知財高等裁判所 平成21年(行ケ)10297号 判決 2010年8月19日
原告
株式会社ユニスター
同訴訟代理人弁理士
広瀬文彦
被告
Y
同訴訟代理人弁理士
辻永和徳
主文
1 特許庁が無効2008-890066号事件について平成21年8月17日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,別紙商標目録記載1の構成で,指定商品を同「指定商品」欄記載のとおりとする登録第5072102号商標(以下「本件商標」という。)につき,その商標権者である被告を被請求人として,本件商標の商標登録無効審判請求を提起したところ,請求不成立の審決を受けたことから,その審決の取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯
被告は,本件商標の商標権者である(甲1)。
本件商標は,マドリッド協定議定書に基づき,韓国の商標登録(第4005596830000)を基礎登録として(この基礎登録商標は,平成14年(2002年)7月3日に登録出願され,平成15年(2003年)9月18日に設定登録されたものである。),日本国を指定して国際登録出願され,国際登録第818186号として我が国で商標登録されていたが,当該基礎登録が韓国において無効審判によって無効が確定したため,同議定書の規定により国際登録が取り消され,その後,商標法68条の32に規定する国際登録の取消し後の商標登録出願の特例に基づく出願として登録出願され,設定登録されたものである。なお,本件商標の出願は,同条2項により,取り消された国際登録の国際登録の日(2003年(平成15年)9月18日)にされたものとみなされる(甲18,乙1)。
原告は,平成20年8月29日,本件商標登録を無効にすることを求めて審判を請求した。
特許庁は,同請求を無効2008-890066号事件として審理した上,平成21年8月17日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月27日,その謄本を原告に送達した。
2 本件審判手続における原告(請求人)の主張の概要
本件商標の登録は,次のとおり,商標法4条1項7号,8号,10号,15号,19号及び同法3条1項柱書きに違反してされたものであり,同法46条1項1号により無効とされるべきものである。
(1) 商標法4条1項7号について
ア ASRock社について
請求人である原告は,台湾に本社を置くコンピュータのマザーボードの製造メーカーであるASRock Incorporation(以下「ASRock社」という。)の我が国における正規輸入代理店として,別紙商標目録記載2の商標(以下「引用商標」という。)の付されたマザーボードの輸入販売を行っている。ASRock社は,同じく台湾に本社を置くASUSTeK Computer Incorporation(以下「ASUSTeK社」という。)の子会社として平成14年(2002年)に設立された会社である。ASUSTeK社の開発部門は,世界的にも有名で,特に,マザーボードの世界シェアでは1位であって,全体の約30パーセントを占める極めて著名なメーカーである。ASRock社は,その系列会社としてASUSTeK社では製造しないようなイレギュラーなマザーボードを開発・販売するなどして注目を集めており,ASUSTeK社と共にその関連マザーボードメーカーとして著名な会社である。
イ 韓国における訴訟及び無効審判について
被告は,韓国で得た商標登録に基づき,ASRock社から輸入した正規の商品を取り扱う関連会社に対して差止請求訴訟を提起した。しかし,被告は商標権者とはいえ,自ら事業活動を行っておらず,将来においても行うであろうと認められる証拠もないとして,上記差止請求は棄却されている。
また,本件商標の原基礎登録商標は,先願先登録商標と類似するという理由によって無効審判で無効とされている。
ウ 被告の悪意について
被告は,本件商標を使用して事業を行う意思が全くないにもかかわらず,ASUSTeK社が子会社を立ち上げることを知り,不正な利益を得ることを目的とし,ASRock社の商標の使用及び商標権の利用を妨害するために韓国で商標権を取得したものであり,また,ASRock社が我が国に輸出販売を行っている事実を知り,我が国を指定した国際商標登録出願をして権利化を画策し,国内出願に変更して商標権を取得している。
すなわち,ASUSTeK社が子会社としてASRock社及びASRockブランドを立ち上げたことは,被告が原基礎登録商標の出願をした平成14年(2002年)7月3日以前の同月2日に,台湾のニュースメディア「DIGITIMES」が取り上げ,翌日には韓国のIT情報ウェブサイトである「K-BENCH」でも情報が伝えられていた。したがって,被告が,これらインターネットにおける情報等により,「ASRock」の名称を原基礎登録商標の出願前から知っていたと容易に推認され,被告は,商標「ASRock」を変形した態様で本件商標を故意に出願したものと考えられる。また,被告は個人であってしかも韓国に居住する者であるため,我が国で事業を行うことは困難である。したがって,本件商標は,単に不正な利益を得ることが目的の商標である。
また,原基礎登録商標の出願日から本件商標の出願日(平成15年(2003年)9月18日)の間においても,インターネット等において,ASRock社及びASRock社製品に関する情報が複数掲載されていることから,本件商標の出願日を基準に考えると,被告は,少なくともASRock社の標章「ASRock」の発表を知ってから悪意をもって我が国で商標権を取得するために本件商標を出願したと考えることができる。
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法4条1項7号に違反してされたものである。
(2) 商標法4条1項8号について
本件商標は,ASRock社の著名な略称「ASRock」と同一又は極めて類似する商標である。
ASRock社は,世界各国で「ASRock」の商標権を取得しており,多くの国でASRock社のマザーボードを販売している。我が国においては,ASRock社のマザーボードは,平成14年(2002年)末ころから輸入され,平成15年(2003年)の年初から販売が開始されている。
ASRock社は,世界で重要なシェアを占め極めて著名であるASUSTeK社の子会社として注目され,また,ASUSTeK社では取り扱わない仕様や異なる価格帯の製品を販売していることから,固有のブランドとしての地位も確立している。また,製品には「ASRock」の商標が付されていることから,需要者・取引者の間には,商標「ASRock」がASRock社のマザーボードを表示するものとして広く知られるとともに,「ASRock」がASRock社自身を指す略称としても広く知られていると考えられる。
我が国において,ASRock社のマザーボードは,平成15年(2003年)1月から販売されており,本件商標の出願日である平成15年(2003年)9月18日には短期間であっても既にその名は知られ,マザーボード市場において一定の地位を得ていたと考えられるので,本件商標の出願時及び査定時において,「ASRock」の標章は,ASRock社の著名な略称に該当するものであると考えられる。また,被告は,ASRock社とは全くの無関係の他人であり,許諾を得ることなく本件商標の出願を行っている。
したがって,本件商標の登録は,商標法4条1項8号に違反してされたものである。
(3) 商標法4条1項10号について
本件商標は,ASRock社が使用する引用商標と欧文字の綴りを全く同じくし,「アスロック」の同一の称呼を生じることから,極めて近似する同一に近い商標であることは明らかである。また,本件商標の指定商品中の第9類「コンピュータ用メインボード」とASRock社が引用商標を使用しているマザーボードは同一の商品である。
そして,パソコン及びその周辺機器等の情報通信産業の分野では,台湾の企業が世界的に圧倒的なシェアを持っており,世界的にも注目されているところ,マザーボードの分野では,ASUSTeK社が圧倒的なシェアを誇っており,その子会社であるASRock社も設立当初から注目されていたのであって,ASUSTeK社には出荷台数は及ばないものの,奇抜な仕様のマザーボードを取り扱っていることでも有名であることから,ASRock社のマザーボードは多数の国において販売され,一定のシェアを有している。また,インターネット等でもASRock社のニュースや製品の紹介がされ,ユーザー間でもASRock社やその製品についての情報交換が頻繁にされており,我が国においてもメディア等に取り上げられるなど,一定の人気も得ている。その結果,ASRock社が使用する引用商標は,海外及び我が国の需要者の間でも広く認識され,平成14年(2002年)の設立当初から注目され,その後も各国において使用が継続されているので,本件商標の出願時において既に周知性を獲得し,現在まで維持されているものである。
したがって,本件商標の登録は,商標法4条1項10号に違反してされたものである。
(4) 商標法4条1項15号について
上述のような事情のもとに,被告が本件商標を第9類の指定商品に使用すると,需要者は,ASRock社の商品であると誤認し,あるいは,原告等のように正規の代理店として事業を行う輸入業者等の業務と混同し,又は何等かの関連がある輸入業者が併存すると誤解し,若しくは偽物が輸入されていると誤解することは明らかである。
したがって,本件商標の登録は,商標法4条1項15号に違反してされたものである。
(5) 商標法4条1項19号について
本件商標は,台湾等の外国で周知な引用商標が我が国で登録されていないことを奇貨として,台湾から我が国への輸出を阻止する等の不正の目的,又は高額で買い取らせるため等を目的で出願したものと考えられる。現に,被告は,台湾からの輸入に関し,原告に対して商標権侵害を理由に輸入の中止を求めてきている。このことは,「不正の目的」が実在することの証明と考えられる。
したがって,本件商標の登録は,商標法4条1項19号に違反してされたものである。
(6) 商標法3条1項柱書きについて
本来的に現在又は将来において,自らが使用しない商標については登録を受けることができない。
韓国における関連訴訟では,被告が業務を行う実体がなく,また将来においても事業を行うとは認められないと認定されている。
したがって,被告には,上記訴訟の時点では明らかに韓国における使用の意思はなかったと考えられる。さらに,被告は,個人であり,韓国に居住していることから,我が国において商品に商標を付すような業務を行うことは困難と考えられる。
