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知財高等裁判所 平成21年(行ケ)10082号 判決 2009年11月30日

原告

株式会社ジェネス

訴訟代理人弁護士

田中伸一郎

小和田敦子

訴訟代理人弁理士

弟子丸健

倉澤伊知郎

被告

株式会社デンソーウェーブ

訴訟代理人弁護士

大野聖二

訴訟代理人弁理士

鈴木守

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は,原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が無効2005-80099号事件について平成21年2月12日にした審決を取り消す。

第2事案の概要等

1  特許庁における手続等の経緯

(1)  出願・登録

原告は,平成12年5月2日,特許第3207192号(発明の名称:認証方法及び装置。以下「本件特許」という。)に係る特許出願(特願2000-133741号)をし,平成13年7月6日,設定登録を受けた。本件特許については,特許異議が申し立てられ,これに対し,原告が訂正の請求をし,平成15年7月25日付けの特許異議決定において訂正が認められて,請求項11が削除され,請求項の数は10となった(甲21)。

(2)  第1次審決及び審決取消訴訟

被告は,平成17年3月31日,無効審判請求(無効2005-80099号事件。請求当時の請求項の数10であった。)をし,原告は,同年12月16日,請求項3,8,9を削除し,請求項の数を7とする訂正請求をした。

特許庁は,平成18年3月22日,「訂正を認める。特許第3207192号の請求項1ないし7に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「第1次審決」という。これにより認められた訂正を「第1次審決時訂正」という。)をした。

被告は,同年4月28日,第1次審決の取消しを求めて,知的財産高等裁判所に審決取消しの訴えを提起し(平成18年(行ケ)第10203号),平成19年2月27日,「特許庁が無効2005-80099号事件について平成18年3月22日にした審決のうち,特許第3207192号の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とした部分を取り消す。」との判決がされ,平成19年8月23日,確定した。これにより,第1次審決時訂正による請求項7の無効も確定した。

(3)  本件審決

被告は,平成20年11月25日,第1次審決時訂正によって訂正された後の請求項のうち,無効が確定した請求項7(第1次審決時訂正による訂正前の請求項10)を除く請求項1ないし6について第1次審決時訂正と同一内容の訂正請求をした。

特許庁は,平成21年2月12日,「訂正を認める。特許第3207192号の請求項1乃至6に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下,「本件審決」という。)をし,同審決の謄本は,平成21年2月24日,原告に送達された(審決謄本の送達につき弁論の全趣旨。以下,本件審決により認められた訂正を「本件審決時訂正」という。)。

2  特許請求の範囲

本件特許の本件審決時訂正による訂正後の明細書(以下,図面と併せ「訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし6の記載は,次のとおりである(以下,請求項1記載の発明を「本件発明1」のようにいう。)。

「【請求項1】

携帯電話に表示されるバーコードを使用した認証方法であって,

認証装置が,認証要求者の顧客である被認証者の発信者番号を含むバーコード要求信号を被認証者の携帯電話から通信回線を通して受信するステップと,

前記認証装置が,前記被認証者の発信者番号が顧客データベースに記録されているか否かを判定するステップと,

前記認証装置が,前記被認証者の発信者番号が前記顧客データベースに記録されていたときに,前記被認証者に固有のバーコードを生成するステップと,

前記認証装置が,該バーコードを前記被認証者の発信者番号の携帯電話に通信回線を通して送信すると共に,該バーコードをバーコードデータベースに記憶させるステップと,

前記認証装置が,被認証者によって携帯電話に表示されて提示され,且つ認証を求める認証要求者のバーコード読み取り装置で読み取られて認証を求める認証要求者から通信回線を通して送信されてきたバーコードを受信するステップと,

前記認証装置が,該受信したバーコードが,前記バーコードデータベースに記憶されているバーコードと一致するか否かを判定するステップと,

前記認証装置が,受信したバーコードが前記バーコードデータベースに記憶されていたときに,当該バーコードを携帯電話により提示した被認証者を認証する旨の信号を前記認証要求者に通信回線を通して送信するステップと,を備えている,

認証方法。

【請求項2】

前記発信者番号が,被認証者の携帯電話番号である,

請求項1に記載の認証方法。

【請求項3】

認証要求者の顧客である被認証者に付与されると共に記憶される前記被認証者に固有の認証用バーコードであって,前記被認証者が携帯電話に表示することによって前記認証要求者に提示され,前記提示された認証用バーコードが記憶されていたとき前記被認証者が認証される,携帯電話に表示される認証用バーコードを被認証者に付与するバーコード付与方法であって,

認証装置が,前記被認証者の発信者番号を含むバーコード要求信号を,被認証者の携帯電話から通信回線を通して受信するステップと,

前記認証装置が,前記被認証者の発信者番号が顧客データベースに記録されているか否かを判定するステップと,

前記認証装置が,前記被認証者の発信者番号が前記顧客データベースに記録されていたときに前記被認証者に固有のバーコードを生成するステップと,

前記認証装置が,該バーコードを前記被認証者の携帯電話に通信回線を通して送信すると共に,該バーコードをバーコードデータベースに記憶するステップと,を備えている,

バーコード付与方法。

【請求項4】

前記発信者番号が,被認証者の携帯電話番号である,

請求項3に記載のバーコード付与方法。

【請求項5】

認証要求者の顧客である被認証者に付与されると共に記憶される前記被認証者に固有の認証用バーコードであって,前記付与された認証用バーコードを前記被認証者が携帯電話に表示することによって前記認証要求者に提示され,前記提示された認証用バーコードが記憶されていたときには前記被認証者が認証される携帯電話に表示される認証用バーコードを,通信回線を利用して被認証者に付与するバーコード付与方法であって,

認証装置が,前記被認証者の携帯電話からのバーコード要求信号を通信回線を通して受信するステップと,

前記認証装置が,前記バーコード要求信号に含まれる前記被認証者の顧客データが所定の顧客データベースに記録されているか否かを判定するステップと,

前記認証装置が,前記バーコード要求信号に含まれる前記被認証者の顧客データが前記顧客データベースに記録されていたときには前記被認証者に固有のバーコードを生成するステップと,

前記認証装置が,前記バーコードを,前記被認証者の携帯電話に通信回線を通じて送ると共に,バーコードデータベースに記録するステップとを有する,バーコード付与方法。

【請求項6】

携帯電話に表示されるバーコードを使用した認証装置であって,

認証要求者の顧客である被認証者の発信者番号を含むバーコード要求信号を被認証者の携帯電話から通信回線を通して受信する受信装置と,

所定の個人データが記録された顧客データベースと,

前記被認証者の発信者番号が前記顧客データベースに記録されているか否かを判定し,前記被認証者の発信者番号が前記顧客データベースに記録されていたときに前記被認証者に固有のバーコードを生成するバーコード生成手段と,

