知財高等裁判所 平成21年(行ケ)10117号 判決 2010年3月18日
原告
株式会社フジヤマ
同訴訟代理人弁理士
磯野富彦
被告
特許庁長官
同指定代理人
藤内光武
同
奥村元宏
同
佐藤直樹
同
小林和男
同
廣瀬文雄
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2005-19535号事件について平成21年3月23日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,名称を「デジタル映像コンテンツの配信システム及び再生方法並びにその再生プログラムを記録した記録媒体」とする発明につき特許出願(特願2002-540449)したところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,同発明は後出の引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとして,請求不成立の審決を受けたことから,その審決の取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯
原告は,上記発明につき,平成13年9月20日を国際出願日(優先権主張平成12年11月2日,日本国)とする特許を出願し,その後,平成17年4月18日付け手続補正(甲2)及び同年8月15日付け手続補正(甲3)を行ったが,同年9月9日付けで拒絶査定を受けたので,これを不服として,同年10月11日に審判請求をした。特許庁は,審理の結果,平成21年3月23日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年4月6日,その謄本を原告に送達した。
2 本願の特許請求の範囲
平成17年4月18日付けの手続補正書(甲2)及び同年8月15日付けの手続補正書(甲3)により補正された明細書及び図面の記載によれば,請求項1の発明は,次のとおりである(以下「本願発明」という。なお,請求項は1ないし3まで存在するが,請求項2及び3に関する部分は,以下,省略する。)。
「デジタル映像データと該デジタル映像データに対応する副次データとを配信するサーバと,配信された前記デジタル映像データと前記副次データとを再生する利用者端末と,前記副次データの作成・修正を行う者の端末とをそれぞれインターネットで相互に接続してなるデジタル映像コンテンツ配信システムであって
前記副次データは,その再生開始ポイントと再生終了ポイントが前記デジタル映像データの映像フレームを特定する映像フレーム特定コードに対応するように作成され,インターネットを通じて作成・修正を行うことができ,
前記サーバは,前記デジタル映像データを格納する映像データファイルと,前記副次データを格納する副次データファイルと,前記デジタル映像データと前記副次データとに関する配信情報を格納する配信情報ファイルと,前記利用者端末からの要求に応じて前記デジタル映像データと前記副次データとを配信する配信手段と,前記配信情報を前記利用者端末に提供する情報提供手段とを備え,
前記副次データは,前記副次データの作成・修正を行う者の端末により,直接,前記副次データファイルより取出されて,作成・修正が行われて,再度前記副次データファイルに保存され,
前記デジタル映像データの再生時に,再生される映像フレームに対応する副次データの再生開始ポイントと再生終了ポイントとを読み出すようにして,前記利用者端末からの要求に応じて前記デジタル映像データと前記副次データとが配信されたとき,前記デジタル映像データの再生時に,前記副次データが前記デジタル映像データに同期して再生されるように構成したことを特徴とするデジタル映像コンテンツ配信システム。」
3 審決の理由
審決は,本願発明は,特開平9-23289号公報(甲4。平成9年1月21日公開,以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断した。
審決が認定した引用発明等の内容,一致点及び相違点並びに容易想到性の判断内容は,次のとおりである(なお,以下において引用した審決中の当事者及び公知文献等の表記は,本判決の表記に統一した。)。
(1) 引用発明の内容
「デジタルムービーデータ5と該デジタルムービーデータに対応する字幕データ7,9とを配信するサーバ4,6,8と,配信された前記デジタルムービーデータと前記字幕データとを再生する端末2とをそれぞれインターネットで相互に接続してなるデジタルムービーデータ,字幕データのコンテンツ配信システムであって
前記デジタルムービーデータ5は,処理単位毎にそのフレームの提示時刻に関するデータであるタイムコード14が作成され,前記字幕データ7,9は,対応するデジタルムービーデータ5の前記タイムコード14に対応する字幕の提示時刻に関するデータであるタイムコード13が作成され,
前記サーバ4,6,8は,前記デジタルムービーデータ5を格納するムービーデータファイルと,前記字幕データ7,9を格納する字幕データファイルと,利用者端末からの要求に応じて前記デジタルムービーデータと前記字幕データとを配信する配信手段とを備え,
前記デジタルムービーデータの再生時に,再生されるムービーデータのタイムコード14及び対応する前記字幕データのタイムコード13を参照して,前記端末からの要求に応じて前記デジタルムービーデータと前記字幕データとが配信されたとき,前記デジタルムービーデータの再生時に,前記字幕データが前記デジタルムービーデータに同期して再生されるように構成したことを特徴とするコンテンツ配信システム。」
(2) 引用発明と本願発明との対比
「本願発明において,副次データは,その再生開始ポイントと再生終了ポイントがデジタル映像データの映像フレームを特定する映像フレーム特定コードに対応するように作成され,デジタル映像データの再生時に,再生される映像フレームに対応する副次データの再生開始ポイントと再生終了ポイントとを読み出すようにして副次データが前記デジタル映像データに同期して再生されるようにしているところ,引用発明においては,字幕データ7,9は,その提示をする時刻に関するデータであるタイムコード13が対応するデジタルムービーデータのフレームの提示時刻に関するデータであるタイムコード14に対応して作成され,デジタルムービーデータの再生時に,再生されるムービーデータのタイムコード14及び対応する前記字幕データのタイムコード13を参照して,字幕データがデジタルムービーデータに同期して再生されるように構成していることからすると,本願発明と引用発明とは,副次データ(引用発明でいう字幕データ)は,その提示の時間情報が対応するデジタル映像データ(引用発明でいうムービーデータ)の提示の時間情報に対応するように作成され,デジタル映像データの再生時に,再生される映像データに対応する副次データを読み出すようにして副次データがデジタル映像データに同期して再生されるように構成している点で共通するといえる。
もっとも,本願発明では,上記副次データの提示の時間情報が再生開始ポイントと再生終了ポイントであり,上記対応する前記デジタル映像データの提示の時間情報が,映像フレーム特定コードであるのに対し,引用発明では,上記副次データの提示の時間情報が字幕データを提示する時間のデータであり,上記デジタル映像データの提示の時間情報がデジタルムービーデータのフレームを提示する時間の情報である。‥‥。」
(3) 引用発明と本願発明の一致点
「デジタル映像データと該デジタル映像データに対応する副次データとを配信するサーバと,配信された前記デジタル映像データと前記副次データとを再生する利用者端末とをそれぞれインターネットで相互に接続してなるデジタル映像コンテンツ配信システムであって
前記副次データは,その提示の時間情報が対応する前記デジタル映像データの提示の時間情報に対応するように作成され,
前記サーバは,前記デジタル映像データを格納する映像データファイルと,前記副次データを格納する副次データファイルと,前記利用者端末からの要求に応じて前記デジタル映像データと前記副次データとを配信する配信手段とを備え,
前記デジタル映像データの再生時に,再生される映像データに対応する副次データを読み出すようにして,前記利用者端末からの要求に応じて前記デジタル映像データと前記副次データとが配信されたとき,前記デジタル映像データの再生時に,前記副次データが前記デジタル映像データに同期して再生されるように構成したことを特徴とするデジタル映像コンテンツ配信システム。」
(4) 引用発明と本願発明の相違点
ア 相違点1
「本願発明では,インターネットに接続された副次データの作成・修正を行う者の端末を備え,副次データは,インターネットを通じて作成・修正を行うことができ,前記副次データの作成・修正を行う者の端末により,直接,前記副次データファイルより取出されて,作成・修正が行われて,再度前記副次データファイルに保存されるのに対し,引用発明では,そのようなことについては明示されていない点。」
イ 相違点2
「本願発明では,副次データは,その再生開始ポイントと再生終了ポイントが前記デジタル映像データの映像フレームを特定する映像フレーム特定コードに対応するように作成され,デジタル映像データの再生時に,再生される映像フレームに対応する副次データの再生開始ポイントと再生終了ポイントとを読み出すようにして,副次データが前記デジタル映像データに同期して再生されるように構成しているのに対し,引用発明では,副次データは,その提示の時間情報が対応するデジタル映像データの映像フレームの提示の時間情報に対応するように作成され,デジタル映像データの再生時に,再生される映像データの提示の時間情報に対応する提示の時間情報の副次データを読み出すようにして,副次データが前記デジタル映像データに同期して再生されるように構成している点。」
ウ 相違点3
「本願発明では,サーバは,デジタル映像データと副次データとに関する配信情報を格納する配信情報ファイルと,配信情報を利用者端末に提供する情報提供手段とを備えているのに対し,引用発明では,そのようなものは備えていない点。」
(5) 相違点に関する容易想到性の判断
ア 相違点1について
