当選したときであっても,その特定小役に係る図柄を有効ラインに停止させる制御を行わないか,又はその特定小役に係る図柄を有効ラインに停止させない制御若しくは停止しにくい制御を行う停止制御とを有し,
前記リール制御パターン報知手段は,前記役抽選手段で特定小役が当選したときに,その特定小役に係る図柄を有効ラインに停止させる制御が行われるための前記ストップスイッチの操作順番に関する内容を報知するスロットマシン。」
(2) 本件発明1と先願発明の一致点
「遊技に必要な複数の図柄を変動表示する変動表示手段と,
特定役の入賞成立を示す特定の図柄組合せが,前記変動表示手段の変動表示の停止時に所定のラインに沿って並ぶこととなるために必要な情報を報知する報知手段と,
前記変動表示手段及び前記報知手段を制御する制御手段とを具備し,
前記制御手段は,
前記特定の図柄組合せを含む,遊技者にとって有利な図柄組合せが,前記変動表示の停止時に前記所定のラインに沿って並ぶことを許可するか否かの第一の決定と,
該第一の決定の結果及び遊技者の停止操作のタイミングに基づいて,前記変動表示の停止時に表示すべき態様を決定する第二の決定と,
特別増加役の入賞成立に基づいて発生する特別遊技状態の終了後に前記報知手段により報知される遊技者にとって有利な状況を発生させるか否かを乱数抽選の結果に基づいて決定する第三の決定とを行い,
前記制御手段は,前記第一の決定の結果と前記タイミングのほか遊技者の停止操作の順番に基づいて前記第二の決定を行い,前記第一の決定結果が,前記特定の図柄組合せが前記所定のラインに沿って並ぶことを許可するものであるとき,前記情報として停止操作の順番が報知される遊技機。」
(3) 本件発明1と先願発明の相違点
「『第三の決定』につき,本件発明1が『特別遊技状態が複数回発生した場合の各々の回について,一の乱数抽選の結果に基づいて予め決定』としているのに対し,先願発明にはその限定がない点。」
(4) 本件発明1と先願発明との同一性の判断
「原告は,上記相違点が周知例1ないし5に記載された周知技術であるから,実質的相違点ではないと主張している。
本件発明1及び先願発明に共通して,有利な状況(特典付き遊技)は,『特別増加役の入賞成立に基づいて発生する特別遊技状態の終了後』に発生しうる状況である。技術常識に照らせば,第一の決定の結果が特別増加役(ビッグボーナス)の当選となる確率は低く,当選すれば,当選したゲームで入賞成立しなくともいずれ入賞する。‥‥,当選後は特別遊技状態の終了までの任意の時期に抽選可能であるが,その抽選の契機となるのは,特別増加役(ビッグボーナス)の当選である。
そして,本件発明1では『特別遊技状態が複数回発生した場合の各々の回について,一の乱数抽選の結果に基づいて予め決定』するのであるから,未だ抽選の契機となるものが生じていない状態で,当選確率が低いためいつその契機が生じるかもしれない将来の抽選を事前に一括してするというものである。
以上のことを踏まえた上で,周知例1ないし5について検討する。」
「周知例1には,‥‥との各記載もあり,要は,大当たり後の時短回数を,2回にわけて表示する(意味があるのはその合計数である。)ために,2回の抽選を異なる時期にするか同時期にするかが選択できることが記載されているだけであり,2回の抽選の何れも,その契機となるのは1つの大当りであるから,抽選契機が生じた時に抽選するものでしかない。」
「周知例2は,‥‥との記載があり,第1回目及び第2回目のパターンを同時に決定することが記載されているが,『抽選結果に関わる情報を遊技者に報知する機会を増すことにより,予告動作の多様性を増し,ゲームの演出効果と興趣とを向上させ』(段落【0009】)とあるところ,第1回目及び第2回目の報知の契機となるのは,それらに共通した抽選結果であり,これも抽選契機が生じた時に抽選するものでしかない。」
「周知例3には,‥‥との記載があり,複数ラウンドに関する抽選を一括して行うことは認められるものの,ラウンド毎に大入賞口を開放するかどうかの契機となるものは,1つの大当たりでしかなく,これも抽選契機が生じた時に抽選するものでしかない。」
「周知例4には,‥‥との記載があり,『確率変動』は『遊技者にとって有利な状況』といえるから,1回の抽選により『遊技者にとって有利な状況』の回数を定めることは記載されているかもしれないが,これも抽選契機が生じた時に抽選するものでしかないばかりか,決定された回数分連続して確率変動状態になるのだから,『各々の回について』確率変動かどうかを決定するものではない。」
「周知例5には,‥‥との記載があり,『遊技開始音』,『連動表示』及び『停止表示』が,異なる時点での報知であり,それらが一括して『入賞態様報知選択抽選確率テーブル』により決定されることは認めるが,周知例2同様,異なる時点での報知の契機となるのは,それらに共通した抽選結果であり,これも抽選契機が生じた時に抽選するものでしかない。」
「上記のとおり,周知例1ないし3及び5には,ある1つの契機により複数の抽選が必要となる場合に,それら複数の抽選を一括して行う技術が記載されているにすぎず,周知例4にはその技術すら記載されていない。周知例1を例にとれば,複数回の大当り後の時短回数を,事前に一括決定するというのであれば,相違点に係る本件発明1の構成に相当程度類似した技術といえるが,周知例1はかかる技術を記載していないことは前示のとおりである。
そして,前示のとおり,本件発明1は未だ抽選の契機となるものが生じていない状態で,いつその契機が生じるかもしれない将来の抽選を事前に一括してするというものであるから,複数時点での抽選を一括して事前に行うことが周知技術であるとしても,それだけの理由で,その周知技術を適用し,相違点に係る本件発明1の構成に至ることは,当業者にとって容易ということすらできない。ましてや,実質的相違点でないなどとは到底認めることができない。
加えて,先願明細書の記載キには,『特典付き遊技抽選手段65による抽選は,役抽選手段61でBBが当選したとき以降』と明記されており,これはBB当選という1つの契機に対して,1回『特典付き遊技抽選手段65による抽選』を行うとしか解釈できないから,事前一括抽選は先願発明の範囲外である。
以上によれば,相違点は実質的相違点であるから,本件発明1は先願発明と同一発明ではなく,請求項1の特許は特許法29条の2の規定に違反してされた特許ではない。」
(5) 本件発明2ないし5と先願発明の同一性の判断
「本件発明2ないし5は,本件発明1になにがしかの限定を加えた(もっとも,請求項2ないし4は,請求項1との重複記載と解され,本件発明2ないし4は実質的に何も限定しないと解される。)ものであるから,本件発明1と先願発明の相違点は本件発明2ないし5と先願発明の相違点でもあり,相違点がある以上,本件発明2ないし5は先願発明と同一発明ではなく,請求項2ないし5の特許は特許法29条の2の規定に違反してされた特許ではない。」
第3原告主張の取消事由
1 本件発明1と先願発明との一致点及び相違点の認定の誤り(取消事由1)
(1) 先願発明の認定の誤り
審決は,先願発明の内容を前記第2の4(1)のとおり認定しているが,次のとおり,誤りである。
ア まず,審決が認定した先願発明の構成は,以下のとおり分説できる。
(ア) 複数種類の図柄を表示した複数のリールと,
(イ) 各前記リールに対応して設けられ,前記リールの回転を停止させるときに遊技者が操作するストップスイッチと,
(ウ) 前記ストップスイッチの操作順番に対応する前記リールの停止制御を定めたリール制御パターンを複数設けたリール制御パターンデータテーブルと,
(エ) 前記リール制御パターンデータテーブルから,リール制御パターンを抽選するリール制御パターン抽選手段と,
(オ) 前記リール制御パターン抽選手段で選択したリール制御パターンに関する内容を報知するリール制御パターン報知手段とを備え,
(カ) ビックボーナスを含む特別役,複数種類の小役,又はリプレイの役の役抽選手段を有し,ビックボーナスゲームの終了後に移行する遊技を,通常遊技とするか又は特典付き遊技とするかを乱数発生手段や所定の抽選テーブルを用いて決定し,
(キ) 前記特典付き遊技においては,前記リール制御パターンデータテーブルのリール制御パターンにおける前記リールの停止制御は,前記役抽選手段で特定小役が当選したときに,前記リールの停止可能位置の範囲内において,その特定小役に係る図柄を有効ラインに停止させる制御を行う停止制御と,前記役抽選手段で特定小役が当選したときであっても,その特定小役に係る図柄を有効ラインに停止させる制御を行わないか,又はその特定小役に係る図柄を有効ラインに停止させない制御若しくは停止しにくい制御を行う停止制御とを有し,
(ク) 前記リール制御パターン報知手段は,前記役抽選手段で特定小役が当選したときに,その特定小役に係る図柄を有効ラインに停止させる制御が行われるための前記ストップスイッチの操作順番に関する内容を報知するスロットマシン。
上記構成(ア)ないし(オ),(キ)及び(ク)については原告に異論はない。
イ しかし,審決が認定した先願発明の構成のうち,構成(カ)における「ビックボーナスゲームの終了後に移行する遊技を,通常遊技とするか又は特典付き遊技とするかを乱数発生手段や所定の抽選テーブルを用いて決定し」の部分については,誤りである。
すなわち,先願明細書には,次の記載がある。
A 「(特典付き遊技抽選手段)特典付き遊技抽選手段65は,本実施形態では,役抽選手段61で特別役の1つであるBBに当選したときに,BBゲームの終了後に移行する遊技を,通常遊技とするか又は特典付き遊技とするかの抽選を行うものである。ここで,特典付き遊技抽選手段65は,役抽選手段61と同様に乱数発生手段や所定の抽選テーブルを用いて通常遊技とするか特典付き遊技とするかを決定する。」(段落【0056】)
B 「特典付き遊技抽選手段65による抽選は,役抽選手段61でBBが当選したとき以降であれば,BBの入賞前後を問わず,BBゲームが終了するまでの間であれば,いつでも行うことができる。」(段落【0057】)
