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知財高等裁判所 平成21年(ネ)10075号 判決 2010年4月27日

控訴人

訴訟代理人弁護士

石川幸吉

被控訴人

Y1

訴訟代理人弁護士

星千絵

吉峯耕平

被控訴人

Y2

訴訟代理人弁護士

小池豊

櫻井彰人

萱島博文

訴訟代理人弁理士

永井義久

補佐人弁理士

井上一

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

・※  原判決を取り消す。

・※  被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して3億1031万5000円及びこれに対する平成20年4月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

・※  被控訴人Y2は,控訴人に対し,1億2633万8800円及びこれに対する平成20年4月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

・※  訴訟費用は,第1,第2審とも被控訴人らの負担とする。

・※  仮執行宣言

2  被控訴人ら

主文同旨

第2事案の概要及び当事者の主張等

(当事者の略称は,次のとおりとする。

控訴人(原審原告)を「原告」という。

被控訴人(原審被告)Y1を「被告Y1」という。

被控訴人(原審被告)Y2を「被告Y2」という。

被告Y1及び被告Y2を包括して「被告ら」という。

原審において用いられた略語は,当審においてもそのまま用いる。)本件は,原告が,被告らの製造販売したメッキ処理装置(被告装置)が,原告が有する特許権(特許第3400729号,発明の名称「メッキ用搬送方法と搬送間隔調整装置及びメッキ装置」)に係る特許発明(本件発明)の技術的範囲に属すると主張して,特許権侵害による損害賠償を請求した事案である。

被告Y1は,平成15年2月ころから平成18年10月2日まで,被告装置を製造販売していた。会社分割による新設会社として被告Y2が設立され,被告Y1のプラントエンジニアリング事業部に係る権利義務を承継し,同日以降は,被告Y2が被告装置を製造販売している。原告は,被告Y1が製造販売した被告装置については,被告らが連帯して損害賠償義務を負い,被告Y2が製造販売した被告装置については,被告Y2が単独で損害賠償義務を負うと主張し,特許法102条3項に基づき,被告らに対しては,連帯して3億1031万5000円及びこれに対する不法行為の後である平成20年4月2日(被告らに対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで,被告Y2に対しては,1億2633万8800円及びこれに対する不法行為の後である同日から支払済みまで,それぞれ民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

原判決は,被告装置は本件発明の技術的範囲に属さないとして,原告の請求をいずれも棄却した。これに対し,原告が本件控訴を提起した。

1  争いのない事実等

原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」,「1 争いのない事実等」(原判決2頁21行目ないし6頁19行目)記載のとおりであるから,これを引用する。

2  争点

原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」,「2 争点」(原判決6頁21行目ないし7頁5行目)記載のとおりであるから,これを引用する。

3  争点に対する当事者の主張

次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」,「3 争点に対する当事者の主張」(原判決7頁7行目ないし53頁1行目)記載のとおりであるから,これを引用する。

原判決8頁1行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。

「 被告装置の各昇降レールは,それぞれに設けられている昇降装置により昇降されるが,第3昇降レール8は,昇降装置50によって,第1昇降レール6,第2昇降レール7とともに同期又は同調して昇降される。そして,被告装置は,シーケンス制御装置によって,昇降レールの昇降と各レールに吊垂されたキャリアーの移送とを行っており,前処理から洗浄処理及び洗浄処理からメッキ処理へのキャリアーのレール上でのすべての受渡しは,各昇降レールが下降位置にあるときに行われる。そのため,各昇降レールは,同期して上昇下降の動作を行い,上昇位置及び下降位置においてプッシャーによりキャリアーを1個分前進させて次の工程への移送に備えることにより,メッキ処理槽においてキャリアー25を搬送用ラック15に載せるときに,先行するキャリアー25との間隔を調整している。」

原判決9頁28行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。

「・※  被告装置の各位置センサーと,シーケンス制御装置によるプッシャー及び昇降装置の駆動には,絶対的な関連性が存在している。

すなわち,各位置センサーは,キャリアー若しくは被メッキ材がその位置に来ていること又はその位置を通り過ぎたことを検出して,その信号をシーケンス制御装置に送信し,それらの信号を受けた後に,シーケンス制御装置がプッシャーと昇降装置を駆動するための信号を出力してそれらを駆動することにより,連続メッキ装置による適正なメッキを効率よく行うことができる。