韓国において使用の意思がなかったものが我が国において使用の意思があるとは到底考えられない。
これらの点にかんがみると,本件商標は,商標法3条1項柱書きに違反してされたものである。
3 審決の理由
審決は,次のとおり,本件商標は,商標法4条1項7号,8号,10号,15号,19号及び同法3条1項柱書きに違反して登録されたものとは認められないと判断した(なお,以下において引用した審決中の当事者及び関係者名,商標等の略号並びに文献等の表記は,本判決の表記に統一した。)。
(1) 商標法4条1項7号の該当性について
「引用商標は,ASRock社の創造に係る独創的な造語とはいえず,本件商標の出願日以前において,我が国におけるこの種商品の取引者・需要者の間において,(外国における周知・著名性を含めて)周知・著名になっていたものともいえない。また,本件商標の態様からみれば,被告が引用商標をそのままの態様において剽窃したというような性質のものでもなく,さらに,ASRock社による引用商標『ASRock』の我が国への出願は,極めて遅かったものといえる。
そうとすれば,仮に,原告が主張しているような事情が被告の側にあったとしても,被告と本来商標登録を受けるべき者であると主張するASRock社との間の商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから,このような場合においてまで,『公の秩序や善良な風俗を害する』特段の事情がある例外的な場合と解して,商標法4条1項7号を適用することはできない。」
「したがって,本件商標の登録が商標法4条1項7号に違反してされた旨の原告の主張は採用できない。」
(2) 商標法4条1項8号,同10号,同15号及び同19号の該当性について
「原告は,本件商標は商標法4条1項8号,同10号,同15号及び同19号に違反してされたものである旨主張している。
しかしながら,‥‥,『ASRock』の標章は,本件商標の出願日以前において,ASRock社の著名な名称(略称)とは認められないものであり,また,引用商標は,本件商標の出願日以前において,我が国におけるこの種商品の取引者・需要者の間において,(外国等における周知・著名性を含めて)広く認識されていたものとは認められない。
してみれば,本件商標の出願日時点において,『ASRock』の標章がASRock社の著名な略称であったこと及びASRock社の業務に係る商品『マザーボード』の商標として周知・著名であったことを前提にした原告の主張は採用できない。
したがって,本件商標の登録は,商標法4条1項8号,同10号,同15号及び同19号に違反してされたものとはいえない。」
(3) 商標法3条1項柱書きの該当性について
「被告は,本件商標をプリント回路基板の一種であるVGAカード製品に使用しているとして,2008年12月29日付けの韓国における『事業者登録証明』,韓国のオークションにおける出品画面,情報通信機器認証書(乙20)とYAHOO!JAPANのオークションにおける出品画面(乙21)を提出している。
乙20の『事業者登録証明』には,商号『エンティエス』の代表者として本件商標の権利者である『Y』の名が記載されており,業態・種目として『コンピューター及び周辺機器,電子製品の卸・小売』とあり,事業者登録日として『2002年3月22日』,開業日として『2002年4月1日』と記載されている。そして,オークションにおける出品画面には,出品年の表示がないものの,韓国及び日本のいずれのオークション出品画面にも本件商標が付されている機器の写真が掲載されている。
これらの証拠に照らしてみれば,被告は,韓国において,コンピューター及び周辺機器,電子製品の卸・小売の業務を行っていたものと推認することが可能ではあるが,原告が主張しているように,これをもって直ちに,被告(出願人)が本件商標の登録査定時において,本件商標の指定商品に係る業務を我が国において行っていたとまではいえない。
しかしながら,そうであるとしても,被告(出願人)の業務範囲が法令上制限されている場合に該当するものともいえないし,また,法令上,指定商品に係る業務を行い得る者の範囲が限定されている場合に該当するものとも認められないから,少なくとも,本件商標の登録査定時において,被告(出願人)が近い将来において本件商標を使用する業務を行うであろう蓋然性までをも否定することはできないものというべきである。
したがって,本件商標の登録は,商標法3条1項柱書きに違反してされたものとはいえない。」
(4) むすび
「以上のとおり,本件商標の登録は,商標法4条1項7号,同8号,同10号,同15号,同19号及び商標法3条1項柱書きに違反してされたものではないから,同法46条1項の規定により,その登録を無効とすることはできない。」
第3原告主張の取消事由
審決は,次に述べるとおり,認定及び判断に誤りがあるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(商標法4条1項7号の適否の判断の誤り)
(1) 日本又は外国で使用されて一定の評価を得ている商標を他人が抜け駆け的に出願したような場合には,出願人の悪意や出願の動機の不純性等の主観的要素を参酌して,その登録は拒絶又は無効とすべきである。他人が選択して使用している,又は選択しようとしている商標を横から剽窃的に出願することは公正な取引秩序を乱すものであり,公序良俗を害するおそれがあるのであって,公正な取引秩序の維持を目的とする商標法の趣旨に沿った実質的な判断がされるべきである。
(2) 本件においては,次のような事実を総合的に勘案すると,被告は,ASRock社の商標を剽窃したものであって,本件商標の出願は悪意の出願であるというべきである。
ア ASRock社とASUSTeK社との関係
ASRock社は,平成14年(2002年)に設立された台湾に本社を置くコンピュータのマザーボードの製造メーカーである。
ASUSTeK社は,マザーボードやビデオカードなどのパソコン向けパーツをはじめ,ノートパソコンやPDA,サーバー製品,ネットワーク機器,携帯電話などを開発・販売している台湾の総合パーツメーカーであり,その開発部門は世界的にも有名で,マザーボードやビデオカード,ノートパソコン,光学ドライブ,ブロードバンドモデムの分野では,常に世界で上位10社にランキングされおり,特に,マザーボードの世界シェアは1位であって,全体の約30パーセントを占める極めて著名なメーカーである。ASRock社は,世界で重要なシェアを占めて極めて著名であるASUSTeK社の第二のブランドを扱う子会社として設立当初から注目され,また,ASUSTeK社では取り扱わない仕様や異なる価格帯の製品を販売していることから,特異な仕様の固有のブランドとしての地位を確立して,世界各国で「ASRock」の商標権を取得し,多くの国でマザーボードを販売している著名な会社である。
イ ASUSTeK社の第二ブランド「Asrock」の報道
被告の本件商標の韓国における原基礎登録出願の出願日前である平成14年(2002年)7月2日に,ASUSTeK社が第二のブランドとして「ASRock」という商標の製品をリリースするというニュース(以下「本件ニュース」という。)が一般に報道された。すなわち,本件ニュースについては,まず,平成14年(2002年)7月2日に台湾のニュースメディアである「DIGITIMES」が伝えている。「DIGITIMES」は,IT関連の情報を新聞及びウェブサイトで配信しているメディアであり,英語版ウェブサイトには毎日3万件の訪問者がある。「DIGITIMES」でのニュースが他のニュースに引用されることもたびたび行われ,業界内では有料であるがゆえに情報性・信頼性の高いメディアであると考えられている。また,本件ニュースは,その他のIT関連のウェブサイトにおいても即座に取り上げられ,翌日には韓国のIT情報ウェブサイトである「K-BENCH」でも情報が伝えられている。本件ニュースにより,「ASRock」ブランドは即座にマザーボード業界では周知になったものと推測される。確かに,本件ニュースが報道された時点では,ASRock社自身の販売実績等はなかったが,既にマザーボードメーカーとして確固たる地位を築き著名なメーカーであったASUSTeK社のニュースとして報道されたことにより,取引者・需要者の間で非常に関心の高い情報として取り扱われた。これらの記事によって,ASRockブランドの製品が近い将来販売される見込みであること,すなわち,ASRock社が「ASRock」の商標をマザーボードに使用するであろうことが容易に認識できるものであり,実際,そのことは「ASRock」の名称とともに広く認識された。
ウ 被告による情報取得の可能性
被告は,本件ニュースによって「ASRock」のブランドで製品がリリースされることを知ったものと考えられる。
すなわち,マザーボード等のコンピュータに関するIT部品の需要者は,当然のことながらコンピュータを日常的に使用し,インターネットにより情報を取得することを頻繁に行っている。原告の調査によれば,被告はコンピュータについての高い知識を有する者であって,当然に当該分野に高い関心を持っていると考えられるし,まして,後述のとおり,韓国において複数の商標を出願・登録している被告は,製品の動向だけでなく商標についても常に高い注意を払っているものと考えられる。したがって,インターネットにおける情報によって被告が韓国における出願前から「ASRock」の名称を知っていたと考えることはなんら不自然ではなく,むしろ知っていたと考えるのが自然である。したがって,被告はASRock社の設立を知らせたメディア等の情報に接触した後に何らかの意思をもって本件商標を出願したとみるのが自然である。
エ 引用商標及び標章「ASRock」の独創性
審決では,「ASRock」の文字構成自体は,ASRock社の創造に係る独創的な造語とはいえないと認定され,その理由として,「solid as rock」のように使用されている例が挙げられている。しかしながら,「ASRock」という文字構成は全体で1つの造語と考えられるものであり,直ちに「solid as rock」から単語を抽出して結合させたと認識されるものではない。また,例え「as」と「rock」を結合させて1つの語としたものであると認識される場合があるとしても,それらの単語を結合した上で商標として採用したという点において独創性が認められるべきである。また,指定商品の分野のみならず,他の分野においても「ASRock」という文字構成は商標又は名称として採用されていない。現に,インターネットで「asrock」という文字構成を検索すると,ヒットした案件のほとんどすべてがASRock社又は同社の製品に関する内容のものである。