ここで,上記Bの記載のとおり,上記アの構成(カ)における「決定」は,「役抽選手段61でBBが当選したとき以降であれば,BBの入賞前後を問わず,BBゲームが終了するまでの間であれば,いつでも行うことができる」のである。つまり,上記Aの記載のとおり,「特典付き遊技」は「BBゲームの終了後に移行する」ものであるから,その「BBゲームが終了するまで」にされる「決定」は,「特典付き遊技」の始まるべき時点より前,すなわち「予め」されるものであることは明らかである。
したがって,審決における先願発明の認定は誤りであり,上記アの構成(カ)は,先願明細書に開示された事項から,正しくは以下のとおり認定されるべきである。
「(カ) ビックボーナスを含む特別役,複数種類の小役,又はリプレイの役の役抽選手段を有し,ビックボーナスゲームの終了後に移行する遊技を,通常遊技とするか又は特典付き遊技とするかを乱数発生手段や所定の抽選テーブルを用いて予め決定し,」。
(2) 一致点の認定の誤り
ア 審決は,上記(1)のとおり,先願発明の認定を誤った結果,次のとおり,本件発明1と先願発明との一致点の認定を誤っている。
審決が前記第2の4(2)で認定した一致点を分説すると,次のようになる。
a 遊技に必要な複数の図柄を変動表示する変動表示手段と,
b 特定役の入賞成立を示す特定の図柄組合せが,前記変動表示手段の変動表示の停止時に所定のラインに沿って並ぶこととなるために必要な情報を報知する報知手段と,
c 前記変動表示手段及び前記報知手段を制御する制御手段とを具備し,前記制御手段は,
d 前記特定の図柄組合せを含む,遊技者にとって有利な図柄組合せが,前記変動表示の停止時に前記所定のラインに沿って並ぶことを許可するか否かの第一の決定と,
e 該第一の決定の結果及び遊技者の停止操作のタイミングに基づいて,前記変動表示の停止時に表示すべき態様を決定する第二の決定と,
f 特別増加役の入賞成立に基づいて発生する特別遊技状態の終了後に前記報知手段により報知される遊技者にとって有利な状況を発生させるか否かを乱数抽選の結果に基づいて決定する第三の決定とを行い,
g 前記制御手段は,前記第一の決定の結果と前記タイミングのほか遊技者の停止操作の順番に基づいて前記第二の決定を行い,
h 前記第一の決定結果が,前記特定の図柄組合せが前記所定のラインに沿って並ぶことを許可するものであるとき,前記情報として停止操作の順番が報知されることを特徴とする
i 遊技機。」
しかし,上記(1)で主張したとおり,先願発明の認定は誤りであるから,一致点にいう上記構成fにおいて「予め」の文言が除かれたものが一致点とされている点は,誤りである。
したがって,一致点のうち上記構成fは,正しくは,次のとおり認定されるべきである。
「f 特別増加役の入賞成立に基づいて発生する特別遊技状態の終了後に前記報知手段により報知される遊技者にとって有利な状況を発生させるか否かを乱数抽選の結果に基づいて予め決定する第三の決定とを行い,」
イ この点,審決は,前記第2の4(4)のとおり,本件発明1と先願発明との同一性の判断に当たり,「本件発明1では『特別遊技状態が複数回発生した場合の各々の回について,一の乱数抽選の結果に基づいて予め決定』するのであるから,未だ抽選の契機となるものが生じていない状態で,当選確率が低いためいつその契機が生じるかもしれない将来の抽選を事前に一括してするというものである。」と判断し,この構成が先願発明に記載されていないということに基づいて,審決における一致点及び相違点の認定,すなわち「乱数抽選の結果に基づいて予め決定」との構成が本件発明1と先願発明との相違点であるとの認定に至っているものと思われる。しかし,この構成,とりわけ「未だ抽選の契機となるものが生じていない状態」との構成は本件特許の請求項1には何ら記載されておらず,また,請求項の記載から明らかに導き出される構成ともいえない。よって,この認定は請求項の記載に基づかないものであり,何ら根拠のないものである。
ところで,「広辞苑 第4版」(岩波書店)によると,「あらかじめ(予め)」の語義は,「結果を見越して,その事が起こる前から。まえもって。かねて。」とされている。すなわち,「予め」との文言から,「未だ抽選の契機となるものが生じていない状態」との構成を導き出す根拠は語義の上からも皆無である。そして,本件発明1における「予め決定する第三の決定」にいう「予め決定」は,「遊技者にとって有利な状況を発生させるか否か」についてされるものであり,それは審決にいう「抽選の契機」の発生の有無とは何ら関係がなく,単に,「遊技者にとって有利な状況を発生させるか否か」が「予め」,すなわち「まえもって」「決定」される,という意味にすぎない。ここで「まえもって」とは,「遊技者にとって有利な状況」が発生すべき時になって初めて発生させるか否かを決定するのではなく,その「時」よりも前の時点で決定するのである,と語義上は解釈すべきである。そうであれば,先願発明における「特典付き遊技抽選手段65による抽選は,役抽選手段61でBBが当選したとき以降であれば,BBの入賞前後を問わず,BBゲームが終了するまでの間であれば,いつでも行うことができる。」とはまさしく「予め」であることは明白である。
(3) 相違点の認定の誤り
上記(2)のとおり,審決における本件発明1と先願発明との一致点の認定は誤りであるから,それに伴い,本件審決において前記第2の4(3)のとおり認定された本件発明1と先願発明との相違点も誤りであり,相違点は,正しくは,次のとおり認定されるべきである。
「構成fについて,先願発明に開示されているところの『遊技者にとって有利な状況を発生させるか否かを乱数抽選の結果に基づいて予め決定する』ことが,特別遊技状態が複数回発生した場合の各々の回について,一の乱数抽選の結果に基づいてなされるものであること。」
2 本件発明1と先願発明との同一性の判断の誤り(取消事由2)
(1) 前記1(3)のとおり,本件発明1と先願発明との相違点は,「構成fについて,先願発明に開示されているところの『遊技者にとって有利な状況を発生させるか否かを乱数抽選の結果に基づいて予め決定する』ことが,特別遊技状態が複数回発生した場合の各々の回について,一の乱数抽選の結果に基づいてなされるものであること。」である。
この相違点のうち,「遊技者にとって有利な状況を発生させるか否かを乱数抽選の結果に基づいて予め決定する」ことは,先願発明に既に開示されている部分である。また,この「予め決定する」ことが,「特別遊技状態が」「発生した場合」「について,一の乱数抽選の結果に基づいてなされるものである」ことについても,また,先願発明に開示されている部分である。
してみると,上記相違点のうち,実質的に相違点といえるのは,この「予め決定する」ことが,なんらかの有利な状況が将来「複数回」発生することが見込まれる際,その「各々の回について,一の乱数抽選の結果に基づいてなされる」ことである。そして,この相違点については,審決にいう「抽選契機が生じたときに抽選する」かどうかということとは全く無関係であるとともに,次のとおり,周知例1ないし5に開示されているものである。
ア 周知例1の記載
周知例1には,次の記載がある。
「上記実施の形態1では,1回目の時短回数を決定した後…,2回目の時短回数を決定した…。同様に,上記実施の形態2では,1回目および2回目以降の継続回数を時期を異ならせて決定した…。すなわち,複数回の抽選を異なる時期に行なった。この形態に代えて,所定時期に複数回の抽選をほぼ同時に行なってもよい。…上記実施の形態1を例にすると,図3に示すステップS16において読み込んで記憶する時短回数用乱数RDに応じて1回目および2回目以降の時短回数を決定する。例えば,時短回数用乱数RDの値を6で割った剰余に応じて第4時短テーブルに従って1回目と2回目の時短回数を同時に決定する。」(段落【0053】)
そして,この記載と周知例1の表4とを参照すると「1回目の時短回数」と「2回目の時短回数」とが6通りの剰余について一義的に定められるようになっているのは明らかである。この「時短回数」については,同じく,「…特別図柄(決定図柄)の変動とは別個に行われる1回目の時短回数(抽選の抽選結果)と,その後に行われる2回目の時短回数(少なくとも1回の抽選結果)とに基づいて総時短回数(第2の特典)が与えられる。そのため,遊技者は特別図柄がどの図柄で停止したかにかかわらず,2回目以降の時短回数が決定されるまで総時短回数を期待する期待感を維持することができる。」(段落番号【0060】)との記載のとおり,これが,本件発明1にいう「遊技者にとって有利な状況」であることは明らかである。つまり,このような「遊技者にとって有利な状況」である「1回目の時短回数」と「2回目の時短回数」とが「一の乱数抽選の結果に基づいて予め決定」されていることが周知例1に記載されているのは明らかである。
イ 周知例2の記載
周知例2には,次の記載がある。
「抽選結果に関わる情報の報知」として,「第1回目の報知」と「第2回目の報知」とで「16種類の組み合わせ」があり,これらのうち「いずれの組み合わせを選択するかは,乱数による抽選処理により決定されるもので,この実施例では,乱数発生器に0から99の乱数を発生させ,ボーナス当たりのときは,例えばサンプリングされた乱数値が5とおり(例えば0~4)のいずれかの値であれば,第1回目の報知で発光表示パターンPA1,第2回目の報知で発光パターンPA2を選択し,つぎの5とおり(例えば5~9)のいずれかの値であれば,第1回目の報知で発光表示パターンPA1,第2回目の報知で発光パターンPB2を選択する。」(段落【0036】及び【0037】)
これらの記載は,一の乱数の値が,「第1回目の報知」と「第2回目の報知」とで「16種類の組み合わせ」のいずれかに一義的に対応することとなっており,これは,複数回の報知の各々について,「一の乱数抽選の結果に基づいて予め決定する」ことにほかならない。