つまり,第1昇降レール6,第2昇降レール7及び第3昇降レール8が各昇降レールに設けた昇降装置によって上昇したことによる機械的スイッチ動作により,その上昇位置(第2図に示した位置)で各プッシャーが作動して,各レールに吊垂状態にあるキャリアーを1個分移動させて(第4の2図から第4の3図)下降させる。その下降位置においてキャリアーが存在することを各位置センサー(*マークの枠確認センサーS3)が検出してその信号をシーケンス制御装置に送信し,これら各位置センサーからその信号を得た時に,シーケンス制御装置は,設定されたプログラムに基づいて各昇降レールの昇降動作を行う。仮に,位置センサーの1つ(例えば第1昇降レール6)からその信号が来ないと,シーケンス制御装置はすべての昇降装置に対する昇降動作のための信号を出力せず,第1昇降レール6,第2昇降レール7及び第3昇降レール8は下降した位置で停止し,その状態が所要時間経過すると,メッキ装置全体の駆動が停止し警報を発する。このようにした理由は,順次送られてくるキャリアーが,1個でも抜けると,メッキ槽における枠確認センサーS1,S2によるキャリアーの検出がないまま,メッキ処理が進んでしまい,被メッキ材の間隔が空いたままメッキすることになり,メッキ不良の製品が発生することになるので,これを防止するため,前処理の段階で各位置センサー(*マークの枠確認センサーS3)を設け,シーケンス制御装置の駆動をコントロールするとともに,メッキ槽における枠確認センサーS1,S2も,シーケンス制御装置の駆動をコントロールする構成とした。」

原判決11頁5行目の後に,行を改めて次のとおり挿入する。

「・※  被告装置において,シーケンス制御装置の駆動をコントロールする構成の中心は,枠確認センサーS1,S2であり,メッキ槽において搬送用ラック15にキャリアー25を一定間隔に調整して載せる間隔調整を行っている。

すなわち,被告装置は,枠確認センサーS2によって待機しているキャリアー25の存在を検出し,先に搬送用ラック15に載せたキャリアー25を枠確認センサーS1で検出確認して信号をシーケンス制御装置に発し,該シーケンス制御装置によりプッシャーを駆動し,待機しているキャリアーを搬送用ラック15の搬送速度よりも早い速度で移送して搬送用ラック15に載せることにより,メッキ槽内で連続搬送されるキャリアー25の搬送間隔を所定の間隔に調整して連続メッキ処理をするものである。

この場合に,両方の枠確認センサーS1,S2からの信号が得られないと,シーケンス制御装置によりプッシャーが駆動されない。各位置センサーは,キャリアー25の存在を検知してシーケンス制御装置の駆動をコントロールする。シーケンス制御装置の前進移行のタイミング・時間間隔や上昇移動のタイミング・時間間隔が予め設定されていても,センサーからの信号によらないで,その設定されているタイミング・時間間隔でシーケンス制御装置が動作することはない。」

原判決17頁9行目の後に,行を改めて次のとおり挿入する。

「 物理的に別体である場合には,「並設」と記載され,「併設」とは区別されるはずである。

また,「併設」の文言は,搬送間隔調整装置について用いられているものであって,その構成部分である「昇降手段」,「早送り移動手段」については用いられていない。」

原判決23頁6行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。

「 本件発明に係る装置も被告装置もメッキ装置であるから,メッキ処理をすることが主たる技術事項であり,メッキ槽内における搬送手段の搬送速度によって設定された厚さのメッキ皮膜が形成されるのであり,その搬送手段の搬送速度を重要な基準として,前処理と後処理の搬送速度が定められる。そのため,「メッキ槽内の搬送手段」が搬送速度の基準となるのであり,構成要件1C(1B②)の「前記搬送手段」は,構成要件1Aの「エンドレスの搬送手段」ではなく,「メッキ槽内の搬送手段」を指すと解すべきであり,本件発明における「早送り移動」の意味も,搬送速度がそれぞれ異なる前処理,メッキ処理,後処理のうち,最も搬送速度が遅いメッキ処理槽中における搬送速度を基準として,それより搬送速度が速いものが「早送り」に該当する。メッキ槽内の搬送手段が搬送速度の基準となるから,被告装置において,その搬送速度よりも速い速度でキャリアー25を送る「プッシャー」は,当然のこととして「早送り移動手段」である。

「エンドレスの搬送軌道」は,前処理領域から後処理領域を含めたメッキ装置全体において,被メッキ材を吊垂したキャリアーが,供給領域(スタート部)から前処理領域,メッキ処理領域及び後処理領域を経て,再度供給領域のスタート部に回帰する軌道であり,その軌道の中には,複数のレール(ハンガーレール等)や複数のプッシャーが存在する。このうち,プッシャーが「早送り移動手段」に該当するから,被告装置は,本件発明の技術的範囲に属する。