「一般に,サーバーが保持する各種データを新たに作成したり,修正したりすることは普通に行われることであり,また,FTP(File Transfer Protocol)を利用してインターネットで相互接続された端末とサーバ間で,端末からの要求によりサーバが保持するデータファイルを端末に転送することや端末で作成等したデータファイルを端末からサーバに転送して,サーバにおいて当該データファイルを書き込み,保存することは,当業者において周知の事項であり,そうすると,引用発明のコンテンツ配信システムにおいて,インターネットに副次データ(引用発明でいう字幕データ)の作成・修正を行う者の端末を接続し,当該端末により,作成・修正を行う者がサーバに保存される副次データファイルのデータの作成・修正をインターネットを通じて直接行うようにすることは当業者が格別の困難性なくなし得たことと認められる。」
イ 相違点2について
「映像データとそれに対応する字幕データ等の副次データを同期して再生,表示するものにおいて,字幕データを提示の開始時間及び提示の終了時間を含めた形式で作成し,前記映像データを再生しながら字幕データを同期して表示すること(必要なら,原査定の拒絶理由に引用された「深田直秀 他,字幕表示用言語VCMLの設計とその表示システムの開発,情報処理学会研究報告,2000年 1月28日,第2000巻,第12号,pp.37~42」(判決注:本訴甲9),「WWWでテレビ番組を作れる世界標準の現の仕様『SMIL』,日経マルチメディア,日経BP社,1997年12月,第30号,pp.98~101」(判決注:本訴甲10)等参照のこと。)や字幕データ等の副次データの提示の開始等の時間を映像データのフレーム番号(本願発明でいう映像フレーム特定コード)に対応するように作成し,映像データの再生時に,前記副次データのフレーム番号を読み出して,映像データと副次データを同期して再生すること(必要なら,例えば,特開昭64-48572号公報(判決注:本訴甲11),特開平9-237486号公報(判決注:本訴甲16)等参照のこと。)はともに,当業者においては周知の事項である。
そうすると,引用発明において,字幕データを,その再生開始ポイント,再生終了ポイントを設定し,各ポイントがムービーデータのフレーム番号に対応するように作成し,デジタル映像データの再生時に,再生される映像フレームに対応する字幕データの再生開始ポイントと再生終了ポイントとを読み出すようにして,字幕データが前記デジタル映像データに同期して再生されるようにすることは,当業者が格別の困難性なくなし得たことと認められる。」
ウ 相違点3について
「相違点3に係る本願発明の構成は,明細書での説明に照らすと,サーバは,デジタル映像データと副次データのタイトルやプロフィール紹介からなる配信情報を配信情報ファイルに格納し,利用者に対して情報提供手段により当該情報を提供するものであるところ,本願発明や引用発明が対象とするようなコンテンツ配信システムにおいて,サーバが保持するコンテンツデータに関するタイトル等の配信情報を持ち,利用者端末からの要求に基づき当該配信情報を前記利用者端末に提供し,利用者が配信情報の閲覧,検索を行うことができるようにすることは,当業者において周知の事項であり,引用発明において,サーバに,デジタル映像データと副次データとに関する配信情報を格納する配信情報ファイルと,配信情報を利用者端末に提供する情報提供手段とを備えるようにすることは,当業者が格別の困難性なくなし得たことと認められる。」
(6) むすび
「以上のとおりであるから,本願の請求項1に係る発明は,引用例に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」
第3原告主張の取消事由
審決は,次に述べるとおり,認定及び判断に誤りがあるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)
本願発明の「映像フレーム特定コード」を時間情報と把握し,引用発明と共通するとした審決の解釈には誤りがある。
すなわち,審決では,前記第2の3(2)のとおり,「本願発明と引用発明とは,副次データ(引用発明でいう字幕データ)は,その提示の時間情報が対応するデジタル映像データ(引用発明でいうムービーデータ)の提示の時間情報に対応するように作成され,デジタル映像データの再生時に,再生される映像データに対応する副次データを読み出すようにして副次データがデジタル映像データに同期して再生されるように構成している点で共通するといえる。」と認定しているが,そもそも本願発明では,時間・時刻・クロックを副次データ再生開始ポイント及び再生終了ポイントの提示情報としていない。なぜなら,これらを提示情報とすると,時間差の計算が必要となり,乱れ(ズレ)が生じることになるからである。
そして,この点については,本願発明における「映像フレーム特定コード」における「映像フレーム」には,「キーフレーム」や「デルタフレーム」という概念も含まれていることを考慮すれば,その相違は更に明らかになる。すなわち,「映像フレーム特定コード」の「映像フレーム」とは,どのような種類であれ一般的に「映像フレーム」と認識されているものはすべて含まれるから,特別に列挙されていなくても,「キーフレーム」や「デルタフレーム」も,一般的に「映像フレーム」といえ,本願発明の「映像フレーム特定コード」における「映像フレーム」に含まれることは明らかである。しかし,圧縮したデジタルデータに字幕等の副次情報を同期配信させる場合,再生の実時間の情報で同期させる方法では,時間軸でタイミングを指定するため,その箇所が「キーフレーム」か「デルタフレーム」かは分からない。よって,時間軸で指定した字幕表示等のタイミングが「デルタフレーム」である場合もあり,その場合は近位置の「キーフレーム」が再生されてしまう特徴があるため,正確にタイミング箇所を確認することができないという問題が生じる。つまり,圧縮されるデジタル映像のタイミングを指定する方法として,時間軸では充分ではないのである。
以上のとおり,引用発明は,本願の引用文献として不適切なものである。
2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)
(1) 審決は,前記第2の3(5)アのとおり,「一般に,サーバーが保持する各種データを新たに作成したり,修正したりすることは普通に行われることであり,また,FTP(File Transfer Protocol)を利用してインターネットで相互接続された端末とサーバ間で,端末からの要求によりサーバが保持するデータファイルを端末に転送することや端末で作成等したデータファイルを端末からサーバに転送して,サーバにおいて当該データファイルを書き込み,保存することは,当業者において周知の事項であり(以下,「認定A」という。),そうすると,引用発明のコンテンツ配信システムにおいて,インターネットに副次データ(引用発明でいう字幕データ)の作成・修正を行う者の端末を接続し,当該端末により,作成・修正を行う者がサーバに保存される副次データファイルのデータの作成・修正をインターネットを通じて直接行うようにすることは当業者が格別の困難性なくなし得たことと認められる(以下,「認定B」という。)。」と認定し,認定Aに基づいて認定Bとの結論を導いているが,これには論理の飛躍がある。
すなわち,本願の優先日である平成12年11月2日の時点では,引用発明のコンテンツ配信システムにおいて,インターネットに副次データ(引用発明でいう字幕データ)の作成・修正を行う者の端末を接続し,当該端末により,作成・修正を行う者がサーバに保存される副次データファイルのデータの作成・修正をインターネットを通じて直接行うようにすることは,当業者であっても困難であったのであって,認定Aの事実があったからといって,認定Bが当然に導かれるものではない。
本願の請求項1に,「前記副次データは,前記副次データの作成・修正を行う者の端末により,直接,前記副次データファイルより取出されて,作成・修正が行われて,再度前記副次データファイルに保存され」とあるとおり,本願の「端末より副次データを修正」するとは,サーバに格納されているファイルより直接データを取り出し,修正・保存することを意味するのであって,ファイルの転送という概念は含んでいないものである。
このように,本願における字幕の作成・変更とは,サーバーにあるファイルデータ内のテキストデータ・字幕データを直接,修正・変更・追加・消去等をすることである。一方,審決が引用する「FTP」とは「File Transfer Protocol」の略称であり,その名が示すとおり,プログラムやデータが格納されたファイルをネットワークで転送するための標準プロトコルである。「FTP」のサーバーマニュアル(甲19)においても,ファイルの転送(上書きモード),ファイル転送(追記モード),ファイル名の変更,ファイルの削除等のコマンドは記載されているが,ファイルの中のテキストデータ等の修正や追加等は,一切書かれていない。つまり,「FTP」では,ネットワークでサーバー側へのデータファイルの転送,変更,入れ替え,消去等を行うことはできるが,ファイル内のテキストデータ・字幕データを修正・追加することができないことは明らかである。
したがって,審決の相違点1に関する判断には誤りがある。
(2) 被告の反論に対する再反論
この点について,被告は,本願発明の「前記副次データ」には,「ファイル」も含まれると解釈し,その根拠を「発明を実施するための最良の形態」に求めている。確かに,その箇所には「ファイル」と記載されているが,この記述は第三者が理解できる程度に開示したものであり,請求項の解釈に広げられるものではない。請求項の文言の意味が不明ならばともかく,「データ」と「ファイル」の意味の区別は,当業者なら当然の知識である。そして,出願人は,最初から,請求項に,「ファイル」ではなく「データ」と記載しているのである。被告は誤解しているようであるが,音声情報ファイル等の中にあるデータも,テキストファイルの中にあるデータも同様にデジタルデータである。
また,被告は,「請求項1の上記『副次データファイル』は,本願明細書の『副次データファイル48』に対応しており,複数のファイルを格納するものを含む」と主張するが,誤りである。「複数の副次データ12」が存在すれば,「副次データファイル48」も複数になるだけで,「副次データファイル48」に複数のデータが格納されるものではない。