ウ 周知例3の記載
周知例3には,「上記実施の形態では,各ラウンド毎に大入賞口4の開放が行われるか否かを選択決定することとしていた。これに対し,大当たり状態の発生時あるいはその近時において,何ラウンドの開放が行われるか(第何ラウンドと第何ラウンドとを開放させるかということも含む)を選択決定することとしてもよい。(段落【0076】)との記載がある。
すなわち,「遊技者にとって有利な状況」である「大入賞口4の開放が行われるか否か」が,「各ラウンド毎」に決定されるのではなく,「何ラウンドの開放が行われるか(第何ラウンドと第何ラウンドとを開放させるかということも含む)」を「大当たり状態の発生時あるいはその近時において」まとめて予め決定される,ということが周知例3に開示されていることになる。
エ 周知例4の記載
周知例4には,「大当り確率の変動を決定すると,その後,確率変動の回数を決定し(例えば,乱数の抽選によって)」(段落【0126】),その「変動回数用の乱数の抽選結果で『5』を引くと,確率変動回数が5回となり,…また,乱数の抽選で『3』を引くと,確率変動回数が3回となり,…乱数の抽選で『1』を引くと,確率変動回数が1回とな(る)」(段落【0129】)との記載がある。
すなわち,「一の乱数抽選の結果に基づいて」いつ発生するかわからない大当たり終了後の確率変動という「遊技者にとって有利な状況」が各々の回について発生するか否か(すなわち,上記例でいうと最大の回数である「5回」のうち何回発生するのか)が決定されることとなっている。
オ 周知例5の記載
周知例5には,「入賞態様報知選択抽選確率テーブルは,上記の入賞態様決定手段で決定された8入賞態様の中の1入賞態様に応じて,遊技開始音の種類,連動表示態様の種類および停止表示態様の種類を組み合わせて得られる8組合せの中から1つの組合せを選択する報知態様選択手段を構成している。」(段落【0063】)との記載があり,この入賞態様の決定については,「入賞態様は,サンプリングされた1つの乱数値がこのどの数値範囲に属するかによって決定され,『ハズレ』および『再遊技』を含めて合計8種類の当選フラグによって表される。」(段落【0060】)との記載がある。
すなわち,「一の乱数抽選の結果に基づいて」「遊技開始音の種類,連動表示態様の種類および停止表示態様の種類」といった複数の事象の組み合わせを「予め決定」していることになる。
カ 以上のとおり,一の乱数抽選の結果に基づいて複数の異なる状況の態様を決定することは,本件出願時における周知技術であることは明らかである。よって,本件発明1と先願発明との相違点は周知例1ないし5に記載されている周知技術である。
(2) したがって,本件発明1と先願発明との相違点は本件出願時における周知技術の付加であるから微差にすぎないので,本件発明1と先願発明とは実質的に同一である。また,本件発明1に係る特許出願の出願時における出願人である被告及び発明者であるAは,先願発明に係る特許出願の出願人であるサミー株式会社並びに発明者であるB,C,D及びEとは,明らかに同一ではない。
よって,本件発明1は特許法29条の2に該当する発明であることは明らかであるので,同法123条1項2号の規定により無効にされるべきものである。
3 本件発明2ないし5と先願発明との同一性の判断の誤り(取消事由3)
審決は,本件発明1に特許法29条の2違反の無効理由がないことを前提にこれをさらに限定した本件発明2ないし5にも同条違反の無効理由がないと認定している。しかし,前記のとおり,その前提に根拠がないことは明らかであり,それ以外に本件発明2ないし5特有の構成に基づく判断はされていないのであるから,本件発明2ないし5についても,同条違反の無効理由があることは明らかである。
4 被告の反論に対する再反論
被告は,後記第4の1において,本件特許権の請求項1の記載だけでは,特許請求の範囲の技術的意義を一義的に明確に理解できるとはいえないから,このような場合,発明の要旨認定をするに当たっては,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが妥当であるとし,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると,本件発明1の「第三の決定」は,「未だ抽選の契機となるものが生じていない状態で,当選確率が低いためいつその契機が生じるかもしれない将来の抽選を事前にする」場合に限り「予め決定する」と解釈することが妥当であるなどと主張する。
しかしながら,本件発明1の「予め」については,「遊技者にとって有利な状況」が発生すべき時になって初めて発生させるか否かを決定するのではなく,その「時」よりも前の時点で決定するのである,と一義的に明確に理解することができる。
すなわち,被告の主張は,特許請求の範囲の記載のみで発明の技術的意義の解釈が可能であるにもかかわらず,あたかも特段の事情があるかのような主張をし,特許請求の範囲に記載されていない事項を加えて,特許請求の範囲の記載の技術的意義を発明の詳細な説明に記載された事項に限定解釈しようとするものであって,その引用に係る最高裁判決を曲解したものであるから,妥当ではない。
なお,百歩譲って,仮に被告のいうとおり,請求項1の技術的意義が一義的に明確に理解できないとするならば,その記載について特許法36条6項2号の規定に違反する無効理由があることを被告は自認していることになる。このような無効理由があることを了解しつつ,これまでに訂正の機会が十分にあったにもかかわらずそれを徒過しておきながら,この時期に至って前記最高裁判決を持ち出して,特許請求の範囲の技術的意義を一義的に明確に理解できるとはいえないから明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが妥当であるなどと主張することは,時機に後れた攻撃防御であり,信義則に反することは明らかであるから,採用すべきではない。
第4被告の反論
次のとおり,審決の認定判断には誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 本件発明1のクレーム解釈に対して
原告は,要するに,本件発明1の構成中の「予め」の意味を争っている。
すなわち,審決では,「未だ抽選の契機となるものが生じていない状態で,当選確率が低いためいつその契機が生じるかもしれない将来の抽選を事前にすること」が本件発明の特徴であり,「未だ抽選の契機となるものが生じていない状態」が「予め」であると判断しているのに対し,原告は,「遊技者にとって有利な状況」が発生すべき時よりも前の時点であればいつでもよいと主張する。
しかし,原告の主張は本件特許のクレーム解釈を誤ったものであり,失当である。
すなわち,本件特許の請求項1には,「特別増加役の入賞成立に基づいて発生する特別遊技状態の終了後に前記報知手段により報知される遊技者にとって有利な状況を発生させるか否かを,特別遊技状態が複数回発生した場合の各々の回について,一の乱数抽選の結果に基づいて予め決定する第三の決定とを行い」と記載されている。この記載のみ見れば,「予め」の意味について,例えば,「第三の決定」のタイミングが「特別遊技状態の終了後」の時点よりも前であればいつでも「予め」であると解釈することも可能である一方,第1回目の特別遊技状態が発生する時点よりも前が「予め」であると解釈することも可能である。つまり,上記の記載だけでは,特許請求の範囲の技術的意義を一義的に明確に理解できるとはいえない。
このような場合,発明の要旨認定をするに当たっては,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが妥当である(最高裁昭和62年(行ツ)第3号・平成3年3月8日第2小法廷判決 民集45巻3号123頁参照)。
そして,本件明細書の発明の詳細な説明のうち,後記第5の1(1)の段落【0003】,【0024】,【0037】,【0041】,【0115】,【0116】,【0117】,【0119】,【0120】,【0121】,【0122】,【0124】,【0125】,【0126】,【0127】,【0128】及び【0129】の各記載によると,発明の詳細な説明の「停止操作補助期間作動パターン番号」の決定が本件発明1の「第三の決定」に相当する。特に,段落【0117】と【0122】の記載によると,1つの「停止操作補助期間作動パターン番号」を選択することにより,5回の「BB遊技状態」が終了したタイミングで「停止操作補助期間」の発生の有無を決定する場合を「第三の決定」を「予め」行うことの1例にしている。
ところで,前記第2の4(4)に記載されているように,技術常識に照らせば,第一の決定の結果が特別増加役(ビッグボーナス)となる確率は低く,当選すれば,当選したゲームで入賞成立しなくてもいずれ入賞する。そうすると,いったんビッグボーナスに当選すれば,いずれビッグボーナスに入賞してBB遊技状態が開始し,その後終了することとなる。つまり,ビッグボーナスに当選すればその後の入賞とBB遊技状態の開始・終了までは一連の流れである。ビッグボーナスの当選を契機として「停止操作補助期間」の発生の有無を決定する場合には,この流れが始まった後に決定しているため,「BB遊技状態」に対して「まえもって」決定するとは実質的にいえない。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると,本件発明1の「第三の決定」は,「未だ抽選の契機となるものが生じていない状態で,当選確率が低いためいつその契機が生じるかもしれない将来の抽選を事前にする」場合に限り「予め決定する」と解釈することが妥当であり,また,技術常識に照らしてもこのことは明らかである。よって,審決の上記判断は発明の詳細な説明の記載に沿ったものといえる。
以上のとおりであるから,本件発明1のクレーム解釈について,審決の判断に誤りはない。
2 取消事由1(本件発明1と先願発明との一致点及び相違点の認定の誤り)に対して