「エンドレスの搬送手段」に相当するものは,被告装置の搬送用ラック15であり,「早送り移動手段」に相当するものは第5下部プッシャー105である。被告装置は,メッキ槽(メッキ槽14)に,連続搬送するエンドレスの搬送手段(搬送用ラック15)を設け,昇降手段(第3昇降レール8)に搬送されたハンガー(キャリアー25)を,そのハンガーに吊垂された被メッキ材(被メッキ材m2)と,先行するハンガーに吊垂された被メッキ材(被メッキ材m1)との間隔が一定になるように調整して搬送手段(搬送用ラック15)に載置し,搬送するものであり,昇降手段(第3昇降レール8)と早送り移動手段(第5下部プッシャー105)を制御する制御装置(枠確認センサーS1,S2とシーケンス制御装置)によってその間隔を調整している。」

原判決28頁25行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。

「 本件発明は,メッキ処理槽の入口等に設けられており,先に搬送ラックに載せたキャリアーが,搬送ラックに設定された搬送速度で進行しており,後に送られてきたキャリアーを,先行するキャリアーとの間隔,即ち被メッキ材の間隔が過電流の集中しない狭い間隔となるように調整して,搬送ラックに載せる搬送間隔調整装置である点に特徴がある。

被告装置のメッキ槽における搬送用ラック15は,本件発明1の「エンドレスの搬送手段」に該当し,第5下部プッシャー105は,本件発明1の「早送り移動手段」に該当し,第5下部プッシャー105は,搬送用ラック15の搬送速度よりも速くキャリアー25を搬送する。間隔調整制御機構として機能する枠確認センサーS1,S2と第5下部プッシャー105は,本件発明1の間隔調整装置に該当し,これらは,ハンガーレール(給電レール16及び第3昇降レール8)と併設されている。第5下部プッシャー105(早送り移動手段)と第3昇降レール8(ハンガーレール)とを駆動するシーケンス制御装置は,本件発明1の「制御装置」に該当する。したがって,被告装置の間隔調整機構は,本件発明1の構成要件のすべてを充足する。」

原判決30頁14行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。

「⑥ 「昇降手段」及び「早送り移動手段」は,搬送間隔調整装置の構成部分であるから,「昇降手段」及び「早送り移動手段」も,「ハンガーレール」とは別に,「ハンガーレール」に沿って併設されているといえる。」

原判決37頁24行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。

「⑥ 構成要件1C(1B②)の「前記搬送手段」は,構成要件1Aの「エンドレスの搬送手段」を指して「前記」との語を用いている。したがって,構成要件1Aの「エンドレスの搬送手段」と構成要件1C(1B②)の「前記搬送手段」とは別異であると解することはできない。」

原判決38頁22行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。

「 原告は,被告装置の搬送用ラック15が,本件発明の「エンドレスの搬送手段」に該当し,被告装置の第5下部プッシャー105が,本件発明の「早送り移動手段」に該当すると主張する。

しかし,仮にそのように解釈するとしたならば,被告装置において第5下部プッシャー105がキャリアー25を押して,第3昇降レール8から給電レール16に移行させ,もって被メッキ材mをメッキ槽14内に送り出すときは,第3昇降レール8は下に降りており,ハンガーも下に降りているから,ハンガーは,昇降手段によって持ち上げられているときに早送りされることはなく,「該昇降手段によって持ち上げられたハンガーをハンガーレールの搬送方向に向けて前記搬送手段の搬送速度よりも早い速度で移動させる早送り移動手段」(構成要件1C(1B②))中の「昇降手段によって持ち上げられているときにハンガーを早送りする」との構成を充足しないことになる。」

原判決42頁10行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。

「 本件発明2のメッキ装置は,搬送間隔調整装置と,メッキ槽とを少なくとも有するメッキ装置であって「メッキ槽に所望の一定間隔で被メッキ処理物をハンガーを介してハンガーレールで連続的に搬送させメッキ処理することを特徴とするメッキ装置」である。被告装置におけるメッキ槽では,エンドレスの搬送手段(搬送用ラック15)によって搬送するハンガーレールとは別系統の搬送間隔調整装置(枠確認センサーS1,S2と第5下部プッシャー105)が併設されており,「搬送間隔調整装置の早送り移動手段(第5下部プッシャー105)によって先行するハンガーとの間隔が調整されて搬送手段に載せられる」から,本件発明2の構成を充足する。」

第3当裁判所の判断

次のとおり付加,訂正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」(原判決53頁3行目ないし65頁21行目)のとおりであるから,これを引用する。