したがって,被告が,「solid」を除外して「asrock」という文字構成に着目して独自に商標を考案し,本件ニュース報道の直後に偶然にASRock社の製品と抵触する指定商品について出願したというのは限りなく後付けの理由にすぎず,被告が本件ニュースの存在を知って出願したことは明らかである。
オ 外観態様の相違
審決では,引用商標と本件商標とは外観において顕著な差異を有するものであると認定されている。しかしながら,外観態様が異なる場合であっても,商標として十分に識別機能を発揮する造語であって上述のようにASRock社の固有の商標と認められる「ASRock」と同一の文字構成の商標を他人が使用すれば,取引者・需要者が誤認混同することは明らかである。
また,審決では「そのままの態様において剽窃したというような性質のものでもなく」と認定している。しかしながら,そのままの態様でなくても,需要者に誤認混同を生じさせる商標を被告が使用すれば,ASRock社の商標に化体した信用を剽窃し,又はASRock社の営業を妨害する結果となる。誤認混同を生ずると判断されるような商標を故意に出願したという点で充分に悪意は認定できるものであり,悪意の認定について外観態様が同一であることまでは必要とされないものというべきである。また,被告は,他人の商標を剽窃したからこそ,剽窃したことを見破られないために,あたかも独自に正当に商標を選択したと装うために,あえて外観態様を変えて,自らの意思を隠したとも考えられるというべきである。
カ 被告の営業の不存在
被告の事業の実態を把握するために韓国において調査を行ったが,被告の事業の実態を正確には把握することはできなかった。すなわち,「業体及び商標調査結果報告書」(甲97,100)によれば,被告が事業登録している会社である「NTS」の所在地を訪問したものの,当該所在地において被告が事業を行っている様子はなかった。また,「NTS」以外に被告が他の名称で事業を行っていることも確認できなかった。したがって,被告は本国の韓国においては正当に事業を行っていないと評価せざるを得ないし,被告の所在地である韓国においても事業実体が認められない状況で,我が国において正当に事業を行い,又は商標を使用する意思があるとは到底考えられないから,被告は我が国においても事業を全く行っていないと考えられる。
キ 本件商標の不使用
被告の業務は上述のように事業としての実体がないものと考えられるため,本件商標は使用されていないと考えられる。被告は,オークションの出品画面を使用していることの証拠として提出しているが,同証拠からは被告が出品した物であるか否か,出品された製品が被告が業として製造した物であるか否か確認することはできない。また,業として商品を製造する者が,自己の製品をオークションのみで販売するということは通常考えられない。実際に正当に使用しているのであれば,使用の証拠として,通常は,取引書類,販売の実績,広告等を提出するのが一般的であり,かつ最も容易であるはずである。被告は,業として製造・販売していた場合に当然に存在する書類等が提出できないからこそ,とりあえず一度インターネットオークションに出品し,あたかも使用しているかのようにみせかけるために上記証拠を提出したものと考えられる。
また,韓国の出願から既に7年以上経過し,また我が国を指定国とする国際出願からも既に6年,更に我が国での登録からも既に2年5か月も経過している現時点で,商標を付する対象である商品に関して製造も販売もしていないことからすれば,被告には本件商標を自己の事業に使用する意思はないものというべきである。
ク 被告の韓国における商標出願・登録の実態
被告は韓国において多数の商標を出願・登録しているが,その中には,他社が海外で使用する商標を剽窃して出願した商標,あるいは「NetPhone」や「WebPhone」など,韓国において一般名称として広く使用されている語と考えられるものが複数含まれていることから,被告がそれらの商標を自己の製品等に使用するために取得したとは考えられず,むしろ,これらの商標が将来広く使用されることを見越して出願したものと考えられる。
また,被告は無効となった韓国商標「Asrock」の他に,韓国において更に態様を変更した「Asrock」も出願している(ただし拒絶されている。)。
さらに,「A-ZROCK」という商標出願もして登録を得ている。このように商標の態様を変更してまで再度出願・登録しているという点からも,被告にはASRock社に対する悪意が感じられる。その上,被告は,上記の韓国において拒絶された商標「Asrock」について,平成21年(2009年)9月14日付けで日本に商標登録出願している。本件商標が無効になったとしても引き続きASRock社に対して優位な立場に立つために出願したものと考えられる。
ケ 被告による警告状の送付
被告は,原告及びその他のASRock社製品の取扱業者に対し,再三,警告状を送付してきている。前述のとおり,被告は韓国に在住する者であり,我が国において事業を行っている事実は確認できていない。我が国を指定国とする国際出願を行ってから6年もの歳月が過ぎているにもかかわらず,全く事業を行う様子を見せていない被告が,これほど頻繁に警告を行うことは不自然であるといわざるを得ず,執拗に警告状を送付してくる点で充分に悪意が認められるものである。すなわち,被告は,明らかに将来的にASRock社の製品が市場に出回り商標が広く知られることを想定して,商標権を譲渡する等の不正の利益を得る目的あるいは損害を与える目的で出願したと考えざるを得ない。現在においても,被告からの度重なる警告書の送付により販売店がASRock社の製品を販売できない等の被害が出ており,需要者も困惑しているのが現状である。また,調査報告によると,韓国においても,被告はASRock社の販売代理店である韓国の企業である株式会社アスウィン(以下「Aswin社」という。)に対して警告状を送付しており,被告はAswin社に対して過度な譲渡金額を要求したとのことである。被告の悪意は明らかである。
(3) 以上のとおり,本件商標は著しく社会的妥当性を欠くものであって,これに商標権という独占権を付与することは明らかに商標法の趣旨に反するものであり,悪意を持って出願した被告の商標によって,保護の要請が極めて高いASRock社のハウスマークである「ASRock」の使用が妨げられることは妥当でなく,本件商標の登録を無効にすべき合理的な理由が存在していると考えられる。
したがって,本件商標は「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標」に該当するというべきであるから,商標法4条1項7号の規定に違反して登録されたものとはいえないと判断した審決は違法であり,取消を免れないものである。
2 取消事由2(商標法4条1項8号,10号,15号及び19号の適否の判断の誤り)
(1) 引用商標及び標章「ASRock」の周知・著名性
商標の周知性については,一般的には使用方法や使用期間,売上高,市場占有率等を参酌することにより認められるが,例えば,第三者による使用等,自己の使用状況のみにとらわれず周知性を獲得する例外的な場合もある。ASRock社についても,このような例外的な事情が存在するものと考えられる。
すなわち,マザーボードの分野では,圧倒的なシェアを誇るASUSTeK社は需要者の間で関心の高いメーカーでもあったことから,ASUSTeK社の第二ブランドとしての「ASRock」に関する本件ニュースは,ASUSTeK社に関する報道として高い関心を持って需要者に認識され,「ASRock」のブランド名が即座に広く認識されたものと考えられる。その後,本件商標の出願日である平成15年(2003年)9月18日までの間にもメディアにおいてASRock社のニュースや製品の紹介等が頻繁にされており,ユーザー間でもASRock社やその製品についての情報交換が頻繁にされていたばかりか,実際に,ASRock社が精力的に事業を行い,多数の国においてASRock社製品が販売され,一定のシェアを獲得した結果,本件商標の出願時には更に周知・著名性が増したものと考えられる。そして,「ASRock」ブランドの製品は,我が国においても各種メディア等に取り上げられ,その特殊性が認められ一定の人気を得ている。
また,ASRock社の製品は,一般的なマザーボードとは異なりイレギュラーな仕様のものを取り扱っていることでも有名であり,独自の商品展開により特にこの種の業界においては高い人気を集めているものである。確かに,ASRock社の製品はASUSTeK社に比べると絶対数としての市場占有率は低いが,ASRock社の取り扱っている製品のような特殊態様の場合には,一般的な仕様の製品よりも占有率が低くなるのは当然のことである。市場占有率の高い製品は通常は汎用性のある一般的な製品で需要が多いと考えられるため,汎用性のある製品の方が広く認識されている場合が多い。一方,特殊性があるものや個性が強い製品の場合,全体の母数に対して市場占有率が低いことをもって直ちに周知性が認められないものではないと考えられる。
さらに,指定商品の需要者,特に取引者にとってみれば,ASRock社の製品のように個性を持った商品については,他の商品と異なる位置付けがされるものである。数字だけ見れば一般的に周知であるとみなされる程度の市場占有率には及ばないと判断されることがあるとしても,母数は当該業界及びその需要者ということになるので,実際の流通量にかかわらず,業界では明確に識別され,認識されているものであると評価される。そして,ASRock社製品及び本件商標の指定商品の分野については,市場占有率とは必ずしも比例しない需要者におけるメーカーや製品に対する認識が存在し,ASRock社の製品及び標章「ASRock」は,本件ニュース報道により海外及び我が国の需要者の間で注目を集め,広く認識されたものと考えられ,また,その後,各国において使用が継続されているため,本件商標の出願時において既に周知性を獲得しており,特殊仕様のマザーボードとしての周知性は現在まで維持され,さらに高まっていると考えられる。