(1) 先願発明の認定の誤りに対して
原告は,要するに,前記第3の1(1)アの先願発明の構成(カ)における「決定」は,「特典付き遊技」の始まるべき時点より前,すなわち「予め」されるものだから,審決は,先願発明が「予め」決定すると認定しなかった点で,先願発明の構成(カ)の認定が誤りであると主張する。
しかし,前記1のとおり,先願発明の構成における「決定」が「予め」されるというためには,「未だ抽選の契機となるものが生じていない状態で,当選確率が低いためいつその契機が生じるかもしれない将来の抽選を事前にすること」を要するところ,先願発明の構成(カ)における「決定」は,BB当選後の任意の時期に可能であるとしても,BBの当選を契機とするものであり,「未だ抽選の契機となるものが生じていない状態で,当選確率が低いためいつその契機が生じるかもしれない将来の抽選を事前に」しているとはいえない。
したがって,この点について,審決の認定に誤りはない。
(2) 一致点・相違点の認定に対して
原告は,要するに,本件発明1と先願発明との相違点とされた「第三の決定」につき,「乱数抽選の結果に基づいて予め決定」することは一致点であるから,一致点・相違点いずれの認定も誤りであると主張する。
しかし,前記1のとおり,先願発明の構成(カ)における「決定」が「予め」されたものであるとはいえないので,「第三の決定」につき,「乱数抽選の結果に基づいて予め決定」することは,本件発明1と先願発明との相違点である。
また,原告は,前記第3の1(2)イのとおり,審決が,「予め決定」につき,「未だ抽選の契機となるものが生じていない状態で,当選確率が低いためいつその契機が生じるかもしれない将来の抽選を事前に一括してする」ことと判断したことについて,「予め」の辞書的な意味からも上記解釈は妥当でないと主張する。
しかし,前記1のとおり,審決のクレーム解釈は妥当であるから,この点に関する原告の主張は失当である。
したがって,この点について,審決の認定に誤りはない。
3 取消事由2(本件発明1と先願発明との同一性の判断の誤り)に対して
原告は,要するに,本件発明1と先願発明の一致点・相違点の認定に誤りがあるから,周知例1ないし5に記載された周知技術の判断にも誤りがあると主張する。
しかし,前記1のとおり,本件発明1と先願発明の一致点・相違点の認定に誤りはないから,この点に関する原告の主張は失当である。
4 取消事由3(本件発明2ないし5と先願発明との同一性の判断の誤り)に対して
前記1のとおり,請求項1の特許は特許法29条の2の規定に違反してされた特許ではない。
そして,本件発明2ないし5は,本件発明1になにがしかの限定を加えたものであるから,本件発明1と先願発明の相違点は本件発明2ないし5と先願発明の相違点でもあり,相違点がある以上,本件発明2ないし5は先願発明と同一発明ではなく,請求項2ないし5の特許は特許法29条の2の規定に違反してされた特許ではない。したがって,この点について,審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1 本件発明1における特許請求の範囲の解釈
(1) 本件明細書の内容
甲13によれば,本願明細書には,次の記載がある。
「【発明の属する技術分野】
本発明は,遊技に必要な図柄を変動表示する変動表示手段と,その変動表示を制御するマイクロコンピュータ等の制御手段とを備えたスロットマシン,パチンコ機その他の遊技機に関する。」(段落【0001】)
「【従来の技術】
例えば,停止ボタンを備えたスロットマシン,いわゆるパチスロ機は,正面の表示窓内に複数の図柄を表示する機械的回転リールを複数配列して構成した変動表示装置,或いはリール上の図柄を画面に表示する電気的変動表示装置を有する。遊技者のスタート操作に応じて,制御手段が変動表示装置を駆動して各リールを回転させることにより,図柄を変動表示させ,一定時間後自動的に或いは遊技者の停止操作により,各リールの回転を順次停止させる。このとき,表示窓内に現れた各リールの図柄が特定の組合わせ(入賞図柄)になった場合にコイン,メダル等の遊技媒体を払出すことで遊技者に利益を付与するものである。」(段落【0002】)
「現在主流の機種は,複数種類の入賞態様を有するものである。特に,所定の入賞役の入賞が成立したときは,1回のコインの払出しに終わらず,所定期間,通常の状態よりも条件の良い遊技状態となる。このような入賞役として,遊技者に相対的に大きい利益を与えるゲームが所定回数行える特別増加役(『ビッグボーナス』と称し,以下『BB』と略記する)と,遊技者に相対的に小さい利益を与える遊技を所定ゲーム数行える入賞役(『レギュラーボーナス』と称し,以下『RB』と略記する)がある。」(段落【0003】)
「また,現在主流の機種においては,有効化された入賞ライン(以下『有効ライン』という)に沿って所定の図柄の組合せが並び,コイン,メダル等が払出される入賞が成立するには,内部的な抽選処理(以下,『内部抽選』という)により入賞役に当選(以下,『内部当選』という)し,且つその内部当選した入賞役(以下,『内部当選役』という)の入賞成立を示す図柄の組合わせを有効ラインに停止できるタイミングで遊技者が停止操作を行うことが要求される。つまり,いくら内部当選したとしても,遊技者の停止操作のタイミングが悪いと入賞を成立させることができない。すなわち,停止操作のタイミングに熟練した技術が要求される(『目押し』といわれる技術介入性の比重が高い)遊技機が現在の主流である。」(段落【0004】)
「このような遊技機の一例として,払出枚数が同数の3種類の特定入賞役のいずれかに『内部当選』したとき,どの特定入賞役に『内部当選』したかを報知し,『目押し』ができることを条件として遊技者が所持するコインの数を減少させないようにすることが可能な期間(当業界では『アシストタイム』と称されているので,以下これを『AT』と記述する)を発生させる機能を備えた遊技機(『AT機』と称されている)が提供されている。この『AT機』では,後述の『BB遊技状態』の終了後,“1/2”の確率で『AT』を発生させるようにしている。」(段落【0005】)
「また,BBの入賞成立により発生する後述の『BB中一般遊技状態』において,“1/2”の確率で上記『AT』と実質的に同一の状況を発生させるようにした遊技機が提供されている。」(段落【0006】)
「【発明が解決しようとする課題】
しかしながら,上記『AT』又はこれと実質的に同一の状況が発生するか否かは,予め定められた確率に従って決定される。従って,例えば複数回連続して『AT』が発生したり,複数回連続して『AT』が発生しなかったり,或いは『AT』が発生する場合と発生しない場合とが交互に生じる等,遊技者の遊技に対する興味を増加させるようなパターンに従って『AT』が発生する頻度は極めて少ない。」(段落【0007】)
「また,『AT』等の発生の確率は予め定められたものであり,遊技店側であっても変更することができない。このため,『AT機』の遊技が単調となっていた。また,『AT機』では,『AT』の発生の度合いによって遊技に賭けた一の遊技媒体当りの払出される遊技媒体の数の期待値(一般に『出玉率』と称されている)が変化するにも拘らず上記確率が固定化されており,またその発生のパターンも確率に従うことから多様性のある遊技を提供することができない。」(段落【0008】)
「本発明の目的は,遊技者にとって有利な状況の発生パターンに面白みのある遊技機を提供することである。もう一つの目的は,遊技者にとって有利な状況の発生の度合いを任意に設定できる遊技機を提供することである。」(段落【0009】)
「【作用及び効果】
本発明の遊技機において,制御手段は,複数回の特別遊技状態の後,報知手段により報知が行われる状況を発生させるか否かを,一の乱数抽選の結果に基づいて予め決定する。従って,報知が行われる状況を,複数回の特別遊技状態の後常に発生させる等,遊技者の遊技に対する興味が増加するようなパターンに従って,当該状況の発生を制御することができる。」(段落【0019】)
「本発明の更に別の態様では,特定の図柄組み合わせが所定のラインに沿って並ぶこととなるために必要な情報が報知される状況は,特別増加役の入賞成立に基づいて複数回発生する所定の遊技状態(例えば,後述の『BB中一般遊技状態』)の各々において,或いは特別増加役の入賞成立に基づいて発生する特別遊技状態(例えば,後述の『BB遊技状態』)が終了した後の遊技状態(例えば,後述の『一般遊技状態』)において発生可能である。」(段落【0024】)
「実施例の遊技機1において,遊技者は,通常の遊技状態である『一般遊技状態』,多数のコインを獲得可能な『BB遊技状態』及び『RB遊技状態』においてゲームを行うことができる。また,『一般遊技状態』では,後で説明する『ベルの小役』に内部当選したとき,その入賞を成立させるために必要な『停止操作の順番』の報知が行われる状況(以下『停止操作補助期間』という)が設けられる。『停止操作補助期間』以外の状況を以下,『通常期間』という。」(段落【0037】)
「『BB遊技状態』(ビックボーナス遊技状態)は,遊技者にとって最も有利な遊技状態であり,有効ラインに沿って“白7(図2の図柄91)-白7-白7”,“青7(図2の図柄92)-青7-青7”又は“大鷲(図2の図柄93)-大鷲-大鷲”が並び,BBの入賞が成立することにより発生する。このとき,15枚のコインが払出される。この『BB遊技状態』は,次に述べる『RB遊技状態』,及び『小役』の入賞が成立する可能性がある『BB中一般遊技状態』により構成される。」(段落【0038】)