バーコード生成手段が生成したバーコードを記録するバーコードデータベースと,

該バーコードを前記被認証者に通信回線を通して送信すると共に,該バーコードを前記バーコードデータベースに記憶させるバーコード伝送手段と,

前記被認証者によって提示され認証要求者のバーコードリーダーで読み取られ認証要求者から認証を求めて通信回線を通して送信されてきたバーコードを受信し,受信したバーコードが,前記バーコードデータベースに記憶されているバーコードと一致するか否かを判定し,受信したバーコードが,前記バーコードデータベースに記憶されていたとき,当該バーコードを提示した被認証者を認証する旨の信号を前記認証要求者に通信回線を通して送信するバーコード照合手段と,

を備えている認証装置。」

3  審決の理由

(1)  別紙審決書写しのとおりである。本件審決は,本件発明1ないし本件発明6は,特開平10-69553号公報(以下「引用例」という。甲1)に記載された発明(以下「引用発明」という。),日経ビジネス2000年(平成12年)4月24日号に記載された記事(甲2)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと判断した。

(2)  上記判断に際し,本件審決が認定した引用発明の内容並びに本件発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。

ア 引用発明の内容

「紙に券情報と共に印刷されたバーコードによるユーザーコード情報を使用した認証方法であって,

券発行装置が,会員として登録されるユーザーのユーザー識別情報及び前記ユーザー識別情報に対応して前記ユーザーの銀行口座番号やクレジットカード番号を含むユーザー情報を予めユーザー情報記憶部に記憶するステップと,

前記券発行装置が,ユーザーのユーザー識別情報を含む発券要求情報をユーザー装置から通信回線を通して受信するステップと,

前記券発行装置が,前記受信した発券要求情報に含まれるユーザー識別情報に基づいて,前記ユーザー情報記憶部を検索し,前記ユーザーの銀行口座番号やクレジットカード番号を含むユーザー情報を読み出すステップと,

前記ユーザー情報を読み出すステップにおいて,発券要求情報に含まれるユーザー識別情報がユーザー情報記憶部に記憶されていたとき,すなわち対応するユーザーの銀行口座番号やクレジットカード番号を含むユーザー情報を読み出すことができたときに,券情報を検索し出力し,前記受信したユーザー識別情報に対応するユーザー情報部のユーザー情報を用いてバーコードによるユーザーコード情報を作成するステップと,

前記券発行装置が,該バーコードによるユーザーコード情報をユーザー装置に通信回線を通して送信すると共に,該バーコードによるユーザーコード情報を記憶手段に記憶させるステップと,

前記券発行装置が,ユーザーによって紙に印刷されたバーコードによるユーザーコード情報を提示され,且つ券使用装置のバーコードリーダー装置で読み取られて該券使用装置から通信回線を通して送信されてきたバーコードによるユーザーコード情報を受信するステップと,

前記券発行装置が,該受信したバーコードによるユーザーコード情報が,前記記憶手段に記憶されている,前記送信されたバーコードによるユーザーコード情報と,一致するか否かを照合するステップと,

前記券発行装置が,受信したバーコードによるユーザーコード情報が,前記記憶手段に記憶されていたときに,当該バーコードによるユーザーコード情報が付された券情報を有効とする判別結果を券使用装置に通信回線を通して送信するステップと,を備えている,

認証方法。」(審決書31頁1行~32行)

イ 一致点

「媒体に表示されるバーコードを使用した認証方法であって,

認証装置が,認証要求者の顧客である被認証者の個人特定情報を含む要求信号を被認証者の要求発信装置から通信回線を通して受信するステップと,

前記認証装置が,前記被認証者の個人特定情報が顧客データベースに記録されているか否かを判定するステップと,

前記認証装置が,前記被認証者の個人特定情報が前記顧客データベースに記録されていたときに,前記被認証者に固有のバーコードを生成するステップと,

前記認証装置が,該バーコードを前記被認証者の要求発信装置に通信回線を通して送信すると共に,該バーコードを記憶手段に記憶させるステップと,

前記認証装置が,被認証者によって媒体に表示されて提示され,且つ認証を求める認証要求者のバーコード読み取り装置で読み取られて認証を求める認証要求者から通信回線を通して送信されてきたバーコードを受信するステップと,

前記券発行装置が,該受信したバーコードが,前記記憶手段に記録されているバーコードと一致するか否かを判定するステップと,

前記券発行装置が,受信したバーコードが前記記憶手段に記憶されていたときに,当該バーコードを媒体により提示した被認証者を認証する旨の信号を前記認証要求者に通信回線を通して送信するステップと,を備えている,

認証方法。」(審決書36頁11行~31行)

ウ 相違点

(ア) 相違点1

「要求発信装置及びバーコードを表示する媒体が,本件発明1では携帯電話であるのに対し,引用発明ではユーザー装置であり,また,ユーザー装置で印刷した紙である点。」(審決書36頁34行~37頁1行)

(イ) 相違点2

「「個人特定情報」が,本件発明1では発信者番号であるのに対し,引用発明ではユーザー識別情報である点。」(審決書37頁3行,4行)

(ウ) 相違点3

「「個人特定情報を含む要求信号」が,本件発明1では発信者番号を含むバーコード要求信号であるのに対し,引用発明ではユーザー識別情報を含む発券要求情報である点。」(審決書37頁6~8行)

(エ) 相違点4

「本件発明1ではバーコードを被認証者の発信者番号の携帯電話に送信するのに対し,引用発明ではバーコードによるユーザーコード情報をユーザー装置に送信する点。」(審決書37頁10ないし12行)

(オ) 相違点5

「「記憶手段」が,本件発明1は「バーコードデータベース」であるのに対し,引用発明では特に記憶手段の種類に言及されていない点。」(審決書37頁14行,15行)

第3当事者の主張

1  本件審決の取消事由に係る原告の主張

(1)  取消事由1(相違点の看過-その1)

本件審決は,引用例の記載から,「引用発明において,ユーザーコード情報がユーザーを識別するユーザー識別情報を含み,ユーザーコード情報の照合時にユーザー識別情報も照合することにより,紙に印刷されたバーコードによるユーザーコード情報を持参したユーザーがその紙に印刷された券情報の真の利用者であるか否かを判別する態様・・・が開示されていると認められる。」(審決書33頁20行~26行)と認定し,「結果として,ユーザーの個人認証が行われ,ユーザーは『被認証者』であるということができ,サービスの提供者は『認証要求者』に相当する。」(審決書33頁31行~33行)との点が一致すると判断した。

しかし,本件審決には,引用発明の内容についての認定の誤り,及び本件発明1と引用発明との相違点を看過した誤りがあり,これらは,本件審決の結論に影響を及ぼす。

ア 本件発明1の内容

本件発明1においては,一身専属性が極めて高く,他人に譲渡ないし貸与することは通常あり得ないという特質を有する携帯電話を利用して,被認証者に認証用のバーコードを要求させ,受信させ,かつ,携帯電話にバーコードを表示して,認証要求者に提示させ,認証要求者がこれを読み取るという形を取る。このように,携帯電話を利用することにより,バーコードを提示する者が,バーコードの発行,送信を要求し,受信した者であるという信頼が成り立ち,バーコードの一致により個人の同一性を確認することができる。すなわち,本件発明1は,通常は紙や物に付されるバーコードを,携帯電話という一身専属的なツールを利用することによって,バーコードを人に付したのと同じ効果が得られるようにしたものである。