さらに,被告は,FTPを利用したデータファイルの転送が周知事項であるとし,その事実から,インターネットに副次データ(引用発明でいう字幕データ)の作成・修正を行う者の端末を接続し,当該端末により,作成・修正を行う者がサーバに保存される副次データファイルのデータの作成・修正をインターネットを通じて直接行うようにすることは当業者が格別の困難性なくなし得たことと認められる」とした認定,判断に誤りはない』としているが,ここで争点となっているのは,映像に同期配信される字幕データ等についてであり,単なるページ制作のテキストデータの作成・修正ではない。映像に同期配信される字幕データ等には,映像に同期配信させるための字幕の再生ポイントと終了ポイントという重要な情報が存在する。これらを含む字幕情報を作成・修正するのは,容易ではない。
被告が引用した甲8の文献(「TREND Product,日経マルチメディア,日経BP社,P78-P83,September 1998」。以下「甲8文献」という。),甲9の文献(「字幕表示用言語VCMLの設計とその表示システムの開発,情報処理学会研究報告」。以下「甲9文献」という。)及び甲10の文献(「日経マルチメディア」。以下「甲10文献」という。)で示されている同期方法は,時間情報を字幕表示のタイミングを取る情報として用いているため,動画を再生してその再生時間によりタイミングを表示する必要があり,これには,オーサリング・ツールが必要となる。このことは,甲8文献に,「動画とテキストの同期をとるための時間指定などの設定にはノウハウが必要で,使いやすいオーサリング・ツールがないと難しい」と記載されていることからも明らかであり,同様に,オーサリング・ツールを使わなければ簡単に字幕等のデータの作成・修正ができない事実は,被告が引用した甲9文献に,「5.むすび 時間軸整合を使用した表示タイミングの決定,VCML文書の変換により字幕の自動作成を可能にした.VCML文書を簡単に編集するためのオーサリングソフトの開発が必要であろう.」と明確に記載されている。甲10文献では,オーサリング・ツールが必要であることについて具体的に書かれていないが,これは,平成9年(1997年)12月に書かれたものであり,それよりも10か月後の平成10年(1998年)9月に同じSMILについて書かれた雑誌の記事である甲8文献には,先にも記載した様にオーサリング・ツールがないと難しいと明確に記載されているのであるから,甲10文献は被告の主張の根拠にはならない。
そもそも,ここで問題なのは,平成10年内にオーサリング・ツールが出たか出なかったかではなく,本願発明の,オーサリング・ツールを必要とせずに,サーバーに保存されている字幕データ(文字データ又は,「映像フレーム特定コード」)を直接取り出して書き込み・修正でき,保存される点が容易想到であったか否かであって,オーサリング・ツールが出たからといって,本願発明のように,字幕等データの作成・修正が格別の困難性なくなし得たと判断されるものではない。
3 取消事由3(相違点2の判断の誤り)
本願発明と引用発明とは技術思想において大きく異なるものであり,引用発明に審決が掲げる周知技術を適用するということは,当業者にとって決して容易ではなく,極めて困難である。
確かに,映像データとそれに対応する字幕データ等の副次データを同期して再生,表示するものにおいて,字幕データを提示の開始時間及び提示の終了時間を含めた形式で作成し,前記映像データを再生しながら字幕データを同期して表示することが当業者において周知の事項であり,原査定に引用された甲9及び10の文献でも,映像データを再生しながら字幕データを同期させることに言及している。しかし,両者共に,同期させるにあたってズレが生じることをも認めているのである。そして,本願発明の発明者は,このズレが生じるという問題・課題を認識していたからこそ,乱れ(ズレ)が生じない本願発明にたどりついたのである。
また,確かに,前記第2の3(5)イのとおり,審決が引用する公開特許公報(特開昭64-48572号。甲11。以下「甲11公報」という。)をみると「フレーム番号」との記載がある。しかし,ここには「映像合成装置・制御装置・比較装置を必要として,制御装置は,合成制御信号14により主映像を合成するように映像合成装置に指令する」との記載があり,本願発明のように視聴者が視聴する環境下での同期とは異なるものである。
また,甲11公報には,「同期」との記載があるが,よく読むと,これは「記憶装置」,「合成装置」である。つまり,ここでの「同期」は,「記憶装置」,「合成装置」を用いて字幕を付与する作業におけるものであり,インターネットでズレなく同期して配信させることとは,技術的には異なる。
さらに,審決が引用する公開特許公報(特開平9-237486号。甲16。以下「甲16公報」という。)は,段落【0013】に記載があるように,その特徴は,図1で示されている「管理部1」においてフレーム番号と対応する文字データをスーパーインポーズするように管理すること,つまり,段落【0003】にあるように従来は別個独立にファイル単位で管理されていたものを,映像と文字とを統合して管理することを可能としたことを特徴とするものであって,「字幕データ等の副次データの提示の開始等の時間を映像データのフレーム番号(本願発明でいう映像フレーム特定コード)に対応するように作成し,映像データの再生時に,前記副次データのフレーム番号を読み出して,映像データと副次データを同期して再生する」ことについては,記載もなければ示唆もされていない。そもそも本願発明は,配信システムにおけるものであり「サーバーからの配信」が大前提であるが,甲16公報にはサーバーからの配信については全く記載されておらず,甲16公報は編集作業を前提としたものである。つまり,甲16公報に記載されている「スーパーインポーズ」は,いわゆるテレビでいう「スーパー」を指し,これは「合成して1つの動画に編集する」ことであって「同期して配信する」ことではない。甲16公報の段落【0042】に記載されている方法は,統合管理システム内でスーパーインポーズする文字の言語の切り替えであり,インターネットで配信する映像と文字を同期して再生させる方法とは根本的に異なるのである。したがって,甲16公報を理由として,当業者においては本願発明の再生方法が周知の事実であるとする審決の認定判断には明らかな誤りがある。
最後に,進歩性の判断は,当業者が特許法29条1項各号に掲げる「発明」に基づいてされるべきものである(同条2項)。審決では,引用発明が一応挙げられているものの,相違点2に係る進歩性の判断にあっては,本願発明の構成要件を分断して,論文,雑誌等の複数の「情報から」それぞれを公知と認定し,総合的に進歩性がないと判断している。このような判断は,特許法29条2項に規定される進歩性の判断に反するものである。進歩性は,「情報」からではなく,あくまで同条1項各号に掲げられる公知「発明」等に基づいて判断されるべきである。
4 取消事由4(格別な効果を看過した誤り)
本願発明は,配信される動画に副次データを同期して配信するに当たって,何らの計算を必要とするものではなく,そのため乱れ(ズレ)が生じないという格別な効果を有するものである。他方,引用発明では,計算が必要となることから,乱れ(ズレ)を完全に防ぐことはできない。したがって,本願発明の効果は,本願発明に格別なものであるから,これを看過して,当然に予測される程度のものにすぎないとした審決の判断には誤りがある。
第4被告の主張
次のとおり,審決の認定判断には誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)に対して
(1) 確かに,審決では,原告が指摘するとおり,「本願発明と引用発明とは,副次データ(引用発明でいう字幕データ)は,その提示の時間情報が対応するデジタル映像データ(引用発明でいうムービーデータ)の提示の時間情報に対応するように作成され‥‥点で共通するといえる。」と認定しているが,前記第2の3(2)のとおり,それに続けて,「もっとも,本願発明では,‥‥上記対応する前記デジタル映像データの提示の時間情報が,映像フレーム特定コードであるのに対し,引用発明では,‥‥上記デジタル映像データの提示の時間情報がデジタルムービーデータのフレームを提示する時間の情報である。」としており,すなわち,本願発明の「映像フレーム特定コード」と引用発明の「デジタルムービーデータのフレームを提示する時間の情報」とは「デジタル映像データの提示の時間情報」である点で共通するとしている。
ここで,本願発明の映像フレーム特定コードについてみると,本願明細書(甲3)には,本願発明を実施するための最良の形態として,後記第5の1(1)カ及びキのとおりの記載があり,それらの記載からすると,本願発明の映像フレーム特定コードは,デジタル映像データの遷移する映像フレームについて,01000001から始まって1フレームごとにその遷移の順番に映像フレームに付した番号であるといえ,一方,一般に,デジタル映像は1秒間毎に所定の枚数の映像フレーム(例えば,30映像フレーム)を順番に出力,表示することにより映像を再生するものであることからすると,本願発明の「映像フレーム特定コード」は,デジタル映像データの提示のタイミングを示す情報,すなわち,デジタル映像データの提示の時間情報ということができ,そうすると,本願発明の「映像フレーム特定コード」と引用発明の「デジタルムービーデータのフレームを提示する時間の情報」とは「デジタル映像データの提示の時間情報」である点で共通するといえるとした,審決の認定に誤りはない。
(2) また,審決は,前記第2の3(4)イのとおり,本願発明と引用発明との相違について,本願発明では,副次データは,その再生開始ポイントと再生終了ポイントが前記デジタル映像データの映像フレームを特定する映像フレーム特定コードに対応するように作成されるのに対し,引用発明では,副次データは,その提示の時間情報が対応するデジタル映像データの映像フレームの提示の時間情報に対応するように作成される点を相違点2として抽出し,前記第2の3(5)イのとおり,相違点2について正しく判断しているのであるから,審決の上記認定に誤りはない。