次に,著名性に関して検討する。ASRock社の英文表記は「ASRockIncorporation」であるところ,「Incorporation」は単なる法人格の表示であり,ASRock社の製品を表示する商標として使用している「ASRock」の部分が特に顕著性のある部分である。ASRock社を指し示す場合には冗長な正式名称全体でなく,「ASRock」の部分を用いる場合が多いのが実情である。そして,前記のとおり,ASRock社の名称(略称)及び引用商標は特にマザーボード等コンピュータの分野の当業者及び需要者等には,本件ニュース報道と同時に即座に周知になったものと考えられ,一方,マザーボード等のコンピュータ関連業界に限らず,ASRock社以外の他人が「ASRock」の商標及び名称を使用している事実は認められないから,これを他人である被告が使用すればASRock社と混同を生じることは明らかである。したがって,本件商標の出願時には,既に「ASRock」はASRock社の製品のみを表す商標であるとともにASRock社の所有する名称(略称)と認識され,著名なものとなっていたと考えられる。
(2) 商標法4条1項8号該当性
本規定の趣旨に沿って考えると,本件商標の指定商品・役務と密接な特定の分野において充分に広く知られている名称の略称については,たとえ世間一般から見てすべての地域や他の分野の者に対して著名の要件を満たしていない場合があったとしても,特定の分野における周知によって,特定の個人や企業,団体を想起させ判別させる程度の知名度を有する場合には保護すべき人格権が存在するというべきであるから,他人による当該略称についての登録は排除する必要があると考えられる。
これを本件についてみると,前述のとおり,ASRock社の英文表記の略称である「ASRock」はASRock社の製品に付されて使用されており,ASRock社自身を指し示す場合には「ASRock」と称されることも多く,実質的には「ASRock」の名称がどのような法上の組織かを問わず本質的な名称表示と考えられている。なお,この点について,被告は,ASRock社が台湾及び中国においては「華擎科技」等の名称を使用しており,「ASRock」という名称を使用していない旨主張するが,被告における韓国出願前の報道により既に「ASRock」の名称が本件ニュースとして報道されており,上記報道により需要者に広く認識されたものというべきである。
一方,本件商標の指定商品は,ASRock社の主要商品であるマザーボードと同一または極めて近い商品であって,少なくとも需要者を共通にするものである。たとえASRock社の商品が世間一般に広く知られていなかったとしても,少なくともマザーボード等の業界においてはASRock社の商標として広く認識されているものであって,「ASRock」の名称はASRock社の正式名称の略称として著名であると考えられるのであるから,本件商標の指定商品についてASRock社以外の者が「ASRock」を使用すれば,ASRock社の人格的な利益を害することは明らかである。
以上のとおり,本件商標は出願時に著名と認められるASRock社の英文表記の略称「ASRock」と実質的に同一と判断されるものであって,原告の承諾を得ずに出願されたものであるから,本願商標は,商標法4条1項8号に該当するものである。また,仮に「ASRock」について略称として広く一般に著名であると認められない場合があったとしても,「ASRock」はASRock社の名称と同視されるべきものであって,正式名称ではなくとも保護すべき人格的利益を形成する需要者の認識が存在するため,当該特殊な業界において著名な略称と評価できるから,本号の趣旨からすれば,本件商標は当然に登録を排除すべき商標であるというべきである。したがって,商標法4条1項8号の規定に違反して登録されたものとはいえないと判断した審決は違法であり,取消を免れないものである。
(3) 商標法4条1項10号該当性
前記(1) のとおり,本件ニュースが報道された時点で,ASRock社の商標「ASRock」は既に特定の需要者に広く認識されていたものと考えられる。また,本件商標の出願時において,我が国での販売数量のみから判断すると周知性を認めることができないとしても,マザーボードの需要者は,コンピュータ関連機器について専門的な知識を有するものであり,インターネット等を利用して独自に情報を入手しているという実情も認められることから,たとえ日本語でなかったとしても上記報道を知る可能性は,決して低くないと考えられる。需要者の間ではマザーボードにおいて圧倒的な市場占有率を有するASUSTeK社に関する新たな展開について注目されていたものと考えられ,上記報道から本件出願までの1年2か月余りの期間において,更にインターネット等によってASRockに関する情報を入手する機会は増加していたと考えられる。したがって,我が国においても需要者の間に認識されていたと考えられる。
そして,本件商標と引用商標及び標章「ASRock」とは大文字と小文字の差異はあるもののその綴りを同じくし,「アスロック」という称呼を同一にする類似の商標である。また,原告は引用商標及び標章「ASRock」を本件商標の指定商品「コンピュータ用メインボード」等に使用している。
したがって,本件商標は原告の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているマザーボード又はこれに類似する商品についての商標であるから,商標法4条1項10号の規定に違反して登録されたものとはいえないと判断した審決は違法であり,取消を免れないものである。
(4) 商標4条1項15号該当性
前記(1) のとおり,引用商標及び標章「ASRock」はASRock社の製品に使用される商標として本件商標の出願時点で既に周知・著名性を獲得していたものである。また,「ASRock」は造語であって,他人によって「ASRock」の商標が使用されているという事実も確認できないことから,「ASRock」はASRock社のみを表示する固有の商標と認識されていたものと考えられる。そうすると,ASRock社の商標と同一の文字構成からなる本件商標を,ASRock社の主力製品と同一の指定商品「コンピュータ用メインボード」及びそれと関連性が認められるその他の指定商品「半導体,プリント回路基板,コンピュータ用プログラムを記憶させた記録媒体,パーソナルコンピュータ」に使用した場合には,ASRock社の業務に係る商品と混同を生じるおそれがあることは明らかである。
したがって,本件商標は他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標に該当するから,商標法4条1項15号の規定に違反して登録されたものとはいえないと判断した審決は違法であり,取消を免れないものである。
(5) 商標法4条1項19号該当性
前記(1) のとおり,本件商標と同一の文字構成からなる商標「ASRock」はASRock社の製品に使用される商標として本件商標の出願時点で既に海外においては周知・著名性を獲得していたものである。特に,ASUSTeK社の本社のある台湾では,ASUSTeK社は,世界的に活躍する企業としてその動向が需要者のみならず世間一般に特に注目されているものと考えられ,ASRockブランドに関する本件ニュースはASUSTeK社に関する新たな報道であり,需要者・取引者の間で関心の高い報道として広く認識されていたものと考えられる。
そして,前記のとおり,被告は本件商標を悪意をもって出願したものであり,未だに正当に使用する意思はなく,ASRock社に損害を与え,又は先登録の地位を利用して不正の利益を得るという目的を持って出願したものであることは明らかである。
したがって,被告は,不正の目的をもって本件商標を使用する者であり,それによって,他人の業務に係る周知商品と混同を生ずるおそれがあるから,商標法4条1項19号の規定に違反して登録されたものとはいえないと判断した審決は違法であり,取消を免れないものである。
3 取消事由3(商標3条1項柱書きの適否の判断の誤り)
審決は,被告が提出した証拠をもって,韓国においてコンピュータ及び周辺機器,電子製品の卸・小売の業務を行っていたものと推認することが可能であると認定している。確かに,被告の業務範囲が法令上制限されている場合に該当するものとはいえず,法令上指定商品に係る業務を行い得る者の範囲が制限されている場合に該当するものとも認められないという点については認めざるを得ない。
しかしながら,形式的には被告が指定商品に係る業務を行うことが不可能でないとしても,前述した被告の長年にわたる業務の実態,他の商標取得の実情,他の商標も使用していない現状,関連会社への警告文の送付,譲渡を前提とする対価の要求等の様々な状況を総合的に考察した場合,被告は,当初から悪意をもって本件商標を出願したことは明らかであって,被告には,これを出願当初より使用する意思はなかったと考えざるを得ない。
この点について,被告は,コンピュータ及び周辺機器を取り扱う業者であることを標榜し,VGAカード製品に本件商標を使用していると主張するに至っているが,製品そのものの提出さえしておらず,韓国の出願及び日本の出願から相当な期間が経過している現時点においても,正当に事業を行っていること及び商標を使用していることをなんら明らかにしていないのであって,このような被告の応答からは,出願当初より使用する意思がなかったと判断せざるを得ないというべきである。
したがって,本件商標は商標法3条1項柱書きの規定に違反して登録されたものとはいえないと判断した審決は違法であり,取消を免れないものである。
第4被告の主張
次のとおり,審決の認定判断には誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(商標法4条1項7号の適否の判断の誤り)に対して
(1) 悪意の出願について
原告は,日本又は外国で使用されて一定の評価を得ている商標を他人が抜け駆け的に出願したような場合には,出願人の悪意や出願動機の不純性等の主観的要素を参酌して,出願・登録を拒絶・無効とすべきであり,他人の名称のような場合,他人が選択した又は選択しようとしている商標を横から剽窃的に出願することは公正な取引秩序を乱すものであり,公序良俗を害するおそれがある出願であると主張する。しかしながら,本件商標の出願日である平成15年(2003年)9月18日以前に日本で引用商標及び標章「ASRock」が使用された証拠は全くなく,また,外国の場合でもASRock社が標章「ASRock」を使用した平成15年(2003年)1月以前,又は平成14年(2002年)10月以前である平成14年(2002年)7月3日に本件商標の原基礎登録商標が韓国で出願されていることから,本件に本号が適用される余地はないというべきである。