しかも,認証に際しては,被認証者と利害関係が対立する店舗等の認証要求者が自らの支配下にある読取り装置を用いて提示されたバーコードを読み取るので,バーコードが適正な使用状況下で読み取られていることが担保される。

イ 引用発明の内容

(ア) 引用発明は乗車券,入場券等の発券システムを対象とする。引用発明において,ユーザーコード情報は,発券要求情報に応じ,検索された券情報に対応するものであり(甲1の特許請求の範囲,請求項1参照。),要するに発行される乗車券,入場券等の特定の券の情報である。ユーザー識別情報がユーザーコード情報に含まれる場合があるとしても,ユーザー識別情報はユーザーコード情報の一部にすぎない。

乗車券,入場券等の発券システムは,券の内容が一見明確であることが要求されるから,券情報であるユーザーコード情報のすべてを,表示された内容をそのままでは理解できない記号であるバーコードで表示することは考えられない。

(イ) 以下,甲1に記載された引用発明のシステムに沿って,詳細に主張する。

a ユーザーが,文字,数字などと共に,バーコードが印刷された図7の券紙を持参すると,券使用場所においては当該バーコードが読み取られるだけではなく,更に券上のバーコードで表示されていないユーザーコード情報も別の手段により読み取られ,送信されたものが受信され,照合により予めユーザーに送信していたユーザーコード情報と一致することが確認される。ここで,バーコードで表示されているユーザーコード情報は,発行済みの券に表示されるコード情報を用いて生成されるコード情報55とユーザーが券を予約するときに送信された,そのユーザーのパスワード情報である暗号情報56である(【0159】及び【0162】項参照)。すなわち,引用例は,ユーザーコード情報をバーコードのみで表示することは想定しておらず,そのような場合を開示していない。

b また,引用発明には,バーコード表記部分のみを照合することも開示されていない。すなわち,引用発明は,バーコードの一致だけではなく,ユーザーコード情報の一致の有無の判断により,初めてその券が真正なものであることが確認できるシステムである。

c 引用例には,「また,ユーザーの名前情報53は,券の使用に際しての安全性を高めるために表示することが望ましい。具体的には,この宿泊券5を使用する際には,この宿泊券5を持参したユーザーに身分証明書等を提示してもらい,ユーザーの名前情報53と身分証明書の名前とを比較して,この宿泊券5の正規の使用者であるか否かを確認することにより,券の不正使用を防止することができる。」(【0161】)との記載がある。同記載によれば,引用発明のシステムでは,ユーザーが持参した券に,図7のように名前や住所などについての文字情報が記載されている場合には,それとユーザーの持参する身分証明書との照合により,券を持参したユーザーが券情報の真の利用者であるか否かを認証することになる。引用発明では,個人認証をする発明ではないので,そのような方法を用いることによって初めて個人認証をすることができる。

引用発明では,バーコード等のユーザーコード情報により個人認証を行うことが不可能であるため,上記のような身分証明書を用いて利用者の個人認証を行うことが記載されているといえる。

ウ 本件発明1と引用発明との相違点

本件発明1は,携帯電話に表示,提示されるバーコードを用いてこれを照合し,ユーザーの身元確認,すなわち個人認証をする発明である。本件発明においては,ユーザー情報が携帯電話のバーコードのみに表示されて,そのバーコード表記部分のみで照合する発明思想が開示されている。

これに対して,引用発明においては,「ユーザーコード情報が携帯電話のバーコードのみに表示されて,バーコード表記部分のみで照合する発明思想」の開示はない。また,引用発明においては,バーコードによって個人認証をするという発明思想はない。

前記のとおり,本件発明1は,ユーザー情報がバーコードのみによって表示され,バーコードのみで照合して個人認証をするのに対して,引用発明は,そのような照合により個人認証を行うものであるか否か明らかでない点において相違する。しかるに,本件審決は,前記のとおり,引用発明について,バーコードによるユーザーコード情報の照合により,ユーザーの個人認証が行われると認定した誤り,その結果,本件発明1と一致するとして,本件発明1と引用発明の相違点を看過した誤りがある。

エ 被告の主張に対し

(ア) 被告は,引用例の「ユーザーコード情報を,バーコード,数字列又は文字列とする」(【0034】)との記載があることから,引用発明は,ユーザーコード情報がバーコードのみで表示されるものであると主張する。しかし,同記載は,ユーザーコード情報が,単に別の表示方法とともに,バーコードでも表示され得ることを示した趣旨と理解される。同記載は,ユーザーコード情報が常にバーコードのみで表示されることを示しているものではないから,この点の被告の主張は,失当である。

(イ) 被告は,本件発明1においてはバーコードの一致以外の判定が除外されていないとして,訂正明細書の記載を指摘する。しかし,特許請求の範囲においては,バーコードの一致以外の判定方法は,明確に除外されている。訂正明細書の記載があるからといって,特許請求の範囲を拡大して理解するのは失当である。

(2)  取消事由2(相違点の看過-その2)

本件審決は,引用発明の内容について,「対応するユーザーの銀行口座番号やクレジットカード番号を含むユーザー情報を読み出すことができたときに,券情報を検索し出力し,前記受信したユーザー識別情報に対応するユーザー情報部のユーザー情報を用いてバーコードによるユーザーコード情報を作成するステップ」(審決書31頁13行~17行)を備えていると認定した上,本件発明1と引用発明とは,「前記認証装置が,前記被認証者の個人特定情報が前記顧客データベースに記録されていたときに,前記被認証者に固有のバーコードを生成するステップ」(審決書36頁16行~18行)が存在する点において一致していると認定した。

しかし,本件審決には,引用発明の内容についての認定の誤り,及び本件発明1と引用発明との相違点を看過した誤りがあり,これらは,本件審決の結論に影響を及ぼす。

ア 本件発明1の内容

本件発明1は,その特許請求の範囲に,「前記認証装置が,前記被認証者の発信者番号が前記顧客データベースに記録されていたときに,前記被認証者に固有のバーコードを生成するステップ」とされているとおり,被認証者の発信者番号が前記顧客データベースに記録されているにもかかわらず,バーコードが生成されないような構成,すなわち,これに加えて課金処理を要求するような構成及び所望する券の条件が選択されて初めて発券されるような構成が含まれないことは明白である。