「『RB遊技状態』(レギュラーボーナス遊技状態)は,『一般遊技状態』において,有効ラインに沿って“白7-白7-青7”が並び,RBの入賞が成立することにより発生する。この『RB遊技状態』は,コインを1枚賭けることにより所定の図柄組合せ“JAC(図2の図柄97)-JAC-JAC”が揃い,15枚のコインを獲得できるボーナスゲーム(JACゲームという)に当たりやすい遊技状態である。ここで,一般に上記JACゲームに入賞することを役物増加入賞と称している。なお,『RB遊技状態』は,上述の『BB中一般遊技状態』において,有効ラインに沿って“JAC-JAC-JAC”が並ぶこと(いわゆる『JAC IN』)によっても発生する。」(段落【0039】)
「『一般遊技状態』又は『BB中一般遊技状態』において,“スイカ(図2の図柄94)-スイカ-スイカ”又は“ベル(図2の図柄95)-ベル-ベル”が有効ラインに沿って並ぶことにより,『スイカの小役』の入賞又は『ベルの小役』の入賞が成立する。『スイカの小役』の入賞が成立すると“14枚”のコインが払出される。『ベルの小役』の入賞が成立すると“9枚”のコインが払出される。左のリール3Lの“チェリー(図2の図柄96)”が有効ライン上に停止したときは,中央のリール3C及び右のリール3Rの停止態様に拘わらず,『チェリーの小役』の入賞が成立する。『再遊技(リプレイ)』の入賞は,『一般遊技状態』において,“JAC-JAC-JAC”が有効ラインに沿って並ぶことにより成立する。『再遊技』の入賞が成立すると,投入したコインの枚数と同数のコインが自動投入されるので,遊技者は,コインを消費することなく次のゲームを行うことができる。」(段落【0040】)
「『一般遊技状態』における『停止操作補助期間』は,『BB遊技状態』の後,発生する。『停止操作補助期間』が発生するかどうかは,『第2設定値』等に基づいて決定される。本実施例では,『停止操作補助期間』は,“150ゲーム”が消化されるまでの間,又は,BBに内部当選するまでの間,継続する。」(段落【0041】)
「次に,図3を参照して『停止操作補助期間』において,『ベルの小役』に内部当選したとき,表示画面5aに表示される表示例について説明する。この表示例は,スタートレバー6の操作(以下『スタート操作』という)が行われたときのものである。」(段落【0042】)
「(A)に示す表示例では,表示画面5aに『左のリールから押して下さい』と表示され,『ベルの小役』の入賞を成立させるためには,第1停止操作として左の停止ボタン7Lを操作(以下『順押し』という)すべきことを報知している。(B)に示す表示例では,『中央のリールから押して下さい』と表示され,第1停止操作として中央の停止ボタン7Cを操作(以下『中押し』という)すべきことを報知している。(C)に示す表示例では,『右のリールから押して下さい』と表示され,第1停止操作として右の停止ボタン7Rを操作(以下『逆押し』という)すべきことを報知している。」(段落【0043】)
「本実施例では,『ベルの小役』に内部当選したとき,『第1停止操作』,『第2停止操作』,及び『第3停止操作』のそれぞれを,いずれか一の有効ラインの位置に“ベル(図2の図柄95)”が到達したときに行ったとしても,必ずしも『ベルの小役』の入賞は成立しない。具体的には,『ベルの小役』に内部当選した後,後で説明する『停止位置検索用テーブル』のテーブルナンバー“1”~“3”のいずれかが選択される。選択されたテーブルナンバー毎に,『ベルの小役』の入賞を成立させることができる『停止操作の順番』,すなわち『順押し』,『中押し』又は『逆押し』が予め定められている。『停止操作補助期間』において,『ベルの小役』の入賞を成立させるための『停止操作の順番』が報知されることにより,遊技者は『目押し』を行うことなく確実にその入賞を成立させることができる。」(段落【0044】)
「電源メインスイッチ25は,遊技機1に電源を投入するためのものである。なお,各アクチュエータ等へ電力を供給する電源回路については省略している。リセットスイッチ26は,『第1設定値』を選択するために設けられている。この『第1設定値』は,一般に“6段階”設けられ,各段階毎に対応する入賞確率テーブルが設けられている。各入賞確率テーブルでは,各入賞役に内部当選する確率が異なる。従って,『第1設定値』が異なると遊技のために賭けたコインの単位枚数当りに払出されるコインの枚数の期待値(出玉率)が変化することとなる。設定用鍵型スイッチ27は,『第1設定値』及び『第2設定値』を設定するために設けられている。この設定用鍵型スイッチ27を“ON”した後,電源メインスイッチ25を“ON”すると,『第1設定値』を表示する払出表示部18及び『第2設定値』を表示するクレジット表示部19に“1”と表示される。リセットスイッチ26を操作する毎に払出表示部18の表示が“1”~“6”に変化し,任意の『第1設定値』が選択できるようになっている。また,スタートレバー6を操作する毎にクレジット表示部19の表示が“1”~“6”に変化し,任意の『第2設定値』が選択できるようになっている。所望の『第1設定値』及び『第2設定値』を選択した後,設定用鍵型スイッチ27を“OFF”とすることにより,通常の遊技を開始できる状態となる。なお,設定用鍵型スイッチ27が“OFF”とされたとき,CPU31は,選択された『第2設定値』の情報を含む『第2設定値変更コマンド』を副制御回路72へ送信する(後述の図13のST5)。」(段落【0057】)
「次に,主制御回路71のCPU31の制御動作について,図13~図16に示すフローチャートを参照して説明する。」(段落【0096】)
「初めに,CPU31は,設定用鍵型スイッチ27が“ON”されたかどうかを判別する(ステップ[以下,STと表記する]1)。この判別が“YES”のときは,電源メインスイッチ25が“ON”されたかどうかを判別し(ST2),この判別が“YES”のときは,ST3の処理に移り,“NO”のときは,ST1処理に移る。ST3の処理では,CPU31は,『設定値変更処理』を行う。具体的には,リセットスイッチ26及びスタートレバー6の操作に応じて払出表示部18及びクレジット表示部19の表示内容を変化させる。続いて,CPU31は,設定用鍵型スイッチ27が“OFF”とされたかどうかを判別する(ST4)。この判別が“YES”のときは,ST3の処理において選択された『第2設定値』の情報を含む『第2設定値変更コマンド』を副制御回路72へ送信し(ST5),ST7の処理に移る。ST4の判別が“NO”のときは,ST3の処理に移る。」(段落【0097】)
「図15のST18の処理では,CPU31は,上記ST16の処理において抽出した乱数値に基づいて確率抽選処理を行う。この確率抽選処理は,遊技状態に応じて確率抽選テーブルを使用し,乱数値がどの入賞役の乱数値範囲に属するか否かを判別し,内部当選役(成立フラグ)を決定するものである。続いて,『内部当選役コマンド』を副制御回路72へ送信する(ST19)。例えば,『確率抽選処理』(ST18)において内部当選役が『BB』に決定されることにより,『BB』に内部当選したことを示す『内部当選役コマンド』が送信される。内部当選役が『BB』と決定されたゲームにおいて,『BB入賞』が成立しない場合,『BB入賞』が成立するまでの間,『BB』に内部当選したことを示す『内部当選役コマンド』は送信されることはない。」(段落【0102】)
「次に,BB遊技状態又はRB遊技状態の終了時であるか否かを判別する(ST36)。具体的には,BB遊技状態のときは,3回目のRB遊技状態において入賞回数が8回又はゲーム回数が12回であるか,又はBB中一般遊技状態においてゲーム回数が30回であるか否かを判別する。BB遊技状態以外のRB遊技状態であれば,入賞回数が8回又はゲーム回数が12回であるか否かを判別する。ST36の判別が“YES”のときは,BB遊技状態又はRB遊技状態の終了時のRAM33をクリアする(ST37)。続いて,『BB終了コマンド』又は『RB終了コマンド』を副制御回路72へ送信する(ST38)。続いて,ST2の処理に移る。」(段落【0106】)
「[副制御回路]
次に,図20を参照して副制御回路72が備えた『停止操作補助期間作動パターン番号決定テーブル』について説明する。この『停止操作補助期間作動パターン番号決定テーブル』は,後で説明する図22のST74の処理において『停止操作補助期間作動パターン番号』を選択するために使用される。『停止操作補助期間作動パターン番号決定テーブル』は,“1”~“6”の『第2設定値』及び“0”~“255”の範囲の乱数値に対応して『停止操作補助期間作動パターン番号』が定められている。この『停止操作補助期間作動パターン番号決定テーブル』は,『第2設定値』が大きい程,小さい『停止操作補助期間作動パターン番号』が選択される確率が高くなるように構成されている。例えば,『停止操作補助期間作動パターン番号』として“1”が選択される確率は,『第2設定値』が“6”場合,“31/256”,『第2設定値』が“1”場合,“1/256”である。」(段落【0115】)
「次に,図21を参照して『停止操作補助期間作動パターン決定テーブル』について説明する。」(段落【0116】)
「『停止操作補助期間作動パターン決定テーブル』では,“1”~“16”の『停止操作補助期間作動パターン番号』及び『カウント値』に対応して『停止操作補助期間』の有無を定めている。また,各『停止操作補助期間作動パターン番号』について,『停止操作補助期間』が発生する度合いが定められている。『カウント値』は,各『BB遊技状態』に対応し,次に説明する図22のST75の処理で“4”にセットされ,ST78の処理で減算される。」(段落【0117】)
「図20及び図21に示すように,『第2設定値』を選択することにより,5回の『BB遊技状態』の終了後について,『停止操作補助期間』が発生する度合いが定められた『停止操作補助期間作動パターン番号』が選択されることとなる。」(段落【0118】)
「次に,図22を参照して『停止操作補助期間抽選処理』について説明する。」(段落【0119】)
