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知財高等裁判所 平成21年(行ケ)10260号 判決 2010年1月20日

原告

被告

特許庁長官

同指定代理人

仁木浩

片岡弘之

安達輝幸

廣瀬文雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が不服2007-27685号事件について平成21年7月16日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,特許請求の範囲(請求項3)の記載を下記2とする原告の本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

1  特許庁における手続の経緯

原告は,平成17年6月29日,名称を「貯蔵電池内蔵ソーラー発電システム」とする発明につき本件出願(出願番号:特願2005-190153号。以下,本件出願に係る明細書(乙1)を「本願明細書」という。)をしたが,平成19年8月7日付けで拒絶査定を受けたので,平成19年9月5日,これに対する不服の審判を請求した(乙3)。

特許庁は,上記請求を不服2007-27685号事件として審理し,平成21年7月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は同年8月9日に原告に送達された。

2  本願発明の要旨

本件審決が判断の対象とした本願発明(特許請求の範囲の請求項3に記載の発明)の要旨は,以下のとおりである。

太陽電池モジュールに接続して,電力を貯蔵する,貯蔵電池を内蔵して,商用電力を必要とせずに,電力供給が可能であるソーラー発電システム。

3  本件審決の理由の要旨

(1)  本件審決の理由は,要するに,本願発明は,米国特許第4742291号明細書(頒布日:昭和63年(1988年)5月3日。乙4。以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)であるから,特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができない,というものである。

(2)  なお,本件審決が上記判断に当たって認定した引用発明及び本願発明と引用発明との一致点は,次のとおりである。

引用発明:太陽電池パネル40に接続して,電力を蓄電する,蓄電池54を備えて,蓄電池54の出力をインバータ60を経た後,交流電源との接続を切り換えるスイッチS3を介して接続することにより,電力が供給される太陽電池パネルを用いた電力供給システム。

一致点:太陽電池モジュールに接続して,電力を貯蔵する,貯蔵電池を内蔵して,商用電力を必要とせずに,電力供給が可能であるソーラー発電システム。

4  取消事由

本願発明と引用発明との対比・判断の誤り

第3当事者の主張

〔原告の主張〕

(1) 本件審決は,本願発明の「太陽電池モジュール」に引用発明の「太陽電池パネル40」が相当すると認定しているが,「パネル(panel)」とは,羽目板のことであるのに対し,「モジュール(module)」とは電子計算機,宇宙船などの交換可能な構成部分のことをいう(例えば,「the command module of apollo 11.」とは,「アポロ11号の指令船」となる。)のであって,両者は異なるものである。

(2)  また,本件審決は,本願発明の「電力を貯蔵する」態様に引用発明の「電力を蓄電する」態様が相当すると認定しているが,以下の事情からして,その認定は誤っている。

本願発明の「貯蔵電池」についてみるに,「字源」によると,「蓄」とは「すこしづつよせ集めておくことなり」「用ひずにおくなり」とされるのに対し,「貯」とは「入用だけ所蔵して置くなり」「用ひつつ,品切のせぬやうにするなり」と,「蔵」とは「たくはふ」「貯」とされる。この「蓄」と「貯蔵」との違いによると,蓄電池と比較し,貯蔵電池の電気エネルギーの方が多いものである。

フライホイール式電池は,従来の蓄電方式の範ちゅうにあるにすぎず,このフライホイール方式の蓄電池の用途が限られていたところ,これをソーラー発電と組み合わせることにより,電気エネルギーを貯蔵方式に転化させ,日常生活の必需品としたものである。

技術者がこのような必需品を発明できなかったことは,文献が皆無であることからも理解できる。

本願発明にいう「貯蔵電池化」及び「貯蔵電池」とは,以上のような経緯から,「蓄電池」の電気エネルギー量を超える電池を定義した新語である。

(3)  本件審決は,本願発明の「貯蔵電池を内蔵し」た態様に引用発明の「蓄電池54を備え」た態様が相当すると認定しているが,(2)のとおり,その認定は誤りである。