イ 引用発明の内容

(ア) 引用発明は,券の購入者が発券場所まで行かなくても簡易に券を購入できる発券システムに関する発明であり,発券前に課金することを前提としている。課金するためには,ユーザーの銀行口座番号やクレジットカード番号等の課金用識別情報を得るだけではなく,銀行やクレジット会社にコンタクトし,課金処理を行う必要がある。すなわち,一般に,銀行口座番号やクレジットカード番号を利用して課金を行う場合,単にユーザーからこれらの情報を得ただけでは課金はできない。これらの銀行口座番号やクレジットカード番号によって特定された銀行口座に必要な資金があり,そのクレジットカードが有効で,かつ限度額内でない限り,課金ができないのが取引上の常識である。

よって,引用発明においては,発券を行う側がユーザーの課金用識別情報について課金可能かどうかを確認し,課金処理をして初めて,券を検索ないし出力する段階に移るのであり,単にユーザーの銀行口座番号やクレジットカード番号を含むユーザー情報を読み出すことができただけで券情報を検索し出力するものではない。

(イ) また,引用発明においては,ユーザーコード情報は,所望する券の条件が選択されて初めて生成され,ユーザーが購入する券の内容が特定されない限り発券できない。引用発明は,「発信者番号」が記録されていても,それだけではユーザーコード情報は生成されない。

ウ 本件発明1と引用発明との相違点と本件審決による相違点の看過

本件発明1は,発信者番号が顧客データベースに記録されているときにはバーコードが生成される。これに対し,引用発明はユーザーコード情報がユーザー情報記憶部に記憶されているだけでなく,発券のための課金処理がされ,所望する券の内容が特定されて初めてバーコードが生成されるものである。本件審決の前記一致点の認定は,これらの相違点を看過するものである。

エ 被告の主張に対し

被告は,本件発明1には課金の有無についての構成はないから,課金を行う構成が含まれ得ると主張するが,本件発明1の特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって失当である。本件発明1の特許請求の範囲には,「前記認証装置が,前記被認証者の発信者番号が前記顧客データベースに記録されていたときに,前記被認証者に固有のバーコードを生成するステップ」と記載され,発信者番号が顧客データベースに記録されていてもバーコードが生成されない構成は本件発明1の構成に含まれない。

(3)  取消事由3ないし7(本件発明2ないし6と引用発明の相違点を看過した誤り)

本件審決は,本件発明1と引用発明の相違点を看過した誤りと同様に,本件発明2ないし6のそれぞれと引用発明の相違点を看過した誤りがある。

2  被告の反論

(1)  取消事由1(相違点の看過-その1)に対し

ア 原告は,引用発明においては,ユーザーコード情報がすべてバーコードで表示されるものではないと主張する。

しかし,原告の主張は失当である。すなわち,引用例には,ユーザーコード情報をバーコードとすることが明確に記載されており(甲1の【0034】),引用例の記載に従ってした本件審決の判断に誤りはない。

イ 原告は,本件発明1では,バーコードの一致以外の要素による判定は除外しているのに対し,引用発明では,バーコードの一致だけでなく,ユーザーコード情報の一致を確認している点において相違すると主張する。

しかし,原告の主張は失当である。すなわち,訂正明細書には,「携帯電話の所有者である顧客は,この認証システムの加盟者(店舗等)で買い物等を行う際,付与されたバーコード400を携帯電話の表示部206に表示させ,このバーコード400と自らが所有する携帯電話の番号(発信者番号)との組み合わせを,身元を確認させる手段(ID)として使用する。」(訂正明細書【0017】)との記載があり,本件発明1において,バーコードの一致の判定のみならず,別の判定(前記の例では,携帯電話番号の一致の判定)を行う態様を含み得ることが裏付けられる。

ウ 原告は,引用発明において,ユーザーコード情報の照合により判明するのは,券が真正なものであることのみであると主張する。

しかし,本件発明1においても,携帯電話を所有する者がそれによって特定される個人と同一人物であることまで認証されないから,この点は,本件発明1と引用発明の相違点ではない。

(2)  取消事由2(相違点の看過-その2)に対し

原告は,引用発明は発券する前に課金するのが前提であるのに対し,本件発明1には課金処理されて初めてバーコードが生成されるような構成は含まれないと主張する。

しかし,原告の主張は失当である。すなわち,本件発明1には課金の有無についての構成はないから,被認証者の発信者番号が顧客データベースに記録されていると判定した後,課金を行うという構成が含まれ得る。また,原告のその余の主張も失当である。したがって,本件審決の認定に相違点の看過はない。

(3)  取消事由3ないし7(本件発明2ないし6と引用発明の相違点を看過した誤り)について

取消事由3ないし7は,本件発明2ないし6について,前記(1),(2)と同様の相違点の看過を主張するものであり,前記(1),(2)のとおり,本件審決に相違点の看過はないから,原告の主張は失当である。

以上によれば,本件発明1ないし6と引用発明に係る本件審決の判断に,相違点を看過した誤りはない。

第4当裁判所の判断

当裁判所は,本件発明1ないし6と引用発明との相違点を看過した誤りがあるとする原告の主張はいずれも理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。

1  事実認定

(1)  本件発明に係る訂正明細書の記載

ア 特許請求の範囲(請求項1)の記載は,次のとおりである。

「携帯電話に表示されるバーコードを使用した認証方法であって,

認証装置が,認証要求者の顧客である被認証者の発信者番号を含むバーコード要求信号を被認証者の携帯電話から通信回線を通して受信するステップと,

前記認証装置が,前記被認証者の発信者番号が顧客データベースに記録されているか否かを判定するステップと,

前記認証装置が,前記被認証者の発信者番号が前記顧客データベースに記録されていたときに,前記被認証者に固有のバーコードを生成するステップと,

前記認証装置が,該バーコードを前記被認証者の発信者番号の携帯電話に通信回線を通して送信すると共に,該バーコードをバーコードデータベースに記憶させるステップと,

前記認証装置が,被認証者によって携帯電話に表示されて提示され,且つ認証を求める認証要求者のバーコード読み取り装置で読み取られて認証を求める認証要求者から通信回線を通して送信されてきたバーコードを受信するステップと,

前記認証装置が,該受信したバーコードが,前記バーコードデータベースに記憶されているバーコードと一致するか否かを判定するステップと,

前記認証装置が,受信したバーコードが前記バーコードデータベースに記憶されていたときに,当該バーコードを携帯電話により提示した被認証者を認証する旨の信号を前記認証要求者に通信回線を通して送信するステップと,を備えている,

認証方法。」

イ 訂正明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある。

「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は認証方法に関し,より詳細には,バーコード等を利用した認証方法等に関する。

【0002】【従来の技術】個人の身元確認等の認証は,印鑑,付与されたパスワード,カードに設けられたエンボスまたは磁気テープ等を照合することによって行われていた。

【0003】【発明が解決しようとする課題】これに対し,本発明は,従来とは全く異なった方式で個人の身元確認等の認証を行うことができる認証方法等を提供することを目的とする。」