また,原告は本件商標の出願が悪意的な出願であると主張しているが,上記のとおり,本件商標の出願当時,我が国において引用商標及び標章「ASRock」は全く使用されていなかったため,悪意の対象は存在していなかった。原告の主張は本件商標出願以降の事情(本件商標の出願以降に引用商標及び標章「ASRock」が国内で使用されたこと)を理由としているものであり,そのように出願当時の悪意を遡及して判断することは法律不遡及の原則に違反する違法な判断であり,原告の主張は認めることができない。
さらに,原告が提出した資料によれば,ASRock社は,十分な期間があったにもかかわらず我が国に商標を出願しなかった。このような最低限の努力を怠った外国企業の私益のために国内法をむりやりに適用することは妥当でない。未登録商標は長期間広く使われ,法により保護する価値が蓄積した商標に限り制限的に保護されている。しかし,外国の企業が将来国内で使う可能性のある商標を保護しなければならない法的根拠はない。
(2) 原告が主張する諸事情に対する反論
ア ASRock社とASUSTeK社との関係について
(ア) ASRock社は,平成14年(2002年)5月に「華擎科技股○有限公司」(○は「イ」に「分」と記載)という名称で設立され,設立当時には「ASRock」という名称を使用していなかった。平成20年(2008年)現在でも台湾及び中国では,「華擎科技」,「○擎」(○は「化」の下に「十」と記載)という略称を使っており,ASRockという略称を使用していない。
(イ) また,原告は,前記第3の1(2) アのとおり,ASRock社はASUSTeK社の子会社であるなどと主張しているが,ASUSTeK社は,平成15年(2003年)2月11日付の公式書信及び平成17年(2005年)4月15日付の回答を通じてASRock社は子会社ではないという事実を明らかにしたことがあり,また,平成18年(2006年)4月を基準としてASRock社の持分保有者名簿を検討してみると,ASUSTeK社には全く持分がないことが分かる。この点について,原告は甲85を根拠に平成18年(2006年)以後にはASRock社がASUSTeK社の子会社になったと主張しているが,ASRock社の持分を所有しているのは,ASUSTeK社ではなく,同社の役員個人若しくは関連会社であるから,原告の主張は事実ではない。このことから,ASRock社とASUSTeK社との関連性については,子会社,関連会社,関係会社等の用語を用いることは適切ではない。本件商標の出願日(平成15年(2003年9月)以前に台湾のASRock社又は引用商標が国内に知られていた証拠は全くなく,ましてや台湾の2つの会社が子会社と親会社の関係があるとして国内の需要者間に広く知られていたという証拠も全くない。
イ 本件ニュース報道について
本件ニュースをはじめて報道したとされる「DIGITIMES」は台湾の英文有料サイトであり,すべての内容を無料で一般公開しているサイトではないため,一般消費者らに広く知られたサイトではない。原告が提出した甲19を見ても,ただ掲示物のタイトルが分かるだけである。また,ここに掲載される記事は,当事者が直接発表した事実ではなく第三者が記述したものであって,確定した事実ではなく,単に未来の予想を記述したものにすぎず,そのような予想が未来に実現するかどうかが明確には分からない状態で作成されたものである。さらに,本件ニュース報道も,韓国や日本ではない中国に対する予想であり,製品の種類も示されていないし,引用商標のようにデザインされた商標は,掲示物に全く表れておらず,不確実な未来の予想を第三者が記述したものにすぎない。原告は,「DIGITIMES」は毎日3万人のアクセス者がいると主張するが,甲19が掲示された平成14年(2002年)7月当時のアクセス者数及び特定掲示物の閲覧人員を客観的に確認できる証拠はない。
ウ 被告による情報取得の可能性について
被告は,本人の名前の最後の文字と同じ発音である「ROCK」と英語辞典に出てくる一般的な単語を結合して本件商標を構成したものであって,本件ニュース報道に依拠して出願したものではない。
原告は,本件ニュース報道の直後に本件商標の原基礎登録出願がされたことを強調するが,相当な創作性が認められる電話の発明事例においても,お互い異なる2名が同日わずか2時間を前後して特許出願した事例があり,また,ダーウインの進化論も同じ時期に他の学者によって類似内容が発表されるなど,同じ時期の発明又は発見事例が多数見受けられる。ましてや,商標は本質的に創作の問題ではなく選択された標章の使用問題であり,選択は既存のものからの選択を意味するにすぎず,特に文字を選択して構成する商標の場合には自然に類似商標が存在するようになるものである。したがって,「ASRock」に関する本件ニュース報道と本件商標の原基礎登録出願の日時が接近していても不自然ではない。
エ 引用商標及び標章「ASRock」の独創性について
引用商標及び標章「ASRock」は独特な態様の商標ではなく,単純に英文字でのみ構成されたものである。韓国における無効審判当時,ASRock社は,英語辞典に出てくる一般的な英熟語「solid as rock」(堅固な,信頼できるという意味。)を利用して商標「ASRock」を構成したものだと自ら明らかにしている。引用商標及び標章「ASRock」は,このように一般的に使われる英熟語によって構成されるものなので,相当な創作性が認められる商標だとは考えられない。
また,構成単語である「as」と「rock」は,どちらも基礎英単語としてよく使われる単語であり,特に,「rock」という単語は,ロック・ハドソン(Rock Hudson),ロックフェラー(Rockfeller)などの人名やRound Rock(アメリカテキサス州の都市),Little Rock(アーカンソー州の首都),AyersRock(オーストラリアの観光地)などの地名にもよく含まれているごく一般的な単語であり,韓国特許庁に出願された商標のうち,「as」又は「rock」を使用した商標は,「ASROLL」,「ASWELL」,「ARTROCK」,「MASROCK」,「HIROCK」,「ROCKWELL」,「CASS & ROCK」など500件以上あり,アメリカ特許商標庁には6000件以上が出願されている。
さらに,引用商標及び標章「ASRock」と創作動機の等しい類似商標「AZROCK」は,古くは1932年からアメリカ,韓国,台湾といった国々で既に他人によって出願されたことがある。
このように,引用商標及び標章「ASRock」には,商標の構成及び動機が等しい他人の先願類似商標が国内外にすでに存在し,英語辞典に出てくる英熟語を構成する単語であることを勘案すると,相当な創作性が認められる商標であるとはいえないというべきである。
オ 外観態様の相違について
本件商標と引用商標とはその外観が異なっており,被告が引用商標を剽窃したものでないことは明らかである。
この点について,原告は,被告が周知著名である引用商標の外観を変えて本件商標を出願した旨主張する。しかし,本件商標の外観は韓国の原基礎登録商標と同一であり,原基礎登録商標の出願当時,引用商標は海外及び国内に存在していなかったのであるから,原告の主張は失当である。
カ 被告の営業の不存在について
被告は平成14年(2002年)3月からコンピューター及び周辺器機を取り扱う事業を運営しており,本件商標をプリント回路基板の一種であるVGAカード製品に使用するなどの事業を行っている。このことは,乙20の1ないし3の各種証明書から明らかである。
この点について,原告は,「業体及び商標調査結果報告書」(甲97,100)をもって,原告が韓国においても本件商標を使用する事業を行っていないと主張するが,上記報告書は単純に一方的な主張を記述した文書にすぎないし,同報告書の作成者の所在及び業種が不明であり,証拠として認めることはできない。また,そこに記載された事項が事実でないことは,「確認書」(乙70)により明らかである。
キ 本件商標の不使用について
原告は,被告の商品の販売がオークションによるものであることを問題とするが,韓国のオークションはサムソン,LG,韓国HPをはじめとする有名ブランド企業も会員として登録し,製品を販売している韓国の代表的な商取引ウェブサイトであり,被告も事業者会員として登録して製品を販売しているのであり,本件商標の製品はヤフーオークションで販売され,日本のグーグル社の広告を代行する企業を通じて被告の日本語ホームページ及び本件商標の製品が広告されているのであるから,被告が事業で本件商標を使用していることは十分に証明されている。
ク 被告の韓国における商標出願・登録の実態について
原告は,前記第2の2(1) イにおいて,本件商標の原基礎登録商標は無効審判で無効とされていると主張するが,韓国での無効審決の理由は,原基礎登録商標が他人の先登録商標「SLock」と類似しているというものにすぎず,商標「ASRock」の周知性を認めるものではない。韓国での無効審判請求人であるASwin社の主張は,①公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標,②国内又は外国の需要者間で周知の商標,③登録決定日当時,特定人の商標として知られている商標に該当するため,登録商標が無効とされなければならないということであったが,認められなかったものである。
ケ 被告による警告状の送付について
警告は商標権者の正当な権利であるため,これを理由として登録商標を無効としなければならないという主張を認めることはできない。
原告は,被告からの通知書を受領すると,一時的に商標の使用を中止し,数か月後再び商標の使用を続けるか,別の企業に引用商標を使用されるなどの態様で引き続き使用した。万が一,原告が通知書を受領して数か月の猶予期間以後に引用商標の使用を中止し新しい商標を出願して使用したら,被告が追加的に警告状を送る理由はなかったはずである。
2 取消事由2(商標法4条1項8号,10号,15号及び19号の適否の判断の誤り)に対して
(1) 引用商標及び標章「ASRock」の周知・著名性について
ア ASRock社製品の市場占有率
(ア) 世界市場における占有率
ASRock社は,平成14年(2002年)10月からマザーボード製品を販売し始め,その販売数量は同年10月(5000個),同年11月(11万3000個),同年12月(12万3000個),平成15年(2003年)1月(20万7000個),同年2月(15万2000個),同年3月(21万5000個),同年4月(20万3000個),同年5月(26万4000個),同年6月(26万8000個),同年7月(31万1000個),同年8月(34万4400個)となっており,平成14年(2002年)10月から平成15年(2003年)8月末までの数か月間で月平均20万個を販売したにすぎない。ところが,平成15年(2003年)のマザーボートの世界市場規模は1億5000万個であるから,ASRock社の製品が世界市場で占める割合は決して高いものとはいえない。