(4)  また,本件審決は,本願発明の「商用電力を必要とせずに,電力供給が可能である」態様に引用発明の「蓄電池54の出力をインバータ60を経た後,交流電源との接続を切り換えるスイッチS3を介して接続することにより,電力が供給される」態様が相当すると認定しているが,以下の事情からして,その認定も誤っている。

太陽電池モジュールとバッテリーとを組み合わせる家庭用電力供給装置を考えるとき,バッテリーとして,フライホイール方式の利用は皆無であった。

フライホイール方式の発明は,生活の中に密着したものとなり,莫大な販売益を企業にもたらしている。そして,バッテリーとして,フライホイール方式を利用するシステムは,産業の発展に多大に貢献し,環境破壊をもたらさない。

貯蔵方式の考案と技術,モニターユニットで余剰電力量を測定する考案と技術によって,従来の買売電電力計を売電のみに進歩させることができた。

(5)  本件審決は,本願発明の「ソーラー発電システム」に引用発明の「太陽電池パネルを用いた電力供給システム」が相当すると認定しているが,上記(2)のとおり,その認定も誤っている。なお,「ソーラー発電の組織化」とは,「発電所」の機能を持つことである。

〔被告の主張〕

(1)  一般的に,太陽光から発電する太陽電池は,モジュールともパネルとも呼ばれている。これは,乙5の「太陽電池とは」に,「モジュール」について,「このモジュールは,太陽電池パネルとも呼ばれます。」とあるように技術常識ということができる。したがって,本件審決が,引用発明の「太陽電池パネル40」が本願発明における「太陽電池モジュール」に相当すると認定した点に誤りはない。

(2)  「電力を蓄電」することも,「電力を貯蔵」することも,共に電気を蓄えるという機能を特定しているのみであり,本願発明に係る請求項3にも蓄電量の容量の大小を特定する記載はなく,容量の大小を区別する上で,これらの用語を使い分けることが技術常識ともいえない。また,「蓄電池」と「貯蔵電池」とは,共に電気を蓄えるという機能を有している。これに対し,「貯蔵電池」との用語は,通常使用されている技術用語にすぎず(乙6,7),本願明細書にも特別の意味に使用するとの特定もされていない。したがって,本件審決が,引用発明の「電力を蓄電する」態様が本願発明における「電力を貯蔵する」態様に相当すると認定した点に誤りはない。

(3)  本件審決は,引用発明の「蓄電池54を備え」た態様が本願発明における「貯蔵電池を内蔵し」た態様に相当すると認定しているが,上記(2)のとおり,その認定に誤りはない。

(4)  引用発明では,「交流電源との接続を切り換えるスイッチS3を介して接続する」ことによって,電力の供給は「蓄電池54の出力」のみとなり商用電力を必要としなくなることから,引用発明の「蓄電池54の出力をインバータ60を経た後,交流電源との接続を切り換えるスイッチS3を介して接続することにより,電力が供給される」ことで,本願発明の「商用電力を必要とせずに,電力供給が可能である」となるものである。また,バッテリーとしてのフライホイール方式の利用についてみるに,本願明細書の【0008】に「フライホイールを安定して回転させ,フライホイールの運動エネルギー貯蔵能力を向上させた縦型のフライホイール式電池がある(例えば,特許文献4参照。)」と記載されており,本件出願前にフライホイール式電池が知られていることは,よく知られていることにすぎない。

本件審決が,本願発明の「商用電力を必要とせずに,電力供給が可能である」態様が引用発明の「蓄電池54の出力をインバータ60を経た後,交流電源との接続を切り換えるスイッチS3を介して接続することにより,電力が供給される」態様に相当すると認定した点に誤りはない。

(5)  引用発明の「太陽電池パネルを用いた電力供給システム」は,「商用電力を必要とせずに,電力供給が可能である」のであって,そのことから,本件審決が,引用発明の「太陽電池パネルを用いた電力供給システム」が本願発明における「ソーラー発電システム」に相当すると認定した点に誤りはない。