「【0005】このような構成を備えた本発明によれば,データベースでの身元確認の後に,被認証者に付与されたバーコードが,被認証者を特定するための識別標識として用いられる。

【0006】ここで,被認証者とは,認証により自らの身元,信用度等を明らかにすることを欲するものを指し,例えば,買い物をする顧客,クレジットカード使用者である。又,認証要求者とは,被認証者の身元,信用度などの確認を欲するものを指し,例えば,店舗,クレジットカード会社,銀行がある。又,本件出願において「バーコード」とは,図2に示されているような横方向に並べられた複数の縦線によるパターンである一般的なバーコードに限定されるものではなく,光学的に読み取り判別可能な他の識別標識をも含むものである。

【0007】又,本発明の好ましい態様によれば,前記発信者番号が,被認証者の携帯電話番号である。」

「【0012】【発明の実施の形態】次に,図面に沿って本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。」

「【0015】顧客データベース(顧客DB)112には,登録済み顧客の氏名と,携帯電話番号とを含む顧客情報が収容されている。また,バーコード生成手段114は,バーコード送受信端末である顧客の携帯電話200の発信装置(バーコード要求手段)202から電話回線(通信回線)を通してバーコード要求信号を受け,このバーコード要求信号に含まれる当該顧客の発信者番号,即ち,携帯電話番号に基づいて顧客データベース112を検索し,当該発信者番号を発見した場合にはバーコード,詳細には,バーコードに対応する信号(バーコード信号)を生成するように構成されている。このバーコードは,当該顧客が特定の店舗300で使用するためのものであり,顧客及び店舗に対して一意的に生成される。即ち,バーコードは,当該顧客が,特定の店舗でしか使用できない固有のバーコードとなる。」

「【0017】この実施形態では,携帯電話200は,伝送されたバーコード信号を記憶し,これに対応したバーコード400を,その場であるいはその後の呼び出しに応じて,液晶表示画面などの表示部206に表示できるように構成されている(図2)。携帯電話の所有者である顧客は,この認証システムの加盟者(店舗等)で買い物等を行う際,付与されたバーコード400を携帯電話の表示部206に表示させ,このバーコード400と自らが所有する携帯電話の番号(発信者番号)との組合せを,身元を確認させる手段(ID)として使用する。・・・。」

(2)  引用例の記載

ア 引用例の特許請求の範囲の請求項1,10ないし12の記載は,次のとおりである。

「【請求項1】ユーザーの発券要求情報を入力するユーザー装置と,

前記ユーザー装置と通信手段を介して接続され,前記ユーザー装置からの前記発券要求情報に応じた券情報を検索し,この検索された券情報及び前記券情報に対応するユーザーコード情報を共に出力するデータ処理手段と,前記ユーザー装置からの前記発券要求情報を受信し,前記データ処理手段からの前記券情報及び前記ユーザーコード情報を前記ユーザー装置に送信するデータ送受信手段とを有する券発行装置と,

前記券情報及び前記ユーザーコード情報を入力する情報入力手段と,前記情報入力手段からの前記券情報を認識して処理するデータ処理手段とを有する券使用装置と,

を備えて成り,

前記ユーザー装置は,前記券発行装置からの前記券情報及び前記ユーザーコード情報の少なくとも一方を記録する記録媒体を含み,

前記券使用装置は,前記情報入力手段で,前記記録媒体に記録されたユーザーコード情報を読み込み,前記データ処理手段で,前記情報入力手段からのユーザーコード情報と前記券発行装置の前記データ処理手段からのユーザーコード情報との照合結果に基づいて,前記記録媒体に記録された券情報が有効であるか否かを決定することを特徴とする発券システム。」

「【請求項10】請求項8,9のいずれかにおいて,

前記ユーザーコード情報は,バーコード,数字列及び文字列のうちの少なくともいずれか一つで表されることを特徴とする発券システム。

【請求項11】請求項8~10のいずれかにおいて,

前記ユーザーコード情報には,前記ユーザーを識別するユーザー識別情報を含み,前記ユーザーコード情報の照合時には,前記ユーザー識別情報も照合することを特徴とする発券システム。

【請求項12】請求項11において,

前記ユーザー識別情報は,ユーザーの名前情報及び暗号情報のうちの少なくともいずれか一方を含むことを特徴とする発券システム。」

イ 引用例の発明の詳細な説明には,次の記載がある。

「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,ユーザーが券を発注して購入する発券システム,券発行装置及び券使用装置に関する。

【0002】【背景技術】現在,一般の人々が航空券や電車等の乗車券やコンサート等の入場券を購入する際には,電話で発券の予約をしたり,発券を行うことができる場所まで行ったりして,券を購入している。

【0003】具体的には,例えば,乗車券を購入する場合に,旅行代理店に対して電話で発券の予約をしたときには,その旅行代理店まで券を取りに行き,購入代金を支払うことになる。

【0004】また,入場券等の発券を行うことができる場所としてコンビニエンスストア等がある。よって,コンビニエンスストアで券を購入する際にも,コンビニエンスストアまで行って発券してもらい,購入することになる。

【0005】【発明が解決しようとする課題】このように,券の購入者は,電話で発券の予約をしても,実際に有効な券を入手するためには,その予約をした場所まで行かなければならないので,手間や時間を費やす。

【0006】また,旅行代理店やコンビニエンスストアのような発券場所では,発券するための人員が必要である。

【0007】即ち,ユーザーが券を購入するための発券システムは,非常に煩雑なものとなっている。

【0008】本発明は,このような課題を鑑みてなされたものであり,その目的は,券の購入者が発券場所まで行かなくても簡易に券を購入することができ,発券場所では,人員を合理化することができる発券システム,券発行装置及び券使用装置を提供することにある。」

「【0010】このように,本発明の発券システムでは,券の購入者いわゆるユーザーの所有するユーザー装置と,例えば発券センタのような券を発行する施設に備えられた券発行装置とは通信手段を介して接続される構成となっている。

【0011】よって,ユーザーは,発券場所まで行かなくても,ユーザー装置から券発行装置に発券要求情報を送信して,所望の券情報を受信し,この券情報を記録媒体に記録することにより,簡易に券を購入することができる。

【0012】また,発券場所では,券発行装置を用い,発券要求情報を通信手段を介して受信して処理するので,人員を合理化することができる。

【0013】また,券使用装置では,ユーザーが持参した券に記録されるユーザーコード情報を情報入力手段で読み取るので,その券が有効であるか否かを自動的又は半自動的に照合することができる。」

「【0016】また,券発行装置と券使用装置とは,一体化された,例えば一つのコンピュータ装置とし,このコンピュータ装置を,例えば券を使用する窓口等に設置するようにしてもよい。これにより,券情報の発行処理及び使用処理を一つのコンピュータ装置で行うことができるので,通信手段等の設備を削減し,装置を簡素化することができる。」