(3) この点について,原告は,本願発明は,再生開始ポイントと再生終了ポイントを提示の時間情報とはしておらず,このことは,本願発明が「キーフレーム」や「デルタフレーム」も「映像フレーム特定コード」としていることからも明らかである旨主張しているが,本願明細書では,「映像フレーム特定コード」については,本願発明の発明を実施するための最良の形態における上記のような記載はあるものの,「映像フレーム特定コード」が,「キーフレーム」や「デルタフレーム」であることについての記載は全くないから,原告の上記主張は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づかない主張であり,失当である。
2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)に対して
(1) 本願発明の請求項1には,「前記副次データは,前記副次データの作成・修正を行う者の端末により,直接,前記副次データファイルより取出されて,作成・修正が行われて,再度前記副次データファイルに保存され,」と記載されており,副次データは字幕のみを特定するものではなく,また,副次データは,「前記副次データの作成・修正を行う者の端末により,直接,前記副次データファイルより取出されて,作成・修正が行われて,再度前記副次データファイルに保存され」るのであって,サーバーにあるファイルデータ内のテキストデータ・字幕データを直接,修正・変更・追加・消去等をすると特定されるものではないから,本願における字幕の作成・変更とは,サーバーにあるファイルデータ内のテキストデータ・字幕データを直接,修正・変更・追加・消去等をすることであるとの原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。
かえって,後記第5の1(1)クのとおり,本願明細書の記載によれば,本願明細書でいう「副次データ12」は,ファイル(音声情報ファイル,画像情報ファイル)という形態を含むものである。
また,後記第5の1(1)コのとおり,本願明細書の記載には,「複数の副次データ12」が,第2のサーバ42bの「副次データファイル48」に格納されていることが記載されていることから,本願明細書でいう「副次データファイル48」は,複数のファイルを格納するものを含むことは明らかである。
そうすると,本願発明の請求項1の「前記副次データは,前記副次データの作成・修正を行う者の端末により,直接,前記副次データファイルより取出されて,作成・修正が行われて,再度前記副次データファイルに保存され,」という記載における「副次データ」は,本願明細書の「副次データ12」に対応しており,ファイルという形態を含むものであり,また,請求項1の上記「副次データファイル」は,本願明細書の「副次データファイル48」に対応しており,複数のファイルを格納するものを含むことから,本願発明は,「ファイル(前記副次データ)は,ファイル(前記副次データ)の作成・修正を行う者の端末により,直接,複数のファイルを格納するもの(前記副次データファイル)より取出されて,作成・修正が行われて,再度複数のファイルを格納するもの(前記副次データファイル)に保存され」る態様も包含するものである。すなわち,本願発明は,ファイルを取り出し,端末でファイルを修正し,ファイルを保存することにより,「前記副次データは,前記副次データの作成・修正を行う者の端末により,直接,前記副次データファイルより取出されて,作成・修正が行われて,再度前記副次データファイルに保存され」ることができるものである。
そうすると,本願発明は,ファイルを取り出し,端末でファイルを修正し,ファイルを保存することができる「FTP」を利用して実施することができるものといえる。
したがって,上記原告の主張は,失当である。
(2) 原告は,この点について,甲8文献を証拠として,当該甲8文献に記載された事項によれば,本願の優先権主張日である平成12年11月2日の時点では,引用発明のコンテンツ配信システムにおいて,インターネットに副次データの作成・修正を行う者の端末を接続し,当該端末により,作成・修正を行う者がサーバに保存される副次データファイルのデータの作成・修正をインターネットを通じて直接行うようにすることは,当業者であっても困難であったと考えられる旨主張するが,甲8文献は,平成10年(1998年)9月ころに発行された文献である。そして,甲8文献の83頁には「本格的な活用は,年内にも発表されるオーサリング・ツールの登場を待ってからということになりそうだ。」との記載があり,この記載は,平成10年(1998年)内にオーサリング・ツールが登場することを示唆するものといえる。そうであれば,本願の優先権主張日の約2年前に発行された甲8文献に記載された事項に基づき,「本願の出願時である平成12年11月2日の時点では,引用発明のコンテンツ配信システムにおいて,インターネットに副次データの作成・修正を行う者の端末を接続し,当該端末により,作成・修正を行う者がサーバに保存される副次データファイルのデータの作成・修正をインターネットを通じて直接行うようにすることは,当業者であっても困難であったと考えられる」との原告の上記主張は,失当である。
そうすると,審決が,前記第2の3(5)アのとおり,認定Aに基づいて認定Bの結論を導いた判断に誤りはない。
3 取消事由3(相違点2の判断の誤り)に対して
甲9及び10の文献は「映像データとそれに対応する字幕データ等の副次データを同期して再生,表示するものにおいて,字幕データを提示の開始時間及び提示の終了時間を含めた形式で作成し,前記映像データを再生しながら字幕データを同期して表示することは,当業者において周知の事項である」ことを示す文献であり,原告も,これらの文献に記載された事項が,当業者において周知の事項であることを認めている。
また,甲11及び16の公報は,前記第2の3(5)イのとおり,審決において「映像データとそれに対応する字幕データ等の副次データを同期して再生,表示するものにおいて,字幕データ等の副次データの提示の開始等の時間を映像データのフレーム番号に対応するように作成し,映像データの再生時に,前記副次データのフレーム番号を読み出して,映像データと副次データを同期して再生すること」が周知の事項であることを示すために挙げられた文献である。
すなわち,甲11公報には,主映像の進行と同期して適格な副映像を合成表示するのに好適な情報ファイル装置であって,記憶装置2に副映像となる情報とそれぞれの副映像が主映像に合成される期間を示すために主映像に対応した合成開始を示すフレーム番号と合成終了を示すフレーム番号を記憶しておき,再生される主映像のフレーム番号が,それぞれの副映像の前記合成開始を示すフレーム番号以上になったら,前記主映像に前記副映像を合成して表示し,さらに主映像の再生が進み,主映像のフレーム番号が前記終了フレーム番号を超えたときには,前記主映像と前記副映像の合成を中止し,このような動作を繰り返すことにより,主映像の進行と同期して適格な副映像を合成表示する装置が記載されている。
また,甲16公報には,映像中に種々の文字情報をスーパーインポーズ(重ねて表示)して再生することが可能な記録再生システムにおいて,文字データファイル記憶部3に,所定のセンテンス単位の文字データと映像名,映像の開始フレーム番号,開始タイムコード,終了フレーム番号,終了タイムコードのデータを記憶しておき,映像再生中にその再生映像のフレーム番号が属する前記文字データを取り出し,前記再生映像の上に前記文字をスーパーインポーズして表示することが記載されている。
以上のとおり,甲11及び16の公報には,「映像データとそれに対応する字幕等の副次データを同期して再生,表示するものにおいて,字幕等の副次データの提示の開始等の時間を映像データのフレーム番号に対応するように作成し,映像データの再生時に,前記副次データのフレーム番号を読み出して,映像データと副次データを同期して再生すること」が示されているので,審決が,当該事項は当業者において周知の事項であるとしたことに誤りはない。
また,上記のとおり,映像データとそれに対応する字幕データ等の副次データを同期して再生,表示するものにおいて,字幕データを提示の開始時間及び提示の終了時間を含めた形式で作成し,前記映像データを再生しながら字幕データを同期して表示することや字幕データ等の副次データの提示の開始等の時間を映像データのフレーム番号に対応するように作成し,映像データの再生時に,前記副次データのフレーム番号を読み出して,映像データと副次データを同期して再生することが,当業者において周知の事項であることから,「引用発明において,字幕データを,その再生開始ポイント,再生終了ポイントを設定し,各ポイントがムービーデータのフレーム番号に対応するように作成し,デジタル映像データの再生時に,再生される映像フレームに対応する字幕データの再生開始ポイントと再生終了ポイントとを読み出すようにして,字幕データが前記デジタル映像データに同期して再生されるようにすることは,当業者が格別の困難性なくなし得たことと認められる。」とした審決の判断に誤りはない。
4 取消事由4(格別な効果を看過した誤り)に対して
上記3で説明したとおり,引用発明において,字幕データを,その再生開始ポイント,再生終了ポイントを設定し,各ポイントがムービーデータのフレーム番号に対応するように作成し,デジタル映像データの再生時に,再生される映像フレームに対応する字幕データの再生開始ポイントと再生終了ポイントとを読み出すようにして,字幕データが前記デジタル映像データに同期して再生されるようにすることは,当業者が格別の困難性なくなし得たことであり,引用発明において,このような映像データと副次データを同期して再生する構成を採用すると,各データを同期して再生する際,原告が主張するような時刻情報の計算を必要としないこと,また,そのため乱れ(ズレ)が生じないことは,当業者において明らかである。