第4当裁判所の判断

1  引用発明について

引用発明が,前記第2の3(2)のとおりのものであることについては,当事者間に争いがない。

2  本願発明の「太陽電池モジュール」と引用発明の「太陽電池パネル40」との異同について

(1)  本願発明に係る請求項3によれば,太陽電池モジュールが貯蔵電池に接続され,この貯蔵電池に電力が貯蔵されるものであるところ,本願明細書の【0015】には,「太陽電池モジュール」は,太陽光エネルギーを電気に変換するものであると記載されている。

ところで,「太陽電池」とは,「1.太陽光線の放射エネルギーを直接能率よく電気エネルギーに変えるpn接合デバイス,2.太陽電池の列。ふつう,並列と直列に接続されている。」(マグローヒル科学技術用語大事典第3版)を意味する。また,「モジュール」とは,電子工学においては「配線した回路素子をひとまとめにした回路部品」(マグローヒル科学技術用語大事典第3版)を意味し,また,「寸法あるいは機能の単位。file_2.jpg規格化された建築材。file_3.jpg歯車の歯の大きさを示す値。ピッチ円直径(単位ミリメートル)を歯数で割ったもの。file_4.jpg装置・機械・システムを構成する部分で,機能的にまとまった部分。」(広辞苑第五版)とされ,本願発明においては,このうち「装置・機械・システムを構成する部分で,機能的にまとまった部分」を意味するものということができる。

以上によると,本願発明の「太陽電池モジュール」は,光陽光線の放射エネルギーを直接能率よく電気エネルギーに変えるpn接合デバイス若しくはこれが接続されたものである回路部分又はそのような機能的にまとまった部分ということができる。

(2) 他方,引用発明における「太陽電池パネル」についてみるに,引用例には,「図2を参照するに,…図において,太陽電池パネル又は光電素子パネルは枠40で示されている(Referring to FIG. 2, … In the figure, the solar or photovoltaic array of panels is represented at block 40)」(5欄58~61行),「ライン42における出力は,ライン50,スイッチS1,ライン52を介して,枠54で示される蓄電池へ供給される(The output at line 42 is shown directed via line 50 to a switch identified as S1 and by a line 52 to the storage battery represented at block 54.)」(6欄28~30行)と記載され,また,引用例の図2によると,太陽電池パネル40からスイッチS1を介して接続される蓄電池54が備えられ,この蓄電池54から交流/直流インバータを経て,交流電源と接続を切り換えることができるスイッチS3を介して接続することによって,家庭の回線に電力が供給されるシステムが示されている。

ところで,「パネル」とは,「①鏡板。羽目板。②カンバスの代りに用いる画板。また,その絵。③引き伸ばした写真やポスターを貼る台板。また,その貼ったもの。④配電盤の盤。列盤。⑤婦人服で,スカートなどの脇・前後などに縦にはめ込んだり,重ねて垂らしたりする別布。⑥陪審員。陪審員名簿。」(広辞苑第五版)とされ,引用発明においては,このうち「鏡板。羽目板」の形状のものを意味するものということができる。

以上に上記(1)の「太陽電池」の意味を併せみると,引用発明における「太陽電池パネル」は,「パネル」として羽目板状のものであるが,太陽電池として,本願発明と同じく,太陽光線の放射エネルギーを直接能率よく電気エネルギーに変えるpn接合デバイス又はこれが接続されたものであり,これは回路部分であるとともに,発電する部分として機能的にまとまったものということができる。

(3)  また,太陽光発電に関係する多数の団体,企業等が参加する一般社団法人太陽光発電協会のウェブページ(乙5)において,太陽電池モジュールとは,「セルを必要枚配列して,屋外で利用できるよう樹脂や強化ガラスなどで保護し,パッケージ化したものです。このモジュールは,太陽電池パネルとも呼ばれます。」と記載され,「太陽電池モジュール」と「太陽電池パネル」が同義で使われている。

さらに,太陽電池パネルとは,「現場取付けができるように複数個の太陽電池モジュールを機械的に結合し,結線された集合体」(JIS工業用語大事典〔第5版〕)とされ,複数個の太陽電池モジュールの集合体をいう場合もある。