「【0019】また,請求項4の発明は,請求項3において,前記記録媒体は,紙及び携帯型記録媒体のうちの少なくともいずれか一方であることを特徴とする。」

「【0021】尚,前記携帯型記録媒体としては,フロッピーディスク,100MB以上の大容量磁気ディスク等のような磁気記録媒体,メモリカード,ICカード,切手サイズメモリカード,PCカード等のカード型記録媒体,光磁気,相変化等を利用した光記録媒体,手のひらサイズ等の超小型PC等の小型電子機器等を用いることが可能である。」

「【0033】また,請求項10の発明は,請求項8,9のいずれかにおいて,前記ユーザーコード情報は,バーコード,数字列及び文字列のうちの少なくともいずれか一つで表されることを特徴とする。

【0034】このように,ユーザーコード情報を,バーコード,数字列又は文字列とすることにより,ユーザーコード情報を容易に作成することができる。また,このようなユーザーコード情報を記録媒体に記録した場合には,この記録媒体からユーザーコード情報を簡易に読み取ることができる。

【0035】また,請求項11の発明は,請求項8~10のいずれかにおいて,前記ユーザーコード情報には,前記ユーザーを識別するユーザー識別情報を含み,前記ユーザーコード情報の照合時には,前記ユーザー識別情報も照合することを特徴とする。

【0036】これにより,記録媒体を持参したユーザーが,その記録媒体に記録された券情報の真の利用者であるか否かを判別することができるので,記録媒体の偽造や不正使用を防止することができる。

【0037】また,請求項12の発明は,請求項11において,前記ユーザー識別情報は,ユーザーの名前情報及び暗号情報のうちの少なくともいずれか一方を含むことを特徴とする。

【0038】このように,ユーザー識別情報にユーザーの名前情報や暗号情報を用いるので,ユーザー識別情報を簡易に生成することができる。」

「【0075】図1には,本発明に係る発券システムの概念的な構成を示す図である。」

「【0078】前記発券システムで用いる通信回線は,有線であって,電話線を使用することが一般的であるが,ISDN回線やCATV(Cable Television)のケーブル,または光ファイバケーブルを用いることも可能である。また,通信回線は無線であってもよく,PHS(簡易型携帯電話)や携帯電話,または人工衛星の双方向を利用した通信システムを利用することが考えられる。」

「【0082】券使用場所104では,券使用装置に接続される複数の情報読み取り装置106を備えている。例えば,券情報及びユーザーコード情報の少なくとも一方がバーコード情報として印刷されているならば,情報読み取り装置106としてはバーコードリーダー装置を用いることが可能である。券使用場所104では,情報読み取り装置106により,紙に印刷された券情報及びユーザーコード情報の少なくとも一方を読み取って,その券110が有効であるか否かを判別する。これにより,ユーザーが持参した券110が有効であると判別されるならば,ユーザーは,その券110を真の券として使用することができる。」

「【0157】図7に,上述した発券処理手順により印刷された券の一例として,ホテルの宿泊券を示す。

【0158】宿泊券5には,宿泊券であることを示す券の種類情報51,ホテル名・ホテルの所在地等の情報52,ホテルの利用者,即ちユーザーの名前情報53,宿泊日等のホテルの利用条件情報54,ホテルの外観,宣伝,及び地図等のホテル案内情報57,この宿泊券の利用に際の注意事項情報58,この宿泊券5が有効な宿泊券であることを示すための発券番号であるコード情報55が表示される。

【0159】このコード情報55は,既に発行済みの券に表示されるコード情報を用いて生成されるものであって,どのように発生しているのかを検出することができないコード情報であり,また,第三者がでたらめにコード情報を発生しても,有効なコード情報との見分けが付くようなコード情報である。このコード情報を発生する方法の一つとしては,例えば,発行する予定の券の数よりもはるかに大きい数,例えば30桁以上の数のうちから,でたらめな数を選択する方法がある。これにより,どのような数字列を選択したのかは,券発行装置のみしか知らず,また,第三者が前記選択された数字列を直感で当てることができる確率も小さくなるので,第三者が券を偽造することが困難になる。さらに,このように発生された数字列は,コード情報55に示すようにバーコードとして表示することにより,この後のコード情報の読み取り動作等の処理を行い易くなる。

【0160】また,コード情報55としては,乱数によって発生される数字列及び文字列のうちの少なくともいずれか一方を用いたり,前記バーコード情報の代わりに画像データを用いたりすることが可能である。この画像データとしては,例えば2次元バーコードを用いることにより実現性が高くなる。

【0161】また,ユーザーの名前情報53は,券の使用に際しての安全性を高めるために表示することが望ましい。具体的には,この宿泊券5を使用する際には,この宿泊券5を持参したユーザーに身分証明書等を提示してもらい,ユーザーの名前情報53と身分証明書の名前とを比較して,この宿泊券5の正規の使用者であるか否かを確認することにより,券の不正使用を防止することができる。

【0162】さらに,宿泊券5には,暗号情報56が表示されている。この暗号情報56は,宿泊券5の使用の際の安全性をさらに高める必要がある場合に使用する。この暗号情報56は,ユーザーが券を予約するときに送信された,そのユーザーのパスワード情報を暗号化し,コード化した情報である。また,このパスワード情報は,券の予約時に,ユーザーから券発行装置1に予め送信し,券発行装置1で暗号化し,コード化するようにしてもよい。

【0163】さらに,ユーザーと券発行装置1との間でパスワード情報を認知し合わないようにすることも可能である。このときには,暗号化の鍵を券発行装置1からユーザー装置2に送信し,また,復号化の鍵を券発行装置1から券使用装置3に送信する。この後,ユーザー装置2は,送信されている暗号化の鍵を用いてパスワード情報を暗号化し,ユーザーコード情報と共に紙に印刷又は携帯型記録媒体に記録する。また,券使用装置3は,送信されている復号化の鍵を用いて,紙に印刷又は携帯型記録媒体に記録された,暗号化されたパスワード情報を復号化し,ユーザーが記憶するパスワード情報と照合する。これにより,券発行装置1とユーザー装置2との間では,パスワード情報を相互に知ることなく,暗号化及び復号化を行うことが可能となる。」

2  相違点についての判断

(1)  本件発明1及び引用発明の課題及び解決方法

ア 本件発明1

本件発明1は,顧客認証の方法等に関する発明であって,例えば,店舗を訪れた顧客が,認証要求者である店舗等に対して,自らの身元,信用度等の証明をする場合,既に顧客データベースに記録されている顧客との同一性を照合するための認証方法に係る発明である。従来,個人の身元確認等の認証は,印鑑,付与されたパスワード,カードに設けられたエンボスまたは磁気テープ等を照合することによって行われていたことに代えて,新たな照合方法を提示しようとするものである(【0001】ないし【0006】参照)。