すなわち,原告の主張する効果は,引用発明の字幕データをデジタルムービーデータと同期して再生する構成として,「字幕データ等の副次データの提示の開始等の時間を映像データのフレーム番号に対応するように作成し,映像データの再生時に,前記副次データのフレーム番号を読み出して,映像データと副次データを同期して再生する」という当業者においては周知の事項を採用することにより予測される程度の効果にすぎず,格別顕著なものであるとはいえない。
したがって,原告が主張する本願発明の効果は,格別のものではなく,本願発明の進歩性を肯定する根拠になり得るものではない。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
(1) 本願明細書の記載内容
証拠(甲1ないし3)によれば,本願明細書には次の記載がある。
ア 「技術分野
本発明は,デジタル映像データとこれに対応して作成された副次データとからなるデジタル映像コンテンツの配信と再生に係る技術に属するもので,その配信システム及び再生方法並びにその再生プログラムを記録した記録媒体に関する。」(甲3の2頁9ないし12行)
イ 「背景技術
‥‥。従来の映像コンテンツをインターネットなどで配信するときは,送信側でデジタル符号を圧縮して配信し,受信側でこれを復号化して再生している。受信側の処理性能が比較的低い場合には,映像のコマ落ちと同時に字幕スーパが乱れるという問題点があった。
また,デジタルマスター4の作成に至るまでの編集過程において修正を行うときには,その修正作業が非常に面倒な作業になる。例えば副次データの手直しが発生すると,副次データを修正した後に映像マスター3とデジタルマスター4を再度作成することになる。
また,デジタル放送番組の放映中に字幕スーパや広告が挿入されることがあるが,これは予め定められた時刻に字幕スーパを映像データに合成したり,映像データを広告データに切り替えたりするものである。この場合,Qシートと呼ばれる番組進行表に字幕スーパや広告の放映時刻を書き込み,この放映時刻に所定の字幕スーパや広告を放映している。
また,海外映画などの音声を翻訳して字幕スーパを作成するときは,翻訳語ごとに字幕スーパを作成して,同様の手順で編集作業を行っている。前記した編集作業の手順では,翻訳語ごとに煩わしい作業が必要となるため,多種類の字幕スーパの制作を阻害する遠因ともなっていた。このように,従来方法によるデジタル映像コンテンツの配信では,編集から配信までの間に大変手間の掛かる面倒な作業が伴うという問題点があった。」(甲3の2頁26ないし40行)
ウ 「発明の開示
本発明は,前記の問題点を解決するために創案されたものであり,デジタル映像コンテンツの編集から配信までの作業をロスなく効率よく行うことができるよう,映像データと副次データとを別々に配信して受信側で同期再生させるようなデジタル映像コンテンツの配信システム及び再生方法並びに再生プログラムを記録した記録媒体を提供することを目的とする。
以上の目的を達成するため,本発明の原理にしたがって,下記の発明を開示する。なお,本発明における「副次データ」とは,字幕スーパ,吹き替え,手話などのデータであり,文字情報,グラフィクス情報,画像情報,音声情報で作成されるデータを取扱対象としている。」(甲3の2頁41ないし50行)
エ 「本発明のデジタル映像コンテンツ配信システムは,デジタル映像データと該デジタル映像データに対応する副次データとを配信するサーバと,配信されたデジタル映像データと副次データとを再生する利用者端末と,副次データの作成・修正を行う者の端末とをそれぞれインターネットで相互に接続してなるデジタル映像コンテンツ配信システムであって,副次データは,その再生開始ポイントと再生終了ポイントが前記デジタル映像データの映像フレームを特定する映像フレーム特定コードに対応するように作成され,インターネットを通じて作成・修正を行うことができ,サーバは,デジタル映像データを格納する映像データファイルと,副次データを格納する副次データファイルと,デジタル映像データと副次データとに関する配信情報を格納する配信情報ファイルと,利用者端末からの要求に応じてデジタル映像データと副次データとを配信する配信手段と,配信情報を前記利用者端末に提供する情報提供手段とを備え,副次データは,副次データの作成・修正を行う者の端末により,直接,副次データファイルより取出されて,作成・修正が行われて,再度前記副次データファイルに保存され,デジタル映像データの再生時に,再生される映像フレームに対応する副次データの再生開始ポイントと再生終了ポイントとを読み出すようにして,利用者端末からの要求に応じてデジタル映像データと副次データとが配信されたとき,デジタル映像データの再生時に,副次データがデジタル映像データに同期して再生されるように構成している。
この配信システムでは,デジタル映像データと副次データがそれぞれ別々に作成されて配信される。字幕スーパなどの副次データはデジタル映像データに比較してサイズが相当に小さいことから,受信側の処理性能が多少低くても,従来のように字幕スーパが乱れるようなことがない。
副次データには,デジタル映像データに含まれる映像フレーム特定コードに対応するように再生開始ポイントと再生終了ポイントが割り付けられている。受信側でデジタル映像データが再生されるとき,副次データの再生開始ポイントと再生終了ポイントが読み出されて,映像データに同期して該当する副次データが再生される。
この配信システムでは,従来のように映像データに副次データを重畳して1本の映像マスターを作成し,さらにデジタルマスターを作成する作業が省略される。また,副次データの修正が必要になったとしても,デジタル映像データに手を加えることなく修正することができるため,副次データを容易に修正して品質を高めることができる。」(甲3の3頁1ないし29行)
オ 「この配信システムでは,インターネットを利用してデジタル映像データと副次データとを異なるサーバから配信する。デジタル映像データと副次データとを異なるサーバに格納し,利用者が各サーバに配信要求を行うと,各サーバからデジタル映像データと副次データとがそれぞれ配信され,受信側で再生されたデジタル映像データに同期して副次データを再生することで,デジタル映像コンテンツが作成される。すなわち,IPアドレスが異なるサーバからでも副次データを配信することができる。したがって,副次データは独立して管理されるため,副次データ単体に独自のスポンサーを付けることもでき,副次データ単体の商品価値を高めることができる。」(甲3の4頁26ないし33行)
カ 「第4図を参照してデジタル映像データ11と副次データ12のデータ構造について説明する。第4図は両者のデータ構造を模式的に示した説明図である。第4図において,デジタル映像データ11は,デジタル符号化された映像1-A,1-B,1-C,1-D等の複数の映像で構成されている。これらの映像は,遷移する映像ごとに映像フレーム特定コード31によって識別可能になっている。映像フレーム特定コード31は,遷移する映像を特定するための識別子である。第4図の例では,映像フレーム特定コード31が01000001から01000025の間は映像1-Aが,映像フレーム特定コード31が01000025から01000050の間は映像1-Bがそれぞれ出力される。以下同様にして,映像フレーム特定コード31に示される値に対応して映像1-C,1-D等に遷移する。」(甲3の6頁31ないし40行)
キ 「副次データ12は,例えば字幕スーパの場合,デジタル符号化された字幕スーパ2-A,2-B,2-C,2-D等の複数の字幕スーパで構成されている。これらの字幕スーパは,遷移する字幕スーパごとに,デジタル映像データ11の映像フレーム特定コード31に対応するように,再生開始ポイント32と再生終了ポイント33がそれぞれ割り付けられている。再生開始ポイント32は該当する字幕スーパの再生開始位置を示し,再生終了ポイント33はその再生終了位置を示す。第4図の例では,「%」に続くコードデータが,デジタル映像データ11の映像フレーム特定コード31を示している。即ち,映像フレーム特定コード31が01000015のときに字幕スーパ2-Aの再生が開始(IN)され,映像フレーム特定コード31が01000020のときに再生が終了(OUT)されることを模式的に示している。」(甲3の6頁41ないし50行)
ク 「副次データ12が吹き替えやナレーションなどの音声情報のときは,音声情報ファイル(図示せず)を別途作成して,再生開始タグの後にこの音声情報ファイルのファイル名を指定する。また,副次データ12が手話などの画像情報のときも同様に,画像情報ファイル(図示せず)を別途作成して,再生開始タグの後にこの画像情報ファイルのファイル名を指定する。」(甲3の7頁32ないし36行)
ケ 「副次データ12の作成としては,例えば,デジタル映像データ11に対応する字幕スーパである副次データ12を作成する場合,翻訳者は自宅等のパソコンでデジタル映像データ11を再生して視聴しながら,デジタル映像データ11の所定の位置で副次データ12に再生開始タグ<point in>を入力して再生開始ポイント32を指定する。このとき,再生開始タグの入力と同時に,デジタル映像データ11の所定の映像フレーム特定コード31に対応した再生開始ポイント32が割り付けられるようにする。そして,字幕スーパ等を入力した後に,デジタル映像データ11の所定の位置で再生終了タグ<point out>を入力して再生終了ポイント33を指定することで,所定の映像フレーム特定コード31に対応した再生終了ポイント33が割り付けられる。なお,再生開始タグ<point in>と再生終了タグ<point out>を簡単なキー操作によって入力することが好ましい。この作成方法によれば,翻訳者はデジタル映像データ11の任意の位置に字幕スーパを表示することができるとともに,字幕スーパを容易に修正して品質を高めることができる。さらに,翻訳者の自宅のパソコン等で容易かつ短時間に副次データ12を作成し,自宅からインターネットを通じて依頼者に即座に届けることができるため,業務効率を高めることができる。」(甲3の8頁1ないし15行)
コ 「ここで,第9図を参照して,デジタル映像データファイル47,副次データファイル48を別々のサーバに分散した構成について説明する。第9図はインターネットを利用したデジタル映像コンテンツ配信システム40aの概略構成を示すブロック図である。なお,デジタル映像コンテンツ配信システム40と同一の構成要素については説明を省略する。