(4)  以上によると,本願発明の「太陽電池モジュール」及び引用発明の「太陽電池パネル」のいずれも,太陽光線の放射エネルギーから発電をする装置部分ということができ,引用発明の「太陽電池パネル40」は,本願発明の「太陽電池モジュール」の機能を有する同様のものであって,この「太陽電池モジュール」に相当するということができる。

3  本願発明の「電力を貯蔵する」態様と引用発明の「電力を蓄電する」態様との異同について

(1)  引用発明の「電力を蓄電する」の意義等

引用発明は,前記第2の3(2)のとおり,「電力を蓄電する,蓄電池54を備え」るものであるところ,「蓄電池(storage battery)」とは「充電して繰り返して使用できる電池」(JIS工業用語大事典〔第5版〕)とされ,そうすると,引用発明の「電力を蓄電する」とは,この蓄電池に電流を送り込んで,蓄電池を充電された状態に再生させることをいうものと解することができる。

(2)  「貯蔵」と「蓄」との対比等

ア 字句の意味からみた異同

本願発明は,「電力を貯蔵する」とするものであるところ,「貯蔵」とは,「①たくわえておくこと。②生産または営利に投入せず,ただ財貨を貯えておくこと。」(広辞苑第五版)とされ,本願発明においては,このうち「たくわえておくこと」を意味するものということができる。一方,引用発明における「電力を蓄電する」とのうちの「蓄」とは,「①たくわえること。ためること。②やしなうこと。」(広辞苑第五版)とされ,引用発明における「蓄」とは,このうち「たくわえること。ためること。」を意味するものということができ,上記「貯蔵」と同様の意味となる。

イ 本願明細書の記載からみた異同

(ア) 本願明細書には,「本発明は,ソーラー発電システムによる発電電力を貯蔵電池に貯蔵して,商用電力を買わずに,電力供給ができるソーラー発電システムに関する。」(【0001】),「本発明は,電力の貯蔵を目的として,商用電力からの電力供給を必要とせずに,貯蔵電池からの電力供給を可能にしようとするものである。」(【0005】),「ソーラー発電の電気エネルギーを,…貯蔵して,貯蔵電池化する。ソーラー発電からの供給が不可能になれば,商用電力を用いず,この貯蔵電池から供給する。」(【0009】),「また,超伝導の電力貯蔵装置がある。…」(【0010】),「図1において,太陽光エネルギーを電気に変換する太陽電池モジュール1で発電された電力は双方向コントローラー6を通りフライホイール式電池7に運動エネルギーとして貯蔵されて,貯蔵電池8となる。」(【0015】)及び「太陽電池モジュール1で発電された電力が,半導体スイッチ4で検知できない時,貯蔵電池8の運動エネルギーが電気エネルギーに変換されて,ソーラー発電対応住宅分電盤9に供給される。」(【0016】)との記載がある。

(イ) しかしながら,本願明細書には,従来技術として,太陽電池に蓄電池を組み合せたシステムが記載され(【0002】),そのようなソーラー発電システムでは,電力の供給量が限定されていること(【0004】)との記載があるものの,本願発明に係る請求項3及び本願明細書のいずれにも,たくわえる電力量の容量の大小についての記載はない。

また,「貯蔵電池」との語は,それ自体,電力を「貯蔵」する「電池」を意味するものであって,しかも,充電及び放電を繰り返すことができる電池として使用されていることが認められる(乙6,7)。

(ウ) 以上によると,本願発明における貯蔵電池を内蔵して,「電力を貯蔵する」とは,上記(1)の蓄電池に電力をたくわえることを含むものであって,そのたくわえる電力量について規定するものではないと解することができる。