「初めに,サブCPU74は,『第2設定値変更コマンド』を受信したか否かを判別する(ST71)。この判別が“YES”のときは,変更要求のある『第2設定値』をセットする(ST72)。具体的には,『第2設定値変更コマンド』が示す『第2設定値』をワークRAM76の所定エリアに格納する。続いて,サブCPU74は,“0”~“255”の範囲から乱数を抽出する(ST73)。次に,サブCPU74は,『第2設定値』,乱数値,及び『停止操作補助期間作動パターン番号決定テーブル』(図20)に基づいて『停止操作補助期間作動パターン番号』を選択し(ST74),カウント値を“4”にセットする(ST75)。」(段落【0120】)
「ST71の判別が“NO”のとき,サブCPU74は,BBに内部当選したことを示す『内部当選役コマンド』を受信したか否かを判別する(ST76)。この判別が“YES”のときは,ST77の処理に移り,“NO”のときは,ST71の処理に移る。ST77の処理では,サブCPU74は,現在選択されている『停止操作補助期間作動パターン番号』及び現在の『カウント値』に応じて『停止操作補助期間』のフラグをセットする。具体的には,『停止操作補助期間作動パターン決定テーブル』(図21)を使用して『停止操作補助期間』のフラグをセットする。例えば,『停止操作補助期間作動パターン番号』として“5”が選択されている状況において,『カウント値』が“4”のときは,フラグをセットし,“3”のときは,フラグをセットしない。セットされたフラグは,次に説明する図23のST82の処理で使用され,後で説明する図24のST97の処理でクリアされる。」(段落【0121】)
「次に,サブCPU74は,『カウント値』を“1”減算し(ST78),『カウント値』が負であるか否かを判別する(ST79)。この判別が“YES”のときは,ST73の処理に移り,“NO”のときは,ST71の処理に移る。ここで,『カウント値』は,BBに内部当選(ST76の判別が“YES”)する毎に減算(ST78)される。従って,一の『停止操作補助期間作動パターン』を選択することにより,5回の『BB遊技状態』について各々の終了後,『停止操作補助期間』の発生の有無を予め定めることとなる。」(段落【0122】)
「このように,複数回の『BB遊技状態』の各々の終了後,『停止操作補助期間』の発生の有無を予め定めることにより,『BB遊技状態』毎に乱数抽選により『停止操作補助期間』の発生の有無を決定する場合と比較して面白みのある遊技を提供することができる。すなわち,複数回の『BB遊技状態』の各々の終了後,『停止操作補助期間』を発生させるか否かを予め定めることにより,『極端な状況』或いは『遊技の興趣を高めるような状況』をより多く発生させることができる。例えば,『極端な状況』として,5回の『BB遊技状態』の各々の終了後,常に『停止操作補助期間』を発生させたり,常に発生させないようにすることができる。また,『遊技の興趣を高めるような状況』として,5回の『BB遊技状態』において,その回数が多くなるほど(『カウント値』が少なくなるほど)『停止操作補助期間』が発生する割合が高くなるようにすることができる。この場合,遊技者は,次に発生する『BB遊技状態』の終了後に『停止操作補助期間』が発生することを期待して遊技を行うことができる。」(段落【0123】)
「次に,図23を参照して『停止操作補助期間作動処理』について説明する。」(段落【0124】)
「初めに,サブCPU74は,『BB終了コマンド』を受信したかどうかを判別する(ST81)。この判別が“YES”のときは,前述のST77(図22)の処理でセットされる『停止操作補助期間』のフラグがセットされているか否かを判別する(ST82)。この判別が“YES”のときは,ST83の処理に移り,“NO”のときは,ST81の処理に移る。ST83の処理では,サブCPU74は,『停止操作補助期間』におけるゲーム回数を監視するための『ゲーム回数カウンタ』の値を“150”にセットする。この『ゲーム回数カウンタ』の値は,次に説明する図24のST94の処理において更新される。」(段落【0125】)
「次に,図24を参照して『停止操作補助期間中処理』について説明する。」(段落【0126】)
「初めに,サブCPU74は,『停止位置検索用テーブルナンバーコマンド』を受信したか否かを判別する(ST91)。ここで,このコマンドは,一のゲームの開始時に送信(図15のST21)される。すなわち,ST91の処理では,このコマンドを受信したか否かに基づいて一のゲームが開始したかどうかを判別している。ST91の判別が“YES”のとき,サブCPU74は,現在『停止操作補助期間』であるかどうかを判別する(ST92)。具体的には,『停止操作補助期間』のフラグがセットされており,『BB終了コマンド』を受信済みかどうかを判別する。この判別が“YES”のときは,ST93の処理に移り,“NO”のときは,ST91の処理に移る。」(段落【0127】)
「ST93の処理では,サブCPU74は,『停止位置検索用テーブルナンバーコマンド』及び『内部当選役コマンド』に基づいて『リール停止順序』を報知する。‥‥」(段落【0128】)
「次に,サブCPU74は,『ゲーム回数カウンタ』の値を“1”減算する(ST94)。続いて,『内部当選役コマンド』は,BBに内部当選したことを示すか,又は『ゲーム回数カウンタ』の値がマイナスであるかどうかを判別する(ST95)。すなわち,『停止操作補助期間』の終了条件が成立したかどうかを判別する。この判別が“YES”のときは,ST96の処理に移り,“NO”のときは,ST91の処理に移る。ST96の処理では,『全リール停止コマンド』を受信したか否かを判別し,この判別が“YES”のときは,ST97の処理に移り,“NO”のときは,ST91の処理に移る。ST97の処理では,『停止操作補助期間』のフラグをクリアし,続いてST91の処理に移る。」(段落【0129】)
(2)ア 以上の記載によれば,パチスロ機などの遊技機においては,所定の入賞役の入賞が成立したときは所定の期間,通常の状態よりも条件のよい遊技状態となる複数種の入賞態様を有する機種が主流となっており,このような入賞役の1つとして遊技者にとって最も有利な遊技状態であって多数のコインを獲得可能なビックボーナス(BB)と呼ばれる特別増加役があるが,このBBの入賞成立に基づいて特別遊技(BBゲーム)が発生するためには,遊技機の内部的な抽選処理によりBBに当選した後,遊技者による停止ボタンを操作するタイミングが合致し,有効化された入賞ラインに所定の図柄が並ぶという一連の手順を踏む必要がある。
また,内部抽選の結果を遊技者に報知するアシストタイム(AT)という機能を備えた遊技機においては,従来は,BBゲーム状態の終了後に2分の1の確率でATを発生させているが,定められた確率に従ってその発生が決定されるため多様性がなく,複数回連続してATが発生したりしなかったりするような,遊技者の興味を増加させるパターンに従ってATが発生する頻度が極めて少なく,遊技が単調になるという課題があった。
そこで,本件発明は,遊技者にとって有利な状況の発生パターンに面白みのある遊技機を提供し,かつ遊技者にとって有利な状況の発生の度合いを任意に設定できる遊技機を提供することを目的として,請求項1ないし5の構成を採ることによって,複数回の特別遊技状態の後,報知手段により報知が行われる状況を発生させるか否かを1つの乱数抽選の結果に基づいて予め決定することとし,その結果,報知が行われる状況を複数回の特別遊技状態の後常に発生させるなど,遊技者の遊技に対する興味が増加するようなパターンに従って,当該状況の発生を制御することができるという効果を有するものである。
以上のような従来技術並びに本件発明の目的,解決すべき課題及び発明の効果からすると,請求項1における「特別増加役の入賞成立に基づいて発生する特別遊技状態の終了後に前記報知手段により報知される遊技者にとって有利な状況を発生させるか否かを,特別遊技状態が複数回発生した場合の各々の回について,一の乱数抽選の結果に基づいて予め決定する第三の決定とを行い」という構成に記載された「予め」の意義については,複数回発生した場合の特別遊技状態に関して有利な状況の発生について予め決定するものであるから,2回目以降の特別遊技については,その当選の前に決定が行われることになることは明らかであるが,これを被告が主張するように,第1回目の特別遊技状態の当選が発生する時点よりも前と解釈することもできるし,原告が主張するように,BB当選から特別遊技状態が終了するまでの一連の手順の間に決定がされるのであれば,「予め決定する」と解釈することもできる。そうすると,本件発明1の記載のみでは,「第三の決定」が,BB当選の前に行われる構成に限られるのか否か,その技術的意義が一義的に明確とはいえないというべきである。
本来,発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるが,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合は,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるというべきである(前掲最高裁平成3年3月8日第2小法廷判決参照)。
イ そこで,次に,「予め決定する第三の決定」の構成に対応する本件明細書の記載を具体的に検討する。
まず,一般遊技状態では小役に内部当選したとき,その入賞を成立させるために必要な「停止操作補助期間」(上記「AT」に相当する)が設けられるが(段落【0037】参照),この「停止操作補助期間」は,「BB遊技状態」の後に発生し,それが発生するかどうかは「第2設定値」等に基づいて決定される(段落【0041】参照),設定用鍵型スイッチ27を用いて,「停止操作補助期間」の発生に関与する「第2設定値」が変更されるように構成されて,設定用鍵型スイッチ27がOFFされると,「第2設定値変更コマンド」が副制御回路72へ送信される(段落【0057】参照)。