原判決53頁14行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。

「 原告は,被告装置の各昇降レールは,同期して上昇下降の動作を行うものであると主張するが,そのことを認めるに足りる証拠はない。」

原判決55頁4行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。

「 原告は,被告装置の各位置センサーは,キャリアー若しくは被メッキ材がその位置に来ていること又はその位置を通り過ぎたことを検出して,その信号をシーケンス制御装置に送信し,それらの信号を受けた後に,シーケンス制御装置がプッシャーと昇降装置を駆動するための信号を出力してそれらを駆動することにより,連続メッキ装置による適正なメッキを効率よく行うことができ,また,前処理の段階で各位置センサー(*マークの枠確認センサーS3)を設け,シーケンス制御装置の駆動をコントロールするとともに,メッキ槽における枠確認センサーS1,S2も,シーケンス制御装置の駆動をコントロールする構成としたなどと主張する。

しかし,以下のとおり,原告の上記主張は,採用することができない。すなわち,原判決「第2 事案の概要」,「1 争いのない事実等」,「・※  被告装置の構成等」記載のとおり,被告装置は,プッシャーの後退限及び前進限,昇降装置の下限及び上限のそれぞれに位置センサーが設けられて,移動限位置の検出が行われるように構成され,各位置センサーからの信号を取り込むシーケンス制御装置が設けられており,プッシャーによる前進移行のタイミング・時間間隔,昇降装置による上昇移動のタイミング・時間間隔等がシーケンス制御装置において予め設定されており,キャリアーに吊持された被メッキ材は,シーケンス制御装置による制御信号に基づき,各ステップにおいて,予め設定されたタイミング・時間間隔で移動が行われる。このような被告装置の構成等に照らすと,各位置センサーは,各位置までの移行作業が完了し,次の動作に移行することを許容するための移行動作確認作業をしていることは認められるが,予め設定された移行動作の確認を超えて,シーケンス制御装置の動作をコントロールするような指示や情報を発信しているものと認めるに足りる証拠はなく,原告の上記主張は,採用することはできない。

また,原告は,被告装置において,シーケンス制御装置の駆動をコントロールする構成の中心は枠確認センサーS1,S2であり,メッキ槽において搬送用ラック15にキャリアー25を一定間隔に調整して載せる間隔調整作用を行っているなどとも主張するが,同様の理由により,採用することができない。」

原判決56頁18行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。

「 原告は,「併設」の文言は,搬送間隔調整装置について用いられているものであって,その構成部分である「昇降手段」,「早送り移動手段」については用いられていないと主張する。しかし,「昇降手段」,「早送り移動手段」が「併設」しているものではないとの特別の記載がない以上,搬送間隔調整装置が「併設」することが要件とされているのであれば,その構成部分である「昇降手段」,「早送り移動手段」も「併設」することが要件とされていると解するのが相当であるから,原告の上記主張は,採用することができない。」

原判決57頁8行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。

「 本件発明1におけるハンガー及びハンガーレールの関係について検討する。

本件発明1におけるハンガーは,ハンガーレールに摺動自在であって,被メッキ処理物を吊持し,ハンガーレールと被メッキ処理物とを介するものであり(構成要件1A),昇降手段によって持ち上げられ又は下降させられ(構成要件1B(1B①)),昇降手段によって持ち上げられて,ハンガーレールの搬送方向に向けて搬送手段の搬送速度よりも早い速度で移動される(構成要件1C(1B②))構成を備えたものを指す。他方,本件発明1におけるハンガーレールは,ハンガーを介し,被メッキ処理物をエンドレスの搬送手段によって搬送するとの構成(構成要件1A)を備えたものを指す。このように,ハンガーは,ハンガーレールに摺動自在であり,ハンガーレールの搬送方向に向けて移動されることからすると,本件発明1におけるハンガーとハンガーレールとは,それぞれ独立した機能を有する別個の構成部分を指すと解するのが合理的である。ところで,構成要件1B(1B①)は,「前記ハンガーレールのハンガーを持ち上げる又は下降させる昇降手段」であり,持ち上げ又は下降させる対象がハンガーとされていることに照らすならば,ハンガーとは独立した機能を有する別個の構成部分であるハンガーレールを持ち上げ又は下降させることを含まないと解するのが相当である。」

原判決62頁15行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。

「 原告は,構成要件1C(1B②)の「前記搬送手段」は,構成要件1Aの「エンドレスの搬送手段」ではなく,「メッキ槽内の搬送手段」を指し,構成要件1C(1B②)の「早送り移動」の意味は,最も搬送速度が遅いメッキ処理槽中における搬送速度を基準としてそれより搬送速度が速いことを意味すると主張する。