また,ASRock社が販売した数量の中にはOEM方式により販売された数量が含まれているため,平成15年(2003年)当時に商標「ASRock」が消費者に知られるように販売された製品数量は,より微々たる水準である。
(イ) 日本市場における占有率
本件商標の出願日以前にASRock社が日本に販売した製品の数量は,平成15年(2003年)1月14日に20個,同月27日に20個の計40個であり,総金額は1960ドルにすぎない。マザーボードは,デスクトップPCごとに1つずつ必須で装着されるものであるところ,平成15年(2003年)当時の日本におけるマザーボードの市場規模は,数量基準で1078万個(月平均90万個)であるから,ASRock社の製品40個が日本市場で占める比重は限りなく0%に近い微々たる数量である。
イ 本件商標出願時点での引用商標及び標章「ASRock」の使用状況
本件商標の出願(平成15年(2003年)9月)を基準としてみると,本件商標の出願日以前に引用商標又は標章「ASRock」を付した製品が日本国内で販売されたという証拠はない。また,外国でも引用商標又は標章「ASRock」の使用期間については,中国では平成15年(2003年)初頭から数か月間であり,韓国では同年3月から数か月間,ロシアでは同年6月から数か月間にすぎず,世界市場での市場占有率も微々たる水準である。以上のとおり,同年9月当時,引用商標及び標章「ASRock」は,外国で極めて初期の使用段階にあり,周知商標として判断する要件を満たしていない。
ウ この点について,原告は様々な書証を提出して,周知性があると主張するが,まず,甲58ないし64は,主に平成15年(2003年)7月から同年9月初めの間に作成された輸出入関連書類である。輸出入書類は商標の使用証拠とすることができず,ただマザーボードの輸出入の事実のみを確認することができるものにすぎない。しかも,上記書類上に表示された製品の数量は合計1万0910個である。平成15年(2003年)当時の世界市場規模が1億5500万個であることを勘案すれば極めて少ない数量であり,平成15年(2003年)9月以前に消費者に販売された数量も不明である。
また,甲66及び67は,引用商標又は標章「ASRock」の付された製品として,日本には平成15年(2003年)1月に総数40個のマザーボードが輸入されたことを示す書類である。しかしながら,同年9月以前に日本国内で販売された証拠はなく,また,取引期間も数か月間にすぎないばかりか,これも上記と同様にすべて消費者間で取引された書類ではなく,輸出入書類にすぎないので,商標を使用した証拠として認めることはできない。
甲69及び甲70も,いずれも本件商標出願日から4年経過後の平成19年(2007年)の資料であるため,証拠として認めることはできない。
さらに,甲19ないし甲55は,いずれも外国のウェブサイトの写しであり,最初の掲示日付は平成15年(2003年)3月からである。インターネット掲示物は,一日に数千万ページが作成されるが,わずか数か月の間で30件余りのインターネット掲示物が存在するという理由だけで引用商標若しくは標章「ASRock」の周知性を認めることはできない。
なお,原告は引用商標が世界中で出願登録されているとして甲57を提出するが,同書証は,ただ様々な国に商標を出願したという事実のみを確認することができるものであり,実際に引用商標が世界的に周知であるか否かを示すものではない。また,出願日はただの一件も例外なくすべて本件商標の原基礎登録商標が出願された後である。
エ 以上の事実から明らかなとおり,引用商標及び標章「ASRock」は,本件商標の出願当時,周知・著名であったとはいえない。
(2) 商標法4条1項8号該当性について
上記(1) により,ASRock社の名称又は略称が著名であったという事実はなく,審決の判断に誤りはない。
(3) 商標法4条1項10号及び15号該当性について
前記(1) のとおり,本件商標の出願日以前に引用商標又は標章「ASRock」を付した製品が日本の需要者間で周知であるという証拠が提示されていないため,本号が適用される余地はなく,原告の主張は理由がない。
したがって,引用商標又は標章「ASRock」に周知性があることを前提とする原告の主張はいずれも失当であり,本件商標につき商標法4条1項10号及び15号該当性を認めなかった審決の判断に違法はない。
(4) 商標法4条1項19号該当性について
前記(1) のとおり,本件商標の原基礎登録商標が出願された当時(2002年7月),引用商標及び標章「ASRock」は外国及び我が国において全く使用されていなかったので,本号が適用される余地はなく,原告の主張は認められない。
したがって,商標「ASRock」が我が国若しくは外国において周知であることを前提とする原告の主張は失当であり,本件商標につき商標法4条1項19号該当性を認めなかった審決の判断に違法はない。
3 取消事由3(商標3条1項柱書きの適否の判断の誤り)に対して
前記1(2) カのとおり,被告は平成14年(2002年)3月からコンピューター及び周辺器機を取り扱う事業を運営しており,本件商標をプリント回路基板の一種であるVGAカード製品に使用している。また,被告の業務範囲が法令上制限されている場合に該当するものともいえないし,法令上,指定商品に係る業務を行い得る者の範囲が限定されている場合に該当するものとも認められないから,本号が適用される余地はない。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法4条1項7号の適否の判断の誤り)について
(1) 証拠(甲1ないし3,10ないし16,18ないし86,94ないし97,100,104,乙1,3,7ないし11,20,21,23,29,30,48,53,54,61,70〔枝番のあるものは枝番も含む。〕)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる(なお,各文末尾には,その認定の根拠となった主要な証拠を掲記した。)。
ア ASRock社設立の経緯及びASUSTeK社との関係
ASUSTeK社は,台湾において平成2年(1990年)に設立された,台湾で最大手のコンピューターのマザーボード製造メーカーであり,平成10年(1998年)に米国のニューズウィーク誌において「世界のベストIT企業」の18位に選ばれ,平成14年度(2002年)度の電子・通信・メディア企業の純利益ランキングでは世界57位の企業であり,マザーボード,ビデオカード,ノートパソコン,光学ドライブ,ブロードバンドモデム等の分野では,常に世界で上位10社にランキングされおり,特に,マザーボードの世界シェアは1位であって,平成15年(2003年)における世界の総販売量は3000万ピースであり,世界市場の約30パーセント以上を占めていた(甲10ないし16,乙8,9)。
ASRock社は,平成14年(2002年)5月10日に設立された台湾に本社を置くコンピュータのマザーボードの製造メーカーであるが(甲10,乙3),ASUSTeK社の法律上の子会社であるかどうかはともかく,同社の関連企業,役員等が株を保有する同社の関連会社であって(甲85,104,乙7,10,11,61),マザーボードの分野において,ASUSTeK社の第二のブランドを扱う会社として設立され,ASUSTeK社では取り扱わない特異な仕様や低価格帯の製品を製造・販売してきた(甲10)。なお,ASRock社は,台湾及び中国においては,主に「華擎科技股○有限公司」(○は「イ」に「分」と記載)の名称を用いており,「華擎科技」又は「○擎」(○は「化」の下に「十」と記載)」という略称を使用している(甲34ないし45,乙3)。
なお,原告は,ASRock社の正規輸入代理店として,我が国において,引用商標の付されたASRock社製のマザーボード等の輸入販売を行っている。
イ 本件ニュース報道の状況及びその内容
被告による商標「Asrock」の韓国における原基礎登録商標の出願日の前日である平成14年(2002年)7月2日,台湾のニュースメディアである「DIGITIMES」によって,ASUSTeK社が,同月中に,中国において,同社の第二のブランドとして「ASRock」というブランドの製品をデビューさせると見込まれる旨の報道が流された(本件ニュース。甲19,94,95,乙48)。
「DIGITIMES」は,IT関連の情報を新聞及びウェブサイトで配信している有料のメディアである。そして,同日即座に,本件ニュースが,他のウェブサイト上のニュースにおいて引用され,例えば,「ASUSTeK社のHua Chingによる子会社が製造したマザーボードは,ASROCKというブランド名とともに,今月中に中国において出回ることが期待される」,「ASUSTeK社の会長であるAは,ブランドネームASROCKについて,ASUSTeKを基にして自ら選んだと言っている。」,「スケジュールから判断すると,ASROCKブランドは,7月下旬には中国に登場し,8月にはインド,中央アメリカ,南アメリカの市場で発売されるとみられる」などの記事で紹介された。また,翌7月3日には韓国のIT情報ウェブサイトである「K-BENCH」でも韓国語で本件ニュースが伝えられた(甲20ないし22)。
また,上記原基礎登録商標の出願日から本件商標の出願日(平成15年(2003年)9月18日)の間においても,ASRock社及びASRock社製品に関する情報は,我が国,台湾,韓国,中国,インドネシア,ロシア等の複数の国のウェブサイトに掲載された(甲23ないし甲56)。
ウ ASRock社による商品の製造・販売及び流通の状況
(ア) ASRock社は,会社設立後,マザーボードの製造・販売を開始し,平成15年(2003年)7月ないし9月のマザーボードの取引書類によれば,その間,韓国,南アフリカ,中東,インド,マレーシア,オーストラリアなどに合計約1万個のマザーボードを輸出している(甲58ないし64)。
ASRock社のマザーボードの販売数量は,平成14年(2002年)10月では5000個であったが,平成15年(2003年)8月には34万4400個となっており,この間の月平均は約20万個であった(乙23)。