副制御回路72は,「停止操作補助期間作動パターン番号決定テーブル」を備える。この「停止操作補助期間作動パターン番号決定テーブル」は「停止操作補助期間作動パターン番号」を選択するために使用されるもので,“1”~“6”の「第2設定値」及び“0”~“255”の範囲の乱数値に対応して「停止操作補助期間作動パターン番号」が定められている(段落【0115】参照)。
「停止操作補助期間作動パターン決定テーブル」では,“1”~“16”の「停止操作補助期間作動パターン番号」及び「カウント値」に対応して「停止操作補助期間」の有無を定めている。「カウント値」は,各「BB遊技状態」に対応し,次に説明する図22のST75の処理で“4”にセットされ,ST78の処理で減算される。(段落【0117】参照)。
サブCPU74は,「第2設定値変更コマンド」を受信したか否かを判別する(ST71)。この判別が“YES”のときは,変更要求のある「第2設定値」をセットする(ST72)。サブCPU74は,「第2設定値」,抽出した乱数値,「停止操作補助期間作動パターン番号決定テーブル」に基づいて「停止操作補助期間作動パターン番号」を選択し(ST74。本件発明1の「第三の決定」に相当する。),カウント値として「4」をセットする(段落【0120】参照)。
ST71の判別が“NO”のとき,サブCPU74は,BBに内部当選したことを示す「内部当選役コマンド」を受信したか否かを判別する(ST76)。この判別が“YES”のときは,ST77の処理に移り,“NO”のときは,ST71の処理に移る。ST77の処理では,サブCPU74は,現在選択されている「停止操作補助期間作動パターン番号」及び現在の「カウント値」に応じて「停止操作補助期間」のフラグをセットする(段落【0121】参照)。
次に,サブCPU74は,「カウント値」を“1”減算し(ST78),「カウント値」が負であるか否かを判別する(ST79)。この判別が“YES”のときは,ST73の処理に移り,“NO”のときは,ST71の処理に移る。ここで,「カウント値」は,BBに内部当選(ST76の判別が“YES”)する毎に減算(ST78)される。したがって,一の「停止操作補助期間作動パターン」を選択することにより,5回の「BB遊技状態」について各々の終了後,「停止操作補助期間」の発生の有無を予め定めることとなる(段落【0122】参照)。
その後も,BBに当選すると,「停止操作補助期間作動パターン」とカウント値に基づいて,当該BBゲーム終了後に「停止操作補助期間」が発生するか否か決定した後,カウント値から1減算する。BBの当選が発生する毎にこれを繰り返し,カウント値から1減算したときにその値が負になると,上記のST73ないしST74の処理を繰り返している。
ウ 以上のとおり,本件発明の詳細な説明によれば,はじめに設定用鍵型スイッチの操作を受けて,BBの当選前に,その後に発生する5回のBB当選について,各BBゲーム終了後にATが発生するか否かを予めまとめて決めており,5回目のBB当選が発生すると,その際にあらためて,次回の6回目の当選以降の問題である6ないし10回目までのBB終了後のAT発生の有無を決定している実施例が記載されている。
そして,本件発明がBBゲーム終了後に行われるATの発生パターンを複雑化することを目的とするものであること,また,BBゲームは当選から遊技終了までが一連の流れであることをも合わせて考慮すると,本件発明1における「特別遊技状態が複数回発生した場合の各々の回について,一の乱数抽選の結果に基づいて予め決定する第三の決定」とは,BBの当選が生じる前に,その後に発生するであろう複数回のBBゲームについて,各BBゲーム終了後のAT発生の有無を,一度の抽選で決定することを意味すると解釈するのが相当である。そして,証拠(乙1)によれば,技術常識に照らすと,第一の決定の結果が特別増加役(ビックボーナス)の当選となる確率は低く,当選すれば,当選したゲームで入賞成立しなくともいずれ入賞することをも考慮すると,前記第2の4(4)のとおり,審決が,「予め決定する」の意義に関し,「未だ抽選の契機となるものが生じていない状態で,当選確率が低いためいつその契機が生じるかもしれない将来の抽選を事前に一括してする」ものと認定判断したことに誤りはないというべきである。
(3) この点,原告は,前記第3の4のとおり,本件発明1の「予め」については,「遊技者にとって有利な状況」が発生すべき時になって初めて発生させるか否かを決定するのではなく,その「時」よりも前の時点で決定するのである,と一義的に明確に理解することができるにもかかわらず,被告主張は特段の事情もなく明細書の記載を参酌して特許請求項の記載を解釈しようとするものであって不当であり,また,仮に本件発明1の技術的意義が一義的に明確に理解できないとするならば,その記載について特許法36条6項2号の規定に違反する無効理由があることになるが,被告はこのような無効理由があることを了解しつつ,これまでに訂正の機会が十分にあったにもかかわらずそれを徒過しておきながら,この時期に至って明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが妥当である等と主張することは時機に後れた攻撃防御であるから,信義則に反し,採用されるべきでない旨主張する。
しかしながら,上記(2)で判断したとおり,明細書の記載を参酌するのは前記最高裁の判例に照らしても許されるものであって何ら不当ではなく,その結果,本件発明1の「予め」については,「遊技者にとって有利な状況」が発生すべき時よりも前の時点,すなわち,「特別遊技状態の終了後」の時点よりも前であればいつでも「予め」であると一義的に明確に理解することができず,かえって,第三の決定がBB当選の前に行われる構成に限られると解釈できるのであるから,結局,本件発明1の記載が不明確であるとはいえないから,この点に関する原告の主張は採用できない。
また,本件においては,原告が本件無効審判請求をし,そこで示された先願発明との関係で本件発明の請求項の解釈についてはじめて疑義が生じたものであるから,同審判請求に対し本件発明と先願発明とが実質的に同一であるとは認めなかった本件審決の当否を争う本訴訟において,その解釈に当たり明細書の記載の参酌を主張することが,時機に後れた攻撃防御に当るといえないことは明らかである。
したがって,原告の主張は採用できない。
2 取消事由1(本件発明1と先願発明との一致点及び相違点の認定の誤り)について
(1) 先願発明の認定について
ア 先願明細書の記載
甲1によれば,先願明細書には,次の記載がある。
「【発明の属する技術分野】本発明は,遊技者に対して一定の利益を与える報知を行うようにしたスロットマシンに関するものである。」(段落【0001】)
「【従来の技術】従来のスロットマシンにおいて,リールの停止制御を一定条件下で解除し,小役を構成する図柄の組合せについては,遊技者がそれを狙って停止させることができるようにしたものが知られている。この種のスロットマシンでは,例えば,ビックボーナスゲーム等の特別遊技の終了後に,遊技者のメダル獲得枚数が規定枚数に到達するか,又は規定ゲーム回数に到達するまで,上記のような遊技状態にするものである。これにより,遊技者は,自己の技量に応じて,小役を構成する図柄の組合せが有効ラインに停止するように狙ってリールを停止させることができるので,メダル獲得枚数をさらに増加させることができる。」(段落【0002】)
「【課題を解決するための手段】本発明は,以下の解決手段によって,上述の課題を解決する。
(請求項1)請求項1の発明は,複数種類の図柄を表示した複数のリールと,各前記リールに対応して設けられ,前記リールの回転を停止させるときに遊技者が操作するストップスイッチと,前記ストップスイッチの操作順番に対応する前記リールの停止制御を定めたリール制御パターンを複数設けたリール制御パターンデータテーブルと,前記リール制御パターンデータテーブルから,リール制御パターンを抽選するリール制御パターン抽選手段と,前記リール制御パターン抽選手段で選択したリール制御パターンに関する内容を報知するリール制御パターン報知手段とを備えることを特徴とする。」(段落【0007】)
「したがって,遊技者は,報知された内容を見ることにより,ストップスイッチの操作順番に対応するリールの停止制御を知ることができるので,例えばストップスイッチの操作順番を適切な順番で行うことにより,より有利な結果を得ることができる。」(段落【0010】)
「役としては,例えば特別役,複数種類の小役,及びリプレイ(再遊技役。以下,RPと略称する。)が挙げられる。特別役とは,通常遊技から特別遊技(遊技者にとって有利な遊技)に移行させる役であり,ビックボーナス(以下,BBと略称する。),レギュラーボーナス(以下,RBと略称する。),及びシングルボーナス(以下,SBと略称する。)が挙げられる。BBとは,特別遊技の1つであるBBゲームに移行させる役である。BBゲームとは,所定回数内の一般遊技を行うとともに,この一般遊技中に一定条件下でボーナスゲームに移行できるようにしたものである。ボーナスゲームとは,所定役が高確率で当選する遊技を,一定条件下で所定回数行うものである。そして,所定の終了条件を満たすまで,一般遊技とボーナスゲームとを繰り返すようにしたものである。」(段落【0030】)
「例えば,BBを構成する図柄の組合せを『7』-『7』-『7』であるとすると,この図柄の組合せが有効ライン22に停止したときは,15枚のメダルの払出しを行った後,通常遊技からBBゲームに移行する。また,上述したように,例えば小役の1つを構成する図柄の組合せである『ベル』-『ベル』-『ベル』が有効ライン22に停止すると,15枚のメダルが払い出される。さらに,特別遊技のうち,BBゲームの終了後は,一定条件下で,遊技者に特典が与えられる特典付き遊技に移行する。特典付き遊技に移行するか否かは,BBに当選した後に,抽選によって決定される。」(段落【0042】)