第9図において,複数のデジタル映像データ11が第1のサーバ42aのデジタル映像データファイル47に格納され,複数の副次データ12が第2のサーバ42bの副次データファイル48に格納されており,各データ11,12は第1のサーバ42aの配信手段45a及び第2のサーバ42bの配信手段45bによって利用者端末41にそれぞれ配信される。」(甲3の10頁31ないし39行)
サ 「産業上の利用可能性
以上説明したように,本発明によれば,以下の効果を奏する。
このデジタル映像コンテンツ配信システムでは,副次データとデジタル映像データとを別々に作成し,デジタル映像データに副次データを同期して再生させるシンクロ配信を行うため,デジタル映像データを再編集する必要がなく,編集費を削減することができる。さらに,従来発生していた字幕スーパの乱れなどを解消することもできる。
また,翻訳者等の作業である副次データに再生開始ポイントと再生終了ポイントを指定する作業が大幅に軽減されるため,副次データの作成から配信までの作業が大幅に効率化される。特に,副次データの編集や修正に対して簡単に対処できるため,副次データの品質を高めることができる。副次データとして文字,音声,画像等のマルチメディアを取り扱うことができ,吹き替えや手話などをデジタル映像データとは別のデータとして扱うことができるため,デジタル映像データと副次データとをそれぞれ別のサーバで管理して配信することで,副次データ単体での商品価値を高めることができるとともに,副次データのみを配信するサーバはデータ処理性能の低いサーバでもよいため,設備に係る費用を削減することができる。これにより,デジタル映像データを配信する企業等が副次データの作成を敬遠する要素となっている副次データの作成費用を削減することができる。
また,副次データの作成者は,自宅のパソコン等で容易かつ短時間に副次データを作成し,この副次データを自宅から依頼者に送ることができるため,依頼者は,不特定の場所にいる作成者に副次データの作成を依頼することができる。特に,副次データが字幕スーパである場合に,依頼者は世界中の翻訳者に対して容易かつ短時間に翻訳作業を依頼することができるため,費用を増加させることなく,字幕スーパの品質を高めることができる。」(甲3の11頁2ないし23行)
(2) 引用例の記載内容
証拠(甲4)によれば,引用例には次の記載がある。
「【発明の属する技術分野】本発明は,種々のネットワーク上に分散している映像,静止画,音声,テクスト等のマルチメディアデータに随時アクセスするマルチメディア・オン・デマンドシステムにおける端末での上記データの同期方法に関する。」(段落【0001】)
「【従来の技術】従来のマルチメディア・オン・デマンドシステムでは,ネットワークの伝送速度は単一のものを前提としている。また,1つのコンテンツを構成する映像,静止画,音声,テキスト等のマルチメディアデータはネットワーク上で同一場所に保存されていることを前提としているので,ネットワーク上に分散保存されているマルチメディアデータを同期させて提示する手法は存在しない。」(段落【0002】)
「また,伝送速度の遅いネットワークを使用している場合は,NCSAのMosaicあるいはNetscape社のNetscapeに代表されるインターネット上のWWWブラウザで実現されているようにアクセス要求を発行してからデータを端末にダウンロードし,提示に必要なデータが揃った後に提示を開始する手法がある。」(段落【0003】)
「【発明が解決しようとする課題】マルチメディア・オン・デマンドシステムが広く普及すれば,既存の情報に第三者が情報を付加する状況も発生する。その際に元の情報と同じ場所に該付加情報を保存しなければならない等,保存場所に制限があれば,保存媒体の容量等の資源が有効に使えなくなるという問題が発生する。」(段落【0004】)
「また,上記のように現状では1つのコンテンツを構成する映像,静止画,音声,テキスト等のマルチメディアデータはネットワーク上で同一場所に保存されていることを前提としているので,ネットワーク上に分散して保存されているマルチメディアデータを端末からアクセスし該データ間で同期をとりつつ提示する手法は実現されていない。」(段落【0005】)
「また,WWWブラウザのようにネットワークにアクセス要求を発行し,所望のデータをダウンロードした後に提示する手法では,アクセス要求およびデータダウンロードに時間がかかり,同期を取ってマルチメディアデータを提示するには問題があった。」(段落【0006】)
「さらに,アクセス時に分散保存されているデータの同期を取る場合でも,保存場所から端末までに一定伝送速度の伝送経路が存在し,マルチメディアデータの容量が該伝送速度と同等の場合,該マルチメディアデータに別のデータを付加して伝送し同期をとって提示することは不可能である。」(段落【0007】)
「本発明はこのような問題を解決するためになされたものであって,マルチメディア・オン・デマンドシステムにおいて1つのコンテンツに必要なマルチメディアデータを伝送速度の異なるネットワーク上に分散して保存することを可能とし,マルチメディア・オン・デマンドシステムの構築の柔軟性を高めることを目的とする。」(段落【0008】)
「図1は,本発明の(請求項1)の一実施例で,好きなときに映画を視聴できるムービー・オン・デマンドシステムに適用した例を示すシステム図である。」(段落【0015】)
「ネットワーク1に,ディスプレイ3が接続された端末2,ハードディスク等の記憶装置にムービーデータ5を保存しているデータサーバ4,同様に字幕データ7を保存しているデータサーバ6,同様に字幕データ9を保存しているデータサーバ8,およびデータサーバ4,6,8の情報を管理している管理サーバ10が接続されている。ここで,データサーバ4,6,8はセンタ装置に相当する。」(段落【0016】)
「ムービーを視聴する場合,ユーザは端末2から先ず管理サーバ10にアクセスし,該ムービーを保存しているサーバがデータサーバ4であることと,該ムービーに対してデータサーバ6,8が字幕データ7,9を提供していることを知る。ここで,1つのムービーに対する複数の字幕データとは,日本語,英語等の言語の違い,あるいは同じ日本語でも翻訳者の違い等によって複数のデータが考えられる。また,元のムービーデータにもオリジナルの字幕データが存在している場合もある。上記データの所在を知った後,ムービーデータ5に対して字幕データ9を付加して視聴したい場合,端末2からデータサーバ4とデータサーバ8にアクセスし,ムービーデータ5を受信すると同時に字幕データ9も受信する。該データ5,9を受信した端末2では,ムービーデータ5の時間情報と字幕データ9の時間情報を参照し,両データ5,9の同期をとってディスプレイ3に表示する。」(段落【0017】)
「図2は,上記ムービー・オン・デマンドシステムの端末2におけるムービデータ5と字幕データ9の同期をとる方法の一例を示す図である。ここでは,両データ5,9ともMPEG方式で符号化されている場合を示しているが,時間情報がデータ中に存在すれば他のデータ方式でも構わない。また,この図は一連のデータの任意の時点を示したものである。字幕データ5は,ある処理単位に分割されており,各処理単位毎にその先頭にヘッダが付加されている。ここで,ある処理単位とは,例えば一度に画面に提示される字幕数十文字分である。該処理単位毎のヘッダ中には基準クロック11が存在する。前記処理単位毎のヘッダの後に字幕データ5のヘッダが付加されている。字幕データ5のヘッダ中には字幕データ5の提示時刻に関するデータであるタイムコード13が存在する。ムービーデータ9は,符号化の処理単位に分割されており,各処理単位毎にその先頭にヘッダが付加されている。ここで,処理単位とは,例えば15フレーム分である。該各処理単位内にはフレームデータ17毎にフレーム毎のヘッダが付加されており,該フレーム毎のヘッダ内には該フレームの提示時刻に関するデータであるタイムコード14が存在する。」(段落【0018】)
「ここで,基準クロック11,12とは,各データが作成される際に,その作成装置が持っているクロック(水晶発振器)から導出される値であり,例えばMPEG2の場合はクロックが27MHzと決まっており,該クロックの値は,1/27,000,000秒毎に1づつ増加する整数値となる。基準クロック11,12の値は該基準クロックを書き込む際にクロックが持っている値である。該基準クロック11,12を受信した端末2は,端末内部のクロックをこの該基準クロックに合わせる。この操作により,エンコーダ等のデータ作成装置と受信端末間でクロックが正確に一致したことになる。タイムコード13,14とは,該タイムコード後の字幕データ16やフレームデータ17を提示する時刻に関するデータであり,前記基準クロックと同様にエンコーダ等のデータ作成装置が書き込む。したがって,受信端末側では,タイムコード13,14の値は前記基準クロック11,12によるクロック調整が行なわれた後でなければ,その値は意味をなさない。同時に提示すべきデータ5,9が端末2に到着する時刻差をdtとすると,,先に到着したデータ5が,他のデータ9が到着までのdtの時間,バッファリングされる。このとき,端末2内のクロックの調整は,先に到着したデータ5の基準クロック11ではなく,後に到着したデータ9の基準クロック12を用いる。次に,両基準クロックデータ11および12の差を求める。以降,字幕データ16のタイムコードは該時間差を加算して変更されたものを用いる。すなわち,字幕データ16の変更後の提示時刻を示すタイムコードをタイムコード(変)とすると,タイムコード(変)=タイムコード13+(基準クロック12-基準クロック11)となる。該変更されたタイムコードを用いることによって,ムービーデータ17に同期させて字幕データ16を提示することが可能となる。ムービーデータ17中にも字幕データが存在する場合,該字幕データは端末2において除去される。図3は本発明(請求項2)の一実施例で,図1で示したシステムにゲートウェイ18が付加され,ゲートウェイ18にさらに複数台の端末2が接続されているシステム形態を例示している。図2で述べた同期処理は端末2で行われたものだが,端末2に十分な処理能力がないと該処理を実時間で行うのは困難である。そこで,端末2より処理能力の高いゲートウェイ18を付加し,ゲートウェイ18に図4に示す処理を行わせることによってマルチメディアデータの同期を実現するものである。」(段落【0019】)