その個人認証(同一性の照合)のための手順は,以下のとおりである。すなわち,①ユーザーの携帯電話は,通信回線を通して認証装置と接続され,②被認証者の携帯電話から顧客の発信者番号(望ましくは携帯電話番号)を含むバーコード要求信号が送信されると,③認証装置は,これを受信し,被認証者の発信者番号が顧客データベースに記録されているかを判別し,記録されているときには,被認証者固有のバーコードを生成し,該バーコードを被認証者の携帯電話に通信回線を通して送信し,④送信された該バーコードは認証装置のバーコードデータベースに記憶され,⑤被認証者が携帯電話にバーコードを表示して認証要求者に提示すると,これが認証要求者のバーコード読み取り装置で読み取られて認証装置に通信回線を通じて送信され,⑥認証装置では受信したバーコードとバーコードデータベースに記憶されているバーコードが一致するかを判定し,⑦上記⑥で一致していた場合には,認証装置は,被認証者を認証する旨の信号を認証要求者に通信回線を通して送信する(【請求項1】【0007】参照)。

このように,本件発明1は,携帯電話から発信者番号が送信されると,認証装置がバーコードを生成してこれを携帯電話に送信し,送信されたバーコードと認証装置に記憶されたバーコードを照合することによって,顧客の認証を実現しようとする発明である。

イ 引用発明

引用発明は,ユーザーが券を発注して購入する発券システム,券発行装置及び使用装置に関するものであり,ユーザーが乗車券や入場券を購入する際に,コンピュータ装置等の情報通信手段を使用することによって,ユーザーが実際に発券場所まで行く手間や時間を省き,ユーザー装置において所望の券情報を入手し,簡易に券を購入することができるようにし,さらに,発券場所においては人員を合理化できるとする発明である(【0001】ないし【0008】,【0013】,【0016】)。

引用発明に係るシステムでは,券の発行とその使用の場所的,時間的な間隔があるので,発行された券とユーザーが使用,提示する券との同一性の照合(真正確認)が必要となる。その照合の手順は,以下のとおりである。

すなわち,①ユーザー装置と券発行装置は通信手段を介して接続され,②ユーザー装置から発券要求情報が送信されると,③券発行装置のデータ送受信手段は発券要求情報を受信し,次に,データ処理手段は,発券要求情報に応じた券情報を検索し,検索された券情報及び券情報に対応するユーザーコード情報を出力し,データ送受信手段は出力された券情報及びユーザーコード情報をユーザー装置に送信する,④ユーザー装置では,送信されたユーザーコード情報が,紙等の記録媒体に記録される,⑤ユーザーがユーザーコード情報が記録された記録媒体を券使用装置まで持参し,紙等の記録媒体に記録されたユーザーコード情報が券使用装置の情報入力手段によって読み込まれると,⑥券発行装置のデータ処理手段は,これを券発行装置に記憶されている,送信されたユーザーコード情報と照合し,⑦照合の結果に基づいて,紙等の記録媒体に記録された券情報が有効であるか否かを決定する(【請求項1】参照)。

引用発明の請求項1では,ユーザーコード情報の詳細は示されていないが,請求項10では,ユーザーコード情報が,バーコード,数字列及び文字列のうちの少なくともいずれか1つとされる構成が示され,請求項11では,ユーザーコード情報がユーザー識別情報を含む構成が示されている。

前記のとおり,引用発明は,発行された券のユーザーコード情報を券使用装置で読み込み,これを券発行装置に記録されたデータと照合して券の真正を確認する技術であり,ユーザーコード情報を用いた認証により,簡易な券を発行,使用することを実現しようとする発明である。

(2)  相違点の看過(その1)について

原告は,本件発明1と引用発明は,ユーザーコード情報がバーコードのみで表示されバーコードのみを照合するか否かという点,及び個人認証を行うものであるか否かという点において相違するのに,本件審決はこれらの相違点を看過したものであると主張する。

ア バーコードのみを使用する点について

(ア) 前記のとおり,本件発明1においては,認証手段としてバーコードのみを用いるものである。もっとも,訂正明細書の【0017】には,本件発明1の実施形態としてバーコード以外に携帯電話の番号(発信者番号)を身元確認手段(ID)として使用する形態が示されているが,特許請求の範囲に照らしてみる限り,それは本件特許発明の実施形態を示したものではなく,特許発明の実施形態であるバーコードによる照合に加えて携帯電話の番号(発信者番号)による照合を付加した説明であって,この訂正明細書の記載をもって本件特許発明1がバーコードによる照合以外の手段による照合を排除していないと解するのは相当でない。

他方,引用例においては,認証手段として用いられるユーザーコード情報を,バーコード,数字列及び文字列のうちの少なくともいずれか1つで表す場合が開示されている(【請求項10】【0033】【0068】)。引用例においては,認証手段であるユーザーコード情報をバーコードのみで表す場合が開示されている以上,バーコードのみの照合により券の真正の認証を行う技術が開示されているというべきである。

(イ) この点,原告は,引用発明は乗車券,入場券等の発券システムであって,券の内容が一見して明確であることが要求されるから,券情報であるユーザーコード情報のすべてをバーコードで表示することはできないと主張する。しかし,この点の原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,引用発明において券の真正を確認するための照合手段は,券情報ではなく,これと区別されたユーザーコード情報であることは,前記引用例の【請求項1】のとおりである。そして,【請求項10】においては,ユーザーコード情報をバーコードのみで表示する発明思想が開示されている以上,引用発明では,バーコードにより表示されたユーザーコード情報の照合により券の真正を確認する方法が示されているといえる。この点の原告の主張は採用できない。

イ 個人認証を行うか否かについて

(ア) 原告は,引用発明では,ユーザーコード情報の照合により判明するのは,券が真正なものであるか否かであって,人の同一性の認証ができないのに対し,本件発明1においては,一身専属性が極めて高い携帯電話を利用することにより,バーコードを人に付したのと同様の効果が得られるため,人の同一性の認証(個人認証)ができる点において相違すると主張する。

しかし,原告の主張は,以下のとおり,失当である。すなわち,本件発明1における個人認証の仕組みは,被認証者が記録した携帯電話のバーコードと認証装置側のバーコードとの同一性の有無を確認することによるものであって,当該携帯電話を所持し,提示した者が,被認証者自身であるか否かを照合の対象とするものではない。したがって,本件発明1と引用発明は,個人認証の有無において相違するということはできない。

一般に,人の同一性を正確に認証するためには,指紋,虹彩,DNA等を照合する生体認証等の手段を用いる必要があり,人が所持する携帯電話や紙その他の記録媒体に表示された情報等の同一性を照合する方法によっては,人の同一性の確認はできない。本件発明1も引用発明も,生体認証のような意味で人の同一性を判断する発明でなく,送信をされて受けた識別標識と,特定の者が所持し,提示した識別標識の同一性を照合するという間接的な照合方法であるという点において共通する。