「この特典付き遊技は,例えば規定遊技回数に到達するか,メダル獲得枚数が規定枚数に到達するか,又は特典付き遊技中にBBが当選するまで行われる。この特典付き遊技では,BB,RB,SB及びRPのみの抽選が行われ,小役の抽選は行われない。さらに,小役を構成する図柄の停止制御が解除される。したがって,遊技者は,小役を構成する図柄の組合せが有効ラインに停止するように,タイミング良くストップスイッチ42をオンすれば,小役を入賞させることができる。小役は,上述したように,本実施形態では3種類(『ベル』,『チェリー』,及び『スイカ』の図柄に係るもの)が設けられている。さらに,特典付き遊技は,本実施形態では第1遊技態様と第2遊技態様とを有する。第1遊技態様では,遊技者は,文字情報表示部33に表示された内容を見て,この内容に従ってストップスイッチ42をオンすることで,より容易に,上記小役を入賞させることができる。この点の詳細については後述する。これに対し,第2遊技態様では,このような文字情報表示部33による表示は行われない。」(段落【0043】)
「(特典付き遊技抽選手段)特典付き遊技抽選手段65は,本実施形態では,役抽選手段61で特別役の1つであるBBに当選したときに,BBゲームの終了後に移行する遊技を,通常遊技とするか又は特典付き遊技とするかの抽選を行うものである。ここで,特典付き遊技抽選手段65は,役抽選手段61と同様に乱数発生手段や所定の抽選テーブルを用いて通常遊技とするか特典付き遊技とするかを決定する。」(段落【0056】)
「なお,特典付き遊技抽選手段65による抽選は,役抽選手段61でBBが当選したとき以降であれば,BBの入賞前後を問わず,BBゲームが終了するまでの間であれば,いつでも行うことができる。また,役抽選手段61による抽選とともに,特典付き遊技抽選手段65による抽選を行うことも可能である。例えば役抽選手段61の抽選テーブルにおいて,BB当選領域を2つに区分し,一方の領域を特典付き遊技に移行するBB当選領域とし,他方を通常遊技に移行するBB当選領域とすれば良い。」(段落【0057】)
「(第2実施形態)次に,本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態では,BBゲームの一般遊技中は,特定小役が通常遊技時よりも高い確率で当選するように設定された抽選テーブルを用いて,役抽選手段61による役の抽選が行われる。ここで,特定小役を構成する図柄の組合せは,『ベル』-『ベル』-『ベル』である。」(段落【0110】)
「しかし,BBゲームの一般遊技中に特定小役が当選したときは,常に『ベル』の図柄が有効ライン22に引き込まれるのではなく,予め定められた所定のストップスイッチ42の操作順番で操作したときに限って引き込まれる。それ以外の操作順番でストップスイッチ42を操作したときは,リール31は最小移動となる停止可能位置で停止するように制御され,たとえ特定小役が当選していても,『ベル』の図柄を有効ライン22に引き込む制御は行われない。」(段落【0111】)
「特定小役が当選したときに,文字情報表示部33に『左』,『中』又は『右』のいずれかが表示されれば,遊技者は,この表示によって特定小役の当選を知ることができる。さらに,表示された内容に従って,最初にオンすべきストップスイッチ42を決定すれば,いいかえればスロットマシン10で指示された順番でストップスイッチ42をオンすれば,確実に特定小役を入賞させることができる。」(段落【0118】)
「ところで,第2実施形態では,リール制御パターン報知選択手段69は,リール制御パターン報知手段による報知,すなわち文字情報表示部33での『左』,『中』又は『右』の表示を行うか否かを選択する。ここで,リール制御パターン報知選択手段69は,遊技中に特定の条件を満たすときに,報知を行うように決定しても良い。あるいは,乱数を用いた抽選等によって報知を行うか否かを決定しても良い。」(段落【0119】)
「以上,本発明の一実施形態について説明したが,本発明は,上述した実施形態に限定されることなく,例えば,以下のような種々の変形が可能である。
(1)第1実施形態では,特典付き遊技中での制御を例に挙げて説明したが,通常遊技や特別遊技中に,第1実施形態のような遊技状態を作り出すことも可能である。同様に,第2実施形態及び第3実施形態では,BBゲーム中の一般遊技での制御を例に挙げて説明したが,通常遊技や特別遊技の終了後の遊技で,一定条件下で,第2実施形態や第3実施形態のような遊技状態を作り出すことも可能である。」(段落【0150】)
イ 以上の記載によれば,先願発明はスロットマシンに関するものであり,特別遊技であるビックボーナス(BB)ゲームの終了後に,一定条件下で,遊技者に特典が与えられる特典付き遊技に移行するよう構成され,BB終了後に特典付き遊技に移行するか否かは,当該BBに当選した後に,抽選によって決定されるスロットマシンが開示されている。
そして,特典付き遊技として,文字情報表示部33にストップスイッチ42の操作順番に関する情報を表示し,その報知された情報に従ってストップスイッチ42をオンすることにより,確実に特定小役を入賞させることができるような遊技が記載されている。
ところで,先願明細書には,「特典付き遊技抽選手段65による抽選は,役抽選手段61でBBが当選したとき以降であれば,BBの入賞前後を問わず,BBゲームが終了するまでの間であれば,いつでも行うことができる。」(段落【0057】)との記載がある。
前記1(2)ア認定のとおり,BBゲームは,遊技機内部の抽選によって当選しただけで直ちに入賞が成立するわけではなく,その後に遊技者のストップスイッチの操作タイミングが合致し,実際に当りの図柄が有効ラインに揃ったときに初めて入賞が成立するものであり,図柄が揃わないときは,揃うまで遊技が繰返されるので,当選から入賞成立まである程度の間があるものである。先願明細書の上記記載は,この点をとらえ,BBゲームの入賞成立が可能な状態であるBB当選となった時点で,その後の近い将来に発生するであろう入賞成立のために,その前後を問わず,当該BBゲームが終了するまでの期間であれば,いつでも特典付き遊技の有無に関する抽選をすることができることを示したものである。
したがって,先願発明は,BBの当選を受けて,当該BBゲームが終了するときに特典付き遊技に移行するか否かを,当該BBゲームが終了するときまでに抽選するものであって,次回のBB当選が何時生じるかわからない状態において,次回以降のBBゲームが終了する際の態様について抽選を行うものではない。
(2) 本件発明1と先願発明との一致点及び相違点について
前記1のとおり,本件発明1の「予め決定する第三の決定」との構成は,BB当選の前に,その後に発生するであろう次回以降のBB当選の分も合わせて,複数回のBBゲーム終了後についてのAT発生の有無を,一度の抽選で決定することを意味する。
一方,上記(1)のとおり,先願発明は,BBの当選を受けて,当該BBゲームが終了するときに特典付き遊技に移行するか否かを,当該BBゲームが終了するときまでに抽選するものであり,次回以降のBB当選及びそれに伴うBBゲームが終了する際の態様について抽選を行うものではない。
したがって,先願発明は,本件発明における「予め決定する」という構成を有していないというべきである。
この点,原告は,先願明細書には「役抽選手段61でBBが当選したとき以降であれば,BBの入賞前後を問わず,BBゲームが終了するまでの間であれば,いつでも行うことができる」とあり,「BBゲームが終了するまで」にされる「決定」は,「特典付き遊技」の始まるべき時点より前,すなわち「予め」されるものであることは明らかであるから,先願発明も「予め」という構成を有する点では本件発明と一致しており,この構成を相違点から除外すべきである旨主張する。
しかしながら,原告が先願発明が有していると主張する「予め」は,当該BBゲーム終了を対象として「予め」としているものにすぎないのに対し,本件発明1における「予め」という語は,次回以降に発生するBB当選を対象とする語であって,先願発明のそれとは対象が異なり,「予め」の意味は同義ではない。
以上のとおり,先願発明は,次回以降に発生するBB当選を対象として「予め」決定する構成は有しないのであるから,「予め決定する」という点で本件発明と一致するといえないことは明らかであり,この点に関する原告の主張は理由がない。
よって,本件発明1と先願発明との一致点及び相違点につき,審決に認定の誤りはない。
3 取消事由2(本件発明1と先願発明との同一性の判断の誤り)について
原告は,前記第3の2のとおり,審決には,本件発明1と先願発明との相違点の認定に誤りがあることを前提に,正しく認定すべき相違点は,第三の決定が「特別遊技状態が複数回発生した場合の各々の回について,一の乱数結果に基づいてなされるものであること」であるとし,当該相違点は周知例1ないし5に基づき周知であるから,本件発明1と先願発明は実質的に同一である旨主張する。
しかしながら,前記2のとおり,「予め決定した」との点は一致点ではなく相違点であり,審決の認定した相違点に誤りはないから,そもそも原告の主張はその前提において誤っている。そして,「予め決定した」との点が一致点ではなく相違点である以上,その相違は本件発明の作用効果に照らし顕著な相違点であるから,それが一致点であることを前提とした原告主張の相違点につき,周知例1ないし5を引用して,その相違点が微差にすぎないから本件発明1と先願発明は実質的に同一であるとの原告の主張が失当であることは明らかである。
したがって,取消事由2は理由がない。
4 取消事由3(本件発明2ないし5と先願発明との同一性の判断の誤り)について
前記のとおり,審決における本件発明1と先願発明との同一性の有無の判断に誤りはないから,この審決の判断に誤りがあることを前提とした本件発明2ないし5に関する原告の主張も採用することができない。
したがって,取消事由3は理由がない。
5 結論
以上のとおり,原告が主張する審決取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塚原朋一 裁判官 東海林保 裁判官 矢口俊哉)