(3) 一致点の認定の誤りの存否について
ア 本願発明の「映像フレーム特定コード」は,その単位が「時・分・秒」等で識別されるものとはいえず,本願明細書にも各フレームの時間間隔についての記載はない。一方,引用発明の「タイムコード」とは,上記(2)の段落【0019】の記載からすれば,該タイムコード後の「字幕データ」や「フレームデータ」を提示する時刻に関するデータであると認められる。
しかしながら,一般に,動画データは,逐次更新されて表示される複数の静止画の「フレーム」から構成され,各フレームが,所定の時間間隔で,順次表示されることものであることは明らかであるところ,上記(1)のカ及びキの記載からすると,本願発明の「映像フレーム特定コード」も,デジタル映像データが順次遷移していく映像フレームについて,01000001から始まって01000025の間は映像1-Aとして出力されるというふうに,1フレームごとにその遷移の順番に従って映像フレームに付された符号であると認められる。
そうすると,本願発明の「映像フレーム特定コード」は,結局,「フレーム」を単位とする時間軸上の位置を示す「時間情報」といえるものである。
確かに,文言上「コード」には「数字」以外の「文字」等も含まれ得るが,実施例は数字であるし,「フレーム」を単位とする時間軸上の位置を示すものである以上,コードの種別にかかわらず,「時間情報」であることに変わりはないというべきである。なお,引用例の「タイムコード」も「コード」であることからすれば,単に「コード」との記載から,直ちに,それが「時間情報」でないとはいえない。
したがって,本願発明の「映像フレーム特定コード」と引用発明の「デジタルムービーデータのフレームを提示する時間の情報」とは「デジタル映像データの提示の時間情報」である点で共通するとした,審決の認定に誤りはない。
また,審決は,前記第2の3(4)イのとおり,本願発明と引用発明との相違について,本願発明では,副次データは,その再生開始ポイントと再生終了ポイントが前記デジタル映像データの映像フレームを特定する映像フレーム特定コードに対応するように作成されるのに対し,引用発明では,副次データは,その提示の時間情報が対応するデジタル映像データの映像フレームの提示の時間情報に対応するように作成される点を相違点2として抽出しているのであるから,審決の認定に誤りはない。
イ この点について,原告は,前記第3の1のとおり,本願発明における「映像フレーム特定コード」における「映像フレーム」に「キーフレーム」や「デルタフレーム」という概念も含まれていることを考慮すれば,本願発明と引用発明との相違は更に明らかになる旨縷々主張する。
原告代表者の作成した説明書(甲17,18)によれば,「キーフレーム」とは,1フレームの完全な絵を表示しているフレームを指し,一方,「デルタフレーム」とは,画像を圧縮するために前のキーフレーム間の差分のみを符号化したフレームであると認められる。
しかしながら,本願明細書等には「キーフレーム」や「デルタフレーム」に関する記載は一切なく,「映像フレーム」に「キーフレーム」や「デルタフレーム」という概念も含まれていることに関する課題やそのような課題の解決を示唆するような記載も認められないのであるから,そもそも,原告の上記主張は,本願の特許請求の範囲や本願明細書等の記載に基づかない主張であって,失当である。
ウ 以上のとおり,審決の一致点の認定に誤りはない。
2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)について
原告は,本願発明の請求項1の「前記副次データは,前記副次データの作成・修正を行う者の端末により,直接,前記副次データファイルより取出されて,作成・修正が行われて,再度前記副次データファイルに保存され,」という記載の意味について,「端末より副次データを修正」するとは,サーバに格納されているファイルから直接データを取り出し,修正・保存することを意味するのであって,ファイルの転送という概念は含んでいない旨主張する。
しかしながら,本願発明の請求項1の記載からすれば,「‥‥端末により,直接,‥‥修正が行われて」の意味につき,サーバに格納されているファイルから直接データを取り出し,それを修正・保存する者の端末により,直接修正・保存することのみに限定されると一義的に解釈することはできず,むしろ,「直接」の文言を素直に読めば,それは,サーバ上のデータに個人の端末がインターネットにより直接アクセスすることができるという程度の意味とも解し得る。
そこで,本願明細書の発明の詳細な説明を参酌すると,そこには「直接」という用語を定義するような記載はみあたらず,むしろ,前記1(1)クのとおり,本願明細書には,「副次データ12が‥‥音声情報のときは,音声情報ファイル‥‥を別途作成し」「副次データ12が‥‥画像情報のときも同様に,画像情報ファイル‥‥を別途作成し」と記載されているから,発明の詳細な説明を参酌する限り,本願発明の「副次データ」は,データそのもののみならず,ファイルという形態をも含むものであると認められる。
また,前記1(1)コのとおり,本願明細書には,「複数の副次データ12が第2のサーバ42bの副次データファイル48に格納されており」と記載されているから,発明の詳細な説明を参酌する限り,本願発明の「副次データファイル」は,複数のファイルを格納するものをも含むものであると認められる。
さらに,前記1(1)ケのとおり,本願明細書には,「‥‥,翻訳者の自宅のパソコン等で容易かつ短時間に副次データ12を作成し,自宅からインターネットを通じて依頼者に即座に届けることができる」と記載されているところ,翻訳者の自宅から即座に依頼者に届け出るとの記載は,ファイルとして直接交付する意味と解され,少なくとも,副次データをサーバ上に置いたままである状態を意味するものではないと解される。
そうすると,本願発明の「前記副次データは,前記副次データの作成・修正を行う者の端末により,直接,前記副次データファイルより取出されて,作成・修正が行われて,再度前記副次データファイルに保存され」るとの記載には,サーバからファイルを取り出し,端末でファイルを修正し,ファイルを保存することも含まれるものと認めるのが相当である。
そして,プログラムやデータが格納されたファイルをネットワークで転送するための標準プロトコルであるFTP(File Transfer Protocol)が,本願発明の優先権主張日である平成12年11月2日当時,当業者に周知の技術であったことについては原告もこれを争うものではなく,証拠(甲19)によれば,「FTP」では,ネットワークを通じて,ファイルの転送(上書きモード),ファイル転送(追記モード),ファイル名の変更,ファイルの削除等を自由に行うことができることが認められるから,「FTP」を利用してインターネットで相互接続された端末とサーバ間で,端末からの要求によりサーバが保持するデータファイルを端末に転送することや端末で作成等したデータファイルを端末からサーバに転送して,サーバにおいて当該データファイルを書き込み,保存することが可能であることは,本願発明の優先権主張日の周知技術であったと認められる。
そうすると,本願発明は,ファイルを取り出し,また,端末で修正したファイルを保存することができる「FTP」を利用して容易に実施することができるものであることは明らかである。
以上のとおり,その余の点について判断するまでもなく,認定Aから認定Bの結論を導いた審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3(相違点2の判断の誤り)について
(1) 甲11及び16の公報の記載内容
ア 甲11公報の記載内容
「〔産業上の利用分野〕
本発明は映像を合成して表示する情報ファイル装置に係り,特に主映像が動画である場合に映像の進行と同期して適格な映像を合成表示するのに好適な情報ファイル装置に関する。」(1頁右下欄15ないし19行)
「本発明の一実施例を第1図により説明する。1は全体を制御する制御装置,2は副映像となる映像をデジタル化したものと合成条件を記憶する記憶装置,4は記憶装置2のデジタル情報を映像に変換し副映像信号を出力するビデオ発生器,5は制御装置1の指令により駆動される主映像出力装置としてのVDP,3は記憶装置2から対応する副映像の合成条件を保存しVDP5から得られる主映像の再生映像と比較しその結果を制御装置1へ伝達する比較装置,6はVDP5の出力にビデオ発生器4の出力を合成するか否かを制御装置1の指令により行う映像合成装置,7は映像合成装置6の出力映像を表示するモニタである。
VDP5は制御装置1から制御信号11を受けて主映像の再生を行う。VDP5は再生中の映像に対応したフレーム番号を刻々とフレーム信号線12を通して比較装置3に送る。一方,記憶装置2には副映像となる情報が静止画として複数枚記憶されており,同時にそれぞれの副映像が主映像に合成される期間を示すために主映像に対応した合成開始を示すフレーム番号と合成終了を示すフレーム番号を記憶している。制御装置1はVDP5の起動に先立ち副映像を合成する順番すなわち合成すべきフレーム番号の小さい順に並べ換えておく。制御装置1はVDP5の再生開始フレームより大きな合成開始フレームのうち最も小さい開始フレーム番号と終了フレーム番号を比較装置3に設定すると同時に対応する副映像情報を記憶装置2からデータバスを通じてビデオ発生器4に送る。制御装置1は合成制御信号14により主映像のみを表示するように映像合成装置6を設定した後VDP5を起動する。起動されたVDP5は映像信号線15を通じて映像合成装置6へ映像信号を送りモニタ7に映像が表示される。比較装置3は起動中のVDP5から送られてくるフレーム番号が既に設定されている開始フレーム番号以上になった場合に割込線13を通じて制御装置1に割込みを起こす。割込みを受けた制御装置1は合成制御信号14により主映像と副映像を合成するように映像合成装置6に指令する。映像合成装置6はこれを受けて映像を合成しモニタ7で合成映像を表示する。さらに主映像の再生が進みフレーム信号線12で送られてくるフレーム番号が比較装置3に既に設定されている終了フレーム番号を超えた時に比較装置3は再び割込線13を通じてその旨の割込みを制御装置1に起こす。制御装置1は合成制御信号14によって合成を中止するように映像合成装置6に伝達すると同時に次の副映像情報をビデオ発生器4に送り対応する開始終了フレーム番号を比較装置3に再び設定する。以上の動作を繰返すことによって適格な映像合成を行うことができる。