(イ) この点,原告は,本件発明1では,バーコードを表示する媒体が,本件発明1では,社会通念上,他人に渡すことが少ない携帯電話であるのに対し,引用発明ではユーザー装置ないし印刷した紙が含まれている点において相違し,その相違は,人の同一性の認証の正確性の程度に影響を及ぼすなどと主張する。もっとも,同相違点は,本件審決が,「要求発信装置及びバーコードを表示する媒体が,本件発明1では携帯電話であるのに対し,引用発明ではユーザー装置であり,また,印刷した紙である点。」を相違点1として摘示しているので,相違点を看過したとの原告の主張自体失当であるが,念のため,付加的に判断する。

a 引用発明における記録媒体について

引用例の【0019】では,「また,請求項4の発明は,請求項3において,前記記録媒体は,紙及び携帯型記録媒体のうちの少なくともいずれか一方であることを特徴とする。」とされ,【0021】では,「尚,前記携帯型記録媒体としては,フロッピーディスク,100MB以上の大容量磁気ディスク等のような磁気記録媒体,メモリーカード,ICカード,切手サイズメモリーカード,PCカード等のカード型記録媒体,光磁気,相変化等を記録した光記録媒体,手のひらサイズ等の超小型PC等の小型電子機器等を用いることが可能である。」とされている。さらに,【0078】では,「前記発券システムで用いる通信回線は,・・・無線であってもよく,PHS(簡易型携帯電話)や携帯電話,または人工衛星の双方向を利用した通信システムを利用することが考えられる。」とされている。前記【0019】【0021】でいう「記録媒体」とは,引用例の請求項1,4の記載からみると,通常ユーザー装置に含まれるものであって,必ずしもユーザー装置そのものではないから,これをユーザー装置に相当する本件発明1の携帯電話と直ちに同視することはできないが,これを認証のための技術的手段を搭載する媒体としてみるときには,引用例における携帯型記録媒体は,本件発明1の携帯電話と同様の技術的意義を有するものということができる。また,【0078】は,使用する通信回線に関する記述であるが,携帯電話通信回線を使用する場合のユーザー装置は必然的に携帯電話になると考えられるから,ここでは,ユーザー装置として携帯電話を使用することが開示されている。

さらに,引用例における携帯型記録媒体には,少なくとも携帯電話と同様に一身専属性の高いものが含まれており(例えば,引用例の【0021】に例示される「手のひらサイズ等の超小型PC」),原告が主張するように,本件発明1において一身専属性の高い携帯電話を用いることにより個人認証ができるのに対し,引用発明では個人認証ができないとの相違があるとの主張は,採用できない。

b 引用発明における宿泊券について

引用発明には,【0157】以下には,記録媒体が宿泊券という紙の形式で利用される場合が示されている。この場合にも,乱数によって発生される数字列及び文字列の少なくともいずれか一方を用いたコード情報により第三者による券の偽造を困難にする方法(【0159】【0160】),券に暗号情報を表示する方法(【0162】),券発行装置から送信された暗号鍵で暗号化されたパスワード情報を紙に印刷する方法(【0163】)が示されており,これらの方法を使用することにより,券の発行を受けたユーザーとの同一性の確認ができるものであり,その正確性の程度は本件発明1による携帯電話による正確性の確認の程度と大きく異なるものではない。

ウ 小括

以上のとおり,引用発明は券の真正を確保するにすぎず,本件発明1は人の同一性の認証を行うものであって,これが両発明の相違点であるとする原告の主張には理由がなく,本件審決の相違点の認定に誤りはない。

(3)  相違点の看過(その2)について

原告は,引用発明には,課金処理を要求するような構成及び所望する券の条件が選択されて初めて発券されるような構成が含まれているのに,本件発明1にはそのような構成がなく,これらの点を認定しなかった本件審決には相違点を看過した誤りがあると主張する。

ア 引用発明における課金処理の有無

a 引用例の記載

課金処理について,引用例の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明には次の記載がある。

「【請求項13】請求項3~12のいずれかにおいて,

前記券発行装置の前記データ処理手段は,

前記データ送受信手段により受信した情報を判別する情報判別手段と,

前記情報判別手段で受信した情報が前記発券要求情報であると判別されたときに,前記発券要求情報が有効であるか否かを判別する発券要求情報判別手段と,

前記発券要求情報判別手段により,前記発券要求情報は有効であると判別されたときに,前記発券要求情報に応じた券情報を検索する券情報検索手段と,

ユーザー情報を記憶するユーザー情報記憶手段と,

前記ユーザー情報記憶手段に記憶するユーザー情報を用いて,前記券情報検索手段により検索された前記券情報に対応するユーザーコード情報を作成するユーザーコード情報作成手段と,

前記発券要求情報判別手段により,前記発券要求情報は有効であると判別されたときに,前記ユーザー情報記憶手段に記憶するユーザー情報を用いて前記券情報に応じた金額を課金する課金手段とを,含むことを特徴とする発券システム。」

「【0041】このように,請求項13及び請求項14では,ユーザー情報又は課金用識別情報を用いることにより,ユーザーは,券発行装置から発行された券の代金を自動的又は半自動的に支払うことができるので,券を簡易に購入することができる。」

b 判断

上記記載及び引用例の他の請求項の記載にみられるように,引用発明の請求項の1ないし12には課金処理に関する構成は示されておらず,請求項13で初めて課金処理の構成が示されているが,その請求項13においても,課金処理の手段が付加されるのは,請求項3ないし12に限定されている。そうすると,引用例の請求項1,2の発明には課金処理の構成は示されていないというべきであり,課金処理に関する構成を相違点としなかった本件審決の判断に誤りはない。

この点,原告は,引用発明において,発券前に課金することが前提となると主張する。しかし,原告の主張は失当である。すなわち,取引通念上,有料発券が通常であり,発券前に課金されるのが一般的であるとしても,そのことから当然に引用例の請求項1,2の発明が課金処理を含んだ構成と理解することはできない。引用例の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明をみても,引用例の請求項1,2の発明が課金処理を含むとの記載はなく,原告の主張は採用の限りでない。

イ 引用例における,所望する券の条件が選択されるとの構成の有無

引用発明の特許請求の範囲の請求項1は,1の(2)のとおりであり,引用発明においては,ユーザーの発券要求情報には,所望する券の内容を示して発券要求するものと解される。

しかし,「券の内容を特定する情報の送信」の有無は,認証について技術な意味を持つ「ユーザーコード情報の送信」と直接関連するものではないから,その点の相違点の看過は,本件審決に影響を及ぼさない。したがって,相違点の看過を指摘するこの点の原告の主張は,採用の限りでない。

3  本件発明2ないし6と引用発明の相違点を看過した誤り(取消事由3ないし7)について

原告は,本件発明2ないし6について,本件審決が,引用発明との相違点を看過した誤りがあると主張するが,その主張する内容は本件発明1と引用発明の相違点の看過に係る主張と同一であるから,上記1,2で判断したとおり,原告の主張には理由がない。

4  結論

以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告は縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 大須賀滋 裁判官 齊木教朗)

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