なお,平成15年(2003年)におけるパソコンの世界市場規模は約1億5500万台であった(乙29)。
(イ) ASRock社の我が国に対する輸出は,本件商標の出願日前のものとしては,平成15年(2003年)1月2日付け及び同月21日付けの請求明細書によれば,いずれも各20ピースであり,また,本件商標の出願日後のものとしては,同年10月11日付けの請求明細書によれば,1800ピースであった(甲65ないし68)。なお,平成15年度における我が国におけるパーソナルコンピュータの出荷実績は約1078万台であった(乙30)。
(ウ) その後,ASRock社は販売実績を伸ばして,急成長し,平成15年以降同社のマザーボードの記事がコンピューター関係のウェブサイトや雑誌に頻繁に掲載されるようになり(甲71ないし78),平成19年(2007年)の第11週には世界のマザーボード市場の10.1%,同年の第22週には7.5%のシェアを占めるまでになった(甲69,70)。
エ ASRock社による引用商標及び標章「ASRock」の出願・登録状況
ASRock社は,本件ニュースが報道された翌日である平成14年(2002年)7月3日に,台湾において,商標「ASRock」を出願したのを皮切りに,平成16年(2004年)1月12日までの間に,アメリカ,カナダ,EU,中国,ロシア,香港,シンガポール等世界27の国と地域において,引用商標と同一の商標を出願し,登録された(甲57)。
なお,ASRock社は,我が国においても,平成15年(2003年)12月25日に引用商標と同一の商標を登録出願したが,本件商標が先願として存在していたことを理由に登録出願は拒絶査定されている(甲2,弁論の全趣旨)。
オ 本件商標と引用商標の構成の相違
本件商標は,別紙商標目録記載1に示したとおり,太字で表された「As」の文字と灰色の長方形内に太字で表された白抜きの「rock」の文字からなるものであり,「As」と「Rock」というそれ自体単独で意味を有する英単語の結合商標と見ることができ,全体を一体の文字とみると,英大文字1字と英小文字5文字から構成されている(甲1)。
これに対して,引用商標は,別紙商標目録記載2のとおり,英大文字3文字と英小文字3文字から構成されている「ASRock」という1つの単語のように構成された文字を,一部文字同士を接続したり,「O」の字の中央に黒丸をあしらうなどデザイン化してなるものである(甲2,57)。
カ 被告の韓国及び我が国における事業の有無及びその内容
韓国中部税務署長作成に係る平成20年(2008年)8月29日付け「事業者登録証明」(乙20の1)によれば,被告は「エンティエス」若しくは「NTS」という商号の法人の代表者として,コンピューター及び周辺機器並びに電子製品の卸,小売りを業種とし,平成14年(2002年)3月22日に事業者登録をし,同年4月1日から開業している旨記載されている。また,電波研究所長作成に係る平成17年(2005年)7月28日付け「情報通信機器認証書」(乙20の3)によれば,被告は,「エンティエス」の商号で,基本モデル名を「Asrock」とする「VGA Card」に関し,平成16年(2004年)12月24日に,電磁波適合登録を受けていることが認められる。さらに,ソウル市中区庁長作成に係る平成17年(2005年)3月24日付け「通信販売業申告証」(乙53)によれば,被告が「エンティエス」という商号で,通信販売業の申告を行ったことが認められ,ソウル市中区庁長作成に係る「2010年1月(定期)免許税納付通知書(兼領収書)」(乙54)によれば,被告がこの時期に通信販売業の免許税を納付したことが認められる。
また,被告の事業活動状況については,まず,韓国のインターネットオークションに,競売期間平成16年(2004年)12月28日から同月31日として,「Asrock ATI RADEON VGAカード」という製品名の本件商標を付したマザーボードが写真付きで出品されており(乙20の2),平成21年(2009年)1月13日付けで,我が国における「Yahoo!オークション」に「新品GeForce 9600GT 512MB PCI-E」及び「新品RADEONHD 3850 512MB PCI-E」という製品名の本件商標を付したビデオカードがそれぞれ出品されていることが認められるが(乙21の1,2),これ以外に,被告の事業活動内容を証明する証拠は提出されておらず,特に,我が国における事業活動を証明する証拠は一切提出されていない。
一方,B作成に係る平成21年(2009年)9月24日付け「業体及び商標調査結果報告書」(甲97,100)によれば,作成者が2度にわたり,「事業者登録証明」(乙20の1)に記載されている被告の事業場の住所地を訪ねたが,同住所地には「エンティエス」若しくは「NTS」等の業務案内表示板などはなく,被告もおらず,少なくとも,同住所地において,「エンティエス」若しくは「NTS」の商号で事業を行っている形跡は確認されなかった。なお,この点について,被告は,ビル管理室責任者C作成に係る平成22年(2010年)6月10日付け「確認書」(乙70)を提出し,それには,被告がこの建物に入居しており,419号室には「NTS Co.」という看板が正常に付着している旨記載されている。しかしながら,上記「確認書」(乙70)は,「業体及び商標調査結果報告書」(甲97,100)が作成されてから9か月後に作成されたものであって,いつの時点で看板が正常に付着されていたのかも明らかではないから,上記「確認書」(乙70)をもって,「業体及び商標調査結果報告書」(甲97,100)の報告書の内容の信用性が損なわれるものではないというべきである。
キ 被告の商標の出願及び登録の状況
被告は,韓国において,本件商標の対応商標及び類似商標を含め,「NetPhone」,「WebPhone」,「parhelia」,「GALE」など13件のコンピューターやソフトウェアを収録した電子機器等の分野に関連する様々な商標の出願をしているが(甲96),例えば,商標「parhelia」はカナダのMatrox社のGPU及びそれを搭載したビデオカードの名称と同一の商標であり,同社が商標「parhelia」を発表した平成14年(2002年)5月14日から2か月も経過していない同年7月6日に出願されたものであり(甲79ないし81),また,「GALE」は,イギリスのGale Limited社がスピーカー等に使用している商標と同一の商標である。
ク 原告及び他の取扱業者等に対する被告の警告文の送付及びその内容
(ア) 被告は,遅くとも,平成19年(2007年)2月以降,我が国において,原告を含め,引用商標を付したAsrock社の製品を取り扱う多数の取扱業者に対し,被告が本件商標を保有していることを理由として,引用商標及び標章「Asrock」又はこれと類似する商標の使用の即時中止を要求し,中止しなければ刑事告訴し,販売で得た利益を損害賠償として請求する旨の「通知書」あるいは「回答書」を送付している(甲2,3,82ないし84,86の1ないし7)。
(イ) 被告は,韓国において,Asrock社の販売代理店であるAswin社に対して,上記と同内容の警告状を送付し,同社に対して,本件商標の過度な譲渡金額を要求したと報告されている(甲97,100)。
(2) 上記認定に対する被告の主張について
ア 上記(1) ア の認定について
被告は,前記第4の1(2) ア(イ) のとおり,ASRock社はASUSTeK社の子会社ではないと主張する。確かに,当時,ASRock社がASUSTeK社の法的な意味での子会社であったか否かは明らかではないといわざるを得ないが,当時,ASUSTeK社の役員個人若しくは関連会社がASRock社の株式を保有していたことから,ASRock社はASUSTeK社の関連会社であったことは事実であって,重要なのは,ASRock社がASUSTeK社の法的な意味で子会社であったか否かではなく,当時ASRock社がASUSTeK社の関連会社であったこと,及びASUSTeK社が,同社の第二のブランドとして「ASRock」というブランドの製品をデビューさせると見込まれる旨の本件ニュースが報道されたことであるから,この点に関する被告の主張は格別の意味を有しないものというべきである。
イ 上記(1) オの認定について
(ア) 被告は,前記第4の1(2) エのとおり,引用商標及び標章「ASRock」には独創性はない旨主張する。
しかしながら,引用商標は,別紙商標目録記載2のとおり,英大文字3文字と英小文字3文字から構成されている「ASRock」の文字を,一部文字同士を接続し,「O」の字の中央に黒丸をあしらうなどしてデザイン化してなるものであり,それ自体意味を有する単語ではなく,また,一般的に使用される名称でもない。確かに,同商標を分解すると,「AS」と「Rock」というそれ自体単独で意味を有する英単語の結合商標と見ることができること,ASRock社は,自らのウェブサイト上で,「ASRock is solid AS Rock」と表記して,自らその語源を明らかにし(乙16の3),実際,英語辞書(乙16の1)によれば,英語の成句として,「solid as rock(「岩のようにしっかりした,信頼できる」の意)」のように用いられる場合があることが認められるが,上記成句は必ずしも親しまれた成語とはいえないばかりか,上記成句から「solid」を省略して「as rock」のみで,そのような意味がある成句として使用されているわけではなく,ましてや,電子機器分野において一般的に使用されるような文字構成とはいえないこと,以上の点を考慮すると,引用商標あるいは標章「ASRock」という文字構成は,一般的でありふれたものとはいえず,それ自体独創性を有する商標であるというべきである。
この点について,被告は「ROCK」を含む地名や人名を挙げ,さらには,それらを含む多くの商標が登録されている旨主張するが,「ASROCK」という構成の地名,人名及び商標は全く存在していない。確かに,アメリカ合衆国には「AZROCK INDUSTRIES INC」という会社が存在し,また,各国で「AZROCK」という商標を登録していることが認められるが(乙17の1ないし5),引用商標及び標章「ASRock」とはそもそも綴りが異なり,また,事業分野も全く異なっていると認められるから,「AZROCK」という商標の存在は上記認定を左右するものではない。
(イ) 被告は,前記第4の1(2) オのとおり,本件商標と引用商標とはその外観が異なっていると主張する。