しかし,本件発明1の構成要件1A及び1C(1B②)の記載によれば,構成要件1C(1B②)の「前記搬送手段」は,構成要件1Aの「エンドレスの搬送手段」を指すものと解され,構成要件1C(1B②)の「前記搬送手段」は,構成要件1Aの「エンドレスの搬送手段」ではなく「メッキ槽内の搬送手段」を指すとの原告の上記主張は採用することができず,その主張を前提とするその他の原告の主張も,採用することができない。」

原判決64頁20行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。

「・※  原告は,被告装置の搬送用ラック15が,本件発明1の「エンドレスの搬送手段」に該当し,第5下部プッシャー105が,本件発明の「早送り移動手段」に該当すると主張する。確かに,被告装置において,搬送用ラック15は,その速度が前処理段階の搬送速度より遅いため,メッキ槽に移行した先行の被メッキ材m1は,第5プッシャー105により給電レール16に係合されて搬送用ラック15による搬送が開始した段階で,移動速度が遅くなり,後行の被メッキ材m2は,給電レール16に係合された段階で先行の被メッキ材m1との距離が縮まるため,第5プッシャー105の移動速度は,搬送用ラック15の移動速度よりも速いこととなる。

しかし,構成要件1C(1B②)は,「該昇降手段によって持ち上げられたハンガーをハンガーレールの搬送方向に向けて前記搬送手段の搬送速度よりも早い速度で移動させる早送り移動手段と,」であり,「早送り移動手段」は,昇降手段によって持ち上げられたハンガーを移動させるものであるのに対し,被告装置における第5プッシャー105は,第3昇降レール8が下降した後,下降した同レールから被メッキ材mを水平方向に移動させ,給電レール16へ係合させるものであるから,昇降手段によって持ち上げられたハンガーを移動させるものではなく,したがって,被告装置の第5プッシャー105は,「早送り移動手段」に該当しない。

さらに,被告装置の搬送用ラック15は,メッキ槽の給電レール16に沿って設けられており,搬送用ラック15によって搬送される被メッキ材mは,給電レール16上を,キャリアー25を介して吊持され搬送されるから,仮に,搬送用ラック15がエンドレスの搬送手段に該当するとするならば,給電レール16が,「被メッキ処理物を・・・エンドレスの搬送手段によって搬送するハンガーレール」(構成要件1A)に該当することになる。ところが,被告装置のメッキ槽では,被メッキ材mが,給電レール16と通電してメッキを施されつつ,キャリアー25を介して給電レール16に吊持されて搬送されており,給電レール16の途中で,被メッキ材mが持ち上げられることはないし,給電レール16に沿った位置には,昇降手段,早送り手段,制御装置からなる搬送間隔調整装置に該当する装置が存在するとは認められない。そのため,仮に,搬送用ラック15がエンドレスの搬送手段に該当するとしても,被告装置は,本件発明1の構成要件を充足しない。」

原判決65頁17行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。

「 原告は,本件発明2のメッキ装置は,搬送間隔調整装置と,メッキ槽とを少なくとも有するメッキ装置であって「メッキ槽に所望の一定間隔で被メッキ処理物をハンガーを介してハンガーレールで連続的に搬送させメッキ処理することを特徴とするメッキ装置」であり,被告装置もこの構成要件をすべて充足すると主張する。

しかし,本件発明2は,「請求項2または3に記載の搬送間隔調整装置」(構成要件2B)を有することを要件としているところ,請求項3記載の発明は,請求項2記載の発明(本件発明1)の昇降手段に「所定長さのレール状」との限定を加え,また,その早送り移動手段に「押し送手段」との限定を加えた発明である。そして,前記のとおり,被告装置は,請求項2記載の発明(本件発明1)の構成要件を充足しないから,「請求項2または3に記載の搬送間隔調整装置」には該当せず,そうすると,被告装置は,本件発明2の構成要件2Bを充足しない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。」

原判決65頁20行目ないし21行目を,次のとおり改める。

「4 よって,その余の点について判断するまでもなく,被告装置は本件発明の技術的範囲に属さず,原告の本件特許権に基づく損害賠償請求は,いずれも理由がない。」

第4結論

以上によれば,原告の請求をいずれも棄却するとした原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 中平健)

裁判官上田洋幸は,転補のため,署名押印することができない。裁判長裁判官 飯村敏明

<編注:『※』部分は原文のとおり。>

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