本実施例によれば副映像としてコンピュータの文字列情報やグラフィカルな映像を用いることができVDPの映像をより効果の高いものとすることができる。」(2頁左下欄3行ないし3頁左上欄17行)
イ 甲16公報の記載内容
「【発明の属する技術分野】本発明は映像と文字との統合管理システムに関し,特に,映像中に種々の文字情報をスーパーインポーズして再生することが可能なようになされた記録再生システムに適用して好適なものである。」(段落【0001】)
「このため,例えば,再生映像に文字をスーパーインポーズするタイミングや,スーパーインポーズする文字の時間軸上での位置,すなわちスーパーインポーズのタイミング等を調整することは困難であった。また,スーパーインポーズする文字は,ユーザに応じて様々な国の言語で実現されることが望まれるが,従来は言語の切り替えを簡単に行うことができないという問題もあった。」(段落【0005】)
「【課題を解決するための手段】本発明の映像と文字との統合管理システムは,互いに異なるファイルとして記憶される映像データと文字データとを統合的に管理するための映像と文字との統合管理システムであって,上記文字データを所定のセンテンスごとに分割し,各センテンス内の文字データとそれに関連する映像データのフレーム番号とを同じレコード内に記述して文字データファイルを作成するとともに,上記作成した文字データファイルに基づいて上記映像データと上記文字データとを管理する管理手段を設けたことを特徴としている。」(段落【0012】)
「本発明の他の特徴とするところは,上記管理手段は,上記文字データファイルに基づいて,再生映像中にそのフレーム番号と対応するレコード内の文字データをスーパーインポーズするように管理することを特徴としている。」(段落【0013】)
「【発明の実施の形態】以下,本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は,本実施形態による映像と文字との統合管理システムの要素的特徴を示す機能ブロック図である。本実施形態の映像と文字との統合管理システムは,例えば,CPU,ROM,RAM,ハードディスク,ディスプレイ装置その他の周辺機器から成る簡単なパーソナルコンピュータシステムで構成される。」(段落【0027】)
「図1において,1は管理部であり,映像データに対応する文字データ(映像の脚本,台本,字幕,画面解説,シナリオ,ナレーション等の文字データ)を所定のセンテンスごとに分割し,各センテンス内の文字データとその文字データに対応する映像データのフレーム番号とを同じレコード内に記述して文字データファイルを作成するとともに,作成した文字データファイルに基づいて映像データと文字データとを管理するものである。」(段落【0028】),
「2は映像データファイル記憶部であり,種々の映像データファイルを記憶するものである。この映像データファイル記憶部2および上記文字データファイル記憶部3は,例えばハードディスクなどのように大容量を持つ記録媒体の記憶領域を分けて構成しても良い。」(明細書段落【0031】)
「4は再生部であり,上記映像データファイル記憶部2に記憶された映像データファイルと上記文字データファイル記憶部3に記憶された文字データファイルとを用いて,映像中に文字をスーパーインポーズして再生するものである。ここで,再生部4において,上記映像データファイルおよび上記文字データファイル中のどの部分の映像データと文字データとを使うかは,上記文字データファイル記憶部3に記憶されている文字データファイルに基づいて管理部1が管理する。」(段落【0033】)
「5は表示部であり,上記再生部4によって再生された映像(文字がスーパーインポーズされているものを含む)を表示するものである。この表示部5は,例えば,上述したパソコンシステムを構成するディスプレイ装置,すなわち,CRT,LCD(液晶表示装置),PDP(プラズマディスプレイ)などによって構成される。」(段落【0034】)
「図2は,上記文字データファイル記憶部3に記憶される文字データファイルの構造の一例を示す図である。図2に示すように,文字データは,所定のセンテンス単位で分割されている。そして,各文字データレコードに,映像名(映像ファイル名),映像の開始フレーム番号,開始タイムコード,終了フレーム番号,終了タイムコード,第1言語(日本語,すなわちこのセンテンスの言語)の文字データ,第2言語(中国語)の文字データの各フィールドが設けられている。」(段落【0035】)
「このため,再生映像中にどの言語で文字をスーパーインポーズするかの切り替えを,上記再生映像に対応するレコード内から文字データを読み出すフィールドを切り替えるだけで行うことができるようになる。したがって,ハードウェアスイッチ等を設けることなく,スーパー」インポーズする文字の言語を簡単に切り替えることができるようになる。(段落【0042】)
「このように,本実施形態では,オブジェクトデータベースの考え方を取り入れて,再生映像に合わせた多種のアクション(多国言語によるスーパーインポーズを含む)を実行することができるようにしている。すなわち,映像の再生中に,管理部1がその再生映像のフレーム番号を調べ,そのフレーム番号が属する文字データファイル内のレコードから上記再生映像に対応する文字データを取り出す。」(段落【0044】)
「そして,その取り出した文字データに付されているコマンドに応じて,再生映像の上に字幕等をスーパーインポーズして表示したり,あるいはスーパーインポーズすることなく映像のみを表示したりするようにしている。文字をスーパーインポーズしない場合は,その文字データは単なるコメント的な存在となるが,後述する映像検索処理には利用することが可能である。」(段落【0045】)
(2) 映像データとそれに対応する字幕データ等の副次データを同期して再生,表示するものにおいて,字幕データを提示の開始時間及び提示の終了時間を含めた形式で作成し,前記映像データを再生しながら字幕データを同期して表示することが当業者において周知の事項であることについては,当事者間に争いがない。
そして,上記(1)ア及びイの記載によれば,映像データとそれに対応する字幕データ等の副次データを同期して再生,表示するものにおいて,字幕データ等の副次データの提示の開始等の時間を映像データのフレーム番号に対応するように作成し,映像データの再生時に,前記副次データのフレーム番号を読み出して,映像データと副次データを同期して再生することが周知の事項であると認められる。
そうすると,前記第2の3(1)の内容を有する引用発明に,上記各周知の技術的事項を適用することによって,引用発明において,字幕データを,その再生開始ポイントと再生終了ポイントを設定して,各ポイントがムービーデータのフレーム番号に対応するように作成し,デジタル映像データの再生時に,再生される映像フレームに対応する字幕データの再生開始ポイントと再生終了ポイントとを読み出すようにして,字幕データが上記デジタル映像データに同期して再生されるようにすることは,当業者にとって容易想到であると認められるから,審決の相違点2の判断に誤りはない。
(3) この点について,原告は,甲9及び10の文献では,同期するに当たってズレが生じていることを認めており,この点がまさに本願発明の課題であるから,上記周知技術を引用発明に適用しても本願発明を想到できるものではない旨主張する。しかしながら,甲9文献には,「実際に再生を行うと,プレーヤ内では様々な処理動作が行われる。表1に示すように性能の低い環境や重い処理を要する内容の表示等が原因で,実際に表示されるべき時間からのズレが必ず発生する。」(40頁左欄下から2行ないし右欄2行)と記載されていることから明らかなように,「ズレ」の原因は,環境の制約等であって,「時間」による指定が原因ではないと認められるし,甲10文献には,「ズレ」に関する記載は見当たらない。したがって,この点に関する原告の主張は,失当である。
また,原告は,前記第3の3において,甲11及び16の公報に関して本願発明との間に技術的差違がある旨縷々主張するが,甲11公報は,主映像の進行と同期して適格な副映像を合成表示するために,主映像に対応したフレーム番号を用いることが,甲16公報には,映像中に文字情報をスーパーインポーズして再生することが可能な記録再生システムにおいて,所定のセンテンス単位の文字データ,映像名,フレーム番号などのデータを記憶しておき,映像再生中にその再生映像のフレーム番号が属する前記文字データを取り出して再生映像の上に前記文字をスーパーインポーズして表示することが,それぞれ示されていることから,審決は,これらを引用発明に適用する周知の技術的事項の一例として示しているにすぎないのであるから,本願発明と甲11及び16の公報との間に原告が主張するような技術的相違点があったとしても,審決の判断を誤りとすることはできない。
4 取消事由4(格別な効果を看過した誤り)について
上記3で認定したとおり,引用発明に上記周知の技術的事項を適用することによって,当業者であれば本願発明を容易に想到し得ると認められるのであって,このことは,引用発明の時間情報に替えてフレーム番号を採用することを意味するのであるから,この場合,時間差の計算は不要となる。すなわち,原告の主張する作用効果は,フレーム番号を採用すれば,当然に予測可能な効果にすぎず,格別顕著な効果と認めることはできない。
したがって,この点に関する原告の主張も,理由がない。
5 結論
以上のとおり,原告の主張する審決取消事由はいずれも理由がないので,原告の請求は棄却を免れない。
(裁判長裁判官 塚原朋一 裁判官 東海林保 裁判官 矢口俊哉)