確かに,本件商標は,太字で表された「As」の文字と灰色の長方形内に太字で表された白抜きの「rock」の文字からなるものであり,引用商標とは異なり,英大文字1字と英小文字5文字から構成されているものであるから,本件商標と引用商標とは,その外観において差異が認められる。
しかしながら,両者は,いずれも英文字6文字で構成され,綴りも全く同一であること,また,いずれからも「アズロック」あるいは「アスロック」の称呼を生ずる点においても共通していること,しかも,「ASRock(Asrock)」という文字構成は,それ自体直ちに一定の観念を生じるとは言い難いが,前述のとおり,「岩のようにしっかりした,信頼できる」という意味を有するように用いられる用語であるともいえるから,見方によっては観念も共通していると認められること,以上の事実を総合すれば,本件商標が引用商標及び標章「ASRock」と類似の商標であることは明らかであるから,この点に関する被告の主張は失当である。
ウ 上記(1) カの認定について
被告は,前記4の1(2) キのとおり,韓国のオークションは有名ブランド企業も会員として登録し,製品を販売している韓国の代表的な商取引ウェブサイトであり(乙65),被告も事業者会員として登録して製品を販売しているのであり(乙64),本件商標を付した製品はヤフーオークションで販売され,日本のグーグル社の広告を代行する企業を通じて被告の日本語ホームページ及び本件商標の製品が広告されている(乙21,66,67,68)のであるから,被告が自己の事業において本件商標を使用していることは証明されていると主張する。
しかしながら,例え事業者会員として登録されていることを考慮しても,通常,電子機器の製造販売を行っている事業者において,その販売経路がインターネットオークションのみであるとは考えにくいばかりか,本件においては,商標の使用に関し,インターネットオークションへの2,3度程度の出品しか証拠として提出されていないのであって,このこと自体,事業としての販売状況を示す証拠として極めて不自然であるといわざるを得ない。また,「通信販売業申告証」(乙53)と「免許税納付通知書(兼領収書)」(乙54)が提出されているものの,どのような商品をどのように通信販売しているのか,ましてや本件商標を付した製品を通信販売しているか否かは全く不明であり,単に通信販売業の申告と納税の事実を証明するものにすぎず,実際に事業として本件商標を使用していることを証明するものとはいえない。
被告は,原告から事業の実体がないと指摘され,「業体及び商標調査結果報告書」(甲97,100)を提出されて,登録住所地において事業が行われている形跡がないと主張されているのであるから,本来であれば,自ら,本件商標を付した製品を製造あるいは販売している事業所の所在地,事業の規模,商品の種類,販売の実績,通信販売等のための宣伝広告の有無等を,事業を紹介した案内書,各種取引書類,工場あるいは販売所の写真等によって,容易に証明することが可能であるにもかかわらず,そのような証拠を一切提出せず,専ら上記報告書(甲97,100)の信用性を問題にしているにすぎない点を考慮すると,被告が本件商標を使用した製品の製造販売を業としていること自体が疑わしいといわざるを得ず,少なくとも,我が国において,事業活動をしていた形跡はなく,また,現在においても,事業活動をしているとは認められない。
(3) 以上の事実を前提に,本件商標の商標法4条1項7号該当性を検討する。
ア 本件商標の出願における被告の悪意について
前記認定のとおり,平成14年(2002年)7月2日,当時,マザーボードの分野における台湾の最大手の製造メーカーであり,マザーボードの世界シェア1位のASUSTeK社が,同月中に,中国において,同社の第二のブランドとして「ASRock」というブランドの製品をデビューさせると見込まれる旨の本件ニュース報道がウェブサイト上で流され,その後即座に,多数の関連ニュースが報道され,その翌日には韓国においても同様のニュースが報道されたこと,本件商標の韓国における原基礎登録商標の出願はその翌日であること,その後,ASRock社が,引用商標及び標章「ASRock」を使用した製品を実際に製造・販売し,本件商標の出願日である平成15年9月18日までの間に,台湾,韓国,中国等を始めてとして世界各地で引用商標を付した製品が販売されていたこと,引用商標の「ASRock」という文字構成は,それ自体意味を有する一般的な単語ではなく,「AS」と「Rock」という英単語の結合商標とみたとしても,その組合せも一般的とはいえず,ましてや電子機器分野において一般的に使用されるような言葉ではないことからすれば,「ASRock」という文字構成自体にある程度の独創性が認められ,少なくとも,電子機器関連の製品に使用する商標として容易に思いつくものとは考えられないこと,被告はコンピューター及びソフトウェアを登載した電子機器等の分野に精通している人物であると認められ,同分野の「事業者登録証明」(乙20の1),「情報通信機器認証書」(乙20の3)及び「通信販売業申告書」(乙53)を有して電子機器関連の分野に携わり,実際に商品をインターネットオークションにおいて出品していることからすれば,同分野のウェブサイトを頻繁に閲覧していたものと思われること,被告は,韓国において,本件商標を含め,コンピューターやソフトウェアを収録した電子機器分野に関連する様々な商標を13件も出願しており,その中にはカナダのMatrox社が同社のGPU及びそれを搭載したビデオカードに商標として「parhelia」を付すことを公表してから2か月も経過していない時期に出願されたのと同一の商標やイギリスのGale Limited社がスピーカー等に使用している商標である「GALE」と同一の商標も含まれていること,これら多数の商標を出願している理由について,被告は何ら主張立証をしていないこと,以上の点を総合考慮すれば,被告による本件商標の韓国における原基礎登録出願は,本件ニュース報道の翌日に偶然に被告が独自に選択して韓国において出願されたものとは考えられず,むしろ,被告は,上記一連の報道を知り,将来「ASRock」という商標を付した電子機器関連製品が市場に出回ることを想定し,ASUSTeK社あるいはASRock社に先んじて「ASRock」という商標を自ら取得するために,本件商標の原基礎登録商標を出願したと推認するのが相当であり,少なくとも,本件商標の出願日(平成15年9月18日)においては,ASRock社が同社の製造販売する製品に引用商標を使用していることを知りつつ,本件商標の国際出願をしたと認めるのが相当である。
イ 本件商標の出願の目的について
そして,被告の韓国における事業の実体は明らかではなく,実際に電子機器関連の製造・販売業を行っているか疑わしく,仮に真実事業を行っているとしても,個人営業であると認められ,事業の規模も極めて小規模と思われること,証拠上,製品の販売形態はインターネットオークションへの出品という特異な形態に限られていること,被告は,韓国在住であり,過去我が国において事業を行っていた形跡はなく,本件商標の出願から既に6年8か月が経過し,また,本件商標の登録後2年10か月が経ち,まもなく3年を経過しようという現在においても,我が国で事業を行っている証拠は存在しないことから(なお,「Yahoo!オークション」というインターネットオークションへの商品の出品をもって我が国における事業の実施と認めるのは相当ではない。),今後近い将来,我が国において本件商標の指定商品に関する事業を行う意思があるとは思われず,少なくとも,その可能性は限りなく低いと思われること,事業の実体がほとんどないにもかかわらず,電子機器関連の多数の商標を出願し,その中には,前述のとおり,他社が海外で使用する商標と同一類似の商標を故意に出願したとしか考えられない商標も複数含まれていること,被告は我が国で事業を行っていないにもかかわらず,本件商標登録後,原告を含め,引用商標を付したASRock社の製品を取り扱う複数の業者に対して,輸入販売中止を要求し,要求に応じなければ刑事告発・損害賠償請求を行う旨の多数の警告書を送付していること,韓国においては,ASRock社の製品の販売代理店に対して,過度な譲渡代金を要求していたこと,以上の事実を総合考慮すると,本件商標は,商標権の譲渡による不正な利益を得る目的あるいはASRock社及びその取扱業者に損害を与える目的で出願されたものといわざるを得ない。
この点について,審決は,本件商標と引用商標との外観の相違を挙げ,「被告が引用商標をそのまま剽窃したというような性質のものではなく」と判断している。しかしながら,本件においては,上記認定の被告の本件商標の原基礎登録出願の経緯からすれば,被告は,当初,本件ニュース報道を通じて,ASRock社が「ASRock」という文字で構成された商標を使用するということのみを知ったにすぎず,当初の報道に接した時点では引用商標のようなデザイン構成までは知らなかったものと認められるから,他人の商標の剽窃的な出願であるか否かについては,被告が,文字構成において独創的な造語と認められる「ASROCK」と同一文字構成を使用した本件商標を出願した点こそ重視されるべきであって,引用商標と本件商標の外観上の相違は,被告の悪意の出願を否定する根拠となるものではないというべきである。
ウ 以上のとおり,被告の本件商標の出願は,ASUSTeK社若しくはASRock社が商標として使用することを選択し,やがて我が国においても出願されるであろうと認められる商標を,先回りして,不正な目的をもって剽窃的に出願したものと認められるから,商標登録出願について先願主義を採用し,また,現に使用していることを要件としていない我が国の法制度を前提としても,そのような出願は,健全な法感情に照らし条理上許されないというべきであり,また,商標法の目的(商標法1条)にも反し,公正な商標秩序を乱すものというべきであるから,出願当時,引用商標及び標章「ASRock」が周知・著名であったか否かにかかわらず,本件商標は「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当するというべきである。
エ したがって,本件商標に,商標法4条1項7号を適用することができないとした審決の判断には誤りがある。
2 結論
以上のとおり,原告の主張する審決取消事由1は理由があり,本件商標は無効とされるべきものであるから,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塚原朋一 裁判官 東海林保 裁判官 矢口俊哉)
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