ウ そうすると,引用発明の「電力を蓄電する」態様と本願発明の「電力を貯蔵する」態様を異なるものと解する余地はなく,前者は後者に相当するということができる。

4  本願発明の「貯蔵電池を内蔵し」た態様と引用発明の「蓄電池54を備え」た態様との異同について

上記3によると,引用発明の「蓄電池」は,本願発明の「貯蔵電池」と同様のものであるということができる。

そうすると,引用発明の「蓄電池54を備え」た態様とは,本願発明の「貯蔵電池を内蔵」した態様に相当するものということができる。

5  本願発明の「商用電力を必要とせずに,電力供給が可能である」態様と引用発明の「蓄電池54の出力をインバータ60を経た後,交流電源との接続を切り換えるスイッチS3を介して接続することにより,電力が供給される」態様との異同について

(1)  前記2(2)によると,引用発明は,太陽電池パネル40が発電した電力が蓄電池54に供給され,スイッチS3によって外部からの交流電源と接続を切り換えられることによって,蓄電池54から出力された上記電力が,同蓄電池からインバータを経て家庭の回線に供給されるというものであって,その際には,外部からの商用電力を必要とせずに,同蓄電池からの電力供給が可能とされるものということができる。

(2)  そうすると,引用発明の「蓄電池54の出力をインバータ60を経た後,交流電源との接続を切り換えるスイッチS3を介して接続することにより,電力が供給される」態様とは,本願発明の「商用電力を必要とせずに,電力供給が可能である」態様に相当するということができる。

(3)  なお,原告は,バッテリーとしてフライホイール方式の利用をすることの意義を主張するが,本願発明に係る請求項3は,フライホイール方式のバッテリーに限定して記載するものでないから,バッテリーとしてフライホイール方式の利用の意義をいう原告の主張は理由がない。加えて,本願明細書【0008】には,「フライホイールを安定して回転させ,フライホイールの運動エネルギー貯蔵能力を向上させた縦型のフライホイール式電池がある」との記載があり,本件出願前にフライホイール式電池が知らされていたことも明らかにされている。

さらに,原告は,貯蔵方式の考案と技術,モニターユニットで余剰電力量を測定する考案と技術によって,従来の買売電電力計を売電のみに進歩させることができたなどと主張するが,前記のとおり,貯蔵方式と同様の意味での電力を蓄電する方式として引用発明が既に存在し,また,モニターユニットで余剰電力量を測定する考案については,本願発明に係る請求項3に記載するものでないから,原告の主張は理由がない。

6  本願発明の「ソーラー発電システム」と引用発明の「太陽電池パネルを用いた電力供給システム」との異同について

(1)  前記2(2)によると,引用発明は,太陽電池パネルで発電した電力を蓄電池に蓄電し,この蓄電された電力を家庭の回線に供給することにより,外部からの交流電力の利用を必要としないとする機能を有する装置である。

そして,これは,本願明細書【0001】,【0005】,【0016】等に記載されるように,ソーラー発電によって電池にたくわえた電力の供給を受けることにより,商用電力を買わずに電力供給ができるという本願発明の機能と同様のものであって,以上によると,引用発明の「太陽電池パネルを用いた電力供給システム」は,本願発明の「ソーラー発電システム」に相当するということができる。

(2)  原告は,本願発明の「貯蔵」と引用発明の「蓄電」との違いを主張するが,前記3のとおり,引用発明の「電力を蓄電する」態様は,本願発明の「電力を貯蔵する」態様に相当するということができるから,原告の主張は採用することができない。

なお,原告は,「ソーラー発電の組織化」とは,「発電所」の機能を持つことであると主張するところ,これが商用電力を必要とせずに電力供給が可能であるという意味とすると,これは引用発明においても同様のものであることは上記のとおりであり,また,「『発電所』の機能」そのものをいうとすると,本願発明に係る請求項3に記載のない事項をいうものであって,その主張は採用することができない。

7  小括

以上の結果によれば,本願発明と引用発明とは,原告の主張するような相違はなく,前記第2の3(2)のとおりの一致点を有するところ,本願発明に新規性がないとした本件審決の判断に何ら誤りはないといわなければならない。

8  結論

以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。

(裁判長裁判官 滝澤孝臣 裁判官 本多知成 裁判官 浅井憲)

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